説明

がいしジャンパー線の劣化検査装置および劣化検査方法

【課題】ジャンパー線の内部の劣化の程度を活線状態で確認できるがいしジャンパー線の劣化検査装置および劣化検査方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本体部11と、この本体部11に設けられてがいしのジャンパー線Jに着脱自在に装着される装着体12a、12bと、第1の絶縁操作棒1の操作によって前後方向に進退し、第2の絶縁操作棒2の操作によって軸心を中心に回転する進退子23と、進退子23の前部に突設されてジャンパー線Jを構成する素線jと素線jの間に進入し、前記回転によって素線jと素線jを強制的に拡開させて内部Kの素線を露呈させる進入子24と、進入子24の先端部付近を撮像する撮像手段とからジャンパー線の劣化検査装置を構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高圧送電線鉄塔や変電所等の高圧線設備に設けられたがいしジャンパー線の劣化検査装置および劣化検査方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高圧送電線鉄塔や変電所等の高圧線設備に設けられたがいしには、高圧送電線を接続するためのジャンパー線が配設される。ジャンパー線は、アルミ線等の送電用の素線を多数本束ねて形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−191517号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
高圧送電線は経年劣化しやすく、このため、高圧送電線の劣化の程度を確認する検査が行われている。このような検査装置として、自走式の検査装置が知られている(特開平10−191517号公報)。このものは、1対の車輪を電線上を自走させ、これに備えられたカメラにより電線を撮像してその点検を行うものである。
【0005】
しかしながら、上記従来方法は高圧送電線の外観を観察するだけであったため、高圧送電線の外表面の劣化の程度はある程度点検できるものの、内部の劣化の程度は判らないという問題点があった。特に、高圧送電線を接続するためのジャンパー線は、アルミ線等の送電用の素線を多数本束ねて形成されるので、単に外表面だけでなく、その内部の点検をすることもきわめて重要であるが、上記従来方法ではこのような内部の点検はできないことから、内部点検が可能な装置の実現が強く望まれていた。
【0006】
そこで本発明は、ジャンパー線の外表面の内部の劣化の程度を活線状態で確認できるがいしジャンパー線の劣化検査装置および劣化検査方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1記載のがいしジャンパー線の劣化検査装置は、本体部と、この本体部に設けられてがいしのジャンパー線に着脱自在に装着される装着体と、前記本体部に設けられて第1の絶縁操作棒の操作によって前後方向に進退し、また第2の絶縁操作棒の操作によってその軸心を中心に回転する進退子と、この進退子の前部に突設されてジャンパー線を構成する素線と素線の間に進入し、前記回転によって素線と素線を強制的に拡開させて内部の素線を露呈させる進入子と、前記進入子の先端部付近を撮像する撮像手段とを備えた。
【0008】
請求項2記載のがいしジャンパー線の劣化検査装置は、請求項1記載のがいしジャンパー線の劣化検査装置において、前記装着体が左右一対あり、前記進退子はこの左右一対の前記装着体の間を前後方向に進退する。
【0009】
請求項3に記載のがいしジャンパー線の劣化検査装置は、請求項1又は2記載のがいしジャンパー線の劣化検査装置において、前記進入子はへら状体であり、水平な姿勢で素線と素線の間に進入し、進入した状態で前記回転をすることによって素線と素線を強制的に拡開させる。
【0010】
