説明

φ15DNAポリメラーゼ

【課題】 高いプロセッシビティと鎖置換活性とを併せもつ精製組換えDNAポリメラーゼを提供する。バクテリオファージDNAポリメラーゼをコードする単離核酸、並びにDNAを増幅するためのキット及び方法も提供する。
【解決手段】 (a)配列番号1のアミノ酸配列2〜557、(b)配列番号1の8アミノ酸残基以上の断片、(c)上記(a)又は(b)に基づく単離ポリペプチドであって、(a)又は(b)の配列からの逸脱の95%以上が保存的置換である単離ポリペプチド、及び(d)上記(a)又は(b)の単離ポリペプチドとのアミノ酸配列相同性が65%以上の単離ポリペプチドからなる群から選択されるアミノ酸配列を有する単離ポリペプチドであって、DNAポリメラーゼ活性を有する単離プリペプチド。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、DNA増幅に適したDNAポリメラーゼに関する。具体的には、本発明は鎖置換活性を有するバクテリオファージΦ15DNAポリメラーゼに関する。
【背景技術】
【0002】
DNA配列決定では、一方の末端が一定で他方の末端が異なる一本鎖DNA断片の集団が4種類生成する。可変的な末端は常にある所定のヌクレオチド塩基(グアニン(G)、アデニン(A)、チミン(T)又はシトシン(C)のいずれか)で停止する。異なる4種類の断片は高分解能ポリアクリルアミドゲルで各々それらの鎖長に基づいて分離され、ゲル上の各バンドはDNA配列の特定のヌクレオチドと共線的に対応するので、そのヌクレオチド塩基の配列中の位置が同定される。
【0003】
一般に2通りのDNA配列決定法がある。一つの方法(マクサム・ギルバート法)は各々その一方の末端を1つの放射性標識で標識した単離DNA断片の化学分解によるものであり、各反応は4種類の塩基(G、A、T、又はC)の1種類以上の位置で特異的に限定的な切断を生じる。この方法は一般にDNAポリメラーゼを一切必要としないが、もう一方のジデオキシ配列決定法が過去25年間にわたって種々の改良を加えられているため、人気を失っている。
【0004】
第二の方法(ジデオキシ法)ではDNA鎖を酵素で合成する。4種類の合成を別々に行って、各反応で適当な鎖伸長停止ジデオキシヌクレオチドの取込みを介して特定の塩基(G、A、T、又はC)で鎖の伸長を停止させる。DNA断片が(末端標識ではなく)均一に標識され、大きなDNA断片ほど放射能が強いので、後者の方法が好ましい。さらに、32P標識ヌクレオチドに代えて35S標識ヌクレオチドを用いることもでき、シャープな解像度が得られる。また、各レーンはG、A、T又はCのいずれかにしか対応しないので、反応生成物の解釈が簡単である。大半のジデオキシ配列決定法で用いられる酵素は、大腸菌DNAポリメラーゼIラージフラグメント(「クレノー」)、AMV逆転写酵素及びT7 DNAポリメラーゼ(特許文献1)である。配列決定に用いられるT7 DNAポリメラーゼはプロセッシブで、エキソヌクレアーゼ活性を一切伴わず、ヌクレオチドアナログの取込みを区別せず、小さなオリゴヌクレオチドもプライマーとして利用できるので、他のDNAポリメラーゼよりも有利であると記載されている。こうした特性から、このポリメラーゼはDNA配列決定に理想的なものとなると記載されている(上掲)。
【0005】
ターゲットDNA分子の増幅手段は、増幅DNAがその後のDNA配列決定、クローニング、マッピング、遺伝子型同定、プローブの生成及び診断検査を始めとする分析法に多用されるので有用である。
【0006】
核酸を増幅できる確立された方法が幾つか存在する。これらの方法の大部分は、特異的なプローブ又はプライマーを用いた所定又は特定のDNAターゲットの増幅に関して設計されている。例として、PCR(polymerase chain reaction)法、LCR(ligase chain reaction)法、3SR(self-sustained sequence replication)法、NASBA(nucleic acid sequence based amplification)法、SDA(strand displacement amplification)法及びQβレプリカーゼ(非特許文献1、非特許文献2)での増幅が挙げられる。
