説明

X線治療装置用治療台

【課題】X線源から治療対象部位までの距離と治療対象部位から画像センサまでの距離を短くして、X線源のエネルギーを低く抑える。
【解決手段】本発明によるX線治療装置用治療台は、患者の治療対象部位近傍に埋め込まれた位置検出用マーカを検出する2組の低エネルギーX線発生装置10,20とそれらに対応するX線画像センサ11,21を備え、低エネルギーX線発生装置と治療対象部位の距離および治療対象部位からX線画像センサまでの距離を短くすることを特徴とする。さらに、カウチに治療用X線画像センサ50を備え、治療用高エネルギーX線発生装置から照射されたX線の強度、位置、方向などを検出する。治療用X線画像センサ50によって収集されたデータは、次の治療用X線発生装置の照射条件の設定にフィードバックされる。さらに、治療後の検証に使用される。また、治療用X線画像センサ50の裏面にX線遮蔽板51が設けられ、治療用高エネルギーX線の透過X線と散乱X線を吸収し、X線の散乱を低減する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線治療装置の治療台に係り、特に低エネルギーX線を治療対象部位またはマーカに照射して、その位置を検出する位置検出機能を備えた治療台に関する。
【背景技術】
【0002】
X線治療において、正常な組織にX線が照射されることを避けるためには、治療対象部位の位置を正確に検出する必要がある。しかし、治療対象部位は、患者の呼吸等により移動するため、その位置検出には動体追跡手段を必要とする。この動体追跡手段に関連して種々の提案が行われている。特許文献1記載の動体追跡照射装置は、図4に示すように、腫瘍近傍に埋め込まれた腫瘍マーカを第1の方向から撮像する第1のX線透視装置60,61,63,64と、腫瘍マーカを第2の方向から第1のX線透視装置と同時に撮像する第2のX線透視装置70,71,73,74を備え、これらのX線透視装置によって取得した画像データをコンピュータによって画像データ処理と演算処理を行い、腫瘍マーカの3次元座標データを作成する。この動体追跡照射装置において、X線透視装置のX線管60,70は治療室床下に設置され、画像センサ部のイメージインテンシファイア63,73は治療室の天井に設置される。このため、X線透視装置のX線は、治療室の床から天井までの距離においてイメージインテンシファイアが患者を透過したX線を明瞭に検出できるだけのX線エネルギーを必要とする。
【0003】
特許文献2記載の定位的放射線手術および定位的放射線治療を実行する装置は、ターゲット領域の位置を検出するための第1及び第2の標識ビームを照射するX線発生装置が天井に固定され、第1及び第2の標識ビームに対応した画像データを生成するイメージレシーバが患者を載せる作動テーブルに取り付けられる。この装置の場合も、X線発生装置とイメージレシーバまでの距離が長いこと、さらにX線発生装置とイメージレシーバが同一座標軸上に設置されていないので、検出ターゲットの位置を変えてX線を照射する度に、X線発生装置とイメージレシーバの位置関係を調整する必要があり、操作が煩雑となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3053389号公報
【特許文献2】特許第3810431号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
X線治療装置において、治療対象部位の近傍に埋め込まれたマーカの位置検出用X線のエネルギーは、患者への悪影響を抑えるため、できる限り微弱にする必要がある。X線の強度は、X線源から照射対象物までの距離の2乗に逆比例して減衰するので、X線源から治療対象部位までの距離が短いほど、そのX線源のエネルギーを低く抑えることができる。また、治療対象部位を透過したX線の減衰を抑えるために、画像センサの設置位置もできる限り治療対象部位に近づけることが必要である。しかし、前述の特許文献1および特許文献2に係る発明では、X線発生装置とそのX線を検出するセンサの間隔が、天井と床下または天井と治療台の間の長い距離であるため、マーカ位置検出に必要なX線の強度を確保するため、そのX線のエネルギーを低く抑えることができない。
本発明の目的は、X線源やセンサをカウチに関連して設け、それらと治療対象部位の位置関係を近接した状態で操作できるようにし、治療対象部位またはマーカに低エネルギーX線を照射して、その位置を検出することができる位置検出機能を備えたX線治療装置用の治療台を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するために、本発明による請求項1記載のX線治療装置用治療台は、
