説明

抄紙用プレスフェルト

【課題】抄紙用プレスフェルトにおいて、加圧や水圧を湿紙に伝える作用の乏しいフェルト中の空間体積を、使用開始から初期馴染みに適切な空間量とすることで馴染み期間を短くし、汚れ蓄積や過度のコンパクト化による早期の通水性低下や圧縮性の持続不足による搾水不良がなく、蛇行などによる湿紙搬送不良のない、基本的機能をバランス良く具備した抄紙用フェルトを提供すること。
【解決手段】補強繊維基材1と、該補強繊維基材の湿紙載置側に配置される表バット繊維層2とプレスロール側に配置される裏バット繊維層3とを備えた抄紙用プレスフェルトにおいて、表バット繊維層2及び裏バット繊維層3の少なくとも一方に溶融繊維が含まれ、吸水性樹脂4をフェルト中に含有させたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、湿紙に積層して用いられ、抄紙機の回転する一対のロール、あるいはロールおよびシューにより湿紙内の水を搾水する際に使用される抄紙用フェルト(以下、単に「フェルト」ということもある。)に関する。
さらに詳しくは、抄紙機で安定生産が可能な最高速度到達までの初期馴染み期間を含めて湿紙の搾水性を向上することができる抄紙用フェルトに関する。
【背景技術】
【0002】
抄紙工程において、湿紙から搾水するために従来から一般に抄紙機は、ワイヤーパートと、プレスパートと、ドライヤーパートとを備える。これらワイヤーパート、プレスパート、およびドライヤーパートは、この順で湿紙の搬送方向に沿って配置される。湿紙は、ワイヤーパート、プレスパート、及びドライヤーパートそれぞれに配設された抄紙用具に次々と受け渡されながら搬送されるとともに搾水され、最終的にはドライヤーパートで乾燥させられる。
【0003】
これらの各々のパートで脱水機能に対応した抄紙用具が使用されている。プレスパートに配置されたプレス装置は、湿紙の搬送方向に沿って直列に並設された複数のプレス装置を具備する。
【0004】
各プレス装置は、無端状のフェルト、あるいは有端状のフェルトを抄紙機上で連結し無端状にしたフェルトと、当該フェルトそれぞれの一部を間に挟むように上下に対向配置されるプレスとして一対のロール(即ち、ロールプレス)あるいはロールおよびシュー(即ち、シュープレス)とを有しており、略同一速度で同一方向に走行するフェルトにより搬送されてくる湿紙を、該フェルトと共にロールとロールあるいはロールとシューとで加圧することにより、該湿紙から水分を搾水しながらフェルトにその水分を連続的に吸収させる。
【0005】
なお、このような抄紙機には、湿紙を挟持したフェルトの一部をロールとロールとで挟みながら加圧するプレス装置がプレスパートに設けられたロールプレス機構をもった抄紙機、湿紙を挟持したフェルトの一部をロールとシューとで挟みながら加圧するプレス装置がプレスパートに設けられたシュープレス機構をもった抄紙機、等がある。
【0006】
フェルトは、補強繊維基材とバット繊維層により構成され、バット繊維層は基材の湿紙載置側及びプレスロール側の両面もしくは湿紙載置側にのみ配置される。この際、バット繊維層は、バット繊維を補強繊維基材にニードルパンチングにより絡合一体化して構成されている。フェルトの基本的な機能は、湿紙から水を搾る(搾水性)、湿紙の平滑性を高める、湿紙を搬送するといった役割を果たしている。
【0007】
とりわけ、フェルト機能の中の湿紙から水を脱水する機能は重要視され、一対のロール、あるいはロールおよびシューによる加圧を通過することにより、湿紙から水をフェルトに移行し、フェルト中の水を系外に排出するために、フェルト中の空間体積を適切に確保したことによる通水性と、圧縮性の持続が重要視されている。
【0008】
適切な空間体積とは、抄紙機の運転速度が安定したときの空間体積のことである。運転速度が早く安定することは生産量の面から重要であり、この期間を初期馴染み期間と呼んでいる。初期馴染み期間は抄紙機の運転条件により変わるが、一般には1〜2日、最長では5日ほど要する。特に、タンデムニプコフレックス抄紙機を代表とする、ノードロー・ストレートスルータイプのような湿紙搬送方式では、運転速度も速くなり初期馴染み期間を短くすることが必要となっている。