【0007】
さらに、幾つかの方法はプラスミド又はM13などのバクテリオファージ由来のDNAのような環状DNA分子の増幅に利用されている。一つの(クローニング)方法は単にこれらの分子を適当な大腸菌宿主株で増殖させた後、十分に確立されたプロトコル(非特許文献3)でDNAを単離することである。PCRも、プラスミド又はM13などのバクテリオファージ由来のDNAのようなDNAターゲットの特定の配列の増幅に多用されている方法である(非特許文献4)。これらの方法の幾つかは、手間とコストと時間がかかり、非効率的で、感度が悪いという問題がある。
【0008】
こうした方法の改良法であるLRCA(linear rolling circle amplification)法では、環状ターゲットDNA分子にアニールしたプライマーを使用し、DNAポリメラーゼを加える。増幅ターゲットサークル(ATC)は新たなDNAが合成される鋳型として作用し、ポリメラーゼがプライマーを連続鎖として伸長させる。ポリメラーゼが鋳型を一周すると、生成した鎖を置換して鋳型を複製し続け、サークルに相補的な配列が連なった反復配列を生じる。このプロセスでは、数時間の反応で数百、さらには数千もの鋳型のコピーを生じることができ、コピーの数は経時的に直線的に(加速せずに)増加する。LRCAの改良法が指数関数的RCA(ERCA)である。指数関数的又は加速増幅を達成するため、複製された相補鎖にアニールする追加のプライマーを用いる。これは生成鎖に新らたな増幅中心を生じて、加速・指数関数的な反応速度及び増幅の増大をもたらす。指数関数的ローリングサークル増幅(ERCA)では、HRCAとも呼ばれる鎖置換反応のカスケードを用いる(非特許文献5)。しかし、ERCAでは、環状DNAターゲット分子にアニールする1種類のプライマーと生成鎖用の1種類のプライマーしか使用できない。もう一つの制限は、プライマーを作製するため、環状ターゲット配列内の特定のDNA配列を知る必要があることである。さらに、環状DNAターゲット分子は、ニックの入った又は少なくとも部分的に一本鎖となった環状のものでなければならない。
【0009】
こうした短所の幾つかを解消する別の方法(本明細書では、多重プライミングローリングサークル増幅(MPRCA(multiply-primed rolling circle amplification)と呼ぶ)は、個々のターゲットサークルの増幅に複数のプライマーを用いることによって、複数の特異的プライマーを用いてローリングサークル増幅を実施する。これは、各環状鋳型分子上の複数の成長点で合成が一段と速やかに進行するという利点を有する。すべてのプライマーが環状ターゲット鎖にしかアニールしなければ増幅は直線的となるが、両方の鎖にプライマーを与えると増幅は指数関数的となる。
【0010】
この方法は、サークル内の既知又は未知のターゲットDNAの「インビトロクローニング」つまり生物へのクローニングを必要としないクローニングの機構を与える。パドロックプローブを用いるとギャップ充填法でサークル中にターゲット配列をコピーすることができる(非特許文献5)。或いは、他の多くの慣用法によって、ターゲット配列を環状ssDNA又はdsDNAにコピー又は挿入することができる。RCA増幅では、生物内でのクローニングによってDNAの増幅収率を得る必要性が解消される。
【0011】
特異的なターゲット増幅が広く用いられているが、ターゲット試料中のすべての配列の全体的増幅も有用である。これはMPRCAにおいて任意又はランダム配列のプライマーの集合を用いて達成できる。こうすると、未知の配列の環状ターゲットDNA分子の増幅が達成できる。もう一つの利点は、一本鎖又は二本鎖環状ターゲットDNA分子の増幅を等温及び/又は室温で実施できる。他の利点として、ローリングサークル増幅の新らたな用途に極めて有用であり、低コストで、低濃度のターゲットサークルにも感度が高く、順応性、特に検出試薬の使用に関して順応性があり、汚染の危険性が低いことが挙げられる(特許文献2、非特許文献6、非特許文献7、非特許文献8)。
【0012】
