説明

γ−アミノ酪酸の長期安定化方法

【課題】 γ−アミノ酪酸含有物中のγ−アミノ酪酸の長期安定化方法を提供すること。
【解決手段】 γ−アミノ酪酸含有物中のγ−アミノ酪酸の長期安定化方法を提供する。γ−アミノ酪酸含有物に糖質を添加すると、γ−アミノ酪酸の長期安定化に優れた効果を発揮し、γ−アミノ酪酸含有物中のγ−アミノ酪酸を長期的に保持することが可能となる。また、本発明の方法を実施した食品組成物もしくは化粧品組成物についても、その効果は発揮される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、γ−アミノ酪酸含有物中のγ−アミノ酪酸の長期安定化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高血圧症患者または血圧が高い傾向にある人を対象にして、γ−アミノ酪酸を多く含有する食品が開発されている(例えば、特許文献1〜4)。例えば、特許文献1には、摘採した茶葉を嫌気条件下に保持すること、あるいは茶葉に赤外線を照射することによってγ−アミノ酪酸含量を高めた茶葉、いわゆるギャバロン茶が得られることが記載されている。しかし、従来のγ−アミノ酪酸を富化する方法では、効率が悪い、あるいは処理工程中に緑葉の褪色が起こり、商品的な価値が落ちるという問題がある。また、緑色を保持するために汎用的に用いられるブランチング処理は、褪色を抑制する点では優れているが、ブランチング処理中にγ−アミノ酪酸が流出するという問題がある。これらの問題を解決したγ−アミノ酪酸含量が高められた緑葉の製造方法が開発されている(例えば、特許文献5および6)。
【0003】
【特許文献1】特開平9−205989号公報
【特許文献2】特許第3239122号公報
【特許文献3】特開2000−32923号公報
【特許文献4】特開2001−340062号公報
【特許文献5】特許第3430127号公報
【特許文献6】特許第3430132号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、これらγ−アミノ酪酸高含有物中のγ−アミノ酪酸は、時間が経つにつれて減少するという問題点があった。
【0005】
本発明の目的は、γ−アミノ酪酸含有物中のγ−アミノ酪酸を長期的に保持できる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは鋭意検討を行ったところ、γ−アミノ酪酸含有物に、糖質および/または水溶性食物繊維を添加すると、γ−アミノ酪酸含有物中のγ−アミノ酪酸の長期安定化に優れた効果を発揮することを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、γ−アミノ酪酸含有物に、糖質および/または水溶性食物繊維を添加することを特徴とする、γ−アミノ酪酸の長期安定化方法に関する。
【0008】
好ましくは、本発明は、前記糖質がトレハロース、糖アルコール、環状オリゴ糖からなる群より選択される少なくとも1種である、前記長期安定化方法に関する。
【0009】
好ましくは、本発明は、前記水溶性食物繊維が、難消化性デキストリンおよび/または還元性難消化性デキストリンである、前記長期安定化方法に関する。
【0010】
また好ましくは、本発明は、前記γ−アミノ酪酸含有物が、γ−アミノ酪酸富化処理した緑葉および/またはグルタミン酸にグルタミン酸脱炭酸酵素を有する野菜を作用させたものである、前記長期安定化方法に関する。
【0011】
また好ましくは、本発明は、前記緑葉が、アブラナ科植物、イネ科植物、ツバキ科植物、ヒルガオ科植物から選択される少なくとも1種の緑葉である、前記長期安定化方法に関する。
【0012】
また好ましくは、本発明は、前記野菜がカボチャである、前記長期安定化方法に関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、γ−アミノ酪酸含有物中のγ−アミノ酪酸を長期的保持できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明のγ−アミノ酪酸含有物中のγ−アミノ酪酸の長期安定化方法について説明する。なお、本発明は、下記実施形態の記載により限定して解釈するべきでなく、特許請求の範囲における記載の範囲内で種々の変更が可能である。
【0015】
1.γ−アミノ酪酸含有物
本発明に用いるγ−アミノ酪酸含有物に特に限定はない。γ−アミノ酪酸含有物としては、γ−アミノ酪酸富化処理した緑葉や、グルタミン酸に乳酸菌や酵母などの微生物を作用させたもの、グルタミン酸にグルタミン酸脱炭酸酵素を有する野菜を作用させたものなどが挙げられるが、好ましくはγ−アミノ酪酸富化処理した緑葉ならびに、グルタミン酸にグルタミン酸脱炭酸酵素を有する野菜を作用させることによって得たγ−アミノ酪酸含有物である。
【0016】
上記の方法で得られたγ−アミノ酪酸含有物中のγ−アミノ酪酸量に特に制限はないが、好ましくは0.01〜30質量%、より好ましくは0.05〜20質量%、さらに好ましくは0.05〜15質量%である。
【0017】
(1)γ−アミノ酪酸富化処理した緑葉
本発明に用いる緑葉としては、例えば、アブラナ科植物(小松菜、ケール、キャベツ、ブロッコリーなど)、イネ科植物(大麦、小麦、えん麦、ライ麦などの麦類、イネ、あわ、笹、ひえ、きび、とうもろこし、ソルガム、さとうきびなど)、ツバキ科植物(チャなど)、ヒルガオ科植物(甘藷など)、キク科植物(ヨモギなど)、セリ科植物(アシタバ、パセリ、セロリなど)、クワ科植物(クワなど)、ドクダミ科植物(ドクダミなど)、シソ科植物(シソなど)、ユリ科植物(アスパラガスなど)、シナノキ科植物(モロヘイヤなど)などの緑葉が挙げられる。ビタミン、ミネラル、葉緑素などに富む点から、好ましくは、アブラナ科植物、イネ科植物、ツバキ科植物、ヒルガオ科植物の緑葉が用いられ、特に好ましくはアブラナ科のケール葉、イネ科の麦若葉、ツバキ科のチャの茎葉、ヒルガオ科の甘藷の茎葉である。
【0018】
このような緑葉は、収穫後、直ちに処理することが好ましい。処理までに時間を要する場合、緑葉の変質を防ぐために低温貯蔵などの当業者が通常用いる貯蔵手段により貯蔵され得る。
【0019】
上記緑色植物の緑葉は、必要に応じて、水(好ましくは25℃以下の冷水)で洗浄し、泥などを洗い落とし、水気を切った後、適当な長さ(例えば、5cm〜10cm)に切断する。
【0020】
緑葉中のγ−アミノ酪酸を富化する方法としては、例えば、特許第313423号公報、特許第3430132号公報、特許第3409034号公報および特開2005−95011号公報などに記載されている方法に基づいて、γ−アミノ酪酸を富化すればよく、またγ−アミノ酪酸を富化した緑葉は、必要に応じて、通常当業者が用いる方法で乾燥および粉砕してもよい。
【0021】
(2)グルタミン酸にグルタミン酸脱炭酸酵素を有する野菜を作用させて得たγ−アミノ酪酸含有物
本発明に用いる野菜は、γ−アミノ酪酸を生産するグルタミン酸脱炭酸酵素を有する野菜であればよい。例えばトマト、ニンジン、カボチャなどが挙げられるが、γ−アミノ酪酸を高効率に生産することができるカボチャが好ましい。また、グルタミン酸にグルタミン酸脱炭酸酵素を有する野菜を作用させ、γ−アミノ酪酸を得る方法に特に制限はない。
【0022】
2.γ−アミノ酪酸含有物に糖質および/または水溶性食物繊維を添加する工程
本発明のγ−アミノ酪酸の長期安定化方法は、γ−アミノ酪酸含有物に、糖質および/または水溶性食物繊維を添加する工程からなる。
【0023】
本発明に用いる糖質ならびに水溶性食物繊維に、特に制限はない。糖質としては、グルコースなどの単糖、トレハロースや麦芽糖などのオリゴ糖、シクロデキストリンなどの環状オリゴ糖、還元麦芽糖やソルビトールなどの糖アルコールが挙げられるが、好ましくはトレハロース、還元麦芽糖、シクロデキストリンである。また、水溶性食物繊維としては、難消化性デキストリン、還元性難消化性デキストリン、グルコマンナン、グアガム、カラギーナンなどが挙げられるが、好ましくは難消化性デキストリン、還元性難消化性デキストリンである。これら糖質および/または水溶性食物繊維をγ−アミノ酪酸含有物に添加すると、γ−アミノ酪酸の安定保持が可能となる。
【0024】
γ−アミノ酪酸含有物に糖質および/または水溶性食物繊維を添加する方法に、特に制限はない。γ−アミノ酪酸富化処理した緑葉に糖質および/または水溶性食物繊維の水溶液を含浸させ、乾燥することにより長期安定化処理を施した緑葉を得てもよいし、γ−アミノ酪酸含有物と糖質および/または水溶性食物繊維を混合して食品組成物や化粧品組成物を得ても良い。
【0025】
γ−アミノ酪酸富化処理した緑葉に糖質および/または水溶性食物繊維の水溶液を含浸させる場合は、糖質の水溶液の濃度に特に制限はないが、好ましくは5質量%〜80質量%、さらに好ましくは10質量%〜70質量%、特に好ましくは15質量%〜60質量%である。
【0026】
また糖質および/または水溶性食物繊維の水溶液の量は、特に制限はないが、γ−アミノ酪酸を富化した緑葉が全量含浸できる液量が好ましい。その液量は、γ−アミノ酪酸を富化した緑葉の乾燥質量100質量部に対し、好ましくは50質量部〜1000質量部、さらに好ましくは100質量部〜500質量部である。
【0027】
糖質および/または水溶性食物繊維の水溶液への含浸時間は特に制限はないが、好ましくは1分〜30分、さらに好ましくは3分〜20分、特に好ましくは3分〜10分である。
【0028】
糖質水溶液への含浸後は、当業者が通常用いる方法で乾燥や殺菌を行うことにより、長期安定化処理を施した緑葉を得ることができる。乾燥は、当業者が通常用いる方法、例えば、熱風乾燥機、火入れ機(回転ドラム型火入れ機やほうじ機、焙煎機など)などの乾燥機を用いて行われ、緑葉中の水分含量が10質量%以下、好ましくは7質量%以下になるまで行う。乾燥温度は特に制限はないが、40℃〜100℃、好ましくは50℃〜90℃である。また乾燥時間は、30分〜24時間行う。乾燥時間が24時間より長いと緑葉が退色しやすくなる。また殺菌は、例えば、高圧殺菌、加熱殺菌、加圧蒸気殺菌などが挙げられるが、乾燥したものを殺菌するため、加圧蒸気殺菌が好ましい。
【0029】
また、γ−アミノ酪酸含有物と糖質および/または水溶性食物繊維を混合して食品組成物や化粧品組成物を得る場合、糖質および/または水溶性食物繊維の量は、γ−アミノ酪酸含有物の乾燥質量100質量部に対し、好ましくは50〜2000質量部、より好ましくは100〜1500質量部、さらに好ましくは150〜1000質量部である。
【0030】
本発明の長期安定化方法を実施した後に添加剤を加えて食品組成物としてもよい。添加剤としては、賦形剤、結合剤、増粘剤、乳化剤、着色料、香料、栄養成分、その他の食品添加物、調味料などが挙げられる。例えば、栄養成分として、ローヤルゼリー、ビタミン、プロテイン、カルシウム、キトサン、レシチンなどが配合され、さらに食品添加物として調味料を加えて味を整えることができる。これらは、必要に応じて、ハードカプセル、ソフトカプセルなどのカプセル剤、錠剤、もしくは丸剤に、または粉末状、顆粒状、ペースト状、液状などの形状に成形され得る。そしてこれらは、その形状または好みに応じて、そのまま食されても良いし、水、湯、牛乳などに溶いたり、ティーバッグなどに入れて湯などで煎じて飲んでも良い。
【0031】
また、本発明の長期安定化方法を実施した後に、化粧品組成物を得るために、必要に応じて常法により当業者が通常用いる他の成分を含有することができ、医薬品、医薬部外品、化粧品、トイレタリー用品として使用できる。例えば、クリーム、パック、シャンプー、ボディシャンプー、洗顔剤、石鹸、ファンデーション、育毛剤、水性軟膏、油性軟膏、歯磨剤、マウスウォッシュ、シップなどが挙げられる。
【実施例】
【0032】
以下、本発明の実施例について説明する。なお、本発明は、下記の実施例に限定して解釈すべきではなく、特許請求の範囲における記載の範囲内で種々の変更が可能である。
【0033】
(調製例1)
原料として、葉の直径が約20cm〜40cm程度のケールの生葉を用いた。ケールの生葉を水洗いし、付着した泥などを除去し、7cm程度の大きさに切断した。切断したケール葉を嫌気下、40℃で24時間保持し、γ−アミノ酪酸の富化処理を行った。
【0034】
(実施例1)
調製例1で得たγ−アミノ酪酸の富化処理済みのケール葉100gを、30%(w/v)トレハロース(株式会社林原商事)水溶液500mLに10分間含浸させた。その後、ケールを回収し、80℃に加熱した温風乾燥機で、最終水分量が5質量%となるように乾燥した。乾燥後、カッターを用いて約5mmの大きさに粗粉砕(切断)し、加圧蒸気殺菌した。この殺菌工程で粗粉砕物中に含まれた水分を、再度温風乾燥により水分を除去した。この粗粉砕物の90質量%が200メッシュ区分を通過するようにハンマーミルを用いて微粉砕し、ケールの乾燥粉末1(8g)を得た。
【0035】
(実施例2)
30%(w/v)トレハロース水溶液に代えて、50%(w/v)トレハロース水溶液を用いた以外は、実施例1と同様に操作し、ケールの乾燥粉末2を得た。
【0036】
(実施例3)
調製例1で得たγ−アミノ酪酸の富化処理済みのケール葉100gを、80℃に加熱した温風乾燥機で、最終水分量が3質量%となるように乾燥した。乾燥後、カッターを用いて約5mmの大きさに粗粉砕(切断)し、加圧蒸気殺菌した。この殺菌工程で粗粉砕物中に含まれた水分を、再度温風乾燥により水分を除去した。この粗粉砕物の90質量%が200メッシュ区分を通過するようにハンマーミルを用いて微粉砕し、ケールの乾燥粉末3(8g)を得た。
【0037】
(実施例4)
実施例1および2で得たケールの乾燥粉末1および2を、それぞれアルミパックに封入した。この封入物を温度55℃、湿度75%のインキュベーター中に保管し、保管開始時、開始1週間、2週間における乾燥粉末中のγ−アミノ酪酸量を測定した。γ−アミノ酪酸量は、各乾燥粉末1gを純水50mLに加えて3分間撹拌した後、ろ過してろ液を得て、このろ液について、γ−アミノ酪酸標品(和光純薬株式会社)を指標としてHPLCにて測定した。保管開始時の各粉末のγ−アミノ酪酸量を100として、各保管時間でのγ−アミノ酪酸残存率(%)を算出した。結果を表1に示す。
【0038】
(比較例1)
実施例3で得たケールの乾燥粉末3を、実施例4と同様に操作し、各保管時間での各保管時間でのγ−アミノ酪酸残存率(%)を算出した。結果を表1に合わせて示す。
【0039】
【表1】

【0040】
表1の結果、γ−アミノ酪酸を含有する緑葉に、トレハロース水溶液に含浸させて得た乾燥粉末1および2は、含浸させなかった乾燥粉末3と比べて、乾燥粉末中のγ−アミノ酪酸の減少を抑制することが分かる。
【0041】
(実施例5)
11%γ−アミノ酪酸含有パンプキンエキス(ロッテ物産株式会社)とトレハロース(株式会社林原商事)を用いて、表2の配合で流動層造粒法により食品1を得た。
【0042】
(比較例2)
実施例5でトレハロースを用いない以外は、食品1と同様にして食品2を得た。
【0043】
【表2】

【0044】
(実施例6)
実施例5で得た食品1をアルミパックに封入し、この封入物を温度55℃、湿度75%のインキュベーター中に保管し、保管開始時、開始1週間、2週間における乾燥粉末中のγ−アミノ酪酸量を実施例3と同様に測定した。結果を表3に示す。
【0045】
(比較例3)
比較例2で得た食品2を、実施例6と同様に操作し、各保管時間での各保管時間でのγ−アミノ酪酸残存率(%)を算出した。結果を表3に合わせて示す。
【0046】
【表3】

【0047】
表3の結果、γ−アミノ酪酸含有物と糖質を混合して得た食品1は、糖質を混合しなかった食品2と比べ、食品中のγ−アミノ酪酸の減少を抑制することがわかる。
【0048】
従って、本発明により、γ−アミノ酪酸含有物中のγ−アミノ酪酸を長期的保持できる。また、本発明の方法を実施した食品組成物もしくは化粧品組成物についても、その効果は発揮される。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明は、γ−アミノ酪酸含有物中のγ−アミノ酪酸の長期安定化方法に関するものであり、γ−アミノ酪酸含有物に糖質および/または水溶性食物繊維を添加すると、γ−アミノ酪酸の長期安定化に優れた効果を発揮し、γ−アミノ酪酸を長期的に保持することが可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
γ−アミノ酪酸含有物に、糖質および/または水溶性食物繊維を添加することを特徴とする、γ−アミノ酪酸の長期安定化方法。
【請求項2】
前記糖質がトレハロース、糖アルコール、環状オリゴ糖からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の長期安定化方法。
【請求項3】
前記水溶性食物繊維が、難消化性デキストリンおよび/または還元性難消化性デキストリンである、請求項1もしくは2に記載の長期安定化方法。
【請求項4】
前記γ−アミノ酪酸含有物が、γ−アミノ酪酸富化処理した緑葉および/またはグルタミン酸にグルタミン酸脱炭酸酵素を有する野菜を作用させたものである、請求項1〜3に記載の長期安定化方法。
【請求項5】
前記緑葉が、アブラナ科植物、イネ科植物、ツバキ科植物、ヒルガオ科植物から選択される少なくとも1種の緑葉である、請求項1〜4に記載の長期安定化方法。
【請求項6】
前記野菜がカボチャである、請求項1〜4に記載の長期安定化方法。