説明

X線回折装置

【課題】装置の各構成部品の劣化や周囲環境の変化に影響されないX線強度データを得て、常に定量精度をよい状態に保つ。
【解決手段】X線管1からのX線は試料2に照射され、試料からの回折X線が検出器3によって検出される。このX線強度データは制御部5を介してデータ処理部6に取り込まれ測定データメモリ6aに記憶される。メンテナンスをした直後に経時的に変化しない基準試料の強度を基準強度として基準強度メモリ6bに記憶しておく。分析試料の測定時に基準試料の強度が再び測定され、そのときの強度と記憶されている基準強度から補正関数を求めて補正関数メモリ6cに記憶し、その関数を用いて分析対象試料のX線強度を演算部6dが補正演算して、以後の定性・定量分析に利用する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、試料に特性X線を照射し、試料によって回折されたX線を検出して試料成分の定性・定量分析を行うX線回折装置に関する。
【0002】
【従来の技術】X線回折装置は粉末試料などに含まれる結晶成分の定性・定量分析を行う装置であって、X線源からの特性X線を試料に照射し、試料から放射される回折X線をゴニオメータに搭載された検出器によって回折角度ごとに検出する。図4に従来のX線回折装置を示すように、粉末試料23は通常試料ホルダを用いて20mm角程度の大きさの平板状に成形されてθ軸27上のゴニオメータの中心に載置され、X線管21のターゲットで発生したX線26は所定の設置位置とスリット幅を持つ発散スリット22によってその広がりが1〜3°程度に規制されて試料23の表面に照射される。ゴニオメータの2θ軸がθ軸に対して2倍の関係を保ちながら連動して回転駆動され、試料23から放射される回折X線は2θ軸28に搭載された検出スリット24と検出器25によって検出される。
【0003】測定されるX線強度は、試料の状態が同じであったとしてもX線源であるX線管の使用時間や試料からの回折X線を検出するシンチレーションカウンタなどの検出器の状態、さらには、室温などの周囲環境によって変化する。例えば、X線管ターゲットで発生したX線を透過させるX線管側壁に設けられた窓にはフィラメントから蒸発したタングステンが徐々にではあるが堆積していき、透過するX線の強度が使用時間とともに低下していく。また、検出器として使われるシンチレーションカウンタにはX線を可視光に変換するNaIなどからなるシンチレータが使用されるが、このシンチレータは湿気に弱いので使用環境によってはX線を光に変換する効率が低下し、これも測定されるX線強度を低下させることになる。
【0004】従来のX線回折装置装置においては、このような比較的長期にわたる強度変化についての対策は特別にはとられておらず、測定されたX線強度を補正するようなことは行われていない。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】上述したように、従来技術においては、X線回折装置の各部の経時的劣化や周囲環境の変動による測定X線強度の変化に対して有効な補正などを行っていなかったので、定量分析などにおいては時間を経ることによって定量精度が低下していき、または、定量精度を維持しようとすれば分析対象試料の測定のつど検量線を書き直すなどの手間がかかるという問題点があった。
【0006】本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、X線回折装置において、管球や検出器等の劣化または周囲温度などの環境の変化に対応した測定強度の変化を補正することによって常に装置調整当初のX線強度が得られるようにして定量精度を向上させることを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明は、上記課題を解決するために、試料に特性X線を照射するX線源と、この試料によって回折されるX線を検出する検出器を備えたX線回折装置において、基準とする時点において基準試料を測定したときの基準強度を記憶する記憶手段と、分析対象試料を測定する時点において測定される基準試料の分析時点強度と記憶されている前記基準強度に基づいて分析対象試料の測定強度を補正する補正式を求める演算手段を備え、分析対象試料の測定時に前記X線源や検出器等の状態変化による分析対象試料のX線強度の変化を補正するようにしたことを特徴とする。
