説明

NAC転写因子ファミリーの機能変換方法

【課題】植物においてNAC転写因子ファミリーの機能変換方法を提供する。
【解決手段】植物でNAC転写ファミリーの機能を変換する方法であって、NAC転写因子ファミリーに属する転写因子においてNACドメインを保持するがC末端領域を欠失する欠失型転写因子をコードする核酸を植物内で発現させることを含む方法、ならびに、NAC転写ファミリーの機能が変換された植物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、NAC(NAM, ATAF1,2, CUC2)転写因子ファミリーの機能変換方法及びこれを用いて得られる植物体、並びにその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
生物の遺伝子発現(転写)は、RNAポリメラーゼによるRNA合成(転写開始)に関わる基本転写因子と、正または負の転写調節に関わる転写制御因子によって調節されている。後者の転写制御因子は、正負の制御に関わるシス配列に結合するアクチベーターやリプレッサーとして知られており、各生物のゲノム中に多数存在することが判っている。例えば、出芽酵母では全ゲノム中に209個、線虫では669個、ショウジョウバエでは635個、シロイヌナズナでは1533個の存在が予想されている(非特許文献1)。一般的に、動物より植物の方がゲノム中の全遺伝子に占める転写因子の割合が高く、このことは植物において転写因子が非常に多岐に渡る役割を担っていることを示している。
【0003】
転写因子は、動物植物を問わず、ドメイン構造と呼ばれる特徴的なアミノ酸組成や配列によって、多くのファミリーに分類されている。植物の転写因子の特徴として、植物特異的なドメイン構造を持つ転写因子が多いことが報告されている。それらは、NACファミリー、AP2/ERF/DREBファミリー、WRKYファミリー等である。
【0004】
植物特有の転写因子ファミリーの1つであるNAC転写因子は、N末端側にNACドメインを持つ転写因子であり、シロイヌナズナでは、ゲノム中に100以上存在することが判っている(非特許文献2)。NAC転写因子は、花・茎頂・維管束・子葉・生殖組織等の形態形成だけでなく、病害抵抗性や生物的・非生物的ストレス抵抗性、ホルモン反応・光反応・自己細胞死・老化等、植物の様々な生命現象における遺伝子発現制御を担っていることが報告(非特許文献2)されており、植物にとって最も重要な転写因子ファミリーの1つである。
【0005】
このNAC転写因子の利用により、産業上有用な植物を作出することが期待できる。例えば、茎頂組織(成長点)形成に関わるNAC転写因子CUC1を過剰発現することによって、二次的なシュートや子葉を持った植物の作出が可能となる(特許文献1)ので、園芸・観用植物として利用できると考えられる。また、花の形成に関わるNAC転写因子(非特許文献1)の機能阻害を行うことによって、不稔の植物の作出が期待でき、園芸・観用植物として利用できると考えられる。さらに、導管形成に関わるNAC転写因子(非特許文献3)の機能変換によって得られた導管の少ない植物は、高品質パルプの製紙原料植林木としての利用価値が期待できる。
【0006】
このように、NAC転写因子を利用することで、産業上有用な植物の作出が期待できる。通常、産業上利用するには、35S等のプロモーターで過剰発現させたり、アンチセンス法やRNAi法で発現抑制するというアプローチが考えられる。しかしながら、ほとんどのNAC転写因子は、NAC転写因子間で複合体形成して機能することや、相互に機能重複しているため、単純な過剰発現や発現抑制では何の変化(産業的効果)も得られないことが多い。そのため、NAC転写因子を産業上利用する場合、ドミナントに改変効果(例えば抑制効果)が得られるような何らかの別な機能変換方法を用いる必要がある。
【0007】
転写因子の機能変換方法としては、CRES−T法(特許文献1)が知られている。CRES−T法とは、植物のClass II ERF(Ethylene Responsive Element Binding Factor)タンパク質やジンクフィンガータンパク質(Zinc finger protein) に共通して存在するペプチドと転写因子とを融合させることにより、転写因子を転写抑制因子(ドミナントリプレッサー)に転換する方法である。この融合タンパク質(キメラタンパク質)をコードする遺伝子を植物体内に導入することにより、該転写因子が転写を促進する標的遺伝子の発現が抑制された植物体を生産することが可能になる。この方法を用いて、産業上有用と思われる植物体の生産も報告されている(特許文献1〜7)。
【0008】
ところで、本発明者らは、導管(ベッセル)形成を制御(分化誘導)する転写制御因子を多数見出している(非特許文献3、4)。導管(ベッセル)細胞とは、木繊維細胞と共に地球上の木質バイオマスの大部分を占める二次木部の主要構成要素である(非特許文献5、6)。本発明者らが見出した転写因子群の中には、NAC転写因子ファミリーに属する遺伝子群(VND1〜7, VNDIP2)も含まれており、導管形成に大変重要な役割を担っていることが明らかとなっている。例えばVND7(Vascular-related NAC-Domain 7)は、原生木部導管形成を正に制御(分化誘導)する(非特許文献3)。例えばVNDIP2(VND7 Interacting Protein 2)は、VND7と相互作用し、その機能(導管形成誘導)を負に制御している(非特許文献7)。これらの転写因子遺伝子を用いることで、導管形成が制御された植物の作出が可能になると考えられる。
【0009】
これらの転写因子遺伝子を用い、導管の形態(サイズと細胞壁の厚さなど)や数を制御することは、産業上有用である。例えば、導管の存在は、製紙産業において様々な問題を引き起こしている。具体的には、導管は木繊維細胞との接着が弱いため、オフセット印刷に際しインクによってピックアップされやすい。そのため導管が多く含まれる紙は、紙表面の導管細胞剥離による印刷不良(ピッキング)や、剥離した細胞のインク中への混入等、印刷作業上非常に大きな問題となる。さらに、このような問題に対し紙の表面強度を高めるため、植物由来のデンプンが大量に使用され、コスト高となり利益を圧迫する。また、導管が多いと通導する水量が多く必要となり乾燥等のストレスに弱くなる。
【0010】
このように、導管形成を制御する遺伝子を用い、導管の形態(サイズと細胞壁の厚さなど)や数を制御することで、前述のような問題の起きにくい高品質なパルプ原料(植林木)や乾燥ストレスに強い作物が開発されるとともに、デンプン塗布等の製品製造過程におけるコストも大幅に削減されることが期待できる。
【0011】
そこで本発明者らは、導管形成を阻害抑制するため、導管分化の正の制御因子であるVND7遺伝子の機能を、T−DNA挿入変異法、アンチセンス法、RNAi法で阻害した。しかしながら、導管形成の阻害効果は得られなかった(非特許文献3)。これは、機能的に相補する遺伝子が存在するためと予想された。
【0012】
この課題解決のため、本発明者らはCRES−T法を用い該遺伝子を人為的に抑制因子に変換することで、導管形成の抑制を図った。導管分化の正の制御因子であるVND7遺伝子を、CRES−T法により負の制御を行う抑制因子(35S::VND7-SRDX)に変換し、シロイヌナズナに遺伝子導入した。その結果、根(地下部)の原生木部導管の形成が阻害される効果が得られた(非特許文献3)。しかしながら、本来の目的である地上部の導管形成の抑制効果は認めらなかった。また、主根の伸長抑制、側根および不定根数の増加など形態異常が観察されたこともあり、実用利用できるものではなかった(非特許文献3)。
【0013】
一方、VND7の機能の抑制因子(導管分化の負の制御因子)であるVNDIP2遺伝子を、35Sプロモーターで過剰発現させた結果、根の導管形成は予想通り抑制阻害されたが、地上部での阻害効果は得ることはできなかった。
【0014】
以上の結果から、NAC転写因子ファミリーを用いて抑制効果を得ようとする場合、正の制御を行うNAC遺伝子をCRES−T法のように抑制因子(ドミナントリプレッサー)に変換しても、負の制御を行うNAC遺伝子を単純に過剰発現させても、必ずしも目的とした抑制効果は得られないという課題が示された。従って、NAC転写因子ファミリーを用いて産業上有用な効果を得るためには、抑制効果が高く効率的な新規な機能変換方法の開発が必要とされた。
