説明

なす環

【課題】フック部に大きな引張力が加わっても、フック部の変形を極力抑えることができるなす環を提供する。
【解決手段】本体2と、本体に対してスライド可能に設けられたスライダ3とを備える。本体は、開口21を有するフック部20を一端に有する。スライダは、開口を開放する第1の位置と閉鎖する第2の位置との間にスライド可能に設けられ、かつ、一端に弾性変形可能な係合片51を有する。スライダが第2の位置までスライドされたときにフック部の先端と係合片の先端とが互いに係合する係合手段54が設けられている。係合手段は、フック部の先端に設けられた凹部22と、係合片の先端に設けられた凸部53とを含む。凹部や凸部は、スライダのスライド方向に対して交差する方向へ窪み、あるいは、突出されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、なす環に関する。たとえば、バック類において、ベルトや紐の脱着用として用いられるなす環に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば、肩掛けベルトを有するショルダーバックなどにおいては、肩掛けベルトを簡易に脱着するための金具として、なす環が利用されている。
従来、この種の用途に用いられるなす環として、特許文献1に記載されたなす環が知られている。
【0003】
これは、合成樹脂製のなす環本体と、このなす環本体の後部に摺動自在に設けられた合成樹脂製のスライダとから構成されている。
なす環本体には、先端に折返し片が一体的に形成されているとともに、両側にガイド溝が形成されている。スライダには、なす環本体のガイド溝に摺動自在に係合する脚片が一体形成されているとともに、先端に折返し片の先端に当接してなす環本体と折返し片との開口を塞ぐ突出片が形成されている。折返し片と突出片とは略同じ肉厚に形成され、折返し片の先端と突出片の先端には、それぞれ肉厚の約半分の厚みで互いに厚み方向に当接する係合片が形成されている。
【0004】
従って、なす環本体の折返し片に、例えば、ベルトに装着されたリング部材を引っ掛け、スライダをなす環本体に対してスライドさせると、スライダの突出片が折返し片の先端に当接してなす環本体と折返し片との開口を塞ぐため、リング部材がなす環本体の折返し片から外れるのが防止される。
【0005】
【特許文献1】実用新案登録第2571039号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載のなす環は、折返し片の先端と突出片の先端とが、それぞれ肉厚の約半分の厚みで互いに厚み方向に当接する構造、いわゆる相欠き(あいがき)構造であるから、折返し片に大きな引張力が加わると、折返し片が外側に変形し、つまり、なす環本体と折返し片との開口が拡張する方向へ変形し、場合によっては破損してしまう虞がある。
【0007】
本発明の目的は、このような課題を解決し、フック部に大きな引張力が加わっても、フック部の変形を極力抑えることができるなす環を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のなす環は、本体と、この本体に対してスライド可能に設けられたスライダとを備え、前記本体は、開口を有するフック部を有し、前記スライダは、前記本体に対して前記開口を開放する第1の位置と閉鎖する第2の位置との間をスライド可能に設けられ、前記本体2および前記スライダ3のいずれか一方には、前記フック部の先端に対して接近または離間する方向へ弾性変形可能で、かつ、前記開口を閉鎖または開放する係合片を有し、前記スライダが前記第2の位置までスライドされたときに、前記フック部の先端と前記係合片の先端とが、前記スライダのスライド方向と交差する方向に係合する、ことを特徴とする。
【0009】
この構成によれば、本体のフック部にベルトや紐の先端部材、たとえば、リング部材を引っ掛けたのち、スライダを第1の位置から第2の位置までスライドさせる。スライダが第2の位置までスライドされると、フック部の先端と係合片の先端とが、スライダのスライド方向と交差する方向に係合される。
従って、リング部材を介して、フック部に引張力が加わっても、フック部の先端と係合片の先端とがスライダのスライド方向と交差する方向に係合されているから、フック部が外側へ変形するのを防止できる。つまり、開口が拡張する方向へフック部が変形するのを極力抑えることができるから、フック部に大きな引張力が加わってもフック部の破損を回避できる。
