説明

そば粉およびその製造方法ならびにそれを含有する食品

【課題】 通常の食生活を通じて摂取可能で、しかも運動療法を適切に実施したのと同様な糖代謝改善作用を発揮するそば粉およびその製造方法ならびにそれを含有する食品を提供するものである。
【解決手段】 乾燥重量当たり、たんぱく質含有量が40〜45重量%、澱粉質含有量が28〜38重量%であるそば粉は、糖新生の抑制効果と肝グリコーゲン蓄積量の低減作用を発揮する。本発明のそば粉は食品用組成物として有用で、通常の食生活を通じ容易に摂取することが可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糖代謝改善作用に優れたそば粉およびその製造方法ならびにそれを含有する食品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の食習慣の欧米化に見られる食生活の変化、肉体活動の変化による運動不足、ストレスの蓄積などに伴い、糖尿病患者が増加し問題となっている。糖尿病の発症は、体内における糖代謝の異常を引き起こすことが一因と考えられている。そのため、糖尿病を発症する前の、糖代謝に異常をきたしている患者を、糖尿病予備軍としてとらえ、これら糖尿病予備軍に対しても有効な治療方法が求められている。
【0003】
正常な糖代謝のもとでは、取り込んだ糖を肝臓から放出する働き(糖新生)と、体内に吸収した糖を肝臓へ取り込む働き(糖の蓄積)がバランス良く保たれているが、食生活の変化、運動不足、ストレス等が加わるとこのバランスが崩れてしまい、その結果、必要以上に糖の血中濃度が上昇してしまうと考えられている。それ故、糖尿病の根本的な治療は、血糖値を下げるのみならず、この糖代謝を正常に戻すことにあると提唱されている(非特許文献1参照)。そして、生体における異常な糖代謝の改善のためには、食事の摂取量を制限したり、低カロリー食品の摂取割合を増やす食事を増やすといった食事療法や、積極的に日常生活での運動の機会を増やすといった運動療法が第一と考えられている(非特許文献1または2参照)。
【0004】
このうち、食事療法は、運動する機会がなかなか取れない現代社会でも通常の食生活の中で実行できるメリットはあるものの、栄養に関する知識が不十分なまま偏った知識に基づく無理なダイエットを行うと、体の筋肉の崩壊を起こしやすく、その結果健康的な体に近づくことができない。また、通常の食事の量を減らすことは精神的な苦痛を伴うことから、継続して実施するのが困難である。
【0005】
一方、運動療法の実行は、糖新生の抑制と肝グリコーゲン蓄積量の低減作用を示すという、糖代謝の正常化効果が得られる療法として、食餌療法と並ぶ糖尿病基本治療法の柱の一つととらえられている。特に、適切な運動療法を実施した場合は、数日間血糖値の上昇抑制が持続するという効果(これは、運動療法の「持続効果」と言われている)に着目されており、この「持続効果」は、筋肉・肝蔵内のグリコーゲンの蓄積量が減少する(より多く血中から糖を取り込めるようになる)ことにより発揮されると考えられている(非特許文献3参照)。しかしながら、社会構造の制約により、運動療法を取り入れる時間がなかなかとることのできない近年の生活環境においては、積極的に運動療法を実行することは非常に困難であるという問題がある。
【0006】
上述の食餌療法や運動療法でも効果が無い場合や、食餌療法や運動療法を実施することができない場合には薬物療法として、例えば、糖尿病治療薬であるスルホニルウレア剤などが用いられてきているが、肥満という副作用を有することがあることより、運動療法を実施した場合とは逆の結果を与えることが少なくない(非特許文献4参照)。そのため、近年、肝臓における糖代謝に着目した薬剤として肝グリコーゲンホスホリラーゼ阻害剤や肝グルコース6ホスファターゼ阻害剤(糖新生の抑制)の開発が検討されており、その動向が注目されている(非特許文献5参照)。
【0007】
以上の如く、より効果的な糖尿病および糖尿病予備軍の治療のためには、糖代謝に着目した運動療法や食餌療法が第一とされている。しかしながら、現代社会はその実施において様々な制約があることより、運動療法のための時間をとることが困難な生活環境でも実行しやすい通常の食生活を通じて、運動療法と同様な糖代謝改善作用を発揮する方法の開発が望まれている。
