説明

PB−カルコゲニドナノ粒子の形状および寸法を制御する方法

【課題】Pb−カルコゲニドナノ粒子の形状及び寸法を制御し、製造する方法。
【解決手段】この方法は、炭化水素溶液に溶解したカルボン酸及びPbを含有するPb(鉛)前駆体を調製すること、及び炭化水素溶液に溶解したカルコゲン元素を含有するカルコゲン元素前駆体を調製すること、を含む。Pb前駆体はカルコゲン元素前駆体と混合されて、Pb−カルコゲン混合物を生成する。界面活性剤を含む核生成及び成長溶液はまた、核生成温度へその溶液を加熱することによって、調製される。Pb−カルコゲン元素混合物を加熱された核生成及び成長溶液に注入すると、Pb−カルコゲニドナノ粒子が核生成し、及びPb−カルコゲニドナノ粒子溶液が生成され、これはその後核生成温度よりも低い成長温度まで冷却される。成長温度にあるPb−カルコゲニドナノ粒子溶液は、予め決められた時間その成長温度に保持される。核生成・成長溶液。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は概してPb−カルコゲニドナノ粒子に関係する。より具体的には、本発明はPb−カルコゲニドナノ粒子の形状および寸法を制御する方法に関係する。
【背景技術】
【0002】
Pb(鉛)−カルコゲニド材料の大きなボーア半径と小さなバンドギャップは、太陽電池、熱電デバイス、電気通信機器、電界効果トランジスタおよび生体撮像における潜在的用途に関して、ユニークな、光学的、電気的および化学的な特性を可能にする。しかしながら、これらのデバイスにPb−カルコゲニド材料を組み込むにはそれらの特性を正確に制御することを要求する。Pb−カルコゲニド材料の特性を制御する方法は、この材料の形状および寸法を制御することである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
Pb−カルコゲニドナノ粒子はIV−VI族のナノ粒子であり、これらは光学および放射特性を調節可能な寸法のために特に興味深い。Pb−カルコゲニドナノ粒子を調製するいくつかの方法が研究されているが、各々が重大な欠陥を有し、これらの材料に基づく技術の発展を制限している。このように、Pb−カルコゲニドナノ粒子の形状および寸法を制御し、製造する方法の改善が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0004】
Pb−カルコゲニドナノ粒子の形状および寸法を制御し、製造する方法が開示される。この方法は、炭化水素溶液に溶解したカルボン酸およびPbを含有するPb(鉛)前駆体を調製すること、および炭化水素溶液に溶解したカルコゲン元素を含有するカルコゲン元素前駆体を調製すること、を含む。それぞれの前駆体におけるPbおよびカルコゲンの量は、Pb前駆体がカルコゲン元素前駆体と混合されたときに予め決められたPb:カルコゲン元素比で存在するようにすることができる。Pb前駆体はカルコゲン元素前駆体と混合されて、Pb−カルコゲニドナノ粒子の核生成が生じないようなやり方でPb−カルコゲン混合物を生成する。また界面活性剤を含む核生成・成長溶液も、Pb−カルコゲン元素混合物が加えられるとナノ粒子を十分に核生成する核生成温度へその溶液を加熱することによって、準備される。Pb−カルコゲン元素混合物を加熱された核生成・成長溶液に注入すると、Pb−カルコゲニドナノ粒子が核生成し、およびPb−カルコゲニドナノ粒子溶液が生成され、これはその後核生成温度よりも低い成長温度まで冷却される。成長温度にあるPb−カルコゲニドナノ粒子溶液は、所望のナノ粒子寸法が得られるように、予め決められた時間その成長温度に保持される。核生成・成長溶液中の界面活性剤およびPb:カルコゲン元素比は、Pb−カルコゲニドナノ粒子の形状を制御可能である。核生成温度、成長温度、Pb−カルコゲニドナノ粒子溶液が成長温度で保持される時間、および界面活性剤は、Pb−カルコゲニドナノ粒子の寸法を制御可能である。
【0005】
