pH依存性形成材料のための送達デバイスの尚早なゲル化の防止
【課題】分配デバイスまたは送達デバイスの尚早なゲル化および/または詰まりを回避する、インサイチュで形成し得る材料を導入するための方法および装置を提供すること
【解決手段】少なくとも1つの管腔;該管腔から材料を排出することを補助するための手段;および該材料が送達デバイス10からインビボで排出され得る開口部、を備える、送達デバイス10であって、該送達デバイス10の表面の少なくとも一部分は、該表面の近くの微小環境のpHを調整し得る表面官能基を有する。
【解決手段】少なくとも1つの管腔;該管腔から材料を排出することを補助するための手段;および該材料が送達デバイス10からインビボで排出され得る開口部、を備える、送達デバイス10であって、該送達デバイス10の表面の少なくとも一部分は、該表面の近くの微小環境のpHを調整し得る表面官能基を有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の引用)
本願は、2009年10月16日に出願された米国仮特許出願番号61/252,268に対する優先権を主張する。この米国仮特許出願の開示は、その全体が本明細書中に参考として援用される。
【0002】
(技術分野)
本開示は、身体内にヒドロゲルを適用するための装置に関する。より特定すると、本開示は、送達デバイスの尚早なゲル化および/または詰まりを最少にするように、送達デバイスおよび/または送達される前駆体を処理しながら、ヒドロゲル移植物をインサイチュで形成するための2つ以上の液体前駆体を送達するための装置および方法に関する。
【背景技術】
【0003】
種々の組成物が、欠損部および/または漏出部を密封するため、ならびに体液(血液が挙げられる)を吸収するために、インサイチュで利用されている。例えば、インサイチュで利用される材料としては、止血物質、接着剤、封止剤、ヒドロゲル、これらの組み合わせなどが挙げられる。
【0004】
ヒドロゲルとは、溶媒(例えば、水)を吸収して、認識できる溶解を起こさずに急激な膨潤を起こし、そして可逆的な変形が可能な三次元網目構造を維持する材料である。
【0005】
接着剤、封止剤、止血物質、ヒドロゲルなどをインサイチュで形成し得る材料の送達に関して生じ得る1つの問題は、この材料を形成するために利用される前駆体が、いずれかの送達デバイスからの分配中にゲル化し始め得、これが、このヒドロゲルを送達するために利用される分配装置を詰まらせ得ることである。例えば、1つより多くの前駆体の混合の際に生成されるいくつかの接着剤、ヒドロゲル、および封止剤は、その局所環境のpHに依存して、それらの前駆体が互いに接触した後に約3.5秒以内でゲル化し得る。この局所環境のpHの変化は、前駆体のゲル化を加速または減速するように、このような接着剤、ヒドロゲルおよび封止剤の反応速度論を変更し得る。
【0006】
従って、このような材料を送達するために利用される従来のデバイスには、しばしば、複数の先端が付いており、これらの先端は、尚早なゲル化および詰まりに起因して、外科手術手順中に交換される必要があり得る。同様に、先端を使用せずにこのような材料を分配するデバイスについては、尚早なゲル化および詰まりは、外科手術手順中のアプリケータシステムの故障または最適ではない性能を生じ得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
分配デバイスまたは送達デバイスの尚早なゲル化および/または詰まりを回避する、インサイチュで形成し得る材料を導入するための方法および装置を提供することが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は、例えば、以下を提供する:
(項目1)
少なくとも1つの管腔;
該管腔から材料を排出することを補助するための手段;および
該材料が送達デバイスからインビボで排出され得る開口部、
を備える、送達デバイスであって、該送達デバイスの表面の少なくとも一部分は、該表面の近くの微小環境のpHを調整し得る表面官能基を有する、送達デバイス。
(項目2)
前記表面官能基が荷電ポリマーにより影響を受ける、上記項目に記載の送達デバイス。
(項目3)
前記荷電ポリマーが、前記材料と接触する前記管腔の表面の少なくとも一部分上のコーティングを構成する、上記項目のうちのいずれかに記載の送達デバイス。
(項目4)
前記荷電ポリマーが負電荷を有する、上記項目のうちのいずれかに記載の送達デバイス。
(項目5)
前記荷電ポリマーが正電荷を有する、上記項目のうちのいずれかに記載の送達デバイス。
(項目6)
前記荷電ポリマーが、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、3−メタクリロイルアミノプロピル−トリメチルアンモニウムクロリド、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される、上記項目のうちのいずれかに記載の送達デバイス。
(項目7)
前記荷電ポリマーが、3−メタクリロイルアミノプロピル−トリメチルアンモニウムクロリドとメタクリル酸2−ヒドロキシエチルとの正に荷電したコポリマーを含む、上記項目のうちのいずれかに記載の送達デバイス。
(項目8)
前記荷電ポリマーが、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸とメタクリル酸2−ヒドロキシエチルとの負に荷電したコポリマーを含む、上記項目のうちのいずれかに記載の送達デバイス。
(項目9)
前記荷電ポリマーが、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メタクリル酸コポリマー、およびこれらの組み合わせからなる群より選択され、酸と組み合わせられている、上記項目のうちのいずれかに記載の送達デバイス。
(項目10)
前記荷電ポリマーが、メタクリル酸とアクリル酸エチルとのコポリマーを含む、上記項目のうちのいずれかに記載の送達デバイス。
(項目11)
前記酸が、クエン酸、フマル酸、コハク酸、リンゴ酸、およびこれらの組み合わせからなる群より選択され、そして前記コポリマーの約0.1重量%〜約10重量%の量で存在する、上記項目のうちのいずれかに記載の送達デバイス。
(項目12)
前記送達デバイスが、
前記材料の前駆体の少なくとも第一の供給源および第二の供給源との作動可能な係合のために構成されたマニホルドであって、該マニホルドを通る少なくとも第一の前駆体チャネルおよび第二の前駆体チャネルを備える、マニホルド;ならびに
先端アセンブリ
をさらに備え、該先端アセンブリが、少なくとも第一の前駆体と第二の前駆体とを含有する混合物が該先端アセンブリの遠位端に規定された開口部から排出される前に、該混合物を受容するように構成されている、上記項目のうちのいずれかに記載の送達デバイス。
(項目13)
前記先端アセンブリが荷電ポリマーを含む、上記項目のうちのいずれかに記載の送達デバイス。
(項目14)
前記荷電ポリマーが前記先端アセンブリ上のコーティングを構成する、上記項目のうちのいずれかに記載の送達デバイス。
(項目15)
前記デバイスが、前記マニホルドから遠位に延びる細長シャフトをさらに備え、該細長シャフトが、該細長シャフトの長さに延びる少なくとも第一の前駆体管腔および第二の前駆体管腔を備え、該少なくとも第一の前駆体管腔および第二の前駆体管腔は、前記少なくとも第一の前駆体チャネルおよび第二の前駆体チャネルと流体連絡している、上記項目のうちのいずれかに記載の送達デバイス。
(項目16)
前記先端アセンブリが、最初のチャンバ、中間チャンバおよび最終チャンバを規定し、該最初のチャンバが、前記細長シャフトの遠位端を受容するように構成されており、該中間チャンバが、挿入物を受容するように構成されており、そして該最終チャンバが、少なくとも部分的に混合された少なくとも第一の前駆体および第二の前駆体を、前記混合物が該先端アセンブリの前記遠位端に規定された前記開口部から排出される前に受容するように構成されている、上記項目のうちのいずれかに記載の送達デバイス。
(項目17)
前記挿入物がシリコーンを含む、上記項目のうちのいずれかに記載の送達デバイス。
(項目18)
前記マニホルドと前記細長シャフトとが一体的に形成されている、上記項目のうちのいずれかに記載の送達デバイス。
(項目19)
前記細長シャフトが可撓性である、上記項目のうちのいずれかに記載の送達デバイス。
(項目20)
前記細長シャフトがシリコーンを含む、上記項目のうちのいずれかに記載の送達デバイス。
(項目21)
前記開口部が、前記混合物を前記先端アセンブリから噴霧液として排出するように構成されている、上記項目のうちのいずれかに記載の送達デバイス。
(項目22)
前記先端アセンブリがシリコーンを含む、上記項目のうちのいずれかに記載の送達デバイス。
(項目23)
前記先端アセンブリが、操作中に曲がるように構成されている、上記項目のうちのいずれかに記載の送達デバイス。
【0009】
(摘要)
本開示は、装置(ある実施形態においては、送達デバイス)により分配されるpH依存性形成材料(ある実施形態においては、ヒドロゲル)の任意の材料または前駆体の尚早なゲル化を防止する、装置(ある実施形態においては、送達デバイス)の処理を提供する。このデバイスの管腔(ある実施形態においては、分配されるべき材料が通ってこのデバイスから排出される、スプレーアプリケータの先端)の表面の近くのpH微小環境が、尚早なゲル化を防止するために制御され得る。
【0010】
(本開示の要旨)
本開示は、pH依存性形成材料(ある実施形態においては、ヒドロゲル)の任意の材料または前駆体の尚早なゲル化を防止する、装置(ある実施形態においては、送達デバイス)の処理を提供する。ある実施形態において、本開示の送達デバイスは、少なくとも1つの管腔、この管腔から材料を排出することを補助するための手段、およびこの材料がこの送達デバイスからインビボに排出され得る開口部を備え得、この送達デバイスの表面の少なくとも一部分は、この表面の近くの微小環境のpHを調整し得る表面官能基を有する。
【0011】
他の実施形態において、本開示の送達デバイスはまた、材料の前駆体の少なくとも第一の供給源および第二の供給源との作動可能な係合のために構成されたマニホルド、ならびに先端アセンブリを備え得、このマニホルドは、このマニホルドを通る少なくとも第一の前駆体チャネルおよび第二の前駆体チャネルを備え、そしてこの先端アセンブリは、少なくとも第一の前駆体と第二の前駆体とを含む混合物がこの先端アセンブリの遠位端に規定された開口部から排出される前に、この混合物を受容するように構成されている。
【0012】
なお他の実施形態において、本開示の送達デバイスはまた、このマニホルドから遠位に延びる細長シャフトを備え得、この細長シャフトは、この細長シャフトの長さに延びる少なくとも第一の前駆体管腔および第二の前駆体管腔を備え、この少なくとも第一の前駆体管腔および第二の前駆体管腔は、少なくとも第一の前駆体チャネルおよび第二の前駆体チャネルと流体連絡している。
【0013】
添付の図面は、本明細書に組み込まれ、本明細書の一部を構成し、そして本開示の実施形態を図示し、上に与えられた本開示の一般的な説明および以下に与えられる実施形態の詳細な説明と一緒になって、本開示の原理を説明する役に立つ。
【発明の効果】
【0014】
分配デバイスまたは送達デバイスの尚早なゲル化および/または詰まりを回避する、インサイチュで形成し得る材料を導入するための方法および装置を提供すること
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、送達デバイスの表面の近くの微小環境pHを図示する、本開示の送達デバイスの表面の側面図である。
【図2】図2は、本開示の1つの実施形態によるスプレー先端アセンブリを備えるアプリケータアセンブリの分解斜視図である。
【図3】図3は、図2のアプリケータアセンブリのマニホルドの断面側面図である。
【図4】図4は、図2のアプリケータアセンブリのスプレー先端アセンブリの断面側面図である。
【図5】図5は、図4のスプレー先端アセンブリの遠位端の拡大断面図である。
【図6】図6は、内部構造を想像線で示す、図4および図5のスプレー先端アセンブリの側面図である。
【図7】図7は、図6のスプレー先端アセンブリの、線6−6に沿って見た断面図である。
【図7A】図7Aは、図7のスプレー先端の代替の実施形態の断面図である。
【図8】図8は、本開示の局面を組み込むアプリケータアセンブリの代替の実施形態である。
【図9】図9は、本開示の局面を組み込むアプリケータアセンブリの別の実施形態である。
【図10】図10は、本開示の局面を組み込むアプリケータアセンブリのなお別の実施形態である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本開示に従って、pH依存性形成材料のための送達システムが提供され、この送達システムは、このような材料を形成するために利用される前駆体の尚早なゲル化を防止するように処理され得る。このような材料(ある実施形態において、「pH依存性形成材料」と称される)の例としては、止血物質、接着剤、封止剤、ヒドロゲル、これらの組み合わせなどが挙げられるが、これらに限定されない。pH依存性形成材料は、単一の前駆体から形成されても、複数の前駆体から形成されてもよい。
【0017】
本開示に従って、pH依存性形成材料を分配するために利用される送達デバイスの表面のpH、およびこのデバイスの表面の近くの微小環境のpHが調整され得、その結果、このpH依存性形成材料の前駆体は、尚早にゲル化しない。本明細書中で使用される場合、「微小環境」は、デバイスが配置される環境の全体のpHに近いが異なるpHを示し得る、このデバイスの表面の近くの領域を含む。ある実施形態において、送達デバイスの表面は、この表面の近くの材料のpH、およびこのデバイスの表面の近くの微小環境のpHを調整し得る官能基を有し得る。従って、pH依存性形成材料の前駆体が酸性pHでゲル化する場合、この送達デバイスの表面、およびこのデバイスの表面の近くの微小環境のpHは、尚早なゲル化を回避するために、わずかに塩基性が高いpHを有し得る。あるいは、pH依存性形成材料の前駆体がより塩基性のpHでゲル化する場合、この送達デバイスの表面、およびこのデバイスの表面の近くの微小環境のpHは、尚早なゲル化を回避するために、わずかに酸性が高いpHを有し得る。
【0018】
いくつかの実施形態において、送達デバイスの表面およびこの表面の近くの微小環境のpHは、これらの電荷を付与することによって調整され得る。電荷は、この送達デバイスを形成するために利用される材料(ある実施形態においては、ポリマー)に電荷を付与し得る材料を混合すること、またはこの送達デバイスの表面に電荷を付与し得る材料を含有するコーティングを塗布することによって、この送達デバイスの表面に付与され得る。他の実施形態において、この送達デバイスは、このデバイスの表面またはその近くの材料のpHを調整し得る表面官能基を有し得る。局所pHを調整する能力、および/または表面の近くの微小環境にpH緩衝能力を有させる能力は、インサイチュでの形成の速度の遅延を可能にし、従って、詰まりを回避する。
【0019】
例えば、送達デバイスの表面の局所pH微小環境、およびこのデバイスの表面の近くの微小環境のpHは、荷電したポリマーおよび/または官能基の存在に起因して、約3〜約11、ある実施形態においては、約5〜約9であり得る。
【0020】
pH依存性形成材料の前駆体と接触し得る送達デバイスの任意の表面が、本開示に従って処理され得る。
【0021】
(pH依存性形成材料)
本開示の方法および送達デバイスは、任意のpH依存性形成材料の分配のために利用され得る。このpH依存性形成材料は、「インサイチュで」形成する(生存している動物もしくはヒトの身体内の組織において形成が起こることを意味する)単一の前駆体または複数の前駆体を含み得るか、あるいはこのpH依存性形成材料は、エキソビボで形成され、次いで、生存している動物またはヒトの身体内に移植され得る。一般に、このことは、塗布の時点で活性化されてpH依存性形成材料(ある実施形態においては、ヒドロゲル)を形成し得る前駆体を有することによって、達成され得る。
【0022】
ある実施形態において、本開示の方法およびデバイスは、尚早なゲル化および詰まりを起こし得るpH依存性形成材料を送達するために使用される送達デバイスを処理するために、特に有利であり得る。このようなデバイスとしては、複数の先端が付いているアプリケータが挙げられ得、これらの先端は、前駆体がこの先端内で混合される場合の尚早なゲル化および詰まりに起因して、外科手術手順中に交換される必要があり得る。同様に、先端を使用せずにこのような材料を分配するデバイスについては、尚早なゲル化および詰まりが回避され得る。いずれの場合においても、アプリケータシステムの潜在的な故障、または外科手術手順中のこのようなシステムの最適ではない性能が回避され得る。なぜなら、このデバイスが詰まらないので、前駆体の送達の開始/停止(これは、2つ以上の層の形成、低下した強度または性能のゲル、不均一なコーティング、これらの組み合わせなどをもたらし得る)の必要性が生じないからである。さらに、pH依存性形成材料の適用の時間が短縮され得る。