【0015】
【特許文献1】特許3829200
【特許文献2】特許3421740
【特許文献3】特許3409079
【特許文献4】特許3407036
【特許文献5】特許3407035
【特許文献6】特許3407034
【特許文献7】特許3407033
【非特許文献1】岩淵雅樹・篠崎一雄編「植物ゲノム機能のダイナミズム」(シュープリンガー・フェアラーク、2001)
【非特許文献2】Olsen et al., 2005. Trends in Plant Sci. 10: 79-87
【非特許文献3】Kubo et al., 2005. Genes & Dev. 19: 1855-1860
【非特許文献4】Demura T. And Fukuda H., 2007. Trends in Plant Sci. 12: 64-70
【非特許文献5】島地謙・須藤彰司・原田浩著「木材の組織」(森北出版、1976)
【非特許文献6】古野毅・澤辺攻著「木材科学講座2・組織と材質」(海青社、1994)
【非特許文献7】Yamaguchi et al., 2007. IUFRO Tree Biotechnology 2007 Abstract SVIII.5
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、NAC転写因子ファミリーの機能変換方法、および該方法で機能変換された植物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、本課題を解決するためには、モデル植物を用い、NAC転写因子の発現部位や転写活性ドメイン、転写後または翻訳後の機能発現機構を解析し、それらの結果から効果的なNAC転写因子ファミリーの新規機能変換(抑制因子化)方法を開発することが望ましいとの結論に至った。
【0018】
そこで本発明者らは、シロイヌナズナにおける導管形成とVND7およびVNDIP2をモデルとし、課題解決方法の開発を行うことを考えた。シロイヌナズナを用いることは、モデル植物として広く一般に用いられ、遺伝子組換え効果の評価モデルとしても用いられていることから、最も適していると言える。また、導管形成という生命現象をモデルとすることは、その形成の有無や頻度等を指標とすることで効果の判断が明確にできるため、技術開発モデルとして最も適していると言える。そして、VND7とVNDIP2をNAC遺伝子のモデルとすることは、それぞれが導管形成に関して正・負の制御因子であることや、互いに相互作用を持つことから、技術開発に供するモデルNAC遺伝子として最も適していると言える。
【0019】
次に本発明者らは、酵母のツーハイブリッド解析により、NAC転写因子の転写活性ドメインを解析することを考えた。VND7のN末端には、タンパク質間相互作用のためのNACドメインがあるため、C末端側に転写活性に関わるドメインがあると推定された。そこで、NACドメイン以外の領域(C末端側)を欠失(デリーション)させた種々の変異遺伝子を作製し、酵母のツーハイブリッド解析によって、VND7タンパク質の転写活性ドメインを決定することができた。
【0020】
次に本発明者らは、酵母のツーハイブリッド解析に用いた種々のVND7変異遺伝子をシロイヌナズナに導入し、VND7変異遺伝子の導管分化誘導への影響(効果)を解析することを考えた。転写活性に欠損を持つであろうVND7変異遺伝子を植物体内で過剰発現させた場合、変異遺伝子由来の変異タンパク質が、内在性の野生型VND7タンパク質の機能発現に影響を与え、結果として抑制効果をもたらすことができた。
【0021】
さらに本発明者らは、変異VND7遺伝子を組織特異的なプロモーターで制御することで、より良い効果を、目的とする組織で得ることを考えた。一般的に用いられている35Sプロモーターでは、植物体全体で恒常的に発現するため、二次的な悪影響等がでる恐れがあるが、組織特異的なプロモーターで制御することで、そのような影響を排除することができた。
【0022】
さらに本発明者らは、正のNAC制御因子であるVND7遺伝子を用いて開発した新規な機能変換方法を、負のNAC制御因子であるVNDIP2遺伝子にも適用することを考えた。負のNAC制御因子であるVNDIP2遺伝子での効果を解析することで、本発明者らが開発した方法がNAC転写因子群に汎用化可能か否か、また負の制御因子の場合の効果の現れ方を明らかにすることができた。
【0023】
このように本発明者らは、シロイヌナズナと導管形成制御NAC転写因子をモデルとして用い、NAC転写因子ファミリーのN末端側のNACドメインを保持し、それよりC末端側のC末端領域の全体または一部を欠失させた欠失型(すなわち、トランケート型)転写因子の遺伝子を、シロイヌナズナに導入して効果を解析した。その結果、そのような欠失型転写因子遺伝子を発現させることを特徴とする効果的なNAC転写因子ファミリーの新規機能変換方法の開発に成功した。またこの関連で、該NAC転写因子を、改変効果を得たい組織に特異的なプロモーターで制御することで、該効果がより改善されることも見出した。
【0024】
このように、本発明は、NAC転写因子ファミリーの機能変換方法と該NAC転写因子の適切な発現制御方法を用いることで、NAC転写因子が制御する生命現象を産業に資するレベルに改変することが可能であるという知見に基づく。
【0025】
<発明の概要>
本発明は、NAC転写因子ファミリーの機能変換方法及びこれを用いて得られる植物体に関し、以下の(1)から(11)に記載される発明を提供するものである。
【0026】
(1)植物でNAC転写ファミリーの機能を変換する方法であって、NAC転写因子ファミリーに属する転写因子においてNACドメインを保持するがC末端領域を欠失する欠失型(すなわち、トランケート型)転写因子をコードする核酸を植物内で発現させることを含む上記方法。
【0027】
(2)上記転写因子が、VND1〜VND7、それらのホモログ、またはそれらの変異体からなる群から選択される、上記(1)に記載の方法。
【0028】
(3)上記転写因子が、VND7、そのホモログ、またはその変異体である、上記(2)に記載の方法。
【0029】
(4)上記転写因子が、VNDIP2、そのホモログ、またはその変異体である、上記(1)に記載の方法。
【0030】
(5)上記核酸を、形質転換によって植物に導入することをさらに含む、上記(1)〜(4)のいずれかに記載の方法。
(6)上記形質転換がベクターを用いて行われる、上記(5)に記載の方法。
【0031】
(7)上記ベクターが、上記核酸の発現のための組織特異的プロモーターをさらに含む、上記(6)に記載の方法。
【0032】
(8)上記組織特異的プロモーターがVND1〜VND7遺伝子プロモーターのいずれかである、上記(7)に記載の方法。
【0033】
(9)上記(1)〜(8)のいずれかに記載の方法によってNAC転写因子ファミリーの機能が変換されたことを特徴とする植物。
【0034】
(10)上記植物が、パルプ生産用植物、バイオマス生産用植物、穀物植物、または園芸用植物である、上記(9)に記載の植物。
(11)上記(9)または(10)に記載の植物に由来する、細胞、組織または種子。
【0035】
<定義>
本明細書中で使用する用語は、以下の意味を包含するが、これらの意味に制限されないことを意図している。
【0036】
「植物」とは、NAC転写因子ファミリーに属する転写因子を有する、双子葉植物、単子葉植物、裸子植物、樹木などを含むすべての植物を指す。
【0037】
「転写因子」とは、通常、DNAからRNAを合成する転写反応において、転写酵素RNAポリメラーゼ以外の必要とされるタンパク質性因子を指す。
【0038】
「NAC転写因子ファミリー」とは、植物特有の転写因子群であり、N末端側にNAC(NAM, ATAF1,2, CUC2)ドメインをもつことを特徴とする(Olsen et al., 2005. Trends in Plant Sci. 10: 79-87)。本発明において、該ファミリーに属するNAC転写因子類は、導管形成、子葉の形態形成、葯の形成、根の成長、ストレス耐性などの種々の機能の制御に関係している。このような転写因子には、例えばVND1〜VND7、VNDIP1〜VNDIP2、CUC1〜CUC3、NST1〜NST3、NAC1などが含まれる。本明細書中、VNDは、Vascular-related NAC-Domainの略称として、VNDIPは、VND7 Interacting Proteinの略称として、CUCは、Cup-shaped Cotyledonの略称として、NSTは、NAC Secondary Wall Thickening Promoting Factorの略称としてそれぞれ使用されている。
