説明

invitroにおける神経変性疾患の診断及び早期診断のための方法

本発明は、in vitroにおける神経変性疾患の、検出および早期検出のため、重篤度の測定のため、ならびに経過および進行の評定のための方法であって、免疫診断測定法を使用して、主観的または客観的に検証可能な認知疾患に罹患している患者由来の血清または血漿サンプル中のアポリポタンパク質C-I(アポC-I)免疫反応性を測定する方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、神経変性疾患、特にアルツハイマー病のような認知症およびその前兆を診断、特に早期診断するためのin vitroにおける新規の方法に関する。
【0002】
本発明の文脈では、用語「診断」は、測定が実施される患者の臨床上の状態に依存して、各種の問題に基づいてよく、検出及び特に本願の場合早期検出、重篤さの測定、及び治療の過程の評価を含む過程の評価、並びに疾患の未来の過程の予後のために機能する医学的測定のための一般用語として使用される。本発明の内容で特に重要なことは、診断が、例えば患者の血液サンプル中に疾患の特定のバイオマーカーが検出されないことに基づいて、特定の疾患の存在が信頼可能に排除されるネガティブ診断であることができるという点である。
【0003】
ネガティブ診断についての無視できない価値はまた、複数の各種の疾患において病理的に変動した濃度で見出すことができるバイオマーカーであり、それ故、特定の疾患のポジティブ診断をそれ自体単独では可能にしないが、一般的にそれらは、更なる臨床上または生化学的なパラメーターの使用でのポジティブ診断のための決め手ともなり得る。
【0004】
本発明によって診断される疾患は、ゆっくりと進行していく非感染性の病因の慢性神経変性疾患、特に認知症である傾向を有する。
【背景技術】
【0005】
認知症は、共通の特徴が後天的な知能、特に記憶の損失、及び脳損傷の結果としての通常レベルの人格の損失である疾患として一般的に規定されている。認知症は一般的に、比較的ゆっくりと進行する慢性的な特徴の疾患である。認知症の症状が高齢前の中年の人に現れたら、それらは初老期の認知症として称される。認知症は、それらに典型的な症状と脳の病理学的な変化に基づいて、特に以下の疾患または疾患の群の間で特に分類される:
【0006】
アルツハイマー病(AD)は、最も頻度の高い神経変性認知症であり、認知症の全てのケースの2/3を数え、本発明に対して実際的に最も重要な使用分野でもある。
ADは、アミロイドプラークの形成、神経原腺維束の形成、及び神経細胞の損失という三つの重要な病理学的特徴によって分類されるが、死後にのみ検出することができる(概要として参考文献1を参照;番号の形式で記載される参考文献は、以下の記載に続く参考文献のリストに関する)。アミロイドプラークは、アミロイド-β-タンパク質のニューロン外の凝集物からなり、神経原腺維束は、主にタウ−タンパク質と神経腺維を含む。プラークと神経原腺維束の形成は、神経細胞の死の原因であると推測されている。
【0007】
ADの最も重要な症状は、比較的永久的な情動の反応性と組み合わせて、記憶能力の損傷および知的機能の混乱が増大して行くことであり、これらの症状は、他の形態の認知症からADを区別することを困難とする更により不特定的な混乱を伴う。
【0008】
AD患者および数年にわたり臨床上観察過程にあるADを進行させている患者を観察することにより、以下の全範囲を網羅する患者の、相互に区別しうる群に対する基準を制定した。
(a) 主観的および客観的認知損傷を有さない人(本願の文脈で、対照群を表す)
(b) 主観的に減衰した認知能力について不満を言うが、認知欠陥を発見することができない患者(本願の文脈で、「SCI」患者の群であり、「SCI」は「主観的認知損傷」を表す)
(c) 軽度の認知損傷が見られ、「ADの可能性(pos AD)」と診断され、他の認知症原因疾患が存在しない患者(本願の文脈で、「MCI pos AD」群であり、「MCI」は「軽度認知損傷」を表す)
(d) 徐々に始まりゆっくりと進行する相当な認知損傷に対する典型的な臨床上状態を有し、他の認知症の原因を排除することができる「おそらくAD」と診断される患者の群(本願の文脈で、「pr AD」群であり、略号は「おそらくアルツハイマー」を表す)。
【0009】
主観的および/または客観的認知損傷を有する患者の、種々の群に対する割り当てに関して、さらに参考文献(2), (3), (4), (5)が参照される
【0010】
