説明

全有機体炭素測定装置

【課題】試料中に既存する無機炭素量が不明な場合にもその試料に最適な通気ガス供給量で通気処理を行ない、通気処理に要する時間を短縮する。
【解決手段】試料を収容したシリンジ10をIC測定流路23に接続し、通気処理を開始する。通気処理開始時は通気ガスを一定流量で供給し、試料から放出される無機炭素量をCO2検出部28で測定する。制御部8はCO2検出部28通気処理開始後、一定時間経過するまでのCO2検出部28の検出信号を入力し、その検出信号の立ち上がりに基づいて適当な通気ガス供給量を決定し、その通気ガス供給量で通気処理を続行するように流量調整部6を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、上下水道水、各種プラント用水、河川水などの試料中の有機炭素を測定する全有機体炭素測定装置(TOC計)に関し、特に、試料中の有機体炭素を二酸化炭素に変換する前に試料中に既存する無機炭素(IC)を予め除去する方式のTOC計に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図5に従来のTOC計の一例を示す。
切替えバルブ14の共通のポートにシリンジ10が接続されており、切替えバルブ14の切替えによってシリンジ10が試料流路16、酸添加流路18、ドレイン流路20又は測定流路22のいずれか1つに接続することができる。測定流路22は酸化処理部24、除湿部26を介してCO2検出部28に接続されている。シリンジ10には通気ガス供給部2からの通気ガスを供給するための通気ガス供給流路7が接続されている。通気ガス供給流路7上には上流側から開閉弁4、流量調整弁30及び流量計32が設けられている。開閉弁4や切替えバルブ14の動作は制御部8aによって制御されており、予め設定された工程に沿って自動的に測定が行なわれる。
【0003】
このTOC計では、シリンジ10内に試料を吸引した後、さらにシリンジ10内に酸を吸引して試料を酸性にする。その後、シリンジ10をドレイン流路20に接続し、プランジャ12を通気ガス供給流路7が接続されている位置よりも下方へ下降させた状態にして開閉弁4を開き、シリンジ10内に通気ガスを一定流量で供給して試料の通気処理を行なう。この通気処理により試料中から既存の無機炭素が放出される。通気ガスの流量は分析者によって流量調整弁30で一定流量に調整されている。制御部8aは通気処理を予め設定された時間行なった後、開閉弁4を閉じる。また、予め試料に既存する無機炭素量が分かっている場合には、その無機炭素量に応じた通気処理時間を予め設定してその時間だけ通気処理を行なう。
【0004】
通気処理終了後、シリンジ10を測定流路22に接続してシリンジ10内の試料を酸化処理部24に注入する。酸化処理部24において試料中の有機体炭素は二酸化炭素に変換され、キャリアガスによって除湿部26を経てCO2検出部28に導かれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−283972号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように、試料中に既存する無機炭素を通気処理によって除去する方式のTOC計では、試料中に既存する無機炭素量の多少に関係なく試料の通気流量は最初に分析者が調整した状態で一定である。したがって、試料に既存する無機炭素量に関係なく一律の通気処理時間で行なう場合には、試料中の無機炭素を確実に除去できるように通気処理の時間は無機炭素含有量が多い試料を想定して設定され、本来ならば短時間の通気処理で済む既存無機炭素量の少ない試料に対しても一律に長時間の通気処理が行なわれる。
【0007】
上記問題を解決するために、試料から放出される無機炭素量を測定しながら通気処理を行ない、その測定値に基づいて試料中の無機炭素が除去されたことを検知したことをもって通気処理を終了させることが提案されている(特許文献1参照。)。これにより、試料中から無機炭素が除去された時点で通気処理が終了されるため、既存の無機炭素量が少ない試料は通気処理に要する時間が短縮される。
【0008】