ある実施形態では、反応系に存在しかねないエキソヌクレアーゼ活性による分解に耐性の複数のプライマーを用いることによって増幅産物のDNA収率を向上させる方法を用いる。これは、エキソヌクレアーゼ活性を有し、長時間のインキュベーションで実施される反応でプライマーが存続し続けることができるという利点を有する。プライマーが存続し続けると、反応の全インキュベーション時間で新たなプライミングを起こうことができる。これはERCAの特質の一つであり、増幅DNAの収率を増大させるという利点をもつ。
【0013】
ランダムプライマーRCAも二本鎖産物を生成するという利点をもつ。これは環状鋳型の複製で生成した直鎖状ssDNA産物が、DNA合成のランダムプライミングによってそれ自体二本鎖の形態に変換されるからである。二本鎖DNA産物は、いずれの鎖でもDNA配列決定でき、しかも制限酵素消化、並びにクローニング、標識及び検出に用いられる他の方法も行えるという利点がある。
【0014】
縮重プライマー(非特許文献9)及びランダムプライマー(非特許文献10)を用いて全ゲノム増幅を行う方法が発表されており、これらの方法では、ゲノムDNAのような複雑なターゲット混合物のサブセットが増幅される。複雑さの低減がこれらの方法の目的である。
【0015】
しかし、バクテリオファージΦ29(PHI29)由来のDNAポリメラーゼをランダム配列六量体プライマーと併用すると、指数関数的MPRCA機構による環状DNA配列の全体的増幅に特に有利であることが判明した。さらに、この組合せが、多重置換増幅のためのMDAと呼ばれるプロセスにおける直鎖状DNA分子の増幅にも有効であることも判明した。バクテリオファージλの50kb染色体又は単離ヒト染色体DNAのような大きな直鎖状分子の増幅が可能である。この方法は、Φ29DNAポリメラーゼのもつ独特な特性、すなわち、プロセッシビティと、合成中に鋳型鎖にアニールした鎖を置換する能力(いわゆる鎖置換活性)とを利用したものである(非特許文献11)。ほとんどのDNAポリメラーゼは鋳型にアニールした鎖に遭遇すると減速又は停止するが、Φ29DNAポリメラーゼは、二本鎖鋳型から鎖を置換しなければならない場合にも、一本鎖DNAにおけるのと同じ合成速度を有する。また、ほとんどのDNAポリメラーゼが鋳型に結合しているのは、数ヌクレオチドから約1000のヌクレオチドを重合するのに十分な期間でしかない。ポリメラーゼが離れるとその特定の部位で合成が停止し、その後で別の分子ポリメラーゼが結合したときにしか合成は再開されない。対照的に、Φ29DNAポリメラーゼは、数千ものヌクレオチドを重合するまで停止せずに結合し続け、長く伸びた鋳型配列の合成を伸ばす。併せて、こうしたΦ29DNAポリメラーゼの独特な特性から、六量体のようなランダム配列プライマーを用いたMDA及びMPRCAに特に有効なものとなる。
【0016】
種々のDNAポリメラーゼを用いた実験から、これらの酵素の多くはMDAによる増幅には対応しないことが判明した。これは、一本鎖鋳型での合成で既にコピーされた領域のような鋳型DNAの二本鎖領域にこうした酵素が遭遇すると減速又は停止するためと推定される。そのため、試料中の一本鎖DNAがすべて二本鎖DNAに変換されると合成が止まる。このため増幅は最大2倍に制限されるが、Φ29DNAポリメラーゼはDNAを百万倍以上に容易に増幅する。
【特許文献1】米国特許第4795699号明細書
【特許文献2】米国特許第6323009号明細書
【非特許文献1】Birkenmeyer and Mushahwar, J. Virological Methods, 35:117-126 (1991); Landegren, Trends Genetics, 9:199-202 (1993)
【非特許文献2】Landegren, Trends Genetics, 9:199-202 (1993)
【非特許文献3】Sambrook, J., Fritsch, E. F., and Maniatis, T. Molecular Cloning, A Laboratory Manual, 1989, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y.
【非特許文献4】PCR Protocols, 1990, Ed. M. A. Innis, D. H. Gelfand, J. J. Sninsky, Academic Press, San Diego.
