説明

TG合成抑制剤

【課題】高脂血症、肥満の予防又は改善に有効なTG合成抑制剤の提供。
【解決手段】分子内に下記式(1)


で表される部分構造及びグルコース残基を有し、当該グルコース残基の4位と6位に式(1)で表される部分構造のヘキサヒドロジフェノイル基部分が置換したエラジタンニン又はその誘導体を有効成分とするTG合成抑制剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高脂血症、肥満、インスリン抵抗性及び糖尿病の予防又は改善に有効な、トリアシルグリセロール(以下、「TG」という。)合成抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、食生活の欧米化に伴う恒常的な脂肪の過剰摂取により、高脂血症や肥満の発症率が増加している。高脂血症や肥満は、さらにインスリン抵抗性や糖尿病といった生活習慣病を合併するため、国民の健康維持・増進の観点において大きな社会問題となっている。
【0003】
高脂血症、とりわけ血中TG濃度上昇は、虚血性心疾患のリスクとしても問題視されている(非特許文献1〜3)。又、食後に血清脂質が異常な増加を示し、かつ、この増加が蔓延する状態は一般的に食後高脂血症と呼ばれるが、食後高脂血症者は、高血圧や、虚血性心疾患などの動脈硬化性疾患の発症につながる危険性が高いことが指摘されている(非特許文献4及び5)。
【0004】
肥満、とりわけ内臓脂肪型肥満も、しばしば生活習慣病を合併し、動脈硬化性疾患の発症のリスクを高めることが示されている(非特許文献6及び7)。過剰に脂肪が蓄積した脂肪細胞では、インスリンの働きを高めるアディポネクチンの産生が低下し、動脈硬化性疾患の発症を促進するplasminogen activator inhibitor(PAI−1)やtumor necrosis factor(TNF−α)等の液性因子の産生が亢進し、このことが生活習慣病の合併や動脈硬化性疾患の発症と関連すると考えられている(非特許文献8)。
【0005】
インスリン抵抗性は、代謝症候群の中心的存在でインスリンが血液中に十分あるにも関わらず十分効果を発揮できない状態である。
インスリン抵抗性は、糖尿病の原因の1つと考えられている。さらに、インスリン抵抗性及び糖尿病は、糖尿病性網膜症、糖尿病性腎症、神経障害等を合併する原因となる上、高脂血症や高血圧を合併することにより、動脈硬化性疾患を発症するリスクが高まることが数多くの疫学的研究により示されている(非特許文献9及び10)。
以上のことから、一般に高脂血症、肥満、インスリン抵抗性及び糖尿病を予防及び/又は改善をすることは、健康な生活にとって重要なことであると考えられている。
【0006】
一方、食事として摂取したTGは、小腸内でリパーゼの働きにより、2−モノアシルグリセロールと脂肪酸に分解された後、小腸上皮細胞に吸収されることが知られている。又、吸収された脂質は、小腸上皮細胞内で、モノアシルグリセロールアシル基質転移酵素(MGAT)やジアシルグリセロールアシル基転移酵素(以下、「DGAT」という。)等の酵素の働きにより、TGに再合成される。さらに、合成されたTGは、小腸細胞が特異的に生成するアポ蛋白B48と会合することにより、カイロミクロン(CM)として血中に放出される。この様にDGATは小腸から体内へのTGの取り込みにおいて重要な役割を果たしているが、それに加え、DGATは肝臓における超低比重リポ蛋白(VLDL)の合成・分泌や脂肪組織のTG蓄積においても必要とされる酵素であるため、DGAT活性の阻害は高脂血症及び肥満の予防・改善の有効な手段となるものと考えられている。
【0007】
また、ノックアウトマウスを用いた研究により、DGAT欠損マウスでは、体重の減少が見られるのに加えて、血糖値の低下、インスリン感受性の向上、脂肪細胞におけるアディポネクチン発現増加等が認められることから、DGAT活性を阻害することは、インスリン抵抗性や糖尿病の予防・改善の良い手段ともなるものと考えられている(非特許文献
11)。
以上のことから、DGAT活性を阻害することにより、高脂血症、肥満、インスリン抵抗性、及び糖尿病の予防・改善が可能となる。
【0008】
従来の高脂血症、肥満、インスリン抵抗性及び糖尿病の予防・改善を目的としたアプローチの代表例として、食事療法や食欲抑制剤(非特許文献12及び13)、脂質代謝改善薬(非特許文献14及び15)を用いる方法が挙げられる。しかし、食事療法は長期的に実行するには非常に困難であり、食欲抑制剤や脂質代謝改善薬を長期服用する場合においては副作用が懸念される。
一方、高脂血症、肥満、インスリン抵抗性及び糖尿病の予防・改善を目的としDGAT活性を阻害する物質の探索が行われ、DGAT活性を阻害する食品素材として、これまでに柑橘類に多く含まれるフラボノイド、タンゲレチンがヒト肝臓由来HepG2細胞のDGAT活性を阻害することが報告されている(非特許文献16)。
また、ミカン科の植物ゴシュユ(呉茱萸、Evodia rutaecarpa)の果実に含まれるキノ
ロンアルカロイドにも、DGAT阻害作用があると報告されている(非特許文献17)。しかしながら、これまでに見出されている食品素材は、その効果の面で十分満足のいくものではない。
【0009】
