説明

α−トリフルオロメチルケトン化合物の製造方法

【課題】トリフルオロメチル化剤としてヨウ化トリフルオロメタンを用い、高収率でα−トリフルオロメチルケトン化合物を製造する方法を提供する。
【解決手段】 リチウムエノラート化合物を、ラジカル開始剤存在下、ヨウ化トリフルオロメタンと反応させることを特徴とするα−トリフルオロメチルケトン化合物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、α−トリフルオロメチルケトン化合物を製造する方法に関する。より詳細にはケトン化合物から誘導されるリチウムエノラート化合物をヨウ化トリフルオロメタンと反応させて、α−トリフルオロメチルケトン化合物を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
α−トリフルオロメチルケトン化合物は、トリフルオロメチル基含有による特有の物理的性質、化学的性質を示すため、医農薬中間体や液晶材料の原料等として極めて有用である。
【0003】
α−トリフルオロメチルケトン化合物を製造する方法としては、トリフルオロメチル化剤とケトン誘導体を反応させる方法が知られており、トリフルオロメチル化剤として、CF3カチオン型反応剤を用いる方法とヨウ化トリフルオロメタンを用いる方法に大別される。
【0004】
前者の方法としては、非特許文献1、非特許文献2にトリフルオロメチルカルコゲン塩化合物とケトン誘導体を反応させる方法が報告されている。これらの方法は、α−トリフルオロメチルケトン化合物の収率は比較的高いものの、反応原料であるトリフルオロメチルカルコゲン塩化合物をあらかじめ合成する必要がある。その際、合成に特殊な装置、煩雑な操作を必要とする問題がある。
【0005】
一方、後者の方法は、ヨウ化トリフルオロメタンが容易に入手できるため工業的に利用し易い方法と言える。しかし、この方法の場合、ヨウ化トリフルオロメタンとケトン誘導体を反応させる際に分解反応を併発し、収率が低下し易い問題があった。分解反応を避けるための方法として、非特許文献3ではケトン誘導体としてシリルエノラート化合物を用いる方法が、非特許文献4ではケトン誘導体としてゲルミルエノラート化合物を用いる方法が報告されている。しかし、これらの方法ではケトン誘導体の反応性が低いため、長い反応時間を必要とする上、目的物の収率も十分でない。また、非特許文献5ではケトン誘導体として、エナミン化合物を用いる方法が報告されている。この方法の場合、エナミン化合物を合成する工程が煩雑である上、目的物の収率も十分とは言えない。
【非特許文献1】J. Am. Chem. Soc., 115, 2156 (1993)
【非特許文献2】J. Org. Chem., 59, 5692 (1994)
【非特許文献3】Bull. Chem. Soc. Jpn., 64, 1542 (1991)
【非特許文献4】Tetrahedron Letters, 31, 6391 (1990)
【非特許文献5】J. Chem. Soc., Perkin Trans. 1, 1365 (1977)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明はこれらの課題に鑑みてなされたものである。即ち、トリフルオロメチル化剤としてヨウ化トリフルオロメタンを用い、高収率でα−トリフルオロメチルケトン化合物を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題に鑑み本発明者らは鋭意検討した結果、特定のケトン誘導体を、ラジカル開始剤存在下、ヨウ化トリフルオロメタンと反応させることにより、高収率でα−トリフルオロメチルケトン化合物が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。即ち、本発明は下記要旨に関わるものである。
【0008】
(1) 一般式(3)
【0009】
【化1】

【0010】
(式中、R1は、置換ないし未置換の炭素数1〜20のアルキル基または置換ないし未置換の炭素数6〜20のアリール基を表し、R2及びR3は、それぞれ独立に、水素原子、置換ないし未置換の炭素数1〜20のアルキル基または置換ないし未置換の炭素数6〜20のアリール基を表す。R1〜R3は同一であっても非同一であってもよく、任意の2個がヘテロ原子の介在、非介在下に互いに結合し環状構造を形成していても良い。)
