ヒト網膜色素上皮細胞を用いた光毒性試験法
【課題】被験物質の光毒性発現能力の検定を効果的に行なうことができる光毒性試験方法を提供すること。
【解決手段】下記工程(1)〜(4)を有することを特徴とする光毒性試験方法等。
(1)ヒト網膜色素上皮細胞に被験物質を接触させる第一工程、
(2)第一工程で被験物質を接触させたヒト網膜色素上皮細胞を、第一工程における接触開始後24時間以内に、340nmから380nmまでの範囲の波長分布を含む人工光を照射しながら培養する第二工程、
(3)第二工程で培養されたヒト網膜色素上皮細胞を回収し、回収された培養細胞の細胞毒性若しくはそれに相関関係を有する指標値を測定する第三工程、
(4)第三工程の測定結果によって被験物質の光毒性発現能力の有無又はその程度を評価し、被験物質の光毒性発現能力を検定する第四工程。
【解決手段】下記工程(1)〜(4)を有することを特徴とする光毒性試験方法等。
(1)ヒト網膜色素上皮細胞に被験物質を接触させる第一工程、
(2)第一工程で被験物質を接触させたヒト網膜色素上皮細胞を、第一工程における接触開始後24時間以内に、340nmから380nmまでの範囲の波長分布を含む人工光を照射しながら培養する第二工程、
(3)第二工程で培養されたヒト網膜色素上皮細胞を回収し、回収された培養細胞の細胞毒性若しくはそれに相関関係を有する指標値を測定する第三工程、
(4)第三工程の測定結果によって被験物質の光毒性発現能力の有無又はその程度を評価し、被験物質の光毒性発現能力を検定する第四工程。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒト網膜色素上皮細胞を用いた光毒性試験法等に関するものである。
【背景技術】
【0002】
医薬品、農薬、化粧品、工業製品等の化学物質のヒトに対する安全性を評価するためには、通常、動物個体を用いた多くの毒性試験が行われる。これらの毒性試験のうち、体内に入った化学物質が光に反応して生じる刺激性等の急性毒性試験は、総じて光毒性試験と称される。
光毒性試験法として最も広く利用されているものとしては、例えば、動物皮膚への局所投与による森川法が知られている。当該光毒性試験法は、モルモット又は白色ウサギを用い、当該動物の背部皮膚に被験物である化学物質を塗布した後、当該塗布部位への紫外線照射に対する前記背部皮膚における生体反応を予め定めた評価基準に従って肉眼判定して得られた判定結果と、前記塗布部位への非紫外線照射に対する前記背部皮膚における生体反応を前記評価基準に従って同様に肉眼判定して得られた判定結果と比較することにより、被験物である化学物質が有する光毒性の存在有無又はその程度を評価する試験法である。
しかしながら、近年の動物福祉の問題や欧州等に見られる動物実験規制強化から、実験動物を使用しない光毒性試験法のための代替法の開発が強く求められている。
一方、現在までに多くのin vitro 光毒性試験法が開発されている。このような光毒性試験法のなかで最も期待されているものとしては、例えば、結合組織細胞(Connective Tissue Cell)であり、線維芽細胞(Fibroblast)である「Balb/c 3T3細胞」によるニュートラルレッド取り込み試験法(3T3 NRU PT)を挙げることができる。当該3T3 NRU PTは、1998 年にECVAM(European Center for the Validation of Alternative Methods:ヨーロッパ代替法検証センター)により科学的に確立された光毒性試験法の代替法として認められ、2000年以降、化学物質が有する光毒性の存在有無をスクリーニングするための試験法として採用されている。また当該試験法は、OECDにも提出され、2004年にin vitro 光毒性試験としてガイドライン化されている唯一の試験法としても知られている(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】OECD. OECD guidelines for the testing of chemicals: test guideline 432 In vitro 3T3 NRU phototoxicxity test’’. Paris: Frankreich, OECD Publication Office; 2004.
【非特許文献2】Lynch AM, Wilcox P.,Review of the performance of the 3T3 NRU in vitro phototoxicity assay in the pharmaceutical industry.:Experimental and Toxicologic Pathology vol.63 p209-214; 2011.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、近年、3T3 NRU PTによる光毒性の存在有無等の評価結果が多く蓄積されるようになったところ、偽陽性という結果を含むことも明らかになりつつあり、実際のヒトへの安全性を予測することに対しては必ずしも常に充分満足できるものではなく、新たなin vitro 光毒性試験法の開発が望まれている(例えば、非特許文献2参照)。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、このような状況を鑑み鋭意検討した結果、本発明に至った。
即ち、本発明は
1.下記工程(1)〜(4)を有することを特徴とする光毒性試験方法(以下、本発明光毒性試験方法と記すこともある。)
(1)ヒト網膜色素上皮細胞に被験物質を接触させる第一工程
(2)第一工程で被験物質を接触させたヒト網膜色素上皮細胞を、第一工程における接触開始後24時間以内に、340nmから380nmまでの範囲の波長分布を含む人工光を照射しながら培養する第二工程
(3)第二工程で培養されたヒト網膜色素上皮細胞を回収し、回収された培養細胞の細胞毒性若しくはそれに相関関係を有する指標値を測定する第三工程
(4)第三工程の測定結果によって被験物質の光毒性発現能力の有無又はその程度を評価し、被験物質の光毒性発現能力を検定する第四工程;
2.前記人工光が、紫外光、可視光及び赤外光からなる擬似太陽光であることを特徴とする前項1記載の光毒性試験方法;
3.第二工程における人工光の照射が、波長360nmでの測定値として3J/cm2から30J/cm2までの範囲である光照射量となる照射であることを特徴とする前項1又は2記載の光毒性試験方法;
4.前記第四工程において、前記第三工程の測定結果と、対照のヒト網膜色素上皮細胞における回収された培養細胞の細胞毒性若しくはそれに相関関係を有する指標値の測定結果とを比較し、その差異に基づいて被験物質の光毒性発現能力の有無又はその程度を評価することを特徴とする前項1〜3のいずれかの前項記載の光毒性試験方法;
5.前記対照が、ヒト網膜色素上皮細胞に既知の光毒性発現物質を接触させた陽性対照を含むことを特徴とする前項4記載の光毒性試験方法;
6.前記光毒性発現物質が、クロルプロマジン(CPZ)であることを特徴とする前項5記載の光毒性試験方法;
7.第二工程における人工光の照射が、被験物質を接触させたヒト網膜色素上皮細胞と対照のヒト網膜色素上皮細胞との少なくともいずれか一方のヒト網膜色素上皮細胞において、人工光の遮光条件下での前記細胞の生存細胞数に対して、光照射条件下での前記細胞の生存細胞数が有意に減少する光照射量を有する照射であることを特徴とする前項1〜6のいずれかの前項記載の光毒性試験方法;
8.前記第二工程における人工光の照射が、1回の連続的照射又は2回以上の繰り返し照射からなる間欠的照射であることを特徴とする前項1〜7のいずれかの前項記載の光毒性試験方法;
9.前記ヒト網膜色素上皮細胞が、幹細胞由来の網膜色素上皮細胞であることを特徴とする前項1〜8のいずれかの前項記載の光毒性試験方法;
10.前記幹細胞が、胚性幹細胞、人工多能性幹細胞又は神経幹細胞であることを特徴とする前項9記載の光毒性試験方法;
11.前項1〜10のいずれかの前項記載の光毒性試験方法のための、陽性対照としてのクロルプロマジン(CPZ)の使用;
12.前項1〜10のいずれかの前項記載の光毒性試験方法に用いるための陽性対照試薬であって、クロルプロマジン(CPZ)を含有することを特徴とする陽性対照試薬;
13.前項1〜10のいずれかの前項記載の光毒性試験方法のための、陰性対照としてのペニシリンG(Penicillin G)、キニーネ(Quinine)、ビチオノール(Bithionol)又はクロルヘキシジン(Chlorhexidine)の使用;
14.前項1〜10のいずれかの前項記載の光毒性試験方法に用いるための陰性対照試薬であって、ペニシリンG(Penicillin G)、キニーネ(Quinine)、ビチオノール(Bithionol)又はクロルヘキシジン(Chlorhexidine)を含有することを特徴とする陽性対照試薬;
15.前項1〜10のいずれかの前項記載の光毒性試験方法によって、被験物質の光毒性発現能力を検定し、所望の光毒性発現能力を有する物質を選抜することを特徴とする光毒性発現物質の探索方法(以下、本発明光毒性発現物質探索方法と記すこともある。);
16.前項1〜10のいずれかの前項記載の光毒性試験方法によって、被験物質の光毒性発現能力を検定し、所望の光毒性発現能力を有さない物質を選抜することを特徴とする擬似太陽光皮膚刺激非誘発物質の探索方法(以下、本発明擬似太陽光皮膚刺激非誘発物質探索方法と記すこともある。);
等を提供するものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明光毒性試験方法によれば、被験物質の光毒性発現能力の検定を効果的に行なうことができる。さらに、本発明では、当該試験方法に陽性対照として用いることができる光毒性発現物質を提供することができる。
【0007】
本発明光毒性発現物質探索方法によれば、所望の光毒性発現物質又は擬似太陽光皮膚刺激非誘発物質の探索を簡便に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1は、ヒト胚性幹細胞(即ち、ES細胞)から分化誘導して得られたヒト網膜色素上皮細胞の明視野像を示す図である。
【図2】図2は、ヒト胚性幹細胞(即ち、ES細胞)から分化誘導して得られたヒト網膜色素上皮細胞を免疫染色した結果(赤はZO-1、青は核)を示す図である。
【図3】図3は、被験物質として、光細胞毒性が陽性である化合物「クロルプロマジン(CPZ))」を用いた本発明光毒性試験方法(実施例3:非光照射のための(遮光)対照)で測定された細胞毒性若しくはそれに相関関係を有する指標値に関する結果を示す図である。
【図4】図4は、被験物質として、光細胞毒性が陰性である化合物「ペニシリンG(Penicillin G)」を用いた本発明光毒性試験方法(実施例3:非光照射のための(遮光)対照)で測定された細胞毒性若しくはそれに相関関係を有する指標値に関する結果を示す図である。
【図5】図5は、被験物質として、光細胞毒性が陰性である化合物「キニーネ(Quinine)」を用いた本発明光毒性試験方法(実施例3:非光照射のための(遮光)対照)で測定された細胞毒性若しくはそれに相関関係を有する指標値に関する結果を示す図である。
【図6】図6は、被験物質として、光細胞毒性が陰性である化合物「ビチオノール(Bithionol)」を用いた本発明光毒性試験方法(実施例3:非光照射のための(遮光)対照)で測定された細胞毒性若しくはそれに相関関係を有する指標値に関する結果を示す図である。
【図7】図7は、被験物質として、光細胞毒性が陰性である化合物「クロルヘキシジン(Chlorhexidine)」を用いた本発明光毒性試験方法(実施例3:非光照射のための(遮光)対照)で測定された細胞毒性若しくはそれに相関関係を有する指標値に関する結果を示す図である。
【図8】図8は、被験物質として、光細胞毒性が陽性である化合物「クロルプロマジン(CPZ))」を用いた本発明光毒性試験方法(実施例4:光照射)で測定された細胞毒性若しくはそれに相関関係を有する指標値に関する結果を示す図である。
【図9】図9は、被験物質として、光細胞毒性が陰性である化合物「ペニシリンG(Penicillin G)」を用いた本発明光毒性試験方法(実施例4:光照射)で測定された細胞毒性若しくはそれに相関関係を有する指標値に関する結果を示す図である。
【図10】図10は、被験物質として、光細胞毒性が陰性である化合物「キニーネ(Quinine)」を用いた本発明光毒性試験方法(実施例4:光照射)で測定された細胞毒性若しくはそれに相関関係を有する指標値に関する結果を示す図である。
【図11】図11は、被験物質として、光細胞毒性が陰性である化合物「ビチオノール(Bithionol)」を用いた本発明光毒性試験方法(実施例4:光照射)で測定された細胞毒性若しくはそれに相関関係を有する指標値に関する結果を示す図である。
【図12】図12は、被験物質として、光細胞毒性が陰性である化合物「クロルヘキシジン(Chlorhexidine)」を用いた本発明光毒性試験方法(実施例4:非光照射のための(遮光)対照)で測定された細胞毒性若しくはそれに相関関係を有する指標値に関する結果を示す図である。
【図13】図13は、被験物質として、光細胞毒性が陽性である化合物「クロルプロマジン(CPZ))」を用いた比較光毒性試験方法(比較例1:非光照射のための(遮光)対照)で測定された細胞毒性若しくはそれに相関関係を有する指標値に関する結果を示す図である。
【図14】図14は、被験物質として、光細胞毒性が陰性である化合物「ペニシリンG(Penicillin G)」を用いた比較光毒性試験方法(比較例1:非光照射のための(遮光)対照)で測定された細胞毒性若しくはそれに相関関係を有する指標値に関する結果を示す図である。
【図15】図15は、被験物質として、光細胞毒性が陰性である化合物「キニーネ(Quinine)」を用いた比較光毒性試験方法(比較例1:非光照射のための(遮光)対照)で測定された細胞毒性若しくはそれに相関関係を有する指標値に関する結果を示す図である。
【図16】図16は、被験物質として、光細胞毒性が陰性である化合物「ビチオノール(Bithionol)」を用いた本発明光毒性試験方法(比較例1:非光照射のための(遮光)対照)で測定された細胞毒性若しくはそれに相関関係を有する指標値に関する結果を示す図である。
【図17】図17は、被験物質として、光細胞毒性が陰性である化合物「クロルヘキシジン(Chlorhexidine)」を用いた本発明光毒性試験方法(比較例1:非光照射のための(遮光)対照)で測定された細胞毒性若しくはそれに相関関係を有する指標値に関する結果を示す図である。
【図18】図18は、被験物質として、光細胞毒性が陽性である化合物「クロルプロマジン(CPZ)」を用いた比較光毒性試験方法(比較例2:光照射)で測定された細胞毒性若しくはそれに相関関係を有する指標値に関する結果を示す図である。
【図19】図19は、被験物質として、光細胞毒性が陰性である化合物「ペニシリンG(Penicillin G)」を用いた比較光毒性試験方法(比較例2:光照射)で測定された細胞毒性若しくはそれに相関関係を有する指標値に関する結果を示す図である。
【図20】図20は、被験物質として、光細胞毒性が陰性である化合物「キニーネ(Quinine)」を用いた比較光毒性試験方法(比較例2:光照射)で測定された細胞毒性若しくはそれに相関関係を有する指標値に関する結果を示す図である。
【図21】図21は、被験物質として、光細胞毒性が陰性である化合物「ビチオノール(Bithionol)」を用いた比較光毒性試験方法(比較例2:光照射)で測定された細胞毒性若しくはそれに相関関係を有する指標値に関する結果を示す図である。
【図22】図22は、被験物質として、光細胞毒性が陰性である化合物「クロルヘキシジン(Chlorhexidine)」を用いた比較光毒性試験方法(比較例2:非光照射のための(遮光)対照)で測定された細胞毒性若しくはそれに相関関係を有する指標値に関する結果を示す図である。
【図23】図23は、光照射量の設定のための予備試験(実施例6)での結果を示す図である。OECDガイドラインで陽性対照として用いられているクロルプロマジン(CPZ)を用いて、光照射量と前述のPIF値(即ち、被験物質を接触させたヒト網膜色素上皮細胞における細胞毒性IC50値(非光照射のための(遮光)対照)を、被験物質の接触後1に擬似太陽光の照射下で培養されたヒト網膜色素上皮細胞における細胞毒性IC50値で割って得られた値)との関係を検討したものである。
【図24】図24は、光照射量の設定のための予備試験(実施例6)での結果を示す図である。光照射量と前述のPIF値との関係を検討した予備試験に関連して、擬似太陽光の照射が、クロルプロマジン(CPZ)を接触させたヒト網膜色素上皮細胞において、擬似太陽光の遮光条件下での前記細胞の生存細胞数に対して、光照射条件下での前記細胞の生存細胞数が有意に減少する光照射量を有する照射であることを確認したものである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。
本発明における「形質転換体」とは、形質転換により作製された細胞等の生命体の全部又は一部を意味する。形質転換体としては、例えば、原核細胞、酵母、動物細胞、植物細胞、昆虫細胞等を挙げることができる。形質転換体は、その対象に依存して、形質転換細胞、形質転換組織、形質転換宿主等とも呼ばれることがある。本発明において用いられる細胞は、形質転換体であってもよい。
【0010】
本発明に関連した、遺伝子操作技術で使用される原核生物細胞としては、例えば、Eschericia属、Serratia属、Bacillus属、Brevibacterium属、Corynebacterium属、Microbacterium属、Pseudomonas属等に属する原核生物細胞、例えば、Eschericia XL1-Blue、Eschericia XL2-Blue、Eschericia DH1等を挙げることができる。このような細胞は、例えば、Molecular Cloning(3rd edition)’ by Sambrook,J and Russell, D.W., Appendix 3(Volume3),Vectors and Bacterial strains. A3.2(Cold Spring Harbor USA 2001)に具体的に記載されている。
【0011】
本発明に関連した「ベクター」とは、目的のポリヌクレオチド配列を目的の細胞へと移入させることができるベクターを意味する。このようなベクターとしては、例えば、原核細胞、酵母、動物細胞、植物細胞、昆虫細胞、動物個体及び植物個体等の宿主細胞において自立複製が可能であり、又は、染色体中への組込みが可能である、ポリヌクレオチドの転写に適した位置にプロモーターを含有しているもの等を挙げることができる。
このようなベクターのうち、クローニングに適したベクターを「クローニングベクター」と記すこともある。このようなクローニングベクターは、通常、制限酵素部位を複数含むマルチプルクローニング部位を含む。現在、遺伝子のクローニングに使用可能なベクターは、当該技術分野において多数存在しており、販売元により、微妙な違い(例えば、マルチクローニングサイトの制限酵素の種類や配列)から名前を代えて販売されている。例えば、Molecular Cloning(3rd edition)’ by Sambrook, J and Russell, D.W., Appendix 3 (Volume 3), Vectors and Bacterial strains. A3.2 (Cold Spring Harbor USA, 2001)) に代表的なものが記載(発売元も記載)されており、このようなものを当業者は適宜目的に応じて使用することができる。
【0012】
本発明に関連した「ベクター」は、「発現ベクター」、「レポーターベクター」、「組換えベクター」も含む。尚、「発現ベクター」とは、構造遺伝子及びその発現を調節するプロモーターに加えて種々の調節エレメントが宿主細胞の中で作動し得る状態で連結されている核酸配列を意味する。「調節エレメント」としては、例えば、ターミネーター、薬剤耐性遺伝子のような選択マーカー、及び、エンハンサーを含むもの等を挙げることができる。生物(例えば、動物)の発現ベクターのタイプ及び使用される調節エレメントの種類が宿主細胞に応じて変わり得ることは、当業者に周知の事項である。
【0013】
本発明に関連して「組換えベクター」としては、例えば、(a)ゲノムライブラリーのスクリーニングのためには、ラムダFIXベクター(ファージベクター)、(b)cDNAのスクリーニングのためには、ラムダZAPベクター(ファージベクター)、(c)ゲノムDNAのクローニングするためには、例えば、pBluescript II SK+/−, pGEM,pCR2.1ベクター(プラスミドベクター)等を挙げることができる。また「発現ベクター」としては、例えば、pSV2/neoベクター、pcDNAベクター、pUC18ベクター、pUC19ベクター、pRc/RSVベクター、pLenti6/V5-Destベクター、pAd/CMV/V5-DESTベクター、pDON-AI-2/neoベクター、pMEI-5/neoベクター等(プラスミドベクター)等を挙げることができる。また「レポーターベクター」としては、例えば、pGL2ベクター、pGL3ベクター、pGL4.10ベクター、pGL4.11ベクター、pGL4.12ベクター、pGL4.70ベクター、pGL4.71ベクター、pGL4.72ベクター、pSLGベクター、pSLOベクター、pSLRベクター、pEGFPベクター、pAcGFPベクター、pDsRedベクター等を挙げることができる。このようなベクターは、前述のMolecular Cloning誌を参考にして適宜利用すればよい。
【0014】
本発明に関連して、核酸分子を細胞内に導入する技術としては、例えば、形質転換、形質導入、トランスフェクション等を挙げることができる。このような導入技術としては、具体的には例えば、Ausubel F. A.ら編(1988)、Current Protocols in Molecular Biology, Wiley, New York, NY; Sambrook J.ら(1987)Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 2nd Ed.及びその第三版,Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, NY、別冊実験医学「遺伝子導入&発現解析実験法」羊土社、1997等に記載される方法等を挙げることができる。遺伝子が細胞内に導入されたことを確認する技術としては、例えば、ノーザンブロット分析、ウェスタンブロット分析又は他の周知慣用技術等を挙げることができる。
【0015】
また、本発明に関連して、ベクターの導入方法としては、例えば、トランスフェクション、形質導入、形質転換等(例えば、リン酸カルシウム法、リポソーム法、DEAEデキストラン法、エレクトロポレーション法、パーティクルガン(遺伝子銃)を用いる方法等)を挙げることができる。
【0016】
本発明光毒性試験方法は、下記工程(1)〜(4)を有することを特徴とする光毒性試験方法である。
(1)ヒト網膜色素上皮細胞に被験物質を接触させる第一工程
(2)第一工程で被験物質を接触させたヒト網膜色素上皮細胞を、第一工程における接触開始後24時間以内に、340nmから380nmまでの範囲の波長分布を含む人工光を照射しながら培養する第二工程