また、食品素材以外にもDGAT活性を阻害する化合物として、フェノキシアセトアミド誘導体やオキサジアゾール誘導体が開示されているが(特許文献1及び2)、いずれも本発明に用いるエラジタンニンとは構造が異なるものである。
【0010】
エラジタンニンは、植物界に広く存在し、強い抗酸化作用を有することが知られている物質である。ルゴシンA−G(Rugosin)は、バラ科植物ハマナス(Rosa rugosa)より同定されたエラジタンニンであり(非特許文献18及び19)、イソルゴシン(Isorugosin)A、B及びDは、マンサク科植物フウ(Liquidambar formosana)より同定されたエラジタンニンである(非特許文献20)。又、ユースピニンA(Eusupinin)は、トウダイグサ科植物コニシキソウ(Euphorbia supina)より同定されたエラジタンニンである(非特許文献21)。ルゴシンについては、ルゴシンDが抗癌作用を有すること、ルゴシンA−Gが発毛やニキビ改善に有効であること等が報告されている(特許文献3及び4)。
しかしながら、ルゴシン、イソルゴシン、ユースピニン等の分子内に下記式で示される部分構造を有するエラジタンニン又はその誘導体に、高脂血症、肥満、インスリン抵抗性、及び糖尿病の予防又は改善作用があること、或いはDGAT阻害作用やTG合成抑制作用があることはこれまでに知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】国際公開第2006/082010号パンフレット
【特許文献2】国際公開第2007/138304号パンフレット
【特許文献3】特開昭62−129220号公報
【特許文献4】特開平3−188015号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Carlson,L.A.et al.,Acta.Med.Scand.218,207-211(1985)
【非特許文献2】Castelli,W.P.Am.Heart.J.112,432-437(1986)
【非特許文献3】多田紀夫,臨床医薬 21,215-224(2005)
【非特許文献4】中村治雄,医学のあゆみ 157,771-775(1991)
【非特許文献5】新・高トリグリセライド血症ハンドブック,秦葭哉,医薬ジャーナル社 (1998)
【非特許文献6】Peiris, A. N., et al. Ann. Intern. Med. 110, 867-872 (1989)
【非特許文献7】Matsuzawa, Y., et al. Obes. Res. 3 Suppl 2, 187S-194S (1995)
【非特許文献8】Chan, J. C., et al. I, Int. J. Obes. Relat. Metab .Disord. 26, 994-1008, 2002.
【非特許文献9】Lyon, C. J. and Hsueh, W. A., Am. J. Med. 115 Suppl 8A, 62S-68S, 2003.
【非特許文献10】堀田喜久子,松澤佑次,日本臨床 59, 481-486, 2001.
【非特許文献11】Chen, H. C. et al., J. Clin. Invest. 11, 1715-1722 (2003)
【非特許文献12】Inoue,S.et al.,Am.J.Clin.Nutr.55,199S-202S(1992)
【非特許文献13】Ryan,D.H.et al.,Obes.Res.3,553S-559S(1995)
【非特許文献14】Monk,J.P.and Todd,P.A.,Drugs.33,539-576(1987)
【非特許文献15】多田紀夫,Ther.Res.,21,2320-2325(2000)
【非特許文献16】Kurowska, E. M. et al., Lipids 39, 143-151 (2004)
【非特許文献17】Ko, J. S. et al., Planta Med. 68, 1131-1133 (2002)
【非特許文献18】Okuda, T. et al. Chem. Pharm. Bull. 30, 4230-4233 (1982)
【非特許文献19】Okuda, T. et al. Chem. Pharm. Bull. 30, 4234-4237 (1982)
【非特許文献20】Hatano, T. et al. Chem. Pharm. Bull. 36, 3920-3927 (1998)
【非特許文献21】Agata, I. et al. Chem. Pharm. Bull. 39, 881-883 (1991)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、高脂血症、肥満、インスリン抵抗性及び糖尿病の予防又は改善に有効なTG合成抑制剤を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、DGATの活性を阻害する作用を有する物質について探索を行った結果、エラジタンニン又はその誘導体が優れたDGATの活性阻害作用を有するので、TG合成抑制剤等として使用できることを見出した。
【0015】
すなわち、本発明は、以下の1)〜5)に係るものである。
1)分子内に式(1)
【0016】
【化1】

