説明

土中アンカー

【課題】簡単な構造で安定した耐力で、しかも耐力増強および変位量の大幅な抑制が可能な土中アンカーを提供する。
【解決手段】パイプアンカー体を挿入しうる太さの筒体に放射状に延びる2枚以上の羽根板を固着した羽根部体を地表に配置し、外周にリングストッパーを有するパイプアンカー体を前記羽根部体の筒体に貫挿し、リングストッパーの打点面と羽根部体の筒体上端とを接した状態で、パイプアンカー体を地中に推進することにより前記羽根部体に打撃力を加えて地中に打ち込んでなり、前記リングストッパーの打点面が長さLの前記パイプアンカー体の上端から約300mm〜(1/3)Lの範囲にある

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は主として土質が礫土層や堆積層の地盤に固定するための高耐力な土中アンカーに関する。
【背景技術】
【0002】
落石防止、雪崩防止などの施設においては、ロープを地表付近に沿って張りめぐらせ、端部や交差部を地盤に固定することが必要とされる。
かかるロープ端部や交差部の固定手段として、土質が礫土層や堆積層の地盤にあっては、土中アンカーと称される杭体が使用され、頂部にロープを取り付け、落石などにより発生するロープに対する引っ張り力を杭の抵抗で固定するようにしている。
【0003】
前記土中アンカーとして、従来、図10(a)のように円筒状パイプの先端部を細くしたパイプアンカーが一般に用いられていた。しかし、アンカーは性質上、上方または下方、さらには右あるいは左方向などから荷重を受ける。この条件に対して、パイプアンカーは、図10(b)のように回転中心位置Aが下端にあるので転倒モーメントが大きく、したがって、耐力及び変位量が土質により大きく変動し、設計耐力が出ない場合が生ずる。また、アンカー前面の土の抵抗力が限界になると変位量が増大し、通常、抵抗力は17〜24kNで変位量15〜40cmにも達するので、耐力が小さく、変位量が大きいという題があった。
【0004】
この対策として、平面一文字状や、図11(a),(b)のように平面十字状をなした土圧抵抗板を併用し、地山表層部に埋まるように該土圧抵抗板を打設し、その表層部に打設されている土圧抵抗板にパイプアンカーを差し込んで地中深く打設していた。
しかしながら、土質や土量によって土圧抵抗板に対する抵抗力が大きく異なるので、アンカーとして変位量に大きなばらつきが発生し、耐力の安定性および変位量の低減は望めない問題があった。 また、前記土圧抵抗板およびパイプアンカーをそれぞれ個別に打設しなければならないので手間がかかるとともに、打撃力のロスが生ずる問題もあった。
【0005】
また、地山表層部に土圧抵抗板を埋め込んでいるが、落石が発生する斜面においては、地表から250mm程度の深さは落葉などの堆積物からなっているので、土質が軟弱で土圧抵抗も小さくなるなど、土質および土量によってアンカーの変位量に大きなばらつきがあり、アンカー耐力の均一性を向上させることが難しいという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−274584号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は前記のような問題点を解消するためになされたもので、その目的とするところは、簡単な構造で安定した耐力で、しかも耐力増強および変位量の大幅な抑制が可能な土中アンカーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため本発明の土中アンカーは、パイプアンカー体を挿入しうる太さの筒体に放射状に延びる2枚以上の羽根板を固着した羽根部体を地表に配置し、外周にリングストッパーを有するパイプアンカー体を前記羽根部体の筒体に貫挿し、リングストッパーの打点面と羽根部体の筒体上端とを接した状態で、パイプアンカー体を地中に推進することにより前記羽根部体に打撃力を加えて地中に打ち込んでなり、前記リングストッパーの打点面が長さLの前記パイプアンカー体の上端から約300mm〜(1/3)Lの範囲にあることを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、リングストッパーの打点面がパイプアンカー体の上端から約300mm以上下方にあることにより、この深さ以上の地中に羽根部体が埋設されるので、枯葉などの堆積物により軟弱で不均一な土質を過ぎて土質も安定し土圧耐力も高い地中に羽根部体埋め込まれ、安定した高いN値(地盤の硬軟や支持力などを推定する動的なサウンディング方法での測定値)を得ることができる。
