説明

RNaseIII活性を有するポリペプチド

反応条件によるdsRNA分解産物の長さの制御が容易で、さらにRNA干渉においてsiRNAとして機能し得る長さのdsRNAを調製する際に、RNA干渉の効果の低い低分子物のものが生じにくいRNaseIII活性を有するポリペプチド、該ポリペプチドを用いたdsRNA分解方法、該方法のための組成物ならびにキット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新たに単離されたポリヌクレオチドおよびこのポリヌクレオチドによってコードされるRNaseIIIを有するポリペプチド、このようなポリヌクレオチドおよびポリペプチドの使用、ならびにそれらの産生に関する。
【背景技術】
【0002】
RNaseIIIは、二本鎖RNA(double stranded RNA:dsRNA)に特異的に作用し、5’−末端リン酸基を持つ平均15ヌクレオチド単位のオリゴヌクレオチドを生成することができる酵素である。当該酵素は、例えば、大腸菌の30S抽出液中に存在する。さらに類似酵素が、ウシ胸腺あるいはトリ胚に存在していることも報告されている。しかしながら、当該酵素は、RNA−RNAの二次構造を一本鎖RNAと識別する方法等に使用されるのがほとんどであった。(例えば、非特許文献1参照)
【0003】
一方、最近になってRNA干渉(RNA干渉:RNA interference)と言う技術が報告された。当該技術は、dsRNAによってその配列特異的にmRNAが分解され、その結果遺伝子発現が抑制される現象に基づくものである。dsRNAによって遺伝子サイレンシングができることがわかった発端は、線虫におけるアンチセンスを用いた研究からであった。1995年、GuoとKemphuesはpar−1と呼ばれる遺伝子をアンチセンスRNAで抑制する実験を行なった。アンチセンスRNAを加えると、予想通りpar−1の発現を抑制したが、驚いたことに、コントロールとして用いたセンスRNAも同様にpar−1の発現を抑制し、par−1変異株の表現形を示した。(例えば、非特許文献2参照)
この矛盾は、1998年にFireらによって解き明かされた。アンチセンスRNAとセンスRNAを、それぞれRNAポリメラーゼを用いて合成するとき、わずかに非特異的に逆向きのRNAができてしまう。そのコンタミネーションよってできるdsRNAが遺伝子サイレンシングの本体であり、アンチセンスRNAおよびセンスRNAは遺伝子の発現を抑制できないこと、またアンチセンスRNAとセンスRNAをアニールさせたdsRNAが効率よく遺伝子の発現を抑制できることが明らかとなった。(例えば、非特許文献3、特許文献1参照)
【0004】
上記RNA干渉においては、Dicerと呼ばれる酵素がdsRNAから小分子のRNA(siRNA:short interfering RNA)を生成させる。(例えば、非特許文献4、特許文献2参照)
この酵素の作用により生じたsiRNAは、RISC(RNA induced silencing complex)と呼ばれる複合体に取り込まれ、該複合体が標的mRNAを認識し、分解すると考えられている。しかしながら、RNA干渉に関与すると考えられる各因子についての正確な機能についてはまだまだ未知の部分が多いのが現状であった。(例えば、非特許文献5参照)
【0005】
一方、微生物由来のRNaseIIIもsiRNAの調製に利用される。(非特許文献6参照)前記RNaseIIIとしては、例えばエピセントル社(EPICENTRE社)、アンビオン社(Ambion社)から大腸菌由来のRNaseIIIが発売され、siRNAの調製に使用されている。しかしながら、大腸菌由来のRNaseIIIは反応性が高く、例えば500塩基対以上の長鎖のdsRNAを鋳型とした場合でもすぐに約10塩基対程度の低分子のものに分解してしまう。この場合、RNA干渉に有効とされる約21塩基対のsiRNAを調製する際には、長鎖dsRNAの部分分解を反応温度を下げる、または反応時間を短くするなどの条件改変により実施しなければならないが、前述のように大腸菌由来のRNaseIIIは反応性が高いため、その反応条件の制御が困難であり、また部分分解条件においても前述の低分子のものが生じやすいという欠点を有していた。
以上のように、2本鎖RNAからRNA干渉を実施する際に効果の望める長さのsiRNAを調製する際に、反応条件の制御が容易で、さらにRNA干渉効果の低い低分子のものが生じにくいRNaseIIIが求められていた。
【0006】
【特許文献1】米国特許第6506559号明細書
【特許文献2】国際公開第01/68836号パンフレット
【非特許文献1】Enzyme Nomenclature(http://www.chem.qmul.ac.uk/iubmb/enzyme/)、EC 3.1.26.3
【非特許文献2】Guo S.他1名 Cell 1995年 vol.81、p611−620
【非特許文献3】Fire A.他5名 Nature 1998年 vol.39、p806−811
【非特許文献4】Bernstein E.他3名 Nature 2001年 vol.409、p363−366
【非特許文献5】Tabara H.他3名 Cell 2002年 vol.109、p861−871
【非特許文献6】Zhang H.他4名 The EMBO Journal 2002年 vol.21,No.21,p5875−5885
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、反応条件によるdsRNA分解産物の長さの制御が容易で、さらにRNA干渉においてsiRNAとして機能し得る長さのdsRNAを調製する際に、RNA干渉の効果の低い低分子物のものが生じにくいRNaseIII活性を有する新規ポリヌクレオチドを提供することにある。また、該ポリヌクレオチドを用いた、従来とは異なったより効率的なsiRNAの調製方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、反応条件の制御が容易という観点から常温菌由来のRNaseIIIの場合よりも低い温度で熱失活させることが可能で、その温度感受性を利用して温和な分解条件を設定することが可能となるようなRNaseIII活性を有するポリヌクレオチドについて鋭意検討した結果、低温性微生物由来のRNaseIII活性を有するポリペプチドが反応条件によるdsRNA分解産物の長さの制御が容易で、さらにRNA干渉においてsiRNAとして機能し得る長さのsiRNAを調製する際に、RNA干渉の効果の低い低分子物のものが生じにくいRNaseIII活性を有することを見出した。また、4℃においても生育可能な低温性微生物Shewanella sp.Ac10由来のRNaseIII活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドのクローニングを試み、目的のRNaseIII活性を有するポリペプチドを発現させることに成功し、該RNaseIIIの活性が、siRNA調製時に好適であることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明の第1の発明は、完全分解後にRNA干渉に有効な特定の範囲のdsRNA分解物を得ることができることを特徴とするRNaseIII活性を有する微生物由来のポリペプチドに関する。
【0010】
本発明の第2の発明は、反応条件の制御が容易なRNaseIII活性を有するポリペプチドであって、大腸菌由来のRNaseIIIでdsRNAを処理して得られた最終分解物よりも大きい特定の範囲のdsRNA分解物を得ることができることを特徴とするポリペプチドに関する。
【0011】
本発明の第3の発明は、dsRNA分解速度が、大腸菌由来のRNaseIIIのdsRNA分解速度よりも遅いことを特徴とする、反応条件の制御が容易なRNaseIII活性を有するポリペプチドに関する。
【0012】
本発明の第4の発明は、大腸菌由来のRNaseIIIのdsRNA分解速度よりも遅く反応条件の制御が容易なポリペプチドであって、約10塩基対前後の小さいdsRNA分解物が生じにくい特性を有するRNaseIII活性を有するポリペプチドに関する。
【0013】
本発明の第1〜4の発明においては、当該ポリペプチドは、低温性微生物由来であることが好ましく、特に限定はされないが例えば、シェワネラ属微生物であることが好ましい。
【0014】
本発明の第5の発明は、下記から選択されるアミノ酸配列を含有することを特徴とするRNaseIII活性を有するポリペプチドであって、反応条件に応じて大腸菌由来のRNaseIIIでdsRNAを処理して得られた最終分解物よりも大きい特定の範囲のdsRNA分解物を任意に得ることができることを特徴とするポリペプチドであり、
(a)配列表の配列番号4記載のアミノ酸配列、
(b)配列表の配列番号4記載のアミノ酸配列において一ないしは複数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入あるいは付加されたアミノ酸配列;又は
(c)配列表の配列番号1記載の塩基配列に厳密な条件下でハイブリダイズ可能な塩基配列でコードされるアミノ酸配列、に関する。
【0015】
本発明の第6の発明は、核酸結合活性を有するタンパク質との融合タンパク質である本発明の第1〜第4の発明のポリペプチドに関する。
【0016】
本発明の第7の発明は、本発明の第1〜第6の発明のポリペプチドを用いたdsRNAの分解方法に関する。
【0017】
本発明の第7の発明において、特に限定はされないがdsRNAの分解物はRNA干渉においてsiRNAとして機能しうるdsRNAであるものが例示される。また、本発明の方法においては、核酸結合活性を有するタンパク質の存在下で実施しても良く、使用するポリペプチドが、核酸結合活性を有するタンパク質と本発明の第1〜第4の発明のポリペプチドとの融合タンパク質であっても良い。当該核酸結合活性を有するタンパク質は、特に限定はされないが例えば好熱性菌あるいは耐熱性菌由来のコールドショックプロテインが例示される。特に限定はされないが例えば、当該コールドショックプロテインは、サーモトガ マリティマ由来のコールド ショック プロテインBが挙げられる。
