説明

そば粉配合物、生そば及び茹でそば

【課題】 添加物を用いることなく、茹でた後長時間経過後も食感及び風味を保持できる茹でそば及びそば粉配合物を提供する。また、高いそば粉割合での機械製麺によるつながりのよい生そば及びそば粉配合物を提供する
【解決手段】 粒径52μm以下の微粉からなる微粉そば粉と、前記微粉そば粉に対して5〜10重量%の甘皮粉とを含むそば粉配合物及びこれを用いた茹でそばである。好適には微粉そば粉が粒径42μm以下の微粉からなる。また、微粉そば粉と小麦粉の重量比が9:1乃至5:5の範囲であり、機械製麺により製造された生そばである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、そば粉配合物及びこれを用いた生そば並びにこれを茹でたそば(以下、「茹でそば」と称する)に関し、特に茹でた後、長時間経過後にも良好な食感及び風味が保持されるそば粉配合物、生そば及び茹でそばに関する。
【背景技術】
【0002】
茹でそばは、弾力性があり腰の強い食感と、そば独自の風味が好まれている。現在、乾燥そばや生そばではなく、そのまますぐに食することができるように茹でそばの状態でも広く流通、販売されている。
【0003】
茹でそばに用いるそば粉配合物は、本来はそば粉とつなぎの小麦粉のみを含む配合であり、これに対し若干の食塩と適宜量の水を加えて練り混ぜることにより生地を作り、麺の形に加工する。しかしながら、このようなそば粉と小麦粉のみのそば粉配合物を用いた茹でそばは、茹でた後に長時間経過するといわゆるのびた状態となり、好ましい食感も風味も損なわれる。そのため、食感等を長時間保持するために乳化剤、保水剤、増粘多糖類等を添加したり、小麦粉以外にグルテンや卵等を添加したりすることが一般的に行われている。
【0004】
このような添加物の使用は、材料コスト及び作業コストを増大させるのみでなく、味や風味が本来とは異なるものとなったり添加物特有の味が付加されたりしがちであった。
【0005】
特許文献1では、つなぎの小麦粉以外の添加物を使用することなく茹でた後長時間経過しても良好な腰の強さを保持できるそば粉として、粒径25μm〜106μmの微粉が主要部を占める微粉そば粉を提示している。また、特許文献2では、同様の目的を達成するそば粉として粒径5〜15μmの範囲に粒度分布の主ピークをもつ微粉そば粉を提示している。
【特許文献1】特開平7−170929号公報
【特許文献2】特開2001−17102号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、本願発明者は、特許文献1等に開示された粒径数十μm程度の微粉を主体とする微粉そば粉を用いた茹でそばでは、確かに弾力性や腰の強さ等の良好な食感に関しては茹でた後長時間経過後も保持されることが認められたが、風味が落ちるという知見を得た。
【0007】
また、量産製品である茹でそばは、機械製麺によるものがほとんどであるが、そば粉8割、小麦粉2割のいわゆる二八そばのような高いそば粉割合で機械製麺を行うと、製麺時につながりが悪く、生そばに肌荒れやひび割れを生じるという問題があった。
【0008】
以上の現状に鑑み、本発明の目的は、乳化剤や保水剤等の添加物を用いることなく食感及び風味に優れ、茹でた後長時間経過後も良好な食感及び風味を保持できる茹でそば及びこれに用いるそば粉配合物を提供することを目的とする。
また、高いそば粉割合での機械製麺によるつながりのよい生そば及びこれに用いるそば粉配合物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するべく本発明は以下の構成を提供する。
(1)請求項1に係るそば粉配合物は、粒度分布範囲52μm以下かつ平均粒径25μm以下の微粉からなる微粉そば粉と、前記微粉そば粉に対して2〜15重量%の甘皮粉とを含むことを特徴とする。
【0010】
(2)請求項2に係るそば粉配合物は、請求項1において、前記微粉そば粉が粒度分布範囲42μm以下かつ平均粒径15μm以下の微粉からなることを特徴とする。
【0011】
(3)請求項3に係るそば粉配合物は、請求項1または2において、前記微粉そば粉と小麦粉との重量比が9:1乃至5:5の割合であることを特徴とする。
【0012】
(4)請求項4に係るそば粉配合物は、請求項3において、前記微粉そば粉と小麦粉との重量比が9:1乃至8:2の割合であることを特徴とする。
【0013】
(5)請求項5に係る生そばは、請求項4のそば粉配合物を用いて機械製麺により製造されたことを特徴とする。
【0014】