請求項4に記載のがいしジャンパー線の劣化検査方法は、第1の絶縁操作棒を操作し、装着体をジャンパー線に装着して劣化検査装置をジャンパー線上に位置決めするステップと、第1の絶縁操作棒を操作して進入子を前進させ、進入子の先端部をジャンパー線の内部に進入させるステップと、第2の絶縁操作棒を操作して進入子を回転させ、ジャンパー線の外表面の素線を強制的に押し開きジャンパー線の内部を露呈させるステップと、露呈したジャンパー線の内部を撮像手段にて映出あるいは撮像するステップと、を含む。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、第1の絶縁操作棒を操作して劣化検査装置の装着体をジャンパー線上に装着することにより劣化検査装置をジャンパー線の所定の検査位置に位置決めする。次いで第1の絶縁操作棒を操作して進入子をジャンパー線へ向って前進させ、その先端部をジャンパー線を構成する外表面の素線と素線の間に進入させる。次いで第2の絶縁操作棒を操作して進入子を回転させると、素線と素線は、その間に進入した進入子の先端部により強制的に押し開かれてジャンパー線の内部が露呈するので、撮像手段によりこの露呈した内部を撮像し、その画像から劣化の程度を確認できる。以上の作業は、絶縁操作棒を用いることにより活線状態で安全かつ効率的に実行することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施の形態におけるがいしジャンパー線の劣化検査装置で作業中の高圧送電線鉄塔の正面図
【図2】本発明の一実施の形態におけるがいしジャンパー線の劣化検査装置の作業中の斜視図
【図3】本発明の一実施の形態におけるがいしジャンパー線の劣化検査装置の斜視図
【図4】本発明の一実施の形態におけるがいしジャンパー線の劣化検査装置の平面図
【図5】本発明の一実施の形態におけるがいしジャンパー線の劣化検査装置の可動部の斜視図
【図6】本発明の一実施の形態におけるがいしジャンパー線の劣化検査装置の斜視図
【図7】本発明の一実施の形態におけるがいしジャンパー線の劣化検査装置の斜視図
【図8】本発明の一実施の形態におけるがいしジャンパー線の劣化検査方法のフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は、第1の作業者Aと第2の作業者Bが高圧送電線鉄塔T上に登り、劣化検査作業を実行している様子を示している。鉄塔Tのアーム部tの先端部には耐張型のがいしGが設けられている。がいしGはその両端部に高圧の送電線Sを支持しており、左右の送電線S、Sはジャンパー線Jで接続されている。ジャンパー線Jは直径1〜2mm程度のアルミ線などの素線を多数本束ねたものであるが、経年劣化により腐食するので、定期的に劣化の程度を検査する必要がある。
【0014】
図2は、劣化検査装置10により鉄塔T上のジャンパー線Jの劣化検査を行っている様子を示している。図1、図2において、第1の作業者Aは、FRP(強化プラスチック)等の絶縁材料にて形成された第1の絶縁操作棒1を手に保持している。また第2の作業者Bは、同様の第2の絶縁操作棒2を手に保持している。後述するように、この劣化検査装置10は、2人の作業者A、Bがそれぞれ絶縁操作棒1、2を操作して劣化検査作業を行う。
【0015】
次に、図3及び図4を参照して劣化検査装置10の構造を説明する。劣化検査装置10は本体部11を主体とし、これに以下に述べる部品が組み付けられて構成されている。本体部11の前部両側部には左右一対の装着体12a、12bが設けられている。装着体12a、12bの外形は略4角の立方形であって、その下面には凹部121が開口されている。後述するように、装着体12a、12bは凹部121を上方からジャンパー線Jに嵌合させることによりジャンパー線J上に着脱自在に装着され、劣化検査装置10をジャンパー線Jの所定の検査位置に位置決めする。
【0016】
図5は、本体部11に組み付けられる可動部20の斜視図である。可動部20は、ボルト21と、ボルト21の先端部に結合された円板状のマグネット22と、マグネット22に磁気的に着脱自在に連結された棒状の進退子23を有している。進退子23の前部にはへら状体から成る進入子24が前方へ突設されている。ボルト21と進退子23と進入子24は、一直線状をなしている。ボルト21の後端部の直結具25には、第1の絶縁操作棒1の先端部が着脱自在に結合されている。第1の作業者Aが第1の絶縁操作棒1をその軸心線を中心に手回しすれば、ボルト21もその軸心線を中心に回転する(矢印a)。
