説明

α−アリルオキシメチルアクリル酸系重合体及びその製造方法

【課題】特定の1,6−ジエン類をラジカル重合させて、主鎖に環構造を有する重合体を製造する方法において、分岐を抑制することで、異常な高分子量化やゲル化を防止することができる製造方法、及び、該製造方法を用いて得られる耐熱性の高い、主鎖に環構造を有する重合体を提供する。
【解決手段】本発明は、下記式(1)で表される単量体を含む単量体成分を重合させてα−アリルオキシメチルアクリル酸系重合体を製造する方法であって、上記製造方法は、単量体成分を連鎖移動剤の存在下でラジカル重合させる工程を含むα−アリルオキシメチルアクリル酸系重合体の製造方法である。
[化1]


(式中、Rは、水素原子、又は、置換基があってもよい、炭素数が1〜30の有機基である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、α−アリルオキシメチルアクリル酸系重合体の製造方法、及び、α−アリルオキシメチルアクリル酸系重合体に関する。より詳しくは、硬化性樹脂組成物、色材分散組成物等の種々の用途に好適に用いることができるα−アリルオキシメチルアクリル酸系重合体の製造方法、及び、α−アリルオキシメチルアクリル酸系重合体に関する。
【背景技術】
【0002】
主鎖に環構造を有する樹脂(重合体)は、耐久性、特に耐熱性に優れており、エンジニアリングプラスチックから光学材料やレジスト材料にいたる様々な分野で利用されている有用な材料である。
【0003】
このような樹脂を得る方法としては、環構造を有する単量体を、重縮合機構又は付加重合機構により連結し、単量体由来の環構造を主鎖にそのまま組み込む方法により得る方法がある。例えば、重縮合機構で製造される主鎖に環構造を有する樹脂としては、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリフェニレンスルフィド等が挙げられる。このような樹脂は、耐熱性が非常に高く、主にエンジニアリングプラスチックに用いられているが、高温、高圧の条件や、塩酸が発生する条件等の非常に厳しい条件で製造されるため、用途に応じた物性調整や多機能化が難しいといった課題もある。
【0004】
これに対し、付加重合機構では、分子量調整が容易であり、また温和な条件で様々なビニルモノマーと共重合可能であるため、用途に応じた物性調整や耐熱性以外の様々な機能の付与がし易い。そのため、光学材料やレジスト材料など、高度でかつ多様な機能を求められる用途向けの樹脂の合成方法として用いられている。このような付加重合機構により得られる主鎖に環構造を有する樹脂としては、シクロオレフィン類の配位重合により合成されるシクロオレフィンポリマーや、N置換マレイミド類のラジカル重合により合成されるマレイミド系ポリマー等が挙げられる。
【0005】
一方、主鎖に環構造を有する樹脂を合成する方法として、環構造を有さない単量体を付加重合と同時に環化させながら重合させる方法がある。そのような方法としては、例えば、1,6−ジエン類をラジカル重合機構により重合し、主鎖に5員環あるいは6員環構造を有する樹脂を得る方法がある(例えば、非特許文献1、非特許文献2及び非特許文献3参照。)。このような手法は、重合時に環構造が形成されることになるため、予め環構造を有する単量体を調整したうえで重合を行う、上述の重縮合や付加重合の手法とは異なった新たな合成方法を提供するものである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】ツダ タカシ(Takashi Tsuda)、ロン・J・マサイアス(Lon J.Mathias)、POLYMER、1994年、第35巻、pp3317−3328
【非特許文献2】ロバート・D・トンプソン(Rovert D.Thompson)、ウィリアム・L・ジャレット(William L.Jarrett)、ロン・J・マサイアス(Lon J.Mathias)、マクロモレキュールズ(Macromolecules)、1992年、第25巻、pp6455−6459
【非特許文献3】漆崎美智遠(Michio Urushisaki)他、マクロモレキュールズ(Macromolecules)、1999年、第32巻、pp322−327
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、環構造を有さない単量体を付加重合と同時に環化させながら重合させる方法においては、環化せずに重合した1,6−ジエン類単量体由来の構成単位(以下、「未閉環単位」ともいう。)が生じ、該未閉環単位に存在する二重結合が基点となり分岐、架橋し、異常な高分子量化(分子量分布が非常に広くなる)やゲル化が生じる場合があった。このような傾向は、特に、単量体の転化率を上げる条件、重合濃度を上げる条件等の工業的、経済的に有利な条件において強く、1,6−ジエン類単量体を原料とした主鎖に環構造を有する樹脂の工業化において大きな障害となっていた。
【0008】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、特定の1,6−ジエン類をラジカル重合させて、主鎖に環構造を有する重合体を製造する方法において、分岐を抑制することで、異常な高分子量化やゲル化を防止し、且つ耐熱性を向上することができる製造方法、及び、該製造方法を用いて得られる耐熱性の高い、主鎖に環構造を有する重合体を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、1,6−ジエン類単量体を環化重合して主鎖に環構造を有する重合体を製造する方法について種々検討したところ、通常は、分子量の調整に用いられる連鎖移動剤が、特定の1,6−ジエン類の環化重合においては、重合体の分岐を抑制することができるという特異的な効果を発揮することを見出した。すなわち、分岐の抑制により架橋することを抑制することができるため、連鎖移動剤がいわゆる架橋防止剤として作用することとなり、得られる重合体の分子量分布を狭いものとすることができたり、工業的、経済的に有利な条件下でもゲル化させずに重合体を得られることを見出した。連鎖移動剤が、連鎖移動作用によって重合時の分子量を調整するのみならず、分岐を抑制する作用や、これに伴う架橋、ゲル化を防ぐ作用があることは知られていない。現に、特定の1,6−ジエン類単量体と類似した構造を有し、同様に重合体に環構造を形成する単量体については、連鎖移動剤が架橋を抑制し、異常な高分子量化を防止するといった作用をもたないことを確認している(例えば、比較例6参照。)。
すなわち、上述した作用効果は特定の1,6−ジエン類単量体を重合させる場合に発現される現象であって、通常の分子量を調整するために用いられる連鎖移動剤の使用とは目的が異なり、本発明者において見出された新たな知見である。
また、分岐を抑制することにより、得られる重合体の耐熱性を向上させることができる。これらのことより、本発明の製造方法を用いることによって、工業的に有利な条件、例えば、転化率が高い条件や、高濃度の単量体成分を用いた重合においても重合体の分岐を防止して、主鎖に環構造を含む、より優れた耐熱性を有する重合体を製造することができることを見出し、本発明に到達したものである。
【0010】
すなわち本発明は、下記式(1)で表されるα−アリルオキシメチルアクリル酸系単量体を含む単量体成分を重合させてα−アリルオキシメチルアクリル酸系重合体を製造する方法であって、該製造方法は、単量体成分を連鎖移動剤の存在下でラジカル重合させる工程を含むα−アリルオキシメチルアクリル酸系重合体の製造方法である。
【0011】
【化1】

【0012】
(式中、Rは、水素原子、又は、炭素数が1〜30の有機基を表す。)
以下に本発明を詳述する。
【0013】
本発明は、上記式(1)で表されるα−アリルオキシメチルアクリル酸系単量体(以下では、「AMA単量体(A)」ともいう。)を含む単量体成分を重合させてα−アリルオキシメチルアクリル酸系重合体を製造する方法である。AMA単量体(A)は、環化重合することによって、下記式(2);
【0014】
【化2】

【0015】
(式中、Rは、水素原子、又は、炭素数が1〜30の有機基を表す。)で表される構成単位を有するα−アリルオキシメチルアクリル酸系重合体(以下では、「AMA重合体(B)」ともいう。)を製造することができる。上記AMA重合体(B)は、主鎖に環構造(テトラヒドロフラン環)を有することで耐熱性に優れ、更に、テトラヒドロフラン環(THF環)の両隣にメチレン基を有するものであることから柔軟性が高く、相溶性や溶剤溶解性に優れるものとなる。
なお、本明細書中で、α−アリルオキシメチルアクリル酸系重合体とは、上記式(1)で表されるα−アリルオキシメチルアクリル酸系単量体を含む単量体成分が重合した重合体のことであり、例えば、Rが水素原子である場合には、α−アリルオキシメチルアクリル酸が重合したα−アリルオキシメチルアクリル酸重合体であり、Rが炭素数1〜30の有機基である場合には、α−アリルオキシメチルアクリル酸エステルが重合したα−アリルオキシメチルアクリル酸エステル重合体のことである。もちろん、α−アリルオキシメチルアクリル酸とα−アリルオキシメチルアクリル酸エステルとの両方を用いて製造されるものであってもよい。
上記単量体成分に含まれる式(1)で表される単量体の含有量は、目的、用途や、AMA重合体(B)の分子量に応じて適宜設定すればよいが、全単量体成分中、好ましくは、1〜100mol%、より好ましくは2〜100mol%、更に好ましくは5〜100mol%である。このような範囲とすることにより、AMA重合体(B)は、式(2)で表される構成単位に由来する優れた特性を発揮することができる。また、上記構成単位は、重合体を構成する繰り返し単位であり、一つの重合体中には複数の構成単位が含まれることとなる。
