説明

せん断補強筋のスポット溶接方法

【課題】靭性を損なうことなく規格降伏点強度以上の溶接強度となるように、せん断補強筋を梁主筋にスポット溶接可能なスポット溶接方法を提案すること。
【解決手段】住宅用鉄筋コンクリート梁の梁主筋に所定ピッチでスポット溶接されるせん断補強筋のスポット溶接方法において、予熱工程を経ることなく、梁主筋およびせん断補強筋に溶接電流を流して本溶接を行い(本溶接工程A)、溶接電流の通電時間とほぼ同一の焼き戻し冷却時間をおき(焼き戻し冷却工程B)、溶接電流の約75%の焼き戻し電流を、溶接電流の通電時間とほぼ同一の時間だけ通電して焼き戻し溶接を行い(焼き戻し溶接工程C)、梁主筋に対するせん断補強筋の溶接強度を、せん断補強筋の規格降伏点強度以上の値とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、住宅建築等におけるシングル配筋された鉄筋コンクリート梁として用いるのに適したシングル配筋用梁枠ユニット等において、梁主筋にせん断補強筋としてのあばら筋を溶接するために用いるのに適したせん断補強筋のスポット溶接方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
住宅建築等に用いられる鉄筋コンクリート製の梁、基礎梁等としては、上下一対の梁主筋に一定のピッチであばら筋を取り付けた構成のシングル配筋のものが知られている。また、かかる梁筋として、上下の梁主筋にあばら筋の上下端をスポット溶接した構成の鉄筋枠ユニットが知られている。このような鉄筋枠ユニットは、工場生産により製造され、建築現場において鉄筋枠ユニットを相互に繋ぐことにより所定長さの梁筋が構築され、また、鉄筋枠ユニット同士を直角あるいは十文字状に繋ぐことにより、布基礎の角部分等の配筋が可能となっている。このような鉄筋枠ユニット、およびそれを用いた配筋構造は、例えば、本件出願人により出願された特許文献1に開示されている。
【0003】
ここで、鉄筋は溶接により焼きが入ると、その硬度は増すものの靭性が低下してしまい、伸び率が低下し脆弱になってしまう。鉄筋コンクリート構造では鉄筋により引っ張り力を負担させ、脆性破壊を防止しているので、鉄筋には十分な伸び率が要求される。かかる観点から、鉄筋の靭性を損なうことの無いように、鉄筋の溶接強度は鉄筋母材の規格降伏点強度の1/3から2/3程度となるように管理されている。
【0004】
従来の鉄筋コンクリートにおける配筋設計の基本的な考え方は、鉄筋とコンクリートとの付着強度を高めて双方を一体化し、作用荷重によって発生する圧縮力をコンクリートに負担させ、引張力を鉄筋に負担させるというものである。この考え方に立脚すれば、梁の配筋に溶接を使用することは鉄筋の靭性が低下するので、極力避ける必要がある。
【0005】
しかしながら、鉄筋の挙動、特に、あばら筋の応力分担状態、梁の継ぎ手部分における実際の応力状態等については、依然として不明な点が多い。本発明者らは、この点に鑑みて、梁筋とあばら筋の結合強度等を変えて、鉄筋コンクリート梁の載荷試験等を行うことにより、新たな配筋設計の考え方を案出するに至り、特許文献2において、かかる新たな配筋設計の考え方に基づき新たに考え出されたシングル配筋用梁枠ユニット、この新しいシングル配筋用梁枠ユニットの継ぎ手部分に用いるのに適した継ぎ手枠ユニット、およびこのような新しいシングル配筋用梁枠ユニットの継ぎ手部分を、新しい継ぎ手枠ユニットを用いて構成した継ぎ手構造を提案している。
【0006】
すなわち、本発明者等が提案している鉄筋コンクリート梁のシングル配筋用梁枠ユニットは、所定間隔で平行に延びる上下の梁主筋と、これらに対して所定のピッチで溶接されたあばら筋とを備え、前記梁主筋と前記あばら筋との溶接強度を、鉄筋母材の規格降伏点強度以上としたことを特徴としている。
【0007】
この構成のシングル配筋用梁筋枠ユニットでは、梯子状に組まれたユニットの面内剛性が高いので、この剛性によって梁に作用する引張力および圧縮力に耐える。梁筋とあばら筋の溶接強度は、それらの母材の規格降伏点強度よりも高いので、鉄筋が降伏状態になる前に溶接部分が破断あるいは分離することはない。このために、コンクリートは圧縮破壊状態に至っても、ユニットによって保持されているので、鉄筋コンクリート梁全体としての靭性を高め、その脆性破壊を防止できる。