【非特許文献5】Lizardi, P. M. et al. Nature Genetics, 19, 225-231 (1998)
【非特許文献6】Genomics 2002 Vol. 80, No. 6, 691-8
【非特許文献7】Biotechniques 2002 June Suppl. 44-47
【非特許文献8】Genome Research, 2001 Vol. 11 No. 6, 1095-9
【非特許文献9】Cheung, V. G. and Nelson, S. F. Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 93, 14676-14679 (1996)
【非特許文献10】Zhang, L. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 89, 5847-5851 (1992)
【非特許文献11】Proc Natl Acad Sci U S A. 2005 May 3;102(18):6407-12
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
新規なポリメラーゼが望まれている。以下に詳しく説明すると通り、このニーズに取り組んだ。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、バクテリオファージΦ15由来の新規DNAポリメラーゼの単離及び精製、並びにDNA増幅におけるその使用に関する。DNA増幅では、DNA配列の鎖にプライマーをアニールさせ、アニールした混合物を、バクテリオファージΦ15から単離したDNAポリメラーゼと共にインキュベートする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本明細書では、図1に記載のアミノ酸配列を含む精製組換えDNAポリメラーゼについて教示する。本明細書では、DNAポリメラーゼをコードする単離核酸であって、図2に記載のヌクレオチド配列を含む単離核酸についても教示する。変異型核酸が、図1に記載のアミノ酸配列を有するDNAポリメラーゼをコードしていてもよい。
【0020】
本明細書では、上記DNAポリメラーゼでDNAの配列決定及び増幅する方法、並びに、上記DNAポリメラーゼを含むDNA配列決定用又は増幅用キットについても教示する。
【0021】
第1の態様では、本発明は、Φ29型のDNAポリメラーゼであるΦ15DNAポリメラーゼに関する。
【0022】
本明細書で用いるΦ29型のDNAポリメラーゼとは、DNAの複製開始に用いられる末端タンパク質を含む近縁ファージから単離されるDNAポリメラーゼもいう。こうしたファージについては、Salas, The Bacteriophages 169, 1988に概説されている。これらのファージは、染色体の構造と、場合によってはDNAポリメラーゼの配列とが近似しており、6残基のアミノ酸しか差がなく、その5残基は類似アミノ酸で置換されているものもある。これらのファージは、長さ約6〜300ヌクレオチドの短い逆位末端反復配列を有する。これらのポリメラーゼは強い3′−5′エキソヌクレアーゼ活性を有するが、5′−3′エキソヌクレアーゼ活性はもたない。
【0023】
バクテリオファージΦ29DNAポリメラーゼは、大腸菌のDNAポリメラーゼI、Taq及びバクテリオファージT7が属するA型ファミリーではなく、DNAポリメラーゼのT4つまりB型ファミリーに属する。このT4ファミリーのポリメラーゼ(Gene. 1992 Mar 1;112(1):139-44)は通例ジデオキシヌクレオチドのような鎖伸長停止剤を認識することができるので、DNA配列決定に有用であると思われるが、概してバクテリオファージT7 DNAポリメラーゼほど有用ではない。
【0024】
一般に、本発明のDNAポリメラーゼはプロセッシブである。本ポリメラーゼは鎖置換活性も有する。
【0025】
プロセッシブ又はプロセッシビティとは、DNAポリメラーゼが、DNA合成反応その他のプライマー伸長反応に通常用いられる条件下で、プライマー分子及び/又は鋳型分子から解離せずに、同じプライマー鋳型を用いて連続的にヌクレオチドを組込むことができることをいう。
【0026】
本発明のポリメラーゼが鎖置換を起こす能力は、プロセッシブとの組合せによって、70kb以上の長いDNA分子を合成できるようになるので、本発明において有益である。鎖置換活性は標準的方法で測定され、例えばポリメラーゼを一本鎖環状DNA分子(例えばM13)及びプライマーとの混合物中でインキュベートすればよい。元の環状分子よりも長いDNA分子が合成されれば、そのポリメラーゼは二本鎖分子のDNA鎖を置換してDNAを合成し続けることができるので、鎖置換活性を有する。かかる活性は単一のタンパク質分子に存在することができ、DNAの合成には通常のデオキシヌクレオシド三リン酸しか必要とされず、ATP又はその等価物のエネルギーを必要としない。この活性は、DNA合成が末端タンパク質で開始される場合にも観察される。
