説明

Ptの分離回収方法

【課題】重金属の不純物を含むPt酸性液から、塩分離のみでPtを効率良く回収する方法を提供する。
【解決手段】不純物として重金属を含むPt酸性液中のPtを塩化白金酸のカリウム塩および/または塩化白金酸のアンモニウム塩として回収する方法において、酸溶液、前記不純物を含むPt酸性液、並びに塩化カリウムおよび/または塩化アンモニウムをそれぞれ用意し、前記酸溶液中に、Ptに対するカリウムイオンおよび/またはアンモニウムイオンのモル比が常に化学量論比±10%以内となるように、前記不純物を含むPt酸性液、並びに塩化カリウムおよび/または塩化アンモニウムを添加する方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不純物として重金属を含むPt酸性液から、塩分離のみ、または必要に応じて塩分離後に再結晶を行うことでこれら不純物を効率よく分離してPtを回収する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
Pt(白金)は、磁性体材料、燃料電池などの材料として用いられるが、高価な希少金属のため、磁性体材料などの廃棄物からPtを回収して再利用される。
【0003】
高純度のPtを高い回収率で得る方法として、例えば特許文献1〜特許文献3の技術が開示されている。ここでは、Ptの晶析物を得るために、塩化白金酸を含む酸性溶液に塩化アンモニウムを添加し、Ptを塩化白金酸アンモニウムとして沈殿させる反応を利用している。このうち特許文献1では、Pt含有スクラップを酸溶解後、中和によりCo,Crなどの混入物を除去した後に塩化白金酸アンモニウムとして沈殿させ、さらにPtの収率を高めるため、反応後に残存するPtをイオン交換樹脂および活性炭で吸着除去する方法が開示されている。また、特許文献2では、Pt晶析段階においてTeやCuの不純物も沈殿してPtの純度が低下することに鑑み、前工程で酸濃度調整を行ってこれら不純物を除去する方法が開示されている。また、特許文献3では、不純物を含む塩化白金酸溶液を塩化アンモニウムと反応させる前に、予め、2段階の中和工程に供して不純物を除去する方法が開示されている。不純物としてSn、Teなど数種類の金属が例示されている。
【0004】
また、Ptのみを回収する方法ではないが、特許文献4には、Pt、Pd、Ruなどの白金族元素を吸着したイオン交換樹脂から焙焼−酸浸出法により白金族元素を回収する方法が開示されている。ここでは、イオン交換樹脂を特定の酸化還元雰囲気下にて焙焼した後、特定の条件で浸出させ、得られた浸出液中に塩化カリウムを添加して、白金族元素を含むヘキサクロロ錯塩の結晶を生成させ分離する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−129145号公報
【特許文献2】特開平10−102156号公報
【特許文献3】特開平9−316560号公報
【特許文献4】特開2007−302944号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述した特許文献では、ヘキサクロロ錯塩中に含まれるCuやTeなどの不純物を除去するための技術を開示しているが、本発明のように1回の塩分離のみで高濃度の重金属と分離するという観点から検討された技術ではなく、塩分離の前に中和工程など不純物を除去するための工程を付加することが必須となっていた。あるいは塩分離のみで高純度のPtを得る場合、従来技術においては塩分離を複数回実施することが一般的に行われていた。このように高純度でPtを回収する方法は種々提案されているが、いずれも中和工程などの特別な工程あるいは複数回の塩分離が必要であり、より簡便な回収技術が望まれている。しかし、重金属を含むPt酸性液から、1回の塩分離のみでPtを回収する技術は具体的に開示されていない。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、重金属を含むPt酸性液から、塩分離のみでPtを効率良く回収する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るPtの分離回収方法は、不純物として重金属を含むPt酸性液中のPtを塩化白金酸のカリウム塩および/またはアンモニウム塩として分離回収する方法において、
