説明

くらげ流入防止網の展張装置と、このくらげ流入防止網の展張装置を使用した、くらげ流入防止網の展張方法

【課題】岸壁に設けている取水口の前面に、くらげ流入防止網を展張する場合において、くらげ流入防止網が備えている展開ロープを海底側で巻回する案内用滑車を、海底から離れた位置に設置することにより、案内用滑車が汚泥等の中に埋没してしまう事態の発生を回避し、案内用滑車の滑らかな回転によりくらげ流入防止網の海中からの引き上げと、海中への展張を容易に実施することのできる、くらげ流入防止網の展張装置と、このくらげ流入防止網の展張装置を使用した、くらげ流入防止網の展張方法を提供する。
【解決手段】本発明に係るくらげ流入防止網の展張装置は、岸壁に設けている取水口の前面に、くらげ流入防止網を展張する場合において、くらげ流入防止網が備えている展開ロープを海底側で巻回する案内用滑車を、海底から離れた位置に設置している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、原子力発電所や火力発電所等のように、大量の海水を冷却水として利用している施設の取水口に、くらげ等の浮遊物が入り込んでしまう事態の発生を防止するために、取水口の前面にくらげ流入防止網を展張する、くらげ流入防止網の展張装置と、このくらげ流入防止網の展張装置を使用した、くらげ流入防止網の展張方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、原子力発電所や火力発電所等の施設においては、海水を冷却水として利用するために、施設が沿岸に設置されることが多い。この様な施設においては、岸壁に設けた取水口を介して、大量の海水を取水している。
【0003】
この際、海水の取水口からくらげ等の浮遊物が施設の水路内に流入するのを防止するために、例えば、図3に示すように、海中における取水口の前方に、くらげ流入防止網Aを傾斜状に展張するのが一般的である。
【0004】
このくらげ流入防止網Aは、取水口の全体を囲むように設置することから、例えば、図4に示すように、長さが数十メートルから数百メートルあり、また、幅も数メートルから数十メートルもある大型のものとなっている。また、くらげ流入防止網Aは、全体の網を複数個に分割し、分割した網のそれぞれを相互にロープで緊縛し、一体化することにより構成されている。
【0005】
さらに、分割した網のそれぞれにおいて、網の両側における下縁に展開ロープR1が配設されており、また、網の両側における上縁に引き上げロープR2が配設されている。
【0006】
網の展開ロープR1は、図3に示すように、海底に設置されているコンクリート製のシンカーブロックBに取り付けられている案内用滑車100に巻回してから、展開ロープR1の端部が海上のスタンションS側に配置されている。また、網の引き上げロープR2の端部も、海上のスタンションS側に配置されている。
【0007】
この他、取水口へのクラゲの流入を防止するものとして、特許文献1に示すクラゲ侵入防止装置が存在している。この装置は、図5に示すように、海水取水口の前面に海底から水面に亙って展張されるくらげ流入防止網Aを備え、上記海水取水口の全幅に亙ってカーテンウォールWが架設されると共に、同カーテンウォールWの海側の海底にシンカーB1が埋設され、同シンカーB1に、上記くらげ流入防止網Aの展開ロープR1の案内用滑車100が取り付けられ、上記カーテンウォールWの上部工に上記展開ロープR1の巻取り手段S1が設けられているものであるが、案内用滑車100が海底の近辺に設置されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平10−110423号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記したように、図3・図4に示すくらげ流入防止網Aと、特許文献1に示すくらげ流入防止網A(図5参照)は、いずれも、展開ロープR1を巻回する案内用滑車100が、海底の近辺に設置されていることから、以下のような弊害が生じている。
【0010】
即ち、くらげ流入防止網Aを引き上げる際には、案内用滑車100に巻回している展開ロープR1を弛めながら、引き上げロープR2を引っ張り上げて、案内用滑車100の回転を利用してくらげ流入防止網Aを引き上げているが、案内用滑車100が海底の近辺に設置されていることから、海中の様々な環境に応じて海底に汚泥等が堆積すると、図3・図5に示すように、案内用滑車100が汚泥等の中に埋没し易くなっている。
【0011】
そして、図3・図5に示すように、案内用滑車100が汚泥等の中に埋没した状態を所定期間継続すると、案内用滑車100が回転不能となり、展開ロープR1を弛めることができない事態が生じている。
【0012】