【0010】
本発明のなす環において、前記フック部の先端と前記係合片の先端とには、互いに係合する係合手段が設けられ、前記係合手段は、前記フック部の先端および前記係合片の先端のいずれか一方に設けられた凹部と、前記フック部の先端および前記係合片の先端のいずれか他方に設けられ前記凹部に係合する凸部とを含んで構成され、前記凹部は、前記スライダのスライド方向と交差する方向へ窪んで形成され、前記凸部は、前記スライダのスライド方向と交差する方向へ突出して形成されていることが好ましい。
この構成によれば、フック部に引張力が加わると、なす環には、スライダのスライド方向に引張力が作用する。このとき、凹部および凸部が、スライダのスライド方向と交差する方向へ窪んで、あるいは、突出して設けられているから、つまり、引張力に対して凹部および凸部が外れにくい構造であるから、フック部に大きな引張力が加わってもフック部の変形を確実に防止できる。
【0011】
本発明のなす環において、前記スライダは、前記スライダが前記第2の位置にスライドされた際に前記フック部の先端に当接する突出片を有し、前記突出片の内縁は、前記フック部の内周縁と協働して、前記開口が閉鎖された際に前記フック部内に閉鎖空間を構成することが好ましい。
この構成によれば、スライダを第2の位置にスライドさせると、スライダに設けられた突出片がフック部の先端に当接し、この突出片の内縁とフック部の内周縁とによって、開口が閉鎖された際にフック部内に閉鎖空間が構成される。このため、フック部に引っ掛けたリング部材がスライダに接触したとき、突出片がリング部材と接し、係合片とリング部材とが接するのを防ぐことができるので、リング部材による引張力が係合片に加わるのを防止できる。
従って、係合片がフック部から離れる方向へ弾性変形することがないから、つまり、リング部材がフック部内で変位しても、凹部および凸部が外れにくい構造にできる。
【0012】
本発明のなす環において、前記係合片は、前記突出片と前記スライダの表裏方向へ所定の隙間を空けて平行に配置されていることが好ましい。
この構成によれば、係合片と突出片とが隙間を空けて平行に配置された関係であるから、つまり、それぞれ独立的に構成されているから、係合片を弾性変形しやすい形状に形成でき、また、突出片については、変形しにくい形状に形成できる。従って、それぞれに要求される機能に応じた形状に構成できるから、製作しやすい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態を図面を参照して説明する。
<実施形態の構成>
図1は本実施形態のなす環を表面側から見た斜視図、図2は同なす環を裏面側から見た斜視図、図3は同なす環の使用状態を示す正面図、図4は同なす環を把持した状態を示す側面図、図5は図4のV-V線断面図、図6は図5のVI-VI線断面図、図7は作用(スライダ上昇途中状態)を示す断面図、図8は作用(スライダ上昇限界状態)を示す断面図である。
【0014】
(全体構成の説明:図1〜図4参照)
本実施形態のなす環1は、本体2と、この本体2に対してスライド可能に設けられたスライダ3とから構成されている。なお、これら本体2およびスライダ3は、ポリアセタールなどの合成樹脂材料の射出成形、あるいは、射出圧縮成形により成形されたのち、組み合わされる。
【0015】
(本体の説明:図1〜図4および図5,図6参照)
本体2は、縦長矩形板状の把持部10と、この把持部10の長さ方向一端(スライダ3のスライド方向一端)に一体的に成形されたフック部20と、把持部10の長さ方向他端に一体的に成形されたベルト連結部30とを含んで構成されている。
把持部10の幅方向の左右両側面にはガイド溝11が開口され、このガイド溝11は、把持部10の長さ方向、すなわち、フック部20の手前からベルト連結部30の手前にかけて連続して形成されている。なお、ガイド溝11は、把持部10の内部を幅方向に貫通して形成されている。また、把持部10の表面には、ガイド溝11に達する深さの収容部12が形成されているとともに、把持部10の裏面には、操作部17が形成されている。