酸溶液中に、前記酸溶液中においてPtに対するカリウムイオンおよび/またはアンモニウムイオンのモル比が常に化学量論比±10%以内となるように、前記不純物を含むPt酸性液、並びに塩化カリウムおよび/または塩化アンモニウムを添加するところに要旨を有するものである。
【0009】
また本発明に係る他のPtの分離回収方法は、例えば、前記の方法により得られた塩化白金酸のカリウム塩に対し、さらに水を加えて母液として再結晶を行うところに要旨を有するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、不純物として重金属を含むPt酸性液から、1回の塩分離のみで、Ptを効率よく回収することができる。本発明の方法を用いれば、高濃度の重金属をPtと効率よく分離できるため、非常に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、本発明の添加方法を説明するための概略模式図である。
【図2】図2は、従来の添加方法を説明するための概略模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明者らは、不純物として重金属を含むPt酸性液から、1回の塩分離のみで、Ptを効率よく回収する方法を提供するため、前述した特許文献と同様、Ptを、水や酸に溶解し難いヘキサクロロ錯塩の結晶として沈殿させる反応をベースに検討した。
【0013】
その結果、従来のようにPt酸性液1中に塩化カリウムおよび/または塩化アンモニウム2を添加する(図2を参照)のではなく;図1に示すように、希塩酸などの酸溶液4の入った容器を用意し、この中に、前記酸溶液4中においてPtに対するカリウムイオンおよび/またはアンモニウムイオン(以下、これらをまとめて陽イオンと表記する場合がある)のモル比が常に化学量論比±10%以内となるように、Pt酸性液1と、塩化カリウムおよび/または塩化アンモニウム2(以下、これらをまとめて陽イオン供給物質と表記する場合がある)を添加すれば、Pt酸性液1に含まれている不純物が酸溶液4に希釈されて濃度が低下するため、塩化白金酸のカリウム塩および/またはアンモニウム塩(以下、これらをまとめてPt塩と表記する場合がある。)生成時にこれらが巻き込まれず効率よく分離できることを見出し、さらに、Ptと同様に前記陽イオンと錯体を形成して析出する不純物(例えばRu)がPt酸性液中に含まれている場合でも、添加した陽イオンのほぼ全てがPtと反応し、Pt塩がRuと陽イオンとの塩(以下、Ru塩と表記する場合がある。)より優先して析出するため、1回の塩分離のみでPtとRuを効率よく分離できることを見出し、本発明を完成した。なお、図1では、便宜上、容器中の酸溶液を希塩酸と記載しているが、本発明はこれに限定する趣旨ではない。
【0014】
以下、本発明の方法を詳しく説明する。
【0015】
まず、(ア)酸溶液、(イ)不純物を含むPt酸性液、および(ウ)陽イオン供給物質をそれぞれ用意する。
【0016】
(ア)酸溶液
上記酸溶液は、工業用に市販されている無機酸の水溶液である。本発明に用いられる無機酸は特に限定されないが、酸化剤(硝酸、塩素ガス等)を含まない無機酸が、Pt塩が分解せずより多くのPt塩を回収することができるため好ましい。さらに上述した通りPt塩はヘキサクロロ錯体であることから、塩化物イオンを含む無機酸が、錯体が安定して存在することができるため、Pt回収率も向上し好ましい。したがって、上記2つの条件を満たす無機酸として、塩酸が最も好ましい。酸溶液の酸濃度は無機酸に水を加えて希釈することにより任意に調整できる。その際、Pt塩生成時の酸濃度が後記する酸濃度の好ましい範囲になるように、酸溶液の酸濃度を決定する。
【0017】
(イ)不純物を含むPt酸性液
上記Pt酸性液は、Pt含有材料を酸に溶解したものである。Pt含有材料には、分離対象であるCo、Cr、Cu、Mo、Fe、Ni、Pb、Sn、Zn、W、Ruなどに代表される重金属の一部または全部から成る不純物が含まれている。そのほか、Ndなどの希土類元素などの不純物が含まれていても良い。Pt含有材料の供給源としては、例えばPtを含む磁性体材料などが代表的に例示される。磁性体の組成は、近年の技術発展に伴い、上述した種々の元素(不純物)を含むように変化しているが、本発明の方法を適用すれば、共存する多数の不純物の効率的な分離が可能となる。
【0018】