上記AMA単量体(A)及びAMA重合体(B)の詳細については、後述する。
【0016】
上記製造方法は、単量体成分を連鎖移動剤の存在下でラジカル重合させる工程を含むものである。上記AMA単量体(A)を環化重合させる場合には、連鎖移動剤を用いることで、重合体の分岐を抑制することができる。すなわち、本発明の製造方法は、単量体成分を連鎖移動剤の存在下でラジカル重合させる工程を含み、AMA単量体(A)を含むことによって生じる重合体の分岐を、連鎖移動剤によって抑制してα−アリルオキシメチルアクリル酸系重合体を製造するものでもある。分岐が進行すると架橋し、分子量分布を表す多分散度(Mw/Mn)が大きくなる。架橋が更に進行すると溶媒に不溶性の溶媒膨潤体となる(ゲル化する)。分岐を抑制することにより、このような現象を抑制することができる。また、AMA重合体の分岐部分は耐熱性に劣る傾向にあるが、分岐を抑制することにより耐熱性も向上できる。
通常、連鎖移動剤は、分子量を調整するために用いられるものであるが、AMA単量体(A)を重合させる際には、重合体の分岐を抑制することができることから、得られる重合体の分子量分布を狭いものとしたり、工業的、経済的に有利な条件下でもゲル化させずに重合体を得たりすることができる。例えば、連鎖移動剤を用いずに、重合開始剤のみを用いて重合を行った場合、分子量分布が大きくなり、場合によってはゲル化する。また、単量体の転化率を低く抑えたり、重合濃度を低くしたりすることによって分岐を抑制することもできるが、このような条件は、工業的、経済的に好ましくない。また、AMA重合体の分岐部分は、耐熱性にやや劣るが、分岐を抑制することにより製造されるAMA重合体の耐熱性も向上する。
【0017】
上記連鎖移動剤が、1,6−ジエン類単量体の中でもAMA単量体(A)に対して特異的に架橋抑制効果(分岐を抑制する効果)を発揮する理由については明確ではないが、AMA単量体(A)が有する2つの二重結合のうち、1つがアリルエーテル基であることが要因ではないかと推測される。1,6−ジエン類単量体の環化重合において重合体の分岐が生じるのは、下記式(3);
【0018】
【化3】

【0019】
(式中、Rは、水素原子、又は、炭素数が1〜30の有機基を表す。)に示すように未閉環単位が生じ、該未閉環単位に存在する二重結合が基点となり分岐し、架橋するためと考えられる。したがって、分岐を防止するには、環化率を向上させ未閉環単位をできる限り少なくするか、未閉環単位の二重結合が重合するのを防止するかの少なくともどちらかが必要である。本発明のα−アリルオキシメチルアクリル酸系重合体の製造方法では、AMA単量体(A)のアリルエーテル構造と連鎖移動剤とが何らかの機構で相互作用し環化率を向上させている可能性もあるが、主に、未閉環単位の二重結合(アリルエーテル基)が重合することを連鎖移動剤により防止しているものと考えられる。
【0020】
上記連鎖移動剤を用いない重合において、上記重合工程中、未閉環単位の二重結合にラジカルが生じて単量体や他の未閉環単位の二重結合と反応する場合には、生長反応が継続して分岐し、分岐が進行して架橋することになる。また、ポリマーの生長末端ラジカルや他の未閉環単位の二重結合に生じたラジカルと反応する場合には、ラジカル再結合により、やはり分岐し、分岐が進行して架橋することになる。このような架橋が更に進行した場合、最終的に異常な高分子量化やゲル化が生じることになる。
本発明のように連鎖移動剤を用いる場合には、未閉環単位の二重結合からラジカルが失われ、代わりに連鎖移動剤由来のラジカルが生じると考えられる。この連鎖移動剤由来のラジカルに充分な重合開始能があれば重合が停止せず、また未閉環単位の二重結合よりも単量体に対して優先的に反応すれば架橋することなく重合が継続することになる。このような効果は、上記式(1)で表されるAMA単量体(A)を用いた場合に特有の効果である。例えば、2位と6位にエステル基を有する1,6−ジエン類を重合させる場合、環化重合して主に6員環(テトラヒドロピラン環)を生じるとともに、下記式(4);
【0021】
【化4】

【0022】
(式中、Rは、同一若しくは異なって、水素原子、又は、炭素数が1〜30の有機基を表す。)で表される未閉環単位を生じる反応が起きるが、該未閉環単位中の二重結合は、単量体や他の未閉環単位の二重結合と反応し易く、特に工業的、経済的に有利な条件(例えば、重合濃度が高い条件や転化率が高くなる条件)では、異常な高分子量化やゲル化が生じ易い。
本発明の製造方法では、上記式(3)で表される反応のように、AMA単量体(A)を用いて重合を行い、未閉環単位の二重結合がアリルエーテル基となる。そして、アリルエーテル基に生じたラジカルは、連鎖移動剤と優先的に反応して連鎖移動剤由来のラジカルを発生し、なおかつ連鎖移動剤由来のラジカルは充分な重合開始能があり、単量体と優先的に反応する機能を有しているのではないかと推測される。
【0023】
上記連鎖移動剤の使用量としては、連鎖移動剤の種類、単量体成分に含まれるAMA単量体(A)の含有量、目標とする分子量、重合濃度、併用する開始剤の量、重合温度等に応じて適宜選択すればよいが、上記単量体成分100質量%に対して、0.03質量%以上用いるのが好ましい。このような範囲で使用することにより、連鎖移動剤を用いることによって得られる本発明の効果は充分に発揮され、重合体の分岐を抑制することができる。連鎖移動剤の使用量としては、0.05質量%以上であることがより好ましい。更に好ましくは0.1質量%以上である。使用量の上限は特になく、連鎖移動剤の量が多ければ本発明の効果は発揮されることとなるが、必要以上に使用しても不経済であり、また臭気が問題となる場合があることから、上記単量体成分100質量%に対して20質量%以下とするのが好ましい。
【0024】
上記連鎖移動剤としては、ラジカル重合性のビニルモノマーの重合において、連鎖移動反応を生じさせるものであり、いわゆる、連鎖移動剤として工業的に使用されている化合物であればよい。入手性、架橋防止能、重合速度低下の度合いが小さいなどの点では、メルカプトカルボン酸類、メルカプトカルボン酸エステル類、アルキルメルカプタン類、メルカプトアルコール類、芳香族メルカプタン類、メルカプトイソシアヌレート類等のメルカプト基を有する化合物(「メルカプタン系化合物」、「メルカプタン系連鎖移動剤」ともいう。)が好ましい。すなわち、上記連鎖移動剤は、メルカプト基を有する化合物であることが好ましい。なお、メルカプト基は、HS−で表される基である。
【0025】
上記メルカプト基を有する化合物の具体例としては、メルカプト酢酸、3−メルカプトプロピオン酸等のメルカプトカルボン酸類;メルカプト酢酸メチル、3−メルカプトプロピオン酸メチル、3−メルカプトプロピオン酸2−エチルヘキシル、3−メルカプトプロピオン酸n−オクチル、3−メルカプトプロピオン酸メトキシブチル、3−メルカプトプロピオン酸ステアリル、トリメチロールプロパントリス(3−メルカプトプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオネート)、ジペンタエリスリトールヘキサキス(3−メルカプトプロピオネート)等のメルカプトカルボン酸エステル類;エチルメルカプタン、t−ブチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、1,2−ジメルカプトエタン等のアルキルメルカプタン類;2−メルカプトエタノール、4−メルカプト−1−ブタノール等のメルカプトアルコール類;ベンゼンチオール、m−トルエンチオール、p−トルエンチオール、2−ナフタレンチオール等の芳香族メルカプタン類;トリス〔(3−メルカプトプロピオニロキシ)−エチル〕イソシアヌレート等のメルカプトイソシアヌレート類等のメルカプタン系連鎖移動剤が挙げられる。
【0026】
上記連鎖移動剤としては、また、メルカプト基を有する化合物以外の連鎖移動剤も用いることができる。メルカプト基を有する化合物以外の連鎖移動剤としては、例えば、2−ヒドロキシエチルジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド等のジスルフィド類;ベンジルジエチルジチオカルバメート等のジチオカルバメート類;α−メチルスチレンダイマー等の単量体ダイマー類;四臭化炭素等のハロゲン化アルキル類などが挙げられる。
なお、上記連鎖移動剤としては、1種を用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0027】
以下に、本発明の重合に用いられるAMA単量体(A)について詳述する。
上記AMA単量体(A)は、上記式(1)で表されるα−アリルオキシメチルアクリル酸系単量体である。AMA単量体(A)は、重合して上記式(2)で表される構成単位を高い割合で生成することから、他の1,6−ジエン類単量体と比較して、重合体の分岐を生じにくく、これに伴い、異常な高分子量化やゲル化を起こし難いものである。
【0028】
上記AMA単量体(A)の構造を示す式(1)中のRは、水素原子、又は、炭素数が1〜30の有機基である。本発明の製造方法において、連鎖移動剤を用いることにより発現する重合体の分岐を抑制する効果は、AMA単量体(A)のアリルエーテル基に起因しているものと考えられるため、Rが変化したとしても本発明の効果は充分に発揮される。また、得られるα−アリルオキシメチルアクリル酸系重合体の各性能の発現は、上記式(2)で示される構成単位において、主鎖中のテトラヒドロフラン環、及び、テトラヒドロフラン環の両隣にあるメチレン基に起因するものであるため、Rは、目的や用途に合わせて適宜選択すればよい。
