説明

α−1,6−フコシルトランスフェラーゼの発現のSHRNA媒介抑制

本発明は、哺乳動物細胞において減少した程度のフコース改変を伴う異種ポリペプチドを産生するための方法であって、哺乳動物細胞を該異種ポリペプチドの発現に適当な条件下に培養しそして哺乳動物細胞または培養物から該異種ポリペプチドを回収し、その際哺乳動物細胞においてα1,6−フコシルトランスフェラーゼの酵素活性を、α1,6−フコシルトランスフェラーゼmRNAを指向するshRNAにより減少させる、ことを含む方法を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、RNAiの分野に関する。更に詳しくは、本発明は、診断抗体または治療抗体などのリコンビナントに産生されたタンパク質の改変を触媒する酵素の翻訳を減少させる分野に関する。
【0002】
発明の背景
RNAi媒介遺伝子サイレンシングの現象は、長い二本鎖RNA分子のマイクロインジェクションがそれぞれの遺伝子の不活性化をもたらすことが報告されたCaenorhabiditis elegans系において最初に記載された(US6,506,559)。その後に、RNAi媒介遺伝子サイレンシングは、脊椎動物(EP1114784)、哺乳動物、特にヒト細胞(EP1144623)において開示されている。これらの系において、もし19〜29bpの短い二本鎖RNA分子が関心のある特異的遺伝子を一時的にノックダウンするためにトランスフェクションされるならば、遺伝子不活性化は成功裡に達成される。
【0003】
RNA媒介遺伝子不活性化の機構は、これまで研究された種々の生物において僅かに異なると思われる。しかしながら、すべての系において、RNA媒介遺伝子サイレンシングは、いわゆるRISC複合体の一部であるエンドヌクレアーゼアルゴノート2により誘導されるターゲットmRNAの転写後分解に基づいている(WO03/93430)。分解の配列特異性は、RISC複合体にロードされた特異的アンチセンスRNA鎖のヌクレオチド配列により決定される。
【0004】
導入の適切な可能性は、二本鎖RNA分子自体をトランスフェクションすることまたは、ターゲットRNA分子の一部と同一である配列を有する短い二本鎖RNA化合物を直接生じさせるDNAベクター構築物のin vivo転写を含む。多くの場合に、いわゆるshRNA構築物が、遺伝子サイレンシングのために成功裏に使用された。これらの構築物は、ステムーループRNAをコードしており、それは、細胞への導入後に二本鎖RNA化合物にプロセシングされ、その配列は元のRNA分子のステム(stem)に対応することを特徴とする。
【0005】
IgG1型免疫グロブリンは、位置Asn297においてまたはある場合には位置Asn298において、Fc領域に結合した2つのN−連結されたオリゴ糖鎖を有する。N−連結されたオリゴ糖は、一般にコア(core)フコースが存在するかまたは存在しないトリマンノシルコア構造からなる複合二分岐型(complex biantennary type)である(Rademacher, T.W., et al., Biochem.Soc.Symp.51(1986)131-148; Umana, P., et al., Nature Biotechnol. 17(1999) 176-180; Okazaki, A, et al., J. Mol. Biol. 336(2004)1239-1249; Shinkawa, T., et al., J. Biol. Chem. 278(2003)3466-3473)。
【0006】
US2004/0132140およびUS2004/0110704は、リコンビナント抗体を発現する細胞系内でα1,6−フコシルトランスフェラーゼを阻害するためにリコンビナント法または遺伝的方法を報告している。
【0007】
発明の要約
本発明は、哺乳動物細胞における減少した程度のフコース改変を伴う異種(heterologus)ポリペプチドを産生するための方法であって、
−異種ポリペプチドの発現のために適当な条件下に哺乳動物細胞を培養し、
−該哺乳動物細胞または培養物から異種ポリペプチドを回収する、
ことを含み、
該哺乳動物細胞は、α1,6−フコシルトランスフェラーゼmRNAを指向するshRNAに転写される配列番号5または配列番号6の核酸、および異種ポリペプチドをコードする核酸、好ましくは異種ポリペプチドとして免疫グロブリン、免疫グロブリンフラグメントまたは免疫グロブリンコンジュゲートをコードする核酸によりトランスフェクションされる、
方法を含む。
【0008】
1つの態様においては、shRNAの転写は、PolIIIプロモーター、好ましくはU6プロモーターのコントロール下にある。1つの態様においては、哺乳動物細胞は、ネオマイシン選択マーカーをコードする核酸で更にトランスフェクションされる。1つの態様においては、哺乳動物細胞はCHO由来の細胞である。1つの態様においては、哺乳動物細胞は、α1,6−フコシルトランスフェラーゼを指向するshRNAに転写される配列番号5または配列番号6の第1核酸およびネオマイシン選択マーカーをコードする第2核酸、および異種ポリペプチドをコードする第3核酸を含む単一核酸によりトランスフェクションされる。
【0009】
本発明は、更に、配列番号5または配列番号6の核酸から選ばれる第1核酸、ネオマイシン選択マーカーをコードする第2核酸、および免疫グロブリン、免疫グロブリンフラグメントまたは免疫グロブリンコンジュゲートを含む異種ポリペプチドの群から選ばれる異種ポリペプチドをコードする第3核酸を含む核酸を更に含む。
【0010】
本発明は、本発明に従う核酸を含む細胞も報告する。
【0011】
発明の詳細な説明
本発明は、shRNAに転写される核酸および異種ポリペプチドをコードする核酸を含む哺乳動物細胞において、減少した程度のフコース改変を伴う該異種ポリペプチドをリコンビナントに産生するための方法であって、哺乳動物細胞を前記核酸でトランスフェクションし、トランスフェクションされた哺乳動物細胞を該異種ポリペプチドの発現に適当な条件下に培養しそして哺乳動物細胞または培養物から該異種ポリペプチドを回収することを含み、その際哺乳動物細胞においてα1,6−フコシルトランスフェラーゼの酵素活性を、α1,6−フコシルトランスフェラーゼmRNAを指向する転写されたshRNAによって減少させることを含む。
【0012】
驚くべきことに、shRNAに転写される配列番号5または配列番号6の核酸によって、既知の方法に比較して減少した程度のフコース改変を伴う免疫グロブリン、免疫グロブリンフラグメントまたは免疫グロブリンコンジュゲートを、前記核酸を含む哺乳動物細胞の培養により得ることができることが見出された。
【0013】
本発明は、更に、配列番号5および6から選ばれるα1,6−フコシルトランスフェラーゼに向けたshRNAを転写するための(第1)発現カセット、ネオマイシン選択マーカーを発現するための(第2)発現カセットおよび異種ポリペプチドを発現するための(第3)発現カセットを含む核酸を含む。
【0014】
本発明は、更に本発明に従う核酸を含む哺乳動物細胞を含む。
【0015】