(3)第二工程で培養されたヒト網膜色素上皮細胞を回収し、回収された培養細胞の細胞毒性若しくはそれに相関関係を有する指標値を測定する第三工程
(4)第三工程の測定結果によって被験物質の光毒性発現能力の有無又はその程度を評価し、被験物質の光毒性発現能力を検定する第四工程
【0017】
本発明における「被験物質」としては、特に限定はなく、全ての化学物質が対象となるが、例えば、医薬品、農薬、化粧品、工業製品等の用途に使用される物質、今後使用される可能性がある開発途上の物質等を挙げることができる。
【0018】
本発明における「光毒性」としては、例えば、擬似太陽光照射が関与している毒性反応により惹起される毒性等を挙げることができる。具体的には、例えば、眼や皮膚等に生じる一次刺激反応としての光刺激性、アレルギー反応である光感作性(光アレルギー性)、光がん原性、更に光遺伝毒性(photogenotoxicity)等を挙げることができる。
【0019】
本発明における「細胞毒性」としては、例えば、細胞死や細胞増殖阻害等細胞の生存に影響を与える毒性等を挙げることができる。細胞毒性若しくはそれに相関関係を有する指標値は、例えば、血球計算盤を用いる方法、セルカウンターによる方法、3Hチミジン等の放射性同位体を用いる方法(3Hチミジン等の放射性同位体を細胞培養液に加えてインキュベートするだけで、生細胞のみを測定する簡便な方法)、LDH(乳酸脱水素酵素)法、ニュートラルレッド(NR)を用いる方法(赤色色素ニュートラルレッドが生細胞のリソゾームに取り込まれ蓄積する性質を利用した方法で、生細胞のみを測定する簡便な方法)、クリスタルバイオレット(CR)を用いる方法(クリスタルバイオレットが生細胞の細胞膜に入り込んで染色する性質を利用した方法で、生細胞のみを測定する簡便な方法)、テトラゾリウム塩を用いる方法(テトラゾリウム塩が細胞内ミトコンドリアの脱水素酵素の基質であり、生存能の高い細胞ほど還元されるテトラゾリウム塩の量が多く、その結果生じるホルマザン量が生存細胞数とよく対応するために、生細胞のみを測定する簡便な方法)、マーカー遺伝子(例えば、RPE65、Mitf、ZO1)の発現量を測定する方法、ATP量を測定する方法、メラニン量を測定する方法、ミトコンドリアの活性をMTT法により測定する方法等の通常用いられる方法により測定すればよい。尚、被験物質の「接触」と「洗浄・培地交換」との繰り返し等により被験物質の反復接触を行なうときには、各サイクルで回収された培養細胞の細胞毒性若しくはそれに相関関係を有する指標値を測定することが好ましい。
【0020】
上記のような、細胞毒性若しくはそれに相関関係を有する指標値を測定する場合には、一般的に入手可能な測定キットを用いて測定してもよい。ミトコンドリアの活性、ATP量、乳酸脱水素酵素活性等の測定キットとしては、例えば、CellTiter-Glo(登録商標) Luminescent Cell Viability Assay、Dual-Glo(登録商標) Luciferase Assay System、Bright-Glo(登録商標) Luciferase Assay System、Steady-Glo(登録商標) Luciferase Assay System、Luciferase Assay Systems、ApoTox-Glo(登録商標) Triplex Assay、CellTiter-Fluor(登録商標) Cell Viability Assay、CytoTox 96(登録商標) Non-Radioactive Cytotoxicity Assay(プロメガ社)、ATP Bioluminescence Assay Kit HS II Cell Proliferation Kit I (MTT)、Cell Proliferation Kit II (XTT)(ロシュ社)、LDH Cytotoxicity Assay Kit(Cayman Chemical社)、ADP Assay Kit、 EnzyLight(BioAssay Systems社)等を挙げることができる。
【0021】
本発明光毒性試験方法において、細胞毒性若しくはそれに相関関係として、マーカー遺伝子(例えば、RPE65、Mitf、ZO1)の発現量を測定する方法を採用する場合について更に詳細に説明する。
まず「マーカー遺伝子の発現」とは、マーカー遺伝子に応じて発現されたポリヌクレオチド、オリゴヌクレオチド若しくは核酸、又は、タンパク質、ポリペプチド、オリゴペプチド若しくはペプチド等の発現を包含する。
【0022】
マーカー遺伝子の発現量を測定する方法としては、目的の細胞等において、例えば、mRNAの転写産物量やポリペプチドの翻訳産物量を測定する方法等を挙げることができる。mRNAの発現量(転写産物量)を測定する方法としては、例えば、ノーザンブロット法、ドットブロット法、PCR法、リアルタイムPCR法、レポーター遺伝子を利用した方法等の分子生物学的測定方法を含む任意の適切な方法等を挙げることができる。またポリペプチドの発現量(翻訳産物量)を測定する方法としては、例えば、ELISA法、RIA法、蛍光抗体法、ウェスタンブロット法、免疫組織染色法等の免疫学的測定方法を含む任意の適切な方法等を挙げることができる。尚、遺伝子の発現変動は、通常の分子生物学的測定方法又は免疫学的測定方法を含む任意の適切な方法により評価されるmRNAレベル又はポリペプチドのタンパク質レベルでの発現量が増加又は減少することを意味する。また、他の方法として、アレイ(例えば、DNAアレイ、プロテインアレイ)を用いた遺伝子解析方法等も挙げることができる。尚、DNAアレイについては、例えば、秀潤社編、細胞工学別冊「DNAマイクロアレイと最新PCR法」等、プロテインアレイについては、Nat Genet. 2002 Dec;32 Suppl:526−32等に記載されている。更に、RT−PCR、RACE法、SSCP法、免疫沈降法、two−hybridシステム、インビトロ翻訳等も挙げることできる。尚、このような方法については、例えば、ゲノム解析実験法・中村祐輔ラボ・マニュアル、編集・中村祐輔 羊土社(2002)等に記載されている。
【0023】
また、レポーター遺伝子を利用した方法としては、マーカー遺伝子のプロモーター配列に作動可能に連結されるレポーター遺伝子を組み込んだベクターを作製し、それをヒト網膜色素上皮細胞に遺伝子導入することにより、安定形質転換体を作製する方法等を挙げることができる。作製された安定形質転換体は、レポーター遺伝子を細胞内で発現するため、レポーター遺伝子の活性や発現量を測定すれば、当該測定値を生存しているヒト網膜色素上皮細胞の量に相関関係を有する指標値として利用することができる。
【0024】
ここで「レポーター遺伝子」としては、例えば、ホタルルシフェラーゼ遺伝子(firefly luc)、ウミシイタケルシフェラーゼ遺伝子(renilla luc)、β-ガラクトシダーゼ遺伝子、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ遺伝子、又は、核酸構築物が導入される宿主細胞での視覚での選択を可能にする選択マーカー遺伝子を挙げることができる。このような選択マーカー遺伝子としては、例えば、緑色蛍光プロテイン(GFP)遺伝子、青色蛍光プロテイン(CFP)遺伝子、黄色蛍光プロテイン(YFP)遺伝子、赤色蛍光プロテイン(dsRed)遺伝子等の生細胞での観察が可能な蛍光色素マーカー遺伝子又は色素マーカー遺伝子等を挙げることができる。尚、上記選択マーカー遺伝子及び選択マーカータンパク質は、宿主細胞に対して実質的に毒性を示さないことが好ましい。また、レポーター遺伝子の発現有無又はその程度を検出する方法としては、選択マーカータンパク質が酵素である場合も、蛍光プロテインである場合も、公知の検出方法等を利用すればよい。
【0025】
また「プロモーター」とは、遺伝子の転写の開始部位を決定し、またその頻度を直接的に調節するDNA上の領域を意味する。通常、RNAポリメラーゼが結合して転写を始める塩基配列である。そして「プロモーター配列」とは、ある遺伝子のプロモーターの働きを有する部分をいう。プロモーター配列は、通常、推定タンパク質コード領域の第1エクソン又は転写開始点の上流約5kbp以内の領域であることが多いので、DNA解析用ソフトウェアを用いてゲノム塩基配列中のタンパク質コード領域を予測すれば、プロモーター配列を推定することができる。このようなDNA解析用ソフトウェアとしては、例えば、DNASISソフトウェア(日立ソフトウェア)、GENETYX(株式会社ゼネティックス)等を挙げることができる。因みに、推定プロモーター配列は、構造遺伝子毎に異なり、通常、構造遺伝子の上流に存在するが、これらに限定されず、構造遺伝子の下流に存在することもある。
上記の領域には、Sp1及びAP-2等の既知転写調節因子の結合可能配列が存在し、当該領域が発現制御に重要な働きをすることが予想される。このことから少なくとも当該領域に転写を誘導するために必要十分な塩基配列(プロモーター配列)を含むと推測される。正確な位置は、当該技術分野において周知慣用な技術を用いて調べればよい。
【0026】
プロモーター配列と予測されるDNA配列とを、NCBIデータベースより入手する方法を説明する。
ヒトZO-1(TJP1)遺伝子のプロモーター配列を含むと予測される転写開始点上流のゲノムDNA配列は、インターネット上のMCSC Genome Browserホームページで、human reference sequenceを検索対象データベースとして設定し、「TJP1」をキーワードとして検索することにより、TJP1遺伝子に関するSequence and Links to Tools and Databasesのリンク一覧が表示される。このリンク先から、「Genomic Sequence Near Gene」ページへ移動する。次に、Sequence Retrieval Region Optionsのチェックボックスにチェックを入れ、「Promoter/Upstream by」を5000basesに設定し、更に「5' UTR Exons」のチェックボックスにチェックを入れた後、submitボタンをクリックすることにより、転写開始点上流5kbと第一エクソンを含む5’UTRのゲノムDNA配列を取得することができる。また、NCBIホームページ上で「TJP1」をキーワードとして検索することにより、NM_003257.3なる配列番号を取得することができ、TJP1のmRNA配列を入手することができる。これらのゲノム配列とmRNA配列とを、DNA解析用ソフトウェアを用いて分析することにより、転写開始点より上流の約5kbpのDNA配列を入手することができる。尚、DNA解析用ソフトウェアとしては、前述のように、例えば、DNASISソフトウェア(日立ソフトウェア)、GENETYX(株式会社ゼネティックス)等を挙げることができる。
【0027】
また「プロモーター配列に作動可能に連結される」とは、所望の遺伝子の発現(作動)があるプロモーター配列の制御下に配置されることを意味する。プロモーターが遺伝子に作動可能に連結されるためには、通常、その遺伝子のすぐ上流にプロモーターが配置されるが、必ずしも隣接して配置される必要はない。
【0028】
本発明における「ヒト網膜色素上皮細胞」とは、例えば、ヒト由来の細胞であって、網膜の外層に位置する上皮細胞である。当該細胞は、視細胞の維持に重要な働きをもつ細胞である。形状は単層の立方上皮細胞であり、相互間はtight junctionで結合され、黒色の色素を有する細胞である。
当該ヒト網膜色素上皮細胞としては、培養可能であれば特に制限はない。好ましい実施形態では、具体的には例えば、幹細胞由来の網膜色素上皮細胞(即ち、例えば、胚性幹細胞(即ち、ES細胞)、人工多能性幹細胞(即ち、iPS細胞)、神経幹細胞等の幹細胞から分化誘導させた培養が容易なヒト網膜色素上皮細胞等)、生体組織から直接取得した培養が容易なヒト網膜色素上皮細胞等を挙げることができる。また、培養細胞化されたがん細胞由来のヒト網膜色素上皮細胞、人為的な操作により不死化された培養が容易なヒト網膜色素上皮細胞等も挙げることができる。
【0029】
ここで「幹細胞」とは、細胞分裂を経ても同じ分化能を維持する細胞を意味し、組織が傷害を受けたときにその組織を再生することができる。当該「幹細胞」としては、例えば、胚性幹細胞若しくは組織幹細胞(組織性幹細胞、組織特異的幹細胞又は体性幹細胞とも呼ばれる。)又は人工多能性幹細胞(iPS細胞:induced pluripotent stem cell)等を挙げることができる。
本発明光毒性試験方法において使用される好ましい幹細胞としては、例えば、胚性幹細胞(即ち、ES細胞)、人工多能性幹細胞(即ち、iPS細胞)、神経幹細胞等を挙げることができる。
【0030】
また、「胚性幹細胞」(即ち、ES細胞)とは、自己複製能を有し、多分化能(即ち、多能性「pluripotency」)を有する幹細胞であり、初期胚に由来する多能性幹細胞を意味する。胚性幹細胞は、1981年に初めて樹立され、1989年以降ノックアウトマウス作製にも応用されている。1998年にはヒト胚性幹細胞が樹立されており、再生医学にも利用されつつある。神経幹細胞等を含む組織幹細胞は、胚性幹細胞とは異なり、分化の方向が限定されている細胞であり、組織中の特定の位置に存在し、未分化な細胞内構造をしている。従って、組織幹細胞は多能性のレベルが低い。組織幹細胞は、核/細胞質比が高く、細胞内小器官が乏しい。組織幹細胞は、概して、多分化能を有し、細胞周期が遅く、個体の一生以上に増殖能を維持する。人工多能性幹細胞は繊維芽細胞等分化した細胞をOct3/4、Sox2、Klf4、Myc等数種類の遺伝子の発現により直接初期化して多分化能を誘導した細胞であり、2006年、山中らによりマウス細胞で樹立された(Takahashi K, Yamanaka S.Cell. 2006, 126(4), p663-676)。2007年、ヒト繊維芽細胞でも樹立され、胚性幹細胞と同様に多分化能を有する(Takahashi K, Tanabe K, Ohnuki M, Narita M, Ichisaka T, Tomoda K, Yamanaka S. Cell.2007, 131(5),p861-872. 、Yu J, Vodyanik MA, Smuga-Otto K, Antosiewicz-Bourget J, Frane JL, Tian S, Nie J, Jonsdottir GA, Ruotti V, Stewart R, Slukvin II, Thomson JA.,Science. 2007, 318(5858), p1917-1920. 、Nakagawa M, Koyanagi M, Tanabe K, Takahashi K, Ichisaka T, Aoi T, Okita K, Mochiduki Y, Takizawa N, Yamanaka S. Nat Biotechnol., 2008, 26(1), p101-106)。
【0031】
本発明光毒性試験方法における第一工程は、ヒト網膜色素上皮細胞に被験物質を接触させる工程である。
【0032】
上記第一工程では、ヒト網膜色素上皮細胞に被験物質を接触させる。ヒト網膜色素上皮細胞と被験物質との接触時間として、例えば、1分間以上を、好ましくは5分間以上3日間以内、より好ましくは10分間以上24時間以内等を挙げることができる。当該接触系における保温温度としては、例えば、15℃〜42℃程度を、好ましくは35℃〜42℃程度、より好ましくは35℃〜37℃程度、特に好ましくは37℃程度等を挙げることができる。また、前記接触系が培養液中での系である場合には、当該培養液のpHとしては、例えば、pH5〜pH9程度を、好ましくはpH6.5〜pH7.8程度を挙げることができる。
上記第一工程における被験物質接触時の炭酸ガス濃度としては、例えば、0%〜25%程度等を挙げることができる。
上記第一工程における被験物質接触時の好ましい湿度としては、例えば、95±5%rh程度、より好ましくは100%rh程度等を挙げることができる。
【0033】
ヒト網膜色素上皮細胞に接触させる被験物質の濃度及び適用量については、特に限定はなく、被験物質の種類、予想される被験物質の光毒性発現能力、第一工程でのヒト網膜色素上皮細胞と被験物質との接触時間、第二工程での培養時間、第二工程での光照射量等によって適宜決定すればよい。例えば、0.001μM〜10mM程度で、好ましくは0.01μM〜5mM程度等を挙げることができる。
【0034】
上記第一工程における接触系内でのヒト網膜色素上皮細胞の密度としては、例えば、1×104cell/cm2〜4×106cell/cm2程度で、好ましくは4×104cell/cm2〜4×105cell/cm2程度等を挙げることができる。
【0035】
本発明光毒性試験方法における第二工程は、第一工程で被験物質を接触させたヒト網膜色素上皮細胞を、第一工程における接触開始後24時間以内に、340nmから380nmまでの範囲の波長分布を含む人工光を照射しながら培養する工程である。
【0036】
上記第二工程では、第一工程で被験物質を接触させたヒト網膜色素上皮細胞を、第一工程における接触開始後24時間以内に、340nmから380nmまでの範囲の波長分布を含む人工光を照射しながら培養する。そして、被験物質が光毒性発現能力を有する場合には、本工程でその光毒性発現能力を発現させることができる。このとき、前記人工光を吸収する色素や、被験物質を吸着する可能性がある血清等のタンパク質成分を含まない培養液を使用することが好ましい。
【0037】
好ましい実施形態では、第一工程における接触開始後12時間以内、より好ましくは6時間以内、特に好ましくは10分間〜2時間程度以内に、340nmから380nmまでの範囲の波長分布を含む人工光を照射しながら培養する。
勿論、本発明検定方法における好ましい実施形態では、上記第一工程(即ち、被験物質との接触)と上記第二工程(即ち、人工光照射下での培養)とが同時に進行しながら実施してもよい。より具体的には、第一工程で接触させた被験物質を除去した状態で第二工程を実施してもよいし、被験物質が存在した状態で第二工程を実施してもよい。
【0038】
第一工程における接触開始後から第二工程における人工光の照射開始前までの期間において、第一工程で被験物質を接触させたヒト網膜色素上皮細胞は、例えば、15℃〜42℃程度を、好ましくは35℃〜42℃程度、より好ましくは35℃〜37℃程度、特に好ましくは37℃程度等の培養温度下でかつ人工光の非照射下で培養しておけばよい。また第一工程における被験物質のヒト網膜色素上皮細胞に対する24時間以内の接触の後、当該培養細胞を洗浄・培地交換してから第二工程における人工光の照射に供することによって、細胞外にある被験物質の影響を排除し、第一工程において細胞内にとりこまれた被験物質の作用のみを評価することもできる。
上記第二工程における培養時の炭酸ガス濃度としては、例えば、0%〜25%程度等を挙げることができる。
上記第二工程における培養時の湿度としては、例えば、95±5%rh程度、好ましくは100%rh程度等を挙げることができる。
【0039】
照射する人工光は、340nmから380nmまでの範囲の波長分布を含む人工光である。好ましくは、例えば、紫外光、可視光及び赤外光からなる擬似太陽光である人工光等を挙げることができる。より好ましくは、例えば、305nm未満の波長の紫外光と850nm以上の波長の赤外光とを含まず、且つ、315nmから800nmまでの範囲の波長分布を有する光を含む疑似太陽光等が挙げられる。
前記人工光としては、例えば、紫外線ランプ、水銀ランプ、ハロゲンランプ、LED、キセノンランプ、メタルハライドランプ、ナトリウムランプ等を光源とした光等を利用すればよい。好ましくは、例えば、キセノンランプ、水銀ランプ等を光源とした紫外光や擬似太陽光等を挙げることができる。より好ましくは、例えば、キセノンランプ、水銀ランプ等を光源とした擬似太陽光等が挙げられる。尚、必要に応じて特定の波長のみを通過させるフィルタや特定の波長を遮断するフィルタ等を用いて、所望の波長分布を有する人工光に調整してから使用すればよい。
因みに、擬似太陽光を照射するための具体的な光照射装置として、例えば、SOL500、SOL1200、SOL2000(Dr. K. Honle Medizintechnik社)、SUNTEST CPS/CPS+、SUNTEST XLS+(Atlas Material Testing Technology社)、SXL-2500V2、XI-01B140KB1(セリック社)を挙げることができる。
【0040】
上記第二工程に関して、被験物質が存在した状態で第二工程を実施する場合には、被験物質の「人工光照射下での接触時間」を調節することもできる。即ち、培養時間及び人工光の光照射量を適宜設定することにより、所望の「人工光照射下での接触時間」を実現することができる。尚、人工光の照射は、連続的又は間欠的に行なうことができる。人工光の照射を連続的に行なう場合には、培養時間が「人工光照射下での接触時間」に相当する。例えば、連続的な人工光照射の下で、15分間、30分間、1時間又は2時間培養することにより、15分間、30分間、1時間又は2時間の「人工光照射下での接触時間」を実現することができる。一方、人工光の照射を間欠的に行なう場合には、人工光の照射時間が「人工光照射下での接触時間」に相当する。例えば、24時間の培養期間中、最初の12時間を人工光の照射下で培養し、残りの12時間を人工光を遮断した状態で培養することにより、12時間の「人工光照射下での接触時間」を実現することができる。
ヒト網膜色素上皮細胞の培養温度としては、例えば、15℃〜42℃程度を挙げることができる。
【0041】
上記第二工程に関して、340nmから380nmまでの範囲の波長分布を含む人工光を照射する際の好ましい光照射量としては、例えば、波長360nmでの測定値として3J/cm2から30J/cm2までの範囲である光照射量等を挙げることができる。このような所望の「光照射量」を得るには、例えば、人工光の光照射強度及び人工光の光照射時間等を適宜設定すればよい。光照射量(J/cm2)は、例えば、時間(分)×光照射強度(mW/cm2)×60÷1000という数式により算出すればよい。具体的には例えば、波長360nmでの測定値で約2.08mWである光照射強度の人工光を40分間照射することにより、約5J/cm2の光照射量になることが判る。
【0042】
好ましい実施形態では、人工光の照射として、例えば、被験物質を接触させたヒト網膜色素上皮細胞と対照のヒト網膜色素上皮細胞との少なくともいずれか一方のヒト網膜色素上皮細胞において、人工光の遮光条件下での前記細胞の生存細胞数に対して、光照射条件下での前記細胞の生存細胞数が有意に減少する光照射量を有する照射等を挙げることができる。このような好ましい光照射量の設定には、例えば、後述する実施例6に記載される方法等に順じて予備試験を実施すればよく、好ましい光照射量であることを容易に確認することができる。
より具体的な実施形態では、人工光の照射として、例えば、波長360nmでの測定値として3J/cm2から30J/cm2までの範囲である擬似太陽光の光照射量となるような光照射等を挙げることができる。より好ましくは、例えば、波長360nmでの測定値として3.5J/cm2から20J/cm2までの範囲である擬似太陽光の光照射量となるような照射等が挙げられる。特に好ましくは、例えば、波長360nmでの測定値として5J/cm2から10J/cm2までの範囲である擬似太陽光の光照射量となるような照射等を挙げることができる。
以上の光を照射することにより、より確実に被験物質の光毒性発現能力を発現させることができる。
【0043】
