説明

におい測定装置

【課題】試料ガス等の消費増大を招くことなく良好な再現性を維持しながら測定時間を短縮できるにおい測定装置を提供する。
【解決手段】センサ4を配設したフローセル3に試料ガスを所定の一定時間供給したときのセンサ4の抵抗値を測定しサンプル抵抗値とし、フローセル3に供給するガスを試料ガスからゼロガスに切り換えた後、所定の一定時間が経過したときのセンサ4の抵抗値を測定しベース抵抗値とするようにプログラムされた制御部11を備えてにおい測定装置を構成し、これら2つの測定値にもとづく所定の演算により試料ガス中のにおい成分の定量/定性を行うようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化物半導体型ガスセンサを利用したにおい測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化物半導体型ガスセンサ(以下、単にセンサと記す)は、センサ表面へのガス分子の吸着による導電率の変化をセンサの電気抵抗値(以下、単に抵抗値と記す)の変化として捕らえ、出力するものである。従来、これを利用したにおいの測定をはじめとするガス測定においては、試料ガスの測定前に測定成分を含まないゼロガスをセンサを配設したフローセルに供給して、その際のセンサの抵抗値(以下、ベース抵抗値と記す)を記録し、次に、フローセルに供給するガスをゼロガスから試料ガスに切り換えて、その際に得られるセンサの抵抗値(以下、サンプル抵抗値と記す)を記録し、これら2つの抵抗値の比から測定出力を所定の演算により算出するのが一般的な方法である。
【0003】
上記のような測定方法では、におい成分等のガス分子がセンサ表面に吸着されると、それが完全に脱離するまでに長時間を要するため、センサの抵抗値が回復するまで次の測定を行うことができず、1回当たりの測定時間が長くなる。センサの抵抗値が回復するのを待たずに次の測定を開始すると、ベース抵抗値にばらつきを生じ、測定結果の再現性を悪化させる。こうした問題を解決するために、試料ガスの測定前に別に準備した基準ガスの測定や試料ガスの予備測定を行い、その測定後一定時間経過後にベース抵抗値を測定することによって測定時間の短縮及びベース抵抗値の安定化を図るようにしたガス測定装置も提案された(例えば、特許文献1および特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2001−13098号公報
【特許文献2】特開2001−13099号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前掲特許文献1に示された方法、または前掲特許文献2に示された装置では1回当たりの測定時間は短縮できるが、試料ガスの測定前に余分の測定を行う必要があるためトータルの測定時間はさほど短縮されない上に、基準ガスや余分の試料ガスを消費することも問題点であった。
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、センサを用いたにおい測定装置において試料ガス等の消費増大を招くことなく、良好な再現性を維持しながら測定時間を短縮できるにおい測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記課題を解決するために、センサを配設したフローセルに試料ガスを所定の一定時間供給したときのサンプル抵抗値を測定し、フローセルに供給するガスを試料ガスからゼロガスに切り換えた後、所定の一定時間が経過したときのベース抵抗値を測定するようにプログラムされた制御手段を備えてにおい測定装置を構成する。そしてこれら2つの測定値にもとづく所定の演算により試料ガス中のにおい成分の定量/定性を行うようにする。このように構成したことにより、ベース抵抗値のばらつきが抑えられるので、測定時間の短縮も可能となる。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、測定精度を決定するベース抵抗値を安定化させるために予備測定や別に準備した基準ガスの測定を行う必要がなく、短時間で再現性の高い測定を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明が提供するにおい測定装置は次のような特徴を有する。即ち、第1の特徴は、センサを配設したフローセルに試料ガスとゼロガスを切り換え供給できるように構成された点にあり、第2の特徴は、フローセルに試料ガスを一定時間供給したときのセンサの抵抗値とフローセルに供給するガスを試料ガスからゼロガスに切り換えた後一定時間が経過したときのセンサの抵抗値を測定するように構成された点である。
従って、最良の形態の基本的な構成は、センサを配設したフローセルに試料ガスとゼロガスを切り換え供給できるようにした構成とフローセルに試料ガスを一定時間供給したときのセンサの抵抗値とフローセルに供給するガスを試料ガスからゼロガスに切り換えた後一定時間が経過したときのセンサの抵抗値を測定するようにした構成を具備するにおい測定装置である。
【実施例1】
【0008】
図1に本発明の一実施例装置の構成を示す。以下図示例に従って説明する。
同図において、1は、例えばテドラバッグ等の試料ガス供給部、2は、例えば大気を活性炭フィルタに通し脱臭して取り込むようにしたゼロガス供給部、3は内部に1個または複数個のセンサ4が配設されたフローセル、5はゼロガスと試料ガスとを切り換え、いずれか一方をフローセル3に流すためのバルブ、6はフローセル3に流れるガスの流量を調節するフローコントローラ、7はこれらのガスを吸引するポンプ、10は、センサ4の電気抵抗を測定記録し、測定値に対して所定の演算を行う測定演算部、11はこれらの機器を予め設定したプログラムに従って制御する制御部、12は測定結果を表示する表示部である。
【0009】
図1に示す実施例装置の動作について以下に説明する。なお、以下の説明中の数値は例示であって、本発明をこれに限定するものではない。
測定前は、バルブ5は点線で示すように流路が接続された状態にあり、ポンプ7で吸引されることによりフローセル3にはゼロガス供給部2から毎分およそ40mlのゼロガスが流れている。
測定を開始するには、実線で示すように流路が接続された状態にバルブ5を切り換える。これにより試料ガス供給部1から試料ガスがフローセル3に供給され、同時に制御部11からの信号により測定演算部10においてセンサ4の抵抗値の測定(記録)が開始される。
試料ガスは10秒間だけフローセル3に供給され、その後バルブ5は点線で示すように接続された状態に戻され、フローセル3にはゼロガスが供給される。この間もセンサ4の抵抗値の測定(記録)は続けられ、測定開始から120秒後に測定(記録)が終了すると共に、フローコントローラ6によりゼロガスの流量を毎分約150mlに増加させて装置内やセンサ4の表面のクリーニングを行い、その後、流量を最初の状態(毎分およそ40ml)に戻して次の測定に備える。
以上の操作過程は全て制御部11内に予め設定されたプログラムに従って逐次実行される。
【0010】
次に、このようにして得られた測定データに対するデータ処理について説明する。図2は上記のようにして記録されたセンサ4の抵抗値の実測例であって、抵抗値(縦軸)の時間経過(横軸)による変化を示したものである。同図は、後述する本発明装置の再現性を実証するための実験データであるが、ここでは同じ図をデータ処理の説明のために利用する。
【0011】
図2において、横軸上の時間0が測定開始の時点を示し、その時点から10秒間だけ試料ガスがフローセル3に流され、その後は測定が終了する120秒の時点を越えてゼロガスがフローセル3に流されることは前述した通りである。この図からわかるように、フローセル3内に置かれたセンサ4が試料ガスに曝されるとその抵抗値は低下し、続いてゼロガスに曝されると徐々に回復(上昇)し、その結果、抵抗値のグラフは図に示されるような下向きのピークを描く。このピークの極小値が即ち前述のサンプル抵抗値である。データ処理は、まず測定演算部10においてピークの極小値をサンプル抵抗値として抽出し、次に、測定終了時、即ちフローセル3に供給するガスを試料ガスからゼロガスに切り換えてから110秒後の抵抗値をベース抵抗値として抽出し、これらの値の比を対数計算することによって行われ、その結果は表示部12に表示される。
【0012】
図1に示した実施例装置を用いて測定の再現性を実証するための実験を行った。図2はそのデータであって、試料ガスとしてトルエンとメチルメルカプタンの混合ガスを用い、同じ試料を3回連続して測定したデータを重ねて示している。
【表1】