【0017】
で表される部分構造及びグルコース残基を有し、当該グルコース残基の4位と6位に式(1)で表される部分構造のヘキサヒドロジフェノイル基部分が置換したエラジタンニン又はその誘導体を有効成分とするTG合成抑制剤。
2)分子内に前記式(1)で表される部分構造及びグルコース残基を有し、当該グルコース残基の4位と6位に式(1)で表される部分構造のヘキサヒドロジフェノイル基部分が置換したエラジタンニン又はその誘導体を有効成分とする高脂血症予防又は改善剤。
3)分子内に前記式(1)で表される部分構造及びグルコース残基を有し、当該グルコース残基の4位と6位に式(1)で表される部分構造のヘキサヒドロジフェノイル基部分が置換したエラジタンニン又はその誘導体を有効成分とする肥満予防又は改善剤。
4)分子内に式(1)で表される部分構造及びグルコース残基を有し、当該グルコース残基の4位と6位に式(1)で表される部分構造のヘキサヒドロジフェノイル基部分が置換したエラジタンニン又はその誘導体を有効成分とするインスリン抵抗性予防又は改善剤。
5)分子内に式(1)で表される部分構造及びグルコース残基を有し、当該グルコース残基の4位と6位に式(1)で表される部分構造のヘキサヒドロジフェノイル基部分が置換したエラジタンニン又はその誘導体を有効成分とする糖尿病予防又は改善剤。
【発明の効果】
【0018】
本発明のTG合成抑制剤、高脂血症予防若しくは改善剤、肥満予防若しくは改善剤、インスリン抵抗性予防若しくは改善剤及び糖尿病予防若しくは改善剤は優れたDGAT阻害作用を有するため、高脂血症、肥満、インスリン抵抗性及び糖尿病の予防又は改善するための医薬品、食品等として有用である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明において、エラジタンニンとは、ヘキサヒドロジフェノイル基を有し、かつ、加水分解して脱水環化することにより、エラグ酸を生成するタンニンの総称を意味する。
【0020】
また、本発明において、エラジタンニン誘導体とは、少なくとも下記式(1)
【0021】
【化2】

【0022】
で表される部分構造を有するエラジタンニン関連加水分解性タンニンをいう。
【0023】
このうち、DGAT阻害活性の点から、好適なエラジタンニン誘導体としては、式(1)で表される部分構造に、さらにグルコース残基を有し、当該グルコース残基の4位と6位に上記式(1)で表される部分構造のヘキサヒドロジフェノイル基部分が置換したものが挙げられる。
また、エラジタンニンについても、式(1)で表される部分構造及びグルコース残基を有し、当該グルコース残基の4位と6位に上記式(1)で表される部分構造のヘキサヒドロジフェノイル基部分が置換したものが好ましい。
【0024】
エラジタンニン又はその誘導体のうち、下記式(2)で表されるものが好ましい。
【0025】
【化3】

【0026】
式(2)中、R1は、水素原子又はガロイル基を表す。式(2)中、「〜OR1」は、α型及び/又はβ型の存在を表す。
式(2)中、R2及びR3は、同一又は異なって水素原子又はガロイル基で表すか、又は一緒になってヘキサヒドロキシジフェノイル基を表す。
式(2)中、R4は、
【0027】
【化4】

【0028】
〔式中、R5及びR6は、同一又は異なって水素原子又はガロイル基を表す。〕を表す。
式(2)中、nは0又は1を表す。
【0029】
【化5】

【0030】
本発明のエラジタンニン又はその誘導体としては、可食植物に存在し安全性が高い点から、好適には、ルゴシンA、ルゴシンB、ルゴシンC、ルゴシンD、ルゴシンE、ルゴシンF、ルゴシンG、イソルゴシンA、イソルゴシンB及びイソルゴシンD等のルゴシン;ユースピニンA等のユースピニンが例示でき、このうち、DGAT阻害活性の点ので、ルゴシンA、ルゴシンB、ルゴシンD、ユースピニンAが好ましい。
【0031】
【化6】