また、Pt酸性液中に含まれる重金属の含有量は特に限定されない。例えば上記の磁性体材料を原料とする場合、Pt酸性液中の重金属の量はPt100質量%に対して150〜200質量%である。さらに、本発明の方法は、1回の塩分離のみでPt酸性液から重金属を高度に分離除去するとの観点から提供された技術であり、Pt濃度にもよるがPt酸性液中にPtに対して200質量%以上の多くの重金属が含まれていても、Ptと重金属の分離が可能である。
【0019】
また、Pt酸性液中に含まれるPtの量は特に限定されないが、Pt回収率は、原料溶液中のPt濃度とも関係があり、Pt濃度が高いほどPt回収率が向上することを考慮すると、おおむね、5〜200g/L程度(より好ましくは、10〜100g/L程度)のPtを含む酸性液を、処理対象とすることが好ましい。
【0020】
Pt酸性液の調製に用いられる酸は、Pt含有原料を溶解するものであれば特に限定はされず、例えば酸化剤(塩素ガス等)を加えた塩酸、王水(濃塩酸と濃硝酸を3:1の体積比で混合した溶液)などが例示される。溶解性や取り扱い性などを考慮すると、王水の使用が好ましい。Pt酸性液としては、Pt含有材料を王水に溶解した溶液のほか、王水溶解液から脱硝酸した溶液を用いることができる。脱硝酸溶液は、脱硝酸を行わない王水溶解液に比べ、液に酸化剤(硝酸)がないため生成したPt塩が分解せずPt回収率が向上し、また有毒なNOxガスが発生しないなどの利点がある。Pt酸性液において、Ptは[PtCl62-(Ptのヘキサクロロイオン)として存在している。
【0021】
(ウ)陽イオン供給物質
Pt塩を得るための陽イオン供給物質として、本発明では、塩化カリウムおよび/または塩化アンモニウムを使用することができる。具体的には、要求特性によって以下のように適宜選択することが好ましい。すなわち、Pt回収率の向上を重視する場合は、塩化アンモニウムの使用が好ましい。塩化カリウムよりも塩化アンモニウムの方が、Pt回収率が向上するからである。一方、PtとRuとの分離を重視する場合は、塩化カリウムの使用が好ましい。Ptを塩化白金酸アンモニウムとして析出させるよりも、塩化白金酸カリウムとして析出させたほうが、Ruとの分離性が向上するためである。また、陽イオン供給物質を溶媒に溶解させて添加する場合は、溶媒として酸を添加した水を用いることができる。用いる酸の種類は(ア)の酸溶液または(イ)のPt酸性液の種類に合わせて選択する。また、Pt塩生成時の酸濃度は後述するように不純物との分離性に影響するため、酸溶液、Pt酸性液と混合した時の酸濃度が、除去したい不純物の分離に適した範囲となるように考慮して決定する。
【0022】
次に、上記(ア)の酸溶液を容器に入れ、ここに、上記(イ)のPt酸性液と、上記(ウ)の陽イオン供給物質を添加し、Pt塩を得る。添加に当たっては、酸溶液中においてPtに対する陽イオンのモル比が常に化学量論比±10%以内となるように添加することが重要であり、これにより、不純物との分離性が向上する。
【0023】
ここで、Pt酸性液中のPt([PtCl62-)は、陽イオンを含む塩と下記式のように反応する。
反応式:[PtCl62-+2AX→A2[PtCl62-+2X
(A=K+、NH4+、X=Cl-など)
【0024】
すなわち、化学量論比は、Pt1モルに対して陽イオンは2モルであり、本発明では、Pt塩の生成反応(上記の反応式を参照)が起こっている間は、酸溶液中においてPtと陽イオンの存在比が常に上記化学量論比となるようにPt酸性液及び陽イオン供給物質を酸溶液に添加する。ただし、±10%以内の差異であれば後述する効果には影響しない。Ptに対する陽イオンのモル比が化学量論比+10%を超えると、後述する通り過剰の陽イオンが存在するため、Ru塩がより多く生成し、得られるPt塩の純度が低下する。
一方でPtに対する陽イオンのモル比が化学量論比−10%を下回ると、Pt塩の回収率が低下する上に、Pt酸性液が陽イオンに対して過剰に存在するため、後述する通りPt塩の結晶核の析出時にPt酸性液に含まれる不純物が巻き込まれやすくなり、得られるPt塩の純度が低下する。
【0025】
このように添加することにより、以下のような3つの効果が得られる。まず第一の効果として、Pt塩が生成する前にPt酸性液に含まれる不純物が希釈され、純度の高いPt塩を得ることができる。
【0026】