【0008】
そば粉に関しては、これまで、全層粉、内層粉、中層粉、表層粉などというように様々な種類のそば粉が知られている(非特許文献6および7参照)。また、そばの実の種類として、普通種のそば(もしくは通常種のそば)や韃靼そば(もしくは苦そば)が知られている(非特許文献8参照)。しかしながら、本発明の如く特定の割合で、たんぱく質と澱粉質を含有するものは未だ知られていない。また、そば由来のたんぱく質とそば由来食物繊維を含有し、脂肪低減作用および筋肉増強作用を示すそば粉が報告されているが(特許文献1参照)、本発明のそば粉は、そば由来たんぱく質とそば由来澱粉を特定の組成比で含有するそば粉であり、しかも、糖代謝改善作用を示すそば粉であるので、組成および作用動作の面で本発明のそば粉とは異なる。
【0009】
これまで、そばは血糖値が上昇しにくい食品である事が報告されている(非特許文献9参照)。しかしながら、これは、そば自身糖が分解され難いが故に、糖として消化管から吸収されるのが遅く、その結果として血糖値の上昇が抑えられるという知見に基づくものであり、糖の代謝改善作用を有することを示すものではなく、しかも、特定の組成比でたんぱく質と澱粉質を含有するそば粉が特に糖代謝の改善作用を有する事は全く報告されていない。
【0010】
一方で、韃靼そば粉を含む試料を用いた実験で、該そば粉を正常ラットに投与する場合は血糖値低下作用を示すものの、糖尿病ラットに投与した場合は血糖値低下作用を発揮しないこと(非特許文献10参照)、および糖尿病を発症したラットに苦そば粉を投与しても、糖尿病の悪化を防止することができないことも報告されている(非特許文献11参照)。
【0011】
【非特許文献1】河盛隆造,「インスリンの作用と疾患 Number2 肝臓におけるインスリンの作用」,日本医師会雑誌,2000年,第123巻,第9号,p.IS.05−IS.08
【非特許文献2】宮崎滋,「糖尿病の運動療法と臨床検査」,Medical Technology,1996年,第24巻,第10号,p.1013−1018
【非特許文献3】小川吉司,「糖尿病の運動療法のポイント」,治療,2001年,第83巻,第11号,p.117−119
【非特許文献4】小野百合,「早期軽症糖尿病の診断・治療と指導のすすめ方 薬物療法のメリットとデメリット スルホニルウレア(SU)剤」,プラクティス,1997年,第14巻,第1号,p.44−49
【非特許文献5】新海久,「新しい抗糖尿病薬」,ファルマシア,2000年,第36巻,第8号,p.694−698
【非特許文献6】香川芳子,「五訂食品成分表2001」,初版,女子栄養大学出版部,2001年4月,p.38−39
【非特許文献7】新島繁,薩摩夘一,「蕎麦の世界」,第5版,株式会社柴田書店,1992年6月25日,p.199−201
【非特許文献8】長友大,「ソバの科学(新潮選書)」,第1版,新潮社,昭和59年4月5日二刷,p.40−45
【非特許文献9】坂井真奈美,外1名,「日本食のGlycemic Index」,山陽女子短期大学研究紀要,1996年,第23巻,p.57−64
【非特許文献10】岩田多子,外4名,「ストレプトゾシン糖尿病ラットに及ぼす苦蕎麦の影響」,女子栄養大学大学研究紀要,1991年,第22巻,p.25−30
【非特許文献11】志塚ふじ子,外3名,「ダッタンソバの糖尿病改善効果」,日本栄養・食糧学会総会講演要旨集,1998年,第52巻,p.246
【特許文献1】特開2004−166666号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、通常の食生活を通じて摂取可能で、異常な糖代謝に対して、運動療法と同様な改善作用を発揮する食品用組成物およびその製造方法ならびにそれを含有する食品を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の発明者らは、上記課題に鑑み鋭意研究を重ねた結果、肝臓で糖代謝を司っている肝グルコース6ホスファターゼ活性の抑制作用と、肝グリコーゲンの蓄積量を低減する効果を併せ持つという、運動療法を適切に実施した場合と同様な糖代謝改善作用を発揮する新規なそば粉を見出し、本発明を成すに至った。
