説明

トンネル切羽の補強工法および切羽補強部材

【課題】 簡単な構造でコストの低い切羽補強部材およびこれを用いた経済的な補強工法の提供。
【解決手段】 鋼棒の先端に先鋭部a1を有し、後端に該鋼棒よりも大径にした鋼製の肉厚円板部a2を有する切羽補強部材a,a’。また、切羽2に削孔3を掘削する削孔工程と、その削孔3に請求項1記載の切羽補強部材aを設置するとともに、その後方に爆薬4,4’を設置する装薬工程と、上記爆薬4,4’を発破して上記切羽2の掘削を進めるとともに、上記切羽補強部材aを、切羽2前方の地山内に貫入させる発破工程とからなるトンネル切羽の補強工法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネル切羽の崩落災害を防止するための補強工法および切羽補強部材に関する。
【背景技術】
【0002】
トンネル掘削工事において、作業員が切羽に接近しなければならない作業としては、爆薬の装薬、支保工設置、補助工法における注入やロッド継ぎ等の作業がある。
このような作業は、全体の作業時間のうち30〜40%程度の時間を占めるだけであるにもかかわらず、トンネル災害のうち切羽崩落災害が占める割合は50%を超えている。
【0003】
その切羽崩落災害を防止するために切羽を補強する従来の補強工法としては、たとえば特許文献1に記載されているものがある。
【0004】
この工法は、発破により掘削しようとするトンネル切羽の前方の地山に、ボルト材(切羽補強部材)を定着させて、発破後の切羽が崩落しないよう事前に補強するもので、具体的には、そのボルト材は、一側に凹溝状の機械加工部を設けて内圧により拡径可能にした中空筒体状のものであり、これを切羽の削孔奥端部に設置するとともに、爆薬の爆発の圧力で上記機械加工部を引き延ばして削孔内でこれを拡径させることで地山に定着させ、切羽を補強するものである。
【0005】
【特許文献1】特開2000−356091号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記ボルト材は、削孔内で拡径可能にするために、予め凹溝状の上記機械加工部を形成した構造にしておく必要があり、その加工費が嵩むものであった。
【0007】
そこで、本発明は、より簡単な構造でコストの低い切羽補強部材およびこれを用いた経済的な補強工法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1記載の本発明は、鋼棒の先端に先鋭部a1を有し、後端に該鋼棒よりも大径にした鋼製の肉厚円板部a2を有する切羽補強部材a,a’である。
【0009】
請求項2記載の本発明は、切羽2に削孔3を掘削する削孔工程と、その削孔3に請求項1記載の切羽補強部材aを設置するとともに、その後方に爆薬4,4’を設置する装薬工程と、上記爆薬4,4’を発破して上記切羽2の掘削を進めるとともに、上記切羽補強部材aを、切羽2前方の地山内に貫入させる発破工程とからなるトンネル切羽の補強工法である。
【0010】
請求項3記載の本発明は、上記削孔3の掘削位置を1発破ごとにずらして、上記掘削工程・装薬工程および発破工程を繰り返し行う請求項2記載のトンネル切羽の補強工法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明切羽補強部材は簡単な構造であり低コストで、これを用いた本発明補強工法は経済的に施工できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
鋼棒の先端に先鋭部a1を有し、後端に該鋼棒よりも大径にした鋼製の肉厚円板部a2を有する切羽補強部材a,a’。
【0013】
切羽2に削孔3を掘削する削孔工程と、その削孔3に請求項1記載の切羽補強部材aを設置するとともに、その後方に爆薬4,4’を設置する装薬工程と、上記爆薬4,4’を発破して上記切羽2の掘削を進めるとともに、上記切羽補強部材aを、切羽2前方の地山内に貫入させる発破工程とからなるトンネル切羽の補強工法。
【実施例】
【0014】
aは、異形鋼棒の先端に四角錐状にした先鋭部a1を有し、後端に該鋼棒よりも大径にした鋼製の肉厚円板部a2を有するアンカー(切羽補強部材;部材名称=NS(Nail Shoot)部材)である(図1参照)。
このアンカーaの全長は500mm、上記鋼棒の直径は25mm、上記肉厚円板部a2の直径は40mm、厚さは16mmであるが、各部の寸法は変更可能である。たとえば、全長200mm,300mm,400mm等のものが考えられる。
また、異形鋼棒でなく丸鋼棒を使用してもよく、先鋭部a1は円錐状あるいは四角錘以外の角錐状にしてもよい。
上記肉厚円板部a2は、鋼棒に対して板材を溶接して形成もよいし、鋼棒の後端を熱間鍛造して形成してもよい。
【0015】