【0029】
上記炭素数が1〜30の有機基の具体例としては、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、i−プロピル、n−ブチル、s−ブチル、t−ブチル、n−アミル、s−アミル、t−アミル、n−ヘキシル、s−ヘキシル、n−ヘプチル、n−オクチル、s−オクチル、t−オクチル、2−エチルヘキシル、カプリル、ノニル、デシル、ウンデシル、ラウリル、トリデシル、ミリスチル、ペンタデシル、セチル、ヘプタデシル、ステアリル、ノナデシル、エイコシル、セリル、メリシルなどの鎖状飽和炭化水素基;
【0030】
メトキシエチル、メトキシエトキシエチル、メトキシエトキシエトキシエチル、3−メトキシブチル、エトキシエチル、エトキシエトキシエチル、フェノキシエチル、フェノキシエトキシエチルなどの鎖状飽和炭化水素基の水素原子の一部をアルコキシ基で置き換えたアルコキシ置換鎖状飽和炭化水素基;
【0031】
ヒドロキシエチル、ヒドロキシプロピル、ヒドロキシブチルなどの鎖状飽和炭化水素基の水素原子の一部をヒドロキシ基で置き換えたヒドロキシ置換鎖状飽和炭化水素基;フルオロエチル、ジフロオロエチル、クロロエチル、ジクロロエチル、ブロモエチル、ジブロモエチルなどの鎖状飽和炭化水素基の水素原子の一部をハロゲンで置き換えたハロゲン置換鎖状飽和炭化水素基;
【0032】
ビニル、アリル、メタリル、クロチル、プロパギルなどの鎖状不飽和炭化水素基、及びその水素原子の一部をアルコキシ基、ヒドロキシ基やハロゲンで置き換えた鎖状不飽和炭化水素基;シクロペンチル、シクロヘキシル、4−メチルシクロヘキシル、4−t−ブチルシクロヘキシル、トリシクロデカニル、イソボルニル、アダマンチル、ジシクロペンタジエニルなどの脂環式炭化水素基、及びその水素原子の一部をアルコキシ基、ヒドロキシ基やハロゲンで置き換えた脂環式炭化水素基;
【0033】
フェニル、メチルフェニル、ジメチルフェニル、トリメチルフェニル、4−t−ブチルフェニル、ベンジル、ジフェニルメチル、ジフェニルエチル、トリフェニルメチル、シンナミル、ナフチル、アントラニルなどの芳香族炭化水素基、及びその水素原子の一部をアルコキシ基、ヒドロキシ基やハロゲンで置き換えた芳香族炭化水素基;などが挙げられ、このような有機基(有機残基)であれば好適に用いることができる。また、これらの有機基に更に置換基が結合していてもよい。上記単量体成分中に含まれるAMA単量体(A)のRは、同一でもよいし、異なる2種以上であってもよい。すなわち、Rの異なる複数種のAMA単量体(A)に由来する構成単位がAMA重合体(B)中に含まれていてもよい。
【0034】
上記AMA単量体(A)を化合物名で例示すると、α−アリルオキシメチルアクリル酸、α−アリルオキシメチルアクリル酸メチル、α−アリルオキシメチルアクリル酸エチル、α−アリルオキシメチルアクリル酸n−プロピル、α−アリルオキシメチルアクリル酸i−プロピル、α−アリルオキシメチルアクリル酸n−ブチル、α−アリルオキシメチルアクリル酸s−ブチル、α−アリルオキシメチルアクリル酸t−ブチル、α−アリルオキシメチルアクリル酸n−アミル、α−アリルオキシメチルアクリル酸s−アミル、α−アリルオキシメチルアクリル酸t−アミル、α−アリルオキシメチルアクリル酸n−ヘキシル、α−アリルオキシメチルアクリル酸s−ヘキシル、α−アリルオキシメチルアクリル酸n−ヘプチル、α−アリルオキシメチルアクリル酸n−オクチル、α−アリルオキシメチルアクリル酸s−オクチル、α−アリルオキシメチルアクリル酸t−オクチル、α−アリルオキシメチルアクリル酸2−エチルヘキシル、α−アリルオキシメチルアクリル酸カプリル、α−アリルオキシメチルアクリル酸ノニル、α−アリルオキシメチルアクリル酸デシル、α−アリルオキシメチルアクリル酸ウンデシル、α−アリルオキシメチルアクリル酸ラウリル、α−アリルオキシメチルアクリル酸トリデシル、α−アリルオキシメチルアクリル酸ミリスチル、α−アリルオキシメチルアクリル酸ペンタデシル、α−アリルオキシメチルアクリル酸セチル、α−アリルオキシメチルアクリル酸ヘプタデシル、α−アリルオキシメチルアクリル酸ステアリル、α−アリルオキシメチルアクリル酸ノナデシル、α−アリルオキシメチルアクリル酸エイコシル、α−アリルオキシメチルアクリル酸セリル、α−アリルオキシメチルアクリル酸メリシル、α−アリルオキシメチルアクリル酸メトキシエチル、α−アリルオキシメチルアクリル酸メトキシエトキシエチル、α−アリルオキシメチルアクリル酸メトキシエトキシエトキシエチル、α−アリルオキシメチルアクリル酸3−メトキシブチル、α−アリルオキシメチルアクリル酸エトキシエチル、α−アリルオキシメチルアクリル酸エトキシエトキシエチル、α−アリルオキシメチルアクリル酸フェノキシエチル、α−アリルオキシメチルアクリル酸フェノキシエトキシエチル、α−アリルオキシメチルアクリル酸ヒドロキシエチル、α−アリルオキシメチルアクリル酸ヒドロキシプロピル、α−アリルオキシメチルアクリル酸ヒドロキシブチル、α−アリルオキシメチルアクリル酸フルオロエチル、α−アリルオキシメチルアクリル酸ジフロオロエチル、α−アリルオキシメチルアクリル酸クロロエチル、α−アリルオキシメチルアクリル酸ジクロロエチル、α−アリルオキシメチルアクリル酸ブロモエチル、α−アリルオキシメチルアクリル酸ジブロモエチル、α−アリルオキシメチルアクリル酸ビニル、α−アリルオキシメチルアクリル酸アリル、α−アリルオキシメチルアクリル酸メタリル、α−アリルオキシメチルアクリル酸クロチル、α−アリルオキシメチルアクリル酸プロパギル、α−アリルオキシメチルアクリル酸シクロペンチル、α−アリルオキシメチルアクリル酸シクロヘキシル、α−アリルオキシメチルアクリル酸4−メチルシクロヘキシル、α−アリルオキシメチルアクリル酸4−t−ブチルシクロヘキシル、α−アリルオキシメチルアクリル酸トリシクロデカニル、α−アリルオキシメチルアクリル酸イソボルニル、α−アリルオキシメチルアクリル酸アダマンチル、α−アリルオキシメチルアクリル酸ジシクロペンタジエニル、α−アリルオキシメチルアクリル酸フェニル、α−アリルオキシメチルアクリル酸メチルフェニル、α−アリルオキシメチルアクリル酸ジメチルフェニル、α−アリルオキシメチルアクリル酸トリメチルフェニル、α−アリルオキシメチルアクリル酸4−t−ブチルフェニル、α−アリルオキシメチルアクリル酸ベンジル、α−アリルオキシメチルアクリル酸ジフェニルメチル、α−アリルオキシメチルアクリル酸ジフェニルエチル、α−アリルオキシメチルアクリル酸トリフェニルメチル、α−アリルオキシメチルアクリル酸シンナミル、α−アリルオキシメチルアクリル酸ナフチル、α−アリルオキシメチルアクリル酸アントラニルなどが挙げられる。
【0035】
次に、本発明の製造に用いるAMA単量体(A)をラジカル重合することにより得られるAMA重合体(B)について詳細に説明する。
上記AMA重合体(B)は、上記式(2)で表される構成単位を主鎖中に含み、主鎖中に環構造を有する構造であるため耐熱性が高いものである。一般的に主鎖に環構造を有する樹脂は、耐熱性が高い反面、柔軟性に欠ける場合がほとんどであるが、上記式(2)で表されるTHF環を含む繰り返し単位は、テトラヒドロフラン環の両隣にメチレン基を有するため柔軟性にも優れるものとなる。上記AMA重合体(B)において、式(2)中のRは、構成単位毎に異なっていてもよいし、同一でもよい。
【0036】
更に、テトラヒドロフラン環を含む官能基であるテトラヒドロフルフリル基は、下記式(5);
【0037】
【化5】

【0038】
で示される機構で酸素を捕捉することが知られている。本発明のα−アリルオキシメチルアクリル酸系重合体でも、下記式(6);
【0039】
【化6】

【0040】
(Rは、水素原子、又は、炭素数が1〜30の有機基を表す。)に示す反応のように、酸素捕捉性能を発揮すると推測され、例えば、ラジカル硬化性樹脂組成物等に、上記製造方法で得られたAMA重合体(B)を用いる場合、熱や活性エネルギー線を用いたラジカル硬化における酸素によるラジカル硬化阻害を低減する効果が発現すると考えられる。この観点から、本発明の製造方法で得られるAMA重合体(B)は、ラジカル硬化性樹脂組成物に好適に用いることができ、表面硬化性、薄膜硬化性を向上させることができる。また、酸素捕捉性を有することから、酸素吸収性フィルムや、有機エレクトロルミネセンス素子の保護材等としても好適に用いられる。
【0041】
上記テトラヒドロフラン環は、いわゆるLewis塩基(孤立電子対の供与体)としての作用がある。そのため、例えば、AMA重合体(B)を用いた樹脂組成物と、他の部材とを貼り付けるような場合、テトラヒドロフラン環と他の部材表面の官能基とが相互作用しやすくなり、良好な密着性を発現する。このような観点から、基材等に密着させて使用する、種々の樹脂組成物に好適に用いることができる。
【0042】
上記AMA重合体(B)は、テトラヒドロフラン環が窒素(N)を含んでいないものであるため、優れた透明性を有するものとなる。これにより、レンズ、カラーフィルター等の光学材料として好適に用いることができる。
【0043】
上記AMA重合体(B)は、優れた色材分散安定性を有する。これは、Lewis塩基であるテトラヒドロフラン環と、色材(顔料、染料)表面や色材分散剤の官能基とが相互作用するためと考えられる。そのため、本発明の製造方法により得られるAMA重合体(B)は、塗料、着色インク、着色レジスト等のようにその他の成分として色材(顔料、染料)を添加する用途に好適に用いられる。このような観点から、本発明の製造方法で得られるAMA重合体(B)は、色材分散組成物に好適に用いることができる。