収容部12は、後述する弾性脚片15と突部43とを収容する空間を構成するもので、第1収容部13と、この第1収容部13からフック部20側に向かって連続して形成された第2収容部14とを備える。第1収容部13には、ベルト連結部30側の壁から一体的に起立されフック部20へ向かうに従って互いに接近するように傾斜した一対の弾性脚片15が突出して配置されている。操作部17は、把持部10の裏面がベルト連結部30からフック部20に向かうに従って、次第に肉薄になるように形成されたのち、フック部20近傍において外側へ隆起した凹形状に形成されている。つまり、操作する指が引っ掛かる凹形状に形成されている。
【0016】
フック部20は、把持部10の幅方向一方側から約3/4円を描くように屈曲して成形されている。つまり、把持部10の長さ方向一端との間に約1/4円の開口21が残るように、把持部10の幅方向一方側から他方側へ向かって約3/4円を描くように屈曲して成形されている。フック部20の先端外周面には、凹部22が形成されている。凹部22は、フック部20の先端外周面から、フック部20とベルト連結部30とを結ぶ軸線に対して交差する方向、すなわち、スライダ3がスライドする方向と交差する方向に向かって窪んで設けられている。ここでは、スライダ3がスライドする方向に対して、略直交する方向へ向かって窪んで設けられている。
【0017】
ベルト連結部30は、把持部10の他端両側から互いに離間する方向へ突出成形された一対の腕杆31と、この一対の腕杆31の先端に一体的に掛け渡されたベルト巻付杆32とから構成されている。一対の腕杆31とベルト巻付杆32との隙間にベルト33を差し込み、ベルト33をベルト巻付杆32に巻き付け止着することにより、ベルト33の先端になす環1が取り付けられる。なお、ベルト連結部30に代えて、丸紐を挿通可能な貫通孔を形成し、紐連結部を構成してもよい。
【0018】
(スライダの説明:図1〜図4および図5〜図8参照)
スライダ3は、本体2の把持部10の表面側を覆う覆板40と、この覆板40の幅方向左右両側から一体的にかつ略直角に折り曲げ成形された一対の側板50と、この側板50の先端に一体的に形成され本体2のガイド溝11に摺動可能に係合する係合突部60とを備えた断面C字形状に成形され、かつ、本体2に対して、開口21を開放する第1の位置(図8の位置)と閉鎖する第2の位置(図5の位置)との間、すなわち、把持部10の長さ方向にスライド可能に設けられている。
【0019】
覆板40には、表面(外面)側に操作部41が形成されているとともに、裏面(内面)側に本体2の収容部12に収容される突部43が一体的に形成されている。
操作部41は、覆板40の長さ方向一端部側表面が長さ方向他端部側表面より肉薄に成形され、かつ、周囲に対して中心が窪んだ凹球面状に形成されている。また、肉厚の境目に肉薄部から肉厚部に向かって傾斜する段部42が形成されている。これにより、操作する指を操作部41にあてがうと、指の腹が段部42に引っ掛かる。この状態において、スライダ3を第2の位置から第1の位置へスライドさせると、指が段部42に引っ掛かかった状態でスライダ3をスライドさせることができる。
突部43は、底壁および一対の斜壁を有し、底壁の両端から一対の斜壁がベルト連結部30に向かうに従って互いに接近するように傾斜した三角形状に形成されている。突部43が本体2の収容部12内に収容され、かつ、スライダ3が第2の位置にスライドした状態においては、突部43の底壁が本体2の第2収容部14の壁(フック部20側の壁)に当接し、かつ、突部43の一対の斜壁が結合する頂部が本体2の一対の弾性脚片15間に挿入される。
【0020】
側板50のうち本体2のフック部20先端側に位置する側板50には、弾性変形可能な係合片51と、この係合片51に対して所定の隙間を空けて平行に配置された突出片57とがそれぞれ一体成形されている。
係合片51には、先端に鉤部52が一体成形されているとともに、この鉤部52より基端側にガイド面55および弾性ヒンジ部56がそれぞれ形成されている。
鉤部52は、先端にフック部20に向かって突出しフック部20の凹部22に係合する凸部53を有する鉤状に形成されている。凸部53は、フック部20とベルト連結部30とを結ぶ軸線に対して交差する方向、すなわち、スライダ3がスライドする方向と交差する方向へ突出して設けられている。ここでは、スライダ3がスライドする方向に対して、略直交する方向へ突出して設けられている。本実施形態では、フック部20の凹部22および係合片51の凸部53によって、スライダ3が第2の位置までスライドされたときにフック部20の先端および係合片51の先端が互いに係合する係合手段54が構成されている。
