説明

α1−α3単量体を含むHLA−Gの多量体ポリペプチド及び医薬としてのその使用

多量体ポリペプチド及び医薬としてのその使用; HLA-G抗原のα3及びα1ペプチドを含む多量体及びこのような多量体の製造方法、HLA-G抗原のα3及びα1ペプチドを含む医薬組成物並びに臓器/組織拒絶を含む様々な疾患を治療するためのその使用。前記多量体は、少なくとも2つの単量体を含み、各々の単量体が式P1-X3又はX2-X3(ここでP1は式X1-X2であり、式中X1はシステインアミノ酸を含むペプチドリンカーを表し、X2はHLA-Gのα1ドメイン(又はα1ペプチド)を表し、X3はHLA-Gのα3ドメインを表す)のペプチドP2からなる群において選択される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多量体ポリペプチド及び医薬としてのその使用に関する。本発明は、 より具体的には、HLA-G抗原のα1及びα3ドメインを含む多量体に関する。本発明はまた、このような多量体の製造方法、HLA-G抗原のα1及びα3ドメインを含む医薬組成物並びに臓器/組織拒絶を含む様々な疾患を治療するためのその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
主要組織適合遺伝子複合体(MHC)抗原は、3つの主要なクラス、すなわちクラスI抗原、クラスII抗原(HLA-DP、HLA-DQ及びHLA-DR)及びクラスIII抗原に分類される。
【0003】
クラスI抗原は、古典的な抗原である、β2ミクログロブリンと会合する3つの球状領域(α1、α2及びα3)を示すHLA-A、HLA-B及びHLA-C並びに非古典的な抗原であるHLA-E、HLA-F及びHLA-Gを含む。
【0004】
HLA-Gは、正常なヒト胎盤の絨毛外栄養膜細胞、胸腺上皮細胞及び角膜により発現される非古典的なHLAクラスI分子である。 HLA-G抗原は、胎盤の細胞栄養層細胞により本質的に発現され、免疫調節物質として機能し、胎児を母体の免疫系から(母体により拒絶されないように)保護する。HLA-G遺伝子の配列は、 [1,2]に記載されており、4396塩基対を含む。この遺伝子は、8つのエキソン、7つのイントロン及び3'側非翻訳末端部から構成される。これらは、以下のドメイン:エキソン1;シグナル配列、エキソン2;α1細胞外ドメイン、エキソン3;α2細胞外ドメイン、エキソン4;α3細胞外ドメイン、エキソン5;膜貫通領域、エキソン6;細胞質ドメインI、エキソン7;(非翻訳の)細胞質ドメインII、エキソン8;(非翻訳の)細胞質ドメインIII及び3'側非翻訳領域にそれぞれ対応する。
【0005】
HLA-Gの7つのアイソフォームが同定されており、そのうち4つが膜結合型(HLA-G1、HLA-G2、HLA-G3及びHLA-G4)及び3つが可溶型(HLA-G5、HLA-G6及びHLA-G7)である(総説として、[3]を参照されたい)。
【0006】
成熟HLA-G1タンパク質のアイソフォームは、3つの細胞外ドメイン(α1、α2及びα3)、膜貫通領域及び細胞質ドメインを含む。
【0007】
HLA-G2タンパク質のアイソフォームは、α2ドメインを含まない。すなわちα1及びα3ドメインが直接結合し、膜貫通ドメイン及び細胞質ドメインが続く。
【0008】
HLA-G3タンパク質のアイソフォームは、α2及びα3の両方を欠く。すなわち、該アイソフォームは、膜貫通ドメインに直接結合したα1ドメイン及び細胞質ドメインを含む。
【0009】
HLA-G4タンパク質のアイソフォームは、α3ドメインを欠く。すなわち、該アイソフォームは、α1ドメイン、α2ドメイン、膜貫通ドメイン及び細胞質ドメインを含む。
【0010】
可溶型HLA-Gのアイソフォームは全て、膜貫通ドメイン及び細胞質ドメインを欠く。より具体的には:
HLA-G5タンパク質のアイソフォームは、α1、α2及びα3ドメイン並びに(転写産物のスプライシング及びRNA成熟化の後にイントロン4を保持する結果として)イントロン4によりコードされる21アミノ酸残基の余剰なC末端ペプチド配列を含む。
【0011】
HLA-G6タンパク質のアイソフォームは、α2のないHLA-G5に相当する。すなわち、HLA-G6は、α1及びα3ドメイン並びに(転写産物のスプライシング及びRNA成熟化の後にイントロン4を保持する結果として)イントロン4によりコードされる21アミノ酸残基の余剰なC末端ペプチド配列を含む。
【0012】
HLA-G7タンパク質のアイソフォームは、α1ドメインのみ及び(転写産物のスプライシング及びRNA成熟化の後にイントロン2を保持する結果として)イントロン2によりコードされる2つのさらなるC末端アミノ酸残基を含む。
【0013】
これらのアイソフォームは全て、[4,5,6]及び欧州特許出願EP 0 677 582に記載されている。
【0014】
以前の研究により、HLA-Gタンパク質が、増殖性Tリンパ球細胞応答、細胞毒性Tリンパ球媒介性細胞溶解及びNK細胞媒介性細胞溶解のような同種異系の(allogeneic)応答を阻害できることが示されている[7,8,9]。より最近の研究によれば、HLA-Gが制御性T細胞への分化を誘導できることも示されており、制御性T細胞は、次いで同種異系の応答自体を阻害でき、同種異系移植片の寛容に加担することが知られている[10,11]。この広範な阻害機能のために、HLA-Gが移植片により発現されるか又は患者の血漿において可溶性分子として検出されるかに拘らず、HLA-Gの発現は、同種異系移植片のより良い受容と相関することが示されている[12,13,14]。結果として、HLA-Gに基づく手法が、同種異系又は異種の臓器/組織移植における移植片拒絶を治療するために提案されている。HLA-Gタンパク質はまた、癌 (EP1054688)、炎症性疾患(EP1189627)及び、より広くは、免疫関連疾患の治療にも提案されている。HLA-Gタンパク質を特異的なリガンドに融合させ、HLA-Gを特定の細胞又は組織に標的化させることも提案されている(WO2007/091078)。しかしながら、このような標的化融合物が活性であることを示す結果又は実験データが提供されていないことに留意すべきである。