【0008】
このように、コンクリートと鉄筋の付着強度だけでなく、溶接により梯子状に組み立てた梁筋およびあばら筋からなる鉄筋枠ユニットの剛性も考慮して配筋を行なうようにしているので、各鉄筋の定着長さを、従来に比べて短くしても、全体として強度の高い、しかも安全性の高い鉄筋コンクリート梁を実現できる。
【0009】
また、本発明者等が提案しているシングル配筋された鉄筋コンクリート梁の上下の梁主筋の継ぎ手部分に使用する継ぎ手筋ユニットは、所定間隔で平行に延びる上下の継ぎ手筋と、これらの継ぎ手筋に所定ピッチで取り付けられた複数本のあばら筋とを有し、各あばら筋の上下の端部は、それぞれ、上下の継ぎ手筋に溶接されており、各あばら筋と上下の継ぎ手筋の溶接強度は、鉄筋母材の規格降伏点強度以上であることを特徴としている。
【0010】
この構成の継ぎ手筋ユニットでは、従来の継ぎ手筋のような定着強度のみによって継ぎ手部分の強度を確保する代わりに、定着強度と、強固に溶接された継ぎ手筋ユニットの剛性とによって、梁筋の継ぎ手部分の強度を確保することができる。よって、従来に比べて、鉄筋の定着長さを短くすることができる。
【0011】
このようなシングル配筋枠ユニットなどにおいて、本件出願人は、特許文献3において、溶接強度がせん断補強筋の規格降伏点強度以上となるように、梁主筋に対してせん断補強筋を溶接できると共に、梁主筋の引張強度および伸びも溶接前の値を確保可能なスポット溶接方法を提案している。このスポット溶接方法は、予熱工程と、本溶接工程と、焼き戻し冷却工程と、焼き戻し溶接工程からなる4工程からなり、予熱工程、本溶接工程および焼き戻し溶接工程の3回に亘り、溶接対象の鉄筋に通電している。
【特許文献1】実公平7−48881号公報
【特許文献2】特開2002−285678号公報
【特許文献3】特開2002−336970号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、かかるスポット溶接方法の改良に関するものであり、靭性を損なわずに規格降伏点強度以上の溶接強度となるように、せん断補強筋を梁主筋に溶接する作業を効率良く行うことのできるスポット溶接方法を提案することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の課題を解決するために、本発明は、住宅用鉄筋コンクリート梁の梁主筋に所定ピッチでスポット溶接されるせん断補強筋のスポット溶接方法において、
梁主筋およびせん断補強筋を予熱することなく、これらに溶接電流を流して本溶接を行い、
前記溶接電流の通電時間とほぼ同一の焼き戻し冷却時間をおき、
前記溶接電流の約65%ないし80%の焼き戻し電流を、前記溶接電流の通電時間とほぼ同一の時間だけ流して焼き戻し溶接を行うことにより、
前記梁主筋に対する前記せん断補強筋の溶接強度を、前記せん断補強筋の規格降伏点強度以上の値とすることを特徴としている。
【0014】
ここで、前記溶接電流の約75%の焼き戻し電流を、前記溶接電流の通電時間とほぼ同一の時間だけ通電して焼き戻しを行うことが望ましい。
【0015】
また、前記梁主筋の径および前記せん断補強筋の径の組み合わせに対する、前記本溶接時の電流値および通電時間、前記焼き戻し冷却時間、前記焼き戻し時の電流値および通電時間を、以下に述べる「発明を実施するための最良の形態」の欄の末尾に掲載する表に示す範囲にすることが望ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明のせん断補強筋のスポット溶接方法によれば、主筋に対するせん断補強筋の溶接強度を、せん断補強筋の規格降伏点強度以上にでき、主筋の伸びを溶接前の規格基準値以上の値に保持でき、主筋の引張強度を溶接前の規格基準値以上の値に保持できる。また、鉄筋の予熱工程を必要とせずに、効率良く、かかる溶接を行うことができるという優れた効果を奏することが確認された。よって、本発明のスポット溶接方法を採用すれば、剛性および靭性のある溶接鉄筋枠ユニットを効率良く製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に、図面を参照して、本発明を適用したせん断補強筋のスポット溶接方法の例を説明する。
【0018】
図1(a)は、本発明のスポット溶接方法を採用して製造したシングル配筋梁のI型継ぎ手構造を示す説明図である。
【0019】
まず、継ぎ対象の溶接鉄筋枠ユニット1、2の構造を説明すると、これらは基本的に同一構造であり、それぞれ、上下一対の梁主筋11、12および21、22と、これらの間に一定のピッチで架け渡されたあばら筋13および23とを備え、各あばら筋13、23は、それらの上下の端部が梁主筋に対してスポット溶接されている。梁丈が高い場合には中間位置に、梁主筋に平行となるように腹筋が配置される場合もあり、上下にそれぞれ複数本の梁主筋が配置される場合もある。このような溶接鉄筋枠ユニット1、2は一般には工場生産されて、建築現場に搬入される。注目すべき点は、梁主筋11、12に対するあばら筋13、23の溶接強度が、これらの鉄筋母材の規格降伏点強度以上の値となるように設定されている点である。
【0020】
溶接鉄筋枠ユニット1、2を繋ぐための継ぎ手筋ユニット3は、上下一対の継ぎ手筋31、32と、これらの間に一定のピッチで架け渡した複数本のあばら筋33とを備えている。図示の例では4本のあばら筋33が架け渡されている。各あばら筋33の上下の端部は、それぞれ継ぎ手筋31、32にスポット溶接されている。継ぎ手筋ユニット3も一般的には工場生産される。また、あばら筋と継ぎ手筋の溶接強度は、これらの鉄筋母材の規格降伏点強度以上の値とされている。このようにすると、継ぎ手筋ユニット3の面内剛性を高めることができ、継ぎ手部分に作用する力の一部を当該剛性によって負担させることができる。
【0021】
図1(b)および(c)から分かるように、各あばら筋33は、上下の継ぎ手筋31、32に対して同一の側に溶接されている。また、上下の継ぎ手筋31、32は、上下の梁主筋11、12の間、梁主筋21、22の間に納まるように、それらの間隔が決定されている。溶接鉄筋枠ユニット1、2においても、各あばら筋13、23が上下の梁主筋11、12、21、22に対して同一の側に溶接されている。
【0022】
継ぎ手筋ユニット3を用いてI型継ぎ手部分を構成する場合には、直線状に配列した溶接鉄筋枠ユニット1、2の継ぎ手位置4に長さ方向の中心が位置するように、継ぎ手筋ユニット3を側方から溶接鉄筋枠ユニット1、2に取り付ける。すなわち、継ぎ手筋ユニット3の中心3aに継ぎ手位置4が一致するように、溶接鉄筋枠ユニット1、2におけるあばら筋取り付け側とは反対側に取り付ける。また、溶接鉄筋枠ユニット1、2におけるあばら筋13、23が取り付けられていない側に、継ぎ手筋ユニット3のあばら筋33が取り付けられていない側を重ね合わせる。
【0023】
この結果、図1(b)に示すように、上下の梁主筋11、21および12、22の間に上下の継ぎ手筋31、32が入り込み、各継ぎ手筋31、32は梁側のあばら筋13、23に当たった状態になる。この状態で、継ぎ手筋31、32を、それぞれ、上下の梁主筋11、12、21、22に結束線(図示せず)を用いて結束する。このようにして、図1(a)に示すI型継ぎ手構造が構成される。
【0024】
本例のI型継ぎ手構造では、面内剛性の高い継ぎ手筋ユニット3を溶接鉄筋枠ユニット1、2の継ぎ手部分に重ね合わせて結束しているので、当該継ぎ手部分の剛性を高めることができる。この結果、継ぎ手部分に作用する引張り力は、継ぎ手筋31、32のコンクリートに対する付着力と、継ぎ手筋31、32に溶接されているあばら筋33による支圧力により分担される。
【0025】
従って、コンクリート付着力を介して鉄筋コンクリート梁に作用する引張力を継ぎ手筋に負担させていた従来の継ぎ手構造に比べて、付着力への依存度を低減できるので、必要とされる継ぎ手筋の長さL1を短くできる。
【0026】
また、本例では、図1(b)に示すように、上下の梁主筋11、21、12、22の幅内に継ぎ手筋31、32が納まっているので、継ぎ手部分において必要な梁幅Wは、梁主筋の直径と、左右のあばら筋の直径との合計寸法に、左右のコンクリート被り厚さを足した寸法でよい。従って、梁幅の増加を抑制できる。
【0027】
(あばら筋のスポット溶接方法)
溶接鉄筋枠ユニット1、2および継ぎ手筋ユニット3は工場生産されるものである。以下に、工場生産において、梁主筋にあばら筋をスポット溶接する方法を説明する。
【0028】
図2は本例のスポット溶接の1工程分を示す説明図である。この図に示すように、本例のスポット溶接方法では、一般的な溶接工程とは異なり、予熱工程を経ることなく本溶接工程Aが行われ、次に、焼き戻し冷却工程Bが行われ、最後に、焼き戻し溶接工程Cが行われるようになっている。
【0029】
ここで、本溶接工程Aにおける溶接電流の通電時間t1と、焼き戻し冷却工程Bの冷却時間t2と、焼き戻し溶接工程Cの通電時間t3を同一時間としてある。また、焼き戻し溶接工程Cの溶接電流を、本溶接工程Aの溶接電流の約65%ないし80%の範囲内の値、好ましくは約75%の値としてある。従って、溶接電流値と通電時間の積で規定されている溶接エネルギーは、本溶接時を100%とすると、焼き戻し溶接時は約65%〜80%の範囲内の値、好ましくは約75%の値になる。
【0030】
この溶接条件によりスポット溶接を行ったところ、溶接強度をあばら筋の規格降伏点強度以上にできると共に、主筋の引張強度および伸びを溶接前の規格基準値以上に保持できることが確認された。また、予熱工程を必要とせずに歩留まり良くかかる条件を満足する溶接状態を形成できることが確認された。
【0031】
各主筋径およびせん断補強筋径の組み合わせに対する好適な溶接条件を次の表に示す。本溶接時の加圧力は550kg以上とし、主筋のD−19、D−22はSD345を使用し、それ以外の鉄筋はSD295Aを使用した。この表の条件に従ってスポット溶接を行うことにより、予熱工程を必要とすることなく、溶接強度をせん断補強筋の規格降伏点強度以上にでき、主筋の引張強度および伸びを規格基準値以上に保持できることが確認された。
【0032】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明のスポット溶接方法を用いて製造された溶接鉄筋枠ユニットおよび継ぎ手枠ユニットから構成されるI型継ぎ手構造を示す説明図である。
【図2】本発明のスポット溶接方法の工程を示す説明図である。
【符号の説明】
【0034】
1、2 溶接鉄筋枠ユニット
11、21 上側の梁主筋
12、22 下側の梁主筋
13、23 あばら筋(せん断補強筋)
3 継ぎ手筋ユニット
31、32 継ぎ手筋
33 あばら筋
4 継ぎ手位置
A 本溶接工程
B 冷却工程
C 焼き戻し溶接工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
住宅用鉄筋コンクリート梁の梁主筋に所定ピッチでスポット溶接されるせん断補強筋のスポット溶接方法において、
前記梁主筋およびせん断補強筋を予熱することなく、これらに溶接電流を流して本溶接を行い、
前記溶接電流の通電時間とほぼ同一の焼き戻し冷却時間をおき、
前記溶接電流の約65%ないし80%の焼き戻し電流を、前記溶接電流の通電時間とほぼ同一の時間だけ流して焼き戻し溶接を行うことにより、
前記梁主筋に対する前記せん断補強筋の溶接強度を、前記せん断補強筋の規格降伏点強度以上の値とすることを特徴とするせん断補強筋のスポット溶接方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記溶接電流の約75%の焼き戻し電流を、前記溶接電流の通電時間とほぼ同一の時間だけ通電して焼き戻しを行うことを特徴とするせん断補強筋のスポット溶接方法。
【請求項3】
請求項1において、
前記梁主筋の径および前記せん断補強筋の径の組み合わせに対する、前記本溶接時の電流値および通電時間、前記焼き戻し冷却時間、前記焼き戻し時の電流値および通電時間を、次の表のように規定したことを特徴とするせん断補強筋のスポット溶接方法。
【表1】


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−346745(P2006−346745A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−351587(P2005−351587)
【出願日】平成17年12月6日(2005.12.6)
【出願人】(592129246)三栄商事株式会社 (4)