説明

し尿、浄化槽汚泥あるいは有機性廃棄物の処理方法

【課題】し尿、浄化槽汚泥あるいは有機性廃棄物からなる処理対象物を、加圧型脱水機により含水率70%以下まで安定して脱水可能にする。
【解決手段】し尿、浄化槽汚泥あるいは有機性廃棄物からなる処理対象物を粗破砕ポンプ14により粗破砕した後、該処理対象物を、その中の繊維率が20%以上に保たれる滞留時間だけ貯留槽18に滞留させ、この貯留槽18から流出した処理対象物を微破砕ポンプ22により微破砕する。その後、該処理対象物に凝集剤を添加して加圧型脱水機32により含水率70%以下まで脱水する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、し尿、浄化槽汚泥あるいは有機性廃棄物の処理方法に関し、特に、それらを含水率70%以下になるまで脱水処理する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、多くのし尿処理場や汚泥再生センター等では、処理対象のし尿、浄化槽汚泥あるいは有機性廃棄物に対して、ドラムスクリーン等によって夾雑物を除去する前処理を行い、それを貯留槽に貯留させた後、生物処理、高度処理、滅菌処理を行って河川に放流するという処理を行ってきた。
【0003】
しかし近年、公共下水道の普及に伴って、生物処理、高度処理、滅菌処理を行わずに、し尿等の処理対象物を脱水処理にかけて汚泥を回収する一方、分離液を水で希釈してそのまま下水道へ放流するという処理が多く採用されてきている。特許文献1には、し尿に下水処理場等で発生した有機性汚泥を加えてから脱水処理にかけ、その処理水を下水道へ放流する処理方法が記載されている。
【0004】
また、し尿、浄化槽汚泥、生物処理工程などで発生する余剰汚泥や、その他の有機性廃棄物に含まれる夾雑物や、有機性廃液を脱水した後に残る汚泥等を助燃剤として有効利用、資源化することが求められてきている。そのようにする場合、汚泥の含水率を70%以下にまで低減すれば、自燃可能域に近づけられることから、重油などの補助燃料を減らすことができ、その焼却処理に要するランニングコストが著しく低減される。そして、平成12年10月6日付けで厚生省生活衛生局水道環境部長から各都道府県知事宛に通達された「廃棄物処理施設整備補助事業に係る汚泥再生処理センター等の性能に関する指針」により、汚泥を含水率70%以下まで脱水処理できる処理施設は補助金交付の対象になることから、この値まで汚泥を脱水処理することが広く求められている。
【0005】
特許文献2には、夾雑物を除去していないし尿等に有機性汚泥を加えて脱水処理にかけ、それにより、燃料として資源化できる含水率70%以下の脱水ケーキを得る方法が記載されている。また非特許文献1には、汚泥再生処理センターで発生した汚泥にし渣を混合して脱水処理にかけ、それにより、同じく含水率70%以下の脱水ケーキを得る方法が記載されている。さらに非特許文献2には、し尿や浄化槽汚泥を必要に応じて除渣した後、無機凝集剤や高分子凝集剤を添加して、加圧型脱水機の一種であるスクリュープレスにより脱水し、含水率70%以下の脱水ケーキを得る方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭61-263700号公報
【特許文献2】特許第4235091号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】第25回全国都市清掃研究事例発表会講演文集p.360-362(2004.4)
【非特許文献2】エバラ時報No.220(2008.7)p.23-27「エバラバリュースラッジシステム稼働実績報告」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述した従来方法において、し尿、浄化槽汚泥、生物処理工程などで発生する余剰汚泥、その他有機性廃棄物に含まれる夾雑物や有機性廃液を一般に広く用いられている粗破砕ポンプで破砕した場合、破砕された夾雑物の大きさにばらつきがあり、そのため、スクリュープレスのような加圧型脱水機において汚泥に対して均等に加圧することが困難であることが多かった。そうであると、汚泥を含水率70%以下になるまで安定して脱水することが難しくなる。
