説明

X線管

【課題】 陽極ターゲットからの反跳電子をより多く捕捉可能な構造を有する回転陽極X線管を提供する。
【解決手段】 電子ビームを発生する陰極部9と、前記発生された電子ビームを加速する第1の電界を与える手段と、この与えられた第1の電界によって加速された電子ビームを照射するターゲットを有する陽極部13と、この陽極部9と陰極部との間に配置され、前記ターゲットから反射される反跳電子を収集する反跳電子コレクタ部11と、この反跳電子コレクタ部11と陽極部と陰極部を収容する真空外囲器3とを具備したX線管において、前記反跳電子コレクタ部に前記ターゲット13の電位以上の電位となるような第2の電界を与える手段を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、陰極から発生される電子ビームを陽極ターゲットに照射してX線を発生する回転陽極X線管に係り、前記陽極からの反跳電子の補足効率を向上させる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
回転陽極X線管装置は、X線の発生源として回転陽極X線管を用いた装置で、回転陽極X線管は、高速で回転するターゲットに電子ビームを照射し、ターゲットからX線を発生させる構造となっている。ターゲットは回転機構によって回転可能に支持され、回転機構はターゲットが連結された回転体及び固定体などから構成されている。回転機構を構成する回転体と固定体間には軸受が設けられている。
【0003】
回転陽極X線管装置の場合、陰極から放出された電子は、陰極とターゲット間の電位勾配によって加速集束され、例えば120〜150KeVのエネルギーを持ってターゲット上にX線発生源となる焦点を形成する。高いエネルギーを持った電子がターゲット上の焦点に衝突すると、電子は急速に減速しターゲットからX線が放出される。ターゲットに衝突する電子の運動エネルギーの1%程度がX線に変換され、残りのエネルギーは熱に変換されてターゲットを加熱する。また、ターゲットに衝突する電子の約50%が後方に散乱する。散乱電子(以下、反跳電子)は、焦点から離れたターゲットの表面に再び衝突する他、一部が真空外囲器に衝突、付着する。反跳電子がターゲットに再衝突すると、ターゲットは加熱し、或いは焦点外X線を放出しX線画像の画質が低下する。さらに反跳電子が真空外囲器の絶縁物表面に衝突、付着した場合には、帯電、沿面放電などX線管の耐電圧性能が低下する。
【0004】
このように反跳電子は、利用可能なX線の発生に寄与せず、X線管の高性能化の妨げになる。そこで、反跳電子を捕捉するシールド構造を陰極とターゲットの間に配置して、ターゲットの加熱を減少させる方法があり、特許文献1、特許文献2が公知である。これらの方法の場合、シールド構造体は比較的薄い金属壁で構成されており、さらにシールド構造体は反跳電子が衝突する面と反対側の壁面が冷却媒体で冷却される構造となっている。そして反跳電子の衝突で発生するシールド構造体の熱は、熱伝導によって冷却壁面に伝熱し、冷却媒体に熱交換される。また特許文献3には、反跳電子を捕捉するために、真空外囲器の外面の一部に、X線透過窓接合用の穴を含んだ形状を持つ熱蓄積アセンブリを設ける方法が示されている。この熱蓄積アセンブリは、内部に熱交換チャンバを設け、熱交換チャンバ内に冷却媒体を流して熱蓄積アセンブリを冷却する構造である。さらに特許文献4には、反跳電子トラップを真空外囲器の一部と機械的に締結している方法が示されている。
【特許文献1】特表平11-510955号公報
【特許文献2】米国特許第6115454号公報
【特許文献3】特開2000-200695号公報
【特許文献4】特開2002-352756号公報
【0005】
回転陽極X線管の場合、陰極から照射されターゲットに衝突する電子の約50%が後方に散乱し、反跳電子は、陰極と陽極間の電界によって軌道に影響を受け、最終的に焦点から離れたターゲットの表面に再び衝突する他、一部が真空外囲器に衝突する。このため、ターゲットや真空外囲器は加熱し、焦点外X線を放出しX線画像の画質が低下することが問題である。また反跳電子が真空外囲器の絶縁物表面に衝突、付着した場合には、帯電、沿面放電の発生などX線管の耐電圧性能が低下することも問題である。