【0015】
HLA-Gは、3つの主要な受容体:ILT2/LILRB1/CD85j、ILT4/LILRB2/CD85d及びKIR2DL4に結合することが示されている。ILT2は、T細胞、B細胞、NK細胞、単球及び樹状細胞によって主に発現される。ILT4は、骨髄細胞、すなわち主に単球及び樹状細胞によってのみ発現される。KIR2DL4は、脱落膜NK細胞及び末梢NK細胞の小サブセットによって主に発現される。抑制性受容体の広範な発現パターンのために、HLA-Gは、抗ウイルス免疫、自己免疫反応、抗腫瘍免疫、炎症性疾患及び移植の拒絶を担う免疫反応の全てのエフェクターについて、その免疫寛容誘発機能を発揮し得る。
【0016】
KIR2DL4は、HLA-Gに特異的な受容体である。KIR2DL4は、HLA-Gのα1ドメイン、より具体的にはHLA-Gに特徴的である残基Met76及びGln79にドッキングする [15]。これら2つの残基が、KIR2DL4を介するHLA-Gの抑制機能に決定的であること、及びこれらを変異させることがKIR2DL4を発現するNK細胞のHLA-Gによる細胞溶解活性の阻害をインビトロで妨害することがさらに示された。HLA-Gに対するその特異性にも拘らず、KIR2DL4は、主に脱落膜NK細胞に限定されるその発現のために、そしてインビトロ及びインビボにおいて、ILTがHLA-Gのα3ドメインとの相互作用を介して重要な役割を果たすことが示されたために、妊娠に関係する場合を除いては、HLA-Gの抑制機能に意義深い役割を果たさないようである。HLA-Gのα1ドメインが、KIR2DL4又は別の未知の受容体を介して、HLA-Gの機能に直接的な役割を果たすことはあり得るが、現在までに入手可能な証拠は、そのα3ドメインとILT2及びILT4分子との相互作用により完全にではなくとも主に媒介されるHLA-Gの免疫寛容誘発機能を指す。
【0017】
ILT2及びILT4は、HLA-Gに特異的な受容体ではなく、その他のHLAクラスI分子にそのα3 ドメインを介して結合できることが示された[16,17,18]。ILT分子に結合するHLAクラスIドメインの能力は、よく記載されている。ILT2は、特に、HLAクラスI分子に「全てではなくともほとんど」結合することが報告されている。
【0018】
しかしながら、HLA-Gは、Shiroishiら[19]の表1に説明されるように、ILT2及びILT4に最も高親和性のリガンドである。
よって、ILT2及びILT4は、古典的なHLAクラスI分子よりもHLA-Gに強く結合する([20,21]を参照されたい)。
【0019】
その他のHLA クラスI分子と比較してより強いこのHLA-GのILT結合能力は、古典的なHLAクラスI分子だけでなく腫瘍細胞の表面のHLA-Gが、細胞溶解エフェクターのILT2及び/又はILT4受容体を十分な強度をもって拘束でき、これらエフェクターの機能をブロックし、したがって腫瘍細胞を免疫による破壊から保護するという事実によって具体的に詳説される[22]。
【0020】
ILT2及びILT4は、同一のHLA-G構造に結合しない[21]。事実、ILT2は、β2ミクログロブリン(β2m)と会合したHLA-G構造のみを認識するが、ILT4は、β2mと会合したHLA-G重鎖及びβ2mから遊離したHLA-G重鎖の両方を認識する能力を有する[21,23]。しかし、ILT4は、明らかに、β2mと会合したHLA-G重鎖よりもβ2mから遊離した重鎖によく結合する。
【0021】
HLA-G抗原は、2つのHLA-G 分子のα1ドメインの42位システイン残基間の分子間ジスルフィドブリッジの形成の結果として、インビボにおいて二量体のコンホメーションを採るようである [20、23及び25; WO2007/011044]。
【0022】
HLA-G二量体の構造は、Shiroishiら[20]に記載されている。2つの野生型HLA-G分子は、非対称性ユニットとして存在する;各々の単量体は、対称性のパートナーに、Cys42-Cys42ジスルフィドブリッジを介して、2倍の結晶軸に沿って共有結合的に付加している。完全長のHLA-G1タンパク質は、β2ミクログロブリン(β2m)と会合したH鎖及び古典的なMHCクラスI構造に類似する9マーペプチドから構成される。HLA-G二量体の受容体結合部位は、対応する単量体のものよりも接近可能であるので、二量体は、単量体よりも高い親和性及び遅い解離定数を有すると提唱されている。しかしながら、どのコンホメーションが医薬としての目的のために最も活性であるか、どのアイソフォームが最も効果的であるか、又はどのようにして適切なHLA-G二量体若しくはオリゴマーが産生され得るかは明らかでない。
【0023】
前述のことから、HLA-Gの優れた抑制機能が、以下に起因することが理解される:
1. その他のHLAクラスI分子よりも良いILT結合能力を付与するそのα3ドメインのユニークな配列。HLA-Gのα3ドメインのこのユニークな配列は、Shiroishiら[21]の図3から理解されるように、より大きく、より疎水性で、かつより強いILT結合領域の創造をもたらす。
2. 二量体化するそのユニークな能力。HLA-Gの二量体化は、2つのHLA-G分子の42位(α1ドメイン)のシステイン間のジスルフィドブリッジの創造を介して起こり(Gonen-Grossら[24]の図8を参照されたい)、HLA-Gの機能に決定的である。事実、42位のシステインを欠き、二量体を形成しない変異型HLA-G分子は、抑制機能も欠くことが示された[24]。Shiroishiら[20]の図4は、ジスルフィドで結合したHLA-G二量体の構造を提供する。
【0024】