【0032】
本発明のエラジタンニン又はその誘導体には、公知の化学合成法により得られるものや、エラジタンニン又はその誘導体を主成分とする植物抽出物又はその精製物等も包含される。
例えば、ルゴシンとしては、ハマナス(Rosa rugosa)やピンクローズ(Rosa centifolia)の果実或いは花弁から抽出、又はその抽出物を濃縮もしくは精製したものを使用することができ、ユースピニンとしては、コニシキソウ(Euphorbia supina)の全草やピンクローズ(Rosa centifolia)の果実或いは花弁から抽出、又はその抽出物を濃縮もしくは精製したものを使用することができる。
【0033】
本発明のエラジタンニン又はその誘導体を抽出するための抽出溶剤としては、水;メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール類;アセトン等の有機溶剤を用いるのが好ましく、有機溶剤のうちでも水溶性有機溶剤を用いるのがより好ましい。これら有機溶剤は、水を含んでいても良い。
これら抽出溶剤うち、水及び/又は水溶性有機溶剤を用いるのが好ましく、更に、水、エタノール、水・エタノール混液、アセトン又は水・アセトン混液を用いるのがより好ましく、水・エタノール混液又は水・アセトン混液を用いるのがより好ましい。混液中のエタノール又はアセトン濃度は、20〜80容量%、より30〜70容量%、更に40〜60容量%であるのが好ましい。
また、煮沸脱気や窒素ガス等の不活性ガスを通気して溶存酸素を除去しつつ、いわゆる非酸化的雰囲気下で抽出する方法を併用してもよい。
抽出は、例えば、所望のエラジタンニン又はその誘導体を含有する植物体1重量部に対して1〜50重量部の溶剤を用い、常温(4℃)〜溶媒の沸点の範囲、更に4〜70℃の範囲で30分〜15日間、更に2時間〜10日浸漬又は加熱還流するのが好ましい。抽出物の分離精製手段としては、例えば、抽出物を活性炭処理、液々分配、カラムクロマトグラフィーや液体クロマトグラフィー、ゲル濾過、精密蒸留等を挙げることができる。
クロマトグラフィーに用いる固定相としては、例えば、強・弱酸性イオン交換樹脂又は強・弱塩基性イオン交換樹脂;オクタデシル化シリカゲル、オクチル化シリカゲル、ブチル化シリカゲル、トリメチルシリル化シリカゲル等の逆相樹脂;シリカゲル、フロリジール、アルミナ等の順相樹脂;スチレン−ジビニルベンゼン系、メタクリル酸エステル系等の芳香族系合成樹脂;修飾デキストラン系(例えば、Sephadex(登録商標) LH−20等)、親水性ビニルポリマー系(例えば、トヨパール HW−40等)等のゲルろ過クロマトグラフィー用充填剤;活性炭等が挙げられるが、このうち、逆相樹脂及び芳香族系合成樹脂等が好ましい。
【0034】
ルゴシン及びユースピニンを、ピンクローズ(花弁)から得る抽出手段の一例を挙げるが、抽出手段はこれに限定されるものではない。
ピンクローズ(花弁)から、水・エタノール混液(好ましくは、エタノール濃度が40〜60容量%)を用いて、水・エタノール抽出物を得る。この水・エタノール抽出物を水/ヘキサン溶剤(好ましくは、水:ヘキサン(容量比)=1:3〜3:1)で液液分液した後、水層を分取する。この水層にブタノールを加え、水/ブタノール溶剤(好ましくは、水:ブタノール(容量比)=1:3〜3:1)で液液分液した後、ブタノール層を分取する。このブタノール層を、芳香族系合成樹脂を用いたクロマトグラフィー(好ましくは、スチレン−ジビニルベンゼン系の芳香族系合成樹脂)に付し、低濃度エタノール水混液(好ましくは、エタノール濃度10〜30容量%)で溶出し、低濃度エタノール溶出画分を得る。更に、この低濃度エタノール溶出画分をゲルろ過クロマトグラフィー(好ましくは、修飾デキストラン系充填剤)に付し、メタノール水混液(好ましくは、メタノール濃度40〜60容量%)で洗浄後、エタノール、次いでエタノール/アセトン混液(好ましくは、エタノール:アセトン(容量比)=1:3〜3:1)で溶出して、ルゴシンBを含み、これを活性主成分とするエタノール画分;ルゴシンA、ルゴシンD及びユースピニンAを含み、これらを活性主成分とするエタノール/アセトン画分を得る。このエタノール画分及びエタノール/アセトン画分をそれぞれ逆相樹脂を用いたクロマトグラフィー(好ましくは、オクタデシル化シリカゲル逆相樹脂)に付し、トリフルオロ酢酸水溶液・アセトニトリル混液中のアセトニトリルの濃度を1段階以上勾配させて溶出し、エタノール画分からルゴシンBを、エタノール/アセトン画分からルゴシンA、ルゴシンD及びユースピニンAを、それぞれ単離する。
【0035】
得られたエラジタンニン又はその誘導体の抽出物や画分は、そのまま用いてもよく、適宜な溶媒で希釈した希釈液として用いてもよく、あるいは濃縮エキスや乾燥粉末としたり、ペースト状に調製したものでもよい。また、凍結乾燥し、用時に、通常抽出に用いられる溶剤、例えば水、エタノール、水・エタノール混液等の溶剤で希釈して用いることもできる。また、リポソーム等のベシクルやマイクロカプセル等に内包させて用いることもできる。
【0036】
