NoCRの発現が低下した改良細胞系及びその使用
本発明は、細胞培養技法の分野に関する。本発明は、NoCRタンパク質、特にTIP−5の発現を低下させることによって達成された、リボソームRNA(rRNA)の発現が増大した生産ホスト細胞系に関する。それらの細胞系は、対照細胞系に比べて改良された分泌及び成長特性を有する。本発明は、さらに記載された方法によって生成された細胞を使用してタンパク質を生産する方法に関する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の背景
技術分野
本発明は、細胞培養技法の分野に関する。それは、NoRCタンパク質、特にTIP−5の発現低下により達成されたリボソームRNA(rRNA)の発現増大を有する生産ホスト細胞系に関する。それらの細胞系は、対照細胞系に比べて改良された分泌特性及び成長特性を有する。
【0002】
背景
哺乳動物高生産細胞系の選択は、バイオ医薬品製造工業にとって相変わらず大きな課題である。DNAから産物翻訳までの途中に哺乳動物生産細胞系の比生産性を限定しうる大きなボトルネックがある。既存のリボソームの翻訳効率を上げること又は新しいリボソーム生産(リボソームのバイオジェネシス)により翻訳能力を高めることのいずれかによって、細胞はタンパク質の合成速度をアップレギュレーションすることができる。合計核転写の約80%がリボソームRNA(rRNA)の合成専用であることから、リボソームのバイオジェネシスは、哺乳動物細胞の主要な代謝活性の一つである。リボソームの集合は、核小体の中で起こり、4種のrRNA(その後18S、5.8S、28Sにプロセシングされる45SプレrRNA、及び5S rRNA)及び約80種のリボソームタンパク質(r−タンパク質)の調和した発現を必要とする。45SプレrRNAはポリメラーゼI(Pol I)によって核小体内で転写され、5S RNAは核小体周辺でPol IIIによって転写され、次に核小体に搬入され、そしてr−タンパク質はPol IIによって転写される。したがって、リボソームのバイオジェネシスは異なる区画において作動する、異なるポリメラーゼによる転写の編成を必要とする。哺乳動物細胞において、これらの過程は大部分が未知である(Santoro,R. and Grummt,I. (2001). Molecular mechanisms mediating methylation-dependent silencing of ribosomal gene transcription. Mol Cell 8, 719-725)。
【0003】
45SプレrRNAの転写は、リボソームバイオジェネシスの重要なステップである。哺乳動物半数体ゲノムは、約200個のリボソームRNA遺伝子を含み、その一部だけが任意の与えられた時間に転写され、残りはサイレントなままである(Santoro,R., Li,J., and Grummt,I. (2002). The nucleolar remodeling complex NoRC mediates heterochromatin formation and silencing of ribosomal gene transcription. Nat Genet. 32, 393-396)。活性遺伝子及びサイレントな遺伝子は、クロマチン配置に関して異なり:活性遺伝子は真正染色質の構造を有するが、サイレントな遺伝子は異質染色質である。活性rRNA遺伝子のプロモーターはCpGメチル化を有さず、アセチル化ヒストンと結合している。サイレントな遺伝子には正反対のことが当てはまる。
【0004】
転写的にサイレントなrRNA遺伝子の存在は、rRNAの合成及びリボソーム生産のための制限因子に相当する。細胞は、各遺伝子の転写活性を変更することによって、かつ/又は活性遺伝子の数を変更することによってrDNAの転写レベルをモデュレーションすることができると仮定されている。しかし、45SプレrRNAの合成レベルとrRNA遺伝子数との間に満足な関係は見出されていない。例えば、S. cerevisiaeでは、rRNA遺伝子数を約3分の2だけ減少させても合計rRNA生産に影響しなかった。同様に、異なる数のrRNAコピーを有するトウモロコシ近交系及び異数体ニワトリ細胞は、同レベルのrRNA転写を示した。
【0005】
rDNAはリボソームの主要構成要素に相当することから、これらの遺伝子のサイレンシングは、リボソームのバイオジェネシスを制限する結果としてタンパク質翻訳に制限を招き、したがって最終的にタンパク質合成の低下につながる。
【0006】
バイオ医薬品生産細胞において、これは、細胞の全生産能力に制限を生み出すものであり、治療用タンパク質生産の比生産性の低下を意味する。その結果、工業生産プロセスではそれが全体的なタンパク質収量の減少につながるであろう。
【0007】
比生産性(Pspec)に次いでプロセス収量(Y)を決定する他の因子は、所望のタンパク質を生産する生存細胞の時間積分であるIVCである。この関係は、次式:Y=Pspec×IVCによって表される。したがって、細胞成長を改良することによりホスト細胞の生産能力もしくはバイオリアクター中の生存細胞密度のいずれかを増大させる、又は理想的には両パラメーターを同時に増大させる、差し迫った必要がある。
【0008】
発明の概要
本発明は、上記問題を解決するものであり、NoRC(核小体リモデリング複合体;McStay,B. and Grummt,I. (2008). The epigenetics of rRNA genes: from molecular to chromosome biology. Annu. Rev Cell Dev. Biol 24, 131-157)の一サブユニットであるTIP−5のノックダウンがサイレントなrRNA遺伝子の数を減少させ、rRNAの転写をアップレギュレーションし、リボソーム合成を高め、リコンビナントタンパク質の生産を増大させることを示す。
【0009】
本出願のデータは、転写的にコンピテントなrRNA遺伝子の数がリボソームの合成を限定することを実証している。リボソームRNA遺伝子のエピジェネティク操作は、バイオ医薬品の製造を改良するための新たな可能性を与え、翻訳機構を支配する複雑なレギュレーションネットワークに新規な洞察を提供する。
【0010】
本出願は、TIP−5のノックダウンがrDNAリピートでの抑制性クロマチンマークの消失を誘導し、rDNAの転写を高め、核小体の構造を変更し、細胞の成長及び増殖を促進することを示す。
【0011】
活性rRNA遺伝子の数を増大させることが細胞の成長及び増殖に影響するかどうかを判定するために、本発明者らは、フローサイトメトリー(FACS)によっていくつかのshRNA−TIP5細胞を分析した。
【0012】
驚くべきことに初めて本発明者らは、本出願においてサイレントなrRNA遺伝子の数の操作された減少が、rRNA及びリボソームの生産強化と、そして結果として哺乳動物細胞のさらに高い生産性と関係しうることを示す。
【0013】
予想外に本出願は、異なる哺乳動物細胞系におけるTIP−5のノックダウンがより速い細胞周期の進行及び細胞増殖の増大へと導くことを示すデータを追加的に提供する。
【0014】
この結果は、先行技術(国際公開公報第2009/017670号)に記載されたものと対照的である。以前にTIP−5は、包括的miRNA選別においてFasに関するRas介在性エピジェネティックサイレンシングエフェクター(RESE)として機能することが同定されている(国際公開公報第2009/017670号)。Rasは、細胞トランスフォーメーション及び腫瘍形成に関与する周知のガン遺伝子であり、ヒトのガンでしばしば突然変異又は過剰発現される。したがって、先行技術は、TIP−5などのRasエフェクター上の発現減少が細胞増殖の阻害を招くことを主張している。
【0015】
これを検証するために、本発明者らは、フローサイトメトリー(FACS)によって両方のshRNA−TIP5細胞を分析する。しかしながら図4A、Bに示すように、S期におけるshRNA−TIP−5細胞数は、対照細胞よりもshRNA−TIP5細胞の方が顕著に高い。これらの結果に一致して、shRNA TIP5細胞は、新生DNAへの5−ブロモデオキシウリジン(BrdU)の取込み増大及びより高レベルのサイクリンAを示す(図4C)。
【0016】
追加的に本発明者らは、shRNA−TIP5、shRNA対照及び親のNIH3T3及びCHO−K1細胞の間で細胞増殖速度を比較する(図4D、F)。驚くことに、そして先行技術の報告とは対照的に、miRNA−TIP5配列を発現しているNIH/3T3細胞及びCHO−K1細胞の両方が、対照細胞よりも速い速度で増殖する。したがって、サイレントなrRNA遺伝子の数の減少は、細胞代謝に影響を及ぼす。本発明は、驚くことにTIP5の枯渇及び結果としてのrDNAサイレンシングの減少が細胞増殖を高めることを示す。
【0017】
本出願は、対照細胞系に比べてTIP5枯渇細胞の方が、タンパク質生産が顕著に増大することを実証する(実施例6、図6参照)。TIP5枯渇細胞におけるタンパク質生産増大は、対照細胞系に比べて2倍よりも大きい、4倍よりも大きい、5倍よりも大きい、6倍よりも大きい、10倍よりも大きい、又は2〜10倍である。これらのデータは、TIP5の枯渇が異種タンパク質の生産を増大させることを示す。本出願は、サイレントなrRNA遺伝子の数の減少がリボソーム合成を高め、細胞のリコンビナントタンパク質生産能力を増大させることを示す。
【0018】
本発明において本発明者らは、最終的にリコンビナントタンパク質の分泌を高める利点を有する、TIP−5低下によりrRNA転写、リボソームバイオジェネシス及び翻訳を増大させる新しい方法を提供する。
【0019】
さらに本発明者らは、TIP−5の枯渇がより速い細胞周期の進行及び改良された細胞成長へと導くことを実証する。
【0020】
細胞成長の強化は、バイオ医薬品の生産プロセスの複数局面に大きな影響を及ぼす:
− 細胞系の発達における時間の短縮を招く、より短い細胞世代時間。世代時間は、好ましくは24時間、好ましくは20〜24時間、さらに好ましくは15〜24時間又は15〜22時間、最も好ましくは10〜24時間である。
− 単一細胞クローニング後のより高い効率及びその後のより速い成長。
− 特に大規模バイオリアクターに接種する場合に、より短いスケールアップ時間。
− IVCと産物収量との間の比例関係が原因の、より高い発酵時間あたりの産物収量。逆に低いIVCは、より低い収量及び/又はより長い発酵時間を引き起こす。収量は、好ましくは10%、より好ましくは20%、最も好ましくは30%増大する。
【0021】
これは、真核細胞ベースの生産プロセスにおいてタンパク質の収量増大を容易にする。それによって、そのようなプロセスの製品コストが減少し、それと同時に治療用タンパク質の研究調査、診断、臨床試験又は市場供給に必要なバッチ数が減少する。さらに、多くの場合に前臨床試験に十分な量の製品を生成させることがスケジュールについて重大なワークパッケージであることから、本発明は薬開発をスピードアップする。
【0022】
本発明は、診断目的、研究目的(ターゲットの同定、先導物の同定、先導物の最適化)又は市販されているもしくは臨床開発中の治療用タンパク質を製造するためのいずれかの1種又は数種の特異的タンパク質を生成させるために使用される全ての真核細胞の性質を強めるために使用することができる。
【0023】
本発明によって提供される細胞系/ホスト細胞は、真核細胞ベースの生産プロセスにおいてタンパク質の収量を増大させることに役立つ。これは、そのようなプロセスの製品コストを低下させ、同時に治療用タンパク質の研究調査、診断、臨床試験又は市場供給に必要な材料を生成させるために生産する必要のあるバッチ数を低下させる。
【0024】
さらに、多くの場合に前臨床試験に十分な量の材料を生成させることがスケジュールについて重大なワークパッケージであることから、本発明は薬開発をスピードアップする。
【0025】
TIP−5の発現が低下した、最適化されたホスト細胞系を、診断目的、研究目的(ターゲットの同定、先導物の同定、先導物の最適化)又は市販されているもしくは臨床開発中のいずれかの治療用タンパク質を製造するためのいずれかの1種又は数種の特異的タンパク質を生成させるために使用することができる。
【0026】
同じ分泌経路を共有し、脂質小胞の中に等しく輸送される分泌型又は膜結合型タンパク質(表面レセプター、GPCR、メタロプロテアーゼ又はレセプターキナーゼなど)を発現又は生産するために、それらは等しく適用可能である。次にそれらのタンパク質は、細胞表面レセプターの機能を特徴づけることを目指す研究目的に、例えば表面タンパク質の生産及びその後の精製、結晶化及び/又は分析のために使用することができる。細胞表面レセプターが主要なクラスの薬物ターゲットであることから、これは、新しいヒト薬物療法を開発するために決定的に重要である。さらにこれは、細胞表面レセプターに関連する細胞内シグナル伝達複合体の研究のために、又は可溶性成長因子と、同じ細胞もしくは別の細胞上のそれらの対応するレセプターとの相互作用によって部分的に仲介される細胞間コミュニケーションの分析のために有利である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1A】げっ歯類及びヒト細胞系におけるTIP−5のノックダウンを示す図である。(A)shRNA−TIP5−1及びTIP5−2配列を安定発現しているNIH/3T3細胞ならびに(B)miRNA−TIP5−1及びTIP5−2配列を安定発現しているHEK293T細胞のTIP5 mRNAのqRT−PCR。データをGAPDH mRNAレベルに対して基準化する。
【図1B】げっ歯類及びヒト細胞系におけるTIP−5のノックダウンを示す図である。(A)shRNA−TIP5−1及びTIP5−2配列を安定発現しているNIH/3T3細胞ならびに(B)miRNA−TIP5−1及びTIP5−2配列を安定発現しているHEK293T細胞のTIP5 mRNAのqRT−PCR。データをGAPDH mRNAレベルに対して基準化する。
【図1C】げっ歯類及びヒト細胞系におけるTIP−5のノックダウンを示す図である。(C)安定なshRNA−TIP5−1/2 NIH/3T3、miRNA−TIP5−1/2 HEK293T及びmiRNA−TIP5−1/2 CHO−K1細胞のTIP5 mRNAの半定量RT−PCR。対照として、GAPDH mRNAのqRT−PCRを示す。
【図2A】TIP−5のノックダウンは、rDNAメチル化の低下へと導くことを示す図である。(A〜C)TIP5の枯渇は、rDNAプロモーターのCpGメチル化を減少させる。上欄:分析されたHpaII(H)部位を含む、(A)マウス、(B)ヒト及び(C)チャイニーズハムスターのrDNAプロモーター領域の略図。黒丸はCpGジヌクレオチドを示す。矢印は、HpaIIで消化されたDNAを増幅するために使用されたプライマーを表す。下欄:shRNA−TIP5−1/2及び/又はmiRNA TIP5−1/2及び対照配列を安定発現している(A)NIH/3T3、(B)HEK293T及び(C)CHO−K1細胞からrDNA CpGのメチル化レベルを測定する。データは、HpaII部位を欠如するDNA配列を包含するプライマー及び未消化のDNAを用いた増幅により計算された、合計rDNAに対して基準化されたHpaII抵抗性rDNAの量を表す。
【図2B】TIP−5のノックダウンは、rDNAメチル化の低下へと導くことを示す図である。(A〜C)TIP5の枯渇は、rDNAプロモーターのCpGメチル化を減少させる。上欄:分析されたHpaII(H)部位を含む、(A)マウス、(B)ヒト及び(C)チャイニーズハムスターのrDNAプロモーター領域の略図。黒丸はCpGジヌクレオチドを示す。矢印は、HpaIIで消化されたDNAを増幅するために使用されたプライマーを表す。下欄:shRNA−TIP5−1/2及び/又はmiRNA TIP5−1/2及び対照配列を安定発現している(A)NIH/3T3、(B)HEK293T及び(C)CHO−K1細胞からrDNA CpGのメチル化レベルを測定する。データは、HpaII部位を欠如するDNA配列を包含するプライマー及び未消化のDNAを用いた増幅により計算された、合計rDNAに対して基準化されたHpaII抵抗性rDNAの量を表す。
【図2C】TIP−5のノックダウンは、rDNAメチル化の低下へと導くことを示す図である。(A〜C)TIP5の枯渇は、rDNAプロモーターのCpGメチル化を減少させる。上欄:分析されたHpaII(H)部位を含む、(A)マウス、(B)ヒト及び(C)チャイニーズハムスターのrDNAプロモーター領域の略図。黒丸はCpGジヌクレオチドを示す。矢印は、HpaIIで消化されたDNAを増幅するために使用されたプライマーを表す。下欄:shRNA−TIP5−1/2及び/又はmiRNA TIP5−1/2及び対照配列を安定発現している(A)NIH/3T3、(B)HEK293T及び(C)CHO−K1細胞からrDNA CpGのメチル化レベルを測定する。データは、HpaII部位を欠如するDNA配列を包含するプライマー及び未消化のDNAを用いた増幅により計算された、合計rDNAに対して基準化されたHpaII抵抗性rDNAの量を表す。
【図2D】TIP−5のノックダウンは、rDNAメチル化の低下へと導くことを示す図である。(D、E)TIP5の枯渇はrDNA CpGのメチル化レベルを減少させる。(A)rDNAの遺伝子間領域及び転写開始部位(+1)を含むプロモーター領域ならびに(B)コード領域内の二つの領域を分析する。単一のマウスrDNAリピート及び分析されたHpaII(H)部位を表す模式図。矢印は、HpaII消化されたDNAを増幅するために使用されたプライマーを表す。データは、HpaII部位を欠如するDNA配列を包含するプライマー及び未消化のDNAを用いた増幅により計算された、合計rDNAに対して基準化されたHpaII抵抗性rDNAの量を表す。
【図2E】TIP−5のノックダウンは、rDNAメチル化の低下へと導くことを示す図である。(D、E)TIP5の枯渇はrDNA CpGのメチル化レベルを減少させる。(A)rDNAの遺伝子間領域及び転写開始部位(+1)を含むプロモーター領域ならびに(B)コード領域内の二つの領域を分析する。単一のマウスrDNAリピート及び分析されたHpaII(H)部位を表す模式図。矢印は、HpaII消化されたDNAを増幅するために使用されたプライマーを表す。データは、HpaII部位を欠如するDNA配列を包含するプライマー及び未消化のDNAを用いた増幅により計算された、合計rDNAに対して基準化されたHpaII抵抗性rDNAの量を表す。
【図3A】TIP−5ノックダウン細胞におけるrRNAレベルの増大を示す図である。(A)TIP5の枯渇はrRNAの合成を高める。安定なNIH/3T3及びHEK293T細胞系のqRT−PCRベースの45SプレrRNAレベルをGAPDH mRNAレベルに対して基準化する。
【図3B】TIP−5ノックダウン細胞におけるrRNAレベルの増大を示す図である。(B)rDNA転写を同じ曝露時間後のin situ BrUTP取込みによって検出する。BrUTPシグナル(左欄)はTIP−5枯渇細胞の方が高く、核小体(位相差画像に見られる核内のより暗い区域)に特異的に検出される(右欄)。
【図4A】TIP−5枯渇は増殖及び細胞成長の増大へと導くことを示す図である。(A)shRNA TIP5細胞のFACS分析。
【図4B】TIP−5枯渇は増殖及び細胞成長の増大へと導くことを示す図である。(B)個別の細胞周期の段階における細胞のパーセンテージ。TIP5枯渇細胞において細胞の数又はパーセンテージはS期で増大するが、G1期細胞の数又はパーセンテージは減少する。増殖は高まる。
【図4C】TIP−5枯渇は増殖及び細胞成長の増大へと導くことを示す図である。(C)BrdUの取込みアッセイ。細胞を10μM BrdUと共に30分間インキュベーションし、BrdUに対する抗体で染色し、S期細胞のパーセンテージを評価する。BrdUアッセイは、TIP5細胞におけるDNA合成増大を示す。
【図4D】TIP−5枯渇は増殖及び細胞成長の増大へと導くことを示す図である。(D〜F)miRNA−TIP5及び対照配列を安定発現している(D)NIH/3T3、(E)HEK293T及び(F)CHO−K1細胞の成長曲線。これらの成長曲線は、TIP−5枯渇細胞が(HEK293)と少なくとも同じ速さで、又は対照細胞(NIH3T3及びCHO−K1)よりもなお速く成長することを実証している。
【図4E】TIP−5枯渇は増殖及び細胞成長の増大へと導くことを示す図である。(D〜F)miRNA−TIP5及び対照配列を安定発現している(D)NIH/3T3、(E)HEK293T及び(F)CHO−K1細胞の成長曲線。これらの成長曲線は、TIP−5枯渇細胞が(HEK293)と少なくとも同じ速さで、又は対照細胞(NIH3T3及びCHO−K1)よりもなお速く成長することを実証している。
【図4F】TIP−5枯渇は増殖及び細胞成長の増大へと導くことを示す図である。(D〜F)miRNA−TIP5及び対照配列を安定発現している(D)NIH/3T3、(E)HEK293T及び(F)CHO−K1細胞の成長曲線。これらの成長曲線は、TIP−5枯渇細胞が(HEK293)と少なくとも同じ速さで、又は対照細胞(NIH3T3及びCHO−K1)よりもなお速く成長することを実証している。
【図5A】TIP−5ノックダウン細胞におけるリボソーム分析を示す図である。(A〜C)(A)安定なNIH/3T3、(B)HEK293T及び(C)CHO−K1細胞における細胞質RNA/細胞の相対量。データは、3回の重複で行われた2回の実験の平均を表す。
【図5B】TIP−5ノックダウン細胞におけるリボソーム分析を示す図である。(A〜C)(A)安定なNIH/3T3、(B)HEK293T及び(C)CHO−K1細胞における細胞質RNA/細胞の相対量。データは、3回の重複で行われた2回の実験の平均を表す。
【図5C】TIP−5ノックダウン細胞におけるリボソーム分析を示す図である。(A〜C)(A)安定なNIH/3T3、(B)HEK293T及び(C)CHO−K1細胞における細胞質RNA/細胞の相対量。データは、3回の重複で行われた2回の実験の平均を表す。
【図5D】TIP−5ノックダウン細胞におけるリボソーム分析を示す図である。(D)安定なHEK293Tのリボソームプロファイル。さらに多くのリボソームがTIP5ノックダウン細胞に存在する。
【図5E】TIP−5ノックダウン細胞におけるリボソーム分析を示す図である。(E)CHO−K1細胞系のリボソームプロファイル。さらに多くのリボソームがTIP5ノックダウン細胞に存在する。
【図6A】TIP−5のノックダウンはレポータータンパク質の生産強化へと導くことを示す図である。(A〜C)構成的SEAP発現ベクターpCAG−SEAPで操作された(A)安定なNIH/3T3、(B)HEK293T及び(C)CHO−K1細胞系のSEAP発現。
【図6B】TIP−5のノックダウンはレポータータンパク質の生産強化へと導くことを示す図である。(A〜C)構成的SEAP発現ベクターpCAG−SEAPで操作された(A)安定なNIH/3T3、(B)HEK293T及び(C)CHO−K1細胞系のSEAP発現。
【図6C】TIP−5のノックダウンはレポータータンパク質の生産強化へと導くことを示す図である。(A〜C)構成的SEAP発現ベクターpCAG−SEAPで操作された(A)安定なNIH/3T3、(B)HEK293T及び(C)CHO−K1細胞系のSEAP発現。
【図6D】TIP−5のノックダウンはレポータータンパク質の生産強化へと導くことを示す図である。(D、E)構成的ルシフェラーゼ発現ベクターpCMV−ルシフェラーゼを用いて操作された(D)安定なNIH/3T3及び(E)HEK293T細胞系のルシフェラーゼ発現。
【図6E】TIP−5のノックダウンはレポータータンパク質の生産強化へと導くことを示す図である。(D、E)構成的ルシフェラーゼ発現ベクターpCMV−ルシフェラーゼを用いて操作された(D)安定なNIH/3T3及び(E)HEK293T細胞系のルシフェラーゼ発現。
【0028】
発明の詳細な説明
TIP−5のノックダウン:
リコンビナントタンパク質の合成増大のために細胞を操作することを目指して、本発明者らは、サイレントなrRNA遺伝子の数の減少が45SプレrRNAの合成を高め、結果としてリボソームバイオジェネシスも刺激し、翻訳コンピテントリボソームの数を増大させるかどうかを判定する。したがって本発明者らは、TIP5発現をノックダウンするためにRNA干渉を使用し、TIP5の二つの異なる領域(TIP5−1及びTIP5−2)に特異的なshRNA/miRNA配列を使用して、トランスジェニックshRNAを安定発現しているNIH/3T3又はmiRNAを発現しているHEK293T及びCHO−K1を構築する。スクランブルされたshRNA(scrambled shRNA)配列及びmiRNA配列を発現している安定細胞系を対照として使用する。shRNA−TIP5配列又はmiRNA−TIP5配列を発現しているプラスミドの一過性トランスフェクションを行うよりもむしろ安定細胞系を生産するのには二つの理由がある。第一に、CpGメチル化のような抑制的なエピジェネティックのマークの消失は、複数の細胞分裂を必要とする受動的なメカニズムである。第二に、たとえHEK293T細胞を比較的容易にトランスフェクションすることができるとしても、NIH/3T3及びCHO−K1細胞の低いトランスフェクション効率は、内因性rRNA、リボソームレベル及び細胞成長の性質のその後の分析を損なうであろう。選択されたクローンにおけるTIP5のノックダウン効率を決定するために、本発明者らは、定量及び半定量逆転写酵素介在性PCRによってTIP5 mRNAレベルを測定する(図1)。TIP5の発現は、対照細胞に比べてNIH/3T3/shRNA−TIP5−1細胞及びNIH/3T3/shRNA−TIP5−2細胞の方が約70〜80%減少する(図1A)。TIP5 mRNAレベルにおける類似の低下が、安定なHEK293Tで観察される(図1B)。CHO−K1由来細胞におけるTIP5 mRNAレベルは、半定量PCRによってのみ測定することができるが(図1C)、TIP5 mRNAの低下は、安定なNIH/3T3細胞及びHEK293T細胞に類似している。これらの結果は、樹立細胞系が低レベルのTIP5を有することを実証している。
【0029】
TIP−5のノックダウンはrDNAメチル化の低下へと導く:
マウスrDNAプロモーターのCpGメチル化は、基本転写因子UBFの結合を障害し、開始前複合体の形成は阻止される(Sanij,E., Poortinga,G., Sharkey,K., Hung,S., Holloway,T.P., Quin,J., Robb,E., Wong,L.H., Thomas,W.G., Stefanovsky,V., Moss,T., Rothblum,L., Hannan,K.M., McArthur,G.A., Pearson,R.B., and Hannan,R.D. (2008). UBF levels determine the number of active ribosomal RNA genes in mammals. J. Cell Biol 183, 1259-1274)。NIH/3T3細胞において、約40%〜50%のrRNA遺伝子がCpG−メチル化配列を有し、転写的にサイレントである。ヒト、マウス及びチャイニーズハムスターにおけるrDNAプロモーターの配列及びCpG密度は、顕著に異なる。ヒトでは、rDNAプロモーターは23個のCpGを有し、一方マウス及びチャイニーズハムスターではそれぞれ3個及び8個のCpGがある(図2A〜C)。TIP5のノックダウンがrDNAのサイレンシングに影響することを検証するために、本発明者らは、CCGG配列におけるmeCpGの量を測定することによってrDNAメチル化のレベルを決定する。ゲノムDNAをHpaIIで消化し、消化に対する抵抗性(すなわちCpGメチル化)を、HpaII配列(CCGG)を包含するプライマーを使用する定量的リアルタイムPCRによって測定する。全てのTIP5ノックダウン細胞系における大部分のrRNA遺伝子のプロモーター領域内でCpGメチル化の減少があり、rDNAサイレンシングの促進に果たすTIP5が重要な役割を強調している(図2)。
【0030】
特に、TIP5の結合及びde novoメチル化は、rDNAプロモーター配列に限定されるものの、TIP−5低下NIH3T3細胞におけるCpGメチル化の量は、rDNA遺伝子全体(遺伝子間領域、プロモーター領域及びコード領域;図2D、E)にわたり減少し、TIP5がいったんrDNAプロモーター上に結合すると、rDNAローカスにわたりサイレントなエピジェネティックマークを樹立する拡散メカニズムを開始することを示している。
【0031】
Tip−5ノックダウン細胞におけるrRNAレベルの増大:
サイレントな遺伝子の数の減少がrRNA転写物の量に影響するかどうかを判定するために、本発明者らは、第一rRNAプロセシング部位を包含したプライマーを使用するqRT−PCR(図3A)及びin vivo BrUTP取込み(図3B)によって、45SプレrRNAの合成を測定する。両方の分析によって、TIP5を枯渇したNIH/3T3細胞及びHEK293T細胞の両方において、対照細胞系に比べてrRNA生産の強化が検出される。
【0032】
TIP−5の枯渇は、増殖及び細胞成長の増大へと導く:
Rasは、ヒトのガンにおいて多くの場合に突然変異又は過剰発現している、細胞トランスフォーメーション及び腫瘍形成に関与する周知のガン遺伝子である。Greenらは、国際公開公報第2009/017670号において包括的miRNA選別においてTIP−5がFasのRas介在性エピジェネティックサイレンシングエフェクター(RESE)として機能することを確認したと記載している。その公報は、TIP−5などのRasエフェクターの発現低下が細胞増殖阻害を招くことを記載している。
【0033】
本発明者らは、フローサイトメトリー(FACS)によって両方のshRNA−TIP5細胞を分析する。図4A、Bに示すように、S期の細胞数は、対照細胞に比べて両方のshRNA−TIP5細胞の方が顕著に高い。TIP5配列に対するmiRNAを発現しているレトロウイルスを感染させてから10日後のNIH3T3細胞で類似のプロファイルが得られる。これらの結果に一致して、shRNA TIP5細胞は、新生DNAへの5−ブロモデオキシウリジン(BrdU)の取込み増大及びより高いレベルのサイクリンAを示す(図4C)。
【0034】
最終的に本発明者らは、shRNA−TIP5、shRNA対照及び親のNIH3T3、HEK293及びCHO−K1細胞の間で細胞増殖速度を比較する(図4D〜F)。驚くことに、そして先行技術の報告と対照的に、miRNA−TIP5配列を発現しているNIH/3T3及びCHO−K1細胞の両方は、対照細胞よりも速い速度で増殖し、サイレントなrRNA遺伝子の数の減少が細胞の代謝に実際に影響を有することを示している。HEK293Tは、すでにその最大増殖速度に達していることから、これらの細胞におけるTIP5枯渇は細胞増殖にあまり影響しない。これらのデータは、驚くことにTIP5の枯渇及び結果としてのrDNAサイレンシングの減少が細胞増殖を高めることを示す。
【0035】
TIP−5ノックダウン細胞におけるリボソーム分析:
哺乳動物細胞培養において、タンパク質合成速度は重要なパラメーターであって、産物収量に直接関係する。TIP5の枯渇及び結果としてのrDNAサイレンシングの減少が細胞における翻訳コンピテントなリボソームの数を増大させるかどうかを判定するために、本発明者らは、最初、細胞質rRNAのレベルを測定する。細胞質で大部分のRNAは、リボソームに集合したプロセシング済みのrRNAから成る。図5A〜Cに示すように、全てのTIP5枯渇細胞系は、細胞1個あたりより多くの細胞質を有し、これらの細胞がより多くのリボソームを生産することを示している。同様に、ポリソームプロファイルの分析は、TIP5を枯渇したHEK293細胞及びCHO−K1細胞が対照細胞に比べて多くのリボソームサブユニット(40S、60S及び80S)を有することを示す(図5D)。
【0036】
Tip−5のノックダウンは、レポータータンパク質の生産強化へと導く:
TIP5の枯渇及びrDNAサイレンシングの減少が異種タンパク質の生産を高めるかどうかを判定するために、本発明者らは、TIP5を枯渇した安定なNIH/3T3、HEK293T及びCHO−K1誘導体に、ヒト胎盤分泌型アルカリホスファターゼSEAP又はルシフェラーゼの構成的発現を促進している発現ベクター(それぞれpCAG−SEAP;図6A〜C又はpCMV−ルシフェラーゼ;図6D、E)をトランスフェクションする。48時間後のタンパク質生産の定量から、対照細胞系に比べてTIP5枯渇細胞の方がSEAP及びルシフェラーゼの両方の生産が2〜4倍に増大することが明らかとなり、TIP5の枯渇が異種タンパク質の生産を増大させることを示している。これらの結果の全ては、サイレントなrRNA遺伝子の数の減少が、リボソーム合成を高め、細胞がリコンビナントタンパク質を生産する能力を増大させることを示す。
【0037】
TIP−5のノックアウトは、単球走化性タンパク質1(MCP−1)のバイオ医薬品生産を増大させ、治療用抗体の生産を高める:
(a)単球走化性タンパク質1(MCP−1)又は治療用抗体を分泌しているCHO細胞系(CHO DG44)に、空のベクター(模擬対照)又はTIP−5発現をノックダウンするように設計された小RNA(shRNA又はRNAi)をトランスフェクションする。最高のMCP−1力価は、最も効率的にTIP−5を枯渇した細胞プールで認められ、一方でタンパク質濃度は、模擬トランスフェクションされた細胞又は親細胞系の方が顕著に低い。
b)CHOホスト細胞(CHO DG44)に最初に短いRNA配列(shRNA又はRNAi)をトランスフェクションしてTIP−5の発現を低下させ、安定なTIP−5枯渇ホスト細胞系を生成させる。続いてこれらの細胞系及び並行してCHO DG44野生型細胞に、関心が持たれる遺伝子として単球走化性タンパク質1(MCP−1)又は治療用抗体をコードするベクターをトランスフェクションする。最高のMCP−1力価及び生産性は、最も効率的にTIP−5を枯渇した細胞プールで認められ、一方でタンパク質濃度は、模擬トランスフェクションされた細胞又は親細胞系の方が顕著に低い。
c)a)又はb)に記載されたその細胞が回分発酵又は流加発酵に供する場合、全体的なMCP−1力価又は抗体力価における差は、なおいっそう顕著になる。TIP−5の発現が低下した、トランスフェクションされた細胞が細胞及び時間あたりより速く成長し、より多くのタンパク質も生産することから、それらは、より高いIVCを示し、同時により高い生産性を示す。両方の性質は、全体的なプロセス収量に正の影響を与える。したがってTip5枯渇細胞は、顕著に高いMCP−1又は抗体収集物力価を有し、より効率の高い生産プロセスへと導く。
【0038】
また、SNF2H欠失細胞は、顕著に高いIgG収集物力価を有し、より効率的な生産プロセスへと導く。
【0039】
TIP−5遺伝子のノックアウトはrRNAの転写を増大させ、最も効率的に増殖を高める:
TIP−5の発現が常に低下したレベルの、改良されたホスト生産細胞系を生成させる最も効率的な方法は、TIP−5遺伝子の完全なノックアウトを生成させることである。このために、Tip−5遺伝子を破壊してその発現を阻止するために相同組換えを利用するか、又はジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)技法を使用するかのいずれかを行うことができる。相同組換えはCHO細胞において効率的ではないことから、本発明者らは、TIP−5遺伝子内に二本鎖切断を導入することによりそれを機能的に破壊するZFNを設計する。TIP−5の効率的なノックアウトを確認するために、抗TIP−5抗体を使用してウエスタンブロットを行う。TIP−5ノックアウト細胞では膜上にTIP−5の発現は検出されず、一方で親CHO細胞系は、TIP−5タンパク質に対応する明瞭なシグナルを示す。
【0040】
次に、TIP−5ノックアウトCHO細胞及び親CHO細胞系においてrRNAの転写を分析する。このアッセイは、両方の親細胞に比べて、そしてまたTIP−5発現レベルだけが低下した細胞に比べて、TIP−5ノックアウト細胞の方が高いレベルのrRNA合成及び増大したリボソーム数であることを確認する。
【0041】
さらに、TIP5野生型細胞及びTIP−5の発現だけが干渉性RNA(shRNA又はRNAiなど)の導入によって低下した細胞系に比べて、TIP−5欠損細胞の方が流加プロセスにおいて速く増殖し、高い細胞数を示す。
【0042】
全般的な態様「含んでいる」又は「含まれる」は、より具体的な態様「から成る」を包含する。さらに、単数形及び複数形は限定的な方法で使用されない。
【0043】
本発明の過程で使用される用語は、以下の意味を有する。
【0044】
「エピジェネティック操作」という用語は、核酸配列に影響せずにクロマチンのエピジェネティック改変に影響を及ぼすことを意味する。エピジェネティック改変には、ヒストン又はDNAヌクレオチドのメチル化又はアセチル化、さらにはアルキル化における変化が含まれる。本発明において、「エピジェネティック操作」は、主にDNAメチル化における操作を表す。
【0045】
「NoRC」(核小体リモデリング複合体)は、rDNAサイレンシングの重要な決定因子であり、TIP−5(TTF−1相互作用タンパク質5)及びATPase SNF2hから成る。NoRCは、サイレントな遺伝子のrDNAプロモーターに結合し、ヒストン改変活性及びDNAメチル化活性によりrDNAの転写を抑制する。
【0046】
「TIP−5」又は「TIP5」(転写終結因子1(TTF1)相互作用タンパク質5)は、DNAメチルトランスフェラーゼ(DNMT)及びヒストンデアセチラーゼ(HDAC)及び他のクロマチン改変因子と相互作用することによって、rDNAにヒストンデアセチラーゼ活性をリクルートするように作用する、200kDよりも大きな核小体タンパク質である。さらなる同義語は、:BAZ2A、WALp3;FLJ13768;FLJ13780;FLJ45876;KIAA0314及びDKFZp781B109である。
【0047】
「SNF2h」は、SWI/SNFファミリータンパク質のメンバーであって、ヘリカーゼ活性及びATPase活性を有する。SNF2hは、閉鎖型ヘテロクロマチンのクロマチン状態を樹立するためのヌクレオソームグライディング(nucleosome gliding)に関与するNoRCの一構成要素である。SNF2hの公式名はSMARCA5である(SWI/SNF関係、マトリックス関連アクチン依存性クロマチンレギュレータースーパーファミリーaメンバー5)。さらなる別名は、ISWI;hISWI;hSNF2H及びWCRF135である。
【0048】
「リボソームRNA遺伝子(rDNA)のサイレンシングを低下させる」という表現は、リボソームRNAをコードするDNA又はこの特定領域におけるクロマチンのメチル化及び/又はアセチル化に影響してrRNA遺伝子転写の抑制解除を招くことを意味する。さらに具体的には、本発明においてこの用語は、rRNA遺伝子のメチル化を低下させ、転写因子が遺伝子とアクセスする可能性をより大きくすることに繋げ、それによってそれぞれの遺伝子からより多くのrRNAを合成することへと導くアプローチを表す。
【0049】
本明細書における「rDNAサイレンシング」は、具体的にはrRNA遺伝子のサイレンシングを表す。それには、NoRCによって仲介されない非特異的な全ゲノムサイレンシングメカニズムは含まれない。
【0050】
rDNAサイレンシングは、以下のアッセイによって測定/モニターすることができる:
rDNAのサイレンシングは、(例えば、材料及び方法に記載されるように、45SプレRNAに対するオリゴヌクレオチドプライマーを使用した)定量又は半定量PCRにより分析することのできるrRNAの転写減少を招く。
【0051】
rDNA遺伝子プロモーターのメチル化は、メチル化感受性制限酵素を用いたゲノムDNAの消化、ならびにそれに続くメチル化及び非メチル化状態について異なるバンドパターンを招くサザンブロットによって分析することができる。
【0052】
又は、メチル化誘導性rDNAサイレンシングは、メチル化感受性制限酵素を用いたゲノムDNAの消化及びそれに続く切断部位にわたるプライマーを使用するqPCRによっても定量することができる(材料及び方法に記載し、図2に示す)。
【0053】
本明細書に使用されるような遺伝子発現の文脈における「ノックダウン」又は「枯渇」という用語は、対照細胞における発現に比べた所与の遺伝子の発現低下に至る実験アプローチを表す。遺伝子のノックダウンは、その遺伝子のmRNAの部分とハイブリダイゼーションしてそれを分解へと導く核酸分子(例えばshRNA、RNAi、miRNA)を細胞に導入すること、又は転写低下、mRNAの安定性低下又はmRNAの翻訳減少へと導く方法で遺伝子配列を変更することなどの、様々な実験手段によって達成することができる。
【0054】
所与の遺伝子の発現の完全阻害は、「ノックアウト」と呼ばれる。遺伝子のノックアウトは、その遺伝子から機能的転写物が合成されず、この遺伝子によって普通は提供される機能の消失へと導くことを意味する。遺伝子ノックアウトは、DNA配列を変更することによって達成され、遺伝子又はその調節配列の破壊又は欠失へと導く。ノックアウト技法には、重大な部分もしくは遺伝子配列全体を交換、妨害もしくは欠失させる相同組換え技法の使用又はターゲット遺伝子のDNAに二本鎖切断を導入するジンクフィンガーヌクレアーゼなどのDNA改変酵素の使用が含まれる。
【0055】
遺伝子のノックダウン又はノックアウトをモニター/証明するためのアッセイは多種多様である:
例えば、選択された遺伝子から転写されたmRNAの低下/損失は、ノーザンブロットハイブリダイゼーション、リボヌクレアーゼRNAの保護、細胞性RNAへの又はPCRによるin situハイブリダイゼーションによって定量することができる。選択された遺伝子によってコードされる、対応するタンパク質の存在量低下/損失は、様々な方法、例えばELISA、ウエスタンブロット、ラジオイムノアッセイ、免疫沈降、タンパク質の生物学的活性のアッセイ、タンパク質の免疫染色に続くFACS分析又はホモジニアス時間分解蛍光(HTRF)アッセイによって定量することができる。
【0056】
本発明に使用されるような「誘導体」という用語は、本来の配列又はその相補的配列と配列が少なくとも70%同一のポリペプチド分子又は核酸分子を意味する。好ましくはそのポリペプチド分子又は核酸分子は、本来の配列又はその相補的配列と配列が少なくとも80%同一である。さらに好ましくは、そのポリペプチド分子又は核酸分子は、本来の配列又はその相補的配列と配列が少なくとも90%同一である。最も好ましいのは、本来の配列又はその相補的配列と配列が少なくとも95%同一であって、分泌に対して本来の配列と同じ又は類似の効果を示すポリペプチド分子又は核酸分子である。
【0057】
配列の差は、異なる生物からの相同配列における差に基づくことがある。それらは、また、1個又は複数個、好ましくは1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10個のヌクレオチド又はアミノ酸の置換、挿入又は欠失による配列のターゲット改変に基づくこともあろう。欠失、挿入又は置換突然変異体は、部位特異的突然変異誘発及び/又はPCRベースの突然変異誘発技法を使用して生成させることができる。対応する方法は、追加的な参考文献と共に(Lottspeich and Zorbas, 1998)によって第36.1章に記載されている。
【0058】
本発明の意味における「ホスト細胞」は、真核細胞、好ましくは哺乳動物細胞、最も好ましくはハムスター細胞などのげっ歯類細胞である。好ましい細胞は、BHK21、BHK TK−、CHO、CHO−K1、CHO−DUKX、CHO−DUKX B1、及びCHO−DG44細胞又はそのような任意の細胞系の誘導体/後代である。特に好ましいのはCHO−DG44、CHO−DUKX、CHO−K1及びBHK21であり、なおいっそう好ましくはCHO−DG44及びCHO−DUKX細胞である。最も好ましいのはCHO−DG44細胞である。本発明の特定の態様では、ホスト細胞は、マウス骨髄腫細胞、好ましくはNS0及びSp2/0f細胞又はそのような任意の細胞系の誘導体/後代を意味する。本発明の意味において使用することのできるマウス及びハムスター細胞の例を、表1にも要約する。しかしながら、それらの細胞の誘導体/後代、非限定的にヒト、マウス、ラット、サル、及びげっ歯類細胞系を含む他の哺乳動物細胞、又は非限定的に酵母、昆虫及び植物細胞を含む真核細胞もまた、本発明の意味において、特にバイオ医薬品タンパク質の生産のために使用することができる。
【0059】
【表1】
【0060】
ホスト細胞は、無血清条件下で、そして場合により動物起源のタンパク質/ペプチドを全く有さない培地中で樹立、適応、及び完全に培養される場合が最も好ましい。ハムF12(Sigma, Deisenhofen, Germany)、RPMI−1640(Sigma)、ダルベッコ変法イーグル培地(DMEM;Sigma)、最小必須培地(MEM;Sigma)、イソコフ変法ダルベッコ培地(IMDM;Sigma)、CD−CHO(Invitrogen, Carlsbad, CA)、CHO−S−Invtirogen)、無血清CHO培地(Sigma)、及び無タンパク質CHO培地(Sigma)などの市販の培地は、適切な栄養溶液の一例である。必要に応じてホルモン及び/又は他の成長因子(インスリン、トランスフェリン、上皮成長因子、インスリン様成長因子など)、塩類(塩化ナトリウム、カルシウム、マグネシウム、リン酸塩など)、緩衝剤(HEPESなど)、ヌクレオシド(アデノシン、チミジンなど)、グルタミン、グルコース又は他の等価のエネルギー源、抗生物質、微量元素を例とする多様な化合物を任意の培地に補充することができる。任意の他の必要な補助剤もまた、当業者に公知であろう適切な濃度で包含させることができる。本発明においてホスト細胞の培養に無血清培地の使用が好ましいが、適切な量の血清が補充された培地もまた使用することができる。選択可能な遺伝子を発現している遺伝的に改変された細胞の成長及び選択のために、適切な選択薬が培養培地に添加される。
【0061】
「タンパク質」という用語は、アミノ酸残基配列又はポリペプチドと互換的に使用され、任意の長さのアミノ酸のポリマーを表す。これらの用語には、また、非限定的にグリコシル化、アセチル化、リン酸化又はタンパク質プロセシングが含まれる反応によって翻訳後修飾されたタンパク質が含まれる。ポリペプチドの分子がその生物学的機能活性を維持する限り、改変及び変化、例えば他のタンパク質との融合、アミノ酸配列の置換、欠失又は挿入をそのポリペプチドの構造に加えることができる。例えば、ポリペプチド又はその基礎となる核酸コード配列に、あるアミノ酸配列置換を加えることができ、類似の性質を有するタンパク質を得ることができる。
【0062】
「ポリペプチド」という用語は、10個よりも多いアミノ酸を有する配列を意味し、「ペプチド」という用語は、最大10個のアミノ酸長の配列を意味する。
【0063】
本発明は、バイオ医薬品ポリペプチド/タンパク質の生産のためのホスト細胞を生成させるために適する。特に本発明は特に、強化された細胞生産性を示している細胞による、関心が持たれる多数の異なる遺伝子の高収量発現に適する。
【0064】
「関心が持たれる遺伝子」(GOI)、「選択された配列」、又は「産物遺伝子」は、本明細書において同じ意味を有し、関心が持たれる産物又は「関心が持たれるタンパク質」をコードする任意の長さのポリヌクレオチド配列を表し、「所望の産物」という用語でも述べられる。選択された配列は、完全長の又は短縮された遺伝子、融合遺伝子又はタグ付き遺伝子のことがあり、cDNA、ゲノムDNA、又はDNAフラグメント、好ましくは、cDNAのことがある。それは、ネイティブな配列、すなわち天然型のことがあるか、又は所望により突然変異又はその他の方法で改変されていることがある。これらの改変には、選択されたホスト細胞におけるコドン使用頻度を最適化するためのコドン最適化、ヒト化又はタグ付けが含まれる。選択された配列は、分泌型、細胞質、核、膜結合型又は細胞表面ポリペプチドをコードすることがある。
【0065】
「関心が持たれるタンパク質」には、その全てが選択されたホスト細胞に発現することができるタンパク質、ポリペプチド、そのフラグメント、ペプチドが含まれる。所望のタンパク質は、例えば抗体、酵素、サイトカイン、リンホカイン、接着分子、レセプター及びその誘導体又はフラグメント、ならびにアゴニストもしくはアンタゴニストとして役立つことができ、かつ/又は治療もしくは診断用途を有する任意の他のポリペプチドのことがある。所望のタンパク質/ポリペプチドの例もまた下記に示す。
【0066】
モノクローナル抗体などのより複雑な分子の場合、GOIは、2本の抗体鎖の一方又は両方をコードする。
【0067】
「関心が持たれる産物」は、また、アンチセンスRNAのことがある。
【0068】