で表されるリチウムエノラート化合物を、ラジカル開始剤存在下、ヨウ化トリフルオロメタンと反応させることを特徴とする、一般式(4)
【0011】
【化2】

【0012】
(式中、R1〜R3は前記定義に同じ)
で表されるα−トリフルオロメチルケトン化合物の製造方法。
【0013】
(2) ラジカル開始剤がトリアルキルボラン化合物及び分子状酸素であることを特徴とする(1)に記載のα−トリフルオロメチルケトン化合物の製造方法。
【0014】
(3) 前記一般式(3)のリチウムエノラートが、一般式(1)
【0015】
【化3】

【0016】
(式中、R1〜R3は前記定義に同じ)
で表されるケトン化合物及び/または一般式(2)
【0017】
【化4】

【0018】
(式中、R1〜R3は、前記定義に同じ。R4〜R6は同一または非同一の炭素数1〜10のアルキル基を表す。)
で表されるシリルエノールエーテル化合物と、モル比で0.8〜1.2倍のリチウム化合物との反応によって得られるリチウムエノラートであることを特徴とする(1)または(2)に記載のα−トリフルオロメチルケトン化合物の製造方法。
【0019】
(4) リチウム化合物がアルキルリチウム化合物及び/またはリチウムアミド化合物であることを特徴とする(3)に記載のα−トリフルオロメチルケトンの製造方法。
【0020】
(5)亜鉛化合物を存在させて反応させることを特徴とする(1)〜(4)のいずれか1項に記載のα−トリフルオロメチルケトン化合物の製造方法。
【0021】
(6)亜鉛化合物がジアルキル亜鉛であることを特徴とする(5)に記載のα−トリフルオロメチルケトン化合物の製造方法。
【0022】
(7)亜鉛化合物に加え、更に環状エーテル化合物を存在させることを特徴とする(5)または(6)に記載のα−トリフルオロメチルケトン化合物の製造方法。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、工業的に入手容易なヨウ化トリフルオロメタンを原料とし、高収率でα−トリフルオロメチルケトン化合物を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下に、さらに詳細に本発明を説明する。
【0025】
本発明は、前記一般式(3)のリチウムエノラート化合物をヨウ化トリフルオロメタンと反応させ、前記一般式(4)のα−トリフルオロメチルケトン化合物を製造することを特徴とするものである。本発明は、原料であるリチウムエノラート化合物を生成させる過程と該リチウムエノラート化合物をヨウ化トリフルオロメタンと反応させる過程からなる。
【0026】
本発明の前過程である、リチウムエノラート化合物を生成させる過程について説明する。リチウムエノラート化合物は、前記一般式(1)のケトン化合物及び/または前記一般式(2)のシリルエノールエーテルとリチウム化合物を反応させることによって生成させる。
【0027】
一般式(1)〜(4)において、置換基R1は、置換ないし未置換の炭素数1〜20のアルキル基または置換ないし未置換の炭素数6〜20のアリール基である。置換基R2およびR3は、水素原子、置換ないし未置換の炭素数1〜20のアルキル基、置換ないし未置換の炭素数6〜20のアリール基である。未置換のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基、n−オクチル基及びn−デシル基等を挙げることができる。置換基を有するアルキル基としては、例えば、メトキシメチル基、2−メトキシエチル基、ベンジル基、2−フェニルエチル基、トリフルオロメチル基等を挙げることができる。未置換のアリール基としては、例えば、フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基等を挙げることができる。置換基を有するアリール基としては、例えば、2−メチルフェニル基、3−メチルフェニル基、4−メチルフェニル基、2,4,6−トリメチルフェニル基、4−エチルフェニル基、4−メトキシフェニル基、4−フルオロフェニル基、2−メチル−1−ナフチル基等を挙げることができる。なお、R1〜R3は同一であってもよいし、非同一であってもよい。また、置換基R1〜R3は、任意の2個が、互いにヘテロ原子の介在または非介在化に結合し、シクロペンタン環、シクロヘキサン環、シクロヘプタン環、シクロオクタン環等の環状構造を形成していてもよい。ヘテロ原子としては、酸素原子、硫黄原子等を挙げることができる。