【0023】
pH依存性形成材料は、共有結合、イオン結合または疎水性結合のいずれかを介して形成され得る。物理的(非共有)結合は、錯化、水素結合、脱溶媒和、ファンデルワールス相互作用、イオン結合、これらの組み合わせなどから生じ得、そしてインサイチュで合わせられるまで物理的に離れている2つの前駆体を混合することによってか、または生理学的環境の主要な条件(温度、pH、イオン強度、これらの組み合わせなどが挙げられる)の結果として、開始され得る。化学的(共有)架橋は、多数の機構(フリーラジカル重合、縮合重合、アニオン重合、カチオン重合、段階成長重合、求電子試薬−求核試薬反応、これらの組み合わせなどが挙げられる)のうちのいずれかによって、達成され得る。
【0024】
いくつかの実施形態において、pH依存性形成材料系は、前駆体が混合される際に自発的に架橋するが、2つ以上の前駆体は堆積プロセスの過程にわたって個々に安定である、生体適合性多前駆体系を含み得る。このような系は、例えばヒドロゲルについては、二官能性または多官能性のアミンであるマクロマーを含む第一の前駆体、および二官能性または多官能性のオキシラン含有部分を含む第二の前駆体を含む。
【0025】
pH依存性形成材料の形成のいくつかの実施形態は、表面(例えば、患者の組織)への適用後に迅速に架橋してpH依存性形成材料を形成する前駆体を混合することを包含する。
【0026】
ゲル化をもたらす架橋反応は、いくつかの実施形態においては約1秒〜約5分の時間内で、ある実施形態においては約3秒〜約1分の時間内で起こり得る。当業者は、これらの明白に記載される範囲内の全ての範囲および値が想定されることを、即座に理解する。いくつかの場合において、ゲル化は、約3.5秒未満で起こり得る。
【0027】
これらの前駆体は、使用前に溶液に入れられ得、この溶液が、患者に送達される。本開示の原理に従って使用するために適切な溶液としては、体腔内または空隙内に移植物を形成するために使用され得る溶液が挙げられる。2つの溶液が使用される場合、各溶液が、接触すると形成されるpH依存性形成材料の前駆体を1つずつ含み得る。これらの溶液は、別々に貯蔵され得、そして組織体腔内に送達されるときに混合され得る。
【0028】
さらに、pH依存性形成材料系の一部として利用される任意の溶液は、有害な溶媒または毒性の溶媒を含有するべきではない。ある実施形態において、前駆体は、生理学的に適合性の溶液(例えば、緩衝化等張生理食塩水)における使用を可能にするために、水などの溶媒に実質的に可溶性であり得る。水溶性コーティングは薄膜を形成し得るが、ある実施形態においてはまた、制御された厚さの三次元ゲルを形成し得る。このゲルはまた、生分解性であり得、その結果、身体から回収される必要がない。生分解性とは、本明細書中で使用される場合、正常な生理学的条件下で代謝または排出されるために充分に小さい分子への、コーティングの予測可能な崩壊をいう。
【0029】
pH依存性形成材料系の特性は、意図される用途に従って選択され得る。例えば、pH依存性形成材料が、生殖器官(例えば、ファローピウス管)を一時的に閉塞させるために使用されるべきである場合、このpH依存性形成材料系は、充分な膨潤を起こし、そして生分解性であることが望ましい。あるいは、pH依存性形成材料は、血栓特性を有し得るか、またはその前駆体が血液もしくは他の体液と反応して凝塊を形成し得る。
【0030】
他の用途は、pH依存性形成材料系の異なる特徴を必要とし得る。一般に、これらの材料は、示される生体適合性および毒性がないことに基づいて、選択されるべきである。
【0031】
pH依存性形成材料の特定の特性(種々の組織への接着、外科医が正確かつ簡便にpH依存性形成材料を配置することを可能にするために望ましい硬化時間、生体適合性のための高い含水量(これは、ヒドロゲルに関連し得る)、封止剤において使用するための機械的強度、および/または配置後の破壊に抵抗する靭性が挙げられる)は、有用であり得る。従って、すでに滅菌されており、そして天然材料の使用に関与する疾患伝達の危険性を回避している合成材料が、使用され得る。実際に、合成前駆体を使用して作製された特定のインサイチュ重合性ヒドロゲルは、例えば、FOCALSEAL(登録商標)(Genzyme,Inc.)、COSEAL(登録商標)(Angiotech Pharmaceuticals)、およびDURASEAL(登録商標)(Confluent Surgical,Inc.)などの市販の製品において使用されているように、当業者の知識の範囲内である。他の公知のヒドロゲルとしては、例えば、米国特許第6,656,200号;同第5,874,500号;同第5,543,441号;同第5,514,379号;同第5,410,016号;同第5,162,430号;同第5,324,775号;同第5,752,974号;および同第5,550,187号に開示されているヒドロゲルが挙げられる。
【0032】
上記のように、pH依存性形成材料は、1つ以上の前駆体から作製され得る。この前駆体は、例えば、モノマーまたはマクロマーであり得る。1つの型の前駆体は、エチレン性不飽和である官能基を有し得る。エチレン性不飽和の官能基は、反応を開始させるための開始剤を使用して重合し得る。少なくとも2つのエチレン性不飽和官能基を有する前駆体は、架橋ポリマーを形成し得る。いくつかの組成物は、1つのみのこのような官能基を有する特定の前駆体、およびこの前駆体を架橋させるための複数の官能基を有するさらなる架橋剤前駆体を有する。エチレン性不飽和の官能基は、種々の技術(例えば、フリーラジカル重合、縮合重合、または付加重合)によって重合し得る。
【0033】
従って、pH依存性形成材料は、1つの前駆体(フリーラジカル重合によってなど)から形成され得るか、2つの前駆体から形成され得るか、または3つ以上の前駆体(これらの前駆体のうちの1つ以上は、pH依存性形成材料を形成するための架橋に関与する)を用いて作製され得る。
【0034】
別の型の前駆体は、求電子性または求核性である官能基を有する。求電子試薬は、求核試薬と反応して共有結合を形成する。共有架橋または共有結合とは、異なるポリマーを互いに共有結合させるように働く、異なるポリマー上の官能基の反応により形成される化学基をいう。特定の実施形態において、第一の前駆体上の求電子性官能基の第一のセットは、第二の前駆体上の求核性官能基の第二のセットと反応し得る。これらの前駆体が反応を可能にする環境中(例えば、pHまたは溶媒に関連するような)で混合される場合、これらの官能基は互いに反応して、共有結合を形成する。これらの前駆体は、これらの前駆体のうちの少なくともいくらかが、1つより多くの他の前駆体と反応し得る場合に、架橋される。例えば、第一の型の2つの官能基を有する前駆体は、この第一の型の官能基と反応し得る、少なくとも3つの第二の型の官能基を有する架橋前駆体と反応し得る。
【0035】
ある実施形態において、pH依存性形成材料は、ヒドロゲルであり得る。上記のように、ある実施形態において、このヒドロゲルは、単一の前駆体から形成されても複数の前駆体から形成されてもよい。例えば、このヒドロゲルが複数の前駆体(例えば、2つの前駆体)から形成される場合、これらの前駆体は、第一のヒドロゲル前駆体および第二のヒドロゲル前駆体と称され得る。用語「第一のヒドロゲル前駆体」および「第二のヒドロゲル前駆体」とは、各々、反応に関与して架橋分子(例えば、ヒドロゲル)の網目構造を形成し得る、ポリマー、官能性ポリマー、高分子、低分子、または架橋剤を意味する。
【0036】
ある実施形態において、第一のヒドロゲル前駆体および第二のヒドロゲル前駆体の各々は、求核性前駆体と求電子性前駆体との両方が架橋反応において使用される限り、求核性のみである基または求電子性のみである官能基のいずれかである、1つのみのカテゴリーの官能基を含む。従って、例えば、第一のヒドロゲル前駆体が求核性官能基(例えば、アミン)を有する場合、第二のヒドロゲル前駆体は、求電子性官能基(例えば、N−ヒドロキシスクシンイミド)を有し得る。他方で、第一のヒドロゲル前駆体が求電子性官能基(例えば、スルホスクシンイミド)を有する場合、第二のヒドロゲル前駆体は、求核性官能基(例えば、アミンまたはチオール)を有し得る。従って、タンパク質、ポリ(アリルアミン)、スチレンスルホン酸、またはアミン末端を有する二官能性ポリ(エチレングリコール)(「PEG」)もしくは多官能性ポリ(エチレングリコール)などの官能性ポリマーが使用され得る。
【0037】
第一のヒドロゲル前駆体および第二のヒドロゲル前駆体は、生物学的に不活性な水溶性コアを有し得る。このコアが水溶性であるポリマー領域である場合、使用され得る好ましいポリマーとしては、ポリエーテル(例えば、ポリアルキレンオキシド(例えば、ポリエチレングリコール(「PEG」)、ポリエチレンオキシド(「PEO」)、ポリエチレンオキシド−co−ポリプロピレンオキシド(「PPO」)、およびco−ポリエチレンオキシドブロックコポリマーまたはランダムコポリマー));ポリビニルアルコール(「PVA」);ポリ(ビニルピロリドン)(「PVP」);ポリ(アミノ酸);ポリ(サッカリド)(例えば、デキストラン、キトサン、アルギネート、カルボキシメチルセルロース、酸化セルロース、ヒドロキシエチルセルロース、およびヒドロキシメチルセルロース);ヒアルロン酸;ならびにタンパク質(例えば、アルブミン、コラーゲン、カゼイン、およびゼラチン)が挙げられる。ポリエーテル(より具体的には、ポリ(オキシアルキレン)またはポリ(エチレングリコール)もしくはポリエチレングリコール)が、特に有用であり得る。このコアが本質的に低分子である場合、種々の親水性官能基のうちの任意のものが、第一のヒドロゲル前駆体および第二のヒドロゲル前駆体を水溶性にするために使用され得る。例えば、ヒドロキシル、アミン、スルホネートおよびカルボキシレート(これらは、水溶性である)などの官能基が、前駆体を水溶性にするために使用され得る。さらに、スベリン酸のN−ヒドロキシスクシンイミド(「NHS」)エステルは、水に不溶性であるが、スルホネート基をそのスクシンイミド環に付加することによって、スベリン酸のNHSエステルは、そのアミン基に対する反応性に影響を与えることなく、水溶性にされ得る。
【0038】
ある実施形態において、第一のヒドロゲル前駆体および第二のヒドロゲル前駆体のうちの少なくとも一方は、架橋剤である。ある実施形態において、第一のヒドロゲル前駆体および第二のヒドロゲル前駆体のうちの少なくとも一方は、高分子であり、そして「官能性ポリマー」と称される。
【0039】
ある実施形態において、第一の前駆体もしくは第二の前駆体、またはこれらの両方は、ポリマーであっても非ポリマーであってもよく、そして天然物質であっても合成物質であってもよい。本明細書中で使用される場合、「天然」または「天然成分」は、天然に見出され得るか、または天然に見出される組成物/生物から誘導され得る、ポリマー、組成物、材料、これらの組み合わせなどを包含する。天然成分はまた、天然に見出されるが(例えば、天然/合成/生物学的組換え材料を作製するための方法、ならびに天然に見出される配列と同じ配列を有するタンパク質を生成し得る方法、および/または天然材料と同じ構造および成分を有する材料(例えば、合成ヒアルロン酸)を製造し得る方法を使用して)人工的に合成され得る組成物を包含し得る。例えば、ある実施形態において、天然成分は、低分子(例えば、アミノ酸またはその誘導体)であり得る。「合成」とは、天然には見出されない分子をいい、そして天然生体分子の誘導体化バージョン(例えば、修飾側鎖基を有するコラーゲン)を含まない。合成的に生成されたポリアミノ酸ポリマーは、通常、これらが天然には見出されず天然に存在する生体分子と同じではなくなるように操作される場合、合成物質であるとみなされる。例えば、トリリジンは、合成物質である。なぜなら、(いくらかの細菌は比較的大きいポリリジンを産生し得るとしても)天然には見出されないからである。いくつかの場合において、ジリジンおよび/またはテトラリジンもまた、前駆体のうちの1つとして利用され得る。
【0040】
第一のヒドロゲル前駆体および第二のヒドロゲル前駆体の各々は、多官能性であり得る。すなわち、2つ以上の求電子性官能基または求核性官能基を含み得、その結果、例えば、第一のヒドロゲル前駆体上の求核性官能基が第二のヒドロゲル前駆体上の求電子性官能基と反応して、共有結合を形成し得る。第一のヒドロゲル前駆体および第二のヒドロゲル前駆体のうちの少なくとも1つは、2つより多くの官能基を含み、その結果、求電子−求核反応の結果として、これらの前駆体が化合して、架橋ポリマー生成物を形成する。
【0041】
ある実施形態において、多官能性求核性ポリマー(例えば、トリリジン)が、第一のヒドロゲル前駆体として使用され得、そして多官能性求電子性ポリマー(例えば、複数のNHS基で官能基化されたマルチアームPEG)が、第二のヒドロゲル前駆体として使用され得る。複数のNHS基で官能基化されたマルチアームPEGは、例えば、4つ、6つまたは8つのアームを有し得、そして約5,000〜約25,000の分子量を有する。適切な第一のヒドロゲル前駆体および第二のヒドロゲル前駆体の多くの他の例は、米国特許第6,152,943号;同第6,165,201号;同第6,179,862号;同第6,514,534号;同第6,566,406号;同第6,605,294号;同第6,673,093号;同第6,703,047号;同第6,818,018号;同第7,009,034号;および同第7,347,850号に記載されており、これらの各々の全開示は、本明細書中に参考として援用される。
【0042】
ある実施形態において、官能基の間に存在する生分解性結合を有する1つ以上の前駆体は、ヒドロゲルを生分解性または生体吸収性にするために含まれ得る。いくつかの実施形態において、これらの結合は、例えば、エステルであり得、このエステル結合は、生理学的溶液中で加水分解し得る。このような結合の使用は、タンパク質分解反応により分解し得るタンパク質結合とは対照を成すものである。生分解性結合は、必要に応じてまた、前駆体のうちの1つ以上の水溶性コアの一部分を形成し得る。あるいは、またはさらに、前駆体の官能基は、これらの官能基の間の反応の生成物が生分解性結合を生じるように選択され得る。各アプローチについて、生分解性結合は、得られる生分解性の生体適合性の架橋ポリマーが、所望の期間で分解するように、または吸収されるように、選択され得る。一般に、生理学的条件下でヒドロゲルを非毒性生成物または低毒性生成物に分解する生分解性結合が選択され得る。
【0043】
ある実施形態において、pH依存性形成材料はまた、開始剤を含み得る。開始剤は、pH依存性形成材料の形成のための重合反応を開始し得る任意の前駆体または基であり得る。
【0044】
(pHの制御)
ある実施形態において、送達デバイス(任意のアプリケータ先端を含む)は、この送達デバイスの表面のpH、およびこの送達デバイスの表面の近くの微小環境のpHが、pH依存性材料の尚早なゲル化を防止するように選択されるポリマー材料から作製され得る。ある実施形態において、この送達デバイスの表面のpH、およびこの送達デバイスの表面の近くの微小環境のpHは、このデバイスの表面の電荷により影響を受け得る。他の実施形態において、官能基が、この送達デバイス、またはこの送達デバイス上のコーティングを形成するために利用されるポリマー上に存在し得、これによって、この送達デバイスの表面のpH、およびこの送達デバイスの表面の近くの微小環境のpHに影響を与える。これらの修飾は、局所pHと、このデバイスの表面の近くの微小環境のpH緩衝能力との両方に影響を与え得る。
【0045】
送達デバイスを、pHに影響を与え得る材料で形成することによって、pH依存性形成材料を分配するために利用される送達デバイスの表面のpH、およびこの送達デバイスの表面の近くの微小環境のpHは、pH依存性形成材料の前駆体が尚早にゲル化しないように調整され得る。従って、上記のように、pH依存性形成材料の前駆体が酸性pHでゲル化する場合、送達デバイスの表面、およびこの送達デバイスの表面の近くの微小環境のpHは、尚早なゲル化を回避するために、わずかに塩基性が高いpHを有し得る。あるいは、pH依存性形成材料の前駆体がより塩基性のpHでゲル化する場合、送達デバイスの表面、およびこの送達デバイスの表面の近くの微小環境のpHは、尚早なゲル化を回避するために、わずかに酸性が高いpHを有し得る。
【0046】
ある実施形態において、pH依存性形成材料を分配するために利用される送達デバイスの少なくとも先端のpH微小環境を調整することが望ましくあり得る。
【0047】
