説明

ε−カプロラクトンの製造法

本発明の対象は、99%を超える純度でのε−カプロラクトンの製造法であり、その際、アジピン酸ジエステル0.5〜40質量%を含有する6−ヒドロキシカプロン酸エステルを、気相中で150〜450℃にて酸化物触媒の存在下で環化させ、且つ該環化生成物から蒸留によってε−カプロラクトンを取得する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の詳細な説明
本発明は、99%を超える純度でのε−カプロラクトンの製造において、アジピン酸エステル0.5〜40質量%を含有する6−ヒドロキシカプロン酸エステルを、気相中で150〜450℃にて酸化物触媒の存在下で環化させ、且つ該環化生成物から蒸留によってε−カプロラクトンを取得することを特徴とする製造に関する。
【0002】
ε−カプロラクトンもしくは該ε−カプロラクトンから重付加によって製造されたポリカプロラクトンは、ポリウレタンの製造に用いられる。
【0003】
シクロヘキサンを酸化してシクロヘキサノール及びシクロヘキサノンを得る(Ullmann's Encyclopedia of Industrial Chemistry,5.Ed.,1987,Vol.A8,S49を参照のこと)際に副生成物として生じるカルボン酸の水溶液−以下でジカルボン酸溶液(DCL)と呼称−は、(質量%記載において水不含で算出して)一般的に、アジピン酸10〜40%、6−ヒドロキシカプロン酸10〜40%、グルタル酸1〜10%、5−ヒドロキシ吉草酸1〜10%、1,2−シクロヘキサンジオール1〜5%、1,4−シクロヘキサンジオール1〜5%、ギ酸2〜10%、並びに多数の更なるモノカルボン酸及びジカルボン酸、エステル、オキソ化合物及びオキサ化合物を含有し、それらの個々の含有量は、一般的に5%を超過しない。例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、4−ヒドロキシ酪酸及びε−ブチルラクトンが挙げられている。
【0004】
DCLからのカプロラクトンの製造も、例えばDE1618143から既に記載されている。その際、脱水されたDCLがリン酸と熱的に反応させられ、且つジカルボン酸、カプロラクトン並びに多数の他の成分からの混合物が分別される。その際、塔底液が、部分的に固体で、且つ難溶性で発生する。しかし、該カプロラクトンは、更なる蒸留による後処理後にも98%の純度しか有さない。
【0005】
その上、DE3823213には、6−ヒドロキシカプロン酸エステルを気相中で酸化物触媒及び不活性キャリヤーガスの存在下でカプロラクトンに変換させることが記載されている。
【0006】
更に、WO97/31883には、アジピン酸、6−ヒドロキシカプロン酸及び少量の1,4−シクロヘキサンジオールを含有し、且つ酸素又は酸素を含有するガスによるシクロヘキサノン/シクロヘキサノールへのシクロヘキサンの酸化の副生成物として、且つ反応混合物の水抽出によって得られるカルボン酸混合物からの1,6−ヘキサンジオール及びε−カプロラクトンの製造法が記載されており、該混合物は、低分子量のアルコールとエステル化して、相応するカルボン酸エステルを得、得られたエステル化混合物から第一の蒸留段階により過剰のアルコール及び低沸点物を除去し、塔底生成物から第二の蒸留段階において、1,4−シクロヘキサンジオールを本質的に含まないエステル留分と、少なくとも大部分のシクロヘキサンジオールを含有する留分とへの分離を行い、第三の蒸留段階によって、本質的に6−ヒドロキシカプロン酸を含有する留分(段階12)を取得し、且つ気相又は液相中でε−カプロラクトンへと環化させる。
【0007】
アジピン酸エステル及び6−ヒドロキシカプロン酸エステルの沸騰範囲は、ほとんど区別されないので、一般的に、2つの物質は蒸留による煩雑性が極端に高い下でのみ、例えば非常に高い分離段数及び相応して高いエネルギー消費量を有する塔の使用によって、又は2つのエステル間に沸点を有する異成分の添加によってのみ、そのつど他のものを伴わずに取得され得る。
【0008】
分離の煩雑性を減らすために、且つ純粋な6−ヒドロキシカプロン酸エステルを取得するために、2つのC6−エステルの蒸留による分離は、WO97/31883に従った第三の蒸留段階においてこれまで、1,6−ヘキサンジオールへと水素化されるべきアジピン酸ジエステルがなお6−ヒドロキシカプロン酸エステル0.2〜7質量%を含有するように実施されていた。1,6−ヘキサンジオールへの要求が高い場合、分離の煩雑性を更に低減しながら、なお多くの6−ヒドロキシカプロン酸エステルがアジピン酸ジエステルと一緒に分離され、且つ1,6−ヘキサンジオールへと水素化され得る。それ故、ジカルボン酸溶液の6−ヒドロキシカプロン酸エステルの含有分は、これまで決して完全にはカプロラクトンの製造に利用されていなかった。