よって、HLA-Gの抑制機能についてのデータを要約すると、HLA-Gの抑制機能は、HLA-Gのユニークなα3ドメインを介する、HLA-G二量体のILT分子への結合によって主に働く。しかしながら、ILT4/HLA-G複合体の構造[21]は、ILT4が、ILT2と比較してより顕著に明らかな主要組織適合遺伝子複合体クラスI(MHCI)結合認識を示し、β2mよりもα3ドメインに多く結合することを明らかにする。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
細胞系によるHLA-Gの産生は、冗長であり得る。事実、完全なHLA-G1/G5分子は、β2m及び9マーペプチドと非共有結合的に会合した、HLA-Gの完全な重鎖(α1、α2及びα3ドメイン)の三分子複合体である。このような構築物の機能は十分に安定しているが、その構造の複雑さが原因で、製造は困難であり、精製にはリスクを伴い、安定性に乏しい。
【課題を解決するための手段】
【0026】
本発明者らは、合成により得ることができるα1及びα3 ドメインを含む小さなペプチドの多量体が、機能的であり、より純粋であり、したがってより安定であり、(産生が生物学的物質を必要としないために)生物学的流体からの抽出又は特定のコントロールのいずれも必要としないので産生がより容易であり、したがって、GMPに従ってバイオハザードのリスクが低減されること(GMPは、本明細書に挙げられるバイオハザードの観点から、安全な基準を有するので)を、今回予期せぬことに見出した。
【0027】
よって、本発明は、少なくとも2つの単量体を含み、各々の単量体が式P1-X3又はX2-X3(ここでP1は式X1-X2であり、式中X1はシステインアミノ酸を含むペプチドリンカーを表し、X2はHLA-Gのα1ドメイン(又はα1ペプチド)を表し、X3はHLA-Gのα3ドメイン(又はα3ペプチド)を表す)のペプチドP2(以下、α1-α3単量体ともいう)からなる群において選択されることを特徴とする多量体又は多量体ポリペプチドに関する。
【発明を実施するための形態】
【0028】
したがって、本発明の多量体は:
ペプチドリンカー(X1)+α1(X2)+α3(X3)からなる単量体及び/又はα1(X2)+α3(X3)からなる単量体を含む二量体及び多量体;及び
α1+α3単量体X2-X3を排他的に含む、上記に定義される二量体及び多量体(P2)n(nは2以上の整数である);
を含み、多量体には:
全ての単量体が同一である、α1-α3単量体(n個のP2単量体)のホモ多量体;及び
α3及び/又はα1 ドメインが種々の単量体において異なる、α1-α3単量体(n個のP2単量体)のヘテロ多量体
が含まれる。
【0029】
本発明による多量体は、したがって、二量体及び3、4、5、6、7又はさらに多くの単量体を含む分子を含む。本発明による多量体は、100まで、500まで、1000まで又はさらに多くの前記単量体を含んでいてもよい。
【0030】
本発明のα1-α3単量体はまた、α1ドメインが単量体のN末端部に常にある場合であっても、α3-α1単量体と呼ばれ得る。
【0031】
本発明者らは、予期しないことに、α1-α3多量体が、α3-α3多量体及びHLA-Gの可溶型(HLA-G5及びHLA-G6)の両方と比較して、全ての液性腫瘍について著しく活性であることを見出した。
【0032】
液性腫瘍は、悪性腫瘍が液体(血液又はリンパ系)中を循環し、異常な増殖をする腫瘍である。
【0033】
液性腫瘍は、リンパ球及び骨髄起源の腫瘍、より正確には、血腫(白血病)及び造血器腫瘍[主に骨髄腫瘍(骨髄腫、マクログロブリン血症)及びリンパ節腫瘍(リンパ腫)]を含む。
事実、α1-α3多量体は、予期しないことに、リンパ細胞の腫瘍及び骨髄細胞の腫瘍の両方について活性である。
【0034】
したがって、それらは、例えばリンパ球起源の白血病(例:B細胞リンパ性白血病又はT細胞リンパ性白血病)又は骨髄起源の白血病(例:急性及び/又は慢性骨髄単球性白血病)のようなILT2及び/又はILT4を発現する液性腫瘍に対して特異的に活性である。より具体的には、本発明者らは、α1-α3 ペプチドが、多量体に正確に組み立てられるときに、液性腫瘍の成長を阻害する能力を有することを、驚くべきことに見出した。
【0035】
得られた結果は、本発明による多量体が、リンパ性腫瘍及び骨髄性腫瘍の両方に対して効果的に活性であることを示す。
α1-α3単量体の多量体が、リンパ細胞(ILT2+/ILT4-)及び骨髄細胞(ILT2+/ILT4+)の腫瘍の両方に対して効果的に活性であることは、驚くべきことである。
事実、このことは、免疫系を回避するための充実性腫瘍におけるHLA-Gの役割に関して、一般に知られていることに反する。
【0036】
これらの多量体は、したがって、このような液性腫瘍を治療するための非常に価値ある医薬の候補に相当する。
コントロールの二量体は2つの単量体を含み、各々の単量体は、図8及び9並びに実施例に定義されるペプチドリンカーL1又はL2(すなわちHLA-Gのシステインアミノ酸を含む)及びα3ドメイン(又はα3ペプチド)ペプチド[(配列番号3のα3-L1)x2及び(配列番号5のα3-L2)x2]に相当する。
【0037】
本発明によれば:
‐ペプチドP1はまた、X2のC末端及び/又はN末端部に20未満、より好ましくは15未満及び最も好ましくは10未満又は5未満の、天然のHLA-Gアイソフォームのα1ドメインの側部にあるさらなるアミノ酸を含んでいてもよい。
【0038】
‐ペプチドリンカーX1は少なくとも10〜30アミノ酸を含み、そのN末端部に、好ましくはN末端から1位、2位、3位又は4位にシステインを含む;それは、より可撓性を得るために、より長くてもよい(100アミノ酸まで)。
【0039】