【0009】
また上述したような従来方法においては、汚泥が貯留槽などに貯留されている間に、汚泥に含まれる繊維分が生物的な分解作用を受けて減少し、そのために汚泥の脱水性が悪くなるという問題も認められている。
【0010】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたものであり、し尿、浄化槽汚泥あるいは有機性廃棄物からなる処理対象物を、加圧型脱水機により含水率70%以下まで安定して脱水することができる、し尿、浄化槽汚泥あるいは有機性廃棄物の処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によるし尿、浄化槽汚泥あるいは有機性廃棄物の処理方法は、
し尿、浄化槽汚泥あるいは有機性廃棄物からなる処理対象物を除渣せずに粗破砕した後、
繊維率が20%以上に保たれる滞留時間だけ貯留槽に滞留させ、
この貯留槽から流出した前記処理対象物を微破砕した後、
そこに凝集剤を添加して加圧型脱水機により含水率70%以下まで脱水することを特徴とするものである。
【0012】
なお、この方法における処理対象物は、上記し尿、浄化槽汚泥、有機性廃棄物のうちの一つであってもよいし、あるいはそれらが2つ以上混合されたものであってもよい。
【0013】
その種の処理対象物を粗破砕することは、先に述べた通り従来方法においてもなされていた。この「粗破砕」とは、社団法人 全国都市清掃会議刊「汚泥再生センター等施設整備の計画・設計要領2006改訂版」に「破砕」として記載されている処理に相当するものであって、例えばし尿などを収集運搬する車両からし尿処理場の受入水槽に排出されたものを、粗破砕ポンプを用いて破砕して、そこに含まれる布、繊維物、プラスチック類などの雑物を最大寸法20mm以下に切断する処理のことである。それに対して本発明の方法における「微破砕」とは、上記粗破砕処理後のし尿などを微破砕ポンプによりさらに細かく破砕して、上記雑物を最大寸法が5mm未満になるまで破砕する処理のことである。
【0014】
なお雑物のサイズは、処理対象物を清水にて洗浄しながら、目開きの異なるふるいを用いてふるい分けし、各ふるい上に残留した乾燥物を測定して求める。
【0015】
また、上記の「繊維率」とは、(処理対象物中の繊維状物濃度/処理対象物中の全固形分濃度)×100%で示すものである。
【0016】
また、上記凝集剤としては、塩化第二鉄、硫酸第二鉄、ポリ硫酸第二鉄、硫酸アルミニウム、ポリ塩化アルミニウム、硫酸第一鉄のうちのいずれか一つ、あるいは複数を好適に用いることができる。さらに、そのような凝集剤と共に、一般に凝集助剤と称されているものを添加して、凝集効果をより高めるようにしてもよい。その種の凝集助剤としては、例えばカチオン型高分子凝集剤、ノニオン型高分子凝集剤、両性型高分子凝集剤等が挙げられる。
【0017】
また、脱水処理にかける処理対象物には、必要に応じて脱水補助剤を添加することが望ましい。この脱水補助剤は一般に低分子量(100万以下)のカチオン性有機物で、色素の凝集処理などに使われる有機性凝結剤である。脱水補助剤には大きなフロックを形成する作用は無いが、ポリ硫酸第二鉄などの無機凝集剤と同様、汚泥の表面電荷を中和する凝結作用が有るので、無機凝集剤と同じ効果がある。この脱水補助剤を添加する場合には、無機凝集剤の添加と同時か、またはそれよりも前に行うのが好ましい。
【0018】
他方、貯留槽としては、互いに仕切られた複数の槽を用い、一つの貯留槽から別の貯留槽に処理対象物を移送することが望ましい。
【0019】
なお本発明の方法において、上記微破砕は微破砕ポンプによって行い、そしてこの微破砕後の処理対象物を貯留槽に返送するのが望ましい。
【0020】
さらに、上記貯留槽に滞留している処理対象物に、必要に応じて適宜滅菌剤を添加することが望ましい。そのような滅菌剤として好ましいものには、次亜塩素酸ナトリウム、オゾン、二酸化塩素、さらし粉等が挙げられる。また、その種の滅菌剤とともに、サポニンや微生物製剤などからなる制菌剤を添加して、滅菌効果を高めるようにしてもよい。