Ru以外の不純物がPt塩に混入する原因は、Ru塩のように陽イオンと塩を生成するのではなく、Pt塩生成反応の初期段階でPt塩の結晶核が析出する際に液に溶解した状態のまま不純物が巻き込まれることによると推測される。したがって、Pt塩生成反応の初期段階においてRu以外の不純物の濃度が低下すれば、Pt塩生成時の巻き込みがなくなり、Ru以外の不純物を効率よく除去することができる。これに対して結晶核が析出した後の段階(=核から結晶が成長する段階)においてはこのような巻き込みは起こらないと考えられる。すなわち、初期段階以降、Ru以外の不純物が高濃度で存在していてもPt塩には混入しないため、当該不純物との分離性には影響しないのである。
【0027】
上記の効果を得るために、Pt酸性液と陽イオン供給物質は、例えば、酸溶液の入った容器中に同時に添加する。添加手段としては、例えば、それぞれを定量ポンプや定量フィーダーを用いて添加する方法などが挙げられる。また、不純物との分離性向上を考慮すると、容器中への供給速度や供給時間について、Pt酸性液と陽イオン供給物質を離れた位置から添加したり、添加の際に時間をかけて徐々に添加することが好ましい。これによりPt塩が生成する前にPt酸性液に含まれる不純物が希釈され、純度の高いPt塩を得ることができる。
【0028】
第二の効果としてPt酸性液及び陽イオン供給物質の添加速度を制御することにより、Pt塩の生成速度を制御することができる。これは、Pt塩生成反応の速度が速く、Pt酸性液中のPtと陽イオン供給物質中の陽イオンは接触後、直ちにPt塩生成反応が起こるためである。
【0029】
第三の効果として、陽イオンはRuよりもPtと優先的に反応するため、これらをPt塩の生成に必要な最小限の量(=化学量論比)だけ添加することにより、Ru塩は生成しにくくなり、結果としてPtとRuが効率よく分離される。
【0030】
Pt酸性液の添加が完了すると同時にPt塩の生成反応は完了する。反応完了後さらに過剰量の陽イオン供給物質を添加することにより、液中に溶解しているPt塩が共通イオン効果で析出し、Pt回収率が向上する。ただし、上記したように過剰の陽イオンが存在するとRu塩が析出してしまうことから、Pt塩の純度や回収率も含めて勘案すると、過剰に添加する陽イオン供給物質の量は、Ruの量にもよるが、おおむね、化学量論比の0.2〜0.5倍程度に制御する(すなわち、Pt1モルに対して陽イオン0.4〜1.0モル)ことが好ましい。
【0031】
Pt塩生成時の好ましい酸濃度としては、pHが2を超えると、Mo、Feなどの不純物が水酸化物として析出し、Pt塩に含まれる不純物の量が増加してしまうため、pH2以下が好ましい。一方、Ruとの分離性を一層高めるためには、Pt酸性液の酸濃度を2N以下とすることが好ましい。Ru塩は、酸濃度が低いほどRu塩として析出し難いため、Ruとの分離性が向上する。上記のことを勘案し、Pt酸性液に含まれる不純物の種類から、Ptを分離するために好ましい酸濃度の範囲を決定し、その範囲内になるように酸溶液、Pt酸性液、陽イオン供給物質の酸濃度を決定する。
【0032】
なお、反応時の温度(液温)は、通常は常温(20℃程度)で行われるが、液温が高くなるほどCo、Cr、Feなどの重金属との分離が困難になるため、Ru以外の不純物元素との分離性向上という観点からすれば、好ましくは60℃未満とする。液温が高くなると上記不純物元素の量が増加する理由は、詳細には不明であるが、液温が高い状態ではPt塩の溶解度が上がり、Pt酸性液及び陽イオン供給物質の添加を開始してからPt塩の析出が始まる時間が低温時に比べると遅くなる。よってPt塩析出時には、反応液中に一層多くの不純物元素が存在することになり、これら不純物元素の巻き込みが起り易いためと考えられる。
【0033】
一方、Ruとの分離性を高めるためには40℃以上とすることが好ましく、より好ましくは60℃以上である。液温を上げるとRuとの分離性が向上する理由は、詳細には不明であるが、Ru塩は温度が高いほど溶解度が上昇するのに対し、Pt塩はRu塩ほど溶解度が上昇しないという溶解度の差が挙げられる。さらにPt塩生成時の液温が高い状態では、析出したPt塩が再溶解、再析出を繰り返すと考えられ、これによりPt塩と共沈するRuが減少し、純度が向上するものと推測される。
【0034】
本発明によれば、不純物濃度の少ないPt塩が析出する。すなわち、本発明の方法は、Pt酸性液中のPtと不純物を、1回の塩分離のみで効率よく分離できる方法として極めて有用である。
【0035】
