説明

miRNA検出用マイクロアレイ

【課題】 マイクロアレイに搭載されるキャプチャープローブが充分、機能しうるmiRNA検出用マイクロアレイを提供する。
【解決手段】 キャプチャープローブを特別な配列等とせずに、キャプチャープローブを固定する支持体を、ゲル状物等の3次元構造体とする。それにより、キャプチャープローブの分子的な自由度が向上し、従来、必要とされていたスペーサーも必要なく、短鎖のキャプチャープローブでも十分、機能し、miRNAを検出することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、miRNAを効率よく測定できるmiRNA検出用マイクロアレイに関する。
【背景技術】
【0002】
miRNA(マイクロRNA)は15〜25塩基のRNAからなり、翻訳制御に大きな役割を為していることが近年報告されている。Reinhartらは線虫においてmiRNAの発現制御に係る機構を解明し、報告した。(非特許文献1)。ここではmiRNAは時空間特異的に発現することにより翻訳制御を正確に行うことが報告されている。その後、miRNAはショウジョウバエや脊椎動物などにも存在していることが報告されており、哺乳類では約250程度が確認されている(非特許文献2)。そこで、今後はmiRNAの発現を探索するための解析方法の開発が待たれている。このようなmiRNA発現状況を調べることで生体の個体発生における各ステージでmiRNAの役割が明確になると期待されている。従来、miRNAを測定する際には、Northern Blottingなどの方法を用いて、数個ずつmiRNAの発現を確認してきた。この方法であると一度に解析する検体数は限られているため、多くのmiRNAを網羅的かつ発現を経時的に追跡することは難しい。そこで、今後はより多くのmiRNAを網羅的に測定することが待たれており、マイクロアレイを用いる方法が期待されている。
【非特許文献1】Nature 403, p901-906 2000
【非特許文献2】Ambros 2003, 9(3), p277-279
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
この際、miRNAを捕捉するためのキャプチャープローブは、miRNAに相補であるものを用いるため、短鎖(10〜30塩基)のものとなる。しかし、短鎖オリゴキャプチャープローブ(10〜30塩基)をマイクロアレイに搭載する際、キャプチャープローブとしてハイブリ時に機能するためには、分子的な自由度が必要になり、グラスアレイでは静電気的な反発や物理的な障害があると考えられる。そのため、数個の塩基や数〜数十分子の炭素鎖をキャプチャーオリゴの末端に結合させて、スペーサーとすることでこれらの問題点を回避させようとしている。
【0004】
スペーサーなしである場合には、前述した静電気的な反発や物理的な障害により、固定側の末端の配列がハイブリに寄与しない可能性がある。塩基をスペーサーとして用いた場合、クロスハイブリなどが生じるという可能性もある。また、ターゲットとなるmiRNA自身が非常に微量なものであり、且つ短鎖であるため効率の良い検出方法を開発することが必須となる。本発明は、上記課題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは上記課題に鑑み鋭意検討を行った結果、キャプチャープローブを特別な配列等とせずに、キャプチャープローブを固定する支持体を、ゲル状物等の3次元構造体とすることにより、キャプチャープローブの分子的な自由度が向上し、従来、必要とされていたスペーサーも必要なく、短鎖のキャプチャープローブでも十分、機能することを見出し、本発明を完成させた。
【0006】
すなわち、本発明は、キャプチャープローブが3次元構造体に固定されたmiRNA検出用マイクロアレイ、である。
【発明の効果】
【0007】
miRNAを捕捉するためのキャプチャープローブは、miRNAに相補であるものを用いるため、短鎖(10〜30塩基)のものとなる。しかし、短鎖オリゴキャプチャープローブ(10〜30塩基)をマイクロアレイに搭載する際、キャプチャープローブとしてハイブリ時に機能するためには、分子的な自由度が必要となる。しかし、ゲル状物等の3次元構造体とすることにより、キャプチャープローブの分子的な自由度が向上し、従来、必要とされていたスペーサーも必要なく、短鎖のキャプチャープローブでも十分、機能し、miRNAを捕捉することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明は、miRNAを捕捉するキャプチャープローブが、3次元構造を有する支持体に固定された、miRNA検出用マイクロアレイである。