ガイド面55は、スライダ3が第2の位置から第1の位置へスライドする際、本体2の把持部10の側壁角部、すなわち、フック部20の先端と開口21を挟んで対向する角部に当接して係合片51の先端を、スライダ3がスライドする方向と交差する方向、ここでは、略直交する方向へ弾性変形させる。具体的には、ガイド面55は、係合片51の弾性ヒンジ部56と鉤部52との間の内面に配置され、フック部20の開口21内に収容可能な長さで、スライダ3のスライド方向に向かうに従って、把持部10の摺動面である側壁に対して次第に離れたのち接近する凹弧状面に形成されている。
弾性ヒンジ部56は、係合片51の基端側の内面に形成された溝部によって肉薄状に形成されている。これにより、鉤部52が、フック部20とベルト連結部30とを結ぶ軸線に対して略直交する方向へ弾性変形しやすい構造に形成されている。
【0021】
突出片57は、スライダ3の側板50に設けられたスリット58によって係合片51とスライダ3の表裏方向に隙間を空けて分離されているとともに、スライダ3が第2の位置にスライドされた際にフック部20の先端に当接する長さを有する。また、突出片57の内縁は覆板40の先端まで円弧状に延長され、その内周縁は、スライダ3が第2の位置にあるとき、フック部20の内周縁と協働して、開口21が閉鎖された際にフック部20内に略円状の閉鎖空間を構成する。このとき、係合片51の内縁は、突出片57の内周縁と表裏方向に重なり合う位置、もしくは、内周縁よりも外側に位置し、係合片51の内縁が閉鎖空間内へ突出することがない。
【0022】
<実施形態の作用・効果:図1〜図8参照>
このような構成において、操作する指(通常、親指と人差し指)で、スライダ3と本体2の操作部41,17を摘み、スライダ3を第2の位置から第1の位置へスライドさせる。このとき、スライダ3と本体2の操作部41,17は、凹状に形成されているから、指を操作部41,17に収めやすく、指の掛かりもよいので、スライダ3をスムーズにスライドさせることができる。
【0023】
スライダ3が第2の位置から第1の位置へスライドされると、スライダ3の突部43によって本体2の弾性脚片15が互いに拡張する方向へ弾性変形されていく。このとき、本体2の弾性脚片15の復元力によって、スライダ3には第2の位置へ復帰する方向の付勢力が働いている。
これと同時に、スライダ3が第2の位置から第1の位置へスライドされると、スライダ3に設けられたガイド面55によって、係合片51の先端が、スライダ3のスライド方向に対して略直交する方向へ弾性変形される。すると、スライダ3が第1の位置へスライドする移動と、係合片51が係合片51の基端すなわち弾性ヒンジ部56を中心にして揺動する弾性変形とによって、係合片51の凸部53は、円弧を描くように、フック部20の凹部22から離れるから、凹部22および凸部53の係合状態を無理なく解除することができる。
【0024】
このとき、ガイド面55は、把持部10の側壁に点接触するように凹弧状面に形成されているから、つまり、ガイド面55と把持部10の側壁とが過度に密着していないから、操作する指を本体2およびスライダ3の操作部17,41から外して、スライダ3を第1の位置から第2の位置へ復帰させる際にも、スライダ3が第2の位置まで復帰しないといった不具合を生じることがない。
【0025】
このようにして、スライダ3を第2の位置から第1の位置までスライドさせると、スライダ3の係合片51および突出片57がフック部20の開口21から退避するため、フック部20の開口21が開放される。
この状態において、本体2のフック部20に、ベルトや紐の先端部材、たとえば、リング部材70を引っ掛けたのち、操作する指を本体2およびスライダ3の操作部17,41から外す。すると、本体2の弾性脚片15の復元力がスライダ3の突部43に作用しているから、スライダ3は第1の位置から第2の位置までスライドされる。スライダ3が第2の位置までスライドされると、係合手段54によって、フック部20の先端と係合片51の先端とが互いに係合される。つまり、フック部20の先端に設けられた凹部22と、係合片51の先端に設けられた凸部53とが互いに係合される。