このように本発明の方法は、1回の塩分離のみで十分に純度の高いPt塩を得ることができるが、Ptの純度をより向上させる目的で、その後に再結晶を行なっても良い。具体的には、上記のようにして得られたPt塩に溶媒を加えた後、溶媒を加熱し、Pt塩を不純物も含めて全量溶解させ、母液とする。その後母液を冷却し、不純物を母液に残留させたままPt塩を析出させる。これにより不純物が著しく低減された、高純度のPt塩が得られる。高純度のPt塩を得るという再結晶の趣旨を考慮すれば、陽イオン供給物質として塩化カリウムを用いることが好ましい。以下、本発明に用いられる好ましい再結晶の方法を説明する。
【0036】
再結晶では、溶媒として水を用いることが好ましい。水が好ましい理由としては、他の溶媒に比べてPt塩の溶解度が高いことが挙げられる。さらにPt酸性液中に不純物としてRuを含む場合、Ru塩は、酸濃度が低いほど溶解度が高いため、水を用いることで母液の酸濃度が低くなり、結果的にRuが母液中に残留し、Pt塩中のRu量が減少するようになることが挙げられる。
【0037】
更に再結晶では、Pt酸性液中の不純物の種類により母液のpHを適宜制御することが好ましい。Ru以外の不純物は、母液のpHを3以下とすることにより効果的に除去することができる。母液のpHが3を超えると、Fe、Cr等が水酸化物として析出し始め、Pt塩と共沈する。一方、不純物としてRuを含有している場合は母液のpHを2以上とすることにより十分な分離が可能になるが、母液の酸濃度が低くなってpHが7を超えると、Ruが水酸化物となってPt塩と共沈する。本発明では、Pt塩を溶解させたときの母液のpHが上記範囲を外れる場合には、塩酸や硝酸などや、NaOHやKOHなど(pH調整剤)を用いてpHを調整すれば良い。
【0038】
また、再結晶時の液温(Pt塩の溶解温度)は高いほうが良く、これにより、Pt回収率が向上する。液温が高い程、Pt塩の溶解度が上昇するため、Pt塩の溶解に必要な溶媒の量が少なくてすむからである。具体的には、液温は、おおむね、60〜100℃の範囲内であることが好ましく、より好ましくは、80〜100℃である。
【0039】
なお、母液中に塩分離で用いた陽イオン供給物質(好ましくは塩化カリウム)を母液中に添加すると、共通イオン効果によってPt塩の回収率を向上させることができるため、好ましい。この場合、再結晶後の濾液中の陽イオン濃度が高いため、使用済みのこの濾液をPt塩分離工程に再利用し、Pt塩の生成に用いることができる。
【0040】
塩分離後または再結晶後、焙焼、化学還元等の公知の技術により、Pt塩からPtを回収する。このように本発明で規定する塩分離の後、好ましくは上記の再結晶を行なうことにより、従来塩分離のみではPtとの分離が困難であった重金属の混入が著しく抑えられ、高純度のPtを回収することができる。
【実施例】
【0041】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記実施例によって制限されず、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0042】
実施例1
本実施例では、陽イオン供給物質として塩化アンモニウムを用いた。
【0043】
(No.1)
Pt含有材料90gに王水を1L加え、95℃で加熱溶解した後、さらに塩酸を添加しながら加熱することより脱硝酸を行ない、表1に記載の不純物を含むPt酸性液を得た。このときの酸濃度は、2Nであった。
【0044】
次に、希塩酸0.2Lを入れた容器中に、上記のようにして得られたPt酸性液と、2.1mol/Lの塩化アンモニウム溶液とを、2台の定量ポンプを用い、容器内の液中に存在する塩化白金酸イオンとアンモニウムイオンのモル比が常に1:2±10%の範囲となるように添加し、塩化白金酸アンモニウム(Pt塩)を析出させた。結果的に、希塩酸中の塩化白金酸イオンとアンモニウムイオンのモル比は1.00:1.90であった。Pt酸性液を全て添加した後、さらに塩化アンモニウム溶液のみをPt1モルに対して0.8モル添加した。添加した塩化アンモニウムの量の合計は、Pt1モルに対して2.8モルであり、Ptに対するアンモニウムイオンのモル比は、化学量論比の1.4倍である。また、このときの液温は20℃であった。このようにして得られたPt塩中の不純物濃度およびPtの回収率を表1に併記する。
【0045】
(No.2(比較))
