説明

PRRSワクチンとしての豚繁殖・呼吸障害症候群ウイルスの融合タンパク質

【解決手段】本発明は、PRRSV ORF5およびORF6構造タンパク質のN−末端部分を含有するキメラポリペプチド;緑膿菌外毒素A結合および転位ドメインの一部;および、配列KDEL−KDEL−KDEL(K3)を含有するカルボニル末端ドメインを含む、中和価を誘起する融合タンパク質であるPE−PQGAB−K3を含む、PRRSVサブユニットワクチンを提供する。
【効果】PRRSV感染語の豚の肺で、PE−PQGAB−K3ワクチン群で炎症が減少したことから、PQGABに抗原特異的アレルギー効果がないことが示される。重要なことには、豚の感染試験において、PE−PQGAB−K3ワクチンは、対照群よりPRRSV感染に対する防御が良好である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、豚におけるPRRSV中和価を誘導するPRRSサブユニットワクチンの融合タンパク質に関する。
【背景技術】
【0002】
豚繁殖・呼吸障害症候群は、初めに種々の年齢の豚の気道を襲い、雌豚には生殖機能障害を起こす、豚の感染症である。PRRSVは、感染した豚において中和価を有する抗体を惹起する傾向のない、強靭な耐性ウイルスである。また、PRRSVは、RNAウイルスであり、単純遺伝系に基づいて容易に再生されるので、遺伝子の変異の可能性が非常に高い。さらに、PRRSVの感染及び発症経路は、2段階に分けることができる:(A)上部および下部生殖器官の上皮組織の感染;および(B)生殖器官の周辺組織における単球およびマクロファージの感染。従って、ホストは、中和価を有する粘膜免疫に加えて、体液性免疫を持たなければならず、また、感染したウイルスの除去を容易にし、ホストの防御メカニズムを強化する、細胞性免疫反応も持たなければならない。しかしながら、PRRSV感染豚が自然の状態で中和価を有することはあまり容易ではなく、よって、代表的な抗体は、基本的にはPRRSVに対して殆ど効果がなく、ウイルスの変異をも引き起こす。さらに、食細胞活動の抗体依存性の増大においては、抗体はさらに重篤なPRRSV感染を招くのみかもしれない。
【0003】
台湾特許第I−2289933号(また米国特許公開第2004/02147617号として)(特許文献1)では、標的細胞特異的融合タンパク質が開示されており、これは、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)外毒素の一部および機能ドメインを利用して、PRRSV ORF7核タンパク質断片を、カルボニル末端に付加されたKDELシグナルペプチドと融合する。融合タンパク質は、大腸菌において量産することができる。豚を融合タンパク質で免疫した場合、免疫された豚にPRRSVを感染させた後のウイルス血症を減少させるか排除することが可能である。この特許の全文は、本明細書に組み込まれる。
【0004】
PRRSVのORF5とORF6との間のヘテロ二量化において、ORF5のエピトープCys−34およびORF6のエピトープCys−8は、ウイルス感染およびそのエンベロープ・アセンブリにおいて重大な役割を演じる。(シダー・エリック(Snijder Eric)J.、ジェシカ(Jessica)Cら、ジャーナル・オブ・ヴァイロロジー(Journal of Virology)、2003年1月、77巻、No.1:97−104頁)(非特許文献1)。なお、PRRSV ORF5のコンセンサス配列(YKNTHLDLIYNA)は、38番目のアミノ酸と44番目のアミノ酸の間のエピトープであり、これはPRRSV ORF5のN−末端細胞外ドメインに位置し、中和エピトープとして認められていた(オストロウスキ(Ostrowski)M.、J.A.ガレオタ(Galeota)ら、ジャーナル・オブ・ヴァイロロジー(Journal of Virology)、2002年5月、76巻、No.9:4241−4250頁)(非特許文献2)。
【特許文献1】台湾特許第I−2289933号(また米国特許公開第2004/02147617号として)