【0009】
蒸留による極端に大きい煩雑性又は異成分の添加を行うことなく、カプロラクトン製造に6−ヒドロキシカプロン酸エステルの非常に大きな割合又は全体の割合の利用が所望されている場合、6−ヒドロキシカプロン酸エステルの流の環化は、比較的多量のアジピン酸エステルの存在下で欠点なしに可能でなければならない。
【0010】
WO97/31883は、液相中でのカプロラクトンの製造を推奨する。この出願中に含まれる比較例1に相応して、6−ヒドロキシカプロン酸エステルに対して5質量%のアジピン酸エステル存在下における液相中での環化において、しかしながら、カプロラクトンの収率の明らかな低下が観察される。
【0011】
この収率低下は、ε−カプロラクトンの環化における重合副反応に帰せられる。触媒の存在下で、アジピン酸ジエステル及び6−ヒドロキシカプロン酸エステルから、ダイマー、オリゴマー又はポリマーが生じ得る。アジピン酸ジメチルエステル及び6−ヒドロキシカプロン酸メチルエステルから、例えば二量体エステルCH3OOC−(CH24−COO−(CH25−COOCH3が形成され得、それは更なる6−ヒドロキシカプロン酸エステルの導入下でオリゴマー又はポリマーを形成し得る。これらのダイマー、オリゴマー又はポリマーは、たしかに、なお水素化によって、1,6−ヘキサンジオールのための利用可能な化合物であるけれども、しかしながら、気相中での反応に際して、環化触媒上にこれらの高沸点成分が堆積するリスクが大きいことから、結果的に非常に短縮された触媒可使時間を見込まなければならないことが考えられる。
【0012】
更に、EP−A251111から、アジピン酸ジエステルが触媒の存在下でシクロペンタノンへと変換され、それにより他の適用、例えば1,6−ヘキサンジオールへの変換にもはや供給可能ではないことが公知であった。
【0013】
それ故、ジカルボン酸エステル又はそれらの混合物から出発して、99%を上回る純度でのカプロラクトンの製造法において、その際、カプロラクトンの製造のために分離の煩雑性の低減及び6−ヒドロキシカプロン酸エステルの非常に大きな割合又は全体の割合の利用を伴い、且つε−カプロラクトンの環化における重合副反応の防止によって良好な触媒可使時間を達成する方法を提供するという課題が存在していた。加えて、可能な限り少ないアジピン酸エステルが変換されるべきである。なぜなら、これはカプロラクトンの分離後に可能な限り、なお他の適用に供給可能とされるべきだからである。
【0014】
この課題は、99%を超える純度でのε−カプロラクトンの製造法において、アジピン酸ジエステル0.5〜40質量%、有利には0.6〜25質量%、特に有利には0.7〜15質量%を含有する6−ヒドロキシカプロン酸エステルを、気相中で150〜450℃にて酸化物触媒の存在下で環化させ、且つ該環化生成物から蒸留によってε−カプロラクトンを取得することを特徴とする方法により解決された。
【0015】
エステル化されるべき6−ヒドロキシカプロン酸エステル及びアジピン酸エステルのアルコールとして、一般に、C原子1〜12個を有するアルカノール、C原子5〜7個を有するシクロアルカノール、C原子7〜8個を有するアラルカノール又はC原子6〜6個を有するフェノールが考慮に入れられる。その際、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、n−又はi−ブタノール又はn−ペンタノール又はi−ペンタノール又は該アルコールの混合物も、しかし、有利にはC原子1〜4個を有するアルコール、特に有利にはメタノールも使用することが出来る。ジオール、例えばブタンジオール又はペンタンジオールも原則的に考慮に入れられる。6−ヒドロキシカプロン酸エステル及びアジピン酸ジエステルにおけるエステル基は、同じであるか、又は異なっていてよく、しかしながら、有利には該エステル基は同じである。特に有利な出発物質は、アジピン酸ジメチルエステル0.5〜40質量%を含有する6−ヒドロキシカプロン酸メチルエステルである。
【0016】
本発明による方法の出発物質、アジピン酸ジエステル0.5〜40質量%を含有する6−ヒドロキシカプロン酸エステルの製造はまた、DE−A19750532に従って行うことが出来、該文献はここで明示的に引用され、且つここで取り込まれたものとする。