【0028】
このようなケトン化合物の一例として、アセトン、メチルエチルケトン、メチルn−プロピルケトン、メチルi−プロピルケトン、メチルn−ブチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルsec−ブチルケトン、6−ウンデカノン、メチルシクロヘキシルケトン、メトキシアセトン、トリフルオロアセトン、アセトフェノン、2’−メチルアセトフェノン、4’−メチルアセトフェノン、4’−メトキシアセトフェノン、4’−フルオロアセトフェノン、2’,4’,6’−トリメトキシアセトフェノン、プロピオフェノン、n−ブチロフェノン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、2−メチルシクロヘキサノン、4−t−ブチルシクロヘキサノン及び4−オキソテトラヒドロピラン等を挙げることができる。
【0029】
また、前記一般式(2)のシリルエノールエーテル化合物は、前記の一般式(1)のケトン化合物を塩基存在下、トリアルキルシリルハライド化合物と反応させることにより得られる。一般式(2)中の置換基R4〜R6は炭素数1〜10のアルキル基であり、例えばメチル基、エチル基及びn−ブチル基等を挙げることができる。前記一般式(2)のシリルエノールエーテル化合物の一例として、2−(トリメチルシロキシ)プロペン、2−(トリメチルシロキシ)−2−ブテン、2−(トリメチルシロキシ)−1−ブテン、6−(トリメチルシロキシ)−5−ウンデセン、1−フェニル−1−(トリメチルシロキシ)エチレン、1−(トリメチルシロキシ)シクロヘキセン、1−(トリメチルシロキシ)−6−メチルシクロヘキセン、1−(トリメチルシロキシ)−2−メチルシクロヘキセン及び1−(トリメチルシロキシ)−4−t−ブチルシクロヘキセン等を挙げることができる。
【0030】
リチウム化合物は、有機リチウム化合物または金属リチウムであり、有機リチウムとして、例えば、メチルリチウム、n−ブチルリチウム、sec−ブチルリチウム及びt−ブチルリチウム等のアルキルリチウム化合物、リチウムジイソプロピルアミド及びリチウムビス(トリメチルシリル)アミド等のリチウムアミド化合物等を挙げることができる。なお、リチウムアミド化合物は、ジイソプロピルアミンまたはビス(トリメチルシリル)アミン等のアミン化合物とアルキルリチウム化合物を任意の順序で添加することにより、リチウムエノラート化合物を生成させる液中において生成させてもよい。前記一般式(1)のケトン化合物及び/または前記一般式(2)のシリルエノールエーテル化合物に対するリチウム化合物の使用量は、モル比で0.5〜2であり、好ましくは0.8〜1.2である。リチウム化合物の使用量が0.5未満の場合、リチウムエノラートの生成量が十分でなく、また、2を超える場合は、α−トリフルオロメチルケトン化合物の製造に用いた際、目的物の分解反応が進行して収率が低下する場合がある。
【0031】
また、前記一般式(3)のリチウムエノラート化合物は、前記一般式(1)のケトン化合物及び/または前記一般式(2)のシリルエノールエーテル化合物とリチウム化合物を溶媒の不在下に反応させてもよいが、通常、非プロトン性溶媒の存在下に反応させる。非プロトン性溶媒としては、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル類、ペンタン、ヘキサン等のアルカン類、ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素類を挙げることができる。反応温度は、特に限定されないが、通常、−100℃〜50℃である。リチウムエノラート化合物は単離してα−トリフルオロメチルケトン化合物の製造に用いてもよいが、ケトン化合物及び/またはシリルエノールエーテル化合物とリチウム化合物を反応させた反応液をα−トリフルオロメチルケトン化合物の製造に用いるのが簡便であり、リチウムエノラート化合物の分解等を招きにくい。
