説明

とうもろこしの劣化防止用容器及び劣化防止方法

【課題】簡易な構造でありながら、とうもろこしの劣化を効果的に防止することが可能な容器及び方法を提供する。
【解決手段】少なくとも1本のとうもろこしを収容して密閉することが可能な容器本体と、前記容器本体内部を照射する光源とを備えており、前記容器本体の内面は、前記光源から発した光を散乱反射するように構成してある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、生とうもろこしの鮮度保持容器に関するものであって、詳細には、冷蔵庫で保管中の成分の劣化を防ぎ、特に食味に関係する成分の維持又は増加させることを可能ならしめる容器及び方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
とうもろこしは、釜をゆでてから収穫しろと言われるくらいに、鮮度劣化が著しい青果物として有名である。これは収穫後も呼吸作用を継続しているため、糖分を消費して炭水化物に転換してしまうためである。とうもろこしの鮮度劣化を防止するため一般的には、温度を下げて生理活動を低下させることが行なわれており、収穫後収集されたとうもろこしを冷風に当てたり、真空状態にする等の予冷といわれる作業が行なわれている。温度が低下したとうもろこしは生理活動が低下するため、輸送過程において徐々に温度が上昇しても、予冷のない場合よりも鮮度の劣化を抑制することが可能である。また、輸送中も低温状態を保つことはより好ましい。
【0003】
しかしながら、最近の品種改良の進展により、糖分を分解する酵素の働きを遅くしたスーパースイート系といわれる品種が登場し、初期の糖度が従来よりも高いため、収穫後1〜2日経ても従来よりも糖度の高い状態のまま家庭で入手することが可能となり、これらの品種が市場での主流を占めるようになっている。
【0004】
また、インターネットを利用した流通の勃興とあいまって、農家から直接通信販売でとうもろこしを入手できるようになり、国内であれば2日以内にほぼ全国で入手可能であるため、流通段階での鮮度劣化をあまり意識しないで入手することも可能となっている。
【0005】
しかしながら、販売者の意識は様々であり、保冷して輸送された場合と保冷しないで輸送された場合とで、入手できるとうもろこしの品質のばらつきは大きい。
【0006】
一方、容器内の二酸化炭素濃度を増加させ、酸素濃度を低下させることにより、呼吸作用を制御する容器を用いて、生理活動を低下させる包装容器も提案され実用化されている(特許文献1)。この包装容器は、密封した包装袋の開孔率を青果物に合わせて最適化し、酵素と二酸化炭素の比率を制御することによって、生理活性を低下させるものである。しかし、特許文献1には、生理活性を低下させることによる効果として糖度減少の抑制効果だけが開示されており、その他の成分についての効果は記されていない。
【0007】
また、特許文献2には、青果物の低温弱光照射による品質維持技術が記載されており、0〜15℃の低温中に保管された青果物に10〜500lxの蛍光灯白色光を照射することにより、イチゴ、トマト、キュウリ、ピーマン、ブロッコリー等の外観、形状、食味、糖度、有機酸全量等を評価し、1月弱の鮮度保持を可能としている。
【0008】
基本的に特許文献2に記載の技術は、青果物の貯蔵倉庫内における鮮度保持技術であり、貯蔵期間を1ヶ月又は週単位で最大限に延ばすことが要求されるが、上記したような家庭で実施可能な簡易な鮮度保持方法では、3〜4日程度の鮮度保持を目的とするため、できるだけ簡易な手段が必要になる。
【0009】
また、冷蔵庫の野菜保管庫に赤色のLED(特許文献3)や橙色のLED(特許文献4)を設置して、野菜のビタミンC含有量の増加を促す等の装置がある。これらは、光合成作用を用いているが、呼吸作用の制御は行なっていない。
【特許文献1】特開平6−125695
【特許文献2】特開2003−102376
【特許文献3】特開2002−267348
【特許文献4】特開2006−17443
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
