説明

α−シクロデキストリン−二酸化塩素複合体と不活性物質とを含む組成物並びにその製造方法

【課題】安全に操作可能で、輸送可能なα−シクロデキストリン−二酸化塩素複合体を含有する組成物の提供。
【解決手段】α−シクロデキストリン−二酸化塩素複合体と不活性物質とを含む組成物。該不活性物質としては、シリカ、シリカゲル、ケイ酸のアルカリ土類金属塩、硫酸のアルカリ土類金属塩、リン酸のアルカリ土類金属塩、フッ化水素酸のアルカリ土類金属塩、炭酸のアルカリ土類金属塩、アルミニウムの酸化物、マグネシウムの酸化物、ケイ素の酸化物、オリゴ糖又は多糖、ビニルアルコールコポリマー及び粉砕された天然鉱物の群から選択される化合物であることが好ましい。該組成物は、α−シクロデキストリン水溶液及び不活性物質を混合し、これらの混合物へ二酸化塩素を導通して、α−シクロデキストリン−二酸化塩素複合体と不活性物質とを含む組成物を沈殿させ、この組成物を分離することによって製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、α−シクロデキストリン−二酸化塩素複合体と不活性物質とを含み、安全に操作可能かつ輸送可能な組成物並びにその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
α−シクロデキストリン−二酸化塩素複合体は、著しく発熱性の分解エネルギー(>1005J/g)及び低い分解温度を有する自己分解性製品である。貯蔵又は輸送の際の蓄熱(Waermestau)により、燃焼又は発熱性分解まで起こりうる。前記複合体の輸送は、α−シクロデキストリン−二酸化塩素複合体については<35℃である"自己加速分解温度(Self accelerating decomposition temperature)"(SADT)を15℃下回ってのみ許容されるに過ぎない。故に、実際の使用(輸送、貯蔵等)には、前記複合体は適していない。
【0003】
α−シクロデキストリン−二酸化塩素複合体の製造並びに貯蔵もしくは安定性のための条件は、例えばWO/2009026014から知られている。そこにも、前記複合体が、低温でのみ安定であるかもしくは貯蔵安定であることが記載されている。故に、α−シクロデキストリン−二酸化塩素複合体は、工業的規模では、安全にも経済的にも製造できず、かつ同様にWO/2009026014に記載されているような多くの使用目的のためのそれ自体として望ましいその使用も、その著しく発熱性の分解エネルギー及び分解が始まるその低い温度(以下に、開始温度(Onsettemperatur)とも呼ぶ)に基づいて、事実上不可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】WO/2009026014
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、安全に操作可能で輸送可能であるα−シクロデキストリン−二酸化塩素複合体を含有する組成物を提供することであった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この課題は、α−シクロデキストリン−二酸化塩素複合体並びに不活性物質を含む組成物により解決される。
【0007】
不活性物質は、本明細書の意味では、二酸化塩素ともシクロデキストリンとも反応せず、さらにα−シクロデキストリン−二酸化塩素複合体の発熱性分解も促進しない物質であると理解されるべきである。α−シクロデキストリン−二酸化塩素複合体への不活性物質の添加は、分解熱の減少、分解開始の温度の上昇、吸熱反応による自己分解の熱の減少及び前記組成物中の前記複合体の燃焼リスクの減少を生じさせる。
【0008】
好ましくは、不活性物質は、シリカ(Kieselsaeure)、シリカゲル、ケイ酸のアルカリ土類金属塩、硫酸のアルカリ土類金属塩、リン酸のアルカリ土類金属塩、フッ化水素酸のアルカリ土類金属塩、炭酸のアルカリ土類金属塩、アルミニウムの酸化物、マグネシウムの酸化物、ケイ素の酸化物、<50g/lの水溶性(25℃で)を有するオリゴ糖類又は多糖類、ビニルアルコールコポリマー及び粉砕された天然鉱物の群からの物質である。
【0009】
粉砕された天然鉱物として、好ましくは、アルカリ土類金属硫酸塩、ドロマイト、石灰石、タルク、マグネサイト、ケイソウ土又はこれらの鉱物の任意の混合物が粉砕された形で使用される。
