説明

α−フルオロマロン酸ジアルキルエステルの製造方法

本発明は、α−フルオロマロン酸ジアルキルエステルを調製するための新規で有利な方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、α−フルオロマロン酸ジアルキルを調製するための新規で有利な方法に関する。
【背景技術】
【0002】
α−フルオロマロン酸ジアルキルは、例えば、4,6−ジクロロ−5−フルオロピリミジンの調製において使用される、中間体である(cf. EP−A−0970057)。4,6−ジクロロ−5−フルオロピリミジンは、植物保護剤として使用される活性化合物を調製するための重要な中間体である(cf. EP−A−0882043 及び EP−A−0937050)。
【0003】
構造(I)で表されるα−フルオロ−β−ケトエステルが、構造(II)で表されるα−クロロ−β−ケトエステルから出発して、加圧下、103℃〜130℃の温度で、フッ化水素とトリアルキルアミンの付加生成物と反応させることにより得ることができるということは、既に知られている。
【0004】
【化3】

【0005】
この方法の根本的な欠点は、加圧下で作業を行うことで、装置にかかる費用が増大すること、及び、特別な技術的安全対策が必要であるということである。このような理由により、この方法は工業的用途には適していない。
【0006】
別の方法(cf. DE−A−4237882)では、構造(B)で表されるα−フルオロ−β−ジカルボニル化合物の調製は、構造(A)で表されるジカルボニル化合物から出発して、20℃〜100℃の温度で、フッ化水素とトリアルキルアミンの付加生成物と反応させることにより行われる。
【0007】
【化4】

【0008】
α−フルオロマロン酸ジアルキルを調製するための上記方法の短所は、大過剰量のフッ化水素及びトリエチルアミンを使用しているにもかかわらず、その反応時間が72時間と長いことである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、僅かに過剰な量のフッ化水素及びトリエチルアミンしか使用しないにもかかわらず、高圧にすることなく、良好な収率での調製と反応時間の短縮を可能とするα−フルオロマロン酸ジアルキルの調製方法を提供することである。これは、空時収率が改善されることを意味する。特に、出発物質の消費量を低減することにより環境に対してさらに優しい方法を見いだすことが必要である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
一般構造(I):
【0011】
【化5】

[式中、
は、1〜4個の炭素原子を有するアルコキシを表し;
及び、
は、水素又はフッ素を表す]
で表されるα−フルオロマロン酸ジアルキルが、
一般構造(II):
【0012】
【化6】