各家庭で入手したとうもろこしをすぐに消費してしまえば最も鮮度の良い状態で食すことも可能であるが、実際には冷蔵庫に保管して、数日後に食す家庭も多いと予想される。
【0011】
そこで本発明は、このような状況に鑑み、簡易な構造でありながら、とうもろこしの劣化を効果的に防止することが可能な容器及び方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
すなわち本発明に係るとうもろこしの劣化防止用容器は、少なくとも1本のとうもろこしを収容して密閉することが可能な容器本体と、前記容器本体内部を照射する光源とを備えており、前記容器本体の内面は、前記光源から発した光を散乱反射するように構成してあることを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係るとうもろこしの劣化防止方法は、本発明に係るとうもろこしの劣化防止用容器内に皮付きとうもろこしを収容して密閉し、当該容器を4〜10℃の温度下に配置する工程、及び、前記容器内面のうち前記光源に対向する面における光強度が0.5〜1.5μmol/m/sとなるような光を前記光源から照射して、前記光源から発した光又は前記容器内面からの反射光をとうもろこしに照射する工程を備えていることを特徴とする。
【0014】
上記課題を解決するため、本発明では、約4〜10℃に調整された冷蔵庫内において、皮付きとうもろこしを内面が光を散乱反射するよう作成された容器内に収容し、とうもろこし全体に容器壁からの反射光が照射されるように配置され、LEDに対向する面での光強度が約1μmol/m/s程度となるように調整されたLEDからの光を受けることにより、とうもろこしの呼吸による内成分の消費と光合成による内成分の蓄積をバランスさせることにより、上記課題を解決した。
【0015】
また、本発明に係る容器を密封させ、約1〜3Lの容積の容器とし、とうもろこしの呼吸により酸素、炭酸ガス濃度が自然に変化するのにまかせることでとうもろこしの呼吸作用の制御を行い、とうもろこしの糖分減少を抑制し、食味に関係する成分、特にアスパラギン酸の成分を増加させることを可能とした。
【発明の効果】
【0016】
このように本発明によれば、とうもろこしの糖度減少を抑制することが可能であり、更に旨みを増加することができ、例えば、収穫2日後に入手したとうもろこしを更に品質の劣化を抑制した状態で3日程度家庭で保管することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明に係る容器は、少なくとも1本のとうもろこしを収容して密閉することが可能な容器本体からなる。このような本発明に係る容器の本体としては、例えば、袋や箱が挙げられる。そして、容器本体中の酸素、炭酸ガス濃度を所定の範囲に管理できるものであれば、密封包装又は半密封包装のいずれであってもよい。
【0018】
また、前記容器本体を素材の面から説明すると、ガス透過性、透湿度が低く、冷蔵庫環境と容器内環境を遮断できるものが好ましく、例えば、ポリスチレンビーズを発泡成型して作成した容器や、発泡ポリスチレンシートを熱成型又は張り合わせて作成した容器や、ミルクカートン等が好適に挙げられる。また、本発明に係る容器の本体として紙箱等を使用する場合は、例えば、食品包装用ラップフィルムであるPVCフィルム等でとうもろこしを密閉包装してから、容器に収容することが好ましい。
【0019】
また、より積極的に炭酸ガス濃度を制御するために、本発明に係る容器の本体として前述の特許文献1の包装袋等を使用しても良い。
【0020】
本発明に係る容器の本体の形状としては特に限定されず、例えば、円筒状や細長の直方体等が挙げられる。また、本発明に係る容器の本体は、少なくとも1本のとうもろこしを収容するために、1〜3L程度の容積を有することが好ましい。
【0021】