【0018】
本発明の第8の発明は、本発明の第7の発明に記載の方法に用いる組成物であって、本発明の第1〜第6の発明のポリペプチドを含有することを特徴とするdsRNA分解用組成物に関する。
【0019】
本発明の第9の発明は、本発明の第7の発明に記載の方法に用いるキットであって、本発明の第1〜第6の発明のポリペプチドを含有することを特徴とするdsRNA分解用キットに関する。
【0020】
本発明の第10の発明は、下記から選択される塩基配列を有する核酸に関する。
(a)配列表の配列番号1記載の塩基配列、
(b)配列表の配列番号1記載の塩基配列において一ないしは複数個の塩基が置換、欠失、挿入あるいは付加された塩基配列;又は
(c)配列表の配列番号1記載の塩基配列に厳密な条件下でハイブリダイズ可能な塩基配列。
【0021】
本発明の第11の発明は、本発明の第10の発明の核酸を用いて、RNaseIII活性を有するポリペプチドを製造する方法に関する。
【発明の効果】
【0022】
本発明により、反応条件の制御が容易な低温性微生物由来のRNaseIII活性を有するポリペプチドが提供される。さらに本発明のポリペプチドを用いることにより、RNA干渉においてsiRNAとして機能し得る長さのdsRNAを簡便に、効率よく生成させる方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本明細書においてRNaseIII活性を有するポリペプチドとは、2本鎖RNA(double stranded RNA:dsRNA)を分解するエンドヌクレアーゼのことを言い、一般にはdsRNAを完全に消化することで10塩基対程度の小断片dsRNAを生成する。上記ポリペプチドは、天然型あるいは人工的に修飾されたもののいずれのdsRNAをも基質として分解することができる。特に限定はされないが例えば、fluorine−CMP w2’−fluorine−UMPで置き換えたdsRNA等が例示される。
【0024】
本明細書においてdsRNAとは、2本鎖構造を形成したRNAのことであり、特に限定はされないが例えばRNA干渉の対象となるmRNAと該mRNAに相補的な塩基配列を有するRNAとの2本鎖構造を形成したRNAのことを言う。
上記dsRNAには2本鎖構造を保持したRNA分解物も含まれる。その中には、RNA干渉に有用なsi(short interfering)RNAも含まれる。また、上記dsRNAならびにその分解物には3’及び/又は5’末端側に一本鎖部分があってもよい。
【0025】
本明細書において、RNA干渉においてsiRNAとして機能し得るdsRNAとは、特に限定はされないが例えば、約10〜100塩基対の範囲中の特定の長さのdsRNAのことを言う。さらに例えば、RNA干渉においてsiRNAとして機能し得る長さのsiRNAとは約15〜30塩基対の範囲、特に20〜25塩基対の範囲のdsRNAであっても良い。
【0026】
本明細書において、特定の範囲のdsRNAとは、上記RNA干渉においてsiRNAとして機能し得るdsRNAであり、約10塩基対前後の小さなdsRNA分解物の存在比が少ないことを特徴とする。特に限定はされないが、約10〜100塩基対の範囲、より好ましくは約15〜30塩基対の範囲、さらに好ましくは20〜25塩基対の範囲のdsRNAであっても良い。
【0027】
本明細書において反応条件の制御が容易とは、特に限定はされないが例えば、dsRNA分解反応の場合、当該分解反応において反応速度が遅く、生成する低分子産物を目安(dsRNA分解産物の長さを目安に)に部分分解の条件を設定し易いもののことを言う。言い換えれば、低分子産物が生じにくいものが好ましい。上記反応条件の制御が容易な酵素を産生するものとしては、特に限定はされないが例えば下記に示す低温性微生物由来のものが好適に使用できる。
【0028】
本明細書において完全分解とは、酵素量が十分である分解反応において、基質の分解反応が進み分解産物の生産量が定常期に達する(基質と分解物が平衡状態となり量が変化しなくなる)のに十分な時間を経過した分解反応のことを意味する。部分分解とは、完全分解に達する前の分解を意味する。
【0029】
微生物は、生育できる温度範囲の違いによって、高温性、中温性、低温性微生物に大別される。この低温で生育できる微生物はさらに生育できなくなる上限温度と最適生育温度によって、低温微生物と好冷微生物に細分され、生育限界温度20℃以下で最適生育温度15℃以下のものを好冷微生物、生育限界温度20℃以上のものを低温性微生物と一般に呼称されている。本明細書において、低温性微生物とは、上記低温性微生物のことを言う。本発明において遺伝子源として使用できる微生物は、特に属、種あるいは株などを限定するものではないが、例えばシェワネラ(Shewanella)属などに分類される低温性微生物等を用いることができる。これらの微生物については公的微生物寄託機関において容易に入手できる。前記シェワネラ属微生物の例として、シェワネラ・ピュ−トリファシエンス(Shewanella putrefaciens)SCRC−2874(FERM BP−1625)あるいは、シェワネラ属 Ac10株等が例示される。しかしながら、前記したように、種々の低温性微生物を同様にして遺伝子源として使用することができることは言うまでもない。
【0030】
以下、本発明を詳細に説明する。
(1)本発明のRNaseIII活性を有するポリペプチド並びに該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド
本発明のRNaseIII活性を有するポリペプチドは、反応条件の制御が容易なポリペプチドである。特に限定はされないが例えば、反応条件の制御が容易なRNaseIII活性を有するポリペプチドであって、大腸菌由来のRNaseIIIでdsRNAを処理して得られた最終分解物よりも大きい特定の範囲のdsRNA分解物を得ることができることを特徴とするポリペプチドが例示される。
また、本発明のポリペプチドは、大腸菌由来のRNaseIIIのdsRNA分解速度よりも遅く反応条件の制御が容易なポリペプチドであって、約10塩基対前後の小さいdsRNA分解物が生じにくい特性を有していても良い。
すなわち、本発明のポリペプチドは、反応条件(温度、時間、酵素濃度等)を任意に設定することにより、今まで大腸菌由来のRNaseIIIでは困難であった、特定の範囲のdsRNAを容易に得ることができる。さらに、酵素バッファーにマンガンイオンなどの特別な試薬を添加することなく、特定の範囲のdsRNAを容易に得ることができるポリペプチドであることが好ましい。
【0031】
さらに本発明のポリペプチドの別態様としては、dsRNA分解速度が、大腸菌由来のRNaseIIIのdsRNA分解速度よりも遅いことを特徴とする、反応条件の制御が容易なRNaseIII活性を有するポリペプチドが例示される。
本発明においては、特に限定はされないが例えば、大腸菌由来のRNaseIIIと比較してdsRNA分解活性が遅いものが好ましく、その反応速度が1時間反応させても約10塩基対程度の断片が生じにくいものが好ましい。
本発明のRNaseIII活性を有するポリペプチドは、大腸菌由来のRNaseIIIよりもdsRNA分解速度が遅いため、反応時間、反応温度等を選択することにより、任意の特定の長さのdsRNAを調製することができる。前記特性を利用することにより、これまでの大腸菌由来のRNaseIIIでは困難であった、dsRNAの部分分解も実施することができる。さらに、本発明のRNaseIII活性を有するポリペプチドは、大腸菌由来のRNaseIIIよりもRNA干渉においてsiRNAとして機能し難い低分子のdsRNAが生成しにくいポリペプチドである。言い換えれば、当該ポリペプチドは、大腸菌由来のRNaseIIIに比較して、長鎖dsRNA(約500〜1000塩基対)の分解速度が遅く、また約10塩基対程度の低分子分解物が生じにくいことから、RNA干渉においてsiRNAとして機能し得るdsRNAをより簡便に、効率的に調製することができる。
【0032】
本発明のポリペプチドは、RNA干渉においてsiRNAとして機能し得るdsRNAを調製することができる。特に限定はされないが、配列表の配列番号4記載のアミノ酸配列を有するものが例示される。また、本発明のRNaseIII活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドとしては、配列表の配列番号1記載の塩基配列を有するものが挙げられる。また、上記機能を有する範囲であれば上記アミノ酸配列あるいは塩基配列において、一ないしは複数個のアミノ酸あるいは塩基の置換、欠失、挿入あるいは付加されたものも本発明のRNaseIII活性を有するポリペプチドに含まれる。特に限定はされないが、例えば配列表の配列番号5記載のアミノ酸配列を有するポリペプチドが挙げられる。
さらに、本発明によって開示されたアミノ酸配列(配列表の配列番号4)に少なくとも70%、好ましくは80%、さらに好ましくは90%、より好ましくは95%の相同性を有するアミノ酸配列によってコードされるポリペプチドは、RNaseIII活性を有していれば本発明の範囲内に属するものである。
【0033】
