説明

smallRNA二本鎖およびヘアピン型RNAの設計方法

【課題】Ago2の発現が高い組織(ヒトでは心臓や腎臓など)のみならず、Ago2の発現が低い組織(ヒトでは肝臓や膵臓など)においてもノックダウンの効率が高いsmall RNA二本鎖あるいはヘアピン型RNAを設計する方法を提供すること。
【解決手段】 small RNA二本鎖あるいはヘアピン型RNAの相補的な二本鎖部分において、RISCに取り込まれて作用する側の鎖(ガイド鎖)の配列は、標的としたいmRNAの配列に相補性が高くなる様に設計し、RISCから排除され分解される側の鎖(パッセンジャー鎖)の配列については、ガイド鎖と相補的な配列を基準に、(1)ガイド鎖の中心部位(5′末端から9番目から11番目)に対応するパッセンジャー鎖の位置に、少なくとも一つの塩基置換を行い、ミスマッチ又はG:U ゆらぎ(wobble)塩基対を導入すること、及び(2)ガイド鎖のシード領域(5′末端から2番目から8番目の塩基)および/又は3′-mid領域(5′末端から12番目から16番目の塩基)に対応するパッセンジャー鎖の位置に、少なくとも一つの塩基置換を行い、ミスマッチ又はG:U ゆらぎ(wobble)塩基対を導入することを含む、small RNA二本鎖あるいはヘアピン型RNAの設計方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、small RNA二本鎖およびヘアピン型RNAの設計方法に関する。
【背景技術】
【0002】
siRNAやmicroRNA (miRNA)を含むsmall RNAは、標的mRNAの切断や翻訳抑制等を通して、標的遺伝子の発現を抑制する。small RNAはそれ単独では機能せず、RNA induced silencing complex(RISC)に取り込まれた後、自身のもつ配列と対合できる特異的な標的に対して作用する。RISCの中心をなすのは、Argonaute (Ago)ファミリーと呼ばれる蛋白質であり、生物種によっては、Ago蛋白質は複数種類存在する(非特許文献1−3)。各small RNA分子は、特異的なAgo蛋白質に結合して機能する。Drosophila melanogaster(ハエ)では、Ago蛋白質は二種類存在し、small RNA二本鎖がもつ構造によって、どちらのAgoに結合するかが決定づけられている。ハエでは、前駆体であるmiRNA/miRNA*二本鎖の中心領域にミスマッチを有するような典型的なmiRNAは、主にAgo1に取り込まれ、相補性の高い外来性及び内在性のsiRNAは主にAgo2に取り込まれる(これをsmall RNAの分配システムと呼ぶ。非特許文献4−8)。ヒトには、4種類のAgo蛋白質(ヒトAgo1-4)が存在する。small RNAの分配システムはヒトを含む哺乳類にも存在すると考えられるが、他の動物や植物の場合ほど厳格なものではなく、siRNAやmiRNAを含むsmall RNAはAgo1-4すべてに取り込まれる(非特許文献9及び10)。ヒトではAgo1-4のすべてが翻訳抑制能を持つが、標的mRNAを切断するスライサー活性を持つのはヒトAgo2のみである(非特許文献11及び12)。ハエでは、Ago1およびAgo2はどちらも翻訳抑制能を持つが、Ago1の方がその活性が高い。また、どちらもスライサー活性を保持しているが、Ago1はAgo2より遥かに弱いエンドヌクレアーゼである(非特許文献5)。
【0003】
siRNA二本鎖やmiRNA/miRNA*二本鎖を含むsmall RNA二本鎖のうち、一方の鎖(ガイド鎖)のみが選択的にRISCに取り込まれ、もう一方の鎖(パッセンジャー鎖)はRISCから排除されて分解される。この過程を、siRNA二本鎖またはmiRNA/miRNA*二本鎖の一本鎖化、またはunwinding (巻き戻し)と呼ぶ。その結果、RISCに取り込まれて一本鎖になったsmall RNAは、自身の塩基配列と対合するmRNAと結合し、標的mRNA の切断または翻訳抑制を行う。Agoが二本鎖RNAを含む状態をpre-RISC、一本鎖RNAを含む状態を成熟型RISCと呼ぶ。ハエおよびヒトAgo2の場合(非特許文献13−15)、RLCからsiRNA二本鎖を受けとった後、パッセンジャー鎖を切断することで、ガイド鎖のみをもつ成熟型Ago2-RISCを形成する。しかし、ハエAgo1はスライサー活性が不十分であり(非特許文献5)、哺乳類のAgo1, 3及び4はスライサー活性を持たない(非特許文献11及び12)。それにもかかわらず、これらのAgoもsmall RNA二本鎖を一本鎖化することができる。このような、パッセンジャー鎖の切断を伴わないsmall RNA二本鎖の一本鎖化についての機構は、これまで不明であった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Bartel, D. P. microRNAs: genomics, biogenesis, mechanism, and function. Cell 116, 281-297 (2004).
【非特許文献2】Tomari, Y. & Zamore, P. D. Perspective: machines for RNAi. Genes Dev 19, 517-529 (2005).