【0009】
miRNA(マイクロRNA)は15〜25塩基のRNAからなり、様々な生物でその存在が確認されている。その情報は例えば、http://www.sanger.ac.uk/Software/Rfam/mirna/index.shtmlにアクセスすることで知ることができる。目的とするmiRNAを検出するには、それらmiRNAと相補な配列を有するものをキャプチャープローブとして設計すればよい。そのようなキャプチャープローブは、例えば、化学合成により作成することが可能である。
【0010】
次に、このように設計、作成したキャプチャープローブは、3次元構造を有する支持体に固定される。3次元構造を有する支持体とは、例えば、多孔質体が挙げられる。多孔質体としては、汚水処理等に使用されている多孔質膜、多孔質繊維、多孔質セラミック、ゲル状物等である。その材質は、固定するキャプチャープローブの機能を損なわない限り、いずれの材質も使用できる。また、その形態についても、マイクロアレイとして使用可能な限り、単一構造体、複合構造体等、いずれの形態でも良い。多孔質度、多孔質部のポアサイズ等にも制限はない。しかし、キャプチャープローブが固定されている空間を、ある程度の自由度を持って運動することが必要であるたり、また検体として使用するDNAが空間内を浸透することが必要であることから、あまり小さなポアサイズであることは好ましくない。例えば、4nm以上のポアサイズであれば、十分であるといえる。
【0011】
例えば、本発明者の一部により提案されている繊維型マイクロアレイ(特許第03510882号公報)や特表平09-504864号公報に記載の多孔質支持体を使用したマイクロアレイも使用可能である。このようなマイクロアレイでは、キャプチャープローブは、3次元構造体に固定されているため、キャプチャープローブはある空間内に固定されていることとなる。固定されている周辺環境は、空間自由度を有し、さらには異なる種類のキャプチャープローブは物理的な隔壁を隔てて固定されている。よって、平面基板上に高密度にキャプチャープローブが固定されているマイクロアレイと異なり、キャプチャープローブとして十分に機能し、さらに隣接する種類の異なるキャプチャープローブとのコンタミネーションはない。
【0012】
キャプチャープローブの固定は、物理的に包埋する方法、多孔質体表面に化学的に結合させる方法等、公知の方法を使用することができる。
【0013】
ここで、本発明の好適なマイクロアレイとして、中空繊維を使用し、その中空部にゲルが保持され、そのゲル内にキャプチャープローブを保持されているマイクロアレイについて、詳しく説明する。このマイクロアレイは、例えば、下記のa)〜d)の工程を経て作成することができる。
【0014】
a)複数本の中空繊維を、中空繊維の長手方向が同一方向となるように3次元に配列し配列体を製造する工程。
【0015】
b)前記配列体を包埋し、ブロック体を製造する工程。
【0016】
c)キャプチャープローブを含むゲル前駆体重合性溶液を該ブロック体の各中空繊維の中空部に導入し、重合反応を行い、キャプチャープローブを含むゲル状物を中空部に保持する工程。
【0017】
d)中空繊維の長手方向と交叉する方向で、切断してブロック体を薄片化する工程。
【0018】
中空繊維材料としては、例えば、ナイロン6、ナイロン66、芳香族ポリアミド等のポリアミド系中空繊維、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリカーボネート等のポリエステル系中空繊維、ポリアクリロニトリル等のアクリル系中空繊維、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン系中空繊維、ポリメタクリル酸メチル等のポリメタクリレート系中空繊維、ポリビニルアルコール系中空繊維、ポリ塩化ビニリデン系中空繊維、ポリ塩化ビニル系中空繊維、ポリウレタン系中空繊維、フェノール系中空繊維、ポリフッ化ビニリデンやポリテトラフルオロエチレン等からなるフッ素系中空繊維、ポリアルキレンパラオキシベンゾエート系中空繊維等が挙げられる。
【0019】