‐α1ドメイン又はペプチドを含むX2は、HLA-G抗原のα1ドメインのアミノ酸配列又はその機能的フラグメントを含み、その他のHLA-G ドメインを本質的に欠いているペプチドを指す。より好ましくは、α1ペプチドは、HLA-G抗原のα1ドメインのアミノ酸配列を含む。本発明の多量体においては、全てのα1ペプチド(又はドメイン)が同一のアミノ酸配列を有することが好ましい。しかしながら、種々の配列のα1ペプチドが、本発明の多量体において存在することも意図される。
【0040】
‐α3ドメイン又はペプチドを含むX3は、HLA-G抗原のα3ドメインのアミノ酸配列又はその機能的フラグメントを含み、その他のHLA-Gドメインを本質的に欠いているペプチドを指す。より好ましくは、α3ペプチドは、HLA-G抗原のα3ドメインのアミノ酸配列を含む。本発明の多量体において、全てのα3が同一のアミノ酸配列を有することが好ましい。しかしながら、種々の配列のα3ペプチドが、本発明の多量体において存在することも意図される。より好ましくは、α3ペプチドは、HLA-G抗原のα3ドメインのアミノ酸配列を含む。
【0041】
‐HLA-Gのα3ドメインは、エキソン4によりコードされ、配列番号6のヒトHLA-Gのアミノ酸207-298に相当する。
‐HLA-Gのα1ドメインは、エキソン2によりコードされ、配列番号6のヒトHLA-Gのアミノ酸25-114に相当する。
‐「機能的フラグメント」は、インビボ又はインビトロにおいて腫瘍の成長阻害を誘導する能力を保持するフラグメントを指す。より好ましくは、α3又はα1ペプチドのいずれかの機能的フラグメントは、α3又はα1ドメインの少なくとも20、より好ましくは少なくとも30、少なくとも40又は少なくとも50の連続アミノ酸を含む。
【0042】
代表的な実施態様において、機能的フラグメントは、α1ドメイン又はα3ドメインの少なくとも60の連続アミノ酸を含む。該フラグメントの機能は、実施例に開示されるようにして確かめられ得る。特に、該機能は、フラグメントの多量体を製造し、該多量体を動物モデルに投与し、腫瘍の阻害率を確かめられることにより確認され得る。該機能はまた、フラグメントの多量体を調製し、多量体を腫瘍細胞培養培地に加え、腫瘍の阻害率を確認することにより確かめられてもよい。多量体がプラシーボと比較して少なくとも50%まで腫瘍の成長を阻害する場合、フラグメントは機能的であると考えられてよい。
【0043】
‐α1及びα3ドメインのアミノ酸配列は、Geraghtyら[1]又はEllisら[2]の公開から直接得ることができる。これらの配列はまた、オンラインでも利用可能である(例えば、HLA-G についてGenebank numbers: first cloning of genomic sequence: Geraghtyら、PNAS 1987: PubMed ID : 3480534, GeneID: 3135 ; First cloning of HLA-G1 cDNA: Ellis ら、Journal of Immunology 1990. PubMed ID : 2295808を参照されたい)。
【0044】
さらに、HLA-G5、HLA-G6及びHLA-G7の配列は、US5,856,442、US6,291,659、FR2,810,047又はPaulら、Hum. Immunol 2000; 61: 1138からも利用可能であり、これらからα1及びα3ドメインの配列を直接得ることができる。
【0045】
‐HLA-G抗原の天然の変異型が、例えば多形現象の結果として存在することが理解されるべきであり、本出願に含まれる。また、特定の(例えば、1〜10の間、好ましくは1〜5まで、より好ましくは1、2、3、4又は5の)アミノ酸置換又は挿入を含む上記配列の変異型もまた、本発明に含まれる。
【0046】
用語「多量体」(又は多量体ポリペプチド)は、上記に定義される少なくとも2つの単量体、すなわちジスルフィドブリッジ又は担体を介して結合するα1-α3(又はα3-α1)単量体を含む分子(又は組成物又は生成物)を指す。
【0047】
特定の実施態様においては、α3ペプチドは、成熟HLA-G抗原のアミノ酸183-274又はその機能的フラグメントから本質的になる。
特定の実施態様においては、α1ペプチドは、成熟HLA-G抗原のアミノ酸1-90又はその機能的フラグメントから本質的になる。
好ましいα3ペプチドの配列は、配列番号1に提供される。
好ましいα1ペプチドの配列は、配列番号2に提供される。
【0048】
α3単量体の配列は、配列番号3に与えられている。リンカーは、1-12位に相当し、2位にシステインを含む;13位及び14位は、α2ドメインの2つのアミノ酸に相当する(α2が115-206位に相当するHLA-Gに相当する配列番号6を参照されたい)。15-106位はα3ドメインに相当し、107-108位は膜貫通ドメインの2つのアミノ酸に相当する; HLA Gの全ての親水性尾部が挿入され得る。ILT分子と主に接触する残基は、27位及び29位である。
【0049】
α3単量体の別の配列は、配列番号5に与えられている。リンカーは1-18位に相当し、1位にシステインを含む;19位及び20位は、α2ドメインの2つのアミノ酸に相当する(α2が115-206位に相当するHLA-Gに相当する配列番号6を参照されたい)。21-111位はα3ドメインに相当し、112-113位は膜貫通ドメインの2つのアミノ酸に相当する。
【0050】
好ましいα1-α3単量体の配列は、配列番号4に与えられている。配列番号4の1-90位はα1ドメインに相当する;配列番号4の91-182位はα3ドメインに相当し、183-184位は膜貫通ドメインの2つのアミノ酸に相当する; HLA Gの全ての親水性尾部が挿入され得る。Cys42は二量体化に用いられる。ILT分子と主に接触する残基は103位及び105位である。
【0051】
本発明の多量体においては、様々な単量体が種々の様式、例えば、限定されないが、(特に二量体について)ジスルフィドブリッジ或いはスペーサー基及び/又は担体を介して結合していてもよい。
本発明の好ましい実施態様においては、上記に定義されるα3-α1単量体は、共有結合的に又は親和性相互作用を介して結合している。
本発明の多量体の具体的な例は、二量体である。
【0052】
この関係において、本発明は、配列番号4の2つの単量体を有するα1-α3二量体に関し、ここで、2つのα1ペプチドはジスルフィドブリッジを介して結合している。より具体的には、2つのα1ペプチドは、ヒトHLA-G抗原の42位のアミノ酸におけるシステイン残基間のジスルフィドブリッジを介して結合している。
【0053】
さらに具体的な実施態様においては、α3-α1単量体は、スペーサー又は担体を介して結合している。具体的な実施態様においては、単量体は担体に結合しており、それによって多量体を産生する。担体は、種々の性質を有し得る。それは好ましくは生体適合性であり、最も好ましくは生物学的に不活性である。担体は、例えばアルブミン(例えばヒト血清アルブミン)のようなタンパク質又は不活性な固体担体のような分子であり得る。単量体は、種々のタイプのカップリング反応、例えば親和性相互作用又は官能基の使用により担体に結合していてもよい。親和性相互作用は、担体をα3又はα1ペプチドに結合するリガンド(例えば、抗体又はそのフラグメント)でコートすることにより得られてもよい。親和性相互作用はまた、α3-α1単量体及び担体のそれぞれに、結合ペア(例えば、アビジン及びビオチン)の一方を加えることにより得られてもよい。カップリングはまた、マレイミドのような二官能基などを介して得られてもよい。さらに、多量体は、担体に結合し、さらに分子間ジスルフィドブリッジに加担する単量体を含んでいてもよいことに留意すべきである。
【0054】
具体的な実施態様においては、本発明の多量体は、担体に結合した2つ又はそれより多いα3-α1単量体を含む分子である。
本発明の多量体は、様々な技術によって製造することができる。上記に論じたように、単量体は、種々のカップリング技術、例えば共有結合(例えばジスルフィドブリッジ、二官能基など)又は親和性反応によりカップリングされ得る。
【0055】
ジスルフィド結合を介する多量体の製造のために:
配列番号3又は配列番号5のα3単量体を化学的に合成した。単量体をまず合成し、次いで二量体化を2つの単量体のリンカーX1のシステイン(配列番号3のシステイン2又は配列番号5のシステイン1)間にジスルフィドブリッジを生成することによって行った。合成された製造物の純度を質量分析により確かめた。
【0056】
α3-α1単量体は:第1の工程において、α1-α3ペプチドを化学的に合成し;第2の工程において、α1-α3単量体を、α3ドメインの2つのシステイン(配列番号4のシステイン111及び167)間にジスルフィド結合を生成させることによってリフォールドする。第3の工程において、二量体を、2つの単量体のα1ドメインの遊離システイン(配列番号4のシステイン42)間にジスルフィドブリッジを生成させることにより得る。第4の工程において、好ましくは、二量体又は多量体を分離する。多量体は、例えばその分子量に基づいて、例えば(PAGEのような)ゲル電気泳動により単量体から分離してもよい。適切な多量体の形成はまた、アリコートのサンプルについてこのような方法を用いて、溶液中に存在する多量体の相対量を測定して確かめてもよく、必要であれば、反応条件を調整してもよい。ジスルフィド結合の形成を許容する条件は、例えば2〜24時間10〜30℃の温度を含む。工程2は、選択肢の1つとして、工程1の前に行われてもよい。
【0057】
α3ペプチドが、SH側基(lateral SH group)を含むリンカーを含むα3単量体は、α3-α1 多量体(工程2及び3)について上記に記載される条件と同一の条件で調製される。
【0058】
担体の使用による多量体の調製のために、単量体を、典型的には、担体の存在下に、担体への単量体の付加を許容する条件下でインキュベートし、好ましくは、多量体を分離する。担体は、例えば固体担体であり得る。担体はまた、血清アルブミンのようなタンパク質であり得る。単量体と担体との間の相互作用を容易にするために、担体は、単量体と相互作用できる反応基を含み、より機能的にされていてもよい。例として、担体は、α1又はα3ペプチドのリガンド、例えば抗体又はそのフラグメント(例えばFabフラグメント、CDRフラグメント、ScFvなど)又は化学的カップリング試薬(例えばマレイミド)でコートされていてもよい。或いは、担体は、α1ポリペプチドのリガンドに結合できる反応物質によって、より機能的にされていてもよい。例として、担体は、抗ヒトIgG Fcフラグメントでコートされていてもよく、リガンドは、HLA-G1抗原を指向するヒトポリクローナルIgGであり得る。このような場合、単量体、担体及びリガンドは、単量体のビーズへの適正な結合を許容するために、共にインキュベートされ得る。
【0059】
本発明のα1-α3多量体は、当該技術においてそれ自体公知の技術、例えば組換え技術、酵素技術又は人工合成、好ましくはMerrifield合成のような人工合成により産生され得る。
【0060】
α3多量体はまた、それ自体公知の技術により産生されてもよい。
好ましい実施態様においては、α3及びα1-α3ペプチドは、化学技術及びシンセサイザーを用いる人工合成により産生される。
α1-α3多量体は、天然アミノ酸又は非天然若しくは改変アミノ酸残基のいずれかを含んでいてもよい。それらは、L及び/又はDのコンホメーションにあり得る。ペプチドは、アミン結合及び/又は改変ペプチド模倣結合のいずれかを含んでいてもよい。また、ペプチドは、例えば側基(lateral group)の化学的又は物理的改変により、末端部を保護及び/又は改変されていてもよい。
【0061】
さらなる実施態様においては、担体及び単量体は、改変され、交差反応グループ(例えばアビジン及びビオチン)を含んでいてもよい。このような場合、担体及び単量体のインキュベーションは、担体の多量体化を引き起こす。
【0062】
形成された多量体(すなわち、担体及びα3-α1単量体の複合体)は、遠心分離、沈殿、電磁気分離などを含む、当該技術においてそれ自体公知の様々な技術を用いて単離することができる。
【0063】
本発明の多量体の具体的な例は:
- ジスルフィドブリッジを介して結合した配列番号4のα3-α1単量体の多量体;及び
- 担体に結合した配列番号4のα3-α1単量体の多量体
である。
【0064】
実施例において述べられるように、これらの多量体は、液性腫瘍(リンパ球起源の腫瘍及び骨髄起源の腫瘍)の阻害を促進できる。
さらに、配列番号4のα3-α1単量体の二量体はまた、本発明の具体物の代表例でもある。本発明は、事実、二量体が液性腫瘍を治療するための相当なインビボ活性を有し、非常に活性な多量体を調製するのに用いられ得ることを示す。
【0065】
本発明はまた、上記に定義されるか又は上記に開示される方法によって得ることができる多量体と、好ましくは、少なくとも1つの医薬的に許容されるビヒクル又は担体とを含む医薬組成物に関する。
本発明のさらなる物は、配列番号4の2つの単量体と、好ましくは、少なくとも1つの医薬的に許容されるビヒクル又は担体とを有するα3-α1二量体を含む医薬組成物である。
【0066】
好適なビヒクル又は担体は、任意の医薬的に許容されるビヒクル、例えば緩衝剤、安定化剤、希釈剤、塩、防腐剤、乳化剤、甘味料などを含む。ビヒクルは、一般に、等張性の水性又は非水性溶液を含み、公知の技術に従って調製され得る。好適な溶液は、緩衝化された溶質、例えばリン酸緩衝溶液、クロリド溶液、リンガー液などを含む。調製される医薬組成物は、一般に、注入可能な組成物、好ましくは液体の注入可能な組成物の形態にあるが、その他の形態、例えば錠剤、カプセル剤、シロップ剤なども同様に意図され得る。本発明による組成物は、多数の種々の経路、例えば全身、非経口、経口、直腸内、鼻内又は膣内経路により投与され得る。それらは、好ましくは、注入、例えば静脈内、動脈内、筋肉内、腹腔内又は皮下注入により投与される。経皮投与もまた意図される。具体的な投与量は、熟練した技術者が、病状、患者、治療期間、その他の活性成分の存在などに依存して調整できる。一般には、組成物は、10 ng〜100 mg、より好ましくは1μg〜50 mg、より一層好ましくは100μg〜50 mgの多量体の単回用量を含む。本発明の組成物は、好ましくは、有効量、すなわち経時的に疾患の進行を少なくとも軽減するか又は予防するのに十分な量で投与される。この関係において、本発明の組成物は、好ましくは、患者における有害であるか又は望まれない免疫応答の軽減を許容する量で用いられる。
【0067】
多量体ポリペプチドは、HLA-Gの完全な機能を模倣できる免疫寛容誘発物質として用いることができる。これら化合物の主要な治療用途は、同種異系移植片に免疫寛容を誘導し、維持するための移植であるが、自己免疫疾患又は炎症性疾患であってもよく、自己免疫応答及び炎症を抑制し、或いは自己免疫寛容を再確立する。このようなポリペプチドの利点は、原核又は真核生物を必要とする古典的な製造方法よりも比較的簡易で、安価で、より制御されており、安全な調製/精製プロトコルであることである。
【0068】
上述のように、本発明の多量体は、液性腫瘍に対して強い抗腫瘍活性を有し、したがって、液性腫瘍を治療するのに用いられ得る。
本発明はまた、液性腫瘍(白血病及び骨髄腫瘍)を治療するための上記に開示される多量体又は医薬組成物に関する。
【0069】
実際に投与される組成物の量は、状態又は治療されるべき状態、投与される組成物そのもの、年齢、体重、及び個々の患者の応答、患者の症状の重篤度及び選択される投与経路を含む関連する状況に鑑みて、医師により決定され、適合されるものであることが理解されるべきである。したがって、上記の投与量の範囲は、本明細書中の教示の概括的な案内及びサポートを提供することを意図しているが、本発明の範囲を限定することを意図しない。
【0070】
上記の規定のほかに、本発明はまた、以下の記載から理解されるその他の規定も含み、これは、本発明を実施した実施例について、及び添付される図面についても言及するものである。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】(α3)x2 ポリペプチドの3Dモデル。A:二量体化されたポリペプチドのモデル。各々の単量体は、異なった灰色である。二量体化を許容する、人工的に導入された遊離システインを球で示す。B:完全なHLA-G分子の構造とα3ペプチドの構造との重ね合わせ。(β2ミクログロブリン及びペプチドを含む)HLA-Gの完全な分子を細い線で示す。α3ペプチドを3Dリボンレンダリングで示す。HLA-Gのα3ドメイン及びα3 ペプチドの構造が重ね合わせられている。
【図2】ILT4分子への(α3)x2 ポリペプチドの結合の3Dモデル。(α3)x2二量体の片方だけを示す。
【図3】種々の二量体のHLA-G受容体ILT2、ILT4、KIR2DL4への結合:(α3-L1)x2:コントロールペプチド;(α3-L2)x2:コントロールペプチド;(α3-α1)x2:本発明のP2-P2二量体。
【図4】種々の二量体の腫瘍系RAJI (バーキットリンパ腫) (アクセッション番号 ATCC CCL-86)の細胞増殖への効果。
【図5】種々の二量体の腫瘍系DAUDI (バーキットリンパ腫) (アクセッション番号 ATCC CCL-213)の細胞増殖への効果。
【図6】種々の二量体の腫瘍系U937 (組織球性リンパ腫‐単球) (アクセッション番号 CLR-1593.2)の細胞増殖への効果。
【図7】種々の二量体の種々の悪性細胞系 (Daudi、アクセッション番号CCL-213; U937、アクセッション番号 CRL-1593.2; KG1、アクセッション番号 CCL-246; ILT4-形質導入NKL (NKL-ILT4、Robertson MJ ら、Exp Hematol. 1996, 24:406-415; Raji、アクセッション番号 CCL-86)の細胞増殖への効果のまとめ。