また、リングストッパーの打点面がパイプアンカー体の上端から約300mm〜(1/3)L以内にあるので、パイプアンカー体の転倒挙動の中心位置をアンカー下端部から上部に置き換えることができ、アンカーに作用する転倒モーメントを小さくでき、パイプアンカー体の頭部変位量も小さくすることができる。
【0010】
しかも、羽根部体とパイプアンカー体は分離独立した別個の部材であるので軽量化が図られ、運搬機材を持ち込めない落石等の発生する斜面での搬送を容易に行なえ、また、羽根部体をあらかじめ地中に打設せずに地表に配置し、パイプアンカー体を先端から羽根部体の筒体に挿通し、パイプアンカー体の後端開口からたとえばエアハンマーを挿入しコンプレッサーからの圧縮エアを繰り込むだけで羽根部体を所定の深さの地中に埋設できるので、特別な装置や打設方法を用いることなく、施工が簡単で、しかもパイプアンカー体の耐力のばらつきを抑制でき、信頼性を向上することができるなどのすぐれた特徴を有する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の土中アンカーの使用状態を示す斜視図である。
【図2】本発明の土中アンカーの実施例を示す斜視図である。
【図3】パイプアンカー体の実施例を示しており、(a)は正面図を示し(b)はリングストッパー部分の拡大図を示す。
【図4】羽根部体の実施例を示しており、(a)は正面図を示し、(b)は平面図を示す。
【図5】交差部キャップの実施例を示しており、(a)は正面図を示し、(b)は平面図を示す。
【図6】ロープ交差部を示したもので、(a)は正面図を示し、(b)は平面図を示す。
【図7】端末部キャップの実施例を示す正面図である。
【図8】ロープ端末部を示しており、(a)は正面図を示し、(b)は平面図を示す。
【図9】(a)、(b)、(c)は本発明アンカーの打設公定を段階的に示す斜視図である。
【図10】(a)は従来の土中アンカーの打設状態を示す側面図、(b)は荷重負荷時の状態を示す説明図である。
【図11】従来の土中アンカーの打設状態を示す側面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
羽根部体の羽根板は形状が略台形で羽根数は4枚である。
これによれば、パイプアンカー体の頂部に結合されたロープに上下左右または斜めから加わる張力に対し、羽根部体の羽根板が土圧抵抗体となってパイプアンカー体の変位を抑えることができる。
【実施例1】
【0013】
以下、添付図面を参照して本発明の実施例を説明する。
図1は本発明による土中アンカーを落石防止ネットに適用した使用例を示しており、図2は図1の一部を拡大して本発明の実施例を示している。
図1と2において、aは斜面の地表、bは地中を指しており、1は本発明による土中アンカーであり、落石等が発生する危険のある斜面aに多数のロープ4を地表に沿うように縦横に張設し、縦横のロープ4の交差部5およびロープ4の端末部6の地中にそれぞれ本発明による土中アンカー1が埋設され、地表から突出する上端部にロープが連結固定されている。
【0014】
前記土中アンカー1は、下端部を縮径したパイプからなるパイプアンカー体2と、これと独立しているが地中bに一体となって打ち込まれた羽根部体3とからなっている。
図3はパイプアンカー体2を示しており、前記パイプアンカー体2の上部には、交差部や端末部の金具ことにキャップを固定するための軸(ピンやボルト)を貫挿する貫通孔201が180度対称に設けられている。また、この貫通孔は、たとえば打ち込み時に土中の石などの障害物に当たった場合に、仮設置したパイプアンカー体2を撤去する際にチェーンブロックなどの引き抜き機械のフック金具を取り付ける孔としても使用できる。
【0015】
パイプアンカー体2外周には上端から後述する所定の距離を置いた位置にリングストッパー21が溶接により強固に固着されている。前記リングストッパー21の上端縁は面取りが施されているが、下端縁には面取りが施されず、図3(b)に示すように、軸線と略直角をなした打点面210となっている。
【0016】
羽根部体3は所要長さでかつパイプアンカー体2を挿通し得る内径を備えた筒体31の外周に羽根板32を放射状に固着したもので、この例では4枚の羽根板32が等間隔の角度で放射状に溶接固着され、羽根板32の面はロープ4の張設方向と略直角になるように配置されている。
