説明

γビーライト含有気泡モルタル混練物

【課題】自然環境(大気環境)において優れた二酸化炭素吸収能力を発揮する気泡モルタルであって、セメント成分の溶出に起因したpH上昇や土壌汚染の問題が少ないものを提供する。
【解決手段】水、粉体、気泡、混和剤を配合したモルタル混練物であって、水の体積単位量(L/m3)と粉体の体積単位量(L/m3)の合計をVp、気泡の体積単位量(L/m3)をVsoと表すとき、Vp:Vsoが2:8〜6:4であり、粉体成分としてセメントおよびγビーライトを含有し、粉体に占めるγビーライトの割合が20〜70質量%である気泡モルタル混練物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自然環境(大気環境)において優れた二酸化炭素吸収能力を発揮する気泡モルタルを得るための混練物に関する。
【背景技術】
【0002】
モルタルやコンクリートに代表されるセメント系材料は、硬化後のセメントマトリクスが二酸化炭素と反応して炭酸化(中性化)することにより、二酸化炭素を吸収する材料である。ただし、一般的なセメント系材料を地球温暖化防止の観点から二酸化炭素吸収材として積極的に活用することは、従来、有意義でないとされてきた。セメント系材料が二酸化炭素と反応するのは表面付近のみにとどまり、通常、当該セメント系材料に使用されるセメントを製造する際の二酸化炭素の排出量が、吸収量を上回るからである。
【0003】
これに対し、気泡モルタルの場合、内部に存在する空隙の表面を考慮すると二酸化炭素の吸収量はかなり多くなる。気泡モルタルは既に土質系材料の一環として軽量盛土などに適用されている。しかしながら、従来の気泡モルタルは、二酸化炭素濃度を高めた環境で促進炭酸化養生を行う場合には多量の二酸化炭素を吸収させることが可能であるものの、自然界の大気環境下では炭酸化の進行が遅く、二酸化炭素吸収材としての活用にはあまり効果を発揮していなかった。
【0004】
また、土質系材料の用途で気泡モルタルを多量に使用する場合、セメント成分の溶出に起因して、pH上昇による生物への影響や、土壌汚染が懸念される。このため、土質系材料としての気泡モルタルの適用範囲は限られていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−212617号公報
【特許文献2】特開2006−182583号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、自然環境(大気環境)において優れた二酸化炭素吸収能力を発揮する気泡モルタルであって、セメント成分の溶出に起因したpH上昇や土壌汚染の問題が少ないものを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的は、水、粉体、気泡、混和剤を配合したモルタル混練物であって、水の体積単位量(L/m3)と粉体の体積単位量(L/m3)の合計をVp、気泡の体積単位量(L/m3)をVsoと表すとき、Vp:Vsoが2:8〜6:4であり、粉体成分としてセメントおよびγビーライトを含有し、粉体に占めるγビーライトの割合が20〜70質量%である気泡モルタル混練物によって達成される。特に、材齢28日における硬化体の圧縮強度が0.5〜5.0(N/mm2)、透気係数が1.0×10-1(cm/s)以上、比重が0.4〜0.7となるように配合調整された混練物であることがより好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、自然環境(大気環境)において優れた二酸化炭素吸収能力を発揮する気泡モルタルが提供可能となった。この気泡モルタルはγビーライトの炭酸化反応を利用して二酸化炭素を吸収するものであり、その反応生成物が内部空隙の表面に形成されることによりセメント成分のアルカリや重金属の溶出が抑制さえる。そのため、従来の気泡モルタルに比べ生物の生育環境に及ぼす影響が少なく、また土壌汚染に対しても安全性が高い。したがって、軽量盛土などの土質系材料として広く適用することができ、それによって大気中の二酸化炭素の低減に大きく寄与しうる。
【0009】
また、本発明によって得られる気泡モルタル硬化体はポーラスな材料であるため断熱材としても有用である。さらに、連続気泡を有することから重機や自動車の排気ガスフィルターとしても使用可能である。強制的な炭酸化処理を行って製品化することも可能であり、大気環境に曝さない各種用途においてもセメント成分の溶出防止性能が発揮される。また、強制的な炭酸化処理に工場や発電所で排出する排気ガスを利用することによって、二酸化炭素排出量の低減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】気中養生および促進炭酸化養生を施したγC2S置換率50%の気泡モルタル供試体(ケースNo.1、2、3)についての圧縮強度を示すグラフ。
【図2】OPCを用いた気泡モルタル供試体(ケースNo.1、4、5、6)についてγC2S置換率と圧縮強度の関係を示すグラフ。
【図3】OPCを用いた気泡モルタル供試体(ケースNo.1、4、5、6)についてγC2S置換率と促進炭酸化養生による二酸化炭素吸収量の関係を示すグラフ。
【図4】大気環境に置かれた気泡モルタル供試体について重量の経時変化を示すグラフ。
【図5】大気環境に置かれた気泡モルタル供試体について1週目の供試体重量を基準にした重量増加量を示すグラフ。
【図6】OPCを用いた気泡モルタル供試体(ケースNo.1、4、5、6)についてγC2S置換率と室内保管開始から25週目における重量増加量の関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0011】
セメント系材料に添加される混和材のなかでも、γビーライト(γ−2CaO・SiO2)は二酸化炭素と反応し、セメントマトリクスを緻密化する作用を有することが知られている。その作用は促進炭酸化養生を行うことによって顕著に発揮され、セメント系材料の高強度化を図ったり(特許文献1)、耐Ca溶出性、耐塩害性、耐スケーリング性、耐凍結融解性を向上させたりすることができる(特許文献2)。
【0012】
一方、気泡モルタルの場合、発明者らの調査によれば、セメントの一部をγビーライトで置換すると、促進炭酸化養生による二酸化炭素吸収量はむしろ低減する傾向が見られる。その理由については未解明の部分も多いが、γビーライトが促進炭酸化環境で急速に炭酸化することによって、γビーライトと二酸化炭素の反応生成物が気泡モルタルの内部空隙を狭めてしまい、モルタル硬化体内部への二酸化炭素の供給が比較的早期に阻害されるためではないかと考えられる。したがって、気泡モルタルの二酸化炭素吸収性能を向上させるうえで、γビーライトの配合は有効でないものと予測された。
【0013】
ところが更なる検討を進めたところ、促進炭酸化環境ではなく、常温の大気環境においては、γビーライトを配合した気泡モルタルの方がγビーライトを配合しないものと比べ、二酸化炭素吸収量が増大することが明らかとなった。大気環境下での穏やかな炭酸化反応の場合、γビーライト起因の反応生成物による急速な空隙の狭小化が生じることなく、長期にわたって空隙内部への二酸化炭素の到達が可能となることにより、セメント自体の炭酸化とγビーライトの炭酸化が長期間継続されるものと考えられる。
本発明はこのような知見に基づいて完成したものである。
【0014】
本発明の気泡モルタル混練物は、水、粉体、気泡、混和剤を配合したものである。骨材は用途に応じて公知のものを使用することができるが、骨材を使用しない気泡モルタルとすることもできる。
【0015】
粉体成分としては、少なくともセメントとγビーライトを配合させる。必要な強度レベルに応じてセメントの一部を炭酸カルシウムなどの粉体に置き換えてもよい。
粉体に占めるγビーライトの割合は20〜70質量%とする。20質量%より少ないとγビーライトによる大気環境での二酸化炭素吸収能力の向上効果が十分に発揮されない。一方、γビーライトの割合が70質量%を超えると二酸化炭素吸収能力はむしろ低下し、効果的でない。粉体に占めるγビーライトの割合は40〜60質量%とすることがより好ましい。
セメントは、ポルトランドセメント、フライアッシュセメント、高炉セメントB種などが好適な対象となる。
【0016】
気泡は、公知の起泡剤(界面活性剤)を用いて発泡装置にて生成させたプレフォームを適用することが望ましい。気泡の生成手法や、起泡剤の種類は公知の気泡モルタル製造技術を利用することができる。ただし、本発明では気泡の量を以下の範囲とする。
水の体積単位量(L/m3)と粉体の体積単位量(L/m3)の合計をVp、気泡の体積単位量(L/m3)をVsoと表すとき、Vp:Vsoが2:8〜6:4となる範囲。
気泡量が上記より少ないとモルタル硬化体において連続気泡とならない場合が生じやすく、その場合は外界の二酸化炭素と接触しない空隙壁面が増大するので好ましくない。一方、気泡量が上記より多くなるとモルタル硬化体の強度が著しく低下する。
【0017】
混和剤としては、AE減水剤、高性能減水剤または高性能AE減水剤を使用する。
【0018】
以上の配合を満たすモルタル混練物において、特に、そのモルタル混練物の材齢28日における硬化体の圧縮強度が0.5〜5.0(N/mm2)、透気係数が1.0×10-1(cm/s)以上、比重が0.4〜0.7となるように配合調整されているものが、より好ましい対象となる。透気係数が大きくなれば、圧縮強度および比重が低下するので、上記圧縮強度の下限あるいは上記比重の下限によって透気係数の上限は必然的に制約うける。したがって透気係数の上限は特に設ける必要はないが、例えば1.0(cm/s)以下の範囲とすれば種々の用途において好適に使用できる。圧縮強度は主として水粉比および単位骨材量によって調整でき、透気係数は主として気泡の体積単位量Vsoおよび混和剤の種類・添加量によって調整でき、比重は主として単位骨材量および気泡の体積単位量Vsoによって調整できる。
【実施例】
【0019】
〔促進炭酸化養生による実験例〕
表1に示す配合の気泡モルタルを作製した。使用した粉体は以下の通りである。
・OPC; 普通ポルトランドセメント
・FAC; フライアッシュセメント
・BB; 高炉セメントB種
・γ; γビーライト(γC2S)
表1中のW/Pは水粉体比を意味する。また、以下において「γC2S置換率」とは「粉体に占めるγビーライトの割合」を意味する。
【0020】
【表1】

【0021】
気泡モルタル混練物は以下の要領で作製した。
予め水、粉体、高性能減水剤を練り混ぜ、ペーストを作る。このとき、だまがないように十分に練り混ぜ、その後、ブリーディングを生じないように間欠的または連続的にペーストの撹拌を継続する。別途、発泡装置により起泡剤を使用してムース状の気泡(プレフォーム)を生成させ、これを前記ペーストに所定量添加し、直ちに練り混ぜて練上がりとする。
【0022】
得られた気泡モルタル混練物を打設したのち、20℃湿空養生(湿度80%以上)を10日間行って脱型し、得られた気泡モルタル硬化体を促進炭酸化養生に供した。促進炭酸化養生は温度60℃、湿度50%、CO2濃度20%にて7日間または28日間行った。また、圧縮強度を比較するために、上記の促進炭酸化養生に代えて気中養生(前記湿空養生条件)に供した試料も作製した。
なお、いずれのモルタル硬化体も、材齢28日のおいて透気係数が1.0×10-1(cm/s)以上、比重が0.4〜0.7であることが確認された。
【0023】
図1に、気中養生および促進炭酸化養生を施したγC2S置換率50%の気泡モルタル供試体(ケースNo.1、2、3)についての圧縮強度を示す。各セメント種類毎に左から順に7日間気中養生、7日間促進炭酸化養生、28日間気中養生、28日間促進炭酸化養生のデータを示してある。促進炭酸化養生を行うとγビーライトの炭酸化によって強度が増大するが、促進炭酸化養生期間が長くなると強度増大効果は低減する傾向が見られた。セメントの種類で見ると、強度発現の観点からはOPCおよびBBが比較的好ましい。
【0024】
図2に、OPCを用いた気泡モルタル供試体(ケースNo.1、4、5、6)についてγC2S置換率と圧縮強度の関係を示す。γビーライトの配合割合が増大すると圧縮強度は低下する傾向にあるが、促進炭酸化養生を行った場合にはγビーライト無添加のものに対する強度低下は小さくなる。γC2S置換率30%のものでは促進炭酸化養生によりγビーライト無添加のものと同等の強度レベルが得られた。