しかし、そのようなTOC計においても通気処理中の通気ガス供給量は一定であるため、試料中に既存する無機炭素量が多いと通気処理に長時間を要する。予め試料中に既存する無機炭素量が多いことを分析者が分かっていれば、分析者が予め通気ガス供給量を大きく設定しておくことで通気処理に要する時間を短縮できるが、既存の無機炭素量が不明な試料に対しては通気処理に要する時間を短縮する手段がなかった。
【0009】
そこで本発明は、自動で通気処理に要する時間を短縮することができるTOC計を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のTOC計は、採取した試料を収容する試料収容部と、試料収容部に通気ガスを供給して試料の通気処理を行ない、試料中に既存する無機炭素を放出させる通気処理部と、通気処理された試料中の有機体炭素を酸化分解して二酸化炭素に変換するための酸化反応部と、酸化反応部で生成された二酸化炭素量を計測する検出器を備えたTOC測定部と、試料中に既存する無機炭素量に応じて通気処理時の通気ガス供給量を調整するように通気処理部を制御する制御部と、を備えていることを特徴とするものである。
【0011】
本発明のTOC計の好ましい実施例の一つは、通気処理により試料から放出された無機炭素量を計測する検出器を備えたIC測定部をさらに備え、制御部が、通気処理開始当初は所定流量で通気ガスを試料収容部に供給し、通気処理を開始した後一定時間が経過するまでのIC測定部による無機炭素量測定データに基づいて通気処理が所定時間内に終了するように通気処理部による通気ガス供給量を制御するものである。そうすれば、無機炭素量が不明な試料であってもIC測定部の検出信号の立ち上がりから試料中に既存する無機炭素量をある程度予測することができ、それに応じた通気ガス供給量での通気処理を行なうことができる。
【0012】
また、本発明の全有機体炭素測定装置では、TOC測定部の検出器とIC測定部の検出器を共通の検出器とすることが好ましい。そうすれば、新たにIC測定用の検出器を設ける必要がなく、コストの増大を防止できる。
【0013】
本発明のTOC計に、試料とその試料に対して行なう通気処理時の通気ガス供給量を登録するための通気処理条件登録部をさらに設けることができる。その場合、制御部は通気処理条件登録部に登録されている試料の通気処理は登録された通気ガス供給量で行なうように通気処理部を制御することが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明のTOC計では、試料中に既存する無機炭素量に応じて通気処理時の通気ガス供給量を調整するように通気処理部を制御する制御部を備えているので、試料に含まれる無機炭素量によって通気処理時の通気ガス供給量を増加させて通気処理に要する時間を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】TOC計の一実施例を示す流路構成図である。
【図2】同実施例の通気処理時の動作の一例を示すフローチャートである。
【図3】同実施例の通気処理時における通気ガス供給量を一定にしたときのCO2検出部の検出信号の時間変化を示すグラフである。
【図4】同実施例の通気処理時における通気ガス供給量を全無機炭素量の予測値に基づいて調整したときのCO2検出部の検出信号の時間変化を示すグラフである。
【図5】従来のTOC計の一例を示す流路構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、一実施例のTOC計について図1を参照しながら説明する。
プランジャ12の駆動により試料の吸引や注入を行なうシリンジ10が切替えバルブ14の共通のポートに接続されている。切替えバルブ14の他のポートには、試料流路16、酸添加流路18、ドレイン流路20、TOC測定流路22及びIC測定流路23が接続されている。切替えバルブ14はそれらが接続されているポートにシリンジ10が接続されている共通のポートを切り替えて接続することができる。切替えバルブ14は例えばロータの回転により流路接続を切り替えるロータリーバルブである。
【0017】