【0017】
DE−A19750532に従って、アジピン酸ジエステル0.5〜40質量%を含有する6−ヒドロキシカプロン酸エステルは、アジピン酸ジエステル又はこれらのエステルを本質的な成分として含有する出発物質流の接触水素化、該水素化搬出物の蒸留及びヘキサンジオールの分離によって取得される。
【0018】
その際、水素化は、有利には液相中で実施される。水素化触媒として、この方法では、一般的に、カルボニル基の水素化に適した不均一触媒、それに均一触媒も使用される。該触媒は、固定層として配置されても、流動層、例えば流動床反応器中でも使用されてよい。このための例は、例えばHouben−Weyl,Methoden der Organischen Chemie,Band IV/1c,S.16 bis 26に記載されている。
【0019】
使用されるべき水素化触媒に関して、元素の周期律表の第Ib族、第VIb族、第VIIb族及び第VIIIb族、並びに第IIIa族、第IVa族及び第Va族の1つ以上の元素、殊に銅、クロム、レニウム、コバルト、ロジウム、ニッケル、パラジウム、鉄、白金、インジウム、錫及び/又はアンチモンを含有する触媒が有利である。特に有利なのは、銅、コバルト及び/又はレニウムを含有する触媒である。
【0020】
更に、アジピン酸ジエステル0.5〜40質量%を含有する6−ヒドロキシカプロン酸エステルの製造は、WO97/31883に従って行うことが出来、該文献はここで明示的に引用され、且つここで取り込まれたものとする。
【0021】
アジピン酸ジエステル0.5〜40質量%を含有する6−ヒドロキシカプロン酸エステルの製造は、WO97/31883に従って、アジピン酸、6−ヒドロキシカプロン酸及び少量の1,4−シクロヘキサンジオールを含有し、酸素又は酸素を含有するガスによるシクロヘキサノン/シクロヘキサノールへのシクロヘキサンの酸化の副生成物として反応混合物の水抽出によって得られるカルボン酸混合物を、低分子量のアルコールにより、相応するカルボン酸エステルへとエステル化し、そのようにして得られたエステル化混合物を少なくとも1つの蒸留段階において分離するように行われる。
【0022】
有利な一実施態様において、アジピン酸ジメチルエステル0.5〜40質量%を含有する6−ヒドロキシカプロン酸メチルエステルが得られ、その際
−得られたエステル化混合物から、第一の蒸留段階において、過剰のメタノール及び低沸点物を除去し、
−塔底生成物から、第二の蒸留段階において、1,4−シクロヘキサンジオールを本質的に含まないエステル留分と、少なくとも大部分の1,4−シクロヘキサンジオールを含有する留分とへの分離を実施し、
−アジピン酸ジメチルエステル0.5〜40質量%を含有する6−ヒドロキシカプロン酸メチルエステルの流を、該エステル留分から、第三の蒸留段階において分離する。
【0023】
より詳細な理解のために、ε−カプロラクトンの製造法は、WO97/31883に相応して図1に従って説明され、その中で、個々の方法工程が更なる段階に分類され、その際、段階2、3、4並びに12、13及び14が、ε−カプロラクトンの製造法のために不可欠とされており、且つ段階3及び4は一括りにすることも出来る。
【0024】
ジカルボン酸溶液(DCL)は、一般的に、20〜80%の水割合を有する水溶液である。エステル化反応は、水が生じる平衡反応であることから、殊に、例えばメタノールによるエステル化に際して存在する水を、反応から、なかでも、該エステル化反応の間に水が、例えば共沸により取り除くことが出来ない場合に取り除くことが重要である。段階1における脱水は、例えば膜系により、又は有利には蒸留装置によって行ってよく、その際、10〜250℃、有利には20〜200℃、特に30〜200℃及び1〜1500mbar、有利には5〜1100mbar、特に有利には20〜1000mbarで、水が塔頂部を介して分離され、且つ高級モノカルボン酸、ジカルボン酸及び1,4−シクロヘキサンジオールが塔底部を介して分離される。塔底温度は、その際、有利には、塔底生成物を液状で取り出すことが出来るように選択される。塔の塔底液中の含水量は、0.01〜10質量%、有利には0.01〜5質量%、特に有利には0.01〜1質量%であってよい。
【0025】
水の分離は、該水が主として無酸で得られるように、又はDCL中に含まれる低級モノカルボン酸−本質的にギ酸−を、これらがエステル化においてエステル化アルコールと結合しないように大部分を水により留去することが出来るように行うことができる。
【0026】
段階1からのカルボン酸流に、C原子1〜10個を有するアルコールROHが加えられる。その際、メタノール、エタノール、プロパノール又はイソプロパノール又は該アルコールの混合物、しかし、有利にはメタノールを一方で、又はC4及び、より高級なアルコール、殊にC原子4〜8個を有するアルコール及び有利にはn−ブタノール又はi−ブタノール又はn−ペンタノール又はi−ペンタノールも他方で使用してよい。アルコール対カルボン酸流(質量比)の混合比は、0.1〜30、有利には0.2〜20、特に有利には0.5〜10であってよい。
【0027】
この混合物は、溶融物又は溶液として段階2の反応器中に到達し、そこでカルボン酸がアルコールによりエステル化される。エステル化反応は、50〜400℃、有利には70〜300℃、特に有利には90〜200℃で実施され得る。外圧をかけてもよく、しかし、有利には、エステル化は反応系の自生圧力下で実施される。エステル化装置として、その際、攪拌釜又は流管又はそのつど複数から成るものを使用してよい。エステル化に必要とされる滞留時間は、0.3〜10時間、有利には0.5〜5時間である。エステル化反応は、触媒の添加なしに進めてもよく、有利には、しかし、反応速度を上昇させるために触媒が添加される。それは、均一の溶解された触媒又は固体触媒である。均一触媒として、例示的に硫酸、リン酸、塩酸、スルホン酸、例えばp−トルエンスルホン酸、ヘテロポリ酸、例えばタングストリン酸又はルイス酸、例えばアルミニウム−、バナジウム−、チタン−、ホウ素化合物が挙げられる。有利なのは鉱酸、殊に硫酸である。均一触媒対カルボン酸溶融物の質量比は、一般に0.0001〜0.5、有利には0.001〜0.3である。
【0028】
固体触媒として、酸性又は超酸性の材料、例えば酸性及び超酸性の金属酸化物、例えばSiO2、Al23、SnO2、ZrO2、層状ケイ酸塩又はゼオライトが適しており、それらは全て酸度増大のために鉱酸残基、例えばスルフェート又はホスフェートによりドープされていてよく、又はスルホン酸基、又はカルボン酸基を有する有機イオン交換体が適している。固体触媒は、固定床として配置して、又は懸濁液として使用してよい。
【0029】
反応に際して形成される水は、目的に応じて、連続的に、例えば膜又は蒸留により取り除かれる。
【0030】
カルボン酸溶融物中に存在する遊離カルボキシル基の変換の完全性は、反応後に測定される酸価(mg KOH/g)により確認される。該酸価は、場合により添加された触媒としての酸を差し引いて、0.01〜50、有利には0.1〜10である。その際、系中に存在するカルボキシル基全てが、使用されるアルコールのエステルとして存在している必要はなく、むしろ一部は、ヒドロキシカプロン酸のOH末端を有する二量体又は低重合体のエステルの形で存在していてよい。
【0031】
エステル化混合物は、段階3、膜系又は有利には蒸留塔に供給される。エステル化反応のために溶解された酸が触媒として使用された場合、エステル化混合物は、目的に応じて、塩基により中和され、その際、触媒の酸1当量につき1〜1.5の塩基当量が添加される。塩基として、一般に、アルカリ金属酸化物又はアルカリ土類金属酸化物、−炭酸塩、−水酸化物又は−アルコラート又はアミンが、物質中又はエステル化アルコール中に溶解されて使用される。しかしながら、塩基性イオン交換体により中和してもよい。
【0032】
段階3で塔が使用される場合、塔への供給は、有利には塔頂流と塔底流との間で行われる。塔頂部を介して、1〜1500mbar、有利には20〜1000mbar、特に有利には40〜800mbarの圧力及び0〜150℃、有利には15〜90℃及び殊に25〜75℃の温度で、過剰のエステル化アルコールROH、水並びに相応するギ酸のエステル、酢酸及びプロピオン酸が取り出される。この流は、焼却されるか、又は有利には、段階11において更に後処理されるかの何れかであってよい。
【0033】
塔底液として、主に、使用されるアルコールROHとジカルボン酸、例えばアジピン酸及びグルタル酸、ヒドロキシカルボン酸、例えば6−ヒドロキシカプロン酸及び5−ヒドロキシ吉草酸とのエステルから、並びにオリゴマーの及び遊離もしくはエステル化された1,4−シクロヘキサンジオールから成るエステル混合物が得られる。水及び/又はアルコールROHの残留含分を、エステル混合物中でそのつど4質量%まで許容することが重要であるとされ得る。塔底温度は70〜250℃、有利には80〜220℃、特に有利には100〜190℃である。
【0034】