【0032】
次に、前記一般式(3)のリチウムエノラート化合物をヨウ化トリフルオロメタンと反応させる過程について説明する。
本発明では、前記一般式(3)のリチウムエノラート化合物をラジカル開始剤の存在下、ヨウ化トリフルオロメタンと反応させて前記一般式(4)のα−トリフルオロメチルケトン化合物を製造する。
【0033】
前記一般式(3)のリチウムエノラート化合物に対するヨウ化トリフルオロメタンの使用量は、特に限定されないが、通常、モル比で0.5〜30倍である。
【0034】
ラジカル開始剤は、ヨウ化トリフルオロメタンからトリフルオロメチルラジカルを発生し得るものであれば特に限定されるものではないが、例えば、トリエチルボラン、トリブチルボラン等のトリアルキルボラン化合物と分子状酸素、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物、ジt−ブチルパーオキサイド等のパーオキサイド化合物等を挙げることができる。これらのうち、トリアルキルボラン化合物と分子状酸素は、温和な条件でラジカルを発生できるため、α−トリフルオロメチルケトン化合物が収率よく得られ易く有利である。リチウムエノラート化合物に対するラジカル開始剤の使用量は、通常、モル比で0.01〜2倍である。なお、トリアルキルボラン化合物と分子状酸素の組み合わせの場合、トリアルキルボランを前記比率で添加する。分子状酸素は微量存在していれば十分である。
【0035】
また、前記一般式(3)のリチウムエノラート化合物とヨウ化トリフルオロメタンを反応させる際に非プロトン性溶媒を使用してもよい。非プロトン性溶媒としては、ペンタン、ヘキサン、オクタン、シクロヘキサン等のアルカン類、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族化合物類、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジn−ブチルエーテル、モノグライム、ジグライム、トリグライム、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、アニソール、ベラトロール等のエーテル類、ジエチルスルフィド、ジn−ブチルスルフィド等のスルフィド類、アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル類等を挙げることができる。
【0036】
前記一般式(3)のリチウムエノラート化合物とヨウ化トリフルオロメタンを反応させる際の反応温度は、特に限定されないが、通常、−100℃〜100℃である。反応圧力は、常圧または加圧下にて実施することができる。反応時間は通常、1秒〜10時間である。なお、反応は十分な攪拌下にて行うことが望ましい。
【0037】
また、前記一般式(3)のリチウムエノラート化合物、ラジカル開始剤、ヨウ化トリフルオロメタンの混合順は特に限定されないが、リチウムエノラート化合物とラジカル開始剤を混合後、ヨウ化トリフルオロメタンを添加する方法、あるいはリチウムエノラート化合物とヨウ化トリフルオロメタンを混合後、ラジカル開始剤を添加する方法が操作上簡便である。
【0038】
また、本発明の方法では、リチウムエノラート化合物に亜鉛化合物を添加し反応させることができる。亜鉛化合物の添加により、収率が向上する効果が認められる場合がある。
亜鉛化合物は、2価の原子価を有する亜鉛化合物であり、例えば、ジメチル亜鉛、ジエチル亜鉛、ジn−ブチル亜鉛、ジフェニル亜鉛、メチル沃化亜鉛及びジシアノ亜鉛等の有機亜鉛化合物、フッ化亜鉛、塩化亜鉛、臭化亜鉛、ヨウ化亜鉛等の亜鉛ハロゲン化物、硝酸亜鉛、硫酸亜鉛、燐酸亜鉛、炭酸亜鉛等の亜鉛酸素酸塩、酢酸亜鉛等の亜鉛有機酸塩、酸化亜鉛、水酸化亜鉛及び水素化亜鉛等を挙げることができる。これら亜鉛化合物のうち、有機亜鉛化合物、特にジエチル亜鉛等のジアルキル亜鉛がα−トリフルオロメチルケトン化合物の収率の点で好ましい。前記一般式(1)のケトン化合物及び/または前記一般式(2)のシリルエノールエーテル化合物に対する亜鉛化合物の使用量は、モル比で0.5〜2である。なお、亜鉛化合物の添加時期は特に限定されないが、通常、前記一般式(3)のリチウムエノラート化合物を生成させた後に添加し、ヨウ化トリフルオロメタン、ラジカル開始剤を加えて反応させる。