【0014】
即ち、本発明のそば粉は乾燥重量当たりそば由来たんぱく質含有量が40〜45重量%であり、そば由来澱粉質が28〜38重量%になるよう製造されたそば粉であり、そばの実を原料に用い、これに製粉と篩選別を繰り返し施すことにより得ることができる。本発明のそば粉は、この様に、そば由来たんぱく質含有量とそば由来澱粉質とを特定の組成比で含有することで、初めて所望の効果を発揮するという知見を見出すことにより成されたものである。
【0015】
上記の如く、本発明のそば粉は、糖新生の抑制と肝グリコーゲン蓄積量の低減作用を合わせ持つという、運動療法を適切に実施したのと同様な効果が得られることより、運動療法特有の、糖代謝改善作用の「持続的効果」を発揮するものである。しかも、この時、食事量の制限を一切行う必要がないことより、通常の食事量に影響を与えることなく、一般の人でも苦痛を感じること無く日常の食事を通じて糖代謝の改善効果を発揮することが可能である。
【0016】
本発明における、異常な糖代謝とは、肝臓における糖の新生と糖の蓄積のバランスが崩れた状態を指し、本発明のそば粉が有する糖代謝改善作用は、糖尿病のみならず、境界型糖尿病(耐糖能異常、糖尿病予備軍)に対しても有効であり、本発明における、糖尿病患者とは、糖尿症状を発症している患者のみならず、境界型糖尿病症状を示す患者(耐糖能異常者、糖尿病予備軍)も含まれる。
【0017】
本発明のそば粉を製造する際に使用するそばの実の品種は、普通種(通常種ともいう)と、韃靼種(苦そばともいう)から得られる実を用いることができ、中でも普通種のそばの実を用いるのが好ましい。そばの実を製粉する際には、殻を取り除いたそばの実を使用するのが好ましく、例えば、殻のついたそば(以後、「玄そば」と言う。)から殻だけを取り除いたもの(以後、「丸抜き」と言う。)、玄そばから殻を取り除いたもので丸抜きより砕けの多いもの(以後、「抜き」と言う。)などがあげられ、中でも丸抜きを使用することが好ましい。
【0018】
本発明のそば粉を製造する際に実施する製粉法または製粉装置は特に限定されず、通常使用されている製粉法、製粉装置であれば良く、例えばロール製粉機、石臼などを用いて行うことができ、中でも石臼製粉機が好ましい。
【0019】
そばの実におけるたんぱく質および澱粉質は均一に含まれているわけではないため、本発明のそば粉の様に、たんぱく質と澱粉質を特定の割合で含有するそば粉は、例えば、以下の方法により得ることができる。即ち、そばの実の製粉操作と、製粉した後に得られる粉砕物を目開き400〜550μmの篩(以後、「第一使用の篩」と言う)で選別する操作を繰り返し実施し、篩を通過するそばの実の粉砕物の歩留の総計が90〜95%となった時点で、目開き100〜250μmの篩(以後、「第二使用の篩」と言う)に切り替え、今度はその通過率が95〜100%となるよう再び製粉と篩濾過を繰り返し実施する事により、乾燥重量当りのそば由来たんぱく質の含有量が40〜45重量%、そば由来澱粉質の含有量が28〜38重量%であるそば粉を得る事ができる。
【0020】
本発明におけるそば由来たんぱく質とは、そばの実に含まれるたんぱく質を意味し、そばの実に含まれているものであれば特に限定されない。また、本発明におけるそば由来澱粉質とは、そばの実に含まれている澱粉質を意味し、そばの実に含まれる澱粉質であれば特に限定されない。
【0021】
本発明のそば粉において、そば由来たんぱく質のより好ましい含有量は乾燥重量当り41〜44重量%であり、そば由来澱粉質のより好ましい含有量は乾燥重量当たり30〜35重量%である。
【0022】
第一使用の篩は、目開きが400〜550μmのものであればよく、450〜500μmのものがより好ましく、中でも460〜480μmの篩が好ましい。篩の目開きが400μm以下のものを使用した場合は本発明のそば粉を得るのに手間がかかり、また篩の目開きが550μm以上のものを使用した場合は粉砕物の通過率から本発明のそば粉を得ることが困難となる。篩選別時には篩の目開きが400〜550μmの範囲に収まるものであれば毎回同じ目開きのものを繰り返し使用しなくても良い。
【0023】