レヴィー小体を有する認知症(DLB)は、アルツハイマー認知症に次いで二番目の頻度で認知症の原因となるものである。神経病理学的に、DLBは、脳幹及び大脳皮質におけるレヴィー小体と称されるものの出現によって特徴づけされる。これらのレヴィー小体は、主にシナプス前タンパク質(α-シヌクレイン)とユビキチンの凝集物を含む。レヴィー小体の病理は、アルツハイマー病とパーキンソン病に典型的な神経病理学的変化と異なる度合いで関連している可能性がある。そして、DLBにおいても、β-アミロイドと老年プラークが形成するが、神経原腺維束は存在しない(概要として参考文献6参照)。レヴィー小体はまた、異なる分布であったとしても、パーキンソン病を有する患者の脳にも存在する。
【0011】
DLBの鍵となる症状は、進行性の認知障害、不安定な注意力と自覚を伴う混乱の出現、パーキンソン病、頻発する転倒と失神(短い発作的無意識)である。診断指標の感度及び特異性は、全体に高い特異性を示すが、ある場合に非常に低い感度を示す。これは、DLBがしばしば日々の臨床上のルーチンであまり診断されていないことを意味する。
【0012】
前頭側頭型認知症(FTD)はピック病とも称され、初老性認知症の約20%を数える。FTDはある場合に遺伝的であり、タウオプシーとも称されるものであり、タウ−タンパク質の過剰発現または抑制発現によって、あるいは突然変異したタウ−タンパク質の発現によって区別される。神経病理学的症状は、前頭及び/または側頭皮質、及び黒質、及び脳底神経節の局所的萎縮である。これにより、各種の重篤度の言語障害、人格の変化、挙動の異常が引き起こされる。全体として、FTDは93%の感度とわずか23%の特異性で過度に低く診断されており、ADが最も頻繁な誤診である。
【0013】
用語「血管認知症」(VAD)は、脳の血流が破壊されることにより認知症が引き起こされる疾患を包含する。各種のタイプのVADが存在し、その中では多不完全骨折認知症(MID)及び皮質下VAD(ビンスヴァンガー病とも称される)が最も頻繁な形態である。
【0014】
ビンスヴァンガー病は、脳の白質における脳血管性病変によって病理学的に特徴づけされるゆっくりと進行する認知症である。臨床的にこれは、興奮、癇癪、欝及び多幸症のような挙動の異常、並びにわずかな記憶障害を引き起こす。
【0015】
多不完全骨折認知症は、一過性虚血性侵襲(TIA)とも称される数回の小さな発作の結果として次第に生じ、大脳皮質及び/または皮質下領域における脳組織の破壊に至る。この発作は完全に無意識的であり続けても良く、この場合認知症は第一の知覚可能な結果である。MIDが存在するとき、重篤な欝、気分の揺らぎ、及び癲癇と関連する認知能力の減少が徐々に生じる。
【0016】
認知症の診断は今日では、特定形態の認知症についての排除指標を使用して、精神神経学的な調査、及び疾患の進行およびその過程の観察に基づいて主に実施されている。非常の多数の場合で、これらの調査は不明確な結果を与え、それは認知症の診察された形態についての前述の数、及び不正確に診断された場合を説明している。疾患に典型的な大脳の変化は、生きている患者で直接的に測定することはもちろんできず、例えばコンピューターによるトモグラフィーまたは磁気共鳴映像法(MRI)による医療機器を使用する調査は完成しているが高価である。
【0017】
それゆえ、比較的単純な試験方法、例えば患者の血液サンプル(血清サンプル、血漿サンプル)により測定することができる、有用なバイオマーカーの測定により、認知症の検出、特に早期検出を補助し、それによりそれを改善することが望まれる。
【0018】
アルツハイマー病を診断するために、Ronald and Nancy Reagan Institute of the Alzheimer's Association、及びNIA Working Groupは、ADを検出するための理想的なバイオマーカーのセットである指標についてガイドラインを出版した(参考文献7)。以下の指標が、バイオマーカーによって理想的には実現されるべきである:
1.脳特異的であって、これらの疾患の神経病理学的な基本的特徴を検出すること。
2.診断感度及び特異性が少なくとも80%あること。
3.バイオマーカーの疾患特異的変化が、適切な治療手段を開始できるようにするために、できるだけ疾患の早期の段階でそれ自体明白であること(参考文献8)。
【0019】
しかしながら、血中(すなわち、血清または血漿のような、血液中または血液調製物中)で検出することができ、ADの早期診断および示差的診断を改善するために日々の臨床上ルーチンで使用することができ、上述の指標を全て実現するバイオマーカーは今日まで存在していない。現在では、炎症マーカー、例えばIL-6とTNFα、及び酸化ストレスのためのマーカー、例えば3-ニトロチロシン、及びADの特徴的な病理学的変化と関連するマーカー、例えばアミロイドプラークの主要構成物であるアミロイドβ、及び神経原腺維束の実質的な構成物であるタウ−タンパク質を含む、各種の潜在的なマーカー候補が調査されている(参考文献7、9参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【特許文献1】ドイツ特許出願DE 10343,815 A1号