「関心が持たれるタンパク質」又は「所望のタンパク質」は、上述のタンパク質である。特に、所望のタンパク質/ポリペプチド又は関心が持たれるタンパク質は、例えば非限定的にインスリン、インスリン様成長因子、hGH、tPA、インターロイキン(IL)、例えばIL−1、IL−2、IL−3、IL−4、IL−5、IL−6、IL−7、IL−8、IL−9、IL−10、IL−11、IL−12、IL−13、IL−14、IL−15、IL−16、IL−17、IL−18、インターフェロン(IFN)α、IFNβ、IFNγ、IFNω又はIFNτ、TNFα及びTNFβ、TNFγなどの腫瘍壊死因子(TNF)、TRAIL;G−CSF、GM−CSF、M−CSF、MCP−1及びVEGFなどのサイトカインである。同様に含まれるのは、エリスロポエチン又は他の任意のホルモン性成長因子の生産である。本発明による方法は、また、抗体又はそのフラグメントの生産に有利に使用することができる。そのようなフラグメントには、例えばFabフラグメント(抗原結合フラグメント=Fab)が含まれる。Fabフラグメントは、隣接する定常領域によって一緒につながった、両方の鎖の可変領域から成る。これらは、従来の抗体からプロテアーゼ消化によって、例えばパパインを用いて形成させることができるが、類似のFabフラグメントを、遺伝子操作によっても生産することができる。さらなる抗体フラグメントには、ペプシンを用いたタンパク質分解切断によって調製することのできるF(ab’)2フラグメントが含まれる。
【0069】
関心が持たれるタンパク質は、好ましくは分泌型ポリペプチドとして培地から回収されるか、又は分泌シグナルなしに発現される場合はホスト細胞溶解物から回収することもできる。他のリコンビナントタンパク質及びホスト細胞タンパク質から、関心が持たれるタンパク質の実質的に均一な調製物が得られる方法で、関心が持たれるタンパク質を精製することが必要である。第一ステップとして、細胞及び/又は粒子状細胞破片を培養液又は溶解物から取り出す。その後、混入可溶性タンパク質、ポリペプチド及び核酸から、例えばイムノアフィニティーカラム又はイオン交換カラム、エタノール沈澱、逆相HPLC、Sephadexクロマトグラフィー、シリカ又はDEAEなどの陽イオン交換樹脂でのクロマトグラフィーを用いた分画によって、関心が持たれる産物を精製する。一般に、ホスト細胞によって異種発現されたタンパク質を精製する方法を技術者に教示している方法は、当技術分野において周知である。
【0070】
遺伝子操作法を使用して、重鎖(VH)の可変領域及び軽鎖(VL)の可変領域のみから成る短縮化抗体フラグメントを生産することが可能である。これらは、Fvフラグメント(可変フラグメント=可変部フラグメント)と呼ばれる。これらのFvフラグメントは、定常鎖のシステインによる二つの鎖の共有結合を欠如しているので、Fvフラグメントは安定化されていることが多い。重鎖の可変領域及び軽鎖の可変領域を短いペプチドフラグメント、例えば10〜30個のアミノ酸、好ましくは15個のアミノ酸のフラグメントによって連結することが有利である。このようにして、VH及びVLがペプチドリンカーによって連結したものから成るペプチド1本鎖が得られる。この種の抗体タンパク質は、1本鎖Fv(scFv)として知られている。この種のscFv−抗体タンパク質の例は、当技術分野において周知である。
【0071】
近年、scFvを多量体性誘導体として調製するために様々な戦略が開発された。これは、特に改良された薬物動態性質及び生体分布性質と、さらには増大した結合アビディティーを有するリコンビナント抗体へと導くことが意図されている。scFvの多量体化を達成するために、scFvは、多量体化ドメインを有する融合タンパク質として調製される。多量体化ドメインは、例えばIgGのCH3領域又はロイシンジッパードメインなどのコイルドコイル構造(ヘリックス構造)のことがある。しかし、scFvのVH/VL領域の間の相互作用が多量体化のために使用される戦略もある(例えばダイアボディー、トリボディー及びペンタボディー)。ダイアボディーによって、技術者は、2価ホモ二量体性scFv誘導体を意味する。scFv分子のリンカーが5〜10個のアミノ酸に短縮化することで、鎖内VH/VL重ね合わせが起こるホモ二量体の形成に至る。ダイアボディーは、追加的に、ジスルフィド架橋の組み入れによって安定化することができる。ダイアボディー−抗体タンパク質の例は、当技術分野において周知である。
【0072】
ミニボディーによって、技術者は2価ホモ二量体性scFv誘導体を意味する。それは、二量体化領域として免疫グロブリン、好ましくはIgG、最も好ましくはIgG1のCH3領域が、ヒンジ領域(例えば同じくIgG1由来)及びリンカー領域を介してscFvと結合したものを有する融合タンパク質から成る。ミニボディー−抗体タンパク質の例は、当技術分野から周知である。
【0073】
トリアボディーによって、技術者は3価ホモ三量体性scFv誘導体を意味する。VH−VLがリンカー配列なしに直接融合しているscFv誘導体が、三量体の形成へと導く。
【0074】
「足場タンパク質」によって、技術者は遺伝子クローニング又は別のタンパク質もしくは別の機能を有するタンパク質の部分との共翻訳過程によって結合した、タンパク質の任意の機能的ドメインを意味する。
【0075】
技術者は、また、2、3又は4価構造を有し、scFv由来のいわゆるミニ抗体を熟知しているであろう。多量体化は、二、三又は四量体性コイルドコイル構造によって実施される。
【0076】
たとえ導入された配列又は遺伝子がホスト細胞における内因性配列又は遺伝子と同一であっても、ホスト細胞に導入された配列又は遺伝子は、定義によってホスト細胞に関して「異種配列」又は「異種遺伝子」又は「導入遺伝子」と呼ばれる。
【0077】
したがって、「異種」タンパク質は、異種配列から発現されたタンパク質である。
【0078】
「リコンビナント」という用語は、本発明の明細書にわたり、特にタンパク質の発現の文脈において「異種」という用語と互換的に使用される。したがって、「リコンビナント」タンパク質は、異種配列から発現されたタンパク質である。
【0079】
異種遺伝子配列は、「発現ベクター」、好ましくは真核生物発現ベクター、なおさらに好ましくは哺乳動物発現ベクターを使用することによってターゲット細胞に導入することができる。ベクターを構築するために使用される方法は、当業者に周知であり、様々な刊行物に記載されている。特に、プロモーター、エンハンサー、終結及びポリアデニル化シグナル、選択マーカー、複製起点、及びスプライシングシグナルなどの機能的構成要素の記載を含む、適切なベクターを構築するための技法は、(Sambrook et al., 1989)及びそこに引用された参考文献にかなり詳細に概説されている。ベクターには、非限定的にプラスミドベクター、ファージミド、コスミド、人工/ミニ染色体(例えばACE)、又はバキュロウイルス、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、単純ヘルペスウイルス、レトロウイルス、バクテリオファージなどのウイルスベクターが含まれることがある。真核生物発現ベクターは、典型的には複製起点及び細菌での選択用の抗生物質抵抗性遺伝子などの、細菌におけるベクターの増殖を促進する原核生物配列も有するであろう。ポリヌクレオチドが作動可能に連結されうるクローニング部位を有する多様な真核生物発現ベクターは、当技術分野において周知であり、そのいくつかは、Stratagene, La Jolla, CA;Invitrogen, Carlsbad, CA;Promega, Madison, WI又はBD Biosciences Clontech, Palo Alto, CAなどの企業から市販されている。
【0080】
好ましい態様では、発現ベクターは、関心が持たれるペプチド/ポリペプチド/タンパク質をコードするヌクレオチド配列の転写及び翻訳に必要な調節配列である、少なくとも一つの核酸配列を含む。
【0081】
本明細書に使用されるような「発現」という用語は、ホスト細胞内の異種核酸配列の転写及び/又は翻訳を表す。ホスト細胞における関心がもたれる所望の産物/タンパク質の発現レベルは、この実施例のように、細胞内に存在する対応するmRNAの量又は選択された配列によってコードされる関心が持たれる所望のポリペプチド/タンパク質の量のいずれかをベースに決定することができる。例えば、選択された配列から転写されたmRNAは、ノーザンブロットハイブリダイゼーション、リボヌクレアーゼRNA保護、細胞性RNAとのin situハイブリダイゼーション又はPCRによって定量することができる。選択された配列によってコードされるタンパク質は、様々な方法、例えばELISA、ウエスタンブロット、ラジオイムノアッセイ、免疫沈降、タンパク質の生物学的活性のアッセイ、タンパク質の免疫染色に続くFACS分析又はホモジニアス時間分解蛍光(HTRF)アッセイによって定量することができる。
【0082】
遺伝的に改変された細胞又はトランスジェニック細胞を生じる、ポリヌクレオチド又は発現ベクターを用いた真核ホスト細胞の「トランスフェクション」は、当技術分野において周知の任意の方法によって行うことができる。トランスフェクション法には、非限定的にリポソーム介在トランスフェクション、リン酸カルシウム共沈、エレクトロポレーション、ポリカチオン(DEAE−デキストランなど)介在性トランスフェクション、プロトプラスト融合、ウイルス感染及びマイクロインジェクションが含まれる。好ましくは、トランスフェクションは安定トランスフェクションである。特定のホスト細胞系及び種類において異種遺伝子の最適なトランスフェクション頻度及び発現を提供するトランスフェクション法が、有利である。適切な方法は、常用の手順によって決定することができる。安定トランスフェクタントのために、構築物は、ホスト細胞内に安定的に維持されるようにホスト細胞のゲノムもしくは人工染色体/ミニ染色体に組み込まれるか、又はエピソームとして位置するかのいずれかである。
【0083】
本発明は、以下:
a. 細胞を提供すること、
b. 該細胞におけるリボソームRNAの量を増大させること、及び
c. タンパク質の発現が可能な条件で該細胞を培養すること
を含む、細胞におけるタンパク質、好ましくはリコンビナントタンパク質の発現を増大させる方法に関する。
【0084】
特定の態様では、ステップb)は、該ホスト細胞におけるリボソームRNA転写を、好ましくは該細胞におけるリボソームRNA遺伝子(rDNA)サイレンシングを低下させること(少なくとも1種のリボソームRNA遺伝子(rDNA)のエピジェネティック操作)によってアップレギュレーションすることを含む。
【0085】
本発明は、具体的には以下:
a. 細胞を提供すること、
b. 該細胞におけるリボソームRNAの量を、該細胞におけるリボソームRNA遺伝子(rDNA)のサイレンシングを低下させることによって増大させること、及び
c. タンパク質の発現が可能な条件で該細胞を培養すること
を含む、タンパク質を、好ましくはリコンビナントタンパク質の発現を増大させる方法に関する。
【0086】
具体的な態様では、ステップb)は、少なくとも1種のリボソームRNA遺伝子(rDNA)のエピジェネティック操作を含む。
【0087】
本発明は、好ましくは以下:
a. 細胞を提供すること、
b 該細胞におけるリボソームRNA遺伝子(rDNA)のサイレンシングを低下させること、及び
c. タンパク質の発現が可能な条件で該細胞を培養すること
を含む、細胞におけるタンパク質、好ましくはリコンビナントタンパク質の発現を増大させる方法に関する。
【0088】
本発明の特定の態様では、rDNAのサイレンシングが低下していない細胞に比べて該細胞においてリコンビナントタンパク質の発現が増大している。好ましくは、該増大は、20%〜100%、さらに好ましくは20%〜300%であり、最も好ましくは20%よりも大きい。
【0089】
本発明の方法のさらに特定の態様では、ステップb)は、核小体リモデリング複合体(NoRC)の構成要素のノックダウン又はノックアウトを含む。
【0090】
具体的には、ステップb)は、核小体リモデリング複合体(NoRC)の構成要素の発現を低下させることを含む。
【0091】
本発明の別の好ましい態様では、NoRC構成要素はTIP−5又はSNF2H、好ましくはTIP−5である。
【0092】
本発明の非常に好ましい態様は、TIP−5がノックアウトされている。
【0093】
本発明の別の態様では、SNF2Hがノックアウトされている。
【0094】
本発明の方法の特定の態様では、TIP−5がノックダウン又はノックアウトされており、ここで、TIP−5サイレンシングベクターは以下:
a. 配列番号1、配列番号2、配列番号8もしくは配列番号9記載のshRNA又は
b. 配列番号3、配列番号4、配列番号10もしくは配列番号11記載のmiRNA
を含む。
【0095】
本発明の最も好ましい態様では、TIP−5は、ステップb)においてノックダウンされる。
【0096】
本発明は、以下:
a. 細胞を提供すること、
b. 該細胞におけるリボソームRNAの量を増大させること、
c. 関心が持たれる該タンパク質の発現を可能にする条件で該細胞を培養すること
を含む、関心が持たれるタンパク質を生産する方法に関する。
【0097】
本発明の特定の態様では、その方法は、追加的に以下:
d. 関心が持たれる該タンパク質を精製すること
を含む。
【0098】
特定の態様では、ステップa)の細胞は、空のホスト細胞である。別の態様では、ステップa)の該細胞は、関心が持たれるタンパク質をコードする遺伝子を含むリコンビナント細胞である。
【0099】
さらに特定の態様では、ステップb)は、該細胞におけるリボソームRNA遺伝子(rDNA)のサイレンシングを低下させること(少なくとも1種のrDNAのエピジェネティック操作)によって、該細胞におけるリボソームRNAの量を増大させること(リボソームRNA転写をアップレギュレーションすること)を含む。
【0100】
本発明は、具体的には以下:
a. 細胞を提供すること、
b. 該細胞におけるリボソームRNA遺伝子(rDNA)のサイレンシングを低下させること(少なくとも1種のrDNAのエピジェネティック操作)、及び
c. 関心が持たれる該タンパク質の発現を可能にする条件で該細胞を培養すること
を含む、関心が持たれるタンパク質を生産する方法に関する。
【0101】
本発明のさらなる態様では、その方法は、追加的に以下:
d. 関心が持たれる該タンパク質を精製すること
を含む。
【0102】
特定の態様では、ステップb)は、核小体リモデリング複合体(NoRC)の構成要素のノックダウン又はノックアウトを含む。別の態様では、ステップb)は、核小体リモデリング複合体(NoRC)の構成要素の発現を低下させることを含む。
【0103】
本発明の非常に好ましい態様では、NoRC構成要素は、TIP−5又はSNF 2H、最も好ましくはTIP−5である。
【0104】
タンパク質を生産する上記方法の特定の態様では、TIP−5はノックダウン又はノックアウトされ、ここで、TIP−5サイレンシングベクターは、以下:
a. 配列番号1、配列番号2、配列番号8もしくは配列番号9記載のshRNA又は
b. 配列番号3、配列番号4、配列番号10又は配列番号11記載のmiRNA
を含む。
【0105】
本発明は、さらにまた以下:
a. 細胞を提供すること、
b. 該細胞におけるリボソームRNAの量を増大させること
を含む、好ましくはリコンビナント/異種タンパク質の生産のために、ホスト細胞を生成させる方法に関する。
【0106】
本発明は、具体的には以下:
a. 細胞を提供すること、
b. 該細胞におけるリボソームRNAの量を増大させること、
c. ホスト細胞を得ること
を含む、好ましくはリコンビナント/異種タンパク質の生産のために、ホスト細胞を生成させる方法に関する。
【0107】
本発明は、さらに以下:
a. 細胞を提供すること、
b. 該細胞におけるリボソームRNAの量を増大させること、
c. 単一細胞クローンを選択すること
を含む、好ましくはリコンビナント/異種タンパク質の生産のために、単一細胞クローンを生成させる方法に関する。
【0108】
本発明は、さらに以下:
a. 細胞を提供すること、
b. 該細胞におけるリボソームRNAの量を増大させること、
c. 単一細胞クローンを選択すること
を含む、好ましくはリコンビナント/異種タンパク質の生産のために、ホスト細胞系を生成させる方法に関する。
【0109】
本発明の特定の態様では、その方法は、追加的に以下:
d. 該単一細胞クローンからホスト細胞系を得ること
を含む。
【0110】
本発明は、さらに以下:
a. 細胞を提供すること、
b. 該細胞におけるリボソームRNAの量を増大させること、
c. モノクローナルホスト細胞系を選択すること
を含む、好ましくはリコンビナント/異種タンパク質の生産のために、モノクローナルホスト細胞系を生成させる方法に関する。
【0111】
上記方法の特定の態様では、ステップb)は、i)該細胞におけるリボソームRNA遺伝子(rDNA)のサイレンシングを低下させること(少なくとも1種のrDNAのエピジェネティック操作)によって、該細胞におけるリボソームRNAの量を増大させること(リボソームRNAの転写をアップレギュレーションすること)を含む。
【0112】
本発明は、具体的には以下:
a. 細胞を提供すること、
b. 該細胞におけるリボソームRNA遺伝子(rDNA)のサイレンシングを低下させること(少なくとも1種のrDNAのエピジェネティック操作)
を含む、好ましくはリコンビナント/異種タンパク質の生産のために、ホスト細胞(系)を生成させる方法に関する。
【0113】
場合により、該方法は、追加的に以下:
c. 単一細胞クローンを選択すること。
d. 好ましくは該方法は、追加的にホスト細胞(系)を得ることを含む
を含む。
【0114】
特定の態様では、ステップb)は、核小体リモデリング複合体(NoRC)の構成要素のノックダウン又はノックアウトを含む。別の態様では、ステップb)は、核小体リモデリング複合体(NoRC)の構成要素の発現を低下させることを含む。
【0115】
本発明の非常に好ましい態様では、NoRC構成要素はTIP−5又はSNF 2Hであり、最も好ましくはTIP−5である。
【0116】
ホスト細胞を生成させる上記方法の特定の態様では、TIP−5がノックダウン又はノックアウトされ、ここで、TIP−5サイレンシングベクターは、以下:
a. 配列番号1、配列番号2、配列番号8もしくは配列番号9記載のshRNA又は
b. 配列番号3、配列番号4、配列番号10もしくは配列番号11記載のmiRNA
を含む。
【0117】
本発明は、さらに上記方法のいずれかにより生成された細胞に関する。
【0118】
好ましくは、リコンビナントタンパク質の発現は、rDNAのサイレンシングが低下していない細胞に比べて該細胞において増大しており、好ましくは該増大は、20%〜100%、さらに好ましくは20%〜300%であり、最も好ましくは20%よりも大きい。
【0119】
好ましくは、該細胞又は上記方法のいずれかにおける細胞は、真核細胞、好ましくは哺乳動物、げっ歯類又はハムスター細胞である。好ましくは、該ハムスター細胞は、CHO−DG44、CHO−K1、CHO−S又はCHO−DUKX B11などのチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞であり、好ましくは該細胞はCHO−DG44細胞である。
【0120】
本発明は、さらに、好ましくは関心が持たれるタンパク質の生産のための該細胞の使用に関する。
【0121】
本発明は、さらに、以下:
a. 配列番号1、配列番号2、配列番号8もしくは配列番号9記載のshRNA、又は
b. 配列番号3、配列番号4、配列番号10もしくは配列番号11記載のmiRNA
を含むTIP−5サイレンシングベクターに関する。
【0122】
さらに、本発明は、TIP−5サイレンシングベクターを含む細胞に関する。好ましくはそのような細胞は、追加的に関心が持たれるタンパク質をコードする遺伝子を含む発現カセットを有するベクターを含む(有する)。
【0123】
本発明は、さらに、TIP−5がノックアウトされた細胞であって、場合により関心が持たれるタンパク質をコードする遺伝子を含む発現カセットを包含するベクターを含む細胞に関する。好ましくは、該ノックアウト細胞は、完全ノックアウトである。別の態様では、本発明は、TIP−5を欠失した細胞であって、場合により関心が持たれるタンパク質をコードする遺伝子を含む発現カセットを包含するベクターを含む細胞に関する。
【0124】
本発明は、さらに、TIP−5サイレンシングベクターを備えるキットに関する。好ましくはそのようなキットは、関心が持たれるタンパク質を製造するために使用される。好ましくはそのようなキットは、追加的に細胞(上記のようなホスト細胞)を備える。好ましくはそのようなキットは、上記のようなTIP−5ノックアウト細胞を備える。場合により該キットは、細胞培養培地及び/又はトランスフェクション剤を備える。
【0125】
本発明の実施は、特に示さない限り細胞生物学、分子生物学、細胞培養、免疫学などの当業者の技術の範囲内の従来技法を採用するであろう。これらの技法は、最新の文献に十分に開示されている。
【0126】
材料及び方法
プラスミド
pCMV−TAP−タグは、サイトメガロウイルス前初期プロモーターのコントロール下で転写されるTAP−タグ配列を有する。
【0127】
安定細胞系
NIH/3T3細胞に、H1プロモーターのコントロール下でshRNA
【0128】
【化1】
【0129】
配列を発現しているプラスミドを安定トランスフェクションする。
【0130】
転写されたshRNA配列は:shRNA
【0131】
【化2】
【0132】
である。
HEK293T及びCHO−K1細胞に、対照miRNA又は
【0133】
【化3】
【0134】
をターゲティングしているmiRNA配列を発現しているプラスミドをBlock−iT Pol II miR RNAiシステム(Invitrogen)に基づいて安定トランスフェクションする。感染は、製造業者の説明書にしたがって行う。感染の10日後に細胞を分析する。
【0135】
転写されたmiRNA配列は:miRNA
【0136】
【化4】
【0137】
である。
【0138】
転写分析
標準手順によるqRT−PCRによって、そしてUniversal Master mix(Diagenode)を使用して45SプレrRNA転写を測定する。マウス及びヒト45SプレrRNA及びGAPDHを検出するために使用されるプライマー配列は、以前に記載されている。
【0139】
CpGメチル化分析
マウス及びヒトrDNAのメチル化を前記のように測定する。CHO−K1細胞におけるrDNAメチル化分析のために使用されるプライマーは:
【0140】
【化5】
【0141】
である。
【0142】
BrUTPの取込み
BrUTP取込みのために、shRNA対照ならびにTIP5−1及びTIP5−2細胞を蒔いたカバーガラスを、10mM BrUTPを含有するKH緩衝液と共に10分間インキュベーションする。次に、BrUTP KH緩衝液を除去し、20% FCSを含有する成長培地中で細胞を30分間インキュベーションし、転写物をチェイス(chase)してから固定する。細胞を100%メタノール中で−20℃で20分間固定し、5分間風乾し、PBSで5分間再水和させる。次に、モノクローナル抗BrdU抗体(Sigma-Aldrich)を使用してBrUTPの取込みを検出する。
【0143】
成長曲線
6ウェルプレートのウェル1個あたり105個の細胞を蒔き、毎日細胞をトリプシン処理し、採取し、Casy(登録商標)細胞カウンター(Schaerfe System)で計数する。実験をウェル2組の重複で行い、2回繰り返す。
【0144】
ポリソームプロファイル
細胞をシクロヘキシミド(100μg/ml、10分間)で処理し、20mM Tris−HCl(pH7.5)、5mM MgCl2、100mM KCl、2.5mM DTT、100μg/mlシクロヘキシミド、0.5% NP40、0.1mg/mlヘパリン及び200U/ml RNAse阻害剤中で4℃で溶解させる。8000gで5分間遠心分離後に、上清を15%〜45%スクロース勾配にロードし、28000rpm、4℃で4時間遠心分離する。200μlの画分を採取し、個別の画分の吸光度を260nmで測定する。
【0145】
タンパク質の生産
