説明

固体電解コンデンサの製造方法

【課題】従来の固体電解コンデンサより、漏れ電流が低く、電気特性の安定した固体電解コンデンサの製造方法を提供する。
【解決手段】表面に陽極酸化皮膜が形成された陽極箔と、陰極箔とをセパレータを介して巻回したコンデンサ素子に、導電性高分子を保持させ、所定のケースに収納後、エージングを行う固体電解コンデンサの製造方法において、
前記エージングが、少なくとも第1エージング工程と第2エージング工程からなり、エージングの雰囲気温度が、第1エージング工程より第2エージング工程の方が高く、
第1エージング工程の雰囲気温度が、20〜45℃であり、
上記第1エージング工程の印加電圧が、定格電圧以下であり、
第2エージング工程の雰囲気温度が、110〜200℃であり、印加電圧が定格電圧を超え、
上記の導電性高分子がポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリエチレンジオキシチオフェンであることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体電解コンデンサの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、電解コンデンサの陽極電極は、アルミニウム、タンタル、ニオブ等の弁作用金属からなるが、この陽極電極はエッチングピットや微細孔を持ち、陽極電極表面に誘電体となる酸化皮膜層を形成し、この酸化皮膜層上に電解質層を形成し、電極を引き出して構成される。電解コンデンサにおける真の陰極は、この電解質層であり、この電解質層が、電解コンデンサの電気特性に大きな影響を及ぼすため、数々の形成方法が提案されている。
【0003】
固体電解コンデンサは、イオン伝導性であるために高周波領域でインピーダンス特性が悪化する液状の電解質に替えて、電子伝導性である固体の電解質を用いるもので、中でも7,7,8,8−テトラシアノキノジメタン(TCNQ)錯体が知られており、このTCNQ錯体を熱溶融して陽極電極に浸漬、塗布し、固体電解層を形成している(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、他の手法としてポリエチレンジオキシチオフェン(PEDT)等の導電性高分子を固体電解質として用いることが試みられている(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
一般的にコンデンサは、その漏れ電流を低くするために、ある一定雰囲気温度下で電圧を印加するエージングを行う。特に、PEDTを固体電解質とした固体電解コンデンサは、他のコンデンサと比較して漏れ電流が大きいため、様々なエージング方法が検討されている(例えば、特許文献3、4参照)。
【特許文献1】特開昭58−191414号公報
【特許文献2】特開平2−15611号公報
【特許文献3】特開2003−289019号公報
【特許文献4】特開2005−109076号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
PEDTを固体電解質とした固体電解コンデンサは、高温下で定格電圧より高い電圧を印加することで、漏れ電流を小さくできるため、エージング方法が種々検討されている。しかし、定格電圧より高い電圧を製品に印加すると、エージング初期に大電流が製品に流れるため、コンデンサの発熱量が大きくなり、製品の電気特性(特に静電容量やESR)の劣化、または、漏れ電流が絞れないという現象が起こる。
しかし、高温下で定格電圧より低い電圧を印加するエージング方法では、漏れ電流が十分に小さくできないという問題があった。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するもので、従来より、漏れ電流が低く、電気特性の安定した固体電解コンデンサの製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明は、表面に陽極酸化皮膜が形成された陽極箔と、陰極箔とをセパレータを介して巻回したコンデンサ素子に、導電性高分子を保持させ、所定のケースに収納後、エージングを行う固体電解コンデンサの製造方法において、