【非特許文献3】Filipowicz, W. RNAi: the nuts and bolts of the RISC machine. Cell 122, 17-20 (2005).
【非特許文献4】Okamura, K., Ishizuka, A., Siomi, H. & Siomi, M. C. Distinct roles for Argonaute proteins in small RNA-directed RNA cleavage pathways. Genes Dev 18, 1655-1666 (2004).
【非特許文献5】Forstemann, K., Horwich, M. D., Wee, L., Tomari, Y. & Zamore, P. D. Drosophila microRNAs are sorted into functionally distinct Argonaute complexes after production by Dicer-1. Cell 130, 287-297 (2007).
【非特許文献6】Tomari, Y., Du, T. & Zamore, P. D. Sorting of Drosophila small silencing RNAs. Cell 130, 299-308 (2007).
【非特許文献7】Kawamura, Y. et al. Drosophila endogenous small RNAs bind to Argonaute2 in somatic cells. Nature 453, 793-797 (2008).
【非特許文献8】Ghildiyal, M. et al. Endogenous siRNAs derived from transposons and mRNAs in Drosophila somatic cells. Science 320, 1077-1081 (2008).
【非特許文献9】Azuma-Mukai, A. et al. Characterization of endogenous human Argonautes and their miRNA partners in RNA silencing. Proc Natl Acad Sci U S A 105, 7964-7969 (2008).
【非特許文献10】Su, H., Trombly, M. I., Chen, J. & Wang, X. Essential and overlapping functions for mammalian Argonautes in microRNA silencing. Genes Dev 23, 304-17 (2009).
【非特許文献11】Liu, J. et al. Argonaute2 is the catalytic engine of mammalian RNAi. Science 305, 1437-1441 (2004).
【非特許文献12】Meister, G. et al. Human Argonaute2 mediates RNA cleavage targeted by miRNAs and siRNAs. Mol Cell 15, 185-197 (2004).
【非特許文献13】Rand, T. A., Petersen, S., Du, F. & Wang, X. Argonaute2 cleaves the anti-guide strand of siRNA during RISC activation. Cell 123, 621-629 (2005).
【非特許文献14】Matranga, C., Tomari, Y., Shin, C., Bartel, D. P. & Zamore, P. D. Passenger-strand cleavage facilitates assembly of siRNA into Ago2-containing RNAi enzyme complexes. Cell 123, 607-620 (2005).
【非特許文献15】Miyoshi, K., Tsukumo, H., Nagami, T., Siomi, H. & Siomi, M. C. Slicer function of Drosophila Argonautes and its involvement in RISC formation. Genes Dev 19, 2837-2848 (2005).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、遺伝子のノックダウンに従来から使用されている相補的な(あるいは末端にのみミスマッチを導入した)siRNAあるいはヘアピン型RNAでは、スライサー活性を持つヒトおよびハエAgo2を核とするRISCは効率よく形成されるが、スライサー活性を持たないヒトAgo1,3,4およびスライサー活性の不十分なハエAgo1を核とするRISCの形成は効率が悪いことを生化学的な解析から明らかにした。よって、従来のsiRNAを用いた場合、Ago2の発現が低い組織においては、ノックダウンの効率が低いことが予想される。本発明は、Ago2の発現が高い組織(ヒトでは心臓や腎臓など)のみならず、Ago2の発現が低い組織(ヒトでは肝臓や膵臓など)においてもノックダウンの効率が高いsmall RNA二本鎖あるいはヘアピン型RNAを設計する方法を提供することを解決すべき課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討し、スライサー活性を持たないあるいはスライサー活性が不十分なAgoを核とするRISCの形成を効率よく進行させるため、small RNA二本鎖あるいはヘアピン型RNAの相補的な二本鎖領域の、複数の特定の部位にミスマッチを導入した。これにより、Ago2の発現が高い細胞種や組織のみならず、Ago2の発現が低い細胞種や組織においても、標的のノックダウンが従来のsiRNAあるいはヘアピン型RNAよりも効率よく行えるようになる。本発明はこれらの知見に基づいて完成したものである。