【0039】
また、本発明の方法では、亜鉛化合物に加え、更に、環状エーテル化合物を添加することができる。環状エーテル化合物の添加により更に収率が向上する場合がある。環状エーテル化合物としては、例えば、12−クラウン−4−エーテル、15−クラウン−5−エーテル、18−クラウン−6−エーテル等を挙げることができる。前記一般式(1)のケトン化合物及び/または前記一般式(2)のシリルエノールエーテル化合物に対する環状エーテル化合物の使用量は、モル比で0.5〜2である。環状エーテル化合物の添加時期は特に限定されないが、通常、前記一般式(3)のリチウムエノラート化合物を生成させ、亜鉛化合物に続いて添加し、ヨウ化トリフルオロメタン、ラジカル開始剤を加えて反応させせる。
【0040】
反応後は酢酸や塩酸等の酸あるいは水を添加し、反応試剤を失活させ、不溶物を除去した後、公知の蒸留法、再結晶法またはクロマト分離法等により前記一般式(4)のα−トリフルオロメチルケトン化合物を単離することができる。
実施例
以下に実施例を用いて本発明を詳細に説明するが、本発明はこの実施例によって限定されるものではない。
【実施例1】
【0041】
シュレンク管にテトラヒドロフラン 2ml、ジイソプロピルアミン 28μlを入れ、ドライアイス−メタールバスで冷却し、液温を−78℃とした。次に、1.58mol/L n−ブチルリチウムヘキサン溶液 0.13ml(0.20mmol)を添加し、0℃で30分攪拌後した。再び−78℃とし、シクロヘキサノン 20.7μl(0.20mmol)を添加し、60分攪拌した。次に、ヨウ化トリフルオロメタン 200mg(1.0mmol)を添加し、次いで、1mol/L トリエチルボラン/ヘキサン溶液 0.2ml(0.2mmol)を15秒で添加し反応を開始させた。60分後、5mol/l 酢酸 テトラヒドロフラン溶液 0.12mlを添加し反応を停止させた。反応液をベンゾトリフルオライドを内部標準として、19F−NMRにて分析したところ、2−(トリフルオロメチル)シクロヘキサノンの収率は80%であった。
【実施例2】
【0042】
シュレンク管にテトラヒドロフラン 2ml、1−(トリメチルシロキシ)シクロヘキセン 38.9μl(0.2mmol)を入れ、0℃に冷却し、1.58mol/L n−ブチルリチウムヘキサン溶液 0.13ml(0.20mmol)を添加し、30分攪拌した。
次に−78℃に冷却し、ヨウ化トリフルオロメタン 200mg(1.0mmol)を添加し、次いで、1mol/L トリエチルボラン/ヘキサン溶液 0.2ml(0.2mmol)を15秒で添加し反応を開始させた。2時間後、5mol/l 酢酸 テトラヒドロフラン溶液 0.12mlを添加し反応を停止させた。反応液をベンゾトリフルオライドを内部標準として、19F−NMRにて分析したところ、2−(トリフルオロメチル)シクロヘキサノンの収率は77%であった。
【実施例3】
【0043】
シクロヘキサノンを4−t−ブチルシクロヘキサノン 31mg(0.2mmol)に変え、反応時間を1秒とした以外は実施例1と同様に反応させた。反応液をベンゾトリフルオライドを内部標準として、19F−NMRにて分析したところ、2−(トリフルオロメチル)−4−t−ブチルシクロヘキサノンの収率は71%であった。
【実施例4】
【0044】
シュレンク管にテトラヒドロフラン 2ml、ジイソプロピルアミン 45μlを入れ、ドライアイス−メタールバスで冷却し、液温を−78℃とした。次に、1.58mol/L n−ブチルリチウムヘキサン溶液 0.20ml(0.36mmol)を添加し、0℃で30分攪拌後した。再び−78℃とし、シクロヘキサノン 20.7μl(0.20mmol)を添加し、30分攪拌した。次に、ヨウ化トリフルオロメタン 200mg(1.0mmol)を添加し、次いで、1mol/L トリエチルボラン/ヘキサン溶液 0.2ml(0.2mmol)を15秒で添加し反応を開始させた。30分後、5mol/l 酢酸 テトラヒドロフラン溶液 0.12mlを添加し反応を停止させた。