本発明を実施するために有用な当業者により知られている方法および技術は、例えば、Ausubel, F.M., ed., Current Protocols in Molecular Biology, Volumes I to III(1997; Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Second Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N. Y. (1989); Glover, N.D., and Hames, B.D., ed., DNA Cloning: A Practical Approach, Volumes I and II(1995), Oxford University Press; Freshney, R.I.(ed), Animal Cell Culture - a practical approach, IRL Press(1986);Watson, J.D., et al., Recombinant DNA, Second Edition, CHSL Press(1992); Winnacker, E. L.., From Genes to Clones, N.Y., VCH Publishers(1987); Celis, J., ed., Cell Biology, Second edition, Academic Press (1998); Freshney, R.L., Culture of Animal Cells: A Manual of Basic Techniques, Second Edition, Alan R. Liss, Inc., N. Y. (1987)。
【0016】
リコンビナントDNA技術の使用は、核酸および/またはポリペプチドの多数の誘導体の産生を可能とする。このような誘導体は、例えば、1つの個々の位置またはいくつかの位置で置換、変化、交換、欠失または挿入により改変されうる。改変または誘導体化は、部位特異的突然変異誘発によって行われうる。このような改変は、当業者により容易に行われうる(例えば、Smbrook, J., et al., Molecular Cloning: A Laboratory manual(1989) Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York, USA; Hames, B.D., and Higgins, S.G., Nucleic acid hybridization-a practical approach(1985) IRL Press, Oxford, England)参照)。
【0017】
リコンビナント技術の使用は、種々のホスト細胞の1種以上の異種核酸によるトランスフォーメーションを可能とする。異なる細胞の転写および翻訳、即ち発現、装置は、同じエレメントを使用するけれども、異なる種に属する細胞は、とりわけ、異なるいわゆるコドン用法(codon usage)を有することができる。その際同じポリペプチド(アミノ酸配列に関して)が異なる核酸(1つまたは複数)によりコードされうる。遺伝コードの縮重により、異なる核酸が同じポリペプチドをコードすることができる。
【0018】
本明細書で使用された「核酸」は、ポリヌクレオチド分子、例えば、DNA、RNAまたはその改変を指す。このポリヌクレオチド分子は、天然に存在するポリヌクレオチド分子または合成ポリヌクレオチド分子あるいは1種以上の天然に存在するポリヌクレオチド分子の1種以上の合成ポリヌクレオチド分子との組み合わせであることができる。1つ以上のヌクレオチドが、例えば突然変異誘発により変えられているか、欠失しているかまたは付加されている天然に存在するポリヌクレオチド分子もこの定義により包含される。核酸は、単離されうるか、または他の核酸、例えば発現カセット、プラスミドまたはホスト細胞の染色体に組み込まれることができる。核酸は、個々のヌクレオチドからなるその核酸配列により同様に特徴付けられる。
【0019】
例えば、ポリペプチドのアミノ酸配列を、該アミノ酸配列をコードする対応する核酸配列に転換するための手順および方法は、当業者に周知されている。したがって、核酸は、個々のヌクレオチドからなるその核酸配列により特徴付けられそしてそれによりコードされたポリペプチドのアミノ酸配列により同様に特徴付けられる。
【0020】
用語「プラスミド」は、例えばシャトルおよび発現プラスミド/ベクターならびにトランスフェクションプラスミド/ベクターを含む。用語「プラスミド」および「ベクター」は、本願においては相互に交換可能に使用される。典型的には、「プラスミド」は、それぞれ、バクテリアにおけるベクター/プラスミドの複製および選択のための、複製の起点(例えばColE1またはoriP複製起点)および選択マーカー(例えばアンピシリン、カナマイシン、テトラサイクリンまたはクロラムフェニコール選択マーカー)も含むであろう。
【0021】
「発現カセット」は、細胞における少なくとも含有された核酸、例えば構造遺伝子の発現のための、プロモーターおよびポリアデニル化部位などの必要な調節エレメントを含有する構築物を指す。例えば発現されたポリペプチドの分泌を可能とする場合により追加のエレメントが含有されうる。含有された核酸が転写後に更にポリペプチドに翻訳されないが、例えばshRNAを形成するならば、用語発現カセットを使用することも本発明の範囲内にある。
【0022】
「構造遺伝子」は、シグナル配列なしの遺伝子のコード領域を示す。
【0023】
「遺伝子」は、ポリペプチドまたはタンパク質の発現のために必要な例えば染色体またはプラスミドにおける核酸セグメントを示す。コード領域の他に、遺伝子は、プロモーター、イントロン、ターミネーターおよび場合によりリーダーペプチドを含む他の機能的エレメントを含む。
【0024】
「選択マーカー」は、選択マーカーを有する細胞が対応する選択剤の存在下に、そのためにまたはそれに対して特異的に選択されることを可能とする核酸である。有用な正の選択マーカーは、抗生物質耐性遺伝子である。この選択マーカーは、それでトランスフォーメーションされたホスト細胞が対応する選択剤、例えば抗生物質の存在下に正に選択されることを可能とする。トランスフォーメーションされていないホスト細胞は、培養物において選択的条件下に成長または生存することができない。選択マーカーは、正、負または二機能性であることができる。正の選択マーカーは、マーカーを有する細胞の選択を可能とするが、これに対して負の選択マーカーは、マーカーを有する細胞が選択的に除去されることを可能とする。典型的には、選択マーカーは、薬物に対する耐性を与えるかまたはホスト細胞における代謝または異化欠陥を相補するであろう。真核細胞で使用される選択マーカーは、例えば、ハイグロマイシン(hyg)、ネオマイシン(neo)およびG418選択マーカーなどのアミノグリコシドホスホトランスフェラーゼ(APH)、ジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)、チミジンキナーゼ(tk)、グルタミンシンターゼ(GS)、アスパラギンシンターゼ、トリプトファンシンターゼ(選択剤インドール)、ヒスチジノールデヒドロゲナーゼ(選択剤ヒスチジノールD)のための遺伝子、およびプロマイシン、ブレオマイシン、フレオマイシン、クロラムフェニコール、ゼオシンおよびマイコフェノール酸に対する耐性を与える核酸を含む。更なるマーカー遺伝子は、例えばWO92/08796およびWO94/28143に記載されている。
【0025】
本明細書で使用された用語「発現」は、細胞内で起こる転写および/または翻訳プロセスを指す。ホスト細胞中の所望の産物の転写のレベルは、細胞内に存在する対応するmRNAの量に基づいて決定されうる。例えば、関心のある配列から転写されたmRNAは、PCRまたはノーザンハイブリダイゼーションにより定量されうる(Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press, (1989)参照)。関心のある核酸によりコードされたポリペプチドは、種々の方法により、例えば、ELISAにより、ポリペプチドの生物学的活性をアッセイすることにより、またはポリペプチドを認識しそしてポリペプチドに結合する免疫グロブリンを使用する、ウエスタンブロッティングまたはラジオイムノアッセイなどのこのような活性から独立したアッセイを使用することにより定量されうる(Sambrook et al., 1989, 上記参照)。