(6)請求項6に係る茹でそばは、請求項1〜4のいずれかのそば粉配合物を用いたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
請求項1に係るそば粉配合物は、粒度分布範囲52μm以下かつ平均粒径25μm以下である微粉からなる微粉そば粉を含むことにより、このそば粉配合物を用いた茹でそばにおいて好ましい食感すなわち硬さ、弾性、粘性、滑らかさが得られかつ長時間経過後にもこれらの食感が保持される。また、甘皮粉(種皮、胚芽の部分)を含むことにより、このそば粉配合物を用いた茹でそばにおいて良好な風味が得られかつ長時間経過後にもその風味が保持される。
【0016】
請求項2に係るそば粉配合物は、請求項1において、さらに粒度分布範囲42μm以下かつ平均粒径15μm以下の微粉からなる微粉そば粉とすることにより、茹でそばにおける硬さ、弾力がさらに向上した。
【0017】
請求項3に係るそば粉配合物は、請求項1または2において、微粉そば粉と小麦粉の重量比が9:1乃至5:5の割合である。高割りの範囲を含む比較的広範囲に亘って上記の食感及び風味保持の効果が得られる。
【0018】
請求項4に係るそば粉配合物は、請求項3において、微粉そば粉と小麦粉の重量比が9:1乃至8:2の割合である。二八そばと云われる配合及びさらに高割りの配合である。斯かる高割りのそば粉配合物で機械製麺を行った場合にも、つながりがよく、滑らかな外観の生そばが得られる。
【0019】
請求項5に係る生そばは、請求項4のそば粉配合物を用いて機械製麺により製造した生そばである。この生そばは、そば粉割合が高いにも拘わらず、機械製麺を行ってもつながりがよく滑らかな外観となる。
【0020】
請求項6に係る茹でそばは、請求項1〜4のそば粉配合物を用いた茹でそばである。斯かる茹でそばは、好ましい食感及び風味が得られ長時間経過後にもそれらが保持される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、表及びグラフを参照しつつ本発明の実施の形態を説明する。
本発明によるそば粉配合物は、粒度分布範囲52μm以下かつ平均粒径25μm以下である微粉からなる微粉そば粉と、この微粉そば粉に対して2〜15重量%の甘皮粉とを含むものである。さらにこのそば粉配合物において、微粉そば粉の粒度分布範囲42μm以下かつ平均粒径15μm以下であることが好適である。さらに好適には、甘皮粉の配合量が5〜10重量%である。
【0022】
本発明では、斯かる粒度の微粉そば粉を用いることにより、茹でそばにおける茹で直後の良好な食感が得られ、長時間経過後もそれが保持される。加えて、甘皮粉を含むことにより、茹でそばにおける茹で直後の良好な風味が得られ、長時間経過後も風味が保持される。甘皮粉は、通常の粒度のそば粉に混合すると、滑らかさ、弾性、粘性等が劣り、不適な食感となることが知られている。しかしながら本発明では、甘皮粉を微粉そば粉に混合することにより、微粉そば粉の良好な食感を損なうことなく、風味保持効果を奏する。尚、この風味保持効果は、甘皮粉の特定の粒度分布範囲によらない。
【0023】
さらに、上記の微粉そば粉と甘皮粉を含むそば粉配合物においては、微粉そば粉と小麦粉との重量比が9:1乃至5:5である広範囲の割合に亘って上記の良好な食感と風味及びそれらを保持する効果を奏することが確認された。加えて、二八そばといわれる8:2の配合とした場合、あるいはそれ以上の高割りである9:1の配合とした場合であっても、機械製麺により製造された生そばのつながりが良好で、肌荒れやひび割れが生じないという効果がある。
【0024】
次に、各試験の説明により、本発明の実施例及び作用効果を詳細に示す。
(1)そば粉の粒度と食感・風味との関係の確認試験
本発明の実施例を示すに先立って、甘皮粉を含まないそば粉配合物(比較例)における食感及び風味を確認するための試験を行った。
(1-1)試験に用いたそば粉
試験では、次の5種の粒度をもつそば粉が各100%のものを用いた。粒径は、湿式粒度分布計(コールター社製マルチサイザイーII)で測定した。
1.ロール挽きそば粉(平均粒径63.2、粒度分布範囲141μm以下)
2.微粉そば粉A(平均粒径23.24、粒度分布範囲51.9μm以下)
3.微粉そば粉B(平均粒径13.45、粒度分布範囲41.6μm以下)
4.粗粉そば粉C(平均粒径39.14、粒度分布範囲112μm以下)
5.粗粉そば粉D(平均粒径55.12、粒度分布範囲141μm以下)
【0025】
(1-2)試験に用いたそば粉の成分分析値
試験に用いた5種のそば粉(そば粉100%)の成分分析値は、次の表1の通りである。
【0026】
【表1】