【0045】
反応液をベンゾトリフルオライドを内部標準として、19F−NMRにて分析したところ、2−(トリフルオロメチル)シクロヘキサノンの収率は41%であった。
【実施例5】
【0046】
シュレンク管にテトラヒドロフラン 2ml、1−(トリメチルシロキシ)シクロペンテン 31mg(0.2mmol)を入れ、0℃に冷却し、1.0mol/L メチルリチウム ジエチルエーテル溶液 0.20ml(0.20mmol)を添加し、30分攪拌した。
【0047】
次に−78℃に冷却し、ヨウ化トリフルオロメタン 200mg(1.0mmol)を添加し、次いで、1mol/L トリエチルボラン/ヘキサン溶液 0.2ml(0.2mmol)を15秒で添加し、反応を開始させた。20時間後、5mol/l 酢酸 テトラヒドロフラン溶液 0.12mlを添加し反応を停止させた。反応液をベンゾトリフルオライドを内部標準として、19F−NMRにて分析したところ、2−(トリフルオロメチル)シクロペンタノンの収率は40%であった。
【実施例6】
【0048】
シュレンク管にテトラヒドロフラン 1ml、1−(トリメチルシロキシ)シクロペンテン 31mg(0.2mmol)を入れ、0℃に冷却し、1.0mol/L メチルリチウム ジエチルエーテル溶液 0.20ml(0.20mmol)を添加し、30分攪拌した。
【0049】
次に、1.0mol/Lジエチル亜鉛ヘキサン溶液 0.20ml(0.20mmol)を添加し、30分攪拌した。
【0050】
次に−78℃に冷却し、ヨウ化トリフルオロメタン 400mg(2.0mmol)を添加し、次いで、1mol/L トリエチルボラン/ヘキサン溶液 0.2ml(0.2mmol)を添加し、空気0.5mlをシリンジで加え反応を開始させた。2時間後、5mol/l 酢酸 テトラヒドロフラン溶液 0.12mlを添加し反応を停止させた。反応液をベンゾトリフルオライドを内部標準として、19F−NMRにて分析したところ、2−(トリフルオロメチル)シクロペンタノンの収率は50%であった。
【実施例7】
【0051】
シュレンク管にテトラヒドロフラン 2ml、6−(トリメチルシロキシ)−5−ウンデセン 48mg(0.2mmol)を入れ、0℃に冷却し、1.0mol/L メチルリチウム ジエチルエーテル溶液 0.20ml(0.20mmol)を添加し、30分攪拌した。次に−78℃に冷却し、ヨウ化トリフルオロメタン 200mg(1.0mmol)を添加し、次いで、1mol/L トリエチルボラン/ヘキサン溶液 0.2ml(0.2mmol)を15秒で添加し、反応を開始させた。20時間後、5mol/l 酢酸 テトラヒドロフラン溶液 0.12mlを添加し反応を停止させた。反応液をベンゾトリフルオライドを内部標準として、19F−NMRにて分析したところ、5−(トリフルオロメチル)−6−ウンデカノンの収率は35%であった。
【実施例8】
【0052】
シュレンク管にテトラヒドロフラン 1ml、6−(トリメチルシロキシ)−5−ウンデセン 48mg(0.2mmol)を入れ、0℃に冷却し、1.0mol/L メチルリチウム ジエチルエーテル溶液 0.20ml(0.20mmol)を添加し、30分攪拌した。次に、1.0mol/Lジエチル亜鉛ヘキサン溶液 0.20ml(0.20mmol)を添加し、30分攪拌した。次に−78℃に冷却し、ヨウ化トリフルオロメタン 400mg(2.0mmol)を添加し、次いで、1mol/L トリエチルボラン/ヘキサン溶液 0.2ml(0.2mmol)を添加し、空気0.5mlをシリンジで加え反応を開始させた。20時間後、5mol/l 酢酸 テトラヒドロフラン溶液 0.12mlを添加し反応を停止させた。反応液をベンゾトリフルオライドを内部標準として、19F−NMRにて分析したところ、5−(トリフルオロメチル)−6−ウンデカノンの収率は74%であった。
【実施例9】
【0053】