【非特許文献1】シダー・エリック(Snijder Eric)J.、ジェシカ(Jessica)Cら、ジャーナル・オブ・ヴァイロロジー(Journal of Virology)、2003年1月、77巻、No.1:97−104頁
【非特許文献2】オストロウスキ(Ostrowski)M.、J.A.ガレオタ(Galeota)ら、ジャーナル・オブ・ヴァイロロジー(Journal of Virology)、2002年5月、76巻、No.9:4241−4250頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
先行技術には、PEとKDELの間に、PRRSV ORF5またはORF6抗原全体を構築することが開示されている。これらの融合タンパク質の免疫の後、豚はPRRSVを感染させた肺に重篤な炎症を患い、このことから、PRRSV ORF5またはORF6は、抗原特異的なアレルギー効果を有することが示唆される。明らかに、それらをPRRSワクチン抗原として使用することは困難である。従って、ワクチンを開発し、豚をPRRS感染から効果的に守るために、克服されなければならない多くの問題がある。免疫毒性がより低く、高い中和価を有するように設計する必要がある。
【0006】
本発明の目的は、融合タンパク質、およびその構築方法を提供することである。
【0007】
本発明の別の目的は、その融合タンパク質を使用して、中和価を有するタンパク質からなるサブユニットワクチンを製造することに関する。
【0008】
本発明のさらに別の目的は、本発明の融合タンパク質および薬学的に許容されるアジュバントを含む、医薬組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のPE−PQGAB−K3融合タンパク質は:PRRSV ORF5およびORF6構造タンパク質のN−末端部分を含有するキメラポリペプチド;緑膿菌(Pseudomonas)外毒素A結合および転位ドメインの一部;およびKDEL−KDEL−KDEL(K3)断片を含有するカルボニル末端ドメインを含む。
【0010】
本発明は、さらに、PRRSV ORF5およびORF6構造タンパク質のN−末端部分を含有するキメラポリペプチド;緑膿菌(Pseudomonas)外毒素A結合および転位ドメインの一部;KDEL−KDEL−KDEL(K3)断片を含有するカルボニル末端ドメイン;および薬学的に許容されるアジュバントを含む、ワクチンとして与えられ得る医薬組成物を含む。
【0011】
本発明におけるPRRSVの菌株は特に限定されず;アメリカ株、ヨーロッパ株、またはオーストラリア株であってもよい。融合タンパク質のN−末端ドメインに含有される断片に、特に制限はないが、好ましくは、PRRSV ORF5、ORF6等の、抗体性のあらゆるPRRSV断片である。アメリカ株を例に挙げると、PRRSV ORF6配列の一部は、好ましくは配列番号13の通りである。PRRSV ORF5構造タンパク質のN−末端部分のアミノ酸配列は、配列番号12の通りであってもよい。ヨーロッパ株については、PRRSV ORF6構造タンパク質のN−末端部分のアミノ酸配列は、好ましくは配列番号15の通りであり、PRRSV ORF5のN−末端のアミノ酸配列は、配列番号14であってもよい。
【0012】
本発明において、PRRSV ORF5の一部およびPRRSV ORF6の一部を含有する融合タンパク質の核酸配列は、修飾されており、配列に特に制限はないが、好ましくは、大腸菌の宿主−ベクター系において大量に発現することができる核酸配列であり、発現されたタンパク質は、野生型のものと同一である。例としてアメリカ株のPRRSVを挙げると、好ましくは、修飾された核酸配列は、配列番号1に見られるとおりである。ヨーロッパ株については、好ましくは、修飾された核酸配列は、配列番号10の通りである。
【0013】
本発明における、融合タンパク質の緑膿菌(Pseudomonas)外毒素A結合および転位ドメインの好ましい具体例は、無毒化された緑膿菌外毒素であり、これはドメインIIIを除く緑膿菌外毒素A由来の断片である。好ましくは、緑膿菌外毒素A結合および転位ドメインの断片は、標的細胞上の受容体と反応し、認識し、結合する能力のあるリガンド部分として作用する。
【0014】
