説明

α−アミノ酸のウレタン保護N−無水カルボン酸の製造法

本発明はα−アミノ酸のウレタン保護N−無水カルボン酸を製造する方法に関する。本発明の方法によれば、第3級アミンタイプの塩基を添加することなく、触媒量のトリエチレンジアミン存在下でα−アミノ酸のウレタン保護N−無水カルボン酸を製造することが可能になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、α−アミノ酸のウレタン保護N−無水カルボン酸の新規な製造法に関するものである。この新規な方法により、無視できない量の第3級アミンタイプの塩基を添加することなく、触媒量のトリエチレンジアミンの存在下でα−アミノ酸のN−無水カルボン酸からα−アミノ酸のウレタン保護N−無水カルボン酸を製造することが可能である。
【背景技術】
【0002】
α−アミノ酸のN−無水カルボン酸(NCAと称す)は、必要に応じて保護される場合もあるが、高分子量のポリα−アミノ酸の生成やジペプチドの合成に頻繁に用いられるアシル化剤である。NCAは極めて反応性の高い化合物であり、特に転位反応によって望ましくない副生物を生ずることがなく、二酸化炭素が唯一の副生物である。NCAがアミノ酸の遊離アミン官能基と反応すると直ちに二酸化炭素が放出されてジペプチドが生成されるが、このジペプチド自体も遊離のアミン官能基を持つ。このアミンがNCAと反応すればトリペプチドが生成され、順次このように反応が進行する。従って、NCAはポリ(α−アミノ酸)の生成に利用可能であるが、NCAをポリペプチドの逐次合成使用することは容易ではなく、これは二次的なオリゴマー化などの多重的な縮合反応を制御することが難しいからである。
【0003】
ウレタン基で置換されたα−アミノ酸のN−無水カルボン酸は文献に記載されており、それらはペプチド合成に使用される。ウレタン置換基には高度の保護効果があり、カップリング反応中の重合を最小限に抑えることができる。ウレタン保護NCA(UNCAと称す)は、非置換NCAの欠点を伴うことなくその全ての長所を有している。
【0004】
UNCAは、カルボキシル基の事前活性化処理を全く必要とせず、またN−ヒドロキシベンゾトリアゾールのような添加物を加えることも全く必要とすることなくポリペプチドの制御された合成を可能にする。従って、ペプチド合成反応における副生物は二酸化炭素だけであるため、溶液中で合成されるペプチドの精製も容易になる。
【0005】
また、UNCAはホルモン類や抗AIDS薬の合成原料としても極めて有用である。
【0006】
UNCAは常温常圧下では結晶形態であり、実験室における通常の取り扱い条件及び保存条件下、及びペプチド合成条件下では安定である。
【0007】
NCAからUNCAを合成するには、以下に述べる二種類の主要ルートがある。
【0008】
第1のルートでは、クロロ蟻酸アルキル又はクロロ蟻酸アラルキル、例えばFmoc-Cl(クロロ蟻酸9−フルオレニルメチロキシカルボニル)又はクロロ蟻酸ベンジルを化学量論的な量以上の第3級アミンの存在下でNCAと反応させることによりUNCAが合成される。この第3級アミンは遊離する塩酸を捕捉するためのもので、従来よりN−メチルモルホリンが使用されている。この場合、NCAをテトラヒドロフラン(THF)等の不活性溶剤に溶解し、冷却する。次いで1.1〜1.3当量のクロロ蟻酸アルキル又はクロロ蟻酸アラルキルを一回の操作で添加し、その後、1.5当量の第3級アミン(例えばN−メチルモルホリン)を徐々に添加する。得られた懸濁液は1〜2時間に亘り−25〜−5℃の温度で放置する。次いで、ジオキサンに溶解した塩酸をpH値が約4〜5となるまで徐々に添加する。それによって生成した第3アミン塩酸を濾別除去し、UNCAを濃縮して結晶化させる。
【0009】
この方法の全ての工程は不活性雰囲気(N2)中で行われ、いずれの溶剤も4Åモレキュラーシーブによって乾燥してから使用する(非特許文献1参照)。
【非特許文献1】ウィリアム・ディー・フューラー他(William D. Fuller et al.)著「ウレタン保護α−アミノ酸N−無水カルボン酸とペプチドの合成(Urethane-protected-alpha-amino acid N-carboxyanhydrides and peptide synthesis)」、バイオポリマース(Biopolymers)誌、1996年、第40号、第183〜205頁
【0010】
この合成ルートは、特定の保護α−アミノ酸N−無水カルボン酸、就中、t−ブトキシカルボニル基によって保護されているものの製造には極めて不向きであり、その理由は、クロロ蟻酸t−ブチルが−20℃より高い温度、或いは第3アミンの存在下では、極めて不安定であるためである。
【0011】
第2のルートとして、UNCAはNCAとピロ炭酸ジアルキルの縮合によって合成することもできる。この反応では、1分子のアルコールと1分子の二酸化炭素が放出される。この合成は、必ず大量、即ち使用するNCAのモル数に対して少なくとも50%モル量の第3級アミン、例えば触媒量のDMAP(4−ジメチルアミノピリジン)又はピリジンと組み合わせたN−メチルモルホリンの存在下で行わねばならない(非特許文献1)。この合成ルートは、ジ−t−ブチルの二炭酸ジエステルを用いてt−ブトキシカルボニル基で保護されたα−アミノ酸N−無水カルボン酸を合成するのに特に好適である。
【0012】
特許文献1には、次式
【化1】