実質的に水及びエステル化アルコールROHが除去された段階3からの流が、段階4に供給される。それは蒸留塔であり、該蒸留塔にて易沸性成分と難沸性成分との間で供給が行われる。該塔は、10〜300℃、有利には20〜270℃、特に有利には30〜250℃の温度及び1〜1000mbar、有利には5〜500mbar、特に有利には10〜200mbarの圧力で運転される。
【0035】
塔頂留分は、主として残留水及び残留アルコールROH、該アルコールROHとモノカルボン酸、主としてC3〜C6−モノカルボン酸とのエステル、ヒドロキシカルボン酸、例えば6−ヒドロキシカプロン酸、5−ヒドロキシ吉草酸とのエステル並びに、なかでもジカルボン酸、例えばアジピン酸、グルタル酸及びコハク酸とのジエステル、シクロヘキサンジオール、カプロラクトン及びバレロラクトンから成る。
【0036】
上記成分は、一緒に塔頂部を介して分離してよいか、又は更なる有利な一実施態様において段階4の塔内で、主として残留水及び残留アルコール並びに上述のC原子3〜5個を有する成分を含有する塔頂流と、主として上述のC6−エステルの成分を含有する側流とに分離してよい。次いで、C6−酸のエステルを含有する流は、全体の塔頂流として、又は側流としての何れかで、どの程度の量のカプロラクトンが製造されるべきかに応じて、WO97/31883に従って有利な方法により、部分的にのみ、又は全体流として段階12に供給され得る。
【0037】
主として二量体又は低重合体のエステル、シクロヘキサンジオール並びに、より詳しくは定義されなかったDCLの部分的に重合体の成分から成る段階4からの流の難沸性成分は、段階4の塔の回収部を介して分離され、焼却されるか、又は有利な一実施態様において、いわゆるエステル交換反応のためにWO97/31883に記載された段階8に到達するかの何れかであってよい。
【0038】
段階3及び4は、殊に、比較的少量のみが処理される場合、一括りにしてよい。そのために、例えばバッチ式に実施される分留においてC6−エステル流が取得され得る。
【0039】
カプロラクトン製造のために、主としてC6−酸のエステルを含有する段階4からの流が使用される。そのために、この流は、段階12、蒸留塔において、塔頂部を介して、主としてアジピン酸ジエステルを含有する流と、塔底部を介して、主として6−ヒドロキシカプロン酸エステルを含有する流とに分離される。該塔は、1〜500mbar、有利には5〜350mbar、特に有利には10〜200mbarの圧力及び80〜250℃、有利には100〜200℃、特に有利には100〜180℃の塔底温度で運転される。その際、塔頂温度が相応して調節される。
【0040】
カプロラクトンの高い純度及び高い収率にとって大切なことは、ヒドロキシカプロン酸エステルからの1,2−シクロヘキサンジオールの分離である。なぜなら、これらの成分は共沸混合物を互いに形成するからである。この段階12では、1,2−シクロヘキサンジオール及びヒドロキシカプロン酸エステルの分離が完全に、なかでも、エステルとして有利なメチルエステルが使用される場合に成功することは想定されていなかった。
【0041】
段階12で、アジピン酸ジエステルと一緒に幾らかのヒドロキシカプロン酸エステルも分離することが好ましいとされ得る。ヒドロキシカプロン酸エステルのアジピン酸エステルの含分は、アジピン酸ジエステルが1,6−ヘキサンジオールへと水素化されるべき場合、その際、好ましくは0.2〜7質量%である。該エステルのアルコール成分に応じて、ヒドロキシカプロン酸エステルのこの割合は、アジピン酸ジエステルと一緒に塔頂部を介して(例えばメチルエステル)又は塔底部を介して(例えばブチルエステル)分離される。
【0042】
アジピン酸ジエステル0.5〜40質量%を有する6−ヒドロキシカプロン酸エステルを含有する流は、気相中でアルコール及びカプロラクトンへと変換される。6−ヒドロキシカプロン酸エステル及びアジピン酸ジエステルとからの混合物は、なお更なる成分を含有してよく、該成分は20%までの質量割合を構成してよく、有利には、しかし、10%の割合を下回り、特に有利には5%を下回る。これらの成分は、例えば1,5−ペンタンジオール、シクロヘキサンジオール、不飽和アジピン酸ジエステル、ピメリン酸ジエステル、カプロラクトン、5−ヒドロキシカプロン酸エステル並びに、なかでも6−ヒドロキシカプロン酸エステルを基礎とするジエステルとから成る。
【0043】
そのために、6−ヒドロキシカプロン酸エステル及びアジピン酸ジエステル0.5〜40質量%とからの混合物は、蒸気状でキャリヤーガスと一緒に固定層として配置された触媒に導通されるか、又は上向き及び下向きの渦流運動にある酸化物触媒に導通される。
【0044】
蒸発は180〜300℃で行われる。付加的に、反応条件下で不活性溶媒を一緒に蒸発させることが好ましいとされ得る。このような溶媒として、例えばエーテル、例えばテトラヒドロフラン又はジオキサン、しかし、アルコールも考慮に入れられる。好ましくは、このような溶媒中で10〜95質量%の6−ヒドロキシカプロン酸エステル及びアジピン酸ジエステルの溶液が、本発明による方法のための出発物質として使用される。
【0045】
不活性キャリヤーガスは、例えば窒素、二酸化炭素、水素又は希ガス、例えばアルゴンである。好ましくは、窒素又は水素がキャリヤーガスとして使用される。一般に、蒸気状6−ヒドロキシカプロン酸エステル1モルにつき5〜100モルのキャリヤーガスが使用され、有利なのは8〜50モル、特に有利なのは10〜30モルである。該キャリヤーガスは、有利にはブロワー又はコンプレッサーを用いて循環され、その際、部分流が排出され得、且つ相応して新鮮なガスによって補充され得る。
【0046】
反応は、触媒の存在において実施される。触媒として、均一な溶解された形で又は不均一に存在していてよい酸性又は塩基性の触媒が適している。例は、アルカリ金属水酸化物及びアルカリ土類金属水酸化物、アルカリ金属酸化物及びアルカリ土類金属酸化物、アルカリ金属炭酸塩及びアルカリ土類金属炭酸塩、アルカリ金属アルコキシレート及びアルカリ土類金属アルコキシレート又はアルカリ金属カルボキシレート及びアルカリ土類金属カルボキシレート、酸、例えば硫酸又はリン酸、有機酸、例えばスルホン酸又はモノカルボン酸又はジカルボン酸、もしくは上記した酸の塩、ルイス酸、有利には元素の周期律表の第III主族及び第IV主族もしくは第I副族〜第VIII副族又は希土類金属の酸化物又はそれらの混合物からのものである。例示的に、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、三酸化ホウ素、二酸化チタン、二酸化ケイ素、二酸化錫、酸化ビスマス、酸化銅、酸化ランタン、二酸化ジルコニウム、酸化バナジウム、酸化クロム、酸化タングステン、酸化鉄、酸化セリウム、酸化アルミニウム、酸化ハフニウム、酸化鉛、酸化アンチモン、酸化バリウム、酸化カルシウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、酸化ネオジムが挙げられる。酸化物の混合物も使用してよく、それらは個々の成分の混合物であってよく、又は混合酸化物であってよく、例えば、それらはゼオライト、アルミナ又はヘテロポリ酸の形で生じる。触媒は、酸度の増大のために、例えば鉱酸により前処理されていてよく、例えば硫酸、リン酸又は塩酸により前処理されていてよい。
【0047】
好ましくは、酸化ケイ素含有の触媒、例えばゼオライト、アルミナ、例えば、シリカゲル、ケイ藻土又は石英の形における二酸化ケイ素、例えば、α−又はγ−酸化アルミニウムの形における酸化アルミニウム、並びに酸化亜鉛、三酸化ホウ素、その上、二酸化チタンが使用される。特に適しているものとして、二酸化ケイ素又は酸化ケイ素成分を含有する触媒が好ましいと判明した。
【0048】
均一な、好ましくは酸化物の触媒は、反応帯域中に固定層として配置されていてよく、且つエステル及びキャリヤーガスとからの蒸気状混合物を該触媒上に導通してよい。しかしながら、触媒が上向き及び下向きの渦流運動(流動床)にあることも可能である。好ましくは、触媒1g及び1時間当たり0.01〜40g、有利には0.05〜20g、殊に0.07〜10gの出発物質(6−ヒドロキシカプロン酸エステル及びアジピン酸ジエステル0.5〜40質量%とからの混合物)の触媒負荷が保たれる。
【0049】
カプロラクトンへの変換は、150〜450℃の温度、好ましくは200〜400℃の温度、殊に230〜300℃の温度で実施される。一般的に反応は大気圧下で実施される。しかしながら、微かに減少された圧力、例えば500mbarまでの圧力又は微かに高められた圧力、例えば5barまでの圧力を適用することも可能である。固定層として配置された触媒が使用される限りにおいて、触媒の上流で、触媒の下流より高い圧力に調節することが特に有利であると判明し、その結果、場合によっては形成される高沸点成分は触媒上に堆積し得ないか、又はあまり堆積し得なくなる。
【0050】
反応搬出物は、適した冷却装置により凝縮される。固定層として配置された触媒が使用される場合、反応器、例えばシャフト反応器又は管束反応器が、上方向もしくは下方向の流モードにおいて運転され得る。反応は、少なくとも1つの反応器中で行われる。
【0051】
環化の反応搬出物は、主成分として目的生成物のカプロラクトン、更に、環化に際して放出された低級アルコール、アジピン酸ジエステル及び場合により変換されなかった6−ヒドロキシカプロン酸エステル、場合によりオリゴエステル及び場合により溶媒を含有する。この混合物は、減少された圧力で段階14における単段又は多段の蒸留によって、カプロラクトンが少なくとも99%の純度で取得されるように分離される。有利には、純度は99.5%を超え、特に有利には99.8%を超える。
【0052】
カプロラクトンの精製のための単段又は多段の蒸留は、70〜250℃、有利には90〜230℃、特に有利には100〜210℃の塔底温度及び1〜500mbar、有利には5〜200mbar、特に有利には10〜150mbarの圧力で実施される。
【0053】
そのために塔が使用される場合、塔頂部を介して、場合によりなお存在するエステル化アルコール、並びに他のC1〜C6−低沸点物が分離され、側流を介して、純粋なカプロラクトンが分離され、且つ塔底部を介してアジピン酸ジエステル及び場合によりなお変換されていない、返送されるヒドロキシカプロン酸エステルが分離される。アジピン酸ジエステルは、場合により二量体又は低重合体のエステルと一緒に水素化反応器中に送り込んでよく、且つWO97/31883又はDE−A−19750532により1,6−ヘキサンジオールへと変換され得る。
【0054】
未変換の6−ヒドロキシカプロン酸エステルが発生する限りにおいて、これは有利には再生のためにカプロラクトン合成段階の上流での蒸留によるエステルの分離に導かれる。当然の事ながら、基本的に、それはアジピン酸ジエステルと一緒に1,6−ヘキサンジオールへの水素化に送ることも可能である。
【0055】
低重合体C6−エステルが生じる場合、これらはEP−B1030827により同様に1,6−ヘキサンジオールへの水素化に導入してよい。
【0056】
該方法は、後続の実施例を手がかりにして、より詳細に説明されるが、しかし、それによっていかようにも制限されない。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】ε−カプロラクトンの製造における段階を示す図
【実施例】
【0058】
実施例1
WO97/31883に相応して製造された、アジピン酸ジメチルエステル25質量%及び6−ヒドロキシカプロン酸メチルエステル流75質量%(6−ヒドロキシカプロン酸メチルエステル93%、1,4−シクロヘキサンジオール1.6%、1,5−ペンタンジオール1.4%、不飽和アジピン酸ジメチルエステル0.3%、ピメリン酸ジメチルエステル0.2%、二量体エステル1.6%、並びに量的にそれぞれ0.1%を下回る更なる化合物を含有する)とからの混合物10g/h、を、蒸発器中に250℃でポンプ供給し、且つそこからガス状で窒素10l(STP)/hと一緒に260℃及び標準圧力下で二酸化ケイ素−触媒50ml(水ガラスから硫酸を用いて沈降させた沈降シリカ、押出物3mm)に導通した。反応搬出物を、水冷却器によって凝縮し、且つ分析した。6−ヒドロキシカプロン酸メチルエステル変換率は98%であり、6−ヒドロキシカプロン酸メチルエステルに対するカプロラクトン選択率は93%であり、収率は91%であった。アジピン酸ジメチルエステル変換率は、約10%のみであり、それは主としてシクロペンタノンになった。収集した反応搬出物を、不連続的に1mの不規則充填塔中で蒸留した。10mbarにて、カプロラクトンを99.8%までの純度で得ることが出来た。
【0059】
実施例2
実施例1を繰り返したが、但し、触媒として二酸化ケイ素(STR 5mm、Grace & Comp社のDavicat SMR♯CCS−04−051、♯03GMD363)を使用し、且つアジピン酸ジメチルエステルの含有量が10質量%であるという違いを伴った。56%の6−ヒドロキシカプロン酸メチルエステル変換率を達成し、カプロラクトン選択率は98%であり、収率は55%であった。アジピン酸ジメチルエステル変換率は1%を下回っていた。
【0060】
比較例1
WO97/31883からの実施例2を、全体量に対して0.1%ではなく、約5%のアジピン酸ジメチルエステルを液相環化への供給流中に含むヒドロキシカプロン酸含有流を用いて繰り返した。有効なアジピン酸ジメチルエステル添加を伴わないWO97/31883の実施例2とは対照的に、カプロラクトン含有留出物の量は、>90%のカプロラクトン収率に相当する1225gではなくて、約75%のカプロラクトン収率に相当する900gのみであった。相応して塔底生成物量は、より大きかった。