構成的SEAP(pCAG−SEAP)又はルシフェラーゼ発現ベクター(pCMV−ルシフェラーゼ)のトランスフェクションの48時間後にタンパク質の生産を評価する。SEAP生産をp−ニトロフェニルリン酸(nitrophenyphospate)ベースの吸光度の経時変化によって測定する。製造業者の説明書(Applied biosystems、Tropix(登録商標)ルシフェラーゼアッセイキット)にしたがってルシフェラーゼのプロファイリングを行う。値を細胞数及びトランスフェクション効率に対して基準化する。GFP発現ベクター(GFP−C1、Clontech)をトランスフェクションされた細胞のフローサイトメトリー分析によってトランスフェクション効率を測定する。全ての実験を3組の重複で行い、3回繰り返す。
【0146】
懸濁細胞の細胞培養
生産及び開発規模で使用される全ての細胞系を、インキュベーター(Thermo, Germany)に入れた表面通気T−フラスコ(Nunc, Denmark)又は振盪フラスコ(Nunc, Denmark)中で、温度37℃で5% CO2含有雰囲気中で接種用保存継代培養物の状態で維持する。接種用保存培養物を細胞1〜3×105個/mLの播種密度で2〜3日毎に継代培養する。血球計数器を使用することによって、細胞濃度を全ての培養物において決定する。トリパンブルー排除法によって生存率を評価する。
【0147】
流加培養
125ml振盪フラスコに入れた、抗生物質もMTXも有さないBI専売の生産培地(Sigma-Aldrich, Germany)30mlに細胞を3×105個/mlで蒔く。培養物を37℃及び5% CO2中で120rpmで撹拌し、3日目以降はCO2を2%に低下させる。BI専売の流加液を毎日加え、必要に応じてpHをNaCO3を用いてpH7.0に調整する。CEDEX自動細胞定量システム(Innovatis)を使用して、トリパンブルー排除によって細胞密度及び生存率を決定する。
【0148】
抗体生産細胞の生成
IgG1型抗体の重鎖及び軽鎖をコードする発現プラスミドをCHO−K1又はCHO−DG44細胞(Urlaub et al., Cell 1983)に安定トランスフェクションする。発現プラスミドによってコードされるそれぞれの抗生物質の存在下でトランスフェクションされた細胞を培養することによって選択を実施する。約3週間選択した後で、安定な細胞集団を得て、2〜3日毎に継代培養しながら標準的な保存培養方式によりさらに培養する。次の(随意の)ステップでは、安定トランスフェクションされた細胞集団のFACSベースの単一細胞クローニングを実施して、モノクローナル細胞系を生成させる。
【0149】
リコンビナント抗体濃度の決定
トランスフェクションされた細胞におけるリコンビナント抗体生産を評価するために、3回の連続する継代の各継代の終了時に標準接種培養物から、細胞上清由来試料を採取する。次に、酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)によって産物濃度を分析する。ヒト−Fcフラグメントに対する抗体(Jackson Immuno Research Laboratories)及びHRPコンジュゲーション型ヒトκ軽鎖に対する抗体(Sigma)を使用して、分泌型モノクローナル抗体産物の濃度を測定する。
【0150】
実施例
実施例1:TIP−5のノックダウン
リコンビナントタンパク質の合成増大のために細胞を操作することを目指して、本発明者らは、サイレントなrRNA遺伝子の数の減少が45SプレrRNA合成を高め、その結果としてリボソームバイオジェネシスも刺激し、翻訳コンピテントリボソームの数を増大させるかどうかを判定する。したがって、本発明者らは、TIP5の発現をノックダウンするRNA干渉を使用し、二つの異なる領域のTIP5(TIP5−1及びTIP5−2)に特異的なshRNA/miRNA配列を使用して、安定なトランスジェニックshRNA発現NIH/3T3又はmiRNA発現HEK293T及びCHO−K1を構築した。スクランブル設計したshRNA配列及びmiRNA配列を発現している安定細胞系を対照として使用する。shRNA−TIP5配列又はmiRNA−TIP5配列を発現しているプラスミドの一過性トランスフェクションを行うことよりもむしろ安定細胞系を生産させることには二つの理由がある。第一に、CpGメチル化のような抑制的なエピジェネティックマークの消失は、複数の細胞分裂を必要とする受動的なメカニズムである。第二に、たとえHEK293T細胞を比較的容易にトランスフェクションすることができるとしても、NIH/3T3及びCHO−K1細胞の低いトランスフェクション効率は、内因性rRNA、リボソームレベル及び細胞成長の性質のその後の分析を損なうであろう。選択されたクローンにおけるTIP5ノックダウンの効率を決定するために、本発明者らは、定量及び半定量逆転写酵素介在性PCRによってTIP5 mRNAレベルを測定する(図1)。TIP5の発現は、対照細胞に比べてNIH/3T3/shRNA−TIP5−1及びNIH/3T3/shRNA−TIP5−2細胞の方が約70〜80%減少する(図1A)。TIP5 mRNAレベルにおける類似の低下が安定なHEK293Tで観察される(図1B)。CHO−K1由来細胞におけるTIP5 mRNAレベルは、半定量PCRによってのみ測定することができる(図1C)が、TIP5 mRNAの低下は、安定なNIH/3T3細胞及びHEK293T細胞に類似している。これらの結果は、樹立細胞系が低レベルのTIP5を含有することを実証している。
【0151】
実施例2:TIP−5のノックダウンはrDNAメチル化の低下へと導く
NIH/3T3細胞において、約40%〜50%のrRNA遺伝子がCpG−メチル化配列を有し、転写的にサイレントである。ヒト、マウス及びチャイニーズハムスターにおけるrDNAプロモーターの配列及びCpG密度は顕著に異なる。ヒトでは、rDNAプロモーターは23個のCpGを有し、一方マウス及びチャイニーズハムスターではそれぞれ3個及び8個のCpGがある(図2A〜C)。TIP5のノックダウンがrDNAのサイレンシングに影響することを検証するために、本発明者らは、CCGG配列におけるmeCpGの量を測定することによってrDNAメチル化のレベルを決定する。ゲノムDNAをHpaIIで消化し、消化に対する抵抗性(すなわちCpGメチル化)を、HpaII配列(CCGG)を包含するプライマーを使用する定量リアルタイムPCRによって測定する。全てのTIP5ノックダウン細胞系における大部分のrRNA遺伝子のプロモーター領域内にCpGメチル化の減少があり、rDNAサイレンシングの促進に果たすTIP5の重要な役割を強調している(図2)。
【0152】
特に、TIP5の結合及びde novoメチル化はrDNAプロモーター配列に限定されるものの、TIP−5低下NIH3T3細胞におけるCpGメチル化の量は、rDNA遺伝子全体(遺伝子内領域、プロモーター領域及びコード領域;図2D、E)にわたり減少し、TIP5がいったんrDNAプロモーターに結合すると、rDNAローカスに全体にサイレントなエピジェネティックのマークを樹立する拡散メカニズムを開始することを示している。
【0153】
実施例3:TIP−5ノックダウン細胞におけるrRNAレベルの増大
サイレントな遺伝子数の減少がrRNA転写物の量に影響するかどうかを判定するために、本発明者らは、第一rRNAプロセシング部位(図3A)を包含したプライマーを使用するqRT−PCR及びin vivo BrUTP取込み(図3B)によって、45SプレrRNA合成を測定する。予想通り、両方の分析によって、TIP5枯渇NIH/3T3細胞及びTIP5枯渇HEK293T細胞の両方において、対照細胞系に比べてrRNA生産の強化が検出される。
【0154】
実施例4:TIP−5の枯渇は増殖及び細胞成長の増大へと導く
Rasは、ヒトのガンで多くの場合に突然変異又は過剰発現している、細胞トランスフォーメーション及び腫瘍形成に関与する周知のガン遺伝子である。Greenら、2009;国際公開公報第2009/017670号は、包括的miRNA選別からTIP−5がFasのRas介在性エピジェネティックサイレンシングエフェクター(RESE)として機能することを確認したと記載している。その公報は、TIP−5などのRasエフェクターの発現低下が細胞増殖阻害を招くことを記載している。
【0155】
本発明者らは、フローサイトメトリー(FACS)によって両方のshRNA−TIP5細胞を分析する。図4A、Bに示すように、S期の細胞数は、対照細胞に比べて両方のshRNA−TIP5細胞の方が顕著に高い。TIP5配列に対するmiRNAを発現しているレトロウイルスを感染させた10日後のNIH3T3細胞から、類似のプロファイルが得られる。これらの結果に一致して、shRNA TIP5細胞は、新生DNAへの5−ブロモデオキシウリジン(BrdU)の取込み増大及びさらに高レベルのサイクリンAを示す(図4C)。
【0156】
最終的に本発明者らは、shRNA−TIP5、shRNA対照及び親のNIH3T3、HEK293及びCHO−K1細胞の間で細胞増殖速度を比較する(図4D〜F)。驚くことに、そして先行技術の報告と対照的に、miRNA−TIP5配列を発現しているNIH/3T3細胞及びCHO−K1細胞の両方が、対照細胞よりも速い速度で増殖し、サイレントなrRNA遺伝子の数の減少が実際に細胞代謝に影響を有することを示唆している。HEK293TにおけるTIP5枯渇は、あまり細胞増殖に影響しない。それは、これらの細胞がすでにその最大増殖速度に達していたからである。これらのデータは、驚くことにTIP5の枯渇及びその結果のrDNAサイレンシングの減少が細胞増殖を高めることを示す。
【0157】
実施例5:TIP−5ノックダウン細胞におけるリボソーム分析
哺乳動物細胞培養において、タンパク質合成速度は、産物の収量に直接関係する重要なパラメーターである。TIP5の枯渇及び結果としてのrDNAサイレンシングの減少が細胞における翻訳コンピテントなリボソーム数を増大させるかどうかを判定するために、本発明者らは、最初、細胞質rRNAレベルを測定する。細胞質において、大部分のRNAは、リボソームに集合したプロセシング済みrRNAから成る。図5A〜Cに示すように、全てのTIP5枯渇細胞系は、細胞あたり、より多くの細胞質RNAを含有し、これらの細胞がより多くのリボソームを生産することを示している。また、ポリソームプロファイルの分析は、TIP5枯渇HEK293細胞及びTIP5枯渇CHO−K1細胞が対照細胞に比べて多くのリボソームサブユニット(40S、60S及び80S)を含有することを示す(図5D)。
【0158】
実施例6:TIP−5のノックダウンはレポータータンパク質の生産強化へと導く
TIP5の枯渇及びrDNAサイレンシングの減少が異種タンパク質の生産を高めるかどうか判定するために、本発明者らは、安定なTIP5枯渇NIH/3T3、HEK293T及びCHO−K1誘導体に、ヒト胎盤分泌型アルカリホスファターゼSEAP又はルシフェラーゼの構成的発現を促進する発現ベクター(それぞれpCAG−SEAP;図6A〜C又はpCMV−ルシフェラーゼ;図6D、E)をトランスフェクションする。48時間後のタンパク質生産の定量から、対照細胞に比べてTIP5枯渇細胞の方がSEAP及びルシフェラーゼの両方の生産が2〜4倍に増大することが明らかとなり、TIP5の枯渇が異種タンパク質の生産を増大させることを示している。これら結果の全ては、サイレントなrRNA遺伝子の数の減少が、リボソーム合成を高め、細胞がリコンビナントタンパク質を生産する能力を増大させることを示す。
【0159】
実施例7:TIP−5のノックアウトは単球走化性タンパク質1(MCP−1)のバイオ医薬品生産を増大させる
(a)単球走化性タンパク質1(MCP−1)を分泌しているCHO細胞系(CHO DG44)に、空のベクター(疑似対照)又はTIP−5の発現をノックダウンするように設計された小RNA(shRNA又はRNAi)をトランスフェクションする。続いて、細胞を選択に供し、安定な細胞プールを得る。続く6回の継代の間に、疑似細胞プール及びTIP−5枯渇安定細胞プールの両方の接種用保存培養物から上清を採取し、ELISAによってMCP−1力価を決定し、平均細胞数で除算し、比生産性を計算する。最高のMCP−1力価は、最も効率的にTIP−5を枯渇した細胞プールで認められ、一方でタンパク質濃度は、疑似トランスフェクション細胞又は親細胞系の方が顕著に低い。
【0160】
b)CHOホスト細胞(CHO DG44)に最初に短いRNA配列(shRNA又はRNAi)をトランスフェクションし、TIP−5の発現を低下させ、安定なTIP−5枯渇ホスト細胞系を生成させる。続いてこれらの細胞系及び並行してCHO DG44野生型細胞に、関心が持たれる遺伝子として単球走化性タンパク質1(MCP−1)をコードするベクターをトランスフェクションする。2ラウンドの選択後に、その後4回の継代期間にわたり全ての安定な細胞プールの接種用保存培養物から上清を採取し、MCP−1力価をELISAによって決定し、平均細胞数で除算し、比生産性を計算する。最高のMCP−1力価及び生産性は、最も効率的にTIP−5を枯渇した細胞プールで認められ、一方でタンパク質濃度は、疑似トランスフェクション細胞又は親細胞系の方が顕著に低い。
【0161】
c)a)又はb)に記載されたまさにその細胞を回分発酵又は流加発酵に供する場合、全体的なMCP−1力価の差はなおいっそう顕著になる。TIP−5の発現が低下した、トランスフェクションされた細胞が細胞及び時間あたり、より速く成長し、より多くのタンパク質も生産することから、それらはより高いIVCを示し、同時により高い生産性を示す。両方の性質は、全体的なプロセス収量に正の影響を与える。したがって、TIP−5欠失細胞は、顕著に高いMCP−1収集物力価を有し、より効率的な生産プロセスへと導く。
【0162】
実施例8:TIP−5遺伝子のノックアウトはrRNAの転写を増大させ増殖を最も効率的に高める
TIP−5の発現が常に低下したレベルの、改良された生産ホスト細胞系を生成させる最も効率的な方法は、TIP−5遺伝子の完全ノックアウトを生成させることである。このために、TIP−5遺伝子を破壊してその発現を阻止するために相同組換えを使用するか、又はジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)技法を採用するかのいずれかを行うことができる。相同組換えはCHO細胞において効率的ではないことから、本発明者らは、TIP−5遺伝子内に二本鎖切断を導入することによりそれを機能的に破壊するZFNを設計する。TIP−5の効率的なノックアウトを確認するために、抗TIP−5抗体を使用してウエスタンブロットを行う。TIP−5ノックアウト細胞では膜上にTIP−5の発現は検出されず、親CHO細胞系は、TIP−5タンパク質に対応する明瞭なシグナルを示す。
【0163】
次に、TIP−5ノックアウトCHO細胞及び親CHO細胞系においてrRNA転写を分析する。このアッセイは、両方の親細胞に比べて、そしてまたTIP−5発現レベルだけが低下した細胞に比べて、TIP−5ノックアウト細胞の方が高いレベルのrRNA合成及び増大したリボソーム数であることを確認する。
【0164】
さらに、TIP5野生型細胞及びTIP−5の発現だけが干渉性RNA(shRNA又はRNAiなど)の誘導によって低下した細胞系に比べて、TIP−5欠損細胞の方が流加プロセスにおいて速く増殖し、高い細胞数を示す。
【0165】
実施例9:TIP−5枯渇細胞における治療用抗体の生産強化
(a)ヒトIgGサブタイプモノクローナル抗体を分泌しているCHO細胞系(CHO DG44)に空のベクター(模擬対照)又はTIP−5発現をノックダウンするように設計された小RNA(shRNA又はRNAi)をトランスフェクションする。続いて細胞を選択に供し、安定な細胞プールを得る。又は、TIP−5遺伝子の欠失(ノックアウト)によってTIP−5を枯渇させる。続く6回の継代の間に、疑似細胞プール及びTIP−5枯渇安定細胞プールの両方の接種用保存培養物から上清を採取し、抗体力価をELISAによって決定し、細胞の平均数で除算し、比生産性を計算する。最高のIgG力価をTIP−5枯渇細胞の培養物から測定し、一方でタンパク質濃度は、疑似トランスフェクションされた細胞又は親細胞系の方が顕著に低い。
【0166】
b)TIP−5配列にハイブリダイゼーションする短いRNA配列(shRNA又はRNAi)のトランスフェクション又はTIP−5遺伝子の安定ノックアウトのいずれかによって、CHOホスト細胞(CHO DG44)からTIP−5を枯渇させる。続いてこれらの細胞系及び並行してCHO DG44野生型細胞に、関心が持たれる遺伝子として抗体の重鎖及び軽鎖をコードする発現構築物をトランスフェクションする。安定トランスフェクションされた細胞集団を生成させ、その後4回の継代期間にわたり全ての安定細胞プールの接種保存培養物から上清を採取する。培養上清中の抗体濃度をELISAによって決定し、平均細胞数で除算し、比生産性を計算する。TIP−5枯渇細胞から得られた細胞プールは、顕著に低いIgG量を生産する疑似対照及び親の非改変DG44細胞系に比べて最高の抗体力価及び生産性を示す。
c)a)又はb)に記載されたその細胞が回分発酵又は流加発酵に供される場合、抗体力価全体における差は、なおいっそう顕著になる:TIP−5枯渇細胞は、細胞及び時間あたりより速く成長し、より多くのタンパク質も生成することから、それらは、より高いIVCを示し、同時により高い生産性を示す。両方の性質は、全体的なプロセス収量に正の影響を与える。したがって、TIP−5枯渇細胞は、顕著に高いIgG収集物力価を有し、より効率の高い生産プロセスへと導く。
【0167】
実施例10:タンパク質の生産増大及び細胞成長の改良へと導くSNF2Hのノックダウン
(a)ヒトモノクローナルIgGサブタイプ抗体を分泌しているCHO細胞系(CHO DG44)に空のベクター(疑似対照)又はSNF2Hの発現をノックダウンするように設計された小RNA(shRNA又はRNAi)をトランスフェクションする。続いて細胞を選択に供し、安定な細胞プールを得る。又は、SNF2H遺伝子の欠失/破壊によってSNF2Hを枯渇させる(ノックアウト)。続く6回の継代の間に、疑似細胞プール及びSNF2H枯渇安定細胞プールの両方の接種用保存培養物から上清を取り出し、ELISAによって抗体力価を決定し、平均細胞数で除算して比生産性を計算する。SNF2H枯渇細胞の培養物から最高のIgG力価を測定するが、タンパク質濃度は、疑似トランスフェクションされた細胞又は親細胞系の方が顕著に低い。
【0168】
b)SNF2H配列にハイブリダイゼーションする短鎖RNA配列(shRNA又はRNAi)のトランスフェクション又はSNF2H遺伝子の安定ノックアウトのいずれかによって、CHOホスト細胞(CHO DG44)からSNF2Hを枯渇させる。続いてこれらの細胞系及び並行してCHO DG44野生型細胞に、関心が持たれるタンパク質として抗体の重鎖及び軽鎖をコードする発現構築物をトランスフェクションする。安定的にトランスフェクションされた細胞集団を生成させ、その後4回の継代期間にわたり全ての安定細胞プールの接種用保存培養物から上清を取り出す。培養上清中の抗体濃度をELISAによって決定し、平均細胞数で除算し、比生産性を計算する。SNF2H枯渇細胞から得られた細胞プールは、顕著に低いIgG量を生産する疑似対照及び親の非改変DG44細胞系に比べて最高の抗体力価及び生産性を示す。
【0169】
c)a)又はb)に記載されたその細胞が回分発酵又は流加発酵に供される場合、抗体力価全体における差は、なおいっそう顕著になる。SNF2H枯渇細胞は、細胞及び時間あたりより速く成長し、より多くのタンパク質も生成することから、それらは、より高いIVCを示し、同時により高い生産性を示す。両方の性質は、全体的なプロセス収量にプラスの影響を有する。したがって、SNF2H枯渇細胞は、顕著に高いIgG収集物力価を有し、より効率の高い生産プロセスへと導く。
【0170】
【表2】
【技術分野】
【0001】
発明の背景
技術分野
本発明は、細胞培養技法の分野に関する。それは、NoRCタンパク質、特にTIP−5の発現低下により達成されたリボソームRNA(rRNA)の発現増大を有する生産ホスト細胞系に関する。それらの細胞系は、対照細胞系に比べて改良された分泌特性及び成長特性を有する。
【0002】
背景
哺乳動物高生産細胞系の選択は、バイオ医薬品製造工業にとって相変わらず大きな課題である。DNAから産物翻訳までの途中に哺乳動物生産細胞系の比生産性を限定しうる大きなボトルネックがある。既存のリボソームの翻訳効率を上げること又は新しいリボソーム生産(リボソームのバイオジェネシス)により翻訳能力を高めることのいずれかによって、細胞はタンパク質の合成速度をアップレギュレーションすることができる。合計核転写の約80%がリボソームRNA(rRNA)の合成専用であることから、リボソームのバイオジェネシスは、哺乳動物細胞の主要な代謝活性の一つである。リボソームの集合は、核小体の中で起こり、4種のrRNA(その後18S、5.8S、28Sにプロセシングされる45SプレrRNA、及び5S rRNA)及び約80種のリボソームタンパク質(r−タンパク質)の調和した発現を必要とする。45SプレrRNAはポリメラーゼI(Pol I)によって核小体内で転写され、5S RNAは核小体周辺でPol IIIによって転写され、次に核小体に搬入され、そしてr−タンパク質はPol IIによって転写される。したがって、リボソームのバイオジェネシスは異なる区画において作動する、異なるポリメラーゼによる転写の編成を必要とする。哺乳動物細胞において、これらの過程は大部分が未知である(Santoro,R. and Grummt,I. (2001). Molecular mechanisms mediating methylation-dependent silencing of ribosomal gene transcription. Mol Cell 8, 719-725)。
【0003】
45SプレrRNAの転写は、リボソームバイオジェネシスの重要なステップである。哺乳動物半数体ゲノムは、約200個のリボソームRNA遺伝子を含み、その一部だけが任意の与えられた時間に転写され、残りはサイレントなままである(Santoro,R., Li,J., and Grummt,I. (2002). The nucleolar remodeling complex NoRC mediates heterochromatin formation and silencing of ribosomal gene transcription. Nat Genet. 32, 393-396)。活性遺伝子及びサイレントな遺伝子は、クロマチン配置に関して異なり:活性遺伝子は真正染色質の構造を有するが、サイレントな遺伝子は異質染色質である。活性rRNA遺伝子のプロモーターはCpGメチル化を有さず、アセチル化ヒストンと結合している。サイレントな遺伝子には正反対のことが当てはまる。
【0004】
転写的にサイレントなrRNA遺伝子の存在は、rRNAの合成及びリボソーム生産のための制限因子に相当する。細胞は、各遺伝子の転写活性を変更することによって、かつ/又は活性遺伝子の数を変更することによってrDNAの転写レベルをモデュレーションすることができると仮定されている。しかし、45SプレrRNAの合成レベルとrRNA遺伝子数との間に満足な関係は見出されていない。例えば、S. cerevisiaeでは、rRNA遺伝子数を約3分の2だけ減少させても合計rRNA生産に影響しなかった。同様に、異なる数のrRNAコピーを有するトウモロコシ近交系及び異数体ニワトリ細胞は、同レベルのrRNA転写を示した。
【0005】
rDNAはリボソームの主要構成要素に相当することから、これらの遺伝子のサイレンシングは、リボソームのバイオジェネシスを制限する結果としてタンパク質翻訳に制限を招き、したがって最終的にタンパク質合成の低下につながる。
【0006】
バイオ医薬品生産細胞において、これは、細胞の全生産能力に制限を生み出すものであり、治療用タンパク質生産の比生産性の低下を意味する。その結果、工業生産プロセスではそれが全体的なタンパク質収量の減少につながるであろう。
【0007】
比生産性(Pspec)に次いでプロセス収量(Y)を決定する他の因子は、所望のタンパク質を生産する生存細胞の時間積分であるIVCである。この関係は、次式:Y=Pspec×IVCによって表される。したがって、細胞成長を改良することによりホスト細胞の生産能力もしくはバイオリアクター中の生存細胞密度のいずれかを増大させる、又は理想的には両パラメーターを同時に増大させる、差し迫った必要がある。
【0008】
発明の概要