本発明光毒性試験方法における第三工程は、第二工程で培養されたヒト網膜色素上皮細胞を回収し、回収された培養細胞の細胞毒性若しくはそれに相関関係を有する指標値を測定する工程である。
【0044】
上記第三工程では、第二工程で培養されたヒト網膜色素上皮細胞における回収された培養細胞の細胞毒性若しくはそれに相関関係を有する指標値を測定する。
培養細胞の細胞毒性若しくはそれに相関関係は、前述の通り、例えば、血球計算盤を用いる方法、セルカウンターによる方法、3Hチミジン等の放射性同位体を用いる方法(3Hチミジン等の放射性同位体を細胞培養液に加えてインキュベートするだけで、生細胞のみを測定する簡便な方法)、LDH(乳酸脱水素酵素)法、ニュートラルレッド(NR)を用いる方法(赤色色素ニュートラルレッドが生細胞のリソゾームに取り込まれ蓄積する性質を利用した方法で、生細胞のみを測定する簡便な方法)、クリスタルバイオレット(CR)を用いる方法(クリスタルバイオレットが生細胞の細胞膜に入り込んで染色する性質を利用した方法で、生細胞のみを測定する簡便な方法)、テトラゾリウム塩を用いる方法(テトラゾリウム塩が細胞内ミトコンドリアの脱水素酵素の基質であり、生存能の高い細胞ほど還元されるテトラゾリウム塩の量が多く、その結果生じるホルマザン量が生存細胞数とよく対応するために、生細胞のみを測定する簡便な方法)、マーカー遺伝子(例えば、RPE65、Mitf、ZO1)の発現量を測定する方法、ATP量を測定する方法、メラニン量を測定する方法、ミトコンドリアの活性をMTT法により測定する方法等の通常用いられる方法により測定すればよい。尚、被験物質の「接触」と「洗浄・培地交換」との繰り返し等により被験物質の反復接触を行なうときには、各サイクルで回収された培養細胞の細胞毒性若しくはそれに相関関係を有する指標値を測定することが好ましい。
【0045】
本発明光毒性試験方法における第四工程は、第三工程の測定結果によって被験物質の光毒性発現能力の有無又はその程度を評価し、被験物質の光毒性発現能力を検定する工程である。
【0046】
上記第四工程では、第三工程の測定結果によって被験物質の光毒性発現能力の有無又はその程度を評価し、被験物質の光毒性発現能力を検定する。被験物質の光毒性発現能力の有無又はその程度を評価する際、対照を設定せずに第三工程の測定結果の絶対値で評価してもよいし、対照を設定し、その測定結果との比較で評価してもよい。
【0047】
好ましい実施形態では、上記第三工程の測定結果と、対照のヒト網膜色素上皮細胞における回収された培養細胞の細胞毒性若しくはそれに相関関係を有する指標値の測定結果とを比較し、その差異に基づいて被験物質の光毒性発現能力の有無又はその程度を評価する。ここで、「対照」には陰性対照及び陽性対照の両方が設定可能である。陰性対照の例としては、人工光を照射せずに培養するヒト網膜色素上皮細胞群、光照射量が弱い人工光の照射下で培養するヒト網膜色素上皮細胞群、光毒性発現能力を有さないことが予め分かっている物質(例えば、溶媒のみ)を接触させるヒト網膜色素上皮細胞群、等が挙げられる。このような陰性対照を用いる場合には、以下のような検定が可能となる。すなわち、被験物質における回収された培養細胞の細胞毒性若しくはそれに相関関係を有する指標値の測定結果と、陰性対照における回収された培養細胞の細胞毒性若しくはそれに相関関係を有する指標値の測定結果とを比較する。そして、被験物質における回収された培養細胞の細胞毒性若しくはそれに相関関係を有する指標値の方が低い場合には、当該被験物質は光毒性発現能力を有すると評価し、検定することもできる。
【0048】
さらに好ましい実施形態では、前記対照は、ヒト網膜色素上皮細胞に既知の光毒性発現物質を接触させた陽性対照を含む。陽性対照の例としては、光毒性発現能力を有することが予め分かっている基準物質を接触させて、人工光の照射下で培養するヒト網膜色素上皮細胞群が挙げられる。このような陽性対照を用いる場合には、以下のような検定が可能となる。すなわち、被験物質における回収された培養細胞の細胞毒性若しくはそれに相関関係を有する指標値の測定結果と、陽性対照における回収された培養細胞の細胞毒性若しくはそれに相関関係を有する指標値の測定結果とを比較する。そして、被験物質における回収された培養細胞の細胞毒性若しくはそれに相関関係を有する指標値の方が低い場合には、当該被験物質は陽性対照で用いた基準物質よりも高い光毒性発現能力を有すると評価し、検定することもできる。さらに、当該基準物質の各濃度又は各適用量において同様に評価し、検定することにより、当該被験物質の光毒性発現能力を定量的に評価し、検定することができる。この際、陽性対照と上記の陰性対照とを併用して設定してもよい。また、陽性対照の回収された培養細胞の細胞毒性若しくはそれに相関関係を有する指標値が陰性対照のそれよりも低いことをもって、人工光の照射が正しく行われ、試験が成立したことを示すこともできる。
【0049】
さらに好ましい実施形態では、クロルプロマジン(CPZ)を基準物質として陽性対照に用いる。
【0050】
本発明光毒性試験方法のための、クロルプロマジン(CPZ)の陽性対照としての使用も、本発明の1つである。さらに、本発明光毒性試験方法のための、クロルプロマジン(CPZ)の陽性対照としての使用も、本発明の1つである。
【0051】
本発明の陽性対照試薬の1つの様相は、本発明光毒性試験方法に用いるための陽性対照試薬であって、クロルプロマジン(CPZ)を含有する。試薬の形状としては、クロルプロマジン(CPZ)をそのまま用いてもよいし、溶媒に溶かして溶液状としてもよい。さらに、適宜の基剤に含有又は分散させた形状でもよい。
【0052】
さらに好ましい実施形態では、ペニシリンG(Penicillin G)、キニーネ(Quinine)、ビチオノール(Bithionol)又はクロルヘキシジン(Chlorhexidine)を基準物質として陰性対照に用いる。
【0053】
本発明光毒性試験方法のための、ペニシリンG(Penicillin G)、キニーネ(Quinine)、ビチオノール(Bithionol)又はクロルヘキシジン(Chlorhexidine)の陰性対照としての使用も、本発明の1つである。さらに、本発明光毒性試験方法のための、ペニシリンG(Penicillin G)、キニーネ(Quinine)、ビチオノール(Bithionol)又はクロルヘキシジン(Chlorhexidine)の陰性対照としての使用も、本発明の1つである。
【0054】
本発明の陰性対照試薬の1つの様相は、本発明光毒性試験方法に用いるための陰性対照試薬であって、ペニシリンG(Penicillin G)、キニーネ(Quinine)、ビチオノール(Bithionol)又はクロルヘキシジン(Chlorhexidine)を含有する。試薬の形状としては、ペニシリンG(Penicillin G)、キニーネ(Quinine)、ビチオノール(Bithionol)又はクロルヘキシジン(Chlorhexidine)をそのまま用いてもよいし、溶媒に溶かして溶液状としてもよい。さらに、適宜の基剤に含有又は分散させた形状でもよい。
【0055】
さらに、より具体的な好ましい比較・評価に関する実施形態として下記の方法も挙げることができる。例えば、被験物質を接触させたヒト網膜色素上皮細胞における細胞毒性IC50値(非光照射のための(遮光)対照)を、被験物質の接触開始後24時間以内に人工光の照射下で培養されたヒト網膜色素上皮細胞における細胞毒性IC50値で割って得られた値(PIF値:Photo Irritation Facor値)を求め、当該値(PIF値)が2より大きく、5より小さい場合には擬陽性、5以上の場合には、被験物質は光毒性陽性であると評価する。
【0056】
本発明光毒性発現物質探索方法は、本発明光毒性試験方法によって、被験物質の光毒性発現能力を検定し、所望の光毒性発現能力を有する物質を選抜するものである。本発明光毒性発現物質探索方法においても、上記した本発明光毒性試験方法と同様の実施形態をとることができる。例えば、上記の陰性対照を用いる場合には、被験物質における回収された培養細胞の細胞毒性若しくはそれに相関関係を有する指標値の測定結果と、陰性対照における回収された培養細胞の細胞毒性若しくはそれに相関関係を有する指標値の測定結果とを比較する。そして、陰性対照よりも回収された培養細胞の細胞毒性若しくはそれに相関関係を有する指標値が統計学的に有意に低い被験物質を選抜するか、又は、回収された培養細胞の細胞毒性若しくはそれに相関関係を有する指標値が陰性対照の50%以下の値となる被験物質を選抜すればよい。
【0057】
一方、クロルプロマジン(CPZ)等の陽性対照が用いられる場合には、被験物質における回収された培養細胞の細胞毒性若しくはそれに相関関係を有する指標値の測定結果と、陽性対照における回収された培養細胞の細胞毒性若しくはそれに相関関係を有する指標値の測定結果とを比較する。そして、陽性対照よりも回収された培養細胞の細胞毒性若しくはそれに相関関係を有する指標値が統計学的に有意に低い被験物質を選抜するか、又は、回収された培養細胞の細胞毒性若しくはそれに相関関係を有する指標値が陽性対照と同じ値である時の被験物質の濃度が陽性対照の濃度よりも低い被験物質を選抜することにより、陽性対照で用いられた基準物質よりも高い光毒性発現能力を有する物質を選抜することができる。また、陽性対照が用いられる場合には、回収された培養細胞の細胞毒性若しくはそれに相関関係を有する指標値を定量的に評価し、検定することもできる。具体的には、クロルプロマジン(CPZ)等の基準物質の各濃度又は各適用量において、被験物質に対して同様に評価し、検定することにより、被験物質の光毒性発現能力を定量的に評価し、検定することができる、そして、所望の光毒性発現能力をする物質を選抜する。
【0058】
本発明擬似太陽光皮膚刺激非誘発物質探索方法は、本発明光毒性試験方法によって、被験物質の光毒性発現能力を検定し、所望の光毒性発現能力を有さない物質を選抜するものである。本発明擬似太陽光皮膚刺激非誘発物質探索方法においても、上記した本発明光毒性試験方法と同様の実施形態をとることができる。尚、探索の対象となる被験物質は、所望の光毒性発現能力を有さない物質であれば何でもよく、例えば、低分子化合物、蛋白質、ペプチド等が挙げられる。
【0059】
本発明光毒性試験方法に基づくシステム工程を有する装置によれば、被験物質の光毒性発現能力の検定をより効率的に行なうことができ、所望の光毒性発現物質又は擬似太陽光皮膚刺激非誘発物質をより簡便に探索することもできる。また、本発明光毒性試験方法によって得られた擬似太陽光皮膚刺激性に関する毒性情報を電子情報記録媒体に記録することにより、毒性情報を包含する有用な電子情報記録媒体を作製することができる。
【実施例】
【0060】
以下、本発明を実施例によりさらに詳しく説明する。
【0061】
実施例1 (ヒトES細胞のヒト網膜色素上皮細胞への分化誘導)
ヒト胚性幹細胞(即ち、ES細胞)として、京都大学樹立株であるKhES-1株を用いた。
前記KhES-1株を、bFGF(塩基性線維芽細胞増殖因子:basic fibroblast growth factor)が添加されたヒトES細胞維持培養用培地(DMEM/F12、KSR(Knockout serum replacement)、非必須アミノ酸、L-グルタミン、2-メルカプトエタノール等を含む)において、マイトマイシンC処理したマウス胚性線維芽細胞(mouse embryonic fibroblast:MEF)フィーダー細胞上で未分化維持培養した。培養後、トリプシン/コラゲナーゼIVを含む解離液を用いて培養皿から回収することにより、ヒト胚性幹細胞(即ち、ES細胞)のコロニーを得た。
得られたコロニーを、マイクロピペットを用いてピペッティングすることにより、1細胞塊あたり数十細胞程度の大きさに砕いた後、予め0.1%ゼラチン液でコートしておいた10cm培養皿に、1μM〜10μM SB431542,1μM〜10μM CKI−7、1μM〜10μM Y27632を含むヒトES細胞維持培養用培地10mlに、数百から数千細胞塊程度のヒト胚性幹細胞(即ち、ES細胞)のコロニーを播種し、次いで、これを37℃、5%CO2インキュベーター内で培養した。
翌日(培養1日間)、浮遊している細胞塊を吸わないように、半分量(5ml)の培地を除去した後、1μM〜10μM Y27632を含むSDIA培地(GMEM、KSR、非必須アミノ酸、ピルビン酸ナトリウム、2−メルカプトエタノール等を含む)5mlを前記培養皿に添加し、培養を上記同様に継続した。
培養5日間後、未接着の細胞塊を吸わないように、5mlの培地を除去した後、1μM〜10μM Y27632を含むSDIA培地5mlを前記培養皿に添加し、更に培養を上記同様に継続した。
培養8日間後、培地全量を除去した後、PA6 conditioned medium(コンフルエント状態のPA6細胞をSDIA培地で1日間培養した後の培養上清)10mlを前記培養皿に添加した。以降3日〜4日間毎に、PA6 conditioned mediumを用いて培地交換した。当該操作により、黒色色素を有するヒト網膜色素上皮細胞が分化誘導された(図1及び図2参照)。
【0062】
実施例2 (ヒト網膜色素上皮細胞の培養)
実施例1により分化誘導された黒色色素を有するヒト網膜色素上皮細胞が存在するコロニーをマイクロピペットを用いてかきとり、次いで0.05%トリプシン処理により、細胞分散させた。
予めマトリゲルコートしておいた60mm培養皿に、N2添加物を含むDMEM/F12培養液に2〜20ng/mlのbFGFが添加された培地を加え、当該培地に得られた分散細胞を播種した。尚、このようにして播種された分散細胞には、ヒト網膜色素上皮細胞以外の不特定の細胞も含まれていた。
細胞を培養(37℃、5%CO2インキュベーター内)してコンフルエントになった後、0.25%トリプシン処理により、培養皿から細胞を回収した。回収された細胞を、予めマトリゲルコートしておいた10cm培養皿に播種した後、細胞がコンフルエントになるまで培養(37℃、5%CO2インキュベーター内)した。尚、細胞がコンフルエントになった時、培養皿に存在する細胞のうち大多数がヒト網膜色素上皮細胞であった。
更に、細胞を、bFGFを含まないN2添加物含有DMEM/F12培養液で1週間以上培養した後、以下の実験で使用した。
【0063】
実施例3 (本発明光毒性試験方法:第一工程、第二工程(非光照射のための(遮光)対照)、第三工程(非光照射のための(遮光)対照))
実施例2で調製されたヒト網膜色素上皮細胞を、0.25%トリプシン処理により、培養皿から細胞を回収した。回収された細胞を、予めマトリゲルコートしておいた96穴培養皿に播種(1wellあたり10万又は12万細胞ずつ)した後、培養(37℃、5%CO2インキュベーター内)を行った。
培養2時間〜4時間後、96穴培養皿からアスピレータを用いて培地を除去し、次いで、Earle’s Balanced Salt Solution (EBSS)を前記96穴培養皿に150μlずつwellの割合で添加し、細胞を洗浄した。
次に、前記培養皿に、予めEBSSを用いて調製された被験物質の溶液(尚、各々の試験液は下記参照のこと)又は溶媒対照液を100μlずつwellの割合で添加した。
【0064】
<被験物質の溶液>
(a)Chlorpromazine(クロルプロマジン(CPZ)):濃度 0.1、1、3、10、30、100(μg/ml)
(b)ペニシリンG(Penicillin G):濃度 1、3、10、30、100、300、1000(μg/ml)
(c)キニーネ(Quinine):濃度 0.1、0.3、1、3、10、30、100(μg/ml)
(d)ビチオノール(Bithionol):濃度 0.01、0.03、0.1、0.3、1、3、10(μg/ml)
(e)クロルヘキシジン(Chlorhexidine):濃度 0.1、0.3、1、3、10、30、100(μg/ml)
【0065】
96穴培養皿をアルミ箔で包み遮光した後、光照射装置(擬似太陽光照射装置 SXL−2500V2:セリック社)を用いてアルミ箔で遮光したまま40分間光照射(光照射量約5J/cm2)を行った。光照射後直ちに、前記96穴培養皿をDMEM/F12培養液150μlを用いて2回洗浄した後、当該96穴培養皿に、N2添加物含有DMEM/F12培養液を100μlずつwellの割合で添加し、一晩培養した。
培養後、96穴培養皿から培地を除去し、次いで、予め調製しておいたDMEM/F12培養液及びCell titer Glo反応液の等量混合液を当該96穴培養皿に100μlずつwellの割合で添加した。
得られた96穴培養皿をアルミ箔で遮光した状態で振とうしながら室温で30分間放置した後、前記96穴培養皿に含まれる培養物95μlを、白色96穴試験皿へ移した。次いで、当該96穴試験皿に含まれる培養物の発光量(尚、当該発光量は、細胞生存率に相関関係を有するものである。)を、EnVisionマルチラベルリーダー(Perkin Elmer社)を用いて測定した。測定された値から被験物質のヒト網膜色素上皮細胞に対する50%阻害濃度(IC50)を算出し、当該算出値を、細胞毒性(それに相関関係を有する指標値)を示す値とした。
上記の算出方法に従うと、以下の結果になった。
【0066】
<被験物質の細胞毒性>
(a)Chlorpromazine(クロルプロマジン(CPZ)):IC50=37.6(μg/ml)(図3参照)
(b)ペニシリンG(Penicillin G):IC50>1000(μg/ml)(因みに、1000μg/ml以下では細胞毒性は観察されなかった)(図4参照)
(c)キニーネ(Quinine):IC50=147.1(μg/ml)図5参照)
(d)ビチオノール(Bithionol):IC50>10(μg/ml)(因みに、10μg/ml以下では細胞毒性は観察されなかった)(図6参照)
(e)クロルヘキシジン(Chlorhexidine):IC50=42.7(μg/ml)(図7参照)
【0067】
実施例4 (本発明光毒性試験方法:第一工程、第二工程、第三工程)
実施例2で調製されたヒト網膜色素上皮細胞を、0.25%トリプシン処理により、培養皿から細胞を回収した。回収された細胞を、予めマトリゲルコートしておいた96穴培養皿に播種(1wellあたり10万又は12万細胞ずつ)した後、培養(37℃、5%CO2インキュベーター内)を行った。
培養2時間〜4時間後、96穴培養皿からアスピレータを用いて培地を除去し、次いで、Earle’s Balanced Salt Solution (EBSS)を前記96穴培養皿に150μlずつwellの割合で添加し、細胞を洗浄した。
次に、前記培養皿に、予めEBSSを用いて調製された被験物質の溶液(尚、各々の試験液は下記参照のこと)又は溶媒対照液を100μlずつwellの割合で添加した。
【0068】
<被験物質の溶液>
(a)Chlorpromazine(クロルプロマジン(CPZ)):濃度 0.1、1、3、10、30、100(μg/ml)
(b)ペニシリンG(Penicillin G):濃度 1、3、10、30、100、300、1000(μg/ml)
(c)キニーネ(Quinine):濃度 0.1、0.3、1、3、10、30、100(μg/ml)
(d)ビチオノール(Bithionol):濃度 0.01、0.03、0.1、0.3、1、3、10(μg/ml)
(e)クロルヘキシジン(Chlorhexidine):濃度 0.1、0.3、1、3、10、30、100(μg/ml)
【0069】
実施例3とは異なり、96穴培養皿をアルミ箔で包むことなく、光照射装置(擬似太陽光照射装置 SXL−2500V2:セリック社)を用いて40分間光照射(360nmにおける光照射強度を元に計算すると光照射量約5J/cm2となる)を行った。光照射後直ちに、前記96穴培養皿をDMEM/F12培養液150μlを用いて2回洗浄した後、当該96穴培養皿に、N2添加物含有DMEM/F12培養液を100μlずつwellの割合で添加し、一晩培養した。
培養後、96穴培養皿から培地を除去し、次いで、予め調製しておいたDMEM/F12培養液及びCell titer Glo反応液の等量混合液を当該96穴培養皿に100μlずつwellの割合で添加した。
得られた96穴培養皿をアルミ箔で遮光した状態で振とうしながら室温で30分間放置した後、前記96穴培養皿に含まれる培養物95μlを、白色96穴試験皿へ移した。次いで、当該96穴試験皿に含まれる培養物の発光量(尚、当該発光量は、細胞生存率に相関関係を有するものである。)を、EnVisionマルチラベルリーダー(Perkin Elmer社)を用いて測定した。測定された値から被験物質のヒト網膜色素上皮細胞に対する50%阻害濃度(IC50)を算出し、当該算出値を、細胞毒性(それに相関関係を有する指標値)を示す値とした。
上記の算出方法に従うと、以下の結果になった。
【0070】
<被験物質の細胞毒性>
(a)Chlorpromazine(クロルプロマジン(CPZ)):IC50=5.8(μg/ml)(図8参照)
(b)ペニシリンG(Penicillin G):IC50>1000(μg/ml)(因みに、1000μg/ml以下では細胞毒性は観察されなかった)(図9参照)
(c)キニーネ(Quinine):IC50=88.9(μg/ml)(図10参照)
(d)ビチオノール(Bithionol):IC50>10(μg/ml)(因みに、10μg/ml以下では細胞毒性は観察されなかった)(図11参照)
(e)クロルヘキシジン(Chlorhexidine):IC50=43.7(μg/ml)(図12参照)
【0071】
実施例5 (本発明光毒性試験方法:第四工程)
実施例3及び実施例4で算出された50%阻害濃度(IC50)に基づき、前述のPIF値(Photo Irritation Facor値)(即ち、被験物質を接触させたヒト網膜色素上皮細胞における細胞毒性IC50値(非光照射のための(遮光)対照)を、被験物質の接触開始後24時間以内に擬似太陽光の照射下で培養されたヒト網膜色素上皮細胞における細胞毒性IC50値で割って得られた値)を求めた。その結果を以下に示す。尚、当該値(PIF値)が5より大きい場合には、被験物質は光毒性陽性であると評価した。
【0072】
<被験物質のPIF値(Photo Irritation Facor値)>
(a)Chlorpromazine(クロルプロマジン(CPZ)):6.5
本発明光毒性試験方法による評価では、光細胞毒性陽性判定であった。これは、過去のin vivo試験結果と一致している。
(b)ペニシリンG(Penicillin G):光細胞毒性が認められない。
本発明光毒性試験方法による評価では、光細胞毒性陰性判定であった。これは、過去のin vivo試験結果と一致している。
(c)キニーネ(Quinine):1.7
本発明光毒性試験方法による評価では、光細胞毒性陰性判定であった。これは、Ljunggren B.ら,Phototoxic properties of quinine and quinidine:two quinoline methanol isomer.;Photodermatology 5 133 - 138(1988)に記載されるin vivo試験(mouse tail試験)結果と一致している。
(d)ビチオノール(Bithionol):光細胞毒性が認められない。
本発明光毒性試験方法による評価では、光細胞毒性陰性判定であった。これは、本来正しい陰性結果と一致している。尚、光毒性試験バリデーション研究実行委員会(委員長 吉村功)、光毒性試験代替法バリデーション研究報告書(2004年8月27日)による4施設での酵母―赤血球試験で偽陽性結果であり、本発明光毒性試験方法が優れたものであることが確認された。
