説明

siRNA産生用ベクター

【課題】 植物体内で目的のsiRNAを産生するsiRNA産生ベクターを簡便に作製することができるsiRNA産生用ベクターを提供すること。
【解決手段】 二本鎖RNAを形成させて1次siRNAを産生させるための任意のセンス鎖配列とそのアンチセンス鎖配列をプロモーターとターミネーターの間に有してなるユニットAと、目的のsiRNAが標的とする遺伝子の配列を組み込むためのマルチクローニングサイトと1次siRNAが結合する配列をプロモーターとターミネーターの間に有してなるユニットBを少なくとも含み、標的遺伝子の配列をユニットBのマルチクローニングサイトに組み込んで植物体内に導入するだけで、この遺伝子に対するサイレンシングを発動するsiRNAを植物体内で産生させることができるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物体内で目的のsiRNAを産生させるためのsiRNA産生用ベクターに関する。
【背景技術】
【0002】
植物の原形質連絡(plasmodesmata)を経由した輸送系には、隣接する細胞間の短距離輸送と、伴細胞(companion cell)から篩管(phloem)への原形質連絡輸送を介した長距離輸送があることが知られている。最近の研究から、植物は、長距離輸送系を使用して、遺伝子発現を抑制する分子機構の1つであるRNAサイレンシングのシグナルを植物体全体にわたって伝搬させることにより、ウイルスに対する抵抗性を獲得していることが明らかになっている。また、特定の内在mRNAが篩管を通して植物体内の離れた場所に輸送され、機能していることも明らかにされてきており、このような植物の篩管を通した遺伝子の転写物の輸送機構に関し、篩管輸送RNA(phtRNA:phloem transport RNA)としてジベレリンシグナル伝達系のGAI(GA−Insensitive)遺伝子が同定されている。これらの知見を背景に、篩管を通してより多くのRNAサイレンシングのシグナルを輸送するため、RNAサイレンシングに重要な役割を果たすsiRNA(short interference RNA)を植物体内で産生するベクターの研究開発が行われている(例えば特許文献1を参照のこと)。
【0003】
siRNAは20〜25bpの低分子RNAであり、植物体内で形成された二本鎖RNA(dsRNA:double−strand RNA)がダイサーによって分断されて生成し、ヘリカーゼによって一本鎖に解離したものは、RNA誘導型サイレンシング複合体(RISC)を形成して標的のmRNAに結合し、これを切断することで遺伝子発現を抑制する。特許文献1に記載のsiRNA産生ベクターは、植物体内に導入された後、転写によってヘアピン型のRNA(二本鎖RNA)が形成されるように、RNAサイレンシングの標的遺伝子のセンス鎖配列とそのアンチセンス鎖配列との逆方向反復塩基配列(Inverted Repeat Sequence)構造をプロモーターとターミネーターの間に有してなるものである。しかしながら、こうした標的遺伝子の逆方向反復塩基配列構造を有するsiRNA産生ベクターは、その都度、標的遺伝子ごとに多くの作業工程を経て作製しなければならず、時間と労力を必要とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−166577号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで本発明は、植物体内で目的のsiRNAを産生するsiRNA産生ベクターを簡便に作製することができるsiRNA産生用ベクターを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の点に鑑みてなされた本発明のsiRNA産生用ベクターは、請求項1記載の通り、植物体内で目的のsiRNAを産生させるためのsiRNA産生用ベクターであって、二本鎖RNAを形成させて1次siRNAを産生させるための任意のセンス鎖配列とそのアンチセンス鎖配列をプロモーターとターミネーターの間に有してなるユニットAと、目的のsiRNAが標的とする遺伝子の配列を組み込むためのマルチクローニングサイトと1次siRNAが結合する配列をプロモーターとターミネーターの間に有してなるユニットBを少なくとも含み、目的のsiRNAが標的とする遺伝子の配列をユニットBのマルチクローニングサイトに組み込んで植物体内に導入することで、この配列と1次siRNAが結合する配列からなるキメラ配列からキメラRNAが転写され、このキメラRNAにユニットAによって産生された1次siRNAが結合し、これを切断した後、このキメラRNAの切断物の相補鎖が合成されることによって二本鎖RNAが形成され、この二本鎖RNAが分断されることで目的のsiRNAが産生するようにしたことを特徴とする。