【特許文献2】ドイツ特許出願DE 10 2005 034 174.8号
【特許文献3】ドイツ特許出願DE 10 2005 036 094.7号
【特許文献4】ドイツ特許出願DE 10 2006 027 818.6号
【特許文献5】ドイツ特許出願DE 10 2006 023 175.9号
【特許文献6】欧州特許出願 EP 05023420.2号
【特許文献7】ドイツ特許出願DE 10 2006 021 406.4号
【非特許文献】
【0021】
【非特許文献1】SELKOE D. J. (2001) Physiological Reviews 81: 741-766
【非特許文献2】Boetsch T., Stubner S. Auer S., Klinisches Bild, Verlauf und Prognose, Chapter 5 in: Hampel, Padberg, Moller (editors), Alzheimer Demenz - Klinische Verlaufe, diagnostische Moglichkeiten, moderne Therapiestrategien; WVG mbH Stuttgart 2003
【非特許文献3】Boetsch T., Operationalisierte Demenzdiagnostik, Chapter 6.1 in: Hampel, Padberg, Moller (editors), Alzheimer Demenz - Klinische Verlaufe, diagnostische Moglichkeiten, moderne Therapiestrategien; WVG mbH Stuttgart 2003
【非特許文献4】Reisberg B., Ferris S.H., de Leon M.J., Crook T., 1982, Am J Psychiatry 139:1136-1139
【非特許文献5】McKhann G., Drachmann D., Folstein M., Katzman R., Price D., Stadlan E.M. 1984, Neurology 24: 939-94
【非特許文献6】MCKEITH I. G. (2002). British Journal of Psychiatry 180: 144-147
【非特許文献7】FRANK R. A., GALASKO D., HAMPEL H., HARDY J., DE LEON M. J., MEHTA P. D., ROGERS J., SIEMERS E., TROJANOWSKI J. Q. (2003). Neurobiology of Aging 24: 521-536
【非特許文献8】GROWDON J. H., SELKOE D. J., ROSES A., TROJANOWSKI J. Q., DAVIES P., APPEL S. et al. [Working Group Advisory Committee](1998). Consensus report of the Working Group on Biological Markers of Alzheimer's Disease. [Ronald und Nancy Reagan Institute of the Alzheimer's Association and National Institute on Aging Working Group on Biological Biomarkers of Alzheimer's Disease]. Neurobiology of Aging 19: 109-116
【非特許文献9】TEUNISSEN C. E., DE VENTE J., STEINBUSCH H. W. M., DE BRUIJN C. (2002). Biochemical markers related to Alzheimer's dementia in serum and cerebrospinal fluid. Neurobiology of Aging 23:485-508
【非特許文献10】C. PETIT-TURCOTTE, S.M. STOHL, U. BEFFERT, J.S. COHN, N. AUMONT, M. TREMBLAY, D. DEA, LIN YANG, J. POIRIER, and N.S. SHACHTER (2001), Neurobiology of Disease 8, 953-963.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