本発明は、上記問題を解決するものであり、NoRC(核小体リモデリング複合体;McStay,B. and Grummt,I. (2008). The epigenetics of rRNA genes: from molecular to chromosome biology. Annu. Rev Cell Dev. Biol 24, 131-157)の一サブユニットであるTIP−5のノックダウンがサイレントなrRNA遺伝子の数を減少させ、rRNAの転写をアップレギュレーションし、リボソーム合成を高め、リコンビナントタンパク質の生産を増大させることを示す。
【0009】
本出願のデータは、転写的にコンピテントなrRNA遺伝子の数がリボソームの合成を限定することを実証している。リボソームRNA遺伝子のエピジェネティク操作は、バイオ医薬品の製造を改良するための新たな可能性を与え、翻訳機構を支配する複雑なレギュレーションネットワークに新規な洞察を提供する。
【0010】
本出願は、TIP−5のノックダウンがrDNAリピートでの抑制性クロマチンマークの消失を誘導し、rDNAの転写を高め、核小体の構造を変更し、細胞の成長及び増殖を促進することを示す。
【0011】
活性rRNA遺伝子の数を増大させることが細胞の成長及び増殖に影響するかどうかを判定するために、本発明者らは、フローサイトメトリー(FACS)によっていくつかのshRNA−TIP5細胞を分析した。
【0012】
驚くべきことに初めて本発明者らは、本出願においてサイレントなrRNA遺伝子の数の操作された減少が、rRNA及びリボソームの生産強化と、そして結果として哺乳動物細胞のさらに高い生産性と関係しうることを示す。
【0013】
予想外に本出願は、異なる哺乳動物細胞系におけるTIP−5のノックダウンがより速い細胞周期の進行及び細胞増殖の増大へと導くことを示すデータを追加的に提供する。
【0014】
この結果は、先行技術(国際公開公報第2009/017670号)に記載されたものと対照的である。以前にTIP−5は、包括的miRNA選別においてFasに関するRas介在性エピジェネティックサイレンシングエフェクター(RESE)として機能することが同定されている(国際公開公報第2009/017670号)。Rasは、細胞トランスフォーメーション及び腫瘍形成に関与する周知のガン遺伝子であり、ヒトのガンでしばしば突然変異又は過剰発現される。したがって、先行技術は、TIP−5などのRasエフェクター上の発現減少が細胞増殖の阻害を招くことを主張している。
【0015】
これを検証するために、本発明者らは、フローサイトメトリー(FACS)によって両方のshRNA−TIP5細胞を分析する。しかしながら図4A、Bに示すように、S期におけるshRNA−TIP−5細胞数は、対照細胞よりもshRNA−TIP5細胞の方が顕著に高い。これらの結果に一致して、shRNA TIP5細胞は、新生DNAへの5−ブロモデオキシウリジン(BrdU)の取込み増大及びより高レベルのサイクリンAを示す(図4C)。
【0016】
追加的に本発明者らは、shRNA−TIP5、shRNA対照及び親のNIH3T3及びCHO−K1細胞の間で細胞増殖速度を比較する(図4D、F)。驚くことに、そして先行技術の報告とは対照的に、miRNA−TIP5配列を発現しているNIH/3T3細胞及びCHO−K1細胞の両方が、対照細胞よりも速い速度で増殖する。したがって、サイレントなrRNA遺伝子の数の減少は、細胞代謝に影響を及ぼす。本発明は、驚くことにTIP5の枯渇及び結果としてのrDNAサイレンシングの減少が細胞増殖を高めることを示す。
【0017】
本出願は、対照細胞系に比べてTIP5枯渇細胞の方が、タンパク質生産が顕著に増大することを実証する(実施例6、図6参照)。TIP5枯渇細胞におけるタンパク質生産増大は、対照細胞系に比べて2倍よりも大きい、4倍よりも大きい、5倍よりも大きい、6倍よりも大きい、10倍よりも大きい、又は2〜10倍である。これらのデータは、TIP5の枯渇が異種タンパク質の生産を増大させることを示す。本出願は、サイレントなrRNA遺伝子の数の減少がリボソーム合成を高め、細胞のリコンビナントタンパク質生産能力を増大させることを示す。
【0018】
本発明において本発明者らは、最終的にリコンビナントタンパク質の分泌を高める利点を有する、TIP−5低下によりrRNA転写、リボソームバイオジェネシス及び翻訳を増大させる新しい方法を提供する。
【0019】
さらに本発明者らは、TIP−5の枯渇がより速い細胞周期の進行及び改良された細胞成長へと導くことを実証する。
【0020】
細胞成長の強化は、バイオ医薬品の生産プロセスの複数局面に大きな影響を及ぼす:
− 細胞系の発達における時間の短縮を招く、より短い細胞世代時間。世代時間は、好ましくは24時間、好ましくは20〜24時間、さらに好ましくは15〜24時間又は15〜22時間、最も好ましくは10〜24時間である。
− 単一細胞クローニング後のより高い効率及びその後のより速い成長。
− 特に大規模バイオリアクターに接種する場合に、より短いスケールアップ時間。
− IVCと産物収量との間の比例関係が原因の、より高い発酵時間あたりの産物収量。逆に低いIVCは、より低い収量及び/又はより長い発酵時間を引き起こす。収量は、好ましくは10%、より好ましくは20%、最も好ましくは30%増大する。
【0021】
これは、真核細胞ベースの生産プロセスにおいてタンパク質の収量増大を容易にする。それによって、そのようなプロセスの製品コストが減少し、それと同時に治療用タンパク質の研究調査、診断、臨床試験又は市場供給に必要なバッチ数が減少する。さらに、多くの場合に前臨床試験に十分な量の製品を生成させることがスケジュールについて重大なワークパッケージであることから、本発明は薬開発をスピードアップする。
【0022】
本発明は、診断目的、研究目的(ターゲットの同定、先導物の同定、先導物の最適化)又は市販されているもしくは臨床開発中の治療用タンパク質を製造するためのいずれかの1種又は数種の特異的タンパク質を生成させるために使用される全ての真核細胞の性質を強めるために使用することができる。
【0023】
本発明によって提供される細胞系/ホスト細胞は、真核細胞ベースの生産プロセスにおいてタンパク質の収量を増大させることに役立つ。これは、そのようなプロセスの製品コストを低下させ、同時に治療用タンパク質の研究調査、診断、臨床試験又は市場供給に必要な材料を生成させるために生産する必要のあるバッチ数を低下させる。
【0024】
さらに、多くの場合に前臨床試験に十分な量の材料を生成させることがスケジュールについて重大なワークパッケージであることから、本発明は薬開発をスピードアップする。
【0025】
TIP−5の発現が低下した、最適化されたホスト細胞系を、診断目的、研究目的(ターゲットの同定、先導物の同定、先導物の最適化)又は市販されているもしくは臨床開発中のいずれかの治療用タンパク質を製造するためのいずれかの1種又は数種の特異的タンパク質を生成させるために使用することができる。
【0026】
同じ分泌経路を共有し、脂質小胞の中に等しく輸送される分泌型又は膜結合型タンパク質(表面レセプター、GPCR、メタロプロテアーゼ又はレセプターキナーゼなど)を発現又は生産するために、それらは等しく適用可能である。次にそれらのタンパク質は、細胞表面レセプターの機能を特徴づけることを目指す研究目的に、例えば表面タンパク質の生産及びその後の精製、結晶化及び/又は分析のために使用することができる。細胞表面レセプターが主要なクラスの薬物ターゲットであることから、これは、新しいヒト薬物療法を開発するために決定的に重要である。さらにこれは、細胞表面レセプターに関連する細胞内シグナル伝達複合体の研究のために、又は可溶性成長因子と、同じ細胞もしくは別の細胞上のそれらの対応するレセプターとの相互作用によって部分的に仲介される細胞間コミュニケーションの分析のために有利である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1A】げっ歯類及びヒト細胞系におけるTIP−5のノックダウンを示す図である。(A)shRNA−TIP5−1及びTIP5−2配列を安定発現しているNIH/3T3細胞ならびに(B)miRNA−TIP5−1及びTIP5−2配列を安定発現しているHEK293T細胞のTIP5 mRNAのqRT−PCR。データをGAPDH mRNAレベルに対して基準化する。
【図1B】げっ歯類及びヒト細胞系におけるTIP−5のノックダウンを示す図である。(A)shRNA−TIP5−1及びTIP5−2配列を安定発現しているNIH/3T3細胞ならびに(B)miRNA−TIP5−1及びTIP5−2配列を安定発現しているHEK293T細胞のTIP5 mRNAのqRT−PCR。データをGAPDH mRNAレベルに対して基準化する。
【図1C】げっ歯類及びヒト細胞系におけるTIP−5のノックダウンを示す図である。(C)安定なshRNA−TIP5−1/2 NIH/3T3、miRNA−TIP5−1/2 HEK293T及びmiRNA−TIP5−1/2 CHO−K1細胞のTIP5 mRNAの半定量RT−PCR。対照として、GAPDH mRNAのqRT−PCRを示す。
【図2A】TIP−5のノックダウンは、rDNAメチル化の低下へと導くことを示す図である。(A〜C)TIP5の枯渇は、rDNAプロモーターのCpGメチル化を減少させる。上欄:分析されたHpaII(H)部位を含む、(A)マウス、(B)ヒト及び(C)チャイニーズハムスターのrDNAプロモーター領域の略図。黒丸はCpGジヌクレオチドを示す。矢印は、HpaIIで消化されたDNAを増幅するために使用されたプライマーを表す。下欄:shRNA−TIP5−1/2及び/又はmiRNA TIP5−1/2及び対照配列を安定発現している(A)NIH/3T3、(B)HEK293T及び(C)CHO−K1細胞からrDNA CpGのメチル化レベルを測定する。データは、HpaII部位を欠如するDNA配列を包含するプライマー及び未消化のDNAを用いた増幅により計算された、合計rDNAに対して基準化されたHpaII抵抗性rDNAの量を表す。
【図2B】TIP−5のノックダウンは、rDNAメチル化の低下へと導くことを示す図である。(A〜C)TIP5の枯渇は、rDNAプロモーターのCpGメチル化を減少させる。上欄:分析されたHpaII(H)部位を含む、(A)マウス、(B)ヒト及び(C)チャイニーズハムスターのrDNAプロモーター領域の略図。黒丸はCpGジヌクレオチドを示す。矢印は、HpaIIで消化されたDNAを増幅するために使用されたプライマーを表す。下欄:shRNA−TIP5−1/2及び/又はmiRNA TIP5−1/2及び対照配列を安定発現している(A)NIH/3T3、(B)HEK293T及び(C)CHO−K1細胞からrDNA CpGのメチル化レベルを測定する。データは、HpaII部位を欠如するDNA配列を包含するプライマー及び未消化のDNAを用いた増幅により計算された、合計rDNAに対して基準化されたHpaII抵抗性rDNAの量を表す。
【図2C】TIP−5のノックダウンは、rDNAメチル化の低下へと導くことを示す図である。(A〜C)TIP5の枯渇は、rDNAプロモーターのCpGメチル化を減少させる。上欄:分析されたHpaII(H)部位を含む、(A)マウス、(B)ヒト及び(C)チャイニーズハムスターのrDNAプロモーター領域の略図。黒丸はCpGジヌクレオチドを示す。矢印は、HpaIIで消化されたDNAを増幅するために使用されたプライマーを表す。下欄:shRNA−TIP5−1/2及び/又はmiRNA TIP5−1/2及び対照配列を安定発現している(A)NIH/3T3、(B)HEK293T及び(C)CHO−K1細胞からrDNA CpGのメチル化レベルを測定する。データは、HpaII部位を欠如するDNA配列を包含するプライマー及び未消化のDNAを用いた増幅により計算された、合計rDNAに対して基準化されたHpaII抵抗性rDNAの量を表す。
【図2D】TIP−5のノックダウンは、rDNAメチル化の低下へと導くことを示す図である。(D、E)TIP5の枯渇はrDNA CpGのメチル化レベルを減少させる。(A)rDNAの遺伝子間領域及び転写開始部位(+1)を含むプロモーター領域ならびに(B)コード領域内の二つの領域を分析する。単一のマウスrDNAリピート及び分析されたHpaII(H)部位を表す模式図。矢印は、HpaII消化されたDNAを増幅するために使用されたプライマーを表す。データは、HpaII部位を欠如するDNA配列を包含するプライマー及び未消化のDNAを用いた増幅により計算された、合計rDNAに対して基準化されたHpaII抵抗性rDNAの量を表す。
【図2E】TIP−5のノックダウンは、rDNAメチル化の低下へと導くことを示す図である。(D、E)TIP5の枯渇はrDNA CpGのメチル化レベルを減少させる。(A)rDNAの遺伝子間領域及び転写開始部位(+1)を含むプロモーター領域ならびに(B)コード領域内の二つの領域を分析する。単一のマウスrDNAリピート及び分析されたHpaII(H)部位を表す模式図。矢印は、HpaII消化されたDNAを増幅するために使用されたプライマーを表す。データは、HpaII部位を欠如するDNA配列を包含するプライマー及び未消化のDNAを用いた増幅により計算された、合計rDNAに対して基準化されたHpaII抵抗性rDNAの量を表す。
【図3A】TIP−5ノックダウン細胞におけるrRNAレベルの増大を示す図である。(A)TIP5の枯渇はrRNAの合成を高める。安定なNIH/3T3及びHEK293T細胞系のqRT−PCRベースの45SプレrRNAレベルをGAPDH mRNAレベルに対して基準化する。
【図3B】TIP−5ノックダウン細胞におけるrRNAレベルの増大を示す図である。(B)rDNA転写を同じ曝露時間後のin situ BrUTP取込みによって検出する。BrUTPシグナル(左欄)はTIP−5枯渇細胞の方が高く、核小体(位相差画像に見られる核内のより暗い区域)に特異的に検出される(右欄)。
【図4A】TIP−5枯渇は増殖及び細胞成長の増大へと導くことを示す図である。(A)shRNA TIP5細胞のFACS分析。
【図4B】TIP−5枯渇は増殖及び細胞成長の増大へと導くことを示す図である。(B)個別の細胞周期の段階における細胞のパーセンテージ。TIP5枯渇細胞において細胞の数又はパーセンテージはS期で増大するが、G1期細胞の数又はパーセンテージは減少する。増殖は高まる。
【図4C】TIP−5枯渇は増殖及び細胞成長の増大へと導くことを示す図である。(C)BrdUの取込みアッセイ。細胞を10μM BrdUと共に30分間インキュベーションし、BrdUに対する抗体で染色し、S期細胞のパーセンテージを評価する。BrdUアッセイは、TIP5細胞におけるDNA合成増大を示す。
【図4D】TIP−5枯渇は増殖及び細胞成長の増大へと導くことを示す図である。(D〜F)miRNA−TIP5及び対照配列を安定発現している(D)NIH/3T3、(E)HEK293T及び(F)CHO−K1細胞の成長曲線。これらの成長曲線は、TIP−5枯渇細胞が(HEK293)と少なくとも同じ速さで、又は対照細胞(NIH3T3及びCHO−K1)よりもなお速く成長することを実証している。
【図4E】TIP−5枯渇は増殖及び細胞成長の増大へと導くことを示す図である。(D〜F)miRNA−TIP5及び対照配列を安定発現している(D)NIH/3T3、(E)HEK293T及び(F)CHO−K1細胞の成長曲線。これらの成長曲線は、TIP−5枯渇細胞が(HEK293)と少なくとも同じ速さで、又は対照細胞(NIH3T3及びCHO−K1)よりもなお速く成長することを実証している。
【図4F】TIP−5枯渇は増殖及び細胞成長の増大へと導くことを示す図である。(D〜F)miRNA−TIP5及び対照配列を安定発現している(D)NIH/3T3、(E)HEK293T及び(F)CHO−K1細胞の成長曲線。これらの成長曲線は、TIP−5枯渇細胞が(HEK293)と少なくとも同じ速さで、又は対照細胞(NIH3T3及びCHO−K1)よりもなお速く成長することを実証している。
【図5A】TIP−5ノックダウン細胞におけるリボソーム分析を示す図である。(A〜C)(A)安定なNIH/3T3、(B)HEK293T及び(C)CHO−K1細胞における細胞質RNA/細胞の相対量。データは、3回の重複で行われた2回の実験の平均を表す。
【図5B】TIP−5ノックダウン細胞におけるリボソーム分析を示す図である。(A〜C)(A)安定なNIH/3T3、(B)HEK293T及び(C)CHO−K1細胞における細胞質RNA/細胞の相対量。データは、3回の重複で行われた2回の実験の平均を表す。
【図5C】TIP−5ノックダウン細胞におけるリボソーム分析を示す図である。(A〜C)(A)安定なNIH/3T3、(B)HEK293T及び(C)CHO−K1細胞における細胞質RNA/細胞の相対量。データは、3回の重複で行われた2回の実験の平均を表す。
【図5D】TIP−5ノックダウン細胞におけるリボソーム分析を示す図である。(D)安定なHEK293Tのリボソームプロファイル。さらに多くのリボソームがTIP5ノックダウン細胞に存在する。
【図5E】TIP−5ノックダウン細胞におけるリボソーム分析を示す図である。(E)CHO−K1細胞系のリボソームプロファイル。さらに多くのリボソームがTIP5ノックダウン細胞に存在する。
【図6A】TIP−5のノックダウンはレポータータンパク質の生産強化へと導くことを示す図である。(A〜C)構成的SEAP発現ベクターpCAG−SEAPで操作された(A)安定なNIH/3T3、(B)HEK293T及び(C)CHO−K1細胞系のSEAP発現。
【図6B】TIP−5のノックダウンはレポータータンパク質の生産強化へと導くことを示す図である。(A〜C)構成的SEAP発現ベクターpCAG−SEAPで操作された(A)安定なNIH/3T3、(B)HEK293T及び(C)CHO−K1細胞系のSEAP発現。
【図6C】TIP−5のノックダウンはレポータータンパク質の生産強化へと導くことを示す図である。(A〜C)構成的SEAP発現ベクターpCAG−SEAPで操作された(A)安定なNIH/3T3、(B)HEK293T及び(C)CHO−K1細胞系のSEAP発現。
【図6D】TIP−5のノックダウンはレポータータンパク質の生産強化へと導くことを示す図である。(D、E)構成的ルシフェラーゼ発現ベクターpCMV−ルシフェラーゼを用いて操作された(D)安定なNIH/3T3及び(E)HEK293T細胞系のルシフェラーゼ発現。
【図6E】TIP−5のノックダウンはレポータータンパク質の生産強化へと導くことを示す図である。(D、E)構成的ルシフェラーゼ発現ベクターpCMV−ルシフェラーゼを用いて操作された(D)安定なNIH/3T3及び(E)HEK293T細胞系のルシフェラーゼ発現。
【0028】
発明の詳細な説明
TIP−5のノックダウン:
リコンビナントタンパク質の合成増大のために細胞を操作することを目指して、本発明者らは、サイレントなrRNA遺伝子の数の減少が45SプレrRNAの合成を高め、結果としてリボソームバイオジェネシスも刺激し、翻訳コンピテントリボソームの数を増大させるかどうかを判定する。したがって本発明者らは、TIP5発現をノックダウンするためにRNA干渉を使用し、TIP5の二つの異なる領域(TIP5−1及びTIP5−2)に特異的なshRNA/miRNA配列を使用して、トランスジェニックshRNAを安定発現しているNIH/3T3又はmiRNAを発現しているHEK293T及びCHO−K1を構築する。スクランブルされたshRNA(scrambled shRNA)配列及びmiRNA配列を発現している安定細胞系を対照として使用する。shRNA−TIP5配列又はmiRNA−TIP5配列を発現しているプラスミドの一過性トランスフェクションを行うよりもむしろ安定細胞系を生産するのには二つの理由がある。第一に、CpGメチル化のような抑制的なエピジェネティックのマークの消失は、複数の細胞分裂を必要とする受動的なメカニズムである。第二に、たとえHEK293T細胞を比較的容易にトランスフェクションすることができるとしても、NIH/3T3及びCHO−K1細胞の低いトランスフェクション効率は、内因性rRNA、リボソームレベル及び細胞成長の性質のその後の分析を損なうであろう。選択されたクローンにおけるTIP5のノックダウン効率を決定するために、本発明者らは、定量及び半定量逆転写酵素介在性PCRによってTIP5 mRNAレベルを測定する(図1)。TIP5の発現は、対照細胞に比べてNIH/3T3/shRNA−TIP5−1細胞及びNIH/3T3/shRNA−TIP5−2細胞の方が約70〜80%減少する(図1A)。TIP5 mRNAレベルにおける類似の低下が、安定なHEK293Tで観察される(図1B)。CHO−K1由来細胞におけるTIP5 mRNAレベルは、半定量PCRによってのみ測定することができるが(図1C)、TIP5 mRNAの低下は、安定なNIH/3T3細胞及びHEK293T細胞に類似している。これらの結果は、樹立細胞系が低レベルのTIP5を有することを実証している。
【0029】
TIP−5のノックダウンはrDNAメチル化の低下へと導く:
マウスrDNAプロモーターのCpGメチル化は、基本転写因子UBFの結合を障害し、開始前複合体の形成は阻止される(Sanij,E., Poortinga,G., Sharkey,K., Hung,S., Holloway,T.P., Quin,J., Robb,E., Wong,L.H., Thomas,W.G., Stefanovsky,V., Moss,T., Rothblum,L., Hannan,K.M., McArthur,G.A., Pearson,R.B., and Hannan,R.D. (2008). UBF levels determine the number of active ribosomal RNA genes in mammals. J. Cell Biol 183, 1259-1274)。NIH/3T3細胞において、約40%〜50%のrRNA遺伝子がCpG−メチル化配列を有し、転写的にサイレントである。ヒト、マウス及びチャイニーズハムスターにおけるrDNAプロモーターの配列及びCpG密度は、顕著に異なる。ヒトでは、rDNAプロモーターは23個のCpGを有し、一方マウス及びチャイニーズハムスターではそれぞれ3個及び8個のCpGがある(図2A〜C)。TIP5のノックダウンがrDNAのサイレンシングに影響することを検証するために、本発明者らは、CCGG配列におけるmeCpGの量を測定することによってrDNAメチル化のレベルを決定する。ゲノムDNAをHpaIIで消化し、消化に対する抵抗性(すなわちCpGメチル化)を、HpaII配列(CCGG)を包含するプライマーを使用する定量的リアルタイムPCRによって測定する。全てのTIP5ノックダウン細胞系における大部分のrRNA遺伝子のプロモーター領域内でCpGメチル化の減少があり、rDNAサイレンシングの促進に果たすTIP5が重要な役割を強調している(図2)。
【0030】
特に、TIP5の結合及びde novoメチル化は、rDNAプロモーター配列に限定されるものの、TIP−5低下NIH3T3細胞におけるCpGメチル化の量は、rDNA遺伝子全体(遺伝子間領域、プロモーター領域及びコード領域;図2D、E)にわたり減少し、TIP5がいったんrDNAプロモーター上に結合すると、rDNAローカスにわたりサイレントなエピジェネティックマークを樹立する拡散メカニズムを開始することを示している。
【0031】
Tip−5ノックダウン細胞におけるrRNAレベルの増大:
サイレントな遺伝子の数の減少がrRNA転写物の量に影響するかどうかを判定するために、本発明者らは、第一rRNAプロセシング部位を包含したプライマーを使用するqRT−PCR(図3A)及びin vivo BrUTP取込み(図3B)によって、45SプレrRNAの合成を測定する。両方の分析によって、TIP5を枯渇したNIH/3T3細胞及びHEK293T細胞の両方において、対照細胞系に比べてrRNA生産の強化が検出される。
【0032】
TIP−5の枯渇は、増殖及び細胞成長の増大へと導く:
Rasは、ヒトのガンにおいて多くの場合に突然変異又は過剰発現している、細胞トランスフォーメーション及び腫瘍形成に関与する周知のガン遺伝子である。Greenらは、国際公開公報第2009/017670号において包括的miRNA選別においてTIP−5がFasのRas介在性エピジェネティックサイレンシングエフェクター(RESE)として機能することを確認したと記載している。その公報は、TIP−5などのRasエフェクターの発現低下が細胞増殖阻害を招くことを記載している。
【0033】