【0007】
即ち、本発明によれば、small RNA二本鎖あるいはヘアピン型RNAの相補的な二本鎖部分において、ガイド鎖の配列は、標的としたいmRNAの配列情報と相補性が高くなるように設計し、パッセンジャー鎖の配列については、ガイド鎖と相補的な配列を基準に、(1)ガイド鎖の中心部位(5′末端から9番目から11番目)に対応するパッセンジャー鎖の位置に、少なくとも一つの塩基置換を行い、ミスマッチ塩基対又はG:U ゆらぎ(wobble)塩基対を導入すること、及び(2)ガイド鎖のシード領域(5′末端から2番目から8番目の塩基)および/又は3′-mid領域(5′末端から12番目から16番目の塩基)に対応するパッセンジャー鎖の位置に、少なくとも一つの塩基置換を行い、ミスマッチ塩基対又はG:U ゆらぎ(wobble)塩基対を導入することを含む、small RNA二本鎖あるいはヘアピン型RNAの設計方法が提供される。
【0008】
さらに本発明によれば、small RNA二本鎖あるいはヘアピン型RNAの相補的な二本鎖部分において、ガイド鎖の配列は、標的としたいmRNAの配列情報と相補性が高くなるように設計し、パッセンジャー鎖の配列については、ガイド鎖と相補的な配列を基準に、(1)ガイド鎖の中心部位(5′末端から9番目から11番目)に対応するパッセンジャー鎖の位置に、少なくとも一つの塩基置換を行いミスマッチ塩基対又はG:U ゆらぎ(wobble)塩基対を導入すること、及び(2)ガイド鎖のシード領域(5′末端から2番目から8番目の塩基)および/又は3′-mid領域(5′末端から12番目から16番目の塩基)に対応するパッセンジャー鎖の位置に、少なくとも一つの塩基置換を行いミスマッチ塩基対又はG:U ゆらぎ(wobble)塩基対を導入することを含む、small RNA二本鎖あるいはヘアピン型RNAの製造方法が提供される。
【0009】
好ましくは、RISCから排除される鎖であるパッセンジャー鎖の配列については、ガイド鎖と相補的な配列を基準に、ガイド鎖のシード領域(5′末端から2番目から8番目の塩基)に対応するパッセンジャー鎖の位置に、少なくとも一つの塩基置換を行いミスマッチ又はG:U ゆらぎ(wobble)塩基対を導入する。
【0010】
さらに本発明によれば、上記した本発明の製造方法により製造されるsmall RNA二本鎖またはヘアピン型RNAが提供される。
【0011】
さらに本発明によれば、(i)上記した本発明の製造方法によりsmall RNA二本鎖またはヘアピン型RNAを製造する工程;及び(ii)工程(i)で製造したsmall RNA二本鎖またはヘアピン型RNAを細胞に導入して、標的遺伝子の発現を抑制する工程を含む、標的遺伝子の発現を抑制する方法が提供される。
さらに本発明によれば、上記した本発明の設計方法により設計されたヘアピン型RNAの配列を含むRNAをプロモーターを用いて細胞内において発現させ、標的遺伝子の発現を抑制する工程を含む、標的遺伝子の発現を抑制する方法が提供される。
【0012】
上記した本発明による標的遺伝子の発現を抑制する方法は、インビトロで細胞に対して行ってもよいし、ヒト以外の動物、又は植物、昆虫、微生物などに対してインビボで行ってもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明におけるショウジョウバエおよびヒト細胞を用いた生化学的な解析から、ガイド鎖の中心部分のミスマッチは、small RNA二本鎖がAgoに取り込まれる段階を、ガイド鎖のシードおよび3′-mid領域のミスマッチは、small RNA二本鎖が一本鎖化する段階を、それぞれ著しく促進することが明らかになった。即ち、本発明によれば、small RNA二本鎖あるいはヘアピン型RNAの相補的な二本鎖部分の、複数の特定の部分にミスマッチを導入することによって、標的mRNAに対してノックダウンをより効率よく誘導するような分子を設計することが可能になる。本発明によれば、Ago2の発現が高い組織(ヒトにおいては心臓や腎臓など)あるいは細胞種のみならず、Ago2の発現が低く従来のsiRNAによるノックダウン効率が低いと予想されるような組織(ヒトでは肝臓や脾臓など)あるいは細胞種において、従来のsiRNAあるいはヘアピン型RNAと比較して、効率よくノックダウンを引き起こすことが可能なsmall RNA二本鎖あるいはヘアピン型RNAを設計することが可能である。本発明の製造方法により製造されるsmall RNAあるいはヘアピン型RNAは、基礎生物学のツールとして、また医薬応用の観点から高い利用価値を有する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、ショウジョウバエにおいてガイド鎖の中心部のミスマッチはsmall RNA二本鎖をpre-Ago1-RISCに取り込ませる効率を上げる一方、ガイド鎖のシード又は3′-midのミスマッチはpre-Ago1-RISCから成熟型Ago1-RISCへの変換を促進することを示す。(a) 21-nt mm シリーズ (mm1-mm17) を使用して、15 (Cでpre-Ago1-RISCの形成を調べた。(b) aにおけるpre-Ago1-RISCの定量。(c) 21-nt MM10/mm シリーズ(MM10/mm1-17)を使用して、pre-Ago1-RISCから成熟型Ago1-RISCへの変換を25 (Cで調べた。(d) cにおけるpre-Ago1-RISC及び成熟型Ago1-RISCの定量。(e) 一本鎖化の効率を、[mature Ago1-RISC] / [mature Ago1-RISC]+[pre-Ago1-RISC]で示す。