で表されるウレタン保護付きのα−アミノ酸N−無水カルボン酸ならびにα−アミノ酸N−無水チオカルボン酸が記載されている。
【特許文献1】国際公開第89/08643号パンフレット
【0013】
ここで、R及びR'は、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、置換アルキル又は置換アリール基で置換されたシクロアルキル基、アリール基、又は置換アリール基であって、RとR'の少なくとも一方は水素原子ではなく、またR"は、アルキル基、アリール基、置換アルキル基、又は置換アリール基であり、更にZは酸素原子又は硫黄原子であって、nは0、1、又は2である。
【0014】
これらの化合物は、トルエン等の不活性溶剤中、無水条件下で、過剰量の第3級アミンタイプの塩基の存在下に、NCAをハロ蟻酸エステルと反応させることによって調製される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
既存のUNCAの合成法は満足できるものではない。現に、前述の最善の方法、即ちNCAの使用量に対して50モル%量以上の第3級アミンタイプの塩基を使用する方法においては、溶剤を4Åモレキュラーシーブ上で乾燥し、−20〜−15℃で反応を行ったとしても、得られる収率は約60%にすぎないのである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
驚くべきことに、極めて僅かな触媒量、即ちNCAの使用モル量に対して5モル%量未満のトリエチレンジアミン(TEDA)を使用すると、第3級アミンタイプの塩基を一切添加することなく好結果が得られることが知見された。
【0017】
本発明の技術範囲においては、NCAはα−アミノ酸N−無水カルボン酸を表し、UNCAはウレタン保護α−アミノ酸N−無水カルボン酸を表す。
【0018】
本発明の理念においては、触媒量とは化学量論的に必要な量よりも著しく少ない量、具体的にはその50%未満の量を意味する。
【0019】
本発明は、以下の式I
【化2】

(但し、式中のR1及びR2は同一又は異なるものであって双方共に或いはそれぞれ別々に水素原子或いは必要に応じて保護された官能基を有する天然又は合成α−アミノ酸の側鎖であり、R3はC1〜C10の飽和又は不飽和の直鎖又は分岐鎖アルキル基或いは炭素数7〜14のアラルキル基又はアルキルアリール基である)で表されるα−アミノ酸のウレタン保護N−無水カルボン酸(UNCA)を製造する方法を提供するものであり、この方法は、
以下の式II
【化3】

(但し式中のR1及びR2は式Iのものと同一の意味をもつ。)で表されるα−アミノ酸のN−無水カルボン酸(NCA)を、この式IIのNCAの使用モル量に対して1当量以上の以下の式III
【化4】