【0039】
「ホモログ」とは、本明細書中で使用される場合、NAC転写因子ファミリーに属する転写因子を有する植物種間で、ある植物種の特定の転写因子と相同なアミノ酸配列を有する、異なる植物種由来の転写因子を意味する。
【0040】
「核酸」とは、DNA、RNA、又はそれらの化学修飾誘導体を指す。ここで化学修飾誘導体は、塩基または糖部分が例えばメチルなどのアルキル、フッ素、アセチル、チオ、メトキシカルボニルアルキル、メチルアミノアルキルなどの基で化学修飾された誘導体を含む。
【0041】
本明細書で使用するその他の用語の定義は、当該分野で一般的に使用される意味を包含するものとする。
【発明の効果】
【0042】
本発明の方法を利用することにより、植物特異的な転写制御因子であるNACドメインタンパク質ファミリーの機能を、それぞれが関係する生命現象の抑制因子に変換することもしくは抑制効果を増強することが可能となった。即ち、高品質なパルプ生産に資する工業原材料植物の創出や、穀物やバイオマスの増産・効率的生産、新規な美的価値を持つ花卉園芸植物の創出に利用できる等、農業・産業上の有用性が高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0043】
本発明は、植物でNAC転写ファミリーの機能を変換する方法であって、NAC転写因子ファミリーに属する転写因子においてN末端側のNACドメインを保持するがC末端領域を欠失する欠失型転写因子をコードする核酸を植物内で発現させることを含む方法を提供する。
【0044】
<転写因子および欠失型転写因子>
NAC転写因子ファミリーに属する転写因子は、多数(例えばシロイヌナズナで約100種類以上)知られており、そのいずれもが本発明で対象とする転写因子である。転写因子には、例えばシロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)のVND1(At2g18060)、VND2(At4g36160)、VND3(At5g66300)、VND4(At1g12260)、VND5(At1g62700)、VND6(At5g62380)、VND7(At1g71930)、CUC1(At3g15170)、CUC2(At5g53950)、CUC3(At1g76420)、NST1(At2g46770)、NST2(At3g61910)、NST3(At1g32770)、VNDIP2(At5g13180)、NAC1(At1g56010)など、他の植物種由来のそれらのホモログ、ならびに、それらの変異体が含まれる(括弧内は、シロイヌナズナの各アミノ酸および塩基配列のAGI codeを示す)。
【0045】
VND1〜VND7は、導管関連NACドメインタンパク質であり、木部導管の形成の際に発現することが知られている(M. Kubo et al., GENE & DEVELOPMENT 2005, 19:1855-1860)。これらのタンパク質は、図2に例示したVND7の模式的構造図に示されるような、N末端側のNACドメイン(VND7の場合、I〜Vで示されている。)と、C末端側にLPおよびWQで表される2つの、保存された且つ転写活性化に関与する領域を含むことを特徴とする。
【0046】
CUC1〜CUC3は、互いに同じNACドメインをもち、子葉の形態形成、特にシュートの成長点(頂端分裂組織)の形成、を制御する転写因子である。CUC1とCUC2遺伝子の両方が変異をもつ場合、その植物体の子葉がカップ状の形態を示し、且つ成長点の形成が行われないが、CUC1またはCUC2の一方だけに変異を有するものは正常であることから、CUC1とCUC2は、機能的に冗長な因子であることが知られている(Development, 1999, 126:1563; Development, 2000, 128:1127)。
【0047】
NST1〜NST3は、NACドメインをもつ転写因子であり、植物の木質組織の二次壁形成の鍵となる制御因子である(N. Mitsuda et al., The Plant Cell 2005, 17:2993-3006;N. Mitsuda et al., The Plant Cell 2007, 19:270-280)。
【0048】
VNDIP2は、NACドメインを含み且つ木部導管の分化を調節する転写因子である。
【0049】
NAC1は、NACドメインを持つ転写因子であり、植物の根の形成の鍵となる制御因子である(Q. Xie and N.H. Chua, Genes & Dev. 2000 14:3024-3036)。
【0050】
後述の実施例では、転写因子として、シロイズナズナの転写因子VND7およびVNDIP2をモデルとして使用して、本発明の効果(NAC転写因子ファミリーの機能変換、すなわち機能抑制因子化)を確認した。このような効果は、シロイヌナズナに限定されるものではなく、NAC転写因子ファミリーに属する転写因子を有する任意の植物に認められるべきものである。
【0051】
NAC転写因子ファミリーの転写因子の機能は、上記のとおり、例えばVND、CUC、NSTなどのサブファミリーごとに相違していることが多い。すなわち、本発明の方法によって、例えば、(1)VNDサブファミリーに属するNAC転写因子のC末端領域を欠失させると、その機能が抑制されることによって木部導管の形成が抑制される;(2)CUCサブファミリーに属するNAC転写因子のC末端領域を欠失させると、その機能が抑制されることによって子葉の形態形成が異常となる;(3)NSTサブファミリーに属するNAC転写因子のC末端領域が欠失されると、その機能が抑制されることによって木部繊維細胞の二次壁形成が抑制される;(4)VNDIP2のC末端領域が欠失されると、その機能が強化されることによって木部導管の分化が強く抑制される;(5)NAC1のC末端領域が欠失されると、その機能が抑制されることによって根の形成が抑制される。
【0052】
本発明では、NAC転写因子ファミリーの機能を変換するために、上記転写因子において、N末端側のNACドメインを少なくとも保持しながら、それよりC末端側のC末端領域の全体または一部(好ましくは、NACドメインより下流のNACドメインを除く残りの配列全体)を欠失させる、すなわち、NACドメインの下流の位置でトランケート(truncate;末端切断)させることが必要である。
【0053】
シロイヌナズナのVND1〜7、CUC1〜3、NST1〜3、VNDIP2、およびNAC1の各アミノ酸配列におけるNACドメインの位置を、表1に示す。
【0054】
【表1】

【0055】
欠失型転写因子をコードする核酸は、各核酸の塩基配列に基づいて合成した約15〜30塩基のセンスおよびアンチセンスプライマーを使用するPCR法によって、植物組織(根、葉、茎、花など)から調製したcDNAから増幅することができる。
【0056】
プライマーについては、例えばシロイヌナズナの上記表の各転写因子をコードするDNAの塩基配列(AGI code参照)に基づいて、NACドメインを保持するがC末端領域(好ましくは、NACドメインより下流のNACドメインを除く残りの配列全体)を欠失させた種々の欠失型転写因子をコードするDNAを合成しうるようにプライマー配列を設計可能である。
【0057】
鋳型核酸として、シロイヌナズナのみならず、他の植物種の任意の組織から調製したcDNA(ライブラリー)を用いることができる。
【0058】
PCRは、例えば、94〜96℃、30秒〜2分の変性、その後、94〜96℃、30秒〜1分の変性、55℃、30秒〜1分のアニリング、および72℃、30秒〜2分の伸長を1サイクルとして20〜40サイクル、最後に、72℃、30秒〜10分の処理を行うことを含む。PCR反応系には、プライマーの他に、耐熱性DNAポリメラーゼ(例えばTaqポリメラーゼ)、dNTPミックス、MgClを含むPCRバッファーが含まれる。PCRの手法については、例えばF.M. Ausubelら, Short Protocols in Molecular Biology, third ed., 1995, John Wiley & Sonsを参照することができる。