本発明の医薬組成物は、当業界で知られている好適なアジュバント:分散剤、湿潤剤(ツイーン80等)、または懸濁液で調製された滅菌注射剤(滅菌注射液または油性溶液等)を含むことができる。滅菌注射製剤は、無害の注射の間、滅菌注射剤または懸濁液の希釈剤または溶媒中、例えば、1,3−ブタンジオールの溶液中でも、使用することができる。許容される担体または溶媒には、マンニトール、水、リンガー液、および塩化ナトリウムの等張液が含まれる。さらに、先行技術において、殺菌し固定した油剤が溶媒または懸濁培地として使用されている(例えば、合成モノグリセリド類またはジグリセリド類)。脂肪酸類(オレイン酸類またはグリセリド誘導体等)および天然の薬学的に許容される油剤(オリーブ油またはヒマシ油等、特にそのポリオキシエチル化誘導体)が注射製剤において使用することができる。油剤または懸濁剤は、長鎖アルコール希釈剤、分散剤、カルボキシメチルセルロース、または同様の分散剤をも含むことができる。ツイーン(Tween)類およびスパン(Span)類のような、他の通常使用される界面活性剤、または乳化剤およびバイオアベイラビリティー増強剤(薬学的に許容されるミョウバン固体、液体、または他の投与形態を製造する際に通常使用される)もまた、目的物を調製するために使用することができる。
【0015】
経口投与のための組成物は、限定されないが、カプセル剤、錠剤、乳剤、水懸濁剤、分散剤、および液剤を含む、経口投与が許容されるあらゆる投与形態であることができる。経口投与目的のための錠剤の場合、代表的な担体には、ラクトースおよびコーンスターチが含まれる。ステアリン酸マグネシウム等の滑沢剤がしばしば添加される。カプセル剤での経口投与には、好適な希釈剤にラクトースおよびコーンスターチが含まれる。水分散剤または乳剤の経口投与の場合、有効成分は、乳剤または懸濁剤と会合して、油相中に懸濁または分散されるであろう。必要に応じて、ある種の甘味料、香料、または着色剤を添加することができる。
【0016】
鼻エアロゾルまたは吸入組成物は、薬学製剤の業界でよく知られた技術に従って調製することができる。例えば、そのような組成物は、ベンジルアルコールまたは他の好適な保存料、バイオアベイラビリティーを高めるための吸収促進剤、フッ化炭素類、および/または当業界で知られている他の溶解剤または分散剤を用いて、生理食塩水中の液剤として調製することができる。融合タンパク質を含有する組成物は、直腸投与のための座剤の形態で投与することもできる。
【0017】
医薬組成物の担体は、「許容され」なければならないが、即ち、製剤中の有効成分に適合性があり(好ましくは有効成分を安定化する能力があり)、処置される被術者に有害であってはならない。担体の他の例には、コロイド状の二酸化ケイ素、ステアリン酸マグネシウム、セルロース、ラウリル硫酸ナトリウム、およびD&C黄色10号(D&C Yellow No. 10)が含まれる。
【0018】
本発明における融合タンパク質の医薬組成物は、好ましくは免疫アジュバントを含む。使用される免疫アジュバントは限定されず、アルミゲルおよび、フロイントの(Freund's)FCAまたはFIAまたはモノオレイン酸マンニド乳化剤(ISA720またはISA206、SEPPIC(登録商標)、フランス)等の油性乳剤、好ましくはISA206を含む、当業界で知られている、ワクチンに使用されるあらゆる慣用のものであってもよい。
【0019】
本発明の他の目的、優位点、および新規な特徴は、添付した図面と併せて、以下の詳細な説明から、より明らかになるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明の特徴は、ORF5およびORF6において、多数のN−末端アミノ酸を残して殆どの構造タンパク質を除去し、それによって融合タンパク質鎖PQGABを構築し、その後そのペプチド鎖をPEとKDEL3配列の間に挿入することが可能であった場合に、融合タンパク質PE−PQGAB−KDEL3がマウスおよび豚の免疫試験によって血清中和価を有したことが確認されたという知見を基にしている。
【0021】
以下の実施例は、本発明の説明をするために提示され、本発明の範囲を制限するものではない。
【0022】
実施例1:PRRSVアメリカ株のPQGAB融合タンパク質