色材分散組成物においては、上記AMA重合体(B)が高分子量である場合、式(2)で表される構成単位の含有割合は少なくても性能発現する(色材分散性に優れる)傾向があり、低分子量である場合には含有量を多くした方が性能発現し易い傾向がある。これは、主鎖1本あたりに含まれる式(2)で表される構成単位の個数(以下、「平均官能基数」と表す。)に関係しているためと考えられる。この観点から、平均官能基数は、0.5以上であることが好ましい。より好ましくは1.0以上、更に好ましくは2.0以上である。なお、平均官能基数は、次式のように表されるものである。
【0044】
平均官能基数=A/P
A:単位質量に含まれる式(2)で表される構成単位のモル数[mol/g]
P:単位質量に含まれるAMA重合体(B)のモル数[mol/g]
Aは、式(2)で表される構成単位の種類が2種類以上ある場合も含めると、次式のように算出できる。
A=ΣA(X=1,2,3,・・・)
=単位質量×(C/100)/F
:単位質量に含まれる、X(X=1,2,3,・・・)種類目の式(2)で表される構成単位のモル数[mol/g]
:単位質量に含まれる、X(X=1,2,3,・・・)種類目の式(2)で表される構成単位の質量割合[質量%]
:X(X=1,2,3,・・・)種類目の式(2)で表される構成単位の分子量[g/mol]
Pは、AMA重合体(B)の数平均分子量(Mn)を用いて次式のように近似できる。
P=単位質量/Mn
Mn:AMA重合体(B)の数平均分子量
したがって、平均官能基数は、C、F、Mnを用いて次式のように表される。
平均官能基数=Mn×Σ{(C/100)×(1/F)}
(X=1,2,3,・・・)
なお、1,6−ジエン類の中でも、式(1)で表されるAMA単量体(A)は、環化率(式(1)で表される単量体から式(2)で表される構成単位が形成される割合)が高いため、C及びFは、次のように近似できる。
:反応した全単量体に対する、反応したX(X=1,2,3,・・・)種類目の式(1)で表されるAMA単量体(A)の質量割合[質量%]
:X(X=1,2,3,・・・)種類目の式(1)で表されるAMA単量体の分子量[g/mol]
更に、重合に用いる各単量体の反応率(転化率)がいずれも高い(例えば、反応率が90mol%以上)場合、Cは、次のように近似できる。
:単量体成分中の、X(X=1,2,3,・・・)種類目の式(1)で表されるAMA単量体(A)の質量割合[質量%]
なお、上記Mnは、後述する重量平均分子量の測定方法により測定することができる。
【0045】
上記のように、AMA重合体(B)の分子量に応じて、色材分散組成物における式(2)で表される構成単位の含有割合の好ましい範囲は、異なってくることになる。上述したように、単量体成分に含まれるAMA単量体(A)の含有量としては、全単量体成分中、好ましくは、1〜100mol%、より好ましくは2〜100mol%、更に好ましくは5〜100mol%であり、このような割合とすることにより、上記平均官能基数を好ましい範囲とすることができ、AMA重合体(B)の優れた色材分散安定性が現れることとなる。AMA単量体(A)の含有量が5〜100mol%であれば、AMA重合体(B)の優れた色材分散安定性が特に顕著に現れることとなる。
上記AMA重合体(B)は、優れた相溶性、乾燥再溶解性を有する。この相溶性、乾燥再溶解性は、THF環構造、及び、THF環構造の両隣のメチレン基によるものと考えられる。これは、テトラヒドロフランが極めて広範の物質を溶解させる能力がある物質として、工業用のみならず分析用や研究用にもよく用いられる溶媒であることからも推測される。
【0046】
このように、AMA重合体(B)は、種々の優れた特性を有するものであることから、様々な用途に好適に用いることができる。上記テトラヒドロフラン環に由来する性能は、例えば、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフルフリル共重合体のようなテトラヒドロフルフリル基を側鎖に有する(メタ)アクリル系共重合体でも発現可能ではあるが、本発明の製造方法により得られるα−アリルオキシメチルアクリル酸系重合体のように、高い耐熱性や耐久性を発現させることは困難である。例えば、AMA重合体(B)を硬化性樹脂組成物に用いる場合、電子部品用の封止材やオーバーコート等に好適に用いることができるが、酸素捕捉性と高い耐熱性を両立させることができるため、素子等を酸化や熱による劣化から守ることができる。
【0047】
上記AMA重合体(B)は、連鎖移動剤の存在下で重合されるため、得られる重合体の末端には連鎖移動剤の残基(連鎖移動剤の一部を形成する基)が結合する。連鎖移動剤の残基は、重合により得られるα−アリルオキシメチルアクリル酸系重合体の全てに結合しているわけではないが、末端に連鎖移動剤の残基が結合した重合体が少なくとも一つは製造される。なお、連鎖移動剤が用いられたことについては、元素分析や分光学的手法(NMR、IR、UV等)により、連鎖移動剤の残基に特有の元素や官能基を検出することで判断することができる。例えば、連鎖移動剤としてメルカプト基を有する化合物やジスルフィド類を用いた場合、連鎖移動剤の残基に硫黄原子(S)が含まれることになるが、ビニルモノマーのラジカル重合においてビニルモノマーに硫黄原子が含まれることは考えにくいため、元素分析で硫黄原子が含まれていることがわかれば連鎖移動剤を用いて製造したものであるといえる。また、臭素(Br)やヨウ素(I)等のハロゲン元素を含んだ連鎖移動剤を用いた場合は、該ハロゲン元素を含まないビニルモノマーを使用していなければ、該ハロゲン元素を検出することにより、連鎖移動剤の使用を確認できる。連鎖移動剤の使用量を多くした場合には、NMR等の分光学的手法でも確認することができる。
【0048】
上記AMA重合体(B)は、AMA単量体(A)と他のラジカル重合性単量体とが重合したα−アリルオキシメチルアクリル酸系共重合体(以下では、「AMA共重合体(C)」ともいう。)であることも好ましい形態の一つである。これによれば、AMA単量体(A)によって得られる優れた特性に加えて、他の重合性単量体に起因する特性を付与することができるため、使用される用途等に応じて、得られるα−アリルオキシメチルアクリル酸系重合体の特性を調整することができる。すなわち、上記製造方法は、上記式(1)で表される単量体(AMA単量体(A))と、他のラジカル重合性単量体とを含む単量体成分を連鎖移動剤の存在下で重合させる工程を含むことも好ましい形態の一つである。
【0049】
上記他のラジカル重合性単量体の種類、及び、他のラジカル重合性単量体に由来する構成単位の構造は特に限定されるものではない。また、上記AMA共重合体(C)の形態としても特に限定されるものではなく、例えば、ランダム共重合体、交互共重合体、周期的共重合体、ブロック共重合体等のいずれの形態であってもよい。なお、他のラジカル重合性単量体とは、上記AMA単量体(A)と共重合可能な、該AMA単量体(A)以外のラジカル重合性単量体である。他のラジカル重合性単量体は、1種を用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0050】
上記他のラジカル重合性単量体は、熱又は活性エネルギー線の照射等により重合するラジカル重合性不飽和基を有する単量体であり、他のラジカル重合性単量体の種類、使用量、分子量等は、目的、用途に応じて適宜選択すればよい。
【0051】
上記他のラジカル重合性単量体としては、単官能性のラジカル重合性単量体が挙げられる。例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸i−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸s−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸n−アミル、(メタ)アクリル酸s−アミル、(メタ)アクリル酸t−アミル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸イソデシル、(メタ)アクリル酸トリデシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシルメチル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸アダマンチル、(メタ)アクリル酸トリシクロデカニル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸4−ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸2−メトキシエチル、(メタ)アクリル酸2−エトキシエチル、(メタ)アクリル酸フェノキシエチル、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフルフリル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸β−メチルグリシジル、(メタ)アクリル酸β−エチルグリシジル、(メタ)アクリル酸(3,4−エポキシシクロヘキシル)メチル、(メタ)アクリル酸N,N−ジメチルアミノエチル、α−ヒドロキシメチルアクリル酸メチル、α−ヒドロキシメチルアクリル酸エチル等の(メタ)アクリル酸エステル類;
【0052】