本発明の一実施態様において、Pb−カルコゲニドナノ粒子の形状および寸法を制御する方法は、100〜200℃の高温に加熱されおよび10分超の時間この温度に保たれるジフェニルエーテル(DPE)またはトリオクチルホスフィン(TOP)に溶解したオレイン酸およびPb−酢酸塩三水和物を含むPb前駆体を調製することを含む。この後、Pb前駆体は前述の保持温度よりも低い温度に冷却される。TOPに溶解したテルルを含有するテルル(Te)前駆体も、Pb前駆体がTe前駆体と混合されたときに予め決められたPb:Te比になるように、Te含有物で調製される。Pb前駆体はTe前駆体と混合されて、PbTeナノ粒子の核生成が生じないように、Pb−Te混合前駆体を生成する。TOPまたはDPEに溶解したホスホン酸またはアミンの形態で界面活性剤を含む核生成・成長溶液が調製され、および200℃から核生成・成長溶液の沸点までの核生成温度まで加熱される。Pb−Te混合物が、加熱された核生成・成長溶液に注入され、PbTeナノ粒子混合物が生成し、そこでPbTeナノ粒子が核生成する。Pb−Te混合物が核生成・成長溶液に注入され、PbTeナノ粒子混合物を生成した後、PbTeナノ粒子混合物は100〜200℃の成長温度に冷却される。PbTeナノ粒子混合物は、予め決められたナノ粒子寸法が得られるように、2〜10分間この成長温度に保持される。Pb−Te混合物におけるPb:Te比および界面活性剤がPbTeナノ粒子の形状を決定する。界面活性剤および成長温度にある時間が、PbTeナノ粒子の寸法を決定する。このやり方で、PbTeナノ粒子の形状および寸法を制御する方法が提供され、ここで球体形状、立方体形状、立方八面体形状、または八面体形状を有するナノ粒子が製造される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明はPb−カルコゲニドナノ粒子を製造し、およびその形状および寸法を制御する方法を提供する。本発明それ自体は、太陽電池、熱電デバイス、電気通信機器、電界効果トランジスタおよび生体撮像機器およびこれらに類するものを改善するために使用されうる半導体材料を製造する方法としての実用性を有する。
【0007】
本発明の方法は、Pb−カルコゲニドナノ粒子を製造し、およびその形状および寸法を制御する。この方法は、適当な界面活性剤、Pb:カルコゲン元素比、反応温度および反応時間を選択することにより、ナノ粒子の形状および寸法を制御する。ある事例では、Pb:カルコゲン比がPb−カルコゲニドナノ粒子の形状を決定しうる。他の事例では、ホスホン酸またはアミンの形の界面活性剤を選択することで、Pb−カルコゲニドナノ粒子の形状を決めることができる。さらに他の事例では、ジフェニルエーテル(DPE)またはトリオクチルホスフィン(TOP)から成長溶液を選択することで、Pb−カルコゲニドナノ粒子の形状を制御できる。ナノ粒子の寸法を制御することは、予め決められた成長温度および/または成長時間を選択することによって実施されうる。特定のホスホン酸の使用も、Pb−カルコゲニドナノ粒子の寸法を制御するために用いることができ、ここで、短めの炭化水素鎖を有するホスホン酸を使用して製造されたナノ粒子と比較すると、長めの炭化水素鎖を有するホスホン酸はより小さい寸法のナノ粒子を製造可能である。
【0008】
本発明の方法は、第一の前駆体を調製することを含み、これはPb、カルボン酸、および炭化水素溶液を含有する。ある例では、カルボン酸はモノ不飽和オメガ−9脂肪酸であり、およびオレイン酸を含んでもよい。別の例では、炭化水素溶液は(R)−Xの形態であってもよく、ここでRはC〜C12アルキルまたはC〜C12アリールからなる群から選択され、nは2または3に等しく、そしてXは酸素原子およびリン原子からなる群から選択される。ある事例では、炭化水素溶液はトリオクチルホスフィン(TOP)またはジフェニルエーテル(DPE)であってもよい。Pbは、Pb酸化物、Pb酢酸塩三水和物およびこれらに類するものの形態であるPb含有化合物であってもよい。Pb含有化合物およびカルボン酸は炭化水素溶液に溶解される。
【0009】
本発明の実施態様において、Pb含有化合物およびカルボン酸をTOPまたはDPEに加え、およびその混合物を予め決められた時間高温に加熱することによって、これらの成分はTOPまたはDPEに溶解される、ある例では、Pb含有化合物およびカルボン酸がTOPまたはDPEに加えられ、これがアルゴン雰囲気下で10分超の間100〜200℃の温度に加熱される。Pbオレイン酸塩錯体が生成することができ、これはその後乾燥され予め決められた所望のレベル、例えば0.5%未満、あるいは0.1%未満まで水分を除去される。Pb前駆体が調製された後で、それは100〜200℃より低い温度、例えば室温、50℃およびそれに類する温度に冷却可能である。
【0010】
Pb前駆体に加えて、カルコゲン前駆体が用意され、ここでカルコゲン元素は炭化水素溶液に溶解される。Pb前駆体がカルコゲン前駆体と混合されたときに予め決められたPb:カルコゲン元素比で存在するように、炭化水素溶液に溶解したカルコゲン元素の量が決められる。本発明の例では、Pb:カルコゲン元素比は1:5〜5:1で変化する。