PRRSVのORF5およびORF6のタンパク質配列は、全米バイオテクノロジー情報センター(National Center for Biotechnology Information)(NCBI、米国)データベースより得た。ウイルス感染の上述のメカニズムに基づき、中和価を有するPRRSVの領域は、ORF5およびORF6のそれぞれのN−末端であることが知られていた。即ち、ORF6構造タンパク質の第2〜26アミノ酸(配列番号13)、およびORF5構造タンパク質の第30〜60アミノ酸(配列番号12)である。この2つのペプチドが融合したアミノ酸配列を以下に示す。
【0023】
GSSLDDFCYDSTAPQKVLLAFSITYASNDSSSHLQLIYNLTLCELNGTDWLANKFDWA
【0024】
PRRSV−ORF6−2〜26−ORF5−31〜63融合ペプチドの配列は、(ORF6)−G2SSLDDFCYDSTAPQKVLLAFSITY26(配列番号13)および(ORF5)−A31SNDSSSHLQLIYNLTLCELNGTDWL ANKFDWA63(配列番号12)ペプチドの組み合わせであったが、ここで断片GSSLDDFCを「P」、断片YDSTAPQKVLLAFSITYを「Q」、断片ASNDSSSHLQLIYNLTLCを「A」、およびELNGTDWLANKFDWAを「B」と定める。断片PQはORF6の一部であり、断片ABはORF5の一部である。GはPQおよびABポリペプチドの隙間または橋である。Gは、ORF6の27番目のアミノ酸または27番目からあらゆる関連コドンまでのORF6のあらゆるポリペプチド断片であってもよい。Gの位置には、PQおよびABのポリペプチド内のいずれのアミノ酸も付加することができない。
【0025】
実施例では、インビボで免疫防御を誘導する効果を得るために、PQGAB融合ペプチド領域を使用して、中和価および免疫防御を誘導する能力のある鍵タンパク質(エピトープ)を構築する。PE−PQGAB融合タンパク質の略図、および、PE(ΔIII)−PQGABおよびPE(ΔIII)−PQGAB−K3のプラスミド構築のフローチャートを、それぞれ図1および図2に示す。
【0026】
実施例2
PQGABペプチドをコードする核酸配列の調製を以下に示す。アミノ酸は、ヌクレオチドトリプレットの種々の集合に対応するので、大腸菌による認識および発現が容易でない対応するヌクレオチドトリプレットの代わりに、大腸菌系において発現させるのに好適な対応するヌクレオチドトリプレットを文献(http://www.kazusa.or.jp/codon等)から得ることが好ましい。同様に、PQGABペプチドをコードする配列を酵母菌系において発現させることが可能であるならば、酵母菌系(サッカロミセス(Saccharomyces)またはピチア属(Pichia spp.)等)での発現に好適なヌクレオチドトリプレットが好ましい。
【0027】
大腸菌系で発現させるのに好適なヌクレオチドトリプレットと対応する配列は、PQGAB融合タンパク質のアミノ酸配列に従って定めた。対応する配列の5’および3’末端に、その後のクローニングのための制限部位を付加した。消化効率を改善し、PCRプライマーの設計を容易にするため、配列の両末端に、CCC、AAA、GGG、またはTTT等の、複製塩基を有するヌクレオチドトリプレットを付加することもあり得る。PQGAB融合タンパク質をコードする核酸配列を、配列番号1に示す。
【0028】
配列番号1には全部で207のヌクレオチドがあり、制限酵素によってプラスミドにクローニングされた場合、いくつかのヌクレオチドトリプレットが切除され、180−186のヌクレオチドがプラスミドに結合したままであった。
【0029】
PQGAB融合タンパク質をコードする標的核酸配列が同定された場合、核酸配列の制限地図を、合成の前に、DNAストライダー(Strider)で分析し、その後、制限地図に従って、標的配列の各末端をその後のクローニングのための制限部位配列に結合させた。標的配列の合成産物は、クローニングの前にある種の制限酵素で消化しなければならないので、使用される酵素に感受性を持つ全ての制限部位は、配列の構造領域では避けることが好ましい。クローニング酵素にさらされる制限部位が標的配列の構造領域に存在するならば、標的配列は、同一のアミノ酸の異なるコドンが使用されるように再度指定して、標的配列の構造領域におけるクローニングのため、同一の制限部位を除かなければならない。