【0027】
(1-3)試験に用いた製麺方法
上記1.〜5.の各そば粉を用いた製麺のための生地配合は、次の通りである。機械製麺により生そばを得た。
・小麦粉:20%
・そば粉(そば粉100%):80%
・水:生地状態に合わせて32〜47%
・食塩:1%
【0028】
(1-4)試験に用いた茹で方法
上記製麺方法により得た生そばを3分間茹でた後、16±2°Cの水で30秒水洗いすることにより、茹でそばを得た。
上記1.〜5.の各そば粉を用いて得た茹でそばをそれぞれ、「比較例R」、「比較例A」、「比較例B」、「比較例C」、「比較例D」とする。
【0029】
(1-5)評価方法
(1-5-1)茹でそばの官能評価
ロール挽きそば粉を用いた茹でそばである比較例Rをコントロールとした表2に示す7段階比較評価により評価点をつけた。官能評価の項目は、風味に関連する特徴として「そばの香り」及び「食味」、食感に関連する特徴として「硬さ」、「弾性」、「粘性」、及び「なめらかさ」があり、総合点も示した。
【0030】
【表2】

【0031】
(1-5-2)茹でそばの引張試験
テクスチャーアナライザーを用いて、茹でそばの最大荷重と伸長度とを計測した。最大荷重は茹でそばの硬さを、伸長度は茹でそばの粘弾性を示唆しており、いずれも食感に関連する特徴である。
【0032】
(1-6)評価結果
(1-6-1)茹でそばの官能評価結果
比較例R及び比較例A〜Dの各茹でそばについての官能評価の結果を表3に示す。尚、図1は、表3の結果に基づいて作成したグラフである。
比較例Rに比べて、微粉そば粉を用いた比較例A及びBでは、良好な食感となる硬さ、弾性、粘性及び滑らかさが向上した。特に、比較例Aでは滑らかさが、比較例Bでは硬さ及び弾力が向上した。
【0033】
【表3】

【0034】
(1-6-2)茹でそばの引張試験結果
比較例R及び比較例A〜Dの各茹でそばについてのテクスチャーアナライザーによる引張試験結果を表4に示す。図2は、表4の結果に基づいて作成したグラフである。
比較例Rに比べて比較例A及びBでは、硬さと粘弾性において良好な結果が得られた。
【0035】
【表4】

【0036】
(2)甘皮粉を含むそば粉の粒度と食感・風味との関係の確認試験
本発明の実施例である甘皮粉を含むそば粉配合物における食感及び風味を確認するための試験を行った。
(2-1)試験に用いたそば粉配合物
試験に用いた6種のそば粉配合物は、次の通りである。1.、2.、3.は、前述の茹でそば比較例R、A、Bに用いたそば粉と同じ粒度であり、甘皮粉を含まないものである。比較例A及びBは、前述の試験において食感に関して良好な結果が得られている。また、1a、2a、3aは、それぞれ1.、2.、3.のそば粉に甘皮粉を混合したものである。
1.ロール挽きそば粉100%
1a.ロール挽きそば粉90%+甘皮粉10%
2.微粉そば粉A100%
2a.微粉そば粉A100%+甘皮粉10%
3.微粉そば粉B100%
3a.微粉そば粉B100%+甘皮粉10%
【0037】
(2-2)試験に用いた甘皮の成分分析
試験に用いた甘皮の成分分析値は、次の表5の通りである。
【0038】
【表5】