明白な実験室の発見を与え、認知症、特にアルツハイマー病(AD)のためのバイオマーカーとして適切である、血液または血漿サンプル中の物質の測定に基づき、認知症、特にADの存在が疑われる患者において早期ポジティブ診断及び/またはネガティブ排除診断を支持するために適している調査のための予備的方法について現在必要性が存在している。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明は、in vitroにおける神経変性疾患の検出および早期検出、重篤度の測定、ならびに過程および予後の評価のための方法の形態である調査方法を提供し、その中で、免疫診断アッセイ法により主観的または客観的に検出可能な認知障害に罹患している患者の血清または血漿サンプル中のアポC-I免疫活性を測定し、神経変性疾患およびその典型的な早期形態の存在について、あるいは疾患の経過および/または疾患の回避もしくは予防の努力の成功について、測定される濃度に基づいて結論を引き出す。
【0024】
請求項1に係る方法の有利なまたは好ましい発展型は、従属請求項2から8に記載されている。
【0025】
本発明は、対象の人と比較して「アルツハイマーの可能性あり」または「おそらくアルツハイマー」と診断される患者を含む、認知損傷を有する患者の血液(血清、血漿)中において特徴的な方法で、免疫反応性アポC-Iの濃度が減少されたと測定された実験上の発見に基づく。
【0026】
「免疫反応性アポC-I」または「免疫診断的に測定可能なC-I」が本願の文脈で使用される場合、免疫アッセイ、特に本願の実験セクションまたは出願人によるドイツ特許出願DE 10343,815 A1号においてより詳細に記載された免疫アッセイで測定することができるとして、それが検出物質を規定する
【0027】
前記DE 10343,815 A1号において説明され、その内容全体が、アッセイ手順および検出可能なアポC-I分子またはアポC-I誘導体に関する議論に関する場合、本発明の開示を補足するために明白に言及されるように、前記の型の免疫アッセイを使用して、健康な対照の人の血中における、疎水性分子構造または疎水性表面に結合能を有し、疎水物除去クロマトグラフィー(例えば、オクチルセファロース)のための適切な物質との反応により、サンプルから除去することができるアポC-I画分を測定する。
【0028】
記載される方法において測定することができるアポC-I、または相当するアポC-I誘導体もまた、「遊離アポリポタンパク質C-I」と表示する。それは、(PBS希釈中の)血清または血漿サンプル由来の、疎水性分子構造、例えば、疎水性オクチルセファロースのオクチル基に結合する特性を有しており、そのオクチル基から、タンパク質を溶出するための条件、特に希釈酢酸とともに溶出することができる。しかし、「遊離アポリポタンパク質C-I」を使用しても、疎水性相互作用クロマトグラフィーにより分離する物質が、もとのサンプル中に完全に遊離して存在しなければならないことを必ずしも意味するものではない。また、クロマトグラフィー物質上のアポリポタンパク質C-Iの形成を伴うオクチルセファロースと接触する実験条件下で切断される、脂質との結合物または凝集物も、同様にこの語を使用する文脈において「遊離アポリポタンパク質C-I」と見なされる。
【0029】
前記DE 10343,815 A1号において記載されるように、ガンの患者の血液中においてもまた、前記免疫アッセイにより、オクチルセファロースに結合せず、腫瘍疾患に特異的に発生すると見受けられるアポC-I画分が検出される。それゆえ、免疫反応性アポC-Iの測定において得られる測定値を使用して、認知症またはその前兆の診断全体において、適切であれば、測定値が各患者の場合においてガンにより間違って検出されるのを排除する必要があるであろう。例えば、DE 10,343,815 A1号において記載される方法において、サンプルの、例えばオクチルセファロースへの接触を通して、測定される濃度値が変動するか否かをチェックすることにより、これを実行することができる。
【0030】
本発明により測定される免疫反応性アポC-Iは、完全長ペプチドアポC-Iを表す、または含有する検出物に加えて、「アポC-I」誘導体もまた含む。前記サンドウィッチ免疫アッセイにおいて遊離タンパク質アポリポタンパク質C-Iのように挙動するものを意味するものとして理解される。「誘導体」は、例えば、個別のアミノ酸またはアミノ酸配列分短くしたアポリポタンパク質C-I分子、あるいはステアリン酸により、または例えば凝集により立体構造的に改変された完全長アポリポタンパク質C-I分子であってよい。
【0031】