さらに配列番号1で表わされるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、相当する配列番号1で表わされるポリヌクレオチドがコードするポリペプチドと同等のdsRNA分解活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドも含まれる。上記「ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件」とは、特に限定はされないが、例えば、モレキュラー クローニング ア ラボラトリー マニュアル第3版〔サンブルーク(Sambrook)ら、Molecular cloning,A laboratory manual 3rd edition、2001年、コールド スプリング ハーバー ラボラトリー プレス(Cold Spring Harbor Laboratory Press)社発行〕等の文献に記載の条件が挙げられ、6×SSC(1×SSCは、0.15M NaCl、0.015Mクエン酸ナトリウム、pH7.0)と0.5%SDSと5×デンハルト〔Denhardt’s、0.1%ウシ血清アルブミン(BSA)、0.1%ポリビニルピロリドン、0.1%フィコール400〕と100μg/mlサケ精子DNAとを含む溶液中、用いるプローブのTm−25℃の温度で一晩保温する条件等が挙げられる。
【0034】
より低いストリンジェンシーのハイブリダイゼーション条件で本発明のポリヌクレオチドにハイブリダイズする核酸分子もまた本発明に包含される。ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーおよびシグナル検出の変化は、主として、ホルムアミド濃度(より低い百分率のホルムアミドが、低下したストリンジェンシーを生じる)、塩濃度、または温度の操作によって行われる。例えば、より低いストリンジェンシー条件は、6×SSPE(20×SSPE=3M NaCl;0.2M NaHPO;0.02M EDTA、pH7.4)、0.5%SDS、30%ホルムアミド、100μg/mlサケ精子ブロッキングDNAを含む溶液中での37℃での一晩インキュベーション;次いで1×SSPE、0.1%SDSを用いた50℃での洗浄を含む。さらに、より低いストリンジェンシーを達成するために、ストリンジェントなハイブリダイゼーション後に行われる洗浄は、より高い塩濃度(例えば、5×SSC)で行うことができる。
【0035】
上記の条件は、ハイブリダイゼーション実験においてバックグラウンドを抑制するために使用される代替的なブロッキング試薬を添加および/または置換することによって改変することができる。代表的なブロッキング試薬としては、デンハルト試薬、BLOTTO、ヘパリン、変性サケ精子DNA、および市販の製品処方物が挙げられる。また、この改変に応じて、上記のハイブリダイゼーション条件の他の要素の改変が必要な場合もある。
【0036】
さらに、本発明によって開示された塩基配列(配列表の配列番号1)に少なくとも60%、好ましくは70%、さらに好ましくは80%、より好ましくは90%の相同性を有する核酸は、本発明の範囲内に属するものである。
【0037】
上記相同性は、例えばコンピュータープログラムDNASIS−Mac(タカラバイオ社製)、コンピュータアルゴリズムFASTA(バージョン3.0;パーソン(Pearson,W.R.)ら、Pro.Natl.Acad.Sci.,85:2444−2448,1988)、コンピューターアルゴリズムBLAST(バージョン2.0;Altschulら、Nucleic Acids Res.25:3389−3402,1997)によって測定することができる。
【0038】
本発明のポリヌクレオチドは、任意のポリリボヌクレオチドまたはポリデオキシリボヌクレオチドから構成され得、これは、非改変RNAもしくは非改変DNAまたは改変RNAもしくは改変DNAであり得る。例えば、ポリヌクレオチドは、一本鎖および二本鎖DNA、一本鎖および二本鎖領域の混合物であるDNA、一本鎖および二本鎖RNA、ならびに一本鎖および二本鎖領域の混合物であるRNA、一本鎖、またはより代表的には二本鎖もしくは一本鎖および二本鎖領域の混合物であり得るDNAおよびRNAを含むハイブリッド分子から構成され得る。当該ポリヌクレオチドはまた、安定性のために、または他の理由のために改変された1つ以上の改変された塩基またはDNAもしくはRNA骨格を含み得る。「改変された」塩基としては、例えば、トリチル化された塩基およびイノシンのような普通でない塩基が挙げられる。種々の改変が、DNAおよびRNAに対して行われ得、したがって、「ポリヌクレオチド」は、化学的、酵素的、または代謝的に改変された形態を含む。
【0039】
遺伝子操作による上記酵素、ポリペプチドの製造方法としては、例えば、該RNaseIIIをコードするDNA配列が宿主生物での酵素発現機能を有する適当なプロモーター、オペレーター及びターミネーター配列と共に、宿主生物中で複製されるベクターに挿入されたプラスミドを用いて形質転換された宿主細胞、または該プロテアーゼをコードするDNA配列が宿主生物での酵素発現機能を有する適当なプロモーター、オペレーター及びターミネーター配列と共に、宿主細胞DNAにインテグレーションされることで形質転換された宿主細胞を、RNaseIIIの発現できる条件のもとに培養し、さらにRNaseIIIを培養液から回収する方法が挙げられる。
【0040】
また、本発明のRNaseIIIは、該RNaseIIIをコードするポリヌクレオチド等を基にして得られる該RNaseIIIのアミノ酸配列に関する知見を基に、従来のRNaseIIIをコードするDNAを改変する遺伝子工学の手法によって生産されるものであってもよい。
特に限定はされないが、本発明のRNaseIII活性を有するポリペプチドにおいて、さらに発現ベクター由来の配列、例えば、発現あるいは翻訳増強配列(例えば、Perfect DB配列等)、発現タンパク質精製用のタグ配列(例えば、His tag配列等)、あるいは発現タンパク質のN末端側の付加配列を除去するための配列(例えば、Factor Xa配列等)などのアミノ酸配列を付加したものも本発明のdsRNA分解活性を有するタンパク質に含まれる。前記ポリペプチドとしては、特に限定はされないが、例えば配列表の配列番号5記載のアミノ酸配列を有するRNaseIII活性を有するポリペプチドが挙げられる。
さらに、本発明のRNaseIII活性を有するポリペプチドは、核酸結合活性を有するタンパク質、例えばRNA合成活性を有するタンパク質との融合タンパク質の形態のものであってもよい。
【0041】
本発明のRNaseIII活性を有するポリペプチドを製造するためのベクターには、特に限定はなく、市販のベクター、発現系のいずれもが使用できる。特に、限定はされないが例えばpETシステム(ノバジェン社製)を用いることができる。さらに、低温で機能し得るプロモーターを有するベクターが好適に使用でき、例えば国際公開第99/27117号パンフレットに記載のpCold系ベクターが挙げられる。
本発明の製造方法の一態様としては、国際公開第99/27117号パンフレットに記載のpCold系ベクターで製造する方法が例示される。
すなわち、本発明の製造方法においては、siRNAを生成させ得る機能を保持できるポリペプチドを発現できるベクターであればいずれもが好適に使用できる。
また、当該siRNAを生成させ得る機能を最終的に保持できるポリペプチドを得られるならば、ポリペプチド発現時は封入体の形態であるがその後のリホールディング操作により当該機能を回復できるものを発現できるベクターも含まれる。
【0042】
本発明のRNaseIIIを採取するには、一般の大腸菌組み換え酵素採取の手段に準じて行えば良い。即ち、大腸菌組み換え体を培養後、遠心分離、濾過等の通常の分離手段により菌体を培養液から分離することができる。この菌体を破砕して無細胞抽出液を調製し、粗酵素液として以下の精製操作に用いる。また、酵素が菌体外に分泌されている場合には、菌体が除去された培養液上清を粗酵素液とすることができる。この粗酵素液はそのまま使用することもできるが、必要に応じて、限外濾過、沈澱法等の手段により回収し、適当な方法を用いて粉末化して用いることもできる。また、酵素精製の一般的手段、例えば適当な陽イオン交換樹脂、陰イオン交換樹脂、ヒドロキシアパタイト等によるクロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィー、ゲル濾過等の組合わせによって精製することもできる。
【0043】
ポリペプチドを遺伝子工学的に製造したり、その製造物を使用するに当たり、そのポリペプチドがどの生物由来であるかは、その製造効率、使用効果に大きな影響を与える。すなわち、本発明のポリペプチドは、ヒトDicerに比べて、大量にかつ安価に製造することができる。さらに、Dicerに比べて、基質の切れ残りが少なく、反応時間が短いので、大量の基質を処理するのに適している。
【0044】
(2)本発明のポリペプチドを用いたdsRNAの分解方法
本発明のdsRNAの分解方法は、上記(1)記載のポリペプチドを用いることを特徴とする。本発明の方法において、上記ポリペプチドを用いることにより、反応条件(時間、温度、酵素濃度等)を制御することにより、例えば特定の範囲のsiRNAを調製することができる。特に限定はされないが例えば、大腸菌RNaseIIIより温和な反応条件、30℃の反応温度で反応でき、RNA干渉の際に効果的の望める長さのsiRNAをより簡便に、効率的に調製することができる。
【0045】
さらに本発明の方法においては、核酸結合活性を有するタンパク質の存在下に行うことを特徴とする。当該核酸結合タンパクとしては、結果的にdsRNA分解活性を促進するものであれば特に限定はなく、例えば、上記RNA結合活性を有するタンパク質等が好適に使用できる。