本発明のエラジタンニン又はその誘導体は、後記実施例に示すように、優れたDGAT阻害活性を有する。また、DGAT阻害活性を有する物質には、その酵素阻害が非特異的な作用であれば副作用も疑われるが、本発明のエラジタンニン又はその誘導体は、肝臓における主要代謝酵素であるHMG−CoA還元酵素活性及びG6Pase活性に対して影響を及ぼさず、DGATに対して特異性であり、人体に対する副作用が少ないものと判断された。従って、当該エラジタンニン又はその誘導体は、TG合成抑制剤、高脂血症予防又は改善剤、肥満予防又は改善剤、インスリン抵抗性予防又は改善剤及び糖尿病予防又は改善剤(以下、「TG合成抑制剤等」という)として使用でき、さらにこれらの剤を製造するために使用することができる。このとき、当該TG合成抑制剤等には、当該エラジタンニン又はその誘導体を単独で、又はこれ以外に、必要に応じて適宜選択した担体等の、配合すべき後述の対象物において許容されるものを使用してもよい。なお、当該製剤は配合すべき対象物に応じて常法により製造することができる。
【0037】
斯かるTG合成抑制剤等は、DGAT阻害活性、TG合成抑制、高脂血症の予防又は改善、肥満の予防又は改善、インスリン抵抗性若しくは糖尿病の予防又は改善のための医薬品、医薬部外品、食品、又は飼料の有効成分として配合して使用可能である。また、当該TG合成抑制剤等は、DGAT阻害活性、TG合成抑制、高脂血症の予防又は改善、肥満の予防又は改善、インスリン抵抗性若しくは糖尿病の予防又は改善をコンセプトとし、必要に応じてその旨を表示した食品、機能性食品、病者用食品、特定保健用食品に応用できる。
【0038】
本発明のTG合成抑制剤等を医薬品の有効成分として用いた場合、当該医薬品は任意の投与形態で投与され得る。投与形態としては、経口、経腸、経粘膜、注射等が挙げられる。経口投与のための製剤の剤型としては、例えば錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤等が挙げられる。非経口投与としては、静脈内注射、筋肉注射剤、坐剤、吸入薬、経皮吸収剤、点眼剤、点鼻剤等が挙げられる。
【0039】
また、斯かる製剤では、本発明のTG合成抑制剤等を単独で、又は他の薬学的に許容される担体とを組み合わせて使用してもよい。斯かる担体としては、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、希釈剤、浸透圧調整剤、pH調整剤、乳化剤、防腐剤、安定剤、酸化防止剤、着色剤、紫外線吸収剤、保湿剤、増粘剤、光沢剤、活性増強剤、抗炎症剤、殺菌剤、矯味剤、矯臭剤、増量剤、界面活性剤、分散剤、緩衝剤、保存剤、香料、被膜剤等が挙げられる。
【0040】
これらの投与形態のうち、経口投与が好ましく、経口投与用製剤の有効成分として用いた場合の該製剤中の本発明のエラジタンニン又はその誘導体の含有量は、通常、製剤全質量の0.01〜80質量%であり、0.5〜80質量%であるのが好ましい。
【0041】
上記製剤の投与量は、患者の状態、体重、性別、年齢又はその他の要因に従って変動し得るが、経口投与の場合の成人(60kg)1人当たりの1日の投与量は、通常、エラジタンニン又はその誘導体として1〜2000mg、10〜1000mg、50〜500mgがより好ましい。また、上記製剤は、任意の投与計画に従って投与され得るが、1日1回〜数回に分けて投与することが好ましい。
【0042】
本発明のTG合成抑制剤等を食品の有効成分として用いた場合、当該食品の形態は、固形、半固形または液状であり得る。食品の例としては、パン類、麺類、菓子類、ゼリー類、乳製品、冷凍食品、インスタント食品、でんぷん加工製品、加工肉製品、その他加工食品、飲料、スープ類、調味料、栄養補助食品等、およびそれらの原料が挙げられる。また、上記の経口投与製剤と同様、錠剤形態、丸剤形態、カプセル形態、液剤形態、シロップ形態、粉末形態、顆粒形態等であってもよい。
【0043】
種々の形態の食品を調製するには、TG合成抑制剤等を単独で、又は他の食品材料や、溶剤、軟化剤、油、乳化剤、防腐剤、香科、安定剤、着色剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、保湿剤、増粘剤等を適宜組み合わせて用いることができる。
【0044】
また、食品中におけるエラジタンニン又はその誘導体の含有量は、その使用形態により異なるが、通常、飲料の形態では、通常0.001〜2質量%であり、0.002〜1質量%が好ましく、0.01〜0.5質量%がより好ましい。また、錠剤や加工食品などの固形食品形態では、通常0.01〜20質量%であり、0.02〜10質量%が好ましく、0.1〜5質量%がより好ましい。
【0045】
また、本発明のTG合成抑制剤等を飼料の有効成分として用いた場合には、当該飼料としては、例えば牛、豚、鶏、羊、馬等に用いる家畜用飼料、ウサギ、ラット、マウス等に用いる小動物用飼料、マグロ、ウナギ、タイ、ハマチ、エビ等に用いる魚介類用飼料、犬、猫、小鳥、リス等に用いるペットフード等が挙げられる。
尚、飼料を製造する場合には、DGAT阻害剤を単独で、又はこの他に、牛、豚、羊等の肉類、蛋白質、穀物類、ぬか類、粕類、糖類、野菜、ビタミン類、ミネラル類等一般に用いられる飼料原料、更に一般的に飼料に使用されるゲル化剤、保型剤、pH調整剤、調味料、防腐剤、栄養補強剤等を必要に応じて配合し、常法により当該飼料を加工製造することがきできる。
