説明

あぜシート及びその設置方法

【課題】作業者の作業負担を軽減することができ、あぜからの漏水を防止することができるあぜシートを提供すること。
【解決手段】水田10のあぜ11の法面12を覆うあぜシート1であって、防水性を有し、法面12の長手方向に沿って配置される帯状のシート本体2と、シート本体2の幅方向の一端2a側に設けられ、水田10の水面Wに浮上可能な浮き部3と、を備える。シート本体2の幅方向の他端2b側は、法面12の下方の土Sの中に埋め込まれて固定される。浮き部3は、水田10の水面Wに浮上することで、シート本体2の一端2a側を水面W側に引き上げる。シート本体2は、水圧によって法面12に押し付けられ、法面12を覆う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水田のあぜの法面を覆うことによりあぜからの漏水を防止するあぜシート及びその設置方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水田の水管理においては、モグラ等による穴あけからあぜを保護し、あぜからの漏水を防止することが重要である。そのため、従来より、樹脂製の防水シートからなり、あぜを被覆するあぜシートが提供されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このようなあぜシートは、帯状に構成され、あぜの法面の長手方向に沿って固定される。具体的には、あぜシートの幅方向の下端部は、水田の土の中に埋め込まれて固定される。また、あぜシートの幅方向の上端部は、例えば、プラスチック製のアンカー部材(鋲部材)をあぜシートの上からあぜに刺すことによって固定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実登3074191号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記従来のあぜシートによって被覆されるあぜの長さは、通常、数十mから数百mにもなる。そして、上記アンカー部材は、あぜの長手方向に沿って数m(例えば、3〜4m)間隔で、作業者の手作業によって固定されていた。また、あぜシートを水田から撤去する際にも、上記アンカー部材は、作業者の手作業によってあぜから引き抜かれ、回収されていた。そのため、作業者は、あぜシートの設置作業及び撤収作業において、多数のアンカー部材を扱わなければならず、多大な労力を強いられていた。
【0006】
本発明は、作業者の作業負担を軽減することができ、あぜからの漏水を防止することができるあぜシート及びその設置方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、水田のあぜの法面を覆うあぜシートであって、防水性を有し、前記法面の長手方向に沿って配置される帯状のシート本体と、前記シート本体の幅方向の一端側に設けられ、前記水田の水面に浮上可能な浮き部と、を備えるあぜシートに関する。
【0008】
また、前記浮き部は、線状又は帯状に構成されることが好ましい。
【0009】
また、前記浮き部は、袋状に構成され、袋の内部に空気が封入されることが好ましい。
【0010】
また、前記浮き部は、前記シート本体の表面に発泡性樹脂を塗布して形成されることが好ましい。
【0011】
また、前記シート本体及び前記浮き部は、生分解性材料からなることが好ましい。
【0012】
本発明は、あぜシートを水田のあぜの法面に設置するあぜシートの設置方法であって、前記水田の代掻きを行う代掻き工程と、前記代掻き工程の後に、前記シート本体の幅方向の他端側を、前記あぜの長手方向に沿うように前記法面の下方の土の中に埋め込んで固定するシート固定行程と、を含むあぜシートの設置方法に関する。
【0013】
また、前記あぜシートは、少なくとも前記水田における下流側の前記あぜの前記法面に設置されることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、作業者の作業負担を軽減することができ、あぜからの漏水を防止することができるあぜシート及びその設置方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の第1実施形態のあぜシート1を示す部分斜視図である。