ある実施形態において、送達デバイスの表面のpH、およびこの送達デバイスの表面の近くの微小環境のpHは、このデバイスを形成するために荷電ポリマーを利用することによって、またはこの送達デバイスを形成するために利用される材料(ある実施形態においては、ポリマー)に電荷を付与し得る材料を混合することによって、変更され得る。このようなポリマーを形成する方法、または材料とポリマー材料とを組み合わせる方法は、当業者の知識の範囲内であり、そしてブレンド、混合、撹拌、共重合、これらの組み合わせなどが挙げられる。
【0048】
他の実施形態において、送達デバイスの表面のpH、またはこの送達デバイスの表面の近くの微小環境のpHは、pH依存性形成材料を形成するために利用される前駆体と接触し得る送達デバイスの表面(任意の管腔または任意のスプレー先端が挙げられる)に電荷を付与して局所pH微小環境を制御することを補助し得る材料を含有するコーティングを塗布することにより変更され得る。このようなコーティングは、pH依存性形成材料の前駆体のpHにも、このような前駆体を含むいずれの溶液にも影響を与えず、pH依存性形成材料の前駆体と接触する送達デバイスの表面の少なくとも一部分に塗布される。
【0049】
コーティングを塗布する方法は、当業者の知識の範囲内であり、そして浸漬、スプレー、プラズマ蒸着、これらの組み合わせなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0050】
送達デバイスまたはそれに塗布されるべきコーティングを形成する際に利用され得る荷電ポリマーの例としては、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル(HEMA)、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(AAMPS)、3−メタクリロイルアミノプロピル−トリメチルアンモニウムクロリド(MAPTAC)、N,N−ジアリル−N,N−ジメチルアンモニウムクロリド(DADMAC)、これらの組み合わせなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0051】
従って、例えば、ポリマーがMAPTACベースである場合、このポリマーは、第四級アンモニウム基(これは、全てのpH値において陽イオン性のままである)の存在に起因して、正電荷を有する。ある実施形態において、MAPTACとHEMAとのコポリマーが利用され得る。このコポリマーは、負に荷電した低分子量種(例えば、水酸化物イオン)を誘引して水素原子を追い出す。このようなコポリマーは、MAPTACを、このコポリマーの約0.1重量%〜約10重量%の量で有し得、そしてHEMAをこのコポリマーの約90重量%〜約99.9重量%の量で有し得、ある実施形態において、MAPTACは、このコポリマーの約0.2重量%〜約5重量%で存在し、HEMAは、このコポリマーの約95重量%〜約99.8重量%で存在する。
【0052】
あるいは、荷電ポリマーがAAMPSベースである場合、この荷電ポリマーは、そのスルホネート基(これは、非常に酸性の条件下でさえも電離したままである)の存在に起因して負電荷を有する。ある実施形態において、HEMA中のAAMPSのコポリマーが利用され得る。このコポリマーは従って、水素イオン(すなわち、プロトン)を誘引する。このようなコポリマーは、AAMPSをこのコポリマーの約0.1重量%〜約10重量%の量で有し得、HEMAは、このコポリマーの約90重量%〜約99.9重量%の量で存在し、ある実施形態において、AAMPSは、このコポリマーの約0.2重量%〜約5重量%の量で存在し得、HEMAは、このコポリマーの約95重量%〜約99.8重量%の量で存在する。
【0053】
他の実施形態において、荷電ポリマーは、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、アクリル酸コポリマー、マレイン酸コポリマー、メタクリル酸コポリマーなど(メタクリル酸とアクリル酸エチルとのコポリマー、これらの組み合わせなどが挙げられる)を用いて形成され得る。メタクリル酸とアクリル酸エチルとのコポリマーとしては、EUDRAGIT(登録商標)の名称でRohm Pharma Polymers(Piscataway,NJ)から市販されているものが挙げられる。ある実施形態において、これらのポリマーは、これらのポリマー中への酸の組み込みにより荷電し得る。このようなコポリマーに含まれ得る適切な酸としては、例えば、クエン酸、フマル酸、コハク酸、リンゴ酸、これらの組み合わせなどが挙げられ得る。荷電ポリマーを形成するためにポリマーに酸が添加される場合、この酸は、コポリマーの約0.1重量%〜約10重量%の量、ある実施形態においては、コポリマーの約0.5重量%〜5重量%の量で添加され得る。
【0054】
他のポリマーもまた利用され得る。上記のように、ある実施形態において、ポリマーは、送達デバイスの表面のpH、およびこの送達デバイスの表面の近くの微小環境のpHを変更し得る、官能基を有し得る。例えば、ある実施形態において、無水コハク酸と、ヒドロキシル官能性ポリマーまたはアミン官能性ポリマーとの反応を利用して、カルボキシル化ポリマーを生成し得る。このようなポリマーは、送達デバイスの一部またはこの送達デバイス上のコーティングを形成するために利用される場合、pH微小環境に影響を与える能力を有する。なぜなら、これらのポリマーは、カルボン酸基を用いる中和により塩基を中和して、カルボン酸陰イオンを形成し得るからである。この反応の要約を以下に提供する:
【0055】
【化1】
他の実施形態において、コポリマー中にメタクリル酸グリシジル(GMA)を使用して、ペンダントエポキシ官能基を提供し得る。このエポキシ基は、酸(プロトン)を吸収して開環反応を起こし、従って、プロトン化される能力を有する。従って、このようなコポリマーもまた、水性微小環境のpHに影響を与える能力を有する。GMAモノマー(これは、GMAポリマーの前駆体である)に関連する化学構造を以下に提供する。
【0056】
【化2】
なお他の実施形態において、メタクリル酸アセトアセトキシエチル(AAEM)コポリマーが利用され得る。AAEMコポリマーは、金属イオン(ある実施形態において、二価イオンまたは多価イオン)をその2つのカルボニル基の間にキレートし得、これは次いで、ポリマー構造に電荷を付与し得る。このようなコポリマーによりキレート化され得る金属イオンとしては、銀、コバルト、亜鉛、カルシウム、マグネシウム、白金、スズ、セレン、マンガン、これらの組み合わせなどが挙げられるが、これらに限定されない。ある実施形態において、陰イオン性(負)の電荷は、陽イオンまたは金属イオンを欠く塩基性環境中で生じ得る。AAEMモノマー(これは、AAEMポリマーの前駆体である)に関連する化学構造を以下に提供する。
【0057】
【化3】
適切なコポリマーの形成は、当業者の知識の範囲内であり、そして架橋剤(例えば、多官能性のアクリレートまたはメタクリレート)、上記の光開始剤(ある実施形態においては、ベンゾインエチルエーテル)、これらの組み合わせなどの使用を包含し得る。
【0058】
本開示に従って、送達デバイスの表面の局所pH微小環境は、その表面官能性の存在に起因して、約3〜約11、ある実施形態においては、約5〜約9であり得る。いくつかの実施形態において、この局所pH微小環境は、約6.0〜約7.39であり得、そして他の実施形態においては、約7.41〜約8.5であり得る。
【0059】
pH微小環境を決定する方法は、当業者の知識の範囲内であり、そして例えば、電流滴定および電位差微小電極(例えば、Thermo Fisher Scientific(Waltham,MA)製のORION(登録商標)微小電極);光学および蛍光pHセンサ(中空繊維膜微小プローブが挙げられる);イオン選択性膜;イオン選択性電界効果トランジスタ;2端子マイクロセンサ;金属酸化物および電気伝導度pH感知デバイス;ならびに共焦点レーザー走査顕微鏡(CLSM)、pHを連続的に空間的に分解して監視するための高解像度の非侵襲性技術(Agiら、「Fluorescence Monitoring of the Microenvironmental pH of Highly Charged Polymers」、Journal of Polymer Science,Part A,Polymer Chemistry,pp.2105−2110(1997);Tatavartiら、「Microenvironmental pH Modulation Based Release Enhancement of a Weakly Basic Drug from Hydrophilic Matrices」、Journal of Pharmaceutical Sciences,第95巻、第7号、pp.1459−1468(2006);Liermannら、「Microenvironments of pH in Biofilms Grown on Dissolving Silicate Surfaces」、Chemical Geology 171,pp.1−16(2000);Korostynskaら「Review Paper:Materials and Techniques for In Vivo pH Monitoring」IEEE Sensors Journal,第8巻、第1号、pp.20−28(2008);Ruiz−Ederraら、「In Sith Fluorescence Measurement of Tear Film[Na+],[K+],[Cl−],and pH in Mice Shows Marked Hypertonicity in Aquaporin−5 Deficiency」、Investigative Ophthalmology & Visual Science,第50巻、第5号、pp.2132−2138(2009);Grantら、「A Sol−gel Based Fiber Optic Sensor for Local Blood pH Measurements」、Sensors and Actuators,B 45,pp.35−42(1997);およびKorostynskaら「Review on State−of−the−art in Polymer Based pH Sensors」Sensors,第7巻、pp.3027−3042(2007)(これらの各々の全開示は、本明細書中に参考として援用される)によりさらに開示されるような)が挙げられる。
【0060】
pH依存性形成材料を分配するために利用される任意のデバイス(前駆体溶液を適用するために適切な二重注射器が挙げられる)は、本開示の処理により利益を得ることができる。デバイスおよび/またはアプリケータ内(pH依存性形成材料の1つ以上の前駆体と接触し得るこのような送達デバイス内の任意の管腔の任意の表面の少なくとも一部分(ある実施形態においては、スプレー先端)が挙げられる)の局所pH微小環境を制御することによって、pH依存性形成材料を形成するために利用される前駆体の尚早なゲル化が回避され得る。従って、この送達デバイスの詰まり(pH依存性形成材料のアプリケータおよび送達デバイスに付随する通常の問題)が回避され得る。
【0061】
送達デバイスは、最低でも、少なくとも1つの管腔、開口部、およびこの管腔からの前駆体(ある実施形態においては、pH依存性形成材料の前駆体)の放出を補助するための手段を備え得る。この管腔内に、材料(ある実施形態においては、pH依存性形成材料を形成するために利用される前駆体)が含まれ得る。この開口部を通して、この前駆体がこの管腔からインビボに排出され得る。
【0062】
本開示のプロセスおよび概念を利用して、送達デバイス内に存在するpH微小環境(これは、ゲル形成速度論に影響を与える)は、デバイス/アプリケータ前駆体の表面近くでゲル形成が遅くされ、これによってこのデバイスが詰まることを防止するように、変更され得る。
【0063】
本開示によるpH微小環境を用いて得られる効果は、局在された、一時的なものであり得る。図1に図示されるように、本開示の送達デバイスの表面2は、この送達デバイスの表面2の近くにpH微小環境4を有し得る。従って、表面2に隣接する微小環境4内で得られる効果は、送達デバイス/アプリケータを通って流れる材料全体(図1には示さない)には影響を与えない。さらに、このpH微小環境は、このデバイス/アプリケータの外側のpH依存性形成材料の反応速度論にも、ゲルの物理特性にも影響を与えない。
【0064】
(ヒドロゲル移植物をインサイチュで形成するための送達システム)
以下の説明は、スプレー先端アセンブリを詳細に説明するが、閉塞し得る任意のデバイス(例えば、ステント、カテーテル、ペースメーカーリード線、移植片、ガイドワイヤ、またはデバイスの内側を通る材料の流れを可能にする他の任意の中空デバイス)が、本開示のプロセスおよび処理から利益を得ることができる。
【0065】
ある実施形態において、前駆体溶液を適用するために、二重注射器または類似のデバイス(例えば、米国特許第4,874,368号;同第4,361,055号;同第4,735,616号;同第4,359,049号;同第4,978,336号;同第5,116,315号;同第4,902,281号;同第4,932,942号;同第6,179,862号;同第6,673,093号;および同第6,152,943号に記載されるもの)を使用し得る。さらに、このような前駆体は、可視化剤(例えば、色素)と組み合わせて使用され得る。適切な色素は、当業者の知識の範囲内であり、そして例えば、ヒドロゲルがインサイチュで形成される際にこのヒドロゲルの厚さを可視化するための色素(例えば、米国特許第7,009,034号に記載されるような)が挙げられ得る。いくつかの実施形態において、適切な色素としては、FD&C Blue#1、FD&C Blue#2、FD&C Blue#3、D&C Green#6、メチレンブルー、これらの組み合わせなどが挙げられ得る。
【0066】
いくつかの実施形態において、適切な送達デバイスとしては、図面に記載されるようなデバイスが挙げられる。最初に図2を参照すると、本開示によるスプレー先端アセンブリを備えるアプリケータアセンブリが、一般にアプリケータアセンブリ10として示されている。アプリケータアセンブリ10は、マニホルドまたは基部20、マニホルド20から延びる細長シャフト30、および細長シャフト30の遠位端30bに位置するスプレー先端アセンブリ50を備える。アプリケータアセンブリ10は、挿入物40をさらに備え、この挿入物は、スプレー先端アセンブリ50内に受容されて、細長シャフト30の遠位に位置するように構成されている。
【0067】
ここで図3を参照すると、マニホルド20は、実質的にY字型の部材を備え、この部材は、第一の近位延長部22および第二の近位延長部24、ならびに遠位延長部26を有する。近位延長部22、24は、前駆体の第一の供給源および第二の供給源(図示せず)(例えば、注射器)と作動可能に係合するために構成される。遠位延長部26は、以下でさらに詳細に議論されるように、細長シャフト30との作動可能な係合のために構成される。マニホルド20は、第一の前駆体チャネル23および第二の前駆体チャネル25をさらに備える。第一の前駆体チャネル23および第二の前駆体チャネル25は、前駆体の第一の供給源および第二の供給源を、細長シャフト30内に形成された第一の管腔33および第二の管腔35と流体連絡させる。マニホルド20は、図示においては、2つのみの前駆体供給源を受容するように構成されるが、マニホルド20は、2つより多くの前駆体供給源を受容するように構成されてもよいことが想定される。
【0068】
図2に戻って参照すると、細長シャフト30は、シリコーン、プラスチック、ポリマーまたは他の可撓性材料の、実質的に堅い本体を規定し得る。上記のように、細長シャフト30は、その長さに延びる第一の前駆体管腔33および第二の前駆体管腔35を備える。展性材料から構成されたワイヤ36もまた、細長シャフト30の長さに延びる。ワイヤ36は、細長シャフト30が所定の手順に適応するように屈曲させられるかまたは曲げられた後に、細長シャフト30を屈曲構成または曲がった構成に維持するように構成される。細長シャフト30は、第一の前駆体管腔33および第二の前駆体管腔35が、それぞれ第一の前駆体チャネル23および第二の前駆体チャネル25と整列するように、マニホルド20の遠位延長部26に固定される。あるいは、細長シャフト30は、マニホルド20の遠位端において一体的に形成され得る。細長シャフト30は、溝、移動止め、ねじ山をさらに備え得るか、または他の様式で、スプレー先端アセンブリ50とのしっかりとした係合のために構成され得る。
【0069】