当該RNA結合活性を有するタンパク質としては特に限定はないが、コールド ショック プロテイン(Csp:cold shock protein)が例示される。特に常温域で機能し得るコールド ショック プロテインが好適に使用でき、好熱性菌あるいは耐熱性菌由来のコールド ショック プロテインが好ましい。特に限定はされないが、例えばプロテイン サイエンス(Protein Science)第8巻、394−403頁(1999)記載の配列表の配列番号12記載のアミノ酸配列(配列表の配列番号13記載の塩基配列でコードされるアミノ酸配列)を有するサーモトガ マリティマ(Thermotoga maritima)由来のコールド ショック プロテインB(CspB)タンパク質、モレキュラー マイクロバイオロジー(Mol.Microbiol.)第11巻(5)、833−839頁(1994)記載の大腸菌由来CspBタンパク質、ジャーナル オブ バクテリオロジー(J.Bacteriol.)第174巻(20)、6326−6335頁(1992)記載のバチルス サブチリス(Bacillus subtilis)由来CspBタンパク質が好適に使用できる。
当該CspBタンパク質を上記(1)記載のポリペプチドと組み合わせることにより、当該dsRNA分解活性を促進させることができる。さらに、本発明の方法においては、当該核酸結合活性を有するタンパク質、例えばRNA合成活性を有するタンパク質は、本発明のRNaseIII活性を有するポリペプチドとの融合タンパク質の形態のものであってもよい。
【0046】
(3)本発明の方法に使用される組成物
本発明の組成物は、特定の長さのdsRNAに分解する反応を効率よく行うための組成物であり、例えばRNA干渉の際に効果の望める長さのsiRNAを効率よく調製するための組成物である。当該組成物は、上記(1)記載のRNaseIII活性を有するポリペプチドを含む組成物である。
上記RNaseIII活性を有するポリペプチドにおいて、さらに発現ベクター由来の配列、例えば、発現あるいは翻訳増強配列(例えば、Perfect DB配列等)、発現タンパク質精製用のタグ配列(例えば、His tag配列等)、あるいは発現タンパク質のN末端側の付加配列を除去するための配列(例えば、Factor Xa配列等)などのアミノ酸配列を付加したポリペプチドであっても良い。前記ポリペプチドとしては、特に限定はされないが、例えば配列表の配列番号5記載のアミノ酸配列を有するRNaseIII活性を有するポリペプチドが挙げられる。また、本発明の組成物には、上記ポリペプチドを安定化させるための緩衝液を含んでいてもよい。
【0047】
さらに当該組成物は、核酸結合活性を有するタンパク質を含んでいてもよく、当該核酸結合活性を有するタンパク質は特に限定はされないが、コールド ショック プロテインが好適であり、例えば、好熱性菌あるいは耐熱性菌由来のコールド ショック プロテイン(Csp:cold shock protein)が好適に使用でき、配列表の配列番号12記載のアミノ酸配列(配列表の配列番号13記載の塩基配列でコードされるアミノ酸配列)を有するサーモトガ マリティマ(Thermotoga maritima)由来のCspBタンパク質が好ましい。
【0048】
さらに本発明の組成物の別態様としては、上記の核酸結合活性を有するタンパク質と本発明のRNaseIII活性を有するポリペプチドとの融合タンパク質を含有していてもよい。
【0049】
(4)本発明の方法に使用されるキット
本発明の方法に使用されるキットは、特定の長さのdsRNAに分解する反応を効率よく行うためのキットであり、例えばRNA干渉の際に効果の望める長さのsiRNAを効率よく調製するためのキットである。
本発明のキットには、RNaseIII活性を有するポリペプチドを含んでいてもよい。該RNaseIII活性を有するポリペプチドとしては、上記(1)で挙げられたものが好適に使用できる。さらに本発明のキットには、上記ポリペプチドを安定化させるための緩衝液を含んでいてもよい。
【0050】
さらに当該キットは、核酸結合活性を有するタンパク質を含んでいてもよく、当該核酸結合活性を有するタンパク質は特に限定はされないが、コールド ショック プロテインが好適であり、例えば、好熱性菌あるいは耐熱性菌由来のコールド ショック プロテイン(Csp:cold shock protein)が好適に使用でき、配列表の配列番号12記載のアミノ酸配列(配列表の配列番号13記載の塩基配列でコードされるアミノ酸配列)を有するサーモトガ マリティマ(Thermotoga maritima)由来のCspBタンパク質が好ましい。
【0051】
さらに本発明のキットの別態様としては、上記の核酸結合活性を有するタンパク質と本発明のRNaseIII活性を有するポリペプチドとの融合タンパク質を含有していてもよい。
【0052】
さらに、本発明のキットには、上記以外のコンポーネント、例えば基質となるdsRNAの合成を行なうための試薬、反応の結果生成された特定の長さのdsRNAを精製するための試薬、それを生体サンプルに導入する試薬等を含有していても良い。特に限定はされないが例えば、分解産物であるsiRNAを精製するための試薬、それを生体サンプルに導入する試薬等を含有していても良い
本発明のキットを用いることで、RNA干渉の際に効果の望める長さのsiRNAを簡便に、効率的に調製することができる。
【実施例】
【0053】
以下に実施例を示し、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって制限されるものではない。
【0054】
実施例1 ショットガンライブラリーの調製
(1)ゲノムDNAの調製
シュワネラ属(Shewanella sp.)Ac10株を0.15g/mlトリプトン、0.01g/ml酵母エキス、0.3g/ml塩化ナトリウム、0.01g/mlグルコース、11.5mMリン酸水素二カリウム、7.4mMリン酸二水素カリウム、4mM硫酸マグネシウムを含む培地5mlに植菌し、15℃で40時間培養した。この培養液を5000rpmで1分間遠心分離を行ない、沈殿物として得られた菌体を25mM Tris−HCl緩衝液(pH8.0)、50mMグルコース、10mM EDTA溶液500μlに懸濁した。この懸濁液に10%SDSを50μl添加し、よく混和した後20mg/ml ProteaseK(タカラバイオ社製)を5μl加えて50℃で3時間保温した。さらに、クロロホルムを500μl加えて30分間ゆっくり振とうし、10000g、10分間、遠心し、上清を分取後1.5mlのエタノールを添加した。綿状になったゲノムDNAをチップで絡め取り、70%エタノールでの洗浄を2回行なった後、50℃で乾燥させ1mM Tris−HCl緩衝液(pH7.5)、0.1mM EDTA溶液100μlに溶解させ、ゲノムDNA溶液を得た。
【0055】
(2)ライブラリーの作成
実施例1−(1)で得られたゲノムDNA溶液を2μg/200μlに調製し、このゲノムDNAをHydrosher(GENE MACHINES社製)を用いて、サイクル20、スピード4の条件で、平均鎖長が1.0kbpとなるように切断した。この切断DNA溶液にPellet paint(Novagen社製)を2μl、3M酢酸ナトリウム(pH5.2)を20μl、エタノールを600μl加えてエタノール沈殿を行ない、沈殿を乾燥後、20μlのTE緩衝液(10mM Tris−HCl緩衝液(pH7.5)、1mM EDTA)に溶解した。この溶液のうち5μlを、TaKaRa BKL Kit(タカラバイオ社製)を用いて、平滑化反応、リン酸化反応、ライゲーション反応を添付のプロトコールに従い行なった。なお、ライゲーション反応のベクターとして、pUC18 SmaI/BAP(アマシャムファルマシア社製)及びpUC118 HincII/BAP(タカラバイオ社製)を用いた。上記キットを用いて得られた溶液をTE緩衝液で100μlにし、フェノール/クロロホルム抽出、エタノール沈殿を行ない、20μlのTE緩衝液に溶解させた。このライゲーション溶液に、大腸菌コンピテントセルとしてDH10B electro cell(GIBCO BRL社製)を50μl加え、GenePulser(BIO RAD社製)を用いて、1.5kV、200Ω、25μFの条件でエレクトロポレーションを行なった。この溶液に、1ml SOC培地を加えて37℃で1時間振とうし、100μg/mlアンピシリン、100μg/ml IPTG、40μg/ml X−galを含むLB寒天培地で培養を行なった。その結果、およそ1000個のコロニーが得られ、一部のコロニーについてPCR反応によるインサートチェックを行い、400万個のクローンからなるショットガンライブラリーを調製した。
【0056】
実施例2 ゲノム配列の解析
(1)ゲノム配列の決定
実施例1で得られたショットガンライブラリーのそれぞれの大腸菌クローン43200個から、以下の方法でプラスミドDNAを調製した。大腸菌クローンを1g/mlトリプトン、0.5g/ml酵母エキス、1g/ml塩化ナトリウムを含む培養液200μlで37℃、14時間の条件で培養した。この培養液を5000rpmで1分間遠心分離を行ない、沈殿物として得られた菌体をプラスミド抽出ロボット(BECKMAN社製)を用いて、25mM Tris−HCl緩衝液(pH8.0)、50mMグルコース、10mM EDTAを含む溶液80μlに懸濁し、0.2N水酸化ナトリウム、1%SDS溶液を含む溶液80μlを加え、さらに3M酢酸カリウム(pH5.2)溶液80μlを添加した。この懸濁液をNAプレート(ミリポア社製)に移し吸引して菌体残渣を除き、清浄した溶液を8Mグアニジン溶液150μlを加えたFBプレート(ミリポア社製)に移した。さらに吸引操作によりFBプレートにプラスミドDNAを吸着し、80%エタノールで3回洗浄後、10mM Tris−HCl緩衝液(pH8.0)、1mM EDTA溶液70μlでプラスミドDNAを溶出した。
【0057】
このプラスミドDNA2μlに、滅菌水0.875μl、10pmol/μl濃度のM13−47ならびにRV−Mプライマー(いずれもタカラバイオ社製)を0.125μl、DynamicET 2μlを加え、95℃30秒、50℃20秒、60℃1分20秒を1サイクルとする40サイクルのPCR条件で反応を行ない、反応溶液をシークエンサーMegaBACE 1000(アマシャム ファルマシア社製)を用いて塩基配列の解析を行なった。こうして得られた塩基配列データをコンピュータープログラムCAP4(Pracel社製)により、集合、整列、解析を行ない、1つのゲノム配列として構築した。