上記のNo.1のPt酸性液を入れた容器中に、定量ポンプを用いてNo.1で用いた塩化アンモニウム溶液を添加し、Pt塩の結晶を析出させた。このようにして得られたPt塩中の不純物濃度およびPtの回収率を表1に併記する。
【0046】
(No.3(比較))
上記のNo.1において、容器内の液中に存在する塩化白金酸イオンとアンモニウムイオンのモル比が常に1:4となるように添加し、塩化白金酸アンモニウム(Pt塩)の結晶を析出させたこと以外はNo.1と同様にしてPt塩を析出させた。No.3では、添加した塩化アンモニウムの量は、Pt1モルに対して4モルであり、Ptに対するアンモニウムイオンのモル比は、化学量論比の2倍であった。このようにして得られたPt塩中の不純物濃度およびPtの回収率を表1に併記する。
【0047】
【表1】

【0048】
表1より、本発明で規定する添加方法および添加量で操作を行なったNo.1では、Pt塩中の不純物を高度に除去することができ、しかもPt回収率も非常に高いことが分かる。これに対し、本発明で規定する添加方法を行なわなかったNo.2や、本発明で規定する添加量を超えて操作を行なったNo.3は、いずれも、Pt回収率は良好であるものの、No.1に比べて不純物との分離性に劣っていた。
【0049】
よって、本発明の方法は、塩分離のみで、Pt酸性液中に共存する上記不純物を高度に分離できる技術として極めて有用であることが確認された。
【0050】
実施例2
本実施例では、王水で溶解した後に脱硝酸を行っていないPt酸性液を用いたこと以外は実施例1と同様にして操作を行なった。Pt酸性液と塩化アンモニウム溶液を定量的に添加している時の塩化白金酸イオンとアンモニウムイオンのモル比は1.00:2.15であった。
【0051】
これらの結果を表2に併記する。
【0052】
【表2】

【0053】
表2より、Pt酸性液として脱硝酸しないPt酸性液を用いたときも、上記実施例1と同様の結果が見られた。すなわち、本発明で規定する添加方法および添加量で操作を行なったNo.1では、Pt塩中のRuおよび重金属を高度に除去することができ、しかもPt回収率も高いことが分かった。なお、前述した実施例1(表1)に比べ、本実施例のPt回収率は、若干低下傾向が見られたが、これは、Pt酸性液の種類に起因すると推察される。すなわち、本実施例のように王水を用いたときは、Pt塩が王水によって分解されるためPtの回収率が若干低下するのに対し、前述した実施例1のように脱硝酸液を用いたときは、このような分解現象が生じないため、Ptの回収率が高くなると思料される。なお、王水使用によるPt回収率の低下は、後記する実施例でも見られた(表4と表5、表7と表8をそれぞれ、参照)。
【0054】
実施例3
本実施例では、塩化アンモニウムの代わりに塩化カリウムを用いたこと以外は実施例1と同様にして操作を行なった。Pt酸性液と塩化カリウム溶液を定量的に添加している時の塩化白金酸イオンとカリウムイオンのモル比は1.00:1.83であった。
【0055】
これらの結果を表3に併記する。
【0056】
【表3】

【0057】
表3より、塩化アンモニウムの代わりに塩化カリウムを用いたときも、上記実施例1と同様の結果が見られた。ただし、前述した実施例1に比べ、本実施例のPt回収率は、やや低下傾向が見られたが、これは、塩化アンモニウムと生成する塩の方が反応液に対する溶解度が低いためである。よって、塩分離により、不純物との分離性のみならずPt回収率の一層高い向上も確保したい場合には、塩化アンモニウムの使用が好ましいことが分かる。なお、塩化アンモニウムの使用によるPt回収率の向上作用は、後記する実施例でも見られた(表4と表6、表7と表9をそれぞれ、参照)。一方、Ru除去効果は塩化カリウムの方が高いことが、実施例1及び実施例3のRu濃度の比較により分かる。すなわち、実施例1と実施例3は同じPt酸性液を原料としているが、表1及び表3のNo.1を比較すると、表1ではRuがPtに対して150ppmまで減少しているのに対し、表3ではPtに対して80ppmと、表1の約半分の濃度まで減少している。なお、塩化カリウム使用によるRu除去率の向上は、後記する実施例でも見られた(表4と6、表7と9をそれぞれ、参照)。
【0058】
実施例4
