説明

くらげ放流システム

【課題】深層取水方式によって取水した海水に含まれる異物を除塵機によって除去し、異物に含まれるくらげを生きたまま海に帰すことにより、くらげの処理に係る費用を低減する。
【解決手段】くらげ放流システム1は、取水設備の周囲の水域を囲んで取水領域Aを形成するカーテンウォール10と、取水設備5の取水口5aが取水した海水から異物を除去する除塵機14と、異物に含まれるくらげを海に搬送する放流路16とを備え、カーテンウォール10に、取水領域Aを、第1領域A1と第2領域A2とに分割しかつ領域間のくらげの移動を規制するネット12を設置し、取水口5aは第1領域A1にあり、カーテンウォール10の壁面部10aは、満潮時の潮位までの高さであり、放流路16は、第2領域A2にくらげを放流し、第2領域A2は、放流路16からのくらげを貯留し、第2領域A2内のくらげは、満潮後の下げ潮によって取水領域A外に放流される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発電設備等に供給する海水から除去した異物に含まれるくらげを海に戻すくらげ放流システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、海水を発電設備等に供給する際に、除塵機を用いて、海水に含まれている異物、例えば、海草、小魚、貝類、くらげ等の魚介類を除去している。そして、除塵機によって異物が除去された海水が、発電設備に供給されるようになる。
【0003】
また、従来、除塵機によって除去されたくらげは、一般廃棄物として扱われている。このため、焼却場等の処分場へ搬入し焼却、カッターポンプにより細断後乾燥、クラゲ処理装置により無害化し放流、といった方法で処分される。しかし、クラゲはほとんどが水分であり、大量に焼却場に搬入しても処理できない。また、カッターポンプにより細断後乾燥するためには、大きな乾燥スペースが必要となり、しかも、乾燥途中に悪臭が発生する。また、クラゲ処理装置により無害化して放流することは、クラゲ処理装置は、設置費用、ランニングコストとも高コストとなる。
【0004】
そこで、従来、除塵機によって除去されたくらげを、生きたまま海に帰すことにより、くらげの処理に係る費用を低減するという技術が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−270560号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、従来、海水の取水方式として、カーテンウォールを用いた深層取水方式がある。この方式は、臨海地に設けた発電所の前面に位置する入り江をカーテンウォールで囲い、このカーテンウォールの海底側下部に形成された開口から、比較的低温で清浄な海水をカーテンウォールで囲まれた領域内に取り入れて、この領域内の海水を取水して、発電所設備に供給するというものである。
【0007】
しかし、深層取水方式において、特許文献1のように除塵機によって除去されたくらげを生きたまま海に帰す場合、くらげをカーテンウォールで囲まれた領域に放流するのでは、くらげが再び取水口に進入して除塵機に再び戻ってくる可能性が高くなる。このため、くらげをカーテンウォールで囲まれた領域外に放流する必要がある。しかし、この場合、除塵機によって除去されたくらげをカーテンウォールで囲まれた領域外に搬送するための設備が必要であり、設置費用が高コストとなるおそれがある。
【0008】
本発明は、深層取水方式によって取水した海水に含まれる異物を除塵機によって除去し、異物に含まれるくらげを生きたまま海に帰すことにより、くらげの処理に係る費用を低減することを実現したくらげ放流システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するため、本発明は、次に記載する構成を備えている。
【0010】
(1) 発電設備に供給する海水を取水する取水設備の周囲の水域を囲んでなる取水領域を形成する壁面部、及び当該壁面部の下部に形成され、前記取水領域と前記取水領域外の水域との間で海水を流出入させる流出入部を有するカーテンウォールと、前記取水設備が取水した海水から異物を除去する除塵機と、当該異物に含まれるくらげを海に搬送する放流路と、を備えたくらげ放流システムであって、前記カーテンウォールに、前記取水領域を、前記取水設備の取水口が配置された第1領域と前記取水設備の取水口が配置されていない第2領域とに分割し、前記第1領域と前記第2領域との間のくらげの移動を規制する網状部材を設置し、前記壁面部は、海底から満潮時の潮位までの高さであり、前記網状部材は、下部が海底に位置しかつ上部が前記壁面部の上端部よりも上方に位置し、前記放流路は、前記第2領域にくらげを放流し、前記第2領域は、前記放流路から放流されたくらげを貯留し、前記第2領域内のくらげは、満潮後の下げ潮によって前記流出入部を介して前記取水領域外に放流されることを特徴とするくらげ放流システム。