(e)クロルヘキシジン(Chlorhexidine):0.98
本発明光毒性試験方法による評価では、光細胞毒性陰性判定であった。これは、本来正しい陰性結果と一致している。尚、光毒性試験バリデーション研究実行委員会(委員長 吉村功)、光毒性試験代替法バリデーション研究報告書(2004年8月27日)による4施設での酵母―赤血球試験で偽陽性結果であり、本発明光毒性試験方法が優れたものであることが確認された。
【0073】
比較例1 (ヒト網膜色素上皮細胞以外のヒト細胞を用いた比較実験)
「Balb/c 3T3細胞」は、結合組織細胞(Connective Tissue Cell)であり、線維芽細胞(Fibroblast)である。
10%ウシ血清、Lグルタミンを含むDMEM培地で培養された「Balb/c 3T3細胞」を0.25%トリプシン処理により、培養皿から細胞を回収した。回収された細胞を、予め0.1%ゼラチン溶液でコートしておいた96穴培養皿に播種(1wellあたり1万細胞ずつ)した後、10%ウシ血清、Lグルタミンを含むDMEM培地で一晩培養(37℃、5%CO2インキュベーター内)を行った。
培養後、96穴培養皿からアスピレータを用いて培地を除去し、次いで、Earle’s Balanced Salt Solution (EBSS)を前記96穴培養皿に150μlずつwellの割合で添加し、細胞を洗浄した。
次に、前記培養皿に、予めEBSSを用いて調製された被験物質の溶液(尚、各々の試験液は下記参照のこと)又は溶媒対照液を100μlずつwellの割合で添加した。
【0074】
<被験物質の溶液>
(a)Chlorpromazine(クロルプロマジン(CPZ)):濃度 0.1、1、3、10、30、100(μg/ml)
(b)ペニシリンG(Penicillin G):濃度 1、3、10、30、100、300、1000(μg/ml)
(c)キニーネ(Quinine):濃度 0.1、0.3、1、3、10、30、100(μg/ml)
(d)ビチオノール(Bithionol):濃度 0.01、0.03、0.1、0.3、1、3、10(μg/ml)
(e)クロルヘキシジン(Chlorhexidine):濃度 0.1、0.3、1、3、10、30、100(μg/ml)
【0075】
96穴培養皿をアルミ箔で包み遮光した後、光照射装置(擬似太陽光照射装置 SXL−2500V2:セリック社)を用いてアルミ箔で遮光したまま40分間光照射(360nmにおける照射強度を元に計算すると光照射量約5J/cm2となる)を行った。光照射後直ちに、前記96穴培養皿をDMEM/F12培養液150μlを用いて2回洗浄した後、当該96穴培養皿に、N2添加物含有DMEM/F12培養液100μlずつwellの割合で添加し、一晩培養した。
培養後、96穴培養皿から培地を除去し、次いで、予め調製しておいたDMEM/F12培養液及びCell titer Glo反応液の等量混合液を当該96穴培養皿に100μlずつwellの割合で添加した。
得られた96穴培養皿をアルミ箔で遮光した状態で振とうしながら室温で30分間放置した後、前記96穴培養皿に含まれる培養物95μlを、白色96穴試験皿へ移した。
次いで、当該96穴試験皿に含まれる培養物の発光量(尚、当該発光量は、細胞生存率に相関関係を有するものである。)を、EnVisionマルチラベルリーダー(Perkin Elmer社)を用いて測定した。測定された値から被験物質のヒト網膜色素上皮細胞に対する50%阻害濃度(IC50)を算出し、当該算出値を、細胞毒性(それに相関関係を有する指標値)を示す値とした。
上記の算出方法に従うと、以下の結果になった。
【0076】
<被験物質の細胞毒性>
(a)Chlorpromazine(クロルプロマジン(CPZ)):IC50=19.4(μg/ml)(図13参照)
(b)ペニシリンG(Penicillin G):IC50>1000(μg/ml)(因みに、1000μg/ml以下では細胞毒性は観察されなかった)(図14参照)
(c)キニーネ(Quinine):IC50=292.2(μg/ml)(図15参照)
(d)ビチオノール(Bithionol):IC50=11.4(μg/ml)(因みに、3μg/ml以下では細胞毒性は観察されなかった)(図16参照)
(e)クロルヘキシジン(Chlorhexidine):IC50=13.7(μg/ml)(図17参照)
【0077】
比較例2 (比較光毒性試験方法:第一工程、第二工程、第三工程)
10%ウシ血清、Lグルタミンを含むDMEM培地で培養された「Balb/c 3T3細胞」を0.25%トリプシン処理により、培養皿から細胞を回収した。回収された細胞を、予め0.1%ゼラチン溶液でコートしておいた96穴培養皿に播種(1wellあたり1万細胞ずつ)した後、10%ウシ血清、Lグルタミンを含むDMEM培地で一晩培養(37℃、5%CO2インキュベーター内)を行った。
培養後、96穴培養皿からアスピレータを用いて培地を除去し、次いで、Earle’s Balanced Salt Solution (EBSS)を前記96穴培養皿に150μlずつwellの割合で添加し、細胞を洗浄した。
次に、前記培養皿に、予めEBSSを用いて調製された被験物質の溶液(尚、各々の試験液は下記参照のこと)又は溶媒対照液を100μlずつwellの割合で添加した。
【0078】
<被験物質の溶液>
(a)Chlorpromazine(クロルプロマジン(CPZ)):濃度 0.1、1、3、10、30、100(μg/ml)
(b)ペニシリンG(Penicillin G):濃度 1、3、10、30、100、300、1000(μg/ml)
(c)キニーネ(Quinine):濃度 0.1、0.3、1、3、10、30、100(μg/ml)
(d)ビチオノール(Bithionol):濃度 0.01、0.03、0.1、0.3、1、3、10(μg/ml)
(e)クロルヘキシジン(Chlorhexidine):濃度 0.1、0.3、1、3、10、30、100(μg/ml)
【0079】
比較例1とは異なり、96穴培養皿をアルミ箔で包むことなく、光照射装置(擬似太陽光照射装置 SXL−2500V2:セリック社)を用いて40分間光照射(360nmにおける照射強度を元に計算すると光照射量約5J/cm2となる)を行った。光照射後直ちに、前記96穴培養皿をDMEM/F12培養液150μlを用いて2回洗浄した後、当該96穴培養皿に、N2添加物含有DMEM/F12培養液を100μlずつwellの割合で添加し、一晩培養した。
培養後、96穴培養皿から培地を除去し、次いで、予め調製しておいたDMEM/F12培養液及びCell titer Glo反応液の等量混合液を当該96穴培養皿に100μlずつwellの割合で添加した。
得られた96穴培養皿をアルミ箔で遮光した状態で振とうしながら室温で30分間放置した後、前記96穴培養皿に含まれる培養物95μlを、白色96穴試験皿へ移した。次いで、当該96穴試験皿に含まれる培養物の発光量(尚、当該発光量は、細胞生存率に相関関係を有するものである。)を、EnVisionマルチラベルリーダー(Perkin Elmer社)を用いて測定した。測定された値から被験物質のヒト網膜色素上皮細胞に対する50%阻害濃度(IC50)を算出し、当該算出値を、細胞毒性(それに相関関係を有する指標値)を示す値とした。
上記の算出方法に従うと、以下の結果になった。
【0080】
<被験物質の細胞毒性>
(a)Chlorpromazine(クロルプロマジン(CPZ)):IC50=0.82(μg/ml)(図18参照)
(b)ペニシリンG(Penicillin G):IC50>1000(μg/ml)(因みに、1000μg/ml以下では細胞毒性は観察されなかった)(図19参照)
(c)キニーネ(Quinine):IC50=2.3(μg/ml)(μg/ml)(図20参照)
(d)ビチオノール(Bithionol):IC50=0.93(μg/ml)(因みに、10μg/ml以下では細胞毒性は観察されなかった)(図21参照)
(e)クロルヘキシジン(Chlorhexidine):IC50=10.1(μg/ml)(図22参照)
【0081】
比較例3 (比較光毒性試験方法:第四工程)
比較例1及び比較例2で算出された50%阻害濃度(IC50)に基づき、前述のPIF値(Photo Irritation Facor値)(即ち、被験物質を接触させたヒト網膜色素上皮細胞における細胞毒性IC50値(非光照射のための(遮光)対照)を、被験物質の接触開始後24時間以内に擬似太陽光の照射下で培養されたヒト網膜色素上皮細胞における細胞毒性IC50値で割って得られた値)を求めた。その結果を以下に示す。尚、当該値(PIF値)が5より大きい場合には、被験物質は光毒性陽性であると評価した。
【0082】
<被験物質のPIF値(Photo Irritation Facor値)>
(a)Chlorpromazine(クロルプロマジン(CPZ)):23.7
比較光毒性試験方法による評価では、光細胞毒性陽性判定であった。これは、過去のin vivo試験結果と一致している。
(b)ペニシリンG(Penicillin G):光細胞毒性が認められない。
比較光毒性試験方法による評価では、光細胞毒性陰性判定であった。これは、過去のin vivo試験結果と一致している。
(c)キニーネ(Quinine):128.8
比較光毒性試験方法による評価では、光細胞毒性陽性判定であった。これは、Ljunggren B.ら,Phototoxic properties of quinine and quinidine:two quinoline methanol isomer.;Photodermatology 5 133 - 138(1988)に記載されるin vivo試験(mouse tail試験)結果と一致していない。よって、本発明光毒性試験方法は偽陽性結果となった。
(d)ビチオノール(Bithionol):12.4
比較光毒性試験方法による評価では、光細胞毒性陽性判定であった。これは、本来正しい陰性結果と一致していない。尚、光毒性試験バリデーション研究実行委員会(委員長 吉村功)、光毒性試験代替法バリデーション研究報告書(2004年8月27日)による4施設での酵母―赤血球試験で偽陽性結果であった。よって、比較光毒性試験方法は偽陽性結果となった。
(e)クロルヘキシジン(Chlorhexidine):1.4
比較光毒性試験方法による評価では、光細胞毒性陰性判定であった。これは、本来正しい陰性結果と一致している。尚、光毒性試験バリデーション研究実行委員会(委員長 吉村功)、光毒性試験代替法バリデーション研究報告書(2004年8月27日)による4施設での酵母―赤血球試験で偽陽性結果であった。
【0083】
実施例6 (光照射量の設定のための予備試験)
OECDガイドラインで陽性対照として用いられているクロルプロマジン(CPZ)を用いて、光照射量と前述のPIF値(即ち、被験物質を接触させたヒト網膜色素上皮細胞における細胞毒性IC50値(非光照射のための(遮光)対照)を、被験物質の接触開始後24時間以内に擬似太陽光の照射下で培養されたヒト網膜色素上皮細胞における細胞毒性IC50値で割って得られた値)との関係を検討した。光照射を、2.09mW/cm2(トプコン社製UVR300に受光部UD360を取り付けて計測)の光を15分間(1.87J/cm2)、20分間(2.50J/cm2)、25分間(3.13J/cm2)、30分間(3.75J/cm2)、40分間(5.00J/cm2)、60分間(7.51J/cm2)の各種条件に設定したうえで、実施例3及び実施例4に記載された方法に準じて光毒性試験方法を実施した。また、非光照射のための対照である遮光条件については、遮光すること以外は上記光照射での光毒性試験方法と同様な方法により、光毒性試験方法を実施した。
その結果、測定された値から被験物質のヒト網膜色素上皮細胞に対する50%阻害濃度(IC50)を算出し、更に当該算出値に基づきPIF値を求めたところ、15分間ではPIF=1.70、20分間ではPIF=1.72、25分間ではPIF=3.35、30分間ではPIF=4.57、40分間ではPIF=6.53、60分間ではPIF=10.94であった(図23参照)。
以上より、3.75J/cm2(30分間)以下の光照射量ではPIF>5とならず、陽性対照であるクロルプロマジン(CPZ)が陽性と判定できないことから、3.75J/cm2より高い光照射量に設定することが好ましいことが、当該予備試験から確認できた。
【0084】
次いで、上記予備試験に関連して、擬似太陽光の照射が、クロルプロマジン(CPZ)を接触させたヒト網膜色素上皮細胞において、擬似太陽光の遮光条件下での前記細胞の生存細胞数に対して、光照射条件下での前記細胞の生存細胞数が有意に減少する光照射量を有する照射であることを確認した。
その結果、15分間(1.87J/cm2)、20分間(2.50J/cm2)、25分間(3.13J/cm2)、30分間(3.75J/cm2)、40分間(5.00J/cm2)、60分間(7.51J/cm2)におけるヒト網膜色素上皮細胞の生存細胞数を調べたところ、光照射時間が40分間である遮光条件下において前記細胞の生存細胞数の減少が認められなかったクロルプロマジン(CPZ)の接触濃度10μg/mlでの結果(図3参照)を抽出し比較したところ、擬似太陽光の遮光条件下での前記細胞の生存細胞数に対して、光照射条件下での前記細胞の生存細胞数が有意に減少する光照射量は3.13J/cm2(25分間)以上であることが確認できた(図24参照)。
従って、3.13J/cm2(25分間)以上の光照射量であれば、擬似太陽光の照射が適正に行われ、当該光照射量を用いれば、好ましい本発明光毒性試験方法が実施可能であることが確認された。
【0085】
実施例8 (本発明光毒性試験方法(他の実施態様:形質転換体の利用))
ヒト網膜色素上皮細胞で発現する遺伝子(Mitf、RPE65、ZO1等)のプロモーター発現制御下にレポーター遺伝子を含むベクターで形質転換されたヒト胚性幹細胞(即ち、ES細胞)の作製方法を具体的に記載する。
【0086】
(1)遺伝子のプロモータークローニング、及び、レポータープラスミドの作製
ZO-1のプロモーター領域を以下に示す方法により、クローニングする。
ヒト胚性幹細胞(即ち、ES細胞)より抽出したゲノムDNA20ng又はRPE65遺伝子を含むヒトゲノムBAC DNAを鋳型とし、RPE65遺伝子の翻訳開始点及び転写開始点上流5kbの位置に設計したプライマーを用いて、Platinum Taq polymerase(インビトロジェン社)を用いたPCR法により、所望のDNA断片を増幅する。尚、PCR反応は、GeneAmp PCR System9700(アプライドバイオシステム社)にて、95℃5分間反応させた後、95℃30秒間、55℃30秒間、72℃5分間を30サイクル行い、72℃7分間の反応条件で実施する。
得られたPCR産物を、PCR purification kit (QIAGEN社)を用いて精製し、PCR産物の末端を制限酵素消化した後、アガロースゲル電気泳動を行うことにより、精製する。
精製された所望のDNA断片を、Alkaline phosphatase(タカラバイオ社)にて脱リン酸化処理を行ったpGL4.17[Luc2/Neo]vector(プロメガ社)と、Ligation kit(タカラバイオ社)を用いて連結する。得られたDNA断片を、大腸菌DH5αコンピテンセル(タカラバイオ社)に形質転換した後、これを37℃でLB/アンピシリン培地にて一晩培養する。培養後、出現したコロニーをLB/アンピシリン液体培地にて培養して得られた大腸菌からプラスミドDNAを抽出する。尚、抽出されたプラスミドDNAについては、その挿入断片のシークエンスを決定し、変異等の有無を確認する。
ヒト胚性幹細胞(即ち、ES細胞)へのトランスフェクションに用いるため、各プラスミドをQiafilterプラスミド抽出キット(キアゲン社)にて再度抽出する。得られたプラスミドDNA20μgを制限酵素処理により直線化した後、精製を行い、線状化DNAを得る。
【0087】
(2)組換えヒト胚性幹細胞(即ち、ES細胞)の作製方法
未分化維持培養されたヒト胚性幹細胞(即ち、ES細胞)を解離液処理することにより、培養皿からヒト胚性幹細胞(即ち、ES細胞)コロニーを回収する。回収されたコロニーをヒト胚性幹細胞(即ち、ES細胞)未分化維持培地に懸濁し、これを0.1%ゼラチンコートした10cm培養皿に移した後、37℃、5%CO2インキュベーターで2時間静置することにより、フィーダー細胞を接着させる。浮遊しているヒト胚性幹細胞(即ち、ES細胞)コロニーを含む上清を15mlチューブに移し、これを遠心によりコロニーを沈降させる。このようにして回収されたコロニーをトリプシン液で酵素処理した後、マイクロピペットを用いてピペッティングすることにより、ヒト胚性幹細胞(即ち、ES細胞)を単一細胞化する。
次いで、得られた細胞を遠心して沈降させる。予め、Opti−MEM培地と2μgの線状化DNA、8μLのFuGENE HD(プロメガ社)とを混合しておいた液で前記細胞を懸濁し、当該細胞懸濁液を5分間室温にて反応させた後、1μM〜10μM Y27632を含む未分化維持培地で懸濁する。
得られた細胞懸濁液をネオマイシン耐性フィーダー細胞上へ播種し、37℃にて5%CO2インキュベーターで一晩培養する。培地に100μg/mLのG418(インビトロジェン社)を添加することにより、薬剤選択培養を行う。G418添加の10日〜15日後、顕微鏡下でシャーレ中に形成したヒト胚性幹細胞(即ち、ES細胞)コロニーを単離し、これを96ウェルプレートに播種する。薬剤選択培養を継続した後、更に10〜15日後に増殖した細胞を継代培養して48ウェルプレートに播種する。薬剤選択培養を継続した後、薬剤耐性の安定形質転換細胞株を取得する。
【0088】
(3)組換えヒト胚性幹細胞(即ち、ES細胞)を利用したヒト網膜色素上皮細胞への被験物質の暴露及び毒性値の算出:非光照射のための対照(遮光条件))
組換えヒト胚性幹細胞(即ち、ES細胞)を、実施例1に記載された方法に準じて、ヒト網膜色素上皮細胞へと分化誘導する。
次いで、実施例2に記載された方法に準じてヒト網膜色素上皮細胞を培養した後、これに、実施例3に記載された方法に準じて被験物質を暴露する。
暴露翌日、96穴培養皿から培地を除去した後、予め調製しておいたDMEM/F12培養液及びSteady Glo反応液の等量混合液を1wellあたり100μl添加する。
アルミ箔で遮光した状態で振とうしながら室温で30分間放置した後、95μlを白色96穴培養皿へ移し、これをEnVisionマルチラベルリーダー(Perkin Elmer社)にて発光量を測定する。溶媒対照及び被験物質の各供試濃度における発光量の測定値から当該被験物質のヒト網膜色素上皮細胞に対する50%阻害濃度(IC50)を算出し、これを毒性値とする。
【0089】
(4)組換えヒト胚性幹細胞(即ち、ES細胞)を利用したヒト網膜色素上皮細胞への被験物質の暴露及び毒性値の算出:光照射条件)
組換えヒト胚性幹細胞(即ち、ES細胞)を、実施例1に記載された方法に準じて、ヒト網膜色素上皮細胞へと分化誘導する。
次いで、実施例2に記載された方法に準じてヒト網膜色素上皮細胞を培養した後、これに、実施例4に記載された方法に準じて被験物質を暴露する。
暴露翌日、96穴培養皿から培地を除去した後、予め調製しておいたDMEM/F12培養液及びSteady Glo反応液の等量混合液を1wellあたり100μl添加する。
アルミ箔で遮光した状態で振とうしながら室温で30分間放置した後、95μlを白色96穴培養皿へ移し、これをEnVisionマルチラベルリーダー(Perkin Elmer社)にて発光量を測定する。溶媒対照及び被験物質の各供試濃度における発光量の測定値から当該被験物質のヒト網膜色素上皮細胞に対する50%阻害濃度(IC50)を算出し、これを毒性値とする。
【0090】
(5)組換えヒト胚性幹細胞(即ち、ES細胞)を利用したヒト網膜色素上皮細胞を用いた被験物質の光毒性発現能力の評価)
上記(4)で算出された50%阻害濃度(IC50)に基づき、前述のPIF値(Photo Irritation Facor値)(即ち、被験物質を接触させたヒト網膜色素上皮細胞における細胞毒性IC50値(非光照射のための(遮光)対照)を、被験物質の接触開始後24時間以内に擬似太陽光の照射下で培養されたヒト網膜色素上皮細胞における細胞毒性IC50値で割って得られた値)を求める。その結果、当該値(PIF値)が6より大きい場合には、被験物質は光毒性陽性であると評価する。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明光毒性試験方法によれば、被験物質の光毒性発現能力の検定を効果的に行なうことができる。さらに、本発明では、当該試験方法に陽性対照として用いることができる光毒性発現物質を提供することができる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒト網膜色素上皮細胞を用いた光毒性試験法等に関するものである。
【背景技術】
【0002】
医薬品、農薬、化粧品、工業製品等の化学物質のヒトに対する安全性を評価するためには、通常、動物個体を用いた多くの毒性試験が行われる。これらの毒性試験のうち、体内に入った化学物質が光に反応して生じる刺激性等の急性毒性試験は、総じて光毒性試験と称される。
光毒性試験法として最も広く利用されているものとしては、例えば、動物皮膚への局所投与による森川法が知られている。当該光毒性試験法は、モルモット又は白色ウサギを用い、当該動物の背部皮膚に被験物である化学物質を塗布した後、当該塗布部位への紫外線照射に対する前記背部皮膚における生体反応を予め定めた評価基準に従って肉眼判定して得られた判定結果と、前記塗布部位への非紫外線照射に対する前記背部皮膚における生体反応を前記評価基準に従って同様に肉眼判定して得られた判定結果と比較することにより、被験物である化学物質が有する光毒性の存在有無又はその程度を評価する試験法である。
しかしながら、近年の動物福祉の問題や欧州等に見られる動物実験規制強化から、実験動物を使用しない光毒性試験法のための代替法の開発が強く求められている。
一方、現在までに多くのin vitro 光毒性試験法が開発されている。このような光毒性試験法のなかで最も期待されているものとしては、例えば、結合組織細胞(Connective Tissue Cell)であり、線維芽細胞(Fibroblast)である「Balb/c 3T3細胞」によるニュートラルレッド取り込み試験法(3T3 NRU PT)を挙げることができる。当該3T3 NRU PTは、1998 年にECVAM(European Center for the Validation of Alternative Methods:ヨーロッパ代替法検証センター)により科学的に確立された光毒性試験法の代替法として認められ、2000年以降、化学物質が有する光毒性の存在有無をスクリーニングするための試験法として採用されている。また当該試験法は、OECDにも提出され、2004年にin vitro 光毒性試験としてガイドライン化されている唯一の試験法としても知られている(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】OECD. OECD guidelines for the testing of chemicals: test guideline 432 In vitro 3T3 NRU phototoxicxity test’’. Paris: Frankreich, OECD Publication Office; 2004.