【0030】
その後、台湾特許第I−2289933号に(米国特許公開第2004/02147617号としても)開示された方法を用いて、野生型タンパク質が大腸菌系によって大量に発現されるように、野生型アミノ酸配列の対応するヌクレオチドコドンを修飾する。修飾の本質は、野生型核酸配列を、正常に発現されたアミノ酸に影響せず、大腸菌での発現の有効性を保持するように修飾することである。修飾された核酸配列は、種々のプライマー対を使用してPCRによって合成することができる。プライマーは、表1に示すように番号を付す。
【0031】
【表1】

【0032】
正方向および逆方向プライマーの配列を以下に示す:
【0033】
正方向プライマーF1(配列番号2)は、配列番号1の81〜124番目のアミノ酸に対応する。即ち、
5'-GCT TTC TCC ATC ACC TAC GCT TCC AAC GAC TCC TCC TCC CAC CT-3';
【0034】
正方向プライマーF2(配列番号3)は、配列番号1の48〜96番目のアミノ酸に対応する。即ち、
5'-C GAC TCC ACC GCT CCC CAG AAA GTT CTG CTG GCT TTC TCC ATC ACC TA-3';
【0035】
正方向プライマーF3(配列番号4)は、配列番号1の22〜65番目のアミノ酸に対応する。即ち、
5'-GGT TCC TCC CTG GAC GAC TTC TGC TAC GAC TCC ACC GCT CCC CA-3';
【0036】
正方向プライマーF4(配列番号5)は、配列番号1の1〜41番目のアミノ酸に対応する。即ち、
5'-CCC AAA CCC CAT ATG GAA TTC GGT TCC TCC CTG GAC GAC T-3';
【0037】
逆方向プライマーR1(配列番号6)は、配列番号1の148〜106番目のアミノ酸に対応する。即ち、
5'-A CAG GGT CAG GTT GTA GAT CAG TTG CAG GTG GGA GGA GGA GTC-3';
【0038】
逆方向プライマーR2(配列番号7)は、配列番号1の176〜133番目のアミノ酸に対応する。即ち、
5'-GC CAG CCA GTC GGT ACC GTT CAG TTC GCA CAG GGT CAG GTT GTA-3';
【0039】
逆方向プライマーR3(配列番号8)は、配列番号1の204〜164番目のアミノ酸に対応する。即ち、
5'-TTT TTT CTC GAG AGC CCA GTC GAA TTT GTT AGC CAG CCA GTC GG-3';
【0040】
上記において、R1、R2およびR3は、遺伝子配列の逆方向の相補的配列であった。
【0041】
初めに、DNAの鋳型を用いずに合成された断片で実施した。正方向プライマーF1および逆方向プライマーR1を、各プライマーの3‘末端の10〜18塩基を互いに相補的に設計して、互いにハイブリッド化し、得られた複合体を解読し、二重らせんDNA鋳型産物を得るためにポリメラーゼによって補完した。
【0042】
初回のPCRの後、2回目のPCRの鋳型DNAとして、0.01〜4μlのPCR産物を採り、そこに第二のプライマー対、即ち、正方向プライマーF2および逆方向プライマーR2、各0.01〜4μlを、必要なdNTP類、試薬およびPfuポリメラーゼと同時に添加し、2回目のPCRを実施した。同様に、プライマー対F3およびR3をそこに添加し、PCRを再度実施した;プライマー対F4およびR3を用いて操作を繰り返し、それにより、207bpの修飾されたPQGAB核酸配列を得た。
【0043】
合成された核酸断片を、電気泳動に付し、予想した大きさであることを確認した。図3に示す通り、PQGAB−1(207bp);PQGABから4つのDNA断片a、b、c、およびd(a:70bp、b:129bp、c:186bp、d:207bp)が生成された。
【0044】
実施例3:PRRSVヨーロッパ株のPQGAB断片