また、飼料中におけるエラジタンニン又はその誘導体の含有量は、その使用形態により異なるが、通常、0.01〜20質量%であり、0.02〜10質量%が好ましく、0.1〜5質量%がより好ましい。
【0046】
以下、実施例を示し、本発明をより具体的に説明する。
【実施例】
【0047】
製造例1:被験物質の調製
ルゴシンについては、ピンクローズ(Rosa centifolia)の花弁600gを、20倍量
(12リットル)の50容量%((以下、「容量%」を「%」とする))エタノールに常温で14日間浸漬し、不溶物を濾別後、減圧濃縮し抽出物を得た(固形分260g)。得られた抽出物をヘキサン/水系にて液々分配し、得られた水層をブタノールで液々抽出した。減圧濃縮し得られたブタノール抽出物(51g)を、ダイヤイオン(登録商標)HP−20(スチレン−ジビニルベンゼン系芳香族合成吸着剤)に吸着させ、20%エタノールで溶出した。得られた溶出画分を減圧濃縮、凍結乾燥し乾燥物とした。さらに、この乾燥物22gを50%メタノールに溶解し、セファデックス(登録商標)LH−20を用いたゲル濾過クロマトグラフィーに吸着させた。50%メタノールで洗浄した後、99.5%エタノール、エタノール/アセトン(1:1)で溶出した。各溶出画分を減圧濃縮、凍結乾燥し、99.5%エタノール画分(固形分4g)、エタノール/アセトン画分(固形分6.6g)を得た。
得られた99.5%エタノール画分の内、120mgを用い、さらにHPLCにより分画することにより、ルゴシンB(4.3mg)を得た。分画条件は次の通り。
カラム:Inertsil ODS−3(20x250mm、GLサイエンス)
溶媒:A液 0.5%トリフルオロ酢酸、B液 アセトニトリル
A/B=87/13→(30分)→87/13→(20分)→50/50
温度:40℃、流速:20mL/分、検出:UV=258nm
また、得られたエタノール/アセトン画分の内、300mgを用い、さらにHPLCにより分画することにより、ルゴシンA(70mg),ルゴシンD(59mg)、ユースピニンA(21mg)を得た。分画条件は次の通り。
カラム:Inertsil ODS−3(20x250mm、GLサイエンス)
溶媒:A液 0.5%トリフルオロ酢酸、B液 アセトニトリル
A/B=84/16→(30分)→84/16→(5分)→50/50
温度:40℃、流速:20mL/分、検出:UV=258nm
なお、これらについて、NMR分析(JEOL−500 spectrometer; 日本電子(株))を行なったところ、これらは文献に記されたルゴシンA、ルゴシンB(非特許文献8)、ルゴシンD(非特許文献9)、ユースピニンA(非特許文献11)のシグナルと一致した。
【0048】
実施例1:DGAT活性阻害評価
被験物質として、上記製造例1で調製されたルゴシンA、ルゴシンB、ルゴシンD、及びユースピニンAと、EGCG(エピガロカテキンガレート:入手先 長良サイエンス(株))を用いた。
マウス肝臓より、ミクロソーム画分を下記の様に調製し、DGAT活性測定に使用した。C57BL/6Jマウス(雄性、6週齢)の肝臓をショ糖緩衝液(250mM ショ糖,1mM EDTA,10mM Tris−HCl(pH7.5))中でホモジナイズし、4℃、12,500×g、15分間遠心し上清を回収した。上清をさらに4℃、100,000×g、60分間遠心し、沈殿をショ糖緩衝液に再懸濁し、肝臓ミクロソーム画分として使用した。
50μgの肝臓ミクロソーム画分を、表1中に示した濃度の被験物質を含む200μLのDGAT活性測定緩衝液(250mM ショ糖,10mM Tris−HCl(pH7.5),10 mM MgCl2,0.8mM EDTA,0.1%牛血清アルブミン,100μM oleoyl−CoA(0.05μCi/200μL、55mCi/mmol),1.2mM 1,2−diolein)中で、37℃、20分間インキュベートした。1.5mLのクロロホルム/メタノール(1:1)(体積比)を添加することで反応を止めた。次に、250μLのPBSを加えて攪拌し、遠心分離により水層と油層に分離(脂質抽出)した。下層であるクロロホルム層を回収し、窒素ガスで乾燥、クロロホルムに再溶解した。
クロロホルムに溶解した脂質の一部を液体シンチレーションカウンターに供し、放射活性を測定した。約2000dpmの抽出脂質の一部をHPTLCプレート(20×10 cm Silica gel 60,Merk)を用いて分画した。展開溶媒には、ヘキサン/ジエチルエーテル/酢酸(80:20:1)(体積比)を使用した。BAS2500(富士フィルム)を用いてフルオログラフィー及び定量解析を行った。抽出脂質に取り込まれた総放射活性に対するTGに取り込まれた放射活性の割合をDGAT活性とした。
各被験物質の存在下でのDGAT活性を、表1に示す。DGAT活性は、溶媒コントロールのDGAT活性を100とした相対値で表す。
表1に示される様に、ルゴシンA、ルゴシンB、ルゴシンD及びユースピニンAは、DGAT活性に対し有意な阻害を示した。一方、比較対照としたエピガロカテキンガレート(EGCG)は、DGAT活性に対し阻害作用を示さなかった。
この様に、エラジタンニン又はその誘導体はDGAT活性について優れた阻害作用を示すことから、TG合成抑制剤、高脂血症予防改善剤、肥満予防改善剤、インスリン抵抗性予防改善剤、及び糖尿病予防改善剤として有用であると考えられる。
【0049】
【表1】