【0058】
(2)遺伝子の解析
上記実施例2−(1)で得られたゲノム配列から、コンピュータープログラムGenmark v.2.4c(Gene Probe、Inc.)を用いてORF解析を行なったところ、4935個のORFが予測された。これらのORFについて、コンピューターアルゴリズムBLAST(Ver2.0)を用いて、遺伝子データベースGenBankでのホモロジーサーチを行なったところ、3075個のORFについてその機能が推定され、BLAST検索によりそれぞれのORFにどの酵素とホモロジーがあるのかの情報を得た。その中から低温性微生物であるシュワネラsp.Ac10株より、配列表の配列番号1記載の塩基配列を有する目的のRNaseIIIと推定される遺伝子を取得した。
【0059】
実施例3 RNaseIIIのクローニングと発現
(1)発現ベクターの構築
以下のようにして発現ベクターを構築した。
まず、実施例2−(2)で得られたRNaseIIIの塩基配列より、配列表の配列番号2及び3記載の塩基配列を有する合成プライマー1及び2をDNA合成機で合成し、常法により精製した。上記合成プライマー1は、制限酵素EcoRIの認識配列を塩基番号11〜16に、さらに上記RNaseIIIのアミノ酸配列(配列番号4)のアミノ酸番号1〜7に相当する塩基配列を塩基番号18〜37にもつ合成DNAである。また、合成プライマー2は、制限酵素BamHIの認識配列を塩基番号11〜16に、さらにRNaseIIIのアミノ酸配列(配列番号4)のアミノ酸番号221〜226に相当する塩基配列を塩基番号20〜37にもつ。
【0060】
次に上記合成プライマーを用いて、PCRを行った。PCRの反応条件を以下に示す。
すなわち、実施例1−(1)で調製したゲノムDNA1μl、10μlの10×Pyrobest buffer(タカラバイオ社製)、8μlのdNTP混合液(タカラバイオ社製)、それぞれ20pmolの合成プライマー1及び2、5UのPyrobest DNAポリラーゼ(タカラバイオ社製)を加え、滅菌水を加えて全量を100μlとした。前記反応液をTaKaRa PCR Thermal Cycler MP(タカラバイオ社製)にセットし、94℃30秒、55℃30秒、72℃2分を1サイクルとする30サイクルの反応を行なった。
【0061】
反応終了後、該反応液5μlを1.0%アガロースゲル電気泳動に供した。確認された目的の約680bpのDNAフラグメントを電気泳動ゲルより回収・精製し、エタノール沈殿を行なった。エタノール沈殿後の回収DNAを64μlの滅菌水に懸濁し、制限酵素EcoRI(タカラバイオ社製)及び制限酵素BamHI(タカラバイオ社製)で2重消化し、1.0%アガロース電気泳動によりそのEcoRI−BamHI消化物を抽出精製し、EcoRI−BamHI消化DNA断片を得た。
【0062】
次に平成9年10月31日(原寄託日)より独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6(郵便番号305−8566))にFERM P−16496として寄託され、前記独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに受託番号FERM BP−6523(国際寄託への移管請求日:平成10年9月24日)として寄託されているEscherichia coli JM109/pMM047と命名、表示されたプラスミドベクターpMM047で形質転換された大腸菌JM109を培養し、常法によりプラスミドベクターpMM047を精製し、当該ベクターを基に国際公開第99/27117号パンフレットの実施例1〜6記載の方法に従い、pCold08NC2ベクターを調製した。
【0063】
上記pCold08ベクターは、上記EcoRI−BamHI消化DNA断片を調製した時に用いたのと同じ制限酵素で切断し、末端を脱リン酸処理した後、上記EcoRI−BamHI消化DNA断片と混合し、DNAライゲーションキットver.1(タカラバイオ社製)を用いて連結した。その後、ライゲーション反応液20μlを用いて大腸菌JM109を形質転換し、その形質転換体を1.5%(w/v)濃度の寒天を含むLB培地(アンピシリン50μg/ml含む)上で生育させた。
【0064】
目的のDNA断片が挿入されたプラスミドは、シークエンシングすることにより確認し、この組み換えプラスミドをpCold08 SHE−RNIIIとした。当該プラスミドは、plasmid pCold08 SHE−RNIIIと命名、表示され、平成15年9月22日より独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6(郵便番号305−8566))にFERM P−19526として寄託され、前記独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに受託番号FERM BP−10075(国際寄託への移管請求日:平成16年7月28日)として寄託されている。
【0065】
(2)発現、精製
上記実施例3−(1)で調製したpCold08 SHE−RNIIIを用いて大腸菌BL21を形質転換し、その形質転換体を1.5%(w/v)濃度の寒天を含むLB培地(アンピシリン50μg/ml含む)上で生育させた。生育したコロニーを2.5mlのLB液体培地(アンピシリン50μg/ml含む)に植菌し、37℃で一晩培養した。この一部を100mlの同LB培地に植菌し、37℃で対数増殖期まで培養した。前記培養後、15℃に保温したインキュベーター内で10分間振とうした後、IPTGを終濃度1.0mMになるように添加し、そのまま15℃で24時間培養して発現誘導させた。その後菌体を遠心分離により集め、5mlの細胞破砕溶液[50mMトリス−塩酸緩衝液(pH8.5)、100mM塩化ナトリウム、0.5mM EDTA、1%トライトン(Triton)X−100、1mMジチオスレイトール、2mMフェニルメチルスルフォニルフルオライド]に再懸濁した。超音波破砕により菌体を破砕し、遠心分離(11,000rpm 20分)により上清の抽出液と沈殿とに分離した。
【0066】
上記上清の抽出液約5mlを用いてさらにニッケルカラムによる精製を以下のように行なった。
すなわち、樹脂容積にして1ml分のNi−NTA agarose(キアゲン社製)にbufferA[20mMトリス−塩酸緩衝液(pH8.5)、100mM塩化ナトリウム、1mMジチオスレイトール、0.1%トライトンX−100]を10ml添加し、混和後、1,500rpmで数分間遠心し、上清を廃棄して、約1mlの樹脂を回収した。菌体破砕液より調製した約5mlの上清を添加し、4℃で約1時間、ロータリーシェイカーで穏やかに混和した。その後、この目的タンパク質の吸着した樹脂をφ15mmのカラムに充填し、5mlのbufferAで2回洗浄した。次に5mlのbufferB[20mMトリス−塩酸緩衝液(pH8.5)、100mM塩化ナトリウム、1mMジチオスレイトール、0.1%トライトンX−100、40mMイミダゾール]で樹脂を洗浄後、5mlのbufferC[20mMトリス−塩酸緩衝液(pH8.5)、800mM塩化ナトリウム、1mMジチオスレイトール、0.1%トライトンX−100、40mMイミダゾール]、続いて5mlのbufferBで洗浄を行い目的以外の不要タンパク質の除去を行った。
【0067】
洗浄後、3mlのbufferD[20mMトリス−塩酸緩衝液(pH8.5)、100mM塩化ナトリウム、1mMジチオスレイトール、0.1%トライトンX−100、100mMイミダゾール]で溶出操作を行った。次に、500mlのbufferE[50mMトリス−塩酸緩衝液(pH8.5)、100mM塩化ナトリウム、0.5mM EDTA、0.1%トライトンX−100、1mMジチオスレイトール]で透析を行ない、その後、セントリコン(アミコン社製)を用いて約10倍(約300μl)まで濃縮を行なった。この精製濃縮サンプルの一部について10%SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動に供したところ、分子量約27,500のところに目的タンパク質のバンドが確認され、タンパク質濃度は約4mg/mlであった。さらに、当該サンプルについてAnti His HRP Conjugate(キアゲン社製)を用い、その添付プロトコルに従って抗Hisタグ抗体を用いたウエスタンブロッティング検出を行なったところ、目的のタンパク質バンドが発色検出された。
上記タンパク質は、Perfect DB配列、His tag配列ならびにFactor Xa配列等のアミノ酸配列を付加したものであり、配列表の配列番号5記載のアミノ酸配列を有するRNaseIII活性を有するポリペプチドである。
【0068】
実施例4 RNaseIII活性の測定
(1)dsRNA分解活性
上記実施例3−(2)で調製したRNaseIIIサンプルについてそのdsRNA分解活性を測定した。当該活性測定は以下のようにして行った。
まず、活性測定に用いた基質となるdsRNAは、TurboScript T7 Transcription kit(GTS社製)を用いて、その添付プロトコルに従って合成した。
すなわち、プラスミドpQBI25(和光純薬社製)に挿入されているRed−shift Green Fluorescent Protein(以下rsGFPと略称する)をコードする遺伝子(配列表の配列番号6)について、プラスミドpDON−AI(タカラバイオ社製)に挿入したpDON−rsGFPを鋳型とし、配列表の配列番号7記載のT7プロモーター配列をもったdsr−1プライマーと配列表の配列番号8記載のdsr−2プライマーを用いてPCRを行い、増幅産物を得た。次に得られた2本鎖DNAを鋳型として、T7 RNAポリメラーゼによるRNA合成反応により約700bpの長さのdsRNA(以下rsGFP−dsRNAと略称する)を調製した。