患者を支持するカウチと、
前記カウチの位置・姿勢を変更させるカウチ操作ロボットと、
前記カウチ上の患者の治療対象部位の位置を検出するための2組のマーカ検出用低エネルギーX線発生装置とそれらに対応するマーカ検出用X線画像センサと、
前記カウチに装着され、治療用高エネルギーX線源から治療対象部位に照射されたX線を検出する治療用X線画像センサと、
から構成されていることを特徴とするX線治療装置用治療台。
【0007】
本発明による請求項2記載のX線治療装置用治療台は、請求項1記載のX線治療装置用治療台において、
前記治療用X線画像センサが前記カウチ操作ロボットによって、前記カウチの底部または上部に移動できることを特徴とするX線治療装置用治療台。
【0008】
本発明による請求項3記載のX線治療装置用治療台は、請求項1記載のX線治療装置用治療台において、前記治療用X線画像センサの裏面にX線遮蔽板が設けられていることを特徴とするX線治療装置用治療台。
【0009】
本発明による請求項4記載のX線治療装置用治療台は、請求項1記載のX線治療装置用治療台において、前記カウチ操作ロボットは、カウチを上下方向および長手水平方向に移動することが可能であって、さらに上下方向を軸とした回転操作が可能であることを特徴とするX線治療装置用治療台。
【0010】
本発明による請求項5記載のX線治療装置用治療台は、請求項1記載のX線治療装置用治療台において、前記2組の対をなすマーカ検出用低エネルギーX線発生装置とマーカ検出用X線画像センサは、それぞれ独立して、カウチの上下方向を軸とした回転、カウチに対する上下方向およびカウチに対する傾きを変更できることを特徴とするX線治療装置用治療台。
【0011】
本発明による請求項6記載のX線治療装置用治療台は、請求項1記載のX線治療装置用治療台において、前記カウチ上の患者の治療対象部位の位置を検出するセンサは、患者の治療対象部位近傍に埋め込まれた電波発信機が発信する電波を受信する受信機であることを特徴とするX線治療装置用治療台。
【発明の効果】
【0012】
前記構成によれば、X線治療装置において、治療対象部位の近傍に埋め込まれたマーカの位置を検出するための低エネルギーX線発生装置とこれに対応するマーカ検出用X線画像センサの間隔を短くできるので、マーカ検出用X線のエネルギーを微弱にすることができ、患者への悪影響を大幅に低減することができる。さらに、X線源の出力エネルギーを低く抑えることができるため、小型のX線源で済み、マーカ検出用X線装置自体を小型化することができる。これによって、小型で軽便な動体追尾機能を備えたX線治療装置を提供することができる。さらに、治療用高エネルギーX線を検出する画像センサがカウチに装着されるので、治療用X線の強度、位置、方向などの情報を収集して、次の照射のための照射条件の設定に反映させることができる。これによって、治療対象部位が動いてもその動きに追従して治療用X線を照射することが可能となる。さらに、前記治療用X線画像センサ部の裏面にX線遮蔽板を設けることによって、透過X線と散乱X線を吸収することができるため、X線治療装置の防護対策を軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明によるX線治療装置用治療台の実施形態を示す斜視図である。
【図2A】本発明によるX線治療装置用治療台の実施形態を示す正面図である。
【図2B】本発明によるX線治療装置用治療台の実施形態を示す上面図である。
【図2C】本発明によるX線治療装置用治療台の実施形態を示す側面図である。
【図3A】本発明によるX線治療装置用治療台の他の実施形態を示す正面図である。
【図3B】本発明によるX線治療装置用治療台の他の実施形態を示す側面図である。
【図4】従来の検出用X線装置を含む動体追跡照射装置の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を詳しく説明する。
図1は、本発明によるX線治療装置用治療台の実施形態を示す斜視図である。
図2Aは、本発明によるX線治療装置用治療台の実施形態を示す正面図、図2Bは、その上面図及び図2Cは、その側面図である。図3Aは、本発明によるX線治療装置用治療台の他の実施形態を示す正面図、図3Bは、その側面図である。カウチ40は、カウチ操作ロボット30によって、カウチの長手方向(Y方向)、上下方向(Z方向)およびカウチを支持する軸を中心とした回転(θ方向)移動ができる。患者の治療対象部位の近傍に埋め込まれた人体に無害な重金属のマーカの位置は、第1の低エネルギーX線発生装置10と第1のX線画像センサ11及び第2の低エネルギーX線発生装置20と第2のX線画像センサ21によって検出される。マーカ検出用低エネルギーX線発生装置10,20とマーカ検出用X線画像センサ11,21の操作は、本発明の治療台を含むX線治療装置の制御装置(図示せず)によって操作される。マーカ検出用X線画像センサ11,21の出力データは、前記X線治療装置の記憶装置(図示せず)および演算装置(図示せず)へ出力されて、予め収集された治療対象部位の画像データといっしょに画像処理されて、治療用高エネルギーX線発生装置80の次の照射条件を決定するためにフィードバックされる。高エネルギーX線発生装置80は、この照射条件に基づいて、図示しないロボットにより治療対象部位に対してほぼ全方向から治療用高エネルギーX線を照射できるように移動させられる。