【図2】あぜシート1の使用状態を示す断面図である。
【図3】本発明の第2実施形態のあぜシート1Aを示す部分断面図である。
【図4】本発明の第3実施形態のあぜシート1Bを示す部分断面図である。
【図5】本発明の第4実施形態のあぜシート1Cを示す部分断面図である。
【図6】本発明の第5実施形態のあぜシート1Dを示す部分斜視図である。
【図7】あぜシート1Dの使用状態を示す断面図である。
【図8】本発明の第6実施形態のあぜシート1Eを示す部分斜視図である。
【図9】あぜシート1Eの浮き部3fを示す拡大断面図である。
【図10】あぜシート1Eの使用状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
〔第1実施形態〕
以下に、本発明の第1実施形態のあぜシートについて図1及び図2を参照しながら説明する。図1は、本発明の第1実施形態のあぜシート1を示す部分斜視図である。図2は、あぜシート1の使用状態を示す断面図である。
【0017】
図1に示すように、あぜシート1は、帯状のシート本体2と、シート本体2の幅方向の一端2a(上端)側に設けられる浮き部3と、を備える。このあぜシート1は、図2に示すように、水田10におけるあぜ11の一方の法面12を覆うものである。
【0018】
シート本体2は、図2に示すように、あぜ11の法面12の長手方向(図2においては、紙面に垂直な方向)に沿って配置される部分である。シート本体2は、図1に示すように、帯状に構成され、その全体形状は、矩形となっている。シート本体2は、ポリエチレン等の合成樹脂のシートからなり、防水性を有する。また、シート本体2は、黒色となっており、遮光性を有している。
【0019】
シート本体2の長手方向の長さは、数十m〜数百m(例えば、200m)となっている。また、シート本体2の幅は、一般的なあぜ11(法面12)の大きさ及び水田10の水深に対応するように、例えば、30〜35cmとなっている。また、シート本体2の厚さは、機械的強度(耐久性)と軽量化とのバランスを考慮して、例えば、1mm未満となっている。
【0020】
浮き部3は、図1に示すように、線状に構成され、かつ、水田10の水面W(図2参照)に浮上可能に構成されている。浮き部3は、シート本体2の一端2a(上端)側において、シート本体2の長手方向に連続して延びている。浮き部3は、シート本体2の一端2a(上端)側の縁部から、例えば、2〜3cmの位置において、この縁部と平行に設けられる。浮き部3は、例えば、ポリエチレン等の合成樹脂の繊維により、断面がほぼ円形状に構成される。
【0021】
このように構成される浮き部3とシート本体2とは、予め工場等において、例えば、接着剤(図示せず)による接着、接着テープ(図示せず)による接着、加熱による溶着等によって固定される。
【0022】
以上のように構成されるあぜシート1は、その幅方向に配置された所定の芯材(図示せず)に巻かれ、ロール状態で取り扱えるようになっている。
【0023】
次に、水田10へのあぜシート1の設置方法について図2を参照しながら説明する。あぜシート1を設置する位置は、水田10におけるすべての法面12でもよいが、少なくとも水田10における下流側のあぜ11の法面12が好ましい。本明細書においては、あぜ11によって区画される水田10の水位に高低差がある場合に、水位が高い側を「上流側」、水位が低い側を「下流側」という。
【0024】
本実施形態のあぜシート1の設置方法は、代掻き工程と、シート固定行程と、を含む。代掻き工程は、水田10の代掻きを行う工程であり、水が張られた水田10の土Sを砕いて掻きならし、軟らかくする行程である。代掻き工程は、例えば、代掻き用のロータリーを装着したトラクター(図示せず)によって行われることが多い。代掻き工程は、通常、田植え作業の直前に行われるので、あぜシート1の設置のためだけに独自に行う必要はない。
【0025】
シート固定行程は、シート本体2の他端2b側を法面12の下方の土Sの中に埋め込んで固定する行程であり、上記代掻き工程の後に行われる。代掻き工程の後には、土Sが軟らかくなっており、シート本体2の他端2b側の土Sへの埋め込み作業が行い易いからである。具体的には、シート本体2の他端2b側は、「あぜシート張り機」と称される機器(図示せず)を用いて、以下のように、土Sの中に埋め込まれて固定される。
【0026】
あぜシート張り機としては、手動式やエンジン駆動式のものが知られている。図示を省略するが、このあぜシート張り機は、回転自在に構成され、外周縁に突起の形成された回転ディスクと、あぜシート1を巻き状態(ロール状態)で支持するシート支持部と、このシート支持部から順次繰り出されるあぜシート1を、あぜ11の法面12に沿うように案内する案内部と、を備える。
【0027】
このように構成されるあぜシート張り機を用いて、あぜシート1の他端2bを、回転ディスクの回転によって上記突起に食い込ませるように巻き込みながら、法面12の下方の土Sの中に埋め込む。これによって、シート本体2の他端2b側が、土Sによって固定される。
【0028】
なお、使用後のあぜシート1を水田10から撤収する際には、作業者は、あぜシート1の一端2a側を引っ張り、土Sの中に埋め込まれたシート本体2の他端2bを取り外せばよい。
【0029】
次に、あぜシート1の作用について図2を参照しながら説明する。上述したように、シート本体2の他端2b側は、法面12の下方の土Sの中に埋め込まれて固定されている。シート本体2の一端2a側は、浮き部3を上側にした状態で、この浮き部3が水田10の水面Wに浮上することによって、水面W側に引き上げられる。つまり、シート本体2の一端2a側は、この浮き部3によって支持される。
【0030】
また、シート本体2の一端2a側は、浮き部3を上側にした状態で水面Wに浮上する。そのため、シート本体2の一端2aの裏面(下面)が水面Wに密着し易くなり、浮き部3が安定した状態で水面Wに浮上することができる。
【0031】
また、シート本体2は、水田10の水圧によって法面12に押し付けられ、法面12にほぼ密着する。そのため、あぜ11の法面12は、あぜシート1(シート本体2)によって覆われ、モグラ等の穴あけから保護される。また、シート本体2は、防水性を有しているため、法面12への水の浸透を防止する。これにより、あぜシート1は、あぜ11からの漏水を防止する。
【0032】
ところで、水田10の水面Wの位置は、種々の要因により上下方向に変動する。例えば、図2において二点鎖線で示すように、水田10の水量が増加し、水面Wの位置が、水面W1の位置まで上昇する場合には、この上昇に伴って浮き部3の位置も上昇する。すると、シート本体2の一端2a側は、この浮き部3によって水面W1側に引き上げられ、かつ、水田10の水圧によって法面12に押し付けられ、法面12にほぼ密着する。このように、あぜシート1(シート本体2)は、水面Wの位置が変動しても、あぜ11の法面12を覆うことができる。
【0033】
以上に説明した第1実施形態のあぜシートによれば、以下に示す各効果が奏される。
第1実施形態のあぜシート1は、防水性を有し、あぜ11の法面12の長手方向に沿って配置される帯状のシート本体2と、シート本体2の幅方向の一端2a側に設けられ、水田10の水面Wに浮上可能な浮き部3と、を備える。
【0034】
そのため、シート本体2の他端2b側が、あぜ11の法面12の下方の土Sの中に埋め込まれて固定され、シート本体2の一端2a側が、水田10の水面Wに浮上する浮き部3によって支持される。また、シート本体2は、水田10の水圧によってあぜ11の法面12に押し付けられ、法面12にほぼ密着する。
【0035】
従って、従来のようなアンカー部材(鋲部材)によるあぜシートの固定作業を不要とすることができ、あぜ11の法面12をあぜシート1で容易に覆うことができる。これにより、モグラ等による穴あけからあぜ11を保護することができ、あぜ11からの漏水を防止することができる。また、従来のようなアンカー部材を用いていないので、使用後のあぜシート1の撤収作業においても、アンカー部材を回収する作業が不要である。そのため、あぜシート1の設置作業及び撤収作業において、作業者の作業負担を軽減することができる。
【0036】