また、請求項2記載のsiRNA産生用ベクターは、請求項1記載のsiRNA産生用ベクターにおいて、ユニットAおよびユニットBのプロモーターとして伴細胞で特異的に機能するプロモーターを用いたことを特徴とする。
また、本発明のsiRNA産生方法は、請求項3記載の通り、請求項1または2記載のsiRNA産生用ベクターのユニットBのマルチクローニングサイトに目的のsiRNAが標的とする遺伝子の配列を組み込んで植物体内に導入することで、植物体内で目的のsiRNAを産生させることを特徴とする。
また、本発明のsiRNA産生ベクターは、請求項4記載の通り、請求項1または2記載のsiRNA産生用ベクターのユニットBのマルチクローニングサイトに目的のsiRNAが標的とする遺伝子の配列を組み込んでなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、植物体内で目的のsiRNAを産生するsiRNA産生ベクターを簡便に作製することができるsiRNA産生用ベクターを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実施例における、本発明のsiRNA産生用ベクターを用いたGSA遺伝子を標的とするsiRNA産生ベクター(phtsiGSA)の作製方法、そのsiRNA産生機序と機能評価の結果を示す図である。
【図2】同、phtsiGSAを導入して作出した形質転換タバコにおけるphtsiGSAの機能評価の結果である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のsiRNA産生用ベクターは、植物体内で目的のsiRNAを産生させるためのsiRNA産生用ベクターであって、二本鎖RNAを形成させて1次siRNAを産生させるための任意のセンス鎖配列とそのアンチセンス鎖配列をプロモーターとターミネーターの間に有してなるユニットAと、目的のsiRNAが標的とする遺伝子の配列を組み込むためのマルチクローニングサイトと1次siRNAが結合する配列をプロモーターとターミネーターの間に有してなるユニットBを少なくとも含み、目的のsiRNAが標的とする遺伝子の配列をユニットBのマルチクローニングサイトに組み込んで植物体内に導入することで、この配列と1次siRNAが結合する配列からなるキメラ配列からキメラRNAが転写され、このキメラRNAにユニットAによって産生された1次siRNAが結合し、これを切断した後、このキメラRNAの切断物の相補鎖が合成されることによって二本鎖RNAが形成され、この二本鎖RNAが分断されることで目的のsiRNAが産生するようにしたことを特徴とするものである。本発明のsiRNA産生用ベクターを用いれば、その都度、標的遺伝子ごとに多くの作業工程を経て逆方向反復塩基配列構造を有するsiRNA産生ベクターを作製する必要はなく、標的遺伝子の配列をユニットBのマルチクローニングサイトに組み込んで植物体内に導入するだけで、この遺伝子に対するサイレンシングを発動するsiRNAを植物体内で産生させることができる。
【0010】
本発明のsiRNA産生用ベクターにおけるユニットAは、二本鎖RNAを形成させて1次siRNAを産生させるための任意のセンス鎖配列とそのアンチセンス鎖配列をプロモーターとターミネーターの間に有してなるものである。ユニットAの構築は、例えば、特許文献1などに記載のヘアピン型のRNAが形成されるためのセンス鎖配列とそのアンチセンス鎖配列との逆方向反復塩基配列構造をプロモーターとターミネーターの間に組み込んで行えばよい(逆方向反復塩基配列構造の間にスペーサーを連結してもよい)。また、センス鎖配列とそのアンチセンス鎖配列をそれぞれ別個にプロモーターとターミネーターの間に組み込んだタンデム型に構成してもよい。ユニットAに組み込む配列は、生物由来の遺伝子の配列であってもよいし人工的に設計した配列であってもよく、その配列長は、例えば50〜1000bpとすればよい。
【0011】
本発明のsiRNA産生用ベクターにおけるユニットBは、目的のsiRNAが標的とする遺伝子の配列を組み込むためのマルチクローニングサイトと1次siRNAが結合する配列をプロモーターとターミネーターの間に有してなるものである。1次siRNAが結合する配列は、例えばユニットAに組み込んだセンス鎖配列と同じであってよい。
【0012】