実施例1および2における融合タンパク質の設計は、アメリカ株PRRSVを狙ったが、アメリカ株PRRSVとは別に、ヨーロッパ株およびオーストラリア株もまた世界的にかなり普及している。構造アミノ酸の類似性は高くなく60〜80%だけであるので、他のORF5およびORF6融合タンパク質の設計を、実施例1および2と同様の方法で行って、プライマーを設計および合成することができる。
【0045】
PRRSVヨーロッパ株のPQGABを例にとり、融合ドメインのアミノ酸配列を、配列番号11に示す。これは、PRRSVヨーロッパ株の、ORF6−M1〜I28(配列番号15)、およびORF5−F31〜A64(配列番号14)を含有する。
【0046】
配列を確認した後、PRRSVヨーロッパ株融合タンパク質の調製を、実施例1〜2と同様の方法で実施することができる。修飾された核酸配列は、種々のプライマー対を用いてPCRによって合成することができる。プライマーは、表2に示す通り番号を付す。
【0047】
【表2】

【0048】
PQGAB−EP融合タンパク質をコードする標的核酸配列は、実施例2に記載された方法に従うことにより、インビトロで、上記に示したようなプライマーで合成することができる。消化効率を改善し、PCRプライマーの設計を容易にするため、配列の両末端に、CCC、AAA、GGG、またはTTT等の、複製塩基を有するヌクレオチドトリプレットを付加することもあり得る。PQGAB−EP融合タンパク質をコードする核酸配列を、配列番号10に示す。
【0049】
実施例4:標的配列を含有するプラスミドの構築
実施例2の産物を例にとる。合成された207bpのDNA断片を、EcoR1およびXho1で消化し、結合機能および転位機能を有するペプチド配列、およびカルボキシル末端ペプチドを含有する大腸菌プラスミドに結合したところ、得られたプラスミドはpPE−PQGAB−K3であった。
【0050】
T7プロモーターおよびそこに構築される抗生物質抵抗性(アンピシリン)マーカーを有するpET15プラスミドは、PRRSV PQGAB断片および無毒化された緑膿菌(Pseudomonas)外毒素(ドメインIIIを除く緑膿菌外毒素A)の融合タンパク質を発現することができる。ベクター地図を図4に示す。
【0051】
最後に、上記のプラスミドを融合タンパク質を発現する能力のある細菌株または細胞中に形質転換した。
【0052】
実施例5:標的タンパク質の発現および分析
上記のプラスミドを有することを確認された細菌株は、個体群の90%において、プラスミドとPQGAB遺伝子の両者を含有していた。菌株は、2mlずつのグリセリン中の貯蔵品として調製し、−70℃で保管した。無菌環境において、2mlの保管された貯蔵品を、オートクレーブで処理し200mlのLB(+500μg/mlアンピシリン)を入れた500mlのフラスコ中に植菌し、ロータリーインキュベーターで37℃、150rpmで10〜12時間振とうし、培養物を得た。OD600が1.0±0.4に達するまで、液体を培養した。
【0053】
無菌環境において、50mlの培養液体を、それぞれ1250mlのLB(+500μg/mlアンピシリン+50ml 10%グルコース)を入れた3000mlのフラスコ8個中に植菌し、OD600が0.3±0.1に達するまで、37℃、150rpmで2〜3時間振とうし、50ppmのIPTGを添加し、タンパク質産生が完了するように、培養物を再度37℃、150rpmで2時間で振とうした。
【0054】
次に、封入体に含有されるPE−PQGAB−K3を、8M尿素抽出法によって溶解し、抽出したPE−PQGAB−K3タンパク質を図5に示す。10リットルロットの培養液体から、300〜400mgの抗原を得ることができた。得られた抗原は、ウエスタンブロット、クームスブルー染色およびSDS−PAGE電気泳動で分析し、バンドの濃度は濃度計で測定して、抗原溶液に含有されるタンパク質を定量した。免疫化およびウイルス感染を進行させるため、0.2±0.02mgのタンパク質を低用量注射の主成分として用いた。
【0055】
実施例6:豚における免疫化およびウイルス感染