【0069】
上記方法で調製したrsGFP−dsRNA5μg、上記実施例3−(2)で調製したタンパク質サンプル1μl、30mM塩化マグネシウム溶液1μl、5×反応緩衝液[250mMトリス塩酸緩衝液pH8.5、1.25M塩化ナトリウム、0.5%TritonX−100、5mMジチオスレイトール]を2μl、これにnuclease free水を加えて、全量を10μlとしたものを反応液とした。
一方、対照となる市販の大腸菌由来のRNaseIII(EPICENTRE社製)の場合は、酵素液1μlを基質となるrsGFP−dsRNA5μgに添加し、33mMトリス酢酸(pH7.8)、66mM酢酸カリウム、10mM酢酸マグネシウム及び0.5mMジチオスレイトールを含む緩衝液中で全量を10μlとしたものを反応液とした。
【0070】
以上の反応液を調製し、低温性微生物由来のRNaseIII活性を有するポリペプチドの場合は30℃で、また大腸菌由来のRNaseIIIは37℃で一定時間反応後、5μlを15%ポリアクリルアミドゲル電気泳動、エチジウムブロマイドによる染色に供して切断産物の確認を行なった。
【0071】
その結果、低温性微生物由来のRNaseIII活性を有するポリペプチドで切断した産物は、30分間の切断でも100塩基対以上の分解産物が確認される部分分解の段階であり、1時間切断しても20塩基対よりも大きい切断断片が確認できた。また、一晩(約18時間)切断したものでも、1時間切断したものとほぼ同様の切断パターンを示し、約20塩基対前後の長さのところにメインの分解産物が確認できた。一方、大腸菌由来のRNaseIIIの場合、30分間切断すると約10塩基対前後の低分子分解物が主産物であることが確認できた。
以上のことから、本発明の低温性微生物由来のRNaseIII活性を有するポリペプチドでは、約10塩基対前後の低分子分解物が生じにくく、また部分分解による分解産物の調製が容易であることが確認できた。
【0072】
(2)温度感受性の検討
上記実施例3−(2)で調製したRNaseIIIサンプルについてそのdsRNA分解活性における温度感受性について検討した。対照として大腸菌由来のRNaseIII(EPICENTRE社製)を用いた。当該活性測定は以下のようにして行った。
すなわち、上記実施例3−(2)で調製したタンパク質サンプル1μl、30mM塩化マグネシウム溶液1μl、5×反応緩衝液[250mMトリス塩酸緩衝液pH8.5、1.25M塩化ナトリウム、0.5%トライトンX−100、5mMジチオスレイトール]を2μl、これにnuclease free水を加えて、全量を5μlとしたものを酵素液とし、30℃、40℃、50℃、60℃で10分間及び20分間処理した。この反応溶液に、上記実施例4−(1)で使用したrsGFP−dsRNA5μgを加えて10μlとしたものを、30℃で1時間反応させた。
【0073】
一方、対照の大腸菌由来RNaseIII(EPICENTRE社製)の場合は、酵素液1μlを33mMトリス酢酸(pH7.8)、66mM酢酸カリウム、10mM酢酸マグネシウム及び0.5mMジチオスレイトールを含む緩衝液に加えて全量を5μlとしたものを反応液とし、40℃、50℃、60℃、70℃で10分間及び20分間処理した。その後、rsGFP−dsRNAを5μg加えて10μlとしたものを37℃で1時間反応させた。
反応終了後、これらの反応液5μlを15%ポリアクリルアミドゲル電気泳動、エチジウムブロマイドによる染色に供して切断産物の確認を行なった。
【0074】
その結果、低温性微生物由来のRNaseIII活性を有するポリペプチドの場合、50℃で20分間処理したものではdsRNA分解活性が確認されず、一方、大腸菌のRNaseIIIの場合、60℃で20分間処理したもので活性が確認されなかった。
すなわち、低温性微生物由来のRNaseIII活性を有するポリペプチドは、大腸菌由来のRNaseIIIと比較して、熱感受性が高く、より低い温度での失活が可能であることが判明した。
【0075】
実施例5
本発明の低温性微生物由来のRNaseIII活性を有するポリペプチドを用いて調製したdsRNA分解物のRNA干渉の効果について検討した。対照として、市販の大腸菌由来RNaseIIIを用いた。dsRNA分解産物の調製は、上記実施例4−(1)に記載の方法で行った。すなわち低温性微生物由来のRNaseIIIの場合はrsGFP−dsRNA15μg分を、30℃、60分間で切断し、大腸菌RNaseIIIの場合は、完全分解の場合、rsGFP−dsRNA15μg分を、37℃、60分間で切断し、また部分分解の場合は37℃で10分間切断して調製した。これらの切断産物をRNA Purification Column 1、2(Gene Therapy Systems社製)を用いて精製し、これらを以下の評価に使用した。
【0076】
RNA干渉に関する評価は、以下のようにして行った。
すなわち、dsRNA分解物導入を行なう24時間前に293細胞を、10%FBSおよび1%penicillin/streptomycinを含むD−MEM培地(SIGMA社製)で適当量(cell数:5×10)24wellプレートに撒き、一晩COインキュベーター内で培養した。この培養細胞が約80%コンフレントになった時点で、50μlの無血清培地に3μlのTransIT 293 Transfection Reagent(タカラバイオ社製)を加え、激しく撹拌した。室温で5分間放置し、0.3μgのpQBI25(和光純薬社製)を加えて、穏やかに混和し、5分間室温で放置した。そこに4μlのTransIT−TKO試薬を加えて穏やかに混和し、室温で5分間放置した。そこに上記で調製したdsRNA分解物を500ng加えて穏やかに混和し、5分間室温で放置し、これをDNA/dsRNA分解物溶液とした。Well中の無血清培地を250μlになるように添加したものに、DNA/dsRNA分解物溶液を滴下し、Well内の溶液が均一になるように穏やかに混和を行なった。またコントロールとして、0.3μgのpQBI25のみを添加したもの、また滅菌水のみを加えたものも同時に行なった。その後COインキュベーター内で24時間培養した。この細胞をFACS Vantage(ベクトン・ディッキンソン社製)を用いたフローサイトメトリーに供し、ベクター(DNA)のみを導入したものに対するDNA/dsRNA分解物溶液を導入した場合のrsGFP発現の阻害効果を測定した。その結果を表1に示す。
【0077】
【表1】

【0078】
表1に示したように、コントロール(ベクターのみ)と比較してその平均蛍光値が小さいほどRNA干渉が起こっている。従って、Shewanella sp.Ac10由来のRNaseIII分解物は、大腸菌由来のRNaseIIIの完全分解産物及び部分分解産物よりも強いRNA干渉効果を示すことが確認できた。
以上のことから、本発明の低温性微生物由来のRNaseIII活性を有するポリペプチドがRNA干渉のためのsiRNA調製に有用であることが確認できた。
【0079】
実施例6 dsRNA基質を変えた場合のRNaseIII活性
上記実施例3−(2)で調製したRNaseIIIサンプルについてそのdsRNA分解活性の基質となるdsRNAをルシフェラーゼ遺伝子より作製し評価した。実施例4−(1)と同様にdsRNAは、TurboScript T7 Transcription kit(GTS社製)を用いて、その添付プロトコルに従って合成した。
【0080】
すなわち、プラスミドpGL3−Basicベクター(プロメガ社製)に挿入されているルシフェラーゼをコードする遺伝子について、プラスミドpGL3−Basicベクター(プロメガ社製)を鋳型とし、配列表の配列番号9記載のT7プロモーター配列をもったdsl−1プライマーと配列表の配列番号10記載のdsl−2プライマーを用いてPCR(増幅断片長約500塩基対)、前記dsl−1プライマーと配列表の配列番号11記載のdsl−3プライマーを用いてPCR(増幅断片長約1000塩基対)を行い、2種類の増幅産物を得た。次に得られた2本鎖DNAを鋳型として、T7 RNAポリメラーゼによるRNA合成反応により約500bpの長さ及び約1000bpの長さのdsRNAを調製した。
【0081】
上記方法で調製したdsRNA5μg、上記実施例3−(2)で調製したタンパク質サンプル1μl、30mM塩化マグネシウム溶液1μl、5×反応緩衝液[250mMトリス塩酸緩衝液pH8.5、1.25M塩化ナトリウム、0.5%トライトンX−100、5mMジチオスレイトール]を2μl、これにnuclease free水を加えて、全量を10μlとしたものを反応液とした。
以上の反応液を調製し、30℃で、一定時間反応後、5μlを15%ポリアクリルアミドゲル電気泳動、エチジウムブロマイドによる染色に供して切断産物の確認を行なった。
【0082】
その結果、切断産物は、1時間切断しても20塩基対よりも大きい切断断片が確認できた。また、一晩(約18時間)切断したものでも、1時間切断したものとほぼ同様の切断パターンを示した。
以上のことから、本発明の低温性微生物由来のRNaseIII活性を有するポリペプチドでは、鋳型を変えた場合及び基質となるdsRNAの長さを変えた場合においても、約10塩基対前後の低分子分解物が生じにくく、また部分分解による分解産物の調製が容易であることが確認できた。
【0083】
実施例7 dsRNA生産及び分解に寄与する因子の検討
(1)dsRNA生産及び分解に寄与する因子を検討するために、常温域で核酸結合活性を有するタンパク質について検討した。
上記核酸結合活性を有するタンパク質は入手が困難である。従って、配列表の配列番号12記載のアミノ酸配列を有するサーモトガ マリティマ(Thermotoga maritima)由来のCspBタンパク質をモデルタンパク質として用いた。当該タンパク質は、プロテイン サイエンス(Protein Science)第8巻、394−403頁(1999)記載の方法で調製した。