本発明がまたそのようなアポC-I誘導体もまた含むことは、抗体結合に使用される分子領域の外側に、すなわちサンドウィッチ免疫アッセイの場合、抗体に対する2つの結合部位により結合するアミノ酸配列の外側にある測定される分子の末端領域に、違いがある場合、検体間の違いを通常免疫アッセイでは検出できないという既知の事実が配慮される。そして、さらに配慮されるべき事実は、ペプチド検体が血流中に存在する場合、ペプチドフラグメントの形状にあるその分解産物が発生することもまた常に予想されることである。そのようなフラグメントの濃度は一般に、最初のペプチドの濃度にほぼ比例し、濃度の違いは、さらなるタンパク質分解、または血流からの除去、例えば腎臓を介した除去により、ペプチドまたはフラグメントの安定性の違いまたは「消去」の速度の違いを反映している。
【0032】
アルツハイマー病に関するアポC-Iの議論を文献中に発見することができる場合、死者の脳組織の抽出物におけるアポリポタンパク質C-I発現の調査に関するもののみであるが、生きた患者の血流中におけるものではない(参考文献10)。脳と血流の間の、例えばタンパク質基質の通過に対するバリア効果を発揮する脳血管バリア(BBB)の存在を鑑みて、血流中のタンパク質基質の存在または濃度に関して、脳組織抽出物の調査から結論を導き出すことはできない。
【0033】
アルツハイマー病患者2人の血清からの画分もまたDE 10,343,815 A1号に記載されたクロマトグラフィー調査において測定され、免疫反応性アポC-Iの濃度と、認知症またはアルツハイマー病の種々の段階との間の関係に関して結論を導くような統計的に有意な結果は得られなかった。
【0034】
60人の明らかに健康な通常人(兆候のない対照)、および初期に(b)から(d)群により軽度から重度の認知障害を有する196人の患者のEDTA血漿サンプルにおいて測定された結果を、以下の実験セクションに記載し、免疫反応性アポC-Iに対する濃度と、認知障害の形態にある認知症症状の重篤度との明確で、診断上有意な関連性が初めて与えられ、測定される関連性は、AD前兆の重篤度を伴う明確な方法において関連し、それゆえ種々の患者群の臨床上の差異を反映する。
【0035】
本発明による神経変性疾患の診断における免疫反応性アポC-I測定は、生理学的あるいは臨床上および神経心理学的パラメーターならびに他のバイオマーカーの並行した測定を補足し、前記測定を差異診断のために洗練する測定として特に提案される。
【0036】
それゆえ前記方法は、多数のパラメーター測定の一部として好ましくは実行され、その測定の中でそれぞれの臨床像の情報を示す少なくとも1つのさらなる生化学的または生理学的パラメーターを同時に測定し、神経変性疾患の詳細な診断に対して評価される少なくとも2つの測定変数の形態で測定結果が得られる。
【0037】
例えば、免疫反応性アポC-Iの測定に加えて、少なくとも1つの生化学的パラメーターをさらに測定することができ、そのパラメーターは、ナトリウム利尿ペプチド、炎症のメディエーター、補体成分、サイトカイン、ケモカイン、血液凝固剤および線維素溶解因子、急性期タンパク質、ならびにフリーラジカル化合物からなる群より選択される。特に言及されてよいコパラメーターは、出願番号10 2005 034 174.8号(中領域プロアドレノメデュリン(mid-regional proadrenomedullin)), 10 2005 036 094.7号(プロカルシトニンの液体診断測定), 10 2006 027 818.6号、および10 2006 023 175.9号、ならびにパラメーターCPS-1 (カルボニルホスフェートシンセターゼ1(carbamoyl phosphate synthetase 1))の、出願人の先行ドイツ国特許出願で議論され、これらについて神経変性疾患に関する議論は出願EP 05023420.2号およびDE 10 2006 021 406.4号に明示されている。
【0038】
本発明による方法は、チップ技術測定装置または免疫クロマトグラフィー測定装置の手段による同時測定としてもまた成立させることができ、それにより取得される複合測定結果のいずれかの評価を、適切なコンピュータープログラムの助けにより成立させることができる。
【0039】
現在までに調査はADの前兆症状を示す患者、または「おそらくアルツハイマー」と診断された患者の血漿サンプルに限定されているが、発明者らは、-おそらく異なる典型的濃度範囲で-免疫反応性アポC-Iの濃度の特徴的な変動を、他の神経変性疾患、特に血管認知症(VAD)およびレヴィー小体を有する認知症(DLB)の場合もまた、患者の血漿中に見つけることができる。
【0040】