表1は、図2のデータを元に前述したデータ処理によって算出した測定結果(表1では「センサ出力」と表記)を、従来の測定法により同じ試料を測定した結果と対比して示す。表中の「前ベース」とは、フローセル3に試料ガスを流す前にゼロガスを10秒間流し、そのとき測定されたセンサ4の抵抗値をベース抵抗値として計算した測定結果、言い換えれば、従来の測定法によって得た測定結果である。一方、「後ベース」とは本発明による上述の測定過程によって得た測定結果である。表1から、本発明装置による測定は従来法と比べて良好な再現性を示すことがわかる。
【0013】
この実験結果から、フローセル3に供給するガスを試料ガスからゼロガスに切り換えた後のセンサ4の抵抗値は、或る一定レベルまでであれば2分程度の比較的短時間で回復し、また再現性も高いことがわかる。従って、試料ガスを供給してサンプル抵抗値を測定し、その後ゼロガスを供給して一定時間経過後のセンサ4の抵抗値をベース抵抗値とすれば、予備測定等を行わずに再現性の高い測定結果を得ることができる。
【0014】
なお、本発明は、図1に示す測定演算部10と制御部11とがそれぞれ個別のハードウェアとして構成されるものに限らず、これらが例えば1台のコンピュータ内にソフトウェア的に存在する場合をも包含するものとする。
【産業上の利用可能性】
【0015】
本発明はにおい測定装置に利用することができ、食品や香料の品質検査、悪臭の定性・定量測定、焦げ臭検知による火災警報など、幅広い分野で利用可能性がある。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施例を示す図である。
【図2】本発明の一実施例装置による実験データを示す図である。
【符号の説明】
【0017】
1 試料ガス供給部
2 ゼロガス供給部
3 フローセル
4 センサ
5 バルブ
6 フローコントローラ
7 ポンプ
10 測定演算部
11 制御部
12 表示部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物半導体型ガスセンサを配設したフローセルと、該フローセルにゼロガスまたは試料ガスのいずれかを切り換え供給するガス供給手段と、前記酸化物半導体型ガスセンサの電気抵抗を測定しその測定値に対して所定の演算を行う測定演算手段と、前記ガス供給手段と前記測定演算手段を制御する制御手段とを備え、前記フローセルに試料ガスを供給したときの前記酸化物半導体型ガスセンサの電気抵抗値であるサンプル抵抗値と前記フローセルにゼロガスを供給したときの前記酸化物半導体型ガスセンサの電気抵抗値であるベース抵抗値とにもとづく演算により試料ガス中のにおい成分の定量/定性を行うように構成されたにおい測定装置において、前記制御手段が、前記フローセルに試料ガスを所定の一定時間供給したときに前記サンプル抵抗値を測定すると共に前記フローセルに供給するガスを試料ガスからゼロガスに切り換えた後、所定の一定時間が経過したときに前記ベース抵抗値を測定するようにプログラムされていることを特徴とするにおい測定装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−300635(P2006−300635A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−120832(P2005−120832)
【出願日】平成17年4月19日(2005.4.19)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】