また、くらげ流入防止網Aを海中に展張する際には、まず、展開ロープR1を案内用滑車100に巻回する必要があるが、案内用滑車100が汚泥等の中に埋没している場合には、事前に汚泥等を除去して案内用滑車100を露出させるという面倒な作業を実施しなければならない。
【0013】
さらに、案内用滑車100に巻回している展開ロープR1の端部を、海上のスタンションS側で引っ張り上げることにより、案内用滑車100を回転させながら、くらげ流入防止網Aを所定の位置に展張するのであるが、海中の環境に応じて、比較的に短期間の内に案内用滑車100が汚泥等の中に埋没してしまい、案内用滑車100が回転不能となることも多い。
【0014】
そこで、本発明は如上のような従来存した諸事情に鑑み創出されたもので、岸壁に設けている取水口の前面に、くらげ流入防止網を展張する場合において、くらげ流入防止網が備えている展開ロープを海底側で巻回する案内用滑車を、海底から離れた位置に設置することにより、案内用滑車が汚泥等の中に埋没してしまう事態の発生を回避し、案内用滑車の滑らかな回転によりくらげ流入防止網の海中からの引き上げと、海中への展張を容易に実施することのできる、くらげ流入防止網の展張装置と、このくらげ流入防止網の展張装置を使用した、くらげ流入防止網の展張方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明に係るくらげ流入防止網の展張装置は、岸壁に設けている取水口の前面に、くらげ流入防止網を展張する場合において、くらげ流入防止網が備えている展開ロープを海底側で巻回する案内用滑車を、海底から離れた位置に設置していることで、上述した課題を解決した。
【0016】
また、案内用滑車を、海底からおよそ0.5メートル乃至4メートル離れた位置に設置していることで、同じく上述した課題を解決した。
【0017】
さらに、案内用滑車を、海底からおよそ3メートル離れた位置に設置していることで、同じく上述した課題を解決した。
【0018】
また、案内用滑車は、海底に設置されているシンカーブロックに、所定の長さのチェーンを介して取り付けられていることで、同じく上述した課題を解決した。
【0019】
この他、本発明に係るくらげ流入防止網の展張方法は、前記したくらげ流入防止網の展張装置を使用することで、同じく上述した課題を解決した。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係るくらげ流入防止網の展張装置は、岸壁に設けている取水口の前面に、くらげ流入防止網を展張する場合において、くらげ流入防止網が備えている展開ロープを海底側で巻回する案内用滑車を、海底から離れた位置に設置していることから、この案内用滑車が、海中において汚泥等の中に埋没してしまう事態の発生を回避している。
【0021】
その結果、海中に設置されている案内用滑車の滑らかな回転を常に維持できることとなり、案内用滑車に巻回している展開ロープの操作により、くらげ流入防止網の海中からの引き上げと、海中への展張を容易に実施することができる。
【0022】
具体的には、海中に展張しているくらげ流入防止網において、展開ロープをゆるめながら、引き上げロープを引っ張り上げることにより、案内用滑車が滑らかに回転し、案内用滑車に巻回している展開ロープが海上側に向けて送り出されて、くらげ流入防止網が海中から引き上げられるのである。
【0023】
また、案内用滑車を海底から離れた位置に設置して、案内用滑車が汚泥等の中に埋没してしまう事態の発生を回避していることから、くらげ流入防止網を海中に展張するために、展開ロープを案内用滑車に巻回する際に、事前に汚泥等を除去して案内用滑車を露出させるという面倒な作業を実施する必要が無い。
【0024】
さらに、案内用滑車に巻回した展開ロープの端部を、海上のスタンション側で引っ張り上げることにより、案内用滑車を滑らかに回転させて、くらげ流入防止網を所定の位置に迅速に展張することができる。
【0025】
また、案内用滑車を、海底からおよそ0.5メートル乃至4メートル離れた位置に設置したときには、国内における多くの海中において、案内用滑車が汚泥等の中に埋没してしまう事態の発生を回避することができる。
【0026】
加えて、案内用滑車を、海底からおよそ3メートル離れた位置に設置したときには、例えば、東京湾海域における海中において、案内用滑車が汚泥等の中に埋没してしまう事態の発生を回避できることが実証されている。
【0027】
また、案内用滑車は、海底に設置されているシンカーブロックに、所定の長さのチェーンを介して取り付けられていることから、海底からの離隔距離を、比較的に容易に変更できる。
【0028】