ここで図4〜図7を参照すると、スプレー先端アセンブリ50は、開口近位端52aおよび実質的に閉鎖した遠位端52bを有する、実質的に円筒形の本体52を規定する。開口近位端52aは、細長シャフト30の遠位端30bを受容するように構成される(図4)。以下でより詳細に議論されるように、遠位端52bは、徹底的に混合された溶液を排出するように構成された出口59を備える。スプレー先端アセンブリ50は、シリコーンまたは他の適切な生体適合性材料から構成され得る。スプレー先端アセンブリ50は、上記のような電荷を付与し得る材料を有するポリマーから作製され得るか、または上記のような電荷を付与し得る材料を含むコーティングを有し得る。従って、スプレー先端アセンブリ50の表面に存在する電荷は、送達デバイスのpH微小環境の制御を提供し、そしてこのデバイスから分配される任意のpH依存性形成材料の尚早なゲル化、および/またはこのデバイスが詰まることを防止する。
【0070】
図4〜図7をなお参照すると、スプレー先端アセンブリ50は、最初のチャンバ54、中間チャンバ56および最終チャンバ58を備える。最初のチャンバ54は、細長シャフト30の遠位端30bを受容するための、実質的に円筒形の空洞を規定する。以下でさらに詳細に議論されるように、最初のチャンバ54は、細長シャフト30の遠位端30bが挿入物40に対して同一面に圧迫されて受容されるように構成される。しかし、最初のチャンバ54は、細長シャフト30の遠位端30bが挿入物40から近位に間隔を空けるように構成されてもよいことが想定される。中間チャンバ56は、挿入物40を受容するように構成された、実質的に円筒形の空洞を規定する。中間チャンバ56は、挿入物40(図7において想像線で示される)を中間チャンバ56内で中心を合わせて維持するための、リブまたはスペーサー56aを備える。挿入物40は、堅い、実質的に円柱形の部材を備え、中間チャンバ56内に配置されて、第一の前駆体および第二の前駆体を強制的に、挿入物40の周りで、リブ56aにより再形成された空間内に流す。挿入物40は、中間チャンバ56から最初のチャンバ54内へと近位に延びるようなサイズにされて、挿入物40が細長シャフト30の遠位端30bに対して同一面上に受容されることを確実にしてもよいことが想定される。
【0071】
図4〜図7をなお参照すると、最終チャンバ58は、テーパ状の遠位部分58aを有する実質的に円筒形の空洞を規定する。スプレー先端アセンブリ50は、内部に形成されたスロット57を備え、これらのスロットは、中間チャンバ56と最終チャンバ58とを流体連絡させる。スロット57は、最終チャンバ58に対する接線と、この接線から反時計回りに約20°の線との間で、最終チャンバ58から外向きに角度を付けた、対向する開口部を規定する。スロット57は、部分的に混合された第一の前駆体および第二の前駆体を、中間チャンバ56内から、最終チャンバ58内へと方向付ける。1対の対向する開口部として示されているが、スプレー先端アセンブリ50は、1つのみのスロット57を備えてもよいか(図7A)、あるいは3つ以上のスロット57を備えてもよい(図7Aに想像線で示される)ことが想定される。出口59は、徹底的に混合された溶液を、ほぼ円錐形の噴霧液に噴霧するように構成される。図5に示されるように、近位から遠位の方向で、出口59は、第一の円筒形部分59a、第二の円筒形部分59b、および凹部59cを備える。しかし、出口59は、第二の円筒形部分59bなしで形成されてもよいことが想定される。
【0072】
スプレー先端アセンブリ50を参照しながら示されるが、ゲル化する材料を分配するために構成された任意のスプレー先端アセンブリが、本開示の局面から利益を得ることができる。上で議論されたように、荷電ポリマーは、種々の混合物の尚早なゲル化を防止することを補助する。1つの実施形態において、荷電ポリマーは、スプレー先端アセンブリ50と一体的に形成されて、このスプレー先端アセンブリを通過する混合物の尚早なゲル化を防止する。代替の実施形態において、スプレー先端アセンブリ50の内側表面が荷電ポリマーでコーティングされて、このスプレー先端アセンブリを通過する混合物の尚早なゲル化を防止することを補助する。挿入物40もまた、荷電ポリマーを、この挿入物と一体的に形成されるか、またはこの挿入物上のコーティングとしてのいずれかで含んで、このスプレー先端アセンブリ50を通過する混合物の尚早なゲル化を防止することをさらに補助し得る。このようなコーティングを塗布するための手段は、当業者の知識の範囲内であり、そしてスプレー、浸漬、これらの組み合わせなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0073】
アプリケータアセンブリ10の操作を、ここで図面に関連して説明する。使用前に、挿入物40が、スプレー先端アセンブリ50の中間チャンバ56内に受容される。上で議論されたように、挿入物40は、中間チャンバ56を通過する流体が、挿入物40の周りで、リブ56aの間に作製された空間に押し込まれるように配置される。スプレー先端アセンブリ50は、細長シャフト30の遠位端30bに選択的に受容される。上で議論されたように、マニホルド20は、細長シャフト30と一体的に形成され得るか、またはその代わりに、細長シャフト30をマニホルド20に使用前に手で固定することが必要であり得、第一の前駆体チャネル23および第二の前駆体チャネル25が、第一の前駆体管腔33および第二の前駆体管腔35と整列することを確実にする。前駆体の第一の供給源および第二の供給源(図示せず)が次に、第一の近位延長部22および第二の近位延長部24にそれぞれ接続される。一旦、マニホルド20に固定されたら、前駆体の第一の供給源および第二の供給源が、例えば、注射器のプランジャーの押下によって、または他の機械的手段(空気および気体に補助される噴霧器、動的ミキサーなどが挙げられる)(図示せず)によって、作動されて、それぞれ第一の前駆体チャネル23および第二の前駆体チャネル25内での、第一の前駆体および第二の前駆体の流れを開始させ得る。第一の前駆体および第二の前駆体は、第一の前駆体チャネル23および第二の前駆体チャネル25を通り、それぞれ第一の前駆体管腔33および第二の前駆体管腔35を通り、そしてスプレー先端アセンブリ50内へと流れる。
【0074】
第一の前駆体管腔33および第二の前駆体管腔35から流れる第一の前駆体および第二の前駆体は、中間チャンバ56に保持された挿入物40に遭遇する。第一の前駆体管腔33と第二の前駆体管腔35とは間隔を空けており、その結果、第一の前駆体および第二の前駆体が、挿入物40の周りで、リブ56aと挿入物40との間に作製された空間内に流れ得る。次いで、第一の前駆体および第二の前駆体は、スロット57に押し込まれ、ここで、これらの前駆体は、最終チャンバ58に向かって半径方向内向きに方向付けられる。スロット57を通る混合物の流れは、この混合物が最終チャンバ58に入る際に、この混合物に渦の動きを付与する。その後、徹底的に混合された溶液が、出口59を通して排出される際に、円錐形の噴霧液として噴霧される。上で議論されたように、スプレー先端アセンブリ50および/または挿入物40は、荷電ポリマーと一体的に形成されるかまたはコーティングとしてかのいずれかで、荷電ポリマーを備えて、混合物の尚早なゲル化を防止する。
【0075】
ここで図8〜図10を参照すると、本開示の局面から利益を得るアプリケータアセンブリの代替の実施形態が示されている。
【0076】
最初に図8を参照すると、アプリケータアセンブリ110は、使用者によるピストルグリップ係合のために構成されたハウジング120、ハウジング120に作動可能に接続された流体供給源130、およびハウジング120から遠位に延びるノズルアセンブリ150を備える。本明細書中で上に記載されたアプリケータアセンブリ10と同様に、アプリケータアセンブリ110は、少なくとも第一の成分および第二の成分から構成される混合物を混合して分配するように構成される。アプリケータアセンブリ110は、2009年4月13日に出願された、共有に係る米国特許出願番号12/422,639(その全開示は、その全体が本明細書中に参考として援用される)に記載されるアプリケータアセンブリと、形態および機能が実質的に類似である。
【0077】
図8をなお参照すると、アプリケータアセンブリ110から分配される混合物の尚早なゲル化を防止するために、1つの実施形態において、荷電ポリマーが、ノズルアセンブリ150、および第一の成分と第二の成分との混合物が通って流れる流体供給源130の部分と一体的に形成される。代替の実施形態において、ノズルアセンブリ150の内側表面、および第一の成分と第二の成分との混合物が通って流れる流体供給源130の部分は、荷電ポリマーでコーティングされて、これらを通過する混合物の尚早なゲル化を防止する。
【0078】
図9を参照すると、本明細書中で上に記載されたアプリケータアセンブリ10と実質的に類似であるアプリケータアセンブリが、一般にアプリケータアセンブリ210として示されている。1つの実施形態において、アプリケータアセンブリ210の混合およびスプレーアセンブリ250は、少なくとも部分的に荷電ポリマーから形成され、その結果、この混合およびスプレーアセンブリを通過する混合物は、尚早にゲル化することを防止される。あるいは、混合およびスプレーアセンブリ250の少なくとも内側表面が荷電ポリマーでコーティングされて、この混合およびスプレーアセンブリを通過する混合物の尚早なゲル化を防止する。
【0079】
図10を参照すると、第一の成分と第二の成分との混合物を分配するための別のアプリケータアセンブリが、一般にアプリケータアセンブリ310として示されている。1つの実施形態において、アプリケータ310の混合および針アセンブリ350は、少なくとも部分的に荷電ポリマーから形成され得、その結果、この混合および針アセンブリを通過する混合物は、尚早にゲル化することを防止される。あるいは、混合および針アセンブリ350の少なくとも内側表面が荷電ポリマーでコーティングされて、この混合および針アセンブリを通過する混合物の尚早なゲル化を防止する。
【0080】
本開示に従って、pH依存性形成材料の前駆体の尚早なゲル化を防止し得る送達デバイスは、このpH依存性形成材料の適用時間を延長し得る。このことは、詰まり/尚早なゲル化(これが起こる場合、pH依存性形成材料の導入中の短時間の停止、次いでその導入の継続を必要とする)の心配をすることなく、pH依存性形成材料のより長時間にわたる導入を可能にし得る。
【0081】
本開示の送達デバイスは、本開示を用いなければ尚早なゲル形成および/またはアプリケータの詰まりに起因して起こり得る遅延、ならびに生じるゲルの望ましくない特性(例えば、2つ以上の層の形成、低下した強度もしくは性能を有するゲル、不均一なコーティング、これらの組み合わせなど)を減少させ得るか、または排除し得る。いくつかの場合において、アプリケータが複数の先端を備える場合、pH依存性形成材料の導入中にアプリケータ先端を交換する必要が回避され得る。このことは、pH依存性形成材料を導入する健康管理供給者に対して有利なことである。なぜなら、pH依存性形成材料のより容易な適用を提供し、そしてpH依存性形成材料を利用する外科手術手順の一貫性と結果との両方を改善するからである。
【0082】
本開示の好ましい例示的な実施形態が上に記載されたが、種々の変更および改変が、本開示から逸脱されることなくこれらの実施形態においてなされ得ることが当業者に明らかであり、そして添付の特許請求の範囲は、本開示の趣旨および範囲内に入るような全ての変更および改変を網羅することが意図される。例えば、上に開示されたアプリケータアセンブリのうちの任意のものが、混合物の放出を補助するための手段として空気を利用するように構成され得る。さらに、アプリケータアセンブリから延びる、混合物を遠隔適用するための任意の配管が、表面の近くの材料のpH、およびデバイスの表面の近くの微小環境のpHを調整し得る表面官能基を有する材料から形成され得る。
【符号の説明】
【0083】
10 アプリケータアセンブリ
20 マニホルド
30 細長シャフト
40 挿入物
50 スプレー先端アセンブリ
【技術分野】
【0001】
(関連出願の引用)
本願は、2009年10月16日に出願された米国仮特許出願番号61/252,268に対する優先権を主張する。この米国仮特許出願の開示は、その全体が本明細書中に参考として援用される。
【0002】
(技術分野)
本開示は、身体内にヒドロゲルを適用するための装置に関する。より特定すると、本開示は、送達デバイスの尚早なゲル化および/または詰まりを最少にするように、送達デバイスおよび/または送達される前駆体を処理しながら、ヒドロゲル移植物をインサイチュで形成するための2つ以上の液体前駆体を送達するための装置および方法に関する。
【背景技術】
【0003】
種々の組成物が、欠損部および/または漏出部を密封するため、ならびに体液(血液が挙げられる)を吸収するために、インサイチュで利用されている。例えば、インサイチュで利用される材料としては、止血物質、接着剤、封止剤、ヒドロゲル、これらの組み合わせなどが挙げられる。
【0004】
ヒドロゲルとは、溶媒(例えば、水)を吸収して、認識できる溶解を起こさずに急激な膨潤を起こし、そして可逆的な変形が可能な三次元網目構造を維持する材料である。
【0005】
接着剤、封止剤、止血物質、ヒドロゲルなどをインサイチュで形成し得る材料の送達に関して生じ得る1つの問題は、この材料を形成するために利用される前駆体が、いずれかの送達デバイスからの分配中にゲル化し始め得、これが、このヒドロゲルを送達するために利用される分配装置を詰まらせ得ることである。例えば、1つより多くの前駆体の混合の際に生成されるいくつかの接着剤、ヒドロゲル、および封止剤は、その局所環境のpHに依存して、それらの前駆体が互いに接触した後に約3.5秒以内でゲル化し得る。この局所環境のpHの変化は、前駆体のゲル化を加速または減速するように、このような接着剤、ヒドロゲルおよび封止剤の反応速度論を変更し得る。
【0006】
従って、このような材料を送達するために利用される従来のデバイスには、しばしば、複数の先端が付いており、これらの先端は、尚早なゲル化および詰まりに起因して、外科手術手順中に交換される必要があり得る。同様に、先端を使用せずにこのような材料を分配するデバイスについては、尚早なゲル化および詰まりは、外科手術手順中のアプリケータシステムの故障または最適ではない性能を生じ得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
分配デバイスまたは送達デバイスの尚早なゲル化および/または詰まりを回避する、インサイチュで形成し得る材料を導入するための方法および装置を提供することが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は、例えば、以下を提供する:
(項目1)
少なくとも1つの管腔;
該管腔から材料を排出することを補助するための手段;および
該材料が送達デバイスからインビボで排出され得る開口部、
を備える、送達デバイスであって、該送達デバイスの表面の少なくとも一部分は、該表面の近くの微小環境のpHを調整し得る表面官能基を有する、送達デバイス。
(項目2)
前記表面官能基が荷電ポリマーにより影響を受ける、上記項目に記載の送達デバイス。
(項目3)
前記荷電ポリマーが、前記材料と接触する前記管腔の表面の少なくとも一部分上のコーティングを構成する、上記項目のうちのいずれかに記載の送達デバイス。
(項目4)
前記荷電ポリマーが負電荷を有する、上記項目のうちのいずれかに記載の送達デバイス。
(項目5)
前記荷電ポリマーが正電荷を有する、上記項目のうちのいずれかに記載の送達デバイス。
(項目6)
前記荷電ポリマーが、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、3−メタクリロイルアミノプロピル−トリメチルアンモニウムクロリド、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される、上記項目のうちのいずれかに記載の送達デバイス。
(項目7)
前記荷電ポリマーが、3−メタクリロイルアミノプロピル−トリメチルアンモニウムクロリドとメタクリル酸2−ヒドロキシエチルとの正に荷電したコポリマーを含む、上記項目のうちのいずれかに記載の送達デバイス。
(項目8)
前記荷電ポリマーが、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸とメタクリル酸2−ヒドロキシエチルとの負に荷電したコポリマーを含む、上記項目のうちのいずれかに記載の送達デバイス。
(項目9)
前記荷電ポリマーが、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メタクリル酸コポリマー、およびこれらの組み合わせからなる群より選択され、酸と組み合わせられている、上記項目のうちのいずれかに記載の送達デバイス。
(項目10)
前記荷電ポリマーが、メタクリル酸とアクリル酸エチルとのコポリマーを含む、上記項目のうちのいずれかに記載の送達デバイス。
(項目11)