【0011】
Pb前駆体は、カルコゲン前駆体と混合され、そして予め決められたPb:カルコゲン元素比を有するPb−カルコゲン混合物を生成する。Pb−カルコゲニドナノ粒子の核生成を抑制するようなやり方で、Pb前駆体はカルコゲン元素前駆体と混合される。
【0012】
Pb−カルコゲン混合物の調整の前、間、または後のいずれかで、少なくとも一つの界面活性剤を含有する核生成・成長溶液が調製される。この溶液は(R)−Xの形の有機化合物を含むことができ、ここでRはC〜C12アルキルまたはC〜C12アリールであり、nは2または3であり、およびXは酸素またはリンのいずれかであってもよい。界面活性剤は、ホスホン酸、例えばヘキシルホスホン酸(HPA)、n−テトラ−デシルホスホン酸(TDPA)、および/またはオクタデシルホスホン酸(ODPA)、またはアミン、例えばヘキサデシルアミン(HDA)および/またはドデシルアミン(DDA)を含んでもよい。核生成・成長溶液は、Pb−カルコゲン混合物が添加したときにナノ粒子を核生成するのに十分な核生成温度まで加熱される。本発明の例では、核生成温度は200℃〜核生成・成長溶液の沸点までである。
【0013】
核生成・成長溶液を核生成温度まで加熱した後、Pb−カルコゲンナノ粒子が核生成するように、この溶液にPb−カルコゲン混合物を注入することによって、Pb−カルコゲンナノ粒子混合物が生成される。ある事例では、Pb−カルコゲン混合物は核生成・成長溶液に注入され、このとき溶液は勢いよく攪拌される。Pb−カルコゲンナノ粒子混合物が核生成・成長溶液に注入された後、Pb−カルコゲンナノ粒子混合物は成長温度まで冷却され、そしてその成長温度に予め決められた時間保持される。ある事例では、Pb−カルコゲンナノ粒子混合物は100〜200℃の温度に冷却される。Pb−カルコゲンナノ粒子混合物はその成長温度に2〜10分間保持され、その後この混合物は室温まで冷却される。Pb−カルコゲンナノ粒子混合物は、自然冷却または他の望ましい方法によって、水浴を用いて冷却されてもよい。
【0014】
本発明は、所望の形状および寸法を有するPb−カルコゲニドナノ粒子を製造するために、Pb:カルコゲン比、界面活性剤、核生成温度、成長温度および成長温度に保つ時間を選択することができることが理解される。本発明をより良く説明するために、発明の範囲を制限することなく、制御された形状および寸法を有するPb−カルコゲンナノ粒子の製造方法の例が以下に続けられる。
【実施例】
【0015】
例1
一連の試験を実施し、ここでPbTeナノ粒子の形状はPb:Teモル比の選択を通じて制御した。反応は、界面活性剤としてのHDAアミンを有するTOPまたはDPEを含有する核生成・成長溶液中で起こした。Pb前駆体は、10mLのDPEに溶解した1ミリリットル(mL)のオレイン酸中に0.4gのPb酢酸塩三水和物を溶解することによって調製した。この前駆体をアルゴン下で30分間150℃まで加熱し、その結果としてPbオレイン酸塩錯体の生成をもたらし、これをその後乾燥して過剰な水が存在する場合はその水を除去した。30分の150℃の加熱の後に、Pb前駆体を室温まで冷却し、そして4mLのTOP中にアモルファスTe粉末を溶解することによって生成したTe前駆体と混合した。Pb Te核生成を抑制するために、Te前駆体はゆっくりとPb前駆体に加えた。異なるPb:Teモル比のPb−Te混合物を製造するために、異なる試験ごとに4mLのTOPに溶解させたTeの量は変化させた。
【0016】
Pb Te溶液を、勢いよく攪拌した状態の下で250℃に保持した15mLのDPEに溶解した0.3グラムのHDAを含む核生成・成長溶液に注入した。核生成・成長溶液にPb Te溶液を注入した後、この溶液の温度を約170〜180℃に冷却し、そしてこの温度で3〜4分間保持した。その後、反応混合物を水浴を用いて室温まで冷却した。冷却した溶液を等体積のトルエンおよびメタノールと混合し、およびナノ粒子は5分間の6000rpmの遠心分離によって溶液から分離した。このナノ粒子は、さらなる特徴づけのために、クロロホルムまたはトルエンに再分散させた。
【0017】
一試験は、1:5のPb:Teモル比を用いて行った。この実施態様の結果は、図1Aに示すような約15ナノメートル(nm)の平均線形寸法を有する立方体形状のPb Teナノ粒子をもたらした。本発明の目的に関して、「平均線形寸法」という用語は、高解像度透過型電子顕微鏡でのナノ粒子の観察から測定されるいくつかのナノ粒子の最も長い寸法の平均として定義される。理論には結びつけないが、本発明者らはこの立方体形状の構造はこの粒子面がTeで飽和したことによるものであり、それによりHDAアミンの効果を最小にしたと主張する。