【0009】
かかる観点から、従来より様々なフェルトの開発が進んでいる。例えば、公知な手法としては、フェルトが仕上がったのち、後加工で加圧を加えてフェルトの厚みを薄くし、密度を上げる方策がとられている。加圧効果を増すために、熱媒によって加熱されたロールにフェルトを接する場合もある。作用機構としては、フェルト中にできる空間体積を減らし、プレス部で受ける加圧力を湿紙に伝えやすくしている。
【0010】
特許文献1(特表2005−524002号公報)には、フェルト表面側においてポリマー物質で処理したのち表面研摩し、コンパクト化する方策が記載されている。かかる構造の抄紙用フェルトは、始めからコンパクト化されているため、抄紙機の初期馴染み期間の短縮を導き出すものである。
【0011】
しかし、特許文献1のポリウレタン、ポリカーボネートウレタン、ポリアクリレート、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂またはそれらの混合物のポリマーを用いた抄紙用フェルトでは、該ポリマーの接着力・凝結力でコンパクト化できるものの、フェルト全体に剛性を与えてしまうものであった。剛性が増大しすぎると、プレス下での圧縮・回復挙動が抑制され十分な湿紙搾水能力が得られず、また、抄紙機に配置するときに、狭いロール間を手繰り入れる時に困難な作業を伴い、装着のし易さの点でも課題があった。
【0012】
特許文献2(特開平2−127585号公報)には、フェルト表面に発泡樹脂をコートし、乾燥固化する製法が記載されている。かかる構造のフェルトは、発泡樹脂による多孔な接触領域をもつフェルト表面が、湿紙からの水を除去するものである。
【0013】
しかし、特許文献2に記載されているフェルトは、新品時は多孔部が湿紙から搾水した水分を受容できるが、繰り返されるプレスロールからの加圧を直に受けて次第に発泡部を含んでコンパクト化される。発泡樹脂層がコンパクト化されると通水性が下がり、湿紙からの汚れを堆積して湿紙の水分を受容できなくなり、搾水性が低下してしまうといった課題があった。
【0014】
同じような発泡樹脂を使用した特許文献3(特開2005−146443号公報)では、フェルトの基材より上の湿紙接触層の間に、発泡体ゲルを、層(ウォール構造)をなすように配置する製法が提案されている。かかる構造のフェルトは、圧力分散性を良好にして基布マークを防止し湿紙表面の平滑性を向上するものである。
【0015】
しかし、特許文献3に記載されているフェルトは、ゲル発泡体層がプレスロールに直に接しないものの、特許文献2と同様の課題があった。
【0016】
特許文献4(特開昭56−53297号公報)に記載されているフェルトでは、アクリル酸ソーダ・アクリルアミド共重合体の繊維の親水性により初期馴染み期間が短くなることが期待できるものである。
【0017】
しかしながら、特許文献4に記載されているフェルトは、アクリル酸ソーダ・アクリルアミド共重合体の繊維の耐久性が低いため搾水の持続性に劣るといった課題があった。また、耐久性の低い繊維がフェルトから脱落して紙に付着し、印刷時に支障をきたすという課題があった。
【0018】
また、特許文献5は基体と、湿紙側バット繊維層と、裏面側バット繊維層とを有し、前記湿紙側バット繊維層は高分子弾性材料に包含され、前記裏面側バット繊維層は溶融繊維を含んでいる抄紙用フェルトを開示する。
【0019】
しかし、特許文献5に記載される高分子弾性材料はウレタンエマルション、酢酸ビニル系エマルション等の高分子材料のエマルションであるから、それらの混合物のポリマーを抄紙用フェルトに用いたものであって、該ポリマーの接着力・凝結力でフェルトをコンパクト化するものの、フェルト全体に剛性を与えてしまうものであった。フェルトの剛性が増大すると、抄紙機のプレス下での圧縮性と回復性とが抑制されるから、湿紙の搾水能力が損なわれ、また抄紙機に抄紙用フェルトを配置する際、抄紙機内の狭いロール間を手繰りでフェルトを入れる時に、フェルトの剛性によって掛け入れが困難になる問題があった。