(但し式中のR3は式Iのものと同一の意味をもつ。)で表される二炭酸ジエステルと、式IIのNCAの使用モル量に対して触媒量の1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(トリエチレンジアミン(TEDA)とも呼ばれる)の存在下、融点が約−20℃未満の溶剤中で反応させる反応工程を備えたことを特徴とするものである。
【0020】
天然又は合成α−アミノ酸は、主鎖の第1番目の炭素原子上に1個のアミノ官能基と1個のカルボキシル官能基を持つアミノ酸である。α−アミノ酸の残り部分は「α−アミノ酸の側鎖」と呼ばれる。
【0021】
R1及びR2は、必要に応じてアミノ酸及びペプチドの分野で現用されている保護基によって保護される(ボダンスキー(Bodansky)著「ペプチド合成の原理(principle of peptide synthesis)」、スプリンガー−フェアラーク(Springer-Verlag)、1984年;α−アミノ酸N−無水カルボン酸と関連複素環(Alpha amino-acid N-carboxyanhydrides and related heterocycles)、ハンス・アール・クリッヒャードルフ(Hans R. Kricherdorf))。
【0022】
R1及びR2は同一又は異なるものであって、水素原子、或いは必要に応じてアミノ酸及びペプチドの分野で慣用の置換基で置換されたC1〜C8の直鎖又は分岐鎖アルキル基であることが好ましい。これらの置換基は、特にOH、SH、NH2、NHC(NH)NH2、CONH2、O-(C1〜C6のアルキル)、O-(C6〜C10のアリール) 、S-(C1〜C6のアルキル)、COO-(C1〜C6のアルキル)、COO-(C5〜C8のアラルキル)、特にベンジルエステル基、からなる群から選択される。
【0023】
R1及びR2はC5〜C7のシクロアルキル基であることも好ましく、これらも必要に応じてアミノ酸及びペプチドの分野で慣用の一つ以上の置換基を有していてもよい。これら置換基は、特にハロゲン、OH、O-(C1〜C6のアルキル)、O-(C6〜C10のアリール)、C1〜C6のアルキルからなる群から選ばれる。
【0024】
R1又はR2は、必要に応じてアミノ酸及びペプチドの分野で慣用の置換基を一つ以上有するフェニル基、ナフチル基、5員環又は6員環の複素芳香族基、或いはインドール基であってもよい。これら置換基は、特にハロゲン、OH、O-(C1〜C6のアルキル)、O-(C6〜C10のアリール)、C1〜C6のアルキルからなる群から選ばれる。
【0025】
立体障害という明白な理由により、R1とR2は同時に環状基となることはできない。ここで環状基とは、前述のC5〜C7のシクロアルキル基、並びに前述フェニル基、ナフチル基、5員環又は6員環の複素芳香族基、或いはインドール基を意味する。
【0026】
また、R1とR2が結合して必要に応じてアミノ酸及びペプチドの分野で慣用の置換基で置換されたC5〜C7のシクロアルキル基を形成していてもよい。この場合の置換基は、特にハロゲン、OH、O-(C1〜C6のアルキル)、O-(C6〜C10のアリール)、C1〜C6アルキルからなる群から選ばれる。
【0027】
R1とR2がC5〜C7のシクロアルキル基を形成していない場合、R1とR2の少なくとも一方は、先に特定したように水素原子であることが好ましい。
【0028】
式IIの化合物では、官能基は適切な保護基で保護されていることが好ましい。
【0029】
本発明の好適な一実施形態によれば、R3はメチル基、エチル基、第三ブチル基、ベンジル基、アリル基、又は9−フルオレニルメチル基である。保護基として使用できるウレタンは多種多様であるが、実際にペプチド合成で広く使用されているのはこれらウレタンのうちのごく少数にすぎず、特に挙げればtert−ブチルオキシカルボニル(Boc)、ベンジルオキシカルボニル(Cbz)、及び9−フルオレニルメチルオキシカルボニル(Fmoc)などである。従って、これらの置換基で保護されたα−アミノ酸のN−無水カルボン酸は特に興味のあるものである。
【発明の効果】
【0030】
本発明の方法によれば、NCAの使用モル量に対して50〜200%という極めて大量の第3級アミンの使用を回避することが可能である。従来技術において用いられていた第3級アミン、即ちN−メチルモルホリン及びピリジンは実に問題が多く、それらを使用した場合は高度の希釈による操作が必要であって目的外の副生物も生成され、また余分な分離工程が必要であるほか、それら薬品の再使用も困難であり、しかもそれら薬品自体が極めて高価であるという難点があったのである。
【0031】
また本発明の方法によれば反応時間を著しく短縮することも可能である。反応時間は、本発明の方法を使用すれば24時間未満、特に有利には1〜4時間程度に短縮できるのに対し、従来法による場合は30時間〜5日間の範囲である。
【0032】
本発明の方法によれば、気相クロマトグラフィー(GPC)による測定純度が90%以上、有利には95%以上のUNCAを60重量%以上もの極めて満足すべき収率で得ることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
本発明の有利な一実施形態においては、溶剤は環状又は直鎖状のC4〜C10のエーテル類及びC1〜C5の塩素化アルカンから成る群から選ばれる。好適な溶剤はテトラヒドロフラン(THF)である。
【0034】
反応に用いる溶剤がTHFである場合、溶剤導入量は式IIのNCAの使用モル量当り500g〜2kgとするのが通常である。
【0035】
本発明の方法の好適な一実施形態によれば、TEDAの導入量は式IIのNCAの使用モル量に対して0.1〜5モル5の範囲である。更に有利には式IIのNCAの使用モル量に対してTEDAの導入量を0.2〜1モル%の範囲とする。
【0036】
式IIのNCAは、TEDAの存在下、特に式IIのNCAの使用モル量に対して0.2〜1モル%のTEDAの存在下で、式IIIの二炭酸ジエステル1.1〜1.5当量と反応させるとよい。
【0037】
式IIIの二炭酸ジエステルは溶液の形で反応媒質に導入することが好ましく、この場合、該二炭酸ジエステルを必要量の溶剤の一部、好ましくは該二炭酸ジエステルの全使用量に対して0.5〜2.0重量部の溶剤に溶解し、得られた溶液を、必要な溶剤の残部と転化対象の式IIのNCAとTEDAとを一様に含有する反応媒質中に導入するとよい。二炭酸ジエステルを導入する間の反応媒質の温度は、−20〜5℃、好ましくは−15〜5℃、更に好ましくは−10〜0℃に維持する。本発明の有利な一実施形態においては、係る反応は不活性雰囲気内で行われる。
【0038】
TEDAの触媒効果により反応媒質中に二炭酸ジエステルを徐々に導入する手法が可能になり、それによって導入を中断させて発熱を抑制したり、暴走反応のリスクを回避することができる。
【0039】
この手法を用いることにより、従来法よりもはるかに高濃度の反応媒質中で合成を実行することが可能であり、反応時間の短縮と相俟って著しい生産性の向上を果たすと共に重合のリスクを大幅に低減させることが可能である。
【0040】
式IIIの二炭酸ジエステルの添加が完了した後は、反応媒質を30分以上、−5〜10℃の温度範囲内にて継続的に撹拌することが好ましい。
【0041】
式IIIの二炭酸ジエステルの添加が完了したら、必要な時間だけ反応媒体を継続的に撹拌してから直ちに反応媒質を濾過し、次いで減圧下での蒸発により80%以上、好ましくはほぼ90%の溶剤を除去する。その後、留去された反応溶剤の量と同等量の非溶剤化合物を添加して式IのUNCAを沈殿させ、必要に応じて前記適切な保護基を外してから、濾過によって式IのUNCAを回収する。
【0042】
本発明の一実施形態では、溶剤は減圧下にて温度15〜30℃、好ましくは常温での蒸発により除去される。
【0043】
UNCAの非溶剤化合物としては、C5〜C10の直鎖又は分岐鎖アルカン、特にヘプタンBを用いることが好ましい。
【0044】
本発明の更に別の一実施形態では、沈殿で得たUNCA沈殿物は真空中にて30℃未満の温度で乾燥される。
【0045】
以下、本発明の実施例を示すが、これらは本発明による方法の単なる例示であり、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【実施例1】
【0046】
「Boc-Val-NCAの調製」
ここで、Valはα−アミノ酸であるバリンを表す。従ってVal-NCAは次式で表される化合物である。
【化5】