【0017】
進退子23には側方へ延出する棒状の延出子26が結合されている。延出子26の先端部は、カギ型の回転体27の下部に開口された開口部27aに嵌入している。回転体27の上端部はフック部27bになっており、第2の作業者Bが保持する第2の絶縁操作棒2の先端部に設けられたリング状の係合体3の係合口3aが係脱自在に係合される。回転体27は軸部28にこの軸部28を中心に回転自在(矢印b方向)に軸支されている。
【0018】
図3、図4は、図5に示す可動部20を本体部11に組み付けた状態を示している。図3、図4において、ボルト21は本体部11の後面に装着されたナット19に水平な姿勢で螺入している。また進退子23及び進入子24は本体部11を貫通し、進入子24は本体部11の前面から前方へ突出している。進退子23及び進入子24は、左右一対の装着体12a、12bの間に位置し、この間を前後方向に進退する(矢印c)。なお本発明で前後方向とは、ボルト21、進退子23、進入子24の長手方向(進退方向)であり、左右とはこの長手方向に対する左右のことである。
【0019】
ボルト21と進退子23はマグネット22により着脱自在に結合されており、かつボルト21はナット19に螺入している。したがって図1に示す第1の作業者Aが第1の絶縁操作棒1をその軸心線を中心に手回ししてボルト21をその軸心線を中心に回転させると(矢印a)、ナット19に螺合するボルト21はその長手方向に進退し、これとともに進退子23、進入子24は長手方向に前進後退する(矢印c)。
【0020】
図3において、可動部20の軸部28は本体部11上に溶接部13等の固定手段により固定されている。またその状態で、延出子26は回転体27の下部の開口部27aに嵌入している。したがって、第2の作業者Bが回転体27の上端部のフック部27bに第2の絶縁操作棒2の先端部の係合体3の係合口3aを係合させ、第2の絶縁操作棒2をその長手方向に押し引きすると、回転体27は軸部28を中心に回転し(矢印b)、これにより延出子26は上下方向dに回転し、延出子26に結合された進退子23および進入子24はその軸心線を中心に回転する(矢印e)。
【0021】
図3において、本体部11にはレンズ部14及びCCD等から成る撮像部15が設けられている。撮像部15から送信線16が延出している。レンズ部14及び撮像部15は、進入子24の先端部付近を撮像する撮像手段である。
【0022】
第1の作業者Aは、手元の操作部の操作を行い、撮像手段で撮像した画像をモニタに表示する。モニタは鉄塔T上に設けられて作業者A、Bが視認してもよく、あるいは地上に設置して他の作業者が視認してもよい。このような撮像手段やモニタ等の撮像表示手段は公知のものが使用できる。
【0023】
この劣化検査装置は上記のような構成より成り、次に図8のフローチャートを参照しながら使用方法を説明する。図1及び図2において、第1の作業者Aは第1の絶縁操作棒1を操作し、劣化検査装置10の装着体12a、12bをジャンパー線Jに装着して、劣化検査装置10をジャンパー線J上に位置決めする(ST1)。
【0024】
図6はその状態を示すものであって、左右一対の装着体12a、12bはその下面の凹部121をジャンパー線Jに上方から嵌合せられてジャンパー線J上に位置決めされている。この状態で、第1の作業者Aは第1の絶縁操作棒1をその軸心を中心に手回しする。すると、ボルト21は回転(矢印a)してナット19の内部を前進し(矢印c)、進入子24の先端部はジャンパー線Jの外表面に当接する。そこで作業者Aが第1の絶縁操作棒1を更に手回ししてボルト21を更に前進させ、進入子24をジャンパー線Jの外表面の素線jの1本分だけ(例えば、1〜2mm程度)ジャンパー線J内に進入させる(ST2)。
【0025】
この場合、マグネット22が本体部11の内部に形成された内壁面11a(図6)につき当る位置をボルト21の前進限度(進入子24が上述のように外表面の素線jの1本分だけジャンパー線J内に進入する進入深度)にすることが取り扱い操作上望ましい。
【0026】
以上のようにして第1の作業者Aが進入子24をジャンパー線Jに進入させたならば、第1の作業者Aは第2の作業者Bにその旨報知する。すると第2の作業者Bは、図7に示すように第2の絶縁操作棒2を操作して係合体3を回転体27のフック部27bに係合させ、第2の絶縁操作棒2を手前へ引く(矢印f)。