【0020】
更に、特許文献5に記載されるフェルトでは、更に裏面側バット繊維層は溶融繊維を含んでいるから、裏面側バット繊維層を密度の高い柔軟な層に形成でき、フェルトの再湿抑制効果を発揮するが、抄紙用フェルトとしてその空間体積を適切に確保するとともに、通水性と圧縮性を長期に亘って持続でき、抄紙用プレスフェルトの初期馴染み期間を従来品より短縮できるフェルトには至らなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0021】
【特許文献1】特表2005−524002号公報
【特許文献2】特開平2−127585号公報
【特許文献3】特開2005−146443号公報
【特許文献4】特開昭56−53297号公報
【特許文献5】特開2009−127135号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
このような公知技術のフェルトは、初期馴染み期間は短くなるものの、初期から厚みを薄くしてフェルト中の空間を減らしているため、使用中に受ける繰り返し加圧により潰れ、使用可能な厚み限界に到達するのが早くなり、湿紙を十分に搾れる期間が短いといった課題があった。
【0023】
そこで本発明は、初期馴染み期間を短くするとともに、安定使用期間確保という、相反する課題を解決することを目的とする。
【0024】
詳しくは、抄紙用プレスフェルトの中に吸水性樹脂と溶融繊維とを含ませることにより、搾水する湿紙に加圧や水圧を伝える作用の乏しいフェルト中の空間体積を、使用開始から初期馴染みに適切な空間量とすることで馴染み期間を短くし、汚れ蓄積や過度のコンパクト化による早期の通水性低下や圧縮性の持続不足による搾水不良のない抄紙用プレスフェルトを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0025】
抄紙用フェルトの中に吸水性樹脂を含ませることにより、吸水性樹脂が吸水した後はフェルト中の空間体積を適切に確保するとともに、また溶融繊維が熱加工によって溶融された際、溶融繊維自身と溶融繊維以外のバット繊維、あるいは吸水性樹脂と溶着することで、強固な繊維ネットワークを形成することで、圧縮性の持続があることを見出して本発明を完成するに至った。本発明は、上記課題を解決するために、補強繊維基材と、少なくとも湿紙積置側バット層により構成される抄紙用フェルトにおいて、吸水性樹脂と溶融繊維とをフェルト中に含有させたことを特徴とする。
【0026】
請求項1の発明は、補強繊維基材と該補強繊維基材の湿紙載置側に配置される表バット繊維層とプレスロール側に配置される裏バット繊維層とを備えた抄紙用プレスフェルトにおいて、前記表バット繊維層及び裏バット繊維層の少なくとも一方には、抄紙用プレスフェルトの重量に対して、0.5〜30重量%の溶融繊維が含まれており、更に表バット繊維層には吸水倍率が1.05〜10倍である吸水性樹脂が、抄紙用プレスフェルトの重量に対して0.5〜20重量%で分散付着されていることを特徴とする、抄紙用プレスフェルトを提供するものである。
【0027】
請求項2の発明は、前記溶融繊維が、絶対粘度が80mPa・s以上である高分子量ポリアミドからなる芯成分と、該芯成分よりも低融点のポリアミドからなる鞘成分、とから構成される芯鞘型複合繊維であることを特徴とする、請求項1に記載の抄紙用プレスフェルトを提供するものである。
【発明の効果】
【0028】
本発明の抄紙用フェルトは、吸水性樹脂が吸水することにより、加圧や水圧を湿紙に伝える作用の乏しいフェルト中の空間体積が減り、初期馴染み期間が短くなる。また、水で膨潤した樹脂の柔軟性と耐久性及び溶融繊維によって形成された強固な繊維ネットワークにより圧縮性が持続するので、搾水性が維持出来ると共に、実施例に示すように弾性持続性を向上させることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】図1は抄紙用プレスフェルトにおいて、吸水性樹脂が表バット繊維層中に留まって存在し、且つ表バット繊維相中または裏バット繊維層中の少なくとも一方に溶融繊維が配置している状態を示す図である。