本実施例、並びに後記する実施例5および6では、反応時(添加時)の液温を表4に示すように10〜80℃の範囲で変化させてPt塩を析出させた後、液温を常温(20℃)に戻したこと以外は実施例1のNo.1と同様にして操作を行なった。Pt酸性液と塩化アンモニウム溶液を定量的に添加している時の塩化白金酸イオンとアンモニウムイオンのモル比は1.00:1.89であった。反応液の酸濃度は2Nである。
【0059】
これらの結果を表4に併記する。参考のため、表4には、前述した実施例1のNo.1(液温20℃)の結果も併記した。
【0060】
【表4】

【0061】
表4より、反応時の液温を高くするほど、Pt塩中のRu量を低減することができ、液温が40℃ではPt塩中のRu量を90ppmまで低減でき、更に液温が80℃になると、Pt塩中のRu量は13ppmにまで著しく低減することができた。一方、Ru以外の重金属については、液温が60℃以上になると、Pt塩の重金属量が増加する傾向が見られた。よって、Pt酸性液中に含まれる不純物の種類に応じて、反応時の液温を適切に制御することが推奨される。なお、Ptの回収率については、液温による大きな影響は見られず、いずれの温度であっても極めて高い回収率が得られた。
【0062】
実施例5
本実施例では、添加時の液温を表5に示すように10〜80℃の範囲で変化させてPt塩を析出させた後、液温を常温(20℃)に戻したこと以外は実施例2のNo.1と同様にして操作を行なった。Pt酸性液と塩化アンモニウム溶液を定量的に添加している時の塩化白金酸イオンとアンモニウムイオンのモル比は1.00:2.08であった。反応液の酸濃度は2Nである。
【0063】
これらの結果を表5に併記する。参考のため、表5には、前述した実施例2のNo.1(液温20℃)の結果も併記した。
【0064】
【表5】

【0065】
表5より、Pt酸性液の種類を王水に変えたときも上記実施例4と同様の結果が見られた。すなわち、反応時の液温を高くするほど、Pt塩中のRu量を低減することができるのに対し、Ru以外の不純物については、液温が60℃以上になると増加する傾向が見られた。なお、Ptの回収率については、液温が高くなるほど、Pt回収率が顕著に低下した。これは、液温が高いほど、王水によるPt塩の分解反応が進行し易くなるためであると推察される。
【0066】
実施例6
本実施例では、添加時の液温を表6に示すように10〜80℃の範囲で変化させてPt塩を析出させた後、液温を常温(20℃)に戻したこと以外は実施例3のNo.1と同様にして操作を行なった。Pt酸性液と塩化カリウム溶液を定量的に添加している時の塩化白金酸イオンとカリウムイオンのモル比は1.00:2.00であった。反応液の酸濃度は2Nである。
【0067】
これらの結果を表6に併記する。参考のため、表6には、前述した実施例3のNo.1(液温20℃)の結果も併記した。
【0068】
【表6】

【0069】
表6より、塩化アンモニウムの代わりに塩化カリウムを用いたときも上記実施例4と同様の結果が見られた。すなわち、反応時の液温を高くするほど、Pt塩中のRu量を低減することができるのに対し、Ru以外の不純物については、液温が60℃以上になると増加する傾向が見られた。なお、Ptの回収率については、液温による大きな影響は見られず、いずれの温度であっても極めて高い回収率が得られた。
【0070】
実施例7
本実施例、並びに後記する実施例8および9では、反応時(添加時)の酸濃度を変化させた場合について述べる。
【0071】
詳細には、添加時の液温を40℃とし、酸濃度を表7に示すように種々変化させてPt塩を析出させた後、液温を常温(20℃)に戻したこと以外は実施例1のNo.1と同様にして操作を行なった。Pt酸性液と塩化アンモニウム溶液を定量的に添加している時の塩化白金酸イオンとアンモニウムイオンのモル比は1.00:2.02であった。なお、酸濃度は、塩酸または水酸化ナトリウムを用いて種々調整した。
【0072】
これらの結果を表7に併記する。参考のため、表7には前述した実施例4(液温40℃)の結果も併記した。
【0073】
【表7】

【0074】
表7より、反応時の酸濃度を2N以下に制御すれば、Pt塩中のRu量を低減することができ、酸濃度が低くなればなるほど、Ru量は益々低減する傾向が見られた。また、Ru以外の不純物の量も低減することができることが分かった。ただしpHが9程度になると不純物が水酸化物としてPt塩と共に析出した。なお、Ptの回収率については、酸濃度による大きな影響は見られず、いずれの酸濃度であっても極めて高い回収率が得られた。