特許文献1〜4のように、これらの問題を解決する手段として、反跳電子を捕捉するためにシールド構造体や熱蓄熱アセンブリを設け、これらを介して冷却する方法が公知となっている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、何れの特許文献であっても反跳電子の捕捉するための専用の電界にて反跳電子の捕捉量を増やす点は配慮されていたが、本発明の目的は、陽極ターゲットからの反跳電子をより多く捕捉可能な構造を有する回転陽極X線管を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために本発明では、電子ビームを発生する陰極部と、前記発生された電子ビームを加速する第1の電界を与える手段と、この与えられた第1の電界によって加速された電子ビームを照射するターゲットを有する陽極部と、この陽極部と陰極部との間に配置され、前記ターゲットから反射される反跳電子を収集する反跳電子コレクタ部と、この反跳電子コレクタ部と陽極部と陰極部を収容する真空外囲器とを具備したX線管において、前記反跳電子コレクタ部に前記ターゲットの電位以上の電位となるような第2の電界を与える手段を使用することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、陽極ターゲットからの反跳電子をより多く捕捉可能な構造を有する回転陽極X線管を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の第1の実施形態について、陽極接地型のX線管の場合を例に挙げ、図1の概略構造図を参照して説明する。X線出力窓21が設けられた管容器1内部にはX線管2が収納されている。X線管2は真空外囲器3などから構成され、真空外囲器3の一部にX線出力窓4が設けられている。真空外囲器3は中央部の最も径が大きいセンターバルブ5と、センターバルブ5の両端にセンターバルブ5よりも径が小さい陰極バルブ6及び陽極バルブ7などから構成され、センターバルブ5と陽極バルブ7は管軸を中心にして配置し、陰極バルブ6は管軸からずれて配置している。
【0010】
センターバルブ5には陽極ターゲット13が配置され、陰極バルブ6には陰極8が配置されている。陰極8は例えばセラミックスといった絶縁物製の陰極支持体9によって支持され、陰極支持体9が陰極バルブ6に固定され、陰極バルブ6は陰極支持体9の端部を管容器1の外側に配置して管容器1に固定されている。陰極8と陽極ターゲット13の間に金属製のコレクター支持リング10を介して、金属製の図2に示すように開口部が円形の反跳電子コレクター11が配置され、コレクター支持リング10の外周部が、陰極バルブ6とセンターバルブ5で挟み込まれるように固定されている。その時、コレクター支持リング10と反跳電子コレクター11とはロウ付或いは、溶接で接合し、また、真空外囲器3と反跳電子コレクター11と電気的に絶縁するために、陰極バルブ6とコレクター支持リング10の外周部10aの間には、例えばセラミックス絶縁物製の絶縁リング12aが配置され、またセンターバルブ5とコレクター支持リング10の外周部10bの間には、絶縁リング12bを配置している。
【0011】
陽極ターゲット13は回転子のロータ14と締結されて回転体を構成し、この回転体は回転支持機構15と締結され、回転可能に支持され、端部が陽極バルブ7に固定されている。陽極バルブ7を囲む位置に誘導電磁界を発生するステータ16を配置する。ステータ16のコイルには誘導磁界発生時に約500Vの電圧が印加されるため、絶縁が必要となる。そのため管容器1内には絶縁性の冷媒17、例えば絶縁油18を充填する。さらに絶縁性の冷媒17を冷却するために外部冷却器(図示省略)を配置する。
【0012】
上記した構成において、陽極接地型のX線管装置が動作状態に入る場合、ステータ16が発生する誘導電磁界により陽極ターゲット13が回転する。この状態で、陽極ターゲット13及び真空外囲器3をアース電位とし、反跳電子コレクター11には正の電圧、陰極8には負の高電圧を印加すると、陰極8から電子ビーム放出し、陽極ターゲット13の焦点に衝突してX線を発生する。X線は真空外囲器3の出力窓4及び管容器1の出力窓12を通して外部に出力される。この時、陽極ターゲット13から後方に散乱する反跳電子は反跳電子コレクター11で捕捉される。反跳電子コレクター11に正の電圧を印加することで、より多くの反跳電子の捕捉が可能となる。このため、反跳電子の陽極ターゲット13への再衝突が少なくなり、陽極ターゲット13の加熱を抑制することがある。また、焦点外X線の放出も少なくなり、X線画像の画質の低下が防止できる。さらに反跳電子が陰極支持体9への衝突、付着が少なくなり、帯電、沿面放電の発生など、X線管の耐電圧性能の低下が防止できる。