【0026】
「異種ポリペプチドの発現に適当な条件下」という用語は、哺乳動物細胞にトランスフェクションされた核酸によりコードされている異種ポリペプチドを発現するために哺乳動物細胞の培養のために使用され、そして当業者に周知されているかまたは当業者により容易に決定されうる条件を指す。これらの条件は、培養される哺乳動物細胞のタイプおよび発現されるタンパク質のタイプに依存して変わることができる。一般に、哺乳動物細胞は、例えば20℃〜40℃の温度で、有効なタンパク質産生を可能とするのに十分な期間、例えば4〜28日間培養される。
【0027】
用語「細胞」または「ホスト細胞」は、例えば異種ポリペプチドをコードするかまたはshRNAを構成する核酸が導入/トランスフェクションされうるかまたはされる細胞を指す。ホスト細胞は、ベクター/プラスミドの増殖のために使用される原核細胞および核酸の発現のために使用される真核細胞の両方を含む。好ましくは、真核細胞は哺乳動物細胞である。好ましくは哺乳動物(ホスト)細胞は、CHO細胞(例えば、CHO K1もしくはCHO DG44)、BHK細胞、NS0細胞、SP2/0細胞、HEK 293細胞、HEK 293 EBNA細胞、PER.C6細胞またはCOS細胞のような哺乳動物細胞から選ばれる。好ましくは、哺乳動物細胞は、ハイブリドーマ、ミエローマおよびげっ歯類細胞を含む群から選ばれる。ミエローマ細胞は、ラットミエローマ細胞(例えば、YB2)およびマウスミエローマ細胞(例えば、NS0、SP2/0)を含む。
【0028】
「ポリペプチド」は、天然に産生されようが合成により産生されようが、ペプチド結合により連結されたアミノ酸からなるポリマーである。約20未満のアミノ酸残基のポリペプチドは、「ペプチド」と言われうるが、2つ以上のポリペプチドからなるかまたは100より多くのアミノ酸残基の1つのポリペプチドを含む分子は、「タンパク質」と呼ばれうる。ポリペプチドは、炭水化物基、金属イオンまたはカルボン酸エステルなどの非アミノ酸成分を含むこともできる。非アミノ酸成分は、ポリペプチドを産生する細胞により加えることができ、そして細胞のタイプとともに変わることができる。ポリペプチドは、それらのアミノ酸バックボーン構造によってここでは定義される。炭水化物基などの付加は、一般に特定されないが、それにもかかわらず存在することができる。
【0029】
本願内で使用される用語「アミノ酸」は、直接または前駆体の形態で核酸によりコードされうるカルボキシα−アミノ酸の群を示し、該カルボキシα−アミノ酸は、アラニン(三文字コード:ala、一文字コード:A)、アルギニン(arg、R)、アスパラギン(asn、N)、アスパラギン酸(asp、D)、システイン(cys、C)、グルタミン(gln、Q)、グルタミン酸(glu、E)、グリシン(gly、G)、ヒスチジン(his、H)、イソロイシン(ile、I)、ロイシン(leu、L)、リシン(lys、K)、メチオニン(met、M)、フェニルアラニン(phe、F)、プロリン(pro、P)、セリン(ser、S)、トレオニン(thr、T)、トリプトファン(trp、W)、チロシン(tyr、Y)およびバリン(val、V)を含む。
【0030】
本明細書で使用された用語「免疫グロブリン」は、免疫グロブリン遺伝子により実質的にコードされている1種以上のポリペプチドからなるタンパク質を示す。この定義は、突然変異した形態、即ち1個以上のアミノ酸の置換、欠失および挿入を伴う形態、トランケーションされた(truncated)形態、融合した形態、キメラ形態およびヒト化形態などの変異体を含む。認識された免疫グロブリン遺伝子は、異なる定常領域遺伝子および例えば霊長類およびげっ歯類からのミリアド免疫グロブリン可変領域遺伝子(myriad immunoglobulin variable region genes)を含む。免疫グロブリンは、例えば、Fv、Fab、および(Fab)、および一本鎖(scFV)を含む種々の形態で存在することができる(例えば、Huston, J.S., et al., Proc. Natal. Acad. Sci. USA 85 (1988)5879-5883; Bird, R.E., et al., Science 242(1988)423-426; および一般に、Hood et al., Immunology, Benjamin N.Y., 2nd edition(1984) and Hunkapiller, T., and Hood, L., Nature 323(1986) 15-16)。モノクローナル免疫グロブリンは好ましい。
【0031】
免疫グロブリンの重ポリペプチド鎖および軽ポリペプチド鎖の各々は、もし存在するならば、定常領域(一般にカルボキシル末端部分)を含むことができる。免疫グロブリンの重ポリペプチド鎖および軽ポリペプチド鎖の各々は、もし存在するならば、可変領域(一般にアミノ末端部分)を含むことができる。免疫グロブリンの軽鎖または重鎖の可変ドメインは、異なる領域、即ち、4つのフレームワーク領域(FR)および3つの超可変領域(CDR)を含むことができる。
【0032】
本明細書で使用された用語「モノクローナル免疫グロブリン」は、実質的に均一な免疫グロブリンの集団から得られる免疫グロブリンを指す、即ち、集団を構成する個々の免疫グロブリンは少量で存在しうる可能な天然に存在する突然変異を除いては同一である。モノクローナル免疫グロブリンは、高度に特異的であり、単一抗原部位(エピトープ)を指向する。更に、異なる抗原部位(決定基またはエピトープ)を指向する異なる免疫グロブリンを含むポリクローナル免疫グロブリン調製物と対照的に、各モノクローナル免疫グロブリンは、抗原上の単一抗原部位を指向する。モノクローナル免疫グロブリンは、それらの特異性に加えて、それらが他の免疫グロブリンにより汚染されないで合成されうるという点で有利である。修飾句「モノクローナル」は、免疫グロブリンの実質的に均一な集団から得られるものとしての免疫グロブリンの性質を示しそして何らかの特定の方法により免疫グロブリンの産生を必要とするものとみなすべきではない。
【0033】
非ヒト(例えばげっ歯類)免疫グロブリンの「ヒト化」形態は、非ヒト免疫グロブリンに由来する部分配列およびヒト免疫グロブリンに由来する部分配列を含有するキメラ免疫グロブリンである。大抵の場合に、ヒト化免疫グロブリンは、超可変領域からの残基が、所望の特異性およびアフィニティーを有する、マウス、ラット、ウサギまたは非ヒト霊長類などの非ヒト種(ドナー免疫グロブリン)の超可変領域からの残基により置き換えられているヒト免疫グロブリン(レシピエント免疫グロブリン)に由来する(例えば、Morrison, S.L., et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 81 (1984) 6851-6855; US 5,202,238; US 5,204,244参照)。ある場合には、ヒト免疫グロブリンのフレームワーク領域(FR)残基は、対応する非ヒト残基により置き換えられる。さらに、ヒト化免疫グロブリンは、更なる改変、例えば、レシピエント免疫グロブリンまたはドナー免疫グロブリンにおいて見出されないアミノ酸残基を含むことができる。このような改変は、対応する親配列と相同性であるが同一ではないこのようなレシピエント免疫グロブリンまたはドナー免疫グロブリンの変異体をもたらす。これらの改変は、免疫グロブリン性能をさらに精密にするためになされる。