SPF農場において、豚をランダムに5頭ずつの3群に分けた。各群は、空調および循環機器を備えた隔離室で飼育した。14〜28日齢のPE−PQGAB−K3免疫群の豚に、1mlのPE−PQGAB−K3(注射1回当り、タンパク質200μg含有)を含有し、1mlのISA206(SEPPIC(登録商標)、フランス)中に乳化させた2mlのワクチンを筋肉注射し、この免疫処置を2回実施した。免疫群GP5&Mは、PE−ORF5−K3およびPE−ORF6−K3(注射1回当り、タンパク質200μg含有)でそれぞれ免疫した。対照群は免疫せず飼育した。
【0056】
最終接種の2週間後、100mgのケタミン溶液を筋肉注射して豚を鎮静した後、1mlの2%リドカインを豚の鼻腔に滴下して、咳反射を抑制し、その後、豚にウイルスを経鼻的に接種した。各群の5頭の豚に、投与量1ml当り1×107TCID50のMD−1株のPRRSV培養物1mlを接種した。
【0057】
接種14日後、豚を病理解剖した。肺または肝臓試料を採取し(頭葉中央部および尾状葉周縁部の両部より)、次の組織病理試験のために、10%中性緩衝ホルムアルデヒドで固定した。試験は盲検法で実施し、間質性肺炎の重篤度に基づいて、0〜6で評価した(オプリエスニッヒ(Opriessnig)T、P.G.ハルブル(Halbur)ら、ジャーナル・オブ・ヴァイロロジー(Journal of Virology)、76(2002年):11837−11844頁、およびハルブル(Halbur)、P.G.、P.S.パウル(Paul)ら、1996年、J.Vet.Diagn.Investig.8:11−20)が、ここで重篤度は数値とともに上昇する。
【0058】
試験結果
2回目の免疫の2週間後、豚の血液中の白血球をPRRSVについて試験した。結果から、PRRSV接種前は、全ての豚でウイルス血症は起きなかったことが示された。白血球試料は、ウイルス接種後3、7、および14日後に、それぞれRT−PCRで試験した。結果を表3に示す。
【0059】
【表3】

【0060】
2週間の試験の後、死亡した豚および生存していた豚を含む、全ての豚を解剖した。顕微鏡検査により、ORF5およびORF6ワクチン群のウイルス接種豚、および対照群の肺には、より拡大した病変および重篤な間質性肺炎が見られたが、一方、本発明のPE−PQGAB−K3ワクチン群では、それ程の拡大病変および重篤な間質性肺炎は見られなかった。表4に示す通り、本発明のPE−PQGAB−K3ワクチン群は、対照群およびORF5およびORF6ワクチン群より、間質性肺炎の重篤度が低いことが示された。
【0061】
【表4】

【0062】
【表5】

【0063】
上述の試験は、本発明のPE−PQGAB−K3が豚をPRRSV感染から効果的に防御できるだけではなく、他のワクチン(PE−ORF5−K3、PE−ORF6−K3等)よりも間質性肺炎の誘起を軽くすることもできることを明確に示す。
【0064】
免疫した豚の抗体価の変化を表6に示す。A群はIgG ELISA価が良好であるが、IFAおよびNT価はC群より低い。また、表5より、PRRSV ORF5またはORF6は、免疫およびウイルス感染の後、抗原特異的アレルギー効果を有することが示される。それらをPRRSワクチン抗原として使用することは難しいことが明白である。
【0065】
【表6】

【0066】
本発明は、その好ましい態様に関して説明がなされたが、多数の他の可能な修正および変化は、ここに特許請求された通りの発明の範囲から逸脱することなくなされ得ることが理解される。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】図1は、実施例1のPE−PQGAB融合タンパク質の略図である。
【図2a】図2は、実施例1のPE(ΔIII)−PQGABのプラスミド構築のフローチャートである。
【図2b】図2は、実施例1のPE(ΔIII)−PQGABのプラスミド構築のフローチャートである。
【図3】図3は、実施例1に従って合成された核酸断片と、4つのDNA断片(a:70bp、b:129bp、c:186bp、d:204bp)の電気泳動の図である。
【図4】図4は、PE(ΔIII)−PQGABのプラスミドマップである。