本発明者らは、フローサイトメトリー(FACS)によって両方のshRNA−TIP5細胞を分析する。図4A、Bに示すように、S期の細胞数は、対照細胞に比べて両方のshRNA−TIP5細胞の方が顕著に高い。TIP5配列に対するmiRNAを発現しているレトロウイルスを感染させてから10日後のNIH3T3細胞で類似のプロファイルが得られる。これらの結果に一致して、shRNA TIP5細胞は、新生DNAへの5−ブロモデオキシウリジン(BrdU)の取込み増大及びより高いレベルのサイクリンAを示す(図4C)。
【0034】
最終的に本発明者らは、shRNA−TIP5、shRNA対照及び親のNIH3T3、HEK293及びCHO−K1細胞の間で細胞増殖速度を比較する(図4D〜F)。驚くことに、そして先行技術の報告と対照的に、miRNA−TIP5配列を発現しているNIH/3T3及びCHO−K1細胞の両方は、対照細胞よりも速い速度で増殖し、サイレントなrRNA遺伝子の数の減少が細胞の代謝に実際に影響を有することを示している。HEK293Tは、すでにその最大増殖速度に達していることから、これらの細胞におけるTIP5枯渇は細胞増殖にあまり影響しない。これらのデータは、驚くことにTIP5の枯渇及び結果としてのrDNAサイレンシングの減少が細胞増殖を高めることを示す。
【0035】
TIP−5ノックダウン細胞におけるリボソーム分析:
哺乳動物細胞培養において、タンパク質合成速度は重要なパラメーターであって、産物収量に直接関係する。TIP5の枯渇及び結果としてのrDNAサイレンシングの減少が細胞における翻訳コンピテントなリボソームの数を増大させるかどうかを判定するために、本発明者らは、最初、細胞質rRNAのレベルを測定する。細胞質で大部分のRNAは、リボソームに集合したプロセシング済みのrRNAから成る。図5A〜Cに示すように、全てのTIP5枯渇細胞系は、細胞1個あたりより多くの細胞質を有し、これらの細胞がより多くのリボソームを生産することを示している。同様に、ポリソームプロファイルの分析は、TIP5を枯渇したHEK293細胞及びCHO−K1細胞が対照細胞に比べて多くのリボソームサブユニット(40S、60S及び80S)を有することを示す(図5D)。
【0036】
Tip−5のノックダウンは、レポータータンパク質の生産強化へと導く:
TIP5の枯渇及びrDNAサイレンシングの減少が異種タンパク質の生産を高めるかどうかを判定するために、本発明者らは、TIP5を枯渇した安定なNIH/3T3、HEK293T及びCHO−K1誘導体に、ヒト胎盤分泌型アルカリホスファターゼSEAP又はルシフェラーゼの構成的発現を促進している発現ベクター(それぞれpCAG−SEAP;図6A〜C又はpCMV−ルシフェラーゼ;図6D、E)をトランスフェクションする。48時間後のタンパク質生産の定量から、対照細胞系に比べてTIP5枯渇細胞の方がSEAP及びルシフェラーゼの両方の生産が2〜4倍に増大することが明らかとなり、TIP5の枯渇が異種タンパク質の生産を増大させることを示している。これらの結果の全ては、サイレントなrRNA遺伝子の数の減少が、リボソーム合成を高め、細胞がリコンビナントタンパク質を生産する能力を増大させることを示す。
【0037】
TIP−5のノックアウトは、単球走化性タンパク質1(MCP−1)のバイオ医薬品生産を増大させ、治療用抗体の生産を高める:
(a)単球走化性タンパク質1(MCP−1)又は治療用抗体を分泌しているCHO細胞系(CHO DG44)に、空のベクター(模擬対照)又はTIP−5発現をノックダウンするように設計された小RNA(shRNA又はRNAi)をトランスフェクションする。最高のMCP−1力価は、最も効率的にTIP−5を枯渇した細胞プールで認められ、一方でタンパク質濃度は、模擬トランスフェクションされた細胞又は親細胞系の方が顕著に低い。
b)CHOホスト細胞(CHO DG44)に最初に短いRNA配列(shRNA又はRNAi)をトランスフェクションしてTIP−5の発現を低下させ、安定なTIP−5枯渇ホスト細胞系を生成させる。続いてこれらの細胞系及び並行してCHO DG44野生型細胞に、関心が持たれる遺伝子として単球走化性タンパク質1(MCP−1)又は治療用抗体をコードするベクターをトランスフェクションする。最高のMCP−1力価及び生産性は、最も効率的にTIP−5を枯渇した細胞プールで認められ、一方でタンパク質濃度は、模擬トランスフェクションされた細胞又は親細胞系の方が顕著に低い。
c)a)又はb)に記載されたその細胞が回分発酵又は流加発酵に供する場合、全体的なMCP−1力価又は抗体力価における差は、なおいっそう顕著になる。TIP−5の発現が低下した、トランスフェクションされた細胞が細胞及び時間あたりより速く成長し、より多くのタンパク質も生産することから、それらは、より高いIVCを示し、同時により高い生産性を示す。両方の性質は、全体的なプロセス収量に正の影響を与える。したがってTip5枯渇細胞は、顕著に高いMCP−1又は抗体収集物力価を有し、より効率の高い生産プロセスへと導く。
【0038】
また、SNF2H欠失細胞は、顕著に高いIgG収集物力価を有し、より効率的な生産プロセスへと導く。
【0039】
TIP−5遺伝子のノックアウトはrRNAの転写を増大させ、最も効率的に増殖を高める:
TIP−5の発現が常に低下したレベルの、改良されたホスト生産細胞系を生成させる最も効率的な方法は、TIP−5遺伝子の完全なノックアウトを生成させることである。このために、Tip−5遺伝子を破壊してその発現を阻止するために相同組換えを利用するか、又はジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)技法を使用するかのいずれかを行うことができる。相同組換えはCHO細胞において効率的ではないことから、本発明者らは、TIP−5遺伝子内に二本鎖切断を導入することによりそれを機能的に破壊するZFNを設計する。TIP−5の効率的なノックアウトを確認するために、抗TIP−5抗体を使用してウエスタンブロットを行う。TIP−5ノックアウト細胞では膜上にTIP−5の発現は検出されず、一方で親CHO細胞系は、TIP−5タンパク質に対応する明瞭なシグナルを示す。
【0040】
次に、TIP−5ノックアウトCHO細胞及び親CHO細胞系においてrRNAの転写を分析する。このアッセイは、両方の親細胞に比べて、そしてまたTIP−5発現レベルだけが低下した細胞に比べて、TIP−5ノックアウト細胞の方が高いレベルのrRNA合成及び増大したリボソーム数であることを確認する。
【0041】
さらに、TIP5野生型細胞及びTIP−5の発現だけが干渉性RNA(shRNA又はRNAiなど)の導入によって低下した細胞系に比べて、TIP−5欠損細胞の方が流加プロセスにおいて速く増殖し、高い細胞数を示す。
【0042】
全般的な態様「含んでいる」又は「含まれる」は、より具体的な態様「から成る」を包含する。さらに、単数形及び複数形は限定的な方法で使用されない。
【0043】
本発明の過程で使用される用語は、以下の意味を有する。
【0044】
「エピジェネティック操作」という用語は、核酸配列に影響せずにクロマチンのエピジェネティック改変に影響を及ぼすことを意味する。エピジェネティック改変には、ヒストン又はDNAヌクレオチドのメチル化又はアセチル化、さらにはアルキル化における変化が含まれる。本発明において、「エピジェネティック操作」は、主にDNAメチル化における操作を表す。
【0045】
「NoRC」(核小体リモデリング複合体)は、rDNAサイレンシングの重要な決定因子であり、TIP−5(TTF−1相互作用タンパク質5)及びATPase SNF2hから成る。NoRCは、サイレントな遺伝子のrDNAプロモーターに結合し、ヒストン改変活性及びDNAメチル化活性によりrDNAの転写を抑制する。
【0046】
「TIP−5」又は「TIP5」(転写終結因子1(TTF1)相互作用タンパク質5)は、DNAメチルトランスフェラーゼ(DNMT)及びヒストンデアセチラーゼ(HDAC)及び他のクロマチン改変因子と相互作用することによって、rDNAにヒストンデアセチラーゼ活性をリクルートするように作用する、200kDよりも大きな核小体タンパク質である。さらなる同義語は、:BAZ2A、WALp3;FLJ13768;FLJ13780;FLJ45876;KIAA0314及びDKFZp781B109である。
【0047】
「SNF2h」は、SWI/SNFファミリータンパク質のメンバーであって、ヘリカーゼ活性及びATPase活性を有する。SNF2hは、閉鎖型ヘテロクロマチンのクロマチン状態を樹立するためのヌクレオソームグライディング(nucleosome gliding)に関与するNoRCの一構成要素である。SNF2hの公式名はSMARCA5である(SWI/SNF関係、マトリックス関連アクチン依存性クロマチンレギュレータースーパーファミリーaメンバー5)。さらなる別名は、ISWI;hISWI;hSNF2H及びWCRF135である。
【0048】
「リボソームRNA遺伝子(rDNA)のサイレンシングを低下させる」という表現は、リボソームRNAをコードするDNA又はこの特定領域におけるクロマチンのメチル化及び/又はアセチル化に影響してrRNA遺伝子転写の抑制解除を招くことを意味する。さらに具体的には、本発明においてこの用語は、rRNA遺伝子のメチル化を低下させ、転写因子が遺伝子とアクセスする可能性をより大きくすることに繋げ、それによってそれぞれの遺伝子からより多くのrRNAを合成することへと導くアプローチを表す。
【0049】
本明細書における「rDNAサイレンシング」は、具体的にはrRNA遺伝子のサイレンシングを表す。それには、NoRCによって仲介されない非特異的な全ゲノムサイレンシングメカニズムは含まれない。
【0050】
rDNAサイレンシングは、以下のアッセイによって測定/モニターすることができる:
rDNAのサイレンシングは、(例えば、材料及び方法に記載されるように、45SプレRNAに対するオリゴヌクレオチドプライマーを使用した)定量又は半定量PCRにより分析することのできるrRNAの転写減少を招く。
【0051】
rDNA遺伝子プロモーターのメチル化は、メチル化感受性制限酵素を用いたゲノムDNAの消化、ならびにそれに続くメチル化及び非メチル化状態について異なるバンドパターンを招くサザンブロットによって分析することができる。
【0052】
又は、メチル化誘導性rDNAサイレンシングは、メチル化感受性制限酵素を用いたゲノムDNAの消化及びそれに続く切断部位にわたるプライマーを使用するqPCRによっても定量することができる(材料及び方法に記載し、図2に示す)。
【0053】
本明細書に使用されるような遺伝子発現の文脈における「ノックダウン」又は「枯渇」という用語は、対照細胞における発現に比べた所与の遺伝子の発現低下に至る実験アプローチを表す。遺伝子のノックダウンは、その遺伝子のmRNAの部分とハイブリダイゼーションしてそれを分解へと導く核酸分子(例えばshRNA、RNAi、miRNA)を細胞に導入すること、又は転写低下、mRNAの安定性低下又はmRNAの翻訳減少へと導く方法で遺伝子配列を変更することなどの、様々な実験手段によって達成することができる。
【0054】
所与の遺伝子の発現の完全阻害は、「ノックアウト」と呼ばれる。遺伝子のノックアウトは、その遺伝子から機能的転写物が合成されず、この遺伝子によって普通は提供される機能の消失へと導くことを意味する。遺伝子ノックアウトは、DNA配列を変更することによって達成され、遺伝子又はその調節配列の破壊又は欠失へと導く。ノックアウト技法には、重大な部分もしくは遺伝子配列全体を交換、妨害もしくは欠失させる相同組換え技法の使用又はターゲット遺伝子のDNAに二本鎖切断を導入するジンクフィンガーヌクレアーゼなどのDNA改変酵素の使用が含まれる。
【0055】
遺伝子のノックダウン又はノックアウトをモニター/証明するためのアッセイは多種多様である:
例えば、選択された遺伝子から転写されたmRNAの低下/損失は、ノーザンブロットハイブリダイゼーション、リボヌクレアーゼRNAの保護、細胞性RNAへの又はPCRによるin situハイブリダイゼーションによって定量することができる。選択された遺伝子によってコードされる、対応するタンパク質の存在量低下/損失は、様々な方法、例えばELISA、ウエスタンブロット、ラジオイムノアッセイ、免疫沈降、タンパク質の生物学的活性のアッセイ、タンパク質の免疫染色に続くFACS分析又はホモジニアス時間分解蛍光(HTRF)アッセイによって定量することができる。
【0056】
本発明に使用されるような「誘導体」という用語は、本来の配列又はその相補的配列と配列が少なくとも70%同一のポリペプチド分子又は核酸分子を意味する。好ましくはそのポリペプチド分子又は核酸分子は、本来の配列又はその相補的配列と配列が少なくとも80%同一である。さらに好ましくは、そのポリペプチド分子又は核酸分子は、本来の配列又はその相補的配列と配列が少なくとも90%同一である。最も好ましいのは、本来の配列又はその相補的配列と配列が少なくとも95%同一であって、分泌に対して本来の配列と同じ又は類似の効果を示すポリペプチド分子又は核酸分子である。
【0057】
配列の差は、異なる生物からの相同配列における差に基づくことがある。それらは、また、1個又は複数個、好ましくは1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10個のヌクレオチド又はアミノ酸の置換、挿入又は欠失による配列のターゲット改変に基づくこともあろう。欠失、挿入又は置換突然変異体は、部位特異的突然変異誘発及び/又はPCRベースの突然変異誘発技法を使用して生成させることができる。対応する方法は、追加的な参考文献と共に(Lottspeich and Zorbas, 1998)によって第36.1章に記載されている。
【0058】
本発明の意味における「ホスト細胞」は、真核細胞、好ましくは哺乳動物細胞、最も好ましくはハムスター細胞などのげっ歯類細胞である。好ましい細胞は、BHK21、BHK TK−、CHO、CHO−K1、CHO−DUKX、CHO−DUKX B1、及びCHO−DG44細胞又はそのような任意の細胞系の誘導体/後代である。特に好ましいのはCHO−DG44、CHO−DUKX、CHO−K1及びBHK21であり、なおいっそう好ましくはCHO−DG44及びCHO−DUKX細胞である。最も好ましいのはCHO−DG44細胞である。本発明の特定の態様では、ホスト細胞は、マウス骨髄腫細胞、好ましくはNS0及びSp2/0f細胞又はそのような任意の細胞系の誘導体/後代を意味する。本発明の意味において使用することのできるマウス及びハムスター細胞の例を、表1にも要約する。しかしながら、それらの細胞の誘導体/後代、非限定的にヒト、マウス、ラット、サル、及びげっ歯類細胞系を含む他の哺乳動物細胞、又は非限定的に酵母、昆虫及び植物細胞を含む真核細胞もまた、本発明の意味において、特にバイオ医薬品タンパク質の生産のために使用することができる。
【0059】
【表1】
【0060】
ホスト細胞は、無血清条件下で、そして場合により動物起源のタンパク質/ペプチドを全く有さない培地中で樹立、適応、及び完全に培養される場合が最も好ましい。ハムF12(Sigma, Deisenhofen, Germany)、RPMI−1640(Sigma)、ダルベッコ変法イーグル培地(DMEM;Sigma)、最小必須培地(MEM;Sigma)、イソコフ変法ダルベッコ培地(IMDM;Sigma)、CD−CHO(Invitrogen, Carlsbad, CA)、CHO−S−Invtirogen)、無血清CHO培地(Sigma)、及び無タンパク質CHO培地(Sigma)などの市販の培地は、適切な栄養溶液の一例である。必要に応じてホルモン及び/又は他の成長因子(インスリン、トランスフェリン、上皮成長因子、インスリン様成長因子など)、塩類(塩化ナトリウム、カルシウム、マグネシウム、リン酸塩など)、緩衝剤(HEPESなど)、ヌクレオシド(アデノシン、チミジンなど)、グルタミン、グルコース又は他の等価のエネルギー源、抗生物質、微量元素を例とする多様な化合物を任意の培地に補充することができる。任意の他の必要な補助剤もまた、当業者に公知であろう適切な濃度で包含させることができる。本発明においてホスト細胞の培養に無血清培地の使用が好ましいが、適切な量の血清が補充された培地もまた使用することができる。選択可能な遺伝子を発現している遺伝的に改変された細胞の成長及び選択のために、適切な選択薬が培養培地に添加される。
【0061】
「タンパク質」という用語は、アミノ酸残基配列又はポリペプチドと互換的に使用され、任意の長さのアミノ酸のポリマーを表す。これらの用語には、また、非限定的にグリコシル化、アセチル化、リン酸化又はタンパク質プロセシングが含まれる反応によって翻訳後修飾されたタンパク質が含まれる。ポリペプチドの分子がその生物学的機能活性を維持する限り、改変及び変化、例えば他のタンパク質との融合、アミノ酸配列の置換、欠失又は挿入をそのポリペプチドの構造に加えることができる。例えば、ポリペプチド又はその基礎となる核酸コード配列に、あるアミノ酸配列置換を加えることができ、類似の性質を有するタンパク質を得ることができる。
【0062】
「ポリペプチド」という用語は、10個よりも多いアミノ酸を有する配列を意味し、「ペプチド」という用語は、最大10個のアミノ酸長の配列を意味する。
【0063】
本発明は、バイオ医薬品ポリペプチド/タンパク質の生産のためのホスト細胞を生成させるために適する。特に本発明は特に、強化された細胞生産性を示している細胞による、関心が持たれる多数の異なる遺伝子の高収量発現に適する。
【0064】
「関心が持たれる遺伝子」(GOI)、「選択された配列」、又は「産物遺伝子」は、本明細書において同じ意味を有し、関心が持たれる産物又は「関心が持たれるタンパク質」をコードする任意の長さのポリヌクレオチド配列を表し、「所望の産物」という用語でも述べられる。選択された配列は、完全長の又は短縮された遺伝子、融合遺伝子又はタグ付き遺伝子のことがあり、cDNA、ゲノムDNA、又はDNAフラグメント、好ましくは、cDNAのことがある。それは、ネイティブな配列、すなわち天然型のことがあるか、又は所望により突然変異又はその他の方法で改変されていることがある。これらの改変には、選択されたホスト細胞におけるコドン使用頻度を最適化するためのコドン最適化、ヒト化又はタグ付けが含まれる。選択された配列は、分泌型、細胞質、核、膜結合型又は細胞表面ポリペプチドをコードすることがある。
【0065】
「関心が持たれるタンパク質」には、その全てが選択されたホスト細胞に発現することができるタンパク質、ポリペプチド、そのフラグメント、ペプチドが含まれる。所望のタンパク質は、例えば抗体、酵素、サイトカイン、リンホカイン、接着分子、レセプター及びその誘導体又はフラグメント、ならびにアゴニストもしくはアンタゴニストとして役立つことができ、かつ/又は治療もしくは診断用途を有する任意の他のポリペプチドのことがある。所望のタンパク質/ポリペプチドの例もまた下記に示す。
【0066】
モノクローナル抗体などのより複雑な分子の場合、GOIは、2本の抗体鎖の一方又は両方をコードする。
【0067】
「関心が持たれる産物」は、また、アンチセンスRNAのことがある。
【0068】
「関心が持たれるタンパク質」又は「所望のタンパク質」は、上述のタンパク質である。特に、所望のタンパク質/ポリペプチド又は関心が持たれるタンパク質は、例えば非限定的にインスリン、インスリン様成長因子、hGH、tPA、インターロイキン(IL)、例えばIL−1、IL−2、IL−3、IL−4、IL−5、IL−6、IL−7、IL−8、IL−9、IL−10、IL−11、IL−12、IL−13、IL−14、IL−15、IL−16、IL−17、IL−18、インターフェロン(IFN)α、IFNβ、IFNγ、IFNω又はIFNτ、TNFα及びTNFβ、TNFγなどの腫瘍壊死因子(TNF)、TRAIL;G−CSF、GM−CSF、M−CSF、MCP−1及びVEGFなどのサイトカインである。同様に含まれるのは、エリスロポエチン又は他の任意のホルモン性成長因子の生産である。本発明による方法は、また、抗体又はそのフラグメントの生産に有利に使用することができる。そのようなフラグメントには、例えばFabフラグメント(抗原結合フラグメント=Fab)が含まれる。Fabフラグメントは、隣接する定常領域によって一緒につながった、両方の鎖の可変領域から成る。これらは、従来の抗体からプロテアーゼ消化によって、例えばパパインを用いて形成させることができるが、類似のFabフラグメントを、遺伝子操作によっても生産することができる。さらなる抗体フラグメントには、ペプシンを用いたタンパク質分解切断によって調製することのできるF(ab’)2フラグメントが含まれる。
【0069】
関心が持たれるタンパク質は、好ましくは分泌型ポリペプチドとして培地から回収されるか、又は分泌シグナルなしに発現される場合はホスト細胞溶解物から回収することもできる。他のリコンビナントタンパク質及びホスト細胞タンパク質から、関心が持たれるタンパク質の実質的に均一な調製物が得られる方法で、関心が持たれるタンパク質を精製することが必要である。第一ステップとして、細胞及び/又は粒子状細胞破片を培養液又は溶解物から取り出す。その後、混入可溶性タンパク質、ポリペプチド及び核酸から、例えばイムノアフィニティーカラム又はイオン交換カラム、エタノール沈澱、逆相HPLC、Sephadexクロマトグラフィー、シリカ又はDEAEなどの陽イオン交換樹脂でのクロマトグラフィーを用いた分画によって、関心が持たれる産物を精製する。一般に、ホスト細胞によって異種発現されたタンパク質を精製する方法を技術者に教示している方法は、当技術分野において周知である。
【0070】
遺伝子操作法を使用して、重鎖(VH)の可変領域及び軽鎖(VL)の可変領域のみから成る短縮化抗体フラグメントを生産することが可能である。これらは、Fvフラグメント(可変フラグメント=可変部フラグメント)と呼ばれる。これらのFvフラグメントは、定常鎖のシステインによる二つの鎖の共有結合を欠如しているので、Fvフラグメントは安定化されていることが多い。重鎖の可変領域及び軽鎖の可変領域を短いペプチドフラグメント、例えば10〜30個のアミノ酸、好ましくは15個のアミノ酸のフラグメントによって連結することが有利である。このようにして、VH及びVLがペプチドリンカーによって連結したものから成るペプチド1本鎖が得られる。この種の抗体タンパク質は、1本鎖Fv(scFv)として知られている。この種のscFv−抗体タンパク質の例は、当技術分野において周知である。
【0071】
近年、scFvを多量体性誘導体として調製するために様々な戦略が開発された。これは、特に改良された薬物動態性質及び生体分布性質と、さらには増大した結合アビディティーを有するリコンビナント抗体へと導くことが意図されている。scFvの多量体化を達成するために、scFvは、多量体化ドメインを有する融合タンパク質として調製される。多量体化ドメインは、例えばIgGのCH3領域又はロイシンジッパードメインなどのコイルドコイル構造(ヘリックス構造)のことがある。しかし、scFvのVH/VL領域の間の相互作用が多量体化のために使用される戦略もある(例えばダイアボディー、トリボディー及びペンタボディー)。ダイアボディーによって、技術者は、2価ホモ二量体性scFv誘導体を意味する。scFv分子のリンカーが5〜10個のアミノ酸に短縮化することで、鎖内VH/VL重ね合わせが起こるホモ二量体の形成に至る。ダイアボディーは、追加的に、ジスルフィド架橋の組み入れによって安定化することができる。ダイアボディー−抗体タンパク質の例は、当技術分野において周知である。
【0072】
ミニボディーによって、技術者は2価ホモ二量体性scFv誘導体を意味する。それは、二量体化領域として免疫グロブリン、好ましくはIgG、最も好ましくはIgG1のCH3領域が、ヒンジ領域(例えば同じくIgG1由来)及びリンカー領域を介してscFvと結合したものを有する融合タンパク質から成る。ミニボディー−抗体タンパク質の例は、当技術分野から周知である。
【0073】
トリアボディーによって、技術者は3価ホモ三量体性scFv誘導体を意味する。VH−VLがリンカー配列なしに直接融合しているscFv誘導体が、三量体の形成へと導く。
【0074】
「足場タンパク質」によって、技術者は遺伝子クローニング又は別のタンパク質もしくは別の機能を有するタンパク質の部分との共翻訳過程によって結合した、タンパク質の任意の機能的ドメインを意味する。
【0075】
技術者は、また、2、3又は4価構造を有し、scFv由来のいわゆるミニ抗体を熟知しているであろう。多量体化は、二、三又は四量体性コイルドコイル構造によって実施される。
【0076】