シリンジ10には通気ガスを供給するための通気ガス供給流路7が接続されている。通気ガス供給流路7は、有機体炭素や無機炭素を含まないガスを供給する通気ガス供給部2に接続されているほか、その流路上に開閉弁4及び流量調整部6を備えている。通気ガス供給部2、開閉弁4、流量調整部6及び通気ガス供給流路7はシリンジ10内の試料の通気処理を行なうための通気処理部を構成する。通気ガスの一例は、炭素成分を除去した高純度空気であり、通気ガス供給部2の一例は高純度ガスボンベである。開閉弁4及び流量調整部6の動作は制御部8により制御される。なお、制御部8は切替えバルブ14のほか、プランジャ12を駆動するモータ(図示略)の動作も制御するものである。
【0018】
TOC測定流路22は酸化反応部24及び除湿部26を介してCO2検出部28に接続されている。IC測定流路23は除湿部26を介してCO2検出部28に接続されている。CO2検出部28としては、例えば赤外線ガス分析装置(NDIR)が挙げられる。CO2検出部28はTOC測定時の二酸化炭素量を測定するのに用いられるほか、試料の通気処理時に試料から放出される無機炭素量を測定するのにも用いられる。通気処理時におけるCO2検出部28の測定値は制御部8に入力され、制御部8はその測定値に基づいて開閉弁4や流量調整部6の動作制御を行なう。
【0019】
このTOC計のTOC測定動作について説明すると、まずシリンジ10を試料流路16に接続してプランジャ12を吸引側へ駆動することにより、シリンジ10内に試料を吸引する。その後、シリンジ10を酸添加流路18に接続してプランジャ12をさらに吸引側へ駆動することによりシリンジ10内の試料に酸を添加し、試料のpHを例えば2以下にする。シリンジ10内で試料の通気処理を行ない、試料中に既存する無機炭素を除去する。通気処理時の動作については後に詳述する。
【0020】
通気処理が終了した後、シリンジ10をTOC測定流路22に接続し、酸化処理部24に試料を注入する。酸化処理部24に注入された試料中の有機体炭素は二酸化炭素に変換され、他の試料成分とともにキャリアガスによって除湿部26を経てCO2検出部28に導かれる。CO2検出部28で測定される二酸化炭素濃度は検量線として試料中の有機体炭素濃度と関係付けられている。
【0021】
通気処理時の制御部8の制御による動作を図2のフローチャートに示す。通気処理開始時はシリンジ10をIC測定流路23に接続する。プランジャ12をシリンジ10の通気ガス供給流路7が接続されている位置よりも下方の位置まで下降させた状態にし、開閉弁4を開いてシリンジ10内に通気ガスを供給する。通気ガスの供給流量が例えば100mL/mimなど予め設定された流量となるように流量調整部6を制御する。通気ガスをシリンジ10に供給すると、シリンジ10内の試料から放出された無機炭素がIC測定流路23を介してCO2検出部28に導かれて測定される。
【0022】
通気処理時のCO2検出部28の測定値は制御部8に入力される。通気ガスを一定流量で固定して供給した場合、CO2検出部28での測定値は図3に示されるようなピーク曲線を描く。破線で示された部分の面積は通気処理によって試料から放出される全無機炭素量を表す。
【0023】
制御部8はCO2検出部28からの測定値の立ち上がりの数点、例えば3点を入力した時点でそれらのデータからピーク曲線の立ち上がりの傾きを求め、その傾きに応じた通気ガス供給量に調整するよう流量調整部6を制御する。ピーク曲線の傾きと通気ガス供給量との関係は、予め測定されたデータに基づいて関係付けられており、制御部8に格納されている。所定時間が経過した後、制御部8は開閉弁4を閉じて通気処理を終了し、シリンジ10内の試料をTOC測定流路22へ送る動作へ移行する。
【0024】
通気ガス供給量の調整の一例として、ピーク曲線の立ち上がりの傾きが予め設定されたしきい値を超えると、通気ガス供給量を例えば2倍など通気処理が所定時間内に終了するような供給量に増加させる方法が挙げられる。その結果、図4の実線で示されているように、シリンジ10内の試料からの無機炭素の放出が促進され、通気ガス供給量を開始時から一定量で固定した場合に比べて、通気処理に要する時間が短縮される。図4のt1は通気ガス供給量を固定しておこなったときの通気処理終了時間を示し、t2は通気ガス供給量を全無機炭素量の予測値に基づいて増加させたときの通気処理終了時間を示す。