【0027】
すると上述したように回転体27は矢印b方向に回転し、これにより延出子は矢印d方向に回転し、またこれにより進入子24は矢印e方向に回転し、進入子24の先端部は図7に示すようにジャンパー線Jの外表面の素線j1、j2をこじ開けるようにして強制的に押し開き、ジャンパー線Jの内部Kを露呈させる(ST3)。そこで第1の作業者Aは撮像手段の操作部を操作し、露呈したジャンパー線Jの内部Kをモニタに映出し、あるいはこれを撮像する(ST4)。そしてモニタ画面を視認することによりジャンパー線Jの内部Kの劣化の程度を検査・確認する。
【0028】
以上のようにして劣化検査が終了したならば、第2の作業者Bは第2の絶縁操作棒2の係合体3を回転体27から取りはずし、また第1の作業者Aは第1の絶縁操作棒1を先程とは逆方向に手回しして進入子24を後退させ、進入子24をジャンパー線Jから抜き出した後、装着体12a、12bをジャンパー線Jから上方へ脱出させて劣化検査装置10をジャンパー線Jから取りはずして鉄塔T上に回収する。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明によれば、活線状態でジャンパー線の内部を検査することができるので、特に高圧送電線鉄塔や変電所等の高圧線設備に設けられたがいしジャンパー線の劣化検査装置および劣化検査方法として有用である。
【符号の説明】
【0030】
1 第1の絶縁操作棒
2 第2の絶縁操作棒
10 劣化検査装置
11 本体部
12a、12b 装着体
14 レンズ部
15 撮像部
19 ナット
20 可動部
21 ボルト
23 進退子
24 進入子
26 延出子
27 回転体
A 第1の作業者
B 第2の作業者
J ジャンパー線
j 素線
T 高圧送電線鉄塔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
本体部と、この本体部に設けられてがいしのジャンパー線に着脱自在に装着される装着体と、前記本体部に設けられて第1の絶縁操作棒の操作によって前後方向に進退し、また第2の絶縁操作棒の操作によってその軸心を中心に回転する進退子と、この進退子の前部に突設されてジャンパー線を構成する素線と素線の間に進入し、前記回転によって素線と素線を強制的に拡開させて内部の素線を露呈させる進入子と、前記進入子の先端部付近を撮像する撮像手段とを備えたことを特徴とするがいしジャンパー線の劣化検査装置。
【請求項2】
前記装着体が左右一対あり、前記進退子はこの左右一対の前記装着体の間を前後方向に進退することを特徴とする請求項1記載のがいしジャンパー線の劣化検査装置。
【請求項3】
前記進入子はへら状体であり、水平な姿勢で素線と素線の間に進入し、進入した状態で前記回転をすることによって素線と素線を強制的に拡開させることを特徴とする請求項1又は2記載のがいしジャンパー線の劣化検査装置。
【請求項4】
第1の絶縁操作棒を操作し、装着体をジャンパー線に装着して劣化検査装置をジャンパー線上に位置決めするステップと、
第1の絶縁操作棒を操作して進入子を前進させ、進入子の先端部をジャンパー線の内部に進入させるステップと、
第2の絶縁操作棒を操作して進入子を回転させ、ジャンパー線の外表面の素線を強制的に押し開きジャンパー線の内部を露呈させるステップと、
露呈したジャンパー線の内部を撮像手段にて映出あるいは撮像するステップと、
を含むことを特徴とするがいしジャンパー線の劣化検査方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2013−46441(P2013−46441A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−180832(P2011−180832)
【出願日】平成23年8月22日(2011.8.22)
【出願人】(000156938)関西電力株式会社 (1,442)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【出願人】(000150914)株式会社天禄商会 (4)