説明

疎水性に優れるナノ構造多孔質体

【目的】
ゾルーゲル法によってシリカ系の湿潤ゲルを合成する際に、シリカ末端のOH基に疎水化反応をさせるシラン系表面処理剤を添加する方法において、所望の疎水化された湿潤ゲルを得、最終的に疎水性に優れたナノ構造を有する多孔質体を提供することを目的とする。
【構成】
本発明は、テトラアルコキシシランにシラン系表面処理剤を添加し、アルカリ触媒下でのゾルーゲル法で湿潤ゲルを得、得られた湿潤ゲルを超臨界炭酸ガス乾燥法によって乾燥して得られるナノ構造多孔質体の製造方法であって、前記シラン系表面処理剤は、Si(OCH)4−n(n=2〜3、X=アルキル基)の化学式で表されるものであり、かつ、モル比率でテトラアルコキシシラン/シラン系表面処理剤=9/1〜2/8の範囲で添加されることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、疎水性に優れるナノ構造多孔質体に関するもので、発泡剤を使用しない断熱材として経年変化が小さく、耐熱性にも優れることから建築用断熱材を始め、車両用断熱材、電子機器用断熱材に使用できる。また、防寒衣料、防寒靴、防寒寝具などの日用品など幅広い分野で応用できるものである。
【背景技術】
【0002】
シリカ系ナノ構造を有する多孔質体の製造方法は、一般的にゾルーゲル法によって湿潤ゲルを合成し、その後、得られた湿潤ゲルを炭酸ガスの超臨界流体によって乾燥する方法が知られている。
【0003】
そして、ゾルーゲル法によって合成された湿潤ゲルは、その表面にOH基を持つため親水性であり、その状態で炭酸ガスの超臨界流体乾燥を行ってシリカ系ナノ構造を有する多孔質体を得ると、その得られた多孔質体は吸湿し易く、結果、断熱性能が低下する問題があった。
【0004】
そこで、特許文献1に記載されているように、湿潤ゲルの状態でシリカ末端のOH基に疎水化反応をさせることで吸湿し難いシリカ系ナノ構造を有する多孔質体を得る方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平05-279011号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1記載の方法は、ゾルーゲル法によってシリカ系の湿潤ゲルを合成した後、シリカ末端のOH基に疎水化反応をさせるので工程数が増え、効率的ではない。その上、該湿潤ゲル内部まで疎水化することは困難である。
【0007】
そこで、ゾルーゲル法によってシリカ系の湿潤ゲルを合成する際に、シリカ末端のOH基に疎水化反応をさせるシラン系表面処理剤を添加する方法を検討した。ところが、この方法を採用すると、シラン系表面処理剤の種類によっては所望の疎水化がされない問題があった。
【0008】
本発明は、ゾルーゲル法によってシリカ系の湿潤ゲルを合成する際に、シリカ末端のOH基に疎水化反応をさせるシラン系表面処理剤を添加する方法において、所望の疎水化された湿潤ゲルを得、最終的に疎水性に優れたナノ構造を有する多孔質体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、ゾルーゲル法によってシリカ系の湿潤ゲルを合成する際に、シリカ末端のOH基に疎水化反応をさせる特定のシラン系表面処理剤を特定量添加することで、疎水性に優れた湿潤ゲルを得、最終的に疎水性に優れたナノ構造を有する多孔質体を得られることを見出した。
【0010】
本発明の請求項1記載の疎水性に優れるナノ構造多孔質体の製造方法は、テトラアルコキシシランにシラン系表面処理剤を添加し、アルカリ触媒下でのゾルーゲル法で湿潤ゲルを得、得られた湿潤ゲルを超臨界炭酸ガス乾燥法によって乾燥して得られるナノ構造多孔質体の製造方法であって、前記シラン系表面処理剤は、Si(OCH)4−n(n=2〜3、X=アルキル基)の化学式で表されるものであり、かつ、モル比率でテトラアルコキシシラン/シラン系表面処理剤=9/1〜2/8の範囲で添加されることを特徴とする。また、請求項1記載の構成に加えて、ゾルーゲル法で湿潤ゲルを合成する際、超音波撹拌を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