筒体31の上部には引き抜き用の貫通孔311を設けている。これは、たとえば上記のように打ち込み時に土中の石などの障害物に当たった場合に、パイプアンカー体2を撤去した後、土中に残った羽根部体3を土中から撤去するためにフック金具を取り付ける孔である。
【0017】
パイプアンカー体2の具体例を挙げると、外径114.3mm、長さ1650mm、肉厚4.5mmの鋼管で、下端部は小径の円筒形状をなし土中への押し込みを容易にしている。
パイプアンカー体2には、外径127mm、長さ50mm、肉厚5mmのリングストッパー21が、この例ではパイプアンカー体上端から400mm下方に打点面210が位置するように溶接されている。
【0018】
羽根部体3はあらかじめ地表に配され、この状態で筒体31にパイプアンカー体2が挿通され、パイプアンカー体2を打撃により地中に推進することで、図2のように筒体31の上端部がリングストッパー21の打点面210に接した状態で地中に打ち込まれる。すなわち、羽根部体3の筒体31の上端面と打点面210が面接触することで、パイプアンカー体2の打撃力がリングストッパー21を介して確実に羽根部体3に伝達され、打ち込み方向も安定した正確な土中アンカー1となるものであり、羽根部体3は斜面の地表には露出せずまた表層にもなく、かなり深い地中bに埋設される。
【0019】
パイプアンカー体2のリングストッパー21の打点面210の位置は、パイプアンカー体の上端から約400mm以上下方である。その理由は、パイプアンカー体2にロープを締結する金具を取り付けるためには100mm程度を地上に残す必要があるだけでなく、羽根部体3が岩石等の打ち込み妨害物に遭遇する確率が小さく、土圧の安定した領域までパイプアンカー体2と一体的に効率よく打ち込めるからである。
また、パイプアンカー体に作用する転倒挙動の支点をアンカー下端部から上部すなわち羽根部体に置き換えることができ、パイプアンカー体に作用する転倒モーメントを小さくでき、パイプアンカー体の頂部変位量も小さくできるからである。
なお、パイプアンカー体2の上端を地表と同じにするときは、リングストッパー21の打点面210の位置はパイプの上端から300mmの位置であってもよい。
【0020】
打点面210の位置の下限は、パイプアンカー体2の全長をLとすると、上端から(1/3)Lである。その理由は、(1/3)Lを超えると、羽根部体3の埋設に手間と時間がかかり、かつ羽根部体3が地中深く埋設されるので、パイプアンカー体2に作用する転倒モーメントが小さくならないからである。
【0021】
羽根部体3の具体例を示すと、外径127mm、長さ320mm、肉厚5mmの筒体31と、高さ200mm、底辺300mm、上辺200mm、厚さ4.5mmの台形の羽根板32からなり、4枚の羽根板32の後端辺が筒体31に接するように均等の角度を持って放射状に溶接されている。
【0022】
なお、パイプアンカー体2、羽根部体3およびロープ4は防食のため亜鉛めっきや亜鉛アルミ合金めっき等が施されている。景観を保つため有色樹脂塗装をすることもできる。樹脂塗装を施すことで耐食性能をさらに向上することができる。
【0023】
パイプアンカー体2とロープ4の結合は、縦横に張設したロープ4の交差部を結合する交差金具51を介して交差部キャップ7に締結することで行なわれる。
上記のようにロープ4の交差部5およびロープ4の端末部6に対応する地中にパイプアンカー体2が上端を残して打ち込まれるが、ロープ4の交差部5に打ち込まれたパイプアンカー体2の上端部には、図6のように交差部キャップ7が取り付けられている。
【0024】
交差部キャップ7は、図5に示されており、パイプアンカー体2の上端開口に挿入され得る筒部72の上端に、パイプアンカー体2の開口に当接し得る円形のキャッププレート71を溶接している。
たとえば、筒部は長さ100mm、外径101.6mm、肉厚4mm、キャッププレートは直径130mm、厚さ12mmである。キャッププレート71には、十字アンカーグリップと称される交差金具51を取り付けるための金具結合ボルト75が取り付けてある。また、筒部72の略中央付近には前記パイプアンカー体2の貫通孔201と整合し、取り付けボルト74を貫通して抜け止めするための貫通孔73が設けられている。
【0025】
ロープ4の端末部6は巻きグリップ61を介してアイが形成され、図8のようにパイプンカー体2の上端部に取り付けた端末部キャップ8とピンボルト83を介してパイプンカー体2に連結される。