[式中、
は、上記で記載した意味を有し;
及び、
は、水素、フッ素又は塩素を表す]
で表されるジカルボニル化合物を、103℃〜115℃の温度で、フッ化水素とトリエチルアミンの付加生成物と反応させることにより得られるということが見いだされた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
構造(II)で表される化合物において、Rは、特に、メトキシ又はエトキシを表す。
【0014】
構造(II)で表される化合物において、Rは、最も特別には、エトキシを表す。
【0015】
構造(I)で表される化合物において、Rは、特に、水素を表す。
【0016】
上記で引用されているか又は好ましい範囲において記載されている残基の定義は、構造(II)の出発化合物とそれに対応する構造(I)の最終生成物の両方に当てはまる。
【0017】
僅かに過剰な量のフッ化水素とトリエチルアミンを使用して常圧下で実施する本発明の方法を用いて、空時収率を10倍まで改善し得るということは、極めて驚くべきであると思われる。当業者は、高温では一部分解してその結果収率が低くなると予想しているので、常圧低温下で実施される当技術分野で記述されている方法を用いた場合と同じくらい良好な収率でα−フルオロマロン酸ジアルキルが得られるということは、特に驚くべきことである。
【0018】
該反応方法は、多くの有利点を示す。α−フルオロマロン酸ジアルキルは、常圧下で、既知方法により、標準的な反応時間のフラクションの中に得られる。本発明の方法では、反応時間は15時間であるが、既知方法では、72時間の反応時間が必要である(cf. DE−A4237892)。反応を常圧下で実施することができるにもかかわらず、良好な空時収率が達成されるということは、特に重要である。さらに別の有利点は、比較的反応時間が短いにもかかわらず、僅かに過剰な量のフッ化水素及びトリエチルアミンしか必要としないことである。従って、この新規方法は、工業的に使用するのに特に適している。
【0019】
一般構造(II)で表されるジカルボニル化合物及び他の全ての出発化合物は、商業的に入手可能な生成物であるか、又は、商業的に入手可能な生成物から簡易な方法で調製することができる。
【0020】
本発明の方法を実施する場合、通常使用されるフッ化水素とトリエチルアミンの付加生成物は、トリエチルアミン1モル当たり、1〜2モルのフッ化水素を含んでおり、好ましくは、1.2〜1.8モルのフッ化水素、最も好ましくは、1.4〜1.5モルのフッ化水素を含んでいる。
【0021】
本発明の方法を実施する場合、構造(III)の出発物質1モル当たり、フッ化水素との付加生成物として1〜4モルのトリエチルアミンを使用し、好ましくは、1.2〜2.5モルのトリエチルアミン、さらに好ましくは、1.4〜2モルのトリエチルアミンを使用する。
【0022】
フッ化水素とトリエチルアミンの付加生成物は、液体フッ化水素にトリエチルアミンを添加することによりその場で調製することができる。あるいは、フッ化水素とトリエチルアミンの付加生成物は、トリエチルアミンにフッ化水素を添加することによりその場で調製することができる。
【0023】
本発明の方法を実施する場合、反応温度は、狭い範囲で変えることができる。一般に、103℃〜115℃の温度を使用し、好ましくは、105℃〜110℃の温度を使用する。
【0024】
本発明の方法は、常圧下で実施する。本発明との関連において、常圧は、800〜1200ミリバールであると理解される。
【0025】
一般に、本発明の方法は以下のように実施する: 反応容器内で、フッ化水素とトリエチルアミンの付加生成物を準備する。一般構造(II)のジカルボニル化合物を即座に添加するか、又は、加温しながら添加する。次いで、得られた反応混合物を105℃〜110℃に加熱し、撹拌する。次いで、その反応混合物を冷却し、水で処理する。有機相を分離させ、必要に応じて蒸留する。水から生成物を良好に分離するためには、抽出溶媒を1回使用するか又は多重に使用するのが有利であり得る。例えば、キシレン、トルエン又は塩化メチレンを使用することができる。
【0026】
好ましくは、最適の収率が達成されるまで、上記温度で撹拌を継続する。
【0027】
本発明の方法は、例えば、α−フルオロマロン酸ジエチルの調製において使用可能であり、ここで、α−フルオロマロン酸ジエチルは、例えば、4,6−ジクロロ−5−フルオロピリミジンの調製における中間体として使用することができる(cf. EP−A−970057)。4,6−ジクロロ−5−フルオロピリミジンは、フッ素で置換されているヘテロ環(ここで、該ヘテロ環は、例えば、生物学的に活性であるか、又は、植物保護剤の中間体として興味深い)の調製に使用することができる(cf. N.Ishikawa, J.Fluorine Chem. 1984, 25, 203, 又は EP−A970057)。
【実施例】
【0028】
以下の実施例は、本発明を例証するためのものである。しかしながら、本発明は、以下の実施例に限定されることはない。
【0029】
調製実施例
実施例1
α−フルオロマロン酸ジエチル
【0030】
【化7】

【0031】
137g(0.85mol)のトリエチルアミン−トリスヒドロフルオリドを調製する。86g(0.85mol)のトリエチルアミンを80℃で添加する。次いで、195g(1mol)のα−クロロマロン酸ジエチルを80℃で2時間かけて添加する。常圧下、還流温度(105〜110℃)で撹拌を15時間継続する。反応生成物を単離するために、200gのキシレンを60℃で反応混合物に添加した後、215gの水を添加し、60℃で相を分離させる。水相を100gでキシレンで抽出する。
【0032】
2つの有機相を合し、減圧下で蒸留する。第一のフラクションはキシレンである。第二のフラクション(156g)は、96%の含有量でα−フルオロマロン酸ジエチルを含んでいる。これは、0.84モルであり、即ち、収率84%である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般構造(I):
【化1】

[式中、
は、1〜4個の炭素原子を有するアルコキシを表し;
及び、
は、水素又はフッ素を表す]
で表される化合物を調製する方法であって、
一般構造(II):
【化2】

[式中、
は、上記で記載した意味を有し;
及び、
は、水素、フッ素又は塩素を表す]
で表される化合物を、常圧下、103℃〜115℃の温度で、フッ化水素とトリエチルアミンの付加生成物と反応させることを特徴とする、前記方法。
【請求項2】
構造(I)の化合物及び構造(II)の化合物において、Rがメトキシ又はエトキシを表すことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
構造(I)及び構造(II)において、R及びRが、いずれの場合も、水素を表すことを特徴とする、請求項1〜2の少なくとも1項に記載の方法。
【請求項4】
105℃〜110℃の温度で実施することを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
フッ化水素とトリエチルアミンの付加生成物が、トリエチルアミン1モル当たり1〜2モルのフッ化水素を含んでいることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
構造(II)の化合物に対して、1〜4モルのトリエチルアミンを使用することを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。

【公表番号】特表2007−502793(P2007−502793A)
【公表日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−523586(P2006−523586)
【出願日】平成16年8月13日(2004.8.13)
【国際出願番号】PCT/EP2004/009117
【国際公開番号】WO2005/019154
【国際公開日】平成17年3月3日(2005.3.3)
【出願人】(302063961)バイエル・クロツプサイエンス・アクチエンゲゼルシヤフト (524)
【Fターム(参考)】