【0015】
図2A、図2Bおよび図2Cにおいて、治療用高エネルギーX線は、患者の腹側上部から照射される。この場合、治療用X線画像センサ50及びX線遮蔽板51は、カウチ操作ロボット30により、患者の背中側のカウチ底部に設置される。治療用X線画像センサ50は、治療用高エネルギーX線発生装置80が治療のために照射したX線に関する情報を収集するためのものである。治療対象部位を透過したX線の強度、位置、方向などのデータを収集する。この収集されたデータは、前記X線治療装置の記憶装置および演算装置に出力され、次の治療用高エネルギーX線の照射条件の設定にフィードバックされる。
【0016】
図3Aおよび図3Bに治療用高エネルギーX線発生装置80がカウチの底面側に設置された場合を示す。この場合、治療用高エネルギーX線は、患者の背中側から治療対象部位に照射される。したがって、治療用X線画像センサ50およびX線遮蔽板51は、カウチ操作ロボット30により、患者の腹側上部に設置される。このように、治療用X線画像センサ50およびX線遮蔽板51は、カウチ操作ロボット30によって、治療用高エネルギーX線発生装置80の動きに連動してその位置を移動することができる。
【0017】
このように、本発明による治療台を動体追尾機能を備えたX線治療装置の治療台として使用することによって、マーカ検出用X線画像センサの出力データと治療用X線画像センサの出力データを次の照射条件の設定にフィードバックすることができ、治療対象部位が移動しても、その変位をリアルタイムに補正することができる。
【0018】
マーカ検出用低エネルギーX線発生装置10,20は、本発明の構成によれば、治療対象部位の近くに設置できるので、当該低エネルギーX線発生装置とマーカとの間隔が短くなり、したがって、X線の減衰が少ないので、マーカ検出用低エネルギーX線発生装置10,20の出力エネルギーをさらに低く抑えることができる。また、X線の焦点をマーカに絞ることができるので、患者の被爆量を低減することができる。低エネルギーX線画像センサ11,21としては、例えば、アモルファスシリコンとフォトダイオードを組み合わせたフラットパネルセンサやシンチレータとCCDを組み合わせたフラットパネルセンサなどのフラットパネルセンサが好適であり、各種のプラットパネルセンサが商品化されている。これらのフラットパネルセンサは、マーカを透過したX線を直接デジタル信号に変換できるので、デジタル画像処理に好適である。
【0019】
治療用X線画像センサ50の裏面には、X線に対する遮蔽能力の高い鉛などで構成された遮蔽板51が全面に取り付けられている。この遮蔽板51は、患者を透過した治療用X線を遮蔽すると同時に、患者の人体の中で発生した散乱X線を吸収し、X線の散乱を低減する。
【0020】
第1のマーカ検出用低エネルギーX線発生装置10と第1のX線画像センサ11及び第2のマーカ検出用低エネルギーX線発生装置20と第2のX線画像センサ21は、それぞれ対として上下、左右に操作することができる。この操作は、カウチ操作ロボット30によって行われる。このように、本発明によれば、マーカ検出用低エネルギーX線発生装置10,20とX線画像センサ11,21は位置関係を保持したまま同期して移動することができるので、カウチ40を移動して検出位置を変更する場合でも、迅速に処理することができる。
【0021】
以上の本発明の実施の形態の説明においては、マーカの位置を検出する手段として、低エネルギーX線をマーカに照射し、その画像データをフラットパネルセンサで検出する手段を開示したが、ICタグを利用する手段も有効である。マーカ検出用X線画像センサ11,21に替えてICタグが発信する電波を受信する受信機をカウチ40に取り付ける。この場合、マーカ検出用低エネルギーX線発生装置10,20は不要となる。受信機としては、ICタグリーダに測位システムを搭載した装置が好適である。患者の治療対象部位近傍に埋め込まれた複数個のICタグが発信する電波を受信し、その位置を予め治療計画で収集した治療対象部位の画像データ上に表示することができる。患者の呼吸等による動きにも追従できるので、X線を利用した実施例の場合と同様に、受信機のデータは、リアルタイムに治療用X線発生装置80の照射条件の設定にフィードバックをかけることができる。