たとえ導入された配列又は遺伝子がホスト細胞における内因性配列又は遺伝子と同一であっても、ホスト細胞に導入された配列又は遺伝子は、定義によってホスト細胞に関して「異種配列」又は「異種遺伝子」又は「導入遺伝子」と呼ばれる。
【0077】
したがって、「異種」タンパク質は、異種配列から発現されたタンパク質である。
【0078】
「リコンビナント」という用語は、本発明の明細書にわたり、特にタンパク質の発現の文脈において「異種」という用語と互換的に使用される。したがって、「リコンビナント」タンパク質は、異種配列から発現されたタンパク質である。
【0079】
異種遺伝子配列は、「発現ベクター」、好ましくは真核生物発現ベクター、なおさらに好ましくは哺乳動物発現ベクターを使用することによってターゲット細胞に導入することができる。ベクターを構築するために使用される方法は、当業者に周知であり、様々な刊行物に記載されている。特に、プロモーター、エンハンサー、終結及びポリアデニル化シグナル、選択マーカー、複製起点、及びスプライシングシグナルなどの機能的構成要素の記載を含む、適切なベクターを構築するための技法は、(Sambrook et al., 1989)及びそこに引用された参考文献にかなり詳細に概説されている。ベクターには、非限定的にプラスミドベクター、ファージミド、コスミド、人工/ミニ染色体(例えばACE)、又はバキュロウイルス、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、単純ヘルペスウイルス、レトロウイルス、バクテリオファージなどのウイルスベクターが含まれることがある。真核生物発現ベクターは、典型的には複製起点及び細菌での選択用の抗生物質抵抗性遺伝子などの、細菌におけるベクターの増殖を促進する原核生物配列も有するであろう。ポリヌクレオチドが作動可能に連結されうるクローニング部位を有する多様な真核生物発現ベクターは、当技術分野において周知であり、そのいくつかは、Stratagene, La Jolla, CA;Invitrogen, Carlsbad, CA;Promega, Madison, WI又はBD Biosciences Clontech, Palo Alto, CAなどの企業から市販されている。
【0080】
好ましい態様では、発現ベクターは、関心が持たれるペプチド/ポリペプチド/タンパク質をコードするヌクレオチド配列の転写及び翻訳に必要な調節配列である、少なくとも一つの核酸配列を含む。
【0081】
本明細書に使用されるような「発現」という用語は、ホスト細胞内の異種核酸配列の転写及び/又は翻訳を表す。ホスト細胞における関心がもたれる所望の産物/タンパク質の発現レベルは、この実施例のように、細胞内に存在する対応するmRNAの量又は選択された配列によってコードされる関心が持たれる所望のポリペプチド/タンパク質の量のいずれかをベースに決定することができる。例えば、選択された配列から転写されたmRNAは、ノーザンブロットハイブリダイゼーション、リボヌクレアーゼRNA保護、細胞性RNAとのin situハイブリダイゼーション又はPCRによって定量することができる。選択された配列によってコードされるタンパク質は、様々な方法、例えばELISA、ウエスタンブロット、ラジオイムノアッセイ、免疫沈降、タンパク質の生物学的活性のアッセイ、タンパク質の免疫染色に続くFACS分析又はホモジニアス時間分解蛍光(HTRF)アッセイによって定量することができる。
【0082】
遺伝的に改変された細胞又はトランスジェニック細胞を生じる、ポリヌクレオチド又は発現ベクターを用いた真核ホスト細胞の「トランスフェクション」は、当技術分野において周知の任意の方法によって行うことができる。トランスフェクション法には、非限定的にリポソーム介在トランスフェクション、リン酸カルシウム共沈、エレクトロポレーション、ポリカチオン(DEAE−デキストランなど)介在性トランスフェクション、プロトプラスト融合、ウイルス感染及びマイクロインジェクションが含まれる。好ましくは、トランスフェクションは安定トランスフェクションである。特定のホスト細胞系及び種類において異種遺伝子の最適なトランスフェクション頻度及び発現を提供するトランスフェクション法が、有利である。適切な方法は、常用の手順によって決定することができる。安定トランスフェクタントのために、構築物は、ホスト細胞内に安定的に維持されるようにホスト細胞のゲノムもしくは人工染色体/ミニ染色体に組み込まれるか、又はエピソームとして位置するかのいずれかである。
【0083】
本発明は、以下:
a. 細胞を提供すること、
b. 該細胞におけるリボソームRNAの量を増大させること、及び
c. タンパク質の発現が可能な条件で該細胞を培養すること
を含む、細胞におけるタンパク質、好ましくはリコンビナントタンパク質の発現を増大させる方法に関する。
【0084】
特定の態様では、ステップb)は、該ホスト細胞におけるリボソームRNA転写を、好ましくは該細胞におけるリボソームRNA遺伝子(rDNA)サイレンシングを低下させること(少なくとも1種のリボソームRNA遺伝子(rDNA)のエピジェネティック操作)によってアップレギュレーションすることを含む。
【0085】
本発明は、具体的には以下:
a. 細胞を提供すること、
b. 該細胞におけるリボソームRNAの量を、該細胞におけるリボソームRNA遺伝子(rDNA)のサイレンシングを低下させることによって増大させること、及び
c. タンパク質の発現が可能な条件で該細胞を培養すること
を含む、タンパク質を、好ましくはリコンビナントタンパク質の発現を増大させる方法に関する。
【0086】
具体的な態様では、ステップb)は、少なくとも1種のリボソームRNA遺伝子(rDNA)のエピジェネティック操作を含む。
【0087】
本発明は、好ましくは以下:
a. 細胞を提供すること、
b 該細胞におけるリボソームRNA遺伝子(rDNA)のサイレンシングを低下させること、及び
c. タンパク質の発現が可能な条件で該細胞を培養すること
を含む、細胞におけるタンパク質、好ましくはリコンビナントタンパク質の発現を増大させる方法に関する。
【0088】
本発明の特定の態様では、rDNAのサイレンシングが低下していない細胞に比べて該細胞においてリコンビナントタンパク質の発現が増大している。好ましくは、該増大は、20%〜100%、さらに好ましくは20%〜300%であり、最も好ましくは20%よりも大きい。
【0089】
本発明の方法のさらに特定の態様では、ステップb)は、核小体リモデリング複合体(NoRC)の構成要素のノックダウン又はノックアウトを含む。
【0090】
具体的には、ステップb)は、核小体リモデリング複合体(NoRC)の構成要素の発現を低下させることを含む。
【0091】
本発明の別の好ましい態様では、NoRC構成要素はTIP−5又はSNF2H、好ましくはTIP−5である。
【0092】
本発明の非常に好ましい態様は、TIP−5がノックアウトされている。
【0093】
本発明の別の態様では、SNF2Hがノックアウトされている。
【0094】
本発明の方法の特定の態様では、TIP−5がノックダウン又はノックアウトされており、ここで、TIP−5サイレンシングベクターは以下:
a. 配列番号1、配列番号2、配列番号8もしくは配列番号9記載のshRNA又は
b. 配列番号3、配列番号4、配列番号10もしくは配列番号11記載のmiRNA
を含む。
【0095】
本発明の最も好ましい態様では、TIP−5は、ステップb)においてノックダウンされる。
【0096】
本発明は、以下:
a. 細胞を提供すること、
b. 該細胞におけるリボソームRNAの量を増大させること、
c. 関心が持たれる該タンパク質の発現を可能にする条件で該細胞を培養すること
を含む、関心が持たれるタンパク質を生産する方法に関する。
【0097】
本発明の特定の態様では、その方法は、追加的に以下:
d. 関心が持たれる該タンパク質を精製すること
を含む。
【0098】
特定の態様では、ステップa)の細胞は、空のホスト細胞である。別の態様では、ステップa)の該細胞は、関心が持たれるタンパク質をコードする遺伝子を含むリコンビナント細胞である。
【0099】
さらに特定の態様では、ステップb)は、該細胞におけるリボソームRNA遺伝子(rDNA)のサイレンシングを低下させること(少なくとも1種のrDNAのエピジェネティック操作)によって、該細胞におけるリボソームRNAの量を増大させること(リボソームRNA転写をアップレギュレーションすること)を含む。
【0100】
本発明は、具体的には以下:
a. 細胞を提供すること、
b. 該細胞におけるリボソームRNA遺伝子(rDNA)のサイレンシングを低下させること(少なくとも1種のrDNAのエピジェネティック操作)、及び
c. 関心が持たれる該タンパク質の発現を可能にする条件で該細胞を培養すること
を含む、関心が持たれるタンパク質を生産する方法に関する。
【0101】
本発明のさらなる態様では、その方法は、追加的に以下:
d. 関心が持たれる該タンパク質を精製すること
を含む。
【0102】
特定の態様では、ステップb)は、核小体リモデリング複合体(NoRC)の構成要素のノックダウン又はノックアウトを含む。別の態様では、ステップb)は、核小体リモデリング複合体(NoRC)の構成要素の発現を低下させることを含む。
【0103】
本発明の非常に好ましい態様では、NoRC構成要素は、TIP−5又はSNF 2H、最も好ましくはTIP−5である。
【0104】
タンパク質を生産する上記方法の特定の態様では、TIP−5はノックダウン又はノックアウトされ、ここで、TIP−5サイレンシングベクターは、以下:
a. 配列番号1、配列番号2、配列番号8もしくは配列番号9記載のshRNA又は
b. 配列番号3、配列番号4、配列番号10又は配列番号11記載のmiRNA
を含む。
【0105】
本発明は、さらにまた以下:
a. 細胞を提供すること、
b. 該細胞におけるリボソームRNAの量を増大させること
を含む、好ましくはリコンビナント/異種タンパク質の生産のために、ホスト細胞を生成させる方法に関する。
【0106】
本発明は、具体的には以下:
a. 細胞を提供すること、
b. 該細胞におけるリボソームRNAの量を増大させること、
c. ホスト細胞を得ること
を含む、好ましくはリコンビナント/異種タンパク質の生産のために、ホスト細胞を生成させる方法に関する。
【0107】
本発明は、さらに以下:
a. 細胞を提供すること、
b. 該細胞におけるリボソームRNAの量を増大させること、
c. 単一細胞クローンを選択すること
を含む、好ましくはリコンビナント/異種タンパク質の生産のために、単一細胞クローンを生成させる方法に関する。
【0108】
本発明は、さらに以下:
a. 細胞を提供すること、
b. 該細胞におけるリボソームRNAの量を増大させること、
c. 単一細胞クローンを選択すること
を含む、好ましくはリコンビナント/異種タンパク質の生産のために、ホスト細胞系を生成させる方法に関する。
【0109】
本発明の特定の態様では、その方法は、追加的に以下:
d. 該単一細胞クローンからホスト細胞系を得ること
を含む。
【0110】
本発明は、さらに以下:
a. 細胞を提供すること、
b. 該細胞におけるリボソームRNAの量を増大させること、
c. モノクローナルホスト細胞系を選択すること
を含む、好ましくはリコンビナント/異種タンパク質の生産のために、モノクローナルホスト細胞系を生成させる方法に関する。
【0111】
上記方法の特定の態様では、ステップb)は、i)該細胞におけるリボソームRNA遺伝子(rDNA)のサイレンシングを低下させること(少なくとも1種のrDNAのエピジェネティック操作)によって、該細胞におけるリボソームRNAの量を増大させること(リボソームRNAの転写をアップレギュレーションすること)を含む。
【0112】
本発明は、具体的には以下:
a. 細胞を提供すること、
b. 該細胞におけるリボソームRNA遺伝子(rDNA)のサイレンシングを低下させること(少なくとも1種のrDNAのエピジェネティック操作)
を含む、好ましくはリコンビナント/異種タンパク質の生産のために、ホスト細胞(系)を生成させる方法に関する。
【0113】
場合により、該方法は、追加的に以下:
c. 単一細胞クローンを選択すること。
d. 好ましくは該方法は、追加的にホスト細胞(系)を得ることを含む
を含む。
【0114】
特定の態様では、ステップb)は、核小体リモデリング複合体(NoRC)の構成要素のノックダウン又はノックアウトを含む。別の態様では、ステップb)は、核小体リモデリング複合体(NoRC)の構成要素の発現を低下させることを含む。
【0115】
本発明の非常に好ましい態様では、NoRC構成要素はTIP−5又はSNF 2Hであり、最も好ましくはTIP−5である。
【0116】
ホスト細胞を生成させる上記方法の特定の態様では、TIP−5がノックダウン又はノックアウトされ、ここで、TIP−5サイレンシングベクターは、以下:
a. 配列番号1、配列番号2、配列番号8もしくは配列番号9記載のshRNA又は
b. 配列番号3、配列番号4、配列番号10もしくは配列番号11記載のmiRNA
を含む。
【0117】
本発明は、さらに上記方法のいずれかにより生成された細胞に関する。
【0118】
好ましくは、リコンビナントタンパク質の発現は、rDNAのサイレンシングが低下していない細胞に比べて該細胞において増大しており、好ましくは該増大は、20%〜100%、さらに好ましくは20%〜300%であり、最も好ましくは20%よりも大きい。
【0119】
好ましくは、該細胞又は上記方法のいずれかにおける細胞は、真核細胞、好ましくは哺乳動物、げっ歯類又はハムスター細胞である。好ましくは、該ハムスター細胞は、CHO−DG44、CHO−K1、CHO−S又はCHO−DUKX B11などのチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞であり、好ましくは該細胞はCHO−DG44細胞である。
【0120】
本発明は、さらに、好ましくは関心が持たれるタンパク質の生産のための該細胞の使用に関する。
【0121】
本発明は、さらに、以下:
a. 配列番号1、配列番号2、配列番号8もしくは配列番号9記載のshRNA、又は
b. 配列番号3、配列番号4、配列番号10もしくは配列番号11記載のmiRNA
を含むTIP−5サイレンシングベクターに関する。
【0122】
さらに、本発明は、TIP−5サイレンシングベクターを含む細胞に関する。好ましくはそのような細胞は、追加的に関心が持たれるタンパク質をコードする遺伝子を含む発現カセットを有するベクターを含む(有する)。
【0123】
本発明は、さらに、TIP−5がノックアウトされた細胞であって、場合により関心が持たれるタンパク質をコードする遺伝子を含む発現カセットを包含するベクターを含む細胞に関する。好ましくは、該ノックアウト細胞は、完全ノックアウトである。別の態様では、本発明は、TIP−5を欠失した細胞であって、場合により関心が持たれるタンパク質をコードする遺伝子を含む発現カセットを包含するベクターを含む細胞に関する。
【0124】
本発明は、さらに、TIP−5サイレンシングベクターを備えるキットに関する。好ましくはそのようなキットは、関心が持たれるタンパク質を製造するために使用される。好ましくはそのようなキットは、追加的に細胞(上記のようなホスト細胞)を備える。好ましくはそのようなキットは、上記のようなTIP−5ノックアウト細胞を備える。場合により該キットは、細胞培養培地及び/又はトランスフェクション剤を備える。
【0125】
本発明の実施は、特に示さない限り細胞生物学、分子生物学、細胞培養、免疫学などの当業者の技術の範囲内の従来技法を採用するであろう。これらの技法は、最新の文献に十分に開示されている。
【0126】
材料及び方法
プラスミド
pCMV−TAP−タグは、サイトメガロウイルス前初期プロモーターのコントロール下で転写されるTAP−タグ配列を有する。
【0127】
安定細胞系
NIH/3T3細胞に、H1プロモーターのコントロール下でshRNA
【0128】
【化1】
【0129】
配列を発現しているプラスミドを安定トランスフェクションする。
【0130】
転写されたshRNA配列は:shRNA
【0131】
【化2】
【0132】
である。
HEK293T及びCHO−K1細胞に、対照miRNA又は
【0133】
【化3】
【0134】
をターゲティングしているmiRNA配列を発現しているプラスミドをBlock−iT Pol II miR RNAiシステム(Invitrogen)に基づいて安定トランスフェクションする。感染は、製造業者の説明書にしたがって行う。感染の10日後に細胞を分析する。
【0135】
転写されたmiRNA配列は:miRNA
【0136】
【化4】
【0137】
である。
【0138】
転写分析
標準手順によるqRT−PCRによって、そしてUniversal Master mix(Diagenode)を使用して45SプレrRNA転写を測定する。マウス及びヒト45SプレrRNA及びGAPDHを検出するために使用されるプライマー配列は、以前に記載されている。
【0139】
CpGメチル化分析
マウス及びヒトrDNAのメチル化を前記のように測定する。CHO−K1細胞におけるrDNAメチル化分析のために使用されるプライマーは:
【0140】
【化5】
【0141】
である。
【0142】
BrUTPの取込み
BrUTP取込みのために、shRNA対照ならびにTIP5−1及びTIP5−2細胞を蒔いたカバーガラスを、10mM BrUTPを含有するKH緩衝液と共に10分間インキュベーションする。次に、BrUTP KH緩衝液を除去し、20% FCSを含有する成長培地中で細胞を30分間インキュベーションし、転写物をチェイス(chase)してから固定する。細胞を100%メタノール中で−20℃で20分間固定し、5分間風乾し、PBSで5分間再水和させる。次に、モノクローナル抗BrdU抗体(Sigma-Aldrich)を使用してBrUTPの取込みを検出する。
【0143】
成長曲線
6ウェルプレートのウェル1個あたり105個の細胞を蒔き、毎日細胞をトリプシン処理し、採取し、Casy(登録商標)細胞カウンター(Schaerfe System)で計数する。実験をウェル2組の重複で行い、2回繰り返す。
【0144】
ポリソームプロファイル
細胞をシクロヘキシミド(100μg/ml、10分間)で処理し、20mM Tris−HCl(pH7.5)、5mM MgCl2、100mM KCl、2.5mM DTT、100μg/mlシクロヘキシミド、0.5% NP40、0.1mg/mlヘパリン及び200U/ml RNAse阻害剤中で4℃で溶解させる。8000gで5分間遠心分離後に、上清を15%〜45%スクロース勾配にロードし、28000rpm、4℃で4時間遠心分離する。200μlの画分を採取し、個別の画分の吸光度を260nmで測定する。
【0145】
タンパク質の生産
構成的SEAP(pCAG−SEAP)又はルシフェラーゼ発現ベクター(pCMV−ルシフェラーゼ)のトランスフェクションの48時間後にタンパク質の生産を評価する。SEAP生産をp−ニトロフェニルリン酸(nitrophenyphospate)ベースの吸光度の経時変化によって測定する。製造業者の説明書(Applied biosystems、Tropix(登録商標)ルシフェラーゼアッセイキット)にしたがってルシフェラーゼのプロファイリングを行う。値を細胞数及びトランスフェクション効率に対して基準化する。GFP発現ベクター(GFP−C1、Clontech)をトランスフェクションされた細胞のフローサイトメトリー分析によってトランスフェクション効率を測定する。全ての実験を3組の重複で行い、3回繰り返す。
【0146】
懸濁細胞の細胞培養
生産及び開発規模で使用される全ての細胞系を、インキュベーター(Thermo, Germany)に入れた表面通気T−フラスコ(Nunc, Denmark)又は振盪フラスコ(Nunc, Denmark)中で、温度37℃で5% CO2含有雰囲気中で接種用保存継代培養物の状態で維持する。接種用保存培養物を細胞1〜3×105個/mLの播種密度で2〜3日毎に継代培養する。血球計数器を使用することによって、細胞濃度を全ての培養物において決定する。トリパンブルー排除法によって生存率を評価する。
【0147】
流加培養
125ml振盪フラスコに入れた、抗生物質もMTXも有さないBI専売の生産培地(Sigma-Aldrich, Germany)30mlに細胞を3×105個/mlで蒔く。培養物を37℃及び5% CO2中で120rpmで撹拌し、3日目以降はCO2を2%に低下させる。BI専売の流加液を毎日加え、必要に応じてpHをNaCO3を用いてpH7.0に調整する。CEDEX自動細胞定量システム(Innovatis)を使用して、トリパンブルー排除によって細胞密度及び生存率を決定する。
【0148】
抗体生産細胞の生成
IgG1型抗体の重鎖及び軽鎖をコードする発現プラスミドをCHO−K1又はCHO−DG44細胞(Urlaub et al., Cell 1983)に安定トランスフェクションする。発現プラスミドによってコードされるそれぞれの抗生物質の存在下でトランスフェクションされた細胞を培養することによって選択を実施する。約3週間選択した後で、安定な細胞集団を得て、2〜3日毎に継代培養しながら標準的な保存培養方式によりさらに培養する。次の(随意の)ステップでは、安定トランスフェクションされた細胞集団のFACSベースの単一細胞クローニングを実施して、モノクローナル細胞系を生成させる。
【0149】
リコンビナント抗体濃度の決定
トランスフェクションされた細胞におけるリコンビナント抗体生産を評価するために、3回の連続する継代の各継代の終了時に標準接種培養物から、細胞上清由来試料を採取する。次に、酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)によって産物濃度を分析する。ヒト−Fcフラグメントに対する抗体(Jackson Immuno Research Laboratories)及びHRPコンジュゲーション型ヒトκ軽鎖に対する抗体(Sigma)を使用して、分泌型モノクローナル抗体産物の濃度を測定する。
【0150】
実施例
実施例1:TIP−5のノックダウン
リコンビナントタンパク質の合成増大のために細胞を操作することを目指して、本発明者らは、サイレントなrRNA遺伝子の数の減少が45SプレrRNA合成を高め、その結果としてリボソームバイオジェネシスも刺激し、翻訳コンピテントリボソームの数を増大させるかどうかを判定する。したがって、本発明者らは、TIP5の発現をノックダウンするRNA干渉を使用し、二つの異なる領域のTIP5(TIP5−1及びTIP5−2)に特異的なshRNA/miRNA配列を使用して、安定なトランスジェニックshRNA発現NIH/3T3又はmiRNA発現HEK293T及びCHO−K1を構築した。スクランブル設計したshRNA配列及びmiRNA配列を発現している安定細胞系を対照として使用する。shRNA−TIP5配列又はmiRNA−TIP5配列を発現しているプラスミドの一過性トランスフェクションを行うことよりもむしろ安定細胞系を生産させることには二つの理由がある。第一に、CpGメチル化のような抑制的なエピジェネティックマークの消失は、複数の細胞分裂を必要とする受動的なメカニズムである。第二に、たとえHEK293T細胞を比較的容易にトランスフェクションすることができるとしても、NIH/3T3及びCHO−K1細胞の低いトランスフェクション効率は、内因性rRNA、リボソームレベル及び細胞成長の性質のその後の分析を損なうであろう。選択されたクローンにおけるTIP5ノックダウンの効率を決定するために、本発明者らは、定量及び半定量逆転写酵素介在性PCRによってTIP5 mRNAレベルを測定する(図1)。TIP5の発現は、対照細胞に比べてNIH/3T3/shRNA−TIP5−1及びNIH/3T3/shRNA−TIP5−2細胞の方が約70〜80%減少する(図1A)。TIP5 mRNAレベルにおける類似の低下が安定なHEK293Tで観察される(図1B)。CHO−K1由来細胞におけるTIP5 mRNAレベルは、半定量PCRによってのみ測定することができる(図1C)が、TIP5 mRNAの低下は、安定なNIH/3T3細胞及びHEK293T細胞に類似している。これらの結果は、樹立細胞系が低レベルのTIP5を含有することを実証している。
【0151】
実施例2:TIP−5のノックダウンはrDNAメチル化の低下へと導く