【0011】
(1)によれば、カーテンウォールによって囲まれた取水領域を、網状部材によって取水設備の取水口が配置された第1領域とそれ以外の第2領域とに分け、取水設備は、第1領域から取水する。取水設備から取水した海水から除塵機によって除去された異物に含まれるくらげは、放流路を介して第2領域に放流される。第2領域においては、放流路を介して放流されたくらげが貯留される。そして、満潮後の下げ潮によって、第2領域内のくらげが、カーテンウォールの流出入部から海に放流される。このように、カーテンウォールを用いた深層取水方式の取水設備によって取水された海水から、除塵機が異物を除去した際に、異物に含まれるくらげを生きたまま海に帰すことにより、くらげの処理に係る費用を低減することが可能になる。
【0012】
(2) (1)において、前記放流路に、異物からくらげを分別するフィルタを備えたことを特徴とするくらげ放流システム。
【0013】
(2)によれば、くらげ以外の異物を第2領域に放流することが低減される。
【0014】
(3) (1)又は(2)において、前記網状部材は、格子状のフェンスからなることを特徴とするくらげ放流システム。
【0015】
(3)によれば、第2領域に貯留されたくらげが第1領域に移動することが規制される一方で、第2領域から第1領域への海水の移動は可能となる。このため、取水設備は、取水領域全体において取水することが可能になる。
【0016】
(4) (1)〜(3)において、前記第2領域を囲む前記壁面部の上部に、くらげが移動可能な開口部を形成したことを特徴とするくらげ放流システム。
【0017】
(4)によれば、壁面部の上部に開口部を形成したことにより、満潮時にカーテンウォールの上端部付近で浮遊しているくらげが、開口部を通って取水領域外に移動し易くなる。これにより、満潮後の下げ潮によって、くらげを第2領域から海洋に効率よく放流させることが可能になる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、深層取水方式によって取水した海水に含まれる異物を除塵機によって除去し、異物に含まれるくらげを生きたまま海に帰すことにより、くらげの処理に係る費用を低減することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施形態におけるくらげ放流システム1の概要を示す説明図である。
【図2】図1のくらげ放流システム1付近を拡大した図である。
【図3】カーテンウォール10の構成を示す、図2のXX線の断面図である。
【図4】くらげの移動経路を示す図である。
【図5】カーテンウォール10の他の構成を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は本発明の一実施形態におけるくらげ放流システム1の概要を示す説明図、図2は図1のくらげ放流システム1付近を拡大した図である。くらげ放流システム1は、発電施設に供給する海水を取水する取水設備5によって海水と一緒に取り込まれたくらげを、再び海に放流するシステムであり、カーテンウォール10と、網状部材に相当するネット12と、除塵機14と、放流路16とを備えている。
【0021】
カーテンウォール10は、発電設備が臨む入り江の水域を囲むように設けられ、カーテンウォール10によって囲まれた取水領域A内に、比較的きれいな海底付近の海水を導入するためのものである。また、カーテンウォール10の陸地側には、取水設備5(図1参照)及び除塵機14が設置されている。
【0022】
取水設備5は、図1に示すように、取水口5a、取水ポンプ5b及び取水管5cを備えている。取水口5aは、取水口5aには取水管5cが連結されており、この取水管5cは発電設備に延びている。そして、取水ポンプ5bを駆動することによって取水口5aから海水が取水され、取水された海水は取水管5cを通って発電設備の復水器に供給される。ここで復水器とは、例えば、発電機に連結されたタービンを回転させるための蒸気を冷却して復水するものであり、取水設備5によって供給された海水は、蒸気の冷却に用いられる。
【0023】
ネット12は、図2に示すように、カーテンウォール10内に設置され、カーテンウォール10によって囲まれている取水領域Aを第1領域A1と第2領域A2に分けるものである。また、ネット12は、格子状のフェンスからなり、第1領域A1と第2領域A2とにおける海水の移動は可能であるが、くらげの移動は規制される。また、取水口5aは、第1領域A1に存在して、第2領域A2には存在しない。