その為、新設時や浚渫直後の汚泥等が堆積していない状況において、本発明に係るくらげ流入防止網の展張装置を設置すると、その後に汚泥等の堆積が予測される海域において、案内用滑車の位置を、必要に応じて適宜変更することで、くらげ流入防止網の展張装置の機能を維持することが可能となる。
【0029】
具体的には、汚泥等の堆積が発生した場合、チェーンの長さを調節して案内用滑車の位置を変更することにより、浚渫、シンカーブロックの据え付け替え、また、固定のための杭設置等の大規模な土木工事を実施する必要がなくなる。
【0030】
また、浚渫を行う場合であっても、その実施工事回数を減らすことができる。そして、実施した浚渫工事と、次に実施する浚渫工事の間隔を長くすることが可能となり、濁水の発生を少なくして、環境に与える負荷も低減することができる。
【0031】
この他、本発明に係るくらげ流入防止網の展張方法においては、前記したくらげ流入防止網の展張装置を使用することにより、展開ロープを巻回している案内用滑車を常に滑らかに回転させて、くらげ流入防止網の海中からの引き上げと、海中への展張を、容易且つ迅速に実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】岸壁に設けている取水口の前面に、くらげ流入防止網を展張した場合において、くらげ流入防止網が備えている展開ロープを海底側で巻回する案内用滑車を、海底から離れた位置に設置している状態を示す側面図である。
【図2】岸壁に設けている取水口の前面に、くらげ流入防止網を展張した場合において、くらげ流入防止網が備えている展開ロープを海底側で巻回する案内用滑車を、海底から離れた位置に設置している状態を示す正面図である。
【図3】岸壁に設けている取水口の前面に、くらげ流入防止網を展張した場合において、くらげ流入防止網が備えている展開ロープを海底側で巻回する案内用滑車を、海底近辺に設置している状態を示す側面図である。
【図4】岸壁に設けている取水口の前面に、くらげ流入防止網を展張した場合において、くらげ流入防止網が備えている展開ロープを海底側で巻回する案内用滑車を、海底近辺に設置している状態を示す正面図である。
【図5】特許文献1に示すクラゲ侵入防止装置の構成を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下に、図面を参照して、本発明を実施するための形態を詳細に説明する。
【0034】
本発明に係る、くらげ流入防止網Aの展張装置は、図1・図2に示すように、岸壁に設けている取水口の前面に、くらげ流入防止網Aを展張する場合において、くらげ流入防止網Aが備えている展開ロープR1を海底側で巻回する案内用滑車1を、海底から離れた位置に設置していることに特徴を有している。
【0035】
施設の取水口側には、図1に示すように、取水口の全幅に渡って所定のカーテンウォールWが海中に設置されており、カーテンウォールWの上部には、海上に位置するように、作業架台Kが設置されている。この作業架台K上には、所定のスタンションSが設置されている。また、スタンションSの前側には、ガイドローラー部Gが設置されている。
【0036】
海中に展張するくらげ流入防止網Aは、図2に示すように、全体の網を複数個に分割し、分割した網のそれぞれを相互にロープで緊縛し、一体化することにより構成されている。また、分割した網のそれぞれにおいて、網の両側における下縁に展開ロープR1が配設されており、また、網の両側における上縁に引き上げロープR2が配設されている。
【0037】
くらげ流入防止網Aの展開ロープR1は、図1に示すように、海底側に設置されている案内用滑車1に巻回され、展開ロープR1の端部が、海上のスタンションS側に配置されている。このとき、くらげ流入防止網Aは、分割した網のそれぞれにおいて、網の両側における下縁に展開ロープR1が配設されており、全体として複数の展開ロープR1を備えていることから、図2に示すように、これらの複数の展開ロープR1を巻回する案内用滑車1も複数存在している。
【0038】
案内用滑車1は、図1に示すように、海底に設置されているコンクリート製のシンカーブロックBに取り付けられている。具体的には、シンカーブロックBに半環状のフック2が固定されており、シャックル3を介して、フック2に所定の長さのチェーン4が取り付けられている。また、チェーン4の先端側にもシャックル3が配設され、このシャックル3を介して、案内用滑車1が取り付けられている。
【0039】
スタンションSは、所定の長さの円柱状に構成され、作業架台K上に設置されている。このスタンションSには、図1に示すように、円柱の両側に、それぞれ上下2本の横棒Sa・Sbが取り付けられている。
【0040】
そして、くらげ流入防止網Aの上縁に配設されている引き上げロープR2が、