以下に、測定結果および図面を参照して、より詳細に本発明を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】実験セクションに記載される、特に60人の対照人、および種々の重篤度の認知障害を有し、前述の b), c) およびd)群、すなわち、「SCI」(患者50人), 「NCI pos AD」(患者46 人)、および「prob AD」 (患者100人)に相当する196人の患者のEDTA血漿において、サンドウィッチ免疫アッセイにより測定することができる免疫反応性アポC-Iの濃度の測定結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0042】
実験セクション
1. アポリポタンパク質C-I免疫アッセイ
血漿中の免疫診断的に測定可能なアポC-Iの直接測定を、出願人のドイツ特許出願DE 103 43 815 A1号に記載されているのと同じサンドウィッチ免疫アッセイを使用して成立させた。特にこのアッセイは以下の構造を有している。
【0043】
血清中のアポリポタンパク質C-Iを直接免疫診断的に測定するために、サンドウィッチ型の免疫アッセイは、
a) コートしたチューブ:ポリスチレンチューブ(Greiner)を、アポリポタンパク質C-Iに対する市販のアフィニティ精製したポリクローナル抗体(供給源;Acris antibody A, Bad Neuheim, Germany)でコーティングした。製造者の情報によれば、前記抗体は、ヒトアポC-Iでウサギを免疫化することにより取得され、セファロースアフィニティカラムを介してヒトアポリポタンパク質C-Iで精製されたものである。コーティングのために、300 μlのPBS中で0.2 μgの抗体をポリスチレンチューブ(Greiner, Germany)に結合させ、チューブをヒツジ抗ウサギIgG抗体(Sigma)でコーティングした。この結合を、室温で18時間後に完了させた。その後前記チューブを、PBS中0.5 %血清アルブミン(BSA)の3 ml分で2回洗浄した。それらを真空中においた後、チューブをアポリポタンパク質C-I免疫アッセイ用の個体相として使用した。
b) アクリジニウムエステルマーク化抗体:PBS 100 μl中のヒトアポリポタンパク質C-Iに対する別の抗体100 μg(ウサギ由来;供給源:Academie Bio-Medical Company, Texas, USA)を、アクリジニウムNHSエステル10 μg(10 μlアセトニトリル中)と反応させた。室温で10分間インキュベートした後、反応混合物の非変換成分をSW 300のHPLC(Waters)により分離して、マーク化した抗体を精製した。免疫アッセイで使用するために、PBS中のマーク化抗体を、約1,000,000 RLU/300 μl(RLU =相対光単位)でチューブの壁に飽和させるために、0.5%のBSAおよび1 mg/mlのウサギIgGで調整した
のように記載される構成成分より構成された。
【0044】
2. 血清または血漿中におけるアポリポタンパク質C-Iの免疫診断的測定の実行
血清または血漿を、PBS, 0.5% BSAで1:10,000に希釈した。それぞれにおいて、その300 μlを、上記の固定化抗体でコーティングしたチューブにピペットで注入し、その後撹拌しながら(Heidolph回転振動機上300 rpm)、室温で4時間インキュベートした。その後チューブの中身をPBSで洗浄し(それぞれにおいてPBS 1 mlで4回、満たし、デカンテーションした)、チューブの壁面に結合したアポリポタンパク質C-Iを、室温300 rpmで20時間、アクリジニウムエステルマーク化抗アポリポタンパク質C-I抗体のチューブあたり300 μlで反応させた。その後、結合していないマーク化抗体を、毎回1 mlのPBSで5回洗浄することにより除去し、残りの化学発光をBerthold 952 Tイルミノメーター中で既知の方法により測定した。
【0045】
アッセイのキャリブレーションには、合成アポリポタンパク質C-Iを使用した。上記のアッセイのために取得された、典型的な標準曲線を、上述のDE 103 43 815 A1号の図3に示す。
【0046】
3. 健康な対照、および異なる重篤度の認知障害を有する患者の血漿中におけるアポC-I免疫反応性の測定
免疫診断的に測定される「遊離」アポC-Iの濃度に対する参照値を測定するために、認知障害の兆候を示さず、血流中のアポC-Iレベルに影響を及ぼすことが既知である他の検出可能な疾患(腫瘍疾患;重篤な感染、または炎症)に罹患していない、兆候のない対照人60人のEDTA血漿中で測定を実行した。対照群に対して、測定したアポC-I濃度よりメジアン値332 μg/mlが測定された。
【0047】
個々の患者が上述のb), c) またはd)群の一つに分類されるもととなる、種々の重篤度の認知障害の形態で認知症の兆候を有する患者を、患者群とした。
【0048】