N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド類;(メタ)アクリル酸、クロトン酸、けい皮酸、ビニル安息香酸等の不飽和モノカルボン酸類;マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、メサコン酸等の不飽和多価カルボン酸類;コハク酸モノ(2−アクリロイルオキシエチル)、コハク酸モノ(2−メタクリロイルオキシエチル)等の不飽和基とカルボキシル基の間が鎖延長されている不飽和モノカルボン酸類;無水マレイン酸、無水イタコン酸等の不飽和酸無水物類;スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、メトキシスチレン等の芳香族ビニル類;メチルマレイミド、エチルマレイミド、イソプロピルマレイミド、シクロヘキシルマレイミド、フェニルマレイミド、ベンジルマレイミド、ナフチルマレイミド等のN置換マレイミド類;ポリスチレン、ポリメチル(メタ)アクリレート、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリシロキサン、ポリカプロラクトン、ポリカプロラクタム等の重合体分子鎖の片末端に(メタ)アクリロイル基を有するマクロモノマー類;1,3−ブタジエン、イソプレン、クロロプレン等の共役ジエン類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、安息香酸ビニル等のビニルエステル類;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、プロピルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、2−エチルヘキシルビニルエーテル、n−ノニルビニルエーテル、ラウリルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル、メトキシエチルビニルエーテル、エトキシエチルビニルエーテル、メトキシエトキシエチルビニルエーテル、メトキシポリエチレングリコールビニルエーテル、2−ヒドロキシエチルビニルエーテル、4−ヒドロキシブチルビニルエーテル等のビニルエーテル類;N−ビニルピロリドン、N−ビニルカプロラクタム、N−ビニルイミダゾール、N−ビニルモルフォリン、N−ビニルアセトアミド等のN−ビニル化合物類;(メタ)アクリル酸イソシアナトエチル、アリルイソシアネート等の不飽和イソシアネート類等が挙げられる。
【0053】
以下に、本発明のAMA重合体(B)を製造するための好ましい方法について説明する。
上記連鎖移動剤の添加方法としては、重合反応が進行している(AMA単量体(A)と、重合開始可能なラジカルとが存在している状態)期間の少なくとも一部の期間において、上記連鎖移動剤が存在するような添加方法であれば特に制限されない。例えば、重合開始前に一括で添加する、重合中に一括で添加する、重合開始と同時に添加を開始し重合が終了するまで添加を続ける、等の方法が挙げられる。連鎖移動剤の使用量を低減でき、かつその効果を最大限に発揮する点からは、重合開始と同時に添加を開始し重合が終了するまで添加を続ける方法が好ましい。
【0054】
上記重合工程は、単量体成分の濃度(重合濃度)を15質量%以上として重合することにより、重合転化率を高くしたり、重合時間を短縮したりすることができるため、工業的、経済的に好ましい。また、一般に、1,6−ジエン類単量体を環化重合させる場合、重合濃度を高くすると、重合体の分岐が生じやすくなる傾向があるが、本発明では、連鎖移動剤を用いて特定の1,6−ジエン類(AMA単量体(A))を環化重合するため、重合濃度を高くしても重合体の分岐を抑制することができる。上記重合工程における重合濃度としては、20質量%以上であることがより好ましく、更に好ましくは、25質量%以上であり、特に好ましくは、30質量%以上である。なお、上記重合濃度は、重合工程に用いられる単量体成分及び連鎖移動剤、並びに必要に応じて添加されるその他の成分(重合開始剤、溶媒等)を合計したものを100質量%としたときの単量体成分の濃度であるが、通常、重合工程に用いる連鎖移動剤、重合開始剤の量は少量である。そのため、溶媒を用いる重合を行う場合には、便宜上、重合工程に用いられる単量体成分と溶媒を合計したものを100質量%としたときの単量体成分の濃度を重合濃度とすればよい。すなわち、上記重合工程は、重合溶媒と単量体成分との合計100質量%に対して、単量体成分の濃度(重合濃度)を15質量%以上として重合するものであることが好ましい。
【0055】
上記単量体成分の重合方法としては、ラジカル重合機構で重合するものであればよく、バルク重合、溶液重合、乳化重合、沈殿重合等の種々の重合方法を用いることができる。これらの重合方法は、目的、用途に応じて適宜選択すればよいが、工業的に有利で、分子量等の構造調整も容易である点から、溶液重合が好ましい。溶液重合を用いる場合、重合溶媒に、AMA単量体(A)と連鎖移動剤とを溶解させて重合を行うこととなる。
【0056】
上記環化重合を溶液重合で行う場合、原料となる重合性単量体を一括して重合溶媒に溶解させた溶液を用いてもよいし、原料となる重合性単量体を重合溶媒に対して段階的に添加していく方法を用いてもよい。上記環化重合において、重合性単量体を重合溶媒に対して段階的に添加する形態としては、例えば、連続的に重合性単量体を添加してもよいし、間欠的に重合性単量体を添加してもよい。これは、連鎖移動剤の添加方法としても同様である。
【0057】
上記重合性単量体を一括して重合溶媒に溶解させた溶液を用いて重合を行う場合、上記重合濃度は、重合溶媒、一括して添加された重合性単量体及び連鎖移動剤、並びに、必要に応じて添加されるその他の成分との合計質量を100質量%としたときの、一括して添加された重合性単量体の質量百分率(質量%)となる。段階的に添加していく方法を用いる場合、上記重合濃度は、重合溶媒と、段階的に添加された重合性単量体の合計質量とを合わせたものを100質量%としたときの、段階的に添加された重合性単量体の合計の質量百分率(質量%)となる。なお、通常、重合工程に用いる連鎖移動剤、重合開始剤の量は少量であり、便宜上、重合工程に用いられる単量体成分と溶媒を合計したものを100質量%としたときの単量体成分の濃度を重合濃度とすればよい。
【0058】
上記単量体成分を溶液重合法により重合させる場合、重合に使用する溶媒としては、重合反応に不活性なものであれば特に限定されるものではなく、重合機構、使用する単量体の種類や量、重合温度、重合濃度等の重合条件や、後にα−アリルオキシメチルアクリル酸系重合体が使用される用途に応じて適宜設定すればよい。
【0059】
上記重合溶媒の使用量としては、全単量体成分100質量%に対して、40〜1000質量%が好ましく、100〜600質量%がより好ましい。
【0060】
使用する重合溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、s−ブタノール等のモノアルコール類;エチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール類;テトラヒドロフラン,ジオキサン等の環状エーテル類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、3−メトキシブタノール等のグリコールモノエーテル類;エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールエチルメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル等のグリコールエーテル類;エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノブチルエーテルアセテート、3−メトキシブチルアセテート等のグリコールモノエーテルのエステル類;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸ブチル、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸ブチル、3−メトキシプロピオン酸メチル、3−メトキシプロピオン酸エチル、3−エトキシプロピオン酸メチル、3−エトキシプロピオン酸エチル、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル等のアルキルエステル類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素類;ヘキサン、シクロヘキサン、オクタン等の脂肪族炭化水素類;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド類、水等が挙げられる。これらは単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0061】
上記単量体成分の重合開始方法としては、熱や電磁波(赤外線、紫外線、X線等)、電子線等のエネルギー源から重合開始に必要なエネルギーを単量体成分に供給すればよい。また、ラジカル重合開始剤を併用することが好ましく、これによれば、重合開始に必要なエネルギーを大きく低減することができ、かつ反応制御が容易となる。
【0062】
上記α−アリルオキシメチルアクリル酸系重合体の製造方法は、AMA単量体(A)を含む単量体成分を、連鎖移動剤及びラジカル重合開始剤の存在下で重合を行う工程を含むことが好ましい。