【0039】
(2-3)試験に用いた製麺方法
上記1.〜3a.の各そば粉配合物を用いた製麺のための生地配合は、次の通りである。機械製麺により生そばを得た。
・小麦粉:20%
・そば粉配合物:80%
・水:生地状態に合わせて32〜47%
・食塩:1%
【0040】
(2-4)試験に用いた茹で方法
上記製麺方法により得た生そばを3分間茹でた後、16±2°Cの水で30秒水洗いすることにより、茹でそばを得た。
上記1.、2.、3.の各そば粉を用いて得た茹でそばをそれぞれ、「比較例R」、「比較例A」、「比較例B」とし、上記1a、2a、3aの各そば粉配合物を用いて得た茹でそばをそれぞれ「比較例Ra」、「実施例A」、「実施例B」とする。
【0041】
(2-5)評価方法
(2-5-1)茹でそばの官能評価
ロール挽きそば粉を用いた茹でそばである比較例Rをコントロールとした上記表2に示す7段階比較評価により評価点をつけた。官能評価の項目は、風味に関連する特徴として「そばの香り」及び「食味」、食感に関連する特徴として「硬さ」、「弾性」、「粘性」、及び「なめらかさ」があり、総合点も示した。
【0042】
(2-5-2)茹でそばの味覚試験
味覚センサ((株)インテリジェントセンサーテクノロジー製:SA402B)を用いて、茹でそばの旨みの数値データを得た。
【0043】
(2-5-3)茹でそばの引張試験
テクスチャーアナライザーを用いて、茹でそばの最大荷重と伸長度とを計測した。最大荷重は茹でそばの硬さを、伸長度は茹でそばの粘弾性を示唆しており、いずれも食感に関連する特徴である。
【0044】
(2-5-4)生そばの引張試験
テクスチャーアナライザーを用いて、生そばが切断するまでの時間すなわち切れやすさを計測した。機械製麺により製造した生そばのつながりやすさを評価した。
【0045】
(2-6)評価結果
(2-6-1)茹でそばの官能評価結果
実施例A、B並びに比較例R、Ra、A、Bの各茹でそばについての官能評価の結果を表6に示す。尚、図3は、表6の結果に基づいて作成したグラフである。
甘皮粉を添加すると、風味(そばの香り、食味)は向上するが、弾力がなくなり、ざらつきから滑らかさの低下、粘性の低下が生じる。
実施例Aでは、風味は向上したが弾性が低下し、粘性及び滑らかさが向上したことから軟らかい食感となった。
一方、実施例Bでは、風味が向上し、若干弾性は低下したが、歯ごたえがあり滑らかさもある好ましい食感となった。
【0046】
【表6】

【0047】
(2-6-2)茹でそばの味覚試験結果
比較例Rをコントロール0としたときの旨み強度を表7に示す。
【0048】
【表7】

【0049】
(2-6-3)茹でそばの引張試験結果
実施例A、B並びに比較例R、Ra、A、Bの各茹でそばについてのテクスチャーアナライザーによる引張試験結果を表7に示す。図4は、表7の結果に基づいて作成したグラフである。
実施例A、Bでは、甘皮粉添加により硬さ及び粘弾性の低下が観られたが、好適な食感の範囲に留まった。従って、微粉そば粉を用いることで、甘皮粉を添加したことによる硬さ・弾性の低下を抑制できる。
【0050】
【表8】

【0051】
(2-6-4)生そばの引張試験結果
実施例A、B並びに比較例R、Ra、A、Bの各生そばについてのテクスチャーアナライザーによる引張試験結果を表8に示す。図5は、表8の結果に基づいて作成したグラフである。
実施例A及びB、特に実施例Bでは、麺のつながりが良好であった。
【0052】
【表9】

【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】表3の官能評価結果に基づいて作成したグラフである。
【図2】表4の茹でそばの引張試験結果に基づいて作成したグラフである。
【図3】表6の官能評価結果に基づいて作成したグラフである。
【図4】表8の茹でそばの引張試験結果に基づいて作成したグラフである。
【図5】表9の生そばの引張試験結果に基づいて作成したグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒度分布範囲52μm以下かつ平均粒径25μm以下の微粉からなる微粉そば粉と、前記微粉そば粉に対して2〜15重量%の甘皮粉とを含むことを特徴とするそば粉配合物。
【請求項2】
前記微粉そば粉が粒度分布範囲42μm以下かつ平均粒径15μm以下の微粉からなることを特徴とする請求項1に記載のそば粉配合物。
【請求項3】
前記微粉そば粉と小麦粉との重量比が9:1乃至5:5の割合であることを特徴とする請求項1または2に記載のそば粉配合物。
【請求項4】
前記微粉そば粉と小麦粉との重量比が9:1乃至8:2の割合であることを特徴とする請求項3に記載のそば粉配合物。
【請求項5】
請求項4のそば粉配合物を用いて機械製麺により製造されたことを特徴とする生そば。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかのそば粉配合物を用いたことを特徴とする茹でそば。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−304623(P2006−304623A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−128100(P2005−128100)
【出願日】平成17年4月26日(2005.4.26)
【出願人】(591127490)藤原製麺株式会社 (1)
【出願人】(000164689)熊本製粉株式会社 (17)
【Fターム(参考)】