作業架台Kのガイドローラー部Gを介してスタンションSの上側の横棒Saに案内され、スタンションSに巻き付けられる。一方、くらげ流入防止網Aの下縁に配設されている展開ロープR1は、案内用滑車1を経由してから、作業架台Kのガイドローラー部Gを介してスタンションSの下側の横棒Sbに案内され、スタンションSに巻き付けられる。
【0041】
図1に示す展張状態のくらげ流入防止網Aを引き上げる際には、くらげ流入防止網Aを個別の網毎に切り離した状態で、展開ロープR1を弛めながら、引き上げロープR2を引っ張り上げて、個別の網毎に作業架台K上に引き上げる。
【0042】
また、くらげ流入防止網Aを海中に展張する際には、複数の個別の網を作業架台K上に並べ、隣接する網同士をロープで緊縛して接続する。その後、網の下縁に展開ロープR1を配設すると共に、網の上縁に引き上げロープR2を配設し、展開ロープR1を案内用滑車1に巻回してから展開ロープR1の端部を引っ張り上げることにより、取水口の前面にくらげ流入防止網Aを展張する。
【0043】
そして、くらげ流入防止網Aの全体が所定の位置に展張された状態で、引き上げロープR2と展開ロープR1を、スタンションの上側の横棒Saと下側の横棒Sbに案内し、スタンションSに巻き付けるのである。
【0044】
この様にして、図1に示すように、取水口の前面にくらげ流入防止網Aを展張するのであるが、シンカーブロックBに、シャックル3とチェーン4を介して取り付けられている案内用滑車1を、海底から離れた位置、具体的には、案内用滑車1を海底からおよそ0.5メートル乃至4メートル離れた位置に設置している。
【0045】
例えば、東京湾海域における火力発電所で実施したくらげ流入防止網Aでは、網下の開口部寸法を2mとしている。この場合、案内用滑車1の位置は、これよりも下となり、海底からおよそ1.7メートル離れた位置となる。
【0046】
また、海底に汚泥等が堆積していない新設時を想定すると、条件にもよるが、網下の開口部寸法を、最小0.8メートルとすることができる。この場合、滑車の位置は、海底からおよそ0.5メートル離れた位置となる。
【0047】
その為に、案内用滑車1の位置を、海底から少なくとも0.5メートル離れた位置に設置しているのである。
【0048】
尚、海底における汚泥等の堆積状況に応じて、案内用滑車1を、海底からおよそ3メートル離れた位置に設置しても良い。更に、案内用滑車1を、海底からおよそ4メートル以上離れた位置に設置しても良い。
【0049】
また、案内用滑車1は、海底に設置されているシンカーブロックBに、所定の長さのチェーン4を介して取り付けられていることから、このチェーン4の長さを適宜調節して、海底からの離隔距離を比較的に容易に変更できる。
【0050】
この他、本発明は、前記した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での改良・変形等は、本発明に全て包含されるものである。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明は、大量の海水を冷却水として利用している施設の取水口に、くらげ等の浮遊物が入り込んでしまう事態の発生を防止するために、取水口の前面にくらげ流入防止網を展張するものであるが、これ以外にも、様々な水中において、種々の網状構造物を引き上げ可能に展張する場合にも、幅広く利用することができる。
【符号の説明】
【0052】
A…くらげ流入防止網
R1…展開ロープ
R2…引き上げロープ
B…シンカーブロック
B1…シンカー
S…スタンション
S1…展開ロープの巻取り手段
Sa…横棒
Sb…横棒
W…カーテンウォール
K…作業架台
G…ガイドローラー部
1…案内用滑車
2…フック
3…シャックル
4…チェーン
100…案内用滑車

【特許請求の範囲】
【請求項1】
岸壁に設けている取水口の前面に、くらげ流入防止網を展張する場合において、くらげ流入防止網が備えている展開ロープを海底側で巻回する案内用滑車を、海底から離れた位置に設置していることを特徴とする、くらげ流入防止網の展張装置。
【請求項2】
案内用滑車を、海底からおよそ0.5メートル乃至4メートル離れた位置に設置している請求項1に記載のくらげ流入防止網の展張装置。
【請求項3】
案内用滑車を、海底からおよそ3メートル離れた位置に設置している請求項1に記載のくらげ流入防止網の展張装置。
【請求項4】
案内用滑車は、海底に設置されているシンカーブロックに、所定の長さのチェーンを介して取り付けられている請求項1乃至3のいずれかに記載のくらげ流入防止網の展張装置。
【請求項5】
請求項1乃至4に記載のくらげ流入防止網の展張装置を使用した、くらげ流入防止網の展張方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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