説明

ω−ブロモ長鎖カルボン酸の製造法

【課題】安価に入手し易い原料を用い、簡易に且つ効率よくω-ブロモ長鎖カルボン酸を得る方法の提供。
【解決手段】下記、一般式(1)


〔式中、nは12〜16の整数を示す。〕
で表される大環状エステル類と臭化水素とを、酢酸溶媒中、密閉系で反応させることを特徴とする下記式(2)


〔式中、nは前記と同じ〕
で表されるω-ブロモ長鎖カルボン酸の製造法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ω-ブロモ長鎖カルボン酸の製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
ω-ブロモ長鎖カルボン酸は、化粧品・香粧品分野において、界面活性剤等の製造に有用な原料である。従来、ω-ブロモ長鎖カルボン酸の製造は、例えば、アゼライン酸からKolbe電解、ハーフAg塩化、臭素化して、15−ブロモペンタデカン酸を製造する方法(非特許文献1)、15−メトキシペンタデカン酸にボロントリブロマイドを作用させて15−ブロモペンタデカン酸を製造する方法(非特許文献2)等が報告されている。
しかしながら、これらはいずれも製造に多段階を要するなど問題があり、簡便に製造出来る製法ではなかった。
【0003】
また、近年、シクロペンタデカノリド(商品名Pentalide)から、濃硫酸-臭化水素酸を用いて、15−ブロモペンタデカン酸を高収率で得る方法も報告されている(非特許文献3)。
しかしながら、当該方法では、反応系の黒化、不溶物等が生じて水層との分離が難しい、3.5日間の如く長時間還流させる必要がある、等の問題点があり、実製造が困難であった。
【非特許文献1】合成香料、化学工業日報社
【非特許文献2】Bull. Chem. Soc. Jap., 54(3),945,1981
【非特許文献3】Aust. J. Chem.51.,581-586,1998
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、安価に入手し易い原料を用い、簡易に且つ効率よくω-ブロモ長鎖カルボン酸を得る方法を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、大環状エステル類を用いたω-ブロモ長鎖カルボン酸の製造法について検討した結果、密閉下で、臭化水素を作用させることにより、副生成物等を生じることなく、定量的に、ω-ハロゲン化長鎖カルボン酸が得られることを見出した。
【0006】
すなわち、本発明は下記の反応式に示すように、式(1)で表される大環状エステル類と臭化水素とを、酢酸溶媒中、密閉系で反応させることを特徴とする下記式(2)で表されるω-ブロモ長鎖カルボン酸の製造法を提供するものである。
【0007】
【化1】

【0008】
〔式中、nは12〜16の整数を示す。〕
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、安価に入手し易い大環状エステル類を用いて、ω-ブロモ長鎖カルボン酸を定量的に製造することができる。また、本発明の方法は、短時間で行うことができ、反応系が黒化したり、不溶物や副生成物を生じることなく、後処理も容易である。従って、界面活性剤等の製造原料であるω-ブロモ長鎖カルボン酸の工業的製造法として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明において、一般式(1)及び(2)中の、nは12〜16の整数を示すが、このうち、15又は16が好ましい。
【0011】
本発明の反応は、酢酸の存在下に行われ、酢酸を溶媒として行うことができる。前述の非特許文献2に開示されているように、濃硫酸−臭化水素酸の系を用い、例えばペンタリドを反応させた場合、目的物である15−ブロモペンタデカン酸との分離が困難な15−(15−ブロモペンタデシルオキシ)ペンタデカン酸が副生し、高純度の15−ブロモペンタデカン酸を得ることは困難となる。
ここで、酢酸の使用量は、大環状エステル類に対して、0.1〜10倍量、好適には1〜5倍量である。
尚、反応溶媒として、トルエン、ヘキサン、キシレン等の非水系の溶媒を酢酸と共に用いることも可能であるが、酢酸のみを溶媒とするのが特に好ましい。
【0012】
臭化水素の使用量は、大環状エステル類1モルに対して1〜3倍モル用いるのが好ましく、1.0〜2.0倍モルの使用が更に好ましい。
【0013】
本発明の反応は、密閉系で行われる。密閉系で反応を行うことにより、臭化水素の損失を防ぐことができ、反応が効率的に進行すると考えられるが、開放系では、冷却管を備えた装置を用いて、本反応を行った場合、臭化水素を過剰に使用しても、目的物の収率は50%程度に止まる(比較例参照)。
本発明の製造法に用いられる密閉系の反応装置としては、オートクレーブ等の耐熱耐圧装置であれば良く、内部に攪拌装置を有しているものが好ましい。
【0014】
反応温度は、10℃〜150℃が好ましく、50℃〜130℃の範囲が特に好ましい。
反応時間は、1〜30時間が好ましく、5〜20時間がより好ましい。
【0015】
斯くして得られるω-ブロモ長鎖カルボン酸は、必要に応じて、有機合成化学で常用される精製法、例えば濾過、洗浄、乾燥、再結晶、各種クロマトグラフィー等により精製し、単離することができる。
【実施例】
【0016】
以下に反応の詳細について実施例を用いて説明する。
尚、本反応の生成物は、文献既知の手法により、別途合成した標品と、ガスクロマトグラフィー及び1H-NMRを比較し、確認した。
【0017】
実施例1 15-ブロモペンタデカン酸の合成(1)
シクロペンタデカノリド14.3g(59.5mmol)、32%臭化水素/酢酸溶液24.8g(98.0mmol、1.6eq)を、テフロン(登録商標)で保護された100mlオートクレーブに入れ、窒素置換した後、密閉し、120℃のオイルバスにつけて、16時間、攪拌した。攪拌には、マグネチックスターラーを使用した。冷却後、水14mlを加え、酢酸エチル200mlを用い、分液ロートに移送した。この酢酸エチル層を、キャピラリーGCにて分析した結果、原料は消失し、目的物15-ブロモペンタデカン酸のみのピークが観測された。飽和食塩水で洗浄後、硫酸マグネシウムで乾燥し、ろ過、減圧濃縮後、酢酸エチル-n-ヘキサン混合溶媒で晶析、目的物17.1g(収率90%)を得た。
【0018】
実施例2 15-ブロモペンタデカン酸の合成(2)
シクロペンタデカノリド14.3g(59.5mmol)、32%臭化水素/酢酸溶液24.8g(98.0mmol、1.6eq)を、テフロン(登録商標)で保護された100mlオートクレーブに入れ、窒素置換した後、密閉し、60℃のオイルバスにつけて、16時間、攪拌した。攪拌には、マグネチックスターラーを使用した。冷却後、水14mlを加え、熱ヘキサン200mlを用い、分液ロートに移送した。イオン交換水で洗浄後、硫酸マグネシウムで乾燥し、ろ過、n-ヘキサンで晶析することで、目的物17.4g(収率91%)を得た。
【0019】
比較例 15-ブロモペンタデカン酸の合成(開放系)
シクロペンタデカノリド1.0g(4.2mmol)、32%臭化水素/酢酸溶液3.3g(13.1mmol、3.1eq)を、還流冷却管、マグネチックスターラーを備えた50ml2口フラスコに入れ、60℃のオイルバスにつけて、窒素雰囲気下、16時間、攪拌した。サンプリングし、GC分析した結果、面積百分率は、目的物15-ブロモペンタデカン酸10%、原料シクロペンタデカノリド89%、副生物15-アセトキシペンタデカン酸1%であった。更に、80℃のオイルバスにて、8時間加熱、攪拌した結果、その面積百分率は、目的物31%、原料65%、副生物4%。更に、100℃のオイルバスにて、20時間加熱、攪拌した結果、その面積百分率は、目的物42%、原料52%、副生物6%。32%臭化水素/酢酸溶液3g(11.9mmol、2.8eq)を追加したのち、100℃のオイルバスにて、2時間加熱、攪拌した結果、その面積百分率は、目的物47%、原料47%、副生物6%であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)
【化1】

〔式中、nは12〜16の整数を示す。〕
で表される大環状エステル類と臭化水素とを、酢酸溶媒中、密閉系で反応させることを特徴とする下記式(2)
【化2】

〔式中、nは前記と同じ〕
で表されるω-ブロモ長鎖カルボン酸の製造法。
【請求項2】
50〜130℃で反応させる請求項1記載の製造法。