【図2】図2は抄紙用プレスフェルトにおいて、吸水性樹脂が表バット繊維層から裏側バット繊維層まで達して存在し、且つ表バット繊維相中または裏バット繊維層中の少なくとも一方に溶融繊維が配置している状態を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明の抄紙用フェルトの一例を図に示す。なお、本発明はかかる図面に記載された具体例に示すものに限られない。
図1及び図2に例示した本発明の抄紙用プレスフェルトは、補強繊維基材1、該補強繊維基材の湿紙載置側(表側)に配置された表バット繊維層2、及び該補強繊維基材のプレスロール側(裏側)に配置された裏バット繊維層3を備え、図1は吸水性樹脂4が表バット繊維層2中に留まった状態を、図2は吸水性樹脂4が表バット繊維層から裏バット繊維層3まで達した状態を、それぞれ示す。そして、それぞれ表バット繊維層2と裏バット繊維層3の少なくとも一方には、溶融繊維が配置している状態を示す。
【0031】
一般的に抄紙用フェルトは、補強繊維基材をバット層で挟み込んだ構成である。補強繊維基材は、経糸と緯糸とを織機等により製織した織物が一般的である。
経糸及び緯糸の基材とバットの材質としては、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等)、ポリアミド(ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン612等)、ポリフェニレンサルファイド、ポリフッ化ビニリデン、ポリプロピレン、アラミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、綿、ウール、金属等が挙げられる。
【0032】
吸水性樹脂は、吸水倍率が1.05〜10倍のもので、天然高分子類に属するもの、合成高分子類に属するものが1種または2種以上使用できる。
【0033】
天然高分子類に属する吸水性樹脂として、デンプン系では、デンプンにモノマーを付加反応させたもの、または電離線を照射させ架橋させたものが挙げられ、そのモノマーとしては、アクリロニトリル、アクリル酸、アクリルアミド、メタクリル酸メチル、酢酸ビニル、ビニルスルホン酸、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、モノクロロ酢酸ナトリウム、ポリアクリル酸ナトリウム、エピクロルヒドリン、スチレンスルホン酸など、一般に知られたものが使用できる。
【0034】
セルロース系吸水性樹脂では、CMCにモノマーを付加反応させたもの、または電離線を照射させ架橋させたものがあり、そのモノマーとしては、アクリロニトリル、モノクロロ酢酸ナトリウム、ポリアクリル酸ナトリウム、エピクロルヒドリン、スチレンスルホン酸などが使用できる。
【0035】
多糖類系吸水性樹脂では、ヒアルロン酸やアガロースへのホウ素やアルミニウムなどの多価イオンへの配置による架橋、または電離線を照射させ架橋させたものが使用できる。
【0036】
合成高分子類吸水性樹脂に属するものとしては、PVA系では、モノマーを付加反応させたもの、または電離線を照射させ架橋させたものがある。そのモノマーとしては、アクリル酸、ポリアクリル酸ナトリウムなどが使用できる。
【0037】
アクリル系吸水性樹脂では、下記のものが挙げられる。アクリルアミド共重合体(共重合物モノマーとして、アクリル酸ナトリウム、アクリル酸、ビニルアルコール、イソプロピルアクリルアミド、メチレンビスアクリルアミドなど)アクリル酸共重合体(共重合物モノマーとして、アクリル酸ナトリウム、アクリロニトリルなど)メチレンビスアクリルアミド共重合体(共重合物モノマーとして、メタクリル酸、イソプロピルアクリルアミドなど)メチレンビスアクリルアミド共重合体(共重合物モノマーとして、メタクリル酸、イソプロピルアクリルアミドなど)または、電離線照射による架橋ポリアクリル酸ナトリウム。その他、アクリルアミド誘導体(NIPA、DMAA)モノマーを無機成分(ヘクトライト)で調製したNCゲルも使用出来る。