本発明に係る容器には光源が設けてあるが、前記光源としては特に限定されず、例えば、LED、面光源であるEL(エレクトロルミネセンス)や液晶光源等が挙げられる。これらの光源のうち面光源は容器の内壁として用いても良い。また、漏光型の光ファイバを容器本体内にめぐらせても良い。前記光源は容器本体内部を照射することが可能であれば、設置箇所は容器本体の内側であっても外側であってもいずれであっても良い。
【0022】
植物の葉が吸収する光の色は光合成スペクトルとして知られているが、主に赤色と青色の光が植物の葉により吸収される。このため、本発明で用いる光源として、例えば、赤色LEDや青色LEDが好適に用いられ、なかでも青色光を発光するものが好ましい。また、赤色光と青色光が同時に照射される等複数の異なる色の光が併用されても良い。
【0023】
本発明に係る容器の本体内面は、前記光源から発した光を散乱反射するように構成してある。本発明においては、植物の呼吸と光合成をバランスさせ糖度の消耗を減少させることに眼目がある。このような状況において、とうもろこしの皮に照射される光強度にばらつきが生じることは場所による光合成量の大小を招き、呼吸による糖度の消耗を増大させる結果となる。このため、容器本体内面での光の反射率や散乱反射方向が光の色によって異なる場合、とうもろこしの皮全体を同じ色で照射するためには複雑な制御が必要となる。
【0024】
このような事態を避けるため、本発明に係る容器の本体内面は白色であることが好ましい。容器本体内面が白色であると、とうもろこしの皮全体に照射する光強度が均一となり、かつ、光スペクトル強度に偏りを生じず、つまり色の不均一が起こらない。更に、容器本体内面に白色の材料を用いて、簡易な光積分球を構成することが好ましい。
【0025】
本発明に係る容器の一実施形態を図面を参照して説明する。図1に示すように、容器1はその本体2が上蓋付きの細長の直方体状のものであり、その上蓋にLED照射装置3が設けてあり、密封を保つことが可能に構成されている。LED照射装置3から照射された光Lはとうもろこし5の皮全体に均一に照射されることが好ましく、LED照射装置3としては、砲弾型LEDやチップ型LEDをそのまま用いてもよい。また、図2に示すように、容器本体2内での光の均一性を増すために、漏光型の光ファイバ4を容器本体2内にめぐらせても良い。
【0026】
本発明に係る容器を用いてとうもろこしの劣化を防止するには、まず、本発明に係る容器内に皮付きとうもろこしを収容して密閉し、当該容器を冷蔵庫等に入れて約4〜10℃の温度下に配置する。
【0027】
本発明に係る容器の中に入れるとうもろこしは通常市販されている400〜500gのもの1本であることが好ましい。これ以上収容すると、容器内の酸素密度が低くなりすぎ、とうもろこしが嫌気呼吸を起こす可能性がある。
【0028】
次いで、容器内又は外に設けられた光源から、前記容器内面のうち前記光源に対向する面における光強度が0.5〜1.5μmol/m/sとなるような光を照射して、とうもろこし全体に前記光源から発した光又は前記容器内面からの反射光を照射する。このため、光源としてLEDを使用する場合、LEDの光強度は、約30cmの高さから容器内壁に散乱反射させた状態での容器本体内部の底面での光強度が約1μmol/m/s程度となるように設定することが好ましい。
【実施例】
【0029】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0030】
(とうもろこしの糖度試験)
発泡ポリスチレン板で10cm×10cm×30cmの箱(内部容積約3L)を作成し、当該箱の上下は透明プラスチック板で形成した蓋でふさぎ、上蓋の外側にLED照射装置を取り付けて、内部を照射するように構成した容器を作成し、とうもろこし1本(約400g)を収容した。
【0031】
この容器を3個用意し、(1)冷蔵庫内光照射なし、(2)冷蔵庫内赤色LED1μmol/m/s照射、(3)冷蔵庫内青色LED1μmol/m/s照射、の3通りの条件で糖度の比較を行なった。なお冷蔵庫内は温度4〜8℃に保たれた状態であることを温度モニターで確認した。糖度はとうもろこし粒の搾液を株式会社アタゴ製ポケット糖度計PAL−1で測定して計測されたBRIX値によって評価した。
【0032】