【0034】
一般に、ヒト化免疫グロブリンは、超可変ループのすべてまたは実質的すべてが非ヒトドナー免疫グロブリンの超可変ループに対応しそしてFRsのすべてまたは実質的すべてがヒトレシピエント免疫グロブリンのそれである、少なくとも1つの、典型的には2つの可変ドメインの実質的すべてを含むであろう。ヒト化免疫グロブリンは、場合により、免疫グロブリン定常領域の少なくとも一部、典型的にはヒト免疫グロブリンの定常領域の少なくとも一部も含むであろう。
【0035】
非ヒト免疫グロブリンをヒト化するための方法は当技術分野において記載されている。好ましくは、ヒト化免疫グロブリンは、非ヒトであるソースからそれに導入された1個以上のアミノ酸残基を有する。これらの非ヒトアミノ酸残基は、典型的には「インポート」可変ドメインから取られる「インポート」残基としばしば呼ばれる。ヒト化は、Winterおよび共同研究者の方法に従って(Jones, P. T., et al., Nature 321(1986)522-525; Riechmann, L., et al., Nature 332 (1988) 323-327; Verhoeyen, M., et al., Science 239 (1988) 1534-1536; Presta, L. G. Curr. Op. Struct. Biol. 2 (1992) 593-596)、ヒト免疫グロブリンの対応する配列を超可変領域配列で置き換えることにより本質的に行うことができる。したがって、このような「ヒト化」免疫グロブリンは、インタクトなヒト可変ドメインより実質的に少ないものが、非ヒト種からの対応する配列により置き換えられているキメラ免疫グロブリン(例えば、US4,816,567参照)である。実際に、ヒト化免疫グロブリンは、典型的には、いくらかの超可変領域残基および場合によりいくらかのフレームワーク領域残基が、げっ歯類または非ヒト霊長類免疫グロブリンにおける類似した部位からの残基により置き換えられているヒト免疫グロブリンである。
【0036】
免疫グロブリンのリコンビナント産生は当技術分野の状態で周知でありそして、例えばMakrides, S.C., Protein Expr. Purif. 17 (1999) 183-202; Geisse, S., et al., Protein Expr. Purif. 8 (1996) 271-282; Kaufman, R.L., Mol. Biotechnol. 16(2000) 151-160; Werner, R.G., Drug Reseach 48 (1988) 870-880の概説論文に報告されている。
好ましくは、異種ポリペプチドは、免疫グロブリン、免疫グロブリンフラグメント、免疫グロブリンコンジュゲートを含む群より選ばれる。好ましくは上記免疫グロブリン、免疫グロブリンフラグメント、免疫グロブリンコンジュゲートは、モノクローナル免疫グロブリン、モノクローナル免疫グロブリンフラグメント、モノクローナル免疫グロブリンコンジュゲートである。
【0037】
本明細書で使用された用語「免疫グロブリンフラグメント」は、免疫グロブリンの一部を示す。免疫グロブリンフラグメントは、Fv、Fab、(Fab)、単一鎖(scFv)、ならびに単一重鎖および単一軽鎖ならびに、フレームワーク領域1、フレームワーク領域2、フレームワーク領域3、フレームワーク領域4、超可変領域1、超可変領域2、超可変領域3、軽鎖および重鎖の各々、Fab領域、ヒンジ領域、可変領域、重鎖定常ドメイン1、重鎖定常ドメイン2、重鎖定常ドメイン3および軽鎖定常ドメインを含む群より選ばれる少なくとも1つの領域および/またはドメインが欠失している免疫グロブリンを含む。
【0038】
本明細書で使用される用語「免疫グロブリンコンジュゲート」は、免疫グロブリンとポリペプチドの融合を示す。用語免疫グロブリンコンジュゲートは、免疫グロブリンまたは免疫グロブリンフラグメントと1〜8つ、好ましくは2つまたは4つのポリペプチドとの融合タンパク質であって、該ポリペプチドの各々は、介在するリンカーポリペプチドを伴いまたは伴わないで異なるN末端またはC末端アミノ酸に融合されている融合タンパク質を含む。免疫グロブリンコンジュゲートが1つより多くの非免疫グロブリンポリペプチドを含むならば、コンジュゲーションされた非免疫グロブリンポリペプチドの各々は、同じまたは異なるアミノ酸配列および/または長さを有することができる。
【0039】
本明細書で使用された表現「細胞」は、被験細胞(subject cells)およびその子孫を含む。したがって、用語「トランスフォーマント」および「トランスフォーメーションされた細胞」は、初代被験細胞(primary subject cell)およびトランスファーの数に関係なくそれに由来する培養物を含む。すべての子孫は、意図的突然変異および意図しない突然変異により、DNA含有率において正確に同じではないことがありうることも理解される。最初にトランスフォーメーションされた細胞においてスクリーニングされたのと同じ機能または生物学的活性を有する変異体子孫が含まれる。
【0040】
本発明に従う異種ポリペプチドは、リコンビナント手段により産生される。このような方法は、当該分野の技術水準において広く知られており、そして異種ポリペプチドのその後の回収および単離ならびに通常薬学的に許容されうる純度への精製を伴う、原核細胞および真核細胞におけるタンパク質発現を含む。免疫グロブリンである異種ポリペプチドの場合には、軽鎖および重鎖またはそのフラグメントまたはそのコンジュゲートをコードする核酸は、標準方法により発現カセットに挿入される。免疫グロブリンをコードする核酸は、慣用の方法を使用して容易に単離されそして配列決定される。ハイブリドーマ細胞は、このような核酸のソースとして役立つことができる。発現カセットは、1つ以上の発現ベクターに挿入されることができ、この発現ベクターは、次いでそうしなければ免疫グロブリンを産生しない(ホスト)細胞にトランスフェクションされる。発現は、適切な真核(ホスト)細胞において行われそして免疫グロブリンは、溶解後の細胞からまたは上清から回収される。
【0041】
抗体のリコンビナント産生は、当該分野の技術水準において周知でありそして、例えば、Makrides, S.C., Protein Expr. Purif. 17(1999) 183-202; Geisse, S., et al., Protein Expr. Purif. 8 (1996) 271-282; Kaufman, R.J., Mol. Biotechnol. 16(2000) 151-160; Werner, R. G. Drug Research 48 (1998) 870-880の概説論文に記載されている。
【0042】
微生物タンパク質によるアフィニティークロマトグラフィー(例えばプロテインAまたはプロテインGアフィニティークロマトグラフィー)、イオン交換クロマトグラフィー(例えば、カチオン交換(カルボキシメチル樹脂)、アニオン交換(アミノエチル樹脂)および混合方式交換)、チオフィリック吸着(例えば、β−メルカプトエタノールおよび他のSHリガンドによる)、疎水性相互作用または芳香族吸着クロマトグラフィー(例えば、フェニルセファロース、アザ−アレノフィリック樹脂(aza-arenophilic resins)またはm−アミノフェニルボロン酸による)、金属キレートアフィニティークロマトグラフィー(例えばNi(II)アフィニティー物質およびCu(II)アフィニティー物質による)、サイズ排除クロマトグラフィーおよび電気泳動法(ゲル電気泳動、キャピタリー電気泳動などの)(Vijayalakshmi, M.A., Appl. Biochem. Biotech. 75(1998)93-102)などのタンパク質回収および精製のための種々の方法が十分に確立されそして広く使用されている。