【0021】
また、処理対象物が滞留している貯留槽には、脱臭剤を添加して臭気問題を改善するようにしてもよい。その場合、基本的にどのような脱臭剤も用いることができるが、例えばポリ硫酸第二鉄を用いると、硫化水素が硫化鉄となって臭気が十分に抑制されるようになる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によるし尿、浄化槽汚泥あるいは有機性廃棄物の処理方法は、し尿、浄化槽汚泥あるいは有機性廃棄物からなる処理対象物を除渣せずに粗破砕した後、繊維率が20%以上に保たれる滞留時間だけ貯留槽に滞留させ、この貯留槽から流出した前記処理対象物を微破砕した後、そこに凝集剤を添加して加圧型脱水機により含水率70%以下まで脱水するようにしたものであるので、この方法によれば、まず第1に処理対象物の貯留槽での滞留時間を上記の通りとしたことにより、脱水性の向上が実現される。
【0023】
すなわち従来方法においてはこの滞留時間を通常2日以上としているので、その間に処理対象物中の繊維状物の分解が進んで、脱水処理にかけられる段階では処理対象物中の繊維状物が多く失われた状態になり、それが脱水率を悪化させる要因となっていた。それに対して本発明の方法においては、滞留時間を、繊維率が20%以上に保たれる比較的短い時間(それは通常、長くても1日程度になる)としているので、脱水処理にかけられる段階でも処理対象物中に繊維状物が多く含まれている状態になって、それが脱水性の向上につながる。
【0024】
次に本発明の方法においては、従来行われていた粗破砕処理を行った後にさらに微破砕処理を行っているので、脱水処理にかけられる処理対象物中の夾雑物の大きさと濃度分布を均一化することが可能になる。そこで、従来散見されていた夾雑物の大きさと濃度分布の不均一に由来する脱水汚泥含水率のばらつきをなくすことができる。
【0025】
さらに本発明の方法においては、処理対象物を除渣しない状態で粗破砕、微破砕処理にかけるようにしているので、従来方法ではドラムスクリーン、スクリュープレス等の装置による除渣処理時に排出されていた異物類を微破砕して、それらを、分離液(脱水ろ液)の抜け道を確保する脱水補助剤として有効利用できるようになり、それよって脱水性が向上する。
【0026】
以上により本発明の方法によれば、し尿、浄化槽汚泥あるいは有機性廃棄物からなる処理対象物を、加圧型脱水機により含水率70%以下まで安定して脱水することが可能になる。その程度まで脱水された汚泥は、先に述べた通り、助燃剤として活用することができる。
【0027】
また、本発明の方法において特に、貯留槽として互いに仕切られた複数の槽を用い、一つの貯留槽から別の貯留槽に処理対象物を移送するようにした場合は、脱水性が安定するという効果が得られる。以下、その点について、図5、6および7を参照して詳しく説明する。処理対象物の流入量が1Qm3/日であるときは、図5に示すように複数の貯留槽のうち第1槽だけを用いて正常に脱水処理ができるとする。他方、処理対象物の流入量が例えば1.5Qm3/日等と多い場合には図6に示すように、1日で処理しきれない分を第1槽から別の貯留槽へ移送しておき、翌日に脱水処理することができる。
【0028】
しかし、し尿や浄化槽汚泥等の中に含まれるトイレットペーパーなどに起因する繊維分は分解しやすく、滞留時間が長くなると繊維分が生物的な分解作用を受けて減少するので、汚泥の脱水性が悪くなることがある。つまり上述のようにして翌日に脱水処理する場合は、上記別の中継槽に貯留しておいた処理対象物の繊維分が減少し、その脱水性が悪化することになる。そこで、上記別の中継槽に貯留しておいた処理対象物を、第1槽に毎日送られて来るフレッシュな繊維分の多い処理対象物と混合しながら処理すると、繊維分が補われて脱水性能が安定する。なお、3槽以上の貯留槽を用いる場合、最終の貯留槽は脱水補助剤を溶解する水槽として用いることも可能である。
【0029】