【0025】
ピーク曲線の立ち上がりのしきい値を多段階に設定し、それぞれのしきい値を超えた場合の通気ガス供給量の増加量をそれぞれ設定しておくこともできる。例えばしきい値を2段階に設定しておき、傾きが高いほうのしきい値を超えるような場合には通気ガス供給量を例えば3倍に増加させ、高いほうのしきい値は超えないが低いほうのしきい値を超えるような場合には通気ガス供給量を例えば2倍に増加させる。
この場合、所定時間の経過時に制御部8がCO2検出部28の信号強度を予め設定されたしきい値と比較し、無機炭素が除去されているか否かを確認することが好ましい。
【0026】
なお、装置には分析者がその無機炭素量に応じた適当な通気ガス供給量を装置に設定しておく設定部が設けられていることが好ましい。その場合、制御部8は設定部に設定された情報に従って通気処理を行なう。
【0027】
以下のA,Bは、50mgC/Lの無機炭素を含む溶液の通気処理に要した時間を示している。この測定では、通気処理をCO2検出部28の検出信号が一定レベル以下になるまで行ない、Aの測定では、通気量を80mL/minで固定し、Bの測定では、最初の1分間は通気量を80mL/minにし、1分経過後は通気量を150mL/minにしている。A、Bそれぞれの測定は、連続して3回の通気処理に要する時間を計測しそれらの平均値を測定することにより行なった。A、Bそれぞれについて2回の測定を行なった。
A (1回目)125秒、129秒、129秒 平均128秒
(2回目)128秒、129秒、129秒 平均129秒
B (1回目)107秒、106秒、106秒 平均106秒
(2回目)106秒、106秒、105秒 平均106秒
【0028】
上記の測定結果から、通気処理中に通気流量を増量させることにより、測定時間が短縮され、スループットが向上することがわかる。
【符号の説明】
【0029】
2 通気ガス供給部
4 開閉弁
6 流量調整部
7 通気ガス供給流路
8 制御部
10 シリンジ
12 プランジャ
14 切替えバルブ
16 試料流路
18 酸添加流路
20 ドレイン流路
22 TOC測定流路
23 IC測定流路
24 酸化処理部
26 除湿部
28 CO2検出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
採取した試料を収容する試料収容部と、
前記試料収容部に通気ガスを供給して試料の通気処理を行ない、試料中に既存する無機炭素を放出させる通気処理部と、
通気処理された試料中の有機体炭素を酸化分解して二酸化炭素に変換するための酸化反応部と、
前記酸化反応部で生成された二酸化炭素量を計測する検出器を備えたTOC測定部と、
試料中に既存する無機炭素量に応じて通気処理時の通気ガス供給量を調整するように通気処理部を制御する制御部と、を備えていることを特徴とする全有機体炭素測定装置。
【請求項2】
前記通気処理により試料から放出された無機炭素量を計測する検出器を備えたIC測定部をさらに備え、
前記制御部は、前記通気処理開始当初は所定流量で通気ガスを前記試料収容部に供給し、前記通気処理を開始した後一定時間が経過するまでのIC測定部による無機炭素量測定データに基づいて通気処理が所定時間内に終了するように通気処理部による通気ガス供給量を制御するものである請求候1に記載の全有機体炭素測定装置。
【請求項3】
前記TOC測定部の検出器とIC測定部の検出器は共通の検出器である請求項2に記載の全有機体炭素測定装置。
【請求項4】
試料とその試料に対して行なう通気処理時の通気ガス供給量を登録するための通気処理条件登録部をさらに備え、
前記制御部は前記通気処理条件登録部に登録されている試料の通気処理は登録された通気ガス供給量で行なうように前記通気処理部を制御する請求項1から3のいずれか一項に記載の全有機体炭素測定装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate