説明

α−N−アセチルグルコサミニル結合を加水分解する新規な糖質加水分解酵素

【課題】α-N-アセチルグルコサミン(GlcNAc)がガラクトース(Gal)にα1,4で結合したオリゴ糖鎖には作用せず、その他のGlcNAcを含む化合物には作用する新規な糖質加水分解酵素の提供。
【解決手段】バクテロイデス菌のゲノムより新規な遺伝子3つを取得して増幅後、タンパク質発現ベクターへ組み込み、大腸菌にてタンパク質を発現させ、ヒスチジンタグを利用したアフィニィティークロマトグラフィー後に限外濃縮することで3つの新規な組換え型糖質加水分解酵素を調製する。該酵素はpH7.0-8.0の緩衝溶液中、37℃で、α結合したN-アセチルグルコサミンに作用する特徴を持つ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は新規なタンパク質に関するものであり、さらに詳しくは糖質のα-N-アセチルグルコサミニル結合を加水分解する新規な糖質加水分解酵素に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ヒトなどの高等生物内には、N-アセチルグルコサミン(GlcNAc)がαで結合したヘパリンや、ガラクトース(Gal)に結合したオリゴ糖鎖(GlcNAcα1-4Gal-)が存在することが報告されている(例えば非特許文献1等参照。)。これらの糖鎖は、ある種の組織上に普遍的に存在するだけでなく、近年、種々の疾患に関連する重要な物質としても注目されている(例えば非特許文献2等参照)。したがって、臨床および研究開発分野においては、上記糖鎖の組織上における分布などの視覚的情報に加え、その化学構造の解析結果からの情報も重要な役割を果たす。この場合、αで結合したGlcNAcに対する抗体が有用であるが、現在、一種類のみが報告されているだけであり、その特異性の報告例は非常に少ない。このため、αで結合したGlcNAcを含む糖鎖に対する特異性の高い糖加水分解酵素の利用は、上記分野に大きな貢献をもたらすと考えられる。
【0003】
今までにGlcNAcのαグリコシド結合を加水分解する酵素(aGNase)は、本発明者らのバクテリア由来の組換え型酵素(Clostridium perfringens由来であり(以後aGNaseC)、主にGlcNAcα1-4Galを含む糖鎖に作用する。特許文献1参照)、ヒトのヘパリンオリゴ糖(-GlcNAcα1-4GlcAβ1-3-)を加水分解する野生型酵素と蛇毒由来酵素(合成基質メチルウンベリフェリル-N-アセチル-α-D-グルコサミン(GlcNAc-α-MEU)に作用する野生型酵素)の報告例がある(例えば非特許文献3、4等参照。)。これらの糖加水分解酵素は、バクテリア由来のものはGlcNAcα1-4Galに作用するバイオセーフティーレベル2の酵素であるため、使用が制限され、ヒトや蛇毒のものは、天然および培養細胞から抽出されたものであるため、大量調製手法とは成りにくい。
【0004】
したがって、上記の目的を達成するためには、安全な宿主由来で、かつ大量調製が可能な、新たな酵素の調製方法が求められていた。
ここでGlcAはグルクロン酸の略である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007-236208号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Ishihara, K.et al Biochem. J., 318(1996), 409-416
【非特許文献2】Kawakubo, M.et al Science, 305(2004), 1003-1006
【非特許文献3】Zhao, G. H. etal Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 93(1996), 6101-6105
【非特許文献4】Nok, J. A. etal J. Biochem Mol. Toxico., 15(2001), 221-227
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、非還元末端にN-アセチルグルコサミン(GlcNAc)がαで結合したオリゴ糖(GlcNacα1-R)もしくは糖誘導体からGlcNAcを遊離させる酵素を、安全な菌体から大量に提供できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記現状にかんがみ、ヒトのaGNaseおよびaGNaseCのホモログの遺伝子と考えられるいくつかのDNA配列情報を基に、いくつかの組換えタンパク質を作製したところ、バクテロイデス菌から新規な配列を有する3つの酵素を取得できたことにより、GlcNAcα1-4Gal-Rには作用しないが、GlcNAcα-O-Rに作用し、GlcNAcを遊離する活性を持つ酵素を見い出し、本発明に到達した。
【0009】
すなわち本発明は、配列番号1の22番目から732番目までのアミノ酸配列、配列番号2の21番目から730番目までのアミノ酸配列、または配列番号3の34番目から744番目までのアミノ酸配列を有するタンパク質である。
【0010】
また本発明は、配列番号1の22番目から732番目まで、配列番号2の21番目から730番目まで、または配列番号3の34番目から744番目までのアミノ酸配列を有し、下式(1)からN-アセチルグルコサミン(GlcNAc)を遊離する組換え型糖質加水分解酵素であり、特に下記の理化学的性質を有する。
GlcNAcα-O-R (1)
(式中、Rは種々の置換基を含む芳香族および飽和、不飽和炭化水素、糖鎖、タンパク質、糖鎖、タンパク質もしくは脂質を、GlcNAcはN-アセチルグルコサミンを表す。)
【0011】
(1)配列番号1の22番目から732番目まで、または配列番号2の21番目から730番目までのアミノ酸配列においては、4-ニトロフェニル-N-アセチル-α-D-グルコサミン(GlcNAcα-pNP)に作用して、N-アセチルグルコサミン(GlcNAc)および4-ニトロフェノール(pNP)を生成するが、4-ニトロフェニル-N-アセチル-α-D-ガラクトサミン(GalNAcα-pNP)、4-ニトロフェニル-α-L-フコース(Fucα-pNP)、 4-ニトロフェニル-β-L-フコース(Fucβ-pNP)、4-ニトロフェニル-α-D-グルコース(Glcα-pNP)、4-ニトロフェニル-α-D-ガラクトース(Galα-pNP)、4-ニトロフェニル-β-D-ガラクトース(Galβ-pNP)、に4-ニトロフェニル-α-D-マンノース(Manα-pNP)、4-ニトロフェニル-β-D-グルクロン酸(GlcAβ-pNP)、は作用しない。
配列番号3の34番目から744番目までのアミノ酸配列においては、4-ニトロフェニル-N-アセチル-α-D-グルコサミン(GlcNAcα-pNP) 、4-ニトロフェニル-α-D-グルコース(Glcα-pNP)、および4-ニトロフェニル-β-D-グルクロン酸(GlcAβ-pNP)に作用して、それぞれの遊離の糖と4-ニトロフェノール(pNP)を生成するが、4-ニトロフェニル-N-アセチル-α-D-ガラクトサミン(GalNAcα-pNP)、4-ニトロフェニル-α-L-フコース(Fucα-pNP)、 4-ニトロフェニル-β-L-フコース(Fucβ-pNP)、4-ニトロフェニル-α-D-ガラクトース(Galα-pNP)、4-ニトロフェニル-β-D-ガラクトース(Galβ-pNP)、に4-ニトロフェニル-α-D-マンノース(Manα-pNP)は作用しない。
(2)Galの3位、4位および6位にαでGlcNAcが結合した二糖(GlcNAcα-Gal)、およびこの二糖を非還元末端に有する糖鎖およびその誘導体には作用しない。
(3)上記のすべてのタンパク質は、中性付近pH(7-8)、および37℃で活性を持ち、
(4)分子内にタンパク質精製用アフィニティータグ(6×His)およびシャペロンであるトリガーファクターをN末端領域に有する融合タンパク質の分子量は約130,000である。尚、上記の領域はプロテアーゼ(Factor Xa)により除去できる。除去後の分子量は約82,000である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の酵素は、ヒト体内に存在するムチン型糖タンパク質糖鎖中に存在するGlcNAcα1-4Gal-オリゴ糖部位には作用せず、その他のGlcNAcを含有する糖鎖および化合物に作用する新規の酵素であり、組織上に表出する複雑な糖鎖構造の解明に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施例2の4-ニトロフェニルグリコシドに対するaGNaseB1, B2, およびB3の酵素活性を示す。
【図2】実施例3の4-メトキシフェニルグリコシドに対するaGNaseB1の酵素活性を示す。
【図3】実施例3の4-メトキシフェニルグリコシドに対するaGNaseB2の酵素活性を示す。
【図4】実施例3の4-メトキシフェニルグリコシドに対するaGNaseB3の酵素活性を示す。
【図5】実施例4の硫酸化4-メチルウンベリフェリル-硫酸化糖に対するaGNaseB3の酵素活性を示す。
【図6】実施例5のブタ胃ムチン糖タンパク質に対するaGNaseB3の酵素活性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について詳細に説明する。本発明のタンパク質はバクテロイデス(Bacteroides thetaiotaomicron VPI5482)株が有する遺伝子の一部から作製された3つの組み換え型タンパク質であり、N末端22番目から732番目(配列番号1、aGNaseB2)、N末端21番目から730番目(配列番号2、aGNaseB3)、およびN末端34番目から744番目(配列番号3、aGNaseB1)までのアミノ酸配列を有するタンパク質が強い水解活性を有し、かつこのアミノ酸配列を有することが活性に必要である。
【0015】
本発明のタンパク質の作製にあたっては、上記のゲノムを鋳型とする遺伝子増幅を行った後、制限酵素サイト(5’末端側にSacIと3’末端側にXhoI)で消化し、市販のコールドショック発現系ベクター(pcoldTF: Takara)に組み込み、宿主大腸菌へ形質転換後、以下の手法にて発現、精製することができる。尚、本発明のタンパク質は上記ベクターにより、以下のタンパク質との融合タンパク質として得られる。その後、プロテアーゼを用いてFactor Xaサイトで切断することにより、融合した部位を除去することが可能である。
【0016】
本発明のタンパク質の構造を概説すると、アミノ(NH2)末端上流領域から、タンパク質を精製するために必要なアミノ酸配列である6つのヒスチジン部位(His-tagアフィニティー部位)、タンパク質を宿主菌体内で発現する際に可溶化タンパク質となるような構造を形成させるためのトリガーファクター、活性のあるタンパク質を発現・取得後に、融合した部位を切り離すために必要なプロテアーゼが特異的に認識できるためのプロテアーゼ(トロンビン)認識サイト、および本発明のタンパク質部位からなり、カルボキシル末端(COOH)に至る。タンパク質の発現、精製にあたっては、上記ベクターにより形質転換された大腸菌(MC1061株)のOD600値で0.6を示す溶液(カルベニシリン濃度50μg/mlを含有するLB培地)へ、目的タンパク質の発現を誘導する物質であるイソプロピルチオガラクトシド(IPTG)を0.25mMで添加後、さらに24時間、15℃で震盪培養することで、本発明のタンパク質を発現した菌体を得ることができる。タンパク質の抽出にあたっては、菌体を超音波破砕し、遠心後に得られる上清を、His-tagアフィニティークロマトグラフィーに供することにより、本発明のタンパク質の部分精製体を、培養液1リットルあたり15〜20mgで 得ることができる。この画分は、本発明のタンパク質が、SDSポリアクリルアミド電気泳動的にほぼ主要(全タンパク質の80%以上)な構成物であり、部分精製体とすることができる。さらに、融合タンパク0.2mg/mlをプロテアーゼ(Factor Xa)15unit/mlで16時間4℃で処理し、融合した部分を切断後、限外濾過フィルター(Amicon Ultra 15 MWCO 100K)で未反応の融合タンパク質を除去し、回収した濾液をHis-tagアフィニティークロマトグラフィーを素通りさせることにより、His-tagおよびトリガーファクター融合部分を持たないタンパク質を65〜90%の収率で回収することができる。
