説明

ずれたウエル及びU字形底を有する受け板を備えた多ウエルろ過装置

【課題】毛細管滞留が減少した多ウエルフィルタを提供する。
【解決手段】各ウエルが支持体を含む複数のウエルを備えたろ過板を有し、各ウエルは対応した近接アクセス口を有し、これらのアクセス口は対応した供給及び受け板ウエルの底へのアクセス手段(ピペットチップ等)を提供する。ろ過板が複数のウエルを有する供給及び受け板ウエルの上に位置付けられたとき、これらの複数のウエルが対応するろ過板の対応するウエルに整列しかつ連通するように構成される。各アクセス口が供給及び受け板ウエルにおける各ウエルへのアクセス手段を提供し、ろ過板が供給及び受け板ウエルの上に配置されるとき、ろ過板のウエルの相対位置は、ろ過ウエルと供給及び受け板ウエルの中央に配置されないで、ろ過ウエルと供給及び受け板ウエルの間の毛細管滞留が減じ或いは無くなるようにウエルに対してx及びy方向にずらされている。供給及び受け板ウエルは好ましくは各アクセス口のU形底部内に形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は培養細胞のような検体を膜又は透過性バリア上に輸送又は透過させ、次いでそれを基質膜として使用して表皮細胞層を模擬し、その面上で輸送又は透過の試験を行うための装置に関する。特に本発明は液体を装置の供給トレイに供給し或いはそこから取り出すことをウェル中に含まれる細胞のような材料に影響することなく実施できる多フィルタ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
人が経口摂取した各種の化学成分がどの程度腸壁に吸収されたかを評価することがしばしば望まれる。このような評価は例えば各種の薬剤がどのようにして血流中に吸収されるのかを決定するための薬剤試験に使用できる。各種の物質を他の種類の表皮細胞層を通して輸送することは患者の治療にも有用である。
【0003】
ミリポアコーポレイションよりMultiScreen(登録商標) Caco-2 96の商品名で市販されているウエル装置はCaco-2及び他の付着性細胞系に対する固定、生育、及び分化を支援するように設計されている。全ての工程は単一の装置内で実施できるように設計されており、細胞の接種、供給、洗浄、及び薬剤輸送の実験を自動化手段を使用して実行することができる。Caco-2細胞は小腸の多くの性質を有する細胞である。従って、これらの細胞は小腸の粘膜を横切る薬剤又は化学物質の吸収又は分泌を研究するためのよく知られた有用な手段である。
【0004】
上記MultiScreen(登録商標) Caco-2装置は特にHTB-37として指定されているATCC(登録商標)細胞系Caco-2の付着性細胞の生育及び分化を助けるように設計されている。これらの細胞は、公知又は未知の薬剤が小腸の細胞壁を透過する速度を決定するための薬剤吸収実験の実施に適した理想的な細胞である。MultiScreen(登録商標) Caco-2装置は96個の側底アクセス孔と、受け板と、蓋と、分析のための追加の受け板とで構成されている。それはANSI-SBS基準を遵守しており、このCaco-2装置は自動液体処理装置やスパンピペットとコンパチブルである。このような装置の例はミリポアコーポレイションによるWO 02/102962に記載されているので、その記載を引用して説明に代える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第02/102962号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
多ウエル装置の供給及び受け板からの殆ど又は全ての媒体の抽出は、装置の全体的な機能と効率の重要な因子である。そのうえ、フィルタ板下の体積の減少はより細胞に供給する媒体をより少量にし、コストを削減の利益を提供できる。従来の多ウエルろ過装置では、毛細管現象により液体が供給ウエルとろ過ウエルとの隙間に滞留する問題がある。
【0007】
従って本発明の目的は、上記課題を解決するための多ウエル装置を提供することにある。
【0008】
本発明の他の目的はろ過板ウエルと供給及び受け板ウエルの相対位置が、毛細管停滞を減じるようにシフトされる多ウエルろ過装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
従来の問題点は、各ウエルが試料を保持する膜のような支持体を含む複数のウエルを備えたろ過板を有する本発明の多ウエルフィルタ装置により解決される。各ウエルは対応した近接アクセス口を有し、これらのアクセス口は対応した供給及び受け板ウエルの底への直接のアクセス手段(例えばアクセス口へ挿入されるピペットチップ等)を提供する。ろ過板は複数のウエルを有する供給及び受け板ウエルの上に、これらの複数のウエルが対応するろ過板の対応するウエルに整列しかつ連通するように構成される。そのうえ、この整列はろ過板における各アクセス口が供給及び受け板ウエルにおける各ウエルへのアクセス手段を提供するようになされる。しかしながら、従来と異なって、ろ過板が供給及び受け板ウエルの上に配置されるとき、ろ過板のウエルの相対位置は供給及び受け板ウエルに芯あわせされない。
この代わりに、ろ過板のウエルは、ろ過ウエルと供給及び受け板ウエルとの間の隙間に生じうる液体の毛細管滞留を減じ或いは無くするように、供給及び受け板ウエルに対してxおよびy方向にシフトしている。