【0050】
実施例2:他の酵素活性阻害評価
被験物質として、実施例1と同じものを使用した。
実施例1と同様に調製したマウス肝臓ミクロソーム画分を用いて、グルコース6リン酸脱リン酸化酵素(G6Pase)活性測定、3−ヒドロキシ−3−メチルグルタリル補酵素A(HMG−CoA)還元酵素活性の測定を行った。
G6Pase活性測定は、マウス肝臓ミクロソーム画分(50μg)を、表中に示した濃度の被験物質の存在下で、100μLの反応液(50mM HEPES緩衝液 (pH7.2)、100mM KCl、2.5mM EDTA、2.5mM MgCl2、1m
M DTT、10mM グルコース6リン酸、2mM EDTA)中で37℃、30分間インキュベートした。次に、400μLの反応停止液(0.42% ammononium molybdate tetrahydrate in 1N H2SO4、10%S
DS、10%アスコルビン酸6:2:1 混合液)(体積比)を添加し、50℃、30分間インキュベートした。生じた青色色素を吸光度測定(OD820)し、無機リン酸溶液を
用いて作製した標準曲線より、生じたリン酸濃度を算出することによりG6Pase活性を算出した。
HMG−CoA還元酵素活性は、マウス肝臓ミクロソーム画分(50μg)を、表中に示した濃度の被験物質の存在下で、14C標識HMG−CoAを含む反応液(0.128mM HMG−CoA(14C−HMG−CoA,72MBq/mmol),1mM NADPH、10mM DTT、10mM EDTA in 0.12 mM phosphate buffer(pH7.2))中で、37℃、30分間インキュベートした。次に、10分の1容量(20μL)の5N HClを添加し、さらに30分間インキュベート(酸性処理)した。内部標準として4−14C−testosterone(0.08nCi)を加えた後、酸性処理によりHMG−CoAの反応産物メバロン酸から変換、生成するメバロノラクトンを等量の酢酸エチルで抽出した。抽出物の一部を展開溶媒には、ベンゼン−アセトン(1:1)(体積比)を用いてTLC分画した。BAS2500を用いてフルオログラフィー及び定量解析を行い、メバロノラクトンに含まれる放射活性よりHMG−CoA還元酵素活性を算出した。
各被験物質の存在下でのHMG−CoA還元酵素活性、及びG6Pase活性を、それぞれ、表2及び表3に示す。これら酵素活性は、溶媒コントロールの酵素活性を100とした相対値で表す。
表2及び表3に示される様に、いずれのDOG型エラジタンニン又はその誘導体もHMG−CoA還元酵素活性、及びG6Pase活性に対して阻害作用を示さなかった。
この様に、エラジタンニン又はその誘導体はDGAT活性について優れた阻害作用を示す一方で、その他の酵素活性には阻害作用を示さないことから、DGAT活性に対する特異性が高い化合物であることが示された。このことは、エラジタンニン又はその誘導体が副作用の少ない化合物であることを意味するものと考えることができる。
【0051】
【表2】