【非特許文献2】Lynch AM, Wilcox P.,Review of the performance of the 3T3 NRU in vitro phototoxicity assay in the pharmaceutical industry.:Experimental and Toxicologic Pathology vol.63 p209-214; 2011.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、近年、3T3 NRU PTによる光毒性の存在有無等の評価結果が多く蓄積されるようになったところ、偽陽性という結果を含むことも明らかになりつつあり、実際のヒトへの安全性を予測することに対しては必ずしも常に充分満足できるものではなく、新たなin vitro 光毒性試験法の開発が望まれている(例えば、非特許文献2参照)。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、このような状況を鑑み鋭意検討した結果、本発明に至った。
即ち、本発明は
1.下記工程(1)〜(4)を有することを特徴とする光毒性試験方法(以下、本発明光毒性試験方法と記すこともある。)
(1)ヒト網膜色素上皮細胞に被験物質を接触させる第一工程
(2)第一工程で被験物質を接触させたヒト網膜色素上皮細胞を、第一工程における接触開始後24時間以内に、340nmから380nmまでの範囲の波長分布を含む人工光を照射しながら培養する第二工程
(3)第二工程で培養されたヒト網膜色素上皮細胞を回収し、回収された培養細胞の細胞毒性若しくはそれに相関関係を有する指標値を測定する第三工程
(4)第三工程の測定結果によって被験物質の光毒性発現能力の有無又はその程度を評価し、被験物質の光毒性発現能力を検定する第四工程;
2.前記人工光が、紫外光、可視光及び赤外光からなる擬似太陽光であることを特徴とする前項1記載の光毒性試験方法;
3.第二工程における人工光の照射が、波長360nmでの測定値として3J/cm2から30J/cm2までの範囲である光照射量となる照射であることを特徴とする前項1又は2記載の光毒性試験方法;
4.前記第四工程において、前記第三工程の測定結果と、対照のヒト網膜色素上皮細胞における回収された培養細胞の細胞毒性若しくはそれに相関関係を有する指標値の測定結果とを比較し、その差異に基づいて被験物質の光毒性発現能力の有無又はその程度を評価することを特徴とする前項1〜3のいずれかの前項記載の光毒性試験方法;
5.前記対照が、ヒト網膜色素上皮細胞に既知の光毒性発現物質を接触させた陽性対照を含むことを特徴とする前項4記載の光毒性試験方法;
6.前記光毒性発現物質が、クロルプロマジン(CPZ)であることを特徴とする前項5記載の光毒性試験方法;
7.第二工程における人工光の照射が、被験物質を接触させたヒト網膜色素上皮細胞と対照のヒト網膜色素上皮細胞との少なくともいずれか一方のヒト網膜色素上皮細胞において、人工光の遮光条件下での前記細胞の生存細胞数に対して、光照射条件下での前記細胞の生存細胞数が有意に減少する光照射量を有する照射であることを特徴とする前項1〜6のいずれかの前項記載の光毒性試験方法;
8.前記第二工程における人工光の照射が、1回の連続的照射又は2回以上の繰り返し照射からなる間欠的照射であることを特徴とする前項1〜7のいずれかの前項記載の光毒性試験方法;
9.前記ヒト網膜色素上皮細胞が、幹細胞由来の網膜色素上皮細胞であることを特徴とする前項1〜8のいずれかの前項記載の光毒性試験方法;
10.前記幹細胞が、胚性幹細胞、人工多能性幹細胞又は神経幹細胞であることを特徴とする前項9記載の光毒性試験方法;
11.前項1〜10のいずれかの前項記載の光毒性試験方法のための、陽性対照としてのクロルプロマジン(CPZ)の使用;
12.前項1〜10のいずれかの前項記載の光毒性試験方法に用いるための陽性対照試薬であって、クロルプロマジン(CPZ)を含有することを特徴とする陽性対照試薬;
13.前項1〜10のいずれかの前項記載の光毒性試験方法のための、陰性対照としてのペニシリンG(Penicillin G)、キニーネ(Quinine)、ビチオノール(Bithionol)又はクロルヘキシジン(Chlorhexidine)の使用;
14.前項1〜10のいずれかの前項記載の光毒性試験方法に用いるための陰性対照試薬であって、ペニシリンG(Penicillin G)、キニーネ(Quinine)、ビチオノール(Bithionol)又はクロルヘキシジン(Chlorhexidine)を含有することを特徴とする陽性対照試薬;
15.前項1〜10のいずれかの前項記載の光毒性試験方法によって、被験物質の光毒性発現能力を検定し、所望の光毒性発現能力を有する物質を選抜することを特徴とする光毒性発現物質の探索方法(以下、本発明光毒性発現物質探索方法と記すこともある。);
16.前項1〜10のいずれかの前項記載の光毒性試験方法によって、被験物質の光毒性発現能力を検定し、所望の光毒性発現能力を有さない物質を選抜することを特徴とする擬似太陽光皮膚刺激非誘発物質の探索方法(以下、本発明擬似太陽光皮膚刺激非誘発物質探索方法と記すこともある。);
等を提供するものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明光毒性試験方法によれば、被験物質の光毒性発現能力の検定を効果的に行なうことができる。さらに、本発明では、当該試験方法に陽性対照として用いることができる光毒性発現物質を提供することができる。
【0007】
本発明光毒性発現物質探索方法によれば、所望の光毒性発現物質又は擬似太陽光皮膚刺激非誘発物質の探索を簡便に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1は、ヒト胚性幹細胞(即ち、ES細胞)から分化誘導して得られたヒト網膜色素上皮細胞の明視野像を示す図である。
【図2】図2は、ヒト胚性幹細胞(即ち、ES細胞)から分化誘導して得られたヒト網膜色素上皮細胞を免疫染色した結果(赤はZO-1、青は核)を示す図である。
【図3】図3は、被験物質として、光細胞毒性が陽性である化合物「クロルプロマジン(CPZ))」を用いた本発明光毒性試験方法(実施例3:非光照射のための(遮光)対照)で測定された細胞毒性若しくはそれに相関関係を有する指標値に関する結果を示す図である。
【図4】図4は、被験物質として、光細胞毒性が陰性である化合物「ペニシリンG(Penicillin G)」を用いた本発明光毒性試験方法(実施例3:非光照射のための(遮光)対照)で測定された細胞毒性若しくはそれに相関関係を有する指標値に関する結果を示す図である。
【図5】図5は、被験物質として、光細胞毒性が陰性である化合物「キニーネ(Quinine)」を用いた本発明光毒性試験方法(実施例3:非光照射のための(遮光)対照)で測定された細胞毒性若しくはそれに相関関係を有する指標値に関する結果を示す図である。
【図6】図6は、被験物質として、光細胞毒性が陰性である化合物「ビチオノール(Bithionol)」を用いた本発明光毒性試験方法(実施例3:非光照射のための(遮光)対照)で測定された細胞毒性若しくはそれに相関関係を有する指標値に関する結果を示す図である。
【図7】図7は、被験物質として、光細胞毒性が陰性である化合物「クロルヘキシジン(Chlorhexidine)」を用いた本発明光毒性試験方法(実施例3:非光照射のための(遮光)対照)で測定された細胞毒性若しくはそれに相関関係を有する指標値に関する結果を示す図である。
【図8】図8は、被験物質として、光細胞毒性が陽性である化合物「クロルプロマジン(CPZ))」を用いた本発明光毒性試験方法(実施例4:光照射)で測定された細胞毒性若しくはそれに相関関係を有する指標値に関する結果を示す図である。
【図9】図9は、被験物質として、光細胞毒性が陰性である化合物「ペニシリンG(Penicillin G)」を用いた本発明光毒性試験方法(実施例4:光照射)で測定された細胞毒性若しくはそれに相関関係を有する指標値に関する結果を示す図である。
【図10】図10は、被験物質として、光細胞毒性が陰性である化合物「キニーネ(Quinine)」を用いた本発明光毒性試験方法(実施例4:光照射)で測定された細胞毒性若しくはそれに相関関係を有する指標値に関する結果を示す図である。
【図11】図11は、被験物質として、光細胞毒性が陰性である化合物「ビチオノール(Bithionol)」を用いた本発明光毒性試験方法(実施例4:光照射)で測定された細胞毒性若しくはそれに相関関係を有する指標値に関する結果を示す図である。
【図12】図12は、被験物質として、光細胞毒性が陰性である化合物「クロルヘキシジン(Chlorhexidine)」を用いた本発明光毒性試験方法(実施例4:非光照射のための(遮光)対照)で測定された細胞毒性若しくはそれに相関関係を有する指標値に関する結果を示す図である。
【図13】図13は、被験物質として、光細胞毒性が陽性である化合物「クロルプロマジン(CPZ))」を用いた比較光毒性試験方法(比較例1:非光照射のための(遮光)対照)で測定された細胞毒性若しくはそれに相関関係を有する指標値に関する結果を示す図である。
【図14】図14は、被験物質として、光細胞毒性が陰性である化合物「ペニシリンG(Penicillin G)」を用いた比較光毒性試験方法(比較例1:非光照射のための(遮光)対照)で測定された細胞毒性若しくはそれに相関関係を有する指標値に関する結果を示す図である。
【図15】図15は、被験物質として、光細胞毒性が陰性である化合物「キニーネ(Quinine)」を用いた比較光毒性試験方法(比較例1:非光照射のための(遮光)対照)で測定された細胞毒性若しくはそれに相関関係を有する指標値に関する結果を示す図である。
【図16】図16は、被験物質として、光細胞毒性が陰性である化合物「ビチオノール(Bithionol)」を用いた本発明光毒性試験方法(比較例1:非光照射のための(遮光)対照)で測定された細胞毒性若しくはそれに相関関係を有する指標値に関する結果を示す図である。
【図17】図17は、被験物質として、光細胞毒性が陰性である化合物「クロルヘキシジン(Chlorhexidine)」を用いた本発明光毒性試験方法(比較例1:非光照射のための(遮光)対照)で測定された細胞毒性若しくはそれに相関関係を有する指標値に関する結果を示す図である。
【図18】図18は、被験物質として、光細胞毒性が陽性である化合物「クロルプロマジン(CPZ)」を用いた比較光毒性試験方法(比較例2:光照射)で測定された細胞毒性若しくはそれに相関関係を有する指標値に関する結果を示す図である。
【図19】図19は、被験物質として、光細胞毒性が陰性である化合物「ペニシリンG(Penicillin G)」を用いた比較光毒性試験方法(比較例2:光照射)で測定された細胞毒性若しくはそれに相関関係を有する指標値に関する結果を示す図である。
【図20】図20は、被験物質として、光細胞毒性が陰性である化合物「キニーネ(Quinine)」を用いた比較光毒性試験方法(比較例2:光照射)で測定された細胞毒性若しくはそれに相関関係を有する指標値に関する結果を示す図である。
【図21】図21は、被験物質として、光細胞毒性が陰性である化合物「ビチオノール(Bithionol)」を用いた比較光毒性試験方法(比較例2:光照射)で測定された細胞毒性若しくはそれに相関関係を有する指標値に関する結果を示す図である。
【図22】図22は、被験物質として、光細胞毒性が陰性である化合物「クロルヘキシジン(Chlorhexidine)」を用いた比較光毒性試験方法(比較例2:非光照射のための(遮光)対照)で測定された細胞毒性若しくはそれに相関関係を有する指標値に関する結果を示す図である。
【図23】図23は、光照射量の設定のための予備試験(実施例6)での結果を示す図である。OECDガイドラインで陽性対照として用いられているクロルプロマジン(CPZ)を用いて、光照射量と前述のPIF値(即ち、被験物質を接触させたヒト網膜色素上皮細胞における細胞毒性IC50値(非光照射のための(遮光)対照)を、被験物質の接触後1に擬似太陽光の照射下で培養されたヒト網膜色素上皮細胞における細胞毒性IC50値で割って得られた値)との関係を検討したものである。
【図24】図24は、光照射量の設定のための予備試験(実施例6)での結果を示す図である。光照射量と前述のPIF値との関係を検討した予備試験に関連して、擬似太陽光の照射が、クロルプロマジン(CPZ)を接触させたヒト網膜色素上皮細胞において、擬似太陽光の遮光条件下での前記細胞の生存細胞数に対して、光照射条件下での前記細胞の生存細胞数が有意に減少する光照射量を有する照射であることを確認したものである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。
本発明における「形質転換体」とは、形質転換により作製された細胞等の生命体の全部又は一部を意味する。形質転換体としては、例えば、原核細胞、酵母、動物細胞、植物細胞、昆虫細胞等を挙げることができる。形質転換体は、その対象に依存して、形質転換細胞、形質転換組織、形質転換宿主等とも呼ばれることがある。本発明において用いられる細胞は、形質転換体であってもよい。
【0010】
本発明に関連した、遺伝子操作技術で使用される原核生物細胞としては、例えば、Eschericia属、Serratia属、Bacillus属、Brevibacterium属、Corynebacterium属、Microbacterium属、Pseudomonas属等に属する原核生物細胞、例えば、Eschericia XL1-Blue、Eschericia XL2-Blue、Eschericia DH1等を挙げることができる。このような細胞は、例えば、Molecular Cloning(3rd edition)’ by Sambrook,J and Russell, D.W., Appendix 3(Volume3),Vectors and Bacterial strains. A3.2(Cold Spring Harbor USA 2001)に具体的に記載されている。
【0011】
本発明に関連した「ベクター」とは、目的のポリヌクレオチド配列を目的の細胞へと移入させることができるベクターを意味する。このようなベクターとしては、例えば、原核細胞、酵母、動物細胞、植物細胞、昆虫細胞、動物個体及び植物個体等の宿主細胞において自立複製が可能であり、又は、染色体中への組込みが可能である、ポリヌクレオチドの転写に適した位置にプロモーターを含有しているもの等を挙げることができる。
このようなベクターのうち、クローニングに適したベクターを「クローニングベクター」と記すこともある。このようなクローニングベクターは、通常、制限酵素部位を複数含むマルチプルクローニング部位を含む。現在、遺伝子のクローニングに使用可能なベクターは、当該技術分野において多数存在しており、販売元により、微妙な違い(例えば、マルチクローニングサイトの制限酵素の種類や配列)から名前を代えて販売されている。例えば、Molecular Cloning(3rd edition)’ by Sambrook, J and Russell, D.W., Appendix 3 (Volume 3), Vectors and Bacterial strains. A3.2 (Cold Spring Harbor USA, 2001)) に代表的なものが記載(発売元も記載)されており、このようなものを当業者は適宜目的に応じて使用することができる。
【0012】
本発明に関連した「ベクター」は、「発現ベクター」、「レポーターベクター」、「組換えベクター」も含む。尚、「発現ベクター」とは、構造遺伝子及びその発現を調節するプロモーターに加えて種々の調節エレメントが宿主細胞の中で作動し得る状態で連結されている核酸配列を意味する。「調節エレメント」としては、例えば、ターミネーター、薬剤耐性遺伝子のような選択マーカー、及び、エンハンサーを含むもの等を挙げることができる。生物(例えば、動物)の発現ベクターのタイプ及び使用される調節エレメントの種類が宿主細胞に応じて変わり得ることは、当業者に周知の事項である。
【0013】
本発明に関連して「組換えベクター」としては、例えば、(a)ゲノムライブラリーのスクリーニングのためには、ラムダFIXベクター(ファージベクター)、(b)cDNAのスクリーニングのためには、ラムダZAPベクター(ファージベクター)、(c)ゲノムDNAのクローニングするためには、例えば、pBluescript II SK+/−, pGEM,pCR2.1ベクター(プラスミドベクター)等を挙げることができる。また「発現ベクター」としては、例えば、pSV2/neoベクター、pcDNAベクター、pUC18ベクター、pUC19ベクター、pRc/RSVベクター、pLenti6/V5-Destベクター、pAd/CMV/V5-DESTベクター、pDON-AI-2/neoベクター、pMEI-5/neoベクター等(プラスミドベクター)等を挙げることができる。また「レポーターベクター」としては、例えば、pGL2ベクター、pGL3ベクター、pGL4.10ベクター、pGL4.11ベクター、pGL4.12ベクター、pGL4.70ベクター、pGL4.71ベクター、pGL4.72ベクター、pSLGベクター、pSLOベクター、pSLRベクター、pEGFPベクター、pAcGFPベクター、pDsRedベクター等を挙げることができる。このようなベクターは、前述のMolecular Cloning誌を参考にして適宜利用すればよい。
【0014】
本発明に関連して、核酸分子を細胞内に導入する技術としては、例えば、形質転換、形質導入、トランスフェクション等を挙げることができる。このような導入技術としては、具体的には例えば、Ausubel F. A.ら編(1988)、Current Protocols in Molecular Biology, Wiley, New York, NY; Sambrook J.ら(1987)Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 2nd Ed.及びその第三版,Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, NY、別冊実験医学「遺伝子導入&発現解析実験法」羊土社、1997等に記載される方法等を挙げることができる。遺伝子が細胞内に導入されたことを確認する技術としては、例えば、ノーザンブロット分析、ウェスタンブロット分析又は他の周知慣用技術等を挙げることができる。
【0015】
また、本発明に関連して、ベクターの導入方法としては、例えば、トランスフェクション、形質導入、形質転換等(例えば、リン酸カルシウム法、リポソーム法、DEAEデキストラン法、エレクトロポレーション法、パーティクルガン(遺伝子銃)を用いる方法等)を挙げることができる。
【0016】
本発明光毒性試験方法は、下記工程(1)〜(4)を有することを特徴とする光毒性試験方法である。
(1)ヒト網膜色素上皮細胞に被験物質を接触させる第一工程
(2)第一工程で被験物質を接触させたヒト網膜色素上皮細胞を、第一工程における接触開始後24時間以内に、340nmから380nmまでの範囲の波長分布を含む人工光を照射しながら培養する第二工程
(3)第二工程で培養されたヒト網膜色素上皮細胞を回収し、回収された培養細胞の細胞毒性若しくはそれに相関関係を有する指標値を測定する第三工程
(4)第三工程の測定結果によって被験物質の光毒性発現能力の有無又はその程度を評価し、被験物質の光毒性発現能力を検定する第四工程
【0017】
本発明における「被験物質」としては、特に限定はなく、全ての化学物質が対象となるが、例えば、医薬品、農薬、化粧品、工業製品等の用途に使用される物質、今後使用される可能性がある開発途上の物質等を挙げることができる。
【0018】
本発明における「光毒性」としては、例えば、擬似太陽光照射が関与している毒性反応により惹起される毒性等を挙げることができる。具体的には、例えば、眼や皮膚等に生じる一次刺激反応としての光刺激性、アレルギー反応である光感作性(光アレルギー性)、光がん原性、更に光遺伝毒性(photogenotoxicity)等を挙げることができる。
【0019】
本発明における「細胞毒性」としては、例えば、細胞死や細胞増殖阻害等細胞の生存に影響を与える毒性等を挙げることができる。細胞毒性若しくはそれに相関関係を有する指標値は、例えば、血球計算盤を用いる方法、セルカウンターによる方法、3Hチミジン等の放射性同位体を用いる方法(3Hチミジン等の放射性同位体を細胞培養液に加えてインキュベートするだけで、生細胞のみを測定する簡便な方法)、LDH(乳酸脱水素酵素)法、ニュートラルレッド(NR)を用いる方法(赤色色素ニュートラルレッドが生細胞のリソゾームに取り込まれ蓄積する性質を利用した方法で、生細胞のみを測定する簡便な方法)、クリスタルバイオレット(CR)を用いる方法(クリスタルバイオレットが生細胞の細胞膜に入り込んで染色する性質を利用した方法で、生細胞のみを測定する簡便な方法)、テトラゾリウム塩を用いる方法(テトラゾリウム塩が細胞内ミトコンドリアの脱水素酵素の基質であり、生存能の高い細胞ほど還元されるテトラゾリウム塩の量が多く、その結果生じるホルマザン量が生存細胞数とよく対応するために、生細胞のみを測定する簡便な方法)、マーカー遺伝子(例えば、RPE65、Mitf、ZO1)の発現量を測定する方法、ATP量を測定する方法、メラニン量を測定する方法、ミトコンドリアの活性をMTT法により測定する方法等の通常用いられる方法により測定すればよい。尚、被験物質の「接触」と「洗浄・培地交換」との繰り返し等により被験物質の反復接触を行なうときには、各サイクルで回収された培養細胞の細胞毒性若しくはそれに相関関係を有する指標値を測定することが好ましい。
【0020】
上記のような、細胞毒性若しくはそれに相関関係を有する指標値を測定する場合には、一般的に入手可能な測定キットを用いて測定してもよい。ミトコンドリアの活性、ATP量、乳酸脱水素酵素活性等の測定キットとしては、例えば、CellTiter-Glo(登録商標) Luminescent Cell Viability Assay、Dual-Glo(登録商標) Luciferase Assay System、Bright-Glo(登録商標) Luciferase Assay System、Steady-Glo(登録商標) Luciferase Assay System、Luciferase Assay Systems、ApoTox-Glo(登録商標) Triplex Assay、CellTiter-Fluor(登録商標) Cell Viability Assay、CytoTox 96(登録商標) Non-Radioactive Cytotoxicity Assay(プロメガ社)、ATP Bioluminescence Assay Kit HS II Cell Proliferation Kit I (MTT)、Cell Proliferation Kit II (XTT)(ロシュ社)、LDH Cytotoxicity Assay Kit(Cayman Chemical社)、ADP Assay Kit、 EnzyLight(BioAssay Systems社)等を挙げることができる。
【0021】
本発明光毒性試験方法において、細胞毒性若しくはそれに相関関係として、マーカー遺伝子(例えば、RPE65、Mitf、ZO1)の発現量を測定する方法を採用する場合について更に詳細に説明する。
まず「マーカー遺伝子の発現」とは、マーカー遺伝子に応じて発現されたポリヌクレオチド、オリゴヌクレオチド若しくは核酸、又は、タンパク質、ポリペプチド、オリゴペプチド若しくはペプチド等の発現を包含する。
【0022】