【0026】
そのため、リング部材70を介して、フック部20に引張力が加わっても、フック部20の先端と係合片51の先端とが互いに係合されているから、フック部20が外側へ変形するのを防止できる。つまり、本体2の一端にフック部20が、他端にベルト連結部30が設けられているから、フック部20に引張力が加わる場合、フック部20とベルト連結部30とを結ぶ軸線方向に引張力が作用する。このとき、凹部22および凸部53が、フック部20とベルト連結部30とを結ぶ軸線に対して直交する方向へ窪んで、あるいは、突出して設けられているから、つまり、引張力に対して凹部22および凸部53が外れにくい構造であるから、フック部20に大きな引張力が加わってもフック部20の変形を確実に防止できる。
従って、フック部20が開口21を拡張する方向へ変形するのを極力抑えることができるから、フック部20に大きな引張力が加わってもフック部20の破損を回避できる。
【0027】
また、この際、スライダ3を第2の位置にスライドさせると、スライダ3に設けられた突出片57がフック部20の先端に当接し、この突出片57の内周縁とフック部20の内周縁とで開口21が閉鎖される。
そのため、フック部20に引っ掛けたリング部材70が変位してスライダ3に接触したとき、突出片57がリング部材70と接し、係合片51とリング部材70とが接するのを防ぐので、リング部材70による引張力が係合片51に加わるのを防止できる。従って、係合片51がフック部20から離れる方向へ弾性変形することがないから、つまり、リング部材70の変位に対しても、凹部22および凸部53が外れにくい構造にできるから、リング部材70が変位しながらフック部20に大きな引張力が加わっても、フック部20の変形を確実に防止できる。
【0028】
<変形例>
なお、本発明は、上記実施形態で説明した構造のなす環に限定されるものでなく、次のような変形例も含む。
【0029】
(変形例1)
図9および図10に変形例1のなす環1Aを示す。上記実施形態のなす環1は、係合片51がフック部20の外側へ向かって弾性変形する構造であったが、変形例1のなす環1Aは、係合片51Aがフック部20の内側へ向かって弾性変形する構造である。
上記実施形態との違いは、係合片51Aが本体2に一体的に形成されている。係合片51Aは、本体2の一端からフック部20とベルト連結部30とを結ぶ軸線に対して略平行に突出成形されて弾性ヒンジ部56Aが形成され、続いて、フック部20の略中心へ向かって斜めに突出成形されたのち、フック部20の凹部22に向かって外側へ傾斜状に突出成形されている。
【0030】
また、スライダ3には、係合片51Aをフック部20の内側へ向かって弾性変形させるガイド面55Aが形成されている。ガイド面55Aは、側板50(フック部20の先端側に位置する側板50)の一端からフック部20の先端に向かって延長された延長片59の内側に形成され、一端からフック部20の先端へ向かうに従って肉厚が内側に向かって厚くなる傾斜面状に成形されている。延長片59の先端は、スライダ3が第2の位置にスライドされた状態において、フック部20の先端に当接される。
【0031】
このような構成において、スライダ3が第2の位置(図9の状態)から、第1の位置へスライドされると、図10に示すように、スライダ3に設けられたガイド面55Aが、係合片51Aの基端部分である弾性ヒンジ部56Aに当接しながら、これを内側へ弾性変形させる。そのため、係合片51Aの先端が、フック部20とベルト連結部30とを結ぶ軸線に対して略直交する方向へ弾性され、係合片51Aの凸部53がフック部20の凹部22から離れる。
【0032】
従って、変形例1のなす環1Aによれば、係合片51Aがフック部20の内側に弾性変形するので、フック部20の開口21の一部が係合片51Aで塞がれることがなく、開口21を大きく開放できる。そのため、リング部材70をフック部20に引っ掛けやすい利点がある。
また、スライダ3が第2の位置にスライドされた状態では、図9に示すように、係合片51Aの凸部53がフック部20の内側から凹部22に係合しているから、リング部材70の変位によって係合片51Aに外側への力が作用しても、係合片51Aの凸部53とフック部20の凹部22との係合が外れにくい。しかも、その外側には、スライダ3の延長片59がフック部20の先端に当接した状態で位置されているから、より外れにくい構造にできる。