【0008】経時的に変化しない基準試料の基準時点の測定強度を記憶しておき、ある程度の日にちが経過した後に、分析対象試料を測定したときの測定強度を、その時に再測定した基準試料の分析時点強度に基づいて補正するので、X線源や検出器の経時的変化を打ち消すことができて精度のよい定量分析結果が得られる。
【0009】ここで、基準となる時点とは、装置を据え付けたときや定期的なメンテナンスを行った直後が最適であって、X線回折装置の良好な性能が発揮される状態のときをいう。
【0010】
【発明の実施の形態】本発明の一実施の形態を図面を用いて説明する。図1に本発明のX線回折装置の概略図を示す。X線管1から放射されたX線は試料2に照射され、この試料2によって回折されたX線が検出器3によって検出される。試料2と検出器3はそれぞれゴニオメータ4のθ軸と2θ軸に搭載されており、それがいわゆるθ−2θ連動の駆動方法でゴニオメータの中心軸を中心として回転されて回折角度ごとにX線強度が測定され、X線回折パターンが得られる。
【0011】検出器3からの信号は制御部5の中に含まれる強度測定回路5aによってデジタルデータに変換され、データ処理部6に送られ測定データメモリ6aに保存される。また、制御部5のうちの動作制御回路5bはX線管1のパワーの制御やゴニオメータ4の回転駆動などを制御している。制御部5はX線計数のためのアナログ回路やデジタル的に動作制御を行うためのマイクロコンピュータおよび入出力器などによって構成されている。データ処理部6はパーソナルコンピュータなどで構成することができ、測定の結果得られたX線回折データに基づいて、X線回折装置としての各種のデータ処理を行い、CRTやプリンタなどで構成される出力・表示部7に分析結果を出力する。
【0012】本発明の特徴的構成として、データ処理部6のなかに基準試料を測定したときのX線強度データを保存する基準強度メモリ6bと、補正関数(補正係数)を記憶する補正関数メモリ6cと、補正関数を求めるとともに分析対象試料の測定強度を補正演算する演算部6dを備えている。
【0013】次に図2のフローチャートを用いて分析対象試料の測定強度を補正演算する方法について説明する。X線回折装置を最初に据え付けたとき、あるいは、定期的なメンテナンスを行ったときを基準となる時点とみなし、そのときに図2(a) のように、基準試料を用いて装置の最もよい状態を記憶する。すなわち、時間が経っても結晶構造や表面の状態などの性質が変わらないような試料を基準試料として選定し、その基準試料によるX線回折強度を実際に分析するときの測定条件において測定する(S1)。測定条件というのはX線管にかけるパワーや強度測定の積分時間など装置として設定できるさまざまな条件のことである。もちろん、必要とされる測定条件が何種類かあってもよいのであって、それぞれの測定条件で基準試料の強度を測定しておけばよい。基準試料も一種類および一個とは限られない。そのようにして測定された基準試料のX線強度は基準強度メモリ6bに記憶しておく(S2)。
【0014】実際に分析対象試料を分析するときには、前回の装置のメンテナンス時から時間が経っているとすれば、ある程度のX線管の劣化などは避けられないから、装置全体としての感度を較正する必要がある。そのために、図2(b) に示すように先に測定しておいた基準試料の強度に基づいて測定強度の補正を行う。まず始めに基準試料を用いて基準強度を測定したときと同じ測定条件によってX線強度を測定し(S11)、この時に得られた強度Km とメンテナンス時に得られた基準強度Ks に基づいて補正関数F(Km )を求める(S12)。補正関数の例については後述する。次に、分析対象となる試料の回折パターンを測定し(S13)、得られた測定強度Im を補正関数Fにあてはめ、補正された強度Ih を、Ih=F(Im )として求め(S14)、以後はこのIh を測定された強度として扱って通常の定性分析や定量分析を行う(S15)。引き続いて別の測定を行う場合には補正関数を求めるステップは行わずにS13にもどって測定以降を繰り返せばよい(S16)。
【0015】補正関数の例、および、その求め方を図3を用いて説明する。図3に示すグラフにおいて、基準時点および測定時点と書かれたグラフの横軸は回折角度(2θ角度)であり、縦軸は測定されたX線強度である。また、補正関数と書かれたグラフの横軸は測定時点における基準試料のX線強度であり、縦軸は基準時点における基準試料のX線強度である。