【0047】
自動低温保持装置、滴下漏斗、窒素送気システム、撹拌機及び温度計プローブを備えた二重ジャケット付きの1リットル反応容器に窒素を送り込んで内部を不活性ガスで置換し、−5±2℃に冷却してから下記組成の反応媒質を反応容器に装入した。
・THFを204g、
・Val−NCAを37.5g(0.26モル)、及び
・TEDAを0.15g(1.3ミリモル)
【0048】
この反応媒質を1/2時間に亘って撹拌した後、69g(0.316モル)の(Boc)2Oと50gのTHFから成る溶液を2時間かけて滴下漏斗から徐々に添加した。滴下中の温度は−5±2℃に管理した。僅かにガスの発生が見られた。
【0049】
(Boc)2Oの添加が完了してから1時間に亘って反応媒質の撹拌を続けた。
【0050】
反応媒質を0℃でTHFに不活性な濾材層により濾過し、反応容器並びに不活性濾材層を50mLのTHFでリンスした。
【0051】
濾液を再び窒素シールされたままの二重ジャケット付き反応容器に戻し、反応媒質温度18〜26℃、圧力140〜160mbarでTHF300mLを留去した。
【0052】
温度25℃にて300mL(215g)のヘプタンBを添加した。バリンUNCA生成物を沈殿させた。次いで25℃、900〜100mbarでTHF・ヘプタンBの混合溶媒300mLを留去し、反応媒質の容量を約100mLとした。次いで温度25℃にて200mLのヘプタンBを添加した。反応媒質を−10℃に冷却し、1時間に亘ってこの温度に保持した。濾過は、窒素雰囲気下、−10℃にて3号ガラスフィルター上で行った。フィルター上の生成物は真空オーブン内で25±5℃にて乾燥した。
【0053】
結果として旋光度59.9°(C=1、THF)の白色粉末51.6g(収率80.8%)が得られ、そのGPC測定による純度は100%であった。
【実施例2】
【0054】
「Boc-Ile-NCAの調製」
ここで、Ileはα−アミノ酸であるイソロイシンを表す。従ってIle-NCAは次式で表される化合物である。
【化6】