また、従来のあぜシートは、その幅方向の上端部にアンカー部材を留めるための留め代が必要であった。そのため、従来のあぜシートは、幅が45〜50cmほど必要であった。これに対し、本実施形態のあぜシート1は、アンカー部材を使用しないため、上記留め代が不要である。
【0037】
そのため、本実施形態のあぜシート1の幅は、30〜35cmほどあれば足り、従来よりも15cmほど幅狭に構成することができる。従って、あぜシート1の材料量を低減することができると共に、あぜシート1の軽量化を実現することができる。また、あぜシート1が軽量化されるため、その取り扱い性も向上し、作業者の作業負担を軽減することができる。
【0038】
また、あぜシート1のシート本体2は、黒色となっており、遮光性を有している。そのため、シート本体2で法面12を覆い、遮光することにより、法面12での雑草の生育を抑制することができる。
【0039】
また、第1実施形態のあぜシート1の設置方法によれば、以下に示す効果が奏される。
第1実施形態のあぜシート1の設置方法は、水田10の代掻きを行う代掻き工程と、この代掻き工程の後に、シート本体2の他端2b側を、あぜ11の長手方向に沿うように法面12の下方の土Sの中に埋め込んで固定するシート固定行程と、を含む。
【0040】
そのため、水田10の土Sを代掻き工程によって軟らかくすることができ、シート固定行程において、あぜシート1の他端2bを土Sの中に容易に埋め込むことができる。従って、特に、手動式のあぜシート張り機を用いる場合に、作業者の作業負担を軽減することができる。
【0041】
また、第1実施形態のあぜシート1の設置方法においては、あぜシート1は、水田10における下流側のあぜ11の法面12に設置される。そのため、水田10の水が、あぜ11によって区画された下流側の水田10に漏れることを防止することができる。
【0042】
次に、本発明の他の実施形態について説明する。他の実施形態については、主として、第1実施形態とは異なる点を中心に説明し、第1実施形態と同様の構成については、同じ符号を付し、詳細な説明を省略する。他の実施形態において特に説明しない点は、第1実施形態についての説明が適宜適用又は援用される。
【0043】
〔第2実施形態〕
次に、本発明の第2実施形態のあぜシート1Aについて図3を参照しながら説明する。図3は、本発明の第2実施形態のあぜシート1Aを示す部分断面図である。
【0044】
前記第1実施形態のあぜシート1においては、浮き部3は、線状に構成される(図1参照)。これに対し、第2実施形態のあぜシート1Aにおいては、浮き部3aは、図3に示すように、帯状に構成される。
【0045】
浮き部3aは、シート本体2の幅方向の一端2a(上端)側において、シート本体2の長手方向に連続して延びる。浮き部3aは、シート本体2の一端2a(上端)側の縁部から、例えば、2〜3cmの位置において、この縁部と平行に設けられる。浮き部3aは、例えば、厚み方向の断面が矩形となっている。あぜシート1Aのその他の構成及び作用は、前記第1実施形態のあぜシート1の場合と同様であるので、重複説明を省略する。
【0046】
以上に説明した第2実施形態のあぜシート1Aによれば、前記第1実施形態のあぜシート1と同様の効果が奏されると共に、以下に示す効果が奏される。
第2実施形態のあぜシート1Aにおいては、浮き部3aは、帯状に構成される。そのため、シート本体2に対する接着面又は溶着面を確保し易く、浮き部3aをシート本体2に容易に固定することができる。
【0047】
〔第3実施形態〕
次に、本発明の第3実施形態のあぜシート1Bについて図4を参照しながら説明する。図4は、本発明の第3実施形態のあぜシート1Bを示す部分断面図である。
【0048】
第3実施形態のあぜシート1Bにおいては、図4に示すように、浮き部3bは、袋状に構成され、袋の内部に空気5が封入される。この点が、前記第1実施形態のあぜシート1と主として異なる。浮き部3bは、シート本体2の幅方向の一端2a(上端)側において、シート本体2の長手方向に所定間隔(一定ピッチ)毎に設けられる。また、浮き部3bは、シート本体2の一端2a(上端)側の縁部から、例えば、2〜3cmの位置において、この縁部と平行に設けられる。