【0038】
ウレタン系吸水性樹脂では、ポリオールを変性したものとして、多価アルコールにエチレンオキサイドを単独またはエチレンオキサイドとプロピレンオキサイドを付加重合させた親水性ポリオールにポリイソシアネートを反応させたものがあり、ポリオールに混合したものとして、デンプンやPVA等の吸水樹脂をポリオール中に混合して、イソシアネートと反応させたものなどが使用できる。 この中でも、エチレンオキサイド(EO)とプロピレンオキサイド(PO)を付加重合させた親水性ポリオールにポリイソシアネートを反応させたものが好ましい。
【0039】
上記ポリイソシアネートとしては、芳香族、脂肪族、または、脂環族ポリイソシアネートがあげられ、例えばトリレンジイソシアネート(TDI)、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、2,4−ジフェニルメタンジイソシアネート,ナフタレンジイソシアネート(NDI)、ヘキサメチレンジイソシアネートおよびそれらの混合物が使用できる。
【0040】
上記ポリオールとしては、芳香族多価アルコールにEOまたはPOとを付加重合させた芳香族親水性ポリオール。芳香族多価アルコールとしては4,4’−ジヒドロキシフェニルスルホン、レゾルシン、1,4−ビスヒドロキシエトキシベンゼンが好ましい。中でも、オキシエチレン基の含有量がポリオキシアルキレン中の重量の40〜100%を占めるポリエーテルポリオールと、オキシプロピレン基の含有量がポリオキシアルキレン中の重量の0〜30%であり、且つ分子量が1000以下のポリエーテルポリオールを反応させたものが好ましい。
【0041】
抄紙用フェルトのバット層に含有される吸水性樹脂の形状は粒子状であっても分散したフィルム状であっても特に限定されるものではない。ただし、吸水後にシート状のごとく連続したフィルム層を形成するようなものは、通水性を阻害し好ましくない。
【0042】
吸水倍率は、次の方法により測定する。
(1)試料(吸水性樹脂)を105℃で1時間乾燥したときの重量を0.01g単位まで測定し、これをMと定義する。
(2)試料を不織布製バッグに適当量(例えば100g)を入れ、20℃±2℃の充分な量の純水からなる浸漬液の中に不織布製バッグごと完全に浸漬させる。
(3)浸漬時間1時間毎に試料の入った不織布製バッグを浸漬液より取り出し、回転型脱水機(熊谷理機工業製シートフォーマー:商品名)に入れる。
(4)シートフォーマーの回転速度を所定速度1500m/分になるように設定し、設定速度に到達(12秒後)したら所定の時間(5分間)、脱水を行う。
(5)5分間脱水を継続した後、ブレーキをかけて遠心脱水を停止させる。脱水後の不織布製バッグと試料の合計重量を0.01g単位まで測定する。
(6)以後、上記(3)から(5)を繰り返し、重量増加のなくなった時点の試料と不織布製バッグの合計重量をMと定義する。
(7)前記不織布製バッグのみを純水に浸漬し、上記(3)から(5)によって測定された不織布製バッグの重量をSと定義し、
式:吸水倍率=(M−S)÷M
により得られた値を吸水倍率とする。
上記吸水倍率は1.05〜10倍が好ましい。
【0043】
これら吸水性樹脂を抄紙用フェルト内に含有させる位置は、特に限定されるものではないが、好ましくは補強繊維基材から湿紙載置側バット層(表バット繊維層)の間であればよい。具体的には、湿紙載置側バット層のみ、湿紙載置側バット層からプレスロール側バット層(裏バット繊維層)まで、湿紙載置側バット層から補強繊維基材まで、プレスロール側バット層から基材補強繊維基材までの組み合わせがある。
【0044】
吸水性樹脂をフェルトに含有させる手段としては、吸水性樹脂粒子を水溶液に分散した水分散液をフェルトに塗布・含浸、スプレー散布、ブレードコートなどの手法でフェルトに付着させる。
【0045】