【0027】
本発明のDNAポリメラーゼは、PCR及びDNA増幅に有用である。
【0028】
本発明の一実施形態は、(a)配列番号1のアミノ酸配列、(b)配列番号1の8アミノ酸残基以上の断片、(c)上記(a)又は(b)に基づく単離ポリペプチドであって、(a)又は(b)の配列からの逸脱の95%以上が保存的置換である単離ポリペプチド、及び(d)上記(a)又は(b)の単離ポリペプチドとのアミノ酸配列相同性が65%以上の単離ポリペプチドからなる群から選択されるアミノ酸配列を含む、単離DNAポリメラーゼポリペプチドに関する。
【0029】
本発明の別の実施形態は、(i)配列番号2のヌクレオチド配列、(ii)配列番号2のヌクレオチド配列の縮重変異であるヌクレオチド配列、(iii)配列番号1のアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードするヌクレオチド配列、(iv)配列番号1のアミノ酸配列の保存的アミノ酸置換を含むポリペプチドをコードするヌクレオチド配列、(v)配列番号1のアミノ酸配列の中程度の保存的アミノ酸置換を含むポリペプチドをコードするヌクレオチド配列、又は(vi)上記(i)〜(v)のいずれかのヌクレオチド配列と相補的なヌクレオチド配列のいずれかの核酸分子を含むように形質転換した宿主細胞又はその子孫を、上記核酸分子でコードされるタンパク質が発現する条件下で培養することを含む方法で産生される単離ポリペプチドに関する。
【0030】
本発明は、DNAポリメラーゼ活性を有するポリペプチドをコードする単離核酸にも関する。そこで、本発明の一実施形態は、(i)配列番号2のヌクレオチド配列、(ii)配列番号2のヌクレオチド配列の縮重変異であるヌクレオチド配列、(iii)配列番号2との配列相同性が90%以上のヌクレオチド配列、(iv)配列番号1のアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードするヌクレオチド配列、(v)配列番号1との配列相同性が90%以上のポリペプチド配列をコードするヌクレオチド配列、及び(vi)上記(i)〜(v)のいずれかのヌクレオチド配列の完全相補配列であるヌクレオチド配列からなる群から選択される配列を有するポリヌクレオチドを含む単離核酸であって、DNAポリメラーゼ活性を有するポリペプチドをコードする単離核酸に関する。
【0031】
本発明の別の実施形態は、(i)配列番号2のヌクレオチド配列、(ii)配列番号2のヌクレオチド配列の縮重変異であるヌクレオチド配列、(iii)配列番号2との配列相同性が95%以上のヌクレオチド配列、(iv)配列番号1のアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードするヌクレオチド配列、(v)配列番号1との配列相同性が95%以上のポリペプチド配列をコードするヌクレオチド配列、(vi)上記(i)〜(v)のいずれか1つのヌクレオチド配列の完全相補配列であるヌクレオチド配列とからなる群から選択される配列を有するポリヌクレオチドを含む単離核酸であって、DNAポリメラーゼ活性を有するポリペプチドをコードする単離核酸に関する。
【0032】
本発明のさらに別の実施形態は、(i)配列番号2のヌクレオチド配列、(ii)配列番号2のヌクレオチド配列の縮重変異であるヌクレオチド配列、(iii)配列番号2との配列相同性が99%以上のヌクレオチド配列、(iv)配列番号1のアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードするヌクレオチド配列、(v)配列番号1との配列相同性が99%以上のポリペプチド配列をコードするヌクレオチド配列、(vi)上記(i)〜(v)のいずれかのヌクレオチド配列の完全相補配列であるヌクレオチド配列とからなる群から選択される配列を有するポリヌクレオチドを含む単離核酸であって、DNAポリメラーゼ活性を有するポリペプチドをコードする単離核酸に関する。
【0033】
本発明は、上記単離核酸を含む複製可能なベクター、並びに上記単離核酸を含む発現ベクターにも関する。本発明は、上記複製可能なベクターを含むように形質転換した宿主細胞、又は上記複製可能なベクターを含有するその子孫、並びに上記発現ベクターを含むように形質転換した宿主細胞、又は上記発現ベクターを含有するその子孫に関する。