【0033】
(変形例2)
図11に変形例2のなす環1Bを示す。上記実施形態のなす環1や変形例1のなす環1Aは、係合片51,51Aがフック部20の外側、または、内側へ弾性変形する構造であったが、変形例2のなす環1Bは、係合片51Bが、係合片51,51Aの弾性変形方向(フック部20の内外方向)に対して直交する方向(表面側方向)へ向かって弾性変形する構造である。
上記実施形態との違いは、係合片51Bが本体2に一体的に形成されている。係合片51Bは、本体2の一端からフック部20の凹部22まで延長して一体成形され、先端に凹部22に係合する凸部53を、係合片51Bの根本部分に薄肉状の弾性ヒンジ部56Bを有する。この弾性ヒンジ部56Bを弾性変形支点として、係合片51Bの先端がフック部20の凹部22から離間される。
【0034】
また、スライダ3には、突出片57が一体的に形成されている。突出片57には、係合片51Bの内面に当接して係合片51Bの先端をなす環1Bの表面側(図11中左側)へ弾性変形させるガイド面55Bが形成されている。係合片51Bの内面にはガイド面55Bと接する突出部61が形成されている。ガイド面55Bは、フック部20から本体2へ向かうに従って肉薄になる円弧面に形成されている。なお、スライダ3には、係合片51Bが弾性変形する部位に切欠き62が形成され、この切欠き62によって、スライダ3と係合片51Bとが接触しないように構成されている。
【0035】
このような構成において、スライダ3が第2の位置から、第1の位置へスライドされると、図11の鎖線で示すように、スライダ3に設けられたガイド面55Bが、係合片51Bの根本部分に当接しながら、これを表面側へ弾性変形させる。そのため、係合片51Bの先端が、フック部20とベルト連結部30とを結ぶ軸線に対して略直交する方向へ弾性され、係合片51Bの凸部53がフック部20の凹部22から離れる。
従って、変形例2のなす環1Bによっても、上記実施形態と同様な効果が期待できる。
【0036】
(他の変形例)
上記実施形態では、係合手段54を構成する凹部22および凸部53が、フック部20の内側へ向かって窪む、あるいは、突出する構造、つまり、係合片51の弾性変形方向へ向かって窪む、あるいは、突出する構造であったが、これに限らず、係合片51の弾性変形方向(フック部20の内外方向)に対して直交する方向(表面または裏面側方向)へ向かって窪む、あるいは、突出する構造であってもよい。
たとえば、図12に示すように、係合片51の先端に、係合片51の弾性変形方向(図12の左右方向)に対して直交する方向、すなわち、なす環1の表面側および裏面側方向へ向かって突出する凸部53が形成され、フック部20の先端に鍔部23が外側に向かって一体形成され、この鍔部23の中央から底面に掛けてT字状の凹部22が形成されている。この構成によっても、上記実施形態と同様な効果が期待できる。
【0037】
上記実施形態では、係合手段54を、フック部20の先端に設けられた凹部22と、係合片51の先端に設けられ凸部53とから構成したが、これとは逆に、フック部20の先端に凸部を設け、係合片51の先端に凹部を設けた構成でも、同様な効果が期待できる。
また、凹部22および凸部53の窪み方向、突出方向は、上記実施形態や変形例のように、スライダ3のスライド方向(フック部20とベルト連結部30とを結ぶ軸線方向)に対して直交する方向に限らず、スライダ3のスライド方向に対して角度をもって交差する方向であればよい。
【0038】
上記実施形態では、ガイド面55を、把持部10およびスライダ3の摺動面のうち、スライダ3の摺動面、つまり、係合片51の内面に設けたが、これとは逆に、把持部10の摺動面に設けてもよい。ただし、ガイド面55をスライダ3の摺動面、つまり、係合片51の内面に設けた場合、スライダ3が第2の位置にスライドされた際、つまり、スライダ3の係合片51がフック部20の先端を係合し、開口21が閉鎖された状態では、スライダ3のガイド面55が開口21内に位置されるため、なす環1の外観形状をスリムに形成できる。従って意匠性を高めることができる効果がある。
【0039】