【0025】
図3に、OPCを用いた気泡モルタル供試体(ケースNo.1、4、5、6)についてγC2S置換率と促進炭酸化養生による二酸化炭素吸収量の関係を示す。■印のプロットが7日間促進炭酸化養生、●印のプロットが28日間促進炭酸化養生である。縦軸は気泡モルタル供試体の見掛け単位体積(内部空隙を含む)あたりの二酸化炭素吸収量を意味する。促進炭酸化環境ではγビーライトを多量に配合する気泡モルタルでは二酸化炭素吸収量が低減する。後述の大気環境での二酸化炭素吸収性能に加え、促進炭酸化環境での二酸化炭素吸収性能をも重視する場合は、γC2S置換率20〜30%の範囲とすることが好ましい。
【0026】
〔大気環境暴露による実験例〕
上記の表1に示す配合の気泡モルタル混練物を前述の要領にて作製し、打設したのち、20℃湿空養生(湿度80%以上)を10日間行って脱型した。得られた気泡モルタル硬化体を常温大気環境の室内に置き、大気に曝した状態で最大49週目まで保管した。
【0027】
図4に、大気環境に置かれた気泡モルタル供試体について重量の経時変化を示す。横軸は、室内保管開始時点を基準にした材齢の√週目盛としてある。すなわち、√週1、2、3、4、5、6および7は、それぞれ室内保管開始から1週目、4週目、9週目、16週目、25週目、36週目および49週目の時点を意味する。いずれの配合の気泡モルタル供試体においても初めの1週間で重量減少が観測された。これは乾燥に伴う水分の減少量が二酸化炭素吸収量を上回ることによる現象である。その後、供試体重量は増加に転じる。一般的なセメント系材料の場合、強制的に炭酸化処理を施さない限り、脱型後49週の時点では重量は減少し続けるのが通常である。大気環境暴露中の気泡モルタルが早期に重量増加に転じる現象はセメント系材料としては非常に珍しいものと考えられる。
【0028】
図5に、大気環境に置かれた気泡モルタル供試体について1週目の供試体重量を基準にした重量増加量を示す。縦軸は、気泡モルタル供試体の重量増加量を、当該供試体の大気に曝されている見掛け表面(内部空隙の表面積を考慮しない表面)の単位面積あたりの重量増加量に換算したものである。この重量増加は吸収した二酸化炭素の質量から乾燥に伴い気化した水分の質量を差し引いたものに相当し、この重量増加分を上回る量の二酸化炭素が吸収されたと見ることができる。
【0029】
図6に、OPCを用いた気泡モルタル供試体(ケースNo.1、4、5、6)についてγC2S置換率と室内保管開始から25週目および49週目における重量増加量の関係を示す。γビーライトを配合することにより常温大気環境における気泡モルタル硬化体の二酸化炭素吸収量は増大することが明らかとなった。特にγC2S置換率を30〜70%とすることが効果的であり、軽量盛土などの自然環境で使用される用途に限ればγC2S置換率を40〜60%とすることがより好ましい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水、粉体、気泡、混和剤を配合したモルタル混練物であって、水の体積単位量(L/m3)と粉体の体積単位量(L/m3)の合計をVp、気泡の体積単位量(L/m3)をVsoと表すとき、Vp:Vsoが2:8〜6:4であり、粉体成分としてセメントおよびγビーライトを含有し、粉体に占めるγビーライトの割合が20〜70質量%である気泡モルタル混練物。
【請求項2】
材齢28日における硬化体の圧縮強度が0.5〜5.0(N/mm2)、透気係数が1.0×10-1(cm/s)以上、比重が0.4〜0.7となるように配合調整された請求項1に記載の気泡モルタル混練物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−188319(P2012−188319A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−53726(P2011−53726)
【出願日】平成23年3月11日(2011.3.11)
【出願人】(000001373)鹿島建設株式会社 (1,387)
【Fターム(参考)】