シュレンク管にテトラヒドロフラン 1ml、6−(トリメチルシロキシ)−5−ウンデセン 48mg(0.2mmol)を入れ、0℃に冷却し、1.0mol/L メチルリチウム ジエチルエーテル溶液 0.20ml(0.20mmol)を添加し、30分攪拌した。次に、1.0mol/Lジエチル亜鉛ヘキサン溶液 0.20ml(0.20mmol)を加えて20分攪拌後、12−クラウン−4−エーテル 35mg(0.20mmol)を添加し、30分攪拌した。次に−78℃に冷却し、ヨウ化トリフルオロメタン 400mg(2.0mmol)を添加し、次いで、1mol/L トリエチルボラン/ヘキサン溶液 0.2ml(0.2mmol)を添加し、空気0.5mlをシリンジで加え反応を開始させた。20時間後、5mol/l 酢酸 テトラヒドロフラン溶液 0.12mlを添加し反応を停止させた。反応液をベンゾトリフルオライドを内部標準として、19F−NMRにて分析したところ、5−(トリフルオロメチル)−6−ウンデカノンの収率は86%であった。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明により、工業的に入手可能なヨウ化トリフルオロメタンを用いて、高収率でα−トリフルオロメチルケトン化合物を製造することができる。α−トリフルオロメチルケトン化合物は、電子材料、医農薬原料として極めて有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(3)
【化1】

(式中、R1は、置換ないし未置換の炭素数1〜20のアルキル基または置換ないし未置換の炭素数6〜20のアリール基を表し、R2及びR3は、それぞれ独立に、水素原子、置換ないし未置換の炭素数1〜20のアルキル基または置換ないし未置換の炭素数6〜20のアリール基を表す。R1〜R3は同一であっても非同一であってもよく、任意の2個がヘテロ原子の介在、非介在下に互いに結合し環状構造を形成していても良い。)
で表されるリチウムエノラート化合物を、ラジカル開始剤存在下、ヨウ化トリフルオロメタンと反応させることを特徴とする、一般式(4)
【化2】

(式中、R1〜R3は前記定義に同じ)
で表されるα−トリフルオロメチルケトン化合物の製造方法。
【請求項2】
ラジカル開始剤がトリアルキルボラン化合物及び分子状酸素であることを特徴とする請求項1に記載のα−トリフルオロメチルケトン化合物の製造方法。
【請求項3】
前記一般式(3)のリチウムエノラートが、一般式(1)
【化3】

(式中、R1〜R3は前記定義に同じ)
で表されるケトン化合物及び/または一般式(2)
【化4】

(式中、R1〜R3は、前記定義に同じ。R4〜R6は同一または非同一の炭素数1〜10のアルキル基を表す。)
で表されるシリルエノールエーテル化合物と、モル比で0.8〜1.2倍のリチウム化合物との反応によって得られるリチウムエノラートであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のα−トリフルオロメチルケトン化合物の製造方法。
【請求項4】
リチウム化合物がアルキルリチウム化合物及び/またはリチウムアミド化合物であることを特徴とする請求項3に記載のα−トリフルオロメチルケトンの製造方法。
【請求項5】
亜鉛化合物を存在させて反応させることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のα−トリフルオロメチルケトン化合物の製造方法。
【請求項6】
亜鉛化合物がジアルキル亜鉛であることを特徴とする請求項5に記載のα−トリフルオロメチルケトン化合物の製造方法。
【請求項7】
亜鉛化合物に加え、更に環状エーテル化合物を存在させることを特徴とする請求項5または6に記載のα−トリフルオロメチルケトン化合物の製造方法。

【公開番号】特開2007−169271(P2007−169271A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−316436(P2006−316436)
【出願日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2005年10月7日 インターネットアドレス(http://pubs.acs.org/journals/orlef7/)にて発表
【出願人】(591180358)東ソ−・エフテック株式会社 (91)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】