上記ラジカル重合開始剤としては、熱又は光によりラジカルを発生する重合開始剤が挙げられ、工業的、経済的には熱によりラジカルを発生する重合開始剤(熱ラジカル重合開始剤)が有利で好ましい。熱ラジカル重合開始剤としては、熱エネルギーを供給することによりラジカルを発生するものであれば特に限定されるものではなく、重合温度や溶媒、重合させる単量体の種類等の重合条件に応じて、適宜選択すればよい。
【0063】
上記熱ラジカル重合開始剤としては、例えば、クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、アゾビスイソブチロニトリル、1,1’−アゾビス(シクロヘキサンカルボニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、ジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)、過酸化水素、過硫酸塩等、公知の過酸化物やアゾ化合物等が挙げられ、これらは単独で用いても、2種以上を併用してもよい。また、重合開始剤とともに遷移金属塩やアミン類等の還元剤を併用してもよい。
【0064】
上記重合開始剤の使用量は、使用する単量体の種類や量、重合温度、重合濃度等の重合条件、目標とする重合体の分子量等に応じて適宜設定すればよく、特に限定されないが、重量平均分子量が数千〜数万の重合体を得るには、全単量体成分100質量%に対して、0.05〜20質量%が好ましく、0.1〜15質量%がより好ましい。
【0065】
上記環化重合において好ましい重合温度や重合時間は、使用する重合性単量体の種類、使用比率等によって異なるが、50〜200℃が好ましく、70〜150℃がより好ましい。重合時間として好ましくは、20時間以下であり、より好ましくは、10時間以下であり、更に好ましくは、8時間以下である。
【0066】
上記環化重合は、経済的効率や、各種用途に用いる場合の残存する単量体による性能への悪影響の低減、人体への影響の低減のために、AMA単量体の転化率が70%以上となるよう行うことが好ましい。すなわち、上記重合工程は、AMA単量体(A)の転化率が70%以上であることが好ましい。一般に、1,6−ジエン類を環化重合させる場合、転化率を高くすると重合体の分岐が生じ易くなる傾向があるが、本発明では、連鎖移動剤を用い特定の1,6−ジエン類(AMA単量体(A))を環化重合するため、転化率を高くしても重合体の分岐を抑制することができる。転化率としてより好ましくは、80%以上であり、更に好ましくは85%以上であり、特に好ましくは90%以上である。
【0067】
上記AMA重合体(B)の製造方法は、式(1)で表されるAMA単量体(A)を含む単量体成分を重合した後に、さらに変成処理を行う工程を含んでもよい。変成処理を行うことにより、ラジカル重合性不飽和基の導入、グラフト鎖の導入など、通常の重合工程を行うのみでは得ることが困難な構造を得ることができる。特に、変成処理によりラジカル重合性不飽和基を有するAMA重合体(B)とすると、例えば、上記AMA重合体(B)をラジカル硬化性樹脂組成物に用いる場合に、硬化性が向上する点で好ましい。すなわち、上記AMA重合体(B)は、式(1)で表されるAMA単量体(A)を含む単量体成分を重合した後に、変成処理されたものでもよい。
【0068】
上記変成処理方法としては、AMA重合体(B)中の式(2)で表される構成単位が失われない処理方法であれば特に制限はないが、例えば、官能基Xを有する単量体を含む単量体成分を重合した後に、官能基Xと反応しうる官能基Yを有する化合物を反応させる方法が挙げられる。
【0069】
上記官能基XとYの組み合わせとしては、例えば、カルボキシル基とヒドロキシ基、カルボキシル基とエポキシ基、カルボキシル基とイソシアネート基、ヒドロキシ基とイソシアネート基、酸無水物基とヒドロキシ基、酸無水物基とアミノ基などが挙げられる。具体的には、例えば、(メタ)アクリル酸を含む単量体成分を重合した後に(メタ)アクリル酸グリシジルを反応させることによりラジカル重合性不飽和基を有するAMA重合体(B)とすることができ、また、(メタ)アクリル酸グリシジルを含む単量体成分を重合した後に片末端カルボキシル基性ポリカプロラクトンを反応させることによりポリカプロラクトンをグラフト鎖に有するAMA重合体(B)を得ることができる。
【0070】
本発明はまた、上記製造方法により製造されるα−アリルオキシメチルアクリル酸系重合体(AMA重合体(B))でもある。上記AMA重合体(B)は、AMA単量体(A)を連鎖移動剤の存在下で重合したものであれば特に限定されない。例えば、1種のAMA単量体(A)が重合されたものであってもよいし、複数種のAMA単量体(A)が重合されたものであってもよい。また、上述したように、他のラジカル重合性単量体と共重合されたAMA共重合体(C)であってもよいし、もちろん、単独重合体であってもよい。
【0071】
上記AMA重合体(B)の重量平均分子量(Mw)は、目的、用途に応じて適宜設定すればよいが、ラジカル硬化性樹脂組成物や色材分散組成物等の液状用途に用いる場合は、良好な流動性とするために、100000以下であることが好ましく、より好ましくは、70000以下であり、更に好ましくは、50000以下である。また、重合体としての特性が充分に発揮されるためには、1000以上であることが好ましく、より好ましくは、3000以上である。
【0072】
上記AMA重合体(B)は、分子量分布を表す多分散度(Mw/Mn)が、5.0以下であることが好ましく、より好ましくは、4.0以下であり、更に好ましくは、3.0以下である。本発明の製造方法では、重合体の分岐を抑制することができるため、Mw/Mnを小さくすることができる。
なお、重量平均分子量(Mw)、多分散度(Mw/Mn)の測定方法については特に限定されないが、例えば、後述する実施例で使用した測定方法を用いることができる。
【0073】
分子量の制御方法としては、公知の方法を用いることができ、例えば、重合開始剤の量や種類、重合温度、連鎖移動剤の種類や量の調製により制御できる。
連鎖移動剤を用いて製造される本発明のAMA重合体(B)は、主鎖に環構造を含み、かつ分岐が抑制されることにより、耐熱性が高い。耐熱性の指標としては、重量減少がある一定レベルとなる時の温度(重量減少温度)を用いるのが、測定が簡便であり、かつ重合体の耐熱性を正確に反映するため好ましい。重量減少のレベルとしては、通常10%以下の領域を用いるが、5%を用いる場合が多く、耐熱性の要求レベルが厳しい場合には、3%を用いる。後述の実施例及び比較例(表2参照)において明らかにされているが、連鎖移動剤を用いて製造される本発明のAMA重合体(B)は、連鎖移動剤を用いず開始剤だけで製造された場合より耐熱性が高い。各用途の要求レベルによるが、連鎖移動剤を用いて製造される本発明のAMA重合体は、連鎖移動剤を用いず開始剤だけで製造された場合よりも、重量減少温度が3℃以上、好ましくは5℃以上、更に好ましくは10℃以上向上しているものであることが好ましい。3%重量減少温度、5%重量減少温度、10%重量減少温度のいずれについても上記のように温度が向上することが、耐熱性向上における好ましい形態である。
【0074】
本発明のAMA重合体(B)は、酸素捕捉性、密着性、色材分散性、相溶性、乾燥再溶解性、透明性等のTHF環及びその両隣のメチレン基に由来する性能と、耐熱性・耐久性とを高いレベルで両立させることができ、接着剤、粘着剤、歯科材料、光学部材、情報記録材料、光ファイバー用材料、カラーフィルターレジスト、ソルダーレジスト、めっきレジスト、絶縁体、封止剤、インクジェットインク、印刷インク、塗料、注型材料、化粧版、WPC、被覆剤、感光性樹脂板、ドライフィルム、ライニング剤、土木建築材料、パテ、補修材、床材、舗装材ゲルコート、オーバーコート、ハンドレイアップ・スプレーアップ、引抜成形・フィラメントワインディング・SMC・BMC等の成形材料、高分子固体電解質等の用途に広範囲に利用できる。
【発明の効果】
【0075】
本発明によれば、上記AMA単量体(A)のラジカル重合において重合体の分岐を抑制し、異常な高分子量化やゲル化を防止できるため、用途に合わせて物性調整や様々な機能の付与がし易く、また、製造安定性がよく厳密な品質管理が可能となり、光学用途やレジスト材料など、高度で多様な機能、厳密な品質管理を要求される分野に好適な、α−アリルオキシメチルアクリル酸系重合体を提供することができる。さらに、本発明の製造方法で得られるα−アリルオキシメチルアクリル酸系重合体は、本発明の製造方法以外の方法で得られる式(2)で表される構成単位を主鎖中に有する樹脂よりも耐熱性が高いものとなり、耐熱性を要する用途へ更に好適なものとすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0076】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は「重量部」を、「%」は「質量%」を意味するものとする。
【0077】
<分析>
AMA単量体の転化率の測定、重合体の分子量の測定、重合体粉末の取り出し、重合体の熱重量分析等は、次のように行った。
【0078】
(AMA単量体の転化率の測定)
重合体溶液及び内部標準物質を秤量した後、下記希釈溶媒で希釈し、下記高速液体クロマトグラフィ(HPLC)装置、及び、条件によりAMA単量体の残存量を定量した。AMA単量体の残存量からAMA単量体の転化率を算出した。
HPLC装置:DGU−20A、LC−20AD、SIL−20A、SPD−20A、CTO−20A(いずれも島津製作所製)の組み合わせ
希釈溶媒:アセトニトリル/メタノール=2/1(質量比)
溶出溶媒:0.5mol%リン酸水溶液/アセトニトリル/メタノール混合溶媒
内部標準物質:トルエン