【0018】
別の試験は、5:1のPb:Teモル比を用いて行った。この試験は、結果として図1Cに示されるような八面体形状を有するPb Teナノ粒子および15nmの平均線形寸法をもたらした。これも理論には結びつけないが、本発明者らはこのナノ粒子の面がPb原子で飽和し、{111}面はHDAアミンにより不動態化されるために、{111}面に比べてより速い{100}面の成長を導いたと主張する。
【0019】
さらに、別の製造試験を、1:1のPb:Teモル比を用いて行い、ここで図1Bに示されるような約13nmの平均線形寸法を有する立方八面体形状のPbTeナノ粒子を製造した。このPbのTeに対するモル比の中間的範囲では、{100}面および{111}面が立方八面体形状を形成するように成長する。このやり方で、PbのTeに対するモル比を使用してPb Teナノ粒子の形状が制御される。個々のPb−カルコゲンナノ粒子の寸法を制御するために、他のPb−カルコゲン元素のモル比に変化させることができると理解される。
【0020】
例2
約1:1のPb:Teモル比を用いて試験を行い、核生成・成長溶液内の界面活性剤を変化させた。Pb前駆体は、0.38グラムのPb酢酸塩三水和物および1mLのオレイン酸を5mLのTOPに溶解することによって調製した。Pb前駆体溶液をアルゴン下で45分間150℃に加熱し、ここでPbオレイン酸塩錯体を生成し、そして続けて余剰水を除去するために乾燥した。Pb前駆体を45分間150℃に加熱した後、この溶液は50℃に冷却し、そして2mLのTOPに溶解した0.4グラムのTeからできたTe前駆体と混合させた。このTe溶液は、Pb Teナノ粒子の核生成を抑制するためにPb前駆体にゆっくり加えた。
【0021】
0.1グラムのDTPAを5mLのTOPに溶解し、そしてこの溶液を250℃に加熱することによって、核生成・成長溶液を調製した。このPb−Te混合物を、勢いよく攪拌した状態下の熱した(250℃)核生成・成長溶液に注入した。Pb−Te混合物を核生成・成長溶液に注入した後、所望のナノ粒子の寸法に応じて、最終混合物の温度を150〜160℃に冷却し、そして2〜8分間その温度で保持した。ナノ粒子の溶液からの分離は、上述の例1で記載したとおりに行った。
【0022】
TDPAをHPAと置き換える以外は同じパラメータを用いた、同一試験を行った。図2Aおよび2Bで示されるように、約8ナノメートルの平均線形寸法を有するPbTeナノ粒子を、界面活性剤としてTDPAを用いて製造し、一方で約22ナノメートルの平均線形寸法を有するPbTeナノ粒子を、界面活性剤としてHPAを用いて製造した。理論には結びつけないが、本発明者らは、このTDPA界面活性剤の場合のより小さい寸法のナノ粒子を含有する核生成・成長溶液は、HPA配位子に比べてこのホスホン酸の長い炭化水素鎖の結果であると主張する。この主張をさらに確立する取り組みにおいて、ODPAを用いた試験を行い、ここで3〜5ナノメートルの平均線形寸法を有するさらに小さなナノ粒子を製造した。これらの試験は結果として、炭化水素鎖または界面活性剤がより長いほど、より小さいPb−カルコゲンナノ粒子を生成することを説明する。この効果は、溶液中に大きな炭化水素分子が存在するときの、よりゆっくりした核生成および成長速度によるものだと主張される。
【0023】
例3
Pb Teナノ粒子の寸法を制御するために時間を利用することも図3Aおよび3Bで示されるように説明される。図3Aは、Pb Te混合物を注入後5分間150〜160℃の温度に核生成・成長溶液を保持することによって得た、約28ナノメートルの平均線形寸法を有するPb Te立方八面体粒子を示す。一方、図3Bは150〜160℃の温度での成長の7分後に得た、約40ナノメートルの平均線形寸法を有するPb Te立方八面体粒子を示す。このやり方で、時間を利用して、Pb−カルコゲニドナノ粒子の寸法を制御した。
【0024】
立方体形状のナノ粒子に対する両{111}および{100}面のPbのゆっくりとした成長運動(kinetics)を前提とする。したがって、ナノ粒子表面への強い結合を有するホスホン酸基を使用することで、ゆっくりとした成長運動、およびそれゆえに立方体形状を生じることが可能となる。加えて、成長溶液をDPEからTOPへ変えることで、立方体形状に対して対照的な立方八面体形状のナノ粒子を結果としてもたらすことが可能となる。