【0049】
浮き部3bは、例えば、ポリエチレン等の合成樹脂からなり、シート本体2と同じ材料から構成される。このように構成される浮き部3bとシート本体2とは、予め工場等において、例えば、接着剤(図示せず)による接着、接着テープ(図示せず)による接着、加熱による溶着等によって固定される。
【0050】
また、浮き部3bの内部には、予め工場等において、空気5を封入してもよいが、設置現場において空気を注入してもよい。その場合、浮き部3bには、空気5を注入するための開口穴が予め設けられる。この開口穴を所定の栓部材(例えば、耳栓等のような弾性を有する部材等)で塞いだ後、所定の空気入れ器によって浮き部3bの内部に空気5を注入することによって、浮き部3bを水面に浮上させることができる。
あぜシート1Bのその他の構成及び作用は、前記第1実施形態のあぜシート1の場合と同様であるので、重複説明を省略する。
【0051】
以上に説明した第3実施形態のあぜシート1Bによれば、前記第1実施形態のあぜシート1と同様の効果が奏されると共に、以下に示す効果が奏される。
第3実施形態のあぜシート1Bにおいては、浮き部3bは、袋状に構成され、袋の内部に空気5が封入される。そのため、浮き部3bへの空気の封入量を調節することにより、浮き部3bの浮力を任意に設定することができる。
【0052】
また、浮き部3bは、シート本体2の幅方向の一端2a(上端)側において、シート本体2の長手方向に所定間隔毎に設けられる。そのため、あぜシート1Bをあぜ11の長さに応じて切断する際に、浮き部3bが設けられていない部分で切断することができる。従って、浮き部3bを無駄にすることなく、必要な長さのあぜシート1Bをあぜ11に設置することができる。
【0053】
〔第4実施形態〕
次に、本発明の第4実施形態のあぜシート1Cについて図5を参照しながら説明する。図5は、本発明の第4実施形態のあぜシート1Cを示す部分断面図である。
【0054】
第4実施形態のあぜシート1Cにおいては、図5に示すように、浮き部3cは、シート本体2の表面に、例えば、発泡性ウレタン樹脂等の発泡性樹脂を所定厚さに塗布することによって形成される。この点が、前記第1実施形態のあぜシート1の浮き部3と異なる。
【0055】
浮き部3cは、シート本体2の幅方向の一端2a(上端)側において、シート本体2の長手方向に連続して延びる。また、浮き部3cは、シート本体2の一端2a(上端)側の縁部から、例えば、2〜3cmの位置において、この縁部と平行に設けられる。
浮き部3cの厚み方向の断面形状は任意であるが、図5に示すように、例えば、ほぼ半円状に形成されてもよい。
その他の構成及び作用は、前記第1実施形態のあぜシート1の場合と同様であるので、重複説明を省略する。
【0056】
以上に説明した第4実施形態のあぜシート1Cによれば、前記第1実施形態のあぜシート1と同様の効果が奏されると共に、以下に示す効果が奏される。
第4実施形態のあぜシート1Cにおいては、浮き部3cは、シート本体2の表面に発泡性樹脂を塗布して形成される。そのため、発泡性樹脂の塗布量や発泡の程度等を調節することにより、浮き部3cの浮力を任意に設定することができる。
【0057】
〔第5実施形態〕
次に、本発明の第5実施形態のあぜシート1Dについて図6及び図7を参照しながら説明する。図6は、本発明の第5実施形態のあぜシート1Dを示す部分斜視図である。図7は、あぜシート1Dの使用状態を示す断面図である。
【0058】
図6及び図7に示すように、第5実施形態のあぜシート1Dは、シート本体2の幅方向の一端2a(上端)側に設けられる複数の浮き部3dを備える。この浮き部3dは、シート本体2の一方の面(図7において、シート本体2の下面)から他方の面(図7において、シート本体2の上面)に向けて突出している。
【0059】
浮き部3dは、図6に示すように、例えば、正面視でほぼ円形状となっている。また、浮き部3dは、図7に示すように、例えば、シート本体2の厚み方向における断面がコ字形状となっている。浮き部3dの一方の面には、空気5を貯留可能な凹部3eが形成されている。つまり、浮き部3dの一方の面は、開放されている。
【0060】