前記酸が、クエン酸、フマル酸、コハク酸、リンゴ酸、およびこれらの組み合わせからなる群より選択され、そして前記コポリマーの約0.1重量%〜約10重量%の量で存在する、上記項目のうちのいずれかに記載の送達デバイス。
(項目12)
前記送達デバイスが、
前記材料の前駆体の少なくとも第一の供給源および第二の供給源との作動可能な係合のために構成されたマニホルドであって、該マニホルドを通る少なくとも第一の前駆体チャネルおよび第二の前駆体チャネルを備える、マニホルド;ならびに
先端アセンブリ
をさらに備え、該先端アセンブリが、少なくとも第一の前駆体と第二の前駆体とを含有する混合物が該先端アセンブリの遠位端に規定された開口部から排出される前に、該混合物を受容するように構成されている、上記項目のうちのいずれかに記載の送達デバイス。
(項目13)
前記先端アセンブリが荷電ポリマーを含む、上記項目のうちのいずれかに記載の送達デバイス。
(項目14)
前記荷電ポリマーが前記先端アセンブリ上のコーティングを構成する、上記項目のうちのいずれかに記載の送達デバイス。
(項目15)
前記デバイスが、前記マニホルドから遠位に延びる細長シャフトをさらに備え、該細長シャフトが、該細長シャフトの長さに延びる少なくとも第一の前駆体管腔および第二の前駆体管腔を備え、該少なくとも第一の前駆体管腔および第二の前駆体管腔は、前記少なくとも第一の前駆体チャネルおよび第二の前駆体チャネルと流体連絡している、上記項目のうちのいずれかに記載の送達デバイス。
(項目16)
前記先端アセンブリが、最初のチャンバ、中間チャンバおよび最終チャンバを規定し、該最初のチャンバが、前記細長シャフトの遠位端を受容するように構成されており、該中間チャンバが、挿入物を受容するように構成されており、そして該最終チャンバが、少なくとも部分的に混合された少なくとも第一の前駆体および第二の前駆体を、前記混合物が該先端アセンブリの前記遠位端に規定された前記開口部から排出される前に受容するように構成されている、上記項目のうちのいずれかに記載の送達デバイス。
(項目17)
前記挿入物がシリコーンを含む、上記項目のうちのいずれかに記載の送達デバイス。
(項目18)
前記マニホルドと前記細長シャフトとが一体的に形成されている、上記項目のうちのいずれかに記載の送達デバイス。
(項目19)
前記細長シャフトが可撓性である、上記項目のうちのいずれかに記載の送達デバイス。
(項目20)
前記細長シャフトがシリコーンを含む、上記項目のうちのいずれかに記載の送達デバイス。
(項目21)
前記開口部が、前記混合物を前記先端アセンブリから噴霧液として排出するように構成されている、上記項目のうちのいずれかに記載の送達デバイス。
(項目22)
前記先端アセンブリがシリコーンを含む、上記項目のうちのいずれかに記載の送達デバイス。
(項目23)
前記先端アセンブリが、操作中に曲がるように構成されている、上記項目のうちのいずれかに記載の送達デバイス。
【0009】
(摘要)
本開示は、装置(ある実施形態においては、送達デバイス)により分配されるpH依存性形成材料(ある実施形態においては、ヒドロゲル)の任意の材料または前駆体の尚早なゲル化を防止する、装置(ある実施形態においては、送達デバイス)の処理を提供する。このデバイスの管腔(ある実施形態においては、分配されるべき材料が通ってこのデバイスから排出される、スプレーアプリケータの先端)の表面の近くのpH微小環境が、尚早なゲル化を防止するために制御され得る。
【0010】
(本開示の要旨)
本開示は、pH依存性形成材料(ある実施形態においては、ヒドロゲル)の任意の材料または前駆体の尚早なゲル化を防止する、装置(ある実施形態においては、送達デバイス)の処理を提供する。ある実施形態において、本開示の送達デバイスは、少なくとも1つの管腔、この管腔から材料を排出することを補助するための手段、およびこの材料がこの送達デバイスからインビボに排出され得る開口部を備え得、この送達デバイスの表面の少なくとも一部分は、この表面の近くの微小環境のpHを調整し得る表面官能基を有する。
【0011】
他の実施形態において、本開示の送達デバイスはまた、材料の前駆体の少なくとも第一の供給源および第二の供給源との作動可能な係合のために構成されたマニホルド、ならびに先端アセンブリを備え得、このマニホルドは、このマニホルドを通る少なくとも第一の前駆体チャネルおよび第二の前駆体チャネルを備え、そしてこの先端アセンブリは、少なくとも第一の前駆体と第二の前駆体とを含む混合物がこの先端アセンブリの遠位端に規定された開口部から排出される前に、この混合物を受容するように構成されている。
【0012】
なお他の実施形態において、本開示の送達デバイスはまた、このマニホルドから遠位に延びる細長シャフトを備え得、この細長シャフトは、この細長シャフトの長さに延びる少なくとも第一の前駆体管腔および第二の前駆体管腔を備え、この少なくとも第一の前駆体管腔および第二の前駆体管腔は、少なくとも第一の前駆体チャネルおよび第二の前駆体チャネルと流体連絡している。
【0013】
添付の図面は、本明細書に組み込まれ、本明細書の一部を構成し、そして本開示の実施形態を図示し、上に与えられた本開示の一般的な説明および以下に与えられる実施形態の詳細な説明と一緒になって、本開示の原理を説明する役に立つ。
【発明の効果】
【0014】
分配デバイスまたは送達デバイスの尚早なゲル化および/または詰まりを回避する、インサイチュで形成し得る材料を導入するための方法および装置を提供すること
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、送達デバイスの表面の近くの微小環境pHを図示する、本開示の送達デバイスの表面の側面図である。
【図2】図2は、本開示の1つの実施形態によるスプレー先端アセンブリを備えるアプリケータアセンブリの分解斜視図である。
【図3】図3は、図2のアプリケータアセンブリのマニホルドの断面側面図である。
【図4】図4は、図2のアプリケータアセンブリのスプレー先端アセンブリの断面側面図である。
【図5】図5は、図4のスプレー先端アセンブリの遠位端の拡大断面図である。
【図6】図6は、内部構造を想像線で示す、図4および図5のスプレー先端アセンブリの側面図である。
【図7】図7は、図6のスプレー先端アセンブリの、線6−6に沿って見た断面図である。
【図7A】図7Aは、図7のスプレー先端の代替の実施形態の断面図である。
【図8】図8は、本開示の局面を組み込むアプリケータアセンブリの代替の実施形態である。
【図9】図9は、本開示の局面を組み込むアプリケータアセンブリの別の実施形態である。
【図10】図10は、本開示の局面を組み込むアプリケータアセンブリのなお別の実施形態である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本開示に従って、pH依存性形成材料のための送達システムが提供され、この送達システムは、このような材料を形成するために利用される前駆体の尚早なゲル化を防止するように処理され得る。このような材料(ある実施形態において、「pH依存性形成材料」と称される)の例としては、止血物質、接着剤、封止剤、ヒドロゲル、これらの組み合わせなどが挙げられるが、これらに限定されない。pH依存性形成材料は、単一の前駆体から形成されても、複数の前駆体から形成されてもよい。
【0017】
本開示に従って、pH依存性形成材料を分配するために利用される送達デバイスの表面のpH、およびこのデバイスの表面の近くの微小環境のpHが調整され得、その結果、このpH依存性形成材料の前駆体は、尚早にゲル化しない。本明細書中で使用される場合、「微小環境」は、デバイスが配置される環境の全体のpHに近いが異なるpHを示し得る、このデバイスの表面の近くの領域を含む。ある実施形態において、送達デバイスの表面は、この表面の近くの材料のpH、およびこのデバイスの表面の近くの微小環境のpHを調整し得る官能基を有し得る。従って、pH依存性形成材料の前駆体が酸性pHでゲル化する場合、この送達デバイスの表面、およびこのデバイスの表面の近くの微小環境のpHは、尚早なゲル化を回避するために、わずかに塩基性が高いpHを有し得る。あるいは、pH依存性形成材料の前駆体がより塩基性のpHでゲル化する場合、この送達デバイスの表面、およびこのデバイスの表面の近くの微小環境のpHは、尚早なゲル化を回避するために、わずかに酸性が高いpHを有し得る。
【0018】
いくつかの実施形態において、送達デバイスの表面およびこの表面の近くの微小環境のpHは、これらの電荷を付与することによって調整され得る。電荷は、この送達デバイスを形成するために利用される材料(ある実施形態においては、ポリマー)に電荷を付与し得る材料を混合すること、またはこの送達デバイスの表面に電荷を付与し得る材料を含有するコーティングを塗布することによって、この送達デバイスの表面に付与され得る。他の実施形態において、この送達デバイスは、このデバイスの表面またはその近くの材料のpHを調整し得る表面官能基を有し得る。局所pHを調整する能力、および/または表面の近くの微小環境にpH緩衝能力を有させる能力は、インサイチュでの形成の速度の遅延を可能にし、従って、詰まりを回避する。
【0019】
例えば、送達デバイスの表面の局所pH微小環境、およびこのデバイスの表面の近くの微小環境のpHは、荷電したポリマーおよび/または官能基の存在に起因して、約3〜約11、ある実施形態においては、約5〜約9であり得る。
【0020】
pH依存性形成材料の前駆体と接触し得る送達デバイスの任意の表面が、本開示に従って処理され得る。
【0021】
(pH依存性形成材料)
本開示の方法および送達デバイスは、任意のpH依存性形成材料の分配のために利用され得る。このpH依存性形成材料は、「インサイチュで」形成する(生存している動物もしくはヒトの身体内の組織において形成が起こることを意味する)単一の前駆体または複数の前駆体を含み得るか、あるいはこのpH依存性形成材料は、エキソビボで形成され、次いで、生存している動物またはヒトの身体内に移植され得る。一般に、このことは、塗布の時点で活性化されてpH依存性形成材料(ある実施形態においては、ヒドロゲル)を形成し得る前駆体を有することによって、達成され得る。
【0022】
ある実施形態において、本開示の方法およびデバイスは、尚早なゲル化および詰まりを起こし得るpH依存性形成材料を送達するために使用される送達デバイスを処理するために、特に有利であり得る。このようなデバイスとしては、複数の先端が付いているアプリケータが挙げられ得、これらの先端は、前駆体がこの先端内で混合される場合の尚早なゲル化および詰まりに起因して、外科手術手順中に交換される必要があり得る。同様に、先端を使用せずにこのような材料を分配するデバイスについては、尚早なゲル化および詰まりが回避され得る。いずれの場合においても、アプリケータシステムの潜在的な故障、または外科手術手順中のこのようなシステムの最適ではない性能が回避され得る。なぜなら、このデバイスが詰まらないので、前駆体の送達の開始/停止(これは、2つ以上の層の形成、低下した強度または性能のゲル、不均一なコーティング、これらの組み合わせなどをもたらし得る)の必要性が生じないからである。さらに、pH依存性形成材料の適用の時間が短縮され得る。
【0023】
pH依存性形成材料は、共有結合、イオン結合または疎水性結合のいずれかを介して形成され得る。物理的(非共有)結合は、錯化、水素結合、脱溶媒和、ファンデルワールス相互作用、イオン結合、これらの組み合わせなどから生じ得、そしてインサイチュで合わせられるまで物理的に離れている2つの前駆体を混合することによってか、または生理学的環境の主要な条件(温度、pH、イオン強度、これらの組み合わせなどが挙げられる)の結果として、開始され得る。化学的(共有)架橋は、多数の機構(フリーラジカル重合、縮合重合、アニオン重合、カチオン重合、段階成長重合、求電子試薬−求核試薬反応、これらの組み合わせなどが挙げられる)のうちのいずれかによって、達成され得る。
【0024】
いくつかの実施形態において、pH依存性形成材料系は、前駆体が混合される際に自発的に架橋するが、2つ以上の前駆体は堆積プロセスの過程にわたって個々に安定である、生体適合性多前駆体系を含み得る。このような系は、例えばヒドロゲルについては、二官能性または多官能性のアミンであるマクロマーを含む第一の前駆体、および二官能性または多官能性のオキシラン含有部分を含む第二の前駆体を含む。
【0025】
pH依存性形成材料の形成のいくつかの実施形態は、表面(例えば、患者の組織)への適用後に迅速に架橋してpH依存性形成材料を形成する前駆体を混合することを包含する。
【0026】
ゲル化をもたらす架橋反応は、いくつかの実施形態においては約1秒〜約5分の時間内で、ある実施形態においては約3秒〜約1分の時間内で起こり得る。当業者は、これらの明白に記載される範囲内の全ての範囲および値が想定されることを、即座に理解する。いくつかの場合において、ゲル化は、約3.5秒未満で起こり得る。
【0027】
これらの前駆体は、使用前に溶液に入れられ得、この溶液が、患者に送達される。本開示の原理に従って使用するために適切な溶液としては、体腔内または空隙内に移植物を形成するために使用され得る溶液が挙げられる。2つの溶液が使用される場合、各溶液が、接触すると形成されるpH依存性形成材料の前駆体を1つずつ含み得る。これらの溶液は、別々に貯蔵され得、そして組織体腔内に送達されるときに混合され得る。
【0028】
さらに、pH依存性形成材料系の一部として利用される任意の溶液は、有害な溶媒または毒性の溶媒を含有するべきではない。ある実施形態において、前駆体は、生理学的に適合性の溶液(例えば、緩衝化等張生理食塩水)における使用を可能にするために、水などの溶媒に実質的に可溶性であり得る。水溶性コーティングは薄膜を形成し得るが、ある実施形態においてはまた、制御された厚さの三次元ゲルを形成し得る。このゲルはまた、生分解性であり得、その結果、身体から回収される必要がない。生分解性とは、本明細書中で使用される場合、正常な生理学的条件下で代謝または排出されるために充分に小さい分子への、コーティングの予測可能な崩壊をいう。
【0029】
pH依存性形成材料系の特性は、意図される用途に従って選択され得る。例えば、pH依存性形成材料が、生殖器官(例えば、ファローピウス管)を一時的に閉塞させるために使用されるべきである場合、このpH依存性形成材料系は、充分な膨潤を起こし、そして生分解性であることが望ましい。あるいは、pH依存性形成材料は、血栓特性を有し得るか、またはその前駆体が血液もしくは他の体液と反応して凝塊を形成し得る。
【0030】
他の用途は、pH依存性形成材料系の異なる特徴を必要とし得る。一般に、これらの材料は、示される生体適合性および毒性がないことに基づいて、選択されるべきである。
【0031】
pH依存性形成材料の特定の特性(種々の組織への接着、外科医が正確かつ簡便にpH依存性形成材料を配置することを可能にするために望ましい硬化時間、生体適合性のための高い含水量(これは、ヒドロゲルに関連し得る)、封止剤において使用するための機械的強度、および/または配置後の破壊に抵抗する靭性が挙げられる)は、有用であり得る。従って、すでに滅菌されており、そして天然材料の使用に関与する疾患伝達の危険性を回避している合成材料が、使用され得る。実際に、合成前駆体を使用して作製された特定のインサイチュ重合性ヒドロゲルは、例えば、FOCALSEAL(登録商標)(Genzyme,Inc.)、COSEAL(登録商標)(Angiotech Pharmaceuticals)、およびDURASEAL(登録商標)(Confluent Surgical,Inc.)などの市販の製品において使用されているように、当業者の知識の範囲内である。他の公知のヒドロゲルとしては、例えば、米国特許第6,656,200号;同第5,874,500号;同第5,543,441号;同第5,514,379号;同第5,410,016号;同第5,162,430号;同第5,324,775号;同第5,752,974号;および同第5,550,187号に開示されているヒドロゲルが挙げられる。
【0032】
上記のように、pH依存性形成材料は、1つ以上の前駆体から作製され得る。この前駆体は、例えば、モノマーまたはマクロマーであり得る。1つの型の前駆体は、エチレン性不飽和である官能基を有し得る。エチレン性不飽和の官能基は、反応を開始させるための開始剤を使用して重合し得る。少なくとも2つのエチレン性不飽和官能基を有する前駆体は、架橋ポリマーを形成し得る。いくつかの組成物は、1つのみのこのような官能基を有する特定の前駆体、およびこの前駆体を架橋させるための複数の官能基を有するさらなる架橋剤前駆体を有する。エチレン性不飽和の官能基は、種々の技術(例えば、フリーラジカル重合、縮合重合、または付加重合)によって重合し得る。
【0033】