【0059】
PCR法で目的の転写因子を増幅できない場合には、ハイブリダイゼーション法を利用して転写因子を同定し、その後に、公知のクローニング法、PCR法などの手法によって増幅することができる。このようにして増幅された転写因子をコードする核酸は、次いで、上記のように例えばPCR法を利用して種々の欠失型変異体に合成・変換することができる。
【0060】
ハイブリダイゼーションは、DNA−DNAハイブリダイゼーション、DNA−RNAハイブリダイゼーションまたはRNA−RNAハイブリダイゼーションのいずれでもよい。ハイブリダイゼーション条件は、条件のストリンジェンシーに応じて低、中および高ストリンジェント条件から選択することができる。そのような条件には、例えば、約42〜55℃、2〜6×SSCでのハイブリダイゼーション、さらにその後、必要に応じて、50〜65℃、0.1〜1×SSC、0.1〜0.2%SDSでの1回もしくは複数回の洗浄からなる条件を含むことができる。しかし、ハイブリダイゼーション条件は、鋳型核酸のGC含量、イオン強度、温度などによって変化するため、上記の特定の条件に制限されないものとする。ここで、1×SSCは、0.15M NaCl、0.015Mクエン酸Na、pH7.0からなる。一般に、ストリンジェント条件は、規定されたイオン強度、pHでの特定の配列の融解温度(Tm)よりも約5℃低くなるように設定される。ここで、Tmは、鋳型配列に相補的なプローブの50%が、平衡状態で鋳型配列にハイブリダイズする温度をいう。ハイブリダイゼーション用のプローブについては、NAC転写因子ファミリーに属する転写因子では該ファミリーの各サブファミリー(VND, CUC,NST, VNDIP, NACなど)内の転写因子間でNACドメインがより高度に保存されているので、NACドメイン領域に対するプローブを設計し合成するか、各転写因子に特徴的なアミノ酸配列をもとにプローブを設計し合成することが望ましい。
【0061】
上記のようにして、本発明に関わるNAC転写因子ファミリーに属する種々の転写因子をコードする核酸を多様な植物の科、属、種および品種から得ることができるし、あるいは、NAC転写因子ファミリーの転写因子のアミノ酸および塩基配列は、公開される遺伝子バンクにアクセスすることによって得ることも可能である。そのためのホモログ配列の検索または相同性検索は、BLAST(BLASTN,BLASTP,BLASTXなど)、FASTAなどの公知のアルゴリズムを利用することによって実施できる(KarlinとAltschul, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 1993, 90:5873-5877; Altschulら, Nucleic Acids Res. 1997, 25:3380)。また、他の植物由来のホモログ配列を、植物ゲノムを公開する、例えばNCBI(米国)、EBI(欧州)、KAOS(かずさDNA研究所)、IRGSP(国際イネゲノム塩基配列解析プロジェクト)、GrainGenes(米国)、PGDIC(米国)、ForestGEN(森林総合研究所)などのwebサイトにアクセスすることによっても入手することができる。
【0062】
後述の実施例でモデルとして選択された転写因子であるシロイヌナズナのVND7およびVNDIP2のアミノ酸配列及び塩基配列は、VND7についてAGI code At1g71930またはGenBank accession No.BT026447(それぞれ、配列番号7及び16)として登録されているし、また、VNDIP2についてAGI code At5g13180またはGenBank accession No.AF385734(それぞれ、配列番号14及び17)として登録されている。
【0063】
また、シロイヌナズナ以外の産業上重要と思われる植物のNAC転写因子のホモログ(配列登録番号)には、非限定的に以下のものが含まれる。
ブドウ:CAO43676、CAO48242、CAO70322、CAN65539、CAO42681
イネ:NP_001060775、NP_001065145、NP_001065145、CAE04781、CAH67114
Thellungiella halophila(シロイヌナズナに近縁の耐塩性植物):ABB45858
ポプラ:ABK94433
タルウマゴヤシ(マメ科のモデル植物):ABN08195
トウモロコシ:CAH56055、CAH56056
ソルガム:AAQ06260
【0064】
本発明に関わる転写因子または欠失型転写因子には、上記のようにして配列決定された転写因子の変異体も包含する。変異体は、該転写因子または欠失型転写因子の特定のアミノ酸または塩基配列において、(1)1もしくは数個のアミノ酸又はヌクレオチドの置換、欠失、付加又は挿入を含む配列を有する変異体;(2)上記特定の配列が塩基配列である場合には、該塩基配列とストリンジェント条件下でハイブリダイズ可能な塩基配列からなる変異体;(3)上記特定の配列と、例えば50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、95%以上又は98%以上の同一性を有する変異体を包含する。しかし、転写因子または欠失型転写因子に変異を導入する場合には、NACドメイン以外の領域に変異が導入されることが望ましい。
【0065】
ここで、数個とは、通常、10以下の整数、例えば9、8、7、6、5、4、3または2を指す。また、ストリンジェント条件は、上に記載したとおりである。また、「%同一性」は、例えば2つのアミノ酸配列又は塩基配列を、ギャップを導入するか又はギャップを導入しないで整列させたとき、アミノ酸又は塩基の総数に対する同一アミノ酸又は塩基の数の割合(%)を意味する。
【0066】
また、変異体について、アミノ酸の置換は保存的アミノ酸置換が望ましい。保存的アミノ酸置換とは、例えば構造的、電気的、極性もしくは疎水性などの性質が類似したアミノ酸間の置換を意味する。このような性質は、例えばアミノ酸側鎖の類似性で分類することも可能である。塩基性側鎖を有するアミノ酸は、リシン、アルギニン、ヒスチジンからなり、酸性側鎖を有するアミノ酸は、アスパラギン酸、グルタミン酸からなり、非荷電極性側鎖を有するアミノ酸は、グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、トレオニン、チロシン、システインなどを含み、疎水性側鎖を有するアミノ酸は、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニンなどを含み、分岐側鎖を有するアミノ酸はトレオニン、バリン、イソロイシンからなり、ならびに、芳香族側鎖を有するアミノ酸は、チロシン、トリプトファン、フェニルアラニン、ヒスチジンからなる。
【0067】
なお、人為的に変異を導入する手法する場合には、例えば部位特異的突然変異誘発法、PCRを利用する変異導入法などが好ましく使用できる(Sambrookら, Molecular Cloning A Laboratory Manual, 1989, Cold Spring Harbor Laboratory Press、Ausubelら, Current Protocols in Molecular Biology, 1994, John Wiley & Sons)。
【0068】
<ベクター>
本発明においては、NAC転写因子ファミリーの機能を変換するために、植物又は植物細胞は、上記転写因子の欠失型転写因子タンパク質をコードする核酸が発現可能なように該核酸で形質転換される。このため、植物における形質転換に適したベクターが通常使用されうる。このようなベクターの好ましい例は、バイナリーベクターである。バイナリーベクターは、アグロバクテリウムT−DNAのライトボーダー(RB)とレフトボーダー(LB)の2つの約25bpボーダー配列を含み、両ボーダー配列の間に、外来核酸(本発明の場合、欠失型転写因子タンパク質をコードする核酸)が挿入される。この外来核酸の5’末端には、プロモーターが連結される。プロモーターの例は、組織特異的プロモーター(例えばVND1〜7プロモーター、CUCプロモーター、NSTプロモーターなど)、カリフラワーモザイクウイルス(CaMV)35Sプロモーター、ノパリン合成酵素遺伝子プロモーター、トウモロコシユビキチンプロモーター、オクトピン合成酵素遺伝子プロモーター、イネアクチンプロモーターなどであるが、特に好ましいプロモーターは、組織特異的プロモーターである。また、外来遺伝子の3’末端にはターミネーター(例えばノパリン合成酵素遺伝子ターミネーター)が挿入される。ベクターにはさらに、形質転換細胞を選抜するために必要な選択マーカーが挿入される。選択マーカーの例は、薬剤耐性遺伝子であるカナマイシン耐性遺伝子(NPTII)、ハイグロマイシン耐性遺伝子(htp)、ビアラホス耐性遺伝子(bar)など、GFP、YFPなどの蛍光タンパク質をコードする核酸などである。