第二使用の篩は、目開きが100〜250μmのものであればよく、150〜230μmのものがより好ましく、中でも180〜210μmの篩が好ましい。篩の目開きが100μm以下のものを使用した場合は本発明のそば粉を得るのに手間がかかり、また篩の目開きが250μm以上のものを使用した場合は粉砕物の通過率から本発明のそば粉を得ることが困難となる。篩選別時には篩の目開きが100〜250μmの範囲に収まるものであれば毎回同じ目開きのものを繰り返し使用しなくても良い。
【0024】
原料のそばの実を石臼製粉機に投入する速度、もしくは篩による選別時に、篩を通過しなかったそば粉を再度石臼製粉機に投入する速度は、石臼製粉機のサイズ、機能によって左右されるため特に限定するものではないが、直径50〜70cm、回転速度140〜160rpmのタイプの石臼製粉機においては毎時25〜50kgが好ましく、中でも毎時30〜35kgの速度で投入するのが望ましい。石臼製粉機を使用する場合の石臼間隙は、通常そばの実を製粉できる値であれば特に限定されない。また、石臼の自重と原料投入量によってできる間隙幅においても同様である。
【0025】
本発明のそば粉の製造において本発明のそば粉をより効率良くそばの実より製粉する方法としては、以下の通りである。そばの実(丸抜き)を原料に用い、これを石臼製粉機を用いて製粉したものを目開き400〜550μmの第一使用の篩を用いて篩選別する。このとき篩を通過するそばの粉砕物の歩留が90〜95%になるまで製粉と篩選別とを繰り返し施し、歩留が90〜95%になった時点で篩上に残留するそばの実の粉砕物を目開き100〜250μmである第二使用の篩の通過率が95〜100%になるよう再び石臼製粉機による製粉と篩濾過を繰り返し施すことにより、本発明のそば粉を得る事ができる。
【0026】
本発明のそば粉は、味、風味共に一般のそば粉と変わりがないため、通常の食事として何ら問題なく摂取することが可能で、糖代謝改善作用を期待することができるものであり、個人の好み、食習慣、体調、体質等を考慮し、その使用量を適宜改善することができる。
【0027】
本発明のそば粉は、汎用な食品素材としての性質を有しており、加工食品および加工食品を製造するための原料として使用することができる。例えば、一般的なそば打ちの手法(例えば、新島繁等著,「蕎麦の世界」,柴田書店発行、に記載の方法)により直接に麺を製したり、あるいは既存の食品に添加することにより、乾燥重量当たり、そば由来たんぱく質とそば由来澱粉質の組成比が40:28〜45:38で含有する菓子、パン等を得ることができるため、バラエティーに富んだ加工食品とすることができる。従って、本発明のそば粉は、それを含む種々の食品から摂取することが可能となり、本発明のそば粉の必要量を個人の体調、体質あるいは嗜好等に従い無理なく、日常的に摂取することができる。このように、本発明のそば粉を食品素材として利用することで糖代謝改善作用を期待できるため、一般食品をはじめ、健康食品、特別用途食品、特定保健用食品(条件付き特定保険用食品を含む)、栄養機能食品または食餌療法食品として、もしくはこれら食品の素材として提供することができる。
【0028】
本発明は、上述のような加工法により広範な食品素材として利用できるものである上、本発明のそば粉は日常頻繁に食されているそばを利用して製造されているものであるから、安全で健康的に優れた食品素材として好適なそば粉を提供するものである。
【発明の効果】
【0029】
本発明のそば粉を糖代謝の改善のために使用する場合は、食事量の制限をせずともその効果を発揮するので、通常の食事量に影響を与えることなく、一般の人でも苦痛を感じることなく日常の食事を通じて容易に摂取することで、運動療法を適切に実施した場合に近い糖代謝改善効果を発揮することが可能である。また、糖尿病の国民医療費に占める割合は少なくないことより、医療費削減の観点からも極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
本発明の内容を以下の実施例、実験例でさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの内容に限定されるものではない。
【実施例】
【0031】
(実施例1)
普通種のそばの実(丸抜き:100kg)を田中三次郎商店式石臼製粉機に投入速度毎時30kgで製粉した。得られたそばの実の粉砕物全量を目開き475μmの篩で篩選別し、篩を通過した粉砕物(72.1kg)を得た(これを粉砕物イと呼ぶ)。篩上に残留した粉砕物を再び同条件下で製粉し、得られた粉砕物を同条件下で篩選別し、篩を通過した粉砕物(21.2kg)を得た(これを粉砕物ロと呼ぶ)。粉砕物イ・ロの合計歩留が93.3%となったので、このとき篩上に残留した粉砕物を同条件で製粉を施し、目開き200μmの篩の通過率が100%のそば粉(6.7kg)を得た。得られたこのそば粉を実験1および2に用いた。
【0032】
実施例1で得られたそば粉について、それが含有する水分、たんぱく質、澱粉質について含有量分析を行った。含有量分析は、五訂食品成分表2001(女子栄養大学出版部)に記載の方法で乾燥重量当たりの値として計算し求めた。
【0033】
【表1】

【0034】
(実施例2)
実施例1で得られたそば粉(800g)と小麦粉(銘柄「ふじ」:日穀製粉株式会社製200g)とを関東ミキサー(関東混合機工業株式会社製)に投入し良く混合した。次いで水(270mL)を加え、混合しながら練り上げた後、複合および圧延作業を施し、最終的に厚さ1.3mmの麺帯を得た。これを切り刃20番で切り出し、そば麺を得た。
【0035】
(参考例1)そば由来たんぱく質を高濃度で含有するそば抽出物(以後、BWPEと称する)の調整
そば粉(A萬寿:日穀製粉製:40kg)に水(230L)を加え懸濁した後、これに水酸化ナトリウム水溶液(10W/W%濃度)を加えpH8.1に調整した後、室温下で60分間撹拌した。得られた混合物を連続遠心分離機(7500G)で処理し、分取した液層を濾過後、10%塩酸を加えて中和し、これを殺菌のために加熱した後、スプレードライ法により乾燥し、乳白色の粉末(5.3kg)を得た。これをBWPEとして実験例1に用いた。
【0036】
(実験1)KKAyマウスにおける糖代謝改善作用の確認試験
5日間予備飼育した5週齢のKKAyマウスを、1群9匹からなる対照群(A群:そば粉を含まない試料、B群:BWPE処置群)および試験群(C群:実施例1のそば粉を含有する試料)に構成し、試験に用いた。
実験は、下記表2記載の食餌組成からなる試験食を各試験群のマウスに与え自由摂食で9週間飼育した。A群には本発明のそば粉の代わりに、カゼインを混入し表1の組成で調整した実験食Aを、B群には参考例1で得られたBWPEを混入し表1の組成で調整した実験食Bを、C群には実施例1で得られたそば粉を混入し表1の組成で調整した実験食Cをそれぞれ与え、9週間飼育した。飼育終了後、A〜C群について各々、経口糖負荷試験を実施した。実験終了後に肝臓を摘出し、肝グルコース6ホスファターゼ活性および肝グリコーゲン蓄積量を測定した。
この実験期間中、A〜C群について各々、実験終了までの体重変化、実験食の摂取量を経時的に測定したが、体重変化および実験食の摂取量はA〜C群間で有意差は無く、本発明のそば粉の体重、摂食量に対する悪影響は認められなかった。
【0037】
【表2】

【0038】
(肝グルコース6ホスファターゼ活性の測定)
Baginsky等の方法(Baginsky ES,外2名,「Glucose−6−phosphatase」,Method of Enzymatic Analysis,1974年,第2巻,p.876−880)に準じて、肝臓中のグルコース6ホスファターゼ活性を測定し、肝臓100g当たりの総酵素活性としての結果を表3に示した。
【0039】
【表3】

*が付された結果は、A群に対し危険率5%以内の有意差があったことを示している。
【0040】
表3に示すとおり、実施例1で得られたそば粉を含有する実験食Cを与えたC群の糖尿病マウスだけに、有意な肝グルコース6ホスファターゼ活性の抑制効果が見られ、これは、本発明のそば粉のみが、糖新生の抑制効果を発揮することを示すものである。
【0041】
(肝グリコーゲン蓄積量の測定)
Montgomeryの方法(Montgomery R.,「Determination of glycogen」,Arch Biochem Biophys,1957年,第67巻,p.378−386)に準じて、肝臓中のグリコーゲン量を測定し、肝臓100g当たりの総量としての結果を表4に示した。