【0022】
(変形例)
以上詳しく説明した実施形態につき、本発明の範囲内で種々の変形を施すことができる。治療用およびマーカ検出用X線源を利用する例を示したが、他の粒子線源を利用することもできる。
マーカとしてICタグのような無線通信で情報のやりとりをする例を示したが、他のアクティブな信号源の利用も考えられる。
【符号の説明】
【0023】
10 第1のマーカ検出用低エネルギーX線発生装置
11 第1のマーカ検出用X線画像センサ
20 第2のマーカ検出用低エネルギーX線発生装置
21 第2のマーカ検出用X線画像センサ
30 カウチ操作ロボット
40 カウチ
50 治療用X線画像センサ
51 治療用X線遮蔽板
60 第1のX線管
61 第1のコリメータ
62 第1のX線
63 第1のイメージインテンシファイア
64 第1のTVカメラ
70 第2のX線管
71 第2のコリメータ
72 第2のX線
73 第2のイメージインテンシファイア
74 第2のTVカメラ
80 治療用高エネルギーX線発生装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者を支持するカウチと、
前記カウチの位置・姿勢を変更させるカウチ操作ロボットと、
前記カウチ上の患者の治療対象部位の位置を検出するための2組のマーカ検出用低エネルギーX線発生装置とそれらに対応するマーカ検出用X線画像センサと、
前記カウチに装着され、治療用高エネルギーX線源から治療対象部位に照射されたX線を検出する治療用X線画像センサと、
から構成されていることを特徴とするX線治療装置用治療台。
【請求項2】
請求項1記載のX線治療装置用治療台において、
前記治療用X線画像センサが前記カウチ操作ロボットによって、前記カウチの底部または上部に移動できることを特徴とするX線治療装置用治療台。
【請求項3】
請求項1記載のX線治療装置用治療台において、
前記治療用X線画像センサの裏面にX線遮蔽板が設けられたことを特徴とするX線治療装置用治療台。
【請求項4】
請求項1記載のX線治療装置用治療台において、
前記カウチ操作ロボットは、カウチを上下方向および長手水平方向に移動することが可能であって、さらに上下方向を軸とした回転操作が可能であることを特徴とするX線治療装置用治療台。
【請求項5】
請求項1記載のX線治療装置用治療台において、
前記2組の対をなすマーカ検出用低エネルギーX線発生装置とマーカ検出用X線画像センサは、それぞれ独立して、カウチの上下方向を軸とした回転、カウチに対する上下方向およびカウチに対する傾きを変更できることを特徴とするX線治療装置用治療台。
【請求項6】
請求項1記載のX線治療装置用治療台において、
前記カウチ上の患者の治療対象部位の位置を検出するセンサは、治療対象部位近傍に埋め込まれた電波発信機が発信する電波を受信する受信機であることを特徴とするX線治療装置用治療台。

【図4】
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【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図3A】
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【図3B】
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【公開番号】特開2010−227303(P2010−227303A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−78402(P2009−78402)
【出願日】平成21年3月27日(2009.3.27)
【特許番号】特許第4418889号(P4418889)
【特許公報発行日】平成22年2月24日(2010.2.24)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度〜平成21年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「基礎研究から臨床研究への橋渡し促進技術開発/X線マイクロビーム加速器による次世代ミニマムリスク型放射線治療システムの研究開発」委託契約、産業技術力強化第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(506118216)株式会社アキュセラ (5)
【Fターム(参考)】