【0069】
本発明の実施形態によれば、使用可能な上記バイナリーベクターは、pBI系(例えば、pBI101, pBI101.2, pBI101.3, pBI121, pBI221 (以上Clontech社))、pGA482、pGAH、pBIGなどである。他のベクターには、中間系プラスミドpLGV23Neo、pNCAT、pMON200など、又はGATEWAYカセットを含むpH35GS、pH35GY(Kuboら, 2005. Genes & Dev. 19: 1855-1860)などである。上記核酸を挿入したベクターの構築法の一例は、図7に示されている。
【0070】
<植物の形質転換>
上記のようにして構築したベクターを植物に導入する形質転換法としては、例えばアグロバクテリウム法、遺伝子銃、エレクトロポレーション、ウイルスベクター、フローラルディップ法、リーフディスク法などが含まれる。植物の形質転換技術や組織培養技術に関しては、例えば島本功、岡田清孝監修、植物細胞工学シリーズ15、モデル植物の実験プロトコール、遺伝学的手法からゲノム解析まで、秀潤社(2001年)に記載されている。
【0071】
ベクターとして、バイナリーベクター−アグロバクテリウム系を利用する方法では、植物細胞(カルスを含む)又は植物組織片を準備し、これにアグロバクテリウムを感染させて、本発明の欠失型転写因子タンパク質コード核酸を植物細胞内に導入する。形質転換においては、培地にフェノール化合物(アセトシリンゴン)を添加してもよく、この場合、特に単子葉植物において形質転換が効率的に起こることが知られている。また、アグロバクテリウムとしては、Agrobacterium tumefaciens菌株(C58,LBA4404,EHA101,EHA105,C58C1RifRなど)が使用されうる。
【0072】
形質転換用培地は、固体培地であり、例えばMS培地、B5培地、DKN培地、Linsmaier & Skoog培地などの植物培養用培地を基本培地として、これに1〜5%のマルトース、蔗糖、グルコース、ソルビトールなどの糖類、及び0.2〜1%の寒天、アガロース、ゲルライト、ゲランガムなどの多糖類固化剤を添加することができる。培地には、カザミノ酸、アブシジン酸、カイネチン、2,4−D、インドール酢酸、インドール酪酸などのオーキシン類やサイトカイニン類、カナマイシン、ハイグロマイシン、カルベニシリンなどの抗生物質、アセトシリンゴンなどを添加することができる。培地の好適pHは、5〜6、例えばpH5.5〜5.8である。
【0073】
具体的には、アグロバクテリウムの菌液を暗所、約25℃、約4日間での培養により調製し、この菌液に植物カルス又は組織(例えば葉片、根、茎片、成長点など)を数分間浸漬し、水分を除いたのち、固体培地に置床して共存培養する。カルスは、植物細胞塊であり、植物組織片又は完熟種子などからカルス誘導培地を用いて誘導することができる。形質転換されたカルス又は組織片を選択マーカーに基づいて選択し、その後、カルスについては、再分化培地にて幼植物体に再分化させることができる。一方、植物片については、植物片からカルスを誘導して幼植物体に再分化させるか、或いは植物片からプロトプラストを調製し、カルス培養を経て幼植物体に再分化させることができる。このようにして得られた幼植物体を発根後に土壌に移し植物体に再生する。
【0074】
後述の実施例ではフローラルディップ法により形質転換を行った。この方法は、例えばCloughとBent(Plant J.16, 735-743 (1998))らによって記載されるように、例えばアグロバクテリウムの菌液を暗所、約25℃、約4日間での培養により調製し、この菌液に未熟な花芽が発達するまで生育させた形質転換対象の植物宿主の花芽を10秒間浸漬し、覆いをして一晩湿度を保つ;翌日覆いを取り、植物をそのまま生育させて種子を収穫する;形質転換された個体は、適切な選択マーカー例えば抗生物質を加えた固体培地上に収穫した種子を播種することで選択することができる;このようにして選択した個体を土壌に移し生育させることにより、形質転換植物の次世代の種子を得ることができる方法からなる。
【0075】
本発明はまた、上記の核酸またはベクターによって形質転換された植物を提供する。本発明の植物は、例えば、木部導管の形成が抑制される;子葉の形態形成が異常となる;木部繊維細胞の二次壁形成が抑制される;木部導管の分化が強く抑制されるなどの特徴を有する。
【0076】
NAC転写因子ファミリーは、花・茎頂・維管束・子葉・生殖組織等の形態形成だけでなく、病害抵抗性や生物的・非生物的ストレス抵抗性、ホルモン反応・光反応・自己細胞死・老化等、植物の様々な生命現象における遺伝子発現制御を担っている。したがって、このNAC転写因子ファミリーの利用により、産業上有用な植物を作出することが期待できる。例えば、茎頂組織(成長点)形成に関わるNAC転写因子CUC1を過剰発現することによって、二次的なシュートや子葉を持った植物の作出が可能となるので、園芸・観用植物として利用できると考えられる。また、花の形成に関わるNAC転写因子の機能阻害を行うことによって、不稔の植物の作出が期待でき、園芸・観用植物として利用できると考えられる。さらに、導管形成に関わるNAC転写因子の機能変換によって得られた導管の少ない植物は、高品質パルプの製紙原料植林木としての利用価値が期待できる。
【0077】
さらにまた、NAC転写因子ファミリーに属する遺伝子群(VND1〜7, VNDIP2)は、導管形成に大変重要な役割を担っている。例えばVND7は、木部導管形成を正に制御(分化誘導)する。一方、VNDIP2は、VND7と相互作用し、その機能(導管形成誘導)を負に制御している。これらの転写因子遺伝子を制御することで、導管形成が制御された植物の作出が可能になる。導管の形態(サイズと細胞壁の厚さなど)や数を制御することによって、高品質なパルプ原料(植林木)や乾燥ストレスに強い作物が開発されるとともに、デンプン塗布等の製品製造過程におけるコストも大幅に削減されることが期待できる。
【0078】
本発明の形質転換植物はさらに、野生型との交配によって、同様の新規形質をもつ後代を作出するために使用しうる。
【0079】
本発明は、上記植物からの種子、細胞(カルス、胚を含む)、或いは組織を提供する。該種子、組織および細胞は、本発明の植物の上記機能変換に関わる特徴を遺伝的に受け継いでいる。
【0080】
本発明で使用可能な植物は、双子葉植物、単子葉植物、裸子植物、樹木などの植物を含む。植物として、非限定的に、例えば、アブラナ科、イネ科、マメ科、ナス科、ブナ科、ユリ科、アカザ科、フトモモ科、ヤナギ科、ヤシ科などを作出対象とすることができる。より具体的には、シロイヌナズナ、西洋アブラナ、ブロッコリー、カリフラワー、キャベツ、ハクサイ、イネ、コムギ、オオムギ、トウモロコシ、ダイズ、トマト、ナス、ジャガイモ、ネギ、タマネギ、ニンニク、ホウレンソウ、サトウキビ、ユーカリ、ポプラ、アブラヤシ、ワサビ、ニラなどが挙げられる。好ましい植物は、産業上有用な、パルプ生産用植物、バイオマス生産用植物、穀物植物、園芸用植物などである。
【実施例】
【0081】
以下実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0082】
なお、実験手法に関しては、特に記載のない限り、「クローニングとシークエンス」(渡辺格監修、杉浦昌弘編集、農村文化社(1989年))や、「Molecular Cloning(Sambrookら(1989), Cold Spring Harbor Laboratory Press)」などの実験書に従った。
【0083】
(実施例1)解析用コンストラクトの構築