【図2】図2は、ショウジョウバエにおいてミスマッチの位置は、small RNA二本鎖のAgo1への取り込み及び一本鎖化の両方において、ガイド鎖の5′末端から測定されることを示す。(a-b)25-nt mmシリーズ(25-nt mm1-mm19)を使用して、15℃でpre-Ago1-RISCの形成を調べた。(c-e)25-nt MM10/mmシリーズ(25-nt MM10/mm1-mm19)を使用して、25℃でpre-Ago1-RISCから成熟型Ago1-RISCへの変換を調べた。
【図3】図3は、ショウジョウバエにおいてG:U ゆらぎ (wobble)塩基対が、small RNA二本鎖のAgo1への取り込み及び一本鎖化の両方において、ミスマッチと同様に挙動することを示す。(a)21-nt small RNA二本鎖mmシリーズ(mm1, mm5, mm9, 及びmm15)及びG:Uシリーズ(G:U ゆらぎ (wobble)塩基対が、ガイド位置5、9又は15に対応する位置に導入されている(GU5, GU9、及びGU15))を使用して、15℃でpre-Ago1-RISCをpre-Ago1-RISCの形成を調べた。mm9及びGU9は、mm5, GU5、mm15又はGU15よりも、有意に高い量のpre-Ago1-RISCを形成した。位置5(シード領域)又は位置13(3′-mid領域)にA-U塩基対、G:Uゆらぎ(wobble)塩基対、又はU Uミスマッチを含むMM10二本鎖RNAを使用して、25℃で成熟型Ago1-RISCへの変換を調べた。シード領域又は3′-mid領域におけるG:Uゆらぎ(wobble)塩基対並びにミスマッチは、成熟型Ago1-RISCへの変換を促進した。
【図4】図4は、ヒトのAgo1,2,3,4を過剰発現させたHEK293T細胞から調製した抽出液を用いて、ショウジョウバエの場合(実施例1)と同様にネイティブゲルを行った結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明について更に詳細に説明する。
(1)small RNA二本鎖あるいはヘアピン型二本鎖RNAの設計方法
siRNAやmiRNAを含むsmall RNAは、Argonaute(Ago)ファミリー蛋白質を核とするRNA induced silencing complex: (RISC)を介して標的mRNAの発現を調節する。ショウジョウバエ(Drosophila)においては、miRNAは一般にAgo1を含むRISCに取り込まれ、siRNAは一般にAgo2を含むRISCに取り込まれる。ヒトにおいてはsiRNAやmiRNAを含むsmall RNAはAgo1-4すべてに取り込まれる。small RNA二本鎖を含むRISCをpre-RISC、small RNA一本鎖を含むRISCを成熟型RISCと呼ぶ。本発明者は、ハエAgo1およびヒトAgo1-4を核とするRISCの構成経路を生化学的に分析できるネイティブゲルシステムを確立し、RISC形成の素過程を解析した。その結果、ガイド鎖の中心部分(5′末端から9番目から11番目の塩基)のミスマッチは、small RNA二本鎖を効率よくAgoに取り込ませる一方、ガイド鎖のシード領域(5′末端から2番目から8番目の塩基)及び/又は3′-mid領域(5′末端から12番目から16番目の塩基)のミスマッチは、成熟型RISCへの転換を促進することを示した。
【0016】
本発明においては、small RNA二本鎖あるいはヘアピン型RNAの設計を行う際、以下の規則に従い、最終的にRISCから排除される方の鎖(パッセンジャー鎖)に塩基置換を導入し、相補的な二本鎖部分にミスマッチを形成させる。(1) small RNA二本鎖が効率よくAgoに取り込まれるために、RISCに取り込まれて作用する側の鎖(ガイド鎖)の中心部位(5′末端から9-11番目の塩基)に少なくとも一つのミスマッチ又はG:U ゆらぎ(wobble)塩基対を導入する (2)small RNA二本鎖が、Agoの内部において効率よく一本鎖化(成熟化)するために、ガイド鎖のseed領域(5′末端から2番目から8番目の塩基)および/又は3'-mid領域(5′末端から12番目から16番目の塩基)に、少なくとも一つのミスマッチ又はG:U ゆらぎ(wobble)塩基対を導入する。なお、small RNA二本鎖の非対称性[=どちらの鎖が最終的にRISCに残るか]の観点からは、seed領域に少なくとも一つミスマッチを持つことが好ましいと考えられる。
【0017】