【0010】
粉砕された材料は、好ましくは、これが水中で懸濁可能及び搬送可能であるように微細に粉砕されている。
【0011】
特に好ましくは、不活性物質は、シリカゲル、シリカ、ケイソウ土、<50g/lの水溶性(25℃で)を有するオリゴ糖又は多糖又はビニルアルコールコポリマーである。
【0012】
好ましくは、本発明による配合物は、前記組成物の全質量を基準として5〜80質量%のα−シクロデキストリン−二酸化塩素複合体と、前記組成物の全質量を基準として20〜95質量%の不活性物質とを含有する。
【0013】
好ましくは、本発明による組成物は、α−シクロデキストリン−二酸化塩素複合体と、不活性物質とからなる。
【0014】
α−シクロデキストリン−二酸化塩素複合体−不活性物質混合物の製造は、α−シクロデキストリン−二酸化塩素複合体が少なくとも1種の不活性物質と混合されることによって行われることができる。
【0015】
α−シクロデキストリン−二酸化塩素複合体−不活性物質混合物の製造は、好ましくは、α−シクロデキストリン水溶液及び不活性物質が混合され、かつこの混合物へ二酸化塩素が導通され、その際にα−シクロデキストリン−二酸化塩素複合体と不活性物質とを含む組成物は沈殿し、かつこの組成物が分離されることによって行われる。この方法の場合に、α−シクロデキストリン−二酸化塩素複合体の製造は不活性物質の懸濁液の存在下で行われるので、α−シクロデキストリン−二酸化塩素複合体が、不活性物質懸濁液中で均質分散されて形成され、かつ既に不活性物質との均質混合物として単離される。こうして得られる不活性物質−α−シクロデキストリン−二酸化塩素複合体の場合に、本発明による組成物の分解熱は、純粋なα−シクロデキストリン−二酸化塩素複合体と比較して、意外なことに明らかに低下される。同時に開始温度は上昇しているので、本発明による組成物の製造、取扱い、貯蔵及び輸送は安全に可能である。特に、本発明による組成物の危険のない製造及び取得は、この方法によって可能である。
【0016】
本発明による組成物の製造は、好ましくは0〜30℃の温度で、より好ましくは0℃〜20℃で1〜10min、特に好ましくは1〜5minの期間にわたって及び/又は3.0〜9.0のpHで、行われる。
【0017】
前記組成物の形成は通例、常圧下で行われる。好ましくは、複合化は、保護ガス雰囲気(窒素又はアルゴン)下並びに日光の遮断下に行われる。
【0018】
こうして形成される懸濁液は、直接使用されることができるが、しかしこれは、ろ過、遠心分離、乾燥、粉砕、ふるい分け、シフティング(Sichten)、造粒、タブレット化により、単離され、かつ後処理されることができるか、もしくは用途特有にさらに配合されることもできる。
【0019】
本発明による組成物は、既にWO/2009026014にそこで、特にp.11に、挙げられた全ての目的に使用されることができる。
【0020】
次の実施例は、本発明のさらなる説明に利用される。
【実施例】
【0021】
比較例1
ClO2−α−シクロデキストリン複合体の製造及びその熱安定性の測定
【0022】
二酸化塩素と、α−シクロデキストリンを有するClO2複合体(以下にClO2複合体と略す)とを、WO/2009026014に類似して製造した:
2〜4モル濃度の過剰量の二酸化塩素を、8.3%α−シクロデキストリン水溶液中へ室温で導通し、ここで室温は本願明細書の範囲内で23℃であると理解されるべきである。α−シクロデキストリン−二酸化塩素複合体は事実上水に不溶であり、故に沈殿した。前記複合体を、吸引ろ過、アセトンでの洗浄及び真空中での最大30℃の温度での乾燥により、典型的には50〜60%の収率で(使用されたシクロデキストリン量を基準として)単離した。
【0023】
少量(<1kg)のこの複合体は、低温(冷凍庫;−18℃)で安定に3ヶ月まで貯蔵されることができた。高められた温度(30〜50℃)では、既に数(wenigen)日後に、炭化現象を伴って完全な分解が観察され得た。
【0024】
調べるべき試料の熱安定性を、動的示差熱量測定法(DSC)を用いて調べた。試料容器として、その際に、ガラスインサートを備えた耐圧性鋼るつぼ(DSCるつぼ)を利用し、このるつぼは蒸発損失が不可能であることを保証する。全ての測定を、DSCるつぼ中でN2雰囲気下で行った。
【0025】
第1表
DSC調査の結果
【表1】