【図5】図5は、大腸菌宿主ベクター系で誘導され、8M尿素抽出によって封入体から抽出されたタンパク質の結果である。レーン0h、2h:大腸菌をpPE−PQGAB−K3でIPTG誘導後、0時間および2時間の全溶解試料;および、レーン8M:PE−PQGAB−K3の8M尿素タンパク質抽出。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
PRRSV ORF5およびORF6構造タンパク質のN−末端部分を含有するキメラポリペプチド;
緑膿菌外毒素A結合および転位ドメインの一部;および
配列KDEL−KDEL−KDEL(K3)を含有するカルボニル末端ドメイン
を含む、PE−PQGAB−K3融合タンパク質。
【請求項2】
PRRSVがアメリカ株である、請求項1の融合タンパク質。
【請求項3】
PRRSVがヨーロッパ株である、請求項1の融合タンパク質。
【請求項4】
キメラポリペプチドにおける、PRRSV ORF6のN末端部分のアミノ酸配列が、配列番号13である、請求項2の融合タンパク質。
【請求項5】
キメラポリペプチドにおける、PRRSV ORF5のN末端部分のアミノ酸配列が、配列番号12である、請求項2の融合タンパク質。
【請求項6】
キメラポリペプチドの核酸配列が、配列番号1である、請求項2の融合タンパク質。
【請求項7】
キメラポリペプチドにおける、PRRSV ORF6のN末端部分のアミノ酸配列が、配列番号15である、請求項3の融合タンパク質。
【請求項8】
キメラポリペプチドにおける、PRRSV ORF5のN末端部分のアミノ酸配列が、配列番号14である、請求項3の融合タンパク質。
【請求項9】
キメラポリペプチドの核酸配列が、配列番号10である、請求項3の融合タンパク質。
【請求項10】
(a)PRRSV ORF5およびORF6構造タンパク質のN−末端部分を含有するキメラポリペプチド、緑膿菌外毒素A結合および転位ドメインの一部、および配列KDEL−KDEL−KDEL(K3)を含有するカルボニル末端ドメインを有する、PE−PQGAB−K3融合タンパク質;および
(b)薬学的に許容される担体
を含む、ワクチンとしての医薬組成物。
【請求項11】
PRRSVがアメリカ株である、請求項10の医薬組成物。
【請求項12】
PRRSVがヨーロッパ株である、請求項10の医薬組成物。
【請求項13】
キメラポリペプチドにおける、PRRSV ORF6のN末端部分のアミノ酸配列が、配列番号13である、請求項11の医薬組成物。
【請求項14】
キメラポリペプチドにおける、PRRSV ORF5のN末端部分のアミノ酸配列が、配列番号12である、請求項11の医薬組成物。
【請求項15】
キメラポリペプチドの核酸配列が、配列番号1である、請求項11の医薬組成物。
【請求項16】
キメラポリペプチドにおける、PRRSV ORF6のN末端部分のアミノ酸配列が、配列番号15である、請求項12の医薬組成物。
【請求項17】
キメラポリペプチドにおける、PRRSV ORF5のN末端部分のアミノ酸配列が、配列番号14である、請求項12の医薬組成物。
【請求項18】
キメラポリペプチドの核酸配列が、配列番号10である、請求項12の医薬組成物。
【請求項19】
担体が、フロイントのFCA、ミョウバン、FIA、及びモノオレイン酸マンニド乳化剤(ISA720またはISA206)よりなる群から選択されるアジュバントを含む、請求項10の医薬組成物。
【請求項20】
アジュバントがISA206である、請求項19の医薬組成物。

【図1】
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【図2a】
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【図2b】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−13537(P2008−13537A)
【公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−287430(P2006−287430)
【出願日】平成18年10月23日(2006.10.23)
【出願人】(506355475)ヘルスバンクス バイオテック カンパニー リミテッド (4)
【Fターム(参考)】