マーカー遺伝子の発現量を測定する方法としては、目的の細胞等において、例えば、mRNAの転写産物量やポリペプチドの翻訳産物量を測定する方法等を挙げることができる。mRNAの発現量(転写産物量)を測定する方法としては、例えば、ノーザンブロット法、ドットブロット法、PCR法、リアルタイムPCR法、レポーター遺伝子を利用した方法等の分子生物学的測定方法を含む任意の適切な方法等を挙げることができる。またポリペプチドの発現量(翻訳産物量)を測定する方法としては、例えば、ELISA法、RIA法、蛍光抗体法、ウェスタンブロット法、免疫組織染色法等の免疫学的測定方法を含む任意の適切な方法等を挙げることができる。尚、遺伝子の発現変動は、通常の分子生物学的測定方法又は免疫学的測定方法を含む任意の適切な方法により評価されるmRNAレベル又はポリペプチドのタンパク質レベルでの発現量が増加又は減少することを意味する。また、他の方法として、アレイ(例えば、DNAアレイ、プロテインアレイ)を用いた遺伝子解析方法等も挙げることができる。尚、DNAアレイについては、例えば、秀潤社編、細胞工学別冊「DNAマイクロアレイと最新PCR法」等、プロテインアレイについては、Nat Genet. 2002 Dec;32 Suppl:526−32等に記載されている。更に、RT−PCR、RACE法、SSCP法、免疫沈降法、two−hybridシステム、インビトロ翻訳等も挙げることできる。尚、このような方法については、例えば、ゲノム解析実験法・中村祐輔ラボ・マニュアル、編集・中村祐輔 羊土社(2002)等に記載されている。
【0023】
また、レポーター遺伝子を利用した方法としては、マーカー遺伝子のプロモーター配列に作動可能に連結されるレポーター遺伝子を組み込んだベクターを作製し、それをヒト網膜色素上皮細胞に遺伝子導入することにより、安定形質転換体を作製する方法等を挙げることができる。作製された安定形質転換体は、レポーター遺伝子を細胞内で発現するため、レポーター遺伝子の活性や発現量を測定すれば、当該測定値を生存しているヒト網膜色素上皮細胞の量に相関関係を有する指標値として利用することができる。
【0024】
ここで「レポーター遺伝子」としては、例えば、ホタルルシフェラーゼ遺伝子(firefly luc)、ウミシイタケルシフェラーゼ遺伝子(renilla luc)、β-ガラクトシダーゼ遺伝子、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ遺伝子、又は、核酸構築物が導入される宿主細胞での視覚での選択を可能にする選択マーカー遺伝子を挙げることができる。このような選択マーカー遺伝子としては、例えば、緑色蛍光プロテイン(GFP)遺伝子、青色蛍光プロテイン(CFP)遺伝子、黄色蛍光プロテイン(YFP)遺伝子、赤色蛍光プロテイン(dsRed)遺伝子等の生細胞での観察が可能な蛍光色素マーカー遺伝子又は色素マーカー遺伝子等を挙げることができる。尚、上記選択マーカー遺伝子及び選択マーカータンパク質は、宿主細胞に対して実質的に毒性を示さないことが好ましい。また、レポーター遺伝子の発現有無又はその程度を検出する方法としては、選択マーカータンパク質が酵素である場合も、蛍光プロテインである場合も、公知の検出方法等を利用すればよい。
【0025】
また「プロモーター」とは、遺伝子の転写の開始部位を決定し、またその頻度を直接的に調節するDNA上の領域を意味する。通常、RNAポリメラーゼが結合して転写を始める塩基配列である。そして「プロモーター配列」とは、ある遺伝子のプロモーターの働きを有する部分をいう。プロモーター配列は、通常、推定タンパク質コード領域の第1エクソン又は転写開始点の上流約5kbp以内の領域であることが多いので、DNA解析用ソフトウェアを用いてゲノム塩基配列中のタンパク質コード領域を予測すれば、プロモーター配列を推定することができる。このようなDNA解析用ソフトウェアとしては、例えば、DNASISソフトウェア(日立ソフトウェア)、GENETYX(株式会社ゼネティックス)等を挙げることができる。因みに、推定プロモーター配列は、構造遺伝子毎に異なり、通常、構造遺伝子の上流に存在するが、これらに限定されず、構造遺伝子の下流に存在することもある。
上記の領域には、Sp1及びAP-2等の既知転写調節因子の結合可能配列が存在し、当該領域が発現制御に重要な働きをすることが予想される。このことから少なくとも当該領域に転写を誘導するために必要十分な塩基配列(プロモーター配列)を含むと推測される。正確な位置は、当該技術分野において周知慣用な技術を用いて調べればよい。
【0026】
プロモーター配列と予測されるDNA配列とを、NCBIデータベースより入手する方法を説明する。
ヒトZO-1(TJP1)遺伝子のプロモーター配列を含むと予測される転写開始点上流のゲノムDNA配列は、インターネット上のMCSC Genome Browserホームページで、human reference sequenceを検索対象データベースとして設定し、「TJP1」をキーワードとして検索することにより、TJP1遺伝子に関するSequence and Links to Tools and Databasesのリンク一覧が表示される。このリンク先から、「Genomic Sequence Near Gene」ページへ移動する。次に、Sequence Retrieval Region Optionsのチェックボックスにチェックを入れ、「Promoter/Upstream by」を5000basesに設定し、更に「5' UTR Exons」のチェックボックスにチェックを入れた後、submitボタンをクリックすることにより、転写開始点上流5kbと第一エクソンを含む5’UTRのゲノムDNA配列を取得することができる。また、NCBIホームページ上で「TJP1」をキーワードとして検索することにより、NM_003257.3なる配列番号を取得することができ、TJP1のmRNA配列を入手することができる。これらのゲノム配列とmRNA配列とを、DNA解析用ソフトウェアを用いて分析することにより、転写開始点より上流の約5kbpのDNA配列を入手することができる。尚、DNA解析用ソフトウェアとしては、前述のように、例えば、DNASISソフトウェア(日立ソフトウェア)、GENETYX(株式会社ゼネティックス)等を挙げることができる。
【0027】
また「プロモーター配列に作動可能に連結される」とは、所望の遺伝子の発現(作動)があるプロモーター配列の制御下に配置されることを意味する。プロモーターが遺伝子に作動可能に連結されるためには、通常、その遺伝子のすぐ上流にプロモーターが配置されるが、必ずしも隣接して配置される必要はない。
【0028】
本発明における「ヒト網膜色素上皮細胞」とは、例えば、ヒト由来の細胞であって、網膜の外層に位置する上皮細胞である。当該細胞は、視細胞の維持に重要な働きをもつ細胞である。形状は単層の立方上皮細胞であり、相互間はtight junctionで結合され、黒色の色素を有する細胞である。
当該ヒト網膜色素上皮細胞としては、培養可能であれば特に制限はない。好ましい実施形態では、具体的には例えば、幹細胞由来の網膜色素上皮細胞(即ち、例えば、胚性幹細胞(即ち、ES細胞)、人工多能性幹細胞(即ち、iPS細胞)、神経幹細胞等の幹細胞から分化誘導させた培養が容易なヒト網膜色素上皮細胞等)、生体組織から直接取得した培養が容易なヒト網膜色素上皮細胞等を挙げることができる。また、培養細胞化されたがん細胞由来のヒト網膜色素上皮細胞、人為的な操作により不死化された培養が容易なヒト網膜色素上皮細胞等も挙げることができる。
【0029】
ここで「幹細胞」とは、細胞分裂を経ても同じ分化能を維持する細胞を意味し、組織が傷害を受けたときにその組織を再生することができる。当該「幹細胞」としては、例えば、胚性幹細胞若しくは組織幹細胞(組織性幹細胞、組織特異的幹細胞又は体性幹細胞とも呼ばれる。)又は人工多能性幹細胞(iPS細胞:induced pluripotent stem cell)等を挙げることができる。
本発明光毒性試験方法において使用される好ましい幹細胞としては、例えば、胚性幹細胞(即ち、ES細胞)、人工多能性幹細胞(即ち、iPS細胞)、神経幹細胞等を挙げることができる。
【0030】
また、「胚性幹細胞」(即ち、ES細胞)とは、自己複製能を有し、多分化能(即ち、多能性「pluripotency」)を有する幹細胞であり、初期胚に由来する多能性幹細胞を意味する。胚性幹細胞は、1981年に初めて樹立され、1989年以降ノックアウトマウス作製にも応用されている。1998年にはヒト胚性幹細胞が樹立されており、再生医学にも利用されつつある。神経幹細胞等を含む組織幹細胞は、胚性幹細胞とは異なり、分化の方向が限定されている細胞であり、組織中の特定の位置に存在し、未分化な細胞内構造をしている。従って、組織幹細胞は多能性のレベルが低い。組織幹細胞は、核/細胞質比が高く、細胞内小器官が乏しい。組織幹細胞は、概して、多分化能を有し、細胞周期が遅く、個体の一生以上に増殖能を維持する。人工多能性幹細胞は繊維芽細胞等分化した細胞をOct3/4、Sox2、Klf4、Myc等数種類の遺伝子の発現により直接初期化して多分化能を誘導した細胞であり、2006年、山中らによりマウス細胞で樹立された(Takahashi K, Yamanaka S.Cell. 2006, 126(4), p663-676)。2007年、ヒト繊維芽細胞でも樹立され、胚性幹細胞と同様に多分化能を有する(Takahashi K, Tanabe K, Ohnuki M, Narita M, Ichisaka T, Tomoda K, Yamanaka S. Cell.2007, 131(5),p861-872. 、Yu J, Vodyanik MA, Smuga-Otto K, Antosiewicz-Bourget J, Frane JL, Tian S, Nie J, Jonsdottir GA, Ruotti V, Stewart R, Slukvin II, Thomson JA.,Science. 2007, 318(5858), p1917-1920. 、Nakagawa M, Koyanagi M, Tanabe K, Takahashi K, Ichisaka T, Aoi T, Okita K, Mochiduki Y, Takizawa N, Yamanaka S. Nat Biotechnol., 2008, 26(1), p101-106)。
【0031】
本発明光毒性試験方法における第一工程は、ヒト網膜色素上皮細胞に被験物質を接触させる工程である。
【0032】
上記第一工程では、ヒト網膜色素上皮細胞に被験物質を接触させる。ヒト網膜色素上皮細胞と被験物質との接触時間として、例えば、1分間以上を、好ましくは5分間以上3日間以内、より好ましくは10分間以上24時間以内等を挙げることができる。当該接触系における保温温度としては、例えば、15℃〜42℃程度を、好ましくは35℃〜42℃程度、より好ましくは35℃〜37℃程度、特に好ましくは37℃程度等を挙げることができる。また、前記接触系が培養液中での系である場合には、当該培養液のpHとしては、例えば、pH5〜pH9程度を、好ましくはpH6.5〜pH7.8程度を挙げることができる。
上記第一工程における被験物質接触時の炭酸ガス濃度としては、例えば、0%〜25%程度等を挙げることができる。
上記第一工程における被験物質接触時の好ましい湿度としては、例えば、95±5%rh程度、より好ましくは100%rh程度等を挙げることができる。
【0033】
ヒト網膜色素上皮細胞に接触させる被験物質の濃度及び適用量については、特に限定はなく、被験物質の種類、予想される被験物質の光毒性発現能力、第一工程でのヒト網膜色素上皮細胞と被験物質との接触時間、第二工程での培養時間、第二工程での光照射量等によって適宜決定すればよい。例えば、0.001μM〜10mM程度で、好ましくは0.01μM〜5mM程度等を挙げることができる。
【0034】
上記第一工程における接触系内でのヒト網膜色素上皮細胞の密度としては、例えば、1×104cell/cm2〜4×106cell/cm2程度で、好ましくは4×104cell/cm2〜4×105cell/cm2程度等を挙げることができる。
【0035】
本発明光毒性試験方法における第二工程は、第一工程で被験物質を接触させたヒト網膜色素上皮細胞を、第一工程における接触開始後24時間以内に、340nmから380nmまでの範囲の波長分布を含む人工光を照射しながら培養する工程である。
【0036】
上記第二工程では、第一工程で被験物質を接触させたヒト網膜色素上皮細胞を、第一工程における接触開始後24時間以内に、340nmから380nmまでの範囲の波長分布を含む人工光を照射しながら培養する。そして、被験物質が光毒性発現能力を有する場合には、本工程でその光毒性発現能力を発現させることができる。このとき、前記人工光を吸収する色素や、被験物質を吸着する可能性がある血清等のタンパク質成分を含まない培養液を使用することが好ましい。
【0037】
好ましい実施形態では、第一工程における接触開始後12時間以内、より好ましくは6時間以内、特に好ましくは10分間〜2時間程度以内に、340nmから380nmまでの範囲の波長分布を含む人工光を照射しながら培養する。
勿論、本発明検定方法における好ましい実施形態では、上記第一工程(即ち、被験物質との接触)と上記第二工程(即ち、人工光照射下での培養)とが同時に進行しながら実施してもよい。より具体的には、第一工程で接触させた被験物質を除去した状態で第二工程を実施してもよいし、被験物質が存在した状態で第二工程を実施してもよい。
【0038】
第一工程における接触開始後から第二工程における人工光の照射開始前までの期間において、第一工程で被験物質を接触させたヒト網膜色素上皮細胞は、例えば、15℃〜42℃程度を、好ましくは35℃〜42℃程度、より好ましくは35℃〜37℃程度、特に好ましくは37℃程度等の培養温度下でかつ人工光の非照射下で培養しておけばよい。また第一工程における被験物質のヒト網膜色素上皮細胞に対する24時間以内の接触の後、当該培養細胞を洗浄・培地交換してから第二工程における人工光の照射に供することによって、細胞外にある被験物質の影響を排除し、第一工程において細胞内にとりこまれた被験物質の作用のみを評価することもできる。
上記第二工程における培養時の炭酸ガス濃度としては、例えば、0%〜25%程度等を挙げることができる。
上記第二工程における培養時の湿度としては、例えば、95±5%rh程度、好ましくは100%rh程度等を挙げることができる。
【0039】
照射する人工光は、340nmから380nmまでの範囲の波長分布を含む人工光である。好ましくは、例えば、紫外光、可視光及び赤外光からなる擬似太陽光である人工光等を挙げることができる。より好ましくは、例えば、305nm未満の波長の紫外光と850nm以上の波長の赤外光とを含まず、且つ、315nmから800nmまでの範囲の波長分布を有する光を含む疑似太陽光等が挙げられる。
前記人工光としては、例えば、紫外線ランプ、水銀ランプ、ハロゲンランプ、LED、キセノンランプ、メタルハライドランプ、ナトリウムランプ等を光源とした光等を利用すればよい。好ましくは、例えば、キセノンランプ、水銀ランプ等を光源とした紫外光や擬似太陽光等を挙げることができる。より好ましくは、例えば、キセノンランプ、水銀ランプ等を光源とした擬似太陽光等が挙げられる。尚、必要に応じて特定の波長のみを通過させるフィルタや特定の波長を遮断するフィルタ等を用いて、所望の波長分布を有する人工光に調整してから使用すればよい。
因みに、擬似太陽光を照射するための具体的な光照射装置として、例えば、SOL500、SOL1200、SOL2000(Dr. K. Honle Medizintechnik社)、SUNTEST CPS/CPS+、SUNTEST XLS+(Atlas Material Testing Technology社)、SXL-2500V2、XI-01B140KB1(セリック社)を挙げることができる。
【0040】
上記第二工程に関して、被験物質が存在した状態で第二工程を実施する場合には、被験物質の「人工光照射下での接触時間」を調節することもできる。即ち、培養時間及び人工光の光照射量を適宜設定することにより、所望の「人工光照射下での接触時間」を実現することができる。尚、人工光の照射は、連続的又は間欠的に行なうことができる。人工光の照射を連続的に行なう場合には、培養時間が「人工光照射下での接触時間」に相当する。例えば、連続的な人工光照射の下で、15分間、30分間、1時間又は2時間培養することにより、15分間、30分間、1時間又は2時間の「人工光照射下での接触時間」を実現することができる。一方、人工光の照射を間欠的に行なう場合には、人工光の照射時間が「人工光照射下での接触時間」に相当する。例えば、24時間の培養期間中、最初の12時間を人工光の照射下で培養し、残りの12時間を人工光を遮断した状態で培養することにより、12時間の「人工光照射下での接触時間」を実現することができる。
ヒト網膜色素上皮細胞の培養温度としては、例えば、15℃〜42℃程度を挙げることができる。
【0041】
上記第二工程に関して、340nmから380nmまでの範囲の波長分布を含む人工光を照射する際の好ましい光照射量としては、例えば、波長360nmでの測定値として3J/cm2から30J/cm2までの範囲である光照射量等を挙げることができる。このような所望の「光照射量」を得るには、例えば、人工光の光照射強度及び人工光の光照射時間等を適宜設定すればよい。光照射量(J/cm2)は、例えば、時間(分)×光照射強度(mW/cm2)×60÷1000という数式により算出すればよい。具体的には例えば、波長360nmでの測定値で約2.08mWである光照射強度の人工光を40分間照射することにより、約5J/cm2の光照射量になることが判る。
【0042】
好ましい実施形態では、人工光の照射として、例えば、被験物質を接触させたヒト網膜色素上皮細胞と対照のヒト網膜色素上皮細胞との少なくともいずれか一方のヒト網膜色素上皮細胞において、人工光の遮光条件下での前記細胞の生存細胞数に対して、光照射条件下での前記細胞の生存細胞数が有意に減少する光照射量を有する照射等を挙げることができる。このような好ましい光照射量の設定には、例えば、後述する実施例6に記載される方法等に順じて予備試験を実施すればよく、好ましい光照射量であることを容易に確認することができる。
より具体的な実施形態では、人工光の照射として、例えば、波長360nmでの測定値として3J/cm2から30J/cm2までの範囲である擬似太陽光の光照射量となるような光照射等を挙げることができる。より好ましくは、例えば、波長360nmでの測定値として3.5J/cm2から20J/cm2までの範囲である擬似太陽光の光照射量となるような照射等が挙げられる。特に好ましくは、例えば、波長360nmでの測定値として5J/cm2から10J/cm2までの範囲である擬似太陽光の光照射量となるような照射等を挙げることができる。
以上の光を照射することにより、より確実に被験物質の光毒性発現能力を発現させることができる。
【0043】
本発明光毒性試験方法における第三工程は、第二工程で培養されたヒト網膜色素上皮細胞を回収し、回収された培養細胞の細胞毒性若しくはそれに相関関係を有する指標値を測定する工程である。
【0044】
上記第三工程では、第二工程で培養されたヒト網膜色素上皮細胞における回収された培養細胞の細胞毒性若しくはそれに相関関係を有する指標値を測定する。
培養細胞の細胞毒性若しくはそれに相関関係は、前述の通り、例えば、血球計算盤を用いる方法、セルカウンターによる方法、3Hチミジン等の放射性同位体を用いる方法(3Hチミジン等の放射性同位体を細胞培養液に加えてインキュベートするだけで、生細胞のみを測定する簡便な方法)、LDH(乳酸脱水素酵素)法、ニュートラルレッド(NR)を用いる方法(赤色色素ニュートラルレッドが生細胞のリソゾームに取り込まれ蓄積する性質を利用した方法で、生細胞のみを測定する簡便な方法)、クリスタルバイオレット(CR)を用いる方法(クリスタルバイオレットが生細胞の細胞膜に入り込んで染色する性質を利用した方法で、生細胞のみを測定する簡便な方法)、テトラゾリウム塩を用いる方法(テトラゾリウム塩が細胞内ミトコンドリアの脱水素酵素の基質であり、生存能の高い細胞ほど還元されるテトラゾリウム塩の量が多く、その結果生じるホルマザン量が生存細胞数とよく対応するために、生細胞のみを測定する簡便な方法)、マーカー遺伝子(例えば、RPE65、Mitf、ZO1)の発現量を測定する方法、ATP量を測定する方法、メラニン量を測定する方法、ミトコンドリアの活性をMTT法により測定する方法等の通常用いられる方法により測定すればよい。尚、被験物質の「接触」と「洗浄・培地交換」との繰り返し等により被験物質の反復接触を行なうときには、各サイクルで回収された培養細胞の細胞毒性若しくはそれに相関関係を有する指標値を測定することが好ましい。
【0045】
本発明光毒性試験方法における第四工程は、第三工程の測定結果によって被験物質の光毒性発現能力の有無又はその程度を評価し、被験物質の光毒性発現能力を検定する工程である。
【0046】
上記第四工程では、第三工程の測定結果によって被験物質の光毒性発現能力の有無又はその程度を評価し、被験物質の光毒性発現能力を検定する。被験物質の光毒性発現能力の有無又はその程度を評価する際、対照を設定せずに第三工程の測定結果の絶対値で評価してもよいし、対照を設定し、その測定結果との比較で評価してもよい。
【0047】
好ましい実施形態では、上記第三工程の測定結果と、対照のヒト網膜色素上皮細胞における回収された培養細胞の細胞毒性若しくはそれに相関関係を有する指標値の測定結果とを比較し、その差異に基づいて被験物質の光毒性発現能力の有無又はその程度を評価する。ここで、「対照」には陰性対照及び陽性対照の両方が設定可能である。陰性対照の例としては、人工光を照射せずに培養するヒト網膜色素上皮細胞群、光照射量が弱い人工光の照射下で培養するヒト網膜色素上皮細胞群、光毒性発現能力を有さないことが予め分かっている物質(例えば、溶媒のみ)を接触させるヒト網膜色素上皮細胞群、等が挙げられる。このような陰性対照を用いる場合には、以下のような検定が可能となる。すなわち、被験物質における回収された培養細胞の細胞毒性若しくはそれに相関関係を有する指標値の測定結果と、陰性対照における回収された培養細胞の細胞毒性若しくはそれに相関関係を有する指標値の測定結果とを比較する。そして、被験物質における回収された培養細胞の細胞毒性若しくはそれに相関関係を有する指標値の方が低い場合には、当該被験物質は光毒性発現能力を有すると評価し、検定することもできる。
【0048】
さらに好ましい実施形態では、前記対照は、ヒト網膜色素上皮細胞に既知の光毒性発現物質を接触させた陽性対照を含む。陽性対照の例としては、光毒性発現能力を有することが予め分かっている基準物質を接触させて、人工光の照射下で培養するヒト網膜色素上皮細胞群が挙げられる。このような陽性対照を用いる場合には、以下のような検定が可能となる。すなわち、被験物質における回収された培養細胞の細胞毒性若しくはそれに相関関係を有する指標値の測定結果と、陽性対照における回収された培養細胞の細胞毒性若しくはそれに相関関係を有する指標値の測定結果とを比較する。そして、被験物質における回収された培養細胞の細胞毒性若しくはそれに相関関係を有する指標値の方が低い場合には、当該被験物質は陽性対照で用いた基準物質よりも高い光毒性発現能力を有すると評価し、検定することもできる。さらに、当該基準物質の各濃度又は各適用量において同様に評価し、検定することにより、当該被験物質の光毒性発現能力を定量的に評価し、検定することができる。この際、陽性対照と上記の陰性対照とを併用して設定してもよい。また、陽性対照の回収された培養細胞の細胞毒性若しくはそれに相関関係を有する指標値が陰性対照のそれよりも低いことをもって、人工光の照射が正しく行われ、試験が成立したことを示すこともできる。
【0049】
さらに好ましい実施形態では、クロルプロマジン(CPZ)を基準物質として陽性対照に用いる。
【0050】
本発明光毒性試験方法のための、クロルプロマジン(CPZ)の陽性対照としての使用も、本発明の1つである。さらに、本発明光毒性試験方法のための、クロルプロマジン(CPZ)の陽性対照としての使用も、本発明の1つである。
【0051】