このように構成される浮き部3dは、図6に示すように、シート本体2の幅方向の一端2a(上端)側において、シート本体2の長手方向に所定間隔(一定ピッチ)毎に設けられる。また、浮き部3dは、シート本体2の一端2a(上端)側の縁部から、例えば、2〜3cmの位置において、この縁部と平行に設けられる。
【0061】
浮き部3dの数及び大きさ(直径や凹部3eの深さ)は、シート本体2の一端2aが水田10の水面W(図7参照)に浮上できれば、どのような数及び大きさであってもよい。例えば、浮き部3dの直径は、5mm程度であり、凹部3eの深さは、2〜3mm程度であることが好ましい。浮き部3dは、例えば、シート本体2の幅方向の一端2aを加熱成形することにより構成される。
あぜシート1Dのその他の構成は、前記第1実施形態のあぜシート1の場合と同様であるので、重複説明を省略する。
【0062】
以上に説明したあぜシート1Dは、予め工場等において、シート本体2の幅方向の一端2aを加熱成形して浮き部3dを構成することにより製造することができる。また、次のようなあぜシート張り機を用いて、あぜシート1Dを製造しながらあぜ11に設置してもよい。
【0063】
図示を省略するが、第5実施形態のあぜシート張り機は、回転自在に構成され、外周縁に突起の形成された回転ディスクと、シート本体2を巻き状態(ロール状態)で支持するシート支持部と、このシート支持部から順次繰り出されるシート本体2を加熱(例えば、輻射加熱)により軟化させる加熱装置と、この加熱装置によって軟化されたシート本体2の一端2aに浮き部3dを成形する成形装置と、成形された浮き部3dを冷却する冷却装置と、冷却された浮き部3dを備えるあぜシート1Dを、あぜ11の法面12(図7参照)に沿うように案内する案内部と、を備える。
【0064】
このように構成されるあぜシート張り機を用いて、あぜシート1Dの他端2bを、上記回転ディスクの回転によって上記突起に食い込ませるように巻き込みながら、法面12の下方の土S(図7参照)の中に埋め込む。これによって、シート本体2の他端2b側が、土Sによって固定される。
【0065】
次に、あぜシート1Dの作用について図7を参照しながら説明する。上述したように、シート本体2の他端2b側は、法面12の下方の土Sの中に埋め込まれて固定される。シート本体2の一端2a側は、浮き部3dの一方側の面(開放されている側の面)が水面Wに密着するように、配置される。このとき、浮き部3dの凹部3eには、空気5が貯留される。そのため、浮き部3dは、この空気の浮力により水面Wに浮上する。
【0066】
従って、シート本体2の一端2a側は、浮き部3dによって水面W側に引き上げられる。つまり、シート本体2の一端2a側は、この浮き部3dによって支持される。また、シート本体2は、水田10の水圧によって法面12に押し付けられ、法面12にほぼ密着する。
あぜシート1Dのその他の作用は、前記第1実施形態のあぜシート1の場合と同様であるので、重複説明を省略する。
【0067】
以上に説明した第5実施形態のあぜシート1Dによれば、前記第1実施形態のあぜシート1と同様の効果が奏されると共に、以下に示す効果が奏される。
第5実施形態のあぜシート1Dにおいては、浮き部3dは、シート本体2の一方の面から他方の面に向けて突出しており、この一方側の面には、空気5を貯留可能な凹部3eが形成されている。そのため、シート本体2に、浮き部3dを加熱成形等により容易に構成することができると共に、浮き部3dの大きさや設置数を調節することにより、浮き部3dの浮力を任意に設定することができる。
【0068】
また、第5実施形態のあぜシート張り機によれば、あぜシート1Dを設置現場(水田10)において容易に製造することができると共に、製造したあぜシート1Dを、あぜ11に容易に設置することができる。
【0069】
〔第6実施形態〕
次に、本発明の第6実施形態のあぜシート1Eについて図8〜図10を参照しながら説明する。図8は、本発明の第6実施形態のあぜシート1Eを示す部分斜視図である。図9は、あぜシート1Eの浮き部3fを示す拡大断面図である。図10は、あぜシート1Eの使用状態を示す断面図である。
【0070】