【0043】
本発明は、一般にいわゆる二本鎖RNAヌクリアーゼダイサーおよびRISC複合体を発現するすべての生きている細胞、換言すれば、RNA媒介遺伝子サイレンシングが観察されうるすべての細胞において一般に適用可能である。したがって、本発明は、哺乳動物細胞系に主として適用されうるが、すべてのタイプの真核細胞にも適用されうる。しかしながら、例えばチャイニーズハムスター卵巣細胞、例えばCHO K1(Jones, C., et al., Cytogenet. Cell Genet. 16(1976) 387-390)またはCHO DG44(Urlaub, G, et al, Cell 33 (1983) 405-412; Urlaub, G., et al., Somat. Cell. Mol. Genet. 12(1986) 555-566),ヒト胚腎臓細胞、例えば、HEK293細胞(Graham, F.L., et al., J. Gen. Virol. 36 (1977) 59-74)またはHEK293 EBNA細胞、NS0細胞(Barnes L. M., et al., Cytotechnology 32 (2000) 109-123; Barnes L. M., et al., Biotech. Bioeng. 73(2001) 269-270)、および/またはSP2/0細胞(Schulman, M., et al., Nature 276 (1978) 269-270)などのリコンビナントポリペプチドを産生するために普通に使用される細胞系が好ましい。
【0044】
本発明の文脈において、用語「α1,6−フコシルトランスフェラーゼおよびその文字通りの均等物の酵素活性の減少」は、異種ポリペプチドの発現のために使用される細胞におけるshRNA化合物により媒介される該α1,6−フコシルトランスフェラーゼをコードする特異的ターゲットmRNAの分解を示す。shRNA化合物自体は、該shRNA化合物を構成する適切な発現カセットによる(ホスト)細胞のトランスフェクション後に合成される。または、後にRNAi化合物にプロセシングされるRNAi化合物の前駆体によるトランスフェクションが可能である。
【0045】
本発明に従うRNAi化合物は、α1,6−フコシルトランスフェラーゼをコードするmRNA(ターゲティングされたmRNA)を指向するshRNAである。これまで、2つの主要な遺伝子サイレンシングストラテジーがin−vitro研究のために出現した:小さな干渉RNAs(siRNAs)および小さなヘアピンRNAs(shRNAs)(Tuschl, T., Nature Biotechnol. 20 (2002) 446-448)。本発明に従うプラスミド由来のshRNAsは、レポーター遺伝子または選択マーカーとの組み合わせおよびウイルスベクターを介するデリバリーに対する選択の自由を与える(Brummelkamp, T.R, and Bernards, R., Nat. Rev. Cancer 3 (2003) 781-789)。RNAi化合物による細胞のトランスフェクションは、ターゲットmRNAおよびしたがって対応するポリペプチドおよび同時に対応する酵素活性の減少したレベルを有する細胞をもたらす。mRNAレベルは、対応する野生型細胞のmRNAレベルの5%〜20%、好ましくは5%〜15%、更に好ましくは5%〜10%である。野生型細胞は、ターゲティングされたmRNAがRNAi化合物により分解されていない、RNAi化合物をコードする核酸の導入の前の細胞である。
【0046】
安定な細胞クローンの発生は、しばしば冗長で長いプロセスである。したがつて、1つの態様においては、リコンビナントに発現された細胞表面マーカーによる選択が、トランスフェクタントの単離のために使用される。任意の種類の遺伝子であって、その発現産物が高レベルのshRNA化合物を発現するトランスフェクタントの濃縮および選択のためのマーカーとして細胞表面上に位置している任意の種類の遺伝子を使用することは本発明の範囲内にある。I−NGFR、トランケーションされた形態の低アフィニティー神経増殖因子レセプター(したがって、シグナル伝達のためには不活性である)は、細胞表面に発現されそして細胞生物学的解析のための高度に有用なマーカーであることが証明された(Phillips, K., et al., Nat. Med. 2 (1996) 1154-1156 and Machl, A.W., et al., Cytometry 29 (1997) 371-374)。
【0047】
本発明の範囲内で、細胞トランスフォーマントは、当技術分野で知られている実質的に任意の種類のトランスフェクション方法により得ることができる。例えば、ベクターDNAは、エレクトロポレーションまたはマイクロインジェクションにより細胞に導入されうる。または、FuGENE 6(Roch Diagnostics GmbH)、X−tremeGENE(Roch Diagnostics GmbH)、LipofectAmine(Invitrogen Corp.)またはヌクレオフェクション(AMAXA AG, cologne, Germany)などのリポフェクション試薬を使用することができる。更に別法として、細胞表面タンパク質およびshRNA化合物のための発現カセットを含むベクターDNAを、レトロウイルス、レンチウイルス、アデノウイルスまたはアデノ随伴ウイルスに基づく適切なウイルスベクターにより細胞に導入することができる(Singer,O., Proc. Natl. Acad.USA 101 (2004) 5513-5314)。
【0048】
1つの態様においては、哺乳動物細胞を選択マーカーをコードする核酸でトランスフェクションする。好ましくは、選択マーカーは、ハイグロマイシン、プロマイシンおよび/またはネオマイシン選択マーカーから選ばれる。この態様においては、選択圧力、即ち選択剤の存在下の培養は、安定にトランスフェクションされた細胞系の選択/増殖をもたらす。1つの態様においては、選択圧力は、Lens culinaris agglutinin(LCA)の添加による。
【0049】
1つの態様においては、本発明は、哺乳動物細胞における減少した程度のフコース改変を有する異種ポリペプチドをリコンビナントに産生するための方法であって、
異種ポリペプチドの発現に適当な条件下に哺乳動物細胞を培養し、
哺乳動物細胞または培養物から異種ポリペプチドを回収する、
ことを含み、その際、哺乳動物細胞は、α1,6−フコシルトランスフェラーゼmRNAを指向するshRNAに転写される配列番号5または配列番号6の第1核酸、ネオマイシン選択マーカーをコードする第3核酸および異種ポリペプチドをコードする第2核酸を含む核酸でトランスフェクションされる、方法を含む。1つの態様においては、哺乳動物細胞は、単一核酸でトランスフェクションされる。用語「単一核酸」は、本願においては、核酸の発生および産生から現れる1つのヌクレオチド変化(これらの変化はコードされたmRNAに対する効果を持たない)にもかかわらず同一の核酸配列を有する核酸の混合物を示す。用語「同一の核酸配列」は、前記哺乳動物細胞をトランスフェクションするために使用される核酸が少なくとも90%、または少なくとも95%または少なくとも98%または98%以上のヌクレオチド同一性を有することを示す。