従って、pH依存性形成材料は、1つの前駆体(フリーラジカル重合によってなど)から形成され得るか、2つの前駆体から形成され得るか、または3つ以上の前駆体(これらの前駆体のうちの1つ以上は、pH依存性形成材料を形成するための架橋に関与する)を用いて作製され得る。
【0034】
別の型の前駆体は、求電子性または求核性である官能基を有する。求電子試薬は、求核試薬と反応して共有結合を形成する。共有架橋または共有結合とは、異なるポリマーを互いに共有結合させるように働く、異なるポリマー上の官能基の反応により形成される化学基をいう。特定の実施形態において、第一の前駆体上の求電子性官能基の第一のセットは、第二の前駆体上の求核性官能基の第二のセットと反応し得る。これらの前駆体が反応を可能にする環境中(例えば、pHまたは溶媒に関連するような)で混合される場合、これらの官能基は互いに反応して、共有結合を形成する。これらの前駆体は、これらの前駆体のうちの少なくともいくらかが、1つより多くの他の前駆体と反応し得る場合に、架橋される。例えば、第一の型の2つの官能基を有する前駆体は、この第一の型の官能基と反応し得る、少なくとも3つの第二の型の官能基を有する架橋前駆体と反応し得る。
【0035】
ある実施形態において、pH依存性形成材料は、ヒドロゲルであり得る。上記のように、ある実施形態において、このヒドロゲルは、単一の前駆体から形成されても複数の前駆体から形成されてもよい。例えば、このヒドロゲルが複数の前駆体(例えば、2つの前駆体)から形成される場合、これらの前駆体は、第一のヒドロゲル前駆体および第二のヒドロゲル前駆体と称され得る。用語「第一のヒドロゲル前駆体」および「第二のヒドロゲル前駆体」とは、各々、反応に関与して架橋分子(例えば、ヒドロゲル)の網目構造を形成し得る、ポリマー、官能性ポリマー、高分子、低分子、または架橋剤を意味する。
【0036】
ある実施形態において、第一のヒドロゲル前駆体および第二のヒドロゲル前駆体の各々は、求核性前駆体と求電子性前駆体との両方が架橋反応において使用される限り、求核性のみである基または求電子性のみである官能基のいずれかである、1つのみのカテゴリーの官能基を含む。従って、例えば、第一のヒドロゲル前駆体が求核性官能基(例えば、アミン)を有する場合、第二のヒドロゲル前駆体は、求電子性官能基(例えば、N−ヒドロキシスクシンイミド)を有し得る。他方で、第一のヒドロゲル前駆体が求電子性官能基(例えば、スルホスクシンイミド)を有する場合、第二のヒドロゲル前駆体は、求核性官能基(例えば、アミンまたはチオール)を有し得る。従って、タンパク質、ポリ(アリルアミン)、スチレンスルホン酸、またはアミン末端を有する二官能性ポリ(エチレングリコール)(「PEG」)もしくは多官能性ポリ(エチレングリコール)などの官能性ポリマーが使用され得る。
【0037】
第一のヒドロゲル前駆体および第二のヒドロゲル前駆体は、生物学的に不活性な水溶性コアを有し得る。このコアが水溶性であるポリマー領域である場合、使用され得る好ましいポリマーとしては、ポリエーテル(例えば、ポリアルキレンオキシド(例えば、ポリエチレングリコール(「PEG」)、ポリエチレンオキシド(「PEO」)、ポリエチレンオキシド−co−ポリプロピレンオキシド(「PPO」)、およびco−ポリエチレンオキシドブロックコポリマーまたはランダムコポリマー));ポリビニルアルコール(「PVA」);ポリ(ビニルピロリドン)(「PVP」);ポリ(アミノ酸);ポリ(サッカリド)(例えば、デキストラン、キトサン、アルギネート、カルボキシメチルセルロース、酸化セルロース、ヒドロキシエチルセルロース、およびヒドロキシメチルセルロース);ヒアルロン酸;ならびにタンパク質(例えば、アルブミン、コラーゲン、カゼイン、およびゼラチン)が挙げられる。ポリエーテル(より具体的には、ポリ(オキシアルキレン)またはポリ(エチレングリコール)もしくはポリエチレングリコール)が、特に有用であり得る。このコアが本質的に低分子である場合、種々の親水性官能基のうちの任意のものが、第一のヒドロゲル前駆体および第二のヒドロゲル前駆体を水溶性にするために使用され得る。例えば、ヒドロキシル、アミン、スルホネートおよびカルボキシレート(これらは、水溶性である)などの官能基が、前駆体を水溶性にするために使用され得る。さらに、スベリン酸のN−ヒドロキシスクシンイミド(「NHS」)エステルは、水に不溶性であるが、スルホネート基をそのスクシンイミド環に付加することによって、スベリン酸のNHSエステルは、そのアミン基に対する反応性に影響を与えることなく、水溶性にされ得る。
【0038】
ある実施形態において、第一のヒドロゲル前駆体および第二のヒドロゲル前駆体のうちの少なくとも一方は、架橋剤である。ある実施形態において、第一のヒドロゲル前駆体および第二のヒドロゲル前駆体のうちの少なくとも一方は、高分子であり、そして「官能性ポリマー」と称される。
【0039】
ある実施形態において、第一の前駆体もしくは第二の前駆体、またはこれらの両方は、ポリマーであっても非ポリマーであってもよく、そして天然物質であっても合成物質であってもよい。本明細書中で使用される場合、「天然」または「天然成分」は、天然に見出され得るか、または天然に見出される組成物/生物から誘導され得る、ポリマー、組成物、材料、これらの組み合わせなどを包含する。天然成分はまた、天然に見出されるが(例えば、天然/合成/生物学的組換え材料を作製するための方法、ならびに天然に見出される配列と同じ配列を有するタンパク質を生成し得る方法、および/または天然材料と同じ構造および成分を有する材料(例えば、合成ヒアルロン酸)を製造し得る方法を使用して)人工的に合成され得る組成物を包含し得る。例えば、ある実施形態において、天然成分は、低分子(例えば、アミノ酸またはその誘導体)であり得る。「合成」とは、天然には見出されない分子をいい、そして天然生体分子の誘導体化バージョン(例えば、修飾側鎖基を有するコラーゲン)を含まない。合成的に生成されたポリアミノ酸ポリマーは、通常、これらが天然には見出されず天然に存在する生体分子と同じではなくなるように操作される場合、合成物質であるとみなされる。例えば、トリリジンは、合成物質である。なぜなら、(いくらかの細菌は比較的大きいポリリジンを産生し得るとしても)天然には見出されないからである。いくつかの場合において、ジリジンおよび/またはテトラリジンもまた、前駆体のうちの1つとして利用され得る。
【0040】
第一のヒドロゲル前駆体および第二のヒドロゲル前駆体の各々は、多官能性であり得る。すなわち、2つ以上の求電子性官能基または求核性官能基を含み得、その結果、例えば、第一のヒドロゲル前駆体上の求核性官能基が第二のヒドロゲル前駆体上の求電子性官能基と反応して、共有結合を形成し得る。第一のヒドロゲル前駆体および第二のヒドロゲル前駆体のうちの少なくとも1つは、2つより多くの官能基を含み、その結果、求電子−求核反応の結果として、これらの前駆体が化合して、架橋ポリマー生成物を形成する。
【0041】
ある実施形態において、多官能性求核性ポリマー(例えば、トリリジン)が、第一のヒドロゲル前駆体として使用され得、そして多官能性求電子性ポリマー(例えば、複数のNHS基で官能基化されたマルチアームPEG)が、第二のヒドロゲル前駆体として使用され得る。複数のNHS基で官能基化されたマルチアームPEGは、例えば、4つ、6つまたは8つのアームを有し得、そして約5,000〜約25,000の分子量を有する。適切な第一のヒドロゲル前駆体および第二のヒドロゲル前駆体の多くの他の例は、米国特許第6,152,943号;同第6,165,201号;同第6,179,862号;同第6,514,534号;同第6,566,406号;同第6,605,294号;同第6,673,093号;同第6,703,047号;同第6,818,018号;同第7,009,034号;および同第7,347,850号に記載されており、これらの各々の全開示は、本明細書中に参考として援用される。
【0042】
ある実施形態において、官能基の間に存在する生分解性結合を有する1つ以上の前駆体は、ヒドロゲルを生分解性または生体吸収性にするために含まれ得る。いくつかの実施形態において、これらの結合は、例えば、エステルであり得、このエステル結合は、生理学的溶液中で加水分解し得る。このような結合の使用は、タンパク質分解反応により分解し得るタンパク質結合とは対照を成すものである。生分解性結合は、必要に応じてまた、前駆体のうちの1つ以上の水溶性コアの一部分を形成し得る。あるいは、またはさらに、前駆体の官能基は、これらの官能基の間の反応の生成物が生分解性結合を生じるように選択され得る。各アプローチについて、生分解性結合は、得られる生分解性の生体適合性の架橋ポリマーが、所望の期間で分解するように、または吸収されるように、選択され得る。一般に、生理学的条件下でヒドロゲルを非毒性生成物または低毒性生成物に分解する生分解性結合が選択され得る。
【0043】
ある実施形態において、pH依存性形成材料はまた、開始剤を含み得る。開始剤は、pH依存性形成材料の形成のための重合反応を開始し得る任意の前駆体または基であり得る。
【0044】
(pHの制御)
ある実施形態において、送達デバイス(任意のアプリケータ先端を含む)は、この送達デバイスの表面のpH、およびこの送達デバイスの表面の近くの微小環境のpHが、pH依存性材料の尚早なゲル化を防止するように選択されるポリマー材料から作製され得る。ある実施形態において、この送達デバイスの表面のpH、およびこの送達デバイスの表面の近くの微小環境のpHは、このデバイスの表面の電荷により影響を受け得る。他の実施形態において、官能基が、この送達デバイス、またはこの送達デバイス上のコーティングを形成するために利用されるポリマー上に存在し得、これによって、この送達デバイスの表面のpH、およびこの送達デバイスの表面の近くの微小環境のpHに影響を与える。これらの修飾は、局所pHと、このデバイスの表面の近くの微小環境のpH緩衝能力との両方に影響を与え得る。
【0045】
送達デバイスを、pHに影響を与え得る材料で形成することによって、pH依存性形成材料を分配するために利用される送達デバイスの表面のpH、およびこの送達デバイスの表面の近くの微小環境のpHは、pH依存性形成材料の前駆体が尚早にゲル化しないように調整され得る。従って、上記のように、pH依存性形成材料の前駆体が酸性pHでゲル化する場合、送達デバイスの表面、およびこの送達デバイスの表面の近くの微小環境のpHは、尚早なゲル化を回避するために、わずかに塩基性が高いpHを有し得る。あるいは、pH依存性形成材料の前駆体がより塩基性のpHでゲル化する場合、送達デバイスの表面、およびこの送達デバイスの表面の近くの微小環境のpHは、尚早なゲル化を回避するために、わずかに酸性が高いpHを有し得る。
【0046】
ある実施形態において、pH依存性形成材料を分配するために利用される送達デバイスの少なくとも先端のpH微小環境を調整することが望ましくあり得る。
【0047】
ある実施形態において、送達デバイスの表面のpH、およびこの送達デバイスの表面の近くの微小環境のpHは、このデバイスを形成するために荷電ポリマーを利用することによって、またはこの送達デバイスを形成するために利用される材料(ある実施形態においては、ポリマー)に電荷を付与し得る材料を混合することによって、変更され得る。このようなポリマーを形成する方法、または材料とポリマー材料とを組み合わせる方法は、当業者の知識の範囲内であり、そしてブレンド、混合、撹拌、共重合、これらの組み合わせなどが挙げられる。
【0048】
他の実施形態において、送達デバイスの表面のpH、またはこの送達デバイスの表面の近くの微小環境のpHは、pH依存性形成材料を形成するために利用される前駆体と接触し得る送達デバイスの表面(任意の管腔または任意のスプレー先端が挙げられる)に電荷を付与して局所pH微小環境を制御することを補助し得る材料を含有するコーティングを塗布することにより変更され得る。このようなコーティングは、pH依存性形成材料の前駆体のpHにも、このような前駆体を含むいずれの溶液にも影響を与えず、pH依存性形成材料の前駆体と接触する送達デバイスの表面の少なくとも一部分に塗布される。
【0049】
コーティングを塗布する方法は、当業者の知識の範囲内であり、そして浸漬、スプレー、プラズマ蒸着、これらの組み合わせなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0050】
送達デバイスまたはそれに塗布されるべきコーティングを形成する際に利用され得る荷電ポリマーの例としては、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル(HEMA)、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(AAMPS)、3−メタクリロイルアミノプロピル−トリメチルアンモニウムクロリド(MAPTAC)、N,N−ジアリル−N,N−ジメチルアンモニウムクロリド(DADMAC)、これらの組み合わせなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0051】
従って、例えば、ポリマーがMAPTACベースである場合、このポリマーは、第四級アンモニウム基(これは、全てのpH値において陽イオン性のままである)の存在に起因して、正電荷を有する。ある実施形態において、MAPTACとHEMAとのコポリマーが利用され得る。このコポリマーは、負に荷電した低分子量種(例えば、水酸化物イオン)を誘引して水素原子を追い出す。このようなコポリマーは、MAPTACを、このコポリマーの約0.1重量%〜約10重量%の量で有し得、そしてHEMAをこのコポリマーの約90重量%〜約99.9重量%の量で有し得、ある実施形態において、MAPTACは、このコポリマーの約0.2重量%〜約5重量%で存在し、HEMAは、このコポリマーの約95重量%〜約99.8重量%で存在する。
【0052】
あるいは、荷電ポリマーがAAMPSベースである場合、この荷電ポリマーは、そのスルホネート基(これは、非常に酸性の条件下でさえも電離したままである)の存在に起因して負電荷を有する。ある実施形態において、HEMA中のAAMPSのコポリマーが利用され得る。このコポリマーは従って、水素イオン(すなわち、プロトン)を誘引する。このようなコポリマーは、AAMPSをこのコポリマーの約0.1重量%〜約10重量%の量で有し得、HEMAは、このコポリマーの約90重量%〜約99.9重量%の量で存在し、ある実施形態において、AAMPSは、このコポリマーの約0.2重量%〜約5重量%の量で存在し得、HEMAは、このコポリマーの約95重量%〜約99.8重量%の量で存在する。
【0053】
他の実施形態において、荷電ポリマーは、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、アクリル酸コポリマー、マレイン酸コポリマー、メタクリル酸コポリマーなど(メタクリル酸とアクリル酸エチルとのコポリマー、これらの組み合わせなどが挙げられる)を用いて形成され得る。メタクリル酸とアクリル酸エチルとのコポリマーとしては、EUDRAGIT(登録商標)の名称でRohm Pharma Polymers(Piscataway,NJ)から市販されているものが挙げられる。ある実施形態において、これらのポリマーは、これらのポリマー中への酸の組み込みにより荷電し得る。このようなコポリマーに含まれ得る適切な酸としては、例えば、クエン酸、フマル酸、コハク酸、リンゴ酸、これらの組み合わせなどが挙げられ得る。荷電ポリマーを形成するためにポリマーに酸が添加される場合、この酸は、コポリマーの約0.1重量%〜約10重量%の量、ある実施形態においては、コポリマーの約0.5重量%〜5重量%の量で添加され得る。
【0054】
他のポリマーもまた利用され得る。上記のように、ある実施形態において、ポリマーは、送達デバイスの表面のpH、およびこの送達デバイスの表面の近くの微小環境のpHを変更し得る、官能基を有し得る。例えば、ある実施形態において、無水コハク酸と、ヒドロキシル官能性ポリマーまたはアミン官能性ポリマーとの反応を利用して、カルボキシル化ポリマーを生成し得る。このようなポリマーは、送達デバイスの一部またはこの送達デバイス上のコーティングを形成するために利用される場合、pH微小環境に影響を与える能力を有する。なぜなら、これらのポリマーは、カルボン酸基を用いる中和により塩基を中和して、カルボン酸陰イオンを形成し得るからである。この反応の要約を以下に提供する:
【0055】
【化1】
他の実施形態において、コポリマー中にメタクリル酸グリシジル(GMA)を使用して、ペンダントエポキシ官能基を提供し得る。このエポキシ基は、酸(プロトン)を吸収して開環反応を起こし、従って、プロトン化される能力を有する。従って、このようなコポリマーもまた、水性微小環境のpHに影響を与える能力を有する。GMAモノマー(これは、GMAポリマーの前駆体である)に関連する化学構造を以下に提供する。
【0056】
