説明

SiOxを用いた蛍光体の被覆方法

【課題】還元雰囲気下において蛍光体表面にSiOを被覆する蛍光体の被覆方法を安価に提供する。
【解決手段】本発明の蛍光体の被覆方法は、予め合成された蛍光体粉末を還元雰囲気ガス中に載置し、蛍光体粉末に向けて気相状態のSiO(0.8≦x≦1.2)を供給して、蛍光体粉末の外周表面にSiOを被覆することを特徴とする。また、以下の方法で被覆を行っても良い。もう一つの被覆方法は、予め合成された蛍光体粉末と、固体粉末状のSiO(0.8≦x≦1.2)と、を混合し、気体を流通させながら混合物を加熱して、前記蛍光体粉末の外周表面にSiOを被覆することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SiOを用いて蛍光体表面にSiOのコーティングを行う蛍光体の被覆方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
我々の身の周りには、白熱電球や蛍光灯など様々な照明光源が使われている。近年では、白熱電球や蛍光灯の代替照明として、低消費電力、長寿命、安全性などの特性を兼ね備えた白色LEDが注目を浴びている。そして、白色LEDに使用される蛍光体へも発光効率や耐久性などに関して更なる高性能化が要求されている(非特許文献1〜3を参照)。
【0003】
ところで、蛍光体は劣化しやすいという性質を併せ持っている。例えば、ZnSiO:Mn2+は、プラズマディスプレイパネル(PDP)の用途に適用可能な緑色蛍光体として知られている。しかしながら、Xeプラズマ下でイオン衝突により母体結晶の表面が劣化し輝度が劣化してしまうという問題があった。
【0004】
この劣化抑制を目的として、従来より、蛍光体表面をシリカ(SiO)でコーティングを施すことが試みられてきた。その代表的なものとして、ゾルゲル法により蛍光体表面の被覆が可能であるが、この手法に用いる溶液中の試薬(有機金属化合物)は大変高価であるとともに、この手法が還元雰囲気ガス中で取り扱えないものであることから、費用及び製造工程の面で満足するものではなく、実用的な劣化抑制効果を得るまでに至っていない。
【0005】
一方、本発明者らは、既に、出発原料の一部であるSiOを気相状態にして供給しながらケイ酸塩系蛍光体を合成できること、及び、この気相法を利用して得られた蛍光体が従来の固相法で得られる蛍光体よりも良好な発光特性を示すことを見出し、非特許文献4に開示している。
【0006】
しかしながら、非特許文献4の技術は、固相法に気相法を取り入れつつ原料から蛍光体を製造する方法について開示するものであり、市販の蛍光体や予め製造されている蛍光体に対して劣化防止のためにその表面を被覆する技術を開示するものではない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】渡辺智著、「InGaN系高出力LEDの現状と応用」、応用物理、第74巻、第11号、2005年
【非特許文献2】蛍光体同学会編、「蛍光体ハンドブック」、株式会社オーム社、1991年
【非特許文献3】Thomas L. Barry、J. Electrochem. Soc.、Volume 115、Issue 11、pp.1181−1184、(1968)
【非特許文献4】戸田健司 他4名著、「固気相法によるケイ酸塩蛍光体の合成」、2010年秋季 第71回応用物理学会学術講演会「講演予稿集」、社団法人応用物理学会、2010年8月30日
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、還元雰囲気下において蛍光体表面にSiOを被覆する蛍光体の被覆方法を安価に提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意検討の末、既に合成されている蛍光体を核とし、その周辺にSiOガスやSiO粉末を接触させながら反応(熱処理)させると、蛍光体表面にシリカ(SiO)を高密度に被覆できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち本発明は、以下の構成・特徴を備えるものである。
[1] 予め合成された蛍光体粉末を還元雰囲気ガス中に載置し、前記蛍光体粉末に向けて気相状態のSiO(0.8≦x≦1.2)を供給して、前記蛍光体粉末の外周表面にSiOを被覆することを特徴とする蛍光体の被覆方法。
[2] 前記還元雰囲気ガスの流入側に固体粉末状のSiOを載置し、前記還元雰囲気ガスを1200〜1700℃に加熱して前記固体粉末状のSiOを揮発させて、前記気相状態のSiOを供給することを特徴とする[1]に記載の蛍光体の被覆方法。