【0050】
shRNA化合物を構成している核酸に由来する転写物は、CMVプロモーターなどのPolIIプロモーターまたはH1、U6もしくは7SKプロモーターなどのPol IIIプロモーターから転写されうる(Zhou, H., et al., Nucleic Acids Res. 33(2005) e62; Brummelkamp, T.R. and Bernards, R., Nat. Rev. Cancer 3(2003) 781-789; Czauderma, F., et al., Nucleic Acids res. 31 (2003) e127)。
【0051】
Pol III媒介転写の場合には、前駆体RNA産物の適切な3’プロセシングのために転写されたRNAの3’端部にTTTT、好ましくはTTTTTTのPOl IIIターミネーター配列を有することが必須である(Dykxhoorn, D. M.., et al., Nat. Rev. Mol. Cell Biol. 4(2003) 457-467)。
【0052】
RNAi化合物は、ヘアピンコンホメーションを有するRNA、即ち、shRNAである。活性なRNAi化合物として、このような分子は、H1およびU6プロモーターからの転写が通常Gで出発するという事実により、その5’端部でGヌクレオチドで出発することができる。分子のステムは、逆方向反復配列によるものでありそして長さが19〜29、好ましくは19〜23塩基対である。好ましくは、これらの逆方向反復配列は互いに完全に相補性であり、そして何らの内部ミスマッチなしに二本鎖ハイブリッドを形成することができる。
【0053】
分子の内部ループは、4〜40、好ましくは4〜9ヌクレオチドの単一ストランド鎖である。このループでは、分子をshRNA分子として作用することができない別の二次構造にそれ自体を折りたたむのを阻止するために、任意の逆方向反復配列を回避することは重要である。
【0054】
shRNAの3’端部にはオーバーハングがありうる。POl IIIプロモーターの使用の場合に、オーバーハングは、Pol IIIプロモーターのターミネーターシグナルにより2〜4U残基であることができる。細胞内で発現されるとき、これらのヘアピン構築物は、遺伝子サイレンシングを媒介することができる活性な二本鎖分子に急速にプロセシングされる(Dykxhoorn, D. M. et al., Nat. Rev. Mol. Cell Biol. 4(2003)457-467)。
【0055】
核酸(DNA)は、4つのヌクレオ塩基またはヌクレオチド塩基、A、C、TおよびGからなる。Aはアデノシンを表し、Cはシチジンを表し、Tはチミジンを表しそしてはGはグアノシンを表す。RNAにおいては、チミジンは、ウリジン(U)により置き換えられる。
【0056】
α1,6−フコシルトランスフェラーゼmRNAを指向するshRNA化合物は、適切な発現カセットから転写される。それは、長さが19〜29ヌクレオチド、好ましくは19〜23ヌクレオチドのステムを含み、その配列は、不活性化されなければならないターゲットmRNAと同一/相補性である。
【0057】
1つの態様においては、α1,6−フコシルトランスフェラーゼmRNAを指向するshRNAのステムの核酸は、
【0058】
【表1】

【0059】
を含む核酸の群から選ばれる。
【0060】
1つの態様においては、α1,6−フコシルトランスフェラーゼmRNAを指向するshRNAのループの核酸は、核酸TTCAAGAGA(配列番号4)である。
【0061】
1つの態様においては、shRNAに転写される核酸は、配列番号5および6を含む核酸の群から選ばれる、即ち、shRNAに転写される核酸は、配列番号5の核酸配列または配列番号6の核酸配列を有する。
【0062】
本発明に従う方法により、約50倍のターゲットmRNAの減少が達成されうる。このような程度の減少は、合理的に高い収率で減少した程度のフコシル化を有する異種ポリペプチドを産生するのに十分である。
【0063】
用語「減少した程度のフコース改変を有する異種ポリペプチド」及びその文法的均等物は、α1,6−フコシルトランスフェラーゼmRNAを指向するshRNAに転写される核酸および異種ポリペプチドをコードする核酸でトランスフェクションされている哺乳動物細胞において発現される異種ポリペプチドであって、アスパラギン連結N−アセチルグルコサミンの6−位置におけるそのフコシル化は、異種ポリペプチドをコードする核酸でトランスフェクションされているがα1,6−フコシルトランスフェラーゼを指向するshRNAに転写される核酸でトランスフェクションされていない同じタイプの哺乳動物細胞において発現される異種ポリペプチドと比較して減少している、異種ポリペプチドを示す。1つの態様においては、α1,6−フコシルトランスフェラーゼmRNAを指向するshRNAに転写される核酸および異種ポリペプチドをコードする核酸でトランスフェクションされている哺乳動物細胞において発現される異種ポリペプチドのフコシル化の、異種ポリペプチドをコードする核酸でトランスフェクションされているがα1,6−フコシルトランスフェラーゼmRNAを指向するshRNAに転写される核酸でトランスフェクションされていない同じタイプの哺乳動物細胞において発現される異種ポリペプチドのフコシル化に対する割合は、15%以下である。これは、異種ポリペプチドが15%以下までフコシル化されることを示す。好ましくは、フコシル化されていない異種ポリペプチドのフコシル化されている異種ポリペプチドに対する割合は、0.15以下、即ち、例えば0.12である。
【0064】
「異種DNA」または「異種ポリペプチド」は、所与のホスト細胞内に天然には存在しないDNA分子もしくはポリペプチド、またはDNA分子の集団もしくはポリペプチドの集団を指す。特定のホスト細胞に対して異種のDNA分子は、ホストDNAが非ホストDNA(即ち外来性DNA)と組み合わされているかぎり、ホスト細胞種に由来するDNA(即ち内在性DNA)を含有することができる。例えば、プロモーターを含むホストDNAセグメントに作用可能に連結された(operably linked)ポリペプチドをコードする非ホストDNAセグメントを含有するDNA分子は、異種DNA分子であると考えられる。反対に、異種DNA分子は、外来性プロモーターと作用可能に連結された内在性構造遺伝子を含むことができる。非ホストDNA分子によりコードされたポリペプチドは、「異種」ポリペプチドである。
【0065】
「作用可能に連結された」は、2つ以上の成分の並置(juxtaposition)であって、そのように記載された成分が、それらの意図する方式でそれらを機能させる関係にある、2つ以上の成分の並置である。例えば、プロモーターおよび/またはエンハンサーは、もしそれがシスで作用して連結された配列の転写をコントロールまたはモデュレーションするならば、コード配列に作用可能に連結されている。一般に、しかし必ずしもそうではないが、「作用可能に連結されている」DNA配列は、連続しておりそして分泌リーダー/シグナル配列とポリペプチドなどの2つのタンパク質コード領域を接続することが必要ならば、連続しておりそしてフレームワーク内にある。ポリアデニル化部位は、転写がコード配列を通してポリアデニル化配列に進行するように、それがコード配列の下流端部に位置しているならば、コード配列に作用可能に連結されている。連結は、当技術分野で知られているリコンビナント方法により、例えばPCR方法を使用しておよび/または都合のよい制限部位におけるライゲーションにより達成される。都合のよい制限部位が存在しなければ、合成オリゴヌクレオチドアダプターまたはリンカーが慣用の実施に従って使用される。