吸水性樹脂をフェルトに強固に保持させるために必要に応じて架橋剤を使用し、前記水分散液に分散させて塗布し、ついで加熱または電子線放射して架橋反応を行う。かかる架橋剤としては、例えば、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、グリシジル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、N,N−メチレンビス(メタ)アクリルアミド等や、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、脂肪族多価アルコールのジまたはポリグリシジルエーテル等、及びそれらの混合物が挙げられる。また、架橋剤は1種または2種以上使用できる。
【0046】
抄紙用フェルト中にできる繊維以外の好ましい空間体積は、初期馴染みの期間から、運転速度が安定生産可能な最高速度領域に移行し使用末期に至るまで、一定の体積を維持することである。そのため、抄紙機の操業条件、湿紙の脱水量を鑑みて、吸水した樹脂のフェルトからの脱落速度をコントロールするとよい。
【0047】
前記架橋剤の使用量は、吸水性樹脂の反応基当量(ウレタン系吸水樹脂ではイソシアネート基)と架橋剤の反応基(活性水素基)当量で決定する。その際、架橋後の耐久性能を制御するため、適切な当量比(−NCO/−H)で調整する。具体的には、当量比で0.7〜1.5が好ましい。
【0048】
溶融繊維の素材としては、単一成分からなる全溶融型の繊維、或いは2成分またはそれ以上の成分からなる非全溶融型の複合繊維(コンジュゲート繊維)を使用することができる。複合繊維では、並列型または芯鞘型が好ましく使用することができる。具体的には、ポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)、ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリアミド(PA)、共重合ポリアミドなどを成分とする繊維が好ましい。本発明では特に2成分からなる複合繊維で、芯成分がポリアミドであり鞘成分が共重合ポリアミドである、芯鞘型複合繊維が特に好ましく使用できる。
【0049】
芯鞘型複合繊維の芯成分に用いられるポリアミドとしては、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド46、ポリアミド610、ポリアミド612等であることが好ましい。詳しくはεカプロラクタムの重合(ポリアミド6)や、ヘキサメチレンジアミン・アジピン酸塩の重縮合(ポリアミド66)、1,4−ジアミノブタン・アジピン酸塩の重縮合(ポリアミド46)、ヘキサメチレンジアミン・セバシン酸塩の重縮合(ポリアミド610)、ヘキサメチレンジアミン・ドデカン二酸塩の重縮合(ポリアミド612)等の重縮合により得られたポリアミドが好ましく、しかもDSC(示差走査熱分析計)による融点が200℃以上である脂肪族ポリアミドを挙げることができる。
【0050】
芯鞘型複合繊維の鞘成分に用いられるポリアミドとしては、芯成分よりも低融点のポリアミドが用いられる。鞘成分に好ましく用いられるポリアミドとしては、ポリアミド6/12、ポリアミド6/610、ポリアミド66/6、ポリアミド66/12、ポリアミド66/610等の二元共重合ポリアミド、ポリアミド6/66/12、ポリアミド6/66/610等の三元共重合ポリアミドを挙げることができる。なお、これらの共重合ポリアミドは組成(共重合成分の重量%)により融点が変動することは良く知られる処であるが、本発明で使用できる共重合ポリアミドは、その融点が180℃以下のものが特に好ましく使用できる。
【0051】
更に前記芯鞘型複合繊維は、絶対粘度が80mPa・s以上である高分子量ポリアミドからなる芯成分と、該芯成分よりも低融点のポリアミドからなる鞘成分、とから構成される芯鞘型複合繊維であることが好ましい。
【0052】
ここで、絶対粘度が80mPa・s以上とは、ポリアミドを0.5g/95%硫酸100mlで溶解し、25℃の温度で測定した絶対粘度であって、振動式粘度計で測定することができる。
【0053】
