説明

うま味成分の不快な後味改善方法

【課題】アミノ酸系、核酸系及び有機酸系から選ばれる1種以上のうま味成分の、不快な後味を改善する方法を提供する。
【解決手段】スクラロースを添加することにより、アミノ酸系、核酸系及び有機酸系から選ばれる1種以上のうま味成分の不快な後味を改善する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はうま味成分の不快な後味改善方法、詳細には、アミノ酸系、核酸系及び有機酸系から選ばれる1種以上のうま味成分に、スクラロースを添加することを特徴とする、うま味成分の不快な後味改善方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来グルタミン酸ナトリウム、アスパラギン酸等のアミノ酸系、イノシン酸ナトリウム、グアニル酸ナトリウム等の核酸系、コハク酸ナトリウム等の有機酸系など、うま味成分として様々なものが知られており、飲食品にうま味やこく味を付与するために、これらの成分を含む様々な調味料が市販されている。
一般的にうま味は他の基本味に比べ、後味に残りやすいという特徴があることが知られている。
これらのうま味成分は、適量用いることにより、飲食品に好ましい風味を付与することができるが、飲食品を口にしたときの初めのうま味を強くするために、アミノ酸系のうま味成分などを多く使用した場合などでは、例えばグルタミン酸ナトリウムなどではうま味がいつまでも口に残り、飲食品の味のバランスを崩したり、エグ味などが感じられたりする等、飲食品の風味がかえって悪くなってしまうという問題があった。
【0003】
特許文献1には、飲食品におけるアミノ酸や核酸等のうま味成分に由来する好ましくない味質を改善して、すっきりとした後味にするために、アミノ酸及び/又は核酸を含有する飲食品にγ−アミノ酪酸を特定の割合で添加する、飲食品の味質改善方法が記載されている。
また、特許文献2には、グルタミン酸ナトリウムなどのナトリウム系うま味成分と、マンゴスチン抽出物を併用することにより、うま味の持続性を高めて後味を良好にできることが記載されている。
【0004】
スクラロースは、ショ糖の約600倍の甘味を有しており、高甘味度甘味料として、種々の飲食品の甘味付けや、酸味や渋味などをマスキングすることにより、風味の向上に用いられている(特許文献3、4)。
また、特許文献5には、スクラロースを添加することで、たんぱく質、脂質、ビタミンなどを含有する高栄養食の、エグ味、苦味及び不快臭をマスキングできることが記載されている。
さらに特許文献6には、ゴマなどの香味油脂を配合する液体調味料にスクラロースを用いることで、極めて香りの高い液体調味料が得られることが記載され、実施例には、ゴマ油やスクラロースと、グルタミン酸ナトリウムなどの調味料を含有するドレッシング調味料が記載されている。
しかしながら、これら特許文献のいずれにも、スクラロースを添加することにより、アミノ酸系、核酸系及び有機酸系から選ばれる1種以上のうま味成分の不快な後味を改善できることは記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−275098号公報
【特許文献2】特開2005−52041号公報
【特許文献3】特開平10−243776号公報
【特許文献4】特開平10−262601号公報
【特許文献5】特開2009−159990号公報
【特許文献6】特開2003−230366号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の特許文献1に記載の方法では、グルタミン酸ナトリウムなどのエグ味などの不快な後味を十分に改善できるものではなかった。
また、特許文献2では、グルタミン酸ナトリウムなどのうま味の持続性を高めて、後味を改善することは示されているが、エグ味などの不快な後味を改善できることは記載されていない。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記従来技術の問題点に鑑み、鋭意研究を重ねていたところ、アミノ酸系、核酸系及び有機酸系から選ばれる1種以上のうま味成分に、スクラロースを添加することにより、うま味成分の不快な後味を改善できることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明は下記に掲げるうま味成分の不快な後味改善方法に関するものである。
項1.アミノ酸系、核酸系及び有機酸系から選ばれる1種以上のうま味成分に、スクラロースを添加することを特徴とする、うま味成分の不快な後味改善方法。
項2.アミノ酸系、核酸系及び有機酸系から選ばれる1種以上のうま味成分1質量部に対して、スクラロースを0.0001〜0.01質量部添加する、項1記載のうま味成分の不快な後味改善方法。
項3.アミノ酸系のうま味成分がグルタミン酸又はそのナトリウム塩であり、核酸系のうま味成分がイノシン酸、グアニル酸又はこれらのナトリウム塩であり、有機酸系のうま味成分がコハク酸又はそのナトリウム塩である、項1又は2記載のうま味成分の不快な後味改善方法。
【発明の効果】
【0009】
アミノ酸系、核酸系及び有機酸系から選ばれる1種以上のうま味成分に、スクラロースを添加することにより、これらのうま味成分の不快な後味、例えば強すぎるうま味の余韻や、エグ味、苦味などを改善して、スッキリとした後味にすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、アミノ酸系、核酸系及び有機酸系から選ばれる1種以上のうま味成分に、スクラロースを添加することを特徴とする、うま味成分の不快な後味改善方法に関するものである。
本発明において、うま味成分の不快な後味改善とは、例えばグルタミン酸ナトリウムなどが有するエグ味や、強すぎるうま味の余韻などの好ましくない後味を改善して、スッキリとした後味にすることを意味する。
【0011】
本発明に使用されるアミノ酸系うま味成分としては、例えばグルタミン酸、アスパラギン酸、リジン、ヒスチジン、タウリン、ベタイン、グリシン、クレアチン、アラニン、アルギニンなどや、これらの塩(ナトリウム塩、カリウム塩など)などが、また、核酸系うま味成分としては、イノシン酸、グアニル酸などや、これらの塩(ナトリウム塩、カルシウム塩など)が、さらに、有機酸系うま味成分としては、コハク酸、酢酸、クエン酸、フマル酸などや、これらの塩(ナトリウム塩、カリウム塩など)などが挙げられる。
これらの中で、アミノ酸系うま味成分としては、グルタミン酸又はそのナトリウム塩が、核酸系うま味成分としては、イノシン酸、グアニル酸又はこれらのナトリウム塩が、有機酸系うま味成分としては、コハク酸又はそのナトリウム塩がそれぞれ好ましく、これらは2種以上を同時に使用することもできる。
これらのうま味成分は、飲食品中に通常0.001〜10質量%、好ましくは0.002〜5質量%、さらに好ましくは0.005〜3質量%添加される。
【0012】
本発明に用いるスクラロースは、ショ糖の約600倍の甘味を有する高甘味度甘味料であり、商業的に入手することができ、例えば、三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製のサンスイートSU100等を挙げることができる。
本発明において、アミノ酸系、核酸系及び有機酸系から選ばれる1種以上のうま味成分1質量部に対するスクラロースの添加量は、0.0001〜0.01質量部、好ましくは0.0002〜0.005質量部である。
スクラロースの添加量が、これらのうま味成分1質量部に対して0.0001質量部より少ないと、うま味の不快な後味の改善効果が十分ではなく、また、0.01質量部より多いと、甘味がつきすぎて、うま味の不快な後味の改善効果も十分に確認できず、いずれも好ましくない。
【0013】
スクラロースとこれらうま味成分の配合の時期や順序には特に制限はなく、必ずしも同一の調味料などの食品中に、スクラロースとこれらうま味成分が含有されている必要もなく、異なる食品中にそれぞれ別々に含まれる場合であっても、食する時点において、スクラロースとこれらうま味成分が共存していれば足りる。
【0014】
また、本発明において、スクラロースと、これらうま味成分が含有された調味料とすることもできる。
この調味料には、スクラロースと、これらうま味成分とが上記割合で添加されていればよく、粉末状、顆粒状、固形状、液状といった剤型を問わず、また、一剤であるか二剤であるかも問わない。
さらに、この調味料には、本発明の効果を阻害しない限度において、食塩、糖類、タンパク質、香料、色素、酸化防止剤、保存料、ビタミン類、カルシウム類、ミネラル類などを適宜含むことができる。
【0015】
本発明は、例えば、飲料、めん類(即席めん、乾めん、生めん)のスープ、スパゲティソース、菓子類、ふりかけ、お茶漬けの素、蒲鉾等の水産練り製品、ソーセージ、ハム、ハンバーグ、ミートボールなどの畜肉加工品、漬物、佃煮、珍味、ギョーザ、シューマイ、肉まんの具、フライ用バッター、てんぷらの衣などのそう菜類などの食品に適用される。
【実施例】
【0016】
以下、本発明の内容を以下の実施例を用いて具体的に説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
なお、以下の記載において、「部」は質量部を示し、「*」は三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製を、「※」は三栄源エフ・エフ・アイ株式会社の登録商標をそれぞれ示す。
【0017】
実施例1
グルタミン酸ナトリウムの0.5質量%水溶液を調製し、それに表1のように、スクラロースの量を変えて添加し、コントロールと比べて、次の基準でグルタミン酸ナトリウムの不快な後味の改善効果を評価して、結果を表1に示した。
×:効果なし、もしくは甘味が強く出てしまう △:やや後味を抑える
○:後味を抑える ◎:より後味を抑える
【0018】
【表1】

グルタミン酸ナトリウムの0.5質量%水溶液に対して、スクラロース添加量0.00005〜0.002質量%、特に0.0002〜0.001質量%の範囲で、グルタミン酸ナトリウムの不快な後味の改善効果が認められた。
【0019】
実施例2
スクラロースの添加量を0.0005質量%で固定し、表2のように、グルタミン酸ナトリウムの濃度を変えて、実施例1と同一の基準で不快な後味の改善効果を評価して、結果を表2に示した。
【0020】
【表2】

グルタミン酸ナトリウム0.05〜3質量%に対して、スクラロースを0.0005質量%添加することで、グルタミン酸ナトリウムの不快な後味の改善効果が認められた。
なお、グルタミン酸ナトリウムの濃度が0.05質量%未満では、エグ味などの不快な後味が認められない。
【0021】
実施例3〜5
実施例1と同様に、表3の各うま味成分の0.5質量%水溶液を調製し、それにスクラロースを0.0005質量%添加して、実施例1と同一の基準で不快な後味の改善効果を評価して、結果を表3に示した。
【0022】
【表3】

これらのうま味成分についても、グルタミン酸ナトリウムの場合と同様に、スクラロース添加により、不快な後味の改善が認められた。
【0023】
実施例6
グルタミン酸ナトリウムの0.5質量%水溶液を調製し、それに表4のように、各種の甘味料を、スクラロース0.0005質量%添加と同じ甘味になるような量を添加して、実施例1と同一の基準で不快な後味の改善効果を評価して、結果を表4に示した。
【0024】
【表4】

注1:ネオテーム2%製剤(大日本住友製薬株式会社製)
注2:ステビア抽出物100%製剤(守田化学株式会社製)
スクラロース以外の甘味料では、砂糖やアスパルテームで、ややグルタミン酸ナトリウムの不快な後味を抑える効果が見られたが、アセスルファムK、ネオテーム、サッカリンナトリウム及びステビアでは、不快な後味の改善効果が認められなかった。
【0025】
実施例7
表5の処方に基づき、めんつゆを製造し、それを5倍に希釈したものに、表6に記載の量のスクラロースを添加し、実施例1と同一の基準で不快な後味の改善効果を評価して、結果を表6に示した。
【0026】
【表5】

【0027】
【表6】

スクラロース添加量0.0001〜0.002質量%の範囲で、グルタミン酸ナトリウムなどのうま味成分の不快な後味の改善効果が認められた。スクラロースを添加することで、強いうま味を有しながらも、後味のすっきりした上品な味わいのめんつゆとなった。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明により、グルタミン酸ナトリウムなどのうま味成分の不快な後味を改善することができるので、食品工業において有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミノ酸系、核酸系及び有機酸系から選ばれる1種以上のうま味成分に、スクラロースを添加することを特徴とする、うま味成分の不快な後味改善方法。
【請求項2】
アミノ酸系、核酸系及び有機酸系から選ばれる1種以上のうま味成分1質量部に対して、スクラロースを0.0001〜0.01質量部添加する、請求項1記載のうま味成分の不快な後味改善方法。
【請求項3】
アミノ酸系のうま味成分がグルタミン酸又はそのナトリウム塩であり、核酸系のうま味成分がイノシン酸、グアニル酸又はこれらのナトリウム塩であり、有機酸系のうま味成分がコハク酸又はそのナトリウム塩である、請求項1又は2記載のうま味成分の不快な後味改善方法。