【実施例1】
【0017】
タンパク質取得
バクテロイデス菌(Bacteroides thetaiotaomicron VPI5482)のゲノムを鋳型として、それぞれのセンスプライマー(下線は制限酵素SacIサイトを示す)(B1:配列番号4 cggcgagctcccaatcgattcattggcagcacgt、B2:配列番号5 cggcgagctcgaaacaggccctcctgtattaaaa、B3:配列番号6cggcgagctcgatactggatcaagtaacccagta)と、アンチセンスプライマー(下線は制限酵素XhoIサイトを示す)(B1: 配列番号7ccgctcgagttactttgcttcaatcgctgtccgata、B2: 配列番号8ccgctcgagttattgtgctttggtaaagtacgtatc、B3: 配列番号9ccgctcgagttaataaaaatattgcatatatttctc)を用い、DNAポリメラーゼPrime Star(Takara製)反応を利用して、サーマルサイクラーPTC100(MJ Research製)で遺伝子増幅(反応条件(順に98℃10秒、56℃15秒、72℃2分30秒で28サイクル行う))を行い、増幅後DNA断片を得た。得られた産物に対して制限酵素(SacIおよびXhoI)処理を行った後、コールドショック系タンパク質発現用ベクターpcold TF(Takara製)へ、制限酵素サイト(5’末端側にSacIと3’末端側にXhoI)でライゲーション反応を行い、発現宿主である大腸菌(MC1061株)へ形質転換操作し、カルベニシリン濃度50μg/mlを含有するLB寒天培地上で、その形質転換体を得た。これをカルベニシリン濃度50μg/mlを含有するLB培地中(2ml)で前培養し、さらに同培養液1000mlへ全量植菌し、OD600で0.6になるまで30℃で3時間、震盪培養した。その後、IPTGを0.25mMで添加し、15℃、24時間震盪培養することで、本タンパク質を発現した大腸菌を調製できた。遠心後上清を除去した後、集められた菌体へ、1mg/ml濃度でリゾチームを添加し(全量4ml)、さらにPBS溶液を加え全量を20mlとした。この懸濁溶液を氷上で超音波破砕し、20000×gで10分遠心後、上清をHis-tagアフィニティークロマトグラフィーを使った精製法(Protino-Ni-TED2000、日本ジェネティックス製)により精製した。この溶液を、限外濾過膜(排除分子サイズ100000)を用いることにより、上記精製に用いたイミダゾール等を除き、結果的に目的タンパク質を、中間精製体としてリッター培養あたり15〜20mgで得ることができた。さらに、融合タンパク0.2mg/mlをプロテアーゼ(Factor Xa)15unit/mlで16時間4℃で処理し、融合した部分を切断後、限外濾過膜(排除分子サイズ100000)を用い未反応の融合タンパク質を除去し、回収した濾液をHis-tagアフィニティークロマトグラフィーを素通りさせることにより、His-tagおよびトリガーファクター融合部分を除去したタンパク質を回収することができる。
【実施例2】
【0018】
酵素活性(4-ニトロフェニル誘導体に対して)
各4-ニトロフェニル誘導体である単糖基質 (GlcNAc-α-pNP、GlcNAc-β-pNP、GalNAc-α-pNP、Fuc-α-pNP、Fuc-β-pNP、Glc-α-pNP、Gal-α-pNP、Gal-β-pNP、Man-α-pNP、GlcA-β-pNP) 15mM溶液をそれぞれ別の容器に20μlとり、上記に調製したタンパク溶液0.6μg/μlを2μl、10倍濃縮PBS(pH7.4)溶液を10μl添加し、全量を100μlとした。これを攪拌しながら、37℃でインキュベートした。一定時間反応後、遊離したpNP量を吸光度計で測定することから算出し、各基質に対する反応性を比較した。aGNaseB2、aGNaseB3においては、1時間のインキュベート後、GlcNAc-α-pNPのみ100%水解し、その他の基質に対しては全く水解しなかった。aGNaseB1においては、6時間のインキュベート後、GlcNAc-α-pNPを約20%水解しGlc-α-pNPを75%水解し、GlcA-β-pNPのみ35%水解したが、他の基質においては全く水解しなかった(図1)。