前記溶融繊維は、表バット繊維層及び裏バット繊維層を構成する一般的短繊維(ステープルファイバー)に前記溶融繊維の短繊維(ステープルファイバー)を混綿してバット原料としたものを、補強繊維基材にニードルパンチングにより絡合一体化してフェルトを構成後、熱処理することで前記溶融繊維の一部を溶融し、バット層の内部で一般的短繊維と融着される繊維体である。ここで、一般的短繊維とは抄紙用フェルトのバット層の素材として通常使用される、ポリアミド6やポリアミド66、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等)、エンジニアリングポリアミド(ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド612等)、芳香族ポリアミド(アラミド)、ポリフッ化ビニリデン、ポリプロピレン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン、綿、ウール等を云う。
【0054】
溶融繊維の好ましい使用量は、抄紙用プレスフェルト重量に対して0.5〜30重量%であるが、フェルト重量に対して0.5重量%より少ないと、フェルト内部の一般的短繊維と溶融繊維の溶着形成が少ないため、フェルト中の空間体積を適切に確保できず、通水性と圧縮性を長期に亘って持続できなくなり、フェルトの耐久性が劣ることになる。また、溶融繊維の使用量が、フェルト重量に対して30重量%より多いと、フェルトの剛性が高くなり厚み変形抵抗を減らすことができなくなり、プレスロールなどで加圧されたときに加圧密度が上がり難く、また、加圧後の回復性が低くなってしまうことがある。
【0055】
溶融繊維を抄紙用プレスフェルト内に配置させる位置は、表バット繊維層2と裏バット繊維層4の少なくとも一方に溶融繊維が配置していれば良い。つまり、溶融繊維がバット層内で吸水性樹脂と共存しても良い。本発明では、フェルトの使用初期から初期馴染みに適切な空間量を確保でき、フェルトの馴染み期間を4日程度以内に短くすることができるフェルトを提供するために、バット繊維層内に溶融繊維の配合量と吸水性樹脂の付着量とを上手く組み合わせ調整することで、フェルトの厚み変形抵抗を減らし、プレスロールまたはシュープレスで加圧されたときに加圧密度が上がり易くなるとともに、加圧後の回復性が高く、しかも汚れ蓄積や過度な偏平が進まず、通水性や圧縮性を長期に持続できるフェルトができる。
【0056】
バット繊維を構成する短繊維(一般的短繊維と溶融繊維の短繊維)に吸水性樹脂を付着させる方法は、高分子弾性体の溶媒分散液をフェルト表面に塗布、スプレー散布、またはブレードコートなどの手段で塗布・含浸させ、ついで熱処理、乾燥させて付着させる。このとき、同時に前記バインダー繊維の一部が溶融し、バット繊維層の内部で一般的短繊維、溶融繊維、高分子弾性体がそれぞれ融着される。
【実施例】
【0057】
以下、実施例及び比較例により本発明を説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
実施例1〜9、比較例1〜3
本実施例及び比較例において使用した抄紙用フェルトの基本構成は次のとおりである。
補強繊維基材(ポリアミドモノフィラメントの撚糸、平織):坪量750g/m
バット繊維層:17dtexのポリアミド6ステープルファイバーと溶融繊維とを、表1に記載した配合量で配合した混綿繊維を使用した。
溶融繊維:芯材料として高分子量ポリアミド6(25℃での絶対粘度85mPa・s、融点220℃)と鞘材料として共重合ポリアミド6/12(融点140℃)を使用し、芯部と鞘部の容積比率が1:1である芯鞘型複合繊維
補強繊維基材の湿紙載置側(表バット繊維層):坪量500g/m
補強繊維基材のプレスロール側(裏バット繊維層):坪量250g/m
補強繊維基材に裏面側のバット繊維と表面側のバット繊維とを積層し、ニードリングにより絡合一体化してフェルトを形成した後、表1に示す吸水性樹脂組成物をフェルトの表面バット側から塗布し、105℃で60分間乾燥したのち、140℃で30分間キュア(加熱硬化)した。
【0058】
【表1】

【0059】