【0042】
【表4】

*が付された結果は、A群に対し危険率5%以内の有意差があったことを示している。
【0043】
表4に示す結果より、実施例1で得られたそば粉を含有する実験食Cを与えたC群の糖尿病マウスだけに、有意な肝グルコース蓄積量の低減作用が見られ、これは、本発明のそば粉のみが、肝グルコース蓄積量低減効果を発揮することを示すものである。
【0044】
(糖負荷試験)
グルコースを溶解させた生理食塩水から調整したグルコース液を、マウスに2g/kgとなるよう腹腔内投与し、その後の血糖値の推移を測定した。グルコース液の投与前、投与後30分の時点において、マウス尾静脈より採血し、血漿を分離した後、Glucose C−II Test Wakoキット(Wako社製)を用いて、グルコース濃度を測定しこれを血糖値とし、結果を表5に示した。また、グルコース液投与前と投与後30分後の間でどれだけ血糖値が上昇したかを計算し、同様に表5に示した。
【0045】
【表5】

*が付された結果は、A群に対し危険率5%以内の有意差があったことを示している。
【0046】
本耐糖能試験において、表5に示す結果より、実施例1で得られたそば粉を含有する実験食Cを与えたC群の糖尿病マウスだけに、有意な血糖値上昇抑制作用が見られたことは、本発明のそば粉が、異常な糖代謝の改善効果をした結果、耐糖能の改善効果を発揮したことを示すものである。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明は、上述のように誰でも摂取が容易な食品素材として利用できるであるので、日常の食事を通じて無理なく継続的に長期にわたり摂取でき、より運動療法に近い効果を期待できる食品用組成物として用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乾燥重量当たり、たんぱく質含有量が40〜45重量%、澱粉質含有量が28〜38重量%であるそば粉。
【請求項2】
乾燥重量当たり、たんぱく質含有量が40〜45重量%、澱粉質含有量が28〜38重量%であることを特徴とする、食餌療法食品の食材として有用なそば粉。
【請求項3】
乾燥重量当たり、そば由来たんぱく質とそば由来澱粉質を40:28〜45:38の組成比で含有することを特徴とする、糖尿病患者のための食餌療法食品。
【請求項4】
乾燥重量当たり、たんぱく質含有量が40〜45重量%、澱粉質含有量が28〜38重量%であるそば粉を含有し、糖代謝改善のために用いられる旨の表示を付した食品。
【請求項5】
乾燥重量当たり、たんぱく質含有量が40〜45重量%、澱粉質含有量が28〜38重量%であるそば粉を含有し、糖新生の抑制作用および肝グリコーゲン蓄積量を低減する作用を有するものであることを特徴とし、糖代謝改善のために用いられる旨の表示を付した食品。
【請求項6】
乾燥重量当たり、そば由来たんぱく質とそば由来澱粉質の組成比が40:28〜45:38で含有し、糖新生の抑制作用および肝グリコーゲン蓄積量を低減する作用を有するものであることを特徴とし、糖代謝改善のために用いられる旨の表示を付した食品。
【請求項7】
そばの実の製粉と、それを目開き400〜550μmの篩で選別する操作を繰り返し、篩を通過するそばの実の粉砕物の歩留の総計が90〜95%となった時点で、篩上に残留するそばの実の粉砕物を、目開き100〜250μmの篩の通過率が95〜100%となるよう製粉と篩選別の操作を繰り返す事を特徴とする請求項1記載のそば粉の製造方法。

【公開番号】特開2007−89505(P2007−89505A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−284831(P2005−284831)
【出願日】平成17年9月29日(2005.9.29)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成17年3月30日 社団法人日本農芸化学会主催の「日本農芸化学会 2005年度(平成17年度)大会」において文書をもって発表
【出願人】(000104560)キッセイ薬品工業株式会社 (78)
【出願人】(391043491)日穀製粉株式会社 (10)
【Fターム(参考)】