【化2】
なお他の実施形態において、メタクリル酸アセトアセトキシエチル(AAEM)コポリマーが利用され得る。AAEMコポリマーは、金属イオン(ある実施形態において、二価イオンまたは多価イオン)をその2つのカルボニル基の間にキレートし得、これは次いで、ポリマー構造に電荷を付与し得る。このようなコポリマーによりキレート化され得る金属イオンとしては、銀、コバルト、亜鉛、カルシウム、マグネシウム、白金、スズ、セレン、マンガン、これらの組み合わせなどが挙げられるが、これらに限定されない。ある実施形態において、陰イオン性(負)の電荷は、陽イオンまたは金属イオンを欠く塩基性環境中で生じ得る。AAEMモノマー(これは、AAEMポリマーの前駆体である)に関連する化学構造を以下に提供する。
【0057】
【化3】
適切なコポリマーの形成は、当業者の知識の範囲内であり、そして架橋剤(例えば、多官能性のアクリレートまたはメタクリレート)、上記の光開始剤(ある実施形態においては、ベンゾインエチルエーテル)、これらの組み合わせなどの使用を包含し得る。
【0058】
本開示に従って、送達デバイスの表面の局所pH微小環境は、その表面官能性の存在に起因して、約3〜約11、ある実施形態においては、約5〜約9であり得る。いくつかの実施形態において、この局所pH微小環境は、約6.0〜約7.39であり得、そして他の実施形態においては、約7.41〜約8.5であり得る。
【0059】
pH微小環境を決定する方法は、当業者の知識の範囲内であり、そして例えば、電流滴定および電位差微小電極(例えば、Thermo Fisher Scientific(Waltham,MA)製のORION(登録商標)微小電極);光学および蛍光pHセンサ(中空繊維膜微小プローブが挙げられる);イオン選択性膜;イオン選択性電界効果トランジスタ;2端子マイクロセンサ;金属酸化物および電気伝導度pH感知デバイス;ならびに共焦点レーザー走査顕微鏡(CLSM)、pHを連続的に空間的に分解して監視するための高解像度の非侵襲性技術(Agiら、「Fluorescence Monitoring of the Microenvironmental pH of Highly Charged Polymers」、Journal of Polymer Science,Part A,Polymer Chemistry,pp.2105−2110(1997);Tatavartiら、「Microenvironmental pH Modulation Based Release Enhancement of a Weakly Basic Drug from Hydrophilic Matrices」、Journal of Pharmaceutical Sciences,第95巻、第7号、pp.1459−1468(2006);Liermannら、「Microenvironments of pH in Biofilms Grown on Dissolving Silicate Surfaces」、Chemical Geology 171,pp.1−16(2000);Korostynskaら「Review Paper:Materials and Techniques for In Vivo pH Monitoring」IEEE Sensors Journal,第8巻、第1号、pp.20−28(2008);Ruiz−Ederraら、「In Sith Fluorescence Measurement of Tear Film[Na+],[K+],[Cl−],and pH in Mice Shows Marked Hypertonicity in Aquaporin−5 Deficiency」、Investigative Ophthalmology & Visual Science,第50巻、第5号、pp.2132−2138(2009);Grantら、「A Sol−gel Based Fiber Optic Sensor for Local Blood pH Measurements」、Sensors and Actuators,B 45,pp.35−42(1997);およびKorostynskaら「Review on State−of−the−art in Polymer Based pH Sensors」Sensors,第7巻、pp.3027−3042(2007)(これらの各々の全開示は、本明細書中に参考として援用される)によりさらに開示されるような)が挙げられる。
【0060】
pH依存性形成材料を分配するために利用される任意のデバイス(前駆体溶液を適用するために適切な二重注射器が挙げられる)は、本開示の処理により利益を得ることができる。デバイスおよび/またはアプリケータ内(pH依存性形成材料の1つ以上の前駆体と接触し得るこのような送達デバイス内の任意の管腔の任意の表面の少なくとも一部分(ある実施形態においては、スプレー先端)が挙げられる)の局所pH微小環境を制御することによって、pH依存性形成材料を形成するために利用される前駆体の尚早なゲル化が回避され得る。従って、この送達デバイスの詰まり(pH依存性形成材料のアプリケータおよび送達デバイスに付随する通常の問題)が回避され得る。
【0061】
送達デバイスは、最低でも、少なくとも1つの管腔、開口部、およびこの管腔からの前駆体(ある実施形態においては、pH依存性形成材料の前駆体)の放出を補助するための手段を備え得る。この管腔内に、材料(ある実施形態においては、pH依存性形成材料を形成するために利用される前駆体)が含まれ得る。この開口部を通して、この前駆体がこの管腔からインビボに排出され得る。
【0062】
本開示のプロセスおよび概念を利用して、送達デバイス内に存在するpH微小環境(これは、ゲル形成速度論に影響を与える)は、デバイス/アプリケータ前駆体の表面近くでゲル形成が遅くされ、これによってこのデバイスが詰まることを防止するように、変更され得る。
【0063】
本開示によるpH微小環境を用いて得られる効果は、局在された、一時的なものであり得る。図1に図示されるように、本開示の送達デバイスの表面2は、この送達デバイスの表面2の近くにpH微小環境4を有し得る。従って、表面2に隣接する微小環境4内で得られる効果は、送達デバイス/アプリケータを通って流れる材料全体(図1には示さない)には影響を与えない。さらに、このpH微小環境は、このデバイス/アプリケータの外側のpH依存性形成材料の反応速度論にも、ゲルの物理特性にも影響を与えない。
【0064】
(ヒドロゲル移植物をインサイチュで形成するための送達システム)
以下の説明は、スプレー先端アセンブリを詳細に説明するが、閉塞し得る任意のデバイス(例えば、ステント、カテーテル、ペースメーカーリード線、移植片、ガイドワイヤ、またはデバイスの内側を通る材料の流れを可能にする他の任意の中空デバイス)が、本開示のプロセスおよび処理から利益を得ることができる。
【0065】
ある実施形態において、前駆体溶液を適用するために、二重注射器または類似のデバイス(例えば、米国特許第4,874,368号;同第4,361,055号;同第4,735,616号;同第4,359,049号;同第4,978,336号;同第5,116,315号;同第4,902,281号;同第4,932,942号;同第6,179,862号;同第6,673,093号;および同第6,152,943号に記載されるもの)を使用し得る。さらに、このような前駆体は、可視化剤(例えば、色素)と組み合わせて使用され得る。適切な色素は、当業者の知識の範囲内であり、そして例えば、ヒドロゲルがインサイチュで形成される際にこのヒドロゲルの厚さを可視化するための色素(例えば、米国特許第7,009,034号に記載されるような)が挙げられ得る。いくつかの実施形態において、適切な色素としては、FD&C Blue#1、FD&C Blue#2、FD&C Blue#3、D&C Green#6、メチレンブルー、これらの組み合わせなどが挙げられ得る。
【0066】
いくつかの実施形態において、適切な送達デバイスとしては、図面に記載されるようなデバイスが挙げられる。最初に図2を参照すると、本開示によるスプレー先端アセンブリを備えるアプリケータアセンブリが、一般にアプリケータアセンブリ10として示されている。アプリケータアセンブリ10は、マニホルドまたは基部20、マニホルド20から延びる細長シャフト30、および細長シャフト30の遠位端30bに位置するスプレー先端アセンブリ50を備える。アプリケータアセンブリ10は、挿入物40をさらに備え、この挿入物は、スプレー先端アセンブリ50内に受容されて、細長シャフト30の遠位に位置するように構成されている。
【0067】
ここで図3を参照すると、マニホルド20は、実質的にY字型の部材を備え、この部材は、第一の近位延長部22および第二の近位延長部24、ならびに遠位延長部26を有する。近位延長部22、24は、前駆体の第一の供給源および第二の供給源(図示せず)(例えば、注射器)と作動可能に係合するために構成される。遠位延長部26は、以下でさらに詳細に議論されるように、細長シャフト30との作動可能な係合のために構成される。マニホルド20は、第一の前駆体チャネル23および第二の前駆体チャネル25をさらに備える。第一の前駆体チャネル23および第二の前駆体チャネル25は、前駆体の第一の供給源および第二の供給源を、細長シャフト30内に形成された第一の管腔33および第二の管腔35と流体連絡させる。マニホルド20は、図示においては、2つのみの前駆体供給源を受容するように構成されるが、マニホルド20は、2つより多くの前駆体供給源を受容するように構成されてもよいことが想定される。
【0068】
図2に戻って参照すると、細長シャフト30は、シリコーン、プラスチック、ポリマーまたは他の可撓性材料の、実質的に堅い本体を規定し得る。上記のように、細長シャフト30は、その長さに延びる第一の前駆体管腔33および第二の前駆体管腔35を備える。展性材料から構成されたワイヤ36もまた、細長シャフト30の長さに延びる。ワイヤ36は、細長シャフト30が所定の手順に適応するように屈曲させられるかまたは曲げられた後に、細長シャフト30を屈曲構成または曲がった構成に維持するように構成される。細長シャフト30は、第一の前駆体管腔33および第二の前駆体管腔35が、それぞれ第一の前駆体チャネル23および第二の前駆体チャネル25と整列するように、マニホルド20の遠位延長部26に固定される。あるいは、細長シャフト30は、マニホルド20の遠位端において一体的に形成され得る。細長シャフト30は、溝、移動止め、ねじ山をさらに備え得るか、または他の様式で、スプレー先端アセンブリ50とのしっかりとした係合のために構成され得る。
【0069】
ここで図4〜図7を参照すると、スプレー先端アセンブリ50は、開口近位端52aおよび実質的に閉鎖した遠位端52bを有する、実質的に円筒形の本体52を規定する。開口近位端52aは、細長シャフト30の遠位端30bを受容するように構成される(図4)。以下でより詳細に議論されるように、遠位端52bは、徹底的に混合された溶液を排出するように構成された出口59を備える。スプレー先端アセンブリ50は、シリコーンまたは他の適切な生体適合性材料から構成され得る。スプレー先端アセンブリ50は、上記のような電荷を付与し得る材料を有するポリマーから作製され得るか、または上記のような電荷を付与し得る材料を含むコーティングを有し得る。従って、スプレー先端アセンブリ50の表面に存在する電荷は、送達デバイスのpH微小環境の制御を提供し、そしてこのデバイスから分配される任意のpH依存性形成材料の尚早なゲル化、および/またはこのデバイスが詰まることを防止する。
【0070】
図4〜図7をなお参照すると、スプレー先端アセンブリ50は、最初のチャンバ54、中間チャンバ56および最終チャンバ58を備える。最初のチャンバ54は、細長シャフト30の遠位端30bを受容するための、実質的に円筒形の空洞を規定する。以下でさらに詳細に議論されるように、最初のチャンバ54は、細長シャフト30の遠位端30bが挿入物40に対して同一面に圧迫されて受容されるように構成される。しかし、最初のチャンバ54は、細長シャフト30の遠位端30bが挿入物40から近位に間隔を空けるように構成されてもよいことが想定される。中間チャンバ56は、挿入物40を受容するように構成された、実質的に円筒形の空洞を規定する。中間チャンバ56は、挿入物40(図7において想像線で示される)を中間チャンバ56内で中心を合わせて維持するための、リブまたはスペーサー56aを備える。挿入物40は、堅い、実質的に円柱形の部材を備え、中間チャンバ56内に配置されて、第一の前駆体および第二の前駆体を強制的に、挿入物40の周りで、リブ56aにより再形成された空間内に流す。挿入物40は、中間チャンバ56から最初のチャンバ54内へと近位に延びるようなサイズにされて、挿入物40が細長シャフト30の遠位端30bに対して同一面上に受容されることを確実にしてもよいことが想定される。
【0071】
図4〜図7をなお参照すると、最終チャンバ58は、テーパ状の遠位部分58aを有する実質的に円筒形の空洞を規定する。スプレー先端アセンブリ50は、内部に形成されたスロット57を備え、これらのスロットは、中間チャンバ56と最終チャンバ58とを流体連絡させる。スロット57は、最終チャンバ58に対する接線と、この接線から反時計回りに約20°の線との間で、最終チャンバ58から外向きに角度を付けた、対向する開口部を規定する。スロット57は、部分的に混合された第一の前駆体および第二の前駆体を、中間チャンバ56内から、最終チャンバ58内へと方向付ける。1対の対向する開口部として示されているが、スプレー先端アセンブリ50は、1つのみのスロット57を備えてもよいか(図7A)、あるいは3つ以上のスロット57を備えてもよい(図7Aに想像線で示される)ことが想定される。出口59は、徹底的に混合された溶液を、ほぼ円錐形の噴霧液に噴霧するように構成される。図5に示されるように、近位から遠位の方向で、出口59は、第一の円筒形部分59a、第二の円筒形部分59b、および凹部59cを備える。しかし、出口59は、第二の円筒形部分59bなしで形成されてもよいことが想定される。
【0072】
スプレー先端アセンブリ50を参照しながら示されるが、ゲル化する材料を分配するために構成された任意のスプレー先端アセンブリが、本開示の局面から利益を得ることができる。上で議論されたように、荷電ポリマーは、種々の混合物の尚早なゲル化を防止することを補助する。1つの実施形態において、荷電ポリマーは、スプレー先端アセンブリ50と一体的に形成されて、このスプレー先端アセンブリを通過する混合物の尚早なゲル化を防止する。代替の実施形態において、スプレー先端アセンブリ50の内側表面が荷電ポリマーでコーティングされて、このスプレー先端アセンブリを通過する混合物の尚早なゲル化を防止することを補助する。挿入物40もまた、荷電ポリマーを、この挿入物と一体的に形成されるか、またはこの挿入物上のコーティングとしてのいずれかで含んで、このスプレー先端アセンブリ50を通過する混合物の尚早なゲル化を防止することをさらに補助し得る。このようなコーティングを塗布するための手段は、当業者の知識の範囲内であり、そしてスプレー、浸漬、これらの組み合わせなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0073】
アプリケータアセンブリ10の操作を、ここで図面に関連して説明する。使用前に、挿入物40が、スプレー先端アセンブリ50の中間チャンバ56内に受容される。上で議論されたように、挿入物40は、中間チャンバ56を通過する流体が、挿入物40の周りで、リブ56aの間に作製された空間に押し込まれるように配置される。スプレー先端アセンブリ50は、細長シャフト30の遠位端30bに選択的に受容される。上で議論されたように、マニホルド20は、細長シャフト30と一体的に形成され得るか、またはその代わりに、細長シャフト30をマニホルド20に使用前に手で固定することが必要であり得、第一の前駆体チャネル23および第二の前駆体チャネル25が、第一の前駆体管腔33および第二の前駆体管腔35と整列することを確実にする。前駆体の第一の供給源および第二の供給源(図示せず)が次に、第一の近位延長部22および第二の近位延長部24にそれぞれ接続される。一旦、マニホルド20に固定されたら、前駆体の第一の供給源および第二の供給源が、例えば、注射器のプランジャーの押下によって、または他の機械的手段(空気および気体に補助される噴霧器、動的ミキサーなどが挙げられる)(図示せず)によって、作動されて、それぞれ第一の前駆体チャネル23および第二の前駆体チャネル25内での、第一の前駆体および第二の前駆体の流れを開始させ得る。第一の前駆体および第二の前駆体は、第一の前駆体チャネル23および第二の前駆体チャネル25を通り、それぞれ第一の前駆体管腔33および第二の前駆体管腔35を通り、そしてスプレー先端アセンブリ50内へと流れる。
【0074】