【実施例3】
【0019】
酵素活性(4-メトキシフェニル誘導体に対して)
各4-メトキシフェニル誘導体である二糖基質 (GlcNAcα1-4Galβ-pMP、GlcNAcα1-3Galβ-pMP、GlcNAcα1-6Galβ-pMP)3mMを上記と同様にタンパク溶液0.6μg/μlと一定時間反応させた後、HPLC(HPLC装置; GL7400(島津製)、分析用カラム;ODS-3(4.6X250mm)、検出;UV 283nm)に供したところ、どの基質においてもGlcNAc切断後に遊離すると考えられるGalβ-pMPは確認されなかった。(図2、図3、および図4)
【実施例4】
【0020】
酵素活性(4-メチルウンベリフェリル誘導体に対して)
各4-メトキシフェニル誘導体である単糖基質(GlcNAcα-MEU、2-sulfamino-GlcNAcα-MEU、6-sulfo-GlcNAcα-MEU)1mMを上記と同様にタンパク溶液(aGNaseB3)0.6μg/μlと一定時間反応させた後、HPLC(HPLC装置; GL7400(島津製)、分析用カラム;ODS-3(4.6X250mm)、検出;励起波長360nm, 蛍光波長 450nm)に供したところ、硫酸化されていないGlcNAcαは1hでほぼ完全に(95%以上)切断され、メチルウンベリフェロン(MEU)の遊離が検出されたが、硫酸化された単糖については切断されることなく2%以下であった。(図5)
【実施例5】
【0021】
酵素活性(糖タンパク質に対する活性評価)
上記に調製したタンパク溶液約30μg(10.0mUnit/ml) (もしくは95℃で10分間熱失活した上記のタンパク溶液)、10倍濃縮PBS(pH7.4)溶液を10μl、ブタ胃ムチン糖タンパク質(関東化学、部分精製品)の1.5%溶液50μlをそれぞれ添加し、全量を100μlにして、攪拌しながら、37℃で20時間インキュベートした。反応後は以下のそれぞれの方法で測定した。陽性コントロールには、aGNaseCの部分精製体を用いた。
【0022】
上記反応後溶液を、二糖(GlcNAcα1-4Gal)に対するモノクローナル抗体HIK1083を利用した胃腺粘液ムチン検出キット(関東化学製)を用いて、そのα結合したGlcNAc量を検出した。反応後溶液を100分の1(0.0075%)に希釈(全量100μl)し、そのまま、付属のHIK1083(GlcNAcα1-4Galを認識するモノクローナル抗体)をコートしたマイクロタイタープレートのウェルへ注入し、室温で2時間静置した。 ウェルを400μlのPBS溶液で洗浄し、付属の西洋ワサビ由来のヒドロキシペルオキシダーゼが融合したHIK1083抗体を添加し、室温で1時間静置した。その後、ウェルを400μlの50mMリン酸緩衝液水溶液で洗浄し、付属の発色キットで発色および停止させ、イムノプレートリーダー、immuno mini NJ-2300(SICシステムインスツルメンツ)で、450nmにて吸光度を定量した。得られた結果から、上記のaGNaseB1、aGNaseB2、aGNaseB3のすべてが、まったく反応しないことが示された。尚、陽性コントロールとして、aGNaseCの部分精製体約10μg(2.4mUnit/ml)を添加した場合、有意に加水分解することが示された。(図6)
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明の加水分解酵素は、胃や十二指腸、および各臓器の癌化に関連して発現するGlcNAcα1-4Galを含む糖鎖には全く作用せず、GlcNAcをαで含む糖誘導体を特異的に加水分解すること(aGNaseB2およびB3)から、その他のGlcNAcをαで含む糖鎖の生体内における分布などの情報を、抗体やaGNaseCと組み合わせて用いることにより、容易に得ることができる可能性がある。さらに、上記のaGNaseは、バイオセーフティーレベル1に属するバクテロイデス由来のために、その利用に関する制限が少ない。また、本酵素はin Silicoコンピューター解析の結果からへパラナーゼ活性を示す酵素に配列が類似していることから、ヘパラナーゼ加水分解酵素としても利用可能と思われる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列表配列番号1の22番目から732番目までのアミノ酸配列、配列番号2の21番目から731番目までのアミノ酸配列、または配列番号3の34番目から744番目までのアミノ酸配列を有するタンパク質。