上記エージングが、少なくとも第1エージング工程と第2エージング工程からなり、エージングの雰囲気温度が、第1エージング工程より第2エージング工程の方が高いことを特徴とする固体電解コンデンサの製造方法である。
【0009】
また、上記の第1エージング工程の雰囲気温度が、20〜45℃であることを特徴とする固体電解コンデンサの製造方法である。
【0010】
さらに、上記の第1エージング工程の印加電圧が、定格電圧以下であることを特徴とする固体電解コンデンサの製造方法である。
【0011】
また、上記の第2エージング工程の雰囲気温度が、110〜200℃であることを特徴とする固体電解コンデンサの製造方法である。
【0012】
さらに、上記の第2エージング工程の印加電圧が、定格電圧を超えることを特徴とする固体電解コンデンサの製造方法である。
【0013】
また、上記の導電性高分子がポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリエチレンジオキシチオフェンであることを特徴とする固体電解コンデンサの製造方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、高温雰囲気下でのエージング工程の前に低温雰囲気下でのエージング工程を設けることで、エージング初期に大電流が印加されて、発熱することを抑制できるので、電気特性を悪化させることなく、漏れ電流を低減することができる。
なお、第1エージング工程では、雰囲気温度を20〜45℃、印加電圧を定格電圧以下とすることが好ましい。エージング条件を前記範囲とすることで、第2エージング工程初期で印加される電流値を抑制することができるので、高温で定格電圧を超える電圧を印加しても、電気特性が安定しながら、漏れ電流を低減した固体電解コンデンサを提供することができる。
【0015】
また、第2エージング工程は、雰囲気温度を110〜200℃、印加電圧が定格電圧を超えることが好ましい。雰囲気温度が110℃未満では漏れ電流の改善効果が十分ではなく、200℃を超えると導電性高分子が劣化し、電気特性の信頼性が低下する傾向がある。より好ましい範囲は、125〜150℃である。さらに、印加電圧が定格電圧以下では漏れ電流の改善効果が十分ではない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
[実施例1]
以下、本発明について具体的に説明する。
まず、アルミニウム等の弁作用金属からなる陽極電極箔の表面をエッチングにより粗面化し、陽極酸化により酸化皮膜層を形成する。また、同様に、陰極電極箔の表面をエッチングにより粗面化する。その後、必要面積に切断した陽極電極箔および陰極電極箔に、それぞれ陽極リード線および陰極リード線を接続し、天然繊維系セパレータを介して巻回する公知の方法で図1に示すコンデンサ素子を作製した。
【0017】
続いて、上記のコンデンサ素子をアジピン酸アンモニウム水溶液中で、電圧を印加し、素子化成を行った。さらに素子化成済みのコンデンサ素子を加熱して、炭化処理を行い、重合前処理を行った。なお、合成繊維系やガラス繊維系セパレータの場合は、炭化処理を行わなくてもよい。
【0018】
この重合前処理済みコンデンサ素子を、p−トルエンスルホン酸鉄溶液に浸漬後、100℃で30分間加熱し乾燥した。次に、3,4−エチレンジオキシチオフェンを溶媒で1/2の濃度に希釈調合した液にこのコンデンサ素子を浸漬した後、引き上げ、100℃で60分間加熱して化学重合によるPEDTを含浸した。
さらに、コンデンサ素子を有底筒状の外装ケースに収納し、開口部をゴムパッキング等により密封した後、第1エージングとして25℃の雰囲気下で、電圧10Vを5分間印加、第2エージングとして125℃の雰囲気下で、電圧22Vを60分間印加してエージング処理を行い、定格20V−47μFの固体電解コンデンサを作製した。
【0019】
(従来例1)
エージング処理を、125℃の雰囲気下で、電圧22Vを60分間印加して1回のみ行った以外は実施例1と同様な方法で行い、同仕様の固体電解コンデンサを作製した。
【0020】
上記、実施例1および従来例1について、それぞれの電気特性を測定した結果を表1に示す。
【0021】
[表1]