上記中空繊維は、その長手方向が同一となるように3次元に配列される。配列方法としては、例えば、粘着シート等のシート状物に複数本の中空繊維を所定の間隔をもって平行に配置し、シート状とした後、このシートを螺旋状に巻き取る方法(特開平11−108928号公報参照)が挙げられる。 また、複数の孔が所定の間隔をもって設けられた多孔板2枚を孔部が一致するように重ねあわせ、それらの孔部に、中空繊維を通過させ、2枚の多孔板の間隔を開き、2枚の多孔板間の、中空繊維の周辺に硬化性樹脂原料を充満させ硬化させる方法(特開2001−133453号公報参照)が挙げられる。
【0020】
次に配列体はその配列が乱れないように包埋される。包埋の方法としては、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂等を繊維間の隙間に流し込む方法、繊維同士を熱融着により接着する方法等が挙げられる。
【0021】
次に包埋された配列体の各中空繊維の中空部に、キャプチャープローブを含むゲル前駆体重合性溶液を導入し、中空部内で重合反応を行う。これにより中空部にゲルが保持され、ゲルにはキャプチャープローブが固定される。
【0022】
ゲル前駆体溶液としては、例えば、アクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、N−アクリロイルアミノエトキシエタノール、N−アクリロイルアミノプロパノール、N−メチロールアクリルアミド、N−ビニルピロリドン、ヒドロキシエチルメタクリレート、(メタ)アクリル酸、アリルデキストリン等の単量体の一種類以上と、架橋性モノマーとしてメチレンビス(メタ)アクリルアミド、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート等を含むものである。予めキャプチャープローブを不飽和官能基で修飾しておけば、ゲル前駆体と共重合することにより、ゲルの構成にキャプチャープローブが化学結合する(特開2004-163211号公報参照)。
【0023】
次に、中空繊維の長手方向と交叉する方向で、切断してブロック体を薄片化する。ここで作成された薄片は、本発明のマイクロアレイとして使用できる。マイクロアレイの厚みは、0.1mm〜1mm程度である。切断は、例えばミクロトーム、レーザー等により行うことができる。
【0024】
このように作成したマイクロアレイは、通常の方法に従い、miRNAを捕捉するマイクロアレイとして使用されうる。検査の対象となる検体の起源は、マウス、ヒト、ショウジョウバエ、酵母等
である。必要により、それら検体は、低分子(100mer以下)に分画される。
【0025】
次に前記検体を、上述のマイクロアレイに供し、ハイブリダイゼーションを行う。ハイブリダイゼーションの条件は、37℃〜65℃ 5XSSC、0.2%SDSである。ハイブリダイゼーション後、洗浄操作を行い、ハイブリダイズしなかった余分な検体を洗い流し、ハイブリットの検出を行う。ここで予め検体に蛍光標識をしておけば、ハイブリットの検出は蛍光顕微鏡等で実施することができる。標識は、蛍光には限定されず、例えば放射性同位元素での標識、酵素標識等、様々な標識方法が適用できる。
【実施例】
【0026】
本発明の実施形態について以下実施例にて詳細を説明する。
【0027】
1.繊維配列体の調製
直径0.32mmの孔が、5mm四方に0.5mmピッチで、縦5列、横10列に合計50個の孔が配列された、厚さ0.1mmの多孔板2枚を用い、その多孔板の全ての孔に、カーボンブラックを2.0質量%含有したポリカーボネート中空繊維(外径0.29mm、内径0.18mm、長さ600mm)50本を通過させることにより中空繊維配列体を得た。
【0028】
2枚の繊維ガイド多孔板の間隔を50mmとし、その間をポリウレタン樹脂(日本ポリウレタン工業社製)により固定化することにより、両端に樹脂で固定化されない部分を有する中空繊維配列ブロックを得た。
【0029】
2.オリゴヌクレオチドのビニル化
表1記載のオリゴヌクレオチドに相補な配列のオリゴヌクレオチド(キャプチャープローブ)を合成した(配列番号1〜46)。オリゴヌクレオチドの合成は、PEバイオシステムズ社のDNA自動合成機DNA/RNAsynthesizer(model1394)を用いて行い、DNA合成の最終ステップで、アミノリンクII(商標名)(アプライドバイオシステム社)を用いて、それぞれのオリゴヌクレオチドの5’末端にアミノ機を導入したオリゴヌクレオチドを合成した。無水メタクリル酸を溶解した炭酸ナトリウム水溶液とDMSOの混合液に合成したオリゴヌクレオチドを添加し、室温で2時間反応させ、ビニル基が導入されたオリゴヌクレオチドプローブを合成した。
【0030】
[表1]