本実施例で用いた植物形質転換用コンストラクト(VND7pro::GUS, VND7pro::VND7-YFP, 35S::VND7full-YFP, 35S::VND71-270-YFP, 35S::VND71-242-YFP, 35S::VND71-216-YFP, 35S::VND71-188-YFP, 35S::VND71-161-YFP, VND7pro::VND7full-YFP, VND7pro::VND71-216-YFP, VND7pro::VND71-188-YFP, VND7pro::VND71-161-YFP, VND7pro::VND7full-SRDX, 35S::VNDIP2 full, VNDIP2pro:: VNDIP21-221, VND7pro:: VNDIP21-221)は、以下のように構築した。
【0084】
GUS遺伝子断片をもつpSMAB621プラスミドについて、そのGUS遺伝子5’末端にゲートウェイカセット(インヴィトロジェン社)にサブクローニングしpBGGUSとした。VND7(At1g71930)遺伝子のプロモーターは、pENTR/D-TOPOベクター(インヴィトロジェン社)にサブクローニングし、前述のゲートウェイ・デスティネーションベクター(pBGGUS)にLRクロナーゼ(インヴィトロジェン社)により挿入し、VND7pro::GUSコンストラクトとして用いた。
【0085】
その他のコンストラクトについては、まずpH35GY(35S::YFP)とpH35GEAR(35S::SRDX) (Kubo et al., 2005)をHindIIIとXbaI処理し、BKL kit(タカラバイオ社)で平滑末端化した後、セルフライゲーションによりpHGY(no promoter + YFP)とpHGEAR(no promoter + SRDX)を構築した。次にVND7(At1g71930)とVNDIP2(At5g13180)遺伝子のプロモーター、全長および部分長cDNAは、pENTR/D-TOPOベクター(インヴィトロジェン社)にサブクローニングし、前述のゲートウェイ・デスティネーションベクター(pH35GY, pHGY, pHGEAR)にLRクロナーゼ(インヴィトロジェン社)により挿入し構築した。マルチクローニングサイト(5’-CACCTAGTGGATCCCCCGGGCTGCAGGAATTCGATATCAAGCTTATCGATACCGTCGACCTCGTGATG-3’(配列番号18))だけを持つベクターは、コントロールとして用いた。
本発明で用いた酵母ツーハイブリッド解析用のコンストラクトは、以下のように構築した。
【0086】
GAL4 DNA結合ドメイン (GAL4-BD)を持つpBD-GAL4 CamとGAL4 活性化ドメイン(GAL4-AD)を持つpAD-GAL4-2.1 (ストラタジーン社)を EcoRI/PstIもしくはEcoRI/XhoIで消化し、BKL kit(タカラバイオ社)で平滑末端化した。これらにEcoRV処理した GATEWAY Reading Frame Cassette (GWRFC) B (インヴィトロジェン社)をライゲーションし、pBD-GAL4-GWRFCとpAD-GAL4-GWRFCデスティネーションベクターを構築した。VND7(At1g71930)遺伝子の全長cDNA(VND7full)および部分長cDNA(VND71-270, VND71-242, VND71-216, VND71-188)は、pENTR/D-TOPOベクター(インヴィトロジェン社)にサブクローニングし、前述のゲートウェイ・デスティネーションベクター(pBD-GAL4-GWRFC, pAD-GAL4-GWRFC)にLRクロナーゼ(インヴィトロジェン社)により挿入し、酵母ツーハイブリッド解析に供した。
【0087】
(実施例2)VND7プロモーターの活性解析
VND7プロモーターの活性を、レポーター遺伝子(GUS、YFP)を用いて解析した。具体的には、実施例1で示したプラスミド(VND7pro::GUS)を、アグロバクテリウム(GV3101, pMP90)にエレクトロポレーションで導入し、フローラルディップ法にてシロイヌナズナ(Col-0)に導入した。形質転換体は、T1世代の幼植物体を、ハイグロマイシン(20μg/ml)を含む生育培地(MS培地, 0.6% ショ糖)に移植し、6日間生育させて選抜した。選抜された形質転換体は、抗生物質を含まない生育培地に移植し、GUS及びYFPの発現を観察した。観察は、Kubo et al., Genes & Dev., 2005に示す方法で行った。
【0088】
図1は、VND7プロモーターによるGUS発現を観察した結果である。VND7プロモーターによるGUS活性は、根で分化中の原生木部導管と後生木部導管、葉と下胚軸の導管で観察された。播種後7日目の根では、前形成層が分化している領域や二次壁肥厚が始まっている分化中の後生木部導管形成部位でGUS染色された(図1A)。この領域を詳細に観察すると、根の前形成層の原生木部分化領域(図1B)、分化中の原生木部導管(図1C)、原生木部導管に隣接する分化中の最外層の後生木部導管(図1D)、分化中の内層の後生木部導管(図1E)でGUS染色が見られた。また、地上部全体の導管形成部位にもGUS活性が見られ(図1F)、本葉の導管においては二次壁肥厚に先立って(G)、また二次壁肥厚の開始後(H)にもGUS活性が観察された。これらの結果から、根の原生木部導管の分化誘導を行っているVND7のプロモーターは、根の原生木部導管分化部位だけでなく、根の後生木部導管分化部位、地上部の導管分化部位でも発現活性を持っていることが示された。従って、VND7遺伝子を何らかの方法で抑制因子化して植物に組み込むことで、目的とする地上部の導管形成の抑制も可能であることが示された。
【0089】
(実施例3)NAC転写因子ファミリーの転写活性ドメイン解析
本発明者らは、酵母のツーハイブリッド系を用いて、NAC転写因子の転写活性ドメインを解析した。VND7タンパク質は、図2に示すようにN末端側にDNA結合ドメインとして働くと予想されるNACドメイン(I〜V)を、C末端側に転写活性化ドメインとして働くと予想されるモチーフ(LP,WQ)を持つ。そこで、VND7タンパク質のNACドメインを残し、C末端側を欠失(デリーション)させた種々の変異遺伝子を作製し、酵母のツーハイブリッド解析により、VND7タンパク質の転写活性化に必要な領域を決定した。
【0090】
酵母ツーハイブリッド解析は、ベクターpBD-GAL4-VND7full, -VND71-270, -VND71-242, -VND71-216, -VND71-188とpAD-GAL4-GWRFCを、酵母(S. cerevisiae strain AH109 :クローンテック社)へ導入(酢酸リチウム法:Gietz et al., 1992)して行った。 形質転換体を、トリプトファンとロイシン、トリプトファンとロイシンとヒスチジン、あるいは、トリプトファンとロイシンとヒスチジンとアデニン、をそれぞれ欠いた3種類の最小SD培地(クローンテック社)で30℃で生育させた。pBD-wtとpAD-wt (ストラタジーン社) は、ポジティブコントロールとして用いた。
【0091】
解析結果を図2に示す。完全長VND7を導入した酵母は、ヒスチジンもしくはヒスチジン/アデニンを含まない選抜培地両方で生育することができた(図2)。このことは、VND7タンパク質自体が、本アッセイ系で転写活性を持つことを示している。C末端側を欠失させた変異VND7遺伝子を導入した酵母の内、LPを持ちWQが一部もしくは全部欠失したVND71-270およびVND71-242では、ヒスチジン欠損培地では生育できたが、ヒスチジン/アデニン欠損培地では生育できなかった(図2)。従って、完全長VND7より転写活性が弱くなっていることが示された。LPとWQが欠失したVND71-216, VND71-188を導入した酵母は、ほとんど生育することはできなかった(図2)。以上の結果から、VND7タンパク質は転写活性を持っており、LPとWQを含むC末端側がそれに必須であることが明らかとなった。
【0092】
(実施例4)C末端欠失変異導入によるVND7転写因子の機能変換と効果
本発明者らは、実施例3で示されたVND7の転写活性ドメインを欠失変異された遺伝子を植物に組換えることで、内在性のVND7遺伝子の機能について抑制的な影響を及ぼし、抑制効果が得られるのではないかと考えた。そこで、実施例3で用いたC末端側を段階的に欠失させた変異VND7遺伝子を、シロイヌナズナに導入し、35Sプロモーターで強制発現させたときの効果を観察した。シロイヌナズナへの遺伝子導入は、実施例2に示す方法で行った。