図7は端末部キャップ8を例示しており、たとえば長さ105mm、外径(幅)50mm、肉厚3mmの軸部(板又は筒)81に、たとえば直径120mm、厚さ3mmの椀場プレート80を溶接してある。前記軸部81の中央よりやや下方には、前記パイプアンカー体2の貫通孔201と整合してピンボルト83を挿通させるための通孔82が設けられている。
図8は端末部のロープ4を連結した状態を示しており、端末部キャップ8は、パイプアンカー体2に端末部キャップ8の軸部81を挿入し、整合しあった貫通孔201と通孔82にピンボルト83を挿通させることにより連結されている。
【0026】
図2に示す落石防止ロープネットは、次の手順で施工される。
(1)斜面aに落石を防止すべきロープ4の張設位置を決定する。
(2)ロープ4の端末箇所、ロープ4の縦横張設の交差箇所を決定する。
(3)ロープ4の端末箇所、交差箇所に羽根部体3、パイプアンカー体2を搬送する。搬送は人力に頼らざるを得ない場合が大半であるが、本発明はたとえばパイプアンカー体2を略20kg、羽根部体を略15kgとなし得るので、斜面でも人力による安全な運搬が可能である。
【0027】
(4)図9(a)のように、羽根部体3をアンカー形成予定箇所の地表に配置し、筒体31にパイプアンカー体2を挿入し、エアパンチャー9をパイプアンカー体2の後端開口から挿入し、パイプアンカー体2の先端と羽根部体3の先端を地表に接して立て、打ち込み方向を決定する。
エアパンチャーとは背後からの圧縮エアで衝撃的に押圧される打撃子を有するエアハンマーである。
(5)所定の打ち込み位置にセットしエアパンチャーに圧縮エアをホースを介して供給し、打ち込みを開始する。
(6)始めはパイプアンカー体2が大きく後方にあるためパイプアンカー体2の打ち込みが先行し、打ち込みが進むと、羽根部体3の筒体31の上端面にリングストッパー21の打点面210が接し、図9(b)のようにエアパンチャー9の打撃力がリングストッパー21を経由して羽根部体3に伝えられ、図9(b)のようにパイプアンカー体2と羽根部体3は同時進行で地中に埋め込まれる。
【0028】
(7)パイプアンカー体2の上端部を地表より略100mm残して打ち込みは完了する。あとはエアパンチャー9を引き抜けばよく、羽根部体3は地表から400mm以上の深さの地中に埋め込まれている。この状態が図9(c)である。
(8)端末部6のパイプアンカー体2の頂部に端末部キャップ8を装着し、巻きグリップ61を介してロープ端末とパイプアンカー体2は連結される。
(9)交差部5のパイプアンカー体2に交差部キャップ7を装着し、交差金具51を介してロープ4とパイプアンカー体2は締結される。
(10)なお、設置した土中アンカー1を撤去または設置位置を変更することもできる。パイプアンカー体2を撤去後、羽根部体3は地中に残ったままとなるので、羽根部体3の筒体31に設けられた貫通孔311に、チェーンブロックに取り付けたフックを引っ掛け三股を介して簡単に引き抜くことができる。
【符号の説明】
【0029】
1 土中アンカー
2 パイプアンカー体
21 リングストッパー
210 打点面
3 羽根部体
31 筒部
32 羽根板
4 ロープ
5 ロープ交差部
6 ロープ端末部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パイプアンカー体を挿入しうる太さの筒体に放射状に延びる2枚以上の羽根板を固着した羽根部体を地表に配置し、外周にリングストッパーを有するパイプアンカー体を前記羽根部体の筒体に貫挿し、リングストッパーの打点面と羽根部体の筒体上端とを接した状態で、パイプアンカー体を地中に推進することにより前記羽根部体に打撃力を加えて地中に打ち込んでなり、前記リングストッパーの打点面が長さLの前記パイプアンカー体の上端から約300mm〜(1/3)Lの範囲にあることを特徴とする土中アンカー。
【請求項2】
羽根部体は形状が略台形の4枚の羽根を有している請求項1に記載の土中アンカー。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2010−248841(P2010−248841A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−101457(P2009−101457)
【出願日】平成21年4月17日(2009.4.17)
【出願人】(000003528)東京製綱株式会社 (139)
【Fターム(参考)】