【0084】
(2)サーモトガ マリティマ由来CspBのdsRNA分解への効果
CspBを添加した形でのdsRNA分解活性は以下のように測定した。
すなわち、RNaseIIIを酵素として用いた場合、実施例3−(2)で調製したタンパク質サンプル(酵素液)1μl、上記(1)で調製したCspB溶液1μl、基質となるdsRNA1μg、30mM塩化マグネシウム溶液1μl、5×反応緩衝液[250mMトリス塩酸緩衝液pH8.5、1.25M塩化ナトリウム、0.5%トライトンX−100、5mMジチオスレイトール]を2μl、これにnuclease free水を加えて、容量を10μlとしたものを反応液とした。
CspBタンパク質の濃度は、それぞれ終濃度で9.2ng/μl、18.4ng/μl、92ng/μlになるように添加し、無添加の場合のコントロールとしてCspBの形状緩衝液である10mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.5)を1μl添加した。
以上の反応液を調製し、30℃で1時間反応後、5μlを15%ポリアクリルアミドゲル電気泳動に供し、エチジウムブロマイドによる染色を行い切断産物を確認した。
【0085】
その結果、全ての添加量においてCspB添加によるdsRNAの分解の促進が確認できた。
【0086】
実施例8 rsGFP−dsRNAから調製したdsRNA分解サンプルの評価
本発明の低温性微生物由来RNaseIIIを用いて調製したdsRNA分解物のRNA干渉の効果について検討した。対照として、市販のE.coli RNaseIII(EPICENTRE社製)を用いた。dsRNA分解産物の調製は、基本的に上記実施例4−(1)記載の方法で行った。すなわち、実施例3−(2)記載のShewanella由来RNaseIIIを2μl用いて、上記実施例4−(1)で調製したrsGFP−dsRNA10μg分を、30℃、1時間で切断し、市販のE.coli RNaseIII(1U/μl)については2μl用いて、dsRNA10μg分を、37℃、10分(部分分解)および60分(完全分解)で切断した。これらの切断産物をRNA Purification Column 1、2(Gene Therapy Systems社製)を用いて精製し、これらを以下のRNA干渉の評価に使用した。
【0087】
すなわち、siRNA導入を行なう24時間前に293細胞を、10%FBSおよび1%penicillin/streptomycinを含むD−MEM培地(SIGMA社製)で適当量(cell数:1.5×10)を24wellプレートにまき、一晩COインキュベーター内で培養した。この培養細胞が約80%コンフレントになった時点で、49μlの無血清培地に1μlのGenejuice Transfection Reagent(タカラバイオ社製)を加え、激しく撹拌した。室温で5分間放置し、0.3μgのpQBI25(和光純薬社製)を加えて、穏やかに混和し、5分間室温で放置した。
同時に、別チューブに47μlの無血清培地に3μlのRibojuice Transfection Reagent(タカラバイオ社製)を加えたものを用意し、激しく撹拌した。室温で5分間放置し、上記dsRNA分解物を55.6ng加えて穏やかに混和し、5分間室温で放置した。
このように調製した2種類の溶液を,Well中の10%FBSを含むD−MEM培地を250μlになるように添加したものに滴下し、Well内の溶液が均一になるように穏やかに混和を行なった。またコントロールとして、ベクター(DNA)のみを添加したもの、また滅菌水のみを加えたものも同時に行なった。その後COインキュベーター内で24時間培養した。この細胞をFACS Vantage(ベクトン・ディッキンソン社製)を用いたフローサイトメトリーに供し、ベクター(DNA)のみを導入したものに対するDNA/dsRNA分解物溶液を導入した場合のrsGFP発現の阻害効果を測定した。その結果を表2に示す。
【0088】
【表2】

【0089】
表2に示したように、コントロール(ベクターのみ)と比較して平均蛍光強度の値が小さいほどRNA干渉が起こっている。従って、Shewanella RNaseIIIsp.AC10によって得られるdsRNA分解物は、市販E.coli RNaseIIIと同様にRNAi効果を示し、市販E.coli RNaseIIIのものよりも強いRNA干渉効果を示すことが確認できた。
以上のことから、本発明のRNaseIIIがRNA干渉のための調製に有用であることが確認できた。
【0090】
上記実施例6で調製した細胞サンプルについてtotal RNAを抽出しreal time RT−PCRに供しrsGFPのmRNAを定量する事で、RNA干渉の評価を行った。
【0091】
すなわち、siRNA導入後COインキュベーターで37℃、24時間培養した細胞からtrizole(Invitrogen社製)を使用してトータルRNAを抽出、精製した。なおこの際の作業は、添付のプロトコルに従って行った。そのトータルRNAを80ng、5×M−MLV buffer(タカラバイオ社製)4μl、10mM dNTP(タカラバイオ社製)1μl、random hexamer 100pmol、RNase Inhibitor(タカラバイオ社製)20U、M−MLV Reverse Transcriptase 100U、を加え、滅菌水で全量を20μlとした。前記反応液をTaKaRa PCR Thermal Cycler SP(タカラバイオ社製)にセットし、42℃10分、95℃2分の反応を行った。この反応液に20μlの反応希釈液(1×M−MLV buffer、0.5mM dNTP mixture)を加え、これを10μlずつに分注した。前述の反応物10μlに、10×R−PCR buffer(タカラバイオ社製)2.5μl、250mM Mg2+ 0.3μl、10mM dNTP 0.75μl、TaKaRa Ex Taq R−PCR(タカラバイオ社製)1.25U、滅菌水で3000倍希釈したSYBR Green(タカラバイオ社製)2.5μl、100%DMSO 1.25μlを加え、β−actin(タカラバイオ社製)、GAPDH(タカラバイオ社製)、rsGFP(rsGFP−F:配列番号14、rsGFP−R:配列番号15)、Neo(Neo−F:配列番号16、Neo−R:配列番号17)を検出するための合成プライマーを5pmolずつ加え、滅菌水で全量を25μlとした。前記反応液をSmart Cycler II Unit(タカラバイオ社製)にセットし、95℃、10秒で熱変性を行った後、95℃5秒、60℃20秒を1サイクルとする45サイクルの反応を行なった。得られたデータを解析することで,ヒト由来のβ−actin、GAPDH、および導入プラスミド由来のrsGFP、NeoのmRNA量を定量した。その結果を表3に示す。
【0092】
【表3】

【0093】
表3に示したように、コントロール(ベクターのみ)と比較してrsGFPのmRNA量の値が小さいほどRNA干渉が起こっていると考えられる。従って、Shewanella sp.AC10 RNaseIIIによって得られるdsRNA分解物は、市販E.coli RNaseIIIと同様の効果を示し、市販E.coli RNaseIIIのものよりも強いRNA干渉効果を示すことが確認できた。
以上のことから、本発明のRNaseIIIがRNA干渉のためのsiRNA調製に有用であることが確認できた。
【0094】
実施例9 ルシフェラーゼ由来dsRNAから調製したdsRNA分解物の評価
上記実施例3−(2)で調製したサンプルについて、ルシフェラーゼ由来dsRNAを基質として上記実施例8と同様の操作を行い、dsRNA分解物のRNA干渉効果を評価した。ルシフェラーゼ由来dsRNAは、実施例6で調整した500bpのものを用いた。
【0095】
dsRNA分解産物の調製は、基本的に上記実施例4−(1)記載の方法で行った。すなわち、実施例3−(2)記載のShewanella RNaseIIIを2μl用いて、dsRNA10μg分を、30℃、1時間で切断し、市販のE.coli RNaseIII(1U/μl)については2μl用いて、dsRNA10μg分を、37℃、10分(部分分解)および60分(完全分解)で切断した。これらの切断産物をRNA Purification Column 1、2(Gene Therapy Systems社製)を用いて精製し、これらを以下のRNA干渉の評価に使用した。また、E.coli RNaseIIIを用いて37℃、10分で切断した産物については、ポリアクリルアミドゲル電気泳動を行い、21bp近辺のバンドを切り出した。この切り出したゲル片にTE bufferを加え、室温で16時間振とうし、その溶出液からエタノール沈殿により切断産物を回収した。これをゲル回収サンプルとした。
【0096】
RNA干渉に関する評価は以下のように行った。すなわち、dsRNA分解物導入を行なう24時間前に293細胞を、10%FBSおよび1%penicillin/streptomycinを含むD−MEM培地(SIGMA社製)で適当量(cell数:1.5×10)を24wellプレートにまき、一晩COインキュベーター内で培養した。この培養細胞が約80%コンフレントになった時点で、49μlの無血清培地に1μlのGenejuice Transfection Reagent(タカラバイオ社製)を加え、激しく撹拌した。室温で5分間放置し、0.5μgのpGL3−control(Promega社製)と0.1μgのpRL−TK(Promega社製)を加えて、穏やかに混和し、5分間室温で放置した。
同時に、別チューブに47μlの無血清培地に3μlのRibojuice Transfection Reagent(タカラバイオ社製)を加えたものを用意し、激しく撹拌した。室温で5分間放置し、上記siRNAを500ng、166.7ng、55.6ng加えて穏やかに混和し、5分間室温で放置した。
