説明

かつお節の抽出残渣を有効成分とするガン発生抑制用組成物

【課題】副作用を伴うことなく、ガン細胞に対して有効に作用して、かつ容易に量産が可能なガン抑制用組成物を提供する。
【解決手段】かつお節からかつおだしを抽出して得られるかつお節抽出残渣を有効成分とすることを特徴とするガン発生抑制用組成物。上記ガンが大腸ガンであるであることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、かつお節の抽出残渣を有効成分とするガン発生抑制用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
日本において、悪性腫瘍(ガン)が死亡原因の第1位となり、既に四半世紀が経過している。その間、ガンに関する研究も数多く行われ、様々な治療薬や治療方法が開発・実用化されて、治癒率は格段に向上している。しかしながら、死亡者数は年々増加の一途をたどっており、現在もなお、ガン治療に関する重要性は高く、数多くの研究が行われている。
【0003】
現在のガンの治療法としては、外科的治療、放射線治療、化学療法、ホルモン療法、生物反応修飾物質によるBRM(biological response modifiers)療法に分類され、これらの作用機序はすべて異なり、これらを併用して治療効果を挙げることが有効とされている。
【0004】
一方、上記のような医学的治療の他に、アガリクスや、メシマコブ、キトサン、フコイダン、サメ軟骨抽出物等の食品素材にも、抗酸化作用や免疫賦活作用、より直接的には抗ガン作用といった生理機能を有するものが数多く知られており、その摂取によりガンの発生を予防し抑制することが試みられている。また、食品素材由来の活性成分についても研究がなされており、例えば、下記特許文献1には動物の体組織成分を酵素により加水分解してなる、抗変異原性を有するペプチドが開示されている。下記特許文献2にはかつお節のタンパク質分解酵素の分解液に含まれるペンタペプチド(Val−Pro−Cys−Gly−Lys)を有効成分とする活性化酸素阻害剤が開示されている。また、下記特許文献3にはかつお節のタンパク質分解酵素の分解液に含まれるトリペプチド(Met−Lys−Met)を有効成分とする活性化酸素阻害剤が開示されている。
【特許文献1】特開平10−262569号公報
【特許文献2】特許第2920827号公報
【特許文献3】特開2000−169499号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、これまでに行われていた医学的療法は、標準治療においてもほとんどの場合に副作用が見られ、例えば、化学療法は、最も用いられる方法の1つであるものの、有効投与量のコントロールが難しいため、吐き気、嘔吐、食欲不振等の副作用を伴うケースが多かった。
【0006】
また、抗ガン作用を有するとされている食品素材由来の活性成分は、抗酸化作用や免疫賦活作用によるものが多く、その摂取により実際のガンの発生を予防し抑制する作用が確認されているものは決して多くないのが現状であった。例えば、上記特許文献1に記載されているペプチドについては抗変異原性が確認されているが、ガン細胞に対する作用については記載されておらず、上記特許文献2、3に記載されているペプチドについても活性酸素消去作用が確認されているに過ぎない。また、上記特許文献1〜3のペプチドはいずれも、食品素材中のたんぱく成分を酵素処理することにより得られるものであるが、特定のペプチドを分解法により量産するのは容易ではない。
【0007】
したがって、本発明の目的は、副作用を伴うことなく、ガン細胞に対して有効に作用して、かつ容易に量産が可能なガン予防・抑制用組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意研究した結果、食品工業分野において、食品製造過程で大量に排出、廃棄されているかつお節の抽出残渣にガン発生抑制作用のあることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明のガン発生抑制用組成物は、かつお節の抽出残渣を有効成分とすることを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、かつお節の抽出残渣を摂取することにより有効にガンの発生を予防し抑制することができる。
【0011】
本発明においては、上記ガンが大腸ガンであるであることが好ましい。これによれば、更に効果的にガンの発生を予防し抑制することができる。
【0012】
また、本発明においては、上記かつお節の抽出残渣が、かつお節の抽出残渣を更に水、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、アセトン、クロロホルムから選ばれた少なくとも1種の溶媒で抽出処理した後、乾燥し粉砕したものであることが好ましい。これによれば、腐敗や悪臭の原因となる水分や不用物を除くことができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、食品工業分野の産業廃棄物として大量に排出、廃棄されているかつお節の抽出残渣の新たな用途を提供するものであり、本発明のガン発生抑制用組成物によれば、その摂取により、ガンの発生、進行の抑制効果、及び、ガン細胞の分化誘導効果を得ることができる。また、本発明のガン発生抑制用組成物は、食品由来成分であるかつお節の抽出残渣を有効成分として含有するので、安全性が高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明に用いられるかつお節抽出残渣は、調味料や加工食品の製造において、かつお節を原料としてエキス分を抽出した後に残る、いわゆる出し殻であり、食品の製造過程において大量に発生する。通常は、産業廃棄物として廃棄される他、肥料、飼料等に利用されている。また、調味料用の分解原料としての利用も検討されているが、使用量は決して多くない。かつお節の種類としては、大きく分けて枯節、荒節があり、さらに魚体の部位によりそれぞれ雄節、雌節、亀節に分類されるが、本発明においては、その種類を問わず、通常の食品の製造過程において発生する抽出残渣を使用することができる。