【0034】
本発明は、さらに、DNAポリメラーゼポリペプチドの生産方法であって、上記単離核酸を含む発現ベクターを含有する宿主細胞を、上記核酸分子でコードされるタンパク質が発現する条件下で培養し、発現タンパク質を単離することを含んでなる方法も提供する。
【0035】
一態様では、本発明は、Φ15DNAポリメラーゼの標品を備えるDNAの配列決定用又は増幅用キットに関する。キットとは、別々に隔てられた成分を、好ましくはDNA配列決定又は増幅反応に用いられる状態で保持するように設計された容器を意味する。適宜、キットは1組のランダム配列プライマーをさらに備えていてもよい。好ましくは、プライマーは4〜10ヌクレオチドの鎖長のものである。最も好ましくは、プライマーは六量体である。プライマーがヌクレアーゼ耐性であることも好ましい。
【0036】
別の態様では、本発明は、DNA配列の増幅法に関する。本方法は、
核酸鋳型とプライマーと核酸ポリメラーゼと1種類以上のヌクレオシドポリリン酸とのポリメラーゼ反応を含んでおり、ポリメラーゼ反応をΦ15DNAポリメラーゼを用いて実施することを改良点とする。増幅は、RCA法、SDA法又はNASBA法で実施される。
【0037】
以下の実施例を参照して、本発明をさらに説明する。
【実施例】
【0038】
以下の実施例で本発明の幾つかの好ましい実施形態について例示するが、あらゆる実施形態の例示を意図したものではない。これらの実施例は、特許請求の範囲及び/又は本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【0039】
実施例1
Φ15DNAポリメラーゼ発現用遺伝子のクローニング
バクテリオファージΦ15は、バクテリオファージΦ29の近縁生物である(J. Mol. Evol. 1999, 48:197-208)。このグループの他のバクテリオファージと同様、約20kbのDNA染色体の5′末端にタンパク質が結合していて、ゲノム構成に数多くの類似点をもつことを特徴とする。まず、Φ15DNAポリメラーゼをコードする遺伝子を、以下の2種類のプライマーを用いたPCRによってファージDNAから増幅した。
【0040】
【化1】

上記BamHIプライマーの配列は、融合ポリメラーゼ−GSTタンパク質の発現率が高まるように、コード配列の5′末端の元のATGコドンが除かれるように選んだ。PCRプロセスはPfu DNAポリメラーゼを用いて、この酵素の標準的反応条件を用いて実施した。得られた1.8kb産物をグラスファイバーフィルター吸着を用いて精製し、クローニングベクターpGEX−6P−2(GE Healthcare社)と同様に、BamHIとXhoIとの組合せで切断した。なお、pGEX−6P−2は、目的タンパク質(DNAポリメラーゼ)がGST(グルタチオンS−トランスフェラーゼ)と融合するように設計されたベクターである。消化DNAを連結し、大腸菌DH5αの形質転換に用いた。得られたコロニーの幾つかを正確なサイズの挿入配列(1.8kb)の有無について検査し、その1つを選択して大腸菌JM109株を形質転換させた。これを配列決定及び酵素発現に用いた。
【0041】
実施例2
Φ15DNAポリメラーゼの発現及び精製
上記融合タンパク質クローンを、600nmのOD(光学密度)が1.5に達するまで2Lの2×YT培地で培養した。次いで、IPTG(イソプロピルチオガラクトシド)を最終濃度1mMとなるように添加し、プラスミドからの発現を誘導した。さらに2時間培養を続けた後培地を冷やし、菌体を回収して、8.8gの菌体ペーストを得た。誘導前後に採取した試料をSDSゲル電気泳動分析にかけたところ(図3)、分子量66000のポリメラーゼと30000のGSTとの融合タンパク質で予測される分子量約95000の新規タンパク質種が誘導されたことが認められた。
【0042】
次に、菌体ペーストを、2mM DTT及び2mM PMSF(フェニルメチルスルホニルフルオライド)を含有する30mlの氷冷PBS緩衝液に懸濁した。Avestin社製EmulsiFlex(商標)ホモジナイザーを用いて、約15000psiで3回通して菌体を破砕した。次いで、非イオン性界面活性剤NP−40を最終濃度1%(v/v)となるように添加し、懸濁液を4℃で30分間穏やかに振盪させた。2000rpm、30分間の遠心分離で残渣を除去し、上清をグルタチオンセファロース4B(10ml)と共に4℃で一晩振盪させ、このアフィニティ樹脂に融合タンパク質を結合させた。
【0043】