【請求項2】
配列番号1の22番目から732番目まで、配列番号2の21番目から731番目まで、または配列番号3の34番目から744番目までのアミノ酸配列を有し、下式(1)から、N-アセチルグルコサミン(GlcNAc)を遊離する組換え型糖質加水分解酵素。
GlcNAcα-O-R (1)
(式中、Rは種々の置換基を含む芳香族および飽和、不飽和炭化水素、糖鎖、タンパク質、糖鎖、タンパク質もしくは脂質を、GlcNAcはN-アセチルグルコサミンを表す。)
【請求項3】
配列番号1の22番目から732番目まで、または配列番号2の21番目から731番目までのアミノ酸配列を有し、下記の理化学的性質を有することを特徴とする請求項2記載の組換え型糖質加水分解酵素。
(1)4-ニトロフェニル-N-アセチル-α-D-グルコサミン(GlcNAcα-pNP)に作用して、N-アセチルグルコサミン(GlcNAc)および4-ニトロフェノール(pNP)を生成するが、4-ニトロフェニル-N-アセチル-α-D-ガラクトサミン(GalNAcα-pNP)、4-ニトロフェニル-α-L-フコース(Fucα-pNP)、 4-ニトロフェニル-β-L-フコース(Fucβ-pNP)、4-ニトロフェニル-α-D-グルコース(Glcα-pNP)、4-ニトロフェニル-α-D-ガラクトース(Galα-pNP)、4-ニトロフェニル-β-D-ガラクトース(Galβ-pNP)、に4-ニトロフェニル-α-D-マンノース(Manα-pNP)、4-ニトロフェニル-β-D-グルクロン酸(GlcAβ-pNP)には作用しない。
(2)Galの3位、4位および6位にαでGlcNAcが結合した二糖(GlcNAcα-Gal)、およびこの二糖を非還元末端に有する糖鎖およびその誘導体には作用しない。
(3)中性付近pH(7-8)、および37℃で活性を持つ。
(4)His-tagを有する融合タンパク質の分子量は約130,000であり、また、プロテアーゼで切断後の分子量は約82,000である。
【請求項4】
配列番号3の34番目から744番目までのアミノ酸配列を有し、下記の理化学的性質を有することを特徴とする請求項2記載の組換え型糖質加水分解酵素。
(1)4-ニトロフェニル-N-アセチル-α-D-グルコサミン(GlcNAcα-pNP) 、4-ニトロフェニル-α-D-グルコース(Glcα-pNP)、および4-ニトロフェニル-β-D-グルクロン酸(GlcAβ-pNP)に作用して、それぞれの遊離の糖と4-ニトロフェノール(pNP)を生成するが、4-ニトロフェニル-N-アセチル-α-D-ガラクトサミン(GalNAcα-pNP)、4-ニトロフェニル-α-L-フコース(Fucα-pNP)、 4-ニトロフェニル-β-L-フコース(Fucβ-pNP)、4-ニトロフェニル-α-D-ガラクトース(Galα-pNP)、4-ニトロフェニル-β-D-ガラクトース(Galβ-pNP)、4-ニトロフェニル-α-D-マンノース(Manα-pNP)には作用しない。
(2)Galの3位、4位および6位にαでGlcNAcが結合した二糖(GlcNAcα-Gal)、およびこの二糖を非還元末端に有する糖鎖およびその誘導体には作用しない。
(3)中性付近pH(7-8)、および37℃で活性を持つ。
(4)His-tagを有する融合タンパク質の分子量は約130,000であり、また、プロテアーゼで切断後の分子量は約82,000である。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−232838(P2009−232838A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−5972(P2009−5972)
【出願日】平成21年1月14日(2009.1.14)
【出願人】(000173924)財団法人野口研究所 (108)
【Fターム(参考)】