【0055】
実施例1と同様の手順を以下の組成の反応媒質で進めた。
・THFを200.9g、
・IIe-NCAを40.0g(0.255モル)、
・TEDAを0.14g(1.3ミリモル)、及び
・THF66g中に(Boc)2Oを66g(0.302モル)溶解した溶液
【0056】
濾過及び乾燥後、51.5g(収率78.5%)の期待通りの生成物が回収できた。その融点は107.6℃、旋光度は60.3°(C=1、THF)であった。また、GPC測定による純度は99.3%であった。
【実施例3】
【0057】
「Boc-D-Phe-NCAの調製」
ここで、Pheはα−アミノ酸であるフェニルアラニンを表す。従って、Phe-NCAは次式で表される化合物である。
【化7】

【0058】
温度を−17±1℃ に設定した以外は実施例1と同様の手順を以下の組成の反応媒質で進めた。
・THFを427g、
・D-Phe-NCAを25g(0.131モル)、
・TEDAを0.07g(0.65ミリモル)、及び
・THF21.5g中に(Boc)2Oを34.2g(0.157モル)溶解した溶液
【0059】
濾過及び乾燥後、24.1g(収率63%)の生成物が回収できた。この生成物は期待した通りの1HNMR構造と一致しており、GPC測定による純度は95.2%であった。
【実施例4】
【0060】
「N−エトキシカルボニル−バリン−N−無水カルボン酸(EtOC-Val-NCA)の調製」
自動低温保持装置、滴下漏斗、窒素送気システム、撹拌機及び温度計プローブを備えた 二重ジャケット付きの1リットル反応容器に窒素を送り込んで内部を不活性ガスで置換し、−5±2℃に冷却してから下記組成の反応媒質を反応容器に装入した。
・THFを204g、
・Val-NCAを20.0g(0.141モル)、及び
・TEDAを0.078g(0.7ミリモル)
【0061】
この反応媒質を30分間に亘って撹拌した後、27.1g(0.167モル)の二炭酸ジエチル[(EtOC)2O]を滴下漏斗から1時間かけて徐々に添加した。滴下中の温度は−5±2℃に維持した。僅かにガスの発生が見られた。
【0062】
(EtOC)2Oの滴下が完了したから1時間に亘って反応媒質の撹拌を続けた。
【0063】
温度18〜26℃及び圧力140〜160mbarでTHFを留去し、反応媒質を濃縮した。
【0064】
温度25℃にて220mLのヘプタンBを添加し、この反応媒質を大量の氷水中に注いで生成物を沈殿させた。沈澱生成物を窒素雰囲気下、3号ガラスフィルタ上で濾過した。濾別した生成物は、真空オーブン内で温度25±5℃にて乾燥した。
【0065】
この結果、白色粉末20.1g(収率67%)が得られ、その1HNMRスペクトル及び13CNMRスペクトルは期待した通りの構造と一致した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の式I
【化1】