実施例1〜9、比較例1〜3で得られた抄紙用フェルトを、後記の走行テスト条件;1000m/分、ロール加圧100kN/m、100時間を行い、抄紙用フェルトの搾水性、弾性持続性、通水持続性を評価した。
【0060】
搾水試験;高速プレステスター
搾水試験条件:加圧100kN/m、抄速1000m/分
プレス前湿紙含水率;70%
プレス前湿紙含水率=(プレス前湿紙重量−乾燥紙重量)÷プレス前湿紙重量×100
プレス後湿紙含水率=(プレス後湿紙重量−乾燥紙重量)÷プレス後湿紙重量×100
プレス後湿紙含水率が低いほど搾水性の良い抄紙用フェルトであり、製紙業界においてはプレス後の湿紙含水率の差が1%であっても、プレス後の紙の乾燥工程における熱エネルギー量に多大な影響を及ぼすものである。
【0061】
圧縮試験;高速プレステスター
プレス前フェルト厚み;T
プレス下フェルト厚み;T(100kN/m)
プレス後フェルト厚み;T
圧縮率(%)=(T−T)÷T×100
厚み保持率(%)=(T÷T)×100
【0062】
濾水試験;濾水テスター
濾水値;加圧20MPa。120mmφのフェルトサンプルの片面側に金属板を配置し、金属板のない側から水圧3MPaで5リットルの水が通水するのに要する時間。
この時間が短いほど通水性が良好である。
濾水持続率(%)=走行テスト前濾水値÷走行テスト後濾水値×100
その結果を表2に示す。
【0063】
【表2】

【0064】
表2は、プレス後の湿紙含水率の値が小さい程搾水性に優れることを示し、プレス時圧縮率、プレス前後厚みの保持率の値は大きい程弾性持続性が優れることを示す。実施例1〜9の抄紙用フェルトにおいては、含有する吸水性樹脂の膨潤により搾水性、弾性持続性が向上していることが分かる。また、実施例1〜9の抄紙用フェルトは、濾水持続率が高い値を示しているが、これは吸水性樹脂により、新品時の過剰な空間を閉塞し、使用に伴い徐々に樹脂が脱落していくことにより、初期から使用末期に至るまで適正な通水性を発揮するためである。また、溶融繊維が吸水性樹脂とバット繊維と溶着しあうことにより、バット繊維が脱落しにくく、耐脱毛性に優れた抄紙用プレスフェルトを得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明は、抄紙機の安定生産が可能な最高速度到達までの、初期馴染み期間を含めた使用通期での湿紙の搾水性を向上することができ、かつ抄紙機への設置が従来通りの負荷で済む抄紙用プレスフェルトを得ることができ、製紙工業において、実用上有益なものである。
【符号の説明】
【0066】
1 … 基材
1a … 経糸(MD糸)
1b … 緯糸(CMD糸)
2 … 表バット繊維層
3 … 裏バット繊維層
4 … 吸水性樹脂層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
補強繊維基材と該補強繊維基材の湿紙載置側に配置される表バット繊維層とプレスロール側に配置される裏バット繊維層とを備えた抄紙用プレスフェルトにおいて、前記表バット繊維層及び裏バット繊維層の少なくとも一方には、抄紙用プレスフェルトの重量に対して、0.5〜30重量%の溶融繊維が含まれており、更に表バット繊維層には吸水倍率が1.05〜10倍である吸水性樹脂が、抄紙用プレスフェルトの重量に対して0.5〜20重量%で分散付着されていることを特徴とする、抄紙用プレスフェルト。
【請求項2】
前記溶融繊維が、絶対粘度が80mPa・s以上である高分子量ポリアミドからなる芯成分と、該芯成分よりも低融点のポリアミドからなる鞘成分、とから構成される芯鞘型複合繊維であることを特徴とする、請求項1に記載の抄紙用プレスフェルト。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−154015(P2012−154015A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−24367(P2011−24367)
【出願日】平成23年1月21日(2011.1.21)
【出願人】(000180597)イチカワ株式会社 (99)
【Fターム(参考)】