[3] 予め合成された蛍光体粉末と、固体粉末状のSiO(0.8≦x≦1.2)と、を混合し、気体を流通させながら混合物を加熱して、前記蛍光体粉末の外周表面にSiOを被覆することを特徴とする蛍光体の被覆方法。
[4] 前記混合物の加熱温度は、800〜1300℃の範囲内にあることを特徴とする[3]に記載の蛍光体の被覆方法。
[5] [1]〜[4]のいずれか1項に記載の被覆方法により被覆された蛍光体。
【発明の効果】
【0011】
本発明の蛍光体の被覆方法によれば、安価でかつ還元雰囲気下で取扱い可能であるSiOを利用するために商業的に実用可能なシリカ(SiO)のコーティングを蛍光体表面に施すことが可能である。
【0012】
また、本発明の方法によれば、ある程度の大きさの蛍光体粉末を核として、この核を囲繞するようにその外周面に高密度なSiOのコーティングがなされる。言い換えれば、本発明により、コアシェル構造の蛍光体粉末を作製することができる。高密度なSiOのコーティングは、蛍光体の発光強度のさらなる向上にも寄与する。
【0013】
また、SiO粉末は安定な材料であるため、蛍光体合成等に用いられる通常の装置を利用して本発明の蛍光体の被覆方法を実行することが可能である。
【0014】
また、本発明の被覆方法により被覆の対象となる蛍光体は特定に限定されず、どの種類の蛍光体にも適用可能である。例えば、LED用蛍光体として有望なBaSiO:Eu2+やSrAl:Eu2+は水に弱いという弱点を有しており、これらの蛍光体表面を被覆してこれらを保護することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施例により被覆された試料のX線回折測定結果を示した図である。
【図2】実施例により被覆された試料の蛍光特性を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付の図面を参照しながら下記の具体的な実施形態に基づき本発明を説明するが、本発明はこれらの実施形態に何等限定されるものではない。
【0017】
本発明に係る蛍光体の被覆方法は、予め合成された蛍光体粉末を還元雰囲気ガス中に載置し、前記蛍光体粉末に向けて気相状態のSiO(0.8≦x≦1.2)を供給して、前記蛍光体粉末の外周表面にSiOを被覆することを特徴とする。より好ましくは、前記還元雰囲気ガスの流入側に固体粉末状のSiOを載置し、前記還元雰囲気ガスを1200〜1700℃に加熱して前記固体粉末状のSiOを揮発させて、前記気相状態のSiOを供給する。
【0018】
本発明者らによる現在までの検証によれば、SiOはSiOに近い状態がより好適に作用するため、SiOのxの範囲は0.8≦x≦1.2であることが好ましく、更に好ましくは0.95≦x≦1.1である。このような好適な高純度SiOは、例えば、株式会社大阪チタニウムテクノロジーズや三洋貿易株式会社から市販されている。
【0019】
固体状のSiOは、還元ガス雰囲気中で1200〜1700℃、好ましくは1400〜1700℃に加熱することで昇華し、気相状態にすることができる。この高温かつ気相状態のSiOを前記蛍光体粉末に供給して反応させ、蛍光体粉末の外周面にSiOを堆積・被覆させる。
【0020】
前記還元ガス雰囲気としては、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気や空気、酸素、酸素含有窒素、酸素含有アルゴン等の酸化性雰囲気、水素を0.1〜10体積%含有する水素含有窒素、水素を0.1〜10体積%含有する水素含有アルゴン等の還元性雰囲気等が挙げられる。なお、本発明の気相−固相反応を高収率で進めるために、SiOを供給させるキャリアガス及び焼成時の雰囲気としては、水素を0.1〜10体積%含有する水素含有窒素、水素を0.1〜10体積%含有する水素含有アルゴン等の還元性雰囲気等が特に好ましい。
【0021】
なお、被覆処理の対象として用意する蛍光体粉末は、既に予め合成されているものであり、例えば、入手可能な市販の蛍光体粉末を利用してもよい。ここで、被覆対象候補となる蛍光体には、本発明によりシリカ(SiO)を被覆できるものであれば特に限定されず、種々のものが挙げられるが、劣化しやすいものや水等の液体に弱い蛍光体材料であるBaSiO:Eu2+、SrAl:Eu2+、ZnSiO:Mn2+に本発明の高密度なシリカコーティングを施すことは非常に有用である。
【0022】
また、本発明に係る蛍光体の被覆方法は、以下に説明する方法でも達成できる。すなわち、予め合成された蛍光体粉末と、固体粉末状のSiO(0.8≦x≦1.2)と、を直接混合し、気体を流通させながら混合物を加熱して、前記蛍光体粉末の外周表面にSiOの被覆を行う。この際、前記混合物の加熱温度は、前記外周面にSiOを効率よく固相合成させるため、800〜1300℃の範囲内にあることが好ましい。また、流通させる気体には、取扱の容易さから空気が挙げられるが、必ずしもこれに限定されない。