このように調製した2種類の溶液を,Well中の10%FBSを含むD−MEM培地を250μlになるように添加したものに滴下し、Well内の溶液が均一になるように穏やかに混和を行なった。またコントロールとして、ベクター(DNA)のみを添加したもの、また滅菌水のみを加えたものも同時に行なった。その後COインキュベーター内で24時間培養した。この細胞をDual Luciferase Reporter assay kit(Promega社製)を用いたアッセイに供することで、ベクター(DNA)のみを導入したものに対する、dsRNA分解物を添加した場合のGL3タンパク質発現の阻害効果を測定した。そのアッセイ方法については添付の説明書に従った。その結果を表4に示す。
【0097】
【表4】

【0098】
表4では、コントロール(ベクターのみ)と比較してそのGL3発現量の値が小さいほどRNA干渉が起こっていると考えられる。従って、Shewanella RNaseIIIによって得られるdsRNA分解物は、市販E.coli RNaseIIIと同様にRNA干渉効果を示し、市販E.coli RNaseIIIのものよりも強いRNA干渉効果を示すことが確認できた。またその効果は切断産物をゲル回収したものより優れていることが明らかとなった。
以上のことから、本発明のRNaseIIIがRNA干渉のためのsiRNA調製に有用であることが確認できた。
【0099】
実施例10 Shewaella RNaseIIIとヒト由来Dicerの比較
Shewanella RNaseIIIで調製したdsRNAと、ヒト由来Dicerで調製したdsRNAを用いて、RNA干渉効果の比較を行った。なお実施例9記載のルシフェラーゼを用いた評価系を利用した。
【0100】
ヒト由来Dicerとしては、市販のDicer(GTS社製)を用いた。また、実際の操作は上記実施例9の方法に従った。ただし、dsRNA分解物導入を行う293細胞は、95%コンフレントになるまでCOインキュベーター内で培養したものを用いた。結果を表5に示す。
【0101】
【表5】

【0102】
表5に示したように、コントロール(ベクターのみ)と比較してGL3mRNA量の値が小さいほどRNA干渉が起こっている。従って、Shewanella RNaseIIIによって得らるsiRNAは、市販Dicerと同程度のRNA干渉効果を示すことが確認できた。
以上のことから、本発明のRNaseIIIがRNA干渉のためのsiRNA調製に有用であることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明により反応条件によるdsRNA分解産物の長さの制御が容易なRNaseIII活性を有するポリペプチドが提供される。該ポリペプチドは、RNA干渉において最適なsiRNAを調製することができる。また、本発明の方法によりRNA干渉等において有用な、siRNAの調製方法が提供される。さらに本発明の方法を簡便に実施することができる組成物ならびにキットが提供される。
【配列表フリーテキスト】
【0104】
SEQ ID NO:2;Synthetic primer 1 to amplify a gene encoding Shewanella sp.AC10 RNaseIII
SEQ ID NO:3;Synthetic primer 2 to amplify a gene encoding Shewanella sp.AC10 RNaseIII
SEQ ID NO:5;An expression peptide sequence of Shewanella sp.AC10 RNaseIII
SEQ ID NO:7;Synthetic primer dsr−1 to amplify a gene encoding red−shifted green fluorescence protein
SEQ ID NO:8;Synthetic primer dsr−2 to amplify a gene encoding red−shifted green fluorescence protein
SEQ ID NO:9;Synthetic primer dsl−1 to amplify a gene encoding luciferase
SEQ ID NO:10;Synthetic primer dsl−2 to amplify a gene encoding luciferase
SEQ ID NO:11;Synthetic primer dsl−3 to amplify a gene encoding luciferase
SEQ ID NO:14;Synthetic primer rsGFP−F to amplify a gene encoding rsGFP
SEQ ID NO:15;Synthetic primer rsGFP−R to amplify a gene encoding rsGFP
SEQ ID NO:16;Synthetic primer Neo−F to amplify a gene encoding Neo
SEQ ID NO:17;Synthetic primer Neo−R to amplify a gene encoding Neo

【特許請求の範囲】
【請求項1】
完全分解後にRNA干渉に有効な特定の範囲の長さのdsRNA分解物を得ることができることを特徴とするRNaseIII活性を有する微生物由来のポリペプチド。
【請求項2】
反応条件の制御が容易なRNaseIII活性を有するポリペプチドであって、大腸菌由来のRNaseIIIでdsRNAを処理して得られた最終分解物よりも大きい特定の範囲の長さのdsRNA分解物を得ることができることを特徴とするポリペプチド。
【請求項3】
dsRNA分解速度が、大腸菌由来のRNaseIIIのdsRNA分解速度よりも遅いことを特徴とする、反応条件の制御が容易なRNaseIII活性を有するポリペプチド。
【請求項4】
大腸菌由来のRNaseIIIのdsRNA分解速度よりも遅く反応条件の制御が容易なポリペプチドであって、約10塩基対前後の小さいdsRNA分解物が生じにくい特性を有するRNaseIII活性を有するポリペプチド。
【請求項5】
低温性微生物由来であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のポリペプチド。
【請求項6】
低温性微生物がシェワネラ属微生物であることを特徴とする請求項5記載のポリペプチド。
【請求項7】
下記から選択されるアミノ酸配列を含有することを特徴とするRNaseIII活性を有するポリペプチドであって、大腸菌由来のRNaseIIIでdsRNAを処理して得られた最終分解物よりも大きい特定の範囲の長さのdsRNA分解物を得ることができることを特徴とするポリペプチド。
(a)配列表の配列番号4記載のアミノ酸配列、
(b)配列表の配列番号4記載のアミノ酸配列において一ないしは複数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入あるいは付加されたアミノ酸配列;又は
(c)配列表の配列番号1記載の塩基配列に厳密な条件下でハイブリダイズ可能な塩基配列でコードされるアミノ酸配列
【請求項8】
核酸結合活性を有するタンパク質との融合タンパク質であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載のポリペプチド。
【請求項9】
dsRNAに請求項1〜8のいずれか1項に記載のポリペプチドを作用させる工程を包含するdsRNAの分解方法。
【請求項10】
dsRNAの分解物がRNA干渉においてsiRNAとして機能しうるdsRNAであることを特徴とする請求項9記載の方法。
【請求項11】
核酸結合活性を有するタンパク質の存在下で実施することを特徴とする請求項9又は10記載の方法。
【請求項12】
核酸結合活性を有するタンパク質が好熱性菌あるいは耐熱性菌由来のコールドショックプロテインであることを特徴とする請求項11記載の方法。
【請求項13】
コールド ショック プロテインがサーモトガ マリティマ由来のコールド ショック プロテインBであることを特徴とする請求項12記載の方法。
【請求項14】
請求項9〜13記載の方法に用いる組成物であって、請求項1〜8のいずれか1項に記載のRNaseIII活性を有するポリペプチドを含有することを特徴とするdsRNA分解用組成物。
【請求項15】
請求項9〜13記載の方法に用いるキットであって、請求項1〜8のいずれか1項に記載のRNaseIII活性を有するポリペプチドを含有することを特徴とするdsRNA分解用キット。
【請求項16】
下記から選択される塩基配列を有するRNaseIII活性を有するポリペプチドをコードする核酸。
(a)配列表の配列番号1記載の塩基配列、
(b)配列表の配列番号1記載の塩基配列において一ないしは複数個の塩基が置換、欠失、挿入あるいは付加された塩基配列;又は
(c)配列表の配列番号1記載の塩基配列に厳密な条件下でハイブリダイズ可能な塩基配列
【請求項17】
請求項16記載の核酸を含む宿主細胞を培養する工程およびRNaseIII活性を有するポリペプチドを培養液から回収する工程を包含する、RNaseIII活性を有するポリペプチドを製造する方法。

【国際公開番号】WO2005/030948
【国際公開日】平成17年4月7日(2005.4.7)
【発行日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−514254(P2005−514254)
【国際出願番号】PCT/JP2004/014255
【国際出願日】平成16年9月29日(2004.9.29)
【出願人】(302019245)タカラバイオ株式会社 (115)
【Fターム(参考)】