【0061】
比較例2
比較例1を繰り返したが、但し、アジピン酸ジメチルエステル10%が供給流中にあるという違いを伴った。カプロラクトン収率は10%足らずであり、残分はオリゴマーの塔底生成物から成っていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
99%を超える純度でのε−カプロラクトンの製造法において、アジピン酸ジエステル0.5〜40質量%を含有する6−ヒドロキシカプロン酸エステルを、気相中で150〜450℃にて酸化物触媒の存在下で環化させ、且つ該環化生成物から蒸留によってε−カプロラクトンを取得することを特徴とする、99%を超える純度でのε−カプロラクトンの製造法。
【請求項2】
アジピン酸ジエステル0.5〜40質量%を含有する6−ヒドロキシカプロン酸エステルを、アジピン酸ジエステル又はこれらのエステルを本質的な成分として含有する出発物質流の接触水素化、該水素化搬出物の蒸留及びヘキサンジオールの分離によって取得することを特徴とする、請求項1記載の99%を超える純度でのε−カプロラクトンの製造法。
【請求項3】
アジピン酸、6−ヒドロキシカプロン酸及び少量の1,4−シクロヘキサンジオールを含有し、且つ酸素又は酸素を含有するガスによるシクロヘキサノン/シクロヘキサノールへのシクロヘキサンの酸化の副生成物として反応混合物の水抽出によって得られるカルボン酸混合物を、低分子量のアルコールとエステル化して、相応するカルボン酸エステルを得、そのようにした得られたエステル化混合物から少なくとも1つの蒸留段階において、アジピン酸ジエステル0.5〜40質量%を含有する6−ヒドロキシカプロン酸エステルの流が得られるように分離する、請求項1記載の99%を超える純度でのε−カプロラクトンの製造法。
【請求項4】
アジピン酸ジメチルエステル0.5〜40質量%を含有する6−ヒドロキシカプロン酸メチルエステルの製造のために、
−前記の得られたエステル化混合物から、第一の蒸留段階において、過剰のメタノール及び低沸点物を除去し、
−塔底生成物から、第二の蒸留段階において、1,4−シクロヘキサンジオールを本質的に含まないエステル留分と、少なくとも大部分の1,4−シクロヘキサンジオールを含有する留分とへの分離を実施し、
−アジピン酸ジメチルエステル0.5〜40質量%を含有する6−ヒドロキシカプロン酸メチルエステルの流を、該エステル留分から、第三の蒸留段階において分離する、
請求項3記載の99%を超える純度でのε−カプロラクトンの製造法。
【請求項5】
窒素、二酸化炭素、水素又は希ガスから選択された不活性キャリヤーガスの存在下で環化させることを特徴とする、請求項1から4までのいずれか1項記載の99%を超える純度でのε−カプロラクトンの製造法。
【請求項6】
ゼオライト、アルミナ、シリカゲル、ケイ藻土又は石英から選択された酸化ケイ素含有触媒を使用することを特徴とする、請求項1から5までのいずれか1項記載の99%を超える純度でのε−カプロラクトンの製造法。
【請求項7】
200〜400℃で環化させることを特徴とする、請求項1から6までのいずれか1項記載の99%を超える純度でのε−カプロラクトンの製造法。
【請求項8】
230〜300℃で環化させることを特徴とする、請求項1から7までのいずれか1項記載の99%を超える純度でのε−カプロラクトンの製造法。

【図1】
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【公表番号】特表2010−529159(P2010−529159A)
【公表日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−511596(P2010−511596)
【出願日】平成20年6月6日(2008.6.6)
【国際出願番号】PCT/EP2008/057114
【国際公開番号】WO2008/152001
【国際公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【出願人】(508020155)ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア (2,842)
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany
【Fターム(参考)】