【0024】
除塵機14は、取水口5aから取り込んだ海水に含まれている異物を除去するものである。海水に含まれている異物としては、魚介類や海草がほとんどである。特に、夏期においてはくらげが異物として多く含まれる。
【0025】
放流路16は、図2に示すように、除塵機14によって除去された異物を第2領域A2に向けて搬送する水路である。放流路16には、フィルタに相当する柵16a(図2参照)が設けられており、異物に含まれているくらげは柵16aを通過し、他の異物は柵16aによって移動が規制される。これにより、除塵機14によって除去された異物からくらげが分別されて、第2領域A2に放流される。
【0026】
図3は、カーテンウォール10の構成を示す、図2のXX線の断面図である。カーテンウォール10は、壁面部10aと流出入部10bを備えている。壁面部10aは、円柱体を積層することによって構成されている。また、壁面部10aは、取水設備の周囲の水域を囲むように設置されており、取水領域A(図2参照)を形成している。
【0027】
流出入部10bは、壁面部10aにおける海底近くの円柱体を抜き取ることによって形成された貫通孔である。この流出入部10bを介して海底の深層水が取水領域A内に流入する。取水領域Aの海水は、取水口5a(図2参照)から取水されて発電設備に供給されるが、取水した分の海水が流出入部10bを介して取水領域A内に流入する。
【0028】
また、カーテンウォール10は、海底から発電設備を建設した地域における平均満潮潮位までの高さに設定されている。また、ネット12は、海底からカーテンウォール10よりも高い位置で仕切っている。このため、カーテンウォール10によって海洋から取水領域A内へのくらげの侵入が規制される。
【0029】
また、ネット12の高さは、カーテンウォール10の上端よりも高く設定されている。このため、図2に示す第2領域A2から第1領域A1へのくらげの移動、あるいはその逆の移動が、ネット12によって規制される。なお、ネット12に貝や海草が付着して繁殖する可能性があるため、ネット12は交換可能であることが望ましい。
【0030】
次に、図4を参照しながら、くらげの移動経路について説明する。図4(a)は、干潮時から満潮に向かう上げ潮の時間帯におけるくらげ放流システム1の状態、図4(b)は、満潮時から干潮に向かう下げ潮の時間帯におけるくらげ放流システム1の状態を示す。
【0031】
取水口5aから取水された海水に含まれる異物は除塵機14によって除去される。除塵機14によって除去された異物は、放流路16に移される。放流路16に移送された異物は、水流によって第2領域A2側に送られる。ここで、放流路16の底面には凹凸が形成されており、例えば、貝類や小魚はこの凹凸によって移動が規制されるが、くらげのような軟体動物は凹凸によって移動が規制され難いため、異物が放流路16を流れている間に、くらげと他の魚介類とが分別される。そして、異物が柵16aに到達した際に、異物に含まれているくらげは、柵16aを通り抜けて第2領域A2に放流される。他の魚介類は、柵16aがフィルタとなって移動が規制され、柵16a付近に蓄積される。なお、柵16a付近に蓄積された異物は、作業員によって放流路16から適宜除去される。
【0032】
第2領域A2に放流されたくらげは、図4(a)に示すように、満潮になるまでの時間帯において、第2領域A2に生きたまま貯留される。そして、満潮時を過ぎて下げ潮が始まった頃には、取水領域A内に入ってきた波と下げ潮とによって、くらげがカーテンウォール10の流出入部10bから海に放流される。
【0033】
なお、取水領域Aから外部の海域に放流されたくらげは、下げ潮によってカーテンウォール10から離れる方向に移動する。このため、取水領域Aから外部の海域に放流されたくらげが、カーテンウォール10の流出入部10bを通って再び取水領域Aに侵入することは少ない。
【0034】
以上説明したように構成された本実施形態によれば、カーテンウォール10の壁面部10aによって囲まれた取水領域Aを、ネット12によって取水設備5の取水口5aが配置された第1領域A1とそれ以外の第2領域A2とに分け、取水設備5は、第1領域A1から取水する。取水設備5から取水した海水から除塵機14によって除去された異物に含まれるくらげは、放流路16を介して第2領域A2に放流される。第2領域A2においては、放流路16を介して放流されたくらげが貯留される。そして、満潮後の下げ潮によって、第2領域A2内のくらげが、カーテンウォール10の流出入部10bを通って取水領域A外の海域に放流される。このように、カーテンウォール10を用いた深層取水方式の取水設備によって取水された海水から、除塵機14が異物を除去した際に、異物に含まれるくらげを生きたまま海に帰すことにより、くらげの処理に係る費用を低減することが可能になる。