【0015】
上記かつお節抽出残渣は、そのまま利用してもよく、また、腐敗や悪臭の原因となる水分や夾雑物を除く等の必要に応じて適宜、洗浄、脱脂、脱色、乾燥、粉砕等の処理を行ってから用いてもよい。洗浄においては、水や有機溶媒を用いることができ、洗浄に有機溶媒を用いた場合には、併せて脱脂、および脱臭効果が得られる。
【0016】
本発明に用いられる有機溶媒は、食品および/または医薬的に許容されるものであれば特に制限はなく、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、アセトン、クロロホルム等が挙げられるが、食品にも安全に用いられる点でエタノールが特に好ましい。乾燥方法としては熱風乾燥、真空乾燥等、粉砕方法についてはジェットミルやミル、その他粉砕機等、通常用いられる方法を用いることができる。
【0017】
本発明のガン発生抑制用組成物は単独で用いてもよく、また、アガリクスや、メシマコブ、キトサン、フコイダン、サメ軟骨抽出物、ペプチド等、ガンの予防・抑制効果が知られている成分と併用しても良い。
【0018】
本発明のガン発生抑制用組成物の摂取形態は、液剤、散剤、錠剤、丸剤、細粒剤、顆粒剤、カプセル剤、ゼリー、チュアブル、ペースト等が挙げられ、生理活性を損わない範囲で、食品、及び医薬的に許容される担体、賦形剤、糖類、甘味料、香料、酸味料、着色料、その他補助的添加剤を使用してもよい。
【0019】
本発明のガン発生抑制用組成物の有効摂取量は、摂取者の体重、性別、年齢等によって適宜設定すればよいが、通常、乾燥重量換算で、体重1kg当り0.01〜5g、好ましくは0.05〜0.5gである。
【0020】
本発明のガン発生抑制用組成物は、飲食品に配合して摂取することもでき、例えば、(1)清涼飲料、炭酸飲料、果実飲料、野菜ジュース、乳酸菌飲料、乳飲料、豆乳、ミネラルウォーター、茶系飲料、コーヒー飲料、スポーツ飲料、アルコール飲料、ゼリー飲料等の飲料類、(2)トマトピューレ、キノコ缶詰、乾燥野菜、漬物等の野菜加工品、(3)乾燥果実、ジャム、フルーツピューレ、果実缶詰等の果実加工品、(4)カレー粉、わさび、ショウガ、スパイスブレンド、シーズニング粉等の香辛料、(5)パスタ、うどん、そば、ラーメン、マカロニ等の麺類(生麺、乾燥麺含む)、(6)食パン、菓子パン、調理パン、ドーナツ等のパン類、(7)アルファー化米、オートミール、麩、バッター粉等、(8)焼菓子、ビスケット、米菓子、キャンデー、チョコレート、チューイングガム、スナック菓子、冷菓、砂糖漬け菓子、和生菓子、洋生菓子、半生菓子、プリン、アイスクリーム等の菓子類、(9)小豆、豆腐、納豆、きな粉、湯葉、煮豆、ピーナッツ等の豆類製品、(10)蜂蜜、ローヤルゼリー加工食品、(11)ハム、ソーセージ、ベーコン等の肉製品、(12)ヨーグルト、プリン、練乳、チーズ、発酵乳、バター、アイスクリーム等の酪農製品、(13)加工卵製品、(14)干物、蒲鉾、ちくわ、魚肉ソーセージ等の加工魚や、乾燥わかめ、昆布、佃煮等の加工海藻や、タラコ、数の子、イクラ、からすみ等の加工魚卵、(15)だしの素、醤油、酢、みりん、コンソメベース、中華ベース、濃縮出汁、ドレッシング、マヨネーズ、ケチャップ、味噌等の調味料や、サラダ油、ゴマ油、リノール油、ジアシルグリセロール、べにばな油等の食用油脂、(16)スープ(粉末、液体含む)等の調理、半調理食品や、惣菜、レトルト食品、チルド食品、半調理食品(例えば、炊き込みご飯の素、カニ玉の素)等が挙げられる。
【0021】
上記飲食品におけるガン発生抑制用組成物の配合量は、乾燥重量換算で0.5〜50質量%が好ましく、1〜10質量%がより好ましい。配合量が上記範囲よりも少ないと、十分な量を1食で摂取するのが困難となり、上記範囲よりも多いと飲食品の味や品質安定性に不具合が生じる他、飲料や加工食品においては、それらのもつ本来の風味を損うため好ましくない。
【実施例】
【0022】
以下実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、これらの実施例は本発明の範囲を限定するものではない。
【0023】
<製造例>
かつお節出し殻に等量のアセトンを加え、撹梓後12時間4℃下に静置した。吸引ろ過にて残渣を得た後、前操作と等量のアセトンを加え、再度吸引ろ過で残渣を得、減圧下で乾燥し、さらに粉砕機で微粉末化した。このかつお節出し殻粉末を用いて以下の試験をおこなった。
【0024】
<試験例1> (前ガン病変)
実験動物として、ガン研究に多用され基礎データも豊富な、5週齢F344雄ラットを用いた。飼料はAIN93Gを基本に脂質(コーン油)を7%(w/v)含有するように調製した。かつお節出し殻粉末は、飼料に対して0.1、0.5および2.0質量%となるように添加し、0.1%投与群、0.5%投与群、2.0%投与群、の3群の試験群を設定した。また、かつお節出し殻粉末を添加しない飼料を対照として用いて、対照群を設定した。なお、飼料の調製については熱量およびタンパク質量、その他栄養成分含量が等しくなるよう調製した。
【0025】
上記各試験群又は対照群の飼料で飼育するラットを、それぞれの試験群につき10匹用意し、1,2-ジメチルヒドラジン(DMH)を5週齢時から週1回連続3週にわたって背部皮下投与して大腸ガンを誘発した。なお、その1回の投与量は20mg/kgとした。
【0026】
その後、15週齢で解剖して1,2-ジメチルヒドラジン(DMH)の背部皮下投与によって誘発された前ガン病変(aberrant crypt foci;ACF)の有無、総数、病変の進行度を評価検討した。なお、前ガン病変(aberrant crypt foci;ACF)は、その進行度が増加するにしたがって、ポリープあるいは腺腫(良性腫瘍)から腺ガン(悪性腫瘍)への経過する可能性が高まる。その結果を下記表1に示す。
【0027】
【表1】