本発明によるsmall RNA二本鎖あるいはヘアピン型RNAの設計方法では、標的遺伝子の塩基配列を検索し、ガイド鎖の配列は検索された塩基配列と相補性が高くなる様に設計し、パッセンジャー鎖の配列については、ガイド鎖と相補的な配列を基準として上記のルールに基づいて部分的に塩基置換を導入する。small RNA二本鎖には、オーバーハング部が通常設けられる。オーバーハング部とは、二本鎖のsmall RNA二本鎖において、各鎖の3′末端に設けられる一本鎖の状態で突出した部分である。オーバーハング部の長さは特に限定されないが、塩基数は2が特に好ましい。オーバーハング部の塩基配列は基本的には任意であるが、標的遺伝子と同一の塩基配列、dTdT又はUUなどを用いることができる。
【0018】
また、small RNA二本鎖またはヘアピン型RNAの、ガイド鎖の5′から1番目の塩基部分には、small RNA二本鎖の非対称性を規定する観点から、ミスマッチあるいはG:U ゆらぎ(wobble)塩基対を導入してもよい。
【0019】
(2)small RNA二本鎖あるいはヘアピン型RNAの製造方法
本発明におけるsmall RNA二本鎖あるいはヘアピン型RNAは、すべてRNAから構成されてもよいし、一部にDNA、あるいは2′-O-メチル化RNAや2′-F化RNAを含む2'位のRNA修飾体、あるいはホスホロチオエートやボラノホスフェートを含むリン酸ジエステル結合の酸素原子置換体のRNA修飾体を含む混成ポリヌクレオチドでもよい。
【0020】
small RNA二本鎖を構成する二本鎖部分の各鎖の塩基数はオーバーハング部を含めて18〜30であり、より好ましくは20〜22、特に好ましくは21である。また、オーバーハング部の塩基数は2であることが好ましい。ヘアピン型RNAを構成する二本鎖部分の各鎖の塩基数はオーバーハング部を含めて18〜30である、ループ部分の塩基数は4〜11である。
【0021】
RNAあるいは混成ポリヌクレオチドの合成は、化学合成によって合成してもよい。また、RNA、および混成ポリヌクレオチドの一部は通常のバイオテクノロジー等の手法に従って行うこともでき、所定の配列を有するDNA鎖を作製し、これを鋳型として転写酵素を用いて一本鎖RNAを合成し、一本鎖RNAを二本鎖化するなどの手法により合成することができる。
【0022】
例えば、本発明のsmall RNA二本鎖あるいはヘアピン型RNAは、鋳型となるDNAを調製し、これを鋳型としてRNAポリメラーゼを用いて転写を行うことにより製造することができる。
【0023】
本発明のsmall RNA二本鎖あるいはヘアピン型RNAを製造するための転写は、インビトロで行うことができる。また、RNAポリメラーゼとしては、T7RNAポリメラーゼ、SP6RNAポリメラーゼまたはT3RNAポリメラーゼなどを使用することができ、中でもT7RNAポリメラーゼを使用することが好ましい。RNAポリメラーゼを用いた転写反応は当業者に既知の常法で行なうことができ、例えば、鋳型のオリゴヌクレオチドを含む溶液に、塩化マグネシウム、NTP、スペルミジン、ジチオスレイトールを加え、最後にT7 RNAポリメラーゼを適当な濃度になるように加えて反応を行なうことができる。また、反応液中から副生成物であるピロリン酸を除去して転写反応を促進するために、ピロフォスファターゼを加えることが好ましい。このような反応混合物を37℃で60分間インキュベートすることにより転写反応を行うことができる。
【0024】
(3)標的遺伝子の発現の抑制
上記した本発明の方法で製造されるsmall RNA二本鎖あるいはヘアピン型RNAを用いて、標的核酸配列を含む遺伝子の発現をノックダウンすることが可能である。例えば、HeLa細胞などの培養細胞を用いる場合には、small RNA二本鎖あるいはヘアピン型RNAと適当なトランスフェクション試薬(例えば、OLIGOFECTAMINEなど)を混合し、培養細胞に添加することによりsmall RNA二本鎖あるいはヘアピン型RNAを培養細胞にトランスフェクションする。培養細胞は好適な条件下で培養することにより、細胞内でノックダウンが誘導され、標的配列を含む遺伝子の発現が抑制される。遺伝子の発現の抑制は、RT−PCR、ノザンブロット又はウエスタンブロットなどにより確認することができ、又は発現を抑制する遺伝子の機能が判明している場合には、細胞の表現型を観察することによって確認することも可能である。
【0025】
また、上記した本発明の方法で設計されるヘアピン型RNAを含む配列をもつRNAを、pol IIやpol III等の適切なプロモーターを用いて、細胞内で発現させることにより、標的配列を含む遺伝子の発現が抑制される。即ち、ヘアピン型RNAをコードするDNAを含む発現ベクターを細胞に投与することによって、細胞内でヘアピン型RNAを発現させることができる。発現ベクターを細胞に投与する方法としては、当業者に公知の方法を用いることができる。例えば、インビボ投与としては、発現ベクターを組織に直接注入してもよいし、全身投与してもよい。インビトロ投与としては、エレクトロポレーション又はリポフェクションなどが挙げられる。
【0026】
ヘアピン型RNAをコードするDNAを含む発現ベクターにおいては、ヘアピン型RNAをコードするオリゴヌクレオチドを、Pol III (例えば U6又はPolIII H1-RNA プロモーター)又はPol IIプロモーターなどの制御下に置くことができる。これにより、十分量のヘアピン型RNAを細胞内に発現させることができ、標的遺伝子の発現をノックダウンすることができる。このような発現ベクターは、通常のDNA組み換え技術により構築することができる。発現ベクターとしては、プラスミドベクター、ウイルスベクターなどを使用できる。ヘアピン型RNAをコードするDNAは、核酸合成装置などにより合成することができる。合成したオリゴヌクレオチドは、例えば、プロモーター配列(例えば、Pol II又はPol IIIプロモーター)、及び適当なターミネーター配列(例えば、SV40由来の切断及びポリアデニル化シグナル配列、又はPol IIIターミネーター配列)を含むプラスミドに組み込むことにより、発現ベクターを構築することができる。