NIH/3T3細胞において、約40%〜50%のrRNA遺伝子がCpG−メチル化配列を有し、転写的にサイレントである。ヒト、マウス及びチャイニーズハムスターにおけるrDNAプロモーターの配列及びCpG密度は顕著に異なる。ヒトでは、rDNAプロモーターは23個のCpGを有し、一方マウス及びチャイニーズハムスターではそれぞれ3個及び8個のCpGがある(図2A〜C)。TIP5のノックダウンがrDNAのサイレンシングに影響することを検証するために、本発明者らは、CCGG配列におけるmeCpGの量を測定することによってrDNAメチル化のレベルを決定する。ゲノムDNAをHpaIIで消化し、消化に対する抵抗性(すなわちCpGメチル化)を、HpaII配列(CCGG)を包含するプライマーを使用する定量リアルタイムPCRによって測定する。全てのTIP5ノックダウン細胞系における大部分のrRNA遺伝子のプロモーター領域内にCpGメチル化の減少があり、rDNAサイレンシングの促進に果たすTIP5の重要な役割を強調している(図2)。
【0152】
特に、TIP5の結合及びde novoメチル化はrDNAプロモーター配列に限定されるものの、TIP−5低下NIH3T3細胞におけるCpGメチル化の量は、rDNA遺伝子全体(遺伝子内領域、プロモーター領域及びコード領域;図2D、E)にわたり減少し、TIP5がいったんrDNAプロモーターに結合すると、rDNAローカスに全体にサイレントなエピジェネティックのマークを樹立する拡散メカニズムを開始することを示している。
【0153】
実施例3:TIP−5ノックダウン細胞におけるrRNAレベルの増大
サイレントな遺伝子数の減少がrRNA転写物の量に影響するかどうかを判定するために、本発明者らは、第一rRNAプロセシング部位(図3A)を包含したプライマーを使用するqRT−PCR及びin vivo BrUTP取込み(図3B)によって、45SプレrRNA合成を測定する。予想通り、両方の分析によって、TIP5枯渇NIH/3T3細胞及びTIP5枯渇HEK293T細胞の両方において、対照細胞系に比べてrRNA生産の強化が検出される。
【0154】
実施例4:TIP−5の枯渇は増殖及び細胞成長の増大へと導く
Rasは、ヒトのガンで多くの場合に突然変異又は過剰発現している、細胞トランスフォーメーション及び腫瘍形成に関与する周知のガン遺伝子である。Greenら、2009;国際公開公報第2009/017670号は、包括的miRNA選別からTIP−5がFasのRas介在性エピジェネティックサイレンシングエフェクター(RESE)として機能することを確認したと記載している。その公報は、TIP−5などのRasエフェクターの発現低下が細胞増殖阻害を招くことを記載している。
【0155】
本発明者らは、フローサイトメトリー(FACS)によって両方のshRNA−TIP5細胞を分析する。図4A、Bに示すように、S期の細胞数は、対照細胞に比べて両方のshRNA−TIP5細胞の方が顕著に高い。TIP5配列に対するmiRNAを発現しているレトロウイルスを感染させた10日後のNIH3T3細胞から、類似のプロファイルが得られる。これらの結果に一致して、shRNA TIP5細胞は、新生DNAへの5−ブロモデオキシウリジン(BrdU)の取込み増大及びさらに高レベルのサイクリンAを示す(図4C)。
【0156】
最終的に本発明者らは、shRNA−TIP5、shRNA対照及び親のNIH3T3、HEK293及びCHO−K1細胞の間で細胞増殖速度を比較する(図4D〜F)。驚くことに、そして先行技術の報告と対照的に、miRNA−TIP5配列を発現しているNIH/3T3細胞及びCHO−K1細胞の両方が、対照細胞よりも速い速度で増殖し、サイレントなrRNA遺伝子の数の減少が実際に細胞代謝に影響を有することを示唆している。HEK293TにおけるTIP5枯渇は、あまり細胞増殖に影響しない。それは、これらの細胞がすでにその最大増殖速度に達していたからである。これらのデータは、驚くことにTIP5の枯渇及びその結果のrDNAサイレンシングの減少が細胞増殖を高めることを示す。
【0157】
実施例5:TIP−5ノックダウン細胞におけるリボソーム分析
哺乳動物細胞培養において、タンパク質合成速度は、産物の収量に直接関係する重要なパラメーターである。TIP5の枯渇及び結果としてのrDNAサイレンシングの減少が細胞における翻訳コンピテントなリボソーム数を増大させるかどうかを判定するために、本発明者らは、最初、細胞質rRNAレベルを測定する。細胞質において、大部分のRNAは、リボソームに集合したプロセシング済みrRNAから成る。図5A〜Cに示すように、全てのTIP5枯渇細胞系は、細胞あたり、より多くの細胞質RNAを含有し、これらの細胞がより多くのリボソームを生産することを示している。また、ポリソームプロファイルの分析は、TIP5枯渇HEK293細胞及びTIP5枯渇CHO−K1細胞が対照細胞に比べて多くのリボソームサブユニット(40S、60S及び80S)を含有することを示す(図5D)。
【0158】
実施例6:TIP−5のノックダウンはレポータータンパク質の生産強化へと導く
TIP5の枯渇及びrDNAサイレンシングの減少が異種タンパク質の生産を高めるかどうか判定するために、本発明者らは、安定なTIP5枯渇NIH/3T3、HEK293T及びCHO−K1誘導体に、ヒト胎盤分泌型アルカリホスファターゼSEAP又はルシフェラーゼの構成的発現を促進する発現ベクター(それぞれpCAG−SEAP;図6A〜C又はpCMV−ルシフェラーゼ;図6D、E)をトランスフェクションする。48時間後のタンパク質生産の定量から、対照細胞に比べてTIP5枯渇細胞の方がSEAP及びルシフェラーゼの両方の生産が2〜4倍に増大することが明らかとなり、TIP5の枯渇が異種タンパク質の生産を増大させることを示している。これら結果の全ては、サイレントなrRNA遺伝子の数の減少が、リボソーム合成を高め、細胞がリコンビナントタンパク質を生産する能力を増大させることを示す。
【0159】
実施例7:TIP−5のノックアウトは単球走化性タンパク質1(MCP−1)のバイオ医薬品生産を増大させる
(a)単球走化性タンパク質1(MCP−1)を分泌しているCHO細胞系(CHO DG44)に、空のベクター(疑似対照)又はTIP−5の発現をノックダウンするように設計された小RNA(shRNA又はRNAi)をトランスフェクションする。続いて、細胞を選択に供し、安定な細胞プールを得る。続く6回の継代の間に、疑似細胞プール及びTIP−5枯渇安定細胞プールの両方の接種用保存培養物から上清を採取し、ELISAによってMCP−1力価を決定し、平均細胞数で除算し、比生産性を計算する。最高のMCP−1力価は、最も効率的にTIP−5を枯渇した細胞プールで認められ、一方でタンパク質濃度は、疑似トランスフェクション細胞又は親細胞系の方が顕著に低い。
【0160】
b)CHOホスト細胞(CHO DG44)に最初に短いRNA配列(shRNA又はRNAi)をトランスフェクションし、TIP−5の発現を低下させ、安定なTIP−5枯渇ホスト細胞系を生成させる。続いてこれらの細胞系及び並行してCHO DG44野生型細胞に、関心が持たれる遺伝子として単球走化性タンパク質1(MCP−1)をコードするベクターをトランスフェクションする。2ラウンドの選択後に、その後4回の継代期間にわたり全ての安定な細胞プールの接種用保存培養物から上清を採取し、MCP−1力価をELISAによって決定し、平均細胞数で除算し、比生産性を計算する。最高のMCP−1力価及び生産性は、最も効率的にTIP−5を枯渇した細胞プールで認められ、一方でタンパク質濃度は、疑似トランスフェクション細胞又は親細胞系の方が顕著に低い。
【0161】
c)a)又はb)に記載されたまさにその細胞を回分発酵又は流加発酵に供する場合、全体的なMCP−1力価の差はなおいっそう顕著になる。TIP−5の発現が低下した、トランスフェクションされた細胞が細胞及び時間あたり、より速く成長し、より多くのタンパク質も生産することから、それらはより高いIVCを示し、同時により高い生産性を示す。両方の性質は、全体的なプロセス収量に正の影響を与える。したがって、TIP−5欠失細胞は、顕著に高いMCP−1収集物力価を有し、より効率的な生産プロセスへと導く。
【0162】
実施例8:TIP−5遺伝子のノックアウトはrRNAの転写を増大させ増殖を最も効率的に高める
TIP−5の発現が常に低下したレベルの、改良された生産ホスト細胞系を生成させる最も効率的な方法は、TIP−5遺伝子の完全ノックアウトを生成させることである。このために、TIP−5遺伝子を破壊してその発現を阻止するために相同組換えを使用するか、又はジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)技法を採用するかのいずれかを行うことができる。相同組換えはCHO細胞において効率的ではないことから、本発明者らは、TIP−5遺伝子内に二本鎖切断を導入することによりそれを機能的に破壊するZFNを設計する。TIP−5の効率的なノックアウトを確認するために、抗TIP−5抗体を使用してウエスタンブロットを行う。TIP−5ノックアウト細胞では膜上にTIP−5の発現は検出されず、親CHO細胞系は、TIP−5タンパク質に対応する明瞭なシグナルを示す。
【0163】
次に、TIP−5ノックアウトCHO細胞及び親CHO細胞系においてrRNA転写を分析する。このアッセイは、両方の親細胞に比べて、そしてまたTIP−5発現レベルだけが低下した細胞に比べて、TIP−5ノックアウト細胞の方が高いレベルのrRNA合成及び増大したリボソーム数であることを確認する。
【0164】
さらに、TIP5野生型細胞及びTIP−5の発現だけが干渉性RNA(shRNA又はRNAiなど)の誘導によって低下した細胞系に比べて、TIP−5欠損細胞の方が流加プロセスにおいて速く増殖し、高い細胞数を示す。
【0165】
実施例9:TIP−5枯渇細胞における治療用抗体の生産強化
(a)ヒトIgGサブタイプモノクローナル抗体を分泌しているCHO細胞系(CHO DG44)に空のベクター(模擬対照)又はTIP−5発現をノックダウンするように設計された小RNA(shRNA又はRNAi)をトランスフェクションする。続いて細胞を選択に供し、安定な細胞プールを得る。又は、TIP−5遺伝子の欠失(ノックアウト)によってTIP−5を枯渇させる。続く6回の継代の間に、疑似細胞プール及びTIP−5枯渇安定細胞プールの両方の接種用保存培養物から上清を採取し、抗体力価をELISAによって決定し、細胞の平均数で除算し、比生産性を計算する。最高のIgG力価をTIP−5枯渇細胞の培養物から測定し、一方でタンパク質濃度は、疑似トランスフェクションされた細胞又は親細胞系の方が顕著に低い。
【0166】
b)TIP−5配列にハイブリダイゼーションする短いRNA配列(shRNA又はRNAi)のトランスフェクション又はTIP−5遺伝子の安定ノックアウトのいずれかによって、CHOホスト細胞(CHO DG44)からTIP−5を枯渇させる。続いてこれらの細胞系及び並行してCHO DG44野生型細胞に、関心が持たれる遺伝子として抗体の重鎖及び軽鎖をコードする発現構築物をトランスフェクションする。安定トランスフェクションされた細胞集団を生成させ、その後4回の継代期間にわたり全ての安定細胞プールの接種保存培養物から上清を採取する。培養上清中の抗体濃度をELISAによって決定し、平均細胞数で除算し、比生産性を計算する。TIP−5枯渇細胞から得られた細胞プールは、顕著に低いIgG量を生産する疑似対照及び親の非改変DG44細胞系に比べて最高の抗体力価及び生産性を示す。
c)a)又はb)に記載されたその細胞が回分発酵又は流加発酵に供される場合、抗体力価全体における差は、なおいっそう顕著になる:TIP−5枯渇細胞は、細胞及び時間あたりより速く成長し、より多くのタンパク質も生成することから、それらは、より高いIVCを示し、同時により高い生産性を示す。両方の性質は、全体的なプロセス収量に正の影響を与える。したがって、TIP−5枯渇細胞は、顕著に高いIgG収集物力価を有し、より効率の高い生産プロセスへと導く。
【0167】
実施例10:タンパク質の生産増大及び細胞成長の改良へと導くSNF2Hのノックダウン
(a)ヒトモノクローナルIgGサブタイプ抗体を分泌しているCHO細胞系(CHO DG44)に空のベクター(疑似対照)又はSNF2Hの発現をノックダウンするように設計された小RNA(shRNA又はRNAi)をトランスフェクションする。続いて細胞を選択に供し、安定な細胞プールを得る。又は、SNF2H遺伝子の欠失/破壊によってSNF2Hを枯渇させる(ノックアウト)。続く6回の継代の間に、疑似細胞プール及びSNF2H枯渇安定細胞プールの両方の接種用保存培養物から上清を取り出し、ELISAによって抗体力価を決定し、平均細胞数で除算して比生産性を計算する。SNF2H枯渇細胞の培養物から最高のIgG力価を測定するが、タンパク質濃度は、疑似トランスフェクションされた細胞又は親細胞系の方が顕著に低い。
【0168】
b)SNF2H配列にハイブリダイゼーションする短鎖RNA配列(shRNA又はRNAi)のトランスフェクション又はSNF2H遺伝子の安定ノックアウトのいずれかによって、CHOホスト細胞(CHO DG44)からSNF2Hを枯渇させる。続いてこれらの細胞系及び並行してCHO DG44野生型細胞に、関心が持たれるタンパク質として抗体の重鎖及び軽鎖をコードする発現構築物をトランスフェクションする。安定的にトランスフェクションされた細胞集団を生成させ、その後4回の継代期間にわたり全ての安定細胞プールの接種用保存培養物から上清を取り出す。培養上清中の抗体濃度をELISAによって決定し、平均細胞数で除算し、比生産性を計算する。SNF2H枯渇細胞から得られた細胞プールは、顕著に低いIgG量を生産する疑似対照及び親の非改変DG44細胞系に比べて最高の抗体力価及び生産性を示す。
【0169】
c)a)又はb)に記載されたその細胞が回分発酵又は流加発酵に供される場合、抗体力価全体における差は、なおいっそう顕著になる。SNF2H枯渇細胞は、細胞及び時間あたりより速く成長し、より多くのタンパク質も生成することから、それらは、より高いIVCを示し、同時により高い生産性を示す。両方の性質は、全体的なプロセス収量にプラスの影響を有する。したがって、SNF2H枯渇細胞は、顕著に高いIgG収集物力価を有し、より効率の高い生産プロセスへと導く。
【0170】
【表2】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞におけるリコンビナントタンパク質の発現を増大させる方法であって、
a. 細胞を提供すること、
b. 該細胞におけるリボソームRNA遺伝子(rDNA)のサイレンシングを低下させること、及び
c. タンパク質の発現を可能にする条件で該細胞を培養すること
を含む方法。
【請求項2】
rDNAのサイレンシングが低下していない細胞に比べて、細胞においてリコンビナントタンパク質の発現が増大しており、好ましくは該増大が、20%〜100%、さらに好ましくは20%〜300%であり、最も好ましくは20%よりも大きい、請求項1記載の方法。
【請求項3】
ステップb)が、核小体リモデリング複合体(NoRC)の構成要素のノックダウン又はノックアウトを含む、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
NoRC構成要素が、TIP−5又はSNF2H、好ましくはTIP−5である、請求項3記載の方法。
【請求項5】
TIP−5が、ノックアウトされている、請求項1〜4のいずれか一項記載の方法。
【請求項6】
TIP−5サイレンシングベクターが:
a. 配列番号1、配列番号2、配列番号8もしくは配列番号9記載のshRNA、又は
b. 配列番号3、配列番号4、配列番号10もしくは配列番号11記載のmiRNA
を含む、請求項5記載の方法。
【請求項7】
SNF2Hがノックアウトされている、請求項1〜4のいずれか一項記載の方法。
【請求項8】
細胞において関心が持たれるタンパク質を生産する方法であって、
a. 細胞を提供すること、
b. 該細胞におけるリボソームRNA遺伝子(rDNA)のサイレンシングを低下させること、
c. 関心が持たれる該タンパク質の発現を可能にする条件で該細胞を培養すること
を含む方法。
【請求項9】
d. 関心が持たれるタンパク質を精製すること
を追加的に含む、請求項8記載の方法。
【請求項10】
ステップb)が、核小体リモデリング複合体(NoRC)の構成要素のノックダウン又はノックアウトを含む、請求項8又は9記載の方法。
【請求項11】
NoRC構成要素が、TIP−5又はSNF2H、好ましくはTIP−5である、請求項10記載の方法。
【請求項12】
リコンビナントタンパク質の生産のためにホスト細胞を生成させる方法であって、
a. 細胞を提供すること、
b. 該細胞におけるリボソームRNA遺伝子(rDNA)のサイレンシングを低下させること、
c. 場合により単一細胞クローンを選択すること、
d. ホスト細胞を得ること
を含む方法。
【請求項13】
ステップb)が、核小体リモデリング複合体(NoRC)の構成要素のノックダウン又はノックアウトを含む、請求項12記載の方法。
【請求項14】
NoRC構成要素が、TIP−5又はSNF 2H、好ましくはTIP−5である、請求項13記載の方法。
【請求項15】
請求項12〜14記載の方法のいずれかにより生成された細胞。
【請求項16】
チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、好ましくはCHO−DG44、CHO−K1、CHO−S又はCHO−DUKX B11、最も好ましくはCHO−DG44細胞である、請求項15記載の細胞。
【請求項17】
a. 配列番号1、配列番号2、配列番号8もしくは配列番号9記載のshRNA、又は
b. 配列番号3、配列番号4、配列番号10もしくは配列番号11記載のmiRNA
を含む、TIP−5サイレンシングベクター。
【請求項18】
請求項17記載のTIP−5サイレンシングベクター及び場合により関心が持たれるタンパク質をコードする遺伝子を含む発現カセットを有するベクターを含む細胞。
【請求項19】
TIP−5がノックアウトされた細胞であって、場合により関心が持たれるタンパク質をコードする遺伝子を含む発現カセットを包含するベクターを含む細胞。
【請求項1】
細胞におけるリコンビナントタンパク質の発現を増大させる方法であって、
a. 細胞を提供すること、
b. 該細胞におけるリボソームRNA遺伝子(rDNA)のサイレンシングを低下させること、及び
c. タンパク質の発現を可能にする条件で該細胞を培養すること
を含む方法。
【請求項2】
rDNAのサイレンシングが低下していない細胞に比べて、細胞においてリコンビナントタンパク質の発現が増大しており、好ましくは該増大が、20%〜100%、さらに好ましくは20%〜300%であり、最も好ましくは20%よりも大きい、請求項1記載の方法。
【請求項3】
ステップb)が、核小体リモデリング複合体(NoRC)の構成要素のノックダウン又はノックアウトを含む、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
NoRC構成要素が、TIP−5又はSNF2H、好ましくはTIP−5である、請求項3記載の方法。
【請求項5】
TIP−5が、ノックアウトされている、請求項1〜4のいずれか一項記載の方法。
【請求項6】
TIP−5サイレンシングベクターが:
a. 配列番号1、配列番号2、配列番号8もしくは配列番号9記載のshRNA、又は
b. 配列番号3、配列番号4、配列番号10もしくは配列番号11記載のmiRNA
を含む、請求項5記載の方法。
【請求項7】
SNF2Hがノックアウトされている、請求項1〜4のいずれか一項記載の方法。
【請求項8】
細胞において関心が持たれるタンパク質を生産する方法であって、
a. 細胞を提供すること、
b. 該細胞におけるリボソームRNA遺伝子(rDNA)のサイレンシングを低下させること、
c. 関心が持たれる該タンパク質の発現を可能にする条件で該細胞を培養すること
を含む方法。
【請求項9】
d. 関心が持たれるタンパク質を精製すること
を追加的に含む、請求項8記載の方法。
【請求項10】
ステップb)が、核小体リモデリング複合体(NoRC)の構成要素のノックダウン又はノックアウトを含む、請求項8又は9記載の方法。
【請求項11】
NoRC構成要素が、TIP−5又はSNF2H、好ましくはTIP−5である、請求項10記載の方法。
【請求項12】
リコンビナントタンパク質の生産のためにホスト細胞を生成させる方法であって、
a. 細胞を提供すること、
b. 該細胞におけるリボソームRNA遺伝子(rDNA)のサイレンシングを低下させること、
c. 場合により単一細胞クローンを選択すること、
d. ホスト細胞を得ること
を含む方法。
【請求項13】
ステップb)が、核小体リモデリング複合体(NoRC)の構成要素のノックダウン又はノックアウトを含む、請求項12記載の方法。
【請求項14】
NoRC構成要素が、TIP−5又はSNF 2H、好ましくはTIP−5である、請求項13記載の方法。
【請求項15】
請求項12〜14記載の方法のいずれかにより生成された細胞。
【請求項16】
チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、好ましくはCHO−DG44、CHO−K1、CHO−S又はCHO−DUKX B11、最も好ましくはCHO−DG44細胞である、請求項15記載の細胞。
【請求項17】
a. 配列番号1、配列番号2、配列番号8もしくは配列番号9記載のshRNA、又は
b. 配列番号3、配列番号4、配列番号10もしくは配列番号11記載のmiRNA
を含む、TIP−5サイレンシングベクター。
【請求項18】
請求項17記載のTIP−5サイレンシングベクター及び場合により関心が持たれるタンパク質をコードする遺伝子を含む発現カセットを有するベクターを含む細胞。
【請求項19】
TIP−5がノックアウトされた細胞であって、場合により関心が持たれるタンパク質をコードする遺伝子を含む発現カセットを包含するベクターを含む細胞。
【図1C】
【図1A】
【図1B】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図2D】
【図2E】
【図3A】
【図3B】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図4D】
【図4E】
【図4F】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図5D】
【図5E】
【図6A】
【図6B】
【図6C】
【図6D】
【図6E】
【図1A】
【図1B】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図2D】
【図2E】
【図3A】
【図3B】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図4D】
【図4E】
【図4F】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図5D】
【図5E】
【図6A】
【図6B】
【図6C】
【図6D】
【図6E】
【公表番号】特表2012−526535(P2012−526535A)
【公表日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−510302(P2012−510302)
【出願日】平成22年5月12日(2010.5.12)
【国際出願番号】PCT/EP2010/056583
【国際公開番号】WO2010/130800
【国際公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【出願人】(503385923)ベーリンガー インゲルハイム インターナショナル ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (976)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年5月12日(2010.5.12)
【国際出願番号】PCT/EP2010/056583
【国際公開番号】WO2010/130800
【国際公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【出願人】(503385923)ベーリンガー インゲルハイム インターナショナル ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (976)
【Fターム(参考)】
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