また、本発明の方法において特に、微破砕を微破砕ポンプによって行い、そしてこの微破砕後の処理対象物を貯留槽に返送するようにした場合は、さらに安定した脱水性が得られるようになる。すなわち、繊維分は貯留槽の中で沈殿しやすいので、通常貯留槽の底部から引き抜かれる処理対象物を図7に示すように貯留槽に返送すれば、この繊維分の濃度が高い処理対象物が加えられることによって貯留槽内の繊維分の濃度が均一化され、ひいてはそれが脱水性の安定につながる。その場合、貯留槽内の処理対象物を攪拌すれば、繊維分の濃度を均一化する効果がより顕著になる。
【0030】
また、本発明の方法において特に、凝集剤を添加する前の処理対象物に有機性凝結剤からなる脱水補助剤を添加する場合は、ポリ硫酸第二鉄などの無機凝集剤を用いる場合に起こり得る不都合を緩和することができる。この不都合とは、
(1)無機凝集剤の注入率が多くなると処理対象物のpHが低下し、中和用のアルカリ剤の消費が増えてコストアップにつながる。
【0031】
(2)無機凝集剤の注入に伴って無機水酸化物が生成し、汚泥発生量が増える。
【0032】
というものである。有機性凝結剤からなる脱水補助剤は有機物であって汚泥の生成は無く、また中性液であるため中和用アルカリ剤を必要としないので、それを無機凝集剤の一部と代替させて用いれば、上記の不具合を緩和できることになる。ただし有機性凝結剤からなる脱水補助剤は、無機凝集剤に完全に代替することはできないので、無機凝集剤と併用することになる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の一実施形態によるし尿、浄化槽汚泥あるいは有機性廃棄物の処理方法を実施する装置を示す概略構成図
【図2】本発明の方法において処理対象物に滅菌剤を添加した場合の繊維率の変化を、添加しない場合と比較して示すグラフ
【図3】本発明の方法において処理対象物に脱臭剤を添加した場合の硫化水素濃度を示すグラフ
【図4】本発明の方法において処理対象物に脱臭剤を添加した場合のメルカプタン濃度を示すグラフ
【図5】貯留槽における、し尿等の貯留状態の一例を説明する図
【図6】貯留槽における、し尿等の貯留状態の別の例を説明する図
【図7】貯留槽における、し尿等の貯留状態のさらに別の例を説明する図
【図8】粗破砕物および微破砕物の粒子径の非超過確率を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0035】
図1は、本発明の一実施形態による、し尿、浄化槽汚泥あるいは有機性廃棄物の処理方法を実施する装置の概略構成を示すものである。図示の通りこの装置は、し尿、浄化槽汚泥あるいは有機性廃棄物(それらは単独であっても、また2つ以上が混合されたものであってもよい。以下、それらを処理対象物という。)を受け入れる受入槽10と、この受入槽10の底部近くに接続された配管12に吸込口が接続された粗破砕ポンプ14と、この粗破砕ポンプ14の吐出口に接続された配管16と、この配管16から送出される処理対象物を受け入れる貯留槽18と、この貯留槽18の底部近くに接続された配管20に吸込口が接続された微破砕ポンプ22と、この微破砕ポンプ22の吐出口に接続された配管24と、この配管24から送出される処理対象物を受け入れる混和槽26と、この混和槽26において無機凝集剤等が添加された後にそこから流出した処理対象物を受け入れる凝集槽28と、この凝集槽28においてさらに高分子凝集剤等が添加された処理対象物を流出させる配管30と、この配管30から流出した処理対象物を加圧脱水する従来公知のスクリュープレス等の脱水機32とから構成されている。
【0036】
なお上記混和槽26および凝集槽28は、例えば仕切壁34を介して互いに隣接した形に形成され、混和槽26内で無機凝集剤等が添加された処理対象物が仕切壁34を越流して凝集槽28内に流入するようになっている。また混和槽26と凝集槽28にはそれぞれ、撹拌機36、38が設けられている。
【0037】