【0027】
ヘアピン型RNAをコードするDNAを含む発現ベクターは、例えばウイルスベクターを用いて構築することができる。ウイルスベクターとしては、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、単純ヘルペスウイルス−1ベクターなどを使用できる。このようなウイルスベクターは、細胞に直接導入することができる。ヘアピン型RNAをコードするDNAを含む発現ベクターは、プラスミドベクターでもよい。プラスミドベクターの場合は、例えば、カチオン性リポソーム(リポフェクチン)、又は誘導化した(例えば、抗体を結合させた)ポリリジン結合体、グラマシジンS、人工ウイルスエンベロープなどを用いて、細胞にトランスフェクションすることができる。
【0028】
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
【実施例】
【0029】
実施例1:ショウジョウバエを用いた例
(方法)
(1)一般的な方法
40x反応ミックス(ATP, ATP再生系、及びRNaseインヒビターを含む)及びリシス緩衝液(30 mM HEPES (pH 7.4), 100 mM KOAc, 2 mM Mg(OAc)2) ,DounceホモジナイゼーションによるDrosophila melanogaster の胚抽出液の調製、T4ポリヌクレオチドキナーゼ(Takara)によるsmall RNAの放射標識は、既報の通り行った(Haley, B., Tang, G. & Zamore, P. D. In vitro analysis of RNA interference in Drosophila melanogaster. Methods 30, 330-336 (2003))。インビトロでのRISCアッセイは、全量10μL中に5μLの胚抽出液、3μLの40x反応ミックス、1μLのsmall RNA二本鎖 (最終濃度100 nM)、及び1μLの標的RNA (最終濃度100 nM)を含む溶液で行った。
【0030】
(2)標的mRNAの調製
Renilla ルシフェラーゼ遺伝子及び4x let-7 標的部位を3′UTR中に含むDNA断片をpsiCHECK2-let-7 4x(Iwasaki, S., Kawamata, T. & Tomari, Y. Drosophila Argonaute1 and Argonaute2 employ distinct mechanisms for translational repression. Mol Cell 34, 58-67(2009))からPCRにより増幅した。各標的部位には、Ago1-RISCによるエンドヌクレアーゼ切断を防ぐために、中心部分にミスマッチを導入した。RL 4x mRNAは、mScript mRNA Production System (Epicentre)を用いて転写した。成熟型Ago1-RISCが、RL 4x mRNAと同様の効率で、RL 1x mRNA (1x let-7 標的部位のみを含む)を用いて検出できることを確認した。図3b (左)においては、RL 1x MM10/(U:G)5 mRNA (中心バルジを有するMM10/(U:G)5ガイド鎖に相補的な1個の標的部位を有する) を使用した。
【0031】
(3)ネイティブゲル分析
ネイティブゲルは、1.5〜2 mmの厚さ、1.4% (w/v)アガロース (Low Range Ultra Agarose, Bio-Rad Laboratories)を用いた。Ago1-RISC形成過程における複合体を検出するために、10-20 nM の32P放射標識したsmall RNA二本鎖及び10 nMの標的mRNA(〜1.5k nt)を、標準RISCアッセイ条件下で、25 ℃又は15℃でインキュベートした。インキュベーション後、試料を垂直ネイティブアガロースゲル電気泳動により分離した(300 V、1.5時間、氷冷0.5x TBE 緩衝液)。複合体は、phosphoimageryにより検出し、BAS-1500 又はFLA-7000 イメージアナライザー及びMultigaugeソフトウエア(富士フイルム)を用いて定量した。
【0032】
(4)small RNA二本鎖の調製
以下の表1から表5に示すsmall RNA二本鎖を化学合成により調製した。
【0033】
【表1】

【0034】
【表2】

【0035】
【表3】

【0036】
【表4】

【0037】
【表5】

【0038】
(結果)
(1)中心部のミスマッチは、small RNA二本鎖のAgo1-RISCへの取り込みを促進する。
17種のsmall RNA二本鎖を調製した。1種は、機能的に非対称のlet-7 siRNA二本鎖(ガイド鎖及びパッセンジャー鎖が、ガイド位置1を除いて完全に相補的なもの)である(duplex mm1)。16種は、それぞれのガイド位置に対応するパッセンジャー鎖の位置にさらに1個のミスマッチを有する(duplexes mm2-mm17)。 ガイド鎖の配列はすべて同じである(表1を参照)。15℃(成熟型Ago1-RISC がほとんど形成されない条件)では、duplexes mm8-mm12が、pre-Ago1-RISCを効率的に形成した(図1a及びb)。Mm10 が最も活性が高かった。この結果から、中心部分のミスマッチが、pre-Ago1-RISCの形成に必須であることが示された。