【0013】
上記した本実施形態によれば、例えば管電圧120kVとして動作させた場合、反跳電子コレクター11に印加する電圧を0V〜10kVまで変化させた時の反跳電子の捕捉量は、電圧0V時を1とした場合の比で表すと、図3の関係となる。反跳電子コレクター11に1kV以上の電圧を印加すると、印加しない場合よりも約1.2倍捕捉する量を増やすことが可能となる。
【0014】
次に本発明の第2,3の実施形態について図4,5により説明する。図4,5は第1の実施形態おいて、反跳電子コレクター11の電子ビームが通過する開口部の形状を電子ビームの集束形状に近づけたものである。陰極8から放出された電子ビームは、焦点の幅方向に短く、長さ方向に長い形状に集束される。このため図4のような開口部形状が焦点の幅方向が短軸で、長さ方向が長軸とする楕円形である反跳電子コレクター19や図5のような開口部形状が焦点の幅方向が短辺、長さ方向が長辺とする長方形である反跳電子コレクター2とすることで、開口面積が小さくでき、これにより反跳電子コレクター19,20の開口部を通過する反跳電子の量を低減することが可能となる。さらに反跳電子コレクター19,20に正の電圧を印加することで、第1の実施形態と同様の効果が得られる。また反跳電子コレクター19,20に正の電圧を印加しない場合には、絶縁リング12を不要とすることが可能である。
また、上記実施形態では回転陽極X線管を例に説明したが、その他の回転陽極X線管へ適用することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明における第1の実施形態を表す断面図。
【図2】反跳電子コレクター電圧と捕捉量の関係を表す図。
【図3】本発明における第1の実施形態の反跳電子コレクターを表す図。
【図4】本発明における第2の実施形態の反跳電子コレクターを表す図。
【図5】本発明における第3の実施形態の反跳電子コレクターを表す図。
【符号の説明】
【0016】
1:管容器、2:X線管、3:真空外囲器、4:X線出力窓、5:センターバルブ、6:陰極バルブ、7:陽極バルブ、8:陰極、9:陰極支持体、10:コレクター支持リング、10a:陰極バルブ側のコレクター支持リングの外周部、10b:センターバルブ側のコレクター支持リングの外周部、11:反跳電子コレクター(円)、12:絶縁リング、12a:陰極バルブとコレクター支持リング間の絶縁リング、12b:センターバルブとコレクター支持リング間の絶縁リング、13:陽極ターゲット、13:陰極支持体、14:ロータ、15:回転支持機構、16:ステータ、17:絶縁性の冷媒、18:絶縁油、19:反跳電子コレクター(楕円)、20:反跳電子コレクター(長方形)、21:X線出力窓

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子ビームを発生する陰極部と、
前記発生された電子ビームを加速する第1の電界を与える手段と、
この与えられた第1の電界によって加速された電子ビームを照射するターゲットを有する陽極部と、
この陽極部と陰極部との間に配置され、前記ターゲットから反射される反跳電子を収集する反跳電子コレクタ部と、
この反跳電子コレクタ部と陽極部と陰極部を収容する真空外囲器とを具備したX線管において、
前記反跳電子コレクタ部に前記ターゲットの電位以上の電位となるような第2の電界を与える手段を備えたことを特徴とするX線管。
【請求項2】
前記真空外囲器と、前記反跳電子コレクタ部は電気的に絶縁されることを特徴とする請求項1に記載のX線管。
【請求項3】
前記X線管は、前記陽極部を接地した回転陽極X線管又は回転陽極X線管の何れか一方であることを特徴とする請求項1又は2の何れかに記載のX線管。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−234487(P2007−234487A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−57077(P2006−57077)
【出願日】平成18年3月3日(2006.3.3)
【出願人】(000153498)株式会社日立メディコ (1,613)