【0035】
また本実施形態によれば、放流路16に、異物からくらげを分別する柵16aを備えたことにより、くらげ以外の異物を第2領域A2に放流することが低減される。
【0036】
また本実施形態によれば、ネット12は、格子状のフェンスからなることにより、第2領域A2に貯留されたくらげが第1領域A1に移動することが規制される一方で、第2領域A2から第1領域A1への海水の移動は可能となる。このため、取水設備5は、取水領域A全体において取水することが可能になる。
【0037】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上述した実施形態に限るものではない。例えば、本実施形態に係るカーテンウォール10は、円柱体を敷き詰めた構成であるが、深層取水方式に用いるカーテンウォールであれば他の構成であってもよい。また、カーテンウォール10における第2領域A2を囲む壁面部10aの上部に、くらげが移動可能な開口部を形成してもよい。
【0038】
具体的には、図5(a)に示すように、カーテンウォール10の上部に、長手方向が水平方向に延びる矩形の開口部10cを形成する。あるいは、図5(b)に示すように、カーテンウォール10の上部に、長手方向が水平方向に延びる凹状の開口部10cを形成する。ここで、開口部10cの縦幅は、満潮時後の下げ潮時において、くらげを通過させたい時間帯に相当する潮位の変化分に設定するとよい。潮位の変化は、地域や季節によって異なるが、例えば、1時間に15cm程度変化するのであれば、カーテンウォール10の上端から開口部10cの底面までの縦幅Hを45cmに設定することにより、満潮後3時間は、下げ潮によって第2領域A2内のくらげを開口部10c介して放流し易い状態となる。
【0039】
このように構成することにより、カーテンウォール10の上端部付近で浮遊しているくらげが開口部10cを通って取水領域A外に移動し易くなり、満潮後の下げ潮によって、くらげを第2領域A2から海洋に効率よく移動させることが可能になる。
【符号の説明】
【0040】
1 くらげ放流システム
5 取水設備
5a 取水口
5b 取水ポンプ
5c 取水管
10 カーテンウォール
10a 壁面部
10b 流出入部
10c 開口部
12 ネット
13a 柵
14 除塵機
16 放流路
16a 柵

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発電設備に供給する海水を取水する取水設備の周囲の水域を囲んでなる取水領域を形成する壁面部、及び当該壁面部の下部に形成され、前記取水領域と前記取水領域外の水域との間で海水を流出入させる流出入部を有するカーテンウォールと、
前記取水設備が取水した海水から異物を除去する除塵機と、
当該異物に含まれるくらげを海に搬送する放流路と、を備えたくらげ放流システムであって、
前記カーテンウォールに、前記取水領域を、前記取水設備の取水口が配置された第1領域と前記取水設備の取水口が配置されていない第2領域とに分割し、前記第1領域と前記第2領域との間のくらげの移動を規制する網状部材を設置し、
前記壁面部は、海底から満潮時の潮位までの高さであり、
前記網状部材は、下部が海底に位置しかつ上部が前記壁面部の上端部よりも上方に位置し、
前記放流路は、前記第2領域にくらげを放流し、
前記第2領域は、前記放流路から放流されたくらげを貯留し、前記第2領域内のくらげは、満潮後の下げ潮によって前記流出入部を介して前記取水領域外に放流されることを特徴とするくらげ放流システム。
【請求項2】
前記放流路に、異物からくらげを分別するフィルタを備えたことを特徴とする請求項1記載のくらげ放流システム。
【請求項3】
前記網状部材は、格子状のフェンスからなることを特徴とする請求項1又は2記載のくらげ放流システム。
【請求項4】
前記第2領域を囲む前記壁面部の上部に、くらげが移動可能な開口部を形成したことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載のくらげ放流システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−53448(P2013−53448A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−191998(P2011−191998)
【出願日】平成23年9月2日(2011.9.2)
【出願人】(000211307)中国電力株式会社 (6,505)