【0093】
表1は、種々のコンストラクトの形質転換体の根において、異所的な導管形成(本来導管には分化しない細胞からの導管形成)が観察された根の割合をまとめたものである。播種後9日目の実生の根を微分干渉顕微鏡で観察し、異所的な導管形成が観察された根の割合を求めた。また、図3はそれら形質転換体の根の導管形成状態を示した写真である。VND7遺伝子は、原生木部導管分化のマスター制御因子であるので(非特許文献3)、完全長のVND7遺伝子(35S::VND7full-YFP)を発現させた場合、半分以上の根で異所的な導管の形成が観察された(図3C,D)。酵母ツーハイブリッド解析で弱い転写活性を示した35S::VND71-270-YFP, 35S::VND71-242-YFPの形質転換体でも、このような根での異所的な導管形成がそれぞれ50%、75%の頻度で観察された。しかしながら、完全長VND7遺伝子を導入した形質転換体の根の異所的導管に比べ、二次壁がやや薄く(二次壁合成量の減少)観察され、形成される異所的導管の数も減っていた(表1)。酵母ツーハイブリッド解析で転写活性を示さなかった35S::VND71-216-YFP, 35S::VND71-188-YFP, 35S::VND71-161-YFPの形質転換体では、異所的導管形成は全く観察されなかっただけでなく(表1)、本来の根の原生木部導管の形成が阻害されていた(図3E,F)。幾つかの形質転換体では、導管特有の螺旋状の二次壁のパターンが粗く、また二次壁自体の厚みも薄くなっていることが観察された(図3E)。さらに、強い表現型が現れている形質転換体では、連続した原生木部導管が不連続になっていることも観察された(図3F)。このような表現型は、転写因子の抑制因子変換法であるCRES−T法(VND7と抑制因子変換ペプチドとのキメラ遺伝子を35Sプロモーターで発現させた形質転換体)でも観察された。以上の結果から、C末端側を欠失させたVND7変異遺伝子は、原生木部導管分化において、抑制(ドミナントネガティブ)効果を及ぼすことが示された。従って、C末端側を欠失させることで、VND7遺伝子の抑制因子への機能変換が可能になることが明らかとなった。
【0094】
【表2】

(注)括弧内の数値は、総数に対する%を表す。
【0095】
(実施例5)C末端欠失変異VND7転写因子の効果的な発現制御方法
実施例4で、C末端側を段階的に欠失させた変異VND7遺伝子のなかで、保存モチーフを欠失させた3種(35S::VND71-216-YFP, 35S::VND71-188-YFP, 35S::VND71-161-YFP)で、原生木部導管分化における抑制(ドミナントネガティブ)効果が示された。しかしながら、実施例2で示されたように、VND7遺伝子は後生木部導管や地上部の導管形成部位でも発現しているにも関わらず、それらの部位では抑制効果は得られなかった。そこで、産業的に有用なそれらの部位でも効果を得るために、組織に特異的なプロモーター、例えばVND7遺伝子自身のプロモーターを利用することを考えた。
【0096】
実施例1に示したVND7プロモーターと完全長のVND7遺伝子もしくはC末端側欠失させた変異VND7遺伝子の各コンストラクト(VND7pro::VND7full-YFP, VND7pro::VND71-161-YFP)を、実施例2に示す方法でシロイヌナズナに導入し、導管形成の状態を観察した。
【0097】
図4は、VND7pro::VND7full-YFP, およびVND7pro::VND71-161-YFPを導入した形質転換体の観察結果を示している。VND7pro::VND7full-YFPを導入した形質転換体の根では、全長VND7−YFP融合タンパク質が原生木部導管と後生木部導管が分化している細胞で発現し、核に局在していた(図4A)。14日目の植物体では、野生株に比べVND7pro::VND71-161-YFPを導入した形質転換体の地上部がわい化していることが観察された(図4B)。しかしながら、根は野生株と同様の成長を示していることが、CRES−T法(35S::VND7full-SRDX)による形質転換体の表現型と異なる。VND7pro::VND71-161-YFPを導入した形質転換体の根では、その約70%の個体で、図4Cに示すように不連続な導管組織が見られ、葉でも同様に不連続な導管組織(図4E)が観察された。また45日目の植物体では、地上部はわい化していた(図4F)。このような阻害効果は、CRES−T法(VND7と抑制因子変換ペプチドとのキメラ遺伝子をVND7プロモーターで発現させた形質転換体)を適用した場合でも観察された。しかしながらこの場合、該表現型を示す個体の頻度は約50%であったことから、本発明の方がより高効率(約70%)であった。
【0098】
以上の結果から、C末端側を部分的に欠失させた変異VND7遺伝子をVND7自身のプロモーターで発現制御することにより、従来法より効率よく産業上有用な地上部の後生木部導管形成の抑制が可能であることが示された。
【0099】
(実施例6)C末端欠失変異導入法によるVNDIP2転写因子の機能変換と効果
VND7転写因子で示された本発明のC末端側の欠失による抑制因子への機能変換方法が、NAC転写因子ファミリーに汎用であるかどうかを、導管形成に関与するVNDIP2遺伝子を用いて検討した。VNDIP2(VND7-Interacting Protein2)タンパク質は、NAC転写因子でありVND7タンパク質と相互作用を持ち、VND7の機能を負に制御している(非特許文献7)。VNDIP2遺伝子に本発明を適用することで、NAC転写因子ファミリーに汎用であるか否かだけでなく、負の制御因子の場合の効果も同時に検討できると考えた。
【0100】
完全長のVNDIP2遺伝子を35Sプロモーターで制御するコンストラクト(35S::VNDIP2full)を導入したシロイヌナズナでは、根の原生木部導管形成が阻害されたが、地上部の導管形成は阻害されなかった。次に、本発明に従い、C末端領域の一部を欠失させたVNDIP2変異遺伝子(VNDIP21-221)の発現をVND7プロモーターで制御するコンストラクト(VND7pro::VNDIP21-221)を導入した形質転換体では、根の原生木部導管に加え、根の後生木部導管および地上部の導管の形成を強く抑制できた(図5,6)。この結果は、負の制御を行っているNAC転写因子に本発明方法を用いた場合、本来得られる抑制効果が、目的の組織細胞でより強力に得られることが示された。
【0101】
以上の結果から、本発明に示される機能変換方法は、NAC転写因子ファミリーに汎用可能であることが示された。
【0102】
以上のように、本発明者らは、シロイヌナズナと導管形成制御NAC転写因子をモデルとして用い、NAC制御因子ファミリーの転写活性に必須であるC末端側を段階的に欠失させた種々の変異遺伝子を、シロイヌナズナに導入して効果を解析した。その結果、本発明者らは、C末端側を欠失させNACドメインのみを発現させることによる、NAC転写因子ファミリーの新規機能変換(抑制因子化)方法の開発に成功した。また、抑制因子化された該NAC転写因子の効果的な発現制御方法としては、改変効果を得たい組織に特異的なプロモーターを用いることが重要であることを見出した。
【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明は、高品質なパルプ生産に資する工業原材料植物の創出や、穀物やバイオマスの増産・効率的生産、新規な美的価値を持つ花卉園芸植物の創出に利用できる等、農業・産業上の有用性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0104】
【図1】VND7プロモーターの活性解析の結果を示す図である。全てVND7プロモーターでドライブしたGUSタンパク質の発現を観察した写真であり、グレーや黒色の部分がVND7プロモーターによるGUS発現部位を示している。Aは、GUS染色した播種後7日目の根を示している。黒のフレームで示した領域は前形成層が分化している領域であり、矢頭は二次壁肥厚が始まっている分化中の後生木部導管を示している。スケールバーは、200μmを示す。Bは、根の前形成層の原生木部分化領域でのGUS活性を示しており、Cは分化中の原生木部導管を、Dは分化中の最外層の後生木部導管を、Eは分化中の内層の後生木部導管でのGUS活性を示している。Cの黒い矢頭は、二次壁肥厚が始まっている分化中の後生木部導管を示している。DとEの矢頭は、それぞれ最外層の後生木部導管と内層の後生木部導管でのGUS活性を示している。BからEのスケールバーは、20μmを示す。Fは地上部のGUS活性を示している。Fのスケールバーは、200μmを示す。GとHは、本葉の二次壁肥厚前の状態(G)と二次壁肥厚した後(H)の状態でのGUS活性を示している。GとHのスケールバーは、20μmを示す。