所望の疎水化された湿潤ゲルを得、最終的に疎水性に優れたナノ構造を有する多孔質体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例1ないし2、比較例1で得られた多孔質体のIR分析による(IOH)と(ICH3)の吸収量を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、テトラアルコキシシランにシラン系表面処理剤を添加し、アルカリ触媒下でのゾルーゲル法で湿潤ゲルを得、得られた湿潤ゲルを超臨界炭酸ガス乾燥法によって乾燥して得られるナノ構造多孔質体の製造する方法であって、前記シラン系表面処理剤は、Si(OCH)4−n(n=2〜3、X=アルキル基)の化学式で表されるものであり、かつ、モル比率でテトラアルコキシシラン/シラン系表面処理剤=9/1〜2/8の範囲で添加されることを特徴とする。
【0014】
本発明は、ゾルーゲル法によってシリカ系の湿潤ゲルを合成する際に、特定のシラン系表面処理剤を特定量添加するものであり、シラン系表面処理剤としては、Si(OCH)4−n(n=2〜3、X=アルキル基)の化学式で表されるものであり、例えばメチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、デシルトリメトキシシランが挙げられ、更にこれらの縮合体である信越化学工業社製のKC−89S、同社製のKR−500、同社製のX−40−2308、エボニック社製のDynasylan9896、コルコート社製のSS−101が挙げられる。その中でも特に、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン及びそれらの縮合体がテトラアルコキシシランとの相溶性が良好なことから好適に使用される。
なお、メチルトリエトキシシランやジメチルジエトキシシランは、本発明のSi(OCH)4−n(n=2〜3、X=アルキル基)の化学式で表されるシラン系表面処理剤に比べて、反応性が低いため疎水化の効果が得られない。更に、1,1,1,3,3,3−ヘキサメチルジシラザンやトリメチルクロロシランは、テトラアルコキシシランや溶媒と副反応を起こすことから疎水化の効果が得られない。
【0015】
また、本発明シラン系表面処理剤は、モル比率でテトラアルコキシシラン/シラン系表面処理剤=9/1〜2/8の範囲で添加される。シラン系表面処理剤が所定量よりも少ないと、所望の疎水性が得られない。逆にシラン系表面処理剤が所定量よりも多いと、ゾル−ゲル法により湿潤ゲルを得る際、ゲル化されず、結果、ナノ構造を有する多孔質体が得られない。
【0016】
本発明で使用されるテトラアルコキシランは、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、更にこれらの縮合体であるメチルシリケート、エチルシリケートなどが挙げられ、特にテトラメトキシシランは、シラン系表面処理剤との相溶性が良好なことから好適に使用される。
【0017】
また、本発明のゾルーゲル法では、テトラアルコキシシランとシラン系表面処理剤の他にアルカリ触媒、水、溶媒が使用される。アルカリ触媒としてアンモニア、炭酸水素ナトリウムが挙げられるが、これらはアンモニア水や炭酸水素ナトリウム水溶液として使用される。溶媒としては、炭酸ガスの超臨界流体との相溶性がよいメタノール、エタノールなどのアルコール類が好適に使用される。
【0018】