ユニットAおよびユニットBで用いるプロモーターは、植物体内でプロモーターとして機能するものであれば特段制限されるものではなく、例えばCaMV35SプロモーターやGASプロモーターなどを用いることができるが、篩管を通してより多くのRNAサイレンシングのシグナルを輸送するためには、伴細胞でより多くのsiRNAが産生されるのが有効であることに鑑みれば、ユニットAおよびユニットBで用いるプロモーターは、伴細胞で特異的に機能するプロモーターが望ましい。このようなプロモーターとしては、例えばCoYMV(Commelina yellow mottole virus)プロモーターなどが挙げられる。ユニットAおよびユニットBで用いるターミネーターは、植物体内でターミネーターとして機能するものであれば特段制限されるものではなく、例えばNOSターミネーターなどを用いることができる。
【0013】
なお、本発明のsiRNA産生用ベクターは、pGPTV、pBI121、pBI121−hmなどの植物の形質転換用ベクターを用いて自体公知の遺伝子組換え技術によって作製することができる。ユニットAとユニットBはどちらが上流側(5’末端側)であってもよい。
【0014】
標的遺伝子の配列(例えば配列長が50〜1000bpのもの)を本発明のsiRNA産生用ベクターのユニットBのマルチクローニングサイトに組み込んで植物体内に導入すると、この配列と1次siRNAが結合する配列からなるキメラ配列からキメラRNAが転写される。このキメラRNAにユニットAによって産生された1次siRNAがRISCを形成して結合すると、これを切断し、RNA依存性RNAポリメラーゼ(RDR)によりキメラRNAの切断物を鋳型にした相補鎖の合成が行われて二本鎖RNAが形成される。そして、この二本鎖RNAがダイサーによって分断されることで目的のsiRNAが産生する(新たな領域由来のsiRNAが産生されるいわゆるtransitivity現象:図1参照)。なお、本発明のsiRNA産生用ベクターのユニットBのマルチクローニングサイトに標的遺伝子の配列を組み込んだsiRNA産生ベクターの植物体内への導入は、自体公知の方法、例えば、このsiRNA産生ベクターをAgrobacterium tumefacience EHA105株などのアグロバクテリウムに導入した後、siRNA産生ベクターを保持したアグロバクテリウムをアグロインフィルトレーション法によって植物に感染させることで行うことができる(必要であれば例えばBurow,M.D.ら、Plant Mol.Biol.Rep.8:124−139.1990やRatchlif,F.CG.ら、Plant Cell 11:1207−1216.1999などを参照のこと)。
【0015】
本発明のsiRNA産生用ベクターを用いれば、RNAサイレンシングによって発現が抑制されることで、例えば品質の改良や病原菌に対する抵抗性の増強といった改変が可能となる遺伝子を標的遺伝子とするRNAサイレンシングを発動するsiRNAを産生させるためのベクターを時間と労力をかけることなく作製することができる。
【実施例】
【0016】
以下、本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明は以下の記載に限定して解釈されるものではない。
【0017】
(1)本発明のsiRNA産生用ベクターを用いたGSA遺伝子を標的にするsiRNA産生ベクター(phtsiGSA)の作製
最初に、pGPTVベクターのビアラフォス抵抗性遺伝子(選抜マーカー)でない遺伝子部分にユニットAとユニットBを挿入することで(ユニットBが上流側)、本発明のsiRNA産生用ベクターを作製した。ユニットAには緑色蛍光タンパク質(GFP)遺伝子のORF(配列長:792bp)の+381〜480bpの100bpのセンス鎖配列とそのアンチセンス鎖配列との逆方向反復塩基配列構造の間にCAT1(カタラーゼ)遺伝子由来のイントロン(配列長:201bp、Ohta,S.ら、Plant and Cell Physiology 31:6:805−813.1990)をスペーサーとして連結して組み込んだ。ユニットBにはマルチクローニングサイトとして3種類の制限酵素認識サイト(ApaLI,AvrII,XhoI)を設け、その下流にユニットAに組み込んだGFP遺伝子のセンス鎖配列を組み込んだ。なお、ユニットAおよびユニットBのプロモーターはいずれも伴細胞で特異的に機能するCoYMVプロモーターを用い、ターミネーターはいずれもNOSターミネーターを用いた。次に、ユニットBのマルチクローニングサイトに標的遺伝子として植物の内生遺伝子であるクロロフィル合成経路に関与するGSA(Glutamate 1−Semialdehyde Aminotransferase)遺伝子(NtGSA2)のORF(配位長:1437bp)の+28〜891bpの864bpのセンス鎖配列を組み込んで目的とするphtsiGSAを得た(図1参照)。
【0018】
(2)phtsiGSAの機能評価
(a)phtsiGSAのアグロバクテリウムへの導入