図8及び図9に示すように、第6実施形態のあぜシート1Eは、シート本体2の幅方向の一端2a(上端)側に設けられる複数の浮き部3fを備える。この浮き部3fは、シート本体2の一方の面(図9において、シート本体2の下面)から他方の面(図9において、シート本体2の上面)に向けて突出している。
【0071】
浮き部3fは、図8に示すように、例えば、正面視でほぼ円形状となっている。また、浮き部3fは、図9に示すように、例えば、シート本体2の厚み方向における断面が円弧形状となっている。図9及び図10に示すように、浮き部3fの一方の面には、空気5を貯留可能な凹部3gが形成されている。つまり、浮き部3fの一方の面は、開放されている。
【0072】
このように構成される浮き部3fは、図8に示すように、シート本体2の幅方向の一端2a(上端)側において、シート本体2の長手方向に一列に設けられる。浮き部3fが設けられるシート本体2の端縁部からの距離Lは、例えば、3cm程度であることが好ましい。
【0073】
また、図9に示すように、浮き部3f(凹部3g)の直径Dは、例えば、2.5〜3cm程度であることが好ましい。浮き部3fの高さhは、1〜1.5cm程度であることが好ましい。つまり、本実施形態の浮き部3f(凹部3g)は、第5実施形態の浮き部3dよりも大きく構成され、更に多くの空気5を貯留可能に構成される。
【0074】
また、浮き部3f,3f同士の間隔Kは、例えば、1.5〜2cm程度であることが好ましい。浮き部3fは、例えば、シート本体2の幅方向の一端2aを加熱成形することにより構成される。
あぜシート1Eのその他の構成及び作用は、前記第5実施形態のあぜシート1Dの場合と同様であるので、重複説明を省略する。
【0075】
以上に説明したあぜシート1Eは、予め工場等において、シート本体2の幅方向の一端2aを加熱成形して浮き部3fを構成することにより製造することができる。また、前記第5実施形態で示したあぜシート張り機を用いて、あぜシート1Eを製造しながらあぜ11(図10参照)に設置してもよい。
【0076】
以上に説明した第6実施形態のあぜシート1Eによれば、前記第5実施形態のあぜシート1Dと同様の効果が奏されると共に、以下に示す効果が奏される。
第6実施形態のあぜシート1Eにおいては、浮き部3fは、シート本体2の一方の面から他方の面に向けて突出しており、この一方側の面には、空気5を貯留可能な凹部3gが形成されている。また、浮き部3fが設けられるシート本体2の端縁部からの距離Lは、3cm程度となっている。
【0077】
そのため、図10に示すように、シート本体2の一端2a側の下面は、水面Wに十分に密着することができる。従って、あぜシート1Eは、風にあおられても、水面Wとの密着度を維持し易く、浮き部3fは、水面Wから沈みにくい。
【0078】
また、第6実施形態の浮き部3f(凹部3g)は、第5実施形態の浮き部3dよりも大きく構成される。そのため、第6実施形態の浮き部3fは、第5実施形態の浮き部3dよりも更に多くの空気5を貯留することができ、大きな浮力を得ることができる。
【0079】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、前述した実施形態に制限されるものではなく、適宜変更が可能である。
前記第1実施形態、前記第2実施形態及び前記第4実施形態においては、浮き部3,3a,3cは、シート本体2の幅方向の一端2a(上端)側において、シート本体2の長手方向に連続して延びるものとして説明したが、これに制限されない。例えば、浮き部3,3a,3cは、シート本体2の長手方向において、所定間隔毎に設けられてもよい。
【0080】
また、前記第1実施形態から前記第3実施形態、前記第5実施形態及び前記第6実施形態においては、あぜシート1,1A,1B,1D,1Eは、ポリエチレン等の合成樹脂により構成されるものとして説明したが、これに制限されず、その他の合成樹脂により構成されてもよい。また、シート本体2は、黒色であるものとして説明したが、これに制限されず、無色又はその他の色であってもよい。
【0081】