また粗破砕ポンプ14は、従来この種の用途に広く用いられているものであって、ケーシングと、その中に配置されて先端部に切刃が形成された羽根車と、下辺35mm、上辺80mm、左辺および右辺47.5mmの扇形状の孔を複数格子状に有して上記切刃が摺動するようにケーシング内に配置された破砕格子とを有するものである。このような粗破砕ポンプ14によって処理対象物を圧送することにより、粗破砕処理つまり、処理対象物に含まれる布、繊維物、プラスチック類などの雑物が、通常、最大寸法が20mm以下になるように切断される処理がなされる。なお特開2008-267367号公報には、このような構造を有する破砕ポンプの一例が記載されている。
【0038】
一方微破砕ポンプ22も、基本的に上記粗破砕ポンプ14と同じ構成を有するものであるが、ここでは破砕格子として、口径が10〜20mm程度の円形の孔を複数格子状に有するものを適用している。それによりこの微破砕ポンプ22によれば、微破砕処理つまり、処理対象物に含まれる上記雑物を最大寸法が5mm未満になるまで細かく切断する処理を行うことができる。
【0039】
この装置において処理対象物は、例えば車両により搬送されたり、あるいは配管を介して圧送されたりして受入槽10に供給される。この処理対象物はまず粗破砕ポンプ14により、上述の粗破砕処理を受けながら貯留槽18に供給される。
【0040】
なお従来方法を実施する装置においては通常、粗破砕ポンプ14と貯留槽18との間に、処理対象物に含まれる夾雑物を除去する装置(ドラムスクリーン)が配設されるが、本実施形態においてはこの種の夾雑物除去装置が不要となっている。
【0041】
貯留槽18は、処理対象物の計画処理量に対して2日(48時間)以上の滞留時間を見込める容量とされているが、本実施形態においては、滞留時間が1日(24時間)以内となるように微破砕ポンプ22が運転される。なお貯留槽18に滞留している処理対象物には、必要に応じて、先に説明した通りの脱水補助剤、滅菌剤および脱臭剤のうちの一つあるいは複数が添加される。
【0042】
脱水補助剤は、処理対象物中の繊維分が不足していて脱水率が悪化する場合に添加され、例えばエーケーファイバー(商標登録第5097626号)が好適に用いられる。滅菌剤としては、例えば有効塩素濃度5%の次亜塩素酸ソーダが好適に用いられる。このような滅菌剤が添加されることにより、処理対象物の中の繊維分の生物的な分解が抑制され、それが脱水率の向上につながる。また脱臭剤としては、例えば無臭元工業株式会社製「無臭元K086-FZ」等の塩素系脱臭剤、あるいは無臭元工業株式会社製「無臭元K088-FJ」等の亜鉛系脱臭剤が好適に用いられる。このような脱臭剤を貯留槽18中に添加することにより、硫化水素およびメルカプタンなどによる臭気が低減される。
【0043】
上述した時間だけ貯留槽18に滞留した処理対象物は、次に微破砕ポンプ22によって混和槽26に送られるが、その際、先に述べた微破砕処理を受ける。
【0044】
このような微破砕処理を受けて混和槽26に送られた処理対象物には、撹拌機36で撹拌しながら凝集剤であるポリ硫酸第二鉄(鉄含有量11%)が添加され、その後凝集槽28に流入した処理対象物には、同じく撹拌機38で撹拌しながら凝集助剤である架橋型高分子凝集剤が添加される。こうして凝集フロック化した処理対象物は加圧型脱水機32に送られ、そこで脱水処理にかけられる。この脱水処理により、含水率70%以下の脱水汚泥が得られ、それは例えば前述したような助燃剤として用いられ得る。一方、この脱水処理で生じた処理水(ろ液)は、希釈されてから下水道に放流される。
【0045】
なお、凝集剤としては上述したポリ硫酸第二鉄の代わりに、塩化第二鉄などの無機凝集剤や、土砂などの脱水に用いる有機凝結剤も使用可能である。また凝集助剤としては、上述した架橋型高分子凝集剤の代わりに、その他のカチオン型高分子凝集剤、ノニオン型高分子凝集剤、両性型高分子凝集剤なども使用可能である。
【0046】
また、本実施形態において、貯留槽18における処理対象物の滞留時間は1日(24時間)としているが、本発明における滞留時間はこの値に限られるものではなく、処理対象物の中の繊維率が20%以上に保たれる範囲の時間であれば、その他の時間とされてもよい。この繊維率は滞留時間が長くなるほど低下するが、通常滞留時間が2日以下とされれば、20%以上に保たれる。
【0047】
《貯留時間と脱水性》