【実施例】
【0023】
本発明の実施例に係るSiO被覆された蛍光体は、以下の手法により製造した。蛍光体原料として、ZnO((株)高純度化学研究所 4N)、MnCO((株)高純度化学研究所 3N)、及びSiO(和光純薬工業(株) 3N)を混合し、空気中(空気で満たした炉内)で、1200℃、6時間、焼成することで、蛍光体ZnSiO:Mn2+粉末を予め合成した。この予め合成しておいたZnSiO:Mn2+と、SiO粉末と、を化学量論比に従って秤量し、メノウ乳鉢でアセトン湿式混合を施した。混合後、この混合物をアルミナ製ボートに載置し、今度はガスボンベを用いて空気が絶えず炉内を流通するような状態にして、混合物を1200℃の温度で6時間、加熱(焼成)した。
【0024】
(試料の同定)
実施例における実証試験では、試料の同定には粉末X線回折装置((株)マックサイエンス製,MX−Labo)を使用した。図1は、上述の焼成前後の試料のX線回折(XRD)測定結果を示す。なお、最上段の結果は、社団法人化学情報協会(JAICI)が提供している無機結晶構造データベース(ICSD)から取得されたZnSiOの参照用XRDパターンを示す。
【0025】
この図1を観察すると、上記実施例により焼成された試料のXRDパターンについてのピーク位置は、焼成前の試料のXRDパターンのピーク位置と、ZnSiOの参照用XRDパターンのピーク位置と、のどちらとも良く一致している。従って、今回の加熱処理を行っても、目的物であるZnSiO:Mn2+が、破壊されずに、主相で得られていると言える。
【0026】
(蛍光特性の評価)
図2は、実施例により製造したZnSiO:Mn2+の励起発光スペクトルを示した図である。なお、励起・発光スペクトルの測定には、分光蛍光光度計(日本分光(株),FP−6500)を使用した。図2中、左側に描画された曲線群は各試験条件での励起スペクトルを示し、右側に描画された曲線群は最適励起波長で励起した場合の発光スペクトルを示す。
【0027】
ここで、破線で示した各曲線は、焼成前の試料についての励起スペクトルと発光スペクトルを示す。また、実線は、焼成後の試料についての励起スペクトルと発光スペクトルを示す。
【0028】
図2から明らかなように、本発明の実施例によって焼成された試料は、焼成前の試料よりも高い発光強度を示した。この発光強度の向上は、SiOが蛍光体粉末の外周面に高密度に被覆された結果、Mn2+の量が増加したとともに光の取り出し効率が改善されたためであると考えられる。
【0029】
以上説明した実施例により、本発明の蛍光体の被覆方法を使用すれば、蛍光体粉末を核として、その外周面に高密度なSiOの被覆を行うことができ、これにより、蛍光体の発光強度をさらに高めることができるとともに、蛍光体の劣化防止や耐水保護を行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明の被覆方法においては、被覆の対象となる蛍光体は特定に限定されず、どの種類の蛍光体にも適用可能である。また、本発明により被覆された蛍光体は、白色LEDに限らず、CRT、PDP、FED等のディスプレイパネル表示装置、蛍光ランプ等の照明装置等の幅広い用途にも適用できる。従って、本発明は、産業上の利用可能性が非常に高い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
予め合成された蛍光体粉末を還元雰囲気ガス中に載置し、前記蛍光体粉末に向けて気相状態のSiO(0.8≦x≦1.2)を供給して、前記蛍光体粉末の外周表面にSiOを被覆することを特徴とする蛍光体の被覆方法。
【請求項2】
前記還元雰囲気ガスの流入側に固体粉末状のSiOを載置し、前記還元雰囲気ガスを1200〜1700℃に加熱して前記固体粉末状のSiOを揮発させて、前記気相状態のSiOを供給することを特徴とする請求項1に記載の蛍光体の被覆方法。
【請求項3】
予め合成された蛍光体粉末と、固体粉末状のSiO(0.8≦x≦1.2)と、を混合し、気体を流通させながら混合物を加熱して、前記蛍光体粉末の外周表面にSiOを被覆することを特徴とする蛍光体の被覆方法。
【請求項4】
前記混合物の加熱温度は、800〜1300℃の範囲内にあることを特徴とする請求項3に記載の蛍光体の被覆方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の被覆方法により被覆された蛍光体。

【図1】
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【図2】
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