本発明の他の形態では供給及び受け板ウエルは、各アクセス口の下にU形底部を形成するように設計されており、それにより、アクセス口(例えば注射器又やピペット)を介して一様な媒体の供給体積を提供し、又改良された薬剤除去を可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明のろ過板の平面図である。
【図2】本発明によりろ過板を供給及び受け板ウエルの上に配置した状態を示す側面図である。
【図3】ろ過板を供給及び受け板ウエルの上に配置した図1の線A−A断面図である。
【図4】ろ過板を供給及び受け板ウエルの上に配置した図1の線B−B断面図である。
【図5】ろ過板を供給及び受け板ウエルの上に配置した図1の線X−X断面図である。
【図6A】従来技術によりろ過板を供給及び受け板ウエルの上に配置した断面図であり、液体の毛細管滞留を示す図である。
【図6B】ろ過板を供給及び受け板ウエルの上に配置した図1の線C−C断面図である。
【図7】受け板ウエルにアクセスするピペットを備えた、供給及び受け板ウエルの上に配置したろ過板を示す断面図である。
【図8a】従来の供給及び受け板ウエルの平面図である。
【図8b】本発明の供給及び受け板ウエルの平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1及び図2を参照するに、複数のウエル22を有するろ過板20を含む多ウエル装置10が示されている。好ましくはアクセス口23が図示のように各ウエル22に近接配置されている。図示の実施例においては96個のウエル22と96個のアクセス口23を8×12の行列の形に配置している。ただし、より少ない又はより多いウエル及びアクセス口を使用することもできる。ウエル22の各々は好ましくは管状であって、好ましくは図3からよく分かるように若干狭い底部側へ向けてテーパしていることが好ましい。好ましくは微細孔膜25(又は透過性バリア)のような支持体が各ウエル22の底に固定され、好ましくは公知の手段によって封止されている。膜25のウエル22と連通している領域は活性ろ過領域である。アクセス孔26、27は特に別個の単一ウエル供給トレイとともに使用されるときに装置からの栄養液を添加又は除去するためにろ過板20の上に配置できる。
【0012】
ろ過板20は供給及び受け板ウエル30(以下「受け板」と称する。当業者には受け板がウエルとして供給板の役目を果たすことが分かろう)の上側に配置され且つそれに整列するように構成されている。適宜の形状の柱、円錐、四角錐、ディンプル、その他の同様な形状の整列部材28をろ過板20上に設けて、それらが受け板30の対応する孔に入って適正な整列と維持を行うようにすることができる(図5)。整列部材28は、好ましくはろ過板が受け板状に唯一の配置を取ることができるように互いにずらし又は異ならせる。当業者にはこれらの整列部材が上下反転されて柱、円錐、四角錐、ディンプル、その他の同様な形状が受け板30側に形成され、又対応する孔をろ過板20に設けても良いことが明らかであろう。ろ過板20は好ましくは、受け板30の側面よりも下方に延びている4本の脚34を各隅に設け、それらを図3及び図5からよく分かるように受け板30の肩36に座着させることができる。脚34は受け板30上に配置したときにろ過板20の安定性を増し、またろ過板ウエル22がさらに受け板ウエル32にさらに侵入しないように防ぐ垂直ストッパとして作用する。さらなる侵入があると膜25はウエル32の底に接触して膜25を破損し、分析に有害な影響を生じることになる。
【0013】
ろ過板20が受け板30の上に適正に位置づけられたら、ろ過板20の各ウエル22は受け板30の対応するウエル32の中へ延長し、隔膜25が唯一のウエル32の中へ延長することを保証する。従って、各受け板 ウエル32は各ろ過板ウエル22の最大外形よりも大きい直径を有し、それにより図3及び図4に示したように、ろ過ウエル22が受け板ウエルの中に入って維持される。このようにして空隙(図示の例では環状)が各ウエル22の外表面と各ウエル32の内面との間に形成される。図7に示したように、空隙の一部は特定のウエル22に関連した対応のアクセス口23を介するピペット38などによるウエル32へのアクセス通路を提供する。
【0014】
本発明の好ましい実施例に従い、ろ過板20が受け板30に適正に配置されたとき、ろ過板ウエル22と受け板ウエル32の間の相対位置は、従来の中心整列位置からずれるように構成されており、そのため、各受け板ウエルの内壁と各ろ過板ウエルの外壁との間の毛細管滞留(毛細管滞留の例は図6Aに示されている)は減少し又は無くなる。より具体的にはろ過板又は受け板(又は両者)のウエルは従来の位置よりもx及びy方向にずれており、図6Bのようにろ過板と受け板を組み込んて係合させたときに、各アクセス口23の反対側の個所で各ウエル壁と対応する各ろ過板ウエルとの間の空隙を増す。これは毛細管滞留が最も有害な影響を有する典型的な個所である。当業者にはウエルの位置のずれがろ過板ウエル22と受け板ウエル32との間の相対的なシフトであり、そのため、別の実施例においては従来の位置におけるろ過板ウエル22を維持し、一方受け板ウエル32のずらすことでも良いことは明らかであろう。この相対ずれ(シフト)は毛細管滞留を減じ又は無くするには充分であるが、図7のようにアクセス口23を介しての受け板ウエル32内の液体へのアクセスを阻害する程は大きくはない。