以下、上記滞留時間と脱水性との相関について調べた結果を説明する。ここでは処理対象物として、浄化槽汚泥:し尿=8:2(重量比)の混合液を用い、その混合液の貯留槽18における滞留時間と脱水性との関係を調べた。なお脱水性の評価指標は脱水汚泥含水率とする。また、混合液の滞留時間は0日(受入槽10に受けた直後で、撹拌を行っただけの状態)、1日、2日および3日の4通りとし、各滞留時間毎に混合液中の繊維率、繊維率の残留率、繊維率の減少率および脱水汚泥含水率を調べた。なお上記「混合液中の繊維率」は、(混合液中の繊維状物濃度/混合液中の全固形分濃度)×100%である。
【0048】
またこの場合、微破砕後の混合液に対して、凝集剤としてポリ硫酸第二鉄を全固形分に対する重量比で3%添加し、また凝集助剤として架橋型カチオン高分子凝集剤を同じく1.5%添加した。そして脱水は250mm口径のスクリュープレス脱水機を用い、出口圧力調整を0.3Mpaとして行った。その測定結果を下の表1に示す。
【表1】

【0049】
ここに示される通り、滞留時間が長くなるほど繊維率が低下し、それに伴って脱水汚泥含水率が悪化する(高くなる)ことが分かる。そして、滞留時間が2日を上回ると、繊維率が20%未満となって脱水汚泥含水率が70%を超えてしまうことが分かる。そこで、脱水汚泥含水率を70%以下に保つためには、滞留時間を2日以下として、繊維率を20%以上に保った状態で脱水処理を行うことが必要である。
【0050】
《微破砕による脱水性の向上》
次に、微破砕による脱水性向上の効果について調べた結果を説明する。ここでも処理対象物として、浄化槽汚泥:し尿=8:2(重量比)の混合液を用い、その混合液を粗破砕ポンプ14による粗破砕処理のみを行った場合と、この粗破砕処理の後に微破砕ポンプ22による微破砕処理も行った場合とについて、脱水性を比較検討した。なお脱水性の評価指標は脱水汚泥含水率とする。
【0051】
上記2つの場合とも、破砕処理後の混合液のSS(浮遊性固形物)濃度は14500mg/l(リットル)であり、それらの混合液に対して共に、凝集剤としてポリ硫酸第二鉄を全固形分に対する重量比で3%添加し、また凝集助剤として架橋型カチオン高分子凝集剤を同じく1.5%添加した。また脱水処理にはピストン型簡易圧搾試験機を用い、その脱水圧力を標準圧(0.8kg/cm2)と、加圧2段階(1.35, 1.8kg/cm2)に設定した合計3つの場合について脱水汚泥含水率を測定した。その測定結果を下の表2に示す。
【表2】

【0052】
ここに示されるように、加圧圧力の値に関わらず、粗破砕処理のみを行った場合に比べて、粗破砕処理および微破砕処理を行った場合の方が、脱水性が良好である。具体的には、前者に比べて後者の方が、脱水汚泥含水率が0.2〜4.1ポイント低い結果となった。
【0053】
また、粗破砕処理のみを行った場合と、粗破砕処理および微破砕処理を行った場合について、破砕処理後の混合液における繊維分の粒度分布を調べた。この粒度分布は、0.075〜10mmの間における8通りの目開きを有する各ふるいに破砕処理後の混合液を通し、その際ふるい上に残った残留物の割合によって表した。その結果を下の表3に示す。
【表3】

【0054】
ここに示されるように、粗破砕処理のみを行った場合と、粗破砕処理および微破砕処理を行った場合とを比べると、後者の方が小粒子の割合が多くなっており、それが脱水性向上に寄与していると考えられる。
【0055】
また図8は、上記表3の結果を出したデータを回帰分析して、破砕処理後の混合液における繊維分粒子径の非超過確率を求めた結果を示すものである。ここで同図の横軸に示す粒子径は、上記8通りの目開きによって規定したものである。つまり、例えば粒子径1mmの非超過確率とは、粒子径が1mm値を超えない確率のことであるが、ここでは、目開きが1mmのふるいを通過する確率として示してある。同図の回帰直線から、一例として非超過確率値95%での粒子径を読み取ると、粗破砕のみを行った粗破砕物の場合は2.8mm、粗破砕および微破砕を行った微破砕物の場合は0.6mmであり、この点からも、微破砕物の粒度分布が全体としてより小粒子径になっていることが分かる。
【0056】