【0016】図3(a) は一つの基準強度値を用いて補正する例であり、補正関数は原点をとおる直線となる。基準試料の適当な回折ピーク(ピークの角度はθ1 とする)の強度を測定し、メンテナンス直後などの基準時点に基準強度Ks が得られ、分析対象試料を測定する測定時点に強度Km が得られたとすると、分析対象試料の補正前の強度Im と補正後の強度Ih の関係すなわち補正式は次のようになる。
【0017】
Ih =αIm (1)ここでα=Ks /Km (2)である。
【0018】図3(b) は二つの基準強度値を用いて補正する方法であり、補正関数は2点を通る直線となる。試料に含まれる成分の濃度を変えるなどして測定されるX線強度の異なる二つの基準試料を用意して、適当な回折ピークのそれぞれの基準試料の強度を測定する。基準時点における基準強度がそれぞれKs1とKs2であり、分析対象試料を測定する測定時点の強度がKm1とKm2であったとすると、分析対象試料の補正前の強度Im と補正後の強度Ih の関係すなわち補正式は次のようになる。
【0019】
Ih =αIm +β (3)ここでα=(Ks1−Ks2)/(Km1−Km2) (4)β=(Ks2Km1−Ks1Km2)/(Km1−Km2) (5)である。
【0020】図3(c) はより一般的に三つ以上の基準強度値を用いて補正する方法であり、補正関数は2次以上の多項式とする。三つ以上の基準強度値は、図3(b) で説明した方法と同様にX線強度の異なる三つ以上の基準試料を用意して測定してもよいが、図3(c) に示すように一つのピークプロファイルの頂点およびその裾の値を用いてもよい。例えば4点の強度を用いるとして、基準時点において、回折角度θ1 ,θ2 ,θ3 ,θ4 での基準試料のX線強度をそれぞれKs1,Ks2,Ks3,Ks4とし、測定時点でのそれぞれの強度をKm1,Km2,Km3,Km4とすると、分析対象試料の補正前の強度Im と補正後の強度Ih の関係すなわち補正式は次のようになる。
【0021】
Ih =F(Im ) (6)ここで、補正関数F(Im )は4点のデータの組みを最小二乗法などで2次の多項式で表したものである。この補正関数の次数は2次とは限られず、データの点数によっては3次以上の多項式としてもよい。
【0022】
【発明の効果】本発明のX線回折装置は、測定されたX線強度データを経時的に変化しない基準試料のデータを用いて補正するので、常に装置の状態が最良の状態であるとみなすことができ、装置の各構成部品の劣化や周囲環境の変化に影響されないX線強度データを得ることができる。その補正されたデータがX線回折装置としての定性分析や定量分析において使用されるので、得られる結果は信頼性の高いものとなる。
【0023】また、定量分析においては標準試料を利用して作成した検量線などを使用するが、本発明のX線回折装置で得られるX線強度データは信頼性の高いものであるから、個々の分析対象試料の測定にあたって検量線を書き直す必要がなく、手間がかからず迅速な分析が可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のX線回折装置の一実施例を示す図である。
【図2】本発明のX線回折装置を用いてX線強度を測定する手順を示すフローチャートである。
【図3】本発明のX線回折装置で用いる補正関数の例である。
【図4】従来のX線回折装置を示す図である。
【符号の説明】
1…X線管 2…試料
3…検出器 4…ゴニオメータ
5…制御部 6…データ処理部
7…出力・表示部
21…X線管 22…発散スリット
23…試料 24…検出スリット
25…検出器 26…X線
27…θ軸 28…2θ軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】 試料に特性X線を照射するX線源と、この試料によって回折されるX線を検出する検出器を備えたX線回折装置において、基準とする時点において基準試料を測定したときの基準強度を記憶する記憶手段と、分析対象試料を測定する時点において測定される基準試料の分析時点強度と記憶されている前記基準強度に基づいて分析対象試料の測定強度を補正する補正式を求める演算手段を備え、分析対象試料の測定時に前記X線源や検出器等の状態変化による分析対象試料のX線強度の変化を補正するようにしたことを特徴とするX線回折装置。

【図1】
image rotate


【図2】
image rotate


【図4】
image rotate


【図3】
image rotate