【図8】コントロール(α3-L1)x2及び(α3-L2)x2二量体の概括的な構造。
【図9】コントロールα3-L1及びα3-L2単量体の構造スキーム。
【図10】(α3-α1)x2二量体の概括的な構造。
【実施例】
【0072】
実施例1:配列番号1〜5のペプチドの調製
配列番号1〜5のペプチドは、ペプチドシンセサイザーを用いて合成した。
種々の二量体を産生した:
- (α3-L1)x2 (配列番号3)、ここで、L1は、本発明による、すなわち主にグリシン及びセリンアミノ酸残基を含む、可撓性のペプチドリンカーに相当する;
- (α3-L2)x2 (配列番号5)、ここで、L2は、前記配列番号5のアミノ酸1-18に相当し、HLA-G(配列番号6を参照されたい)のα1アミノ酸残基42-30(N末端からC末端まで)に由来する;
- 配列番号4に相当する(α3-α1)x2。
図8、9及び10は、合成されたペプチドの概括的な構造を示す。
【0073】
実施例2:ジスルフィド結合を介するα3及びα3-α1二量体
1) α3二量体
配列番号3又は配列番号5のα3単量体を化学的に合成した。単量体をまず合成し、次いでα3ドメインの2つのシステイン(配列番号3のシステイン35及び91、配列番号5のシステイン41及び97)間にジスルフィド結合を生成させることによってリフォールドした。次いで二量体化を、2つの単量体のリンカーX1のシステイン(配列番号3のシステイン2、配列番号5のシステイン1)間にジスルフィドブリッジを生成させることによって行った。合成された生成物の純度を質量分析により確かめた。
【0074】
α3多量体の可視化は、電気泳動分離によって達成した。サンプルを(β-メルカプトエタノールのない)非還元条件においてLaemmli緩衝液の存在下に加熱することにより変性させ、次いで12%SDS-PAGEにおける電気泳動による移動によって分離した。二量体の存在を次いでクマシーブルーによる着色後に可視化した。
【0075】
配列番号3の二量体の三次元モデルを図1に示す。計算モデル化に基づけば、この構造は、HLA-G受容体ILT4に結合できる (図2に示す;図3も参照されたい)。
【0076】
2) α3-α1二量体
配列番号4のα3-α1単量体を化学的に合成した。単量体をまず合成し、次いでα3ドメインの2つのシステイン(配列番号4のシステイン111及び167)間にジスルフィド結合を生成させることによってリフォールドした。次いで二量体化を、2つの単量体のα1ドメインの2つのシステイン(配列番号4のシステイン42)間にジスルフィドブリッジを生成させることによって行った。合成された生成物の純度を質量分析により確かめた。
【0077】
α3多量体の可視化は、電気泳動分離によって達成した。サンプルを(β-メルカプトエタノールのない)非還元条件においてLaemmli緩衝液の存在下に加熱することにより変性させ、次いで12%SDS-PAGEにおける電気泳動による移動によって分離した。二量体の存在を次いでクマシーブルーによる着色後に可視化した。
α1+α3ポリペプチドの配列を配列番号4に示す。
【0078】
実施例3: 受容体結合アッセイ
HLA-G受容体ILT2、ILT4及びKIR2DL4への結合を評価するために、実施例2に従って得られた12μgの二量体で、製造者の推奨に従って、Bio-Plex-COOHポリスチレンビーズ(Bio-Rad)を共有結合的にコートした。ビーズを次いで1x Luminexアッセイ緩衝液(Interchim)に、50μl当たり2000ビーズの濃度に再懸濁した。ヒトIgG(ILT2-Fc、ILT4-Fc、R&D Biosystems)のFc部位に融合した組換え受容体を、次いで2μg/mlで加えた。200μlの1x PBS, 0.05% Tweenで2回洗浄した後、ビーズ及び受容体を次いで90分間暗中にて振盪機でインキュベートした。ビーズを次いで2μg/mlのフィコエリスリン標識ヤギ抗ヒトIgG抗体(Sigma)を含む50μlのPBS Luminexアッセイ緩衝液に、30分間暗中にて回転振盪機で再懸濁した。ビーズを次いで200μlの1x PBS, 0.05% Tweenで2回洗浄し、300μlの1xPBSに再懸濁した。
【0079】
受容体によるペプチド認識を指示する蛍光を、EXPO32ソフトウェア(Beckman Coulter)を用いるEpics XLサイトメーター(Beckman Coulter)で行ったフローサイトメトリーにより評価した。
図3は結果を示しており、α3ドメインを含む全てのペプチドが実際にILT4受容体に特異的に結合することを明確に示す。
【0080】
実施例4:α3-α1二量体の細胞増殖へのインビトロにおける効果
実施例1の二量体の腫瘍細胞系の増殖への効果は、細胞系Raji (B細胞、バーキットリンパ腫;図4、アクセッション番号ATCC CCL-86)、Daudi 系(B細胞、バーキットリンパ腫;図5、アクセッション番号ATCC CCL-213)、U937系(単球、組織球性リンパ腫;図6、アクセッション番号CRL-1593.2)、KG-1系(骨髄単球性白血病;図7、アクセッション番号CCL-246)及びILT4-形質導入NKL系(NKL-ILT4、白血病、NK細胞;図7、Robertson MJ ら、Exp Hematol. 1996, 24:406-415)を用いて評価した。簡潔には:10,000細胞を96ウェルプレートのウェルに培養培地200μlの最終容積で播種した。ペプチドを加え、50μg/mlの最終濃度を得た。全てのウェルについて2連で(in duplicate)行った。細胞を12時間インキュベートし、トリチウム化チミジンを加え、給湿したインキュベーター中で37℃及び5%CO2にてさらに24時間インキュベートした。培養の終わりに、DNAへの3Hチミジンの組込みを18時間後にβ-カウンター(Wallac 1450, Amersham Biosciences)で定量した。