【0025】
一実施態様のフローチャートを図4に示し、ここで第一の前駆体を調製し、第二の前駆体を調製し、第二の前駆体を第一の前駆体に注入し、その後これを核生成・成長溶液に注入し、そこでPbカルコゲニドナノ粒子が核生成しそして成長する。ある事例では、第一の前駆体はオレイン酸と混合したPb酸化物またはPb酢酸塩三水和物であり、両方をTOPに溶解した。TOPは配位子として働き、これがPbを安定化し且つその反応性に影響する。第二の前駆体はアモルファスTe粉末であってもよく、これはTOPに溶解してTOPTeを生成し、ここでTOPは配位子として働いてTe原子を安定化し且つその反応性に影響する。第二の前駆体の第一の前駆体への注入は、Pbおよびカルコゲンの核生成が生じないようなやり方で実施される。Pbとカルコゲンの核生成は、第一の前駆体と第二の前駆体の混合物が、加熱されて核生成温度に保持された核生成・成長溶液に注入されるまで、延期される。第一の前駆体と第二の前駆体の混合物の核生成・成長溶液への注入の後、この最終溶液を成長温度に冷却し、そこでナノ粒子の成長が継続される。成長温度での所望の且つ予め決められた時間の後で、ナノ粒子のさらなる成長を停止するために、この溶液をさらに冷却した。核生成・成長溶液は、ホスホン酸、例えばHPA、TDPAおよび/またはODPAを含んでもよい。これらの線形のアルキルホスホン酸は、非極性の有機疎水基とアニオン性無機親水基の両方からなる、典型的な二価性の化学構造、RP(O)(OH)、を有する。
【0026】
ナノ粒子の赤外線吸収がその寸法の関数であり、および粒子の寸法が減少するにつれて、境界は増加するために、Pbカルコゲンデバイスの熱伝導性が減少し、およびそれゆえにフォノン散乱が増加するという点で、ナノ粒子の寸法および形状の制御は望ましい。本発明で使用される種々の界面活性剤は、種々の結晶平面または面に付着する傾向を有し、そしてその結果粒子の形状の制御をある方向におけるナノ粒子の成長を促進または抑止することによって可能とする。
【0027】
本発明により製造されたPb Teナノ粒子は、高解像度透過型電子顕微鏡による調査で単結晶構造を示した。加えてこの粒子は、粉末x線回折測定によって示されるとおりの結晶微細構造を示し、これはバルクのPb Te材料と完全に一致した。単一のPb Teナノ粒子の制限視野エネルギー分散型x線分析も、Pb Teバルク試料と同じ化学組成を示した。このやり方で、本発明は、Pbカルコゲニドナノ粒子の形状および寸法の制御を可能とし、ここでその形状はPbのカルコゲンに対するモル比および/または核生成・成長溶液で使用される界面活性剤の関数であり、およびナノ粒子の寸法は核生成温度、成長温度、成長温度に保つ時間および/または界面活性剤の関数である。
【0028】
前述の図面、議論および記載は本発明の特定の実施態様の説明に役立つものであるが、それらはその実施に際して限定的なものを意味しない。本発明の多数の修正および変更は、ここに示された示唆を参考にすれば、当業者には容易に明らかになる。以下の特許請求の範囲は、全ての均等なものを含み、それが発明の範囲を決める。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1A】本発明の一実施態様により製造されたPbTeナノ粒子の立方形状の形態を表す。
【図1B】本発明の一実施態様により製造されたPbTeナノ粒子の立方八面体形状の形態を表す。
【図1C】本発明の一実施態様により製造されたPbTeナノ粒子の八面体形状の形態を表す。
【図2A−2B】本発明により製造された種々の寸法のPbTeナノ粒子を表す。
【図3A−3B】本発明により製造された種々の寸法のPbTeナノ粒子を表す。
【図4】本発明の一実施態様のフローチャートを表す。
【0030】
本出願は、2007年5月30日に出願した米国特許出願番号11/755,522号の優先権を主張する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Pb(鉛)−カルコゲニドナノ粒子の形状および寸法を制御することができる、Pb−カルコゲニドナノ粒子を製造する方法であって、
(R)−Xの形の炭化水素溶液中に溶解したカルボン酸およびPb化合物を含むPb前駆体を調製すること、
ここでRはC〜C12アルキルおよびC〜C12アリールからなる群から選択され、nは2または3に等しく、およびXは酸素原子およびリン原子からなる群から選択される;
(R)−Xの形の炭化水素溶液中に溶解したカルコゲン元素を含有するカルコゲン元素前駆体を調製すること、