アグロバクテリウムとしてAgrobacterium tumefacience EHA105株を用い、その単一コロニーをLB培地(組成は表1参照)に抗生物質(50mg/LのRifampicin)を添加した培地に植え付け、28℃で24時間振盪培養し、継代してさらに12時間振盪培養した。その後、4℃にて6000rpmで10分間遠心し、回収した菌を滅菌水および10%グリセロールで洗浄した。この菌のペレットを10%グリセロール1mLで懸濁し、そのうちの40μLを(1)で作製したphtsiGSA0.5〜1.0μgと混合し、混合液をキュベットに移し、20kV/cm,6msの条件でエレクトロポレーションすることで、phtsiGSAをアグロバクテリウムに導入した。電圧をかけたキュベット内の反応液にLB培地1mLを加え、1.5mLチューブに回収し、28℃で24時間培養した。抗生物質(50mg/LのRifampicinおよび50mg/LのKanamycin)を含むLB寒天培地上に培養液を塗布し、28℃で3日間培養した。得られたコロニーを新しいLB培地で培養し、アグロインフィルトレーションに用いた。
【0019】
【表1】

【0020】
(b)phtsiGSAを保持するアグロバクテリウムの植物への感染
LB培地5mLに抗生物質(50mg/LのRifampicinおよび50mg/LのKanamycin)を添加し、phtsiGSAを保持するアグロバクテリウムを28℃で一晩培養し、継代してさらに12時間振盪培養した。その後、室温にて3000rpmで20分間遠心し、回収した菌をOD600=1.0になるように懸濁液培地(組成は表2参照)に懸濁した。明所条件下の温室にて4週間栽培したNicotiana benthamianaの葉に8Gの注射針で穴をあけ、0.5mL程度の菌液を注入することでアグロインフィルトレーションした。その後、注入葉および最上位葉の腋芽を残し、葉や腋芽・頂芽を剃刀刃にて切除してから、明所条件下の温室にて5日間栽培した後、注入葉からRNA抽出を行った。
【0021】
【表2】

【0022】
(c)RNA抽出
液体窒素を用いて注入葉を十分にすりつぶし、RNA extraction buffer(10mMのTris−HCl、pH8.8、20mMのEDTA、200mMのNaCl、4%のSarkosyl、16mMのDTT)を加えよく混和した。等量のフェノール/クロロホルム/イソアミルアルコールを加えて2分間ほど混和した後、遠心分離を行った。上層を新しい遠沈管に移し、再び等量のフェノール/クロロホルム/イソアミルアルコールを加え混和した後、遠心分離を行った。上層を新しい遠沈管に移し、1/3量の8MのLiClを加え、よく混和し、氷上で一晩沈殿させた。遠心分離を行うことで得た上清に対してエタノール沈殿を行い、沈殿産物を滅菌水に溶解し、1/3量の20%のPEG8000/2MのNaClを加えて混和し、氷上で1時間静置した後、遠心分離を行い、上清を新しいチューブに移してエタノール沈殿を行い、低分子RNAを含む上清を得、ノーザンブロット分析に供するまでこの状態で−80℃に静置した。
【0023】
(d)ノーザンブロット分析
各サンプルを遠心分離して沈殿させ、適当量の滅菌水に溶解し、1レーンあたり低分子RNAが10μg相当になるように調整した。15%アクリルアミド変性ゲルで分離した後、メンブレンに転写した。メンブレンにRNAプローブ(適当な領域をin vitro転写によりDIGをラベリング)を加えて45℃で一晩ハイブリダイゼーションした後、常温で2×SSCで2回、55℃で2×SSC/0.5%のSDSで2回メンブレンを洗浄し、CDP−starによりRNAプローブのシグナルを視覚化した。結果を図1に示す。なお、図1には、ユニットAもユニットBも挿入していないベクターを植物体内に導入した場合の結果(n.c.)、ユニットAのみを挿入したベクターを植物体内に導入した場合の結果(silencer)、ユニットBのみを挿入したベクターを植物体内に導入した場合の結果(amplifier)、ユニットAのみを挿入したベクターとユニットBのみを挿入したベクターを混合して同時に植物体内に導入した場合の結果(silencer+amplifier)、ユニットBに組み込んだGSA遺伝子のセンス鎖配列とそのアンチセンス鎖配列の逆方向反復塩基配列構造を組み込んでなるベクターを植物体内に導入した場合の結果(GSA p.c.)をあわせて示す(1レーンあたりの低分子RNA量はすべて10μgに統一)。図1から明らかなように、本発明のsiRNA産生用ベクターを用いて作製したphtsiGSAは、植物の内生遺伝子であるGSA遺伝子を標的とするsiRNA(siGSA)を大量に産生することがわかった。
【0024】
(3)phtsiGSAの導入による形質転換タバコの作出