分離カラム:CAPCELL PACK C18 TYPE:AQ(資生堂社製)
【0079】
(重合体の分子量の測定)
重合体溶液をテトラヒドロフランで希釈し、孔径0.45μmのフィルターで濾過したものを、下記ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)装置、及び条件により、重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)、分子量分布(Mw/Mn)、ピークスタート分子量(PS)を測定した。
GPC装置:HLC−8220GPC(東ソー社製)
溶出溶媒:テトラヒドロフラン
標準物質:標準ポリスチレン(東ソー社製)
分離カラム:TSKgel SuperHZM−M(東ソー社製)
【0080】
(重合体粉末の取り出し)
重合体溶液の一部をテトラヒドロフランで希釈し、過剰のヘキサンに投入して再沈殿を行った。沈殿物を濾過により取り出した後、70℃で真空乾燥(5時間以上)することによって樹脂の白色粉末を得た。
【0081】
(熱重量分析)
再沈殿により得た重合体粉末を、次の測定機器、及び条件下で測定し、ダイナミックTG曲線を得た。得られたTG曲線から3%重量減少温度、5%重量減少温度、及び10%重量減少温度を得た。
装置:Thermo Plus TG8120(リガク社製)
雰囲気:窒素フロー 100ml/分
昇温条件:階段状等温制御(SIAモード)、昇温速度=10℃/分、質量変化速度値=0.005%/秒
【0082】
<重合>
実施例1
反応槽として、3口セパラブルフラスコに温度計、冷却管、ガス導入管、攪拌装置を取り付けたものを準備し、反応槽内を窒素置換した。窒素気流下、反応槽にプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA) 103.7部を仕込み、90℃に昇温した。一方、滴下槽Aにはα−アリルオキシメチルアクリル酸メチル(AMA−M) 100.0部、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート(PBO) 2.0部を攪拌混合したものを、滴下槽Bには、3−メルカプトプロピオン酸メチル(MPM) 1.73部、PGMEA 46.3部を攪拌混合したものを準備した。
【0083】
反応槽の内温が安定したのを確認してから、滴下槽A、Bより各混合物の滴下を同時に開始し、内温を90℃に調整しながら、滴下槽Aからは3時間かけて、滴下槽Bからは4時間かけて滴下し、重合反応を行った。滴下終了後に昇温を開始して、115℃まで昇温した。115℃を1時間維持してから室温まで冷却し、樹脂溶液を得た。分析結果を表1及び表2に示す。
【0084】
実施例2
滴下槽Aに、AMA−M 60.9部、メタクリル酸メチル(MMA) 39.1部、PBO 2.0部を攪拌混合したものを準備したこと以外は、実施例1と同様にして樹脂溶液を得た。分析結果を表1及び表2に示す。
【0085】
実施例3
滴下槽Aに、AMA−M 30.0部、MMA 70.0部及びPBO2.0部を攪拌混合したものを準備したこと以外は、実施例1と同様にして樹脂溶液を得た。分析結果を表1及び表2に示す。
【0086】
比較例1
滴下槽Aに、MMA 100.0部及びPBO 2.0部を攪拌混合したものを準備したこと以外は、実施例1と同様にして樹脂溶液を得た。分析結果を表1に示す。
【0087】
比較例2
反応槽として、3口セパラブルフラスコに温度計、冷却管、ガス導入管、攪拌装置を取り付けたものを準備し、反応槽内を窒素置換した。窒素気流下、反応槽にPGMEA 150.0部を仕込み、90℃に昇温した。一方、滴下槽にはAMA−M 100.0部、PBO 6.0部を攪拌混合したものを準備した。
【0088】
反応槽の内温が安定したのを確認してから、滴下槽より混合物の滴下を開始し、内温を90℃に調整しながら3時間かけて滴下し、重合反応を行った。滴下終了直後に内容液を少量サンプリングして、上記の再沈殿操作により樹脂の白色粉末を得た。滴下終了60分後に昇温を開始して、115℃まで昇温したところ、内容液が明らかに増粘していることに気がつき、加熱を中止して冷却した。内容液をサンプリングしようとしたところ、糸を引く状態であり、また、内容液のテトラヒドロフランで希釈した液は、0.45μmのフィルターで濾過することができず、ゲル化していることが確認された。ゲル化のため、AMA単量体の転化率の測定、及び重合体の分子量の測定は行わなかった。熱重量分析は、滴下終了直後にサンプリングした液から得た樹脂の白色粉末を用いた。分析結果を表1及び表2に示す。
【0089】
比較例3
反応槽として、3口セパラブルフラスコに温度計、冷却管、ガス導入管、攪拌装置を取り付けたものを準備し、反応槽内を窒素置換した。窒素気流下、反応槽にPGMEA 150.0部を仕込み、90℃に昇温した。一方、滴下槽にはAMA−M 60.9部、MMA 39.1部、PBO 6.0部を攪拌混合したものを準備した。
【0090】
反応槽の内温が安定したのを確認してから、滴下槽より混合物の滴下を開始し、内温を90℃に調整しながら3時間かけて滴下し、重合反応を行った。滴下終了60分後に昇温を開始して、115℃まで昇温した。115℃を1時間維持してから室温まで冷却し、樹脂溶液を得た。分析結果を表1及び表2に示す。
【0091】
比較例4
反応槽として、3口セパラブルフラスコに温度計、冷却管、ガス導入管、攪拌装置を取り付けたものを準備し、反応槽内を窒素置換した。窒素気流下、反応槽にPGMEA 150.0部を仕込み、90℃に昇温した。一方、滴下槽にはAMA−M 30.0部、MMA 70.0部、PBO 6.0部を攪拌混合したものを準備した。
【0092】
反応槽の内温が安定したのを確認してから、滴下槽より混合物の滴下を開始し、内温を90℃に調整しながら90分かけて滴下し、重合反応を行った。滴下終了30分後に昇温を開始して、115℃まで昇温した。115℃を1時間維持してから室温まで冷却し、樹脂溶液を得た。分析結果を表1及び表2に示す。
【0093】
比較例5
滴下槽に、MMA 100.0部及びPBO 6.0部を攪拌混合したものを準備したこと以外は、比較例3と同様にして樹脂溶液を得た。分析結果を表1に示す。
【0094】
実施例4
反応槽として、3口セパラブルフラスコに温度計、冷却管、ガス導入管、攪拌装置を取り付けたものを準備し、反応槽内を窒素置換した。窒素気流下、反応槽にPGMEA 120.1部を仕込み、90℃に昇温した。一方、滴下槽AにはAMA−M 30.0部、MMA 70.0部、PBO 6.0部を攪拌混合したものを、滴下槽Bには、3−メルカプトプロピオン酸(MPA) 0.1部とPGMEA 29.9部を攪拌混合したものを準備した。
【0095】
反応槽の内温が安定したのを確認してから、滴下槽A、Bより各混合物の滴下を同時に開始し、内温を90℃に調整しながら、滴下槽Aからは90分かけて、滴下槽Bからは150分かけて滴下し、重合反応を行った。滴下槽Aの滴下が終了してから30分後に昇温を開始して、115℃まで昇温した。115℃を1時間維持してから室温まで冷却し、樹脂溶液を得た。分析結果を表1及び表2に示す。
【0096】
実施例5
反応槽として、3口セパラブルフラスコに温度計、冷却管、ガス導入管、攪拌装置を取り付けたものを準備し、反応槽内を窒素置換した。窒素気流下、反応槽にPGMEA 242.6部を仕込み、90℃に昇温した。一方、滴下槽AにはAMA−M 60.0部、メタクリル酸ベンジル(BZMA) 110.0部、MMA 1.4部、メタクリル酸(MAA) 28.6部、PBO 4.0部を攪拌混合したものを、滴下槽Bには、MPA 2.6部とPGMEA 57.4部を攪拌混合したものを準備した。
【0097】
反応槽の内温が安定したのを確認してから、滴下槽A、Bより各混合物の滴下を同時に開始し、内温を90℃に調整しながら3時間かけて滴下し、重合反応を行った。滴下終了60分後に昇温を開始して、115℃まで昇温した。115℃を1時間維持してから室温まで冷却し、樹脂溶液を得た。分析結果を表1及び表2に示す。
【0098】
比較例6
AMA−Mの代わりに、AMA−Mの類似単量体であるジメチル−2,2’−[オキシビス(メチレン)]ビス−2−プロペノエート(MD:2位と6位にエステル基を有する1,6−ジエン類)を用いたこと以外は、実施例5と同様にして樹脂溶液を得た。分析結果を表1に示す。
【0099】
比較例7
滴下槽Aに、BZMA 110.0部、MMA 61.4部、MAA 28.6部、PBO 4.0部を攪拌混合したものを準備したこと以外は、実施例5と同様にして樹脂溶液を得た。分析結果を表1に示す。
【0100】
実施例6
反応槽として、3口セパラブルフラスコに温度計、冷却管、ガス導入管、攪拌装置を取り付けたものを準備し、反応槽内を窒素置換した。窒素気流下、反応槽にPGMEA 170.5部を仕込み、90℃に昇温した。一方、滴下槽AにはAMA−M 50.0部、PBO 1.0部を攪拌混合したものを、滴下槽Bには、MPM 0.45部とPGMEA 29.6部を攪拌混合したものを準備した。
【0101】
反応槽の内温が安定したのを確認してから、滴下槽A、Bより各混合物の滴下を同時に開始し、内温を90℃に調整しながら滴下槽Aからは90分かけて、滴下槽Bからは150分かけて滴下し、重合反応を行った。滴下槽Aの滴下が終了してから30分後に昇温を開始して、115℃まで昇温した。115℃を1時間維持してから室温まで冷却し、樹脂溶液を得た。分析結果を表1及び表2に示す。
【0102】
比較例8
滴下槽Aに、MMA 50.0部、PBO 1.0部を攪拌混合したものを準備したこと以外は、実施例6と同様にして樹脂溶液を得た。分析結果を表1に示す。