本発明は、ゾルーゲル法で湿潤ゲルを合成する際に超音波撹拌を行うことがよい。具体的には、テトラメトキシシランとシラン系表面処理剤を原料とし、溶媒、アルカリ触媒、水を配合し、超音波攪拌機による撹拌を行って湿潤ゲルを得る方法である。この方法により得られた湿潤ゲルは、バルク状(ブロック状)ではなく、粒子状の湿潤ゲルであるため、その後の炭酸ガスによる超臨界流体で乾燥する際、バルク状の湿潤ゲルを乾燥するよりも早く、湿潤ゲル中に含まれる溶媒を取り除くことができる。更に、乾燥して得られた粒子状のナノ構造を有する多孔質体は、粉砕工程が不要であり、粉砕時の粉体飛散の問題がなく、しかも工程数を減らすことができるので効率的である。
【実施例】
【0019】
(実施例1)
テトラメトキシシラン(コルコート社製のTMOS:メチルシリケート)0.9モルに、シラン系表面処理剤のジメチルジメトキシシラン(信越化学工業社製のKBM−22)0.1モルを原料とし、アルカリ触媒のアンモニア0.01モル、水4.1、メタノール7.2モルを配合し、メカニカルスターラー(IKA社製)による撹拌を行い、湿潤ゲルを得た。
続いて、得られた湿潤ゲルをメタノールで洗浄後、圧力容器に入れて超臨界炭酸ガス乾燥(80℃、20Mpa)でメタノール残存量が100ppm以下になるまで8時間乾燥を行い、ナノ構造を有する多孔質体を得た。
【0020】
(実施例2)
テトラメトキシシラン(コルコート社製のTMOS:メチルシリケート)0.8モルに、シラン系表面処理剤のジメチルジメトキシシラン(信越化学工業社製のKBM−22)0.2モルを原料とした以外は、実施例1同様の方法にて、ナノ構造を有する多孔質体を得た。
【0021】
(実施例3)
テトラメトキシシラン(コルコート社製のTMOS:メチルシリケート)0.8モルに、シラン系表面処理剤のジメチルジメトキシシラン(信越化学工業社製のKBM−22)0.2モルを原料とし、アルカリ触媒として炭酸水素ナトリウム、水4.1、メタノール7.2モルを配合し、超音波攪拌機(日本精機製作所社製のUS−300T:出力150W、周波数20kHz、)による撹拌を45分間行い、粒子状湿潤ゲルを得た。
続いて、得られた湿潤ゲルをメタノールで洗浄後、圧力容器に入れて超臨界炭酸ガス乾燥(80℃、20Mpa)でメタノール残存量が100ppm以下になるまで2.5時間乾燥を行い、ナノ構造を有する多孔質体を得た。
なお、得られた多孔質体は、平均粒子径が10μmの微粉末である。
【0022】
(実施例4)
テトラメトキシシラン(コルコート社製のTMOS:メチルシリケート)0.2モルに、シラン系表面処理剤のジメチルジメトキシシラン(信越化学工業社製のKBM−22)0.8モルを原料とした以外は、実施例1同様の方法にて、ナノ構造を有する多孔質体を得た。
【0023】
(比較例1)
テトラメトキシシラン(コルコート社製のTMOS:メチルシリケート)1モルのみを原料とした以外は、実施例1同様の方法にて、ナノ構造を有する多孔質体を得た。
【0024】
(比較例2)
テトラメトキシシラン(コルコート社製のTMOS:メチルシリケート)0.95モルに、シラン系表面処理剤のジメチルジメトキシシラン(信越化学工業社製のKBM−22)0.05モルを原料とした以外は、実施例1同様の方法にて、ナノ構造を有する多孔質体を得た。
【0025】
(比較例3)
テトラメトキシシラン(コルコート社製のTMOS:メチルシリケート)0.9モルに、シラン系表面処理剤のジメチルジエトキシシラン(信越化学工業社製のKBE−22)0.1モルを原料とした以外は、実施例1同様の方法にて、ナノ構造を有する多孔質体を得た。
【0026】
(比較例4)
テトラメトキシシラン(コルコート社製のTMOS:メチルシリケート)0.9モルに、シラン系表面処理剤の1,1,1,3,3,3−ヘキサメチルジシラザン(信越化学工業社製のHMDS)0.1モルを原料とした以外は、実施例1同様の方法にて、ナノ構造を有する多孔質体を得た。
【0027】
(比較例5)
テトラメトキシシラン(コルコート社製のTMOS:メチルシリケート)0.1モルに、シラン系表面処理剤のジメチルジメトキシシラン(信越化学工業社製のKBM−22)0.9モルを原料とし、アルカリ触媒のアンモニア0.01モル、水4.1、メタノール7.2モルを配合し、メカニカルスターラー(IKA社製)による撹拌を行った。しかしながら、ゲル化されず、湿潤ゲルが得られなかった。すなわち、ナノ構造を有する多孔質体が得られなかった。