下記の実施例、配列リストおよび図は、本発明の理解を助けるために提供され、本発明の真の範囲は特許請求の範囲に記載されている。本発明の精神から逸脱することなく記載された方法において改変がなされるうることは理解される。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】shRNAFuT8の転写のための本発明に従うベクターである。
【図2】shRNAFuT8でトランスフェクションされたCHO細胞から単離された高い(上部パネル)および低い(下部パネル)量の異なってフコシル化された抗体を示す質量スペクトルおよびネオマイシン、l−NGFR濃縮およびLCA選択(上部パネル)によるその後の選択または実施例4に開示されたネオマイシン選択のみによるその後の選択を示す。
【図3】抗体のアスパラギンに結合した炭水化物構造の略図(GlcNAc=N−アセチルグルコサミン、Man=マンノース、Gal=ガラクトース、Fuc=フコース、NeuAc=N−アセチルノイラミン酸)である。
【0067】
実施例
実施例1
ベクタークローニング
ベクターpSilencer2.1_U6neo(Ambion Inc., ca. no. 5764)の位置184に、XhoI部位を部位特異的突然変異誘発により導入した。次いでl−NGFR(低アフィニティー神経成長因子;例えば、Phllips, K., et al., Nat. Med. 2 (1996) 1154-1156およびMachl, A. W., et al., Cytometry 29 (19987) 371-374参照)発現カセットをXhol/HindIII制限部位にクローニングした。FuT8shRNAを発生させるために、下記のオリゴヌクレオチドを使用した。
【0068】
【表2】

【0069】
アニーリングされたFuT8shRNAを対応するベクターフラグメント(BamHI/HindIII消化された)にライゲーションした。完成したベクターは、pSilencer2.1_U6neo_l−NGFR_shRNAFuT8(pサイレンサー)と呼ばれた。
【0070】
実施例2
単一クローンの選択および単離
CHO−DG44細胞を抗体発現プラスミドでトランスフェクションした。例示的抗体として、ヒトインスリン様成長因子レセプター1に結合する抗体を使用した(配列について、例えばWO2005/005635参照)。
抗体を産生するCHO−DG44クローン(野生型、pサイレンサーなしの)を、製造者のマニュアルに従ってFuGENE試薬(Roche Diagnostics GmbH)を使用してpSilencer2.1_U6neo_l−NGFR_shRNAFuT8でトランスフェクションした。安定にトランスフェクションされた細胞を、1%200mM L−グルタミン(Gibco)および10%の透析されγ照射されたウシ胎仔血清(cat. No. 1060-017; Gibco(登録商標), Invitrogen GmbH, Germany)を補充されたMEMα培地(cat. No. 2561-021; Gibco(登録商標), Invitrogen GmbH, Germany)中で培養した。トランスフェクションされた細胞を400μg/mlネオマイシンで1週間選択した。生残している細胞を、製造者のマニュアルに従ってMACSelect−l−NGFRシステム(Miltenyi Biotec; cat. 130-091-879)を使用してl−NGFR濃縮した。l−NGFR濃縮した細胞を0.5mg/mlLCA(Lens culinaris agglutinin)で選択した。LCA選択されたプールを1個の細胞/96ウエルに希釈することによりLCA選択された細胞のクローンを回収した。
【0071】
実施例3
RNA単離およびcDNA合成および定量的RT−PCR
全RNAをDNAse消化を含むRNeasy Mini Kit(Qiagen GmbH, Germany)を使用して単離した。等量の全RNA(400ng)を、アンカーされたオリゴ(dT)18プライマーによりTranscriptor First Strand cDNA Synthesis Kit(Roche Diagnostic GmbH, Germany)を使用して逆転写した。サンプルを、Light Cycler FastStart DNA Master SYBR Green I kit(Roche Diagnostic GmbH, Germany)を使用してcDNA合成後にリアルタイムPCRにより解析した。FuT8(Fucosyltransferase 8)およびALAS(5−アミノレブリン酸シンターゼ)cDNAの増幅および検出のために、配列特異的プライマーを下記のとおり使用した:
【0072】
【表3】

【0073】
増幅を下記の条件下に行った:95℃で10分間のプレインキュベーション工程、続いて95℃で10秒、52℃で10秒および72℃で8秒(温度勾配20℃/秒)の45サイクル。FuT8cDNAレベルをLightCycler Relative Quantification Softwareを使用してハウスキーピング遺伝子ALASのレベルに対して正規化した。結果を下記の表1に示す。
【0074】
表1: FuT8mRNA発現のLight Cycler RT−PCR解析
【表4】


LCA、クローン1およびLCA、クローン9は、約50〜40倍減少しているα1,6−フコシルトランスフェラーゼmRNAの残留量を表す。
【0075】
実施例4
抗体糖構造の質量分光分析
抗体のそれぞれAsn297およびAsn298における糖鎖アイソフォームの相対的含有率を、グリコシル化されたインタクトな抗体重鎖(HC)において下記に述べた質量分析法により決定した:
A)抗体およびFuT8shRNAを発現する細胞の培養上清からの抗体の精製
FuT8に対するshRNAも発現する細胞により産生される抗体(濃度〜5〜20μg/ml)を含有する培養上清約5〜10mlをプロテインA−セファロース(商標)CL−4B(30mg/100μl;Amersham Pharmacia Biotech AB)懸濁液約100μlと4℃で一夜バイアルを逆さにしながらインキュベーションした。その後、サンプルをエッペンドルフ遠心分離機5810R中で約400×gで15分間遠心して、抗体が結合しているプロテインA−セファロースを沈降させた。培養上清を完全に除去し、ペレットを二重蒸留した水約50μlで3回洗浄した。第3洗浄後に、溶液を完全に除去し、100mMクエン酸バッファー、pH2.8約30〜50μlをペレットに加えそして室温で15分間振とうしながらインキュベーションして、プロテインAに結合した抗体を放出させた。インキュベーション後に、懸濁液をエッペンドルフ遠心分離機で14,000rpmにて5分間遠心し、そして得られる上清を注意深く除去した。100mMクエン酸バッファー、pH2.8約30〜50μlを加え、室温で約15分間振とうさせそしてエッペンドルフ遠心分離機で14,000rpmにて5分間遠心によりプロテインA−セファロースを沈殿させる(spinning down)ことにより、プロテインAペレットを1回洗浄した。上清を注意深く除去しそして第1放出工程のそれぞれの溶液と一緒にした。プロテインAペレットを捨てた。
【0076】
B)ESI質量分析法によるオリゴ糖構造アイソフォームの分析