(2)の(a)で作製したphtsiGSAを保持するアグロバクテリウムを、抗生物質(50mg/LのRifampicinおよび50mg/LのKanamycin)を含むLbG培地(組成は表3参照)20mLで28℃で一晩培養し、継代してさらに6時間振盪培養した。その後、室温にて3000rpmで20分間遠心し、回収した菌をOD600=1.0になるように共存培地(組成は表4参照)に懸濁した。この懸濁液にNicotiana benthamianaの葉切片を浸し、ペーパータオル上に置床して余分な菌液を取り除いた後、共存培地にgellangumを0.3%添加して調製した固体培地上に葉切片を置床し、暗所条件下の室温にて3日間培養した。選抜薬剤(4.0mg/Lのビアラフォスおよび375mg/Lのオーグメンチン)を含む選抜培地(基礎となる培地の組成は表5参照)に葉切片を移植し、明所条件下の室温にて2.5〜3.5ヶ月間培養した(選抜培地は約1ヶ月ごとに更新)。カルスから得られてきたシュートは選抜薬剤を含むMS培地(組成は表6参照)に移植し、ビアラフォス耐性およびPCRによるphtsiGSA由来の塩基配列の検出により形質転換体であることを確認した。こうして得られた形質転換体は、順化し自殖によりその後代を得た後、4.0mg/Lのビアラフォスを含むMS培地に播種し、ビアラフォス耐性により形質転換体であることの確認と挿入コピー数の確認を行い、順次、各系統の世代更新を進めてホモ化を行った。その結果、T2世代のホモ個体は、葉脈に沿って葉緑素が減少しており、phtsiGSAの導入によってその標的遺伝子であるGSA遺伝子のサイレンシングが発動していることが確認できた(図2A)。また、(2)の(c)と(d)と同様にして、この形質転換タバコの葉からRNA抽出を行い、低分子RNAのノーザンブロット分析を行ったところ、phtsiGSAのユニットAから産生されたsiRNA(siGFP)とともに、ユニットBから産生されたsiRNA(siGSA)が検出できた(図2B:5.8S rRNAは当量の低分子RNAを泳動したことを示すコントロール)。
【0025】
【表3】

【0026】
【表4】

【0027】
【表5】

【0028】
【表6】

【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明は、植物体内で目的のsiRNAを産生するsiRNA産生ベクターを簡便に作製することができるsiRNA産生用ベクターを提供することができる点において産業上の利用可能性を有する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物体内で目的のsiRNAを産生させるためのsiRNA産生用ベクターであって、二本鎖RNAを形成させて1次siRNAを産生させるための任意のセンス鎖配列とそのアンチセンス鎖配列をプロモーターとターミネーターの間に有してなるユニットAと、目的のsiRNAが標的とする遺伝子の配列を組み込むためのマルチクローニングサイトと1次siRNAが結合する配列をプロモーターとターミネーターの間に有してなるユニットBを少なくとも含み、目的のsiRNAが標的とする遺伝子の配列をユニットBのマルチクローニングサイトに組み込んで植物体内に導入することで、この配列と1次siRNAが結合する配列からなるキメラ配列からキメラRNAが転写され、このキメラRNAにユニットAによって産生された1次siRNAが結合し、これを切断した後、このキメラRNAの切断物の相補鎖が合成されることによって二本鎖RNAが形成され、この二本鎖RNAが分断されることで目的のsiRNAが産生するようにしたことを特徴とするsiRNA産生用ベクター。
【請求項2】
ユニットAおよびユニットBのプロモーターとして伴細胞で特異的に機能するプロモーターを用いたことを特徴とする請求項1記載のsiRNA産生用ベクター。
【請求項3】
請求項1または2記載のsiRNA産生用ベクターのユニットBのマルチクローニングサイトに目的のsiRNAが標的とする遺伝子の配列を組み込んで植物体内に導入することで、植物体内で目的のsiRNAを産生させることを特徴とするsiRNA産生方法。
【請求項4】
請求項1または2記載のsiRNA産生用ベクターのユニットBのマルチクローニングサイトに目的のsiRNAが標的とする遺伝子の配列を組み込んでなることを特徴とするsiRNA産生ベクター。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−217743(P2011−217743A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−66127(P2011−66127)
【出願日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構、新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504229284)国立大学法人弘前大学 (162)
【Fターム(参考)】