上記実施形態では、本体2およびスライダ3が共に合成樹脂製であったが、いずれか一方のみが合成樹脂製であってもよく、あるいは、本体2およびスライダ3が共に金属製であってもよい。使用する金属の種類、あるいは、構造から剛性が低くなる場合があるが、このような場合でも、本発明のなす環によれば、フック部に大きな引張力が加わっても、フック部の変形を抑えることができる。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は、バック類において肩掛けベルトの脱着用のなす環として好適であるが、ベルトや紐などを脱着するものであれば、その他どのような用途にも使用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の実施形態のなす環を表面側から見た斜視図。
【図2】同上実施形態のなす環を裏面側から見た斜視図。
【図3】同上実施形態のなす環の使用状態を示す正面図。
【図4】同上実施形態のなす環を把持した状態を示す側面図。
【図5】図4のV-V線断面図。
【図6】図5のVI-VI線断面図。
【図7】同上実施形態のなす環の作用(スライダを上昇途中状態)を示す断面図。
【図8】同上実施形態のなす環の作用(スライダを上昇限界状態)を示す断面図。
【図9】本発明の変形例1のなす環(閉鎖状態)を示す断面図。
【図10】同上変形例1のなす環(開放状態)を示す断面図。
【図11】本発明の変形例2のなす環を示す断面図。
【図12】本発明のなす環において、凸部と凹部の変形例を示す斜視図。
【符号の説明】
【0042】
1…なす環、2…本体、3…スライダ、17…操作部、20…フック部、21…開口、22…凹部、41…操作部、51,51A,51B…係合片、53…凸部、54…係合手段、55,55A,55B…ガイド面、58…スリット。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
本体2と、この本体2に対してスライド可能に設けられたスライダ3とを備え、
前記本体2は、開口21を有するフック部20を有し、
前記スライダ3は、前記本体2に対して前記開口21を開放する第1の位置と閉鎖する第2の位置との間をスライド可能に設けられ、
前記本体2および前記スライダ3のいずれか一方には、前記フック部20の先端に対して接近または離間する方向へ弾性変形可能で、かつ、前記開口21を閉鎖または開放する係合片51,51A,51Bを有し、
前記スライダ3が前記第2の位置までスライドされたときに、前記フック部20の先端と前記係合片51の先端とが、前記スライダ3のスライド方向と交差する方向に係合することを特徴とするなす環。
【請求項2】
前記フック部20の先端と前記係合片51,51A,51Bの先端とには、互いに係合する係合手段54が設けられ、
前記係合手段54は、前記フック部20の先端および前記係合片51,51A,51Bの先端のいずれか一方に設けられた凹部22と、前記フック部20の先端および前記係合片51,51A,51Bの先端のいずれか他方に設けられ前記凹部22に係合する凸部53とを含んで構成され、
前記凹部22は、前記スライダ3のスライド方向と交差する方向へ窪んで形成され、前記凸部53は、前記スライダ3のスライド方向と交差する方向へ突出して形成されていることを特徴とする請求項1に記載のなす環。
【請求項3】
前記スライダ3は、前記スライダ3が前記第2の位置にスライドされた際に前記フック部20の先端に当接する突出片57を有し、
前記突出片57の内縁は、前記フック部20の内周縁と協働して、前記開口21が閉鎖された際に前記フック部20内に閉鎖空間を構成することを特徴とする請求項1に記載のなす環。
【請求項4】
前記係合片51は、前記突出片57と前記スライダの表裏方向へ所定の隙間を空けて平行に配置されていることを特徴とする請求項3に記載のなす環。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2008−261363(P2008−261363A)
【公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−102702(P2007−102702)
【出願日】平成19年4月10日(2007.4.10)
【出願人】(000006828)YKK株式会社 (263)
【Fターム(参考)】