(但し、式中のR1及びR2は同一又は異なるものであって双方共に或いはそれぞれ別々に水素原子或いは必要に応じて保護された官能基を有する天然又は合成α−アミノ酸の側鎖であり、R3はC1〜C10の飽和又は不飽和の直鎖又は分岐鎖アルキル基或いは炭素数7〜14のアラルキル基又はアルキルアリール基である)で表されるα−アミノ酸のウレタン保護N−無水カルボン酸(UNCA)を製造するに際し、
以下の式II
【化2】

(但し式中のR1及びR2は式Iのものと同一の意味をもつ。)で表されるα−アミノ酸のN−無水カルボン酸(NCA)を、この式IIのNCAの使用モル量に対して1当量以上の以下の式III
【化3】

(但し式中のR3は式Iのものと同一の意味をもつ。)で表される二炭酸ジエステルと、式IIのNCAの使用モル量に対して触媒量の1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(トリエチレンジアミン(TEDA)とも呼ばれる)の存在下、融点が約−20℃未満の溶剤中で反応させる反応工程を備えたことを特徴とするα−アミノ酸のウレタン保護N−無水カルボン酸の製造法。
【請求項2】
R1とR2が同一又は異なるものであって、しかも水素原子、或いは必要に応じて置換されたC1〜C8の直鎖又は分岐鎖アルキル基、必要に応じて置換されたC5〜C7のシクロアルキル基、フェニル基、ナフチル基、5員環又は6員環の複素環式芳香族基、又は必要に応じて置換されたインドール基であり、但し条件としてR1とR2は同時に環状基となるものではなく、或いはR1とR2が結合して必要に応じてアミノ酸及びペプチドの分野で慣用の置換基で置換されたC5〜C7のシクロアルキル基を形成していることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
慣用の置換基が、OH、SH、NH2、NHC(NH)NH2、CONH2、O-(C1〜C6のアルキル)、O-(C6〜C10のアリール) 、S-(C1〜C6のアルキル)、COO-(C1〜C6のアルキル)、COO-(C5〜C8のアラルキル)から成る群から選ばれたものであることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
R3が、メチル基、エチル基、第三ブチル基、ベンジル基、アリル基、又は9−フルオレニルメチル基であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
溶剤が、C4〜C10のエーテル類及びC1〜C5の塩素化アルカン類から成る群から選ばれたものであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
溶剤がテトラヒドロフラン(THF)であることを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
TEDAの量が、式IIのNCAの使用モル量に対して0.1〜5モル%の範囲にあることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
TEDAの量が、式IIのNCAの使用モル量に対して0.2〜1モル%の範囲にあることを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項9】
式IIのNCAを、式IIのNCAの使用モル量に対して1.1〜1.5当量の式IIIの二炭酸ジエステルと反応させることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
式IIIの二炭酸ジエステルを該二炭酸ジエステルの全使用量に対して0.5〜2.0重量部の溶剤に溶解し、得られた溶液を、必要量の溶剤の残部と転化すべき式IIのNCAとTEDAとを一様に含有する反応媒質中に導入することを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
二炭酸ジエステルを導入する間の反応媒質の温度を−20〜5℃、好ましくは−10〜0℃に維持することを特徴とする請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記反応工程に続いて、
i) 反応媒質を濾過する工程、
ii) 減圧下での蒸発により溶剤の80%以上、好ましくは約90%を除去する工程、
iii)蒸発で除去された反応溶剤の量と同等量の非溶剤化合物を添加して式IのUNCAを沈殿せしめる工程、及び
iv)必要に応じて前記保護基を外してから濾過によって式IのUNCAを回収する工程、
を更に備えたことを特徴とする請求項10又は11に記載の方法。
【請求項13】
溶剤を減圧下にて温度15〜30℃で蒸発させることにより除去することを特徴とする請求項12に記載の方法。
【請求項14】
非溶剤化合物がC5〜C10の直鎖又は分岐鎖アルカンであることを特徴とする請求項12又は13に記載の方法。
【請求項15】
沈殿工程で得た沈殿物を真空中で30℃未満の温度にて乾燥することを特徴とする請求項12〜14のいずれか1項に記載の方法。

【公表番号】特表2007−503419(P2007−503419A)
【公表日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−524387(P2006−524387)
【出願日】平成16年8月17日(2004.8.17)
【国際出願番号】PCT/FR2004/002148
【国際公開番号】WO2005/021517
【国際公開日】平成17年3月10日(2005.3.10)
【出願人】(599109353)
【Fターム(参考)】