本発明の陽性対照試薬の1つの様相は、本発明光毒性試験方法に用いるための陽性対照試薬であって、クロルプロマジン(CPZ)を含有する。試薬の形状としては、クロルプロマジン(CPZ)をそのまま用いてもよいし、溶媒に溶かして溶液状としてもよい。さらに、適宜の基剤に含有又は分散させた形状でもよい。
【0052】
さらに好ましい実施形態では、ペニシリンG(Penicillin G)、キニーネ(Quinine)、ビチオノール(Bithionol)又はクロルヘキシジン(Chlorhexidine)を基準物質として陰性対照に用いる。
【0053】
本発明光毒性試験方法のための、ペニシリンG(Penicillin G)、キニーネ(Quinine)、ビチオノール(Bithionol)又はクロルヘキシジン(Chlorhexidine)の陰性対照としての使用も、本発明の1つである。さらに、本発明光毒性試験方法のための、ペニシリンG(Penicillin G)、キニーネ(Quinine)、ビチオノール(Bithionol)又はクロルヘキシジン(Chlorhexidine)の陰性対照としての使用も、本発明の1つである。
【0054】
本発明の陰性対照試薬の1つの様相は、本発明光毒性試験方法に用いるための陰性対照試薬であって、ペニシリンG(Penicillin G)、キニーネ(Quinine)、ビチオノール(Bithionol)又はクロルヘキシジン(Chlorhexidine)を含有する。試薬の形状としては、ペニシリンG(Penicillin G)、キニーネ(Quinine)、ビチオノール(Bithionol)又はクロルヘキシジン(Chlorhexidine)をそのまま用いてもよいし、溶媒に溶かして溶液状としてもよい。さらに、適宜の基剤に含有又は分散させた形状でもよい。
【0055】
さらに、より具体的な好ましい比較・評価に関する実施形態として下記の方法も挙げることができる。例えば、被験物質を接触させたヒト網膜色素上皮細胞における細胞毒性IC50値(非光照射のための(遮光)対照)を、被験物質の接触開始後24時間以内に人工光の照射下で培養されたヒト網膜色素上皮細胞における細胞毒性IC50値で割って得られた値(PIF値:Photo Irritation Facor値)を求め、当該値(PIF値)が2より大きく、5より小さい場合には擬陽性、5以上の場合には、被験物質は光毒性陽性であると評価する。
【0056】
本発明光毒性発現物質探索方法は、本発明光毒性試験方法によって、被験物質の光毒性発現能力を検定し、所望の光毒性発現能力を有する物質を選抜するものである。本発明光毒性発現物質探索方法においても、上記した本発明光毒性試験方法と同様の実施形態をとることができる。例えば、上記の陰性対照を用いる場合には、被験物質における回収された培養細胞の細胞毒性若しくはそれに相関関係を有する指標値の測定結果と、陰性対照における回収された培養細胞の細胞毒性若しくはそれに相関関係を有する指標値の測定結果とを比較する。そして、陰性対照よりも回収された培養細胞の細胞毒性若しくはそれに相関関係を有する指標値が統計学的に有意に低い被験物質を選抜するか、又は、回収された培養細胞の細胞毒性若しくはそれに相関関係を有する指標値が陰性対照の50%以下の値となる被験物質を選抜すればよい。
【0057】
一方、クロルプロマジン(CPZ)等の陽性対照が用いられる場合には、被験物質における回収された培養細胞の細胞毒性若しくはそれに相関関係を有する指標値の測定結果と、陽性対照における回収された培養細胞の細胞毒性若しくはそれに相関関係を有する指標値の測定結果とを比較する。そして、陽性対照よりも回収された培養細胞の細胞毒性若しくはそれに相関関係を有する指標値が統計学的に有意に低い被験物質を選抜するか、又は、回収された培養細胞の細胞毒性若しくはそれに相関関係を有する指標値が陽性対照と同じ値である時の被験物質の濃度が陽性対照の濃度よりも低い被験物質を選抜することにより、陽性対照で用いられた基準物質よりも高い光毒性発現能力を有する物質を選抜することができる。また、陽性対照が用いられる場合には、回収された培養細胞の細胞毒性若しくはそれに相関関係を有する指標値を定量的に評価し、検定することもできる。具体的には、クロルプロマジン(CPZ)等の基準物質の各濃度又は各適用量において、被験物質に対して同様に評価し、検定することにより、被験物質の光毒性発現能力を定量的に評価し、検定することができる、そして、所望の光毒性発現能力をする物質を選抜する。
【0058】
本発明擬似太陽光皮膚刺激非誘発物質探索方法は、本発明光毒性試験方法によって、被験物質の光毒性発現能力を検定し、所望の光毒性発現能力を有さない物質を選抜するものである。本発明擬似太陽光皮膚刺激非誘発物質探索方法においても、上記した本発明光毒性試験方法と同様の実施形態をとることができる。尚、探索の対象となる被験物質は、所望の光毒性発現能力を有さない物質であれば何でもよく、例えば、低分子化合物、蛋白質、ペプチド等が挙げられる。
【0059】
本発明光毒性試験方法に基づくシステム工程を有する装置によれば、被験物質の光毒性発現能力の検定をより効率的に行なうことができ、所望の光毒性発現物質又は擬似太陽光皮膚刺激非誘発物質をより簡便に探索することもできる。また、本発明光毒性試験方法によって得られた擬似太陽光皮膚刺激性に関する毒性情報を電子情報記録媒体に記録することにより、毒性情報を包含する有用な電子情報記録媒体を作製することができる。
【実施例】
【0060】
以下、本発明を実施例によりさらに詳しく説明する。
【0061】
実施例1 (ヒトES細胞のヒト網膜色素上皮細胞への分化誘導)
ヒト胚性幹細胞(即ち、ES細胞)として、京都大学樹立株であるKhES-1株を用いた。
前記KhES-1株を、bFGF(塩基性線維芽細胞増殖因子:basic fibroblast growth factor)が添加されたヒトES細胞維持培養用培地(DMEM/F12、KSR(Knockout serum replacement)、非必須アミノ酸、L-グルタミン、2-メルカプトエタノール等を含む)において、マイトマイシンC処理したマウス胚性線維芽細胞(mouse embryonic fibroblast:MEF)フィーダー細胞上で未分化維持培養した。培養後、トリプシン/コラゲナーゼIVを含む解離液を用いて培養皿から回収することにより、ヒト胚性幹細胞(即ち、ES細胞)のコロニーを得た。
得られたコロニーを、マイクロピペットを用いてピペッティングすることにより、1細胞塊あたり数十細胞程度の大きさに砕いた後、予め0.1%ゼラチン液でコートしておいた10cm培養皿に、1μM〜10μM SB431542,1μM〜10μM CKI−7、1μM〜10μM Y27632を含むヒトES細胞維持培養用培地10mlに、数百から数千細胞塊程度のヒト胚性幹細胞(即ち、ES細胞)のコロニーを播種し、次いで、これを37℃、5%CO2インキュベーター内で培養した。
翌日(培養1日間)、浮遊している細胞塊を吸わないように、半分量(5ml)の培地を除去した後、1μM〜10μM Y27632を含むSDIA培地(GMEM、KSR、非必須アミノ酸、ピルビン酸ナトリウム、2−メルカプトエタノール等を含む)5mlを前記培養皿に添加し、培養を上記同様に継続した。
培養5日間後、未接着の細胞塊を吸わないように、5mlの培地を除去した後、1μM〜10μM Y27632を含むSDIA培地5mlを前記培養皿に添加し、更に培養を上記同様に継続した。
培養8日間後、培地全量を除去した後、PA6 conditioned medium(コンフルエント状態のPA6細胞をSDIA培地で1日間培養した後の培養上清)10mlを前記培養皿に添加した。以降3日〜4日間毎に、PA6 conditioned mediumを用いて培地交換した。当該操作により、黒色色素を有するヒト網膜色素上皮細胞が分化誘導された(図1及び図2参照)。
【0062】
実施例2 (ヒト網膜色素上皮細胞の培養)
実施例1により分化誘導された黒色色素を有するヒト網膜色素上皮細胞が存在するコロニーをマイクロピペットを用いてかきとり、次いで0.05%トリプシン処理により、細胞分散させた。
予めマトリゲルコートしておいた60mm培養皿に、N2添加物を含むDMEM/F12培養液に2〜20ng/mlのbFGFが添加された培地を加え、当該培地に得られた分散細胞を播種した。尚、このようにして播種された分散細胞には、ヒト網膜色素上皮細胞以外の不特定の細胞も含まれていた。
細胞を培養(37℃、5%CO2インキュベーター内)してコンフルエントになった後、0.25%トリプシン処理により、培養皿から細胞を回収した。回収された細胞を、予めマトリゲルコートしておいた10cm培養皿に播種した後、細胞がコンフルエントになるまで培養(37℃、5%CO2インキュベーター内)した。尚、細胞がコンフルエントになった時、培養皿に存在する細胞のうち大多数がヒト網膜色素上皮細胞であった。
更に、細胞を、bFGFを含まないN2添加物含有DMEM/F12培養液で1週間以上培養した後、以下の実験で使用した。
【0063】
実施例3 (本発明光毒性試験方法:第一工程、第二工程(非光照射のための(遮光)対照)、第三工程(非光照射のための(遮光)対照))
実施例2で調製されたヒト網膜色素上皮細胞を、0.25%トリプシン処理により、培養皿から細胞を回収した。回収された細胞を、予めマトリゲルコートしておいた96穴培養皿に播種(1wellあたり10万又は12万細胞ずつ)した後、培養(37℃、5%CO2インキュベーター内)を行った。
培養2時間〜4時間後、96穴培養皿からアスピレータを用いて培地を除去し、次いで、Earle’s Balanced Salt Solution (EBSS)を前記96穴培養皿に150μlずつwellの割合で添加し、細胞を洗浄した。
次に、前記培養皿に、予めEBSSを用いて調製された被験物質の溶液(尚、各々の試験液は下記参照のこと)又は溶媒対照液を100μlずつwellの割合で添加した。
【0064】
<被験物質の溶液>
(a)Chlorpromazine(クロルプロマジン(CPZ)):濃度 0.1、1、3、10、30、100(μg/ml)
(b)ペニシリンG(Penicillin G):濃度 1、3、10、30、100、300、1000(μg/ml)
(c)キニーネ(Quinine):濃度 0.1、0.3、1、3、10、30、100(μg/ml)
(d)ビチオノール(Bithionol):濃度 0.01、0.03、0.1、0.3、1、3、10(μg/ml)
(e)クロルヘキシジン(Chlorhexidine):濃度 0.1、0.3、1、3、10、30、100(μg/ml)
【0065】
96穴培養皿をアルミ箔で包み遮光した後、光照射装置(擬似太陽光照射装置 SXL−2500V2:セリック社)を用いてアルミ箔で遮光したまま40分間光照射(光照射量約5J/cm2)を行った。光照射後直ちに、前記96穴培養皿をDMEM/F12培養液150μlを用いて2回洗浄した後、当該96穴培養皿に、N2添加物含有DMEM/F12培養液を100μlずつwellの割合で添加し、一晩培養した。
培養後、96穴培養皿から培地を除去し、次いで、予め調製しておいたDMEM/F12培養液及びCell titer Glo反応液の等量混合液を当該96穴培養皿に100μlずつwellの割合で添加した。
得られた96穴培養皿をアルミ箔で遮光した状態で振とうしながら室温で30分間放置した後、前記96穴培養皿に含まれる培養物95μlを、白色96穴試験皿へ移した。次いで、当該96穴試験皿に含まれる培養物の発光量(尚、当該発光量は、細胞生存率に相関関係を有するものである。)を、EnVisionマルチラベルリーダー(Perkin Elmer社)を用いて測定した。測定された値から被験物質のヒト網膜色素上皮細胞に対する50%阻害濃度(IC50)を算出し、当該算出値を、細胞毒性(それに相関関係を有する指標値)を示す値とした。
上記の算出方法に従うと、以下の結果になった。
【0066】
<被験物質の細胞毒性>
(a)Chlorpromazine(クロルプロマジン(CPZ)):IC50=37.6(μg/ml)(図3参照)
(b)ペニシリンG(Penicillin G):IC50>1000(μg/ml)(因みに、1000μg/ml以下では細胞毒性は観察されなかった)(図4参照)
(c)キニーネ(Quinine):IC50=147.1(μg/ml)図5参照)
(d)ビチオノール(Bithionol):IC50>10(μg/ml)(因みに、10μg/ml以下では細胞毒性は観察されなかった)(図6参照)
(e)クロルヘキシジン(Chlorhexidine):IC50=42.7(μg/ml)(図7参照)
【0067】
実施例4 (本発明光毒性試験方法:第一工程、第二工程、第三工程)
実施例2で調製されたヒト網膜色素上皮細胞を、0.25%トリプシン処理により、培養皿から細胞を回収した。回収された細胞を、予めマトリゲルコートしておいた96穴培養皿に播種(1wellあたり10万又は12万細胞ずつ)した後、培養(37℃、5%CO2インキュベーター内)を行った。
培養2時間〜4時間後、96穴培養皿からアスピレータを用いて培地を除去し、次いで、Earle’s Balanced Salt Solution (EBSS)を前記96穴培養皿に150μlずつwellの割合で添加し、細胞を洗浄した。
次に、前記培養皿に、予めEBSSを用いて調製された被験物質の溶液(尚、各々の試験液は下記参照のこと)又は溶媒対照液を100μlずつwellの割合で添加した。
【0068】
<被験物質の溶液>
(a)Chlorpromazine(クロルプロマジン(CPZ)):濃度 0.1、1、3、10、30、100(μg/ml)
(b)ペニシリンG(Penicillin G):濃度 1、3、10、30、100、300、1000(μg/ml)
(c)キニーネ(Quinine):濃度 0.1、0.3、1、3、10、30、100(μg/ml)
(d)ビチオノール(Bithionol):濃度 0.01、0.03、0.1、0.3、1、3、10(μg/ml)
(e)クロルヘキシジン(Chlorhexidine):濃度 0.1、0.3、1、3、10、30、100(μg/ml)
【0069】
実施例3とは異なり、96穴培養皿をアルミ箔で包むことなく、光照射装置(擬似太陽光照射装置 SXL−2500V2:セリック社)を用いて40分間光照射(360nmにおける光照射強度を元に計算すると光照射量約5J/cm2となる)を行った。光照射後直ちに、前記96穴培養皿をDMEM/F12培養液150μlを用いて2回洗浄した後、当該96穴培養皿に、N2添加物含有DMEM/F12培養液を100μlずつwellの割合で添加し、一晩培養した。
培養後、96穴培養皿から培地を除去し、次いで、予め調製しておいたDMEM/F12培養液及びCell titer Glo反応液の等量混合液を当該96穴培養皿に100μlずつwellの割合で添加した。
得られた96穴培養皿をアルミ箔で遮光した状態で振とうしながら室温で30分間放置した後、前記96穴培養皿に含まれる培養物95μlを、白色96穴試験皿へ移した。次いで、当該96穴試験皿に含まれる培養物の発光量(尚、当該発光量は、細胞生存率に相関関係を有するものである。)を、EnVisionマルチラベルリーダー(Perkin Elmer社)を用いて測定した。測定された値から被験物質のヒト網膜色素上皮細胞に対する50%阻害濃度(IC50)を算出し、当該算出値を、細胞毒性(それに相関関係を有する指標値)を示す値とした。
上記の算出方法に従うと、以下の結果になった。
【0070】
<被験物質の細胞毒性>
(a)Chlorpromazine(クロルプロマジン(CPZ)):IC50=5.8(μg/ml)(図8参照)
(b)ペニシリンG(Penicillin G):IC50>1000(μg/ml)(因みに、1000μg/ml以下では細胞毒性は観察されなかった)(図9参照)
(c)キニーネ(Quinine):IC50=88.9(μg/ml)(図10参照)
(d)ビチオノール(Bithionol):IC50>10(μg/ml)(因みに、10μg/ml以下では細胞毒性は観察されなかった)(図11参照)
(e)クロルヘキシジン(Chlorhexidine):IC50=43.7(μg/ml)(図12参照)
【0071】
実施例5 (本発明光毒性試験方法:第四工程)
実施例3及び実施例4で算出された50%阻害濃度(IC50)に基づき、前述のPIF値(Photo Irritation Facor値)(即ち、被験物質を接触させたヒト網膜色素上皮細胞における細胞毒性IC50値(非光照射のための(遮光)対照)を、被験物質の接触開始後24時間以内に擬似太陽光の照射下で培養されたヒト網膜色素上皮細胞における細胞毒性IC50値で割って得られた値)を求めた。その結果を以下に示す。尚、当該値(PIF値)が5より大きい場合には、被験物質は光毒性陽性であると評価した。
【0072】
<被験物質のPIF値(Photo Irritation Facor値)>
(a)Chlorpromazine(クロルプロマジン(CPZ)):6.5
本発明光毒性試験方法による評価では、光細胞毒性陽性判定であった。これは、過去のin vivo試験結果と一致している。
(b)ペニシリンG(Penicillin G):光細胞毒性が認められない。
本発明光毒性試験方法による評価では、光細胞毒性陰性判定であった。これは、過去のin vivo試験結果と一致している。
(c)キニーネ(Quinine):1.7
本発明光毒性試験方法による評価では、光細胞毒性陰性判定であった。これは、Ljunggren B.ら,Phototoxic properties of quinine and quinidine:two quinoline methanol isomer.;Photodermatology 5 133 - 138(1988)に記載されるin vivo試験(mouse tail試験)結果と一致している。
(d)ビチオノール(Bithionol):光細胞毒性が認められない。
本発明光毒性試験方法による評価では、光細胞毒性陰性判定であった。これは、本来正しい陰性結果と一致している。尚、光毒性試験バリデーション研究実行委員会(委員長 吉村功)、光毒性試験代替法バリデーション研究報告書(2004年8月27日)による4施設での酵母―赤血球試験で偽陽性結果であり、本発明光毒性試験方法が優れたものであることが確認された。
(e)クロルヘキシジン(Chlorhexidine):0.98
本発明光毒性試験方法による評価では、光細胞毒性陰性判定であった。これは、本来正しい陰性結果と一致している。尚、光毒性試験バリデーション研究実行委員会(委員長 吉村功)、光毒性試験代替法バリデーション研究報告書(2004年8月27日)による4施設での酵母―赤血球試験で偽陽性結果であり、本発明光毒性試験方法が優れたものであることが確認された。
【0073】
比較例1 (ヒト網膜色素上皮細胞以外のヒト細胞を用いた比較実験)
「Balb/c 3T3細胞」は、結合組織細胞(Connective Tissue Cell)であり、線維芽細胞(Fibroblast)である。
10%ウシ血清、Lグルタミンを含むDMEM培地で培養された「Balb/c 3T3細胞」を0.25%トリプシン処理により、培養皿から細胞を回収した。回収された細胞を、予め0.1%ゼラチン溶液でコートしておいた96穴培養皿に播種(1wellあたり1万細胞ずつ)した後、10%ウシ血清、Lグルタミンを含むDMEM培地で一晩培養(37℃、5%CO2インキュベーター内)を行った。
培養後、96穴培養皿からアスピレータを用いて培地を除去し、次いで、Earle’s Balanced Salt Solution (EBSS)を前記96穴培養皿に150μlずつwellの割合で添加し、細胞を洗浄した。
次に、前記培養皿に、予めEBSSを用いて調製された被験物質の溶液(尚、各々の試験液は下記参照のこと)又は溶媒対照液を100μlずつwellの割合で添加した。
【0074】
<被験物質の溶液>
(a)Chlorpromazine(クロルプロマジン(CPZ)):濃度 0.1、1、3、10、30、100(μg/ml)
(b)ペニシリンG(Penicillin G):濃度 1、3、10、30、100、300、1000(μg/ml)
(c)キニーネ(Quinine):濃度 0.1、0.3、1、3、10、30、100(μg/ml)
(d)ビチオノール(Bithionol):濃度 0.01、0.03、0.1、0.3、1、3、10(μg/ml)
(e)クロルヘキシジン(Chlorhexidine):濃度 0.1、0.3、1、3、10、30、100(μg/ml)
【0075】
96穴培養皿をアルミ箔で包み遮光した後、光照射装置(擬似太陽光照射装置 SXL−2500V2:セリック社)を用いてアルミ箔で遮光したまま40分間光照射(360nmにおける照射強度を元に計算すると光照射量約5J/cm2となる)を行った。光照射後直ちに、前記96穴培養皿をDMEM/F12培養液150μlを用いて2回洗浄した後、当該96穴培養皿に、N2添加物含有DMEM/F12培養液100μlずつwellの割合で添加し、一晩培養した。
培養後、96穴培養皿から培地を除去し、次いで、予め調製しておいたDMEM/F12培養液及びCell titer Glo反応液の等量混合液を当該96穴培養皿に100μlずつwellの割合で添加した。
得られた96穴培養皿をアルミ箔で遮光した状態で振とうしながら室温で30分間放置した後、前記96穴培養皿に含まれる培養物95μlを、白色96穴試験皿へ移した。
次いで、当該96穴試験皿に含まれる培養物の発光量(尚、当該発光量は、細胞生存率に相関関係を有するものである。)を、EnVisionマルチラベルリーダー(Perkin Elmer社)を用いて測定した。測定された値から被験物質のヒト網膜色素上皮細胞に対する50%阻害濃度(IC50)を算出し、当該算出値を、細胞毒性(それに相関関係を有する指標値)を示す値とした。
上記の算出方法に従うと、以下の結果になった。
【0076】
<被験物質の細胞毒性>
(a)Chlorpromazine(クロルプロマジン(CPZ)):IC50=19.4(μg/ml)(図13参照)
(b)ペニシリンG(Penicillin G):IC50>1000(μg/ml)(因みに、1000μg/ml以下では細胞毒性は観察されなかった)(図14参照)
(c)キニーネ(Quinine):IC50=292.2(μg/ml)(図15参照)
(d)ビチオノール(Bithionol):IC50=11.4(μg/ml)(因みに、3μg/ml以下では細胞毒性は観察されなかった)(図16参照)
(e)クロルヘキシジン(Chlorhexidine):IC50=13.7(μg/ml)(図17参照)
【0077】
比較例2 (比較光毒性試験方法:第一工程、第二工程、第三工程)
10%ウシ血清、Lグルタミンを含むDMEM培地で培養された「Balb/c 3T3細胞」を0.25%トリプシン処理により、培養皿から細胞を回収した。回収された細胞を、予め0.1%ゼラチン溶液でコートしておいた96穴培養皿に播種(1wellあたり1万細胞ずつ)した後、10%ウシ血清、Lグルタミンを含むDMEM培地で一晩培養(37℃、5%CO2インキュベーター内)を行った。
培養後、96穴培養皿からアスピレータを用いて培地を除去し、次いで、Earle’s Balanced Salt Solution (EBSS)を前記96穴培養皿に150μlずつwellの割合で添加し、細胞を洗浄した。
次に、前記培養皿に、予めEBSSを用いて調製された被験物質の溶液(尚、各々の試験液は下記参照のこと)又は溶媒対照液を100μlずつwellの割合で添加した。
【0078】
<被験物質の溶液>
(a)Chlorpromazine(クロルプロマジン(CPZ)):濃度 0.1、1、3、10、30、100(μg/ml)
(b)ペニシリンG(Penicillin G):濃度 1、3、10、30、100、300、1000(μg/ml)
(c)キニーネ(Quinine):濃度 0.1、0.3、1、3、10、30、100(μg/ml)
(d)ビチオノール(Bithionol):濃度 0.01、0.03、0.1、0.3、1、3、10(μg/ml)