【0075】
実施例8
本実施例では、添加時の液温を40℃とし、添加時の酸濃度を表8に示すように種々変化させてPt塩を析出させた後、液温を常温(20℃)に戻したこと以外は実施例2のNo.1と同様にして操作を行なった。Pt酸性液と塩化アンモニウム溶液を定量的に添加している時の塩化白金酸イオンとアンモニウムイオンのモル比は1.00:2.10であった。
【0076】
これらの結果を表8に併記する。参考のため、表8には前述した実施例5(液温40℃)の結果も併記した。
【0077】
【表8】

【0078】
表8より、Pt酸性液の種類を王水に変えたときも上記実施例7と同様の結果が見られた。すなわち、反応時の酸濃度を2N以下に制御すれば、Pt塩中のRu量及びRu以外の不純物量を低減できること、pH9では不純物がPt塩と共に析出することが分かった。なお、Ptの回収率については、実施例7と同様に酸濃度による大きな影響は見られなかった。前述した実施例7に比べてPt回収率が若干低下したが、これは、王水によるPt塩の分解反応が進行したためと推察される。
【0079】
実施例9
本実施例では、添加時の液温を40℃とし、添加時の酸濃度を表9に示すように種々変化させてPt塩を析出させた後、液温を常温(20℃)に戻したこと以外は実施例3のNo.1と同様にして操作を行なった。Pt酸性液と塩化カリウム溶液を定量的に添加している時の塩化白金酸イオンとカリウムイオンのモル比は1.00:1.99であった。
【0080】
これらの結果を表9に併記する。参考のため、表9には前述した実施例6(液温40℃)の結果も併記した。
【0081】
【表9】

【0082】
表9より、塩化アンモニウムの代わりに塩化カリウムを用いたときも上記実施例7と同様の結果が見られた。すなわち、反応時の酸濃度を2N以下に制御すれば、Pt塩中のRu量及びRu以外の不純物量を低減できること、pH9では不純物がPt塩と共に析出することが分かった。
【0083】
実施例10
本実施例では、再結晶の効果を確かめるため操作を行った。具体的には、実施例9の酸濃度2.0N(=実施例6の40℃)で得られたPt塩1gに対し、水を31mL加えて80℃に加熱し、Pt塩を完全に溶解させた後、溶液(母液)のpHを測定し、塩酸または水酸化ナトリウムを用いて液のpHを3に調整した。その後、上記溶液を室温まで冷却し、Pt塩を再析出させた。更に、冷却途中で塩化カリウムの粉末を、Pt1モルに対してカリウムイオンのモル比が30モルになるように添加した。
【0084】
このようにして得られたPt塩中の不純物濃度とPtの回収率を表10に記載する。表10において、Pt回収率は、再結晶前の塩分離でのPt回収率と、再結晶でのPt回収率と、Pt酸性液から再結晶までのPtの回収率(これを括弧書きで示す)を併記している。
【0085】
【表10】

【0086】
表10より、本発明の好ましい条件で再結晶を行なうと、再結晶後のPt純度が向上することが確認された。
【符号の説明】
【0087】
1 Pt酸性液
2 塩化カリウムおよび/または塩化アンモニウム
3 攪拌機
4 希塩酸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不純物として重金属を含むPt酸性液中のPtを塩化白金酸のカリウム塩および/またはアンモニウム塩として分離回収する方法において、
酸溶液中に、前記酸溶液中においてPtに対するカリウムイオンおよび/またはアンモニウムイオンのモル比が常に化学量論比±10%以内となるように、前記不純物を含むPt酸性液、並びに塩化カリウムおよび/または塩化アンモニウムを添加することを特徴とするPtの分離回収方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法により得られた塩化白金酸のカリウム塩に対し、さらに水を加えて母液として再結晶を行うことを特徴とするPtの分離回収方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−57194(P2012−57194A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−199145(P2010−199145)
【出願日】平成22年9月6日(2010.9.6)
【出願人】(591234307)アサヒプリテック株式会社 (17)
【Fターム(参考)】