第一の前駆体管腔33および第二の前駆体管腔35から流れる第一の前駆体および第二の前駆体は、中間チャンバ56に保持された挿入物40に遭遇する。第一の前駆体管腔33と第二の前駆体管腔35とは間隔を空けており、その結果、第一の前駆体および第二の前駆体が、挿入物40の周りで、リブ56aと挿入物40との間に作製された空間内に流れ得る。次いで、第一の前駆体および第二の前駆体は、スロット57に押し込まれ、ここで、これらの前駆体は、最終チャンバ58に向かって半径方向内向きに方向付けられる。スロット57を通る混合物の流れは、この混合物が最終チャンバ58に入る際に、この混合物に渦の動きを付与する。その後、徹底的に混合された溶液が、出口59を通して排出される際に、円錐形の噴霧液として噴霧される。上で議論されたように、スプレー先端アセンブリ50および/または挿入物40は、荷電ポリマーと一体的に形成されるかまたはコーティングとしてかのいずれかで、荷電ポリマーを備えて、混合物の尚早なゲル化を防止する。
【0075】
ここで図8〜図10を参照すると、本開示の局面から利益を得るアプリケータアセンブリの代替の実施形態が示されている。
【0076】
最初に図8を参照すると、アプリケータアセンブリ110は、使用者によるピストルグリップ係合のために構成されたハウジング120、ハウジング120に作動可能に接続された流体供給源130、およびハウジング120から遠位に延びるノズルアセンブリ150を備える。本明細書中で上に記載されたアプリケータアセンブリ10と同様に、アプリケータアセンブリ110は、少なくとも第一の成分および第二の成分から構成される混合物を混合して分配するように構成される。アプリケータアセンブリ110は、2009年4月13日に出願された、共有に係る米国特許出願番号12/422,639(その全開示は、その全体が本明細書中に参考として援用される)に記載されるアプリケータアセンブリと、形態および機能が実質的に類似である。
【0077】
図8をなお参照すると、アプリケータアセンブリ110から分配される混合物の尚早なゲル化を防止するために、1つの実施形態において、荷電ポリマーが、ノズルアセンブリ150、および第一の成分と第二の成分との混合物が通って流れる流体供給源130の部分と一体的に形成される。代替の実施形態において、ノズルアセンブリ150の内側表面、および第一の成分と第二の成分との混合物が通って流れる流体供給源130の部分は、荷電ポリマーでコーティングされて、これらを通過する混合物の尚早なゲル化を防止する。
【0078】
図9を参照すると、本明細書中で上に記載されたアプリケータアセンブリ10と実質的に類似であるアプリケータアセンブリが、一般にアプリケータアセンブリ210として示されている。1つの実施形態において、アプリケータアセンブリ210の混合およびスプレーアセンブリ250は、少なくとも部分的に荷電ポリマーから形成され、その結果、この混合およびスプレーアセンブリを通過する混合物は、尚早にゲル化することを防止される。あるいは、混合およびスプレーアセンブリ250の少なくとも内側表面が荷電ポリマーでコーティングされて、この混合およびスプレーアセンブリを通過する混合物の尚早なゲル化を防止する。
【0079】
図10を参照すると、第一の成分と第二の成分との混合物を分配するための別のアプリケータアセンブリが、一般にアプリケータアセンブリ310として示されている。1つの実施形態において、アプリケータ310の混合および針アセンブリ350は、少なくとも部分的に荷電ポリマーから形成され得、その結果、この混合および針アセンブリを通過する混合物は、尚早にゲル化することを防止される。あるいは、混合および針アセンブリ350の少なくとも内側表面が荷電ポリマーでコーティングされて、この混合および針アセンブリを通過する混合物の尚早なゲル化を防止する。
【0080】
本開示に従って、pH依存性形成材料の前駆体の尚早なゲル化を防止し得る送達デバイスは、このpH依存性形成材料の適用時間を延長し得る。このことは、詰まり/尚早なゲル化(これが起こる場合、pH依存性形成材料の導入中の短時間の停止、次いでその導入の継続を必要とする)の心配をすることなく、pH依存性形成材料のより長時間にわたる導入を可能にし得る。
【0081】
本開示の送達デバイスは、本開示を用いなければ尚早なゲル形成および/またはアプリケータの詰まりに起因して起こり得る遅延、ならびに生じるゲルの望ましくない特性(例えば、2つ以上の層の形成、低下した強度もしくは性能を有するゲル、不均一なコーティング、これらの組み合わせなど)を減少させ得るか、または排除し得る。いくつかの場合において、アプリケータが複数の先端を備える場合、pH依存性形成材料の導入中にアプリケータ先端を交換する必要が回避され得る。このことは、pH依存性形成材料を導入する健康管理供給者に対して有利なことである。なぜなら、pH依存性形成材料のより容易な適用を提供し、そしてpH依存性形成材料を利用する外科手術手順の一貫性と結果との両方を改善するからである。
【0082】
本開示の好ましい例示的な実施形態が上に記載されたが、種々の変更および改変が、本開示から逸脱されることなくこれらの実施形態においてなされ得ることが当業者に明らかであり、そして添付の特許請求の範囲は、本開示の趣旨および範囲内に入るような全ての変更および改変を網羅することが意図される。例えば、上に開示されたアプリケータアセンブリのうちの任意のものが、混合物の放出を補助するための手段として空気を利用するように構成され得る。さらに、アプリケータアセンブリから延びる、混合物を遠隔適用するための任意の配管が、表面の近くの材料のpH、およびデバイスの表面の近くの微小環境のpHを調整し得る表面官能基を有する材料から形成され得る。
【符号の説明】
【0083】
10 アプリケータアセンブリ
20 マニホルド
30 細長シャフト
40 挿入物
50 スプレー先端アセンブリ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの管腔;
該管腔から材料を排出することを補助するための手段;および
該材料が送達デバイスからインビボで排出され得る開口部、
を備える、送達デバイスであって、該送達デバイスの表面の少なくとも一部分は、該表面の近くの微小環境のpHを調整し得る表面官能基を有する、送達デバイス。
【請求項2】
前記表面官能基が荷電ポリマーにより影響を受ける、請求項1に記載の送達デバイス。
【請求項3】
前記荷電ポリマーが、前記材料と接触する前記管腔の表面の少なくとも一部分上のコーティングを構成する、請求項2に記載の送達デバイス。
【請求項4】
前記荷電ポリマーが負電荷を有する、請求項2に記載の送達デバイス。
【請求項5】
前記荷電ポリマーが正電荷を有する、請求項2に記載の送達デバイス。
【請求項6】
前記荷電ポリマーが、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、3−メタクリロイルアミノプロピル−トリメチルアンモニウムクロリド、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項2に記載の送達デバイス。
【請求項7】
前記荷電ポリマーが、3−メタクリロイルアミノプロピル−トリメチルアンモニウムクロリドとメタクリル酸2−ヒドロキシエチルとの正に荷電したコポリマーを含む、請求項2に記載の送達デバイス。
【請求項8】
前記荷電ポリマーが、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸とメタクリル酸2−ヒドロキシエチルとの負に荷電したコポリマーを含む、請求項2に記載の送達デバイス。
【請求項9】
前記荷電ポリマーが、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メタクリル酸コポリマー、およびこれらの組み合わせからなる群より選択され、酸と組み合わせられている、請求項2に記載の送達デバイス。
【請求項10】
前記荷電ポリマーが、メタクリル酸とアクリル酸エチルとのコポリマーを含む、請求項9に記載の送達デバイス。
【請求項11】
前記酸が、クエン酸、フマル酸、コハク酸、リンゴ酸、およびこれらの組み合わせからなる群より選択され、そして前記コポリマーの約0.1重量%〜約10重量%の量で存在する、請求項9に記載の送達デバイス。
【請求項12】
前記送達デバイスが、
前記材料の前駆体の少なくとも第一の供給源および第二の供給源との作動可能な係合のために構成されたマニホルドであって、該マニホルドを通る少なくとも第一の前駆体チャネルおよび第二の前駆体チャネルを備える、マニホルド;ならびに
先端アセンブリ
をさらに備え、該先端アセンブリが、少なくとも第一の前駆体と第二の前駆体とを含有する混合物が該先端アセンブリの遠位端に規定された開口部から排出される前に、該混合物を受容するように構成されている、請求項1に記載の送達デバイス。
【請求項13】
前記先端アセンブリが荷電ポリマーを含む、請求項12に記載の送達デバイス。
【請求項14】
前記荷電ポリマーが前記先端アセンブリ上のコーティングを構成する、請求項13に記載の送達デバイス。
【請求項15】
前記デバイスが、前記マニホルドから遠位に延びる細長シャフトをさらに備え、該細長シャフトが、該細長シャフトの長さに延びる少なくとも第一の前駆体管腔および第二の前駆体管腔を備え、該少なくとも第一の前駆体管腔および第二の前駆体管腔は、前記少なくとも第一の前駆体チャネルおよび第二の前駆体チャネルと流体連絡している、請求項12に記載の送達デバイス。
【請求項16】
前記先端アセンブリが、最初のチャンバ、中間チャンバおよび最終チャンバを規定し、該最初のチャンバが、前記細長シャフトの遠位端を受容するように構成されており、該中間チャンバが、挿入物を受容するように構成されており、そして該最終チャンバが、少なくとも部分的に混合された少なくとも第一の前駆体および第二の前駆体を、前記混合物が該先端アセンブリの前記遠位端に規定された前記開口部から排出される前に受容するように構成されている、請求項15に記載の送達デバイス。
【請求項17】
前記挿入物がシリコーンを含む、請求項16に記載の送達デバイス。
【請求項18】
前記マニホルドと前記細長シャフトとが一体的に形成されている、請求項15に記載の送達デバイス。
【請求項19】
前記細長シャフトが可撓性である、請求項15に記載の送達デバイス。
【請求項20】
前記細長シャフトがシリコーンを含む、請求項15に記載の送達デバイス。
【請求項21】
前記開口部が、前記混合物を前記先端アセンブリから噴霧液として排出するように構成されている、請求項12に記載の送達デバイス。
【請求項22】
前記先端アセンブリがシリコーンを含む、請求項12に記載の送達デバイス。
【請求項23】
前記先端アセンブリが、操作中に曲がるように構成されている、請求項12に記載の送達デバイス。
【請求項1】
少なくとも1つの管腔;
該管腔から材料を排出することを補助するための手段;および
該材料が送達デバイスからインビボで排出され得る開口部、
を備える、送達デバイスであって、該送達デバイスの表面の少なくとも一部分は、該表面の近くの微小環境のpHを調整し得る表面官能基を有する、送達デバイス。
【請求項2】
前記表面官能基が荷電ポリマーにより影響を受ける、請求項1に記載の送達デバイス。
【請求項3】
前記荷電ポリマーが、前記材料と接触する前記管腔の表面の少なくとも一部分上のコーティングを構成する、請求項2に記載の送達デバイス。
【請求項4】
前記荷電ポリマーが負電荷を有する、請求項2に記載の送達デバイス。
【請求項5】
前記荷電ポリマーが正電荷を有する、請求項2に記載の送達デバイス。
【請求項6】
前記荷電ポリマーが、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、3−メタクリロイルアミノプロピル−トリメチルアンモニウムクロリド、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項2に記載の送達デバイス。
【請求項7】
前記荷電ポリマーが、3−メタクリロイルアミノプロピル−トリメチルアンモニウムクロリドとメタクリル酸2−ヒドロキシエチルとの正に荷電したコポリマーを含む、請求項2に記載の送達デバイス。
【請求項8】
前記荷電ポリマーが、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸とメタクリル酸2−ヒドロキシエチルとの負に荷電したコポリマーを含む、請求項2に記載の送達デバイス。
【請求項9】
前記荷電ポリマーが、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メタクリル酸コポリマー、およびこれらの組み合わせからなる群より選択され、酸と組み合わせられている、請求項2に記載の送達デバイス。
【請求項10】
前記荷電ポリマーが、メタクリル酸とアクリル酸エチルとのコポリマーを含む、請求項9に記載の送達デバイス。
【請求項11】
前記酸が、クエン酸、フマル酸、コハク酸、リンゴ酸、およびこれらの組み合わせからなる群より選択され、そして前記コポリマーの約0.1重量%〜約10重量%の量で存在する、請求項9に記載の送達デバイス。
【請求項12】
前記送達デバイスが、
前記材料の前駆体の少なくとも第一の供給源および第二の供給源との作動可能な係合のために構成されたマニホルドであって、該マニホルドを通る少なくとも第一の前駆体チャネルおよび第二の前駆体チャネルを備える、マニホルド;ならびに
先端アセンブリ
をさらに備え、該先端アセンブリが、少なくとも第一の前駆体と第二の前駆体とを含有する混合物が該先端アセンブリの遠位端に規定された開口部から排出される前に、該混合物を受容するように構成されている、請求項1に記載の送達デバイス。
【請求項13】
前記先端アセンブリが荷電ポリマーを含む、請求項12に記載の送達デバイス。
【請求項14】
前記荷電ポリマーが前記先端アセンブリ上のコーティングを構成する、請求項13に記載の送達デバイス。
【請求項15】
前記デバイスが、前記マニホルドから遠位に延びる細長シャフトをさらに備え、該細長シャフトが、該細長シャフトの長さに延びる少なくとも第一の前駆体管腔および第二の前駆体管腔を備え、該少なくとも第一の前駆体管腔および第二の前駆体管腔は、前記少なくとも第一の前駆体チャネルおよび第二の前駆体チャネルと流体連絡している、請求項12に記載の送達デバイス。
【請求項16】
前記先端アセンブリが、最初のチャンバ、中間チャンバおよび最終チャンバを規定し、該最初のチャンバが、前記細長シャフトの遠位端を受容するように構成されており、該中間チャンバが、挿入物を受容するように構成されており、そして該最終チャンバが、少なくとも部分的に混合された少なくとも第一の前駆体および第二の前駆体を、前記混合物が該先端アセンブリの前記遠位端に規定された前記開口部から排出される前に受容するように構成されている、請求項15に記載の送達デバイス。
【請求項17】
前記挿入物がシリコーンを含む、請求項16に記載の送達デバイス。
【請求項18】
前記マニホルドと前記細長シャフトとが一体的に形成されている、請求項15に記載の送達デバイス。
【請求項19】
前記細長シャフトが可撓性である、請求項15に記載の送達デバイス。
【請求項20】
前記細長シャフトがシリコーンを含む、請求項15に記載の送達デバイス。
【請求項21】
前記開口部が、前記混合物を前記先端アセンブリから噴霧液として排出するように構成されている、請求項12に記載の送達デバイス。
【請求項22】
前記先端アセンブリがシリコーンを含む、請求項12に記載の送達デバイス。
【請求項23】
前記先端アセンブリが、操作中に曲がるように構成されている、請求項12に記載の送達デバイス。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図7A】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図7A】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2011−83603(P2011−83603A)
【公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−231026(P2010−231026)
【出願日】平成22年10月13日(2010.10.13)
【出願人】(507156015)コンフルエント サージカル, インコーポレイテッド (21)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年10月13日(2010.10.13)
【出願人】(507156015)コンフルエント サージカル, インコーポレイテッド (21)
【Fターム(参考)】
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