次いで、タンパク質の結合したセファロースをカラムに充填し、カラム容積の5倍量の緩衝液(1%NP−40、2mM DTT及び2mM PMSFを含有するPBS緩衝液)で樹脂を洗浄した。次いで、PreScission(商標)プロテアーゼ(GE Healthcare社)を使用説明書通りに用いて、カラムに結合した融合タンパク質を4℃で4時間消化した。次いで、切断されたタンパク質を50mMトリスpH7.0、1mM EDTA及び300mM NaClで溶出し、各1mlの画分を回収した。画分の試料をSDSゲル電気泳動で分析したところ、ポリメラーゼの予測分子量と一致する分子量66000の高純度精製タンパク質が認められた(図4)。すべての画分に少量(<5%)のプロテアーゼ(<5%)が認められたが、3番以降の最も純粋な画分をその後の実験に使用した。
【0044】
実施例3
Φ15DNAポリメラーゼの活性
精製Φ15DNAポリメラーゼ画分のDNAポリメラーゼ活性を、放射化学ポリメラーゼアッセイを用いて、精製Φ29DNAポリメラーゼの活性と対比した。各アッセイ反応混合物(50μl)は、2μgのpUC18DNA、2nmolのランダム配列六量体プライマー(97℃で12分間加熱して変性してから氷上で冷却したもの)、各0.2mMのdNTP(α33P dCTPを含む)及び標記の量の希釈ポリメラーゼを含んでいた。反応系を30℃で30分間インキュベートし、次いでトリクロロ酢酸で沈殿させて酸不溶性画分の放射能を測定した。このアッセイは、MDA及びMPRCAに用いられた反応条件(米国特許第6323009号)に相当するもので、これらの用途における活性を反映するものと思われる。
【0045】
このアッセイを用いると、Φ15DNAポリメラーゼの比活性は、高純度精製Φ29DNAポリメラーゼの比活性の50〜65%であった(図5)。これは、単離したタンパク質が実際に高活性DNAポリメラーゼであることを実証している。
【0046】
当業者であれば、本明細書に開示された本発明の教示内容に基づいて本発明に様々な変更をなし得る。このような変更も、特許請求の範囲に記載された本発明の技術的範囲に属する。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】Φ15DNAポリメラーゼのアミノ酸配列(配列番号1)を示す図。
【図2】Φ15DNAポリメラーゼ遺伝子のヌクレオチド配列(配列番号2)を示す図。
【図3】バクテリオファージΦ15DNAポリメラーゼ遺伝子のクローンを含有する細胞での新規タンパク質の誘導を示すSDS電気泳動実験の図である。誘導されたタンパク質はポリメラーゼとグルタチオンS−トランスフェラーゼとの融合タンパク質である。
【図4】Φ15DNAポリメラーゼの精製を示すSDS電気泳動実験の図。
【図5】精製Φ15DNAポリメラーゼの比活性を、精製Φ29DNAポリメラーゼの比活性と対比したDNAポリメラーゼアッセイを示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(a)〜(d):
(a)配列番号1のアミノ酸配列2〜557、
(b)配列番号1の8アミノ酸残基以上の断片、
(c)上記(a)又は(b)に基づく単離ポリペプチドであって、(a)又は(b)の配列からの逸脱の95%以上が保存的置換である単離ポリペプチド、及び
(d)上記(a)又は(b)の単離ポリペプチドとのアミノ酸配列相同性が65%以上の単離ポリペプチド
からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する単離ポリペプチドであって、DNAポリメラーゼ活性を有する単離プリペプチド。
【請求項2】
以下の(i)〜(vi):
(i)配列番号2のヌクレオチド配列、
(ii)配列番号2のヌクレオチド配列の縮重変異であるヌクレオチド配列、
(iii)配列番号1のアミノ酸配列2〜557を有するポリペプチドをコードするヌクレオチド配列、
(iv)配列番号1のアミノ酸配列2〜557の保存的アミノ酸置換を含むポリペプチドをコードするヌクレオチド配列、
(v)配列番号1のアミノ酸配列2〜557の中程度の保存的アミノ酸置換を含むポリペプチドをコードするヌクレオチド配列、又は
(vi)上記(i)〜(v)のいずれかのヌクレオチド配列と相補的なヌクレオチド配列
のいずれかの核酸分子を含むように形質転換した宿主細胞又はその子孫を、上記核酸分子でコードされるタンパク質が発現する条件下で培養することを含む方法で産生される単離ポリペプチド。
【請求項3】
以下の(i)〜(vi):
(i)配列番号2のヌクレオチド配列、
(ii)配列番号2のヌクレオチド配列の縮重変異であるヌクレオチド配列、
(iii)配列番号2との配列相同性が90%以上のヌクレオチド配列、
(iv)配列番号1のアミノ酸配列2〜557を有するポリペプチドをコードするヌクレオチド配列、