【0103】
比較例9
反応槽として、3口セパラブルフラスコに温度計、冷却管、ガス導入管、攪拌装置を取り付けたものを準備し、反応槽内を窒素置換した。窒素気流下、反応槽にPGMEA 200.0部を仕込み、90℃に昇温した。一方、滴下槽にはAMA−M 50.0部、PBO 2.0部を攪拌混合したものを準備した。
【0104】
反応槽の内温が安定したのを確認してから、滴下槽より混合物の滴下を開始し、内温を90℃に調整しながら90分かけて滴下し、重合反応を行った。滴下終了30分後に昇温を開始して、115℃まで昇温した。115℃を1時間維持してから室温まで冷却し、樹脂溶液を得た。分析結果を表1及び表2に示す。
【0105】
比較例10
滴下槽Aに、MMA 50.0部、PBO 2.0部を攪拌混合したものを準備したこと以外は、比較例9と同様にして樹脂溶液を得た。分析結果を表1に示す。
【0106】
実施例7
反応槽として、3口セパラブルフラスコに温度計、冷却管、ガス導入管、攪拌装置を取り付けたものを準備し、反応槽内を窒素置換した。窒素気流下、反応槽にPGMEA 252.0部を仕込み、90℃に昇温した。一方、滴下槽AにはAMA−M 30.0部、PBO 0.15部を攪拌混合したものを、滴下槽BにはMPM 0.03部、PGMEA 18.0部を攪拌混合したものを準備した。
【0107】
反応槽の内温が安定したのを確認してから、滴下槽A、Bより各混合物の滴下を同時に開始し、内温を90℃に調整しながら、滴下槽A及びBから、90分かけて滴下し、重合反応を行った。滴下が終了してから60分後に室温まで冷却し、樹脂溶液を得た。分析結果を表1及び表2に示す。
なお、表中における略語は以下のとおりである。
AMA−M:α−アリルオキシメチルアクリル酸メチル
MD:ジメチル−2,2’−[オキシビス(メチレン)]ビス−2−プロペノエート
MMA:メタクリル酸メチル
BZMA:メタクリル酸ベンジル
MAA:メタクリル酸
PBO:t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート
MPM:3−メルカプトプロピオン酸メチル
MPA:3−メルカプトプロピオン酸
PS:ピークスタート分子量
Mw:重量平均分子量
Mn:数平均分子量
Mw/Mn:分子量分布
【0108】
【表1】

【0109】
【表2】

【0110】
なお、表1及び2中において、「濃度」は、「重合濃度」を表す。
重合濃度[質量%]=重合に用いた単量体の合計量/(重合に用いた単量体の合計量+重合に用いた溶媒の合計量)×100
開始剤及び連鎖移動剤の「量」は、重合に用いた単量体の合計量に対する質量割合を表す。
AMA単量体転化率の残存量において、数値単位は「質量%」であり、「n.d.」は検出限界以下であることを表す。
「AMA単量体転化率」の転化率は、下記式で算出される。
転化率[%]=AMA単量体の反応量/重合に用いたAMA単量体の量×100
【0111】
(分岐抑制による、分子量分布増大の抑制、及び、ゲル化防止)
MMAのみの重合においては、比較例1及び比較例5の対比から、連鎖移動剤有りの条件でも、開始剤のみの条件でも、Mwが13000程度になり、分子量分布も同程度である。これに対し、実施例のAMA単量体の重合においては、実施例1と比較例2との対比、実施例2と比較例3との対比、実施例3と比較例4との対比から、連鎖移動剤有りの場合は、MMAの場合と同様にMwが13000程度で分子量分布(Mw/Mn)も狭いのに対し、開始剤のみの場合は、Mw及び分子量分布が増大し、ゲル化する場合もあることが分かる。
なお、ピークスタート分子量(PS)、重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)、分子量分布(Mw/Mn)等の特性値を比較するためには、通常では、同程度の重量平均分子量(Mw)が得られるであろうと想定される条件で比較するのが適当である。ある一定の重合濃度において(メタ)アクリレート系単量体を重合して重合体を得る場合においては、得られる重合体のMwには、重合反応において用いられる重合開始剤及び連鎖移動剤の種類と使用量が影響を及ぼし、これらの配合を調整することで、得られる重合体のMwを調整することができる。例えば、重合濃度40質量%において、Mwが13000程度の重合体を得るためには、本実施形態においては、単量体成分100質量部に対して重合開始剤を6部用いたり、単量体成分100質量部に対して重合開始剤を2部、連鎖移動剤を1.73部用いたりすればよい。実施例1〜3及び比較例1〜5は、Mwが13000程度の重合体が得られると考えられる配合によって、重合体を合成し、それらの分子量を比較したものである。
本実施例及び比較例の結果から、連鎖移動剤を含む系では、AMA単量体は、重合性不飽和基が単官能である単量体と同様の重合態様を示すものと考えられるが、連鎖移動剤を含まない系でAMA単量体を重合させると、多官能性の単量体として働いてしまうAMA単量体が増えてしまい、分岐のある重合体が生成してしまうことが示された。
また、実施例4と比較例4との対比から、用いる連鎖移動剤の量が少量であっても、得られる重合体の分岐を抑制する効果を得ることができることが分かる。
実施例5、比較例6、比較例7の対比において、実施例5のAMA単量体の重合においては、連鎖移動剤の分岐抑制効果により、比較例7のMMAの重合と同様に、AMA単量体は単官能性の単量体としての挙動を示しているが、類似単量体であるMDの重合においては効果が無く、連鎖移動剤の分岐抑制効果は、特定のAMA単量体の重合において特異的に発現するものであることが分かる。
実施例6と比較例9との対比から、重合濃度が20質量%の場合にも連鎖移動剤を用いることで分岐を抑制する効果が発揮されていることが分かる。
また、連鎖移動剤を用いていない比較例2と比較例9とを比較すると、重合濃度が高い比較例2では分岐が進行してゲル化を生じているのに対し、重合濃度が低い比較例9では、連鎖移動剤を用いた実施例6よりはかなり劣るものの、分岐が抑制されている。つまり、重合濃度が低い範囲の方が分岐を抑制しやすく、重合濃度が高い範囲の方が分岐を抑制しにくいと言える。これに対して本発明においては、上述した通り、重合濃度が高い範囲においても有利な効果を奏することとなる。したがって、連鎖移動剤を用いる効果は、重合濃度が高い場合に、より効果的に発揮されることが分かる。
なお、比較例1、5、7、8、10の結果から、単量体成分にAMA単量体ではない(メタ)アクリレート系単量体を用いた場合には、得られる重合体に分岐は発生しておらず、本発明において解決すべき課題は、AMA単量体ではない(メタ)アクリレート系単量体を単量体成分に用いた場合には起こらないようなAMA単量体に特有の問題であることが分かる。
【0112】
(分岐抑制による耐熱性の向上)
実施例1と比較例2との対比、実施例2と比較例3との対比、実施例3〜5と比較例4との対比、実施例6と比較例9との対比から、連鎖移動剤を使用することにより分岐が抑制されて耐熱性が向上していることが分かる。
また、比較例2と比較例9との対比から、連鎖移動剤を使用しない場合でも、重合濃度を下げることにより分岐を抑制し、ゲル化を防止できるとともに耐熱性が向上することが分かる。このことから、分岐を抑制することが、耐熱性を向上させることに寄与していることが分かる。つまり、重合濃度が低い範囲の方が分岐を抑制しやすく、耐熱性が向上するのに対し、重合濃度が高い範囲の方が分岐を抑制しにくく、耐熱性の低下に繋がると言える。これに対して本発明においては、上述した通り、重合濃度が高い範囲においても分岐を抑制し、耐熱性を向上させることが可能となっている。
従来においては、重合濃度を下げることで、分岐を抑制しなければならなかった。更に例え、重合濃度を下げたとしても充分に分岐を抑制することはできず、充分な耐熱性を得ることはできなかった。それに対して、本発明においては、連鎖移動剤によって分岐を抑制していることから、重合濃度が高い範囲においてさえ、耐熱性を向上させることができるという点において、工業的に際立って優れた製造方法であるといえる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表されるα−アリルオキシメチルアクリル酸系単量体を含む単量体成分を重合させてα−アリルオキシメチルアクリル酸系重合体を製造する方法であって、
該製造方法は、単量体成分を連鎖移動剤の存在下でラジカル重合させる工程を含むことを特徴とするα−アリルオキシメチルアクリル酸系重合体の製造方法。
【化1】

(式中、Rは、水素原子、又は、炭素数が1〜30の有機基を表す。)
【請求項2】
前記重合工程は、重合溶媒と単量体成分との合計100質量%に対して、単量体成分の濃度を15質量%以上として重合することを特徴とする請求項1記載のα−アリルオキシメチルアクリル酸系重合体の製造方法。
【請求項3】
前記連鎖移動剤は、メルカプト基を有する化合物であることを特徴とする請求項1又は2記載のα−アリルオキシメチルアクリル酸系重合体の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法により製造されることを特徴とするα−アリルオキシメチルアクリル酸系重合体。

【公開番号】特開2010−168539(P2010−168539A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−223280(P2009−223280)
【出願日】平成21年9月28日(2009.9.28)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】