【0081】
腫瘍系Rajiについて図4に、腫瘍系DAUDIについて図5に、腫瘍系U937について図6に示される結果は、α3-α1二量体(配列番号4)が、それぞれ83.7%、81.2%及び92.6%まで腫瘍細胞の増殖を阻害することを示す。対照的に、α3_L2 (配列番号5)二量体は、腫瘍細胞系の増殖を顕著に阻害せず、α3_L1 (配列番号3)二量体は、3つの細胞系のうち1つだけの増殖を阻害した。図7は、α1-α3二量体の、リンパ球及び骨髄起源の5つの腫瘍細胞系の増殖への阻害効果を特に示す。
【0082】
よって、図4〜7は、本発明によるα3-α1二量体が、リンパ球B腫瘍及び単核細胞の両方に対して顕著に活性であることを示す。これは、B細胞がILT2+/ILT4-であり、単核細胞がILT2+/ILT4+であることを考慮すれば、全く予期しないことである。
【0083】
実施例5:担体を用いるα3及びα3-α1 多量体の産生
スルフェートラテックスビーズ(4%w/v 5μm、Invitrogen)を担体として用いた。それらをα1単量体で直接的にか、又は間接的に、すなわちα1ドメイン(0.5 mg/ml、BD Pharmingen)を介してかのいずれかで全てのHLA-Gアイソフォームを認識できる抗HLA-G抗体4H84を用いてコートした。
【0084】
間接的コーティングについて、108個のスルフェートラテックスビーズを20μg/mlの精製された抗ヒトHLA-G抗体と共に2時間37℃にてインキュベートし、その後BSA (2 mg/ml)と共に2時間インキュベートした。洗浄後、ビーズを1μg/mlのHLA-G α1ペプチド (実施例1のようにして産生される90マー) と共に4℃にて16時間インキュベートした。
【0085】
HLA-Gペプチドで直接的にコートされたビーズを生成させるために、108個のスルフェートラテックスビーズを1μg/mlのHLA- G α1ペプチドで4℃にて16時間コートし、その後BSA (2 mg/ml)と共に2時間インキュベートした。
全てのビーズを続いて2回1xPBSで洗浄した。5 mlのHLA- G α1ペプチド (1μg/ml)を5x106個のスルフェートラテックスビーズについて用いた。
このような本発明の多量体を用いて、インビボにおける移植片寛容を誘導させるか又は増加させた。
【0086】
参照文献
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【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2つの単量体を含み、各々の単量体が式P1-X3又はX2-X3のペプチドP2(ここでP1は式X1-X2であり、式中X1はシステインアミノ酸を含むペプチドリンカーを表し、X2はHLA-Gのα1ドメイン(又はα1ペプチド)を表し、X3はHLA-Gのα3ドメインを表す)からなる群において選択されることを特徴とする多量体。
【請求項2】
ペプチドP1が、X2のC末端及び/又はN末端部に、20未満、より好ましくは15未満、最も好ましくは10未満又は5未満のさらなるアミノ酸を含み、該アミノ酸が天然HLA-Gアイソフォームのα1ドメインの側部にあることを特徴とする請求項1に記載の多量体。
【請求項3】
ペプチドリンカーX1が、少なくとも10〜30アミノ酸であって最大100のアミノ酸を含み、システインをそのN末端部に、好ましくはN末端から1位、2位、3位又は4位に含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の多量体。
【請求項4】
α1-α3単量体が配列番号4に与えられていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の多量体。
【請求項5】
配列番号4の2つの単量体がα1ドメインの42位システイン残基間のジスルフィドブリッジを介して結合している、α1-α3二量体の形態にあることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の多量体。
【請求項6】
α1-α3単量体がスペーサー又は担体を介して結合していることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の多量体。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の多量体と、少なくとも1つの医薬的に許容されるビヒクル又は担体とを含む医薬組成物。
【請求項8】
液性腫瘍、好ましくは白血病及び骨髄腫瘍を治療するための、請求項1〜6のいずれか1項に記載の多量体又は請求項7に記載の医薬組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2012−531401(P2012−531401A)
【公表日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−516959(P2012−516959)
【出願日】平成22年6月25日(2010.6.25)
【国際出願番号】PCT/IB2010/052920
【国際公開番号】WO2010/150235
【国際公開日】平成22年12月29日(2010.12.29)
【出願人】(500539103)コミッサリア ア レネルジ アトミック エ オー エネルジ アルターネイティブス (29)
【氏名又は名称原語表記】COMMISSARIAT A L’ENERGIE ATOMIQUE ET AUX ENERGIES ALTERNATIVES
【住所又は居所原語表記】25,rue Leblanc Batiment (Le Ponant D),75015 PARIS,France
【Fターム(参考)】