(v)配列番号1の2〜557との配列相同性が90%以上のポリペプチド配列をコードするヌクレオチド配列、及び
(vi)上記(i)〜(v)のいずれかのヌクレオチド配列の完全相補配列であるヌクレオチド配列
からなる群から選択される配列を有するポリヌクレオチドを含む単離核酸であって、DNAポリメラーゼ活性を有するポリペプチドをコードする単離核酸。
【請求項4】
以下の(i)〜(vi):
(i)配列番号2のヌクレオチド配列、
(ii)配列番号2のヌクレオチド配列の縮重変異であるヌクレオチド配列、
(iii)配列番号2との配列相同性が95%以上のヌクレオチド配列、
(iv)配列番号1のアミノ酸配列2〜557を有するポリペプチドをコードするヌクレオチド配列、
(v)配列番号1の2〜557との配列相同性が95%以上のポリペプチド配列をコードするヌクレオチド配列、及び
(vi)上記(i)〜(v)のいずれかのヌクレオチド配列の完全相補配列であるヌクレオチド配列
からなる群から選択される配列を有するポリヌクレオチドを含む単離核酸であって、DNAポリメラーゼ活性を有するポリペプチドをコードする単離核酸。
【請求項5】
以下の(i)〜(vi):
(i)配列番号2のヌクレオチド配列、
(ii)配列番号2のヌクレオチド配列の縮重変異であるヌクレオチド配列、
(iii)配列番号2との配列相同性が99%以上のヌクレオチド配列、
(iv)配列番号1のアミノ酸配列2〜557を有するポリペプチドをコードするヌクレオチド配列、
(v)配列番号1の2〜557との配列相同性が99%以上のポリペプチド配列をコードするヌクレオチド配列、
(vi)上記(i)〜(v)のいずれかのヌクレオチド配列の完全相補配列であるヌクレオチド配列と
からなる群から選択される配列を有するポリヌクレオチドを含む単離核酸であって、DNAポリメラーゼ活性を有するポリペプチドをコードする単離核酸。
【請求項6】
請求項3記載の単離核酸を含んでなる複製可能なベクター。
【請求項7】
請求項3記載の単離核酸を含んでなる発現ベクター。
【請求項8】
請求項6記載の複製可能なベクターを含むように形質転換した宿主細胞、又は前記複製可能なベクターを含有するその子孫。
【請求項9】
請求項7記載の発現ベクターを含むように形質転換した宿主細胞、又は前記発現ベクターを含有するその子孫。
【請求項10】
ポリペプチドの生産方法であって、請求項9記載の宿主細胞を、前記核酸でコードされるタンパク質が発現する条件下で培養することを含んでなる方法。
【請求項11】
発現したタンパク質を単離する段階をさらに含む、請求項10記載の方法。
【請求項12】
核酸鋳型とプライマーと核酸ポリメラーゼと1種類以上のヌクレオシドポリリン酸とのポリメラーゼ反応を含む核酸増幅方法であって、上記ポリメラーゼ反応を請求項1記載のDNAポリメラーゼを用いて実施することを改良点とする方法。
【請求項13】
増幅をRCA(rolling circle amplification)法、SDA(strand displacement amplification)法又はNASBA(nucleic acid sequence based amplification)法によって増幅を実施する、請求項12記載の方法。
【請求項14】
請求項1記載のDNAポリメラーゼを含む、DNA配列決定用又は増幅用キット。
【請求項15】
1組のランダム配列プライマーをさらに含む、請求項14記載のキット。
【請求項16】
前記プライマーが4〜10ヌクレオチドの鎖長のものである、請求項15記載のキット。
【請求項17】
前記プライマーが六量体である、請求項15記載のキット。
【請求項18】
前記プライマーがヌクレアーゼ耐性である、請求項15記載のキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2008−526204(P2008−526204A)
【公表日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−549509(P2007−549509)
【出願日】平成17年12月22日(2005.12.22)
【国際出願番号】PCT/US2005/046799
【国際公開番号】WO2006/073892
【国際公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【出願人】(598041463)ジーイー・ヘルスケア・バイオサイエンス・コーポレイション (43)
【住所又は居所原語表記】800 Centennial Avenue, P.O.Box 1327,Piscataway,New Jersey 08855−1327,United States of America
【Fターム(参考)】