【0052】
【表3】

【0053】
実施例3
下記の成分を混合後ゼラチンカプセルに充填し、1錠250mgの軟カプセル剤を得た。
(組成) (%)
ルゴシンB 2.5
大豆レシチン 10
菜種油 87.5
【0054】
実施例4
下記の成分を混合後ゼラチンカプセルに充填し、1錠250mgの軟カプセル剤を得た。
(組成) (%)
ルゴシンB 0.5
ユースピニンA 2.5
大豆レシチン 10
紅花油 87
【0055】
実施例5
下記成分を用い、常法に従って1錠200mgの錠剤を製造した。
(組成) (%)
ルゴシンD、又はユースピニンA 2.5
ヒドロキシプロピルセルロース 45.5
軽質無水ケイ酸 5
乳糖 13
結晶セルロース 13
タルク 13
ジアシルグリセロール 8
【0056】
実施例6
下記成分を用い、常法に従って1錠200mgの錠剤を製造した。
(組成) (%)
ルゴシンB又はユースピニンA 5
デンプン 90
ステアリン酸マグネシウム 5
【0057】
実施例7
緑茶葉30gを65℃の水1000mLで5分間抽出、ろ別することにより緑茶液を得
た。この緑茶液を用いて下記組成物を混合した後、重曹を用いてpH6.0に調整し、肥満・糖尿病予防・改善用緑茶飲料を製造した。
(組成)
ルゴシンB 50mg
ビタミンC 1000mg
緑茶液 1000mL
【0058】
実施例8
下記組成物を混合し、肥満・糖尿病予防・改善用果汁飲料を製造した。
(組成)
ルゴシンB 50mg
ビタミンC 500mg
レモン果汁 5mL
炭酸水 475mL
香料 若干量
アスパルテーム 5g
【0059】
実施例9
下記組成物を打錠し、1錠1000mgのチュアブルタイプのタブレット食品を製造した。
(組成) (%)
ユースピニンA 2.5
麦芽糖 11
乳糖 30
ブドウ糖 15
ビタミンC 20
ビタミンE 1
セルロース 10
キシリトール 10
香料 0.5

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子内に下記式(1)
【化1】

で表される部分構造及びグルコース残基を有し、当該グルコース残基の4位と6位に式(1)で表される部分構造のヘキサヒドロジフェノイル基部分が置換したエラジタンニン又はその誘導体を有効成分とするTG合成抑制剤。
【請求項2】
分子内に下記式(1)
【化2】

で表される部分構造及びグルコース残基を有し、当該グルコース残基の4位と6位に式(1)で表される部分構造のヘキサヒドロジフェノイル基部分が置換したエラジタンニン又はその誘導体を有効成分とする高脂血症予防又は改善剤。
【請求項3】
分子内に下記式(1)
【化3】

で表される部分構造及びグルコース残基を有し、当該グルコース残基の4位と6位に式(1)で表される部分構造のヘキサヒドロジフェノイル基部分が置換したエラジタンニン又はその誘導体を有効成分とする肥満予防又は改善剤。
【請求項4】
分子内に下記式(1)
【化4】

で表される部分構造及びグルコース残基を有し、当該グルコース残基の4位と6位に式(1)で表される部分構造のヘキサヒドロジフェノイル基部分が置換したエラジタンニン又はその誘導体を有効成分とするインスリン抵抗性予防又は改善剤。
【請求項5】
分子内に下記式(1)
【化5】

で表される部分構造及びグルコース残基を有し、当該グルコース残基の4位と6位に式(1)で表される部分構造のヘキサヒドロジフェノイル基部分が置換したエラジタンニン又はその誘導体を有効成分とする糖尿病予防又は改善剤。

【公開番号】特開2010−70541(P2010−70541A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−183643(P2009−183643)
【出願日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】