《滅菌剤の添加による繊維率の低下抑制》
次に、処理対象物に滅菌剤を添加することにより、処理対象物中の繊維率の低下が抑制されることについて説明する。前述した浄化槽汚泥:し尿=8:2(重量比)の混合液を貯留槽18に3日間貯留させ、その間の繊維率の変化を、該混合液に滅菌剤として次亜塩素酸ソーダを添加した場合と、添加しない場合とについて調べた。なお次亜塩素酸ソーダは有効塩素濃度5%のものを用い、それを上記混合液に対して0.5容量%注入した。
【0057】
繊維率は、次亜塩素酸ソーダを添加した日と、それから3日(72時間)経過した時点で測定した。その測定結果を図2に示す。そこに示されている通り、次亜塩素酸ソーダ無添加の場合、繊維率は3日間で25.3%から17.1%に低下し、その減少率は32.4%である。それに対して次亜塩素酸ソーダを添加した場合、繊維率は3日間で25.3%から22.6%までしか低下せず、その減少率は10.7%に止まる。以上より、処理対象物に滅菌剤を添加することにより、処理対象物中の繊維率の低下が抑制されることが明らかである。こうして繊維率の低下が抑制されれば、それが脱水率の向上につながる。
【0058】
《脱臭剤添加による臭気の低減》
次に、処理対象物に脱臭剤を添加することにより、臭気が低減することについて説明する。前述した浄化槽汚泥:し尿=8:2(重量比)の混合液を貯留槽18に貯留させ、そこに塩素系脱臭剤を400ppm添加した場合、亜鉛系脱臭剤を200ppm添加した場合、そして比較のために脱臭剤無添加の場合について、貯留槽気相部の硫化水素濃度およびメルカプタン濃度を測定した。測定は脱臭剤添加直後、添加から3時間後、添加から24時間後に行った。その測定結果を、硫化水素濃度については図3に、メルカプタン濃度については図4に示す。それらの図に示される通り、脱臭剤添加により臭気が低減することが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は、し尿処理場、汚泥再生センターで、し尿や浄化槽汚泥等の有機性廃棄物を直接脱水処理し、分離液(脱水ろ液)を生物処理せずに希釈して下水道放流する場合に適用可能である。
【符号の説明】
【0060】
14 粗破砕ポンプ
18 貯留槽
22 微破砕ポンプ
26 混和槽
28 凝集槽
32 加圧型脱水機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
し尿、浄化槽汚泥あるいは有機性廃棄物からなる処理対象物を除渣せずに粗破砕した後、
該処理対象物を、その中の繊維率が20%以上に保たれる滞留時間だけ貯留槽に滞留させ、
この貯留槽から流出した処理対象物を微破砕した後、
該処理対象物に凝集剤を添加して加圧型脱水機により含水率70%以下まで脱水することを特徴とする、し尿、浄化槽汚泥あるいは有機性廃棄物の処理方法。
【請求項2】
前記貯留槽として互いに仕切られた複数の槽を用い、一つの貯留槽から別の貯留槽に処理対象物を移送することを特徴とする請求項1記載のし尿、浄化槽汚泥あるいは有機性廃棄物の処理方法。
【請求項3】
前記微破砕を微破砕ポンプによって行い、この微破砕後の処理対象物を前記貯留槽に返送することを特徴とする請求項1または2記載のし尿、浄化槽汚泥あるいは有機性廃棄物の処理方法。
【請求項4】
前記凝集剤を添加する前の処理対象物に、有機性凝結剤からなる脱水補助剤を添加することを特徴とする請求項1から3いずれか1項記載のし尿、浄化槽汚泥あるいは有機性廃棄物の処理方法。
【請求項5】
前記貯留槽に滞留している処理対象物に滅菌剤を添加することを特徴とする請求項1から4いずれか1項記載のし尿、浄化槽汚泥あるいは有機性廃棄物の処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−50944(P2011−50944A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−138953(P2010−138953)
【出願日】平成22年6月18日(2010.6.18)
【出願人】(000101374)アタカ大機株式会社 (55)
【Fターム(参考)】