ここでRはC〜C12アルキルおよびC〜C12アリールからなる群から選択され、nは2または3に等しく、およびXは酸素原子およびリン原子からなる群から選択され、ここで炭化水素に溶解したカルコゲン元素の量は、Pb前駆体がカルコゲン元素前駆体と混合されたときに予め決められたPb:カルコゲン元素比で存在するようにされる;
Pb前駆体をカルコゲン元素前駆体と混合して、予め決められたPb:カルコゲン元素比であるPb−カルコゲン混合物を作ること;
界面活性剤を含む核生成・成長溶液を調製すること;
Pb−カルコゲン混合物が加えられるとPb−カルコゲニドナノ粒子を十分に核生成する核生成温度へ核生成・成長溶液を加熱すること;
Pb−カルコゲン元素混合物を核生成・成長溶液に注入し、それにより前記核生成・成長溶液がPb−カルコゲニドナノ粒子の核生成を引き起こすこと;
Pb−カルコゲニドナノ粒子溶液を核生成温度未満の成長温度まで冷却すること、
所望のナノ粒子寸法が得られるように、予め決められた時間、該成長温度にPb−カルコゲニドナノ粒子溶液を保持すること、ならびに
Pb−カルコゲニドナノ粒子の成長の継続を終了させるように、Pb−カルコゲニドナノ粒子溶液を該成長温度未満の温度に冷却すること、
を含んでなる、Pb−カルコゲニドナノ粒子を製造する方法。
【請求項2】
Pb化合物がPbカルボン酸塩である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
Pb化合物がPb酢酸塩三水和物である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
カルボン酸がモノ不飽和オメガ−9脂肪酸である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
モノ不飽和オメガ−9脂肪酸がオレイン酸である、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
Pb前駆体の調製が、Pb前駆体を100〜200℃の高温に加熱することをさらに含んでなる、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
加熱したPb前駆体を5分超の時間、前記の高温に保持する、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
(R)−Xの形の炭化水素溶液が、トリオクチルホスフィンおよびジフェニルエーテルからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
カルコゲン元素が、硫黄、テルルおよびセレニウムからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
Pb:カルコゲン元素比が1:5〜5:1である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
核生成・成長溶液が、ホスホン酸の形の界面活性剤を含んでなる、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
ホスホン酸が、ヘキシルホスホン酸、テトラデシルホスホン酸およびオクタデシルホスホン酸からなる群から選択される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
核生成・成長溶液が、アミンの形の界面活性剤を含んでなる、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
アミンが、ヘキサデシルアミンおよびドデシルアミンからなる群から選択される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
核生成温度が200℃〜核生成・成長溶液の沸点までである、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
成長温度が100〜200℃である、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
Pb−カルコゲニドナノ粒子溶液を前記成長温度に保持する予め決められた時間が、2〜10分である、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
Pb−カルコゲニドナノ粒子の形状が、球体、立方体、八面体および立方八面体からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