【0028】
実施例1ないし4、比較例1ないし4にて得られたナノ構造を有する多孔質体について、IR分析、浸水試験、熱伝導率、湿熱試験後の熱伝導率を以下の方法にて測定した。結果を表1に示す。なお、比較例5は、ナノ構造を有する多孔質体が得られなかったので測定不能であった。
【0029】
(IR分析)
得られた多孔質体の赤外吸収分析を行ってOH基を示す3465cm−1付近の吸収(IOH)と、CH基を示す2984cm−1付近の吸収(ICH3)の強度比IOH/ICH3を算出した。結果、その値が1.0未満であれば「疎水性」、1.0以上であれば「親水性」と判断した。
【0030】
参考迄に実施例1ないし2、比較例1で得られた多孔質体のIR分析による(IOH)と(ICH3)の吸収量を示すグラフを図1に示す。
【0031】
(浸水試験)
得られた多孔質体を、室温の水に撹拌しながら浸漬させ、30分間静置した後の状態を目視にて観察した。結果、多孔質体の粒子が水表面に浮遊している状態を水に「不溶」とし「疎水性」と判断した。また、多孔質体の粒子が水に分散している状態を水に「分散」とし「親水性」と判断した。
【0032】
(湿熱試験前の熱伝導率)
実施例1ないし2、及び4、比較例1ないし4で得られた多孔質体をジェットミル粉砕機で粉砕した後、120メッシュのふるいにかけて平均粒子径10μmの微粉末を得た。なお、実施例3で得られた多孔質体は、既に平均粒子径10μmの微粉末であるため、粉砕機による粉砕を省略した。
続いて、得られた多孔質体の微粉末を、ポリエチレン袋に充填して20mm厚とし、オートラムダ機(英弘精機社製、HC−074)にて熱伝導率を測定した。
【0033】
(湿熱試験後の熱伝導率)
上記方法にて得られた多孔質体の微粉末を、70℃、95%RH条件の恒温槽に1週間保管した後、その多孔質体をポリエチレン袋に充填して20mm厚とし、オートラムダ機(英弘精機社製、HC−074)にて熱伝導率を測定した。
【0034】
結果、実施例1ないし4で得られた多孔質体は疎水性であるため、湿熱条件下で湿気を吸収することが少なく、湿熱試験前の熱伝導率と湿熱試験後の熱伝導率を比べても変化が少ないものであった。また、比較例1ないし4で得られた多孔質体は親水性であるため、湿熱条件下で湿気を吸収することが大きく、湿熱試験前の熱伝導率と湿熱試験後の熱伝導率を比べると変化が大きいものであった。
【0035】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
テトラアルコキシシランにシラン系表面処理剤を添加し、アルカリ触媒下でのゾルーゲル法で湿潤ゲルを得、得られた湿潤ゲルを超臨界炭酸ガス乾燥法によって乾燥して得られるナノ構造多孔質体の製造方法であって、
前記シラン系表面処理剤は、Si(OCH)4−n(n=2〜3、X=アルキル基)の化学式で表されるものであり、かつ、モル比率でテトラアルコキシシラン/シラン系表面処理剤=9/1〜2/8の範囲で添加されることを特徴とする疎水性に優れるナノ構造多孔質体の製造方法。
【請求項2】
ゾルーゲル法で湿潤ゲルを合成する際、超音波撹拌を行うことを特徴とする請求項1記載の疎水性に優れるナノ構造多孔質体の製造方法。


【図1】
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【公開番号】特開2013−60309(P2013−60309A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−197776(P2011−197776)
【出願日】平成23年9月12日(2011.9.12)
【出願人】(000000077)アキレス株式会社 (402)
【Fターム(参考)】