本実施例のトンネル切羽の補強工法(工法名称:NS(Nail Shoot)工法)は、上記アンカーaを使用して、下記のように施工される。
【0016】
<1>削孔工程(図2)
ドリルジャンボ1により切羽2に爆薬を装填するための削孔3を複数所定の間隔を開け所要位置に掘削する。この削孔は、通常の削孔長(1m)よりも上記アンカーaの長さ(50cm)程度長く削孔する。
この削孔長は、切羽の地質状況およびアンカーaの長さを考慮して適宜変更することができる。
なお、図2において、符号3’を付したものは、前回の発破の際に残った削孔の奥端部、符号a’を付したものは、その削孔の凹端部3’から前回の発破により地山に貫入したアンカーである。
【0017】
<2>装薬工程(図3)
掘削した各削孔3内をキューレン(孔内清掃器具)にて清掃し、その奥端に上記アンカーaを設置する。
【0018】
そのアンカーaの後方に、親ダイ(電気雷管を装着した爆薬)4および増しダイ(電気雷管を装着しない爆薬)4’を1〜3本(その数は地山状態により設定する)設置し、2〜5ケ程度のアンコ(爆破により爆薬が鉄砲のようにトンネル内へ発射されないようにし、地山を破壊するようにするための砂や粘土でできた込めもの)(図示しない。)を詰める。
【0019】
<3>発破工程(図4)
上記親ダイ4および増しダイ4’を発破することにより、切羽2の掘削を進める。
この発破により、同時に、上記アンカーaがピストル弾のように大きな衝撃力をもって切羽2の前方の地山内に貫入する(図4(a))。
貫入したアンカーaは、地山内に存在する亀裂や節理を縫って結合し、また、軟弱層を補強するなどの効果を奏するので、切羽の崩落を防止することができる。
【0020】
<4> 次の削孔・装薬・発破(図5)
上記<1>〜<3>の工程を繰り返し行うことにより、切羽2の崩落を防止しつつ発破の掘削を進める。
なお、地山の状況に応じ、上記削孔3の掘削位置は1発破ごとにずらして行うことができる。すなわち、切羽への掘削は、図5に示すように前回の発破の際に装薬しその前方にアンカーaが嵌入している削孔3とはずらした削孔位置3”に行うなどするのが好ましい。
【0021】
上記のとおり、本実施例の工法は、トンネル切羽の安定に貢献するもので、特に、発破後の、支保工立込み、次の発破のための装薬など、作業員が切羽に接近する作業の際、切羽の崩落災害を回避できるメリットがある。
【0022】
また、この工法は、従来のドリルジャンボ1により施工できるもので、特殊な機械や設備を必要としないし、アンカーaの設置本数の決定やそのの長さの選定も、切羽の地質条件により応じて適時判断できるので、現場に応じて適切な施工が行えるなどのメリットがある。
さらに、特殊な機械や設備が不要でしかも上記アンカーaが簡単な構造のものであるから、従来の鏡吹付けコンクリートと比較しても非常に経済的な工法である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】(a)は、本発明の実施例に係るアンカー(切羽補強部材)の側面図、(b)はその背面図である。
【図2】ドリルジャンボによる削孔作業を行っている状態を示すトンネルの縦断面図である。
【図3】アンカーの設置および爆薬の装薬の状態を示す切羽の削孔の縦断面図である。
【図4】(a)は上記爆薬の発破前の状態、(b)はその発破によりアンカーが前方の地山に貫入した状態を示す切羽の削孔の縦断面図である。
【図5】前回の発破のための削孔と次回の発破のための削孔との位置関係を示す切羽の正面図である。
【符号の説明】
【0024】
a,a’ アンカー(切羽補強部材)
a1 先鋭部
a2 肉厚円板部
1 ドリルジャンボ
2 切羽
3,3’,3” 削孔
4,4’ 爆薬

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼棒の先端に先鋭部を有し、後端に該鋼棒よりも大径にした鋼製の肉厚円板部を有することを特徴とする切羽補強部材。
【請求項2】
切羽に削孔を掘削する削孔工程と、その削孔に請求項1記載の切羽補強部材を設置するとともに、その後方に爆薬を設置する装薬工程と、上記爆薬を発破して上記切羽の掘削を進めるとともに、上記切羽補強部材を、切羽前方の地山内に貫入させる発破工程とからなることを特徴とするトンネル切羽の補強工法。
【請求項3】
上記削孔の掘削位置を1発破ごとにずらして、上記掘削工程・装薬工程および発破工程を繰り返し行うことを特徴とする請求項2記載のトンネル切羽の補強工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−214855(P2008−214855A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−49298(P2007−49298)
【出願日】平成19年2月28日(2007.2.28)
【出願人】(507296805)株式会社TSC (3)