測定された、健康な対照および認知障害を有する患者の血漿中における免疫反応性アポC-Iの濃度を、図1に示す。
【0049】
種々の患者群に対していわゆるメジアンの形で測定された数値は、以下のとおりであった:
【表1】

【0050】
種々の患者群に対するメジアン値より明らかに、血漿中で免疫診断的に測定することができるアポC-Iの濃度は、明確に
対照 > SCI > MCI pos AD 〜 prob AD
の方向で兆候の重篤度とともに減少する。
【0051】
上述のDE 103 43 815 A1号より、測定可能なアポC-Iの濃度は、他の疾患または生理的条件においてさえ、対照人において測定されうる値から外れることが知られている;しかし、例えば敗血症または腫瘍のような最も関連のある疾患は、一般に、認知症とは臨床上免疫診断的に異なっていると容易に診断することができ、それゆえ、それらの可能性のある効果を、診断する際に適切に考慮に入れることができる。
【0052】
それゆえ、アポC-Iは脳特異的パラメーターではないが、血流中(血漿、血清)のアポC-I免疫反応性の測定は、上述の関連を鑑みて、ADの補助的早期診断の目的に非常に適している。
【0053】
[参考文献]



【特許請求の範囲】
【請求項1】
神経変性疾患の検出および早期検出のため、神経変性疾患の重篤度を測定するため、ならびに神経変性疾患の経過および予後を評価するためのin vitroにおける方法であって、免疫診断アッセイ法を用いて、主観的または客観的に検出可能な認知障害に罹患している患者の血清または血漿サンプル中における、免疫反応性アポリポタンパク質アポC-Iの濃度を測定し、神経変性疾患の存在、または神経変性疾患に典型的な神経変性疾患の早期形態の存在に関して、あるいは前記疾患の経過、ならびに/あるいは疾患の回避または治療に対する取り組みの成功度に関して、測定濃度に基づいて結論が導き出される方法。
【請求項2】
前記免疫診断アッセイ法がサンドウィッチ型の免疫アッセイであることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記神経変性疾患が、アルツハイマー病(AD)、レヴィー小体を有する認知症(DLB)、前頭側頭型認知症(FTD)、および種々の形態の血管認知症(VD)からなる群より選択される認知症であることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
アルツハイマー病(AD)の早期形態を検出するために、アルツハイマー診断の一部として実行されることを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
それぞれの臨床像の情報を示す少なくとも1つのさらなる生化学的または生理学的パラメーターを同時に測定し、神経変性疾患を詳細に診断するために評定される少なくとも2つの測定変数のセットの形式にある測定結果を取得する、マルチパラメーター測定の一部として実行されることを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
免疫反応性アポC-Iの測定に加えて、ナトリウム利尿ペプチド、炎症のメディエーター、補体成分、サイトカイン、ケモカイン、血液凝固剤および線維素溶解因子、急性期タンパク質、ならびにフリーラジカル化合物からなる群より選択される少なくとも1つのさらなる生化学的パラメーターを、マルチパラメーター測定の一部として測定することを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
マルチパラメーター測定が、チップ技術測定装置による、または免疫クロマトグラフィー測定装置による同時測定として達成されることを特徴とする、請求項5または6に記載の方法。
【請求項8】
マルチパラメーター測定の複合測定結果の評定が、コンピュータープログラムを用いて達成されることを特徴とする、請求項5から7のいずれか一項に記載の方法。

【図1】
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【公表番号】特表2010−511159(P2010−511159A)
【公表日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−538638(P2009−538638)
【出願日】平成19年11月28日(2007.11.28)
【国際出願番号】PCT/EP2007/010331
【国際公開番号】WO2008/064883
【国際公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【出願人】(501154389)ベー・エル・アー・ハー・エム・エス・アクティエンゲゼルシャフト (29)