【0022】
表1から明らかなように、実施例1は、従来例1と比較し、漏れ電流が低く、静電容量、ESRが良好な電気特性が得られた。
【0023】
[実施例2、3]第1エージング工程の雰囲気温度による比較
第1エージングの温度を各々45℃、55℃とした以外は、実施例1と同様の方法でエージングを行い、同仕様の固体電解コンデンサを作製し、それぞれの電気特性を測定した。その結果を表2に示す。
【0024】
[表2]

【0025】
実施例1〜3と従来例1とを比較すると明らかなように、実施例1〜3は、従来例1より漏れ電流が低く、静電容量、ESRも優れていることが分かる。しかし、実施例1、2と実施例3とを比較すると、漏れ電流、ESRが悪化する傾向にあるため、第1エージングの温度は45℃以下がより望ましいことがわかる。
【0026】
[実施例4、5]第2のエージング工程の雰囲気温度による比較
第2エージングの温度を各々105℃、150℃とした以外は、実施例1と同様な方法でエージングを行い、同仕様の固体電解コンデンサを作製し、それぞれの電気特性を測定した。その結果を表3に示す。
【0027】
[表3]

【0028】
実施例1、4、5と従来例1とを比較すると明らかなように、実施例1、4、5は、従来例1より漏れ電流が低く、静電容量、ESRも優れていることが分かる。しかし、実施例4は実施例5と比較すると、漏れ電流が悪化する傾向にあるため、第2エージングの温度は125℃以上がより望ましいことがわかる。
【0029】
[実施例6]第1エージングの電圧による比較
エージングの第1ステップの電圧を定格電圧より高い22Vとした以外は、実施例1と同様な方法でエージングを行い同仕様の固体電解コンデンサを作製し、それぞれの電気特性を測定した。
【0030】
[実施例7]第2エージングの電圧による比較
エージングの第2ステップの電圧を定格電圧より低い16Vとした以外は、実施例1と同様な方法でエージングを行い同仕様の固体電解コンデンサを作製し、電気特性を測定した。実施例6、7の測定結果を表4に示す。
【0031】
[表4]

【0032】
実施例1、6、7と従来例1とを比較すると明らかなように、実施例1、6、7は、従来例1より漏れ電流が低く、静電容量、ESRも優れていることが分かる。しかし、実施例6、7は実施例1と比較すると、漏れ電流が悪化する傾向にあるため、第1エージングの電圧は定格電圧以下、第2エージングの電圧は定格電圧を超えるよう設定することがより望ましいことがわかる。
【0033】
本発明の実施例は、エージング工程を2回にて行ったが、これに限らず、20〜45℃の雰囲気下で定格電圧以下の電圧を印加する工程と、110℃以上の雰囲気下で定格電圧を超える電圧を印加する工程を含んでいれば、3回以上のステップでの電圧処理を行っても同様の効果を得ることができる。
さらに、各エージング工程の間に固体電解コンデンサを冷却する工程を設けてもよい。
【0034】
また、本発明の実施例は、PEDTを固体電解質に用いたが、公知の導電性高分子(ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン)を用いても同様の効果が得られる。
さらに、本発明の実施例は、酸化剤とモノマーをコンデンサ素子に別々に含浸する方法を用いたが、予め酸化剤とモノマーを混合調合した溶液をコンデンサ素子に含浸する方法を用いても同様の効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明によるコンデンサ素子の分解斜視図である。
【符号の説明】
【0036】
1 陽極箔
2 セパレータ
3 陰極箔
4 コンデンサ素子本体
5 陽極リード線
6 陰極リード線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に陽極酸化皮膜が形成された陽極箔と、陰極箔とをセパレータを介して巻回したコンデンサ素子に、導電性高分子を保持させ、所定のケースに収納後、エージングを行う固体電解コンデンサの製造方法において、
上記エージングが、少なくとも第1エージング工程と第2エージング工程からなり、エージングの雰囲気温度が、第1エージング工程より第2エージング工程の方が高いことを特徴とする固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の第1エージング工程の雰囲気温度が、20〜45℃であることを特徴とする固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項3】
上記第1エージング工程の印加電圧が、定格電圧以下であることを特徴とする請求項1または2記載の固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項4】
請求項1記載の第2エージング工程の雰囲気温度が、110〜200℃であることを特徴とする固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項5】
上記第2エージング工程の印加電圧が、定格電圧を超えることを特徴とする請求項1または4記載の固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項6】
上記の導電性高分子がポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリエチレンジオキシチオフェンであることを特徴とする請求項1記載の固体電解コンデンサの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−60185(P2008−60185A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−233028(P2006−233028)
【出願日】平成18年8月30日(2006.8.30)
【出願人】(000004606)ニチコン株式会社 (656)