なお、実験に用いたとうもろこしは北海道産ピーターコーンが冷蔵車により約2日で静岡県浜松市に届けられたものを使用した。輸送時の包装形態としては、段ボール箱のなかにそのまま縦詰めにされていた。実験開始直前の糖度と73時間経過後の糖度を表1及び図3に示す。
【0033】
【表1】

【0034】
また、(4)入手直後にとったとうもろこし粒約50gを冷凍保存、(5)(6)(7)として(1)(2)(3)と同じ条件で処理したとうもろこしから73時間経過後にとうもろこし粒約50gをとり冷凍保存、の4通りの条件で処理したものについてアミノ酸分析を行なった。分析は(財)日本食品分析センターにおいて遊離アミノ酸標準18種について行なわれた。アミノ酸のうちグルタミン酸とアスパラギン酸の経過を表2及び図4に示した。
【0035】
【表2】

【0036】
また、(4)(5)(6)(7)と同様の条件で処理を行ったとうもろこしを電子レンジで約5分間加熱し、15名の被験者に対して食味についての官能試験を行なった。結果を表3及び図5に示した。
【0037】
【表3】

【0038】
表1、図3の結果から明らかなように、赤色及び青色光照射したものの73時間後の糖度の減少は、光照射しなかったものと比較すると抑制されており、到達糖度値も14.5程度と充分に食するに値する値が得られた。
【0039】
また、表2及び図4の結果から明らかなように、グルタミン酸は赤色照射において若干低下しているが、ほぼ初期状態から変化ないといえる程度であり、一方、アスパラギン酸においては、初期に比較して、73時間暗状態冷蔵で約2倍、73時間赤色照射で約3倍、73時間青色照射で約4倍の増加が見られた。これは所謂熟しているといえる状態と理解され、光照射により熟成が進み、旨みが増したと理解できる。
【0040】
この結果は、表3及び図5の食味評価の結果においても明らかに示されており、食味の総合評価において、光照射ありのものは、光照射なしのものよりも明らかに勝っており、甘み、旨みにおいても勝り、旨みに関しては赤色よりも青色照射の効果が高いことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明によって、一般家庭においてもとうもろこしの劣化を効果的に防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の一実施形態におけるとうもろこしの劣化防止用容器を示す模式的斜視図。
【図2】他の実施形態におけるとうもろこしの劣化防止用容器を示す模式的斜視図。
【図3】糖度の比較実験の結果を示すグラフ。
【図4】アミノ酸含有量の比較実験の結果を示すグラフ。
【図5】食味の官能試験の結果を示すグラフ。
【符号の説明】
【0043】
1・・・とうもろこしの劣化防止容器
2・・・容器本体
3・・・LED照射装置
4・・・漏光型の光ファイバ
5・・・とうもろこし

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1本のとうもろこしを収容して密閉することが可能な容器本体と、前記容器本体内部を照射する光源とを備えており、
前記容器本体の内面は、前記光源から発した光を散乱反射するように構成してあるとうもろこしの劣化防止用容器。
【請求項2】
前記光源は、赤色光及び/又は青色光を発するものである請求項1記載のとうもろこしの劣化防止用容器。
【請求項3】
前記容器本体の内面は、白色である請求項1又は2記載のとうもろこしの劣化防止用容器。
【請求項4】
請求項1、2又は3記載の容器内に皮付きとうもろこしを収容して密閉し、当該容器を4〜10℃の温度下に配置する工程、及び、
前記容器内面のうち前記光源に対向する面における光強度が0.5〜1.5μmol/m/sとなるような光を前記光源から照射して、前記光源から発した光又は前記容器内面からの反射光をとうもろこしに照射する工程を備えているとうもろこしの劣化防止方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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