【0015】
受け板ウエル32の形状は均一ではないので(図8bの平面断面参照)、任意形状のウエルの相対ずれ(シフト)は次のように説明できる。受け板ウエル32の基準点は、ウエルの平面断面(例えば水平面)を通して引いた最長軸線とそれに直交する最長軸線との交差点である。従って、図8bの実施例ではLがウエルを通して引いた最長軸線であり、Mがそれに直交する最長軸線である。基準点Rでこれらの軸線は交差する。Hは直線Lに直角に引いたろ過板ウエル22の平面断面(水平面)を通る最長軸線である。線HとLは点Kで交差する。本発明に従い、ウエル32の基準点R及び対応するろ過板ウエル22の基準点Kは一致しない。つまりそれらの点はずれのため水平線に直交する垂直線が同一でない。これに対して図8aは従来技術により整列したろ過ウエル22と受け板ウエル32が整列しており、Fはウエル22の活性領域と受け板ウエル32を通して引いた最長軸線であり、Gは軸線Fに直交する最長軸線である。ずれは存在しない。
【0016】
受け板ウエル32に対する適当な形状には、涙形、楕円形、菱形、正方形、長方形、円形、正多角形、不規則多角形等が含まれる。
【0017】
本発明の他の実施例では、図3、4、6Bに示したように、受け板30のウエル32は活性ろ過領域の下側にU形底部を有する。U形底部の最も深い部分は好ましくは液体の除去個所となるアクセス口23である。従って、U形底部は、一様に下方へ傾斜する壁とアクセス口23の下側に終端する天底により形成されている。受け板ウエル32の全ての断面において、U形底部の最低部が41である。従って、ウエルの最高点と最下点の間には線形断面は存在しない。
【0018】
ろ過領域の下側の体積は小さくてよく(たとえばピペット引出後に残る量は10μリットル以下)、U形底部はU形引出点41へ液体移動させ、より少ない媒体が細胞への栄養供給を行うのに使用できる。さらに、従来の変動する体積及び細胞成長を生じた傾斜底に比較して、より一様な細胞成長を可能にする媒体のより一様な供給体積が得られる。液体局個所においてU形を採用すると、改良された量の媒体が可能となる。
【0019】
ろ過板と供給板ウエルの相対位置に無関係に、装置は自動化が可能である(例えばANSI-SBS規格に適合)。
【符号の説明】
【0020】
10 多ウエル装置
20 ろ過板
22 ウエル
23 アクセス口
25 支持体(微細孔膜又は透過性バリア)
26、27 アクセス孔
28 整列部材
30 供給及び受け板ウエル
32 受け板ウエル
34 脚
36 肩

【特許請求の範囲】
【請求項1】
各々が入口と該入口の端部に封着された支持体とを有する複数のろ過ウエル、及び各々が該複数のウエルの各々に関連している複数のアクセス口を有するろ過板と、
前記ろ過板が上に適正に整列したときに各々が前記複数の供給又は受け板ウエル及びアクセス口と流体連通する複数の供給または受け板ウエルを有する受け板と、よりなり、
前記各供給及び受け板ウエルは、前記各ろ過板ウエルの入口に対して最大深さ個所を有し、前記最大深さ個所は前記関連したアクセス口の下側に位置している多ウエルろ過装置。
【請求項2】
前記供給又は受け板ウエルはU形をなしている請求項1に記載の多ウエルろ過装置。
【請求項3】
前記各供給又は受け板ウエルは一様に下方に傾斜し次いで関連した前記アクセス口に終端する天底により規定されている、請求項1に記載の多ウエルろ過装置。
【請求項4】
前記ろ過板ウエルと前記供給又は受け板ウエルの相対位置は、前記供給又は受け板ウエルの平面断面を通して引かれる最長軸線とそれに直交する最長の軸線との交差点が、各ろ過板ウエルの活性ろ過領域の平面断面を通り前記最長軸線とそれの直交する最長軸線との交差点と垂直方向に整列しないように互いにずれている、請求項1に記載の多ウエルろ過装置。
【請求項5】
各供給及び受け板ウエルはU形底部を有し、前記受け板ウエルの最高個所と最低個所の間の直線断面積が存在しないようにした、請求項1に記載の多ウエルろ過装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7】
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【図8a】
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【図8b】
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【公開番号】特開2009−291217(P2009−291217A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−219394(P2009−219394)
【出願日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【分割の表示】特願2006−166121(P2006−166121)の分割
【原出願日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【出願人】(390019585)ミリポア・コーポレイション (212)
【氏名又は名称原語表記】MILLIPORE CORPORATION
【Fターム(参考)】