工程A)で得られた抗体サンプル(〜60μl、各々20〜50μgを含有する)を、6Mグアニジン塩酸塩100μlおよびTCEP−グアニジン溶液(6Mグアニジン塩酸塩中の1Mトリス(2−カルボキシエチル)−ホスフィン塩酸塩)60μlを加えて抗体溶液を3〜4Mグアニジン塩酸塩および250mMTCEPに調節することにより、軽鎖(LC)およびグリコシル化された重鎖(HC)に変性、還元した。サンプルを37℃で1.5時間インキュベーションした。還元されそして変性されたサンプルをランニングバッファーとして2%ギ酸(容積/容積)および40%アセトニトリル(容積/容積)によるG25ゲルろ過により脱塩し、次いで約10000の解像力でWatersからのQ−Tof2またはLCT質量分析計機器においてナノスプレー針(Proxeon Cat # ES 387)によるオフライン静的ESI−MS分析に供した。この機器を、製造者のインストラクションに従って調整しそして一次多項式フィットを使用して500〜2000の質量範囲においてヨウ化ナトリウムにより較正した。結果を図2に示す。
【0077】
サンプルの測定期間中、700〜2000の質量範囲における30〜40回のシングルスキャンをルーチンに記録しそして10〜30回のシングルスキャンを加えて評価のために使用される最終のm/zスペクトルを得た。
【0078】
HCに結合した炭水化物構造の同定および個々の糖構造アイソフォームの相対的含有率の計算を、得られたm/zスペクトルから行った。Watersのマスリンクスソフトウエア(mass lynx software)のデコンボルーションツールを使用して、検出された個々のグリコシル化されたHC種の質量を計算した。
【0079】
HCに結合したそれぞれの炭水化物構造は、個々のグリコシル化されたHC種について得られた質量とDNA配列から推定されたグリコシル化されていないHCの質量との質量差を計算しそしてこれらの質量差を抗体の既知のN−連結されたグリコール構造の理論的質量と比較することにより適宜に帰属された。
【0080】
オリゴ糖アイソフォームの割合の決定のために、個々の異なってグリコシル化されたHC種のピーク高さを、LC等のような他の分子の他のシグナルと重なり合わない、いくつかの選ばれた単一電荷(m/z)状態から決定した。オリゴ糖アイソフォームの割合の決定のために、G0+FucおよびG0のピーク高さ(図3参照)を選ばれた単一電荷(m/z)状態から決定した(図2における例参照)。異なるフコシル化を有する糖構造の相対的含有率を、G0構造+フコースを含有するHC種(G0+Fuc;末端ガラクトース残基を欠きそしてコアフコシル化を有する複合二分岐構造(complex,bi-antennary structure))のピーク高さとG0構造−フコース(G0−Fuc;図3a参照)を含有するHC種のピーク高さの比からのみ推定した。この決定のために、同じ電荷(m/z)状態内の対応するピークを使用した(例えば、G0+フコースおよびm/z45のフコースなしのG0のピーク)。定量的結果を表2に示す。
【0081】
表2:質量分析法により決定されたフコシル化の百分率
【表5】

【0082】
実施例5
ADCCアッセイ(抗体依存性細胞傷害性)
LCAクローン1および9およびコントロールとしての野生型細胞により産生された抗体の添加により誘導される腫瘍細胞溶解の検出のためのADCCアッセイを、製造者のマニュアル(PerkinElmer, USA)に従って行った。エフェクター細胞として、単離されたばかりの末梢血細胞を使用し、ターゲット細胞として、DU145細胞を使用した。結果を表3に示す。
【0083】
表3:0.5%トリトン処理細胞(100%放出)に対する放出された細胞の百分率を示すADCCアッセイ
【表6】

【0084】
実施例6
サイレンシング効果の安定性
CHO−DG44/野生型およびCHO−DG44/LCAクローン9を選択圧力なしで4週間培養した。週毎に1×10細胞を6cm培養皿でプレートした。24時間後に、細胞を回収した。RNA単離、cDNA合成、定量的RT−PCRおよびデータ解析を、実施例3におけると同じに行った。結果を表4に示す。
【0085】
表4:サイレンシング効果の安定性
【表7】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳動物細胞における減少した程度のフコース改変を伴う異種ポリペプチドをリコンビナントに産生するための方法であって、
−該異種ポリペプチドの発現のために適当な条件下に哺乳動物細胞を培養し、
−該哺乳動物細胞または培養物から該異種ポリペプチドを回収し、それにより該異種ポリペプチドを産生する、工程を含み、
該哺乳動物細胞は、
i)α1,6−フコシルトランスフェラーゼmRNAを指向するshRNAに転写される配列番号5または配列番号6の第1核酸、および
ii)異種免疫グロブリン、免疫グロブリンフラグメントまたは免疫グロブリンコンジュゲートをコードする第2核酸、によりトランスフェクションされる、
方法。
【請求項2】
前記哺乳動物細胞の前記培養をLCAの存在下に行うことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記哺乳動物細胞を、
iii)ネオマイシン選択マーカーまたはl−NGFRをコードする第3核酸、
でトランスフェクションすることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記哺乳動物細胞を、
−α1,6−フコシルトランスフェラーゼmRNAを指向するshRNAに転写される配列番号5または配列番号6の第1核酸、
−ネオマイシン選択マーカーまたはl−NGFRをコードする第2核酸、および
−前記異種ポリペプチドをコードする第3核酸、
を含む単一核酸でトランスフェクションすることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記哺乳動物細胞が、CHO細胞、BHK細胞、NS0細胞、SP2/0細胞、HEK 293細胞、HEK 293 EBNA細胞、PER.C6細胞およびCOS細胞を含む哺乳動物細胞の群から選ばれることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
−配列番号5および配列番号6の核酸の群から選ばれる第1核酸、
−ネオマイシン選択マーカーまたはl−NGFRをコードする第2核酸、および
−免疫グロブリン、免疫グロブリンフラグメントおよび免疫グロブリンコンジュゲートを含む異種ポリペプチドの群から選ばれる異種ポリペプチドをコードする第3核酸、
を含む核酸。
【請求項7】
請求項6に記載の核酸を含む哺乳動物細胞。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2010−512766(P2010−512766A)
【公表日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−541872(P2009−541872)
【出願日】平成19年12月19日(2007.12.19)
【国際出願番号】PCT/EP2007/011160
【国際公開番号】WO2008/077547
【国際公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【出願人】(591003013)エフ.ホフマン−ラ ロシュ アーゲー (1,754)
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN−LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
【Fターム(参考)】