鉛(Pb)−カルコゲニドナノ粒子の形状および寸法を制御することができる、Pb−カルコゲニドナノ粒子を製造する方法であって、
ジフェニルエーテルにPb−酢酸塩三水和物およびオレイン酸を加えることによって、Pb前駆体を調製すること、
ここでジフェニルエーテルは100〜200℃の高温に加熱される;
Pb−酢酸塩三水和物およびオレイン酸を加えた後で、Pb−酢酸塩三水和物およびオレイン酸がジフェニルエーテルに溶解するように、ジフェニルエーテルを該高温に10分超の時間保持すること;
Pb前駆体を150℃未満の温度まで冷却すること;
トリオクチルホスフィンに溶解したTeを含有するテルル(Te)前駆体を調製すること、
ここでTeの量は、Pb前駆体をTe前駆体と混合したときに予め決められたPb:Te比で存在するようにされている;
Pb前駆体をTe前駆体と混合して、PbとTeがそれらの前駆体の形で残存するようにPbTe前駆体を生成すること;
ジフェニルエーテルにアミンの形の界面活性剤を溶解することによって、核生成・成長溶液を調製すること;
核生成・成長溶液を200℃〜該溶液の沸点までの核生成温度に加熱すること;
核生成温度まで加熱した核生成・成長溶液にPbTe前駆体を注入して、PbTeナノ粒子が核生成するように、PbTeナノ粒子溶液を生成すること;
PbTeナノ粒子溶液を100〜200℃の成長温度まで冷却すること;
予め決められたナノ粒子寸法が得られるように、2〜10分の時間、該成長温度にPbTeナノ粒子溶液を保持すること、ならびに
Pb:Teナノ粒子の継続的成長を終了させるように、PbTeナノ粒子溶液をより低い温度に冷却すること、
を含んでなる、Pb−カルコゲニドナノ粒子を製造する方法。
【請求項20】
鉛(Pb)−カルコゲニドナノ粒子の形状および寸法を制御することができる、Pb−カルコゲニドナノ粒子を製造する方法であって、
トリオクチルホスフィンにPb−酢酸塩三水和物およびオレイン酸を加えることによって、Pb前駆体を調製すること、
ここでトリオクチルホスフィンは100〜200℃の高温に加熱される;
Pb−酢酸塩三水和物およびオレイン酸を加えた後で、Pb−酢酸塩三水和物およびオレイン酸がトリオクチルホスフィンに溶解するように、トリオクチルホスフィンを該高温に10分超の時間保持すること;
Pb前駆体を150℃未満の温度まで冷却すること;
トリオクチルホスフィンに溶解したTeを含有するテルル(Te)前駆体を調製すること、
ここでTeの量は、Pb前駆体をTe前駆体と混合したときに予め決められたPb:Te比で存在するようにされている;
Pb前駆体をTe前駆体と混合して、PbとTeがそれらの前駆体の形で残存するようにPbTe前駆体を生成すること;
トリオクチルホスフィンにホスホン酸の形の界面活性剤を溶解することによって、核生成・成長溶液を調製すること;
核生成・成長溶液を200℃〜該溶液の沸点までの核生成温度に加熱すること;
核生成温度まで加熱した核生成・成長溶液にPbTe前駆体を注入して、PbTeナノ粒子が核生成するように、PbTeナノ粒子溶液を生成すること;
PbTeナノ粒子溶液を100〜200℃の成長温度まで冷却すること;
予め決められたナノ粒子寸法が得られるように、2〜10分の時間、該成長温度にPbTeナノ粒子溶液を保持すること、ならびに
Pb:Teナノ粒子の継続的成長を終了させるように、PbTeナノ粒子溶液をより低い温度に冷却すること、
を含んでなる、Pb−カルコゲニドナノ粒子を製造する方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図2A−2B】
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【図3A−3B】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−297192(P2008−297192A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2008−32649(P2008−32649)
【出願日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【出願人】(507342261)トヨタ モーター エンジニアリング アンド マニュファクチャリング ノース アメリカ,インコーポレイティド (135)
【出願人】(508046476)ユニバーシティー オブ カリフォルニア,バークレー (1)