【0028】
上記の結果、前ガン病変(aberrant crypt foci;ACF)の病変総数は、かつお節出し殻の餌料中添加量が多い場合に低下していることがわかる。また、その病変の進行度(multiplicity)は、かつお節出し殻の餌料中添加量が多いと進行度2(Doublet)および進行度3以上(Trip1et以上)の前ガン病変(aberrant crypt foci;ACF)の発現が抑制され、前ガン病変の進行度(multiplicity)が抑制されていることがわかる。なお、1,2-ジメチルヒドラジン(DMH)の静脈投与しないラットにおいては、前ガン病変(aberrant crypt foci;ACF)及び大腸ガンの発現は確認されなかった。
【0029】
以上の結果から、かつお節出し殻の摂取によりガンの発生を抑制できることが明らかとなった。
【0030】
<試験例2> (大腸ガン発生個数)
試験例1と同様にして、上記各試験群又は対照群の飼料で飼育するラットを、それぞれの試験群につき10匹用意し、1,2-ジメチルヒドラジン(DMH)を5週齢時から週1回連続8週にわたって背部皮下投与して大腸ガンを誘発した。なお、その1回の投与量は20mg/kgとした。
【0031】
その後、40週齢で解剖して大腸ガン発生の有無、発生個数を調べた。その結果を下記表2に示す。
【0032】
【表2】

【0033】
更に、発生したガンの悪性度を細胞の分化度をもとに組織病理学的評価をおこなった。その結果を下記表3に示す。
【0034】
【表3】

【0035】
上記表2に示すとおり、ガンの発生頻度は対照群で高く、0.5%投与群及び2.0%投与群では効果的に抑制されていることがわかる。更に、上記表3に示すとおり、かつお節出し殻の飼料への添加量が多いほど、組織病理学的評価によってガン悪性度が中度及び高度のものと判定されるガンの発生頻度が少ないことがわかる。
【0036】
以上の結果から、かつお節出し殻の摂取によりガンの発生を抑制できることが明らかとなり、その作用機序としてガン細胞の分化誘導が関与していることが示唆された。
【0037】
<試験例3>
上記製造例で調製したかつお節出し殻粉末のタンパク質構成アミノ酸組成を測定した。その結果を下記表4に示す。



【0038】
【表4】

【0039】
上記表4のかつお節出し殻粉末タンパク質のアミノ酸組成にしたがって再構成したアミノ酸混合組成物について、試験例1及び試験例2と同様にして、そのガン抑制効果の検討を行った。その結果を下記表5〜7に示す。







【0040】
【表5】

【0041】
【表6】

【0042】
【表7】

【0043】
上記の結果、再構成アミノ酸混合組成物を配合した餌料では、検討した各指標とも対照群と統計上の差は認められなかった。このことからかつお節出し殻のガン抑制効果は、そのタンパク質構成アミノ酸組成にのみ起因するものではないことが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は、食品由来のがん予防・抑制剤として有用である。また、産業廃棄物として処理されていたかつお節抽出残渣の有効利用を図ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
かつお節の抽出残渣を有効成分とすることを特徴とするガン発生抑制用組成物。
【請求項2】
前記ガンが、大腸ガンである請求項1記載のガン発生抑制用組成物。
【請求項3】
前記かつお節の抽出残渣が、かつお節の抽出残渣を更に水、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、アセトン、クロロホルムから選ばれた少なくとも1種の溶媒で抽出処理した後、乾燥し粉砕したものである請求項1又は2記載のガン発生抑制用組成物。

【公開番号】特開2007−126380(P2007−126380A)
【公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−319318(P2005−319318)
【出願日】平成17年11月2日(2005.11.2)
【出願人】(390033145)焼津水産化学工業株式会社 (80)
【Fターム(参考)】