(e)クロルヘキシジン(Chlorhexidine):濃度 0.1、0.3、1、3、10、30、100(μg/ml)
【0079】
比較例1とは異なり、96穴培養皿をアルミ箔で包むことなく、光照射装置(擬似太陽光照射装置 SXL−2500V2:セリック社)を用いて40分間光照射(360nmにおける照射強度を元に計算すると光照射量約5J/cm2となる)を行った。光照射後直ちに、前記96穴培養皿をDMEM/F12培養液150μlを用いて2回洗浄した後、当該96穴培養皿に、N2添加物含有DMEM/F12培養液を100μlずつwellの割合で添加し、一晩培養した。
培養後、96穴培養皿から培地を除去し、次いで、予め調製しておいたDMEM/F12培養液及びCell titer Glo反応液の等量混合液を当該96穴培養皿に100μlずつwellの割合で添加した。
得られた96穴培養皿をアルミ箔で遮光した状態で振とうしながら室温で30分間放置した後、前記96穴培養皿に含まれる培養物95μlを、白色96穴試験皿へ移した。次いで、当該96穴試験皿に含まれる培養物の発光量(尚、当該発光量は、細胞生存率に相関関係を有するものである。)を、EnVisionマルチラベルリーダー(Perkin Elmer社)を用いて測定した。測定された値から被験物質のヒト網膜色素上皮細胞に対する50%阻害濃度(IC50)を算出し、当該算出値を、細胞毒性(それに相関関係を有する指標値)を示す値とした。
上記の算出方法に従うと、以下の結果になった。
【0080】
<被験物質の細胞毒性>
(a)Chlorpromazine(クロルプロマジン(CPZ)):IC50=0.82(μg/ml)(図18参照)
(b)ペニシリンG(Penicillin G):IC50>1000(μg/ml)(因みに、1000μg/ml以下では細胞毒性は観察されなかった)(図19参照)
(c)キニーネ(Quinine):IC50=2.3(μg/ml)(μg/ml)(図20参照)
(d)ビチオノール(Bithionol):IC50=0.93(μg/ml)(因みに、10μg/ml以下では細胞毒性は観察されなかった)(図21参照)
(e)クロルヘキシジン(Chlorhexidine):IC50=10.1(μg/ml)(図22参照)
【0081】
比較例3 (比較光毒性試験方法:第四工程)
比較例1及び比較例2で算出された50%阻害濃度(IC50)に基づき、前述のPIF値(Photo Irritation Facor値)(即ち、被験物質を接触させたヒト網膜色素上皮細胞における細胞毒性IC50値(非光照射のための(遮光)対照)を、被験物質の接触開始後24時間以内に擬似太陽光の照射下で培養されたヒト網膜色素上皮細胞における細胞毒性IC50値で割って得られた値)を求めた。その結果を以下に示す。尚、当該値(PIF値)が5より大きい場合には、被験物質は光毒性陽性であると評価した。
【0082】
<被験物質のPIF値(Photo Irritation Facor値)>
(a)Chlorpromazine(クロルプロマジン(CPZ)):23.7
比較光毒性試験方法による評価では、光細胞毒性陽性判定であった。これは、過去のin vivo試験結果と一致している。
(b)ペニシリンG(Penicillin G):光細胞毒性が認められない。
比較光毒性試験方法による評価では、光細胞毒性陰性判定であった。これは、過去のin vivo試験結果と一致している。
(c)キニーネ(Quinine):128.8
比較光毒性試験方法による評価では、光細胞毒性陽性判定であった。これは、Ljunggren B.ら,Phototoxic properties of quinine and quinidine:two quinoline methanol isomer.;Photodermatology 5 133 - 138(1988)に記載されるin vivo試験(mouse tail試験)結果と一致していない。よって、本発明光毒性試験方法は偽陽性結果となった。
(d)ビチオノール(Bithionol):12.4
比較光毒性試験方法による評価では、光細胞毒性陽性判定であった。これは、本来正しい陰性結果と一致していない。尚、光毒性試験バリデーション研究実行委員会(委員長 吉村功)、光毒性試験代替法バリデーション研究報告書(2004年8月27日)による4施設での酵母―赤血球試験で偽陽性結果であった。よって、比較光毒性試験方法は偽陽性結果となった。
(e)クロルヘキシジン(Chlorhexidine):1.4
比較光毒性試験方法による評価では、光細胞毒性陰性判定であった。これは、本来正しい陰性結果と一致している。尚、光毒性試験バリデーション研究実行委員会(委員長 吉村功)、光毒性試験代替法バリデーション研究報告書(2004年8月27日)による4施設での酵母―赤血球試験で偽陽性結果であった。
【0083】
実施例6 (光照射量の設定のための予備試験)
OECDガイドラインで陽性対照として用いられているクロルプロマジン(CPZ)を用いて、光照射量と前述のPIF値(即ち、被験物質を接触させたヒト網膜色素上皮細胞における細胞毒性IC50値(非光照射のための(遮光)対照)を、被験物質の接触開始後24時間以内に擬似太陽光の照射下で培養されたヒト網膜色素上皮細胞における細胞毒性IC50値で割って得られた値)との関係を検討した。光照射を、2.09mW/cm2(トプコン社製UVR300に受光部UD360を取り付けて計測)の光を15分間(1.87J/cm2)、20分間(2.50J/cm2)、25分間(3.13J/cm2)、30分間(3.75J/cm2)、40分間(5.00J/cm2)、60分間(7.51J/cm2)の各種条件に設定したうえで、実施例3及び実施例4に記載された方法に準じて光毒性試験方法を実施した。また、非光照射のための対照である遮光条件については、遮光すること以外は上記光照射での光毒性試験方法と同様な方法により、光毒性試験方法を実施した。
その結果、測定された値から被験物質のヒト網膜色素上皮細胞に対する50%阻害濃度(IC50)を算出し、更に当該算出値に基づきPIF値を求めたところ、15分間ではPIF=1.70、20分間ではPIF=1.72、25分間ではPIF=3.35、30分間ではPIF=4.57、40分間ではPIF=6.53、60分間ではPIF=10.94であった(図23参照)。
以上より、3.75J/cm2(30分間)以下の光照射量ではPIF>5とならず、陽性対照であるクロルプロマジン(CPZ)が陽性と判定できないことから、3.75J/cm2より高い光照射量に設定することが好ましいことが、当該予備試験から確認できた。
【0084】
次いで、上記予備試験に関連して、擬似太陽光の照射が、クロルプロマジン(CPZ)を接触させたヒト網膜色素上皮細胞において、擬似太陽光の遮光条件下での前記細胞の生存細胞数に対して、光照射条件下での前記細胞の生存細胞数が有意に減少する光照射量を有する照射であることを確認した。
その結果、15分間(1.87J/cm2)、20分間(2.50J/cm2)、25分間(3.13J/cm2)、30分間(3.75J/cm2)、40分間(5.00J/cm2)、60分間(7.51J/cm2)におけるヒト網膜色素上皮細胞の生存細胞数を調べたところ、光照射時間が40分間である遮光条件下において前記細胞の生存細胞数の減少が認められなかったクロルプロマジン(CPZ)の接触濃度10μg/mlでの結果(図3参照)を抽出し比較したところ、擬似太陽光の遮光条件下での前記細胞の生存細胞数に対して、光照射条件下での前記細胞の生存細胞数が有意に減少する光照射量は3.13J/cm2(25分間)以上であることが確認できた(図24参照)。
従って、3.13J/cm2(25分間)以上の光照射量であれば、擬似太陽光の照射が適正に行われ、当該光照射量を用いれば、好ましい本発明光毒性試験方法が実施可能であることが確認された。
【0085】
実施例8 (本発明光毒性試験方法(他の実施態様:形質転換体の利用))
ヒト網膜色素上皮細胞で発現する遺伝子(Mitf、RPE65、ZO1等)のプロモーター発現制御下にレポーター遺伝子を含むベクターで形質転換されたヒト胚性幹細胞(即ち、ES細胞)の作製方法を具体的に記載する。
【0086】
(1)遺伝子のプロモータークローニング、及び、レポータープラスミドの作製
ZO-1のプロモーター領域を以下に示す方法により、クローニングする。
ヒト胚性幹細胞(即ち、ES細胞)より抽出したゲノムDNA20ng又はRPE65遺伝子を含むヒトゲノムBAC DNAを鋳型とし、RPE65遺伝子の翻訳開始点及び転写開始点上流5kbの位置に設計したプライマーを用いて、Platinum Taq polymerase(インビトロジェン社)を用いたPCR法により、所望のDNA断片を増幅する。尚、PCR反応は、GeneAmp PCR System9700(アプライドバイオシステム社)にて、95℃5分間反応させた後、95℃30秒間、55℃30秒間、72℃5分間を30サイクル行い、72℃7分間の反応条件で実施する。
得られたPCR産物を、PCR purification kit (QIAGEN社)を用いて精製し、PCR産物の末端を制限酵素消化した後、アガロースゲル電気泳動を行うことにより、精製する。
精製された所望のDNA断片を、Alkaline phosphatase(タカラバイオ社)にて脱リン酸化処理を行ったpGL4.17[Luc2/Neo]vector(プロメガ社)と、Ligation kit(タカラバイオ社)を用いて連結する。得られたDNA断片を、大腸菌DH5αコンピテンセル(タカラバイオ社)に形質転換した後、これを37℃でLB/アンピシリン培地にて一晩培養する。培養後、出現したコロニーをLB/アンピシリン液体培地にて培養して得られた大腸菌からプラスミドDNAを抽出する。尚、抽出されたプラスミドDNAについては、その挿入断片のシークエンスを決定し、変異等の有無を確認する。
ヒト胚性幹細胞(即ち、ES細胞)へのトランスフェクションに用いるため、各プラスミドをQiafilterプラスミド抽出キット(キアゲン社)にて再度抽出する。得られたプラスミドDNA20μgを制限酵素処理により直線化した後、精製を行い、線状化DNAを得る。
【0087】
(2)組換えヒト胚性幹細胞(即ち、ES細胞)の作製方法
未分化維持培養されたヒト胚性幹細胞(即ち、ES細胞)を解離液処理することにより、培養皿からヒト胚性幹細胞(即ち、ES細胞)コロニーを回収する。回収されたコロニーをヒト胚性幹細胞(即ち、ES細胞)未分化維持培地に懸濁し、これを0.1%ゼラチンコートした10cm培養皿に移した後、37℃、5%CO2インキュベーターで2時間静置することにより、フィーダー細胞を接着させる。浮遊しているヒト胚性幹細胞(即ち、ES細胞)コロニーを含む上清を15mlチューブに移し、これを遠心によりコロニーを沈降させる。このようにして回収されたコロニーをトリプシン液で酵素処理した後、マイクロピペットを用いてピペッティングすることにより、ヒト胚性幹細胞(即ち、ES細胞)を単一細胞化する。
次いで、得られた細胞を遠心して沈降させる。予め、Opti−MEM培地と2μgの線状化DNA、8μLのFuGENE HD(プロメガ社)とを混合しておいた液で前記細胞を懸濁し、当該細胞懸濁液を5分間室温にて反応させた後、1μM〜10μM Y27632を含む未分化維持培地で懸濁する。
得られた細胞懸濁液をネオマイシン耐性フィーダー細胞上へ播種し、37℃にて5%CO2インキュベーターで一晩培養する。培地に100μg/mLのG418(インビトロジェン社)を添加することにより、薬剤選択培養を行う。G418添加の10日〜15日後、顕微鏡下でシャーレ中に形成したヒト胚性幹細胞(即ち、ES細胞)コロニーを単離し、これを96ウェルプレートに播種する。薬剤選択培養を継続した後、更に10〜15日後に増殖した細胞を継代培養して48ウェルプレートに播種する。薬剤選択培養を継続した後、薬剤耐性の安定形質転換細胞株を取得する。
【0088】
(3)組換えヒト胚性幹細胞(即ち、ES細胞)を利用したヒト網膜色素上皮細胞への被験物質の暴露及び毒性値の算出:非光照射のための対照(遮光条件))
組換えヒト胚性幹細胞(即ち、ES細胞)を、実施例1に記載された方法に準じて、ヒト網膜色素上皮細胞へと分化誘導する。
次いで、実施例2に記載された方法に準じてヒト網膜色素上皮細胞を培養した後、これに、実施例3に記載された方法に準じて被験物質を暴露する。
暴露翌日、96穴培養皿から培地を除去した後、予め調製しておいたDMEM/F12培養液及びSteady Glo反応液の等量混合液を1wellあたり100μl添加する。
アルミ箔で遮光した状態で振とうしながら室温で30分間放置した後、95μlを白色96穴培養皿へ移し、これをEnVisionマルチラベルリーダー(Perkin Elmer社)にて発光量を測定する。溶媒対照及び被験物質の各供試濃度における発光量の測定値から当該被験物質のヒト網膜色素上皮細胞に対する50%阻害濃度(IC50)を算出し、これを毒性値とする。
【0089】
(4)組換えヒト胚性幹細胞(即ち、ES細胞)を利用したヒト網膜色素上皮細胞への被験物質の暴露及び毒性値の算出:光照射条件)
組換えヒト胚性幹細胞(即ち、ES細胞)を、実施例1に記載された方法に準じて、ヒト網膜色素上皮細胞へと分化誘導する。
次いで、実施例2に記載された方法に準じてヒト網膜色素上皮細胞を培養した後、これに、実施例4に記載された方法に準じて被験物質を暴露する。
暴露翌日、96穴培養皿から培地を除去した後、予め調製しておいたDMEM/F12培養液及びSteady Glo反応液の等量混合液を1wellあたり100μl添加する。
アルミ箔で遮光した状態で振とうしながら室温で30分間放置した後、95μlを白色96穴培養皿へ移し、これをEnVisionマルチラベルリーダー(Perkin Elmer社)にて発光量を測定する。溶媒対照及び被験物質の各供試濃度における発光量の測定値から当該被験物質のヒト網膜色素上皮細胞に対する50%阻害濃度(IC50)を算出し、これを毒性値とする。
【0090】
(5)組換えヒト胚性幹細胞(即ち、ES細胞)を利用したヒト網膜色素上皮細胞を用いた被験物質の光毒性発現能力の評価)
上記(4)で算出された50%阻害濃度(IC50)に基づき、前述のPIF値(Photo Irritation Facor値)(即ち、被験物質を接触させたヒト網膜色素上皮細胞における細胞毒性IC50値(非光照射のための(遮光)対照)を、被験物質の接触開始後24時間以内に擬似太陽光の照射下で培養されたヒト網膜色素上皮細胞における細胞毒性IC50値で割って得られた値)を求める。その結果、当該値(PIF値)が6より大きい場合には、被験物質は光毒性陽性であると評価する。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明光毒性試験方法によれば、被験物質の光毒性発現能力の検定を効果的に行なうことができる。さらに、本発明では、当該試験方法に陽性対照として用いることができる光毒性発現物質を提供することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記工程(1)〜(4)を有することを特徴とする光毒性試験方法。
(1)ヒト網膜色素上皮細胞に被験物質を接触させる第一工程、
(2)第一工程で被験物質を接触させたヒト網膜色素上皮細胞を、第一工程における接触開始後24時間以内に、340nmから380nmまでの範囲の波長分布を含む人工光を照射しながら培養する第二工程、
(3)第二工程で培養されたヒト網膜色素上皮細胞を回収し、回収された培養細胞の細胞毒性若しくはそれに相関関係を有する指標値を測定する第三工程、
(4)第三工程の測定結果によって被験物質の光毒性発現能力の有無又はその程度を評価し、被験物質の光毒性発現能力を検定する第四工程。
【請求項2】
前記人工光が、紫外光、可視光及び赤外光からなる擬似太陽光であることを特徴とする請求項1記載の光毒性試験方法。
【請求項3】
第二工程における人工光の照射が、波長360nmでの測定値として3J/cm2から30J/cm2までの範囲である光照射量となる照射であることを特徴とする請求項1又は2記載の光毒性試験方法。
【請求項4】
前記第四工程において、前記第三工程の測定結果と、対照のヒト網膜色素上皮細胞における回収された培養細胞の細胞毒性若しくはそれに相関関係を有する指標値の測定結果とを比較し、その差異に基づいて被験物質の光毒性発現能力の有無又はその程度を評価することを特徴とする請求項1〜3のいずれかの請求項記載の光毒性試験方法。
【請求項5】
前記対照が、ヒト網膜色素上皮細胞に既知の光毒性発現物質を接触させた陽性対照を含むことを特徴とする請求項4記載の光毒性試験方法。
【請求項6】
前記光毒性発現物質が、クロルプロマジンであることを特徴とする請求項5記載の光毒性試験方法。
【請求項7】
第二工程における人工光の照射が、被験物質を接触させたヒト網膜色素上皮細胞と対照のヒト網膜色素上皮細胞との少なくともいずれか一方のヒト網膜色素上皮細胞において、人工光の遮光条件下での前記細胞の生存細胞数に対して、光照射条件下での前記細胞の生存細胞数が有意に減少する光照射量を有する照射であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかの請求項記載の光毒性試験方法。
【請求項8】
前記第二工程における人工光の照射が、1回の連続的照射又は2回以上の繰り返し照射からなる間欠的照射であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかの請求項記載の光毒性試験方法。
【請求項9】
前記ヒト網膜色素上皮細胞が、幹細胞由来の網膜色素上皮細胞であることを特徴とする請求項1〜8のいずれかの請求項記載の光毒性試験方法。
【請求項10】
前記幹細胞が、胚性幹細胞、人工多能性幹細胞又は神経幹細胞であることを特徴とする請求項9記載の光毒性試験方法。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかの請求項記載の光毒性試験方法のための、陽性対照としてのクロルプロマジンの使用。
【請求項12】
請求項1〜10のいずれかの請求項記載の光毒性試験方法に用いるための陽性対照試薬であって、クロルプロマジンを含有することを特徴とする陽性対照試薬。
【請求項13】
請求項1〜10のいずれかの請求項記載の光毒性試験方法のための、陰性対照としてのペニシリンG、キニーネ、ビチオノール又はクロルヘキシジンの使用。
【請求項14】
請求項1〜10のいずれかの請求項記載の光毒性試験方法に用いるための陰性対照試薬であって、ペニシリンG、キニーネ、ビチオノール又はクロルヘキシジンを含有することを特徴とする陽性対照試薬。
【請求項15】
請求項1〜10のいずれかの請求項記載の光毒性試験方法によって、被験物質の光毒性発現能力を検定し、所望の光毒性発現能力を有する物質を選抜することを特徴とする光毒性発現物質の探索方法。
【請求項16】
請求項1〜10のいずれかの請求項記載の光毒性試験方法によって、被験物質の光毒性発現能力を検定し、所望の光毒性発現能力を有さない物質を選抜することを特徴とする擬似太陽光皮膚刺激非誘発物質の探索方法。
【請求項1】
下記工程(1)〜(4)を有することを特徴とする光毒性試験方法。
(1)ヒト網膜色素上皮細胞に被験物質を接触させる第一工程、
(2)第一工程で被験物質を接触させたヒト網膜色素上皮細胞を、第一工程における接触開始後24時間以内に、340nmから380nmまでの範囲の波長分布を含む人工光を照射しながら培養する第二工程、
(3)第二工程で培養されたヒト網膜色素上皮細胞を回収し、回収された培養細胞の細胞毒性若しくはそれに相関関係を有する指標値を測定する第三工程、
(4)第三工程の測定結果によって被験物質の光毒性発現能力の有無又はその程度を評価し、被験物質の光毒性発現能力を検定する第四工程。
【請求項2】
前記人工光が、紫外光、可視光及び赤外光からなる擬似太陽光であることを特徴とする請求項1記載の光毒性試験方法。
【請求項3】
第二工程における人工光の照射が、波長360nmでの測定値として3J/cm2から30J/cm2までの範囲である光照射量となる照射であることを特徴とする請求項1又は2記載の光毒性試験方法。
【請求項4】
前記第四工程において、前記第三工程の測定結果と、対照のヒト網膜色素上皮細胞における回収された培養細胞の細胞毒性若しくはそれに相関関係を有する指標値の測定結果とを比較し、その差異に基づいて被験物質の光毒性発現能力の有無又はその程度を評価することを特徴とする請求項1〜3のいずれかの請求項記載の光毒性試験方法。
【請求項5】
前記対照が、ヒト網膜色素上皮細胞に既知の光毒性発現物質を接触させた陽性対照を含むことを特徴とする請求項4記載の光毒性試験方法。
【請求項6】
前記光毒性発現物質が、クロルプロマジンであることを特徴とする請求項5記載の光毒性試験方法。
【請求項7】
第二工程における人工光の照射が、被験物質を接触させたヒト網膜色素上皮細胞と対照のヒト網膜色素上皮細胞との少なくともいずれか一方のヒト網膜色素上皮細胞において、人工光の遮光条件下での前記細胞の生存細胞数に対して、光照射条件下での前記細胞の生存細胞数が有意に減少する光照射量を有する照射であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかの請求項記載の光毒性試験方法。
【請求項8】
前記第二工程における人工光の照射が、1回の連続的照射又は2回以上の繰り返し照射からなる間欠的照射であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかの請求項記載の光毒性試験方法。
【請求項9】
前記ヒト網膜色素上皮細胞が、幹細胞由来の網膜色素上皮細胞であることを特徴とする請求項1〜8のいずれかの請求項記載の光毒性試験方法。
【請求項10】
前記幹細胞が、胚性幹細胞、人工多能性幹細胞又は神経幹細胞であることを特徴とする請求項9記載の光毒性試験方法。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかの請求項記載の光毒性試験方法のための、陽性対照としてのクロルプロマジンの使用。
【請求項12】
請求項1〜10のいずれかの請求項記載の光毒性試験方法に用いるための陽性対照試薬であって、クロルプロマジンを含有することを特徴とする陽性対照試薬。
【請求項13】
請求項1〜10のいずれかの請求項記載の光毒性試験方法のための、陰性対照としてのペニシリンG、キニーネ、ビチオノール又はクロルヘキシジンの使用。
【請求項14】
請求項1〜10のいずれかの請求項記載の光毒性試験方法に用いるための陰性対照試薬であって、ペニシリンG、キニーネ、ビチオノール又はクロルヘキシジンを含有することを特徴とする陽性対照試薬。
【請求項15】
請求項1〜10のいずれかの請求項記載の光毒性試験方法によって、被験物質の光毒性発現能力を検定し、所望の光毒性発現能力を有する物質を選抜することを特徴とする光毒性発現物質の探索方法。
【請求項16】
請求項1〜10のいずれかの請求項記載の光毒性試験方法によって、被験物質の光毒性発現能力を検定し、所望の光毒性発現能力を有さない物質を選抜することを特徴とする擬似太陽光皮膚刺激非誘発物質の探索方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【公開番号】特開2012−254049(P2012−254049A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−129912(P2011−129912)
【出願日】平成23年6月10日(2011.6.10)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年6月10日(2011.6.10)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】
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