【0039】
(2)シード及び3′−midのミスマッチは一本鎖化を促進する。
更に別の17種のsmall RNA二本鎖を作製した(duplexes MM10/mm1-mm17)(表2を参照)。これらの17種の二本鎖は、pre-Ago1-RISC形成を促進するガイド位置10にミスマッチが導入されている以外は、二本鎖mm1-mm17と同一である。25℃では、MM10/mm1及びMM10/mm9-mm11を含有するpre-Ago1-RISCの大部分が成熟型Ago1-RISCに変換されていないが、MM10/mm2-mm8及びMM10/mm12-mm15を含むpre-Ago1-RISCは、効率よく成熟型Ago1-RISCに変換されることが確認された(図1c、d及びe)。即ち、シード及び3′-mid (ガイド位置12から16)のミスマッチは、一本鎖化を促進する。
【0040】
(3)ミスマッチの位置は、ガイドの5′末端から正確に測られている。
ミスマッチの位置の測定が、正確に5′から計測されているかを調べるために、21ntより長い25-ntの二本鎖(表3及び表4を参照;25-nt mm及びMM10/mm シリーズ)を作製し、small RNA二本鎖がAgoに取り込まれる過程および成熟型Ago1-RISC形成過程を調べた。21-nt二本鎖シリーズの場合と同様に、25-nt二本鎖の位置7-11におけるミスマッチにより、pre-Ago1-RISCの形成は促進し (図2a及び,b)、シード又は32-mid領域におけるミスマッチは、一本鎖化を促進した(図2c、d及びe)。よって、ミスマッチの位置はガイドの5′末端から正確に測られているという結論になる。
【0041】
(4)G:U ゆらぎ(wobble)塩基対はsmall RNA二本鎖のAgo1への取り込み、および一本鎖化過程においてミスマッチのように挙動する。
完全に相補的な二本鎖のガイド位置5, 9又は15にG:U ゆらぎ(wobble)塩基対を導入した(G:U5, G:U9 or G:U15) (表5を参照)。中心領域のG:U ゆらぎ(wobble)塩基対(G:U9)は、ミスマッチと同様にAgo1-RISC形成を促進した (図3a)。次に、位置5又は13に、A-U 塩基対、G:U ゆらぎ(wobble)塩基対、又はU:U ミスマッチを含むMM10二本鎖RNAを作製した(表5を参照)。シード又は3′-mid領域におけるG:U ゆらぎ(wobble)塩基対は、ミスマッチの場合と同様、pre-Ago1-RISCから成熟型Ago1-RISCへの転換を促進した(図3b)。これらの結果は、miRNA二本鎖内のG:U G:U ゆらぎ(wobble)塩基対は、small RNA二本鎖のAgo1への取り込み、および一本鎖化の両方の過程において、ミスマッチと同様に挙動することを示している。
【0042】
実施例2:ヒト細胞を用いた例
(方法)
(1)ネイティブゲル分析
ネイティブゲル分析は、FLAG/HA-tagged Ago1, Ago2 又はAgo3, 又はFLAG-tagged Ago4を発現するHEK 293T細胞の抽出液を用いて、実施例1と同様に行った。但し、標的mRNAは、RL 4x mRNAの代わりにanti-let-7 2'-O-Meオリゴヌクレオチドを使用した。
【0043】
(2)プラスミドの構築
pIRES-neo-FLAG-HA-Ago1, 2, 3及び 4は、既報のものを使用した (Meister, G. et al. Human Argonaute2 mediates RNA cleavage targeted by miRNAs and siRNAs. Mol Cell 15, 185-197 (2004))。pCAGEN-FLAG-Ago4を構築するために、全長ヒト Ago4配列を、pIRES-neo-FLAG-HA-Ago4からEcoRI部位及びFLAG-tag配列を含む5′プライマー及びNotI部位を含む3′プライマーを用いてPCR で増幅し、pCAGENベクターのEcoRI/NotI部位に挿入した(Matsuda et al. Electroporation and RNA interference in the rodent retina in vivo and in vitro.Proc Natl Acad Sci USA. 101, 16-22. (2004))。
【0044】
(3)細胞培養及びトランスフェクション
HEK 293T細胞は、37℃,5%CO2中で、10% 胎児ウシ血清(FBS), 100 U/ml ペニシリン及び100 μg/mlストレプトマイシンを補充したダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)中で培養した。HEK 293T細胞に、Fugene HDトランスフェクション試薬(Roche)を用いてプラスミドDNAをトランスフェクションした。トランスフェクションの前日、指数増殖期の細胞を10 cmプレートに、抗生物質を含まない培地中に1.4 x 105細胞/mlの密度で撒いた。翌日、細胞に、6 μg/プレートのプラスミドDNAをトランスフェクションし、Ago1,2,3は24時間後、Ago4は48時間後に回収した。
【0045】
(4)ライセートの調製