3.マイクロアレイの製造
水溶液Aを上記中空繊維配列ブロックを構成する各中空繊維内部に導入した。水溶液Aが各中空糸内部に導入された中空繊維配列ブロックを、内部が水蒸気で飽和された密閉ガラス容器に移し、70℃で4時間放置することにより重合反応を行った。水溶液Aで使用するオリゴヌクレオチドは、前記2.で合成した末端にビニル基が導入されたオリゴヌクレオチドである。
【0031】
水溶液A:
アクリルアミド 4.5質量部
メチレンビスアクリルアミド 0.5質量部
2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩 0.1質量部
オリゴヌクレオチド 0.005質量部
上記のごとく得られた中空繊維配列ブロックを、ミクロトームを使用し250μmの厚さで薄片化した。
【0032】
4.生体材料からの蛍光標識低分子RNAの精製
マウス組織・細胞中に存在するmiRNAを検出するため、各組織・細胞からmiirVanaTM miRNA Isolation kit (登録商標:Ambion社製)を用いて、低分子画分のRNAを分離した。
【0033】
これらの低分子RNAはそれぞれ1〜5μg使用して、SilencerTM siRNA Labeling Kit(登録商標:Ambion社製)に記された方法を用いて蛍光標識を行った。
【0034】
5.ハイブリダイゼーション
前記3.により調製した核酸マイクロアレイに、前記4.で調製した蛍光標識低分子RNAを1〜2μg使用して、最終濃度が5XSSC、0.2%SDS溶液中(容量100μl)で、50℃又は65℃の条件の暗所で16時間、DNAチップにハイブリダイゼーションした。ハイブリダイゼーション後は、それぞれ最終濃度が2XSSC、0.2%SDS溶液中(容量20ml)で45℃、20分間を2回、さらに最終濃度が2XSSC溶液中(容量20ml)で1回洗浄後に所定の検出器を使用して検出し、シグナル強度を測定した。
【0035】
結果は、図1に示した。この結果から、3次元構造を有する支持体に固定されたキャプチャープローブは、ハイブリダイゼーションの際、充分に機能し、miRNAを捕捉することができることが実証された。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】マウス大脳、脾臓由来の検体をマイクロアレイに供し、ハイブリダイズ後の蛍光強度をグラフ化した図。
【配列表フリーテキスト】
【0037】
配列番号1 合成DNA
配列番号2 合成DNA
配列番号3 合成DNA
配列番号4 合成DNA
配列番号5 合成DNA
配列番号6 合成DNA
配列番号7 合成DNA
配列番号8 合成DNA
配列番号9 合成DNA
配列番号10 合成DNA
配列番号11 合成DNA
配列番号12 合成DNA
配列番号13 合成DNA
配列番号14 合成DNA
配列番号15 合成DNA
配列番号16 合成DNA
配列番号17 合成DNA
配列番号18 合成DNA
配列番号19 合成DNA
配列番号20 合成DNA
配列番号21 合成DNA
配列番号22 合成DNA
配列番号23 合成DNA
配列番号24 合成DNA
配列番号25 合成DNA
配列番号26 合成DNA
配列番号27 合成DNA
配列番号28 合成DNA
配列番号29 合成DNA
配列番号30 合成DNA
配列番号31 合成DNA
配列番号32 合成DNA
配列番号33 合成DNA
配列番号34 合成DNA
配列番号35 合成DNA
配列番号36 合成DNA
配列番号37 合成DNA
配列番号38 合成DNA
配列番号39 合成DNA
配列番号40 合成DNA
配列番号41 合成DNA
配列番号42 合成DNA
配列番号43 合成DNA
配列番号44 合成DNA
配列番号45 合成DNA
配列番号46 合成DNA

【特許請求の範囲】
【請求項1】
miRNAを捕捉するキャプチャープローブが、3次元構造を有する支持体に固定された、miRNA検出用マイクロアレイ。


【図1】
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【公開番号】特開2006−292367(P2006−292367A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−108867(P2005−108867)
【出願日】平成17年4月5日(2005.4.5)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】