また、前記第1実施形態から前記第6実施形態においては、あぜシート1,1A,1B,1C,1D,1Eは、ポリエチレン等の合成樹脂により構成されるものとして説明したが、これに制限されない。例えば、あぜシート1,1A,1B,1C,1D,1Eは、生分解性脂肪族ポリエステル等の生分解性材料から構成されてもよい。
【0082】
この場合、あぜシート1,1A,1B,1C,1D,1Eの設置後に所定期間が経過すれば、あぜシート1,1A,1B,1C,1D,1Eは、微生物等により生分解される。そのため、使用後のあぜシート1,1A,1B,1C,1D,1Eの回収撤去作業が不要となり、作業者の作業負担を更に軽減することができる。また、廃棄物処理の問題をなくすことができる。
【0083】
また、前記第1実施形態から前記第3実施形態においては、あぜシート1,1A,1Bは、予め工場等において、シート本体2の幅方向の一端2aに浮き部3,3a,3bを、接着剤(図示せず)による接着、接着テープ(図示せず)による接着、加熱による溶着等によって固定することにより製造されるものとして説明したが、これに制限されない。例えば、次のようなあぜシート張り機を用いて、あぜシート1,1A,1Bを製造しながらあぜ11に設置してもよい。
【0084】
図示を省略するが、あぜシート張り機は、回転自在に構成され、外周縁に突起の形成された回転ディスクと、シート本体2を巻き状態(ロール状態)で支持するシート支持部と、浮き部3,3a,3bを巻き状態で支持する浮き部支持部と、シート支持部から順次繰り出されるシート本体2に対して、浮き部支持部から順次繰り出される浮き部3,3a,3bを加熱により溶着する溶着装置と、浮き部3,3a,3bが溶着されたあぜシート1,1A,1Bを、あぜ11の法面12に沿うように案内する案内部と、を備える。
【0085】
このように構成されるあぜシート張り機を用いて、あぜシート1,1A,1Bの他端2bを、上記回転ディスクの回転によって上記突起に食い込ませるように巻き込みながら、法面12の下方の土S(図2参照)の中に埋め込む。これによって、シート本体2の他端2b側が、土Sによって固定される。
以上に説明したように、このあぜシート張り機によれば、あぜシート1,1A,1Bを設置現場(水田10)において容易に製造することができると共に、製造したあぜシート1,1A,1Bを、あぜ11に容易に設置することができる。
【符号の説明】
【0086】
1,1A,1B,1C,1D,1E あぜシート
2 シート本体
2a 一端
2b 他端
3,3a,3b,3c,3d,3f 浮き部
5 空気
10 水田
11 あぜ
12 法面
S 土
W,W1 水面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水田のあぜの法面を覆うあぜシートであって、
防水性を有し、前記法面の長手方向に沿って配置される帯状のシート本体と、
前記シート本体の幅方向の一端側に設けられ、前記水田の水面に浮上可能な浮き部と、
を備えるあぜシート。
【請求項2】
前記浮き部は、線状又は帯状に構成される請求項1に記載のあぜシート。
【請求項3】
前記浮き部は、袋状に構成され、袋の内部に空気が封入される請求項1に記載のあぜシート。
【請求項4】
前記浮き部は、前記シート本体の表面に発泡性樹脂を塗布して形成される請求項1に記載のあぜシート。
【請求項5】
前記シート本体及び前記浮き部は、生分解性材料からなる請求項1から4のいずれか一つに記載のあぜシート。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一つに記載のあぜシートを水田のあぜの法面に設置するあぜシートの設置方法であって、
前記水田の代掻きを行う代掻き工程と、
前記代掻き工程の後に、前記シート本体の幅方向の他端側を、前記あぜの長手方向に沿うように前記法面の下方の土の中に埋め込んで固定するシート固定行程と、
を含むあぜシートの設置方法。
【請求項7】
前記あぜシートは、少なくとも前記水田における下流側の前記あぜの前記法面に設置される請求項6に記載のあぜシートの設置方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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