HEK 293T細胞をPBS (pH 7.4)で洗浄し、遠心により回収した。細胞ペレットを、5 mM DTT及び1 mg/ml Complete EDTA-free protease inhibitor tablets (Roche)を含有する2ペレット容量のリシス緩衝液(100 mM KOAc, 30 mM HEPES-KOH (pH 7.4), 2 mM Mg(OAc)2)に再懸濁し、Douncingでホモジナイズした。ライセートは、17,000 x gで4℃で20分間遠心することによってその上清を回収した。上清を液体窒素で凍結し、-80℃で保存した。
【0046】
(5)small RNA二本鎖
実施例1で用いた21塩基のsmall RNA二本鎖と同じものを使用した。
【0047】
(結果)
ヒトのAgo1,2,3,4を過剰発現させたHEK 293T細胞から調製した抽出液を用いて、ショウジョウバエの場合(実施例1)と同様にネイティブゲルを行った結果を図4に示す。上段は、ミスマッチをそれぞれの場所に一カ所持つsmall RNA二本鎖が、pre-RISC(二本鎖を含む状態)を形成する効率を見たものであり、真ん中付近にミスマッチがある場合に促進された。下段は、10番目に一つのミスマッチを有するsmall RNA二本鎖に、さらにもう一つそれぞれの場所にミスマッチを導入した二本鎖RNAが、pre-RISCから成熟型RISCに変換されるところを観察したものであり、10番目に加えてseed領域(2-8)あるいは3'-mid領域(12-16番目)にミスマッチを有する場合に、効率よく成熟型RISCが形成された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
small RNA二本鎖あるいはヘアピン型RNAの相補的な二本鎖部分において、RISCに取り込まれて作用する側の鎖であるガイド鎖の配列は、標的としたいmRNAの配列情報と相補性が高くなるように設計し、RISCから排除されて分解される側の鎖であるパッセンジャー鎖の配列については、ガイド鎖と相補的な配列を基準に、(1)ガイド鎖の中心部位(5′末端から9番目から11番目)に対応するパッセンジャー鎖の位置に、少なくとも一つの塩基置換を行い、ミスマッチ塩基対又はG:U ゆらぎ(wobble)塩基対を導入すること、及び(2)ガイド鎖のシード領域(5′末端から2番目から8番目の塩基)および/又は3′-mid領域(5′末端から12番目から16番目の塩基)に対応するパッセンジャー鎖の位置に、少なくとも一つの塩基置換を行い、ミスマッチ塩基対又はG:U ゆらぎ(wobble)塩基対を導入することを含む、small RNA二本鎖あるいはヘアピン型RNAの設計方法。
【請求項2】
RISCから排除される鎖であるパッセンジャー鎖の配列は、ガイド鎖と相補的な配列を基準に、ガイド鎖のシード領域(5′末端から2番目から8番目の塩基)に対応するパッセンジャー鎖の位置に、少なくとも一つの塩基置換を行い、ミスマッチ又はG:U ゆらぎ(wobble)塩基対を導入する、請求項1に記載のsmall RNA二本鎖あるいはヘアピン型RNAの設計方法。
【請求項3】
small RNA二本鎖あるいはヘアピン型RNAの相補的な二本鎖部分において、ガイド鎖の配列は、標的としたいmRNAの配列情報と相補性が高くなるように設計し、パッセンジャー鎖の配列については、ガイド鎖と相補的な配列を基準に、(1)ガイド鎖の中心部位(5′末端から9番目から11番目)に対応するパッセンジャー鎖の位置に、少なくとも一つの塩基置換を行い、ミスマッチ塩基対又はG:U ゆらぎ(wobble)塩基対を導入すること、及び(2)ガイド鎖のシード領域(5′末端から2番目から8番目の塩基)および/又は3′-mid領域(5′末端から12番目から16番目の塩基)に対応するパッセンジャー鎖の位置に、少なくとも一つの塩基置換を行い、ミスマッチ塩基対又はG:U ゆらぎ(wobble)塩基対を導入することを含む、small RNA二本鎖あるいはヘアピン型RNAの製造方法。
【請求項4】
RISCから排除される鎖であるパッセンジャー鎖の配列については、ガイド鎖と相補的な配列を基準に、ガイド鎖のシード領域(5′末端から2番目から8番目の塩基)に対応するパッセンジャー鎖の位置に、少なくとも一つの塩基置換を行い、ミスマッチ又はG:U ゆらぎ(wobble)塩基対を導入する、請求項3に記載のsmall RNA二本鎖あるいはヘアピン型RNAの製造方法。
【請求項5】
請求項3又は4に記載の製造方法により製造されるsmall RNA二本鎖またはヘアピン型RNA。
【請求項6】
(i)請求項3又は4に記載の製造方法によりsmall RNA二本鎖またはヘアピン型RNAを製造する工程;及び(ii)工程(i)で製造したsmall RNA二本鎖またはヘアピン型RNAを細胞に導入して、標的遺伝子の発現を抑制する工程を含む、標的遺伝子の発現を抑制する方法。
【請求項7】
請求項1又は2に記載の設計方法により設計されたヘアピン型RNAの配列を含むRNAをプロモーターを用いて細胞内において発現させ、標的遺伝子の発現を抑制する工程を含む、標的遺伝子の発現を抑制する方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2011−4708(P2011−4708A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−153798(P2009−153798)
【出願日】平成21年6月29日(2009.6.29)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】