【0026】
省略形:
【表2】

【0027】
例1〜5
α−シクロデキストリン−ClO2−不活性物質配合物の製造及びそれらの熱安定性の測定
【0028】
8%α−シクロデキストリン水溶液718gに、多様な量(第2表参照)の水に不溶の無機不活性物質(第2表参照)を添加した。得られた懸濁液中へ、冷却しながら、4倍の過剰量の二酸化塩素を導通した。90分後に計量供給は終わっていた。不活性物質の存在下で生じたα−シクロデキストリン−二酸化塩素複合体を不活性物質と共に、光学的に均質な混合物として吸引ろ過し、アセトンで洗浄し、真空中で室温で乾燥させた。
【0029】
調べるべき試料の熱安定性を、動的示差熱量測定法(DSC)を用いて、比較例1に類似して調べた。
【0030】
第2表:不活性充填剤の存在下でのClO2複合化
【表3】

【0031】
省略形:
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
α−シクロデキストリン−二酸化塩素複合体と不活性物質とを含む組成物。
【請求項2】
不活性物質が、シリカ、シリカゲル、ケイ酸のアルカリ土類金属塩、硫酸のアルカリ土類金属塩、リン酸のアルカリ土類金属塩、フッ化水素酸のアルカリ土類金属塩、炭酸のアルカリ土類金属塩、アルミニウムの酸化物、マグネシウムの酸化物、ケイ素の酸化物、<50g/lの水溶性(25℃で)を有するオリゴ糖又は多糖、ビニルアルコールコポリマー及び粉砕された天然鉱物の群から選択される化合物である、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
粉砕された天然鉱物が、アルカリ土類金属硫酸塩、ドロマイト、石灰石、タルク、マグネサイト、ケイソウ土及びそれらの混合物の群から選択されている、請求項2記載の組成物。
【請求項4】
組成物の全質量を基準として5〜80質量%のα−シクロデキストリン−二酸化塩素複合体と、組成物の全質量を基準として20〜95質量%の不活性物質とを含有する、請求項1から3までのいずれか1項記載の組成物。
【請求項5】
α−シクロデキストリン−二酸化塩素複合体と不活性物質とを含んでなる、請求項1から4までのいずれか1項記載の組成物。
【請求項6】
α−シクロデキストリン−二酸化塩素複合体を、少なくとも1種の不活性物質と混合することを特徴とする、請求項1から5までのいずれか1項記載の組成物の製造方法。
【請求項7】
α−シクロデキストリン水溶液及び不活性物質を混合し、これらの混合物へ二酸化塩素を導通し、その際にα−シクロデキストリン−二酸化塩素複合体と不活性物質とを含む組成物を沈殿させ、この組成物を分離することを特徴とする、請求項1から5までのいずれか1項記載の組成物の製造方法。

【公開番号】特開2012−219271(P2012−219271A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−88475(P2012−88475)
【出願日】平成24年4月9日(2012.4.9)
【出願人】(390008969)ワッカー ケミー アクチエンゲゼルシャフト (417)
【氏名又は名称原語表記】Wacker Chemie AG
【住所又は居所原語表記】Hanns−Seidel−Platz 4, D−81737 Muenchen, Germany
【Fターム(参考)】