【図2】酵母ツーハイブリッド系によるVND7の転写活性ドメイン解析の結果を示す図である。左側は解析に用いた全長およびC末端側欠失変異VND7遺伝子を示している。薄い灰色のボックス(I〜V)はNACドメインを、黒色のボックスはLPモチーフとWQモチーフを示している。右側は、各最小培地での形質転換酵母の生育状況(VND7の転写活性の有無)を示している。
【図3】C末端側を欠失させた種々のVND7遺伝子を35Sプロモーターで制御するコンストラクトの形質転換体の導管分化形成状態を示した図である。AとBは、コントロール(VND7pro::YFP)の根(播種後9日目)の木部導管形成を示している。BはAの黒いフレームで囲った部分の拡大である。コントロール植物では主根の中心部分には、2つの2つの原生木部導管(黒い矢頭)の間に後生木部導管(白い矢頭)が観察される。CとDは、完全長のVND7遺伝子(35S::VND7full-YFP)を発現させた形質転換体(播種後9日目)の根で観察される、異所的に分化した木部導管要素を示している。DはCの黒いフレームで囲った部分の拡大である。本来の木部導管要素の形成は影響を受けていないが、黒矢印で示す細胞(表皮や皮層細胞)が導管要素に分化していることが観察された。EとFは、C末端側を欠失させたVND7遺伝子コンストラクト(35S::VND71-216-YFP, 35S::VND71-161-YFP)を発現させた形質転換体(播種後9日目)の、ドミナントネガティブ(抑制的)な表現型を示している。E(35S::VND71-216-YFP)では、主根の原生木部導管の二次壁パターンが緩い螺旋になっていることが、またF(35S::VND71-161-YFP)では、非連続的な原生木部導管組織の形成が観察された。スケールバーは、50μmを示す。
【図4】C末端側を欠失させた種々のVND7遺伝子をVND7プロモーターで制御するコンストラクトの形質転換体の導管分化形成状態を示した図である。Aは、VND7pro:VND7full-YFPを導入した形質転換体のYFP蛍光シグナルの写真である。YFP蛍光が原生木部導管(黒い矢頭)と後生木部導管(白い矢頭)の核で検出されることは、VND7full-YFP融合タンパク質が核で転写因子として機能していることを示している。スケールバーは、50μmを示す。Bは、VND7pro::VND7full-YFPとVND7pro::VND71-161-YFPを導入したそれぞれの形質転換体実生を比較したものである。左の2つの実生がVND7pro::VND7full-YFP形質転換体であり、右の3つの実生がわい化したVND7pro::VND71-161-YFP形質転換体である。スケールバーは、1cmを示す。Cは、VND7pro::VND71-161-YFP形質転換体実生の根の形態を示している。最外層の後生木部導管の列が非連続になっている(白い矢頭)。黒い矢頭は連続している原生木部導管組織を示している。スケールバーは、50μmを示す。DとEは、VND7pro:VND7full-YFP形質転換体(D)とVND7pro::VND71-161-YFP形質転換体(E)の本葉の暗視野画像である。VND7pro::VND71-161-YFP形質転換体の導管組織が非連続になっていることがわかる。スケールバーは、500μmを示す。Fは、45日目の形質転換体の成長状態を示している。左の2個体は、コントロールのVND7pro:VND7full-YFP形質転換体であり、右の2個体とインセット写真の1個体はVND7pro::VND71-161-YFP形質転換体である。スケールバーは、5cmを示す。
【図5】C末端側の一部を欠失させたVNDIP2遺伝子の発現をVND7プロモーターで制御するコンストラクトによって形質転換したシロイヌナズナ根における導管分化形成状態を示した図である。該コンストラクト(VND7pro::VNDIP21-221)を導入した形質転換シロイヌナズナでは、根の原生木部導管に加え、根の後生木部導管の形成が強く抑制された。
【図6】C末端側の一部を欠失させたVNDIP2遺伝子の発現をVND7プロモーターで制御するコンストラクトによって形質転換したシロイヌナズナ本葉の導管分化形成状態を示した図である。該コンストラクト(VND7pro::VNDIP21-221)を導入した形質転換シロイヌナズナでは、本葉での導管の形成が強く抑制された。
【図7】形質転換用ベクターの構築方法の一例を示す図である。pH35GYからカリフラワーモザイクウイルス35Sプロモーターを定法に従って除去し、pHGYを構築した。次にpENTR/D-TOPOベクター(インヴィトロジェン社)にサブクローニングしたVND7(At1g71930)遺伝子のプロモーター領域および部分長cDNAをpHGYにLRクロナーゼ(インヴィトロジェン社)により挿入することでVND7pro::VND71-161-YFPを構築した。図中、LB:レフトボーダー、pNOS:NOSプロモーター、Hpt:ハイグロマイシン耐性遺伝子、tRbcS:RbcS-2Bターミネーター、p35S:カリフラワーモザイクウィルス35Sプロモーター、GATEWAY:GATEWAYカセット、YFP:黄色蛍光タンパク質、tNOS:NOSターミネーター、RB:ライトボーダー、SpR:スペクチノマイシン耐性遺伝子をそれぞれ表す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物でNAC転写ファミリーの機能を変換する方法であって、NAC転写因子ファミリーに属する転写因子においてNACドメインを保持するがC末端領域を欠失する欠失型転写因子をコードする核酸を植物内で発現させることを含む前記方法。
【請求項2】
前記転写因子が、VND1〜VND7、それらのホモログ、またはそれらの変異体からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記転写因子が、VND7、そのホモログ、またはその変異体である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記転写因子が、VNDIP2、そのホモログ、またはその変異体である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記核酸を、形質転換によって植物に導入することをさらに含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記形質転換がベクターを用いて行われる、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記ベクターが、前記核酸の発現のための組織特異的プロモーターをさらに含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記組織特異的プロモーターがVND1〜VND7遺伝子プロモーターのいずれかである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法によってNAC転写因子ファミリーの機能が変換されたことを特徴とする植物。
【請求項10】
前記植物が、パルプ生産用植物、バイオマス生産用植物、穀物植物、または園芸用植物である、請求項9に記載の植物。
【請求項11】
請求項9または10に記載の植物に由来する、細胞、組織または種子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−240248(P2009−240248A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−92055(P2008−92055)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000122298)王子製紙株式会社 (2,055)
【出願人】(503359821)独立行政法人理化学研究所 (1,056)
【Fターム(参考)】